(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】光電変換素子および光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230314BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20230314BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20230314BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230314BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2021501760
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002820
(87)【国際公開番号】W WO2020174972
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019034248
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池の技術開発/結晶Si太陽電池をベースとした複合型太陽電池モジュールの開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 良太
(72)【発明者】
【氏名】日野 将志
(72)【発明者】
【氏名】目黒 智巳
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】チョン ミンアン
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532314(JP,A)
【文献】特許第5591996(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/194717(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195722(WO,A1)
【文献】特開2016-162982(JP,A)
【文献】特開2017-069508(JP,A)
【文献】国際公開第2018/166934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有する化合物を含む光吸収層と、
前記光吸収層の片側に配置される電子輸送層と、
前記光吸収層のもう片側に配置される正孔輸送層と、を有し、
前記正孔輸送層は、有機材料を含み、厚みが50nm以下で、吸収ピーク波長が400nm以下の蒸着層であり、
前記有機材料は、下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは下記一般式(4)で表される基であり、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される化合物であり、
前記光吸収層に対して前記正孔輸送層が配置される側から光を入射させる、
光電変換素子。
【化2】
(式(4)中、Arはm-フェニレン基を表し、nは1を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、R
6は同一または異なって
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
【請求項2】
前記正孔輸送層の吸収端波長が450nm以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記有機材料の分子量が270以上2000以下である、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記正孔輸送層がドーパントを実質的に含有しない、請求項1から3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記正孔輸送層の前記光吸収層が配置される側とは反対側に配置される透明電極を有する、請求項1から4のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記正孔輸送層と前記透明電極との間に配置されるバッファ層を有する、請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記電子輸送層の前記光吸収層が配置される側とは反対側に配置される透明電極を有する、請求項1から6のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項8】
光電変換する別の光電変換ユニットをさらに有する、請求項1から7のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記別の光電変換ユニットが結晶シリコン基板を含む、請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
基板の片側に、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含む光吸収層を形成すること、
および、
前記基板の片側に、有機材料を含む蒸着材料を蒸着させて、厚み50nm以下で吸収ピーク波長が400nm以下の正孔輸送層を形成すること、を含み、
前記有機材料は、下記一般式(1):
【化3】
(式(1)中、Aは下記一般式(4)で表される基であり、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される化合物である、
光電変換素子の製造方法。
【化4】
(式(4)中、Arはm-フェニレン基を表し、nは1を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、R
6は同一または異なって
無置換のアルキル基、無置換のアルコキシ基、無置換のアリール基、または無置換のアリールオキシ基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
【請求項11】
前記正孔輸送層の前記光吸収層が配置される側とは反対側に、透明電極を形成することを含む、請求項10に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子および光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属のペロブスカイト型結晶を光吸収層として利用した太陽電池(ペロブスカイト型太陽電池)は、高変換効率を実現可能であり、近年、多数の報告がなされている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。有機金属としては、例えば、一般式RNH3MX3(式中、Rはアルキル基であり、Mは2価の金属イオンであり、Xはハロゲンである)で表される化合物が用いられている。中でも、CH3NH3PbX3(X:ハロゲン)等のペロブスカイト型結晶は、例えば、スピンコート法等の溶液塗布により低コストで形成され得る。よって、このようなペロブスカイト型結晶を用いたペロブスカイト型太陽電池は、低コストかつ高効率の次世代太陽電池として注目されている。
