(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】金属調加飾フィルム、金属調成形体および金属調車両内外装部材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230314BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230314BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230314BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20230314BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B32B15/08 M
B32B7/023
B32B7/025
C23C14/24 N
B60R13/00
(21)【出願番号】P 2020193383
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 定子
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-136755(JP,A)
【文献】特開2019-188806(JP,A)
【文献】特開2009-090507(JP,A)
【文献】特開2011-062917(JP,A)
【文献】特開2008-296452(JP,A)
【文献】特開2007-093241(JP,A)
【文献】特開2011-236664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 14/00-14/58
B60R 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられたアンカー層と、前記アンカー層上に設けられた金属蒸着層とを有し、
前記金属蒸着層は、
前記アンカー層上に所定のパターンを形成する第1の金属蒸着層と、
前記第1の金属蒸着層を覆う第1部分と、前記第1部分以外の第2部分とからなる第2の金属蒸着層とを有し、
前記第1の金属蒸着層は、インジウムを含み、
前記第2の金属蒸着層は、インジウムを含
み、
前記第1の金属蒸着層は、海島構造を有し、
前記第2の金属蒸着層は、海島構造を有し、
前記第1の金属蒸着層の平均厚みは、90nm以下であり、
前記第2の金属蒸着層の平均厚みは、90nm以下である、金属調加飾フィルム。
【請求項2】
前記第2部分における、波長550nmにおける入射角5°の全光線反射率は、35%以上である、請求項
1記載の金属調加飾フィルム。
【請求項3】
前記第1部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であり、
前記第2部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下である、
請求項
1または2記載の金属調加飾フィルム。
【請求項4】
前記第1部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であり、
前記第2部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の金属調加飾フィルム。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の金属調加飾フィルムを用いた、金属調成形体。
【請求項6】
請求項
5記載の金属調成形体を用いた、金属調車両内外装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調加飾フィルム、金属調成形体および金属調車両内外装部材に関する。より詳細には、本発明は、様々な金属調のパターン模様を形成でき、かつ、ミリ波レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないよう覆い隠しつつ、ミリ波を透過させることのできる金属調加飾フィルム、金属調成形体および金属調車両内外装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材に対して金属蒸着層のパターンを形成する技術が開発されている。特許文献1には、家電製品、通信機器の筺体等となる成形品表面への転写加飾法や成形同時加飾法に用いられる部分蒸着箔の製造方法が開示されている。特許文献2には、金属蒸着層を積層したフィルムの製造方法および金属蒸着フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-239962号公報
【文献】特開2006-123295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気自動車は、自動車フロント部分において、グリルが必要でない。そのため、自動車フロント部分をどのようなデザインとするかが種々検討されている。法令により、電気自動車のフロント部分(エンジン車でいうグリル部分)などの人が衝突する可能性のある部分は、柔らかく、可逆性のあるプラスチックが用いられる。そのため、ボンネット部分(金属)と同じ材質を、自動車フロント部分に使用することにより、統一感を出すことはできない。
【0005】
また、最近の自動車では、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術のため、自動車フロント部分にミリ波レーダーが設けられる場合がある。エンジン車の場合、グリル部分の奥にミリ波レーダー等の機器が配置されればよく、外部から機器は視認されにくい。また、グリルの隙間をミリ波が通過できるため、エンジン車のグリル部分は、ミリ波の透過性を考慮してなくてもよい。一方、電気自動車においてグリルのないデザインが採用される場合、ミリ波を透過でき、かつ、ミリ波レーダー等の機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように隠すことができ、さらに、デザイン性の優れた金属調意匠を設けることのできる技術が求められている。このような課題を解決する発明は、上記特許文献1~2には開示されていない。
