(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ミスト回収装置
(51)【国際特許分類】
B01D 5/00 20060101AFI20230314BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B01D5/00 A
F16L55/00 Z
(21)【出願番号】P 2019046428
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】522221046
【氏名又は名称】日比製煉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正和
(72)【発明者】
【氏名】小田 達也
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122910(JP,A)
【文献】特開2011-206696(JP,A)
【文献】特開2010-274204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 5/00
F16L 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃以上の酸性液又はアルカリ性液を収容するタンクに一端部が接続され、前記タンク内のミストを他端部から下側に向けて排出する排出管と、
前記排出管の前記他端部の下方に配置され、前記排出管の内部で凝縮した前記ミストを回収する受け部と、
前記受け部が回収した前記ミストを前記排出管の前記一端部近傍に戻す戻り管と、を備え、
前記排出管の前記他端部には、前記受け部を上方から覆う形状を有する庇部が設けられ、
前記庇部の上面は、水平又は前記受け部の中心側から外周側に向けて下向きに傾斜して
いるとともに、前記排出管の前記他端部に設けられた上側傘部からなり、
前記庇部の下面は、前記受け部の外周側から中心側に向けて下向きに傾斜している
とともに、前記上側傘部の下側に設けられた下側傘部からなり、
さらに前記下側傘部は、下端部に円形開口を有しており、前記円形開口の内径は、前記受け部の内径よりも小さく設定され、
前記庇部の外径は、前記受け部の内径より大きく設定されている、ことを特徴とするミスト回収装置。
【請求項2】
前記庇部が略円盤状の形状を有するとともに、前記受け部の上部開口が略円形形状を有し、
前記庇部の外径は、前記受け部の内径の1.3倍~2.0倍であることを特徴とする請求項1に記載のミスト回収装置。
【請求項3】
前記庇部の下面が水平面に対してなす角度が15°~45°であることを特徴とする請求項1又は2に記載のミスト回収装置。
【請求項4】
前記庇部の下面に設けられている前記ミストが通過する開口部の内径は、前記受け部の内径に対して0.3倍~0.7倍であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のミスト回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解殿物中の銅分を取り除く場合、スラリー状の銅電解殿物を加熱し、空気を吹き込むことで溶解させる。このとき、スラリー状の銅電解殿物は80℃前後まで加熱される。銅電解殿物は加熱されることにより、銅が溶出した強酸性の液体となる。
【0003】
スラリー状の銅電解殿物を固体と液体に分離するためにフィルタープレスが利用される。この場合、フィルタープレスに投入する液体を保有しておくため、あるいは固体を分離した後の液体を保有するために、タンクが利用される。タンク内の液体は加温されていることから、タンク内にはミストが発生しやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タンク内で発生したミストをタンクの上側に設けた逆U字状の排出管を用いてタンク外に放出することがある。この場合、排出管内で凝縮したミスト(酸性液体)がタンクの上側に設けられた床面に落ちると、床材を腐食させる可能性がある。このため、排出管近傍に酸性液体を回収するための受け部を設け、受け部で回収した酸性液体をタンク内に戻すことが考えられる。
【0006】
しかしながら、受け部を設けた場合、雨天時に受け部を介してタンク内に雨水が入り込む可能性がある。
【0007】
本明細書に記載のミスト回収装置は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、タンク内への雨水の混入を抑制し、ミストの回収効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載のミスト回収装置は、60℃以上の酸性液又はアルカリ性液を収容するタンクに一端部が接続され、前記タンク内のミストを他端部から下側に向けて排出する排出管と、前記排出管の前記他端部の下方に配置され、前記排出管の内部で凝縮した前記ミストを回収する受け部と、前記受け部が回収した前記ミストを前記排出管の前記一端部近傍に戻す戻り管と、を備え、前記排出管の前記他端部には、前記受け部を上方から覆う形状を有する庇部が設けられ、前記庇部の上面は、水平又は前記受け部の中心側から外周側に向けて下向きに傾斜しているとともに、前記排出管の前記他端部に設けられた上側傘部からなり、前記庇部の下面は、前記受け部の外周側から中心側に向けて下向きに傾斜しているとともに、前記上側傘部の下側に設けられた下側傘部からなり、さらに前記下側傘部は、下端部に円形開口を有しており、前記円形開口の内径は、前記受け部の内径よりも小さく設定され、前記庇部の外径は、前記受け部の内径より大きく設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本明細書に記載のミスト回収装置は、タンク内への雨水の混入を抑制し、ミストの回収効率を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るミスト回収装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】庇部の作用について説明するための図である。