【0003】
ペロブスカイト型太陽電池は、代表的には、上述のような光吸収層の片側に正孔輸送層を、もう片側に電子輸送層を有している。正孔輸送層の形成材料としては、一般的に、Spiro-MeTADなどの有機材料が用いられている。Spiro-MeTADで形成される正孔輸送層は光を吸収し得ることから、通常、光吸収層に対して光入射側とは反対側に配置される。その一方で、光吸収層に対して正孔輸送層が配置される側から光を入射させる形態が望まれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】G. Hodes, Science, 342, 317-318 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑み、本発明は、光吸収層に対して正孔輸送層が配置される側から光を入射させるペロブスカイト型光電変換素子の提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの局面によれば、光電変換素子が提供される。この光電変換素子は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含む光吸収層と、前記光吸収層の片側に配置される電子輸送層と、前記光吸収層のもう片側に配置される正孔輸送層と、を有し、前記正孔輸送層は、有機材料を含み、厚みが50nm以下で、吸収ピーク波長が400nm以下の蒸着層であり、前記有機材料は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される化合物、および/または、一般式(2):
【化2】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
6は同一または異なって置換基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
で表される化合物であり、前記光吸収層に対して前記正孔輸送層が配置される側から光を入射させる。
【0008】
1つの実施形態においては、上記正孔輸送層の吸収端波長は450nm以下である。
1つの実施形態においては、上記有機材料の分子量は270以上2000以下である。
1つの実施形態においては、上記正孔輸送層はドーパントを実質的に含有しない。
1つの実施形態においては、上記光電変換素子は、上記正孔輸送層の上記光吸収層が配置される側とは反対側に配置される透明電極を有する。
1つの実施形態においては、上記光電変換素子は、上記正孔輸送層と上記透明電極との間に配置されるバッファ層を有する。
1つの実施形態においては、上記光電変換素子は、上記電子輸送層の上記光吸収層が配置される側とは反対側に配置される透明電極を有する。
1つの実施形態においては、上記光電変換素子は、光電変換する別の光電変換ユニットをさらに有する。
1つの実施形態においては、上記別の光電変換ユニットは結晶シリコン基板を含む。
【0009】
本発明の別の局面によれば、光電変換素子の製造方法が提供される。この光電変換素子の製造方法は、基板の片側に、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含む光吸収層を形成すること、および、前記基板の片側に、有機材料を含む蒸着材料を蒸着させて、厚み50nm以下で吸収ピーク波長が400nm以下の正孔輸送層を形成すること、を含み、前記有機材料は、下記一般式(1):
【化3】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される化合物、および/または、一般式(2):
【化4】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
6は同一または異なって置換基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
で表される化合物である。
【0010】
1つの実施形態においては、上記光電変換素子の製造方法は、上記正孔輸送層の上記光吸収層が配置される側とは反対側に、透明電極を形成することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光吸収層に対して正孔輸送層が配置される側から光を入射させるペロブスカイト型光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の1つの実施形態における光電変換素子の概略断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態における光電変換素子の概略断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態における積層型の光電変換素子の概略断面図である。
【
図4】実施例1および比較例1の外部量子効率の測定結果を示すグラフである。
【
図5】反射防止層形成前後における外部量子効率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0014】
図1は、本発明の1つの実施形態における光電変換素子の概略断面図である。光電変換素子(代表的には、太陽電池)100は、基板(透明基板)10、第1の電極層21、電子輸送層30、ペロブスカイト型構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト化合物と称する)を含む光吸収層40、正孔輸送層50および第2の電極層22をこの順に有する。電子輸送層30は、ブロッキング層31および多孔質担体層32を含む。
【0015】
光吸収層40の両側に配置された電極層21,22はいずれも透明電極層とされている。したがって、図中の矢印で示すように、光吸収層40に対し、光を第1の電極層21(基板10)側から入射させてもよく、第2の電極層22側から入射させてもよく、第1の電極層21側および第2の電極層22側から入射させてもよい。後述するように、正孔輸送層50は光学的な吸収ロスが抑制され得ることから、光吸収層40に対して正孔輸送層50が配置される側から(図示例では、第2の電極層22側から)光を入射させても、光電変換効率に優れ得る。
【0016】
図示しないが、光電変換素子100は、その他の層を有していてもよい。その他の層の具体例としては、正孔輸送層50と第2の電極層22との間に配置されるバッファ層が挙げられる。その他の層の別の具体例としては、入射光の反射を防止し得る反射防止層(アンチリフレクト層)が挙げられる。反射防止層は、代表的には、光電変換素子100の光入射側の最外層として配置される。図示例では、基板10および/または第2の電極層22の外側(光吸収層40が配置されている側と反対側)に配置され得る。
【0017】
基板10としては、代表的には、ガラス、フィルム等の光を透過可能な透明基板で構成される。ガラスとしては、例えば、無アルカリガラスが挙げられる。フィルムとしては、例えば、PETフィルム、アラミドフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0018】