【0006】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、ミリ波を透過でき、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができ、さらに、デザイン性の優れた金属調意匠を設けることのできる金属調加飾フィルム、金属調成形体および金属調車両内外装部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、金属調加飾フィルムにおいて、インジウムを含む複数の金属蒸着層を設けることにより、種々のデザインを形成でき、かつ、ミリ波を透過でき、さらに、レーダーなどの機器が外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができる点を見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明の金属調加飾フィルム、金属調車両内外装部材、金属調成形体には、以下の構成が主に含まれる。
【0008】
(1)基材と、前記基材上に設けられたアンカー層と、前記アンカー層上に設けられた金属蒸着層とを有し、前記金属蒸着層は、前記アンカー層上に所定のパターンを形成する第1の金属蒸着層と、前記第1の金属蒸着層を覆う第1部分と、前記第1部分以外の第2部分とからなる第2の金属蒸着層とを有し、前記第1の金属蒸着層は、インジウムを含み、前記第2の金属蒸着層は、インジウムを含む、金属調加飾フィルム。
【0009】
このような構成によれば、第1の金属蒸着層によって、所定のパターンを形成することができる。これにより、たとえば、本発明の金属調加飾フィルムは、種々のデザインを、対象物(たとえば自動車の外装部材)に付与することができる。また、金属蒸着層は、インジウムを含む。そのため、金属調加飾フィルムは、ミリ波を透過することができ、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができる。
【0010】
(2)前記第1の金属蒸着層の平均厚みは、90nm以下であり、前記第2の金属蒸着層の平均厚みは、90nm以下である、(1)記載の金属調加飾フィルム。
【0011】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、第1部分および第2部分ともにミリ波透過性を高くすることができる。
【0012】
(3)前記第2部分における、波長550nmにおける入射角5°の全光線反射率は、35%以上である、(1)または(2)記載の金属調加飾フィルム。
【0013】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、より金属調の外観を表現しやすい。また、金属調加飾フィルムは、レーダーなどの機器を外部から視認できないように覆い隠しやすい。
【0014】
(4)前記第1の金属蒸着層は、海島構造を有し、前記第2の金属蒸着層は、海島構造を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の金属調加飾フィルム。
【0015】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、ミリ波をより透過しやすい。
【0016】
(5)前記第1部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であり、前記第2部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の金属調加飾フィルム。
【0017】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、たとえば長距離を探知する前方監視用レーダーにおいて好適に採用されているミリ波を、より透過しやすい。
【0018】
(6)前記第1部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であり、前記第2部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の金属調加飾フィルム。
【0019】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、たとえば周辺監視用レーダーにおいて好適に採用されているミリ波(準ミリ波)を、より透過しやすい。
【0020】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の金属調加飾フィルムを用いた、金属調成形体。
【0021】
このような構成によれば、金属調成形体は、成形加工によって製造されやすい。成形加工された金属調成形体は、上記金属調加飾フィルムが用いられている。そのため、金属調成形体は、種々のデザインが付与され得る。また、金属調成形体は、ミリ波を透過することができ、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認できないように覆い隠すことができる。
【0022】
(8)(7)に記載の金属調成形体を用いた、金属調車両内外装部材。
【0023】
このような構成によれば、金属調車両内外装部材は、上記金属調成形体が用いられている。そのため、金属調車両内外装部材は、種々のデザインが付与され得る。また、金属調車両内外装部材は、ミリ波を透過することができ、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ミリ波を透過でき、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができ、さらに、デザイン性の優れた金属調意匠を設けることのできる金属調加飾フィルム、金属調成形体および金属調車両内外装部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の金属調加飾フィルムの模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを用いて作製した金属調成形体の外観写真である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図3E】
図3Eは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図3F】
図3Fは、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程を説明する模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程においてグラビアコーターを用いている状態を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例の金属調加飾フィルムを作製する際のパターニング工程において使用されるグラビアコーターのロールを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<金属調加飾フィルム>
