(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
F16D7/02 C
(21)【出願番号】P 2019100666
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000114710
【氏名又は名称】ヤマウチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 正
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-085335(JP,U)
【文献】特開2004-239357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
B65H 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の外周面に取り付けられる永久磁石またはヒステリシス材の一方を含む第1回転体と、
前記回転軸の同軸上で相対的に回転可能に設けられるハウジングと、前記ハウジングの内周面に取り付けられ、前記永久磁石またはヒステリシス材の一方とギャップを隔てて対向する前記永久磁石またはヒステリシス材の他方とを含む第2回転体とを備え、
前記第1回転体の回転軸および前記第2回転体のハウジングは、周方向に摺動する摺動部を有し、
前記摺動部の直径は、前記第1回転体の永久磁石またはヒステリシス材の一方の外径寸法と同じか、それよりも大き
く、かつ、前記第2回転体の永久磁石またはヒステリシス材の他方の内径寸法と同じか、それよりも小さいことを特徴とする、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記永久磁石と前記ヒステリシス材との間のギャップの半径での寸法は、0.2mm以下である、請求項
1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記摺動部は、前記第1回転体の永久磁石またはヒステリシス材の一方を回転軸線方向の両側から挟むように複数設けられる、請求項1
または2に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば複写機、プリンタ、ファクシミリ等の給紙装置やATMに用いられるトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、複写機等に用いられる給紙装置の重送防止機構である。
図8において、摩擦ローラ101は給送ローラ102に所定圧で押し付けられている。この摩擦ローラ101には、トルクリミッタ100を介して用紙103を戻す方向のトルクTが与えられている。トルクリミッタ100は、駆動側すなわちシャフト104から従動側すなわち摩擦ローラ101へ、所定のトルク値Taの範囲内で回転を伝達するが、所定のトルク値Taを超えるトルクが発生した場合には回転の伝達を遮断する機能を有している。所定のトルク値Taは、用紙同士の摩擦力よりは大きく、給送ローラ102の回転力よりは小さい値に設定されている。
【0003】
したがって、
図8(a)に示すように、給送ローラ102と摩擦ローラ101との間に2枚以上の用紙103が案内されたときには、2枚目以降の用紙は1枚目と分離されて用紙103の進行方向とは逆の方向に戻される。しかし、
図8(b)に示すように、給送ローラ102と摩擦ローラ101とが直接接しているか、1枚の用紙103のみを挟んで接しているときには、摩擦ローラ101の回転は、トルクリミッタ100の機能によってシャフト104の回転と遮断され、摩擦ローラ101は給送ローラ102と一緒に連れ回りする。
【0004】
このようにして、給紙装置からは用紙103が1枚ずつ送り出される。給紙装置から用紙103を1枚ずつ確実に送り出すためには、トルクリミッタ100には、所定のトルク値Taが安定していることが要求されている。
【0005】
このような給紙装置に用いられるヒステリシストルクを利用したトルクリミッタとして、特開平6-235447号公報(特許文献1)が知られている。
図9に示すように、特許文献1のトルクリミッタ200は、第1回転体210と第2回転体220とを備える。第1回転体210は、回転軸211と永久磁石212とを含み、第2回転体220は、ハウジング221とヒステリシス材222と蓋部223とを含む。蓋部223は、ハウジング221の開口部を塞ぐように設けられる。第1回転体210と第2回転体220との間には、摺動部231,232が設けられており、トルクリミッタ200は、摺動部231,232を2つ有する。摺動部231,232の直径は、いずれも永久磁石212の外径寸法よりも小さい。