上記透明電極層としては、例えば、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等の単層体、あるいはこれらを積層して構成される積層体が挙げられる。透明電極層の厚みは、その構成により異なるが、代表的には10nm~1000nmである。透明電極層は、その形成材料に応じて、任意の適切な製膜方法に形成され得る。例えば、スプレー熱分解法、スパッタ法により形成される。
【0019】
電子輸送層30は、任意の適切な材料で形成され得る。電子輸送層の形成材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物に代表される無機材料、PCBMをはじめとするフラーレン系材料や、ペリレン系材料等の有機材料が挙げられる。これらの中でも、無機材料が好ましく用いられる。電子輸送層には、ドナーが添加されていてもよい。具体例としては、電子輸送層の形成材料として酸化チタンを採用する場合、ドナーとして、イットリウム、ユウロピウム、テルビウム等が用いられる。
【0020】
図1に示す例では、電子輸送層30は、ブロッキング層31を含む。ブロッキング層31は、シード層として機能し得る。具体的には、ブロッキング層31は、例えば、光吸収層40(ペロブスカイト化合物層)を形成する際、足場として層の成長を促進し得る。ブロッキング層31は、好ましくは、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物を含む。好ましくは、ブロッキング層31は、コンパクトTiO
2で構成される。このような形態によれば、例えば、第1の電極層21表面を緻密に覆うことができる。ブロッキング層31の厚みは、例えば、光学的および電子注入の観点から、好ましくは5nm~100nmであり、さらに好ましくは10nm~50nmである。
【0021】
図1に示すように、電子輸送層30は、ブロッキング層31に加えて多孔質担体層32を含むことが好ましい。多孔質担体層32は、ブロッキング層31よりも光吸収層40が配置される側に配置される。多孔質担体層32は、光吸収層40の足場として機能し得る。また、多孔質担体層32は、光吸収層40の表面積を広くして、光吸収層40により多く光を吸収させ得る。
【0022】
多孔質担体層32は、ブロッキング層31に含まれる成分を含むことが好ましい。このような形態によれば、ブロッキング層31と多孔質担体層32との密着性を向上させ得る。その結果、電子輸送層30と光吸収層40との密着性の向上にも寄与し得る。具体的には、多孔質担体層32の形成材料としては、金属酸化物を用いることが好ましく、中でも、TiO2やAl2O2を用いることが好ましい。多孔質担体層32の厚みは、好ましくは50nm~300nm、さらに好ましくは100nm~200nmである。このような範囲とすることで、例えば、光学的な吸収ロスを低減し得る。また、光吸収層40が良好に形成され得る。
【0023】
電子輸送層30は、その構成や形成材料等に応じて、任意の適切な方法により形成され得る。形成方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライプロセス、スピンコート法、スプレー法、バーコート法等のウェットプロセスが挙げられる。
【0024】
光電変換素子100は、代表的には、基板10に、各層を順次積層することにより作製される。
図1に示すように、光吸収層40よりも電子輸送層30が基板10側に配置される形態では、電子輸送層30を形成してから光吸収層40が形成される。このような積層順序によれば、光吸収層40の足場として機能し得る多孔質担体層32を良好に形成することができる。
【0025】
例えば、光を光吸収層40に対して正孔輸送層50が配置される側から(図示例では、第2の電極層22側から)のみ入射させる場合、電子輸送層30の透光性は低く設定され得る。この場合、電子輸送層30は、厚膜化することも可能である。
【0026】
光吸収層40は、ペロブスカイト化合物を含む。ペロブスカイト化合物は、例えば、一般式RNH3MX3またはCH(NH2)2MX3で表される。式中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数1~5のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。式中、Mは2価の金属イオンであり、好ましくはPb、Snである。式中、Xはハロゲンであり、具体的には、F、Cl、Br、Iが挙げられる。式中の3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲン元素が混在していてもよい。ハロゲンの種類や比率を変更することにより、例えば、分光感度特性を変化させることができる。なお、上記式中のRNH3、CH(NH2)2のかわりに、部分的にアルカリ金属(例えば、Cs、Rb、K)を用いることも可能である。
【0027】
光吸収層40の厚みは、例えば50nm~1000nmである。例えば、光の吸収効率と励起子拡散長の観点から、光吸収層40の厚みは、好ましくは300nm~500nmである。
【0028】
光吸収層40のX線回折法によるPerovskite(III)の回折ピーク(2θ=14°)の半値幅は、代表的には0.16~0.25である。
【0029】
光吸収層40は、上述のドライプロセスやウェットプロセスにより形成され得る。光吸収層40は、例えば、ペロブスカイト化合物を形成する材料を含有する塗布液(例えば、溶液)を、スピンコート法等により塗布することにより形成される。具体的には、ペロブスカイト化合物としてCH3NH3PbI3を採用する場合、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等の溶媒に、ヨウ化鉛とヨウ化メチルアンモニウムを混合して得られる溶液をスピンコート法にて塗布し、得られた塗膜を加熱することにより、CH3NH3PbI3結晶を成長させることができる。塗膜の表面に貧溶媒を接触させることにより、結晶性を向上させることもできる。
【0030】
上述のドライプロセスとウェットプロセスとの組み合わせにより、光吸収層40を形成することもできる。例えば、真空蒸着法によりヨウ化鉛の薄膜を形成し、その表面にヨウ化メチルアンモニウムのイソプロピルアルコール溶液を接触させることにより、CH3NH3PbI3の結晶が得られる。薄膜の表面に溶液を接触させる方法としては、例えば、スピンコート等により溶液を塗布する方法や、溶液中に薄膜を浸漬する方法が挙げられる。例えば、後述するシリコン基板のテクスチャ構造(凹凸構造)により、溶液を接触させる面に凹凸を有する場合等、均一に溶液に接触させる観点から、浸漬法が好ましく用いられる。
【0031】
正孔輸送層50は、有機材料を含む蒸着層で構成される。蒸着層は製膜性に優れ得る。また、蒸着層を採用することにより、緻密度の高い膜が得られて正孔輸送層50の厚みを薄くすることができる。その結果、光学的な吸収ロスが抑制され得る。加えて、ドーパント等の添加剤の使用は抑制され、光電変換素子の寿命の向上に寄与し得る。