本発明の一実施形態に金属調加飾フィルム(以下、フィルムともいう)は、基材と、基材上に設けられたアンカー層と、アンカー層上に設けられた金属蒸着層とを有する。金属蒸着層は、アンカー層上に所定のパターンを形成する第1の金属蒸着層と、第1の金属蒸着層を覆う第1部分と、第1部分以外の第2部分とからなる第2の金属蒸着層とを有する。第1の金属蒸着層は、インジウムを含む。第2の金属蒸着層は、インジウムを含む。このようなフィルムによれば、第1の金属蒸着層によって、所定のパターンを形成することができる。これにより、たとえば、フィルムは、種々のデザインを、対象物(たとえば自動車の外装部材)に付与することができる。また、金属蒸着層は、インジウムを含む。そのため、金属調加飾フィルムは、ミリ波を透過することができ、かつ、レーダーなどの機器を外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠すことができる。すなわち、本実施形態のフィルムによれば、種々のデザインを、対象物(たとえば自動車の外装部材)に付与することができる。この際、デザインとしては、レーダーなどの機器を外部から視認できないよう覆い隠したデザインのほか、あえてレーダーなどの機器がいくらか外部から視認できるようなデザインなども採用することができる。以下、それぞれについて説明する。
【0027】
(基材)
基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等からなる。
【0028】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、1.0~300μmであることが好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、フィルムは、耐擦傷性、耐摩耗性が優れる。
【0029】
基材は、所望の表面加工が施されたものが使用されてもよい。表面加工は特に限定されない。一例を挙げると、表面加工は、マット加工、サテン加工、エンボス加工、ヘアライン加工等である。また、基材の表面(アンカー層が形成される面とは反対の面)に、各種コーティング(フッ素加工、ハードコート加工等)、転写等の表面加工が施されてもよい。これにより、基材の表面には、各種意匠性や機能性が付与され得る。
【0030】
(アンカー層)
アンカー層は、基材上に設けられる。アンカー層は、基材と金属蒸着層との密着性を向上させるために設けられる。
【0031】
アンカー層は特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層は、基材との密着性がよく、かつ、金属蒸着層に含まれるインジウムの受理性がよい原料であればよく、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン-マレイン系酸樹脂、塩素化PP系樹脂等である。
【0032】
アンカー層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層の厚みは、0.1~3μmが好ましい。アンカー層の厚みが上記範囲内であることにより、フィルムは、基材と金属蒸着層との密着性が優れる。
【0033】
アンカー層は、着色剤や金属顔料が付与されることにより、意匠性が付与されてもよい。たとえば、着色剤としてイエロー顔料が配合されることにより、積層フィルムは、金色の外観を表現し得る。着色剤の種類や含有量は、所望する金属調の外観に応じて適宜調整され得る。また、アンカー層は、帯電防止剤等が配合されることにより、帯電防止効果などの機能性が付与されてもよい。
【0034】
アンカー層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層は、ロールコーター等を用いて、適宜溶剤(たとえばメチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル等)に溶解したアンカー層を構成する樹脂溶液を、基材上に塗布し、次いで80~100℃程度で30秒から1分乾燥することにより形成し得る。
【0035】
アンカー層の樹脂溶液は、基材に塗布され、次いで、乾燥される。これにより、基材の表面に樹脂溶液の溶媒が浸漬し、アンカー層を構成する樹脂と基材とが相溶する。その結果、アンカー層と基材とは、強固に密着し得る。
【0036】
(金属蒸着層)
金属蒸着層は、アンカー層上に設けられる。金属蒸着層は、アンカー層上に所定のパターンを形成する第1の金属蒸着層と、第1の金属蒸着層を覆う第1部分および第1部分以外の第2部分からなる第2の金属蒸着層とを有する。
【0037】
・第1の金属蒸着層
第1の金属蒸着層は、アンカー層上に設けられる。第1の金属蒸着層は、インジウムを含む。インジウムは、酸化物、窒化物として含まれてもよい。第1の金属蒸着層がインジウムを含むことにより、得られるフィルムは、ミリ波レーダーからのミリ波を透過させることができる。また、インジウムを含む第1の金属蒸着層は、外観不良を生じにくく、成形加工性が優れる。その結果、フィルムは、種々の三次元形状に加工されやすい。
【0038】
また、第1の金属蒸着層は、インジウムの他、各種非金属、金属、金属酸化物および金属窒化物を含んでもよい。非金属、金属等は特に限定されない。一例を挙げると、非金属は、アモルファスカーボン(DLC)およびその複合体であり、金属等は、金、銀、白金、スズ、クロム、ケイ素、チタン、亜鉛、アルミニウムおよびマグネシウム等の金属、その酸化物、その窒化物である。
【0039】
第1の金属蒸着層におけるインジウムの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、インジウムの含有量は、第1の金属蒸着層中、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。インジウムの含有量は、100質量%であってもよい。
【0040】
第1の金属蒸着層の厚み(平均厚み)は特に限定されない。一例を挙げると、第1の金属蒸着層の厚みは、9nm以上であることが好ましい。また、第1の金属蒸着層の厚みは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。第1の金属蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、ミリ波が透過しやすくなる。また、第1の金属蒸着層は、後述する第2の金属蒸着層と合わせて形成される第1の部分、および、後述する第2の部分における、反射率および反射光の色味の違いを調整しやすい。そのため、得られるフィルムは、様々な金属調パターンを実現可能となり、意匠性やデザイン性がより優れる。また、第1の金属蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、第1の金属蒸着層は、後述する海島構造を有するよう設けられやすい。なお、本実施形態において、金属蒸着層は、海島構造を採る場合がある。このような場合、金属蒸着層の厚みは、島構造である金属蒸着層の断面積(略扇形断面の面積)と、同横幅で、かつ、同面積となる長方形を想定した場合の高さである。