【0006】
また、特開2008-281112号公報(特許文献2)および特開平10-78043号公報(特許文献3)には、いずれも第1回転体および第2回転体の摺動部の直径が第1回転体の永久磁石の外径寸法よりも小さいトルクリミッタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-235447号公報
【文献】特開2008-281112号公報
【文献】特開平10-78043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3は、いずれも摺動部の直径が第1回転体の永久磁石の外径寸法よりも小さいため、トルクリミッタの回転の際にヒステリシス材と永久磁石とが接触し、不安定なトルクになってしまうという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、安定したトルクを提供することができるトルクリミッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るトルクリミッタは、回転軸と、回転軸の外周面に取り付けられる永久磁石またはヒステリシス材の一方を含む第1回転体と、回転軸の同軸上で相対的に回転可能に設けられるハウジングと、ハウジングの内周面に取り付けられ、永久磁石またはヒステリシス材の一方とギャップを隔てて対向する永久磁石またはヒステリシス材の他方とを含む第2回転体とを備え、第1回転体の回転軸および第2回転体のハウジングは、周方向に摺動する摺動部を有し、摺動部の直径は、第1回転体の永久磁石またはヒステリシス材の一方の外径寸法と同じか、それよりも大きい。
【0011】
好ましくは、摺動部の直径は、第2回転体の永久磁石またはヒステリシス材の他方の内径寸法と同じか、それよりも小さい。
【0012】
好ましくは、永久磁石とヒステリシス材との間のギャップの半径での寸法は、0.2mm以下である。
【0013】
好ましくは、摺動部は、第1回転体の永久磁石またはヒステリシス材の一方を回転軸線方向の両側から挟むように複数設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトルクリミッタによれば、安定したトルクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るトルクリミッタを概略的に示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るトルクリミッタを概略的に示す断面図であり、
図1においてIIで示した部分の拡大図である。
【
図3】本発明の実施の形態2に係るトルクリミッタを概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係るトルクリミッタを概略的に示す断面図であり、(a)は
図3のIV(a)で示した部分の拡大図、(b)は
図3のIV(b)で示した部分の拡大図である。
【
図5】実施例および比較例について時間とトルク値との関係を示すグラフであり、(a)は通紙動作を行わなかった場合の実施例のトルク値を示すグラフ、(b)は通紙動作を行わなかった場合の比較例のトルク値を示すグラフである。
【
図6】実施例および比較例について時間とトルク値との関係を示すグラフであり、(a)は100万回通紙動作を行った後の実施例のトルク値を示すグラフ、(b)は100万回通紙動作を行った後の比較例のトルク値を示すグラフである。
【
図7】実施例および比較例について時間とトルク値との関係を示すグラフであり、(a)は200万回通紙動作を行った後の実施例のトルク値を示すグラフ、(b)は200万回通紙動作を行った後の比較例のトルク値を示すグラフである。
【
図8】トルクリミッタの具体的な使用例を示す図であり、(a)は2枚目以降の用紙が進行方向とは逆の方向に戻される場合の模式図、(b)は1枚の用紙を挟み摩擦ローラと給送ローラとが連れ回りする場合の模式図である。
【