【0032】
正孔輸送層50の厚みは、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下、特に好ましくは35nm以下である。一方、正孔輸送層50の厚みは、好ましくは20nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは5nm以上である。このような範囲によれば、内部電界を十分確保して性能向上が期待される。
【0033】
正孔輸送層50の吸収ピーク波長は、400nm以下であることが好ましい。このような範囲であれば、例えば、光吸収層40に対して正孔輸送層50が配置される側から光を入射させても、光電変換効率に優れ得る。吸収ピーク波長とは、吸光係数の極大値を示し、吸光係数の最大値を示す波長をいい、例えば、紫外可視分光光度計により吸収スペクトルを測定することにより求められる。
【0034】
正孔輸送層50の吸収端波長は、450nm以下であることが好ましい。このような範囲であれば、例えば、光吸収層40に対して正孔輸送層50が配置される側から光を入射させても、光電変換効率に優れ得る。上述のように、正孔輸送層50はドーパント等の添加剤の使用が抑制され得るため、光学的な吸収ロスが抑制され、このような吸収端波長が良好に達成され得る。吸収端波長とは、例えば、紫外可視分光光度計により測定される吸収スペクトルの吸収端を示す波長をいう。
【0035】
蒸着層は、同じ有機材料を用いて溶液法により形成された塗布層と比較して、緻密度が高くなり得る。例えば、溶液法により形成された塗布層ではピンホールが多く観察されるのに対し、蒸着層ではピンホールの形成が抑制され得る。また、上述のように、正孔輸送層50はドーパント等の添加剤の使用が抑制され得るため、添加剤による突起の形成が抑制され得る。正孔輸送層50表面において、ピンホールおよび突起が占める割合は、例えば、30%以下である。ピンホールおよび突起が占める割合は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察により異物をカウントすることにより求めることができる。
【0036】
蒸着層は膜安定性に優れ得る。具体的には、蒸着層は、同じ有機材料を用いて溶液法により形成された塗布層と比較して、ガラス転移温度(Tg)が高くなり得る。
【0037】
正孔輸送層50に含まれる有機材料のHOMOは、例えば、隣接する層との関係から、-5.60eV~-4.70eVであることが好ましく、さらに好ましくは-5.50eV~-4.90eVである。正孔輸送層50に含まれる有機材料のLUMOは、例えば、隣接する層との関係から、-3.60eV~-1.40eVであることが好ましく、さらに好ましくは-3.00eV~-1.60eVである。なお、HOMOは、例えば、大気下光電子分光法により測定することができる。
【0038】
正孔輸送層50に含まれる有機材料のバンドギャップ(HOMO-LUMOギャップ)は、好ましくは2.7eV以上、さらに好ましくは3.0eV以上、特に好ましくは3.1eV以上である。吸収端を紫外領域とさせて、光学的な吸収ロスが抑制され得るからである。一方、正孔輸送層50に含まれる有機材料のバンドギャップは、例えば、隣接する層との関係から、4.5eV以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.0eV以下、特に好ましくは3.5eV以下である。なお、バンドギャップは、例えば、分光エリプソメトリーや分光光度計によって確認される。
【0039】
正孔輸送層50に含まれる有機材料としては、蒸着層を形成し得る限り、任意の適切な有機材料が採用され得る。正孔輸送層50に含まれる有機材料としては、好ましくは、一般式(1):
【化5】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される化合物、および/または、一般式(2):
【化6】
(式中、Aは水素原子または有機基を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
6は同一または異なって置換基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
で表される化合物が用いられる。蒸着層が良好に形成され得るからである。具体的には、極めて緻密な蒸着膜が形成され得る。また、光電変換効率の向上に寄与し得るからである。具体的には、上記HOMOおよびLUMOを良好に満足し得る。また、上記バンドギャップを良好に満足し得、光学的な吸収ロスが抑制されて感度(特に、短波長の光(例えば、波長420nm以下の光)に対する感度)に優れ得る。さらに、高い正孔移動度を有し得る。その結果、ドーパント等の添加剤の使用の抑制に寄与し得る。
【0040】
上記一般式(1)および(2)において、R1~R6は置換基を表す。置換基の具体例としては、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアリールオキシ基等が挙げられる。中でも、無置換のアルキル基が好ましい。
【0041】
上記アルキル基は、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状または分枝状である。アルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6、特に好ましくは1~3(具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基)である。
【0042】
上記アルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状または分枝状である。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6、特に好ましくは1~3(具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基またはイソプロポキシ基)である。
【0043】
上記アリール基は、単環芳香環由来の基であってもよく、多環芳香環由来の基であってもよい。アリール基の炭素数は、例えば6~22であり、好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、特に好ましくは6~10(具体的には、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等)である。
【0044】
上記アリールオキシ基は、単環芳香環由来の基であってもよく、多環芳香環由来の基であってもよい。アリールオキシ基の炭素数は、例えば6~22であり、好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、特に好ましくは6~10(具体的には、フェニルオキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基等)である。
【0045】