【0041】
なお、本実施形態において、第1の金属蒸着層および後述する第2の金属蒸着層の厚みを測定する方法は特に限定されない。一例を挙げると、厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、蛍光X線分析法(XRF)、紫外可視分光法等により測定し得る。走査型電子顕微鏡(SEM)観察により金属蒸着層の厚みを求める場合、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、インジウムを含む蒸着膜の断面観察を行い、5~10箇所のインジウムを含む金属層の厚みを測定し、平均を算出する。また、蛍光X線分析法(XRF)により金属蒸着層の厚みを求める場合、定量分析により、5~10箇所のインジウムを含む蒸着膜の厚みを測定し、平均を算出する。さらに、紫外可視分光法により金属蒸着層の厚みを求める場合、紫外可視分光光度計により5~10箇所のインジウムを含む蒸着膜の反射率を測定し、得られた反射率のスペクトルから金属蒸着層の厚みの平均を算出する。本実施形態では、蛍光X線分析法(XRF)により金属蒸着層の厚み(nm)を算出する。
【0042】
第1の金属蒸着層は、海島構造(いわゆる不連続構造)を有することが好ましい。これにより、インジウムを含む第1の金属蒸着層は、たとえば、アルミニウム蒸着層等の他の一般的な金属蒸着層と比較して、優れた金属光沢を得ることができる。また、海島構造を有することにより、得られるフィルムは、ミリ波をより透過しやすい。
【0043】
なお、海島構造を有するよう第1の金属蒸着層を設ける方法は特に限定されない。一例を挙げると、第1の金属蒸着層は、インジウムを含む蒸着源を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相蒸着(PVD)法によって、海島構造を有するよう形成され得る。
【0044】
・第2の金属蒸着層
第2の金属蒸着層は、第1の金属蒸着層を覆う第1部分と、第1部分以外の第2部分とからなる。第2の金属蒸着層は、インジウムを含む。インジウムは、酸化物、窒化物として含まれてもよい。第2の金属蒸着層がインジウムを含むことにより、得られるフィルムは、ミリ波レーダーからのミリ波を透過させることができる。また、インジウムを含む第2の金属蒸着層は、外観不良を生じにくく、成形加工性が優れる。その結果、フィルムは、種々の三次元形状に加工されやすい。
【0045】
また、第2の金属蒸着層は、インジウムの他、各種非金属、金属、金属酸化物および金属窒化物を含んでもよい。非金属、金属等は特に限定されない。一例を挙げると、非金属は、アモルファスカーボン(DLC)およびその複合体、金属等は、金、銀、白金、スズ、クロム、ケイ素、チタン、亜鉛、アルミニウムおよびマグネシウム等の金属、その酸化物、その窒化物である。
【0046】
第2の金属蒸着層におけるインジウムの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、インジウムの含有量は、第2の金属蒸着層中、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。インジウムの含有量は、100質量%であってもよい。
【0047】
第2の金属蒸着層の厚み(平均厚み)は特に限定されない。一例を挙げると、第2の金属蒸着層の厚みは、20nm以上であることが好ましい。また、第2の金属蒸着層の厚みは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。第2の金属蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、ミリ波が透過しやすくなる。また、後述するように、第2の金属蒸着層において、全光線透過率の値よりも全光線反射率の値の方が高くなり、フィルムの奥を視認されにくくなって、レーダーなどの機器を外部から視認されにくくなる。また、第2の金属蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、第2の金属蒸着層は、後述する海島構造を有するよう設けられやすい。
【0048】
第2の金属蒸着層は、海島構造(いわゆる不連続構造)を有することが好ましい。これにより、インジウムを含む第2の金属蒸着層は、たとえば、アルミニウム蒸着層等の他の一般的な金属蒸着層と比較して、優れた金属光沢を得ることができる。また、海島構造を有することにより、得られるフィルムは、ミリ波をより透過しやすい。
【0049】
なお、海島構造を有するよう第2の金属蒸着層を設ける方法は特に限定されない。一例を挙げると、第2の金属蒸着層は、インジウムを含む蒸着源を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相蒸着(PVD)法によって、海島構造を有するよう形成され得る。
【0050】
本実施形態において、第2の金属蒸着層における第1部分は、第1の金属蒸着層を覆う部分である。一方、第2の金属蒸着層における第2部分は、第1部分以外の部分である。そのため、第2部分は、アンカー層上に設けられる。
【0051】
本実施形態のフィルムは、第1部分および第2部分の両方において、ミリ波を透過することができる。すなわち、第1部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であることが好ましく、0.5dB以下であることがより好ましい。また、第2部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であることが好ましく、0.5dB以下であることがより好ましい。第1部分および第2部分における、周波数77GHzにおける電波減衰率が上記範囲内であることにより、フィルムは、たとえば長距離を探知する前方監視用レーダーにおいて好適に採用されているミリ波を、より透過しやすい。
【0052】
なお、本実施形態において、電波減衰率および電波透過率は、以下の式に基づいて算出し得る。
電波減衰率(dB)=(金属調加飾フィルムなしの減衰率)-(金属調加飾フィルムを設置した時の減衰率)
電波透過率(%)=10a×100