図9】一般的なトルクリミッタを概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係るトルクリミッタについて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るトルクリミッタ1を概略的に示す断面図である。なお、矢印A1は回転軸線方向(以下の説明において、「軸方向」という)を示しており、矢印A1で示す方向を一方といい、矢印A1の反対方向を他方という。矢印A2は径方向を示している。
【0018】
図1を参照して、本実施の形態1に係るトルクリミッタ1は、図示のない駆動用のシャフトに止めネジを介して一体的に回転するようにされた第1回転体10と、第1回転体10と相対的に回転可能に設けられる第2回転体20とを備える。
【0019】
本実施の形態の第1回転体10は、回転軸11と、回転軸11の外周面に取り付けられる円筒状の永久磁石12とを有する。
【0020】
回転軸11の材料は、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂としては、たとえばポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン樹脂などが挙げられる。なお、回転軸11の材料は、合成樹脂以外の材料として、たとえば金属を用いてもよい。金属としては、たとえばアルミニウム、亜鉛、真鍮、ステンレス、鉄などが挙げられる。
【0021】
回転軸11は、たとえば軸方向に延在する円筒状の第1軸部30と、第1軸部30の外周面から外径側へ向かって突出する第1部分31と、第1部分31の外径側端部から軸方向の一方端側へ向かって延びる第2部分32と、第2部分32の軸方向の一方端部から外径側へ向かって突出する第3部分33と、第3部分33の外径側端部から軸方向の一方端側へ向かって延びる第4部分34とを備える。このような構成により、回転軸11は、段差状の突出部を有する。
【0022】
第1軸部30は、図示のない駆動用のシャフトの外周を囲うように取り付けられる。第1部分31は、第1軸部30の軸方向における中央部から突出する。第2部分32は、第1軸部30と間隔を隔てて平行に設けられる。また、第2部分32の外周面には、永久磁石12が取り付けられる。第3部分33は、永久磁石12の外周面よりも突出する位置まで延びるように設けられる。第4部分34は、第1軸部30と間隔を隔てて平行に設けられる。第4部分34の外径は、永久磁石12の外径寸法よりも大きく、第2回転体20に対して周方向に摺動する第1摺動部13である。第4部分34の一方端部は、後述する第2回転体20の第1側壁部41と当接する位置まで延在し、第1軸部30の一方端部よりも一方端側に位置する。このような構成により、第1軸部30と第2部分32との間、および第1軸部30と第4部分34との間は、中空状となる。
【0023】
永久磁石12には、たとえばフェライト磁石や焼結磁石、樹脂磁石または希土類磁石などが用いられるが、トルクリミッタの小型化、高トルク化の観点から、希土類磁石を用いるのが望ましい。希土類磁石としては、たとえばNd-Fe-B磁石、Sm-Fe-N磁石、Sm-Co系磁石などが用いられる。
【0024】
本実施の形態の第2回転体20は、回転軸11の同軸上で相対的に回転可能に設けられるハウジング21と、ハウジング21の内周面に取り付けられ、永久磁石12とギャップGを隔てて対向する円筒状のヒステリシス材22とを有する。
【0025】
ハウジング21の材料は、回転軸11と同一の材料であることが好ましく、たとえば合成樹脂や金属などが用いられる。ハウジング21は、たとえば摩擦ローラに取り付けられ、軸方向に延在する円筒状の第2軸部40と、第2軸部40の一方端部から外径側へ延びるように設けられる第1側壁部41と、第1側壁部41の外径側端部から他方端側へ向かって延在し、第1回転体10を囲うように設けられる外周部42とを備える。
【0026】
第2軸部40は、回転軸11の第1軸部30の一方端部と近接するように設けられる。第1側壁部41の一方端面は、摩擦ローラ側に位置する。第1側壁部41の他方端面は、第4部分34の一方端部と当接する。
【0027】
外周部42は、たとえば第1側壁部41の外径側端部から他方側へ向かって延びる第1外周部43と、第1外周部43よりも内径寸法を小さくし、第1外周部43の他方端部から他方側へ向かってさらに延びる第2外周部44とを備える。このような構成により、外周部42は内周面に段差を有する。
【0028】
第1外周部43の内径は、ヒステリシス材22の内径寸法よりも小さく、第1摺動部13に対して周方向に摺動する第2摺動部23である。第2外周部44の内周面には、永久磁石12と対向するようにヒステリシス材22が取り付けられる。