R1が複数ある場合(m1が2以上の場合)、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。R2が複数ある場合(m2が2以上の場合)、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。R3が複数ある場合(m3が2以上の場合)、複数のR3は同一でも異なっていてもよい。R4が複数ある場合(m4が2以上の場合)、複数のR4は同一でも異なっていてもよい。R5が複数ある場合(m5が2以上の場合)、複数のR5は同一でも異なっていてもよい。R6が複数ある場合(m6が2以上の場合)、複数のR6は同一でも異なっていてもよい。また、R1~R6は相互に同一でもよく異なっていてもよい。
【0046】
上記一般式(1)において、m1は置換基R1の個数を表し、0~4の整数である。1つの実施形態においては、m1は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0047】
上記一般式(1)において、m2は置換基R2の個数を表し、0~2の整数である。1つの実施形態においては、m2は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0048】
上記一般式(1)において、m3は置換基R3の個数を表し、0~4の整数である。1つの実施形態においては、m3は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0049】
上記一般式(2)において、m4は置換基R4の個数を表し、0~4の整数である。1つの実施形態においては、m4は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0050】
上記一般式(2)において、m5は置換基R5の個数を表し、0~3の整数である。1つの実施形態においては、m5は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0051】
上記一般式(2)において、m6は置換基R6の個数を表し、0~3の整数である。1つの実施形態においては、m6は0(水素原子のみ)であることが好ましい。正孔輸送層50は蒸着層であることから、例えば、有機溶媒への溶解性に関係なく、正孔輸送層(蒸着層)50を形成し得るからである。
【0052】
上記一般式(1)および(2)において、Aは有機基であることが好ましい。蒸着層が良好に形成され得るからである。
【0053】
1つの実施形態においては、上記一般式(1)および(2)において、Aは、下記一般式(3):
【化7】
(式中、Arは2価の芳香族炭化水素基を表し、nは0または1を表し、R
1は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
2は同一または異なって置換基を表し、R
3は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、m1は0~4の整数を表し、m2は0~2の整数を表し、m3は0~4の整数を表す。)
で表される基、または、一般式(4):
【化8】
(式中、Arは2価の芳香族炭化水素基を表し、nは0または1を表し、R
4は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
5は同一または異なって窒素を含有しない有機基からなる置換基を表し、R
6は同一または異なって置換基を表し、m4は0~4の整数を表し、m5は0~3の整数を表し、m6は0~3の整数を表す。)
で表される基である。
【0054】
上記一般式(3)および(4)において、R1~R6およびm1~m6については、上述のとおりである。
【0055】
上記一般式(3)および(4)において、Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基としては、例えば、単環芳香族炭化水素基、多環芳香族炭化水素基、縮合多環芳香族炭化水素基が挙げられる。好ましくは、Arは、
【化9】
である。
【0056】
1つの実施形態においては、上記一般式(1)および(2)において、Aは、窒素含有基である。具体例としては、
【化10】
、下記一般式(5):
【化11】
(式中、R
7は同一または異なって置換基を表し、R
8は同一または異なって置換基を表し、m7は0~5の整数を表し、m8は0~5の整数を表す。)
で表される基が挙げられる。
【0057】
上記一般式(5)の置換基の詳細については、上述のとおりである。
【0058】
正孔輸送層50に含まれる有機材料の分子量は、好ましくは270以上、さらに好ましくは300以上、特に好ましくは400以上である。一方、正孔輸送層50に含まれる有機材料の分子量は、好ましくは2000以下、さらに好ましくは1800以下、特に好ましくは1500以下である。このような範囲の分子量を有することにより、蒸着層が良好に形成され得る。具体的には、分子量が小さい材料は、昇華しやすく、蒸着量の制御が難しい傾向にある。分子量が大きい材料は、昇華温度が高く、蒸着前に分解してしまう傾向にある。また、昇華温度が高いと、正孔輸送層50の形成の際に、光吸収層40にダメージを与えてしまうおそれがある。
【0059】
正孔輸送層50の形成方法としては、例えば、有機材料を含む蒸着材料を任意の適切な蒸着法により蒸着させる方法が用いられる。蒸着法としては、例えば、物理蒸着法、化学蒸着法が挙げられる。物理蒸着法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。化学蒸着(CVD)法としては、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等が挙げられる。これらの中でも、真空蒸着法が好ましく用いられる。例えば、正孔輸送層50は、光吸収層40を形成した後に形成される。この場合、例えば、光吸収層へのダメージを抑制する観点から、真空蒸着法において低製膜レートで製膜することが好ましい。
【0060】
正孔輸送層50(蒸着材料)は有機材料を主成分とする。正孔輸送層50における有機材料の含有量は、例えば80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上、特に好ましくは99.5重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
【0061】
正孔輸送層50(蒸着材料)は、添加剤を含み得る。添加剤の具体例としては、リチウム、コバルト等の金属塩(例えば、bis(trifluoromethylsulfonyl)imide Lithium、Cobalt(III)tris[bis(trifluoromethylsulfonyl)imide])、アクセプタ材料(例えば、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4TCNQ))等のドーパントが挙げられる。添加剤の別の具体例としては、4-tert-buthylpyridienが挙げられる。好ましくは、正孔輸送層50(蒸着材料)は、ドーパントを実質的に含有しない。具体的には、正孔輸送層(蒸着材料)におけるドーパントの含有量は10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0重量%である。正孔輸送層を蒸着層とすることで、その厚みを薄くし得、ドーパントを実質的に含有させなくても性能(導電率)が保持され得る。また、上記所定の有機材料を用いることで、ドーパントを実質的に含有させなくても性能(導電率)が保持され得る。上記所定の有機材料を用いて蒸着層とすることにより、極めて良好に、ドーパントの使用を抑制し得る。