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)は、変形例を示す図(その1)である。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)は、変形例を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態に係るミスト回収装置について、
図1~
図3に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1には、一実施形態に係るミスト回収装置100の構成が示されている。
図1に示すように、ミスト回収装置100は、床材60の下方に設けられたタンク20に接続されている。
【0013】
ここで、タンク20は、一例として、スラリー状の銅電解殿物を固体と液体に分離するためのフィルタープレスに投入する液体を収容するタンクである。タンク20内の銅電解殿物は80℃前後まで加熱されており、銅が溶出して強酸性の液体となっているため、ミストが発生しやすい状態となっている。なお、タンク20は、外側から見て円柱形状を有し、一例として、底面の直径が3200mm、高さが3300mmとなっている。なお、タンク20としては、フィルタープレスに投入した後(固体を分離した後)の液体を収容するためのタンクなど、その他の60℃以上の酸性液体を収容するタンクであってもよい。
【0014】
ミスト回収装置100は、
図1に示すように、タンク20に設けられた配管22に一端部が接続された逆J字状の排出管としてのベント管50と、ベント管50の他端部近傍(下方)に設けられた受け部40と、受け部40とベント管50の間に設けられ、受け部40の内部とベント管50の内部とを連通する戻り管41と、を備える。受け部40の上端部の開口は、略円形形状であり、戻り管41は断面略円形の筒状部材である。受け部40と戻り管41は、塩化ビニル等を材料としている。
【0015】
ベント管50は、直管パイプ31、34、36と、フランジ30、32、33と、エルボー35、37と、庇部38と、が組み合わされたものである。ベント管50に含まれる各部材は、断面略円形で、塩化ビニル等を材料としている。タンク20内で発生したミストは、ベント管50内を直管パイプ31内、直管パイプ34内、エルボー35内、直管パイプ36内、エルボー37内、庇部38内を順に移動する。そして、ミストは、ベント管50の内壁と接触するなどして凝縮して、酸性液体となると、受け部40で回収され、戻り管41、直管パイプ31、配管22を介して、タンク20内に戻される。
【0016】
庇部38は、略円盤状の形状を有し、エルボー37の下端部に設けられた上側傘部39Aと、上側傘部39Aの下側に設けられた下側傘部39Bと、を有する。
図2は、庇部38の縦断面図である。
図2に示すように、上側傘部39Aは、縦断面が台形形状となっており、上端部に円形開口89Aが形成された傘状の部材である。上側傘部39Aの上側の面は、円形開口89Aから外周側に向けて下向きに傾斜しており、その傾斜角度(θ1)は水平面に対して15°~45°とされている。また、下側傘部39Bは、上側傘部39Aを上下逆にしたような形状を有し、下端部に開口部としての円形開口89Bが形成されている。すなわち、下側傘部39Bの下側の面は、外周側から円形開口89Bに向けて下向きに傾斜しており、その傾斜角度(θ2)は水平面に対して15°~45°とされている。
【0017】
下側傘部39Bが有する円形開口89Bの直径(内径φ
1)は、上側傘部39Aが有する円形開口89Aの直径(内径φ
2)よりも小さい。また、円形開口89Bの内径(φ1)は、受け部40の上端部の開口の内径(
図1のφ4)の0.3倍~0.7倍となっている。また、上側傘部39Aの下端部及び下側傘部39Bの上端部(庇部38のうち最も径が大きい部分)の外径(φ3)は、受け部40の上端部の開口の内径(
図1のφ4)の1.3~2.0倍程度となっている。
【0018】
図3には、エルボー37、庇部38、受け部40、戻り管41の断面図が示されている。庇部38(上側傘部39A)の円形開口89Aには、
図3に示すように、エルボー37の下端部が差し込まれた状態となっている。
【0019】
上側傘部39Aは、雨天時に、受け部40に雨水が入り込むのを防止するためのものである。本実施形態においては、庇部38の外径(φ3)は、受け部40の上端部の開口の内径(φ4)の1.3~2.0倍程度であるため、受け部40への雨水の浸入を効果的に抑制することができる。
【0020】
次に、下側傘部39Bの作用について説明する。ベント管50内(エルボー37内)でミストが凝縮して酸性液体となると、エルボー37の内壁を伝わって、下側傘部39Bの内壁面88上に落下する(