【0029】
ハウジング21は、他方端部に開口部を有しており、開口部を塞ぐように蓋部24が設けられる。外周部42は、第2外周部44の他方端部に蓋部24と嵌合するための凹部を有する。これにより、蓋部24は第2外周部44と凹凸嵌合によって固定される。蓋部24の材料は、回転軸11と同一の材料であることが好ましく、たとえば合成樹脂や金属などが用いられる。なお、蓋部24と回転軸11は、当接する端面24a,24bにおいて周方向に摺動する。
【0030】
ヒステリシス材22は、第1回転体10の永久磁石12とギャップGを隔てて対向する位置に設けられる。ヒステリシス材22は、高い残留磁束密度およびある程度の保磁力を有する金属材料が用いられ、磁束密度0.7T以上、保磁力2.5~12.5kA/mの磁気特性を有することが望ましい。ヒステリシス材22としては、たとえばAl-Ni―Co系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr-Co系合金、Fe-Mn系合金、Fe-Ni系合金などが用いられる。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態1に係るトルクリミッタを概略的に示す断面図であり、
図1においてIIで示した部分の拡大図である。ギャップGは、半径での寸法が0.3mm未満であり、0.25mm以下であることが好ましい。トルクを向上する観点から、0.2mm以下であることがより好ましく、ギャップGの半径での寸法は小さい方が好ましいという観点から、0.15mm以下であることがより一層好ましい。本実施の形態におけるギャップGは、半径での寸法が0.15mmである。半径での寸法とは、
図1に示す断面図のうち、一点鎖線で示す軸Oを境界とした場合の片側のギャップGの径方向の寸法である。また、直径での寸法とは、軸Oを境界とした場合の双方のギャップGの径方向の寸法を合わせた値である。
【0032】
次に、第1摺動部13および第2摺動部23について説明する。上述したように、第1回転体10の回転軸11および第2回転体20のハウジング21は、周方向(回転方向)に摺動する第1,2摺動部13,23を有する。第1,2摺動部13,23は、第1回転体10と第2回転体20の回転部分を回転可能に支えるすべり軸受け部である。摺動とは、回転軸11と第2回転体20とが互いに接触しながら相対的に移動することを意味する。なお、第1摺動部13と第2摺動部23との間には、若干の隙間があってもよい。
【0033】
第1,2摺動部13,23の材料は、合成樹脂が用いられ、回転軸11、ハウジング21の一部である。しかしながら、第1,2摺動部13,23の材料として、回転軸11、ハウジング21とは異なる材料を用いてもよい。第1,2摺動部13,23に使用される合成樹脂は、摺動性、耐熱性、寸法安定性、限界PV値の高いグレードおよび強度において優れたものが適している。また、第1,2摺動部13,23に用いられる合成樹脂は、摺動性、剛性、PV値などを向上するために、充填剤をさらに含んでもよい。充填剤に好適な材料としては、たとえばチタン酸カリウムウイスカー、四フッ化樹脂(PTFE)、個体潤滑剤(たとえばグラファイト、二硫化モリブデンなど)、オイル、ガラスビーズなどが用いられる。
【0034】
第1,2摺動部13,23では、回転軸11の第4部分34とハウジング21の第1外周部43とが接しており、互いに擦れながら滑り合う。第1,2摺動部13,23の直径R1は、第1回転体10の永久磁石12の外径寸法R2よりも大きい。また、第1,2摺動部13,23の直径R1は、第2回転体20のヒステリシス材22の内径寸法R3よりも小さいことが望ましい。つまり、第1,2摺動部13,23の直径R1は、永久磁石12の外径寸法R2よりも大きく、ヒステリシス材22の内径寸法R3よりも小さいことが好ましい。
【0035】
従来のトルクリミッタは、いずれも摺動部の直径が永久磁石の外径寸法よりも小さかった。このため、トルクリミッタの動作時に第1回転体がぐらつき、永久磁石とヒステリシス材とが接触してしまうという課題があった。本実施の形態に係るトルクリミッタ1は、第1,2摺動部13,23の直径R1が、第1回転体10の永久磁石12の外径寸法R2よりも大きいため、トルクリミッタ1の使用時に生じる第1回転体10のぐらつきを抑えることができる。そのため、本実施の形態に係るトルクリミッタ1は、第1回転体10と第2回転体20を安定して回転させることができるため、ギャップGのぶれを防止でき、永久磁石12とヒステリシス材22とが接触することを防止できる。これにより、トルクを安定することができる。