【0062】
正孔輸送層50と第2の電極層22との間に配置されるバッファ層(例えば、正孔注入層)の形成材料としては、例えば、酸化モリブテン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化錫(SnO)等の金属酸化物、フッ化リチウム等のハロゲン化物(好ましくは、フッ化物)等が挙げられる。これらの中でも、金属酸化物(特に、酸化モリブテン、酸化ニッケル)を含むことが好ましい。バッファ層の厚みは、例えば10nm~100nmであり、好ましくは10nm~20nmである。バッファ層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法が挙げられる。
【0063】
上記反射防止層の形成材料としては、例えば、MgF2、LiF,SiOx,Al2O3等の低屈折率材料が挙げられる。反射防止層の厚みは、例えば50nm~200nmである。反射防止層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、形成材料としてMgF2を用いる場合、例えば、電子線蒸着法が採用される。
【0064】
図2は、本発明の別の実施形態における光電変換素子の概略断面図である。光電変換素子200は、透明基板10、透明電極層20、正孔輸送層50、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層40、電子輸送層30および金属電極層60をこの順に有する。図示例では、図中の矢印で示すように、光吸収層40に対して透明電極層20(透明基板10)が配置されている側から光を入射させる。透明基板10、透明電極層20、電子輸送層30、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層40および正孔輸送層50については、上述のとおりである。
【0065】
金属電極層60の形成材料としては、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属が挙げられる。金属電極層60の厚みは、代表的には100nm~500nmであり、好ましくは100nm~200nmである。金属電極層60の形成方法としては、例えば、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や抵抗加熱などといった公知の技術を用いればよく、生産性の観点からはスパッタ法が好ましく用いられる。
【0066】
光電変換素子200は、代表的には、基板10に、各層を順次積層することにより作製される。
図2に示すように、光吸収層40よりも正孔輸送層50が基板10側に配置される形態では、正孔輸送層50を形成した後に光吸収層40が形成され得る。このような順序によれば、光吸収層40への影響(ダメージ等)を考慮せずに、正孔輸送層50を形成することができる。
【0067】
図3は、本発明の1つの実施形態における積層型の光電変換素子の概略断面図である。光電変換素子300は、第1の光電変換ユニット(トップセル)301および第2の光電変換ユニット(ボトムセル)302をこの順に有する。図示例では、図中の矢印で示すように、第1の光電変換ユニット301が配置されている側から光を入射させる。
【0068】
積層型の光電変換素子を構成する光電変換ユニットの1つとして、上記ペロブスカイト化合物を含む光吸収層を有するペロブスカイト型光電変換ユニットが採用される。図示例では、第1の光電変換ユニット301に、ペロブスカイト型光電変換ユニットが採用されている。第1の光電変換ユニット301は、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層40と光吸収層40の片側に配置された電子輸送層30と光吸収層40のもう片側に配置された正孔輸送層50とを有する。図示例では、光吸収層40の光入射側に正孔輸送層(蒸着層)50が配置されている。電子輸送層30は、ブロッキング層31と多孔質担体層32とを含む。なお、各層の詳細については、上述のとおりである。
【0069】
上記ペロブスカイト型光電変換ユニットと組み合わせる光電変換ユニット(図示例では、第2の光電変換ユニット302)には、任意の適切な光電変換ユニットが採用され得る。好ましくは、ペロブスカイト型光電変換ユニットよりもバンドギャップが狭い光電変換ユニットが用いられる。例えば、高効率化が期待されるからである。ペロブスカイト型光電変換ユニットよりもバンドギャップが狭い光電変換ユニットとしては、例えば、シリコン系光電変換ユニット(代表的には、結晶シリコン系光電変換ユニット)が挙げられる。結晶シリコン系光電変換ユニットは、代表的には、結晶シリコン基板と、結晶シリコン基板の片側に配置される第1の導電層と、結晶シリコン基板のもう片側に配置される第2の導電層とを有する。結晶シリコン基板の導電型は、n型であってもよく、p型であってもよい。第1の導電層の導電型と第2の導電層の導電型とは異なる。具体的には、一方がp型であり、他方がn型である。
【0070】
第2の光電変換ユニット302の基板(結晶シリコン基板)70の光入射側に配置されている第1の導電層71は、第1の光電変換ユニット301の光入射側に配置される導電層(正孔輸送層50)と同一の導電型を有し、第2の光電変換ユニット302の基板70の裏側に配置されている第2の導電層72は、第1の光電変換ユニット301の裏側に配置される導電層(電子輸送層30)と同一の導電型を有する。具体的には、第1の導電層71はp型であり、第2の導電層72はn型である。したがって、第1の光電変換ユニット301と第2の光電変換ユニット302とは直列接続されており、両者は同一方向の整流性を有する。
【0071】
上記結晶シリコン系光電変換ユニットの具体例として、拡散型シリコン光電変換ユニット、ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットが挙げられる。拡散型シリコン光電変換ユニットは、例えば、結晶シリコン基板の表面にホウ素やリン等のドープ不純物を拡散させて導電層(導電型シリコン系半導体層)を形成することにより得られる。ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットは、例えば、単結晶シリコン基板に、非晶質シリコンや微結晶シリコン等の非単結晶シリコン系薄膜を製膜して導電層を形成することにより得られる。ここで、単結晶シリコン基板と非単結晶シリコン系薄膜との間で、ヘテロ接合が形成されている。ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットは、単結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間に、真性シリコン系薄膜を有することが好ましい。真性シリコン系薄膜を有することにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ、表面パッシベーションを有効に行うことができる。