ここで、指数aは、「-((電波減衰率)/20)」である。
また、電波減衰率は、キーコム(株)製の「導波管タイプ 透過減衰量/シールド効果測定システム Model No.SEM02」を用いて、アンリツ(株)製のベクトルネットワークアナライザ(ME7838A)を用いて測定することができる。
【0053】
また、本実施形態のフィルムは、第1部分および第2部分の両方において、ミリ波を透過することができる。すなわち、第1部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であることが好ましく、0.5dB以下であることがより好ましい。また、第2部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率は、1dB以下であることが好ましく、0.5dB以下であることがより好ましい。第1部分および第2部分における、周波数24GHzにおける電波減衰率が上記範囲内であることにより、フィルムは、たとえば周辺監視用レーダーにおいて好適に採用されているミリ波(準ミリ波)を、より透過しやすい。
【0054】
第2部分における、波長550nmにおける入射角5°の全光線反射率は、35%以上であることが好ましく、37%以上であることがより好ましい。また、第2部分における、波長550nmにおける入射角5°の全光線反射率は、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。全光線反射率が上記範囲内であることにより、フィルムは、より金属調の外観を表現しやすい。また、フィルムは、ミリ波レーダーを備える自動車等のフロント部分に設けられる場合において、レーダー等の機器を、外部から視認し難いか、または、視認できないように覆い隠しやすい。なお、本実施形態において、全光線反射率は、(株)島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600)を使用して測定した。具体的には、入射光をフィルム法線方向から5°傾斜した方向から入射させた場合において、基準板であるアルミニウムの鏡を設置した時の全光線反射光(鏡面反射光(正反射光)+拡散反射光(鏡面反射光を除く))の量を100%とし、それに対して、本実施形態のフィルムを設置した時の全光線反射光(鏡面反射光(正反射光)+拡散反射光(鏡面反射光を除く))の量を全光線反射率(%)とした。
【0055】
金属蒸着層全体の説明に戻り、金属蒸着層の形成方法(蒸着方法)は、特に限定されない。一例を挙げると、蒸着方法は、従来公知の真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、または、化学蒸着法等を適宜採用し得る。これらの中でも、生産性が高いという理由により、真空蒸着法により金属蒸着層を設けることが好ましい。蒸着条件は、所望する金属蒸着層の厚みに基づいて、従来公知の条件が適宜採用され得る。なお、金属材料は、不純物が少なく、純度が99重量%以上であることが好ましく、99.5重量%以上であることがより好ましい。また、金属材料は、粒状、ロッド状、タブレット状、ワイヤー状あるいは使用するルツボ形状に加工したものであることが好ましい。金属材料を蒸発させるための加熱方法は、ルツボ中に金属材料を入れて抵抗加熱あるいは高周波加熱を行う方式や、電子ビーム加熱を行う方法、窒化硼素などのセラミック製のボードに金属材料を入れ直接抵抗加熱を行う方法など、周知の方法を用いることができる。真空蒸着に用いるルツボは、カーボン製であることが望ましく、アルミナやマグネシア、チタニア、ベリリア製のルツボであってもよい。
【0056】
本実施形態では、アンカー層に対して、所定のパターンを有するように、第1の金属蒸着層が形成される。次いで、アンカー層および第1の金属蒸着層を覆うように、第2の金属蒸着層が形成される。
【0057】
(その他の層)
本実施形態のフィルムは、上記した構成に加え、適宜その他の層が設けられてもよい。一例を挙げると、フィルムは、接着層が設けられてもよい。接着層は、被着体に、フィルムを貼り合わせるために設けられる。
【0058】
接着層は特に限定されない。一例を挙げると、接着層は、各種接着剤、粘着剤、感圧粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)等からなる。接着剤は特に限定されない。一例を挙げると、接着剤は、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ウレタン変性ポリエステル樹脂系、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)系、ビニル樹脂系(塩ビ、酢ビ、塩ビ-酢ビ共重合樹脂)、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系、ポリアクリルアミド樹脂系、ポリアクリルアミド樹脂系、イソブチレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の樹脂からなる。これらの樹脂は、適宜、溶剤に溶解されて使用されてもよく、無溶剤で使用されてもよい。
【0059】
接着層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、接着層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、接着層の厚みは、60μm以下であることが好ましく、55μm以下であることがより好ましい。接着層の厚みが上記範囲内であることにより、得られるフィルムは、接着時の外観および接着性がさらに優れる。
【0060】
接着層は、金属顔料が付与されることにより、意匠性が付与されてもよい。また、接着層は、帯電防止剤等が配合されることにより、帯電防止効果などの機能性が付与されてもよい。これにより、接着層は、貼り合わせ適性が向上し得る。
【0061】
接着層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、接着層は、ロールコーター等を用いて、適宜溶剤に溶解した接着層を構成する樹脂溶液を、後述するセパレータに塗布し、その後、接着層の形成されたセパレータを、金属蒸着層に貼り合わせてもよく、金属蒸着層上に直接、上記樹脂溶液を塗布して接着層を形成してもよい。また、接着層は、セパレータに接着層が設けられた既製品が使用されてもよい。接着層の形成方法は、使用する接着剤や粘着剤の特性に応じて適宜選択され得る。
【0062】