図3の矢印A参照)。そして、内壁面88を伝わることで、酸性液体は円形開口89Bから受け部40に落ち(矢印B参照)、戻り管41、直管パイプ31、配管22を介して、タンク20内に戻る。また、庇部38の内部で凝縮したミスト(酸性液体)についても、同様に、内壁面88を流れ、円形開口89Bから受け部40に落ちる。
【0021】
一方、ベント管50内で凝縮しなかったミストは、矢印Cに示すように受け部40に向かって流れるが、受け部40に溜まったミストは、矢印Dに示すように受け部40と下側傘部39Bの間を上昇し、下側傘部39Bの外壁面87(庇部38の下面)で結露して酸性液体となる。この結露した酸性液体は、外壁面87を伝わることで、受け部40に落ちるようになっている(矢印E参照)。このように、本実施形態では、受け部40に溜まったミストから酸性液体を効率よく回収し、タンク20内に戻すことができる。なお、矢印Dのように受け部40と下側傘部39Bの間を上昇するミストには、戻り管41を上昇してきたミストも含まれる。
【0022】
ここで、
図4には、比較例として、庇部38が上側傘部39Aのみを有する場合が示されている。この比較例では、本実施形態と同様に、上側傘部39Aによって雨水の浸入を防ぐことができる。その一方で、矢印Dに示すように受け部40と
上側傘部39
Aの間を上昇するミストは、上側傘部39Aの内壁面85に結露する。このように上側傘部39Aの内壁面85に結露したミスト(酸性液体)は、内壁面85を伝わって、上側傘部39Aの外周近傍から下方に落下する(矢印F参照)。この場合、上側傘部39Aから落下した酸性液体が床材60を腐食させる可能性がある。これに対し、本実施形態では、下側傘部39Bを設けることで、酸性液体の床材60への落下を抑制することができるため、床材60の腐食を抑制することができる。
【0023】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、ミスト回収装置100は、酸性液体を収容するタンク20に一端部が接続され、タンク20内のミストを他端部から下方に排出するベント管50と、ベント管50の他端部の下方に配置され、ベント管50の内部で凝縮したミスト(酸性液体)を回収する受け部40と、受け部40が回収した酸性液体をベント管50の一端部近傍に戻す戻り管41と、を備えている。また、ベント管50の他端部には、受け部40を上方から覆う形状を有する庇部38が設けられている。そして、庇部38の上面は、受け部40の中心側から外周側に向けて下向きに傾斜しており、庇部38の下面(外壁面87)は、受け部40の外周側から中心側に向けて下向きに傾斜している。これにより、本実施形態では、庇部38の上面により、受け部40への雨水の浸入、すなわちタンク20内への雨水の浸入を抑制することができる。また、庇部38の下面(外壁面87)が受け部40の外周側から中心側に向けて下向きに傾斜している。これにより、受け部40に溜まったミストが、受け部40と下側傘部39Bの間を上昇して外壁面87で結露しても、結露した酸性液体は外壁面87の傾斜に沿って流れ、受け部40に落ちるようになっている。これにより、酸性液体を効率よく回収し、タンク20内に戻すことができる。
【0024】
また、本実施形態によると、庇部38の外径(φ3)は、受け部40の内径(φ4)の1.3倍~2.0倍となっている。このように、庇部38の外径が受け部40の内径に対して大きめに設定されていることにより、受け部40に対する雨水の浸入を効果的に抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態によると、庇部38の下面(外壁面87)が水平面に対してなす角度が15°~45°となっている。このように、外壁面87を水平面に対して適度に傾斜した角度とすることで、外壁面87にミストが結露しやすくなる。
【0026】
また、本実施形態によると、庇部38の下面に設けられているミストが通過する円形開口89Bの内径(φ1)は、受け部40の内径(φ4)に対して0.3倍~0.7倍となっている。このように円形開口89Bの内径と受け部40の内径の大きさを設定することで、ミストや酸性液体を受け部40に効率的に送ることができる。
【0027】
なお、上記実施形態では、
図5(a)に示すように、上側傘部39Aの上面及び下側傘部39Bの下面(外壁面87)が湾曲し、上側傘部39Aと下側傘部39Bが椀型をしていてもよい。あるいは、上側傘部39Aと下側傘部39Bのいずれか一方が、椀型であってもよい。また、
図5(b)に示す庇部38’のように、上側傘部39A’の上面が、水平面であってもよい。このようにしても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、庇部38の内部が中空である場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、庇部38は、
図6(a)に示すように、ミストや酸性液体の通路84以外が中実であってもよい。また、
図6(b)に示すように、
図6(a)の中実部分を肉抜きしてもよい。
【0029】
なお、上記実施形態では、タンク20内に酸性液体が収容されている場合について説明したが、これに限らず、タンク20内には、例えば60℃以上のアルカリ性液体が収容されてもよい。
【0030】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0031】
38 庇部
40 受け部
41 戻り管
50 ベント管(排出管)
87 外壁面(庇部の下面)
89B 円形開口(開口部)
100 ミスト回収装置