【0072】
第2の光電変換ユニット(結晶シリコン系光電変換ユニット)302として、例えば、上記ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットが採用される。基板70として、例えば、n型の単結晶シリコン基板が用いられる。図示しないが、基板70は、光閉じ込め等の観点から、その表面にテクスチャ構造が形成されていてもよい。
【0073】
n型の単結晶シリコン基板70の光入射側には、真性シリコン系薄膜(図示せず)を介して、p型シリコン系薄膜(第1の導電層71)が形成され、n型の単結晶シリコン基板70の裏側には、真性シリコン系薄膜(図示せず)を介して、n型シリコン系薄膜(第2の導電層72)が形成される。ここで、真性シリコン系薄膜は、上述の表面パッシベーションをより有効に行う等の観点から、基板70の表面に、任意の適切な方法により、真性非晶質シリコン薄膜を製膜することで形成されることが好ましい。真性シリコン系薄膜の膜厚は、好ましくは2nm~15nmである。
【0074】
上記導電型シリコン系薄膜(導電層71,72)の形成材料としては、例えば、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンを含む材料)や、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金等が用いられる。シリコン合金としては、例えば、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、導電型シリコン系薄膜は、非晶質シリコン薄膜であることが好ましい。導電型シリコン系薄膜(導電層71,72)の膜厚は、好ましくは3nm~30nmである。
【0075】
光電変換素子300は、例えば、予め、第2の光電変換ユニット302を作製し、第2の光電変換ユニット302に、第1の光電変換ユニット301を構成する各層を順次形成することにより作製される。1つの実施形態においては、第1の光電変換ユニット301(トップセル)と第2の光電変換ユニット302(ボトムセル)との間には、例えば、両ユニットの電気的な接続や、電流マッチングのための入射光量の調整等を目的として、中間層(図示せず)を設けてもよい。別の実施形態においては、トップセルの最下層(図示例では、電子輸送層30)および/またはボトムセルの最上層(図示例では、第1の導電層71)に、中間層の機能の一部または全部を持たせてもよい。
【0076】
上記ペロブスカイト化合物を含む光吸収層40が吸収する光の波長範囲は、代表的には、ペロブスカイト化合物のバンドギャップで決まる。組み合わせる別の光電変換ユニットとの(トップセルとボトムセルとの)電流マッチングを取る観点から、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層40のバンドギャップは、1.55eV~1.75eVであることが好ましく、さらに好ましくは1.6eV~1.65eVである。例えば、ペロブスカイト化合物が式CH3NH3PbI3-yBryで表される場合、バンドギャップを1.55eV~1.75eVにするためにはy=0~0.85程度が好ましく、バンドギャップを1.60eV~1.65eVにするためにはy=0.15~0.55程度が好ましい。
【0077】
図示しないが、光入射側(図の上側)に配置される第1の光電変換ユニット301の光入射面には、代表的には、透明電極層が形成される。この透明電極層の表面には、キャリアの取出し効率を向上させる観点から、例えば、パターン状の金属電極がさらに設けられてもよい。第2の光電変換ユニット302の光入射側と反対側(裏側)には、裏面電極が設けられる。例えば、第2の光電変換ユニット302の裏面には、透明電極層が形成され、この透明電極層上に裏面金属電極が設けられ、裏面電極が構成される。
【0078】
上記透明電極層の形成材料としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、酸化インジウム(In2O3)等の酸化物や、酸化インジウム錫(ITO)等の複合酸化物等が好ましく用いられる。また、In2O3やSnO2にWやTi等をドープした材料を用いてもよい。このような透明導電性酸化物は、透明性を有しかつ低抵抗であるため、光励起キャリアを効率よく収集できる。透明電極層の製膜方法は、スパッタ法やMOCVD法等が好ましい。透明導電性酸化物以外に、Agナノワイヤ等の金属細線や、PEDOT-PSS等の有機材料も用いられ得る。
【0079】
光入射側の透明電極層としてITO等の金属酸化物が用いられる場合、光電変換素子は、その最表面には反射防止層を有することが好ましい。反射防止層を最表面に有することにより、空気界面での屈折率差を小さくして反射光を低減し、光電変換素子に取り込まれる光量を増大できる。
【0080】
上記裏面金属電極は、パターン状であってもよく、面状であってもよい。裏面電極には、長波長光の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、例えば、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。裏面電極は、例えば、印刷法、各種物理気相蒸着法、めっき法等により形成される。
【0081】
積層型の光電変換素子は、実用的には、モジュール化されることが好ましい。例えば、基板とバックシートとの間に、封止材を介して光電変換素子を封止することで、モジュール化される。インターコネクタを介して複数のユニットを直列または並列に接続した後に封止してもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は、断りがない限り、以下の通りである。
1.厚み
走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)による断面観察により算出した。
2.吸収率
紫外可視分光光度計(Perkin Elmer製、LAMBDA)により測定した。
【0083】
[実施例1]
ガラス基板上に透明導電膜(FTO)が形成された基板(Pilkington製、TEC7)を準備した。この基板を、超純水、エタノール、アセトンにてそれぞれ10分間超音波洗浄した後に乾燥した。その後、基板に、UVオゾンにて30分間表面処理を施した。
【0084】
続いて、基板の透明導電膜側(表面処理側)に、厚み31nmのコンパクトTiO2膜を製膜した。具体的には、500℃に加熱した基板表面に、0.3/4.0体積%のチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)/エタノール溶液をスプレーパイロリシス法にて噴霧することにより製膜した。
【0085】