フィルム全体の説明に戻り、フィルムのOD(Optical Density、光学濃度)値は、1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。また、OD値は、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。OD値は、光の透過性を示すパラメータであり、たとえば、透過濃度計(X-Rite361T、X-Rite社製)を用いて測定し得る。本実施形態のフィルムは、OD値が上記範囲内であることにより、ミリ波透過性を維持しつつ、フィルムの奥を視認されにくくしてレーダーなどの機器を外部から視認されにくくすることが可能となる。
【0063】
以上、本実施形態のフィルムは、インジウムを含む第1の金属蒸着層と、インジウムを含む第2の金属蒸着層とを有する。第2の金属蒸着層は、第1の金属蒸着層を覆う第1部分と、第1部分以外の第2部分とからなる。第1の金属蒸着層および第2の金属蒸着層は、いずれも電波透過性があり、ミリ波を透過する。そのため、たとえば、第1の金属蒸着層によって所定のパターンを形成することができ、デザイン性の優れたフィルムが得られる。また、金属蒸着層は、金属光沢を有しているため、外部から視認し難いか、または、視認できないようにミリ波レーダーを覆い隠すことができる。
【0064】
図1は、本実施形態のフィルム1の模式的な断面図である。なお、
図1では、アンカー層は省略されている。
図1に示されるように、第1の金属蒸着層3は、アンカー層の設けられた基材2上に所定のパターンを形成するよう設けられている。第1の金属蒸着層3は、海島構造を有している。つまり、島の部分はインジウムが存在する領域であり、海の部分はインジウムが存在しない領域である。また、第2の金属蒸着層4は、アンカー層の設けられた基材2と第1の金属蒸着層3とを覆うように設けられている。
図1において、部分P1は、第2の金属蒸着層4のうち、第1の金属蒸着層3を覆っている第1部分である。部分P2は、第1部分以外の第2部分である。なお、
図1では、第2の金属蒸着層4は、点在する島状に描かれている。これは、好適な第2の金属蒸着層4が、海島構造を有しているためである。
【0065】
また、得られたフィルムは、セパレータが設けられてもよい。フィルムは、あらかじめ接着層が設けられたセパレータが用いられてもよく、セパレータに接着層を形成し、その接着層が金属蒸着層と接するように貼り合わせられてもよい。
【0066】
セパレータは特に限定されない。一例を挙げると、セパレータは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等である。
【0067】
セパレータが剥離されると、接着層が露出する。露出された接着層は、成形加工前の被着体(後述)に対して貼り付けられる。
【0068】
(被着体)
本実施形態のフィルムは、接着層に、被着体(バッキングシート、バッカー)が設けられてもよい。被着体は、後述する金属調成形体を製造する際に、フィルムインサート工法が採用される場合に、好適に設けられる。被着体は特に限定されない。一例を挙げると、被着体は、熱成形が可能な重合体シートであればよく、ABSシート、ポリアクリル系シート、ポリプロピレンシート、ポリエチレンシート、ポリカーボネート系シート、A-PETシート、PET-Gシート、塩化ビニル(PVC)系シート、ポリアミド系シート等であることが好ましい。
【0069】
被着体の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、被着体の厚みは、圧縮成形等における成形性の観点から0.05~5mmであることが好ましく、0.3~3mmであることがより好ましい。
【0070】
被着体は、所望の表面加工が施されたものが使用されてもよい。表面加工は特に限定されない。一例を挙げると、表面加工は、マット加工、サテン加工、エンボス加工、ヘアライン加工、各種パターン柄等である。
【0071】
被着体は、あらかじめ接着層が設けられた被着体が用いられてもよく、被着体に接着層を形成し、その接着層が金属蒸着層と接するように貼り合わせられてもよい。
【0072】
その後、本実施形態のフィルムが貼り付けられた被着体は、適宜三次元形状に加工され、成形品(金属調成形体)が作製される。金属調成形体の成形方法は特に限定されない。一例を挙げると、成形方法は、真空成形、TOM(Three dimension Overlay Method)成形等によって成形される。TOM成形では、フィルムは、あらかじめ準備された被着体に付与され、熱により軟化されることにより、被着体に追随するよう一体成形される。一方、真空成形では、フィルムは、ヒーターによって加熱され、軟化される。次いで、加熱されたフィルムは、所望の3次元形状の金型に対して、真空吸引しながら押し付けられ、三次元成形品の形状に追随するよう変形される。
【0073】
このように、金属調成形体は、成形加工によって製造されやすい。成形加工された金属調成形体は、上記フィルムが用いられている。そのため、金属調成形体は、種々のデザインが付与され得る。また、金属調成形体は、ミリ波を透過することができる。
【0074】
金属調成形体は特に限定されない。一例を挙げると、金属調成形体は、金属調車両内外装部材、金属調看板、金属調家電、金属調アミューズメント用製品、金属調建材等である。これらの中でも、金属調成形体は、金属調車両内外装部材として好適に用いられる。金属調車両内外装部材は特に限定されない。一例を挙げると、金属調車両内外装部材は、インストルメントパネルガーニッシュおよびオーナメント、オーディオパネル、オートエアコンパネル、ステアリングオーナメント、ドアトリムオーナメント、パワーウィンドウスイッチベゼル、操作系ノブ、スイッチおよびキャップもしくはカバー各種、ラジエーターグリル、ピラーガーニッシュ、バックドアオーナメント、サイドミラーカバー、アウターパネル、リアスポイラー、インサイドもしくはアウトサイドドアハンドル、サイドバイザー、ホイールカバー、二輪自動車用カウリング等である。これらの中でも、本実施形態の金属調車両内外装部材は、電気自動車におけるフロント部分(エンジン車におけるグリル部分)により好適に用いられる。すなわち、電気自動車は、自動車フロント部分において、グリルが必要でない。また、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術のため、自動車フロント部分には、ミリ波レーダーが設けられる。このような場合において、本実施形態の金属調成形体は、ミリ波を透過させることができるため、ミリ波を透過させつつ、ミリ波レーダーなどの機器類を覆い隠すことができる。これにより、金属調成形体は、ミリ波レーダーの機能を何ら損なうことも無く、グリル部分に変えて、電気自動車のフロント部分に種々のデザインを採用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0076】