【0036】
本実施の形態に係るトルクリミッタ1は、第1,2摺動部13,23の直径R1が第2回転体20のヒステリシス材22の内径寸法R3よりも小さい。つまり、トルクリミッタ1は、第2回転体20のヒステリシス材22が第1,2摺動部13,23よりも内径側に突出していない。そのため、トルクリミッタ1の製造時に第2回転体20に第1回転体10を収容する際、第1回転体10の第1摺動部13がヒステリシス材22にひっかからない。これにより、本実施の形態に係るトルクリミッタ1は、ヒステリシス材22と第1回転体10の第1摺動部13とが接触することを防ぐことができ、容易に組み立てることができる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、永久磁石12とヒステリシス材22との間のギャップGの半径での寸法は、0.2mm以下である。このように、本実施の形態に係るトルクリミッタ1は、ギャップGの半径での寸法が小さいため、トルクを向上することができる。さらに、トルクリミッタ1は、ギャップGの半径での寸法が小さくても、永久磁石12とヒステリシス材22とが接触しないため、トルクを安定することができる。
【0038】
なお、本実施の形態では、トルクリミッタ1の摺動部13,23の直径R1は、第1回転体10の永久磁石12の外径寸法R2よりも大きいとしたが、これに限られない。摺動部13,23の直径R1は、第1回転体10の永久磁石12の外径寸法R2と同じであってもよい。
【0039】
(実施の形態2)
図3,4を参照して、本実施の形態2のトルクリミッタ1Aについて説明する。実施の形態2のトルクリミッタ1Aは、基本的には実施の形態1のトルクリミッタ1と同様の構成であるが、
図3に示すように、主に第1,2摺動部が2か所に設けられるところについて異なる。
【0040】
本実施の形態2に係るトルクリミッタ1Aは、第1回転体10Aと、第2回転体20Aとを備える。
【0041】
第1回転体10Aの回転軸11Aは、外周面に段差を有する。回転軸11Aは、段差のうち外径寸法が小さい凹部36Aと、段差のうち外径寸法が大きい第1,2凸部35A,37Aとを有する。第1,2凸部35A,37Aは、凹部36Aを軸方向の両側から挟むように設けられる。つまり、第1凸部35Aは、凹部36Aの軸方向の一方端側に位置し、第2凸部37Aは、凹部36Aの軸方向の他方端側に位置する。
【0042】
凹部36Aの外周面には、永久磁石12が取り付けられる。第1,2凸部の外径は、永久磁石12の外径寸法よりも大きい。第1凸部35Aの外周面は、第2回転体20Aに対して周方向に摺動する第1摺動部15Aである。第2凸部37Aの外周面は、第2回転体20Aに対して周方向に摺動する第1摺動部13Aである。
【0043】
第1回転体10Aの第1凸部35A、凹部36Aおよび第2凸部37Aは、一体的に形成される。第2凸部37Aは、トルクリミッタ1Aの蓋部の役割を果たす。つまり、トルクリミッタ1Aは、蓋部を準備する必要がなく、ハウジング21Aに蓋部を設けなくても防塵効果を有することができる。
【0044】
第2回転体20Aのハウジング21Aは、第2側壁部45Aと、第2外壁部46Aとを備える。
【0045】
第2側壁部45Aの一方端面は、たとえば摩擦ローラ側に位置する。第2側壁部45Aの他方端面は、回転軸11Aの一方端面と当接する。第2外壁部46Aは、内周面に段差を有する。第2外壁部46Aは、段差のうち内径寸法が大きい第4外周部48Aと、段差のうち内径寸法が小さい第3,5外周部47A,49Aとを備える。第3,5外周部47A,49Aは、第4外周部48Aを軸方向の両側から挟むように設けられる。つまり、第4外周部48Aは、第2外壁部46Aの内周面の凹部であり、第3外周部47Aは第4外周部48Aの軸方向の一方端側に位置し、第5外周部49Aは、第4外周部48Aの軸方向の他方端側に位置する。
【0046】
第4外周部48Aの内周面には、ヒステリシス材22が取り付けられる。第3,5外周部47A,49Aの内径は、ヒステリシス材22の内径寸法よりも小さい。第3外周部47Aの内周面は、第1凸部35Aの外周面(第1摺動部15A)と周方向に摺動する第2摺動部25Aである。第5外周部49Aの内周面は、第2凸部37Aの外周面(第1摺動部13A)と周方向に摺動する第2摺動部23Aである。