続いて、基板のコンパクトTiO2膜側に、厚み350nmのメソポーラスTiO2膜を製膜した。具体的には、体積比0.7:0.3にてチタニアペースト(商品名:18NR-T、Transparent Titania Paste Dyesol社製)とエタノールとを混合し、超音波処理を施して分散液を得た。こうして得られた分散液を、マイクロピペットを用いて基板上に滴下し、5000rpmの速度にて30秒間スピンコートを実施した後、基板を500℃の電気炉にて30分間焼成することでメソポーラスTiO2膜を製膜した。
【0086】
続いて、基板のコンパクトTiO2膜(メソポーラスTiO2膜)側に、CH3NH3PbI3(MAPbI3)層を186nm~267nmの厚みで形成した。具体的には、基板上に1.1MのMAPbI3/DMSO溶液を、マイクロピペットを用いて基板上に滴下し、1000rpmの速度にて70秒間スピンコートを実施した。その後、5000rpmの速度にて20秒回転させている最中に、スポイトを用いてトルエンを0.5ml滴下した後、基板を基板温度100℃で10分間焼成することで、黒色のMAPbI3層を形成した。
【0087】
続いて、基板のMAPbI
3層側に、厚み15nmの下記化合物(I):
【化12】
(HOMO:-5.2eV)
からなる有機材料膜を、真空蒸着法にて製膜した。具体的には、化合物(I)が入ったアルミナるつぼを、タングステン線を加熱することによって温めることによって、化合物(I)を昇華させ、有機材料膜(吸収ピーク波長:397nm、吸収端波長:440nm)を製膜した。
【0088】
その後、基板の有機材料膜側に、厚み10nmのMoO3層を真空蒸着法により形成し、次いで、厚み80nmのITO層をスパッタ法により形成した。こうして、光電変換素子(太陽電池)を作製した。
【0089】
[実施例2]
化合物(I)のかわりに化合物(II):
【化13】
(HOMO:-5.37eV)
を用いて有機材料膜を製膜したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池を作製した。
【0090】
[実施例3]
化合物(I)のかわりに化合物(III):
【化14】
(HOMO:-5.24eV)
を用いて有機材料膜を製膜したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池を作製した。
【0091】
[実施例4]
化合物(I)のかわりに化合物(IV):
【化15】
(HOMO:-5.04eV)
を用いて有機材料膜を製膜したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池を作製した。
なお、有機材料膜の製膜後、蒸着用ボートに残留物が確認された。
【0092】
[比較例1]
有機材料膜の製膜に際し、化合物(I)のかわりに
【化16】
で表されるSpiro-MeTAD(HOMO:-5.1eV)を用い、さらには、蒸着法のかわりに溶液法(溶液塗布)にて有機材料膜を製膜したこと以外が実施例1と同様にして、太陽電池を作製した。具体的には、クロロベンゼンに、Spiro-OMeTAD、bis(trifluoromethylsulfonyl)imide Lithium、Cobalt(III)tris[bis(trifluoromethylsulfonyl)imide]および4-tert-buthylpyridienを混合した溶液を作製し、得られた溶液をスピンコート法によって基板のMAPbI
3層側に塗布し、70℃で30分間加熱し、有機材料膜(吸収ピーク波長:390nm、吸収端波長:580nm)を製膜した。
【0093】
<評価方法>
ソーラーシミュレータを用いて、各実施例および比較例で得られた太陽電池の太陽電池特性(短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)および変換効率(Eff.))を測定した。測定は、ITO層側から光を入射させた場合および基板側から光を入射させた場合のそれぞれについて行った。評価結果を表1に示す。なお、表1中のバンドギャップ(Eg)は、分光エリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム社製、M2000)にて、Tauc-Lorentzモデルにて算出した有機材料膜の光学的バンドギャップである。
【0094】
【0095】
各実施例において優れた太陽電池特性が確認された(例えば、比較例1の基板側の値と比較した場合においても)。
【0096】
〈外部量子効率の測定〉
実施例1および比較例1で得られた太陽電池について外部量子効率を、分光感度測定装置を用いて測定した。測定結果を
図4に示す。
【0097】
実施例1で得られた太陽電池のITO層表面に反射防止層を形成した。具体的には、電子線蒸着法によって厚み115nmのMgF
2膜を製膜した。反射防止層形成前後における外部量子効率を測定した。測定結果を
図5に示す。
【0098】
図5に示すように、波長350nmから550nmの範囲において顕著な感度の向上が確認された。
【0099】
[実施例5-1]
化合物(I)のかわりに化合物(V):
【化17】
(HOMO:-5.2eV)
を用いて有機材料膜を製膜したこと、および、基板の有機材料膜側にMoO
3層およびITO層を形成するかわりに厚み100nmのAu層を抵抗加熱蒸着により形成したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池を作製した。
【0100】
[実施例5-2]
厚み30nmの有機材料膜を製膜したこと、および、有機材料膜とAu層との間に厚み30nmのMoO3層を介在させたこと以外は実施例5-1と同様にして、太陽電池を作製した。
【0101】
[実施例5-3]
基板の有機材料膜側にAu層を形成するかわりに、厚み80nmのITO層をスパッタ法により形成し、次いで、厚み100nmのAg層を真空蒸着法により形成したこと以外は実施例5-2と同様にして、太陽電池を作製した。
【0102】
[参考例5-4]
厚み110nmの有機材料膜を製膜したこと以外は実施例5-1と同様にして、太陽電池を作製した。
【0103】
<評価方法>
ソーラーシミュレータを用いて、各実施例で得られた太陽電池の太陽電池特性(短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)および変換効率(Eff.))を測定した。測定は、基板側から光を入射させて行った。評価結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
実施例5-1から5-4において。有機材料膜にドーパントが含まれない。有機材料膜の厚みの厚い実施例5-4は他に比べて太陽電池特性が劣っている。
実施例5-2と実施例5-3との比較から、MoO3層/ITO層の組合せが好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0106】
10.基板(透明基板)
20.透明電極層
21.電極層
22.電極層
30.電子輸送層
31.ブロッキング層
32.多孔質担体層
40.光吸収層
50.正孔輸送層
60.金属電極層
70.基板
71.第1の導電層
72.第2の導電層
100.光電変換素子
200.光電変換素子
300.光電変換素子
301.第1の光電変換ユニット
302.第2の光電変換ユニット