<実施例1>
PMMAからなる基材(厚み75μm)を準備した。基材に対して、グラビアコーターを用いて、乾燥後1.3μmとなるようにアクリルポリオールとイソシアネート系塗材とを混合したアンカーコート剤溶液を塗工し、ついでそれを100℃で1分間乾燥させ、アンカー層を形成した。次いで、アンカー層に対して、真空蒸着法により、所定のパターンとなるよう、厚みが9nmとなるようにインジウムによる金属蒸着層(第1の金属蒸着層)を形成した(パターニング工程。詳細は後述する。)。次いで、真空蒸着法により、アンカー層および第1の金属蒸着層を覆うように、厚み9nmの金属蒸着層(第2の金属蒸着層)を形成した。これとは別に、アクリル系粘着剤からなる粘着層(厚み25μm)付きセパレータ(PETフィルム)を準備した。金属蒸着層と粘着層(接着層)とが接するように貼り合わせ、粘着層(接着層)を金属蒸着層に転写させた後、セパレータを剥離し、実施例1の金属調加飾フィルムを作製した。
【0077】
<実施例2~6>
表1に示される処方にしたがって金属蒸着層の厚み、OD値等を調整した以外は、実施例1と同様の方法により、金属調加飾フィルムを作製した。
【0078】
<比較例1>
PETからなる基材(厚み12μm)を準備した。基材に対して、5%のセルロースアセテートブチレート(CAB)を含む溶液をグラビアコート法により0.06g/m2±0.01g/m2の塗工量で塗工し、110℃以上120℃以下で乾燥させて、50nmのアンカー層を形成した。次いで、アンカー層に対して、真空蒸着法により、所定のパターンとなるよう、厚みが20nmとなるようにアルミニウムによる金属蒸着層を形成した。これとは別に、アクリル系粘着剤からなる粘着層(厚み25μm)付きセパレータ(PETフィルム)を準備した。金属蒸着層と粘着層(接着層)とが接するように貼り合わせ、粘着層(接着層)を金属蒸着層に転写させた後、セパレータを剥離し、比較例1の金属調加飾フィルムを作製した。
【0079】
【0080】
なお、表1において、O.L.とは、Over Loadの略記であり、抵抗値が測定器のレンジをオーバーして、測定できなかったという意味である(表3も同様)。抵抗値でいうと、107Ω/□以上の値になる。つまり、実施例1~6のフィルムは、金属膜であるインジウム膜であるにも関わらず、高抵抗であり、導電性が低く、インジウムが海島構造を呈している。つまり、インジウム膜が不連続膜であることを示していると言うことができる。
【0081】
【0082】
実施例1~6、比較例1において得られたフィルムについて、以下の方法に従って、OD値、厚み、抵抗値、波長550nmにおける全光線反射率および全光線透過率、周波数77GHzにおける電波減衰率および電波透過率、周波数24GHzにおける電波減衰率および電波透過率を評価した。結果を表1および表2に示す。
【0083】
<OD値>
OD値は、透過濃度計(X-Rite361T、X-Rite社製)を用いて測定した。
【0084】
<厚み>
厚みは、蛍光X線分析法(XRF)により測定した。具体的には、厚みは、蛍光X線測定装置(ZSX PrimusIV、理学電機工業(株))を用いて定量分析を行い、5~10箇所の金属蒸着膜の厚み(nm)を測定し、平均を算出した。
【0085】
<抵抗値>
抵抗値は、表面抵抗測定器(ロレスターGP MCP-T360、ダイヤインスツルメンツ)を用いて測定した。
【0086】
<波長550nmにおける全光線反射率および全光線透過率>
全光線反射率および全光線透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600、(株)島津製作所)を用いて測定した。全光線反射率について、入射光をフィルム法線方向から5°傾斜した方向から入射させた場合において、基準板であるアルミニウムの鏡を設置した時の全光線反射光(鏡面反射光(正反射光)+拡散反射光(鏡面反射光を除く))の量を100%とし、それに対して、本発明のフィルムを設置した時の全光線反射光(鏡面反射光(正反射光)+拡散反射光(鏡面反射光を除く))の量を全光線反射率(%)とした。全光線透過率についてであるが、フィルムを設置していない状態(空気;Airのみ)の入射光の量を100%とし、本発明のフィルムを設置した時に、当該フィルムを透過した、拡散成分を含む出射光の量を全光線透過率(%)とした。
【0087】
<周波数77GHzおよび周波数24GHzにおける電波減衰率および電波透過率>
電波減衰率および電波透過率は、以下の式に基づいて算出した。
電波減衰率(dB)=(金属調加飾フィルムなしの減衰率)-(金属調加飾フィルムを設置した時の減衰率)
電波透過率(%)=10a×100
ここで、指数aは、「-((電波減衰率)/20)」である。
また、電波減衰率は、キーコム(株)製の「導波管タイプ 透過減衰量/シールド効果測定システム Model No.SEM02」を用いて、アンリツ(株)製のベクトルネットワークアナライザ(ME7838A)を用いて測定した。
【0088】
表1に示されるように、実施例1~6の金属調加飾フィルムは、第1部分および第2部分における周波数77GHzおよび24GHzにおける電波減衰率がほとんど変わりなく低く、電波透過率が高かった。そのため、これらのフィルムは、いずれもミリ波を良好に透過させることができることが分かった。ここで、実施例1のフィルムは、第2部分において、全光線反射率の値よりも全光線透過率の値の方が高く、フィルムの奥を視認されやすくなっており、レーダーなどの機器を外部から視認されやすくなっていて、外部からレーダーなどの機器を視認しやすいようなスケルトン的なデザインには適している。一方、実施例2~6のフィルムはいずれも、第2部分において、全光線透過率の値よりも全光線反射率の値の方が高く、フィルムの奥を視認されにくくなっており、レーダーなどの機器を外部から視認されにくいデザインが要求される場合に適している。なお、第1部分はインジウム層が2回蒸着された部分であるため、インジウム層が1回蒸着された部分である第2部分よりも反射率は高くなると考えられる。そのため、第2部分において、フィルムの奥を視認されにくくなっているのであれば、第1部分においても、フィルムの奥を視認されにくくなっていると考えられる。さらに、実施例1~6のフィルムはいずれも、第1部分と第2部分との間に電波減衰率の差がほとんどないことから、実施例1~6のフィルムは、第1の金属蒸着層によって形成されるパターン形状が制限されにくく、デザイン性が優れることがわかった。
【0089】
図2は、実施例1、2、5の金属調加飾フィルムを成形した成形体の外観写真である。