【0047】
次に、2つの摺動部、すなわち第1,2摺動部13A,23Aおよび第1,2摺動部15A,25Aについて説明する。第1,2摺動部13A,23Aは、永久磁石12およびヒステリシス材22の軸方向の他方側、第1,2摺動部15A,25Aは、永久磁石12およびヒステリシス材22の軸方向の一方側に設けられる。つまり、第1,2摺動部13A,23Aおよび第1,2摺動部15A,25Aは、永久磁石12およびヒステリシス材22を軸方向の両側から挟むように設けられる。
【0048】
一方側の第1,2摺動部15A,25Aと他方側の第1,2摺動部13A,23Aの直径は同一であることが好ましい。しかし、ギャップGの寸法を維持できるのであれば、直径は異なっていてもよい。
【0049】
第1凸部35Aおよび第2凸部37Aは、永久磁石12を軸方向の両側から挟むように設けられる。さらに、第1凸部35Aおよび第2凸部37Aの直径は、永久磁石12の外径寸法よりも大きい。このような構成の場合、本実施の形態の第1回転体10Aは、永久磁石12が突出していない。トルクリミッタ1Aは、製造時に第1回転体10Aと第2回転体20Aとが別々に製造されるが、このような場合に第1回転体10Aを落下させてしまっても、永久磁石12の両側に設けられた第1凸部35Aおよび第2凸部37Aがあたるのみで、永久磁石12が傷つかない。つまり、永久磁石12の欠損などを防ぐことができる。
【0050】
なお、実施の形態1,2では、第1回転体10に永久磁石12が取り付けられ、第2回転体20にヒステリシス材22が取り付けられるとしたが、逆であってもよい。すなわち、第1回転体10にヒステリシス材22が取りつけられ、第2回転体20に永久磁石12が取り付けられてもよい。
【0051】
また、実施の形態2において、トルクリミッタ1Aの第1,2摺動部13A,15A,23A,25Aは、2か所設けられたが、3か所以上設けられていてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例)
実施例のトルクリミッタは、
図1,2に示す実施の形態1と同様とした。具体的には、第1回転体および第2回転体は合成樹脂で形成されたものを使用した。永久磁石としてNd-Fe-B磁石を使用し、ヒステリシス材としてFe-Cr-Co系合金を使用した。第2回転体に取り付けられたヒステリシス材の内径は14.8mm、第1回転体に取り付けられた永久磁石の外径は14.5mmであり、ギャップの半径での寸法は0.15mmであった。また、第1回転体に取り付けられた永久磁石の内径は11.6mmであり、永久磁石の径方向の厚みは2.9mmであった。永久磁石の軸方向の寸法は7.8mm、体積は0.46cm
3、密度は6.04g/cm
3、重量は2.78gであった。
【0054】
(比較例)
比較例のトルクリミッタは、基本的には
図9に示す一般的なトルクリミッタと同様であるが、ギャップの寸法について改変し使用した。具体的には、第1回転体および第2回転体は合成樹脂で形成されたものを使用した。永久磁石として、Nd-Fe-B磁石を使用し、ヒステリシス材としてFe-Cr-Co系合金を使用した。第2回転体に取り付けられたヒステリシス材の内径は14.67mm、第1回転体に取り付けられた永久磁石の外径は14.37mmであり、ギャップの半径での寸法は0.15mmであった。また、第1回転体に取り付けられた永久磁石の内径は11.47mmであり、永久磁石の径方向の厚みは2.9mmであった。永久磁石の軸方向の寸法は7.9mm、体積は0.46cm
3、密度は6.06g/cm
3、重量は2.79gであった。
【0055】
実施例および比較例で使用したトルクリミッタは、ギャップの半径での寸法が同一である。さらに、永久磁石の径方向の厚み、軸方向の寸法、体積、密度、重量が略同一である。これにより、実施例および比較例のトルクの安定性を比較できるようにした。
【0056】
(評価方法)
実施例および比較例のトルクリミッタについて、各条件における時間とトルクの関係を調べた。表1は、実施例および比較例のトルクリミッタの各寸法およびトルク値を示す。
【0057】