図2では、左より、実施例5、実施例2および実施例1のフィルムを成形した成形体(成形体F1~F3)が示されている。
図2において、菱形パターン内が第1部分(インジウム層が2回蒸着された部分)であり、菱形パターン外が第2部分(インジウム層が1回蒸着された部分)である。
図2に示されるように、実施例5、2の成形体F1、F2は、第1部分だけでなく、第2部分でも金属調を有しており、フィルムの奥を視認されにくくなっており、レーダーなどの機器を外部から視認されにくくなっていて好ましい。実施例1の成形体F3は、第1部分ではフィルムの奥を視認されにくくなっているが、第2部分ではフィルムの奥を視認されやすくなっており、レーダーなどの機器を外部から視認されやすくなっていて、スケルトン的なデザインが要求される場合に適している。実施例5、2の成形体F1、F2では、第2の金属蒸着層の厚みを変化させたことにより、菱形パターン内の第1部分における反射率だけでなく、反射光の色味も変化していることがわかる。このように、第1の金属蒸着層および第2の金属蒸着層の厚みを変えることで、金属調の様々な意匠性を有するデザインパターンを自在に実現することが可能となる。また、菱形形状で示した部位は、第2の金属蒸着層のうち、第1の金属蒸着層を覆う部分である第1部分を示している(第1部分P1a、P1b、P1c)。一方、その他の部分は、アンカー層に第2の金属蒸着層が設けられた第2部分を示している(第2部分P2a、P2b、P2c)。
図2に示されるように、本発明によれば、所定のデザイン(
図2では菱形模様)を自由に表現でき、かつ、その色味に関しても調整することができる。
【0090】
一方、アルミニウムを用いて金属蒸着層を形成した比較例1の金属調加飾フィルムは、電波透過性が低かった。そのため、比較例1のフィルムは、ミリ波を良好に透過させることができないことが分かった。比較例1のフィルムは、アルミニウム蒸着膜が連続膜に近い膜になっており、ミリ波を良好に透過させることができないものと推察される。
【0091】
<参考例1>
PMMAからなる基材(厚み75μm)を準備した。基材に対して、グラビアコーターを用いて、乾燥後1.3μmとなるようにアクリルポリオールとイソシアネート系塗材とを混合したアンカーコート剤溶液を塗工し、ついでそれを100℃で1分間乾燥させ、アンカー層を形成した。次いで、アンカー層に対して、真空蒸着法により、厚みが9nmとなるようにインジウムによる金属蒸着層のベタ膜を形成した。これにより、参考例1の金属調加飾フィルムを作製した。
【0092】
<参考例2~7>
表3に示される処方にしたがって金属蒸着層の厚み、OD値等を調整した以外は、参考例1と同様の方法により、金属調加飾フィルムを作製した。ここで、参考例1~7のフィルムは、実施例1~6における第2部分(インジウム層が1回蒸着された部分)に相当する。
【0093】
【0094】
表3から分かるように、参考例1~4のフィルムは、周波数77GHzおよび24GHzにおける電波減衰率がほとんど変わりなく低く、電波透過率が高かった。そのため、これらのフィルムは、いずれもミリ波を良好に透過させることができることが分かった。
【0095】
一方、参考例5~7のフィルムは、周波数77GHzおよび24GHzにおける電波減衰率が高く、電波透過率が低かった。そのため、これらのフィルムは、いずれもミリ波を良好に透過させることができないことが分かった。参考例5~7のフィルムでは、インジウム蒸着膜がもはや海島構造を呈しておらず、連続膜に近い膜になっており、ミリ波を良好に透過させることができないものと推察される。従って、ミリ波を良好に透過させることが可能になる、第2部分における金属蒸着膜の厚みの上限値としては、90nmであると考えられる。つまり、インジウム蒸着膜の厚みが90nm以下であれば、ミリ波を良好に透過させることが可能になると考えられる。このことは、第1の金属蒸着層についても同じことが言えると考えられる。
【0096】
<パターニング工程>
以下で
図3~5を参照して、実施例1~6のパターニング工程について、詳細に説明する。
【0097】
まず、
図3Aに示すように、PMMAからなる基材2(厚み75μm)を準備した。次に、
図3Bに示すように、基材2上にグラビアコーターを用いて、乾燥後1.3μmとなるようにアクリルポリオールとイソシアネート系塗材とを混合したアンカーコート剤溶液を塗工し、ついでそれを100℃で1分間乾燥させ、アンカー層2aを形成した。基材2上にアンカー層2aを形成した中間フィルムAを、
図4に示すグラビアコーターGCを用いて、中間フィルムAのアンカー層2a側が、ロールR側を向くようにして、水溶性プライマー層Wpを部分的に形成した(
図3C参照)。水溶性プライマーとしては、ポリビニルブチラール樹脂を用い、熱を100℃で1分間乾燥させ、水溶性プライマー層Wpを形成した。ロールRは、
図5に示すように、菱形形状に突出している凸部Dと、それ以外の突出していない凹部Eとから構成されている。グラビアコーターGCにおいて、ロールRを水溶性プライマー層Wpが溜めてあるトレーWBに浸しつつ、ロールRを回転させることで、凹部Eに水溶性プライマー層Wpを充填させることができる。この際、凸部Dには水溶性プライマー層Wpが充填されない。そして、
図4に示すように、グラビアコーターGCを用いて、ロールRを回転させて、中間フィルムAをロールRに接触させつつ、中間フィルムAを巻き取りながら通過させることで、アンカー層2a上に、菱形形状部分外でのみ水溶性プライマー層Wpが形成された中間フィルムA’を得ることができた(
図3C参照)。その後、
図3Dに示すように、中間フィルムA’の全面に第1の金属(インジウム)蒸着層3を形成した。第1の金属(インジウム)蒸着層3は、実際には、
図3Dに示すように連続膜ではなく、
図1に示すように海島構造を呈している。そして、純水を入れたバット内にフィルム全体を浸して、水溶性プライマー層Wpが存在する部分上にある第1の金属(インジウム)蒸着層3を除去した(水洗工程)(
図3E参照)。その後、第2の金属(インジウム)蒸着層4を全面に蒸着した。第2の金属(インジウム)蒸着層4は、実際には、
図3Fに示すように連続膜ではなく、
図1に示すように海島構造を呈している。以上により、第1部分P1と第2部分P2とがパターニングされた金属調加飾フィルム1を作製することができた(
図3F参照)。
【符号の説明】
【0098】
1 金属調加飾フィルム
2 基材
2a アンカー層
3 第1の金属蒸着層
4 第2の金属蒸着層
A、A’ 中間フィルム
D 凸部
E 凹部
F1~F3 成形体
GC グラビアコーター
P1、P1a、P1b、P1c 第1部分
P2、P2a、P2b、P2c 第2部分
R ロール
WB トレー
Wp 水溶性プライマー層