具体的には、先ず、トルクリミッタを耐久試験装置の駆動源と直結したシャフトに固定し、第2回転体は第1回転体と相対回転するように試験装置に固定した。次に回転数650rpmである給紙装置を0.6秒間起動した後、回転数0rpmすなわち停止状態にする動作を0.2秒間行い、この一連の動作を通紙動作とした。通紙動作により、給紙装置の起動時にかかる負荷をトルクリミッタに与えることができる。通紙動作を所定回数行った後、500rpmで30分間連続回転を行い、トルク(mNm)値と時間(分)との関係を連続測定した。
【0058】
【0059】
(評価結果)
トルク値は、デジタルフォースゲージ(イマダ社製)を用いて測定した。
図5~7に結果を示した。
図5~7は、実施例および比較例について時間とトルク値との関係を示すグラフであり、
図5(a)は通紙動作を行わなかった場合の実施例のトルク値を示し、
図5(b)は通紙動作を行わなかった場合の比較例のトルク値を示している。
図6(a)は100万回通紙動作を行った後の実施例のトルク値を示し、
図6(b)は100万回通紙動作を行った後の比較例のトルク値を示している。
図7(a)は200万回通紙動作を行った後の実施例のトルク値を示すグラフを示し、
図7(b)は200万回後の比較例のトルク値を示している。なお、横軸には時間(分)が、縦軸にはトルク値(mNm)が示されている。
【0060】
図5(a)に示すように、実施例において通紙動作を行わなかった場合の初期トルク値は、38.2mNmであった。
図5(b)に示すように、比較例において通紙動作を行わなかった場合の初期トルク値は、37.0mNmであった。初期トルク値とは、測定開始直後のトルク値である。
【0061】
図5(a),(b)に示すように、通紙動作を行わなかった場合、実施例および比較例はいずれもグラフの形状に乱れがなく、トルクが安定していた。
【0062】
図6(a)に示すように、通紙動作を100万回行った場合、実施例はグラフの形状が滑らかで乱れがなく、トルクが安定していた。しかし、
図6(b)に示すように、比較例はグラフに乱れがあり、トルクが不安定であった。具体的には、測定開始後、小刻みにジグザグに変動するような乱れが確認できた。これは、比較例では摺動部が摩耗しており、通紙動作時に永久磁石とヒステリシス材とが接触していることに因る。
【0063】
図7(a)に示すように、通紙動作を200万回行った場合、実施例はグラフの形状が滑らかで乱れがなく、トルクが安定していた。しかし、
図7(b)に示すように、比較例はグラフの形状に大幅な乱れがあり、トルクが不安定であった。具体的には、測定開始5分以降では、トルク値が初期トルクよりも増加したりジグザグ状に変動するような乱れが確認できた。これは、比較例では摺動部が摩耗しており、通紙動作時に永久磁石とヒステリシス材とが接触していることに因る。
【0064】
これらの結果から、本実施例は通紙動作を200万回行ってもトルクが安定していた。本実施例によれば、第1,2摺動部の直径が第1回転体の永久磁石の外径寸法よりも大きいため、ギャップのぶれを防止することができた。また、本実施例は、通紙動作を200万回行った場合でも永久磁石とヒステリシス材とが接触しなかった。つまり、本実施例は耐久性に優れており、かつトルクを安定できることがわかった。なお、本実施例は、比較例よりもギャップを小さくすることができた。ギャップが小さくなれば出力トルクは増加するため、本実施例はトルクを向上できることがわかった。
【0065】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全てことが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1,1A トルクリミッタ、10,10A 第1回転体、11,11A 回転軸、12 永久磁石、13,13A,15A 第1摺動部、20,20A 第2回転体、21,21A ハウジング、22 ヒステリシス材、23,23A,25A 第2摺動部、24 蓋部、24a,24b 端面、30 第1軸部、31 第1部分、32 第2部分、33 第3部分、34 第4部分、35A 第1凸部、36A 凹部、37A 第2凸部、40 第2軸部、41 第1側壁部、42 外周部、43 第1外周部、44 第2外周部、45A 第2側壁部、46A 第2外壁部、47A 第3外周部、48A 第4外周部、49A 第5外周部、100 トルクリミッタ、101 摩擦ローラ、102 給送ローラ、103 用紙、104 シャフト、200 トルクリミッタ、210 第1回転体、211 回転軸、212 永久磁石、220 第2回転体、221 ハウジング、222 ヒステリシス材、223 蓋部、231,232 摺動部。