(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】床版の設置方法
(51)【国際特許分類】
B65D 90/00 20060101AFI20230314BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20230314BHJP
E01D 21/06 20060101ALI20230314BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20230314BHJP
E02D 29/00 20060101ALI20230314BHJP
E01C 5/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B65D90/00 K
E01D19/12
E01D21/06
E01D21/00 Z
E02D29/00
E01C5/00
(21)【出願番号】P 2021027428
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2022-07-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591135691
【氏名又は名称】日本コンクリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】水野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】片岡 竜也
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194705(JP,A)
【文献】実開平06-087493(JP,U)
【文献】特開2006-328645(JP,A)
【文献】特開2020-133214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/00
E01D 19/12
E01D 21/06
E01D 21/00
E02D 29/00
E04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をあけて配置された複数の支持部材にプレキャスト製の床版を複数枚並べて設置する方法であって、
設置の対象となる前記床版が支持される前記支持部材又は設置の対象となる前記床版に隣接して配置された他の床版に、前記床版が並べられる方向に沿って延びて前記床版の移動方向を案内する案内部材を取り付ける案内部材取付け工程と、
並行に延びる少なくとも2つの前記案内部材に跨って配置された吊り下げ部材に前記床版が前記支持部材から浮かせた状態で吊り下げるとともに、前記吊り下げ部材と前記案内部材との間に前記吊り下げ部材と前記案内部材との間の摩擦を低減する摩擦低減部材が配置された状態で、前記案内部材に沿って前記吊り下げ部材と一体的に前記床版を移動させる移動工程と、
前記吊り下げ部材から前記床版を離して前記床版を前記支持部材に設置する設置工程と、
を備え、
前記床版は、上面に複数の被接続部材が設けられており、
前記吊り下げ部材は、前記被接続部材に対応した位置であってかつ前記被接続部材に対応した形状に形成された接続部材と、前記接続部材が通過可能に構成されて前記接続部材と前記被接続部材とが接続された状態において前記吊り下げ部材に対して前記床版を相対的に上下方向に移動させる昇降部材と、を有し、
前記接続部材を前記被接続部材に取付けることで前記床版と前記吊り下げ部材とを接続固定する接続工程と、を更に備え、
前記設置工程は、前記昇降部材を操作して前記床版を下降させて、前記床版の下面を前記支持部材に設置する工程を含む、
床版の設置方法。
【請求項2】
前記案内部材は、前記案内部材の延びる方向に沿って形成された溝部を有し、
前記摩擦低減部材の少なくとも一部は、前記溝部に収容されている、
請求項1
に記載の床版の設置方法。
【請求項3】
前記摩擦低減部材は、前記吊り下げ部材が前記床版に接続された状態において、少なくとも前記床版の移動方向に回転可能なローラ部材、を有する、
請求項1
又は2に記載の床版の設置方法。
【請求項4】
前記摩擦低減部材は、高剛性を有する球体で構成されている、
請求項
3に記載の床版の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、床版の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャスト製の床版を適用した例として、雨水を一時的に貯留する遊水池施設がある。この場合、遊水池施設は、地盤を掘削して形成された地下空間に設けられる。そして、地上は公園や駐車場等として利用することができるものである。遊水池施設は、所定の間隔をあけて配置された複数の支持部材にプレキャスト製の床版を複数枚並べて、支持部材の底部の間には隣接する支持部材同士を連結するための底版が設けられ、支持部材における床版が並べられる方向の両端部に端壁が設けられることによって、内部に雨水を貯留する空間を備えた箱状に形成される。
【0003】
一般に、このような遊水池施設において、支持部材への床版の設置作業は、クレーン等の重機によって床版を吊り上げ、所定の設置位置まで搬送した床版を降下させることによって行われる。そのため、広い施工範囲に対してより遠くまで床版を搬送しようとすると、大きい作業半径に対応できる大型の重機や複数の重機が必要となり、施工コストの増大や重機を設置するための敷地の確保が問題となっていた。また、重機による揚重作業が頻繁に行われることによって、多大な労力と工期を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、床版の設置作業に要する施工コストの低減と工期の短縮を図ることができる、床版の設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の床版の設置方法は、所定の間隔をあけて配置された複数の支持部材にプレキャスト製の床版を複数枚並べて設置する方法であって、設置の対象となる前記床版が支持される前記支持部材又は設置の対象となる前記床版に隣接して配置された他の床版に、前記床版が並べられる方向に沿って延びて前記床版の移動方向を案内する案内部材を取り付ける案内部材取付け工程と、並行に延びる少なくとも2つの前記案内部材に跨って配置された吊り下げ部材に前記床版が前記支持部材から浮かせた状態で吊り下げるとともに、前記吊り下げ部材と前記案内部材との間に前記吊り下げ部材と前記案内部材との間の摩擦を低減する摩擦低減部材が配置された状態で、前記案内部材に沿って前記吊り下げ部材と一体的に前記床版を移動させる移動工程と、前記吊り下げ部材から前記床版を離して前記床版を前記支持部材に設置する設置工程と、を備え、前記床版は、上面に複数の被接続部材が設けられており、前記吊り下げ部材は、前記被接続部材に対応した位置であってかつ前記被接続部材に対応した形状に形成された接続部材と、前記接続部材が通過可能に構成されて前記接続部材と前記被接続部材とが接続された状態において前記吊り下げ部材に対して前記床版を相対的に上下方向に移動させる昇降部材と、を有し、前記接続部材を前記被接続部材に取付けることで前記床版と前記吊り下げ部材とを接続固定する接続工程と、を更に備え、前記設置工程は、前記昇降部材を操作して前記床版を下降させて、前記床版の下面を前記支持部材に設置する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による床版を適用した遊水池の一例を示す正面断面図
【
図2】一実施形態による床版を適用した遊水池の一例を示す側面断面図
【
図3】一実施形態による床版設置作業の作業フローの一例を示す図
【
図4】一実施形態による床版の設置方法について、案内部材の取付けと床版及び吊り下げ部材を搬送する状態の一例を示す図
【
図5】一実施形態による床版の設置方法について、案内部材に摩擦低減部材を設けて床版及び吊り下げ部材を載置した状態の一例を拡大して示す図
【
図6】一実施形態による床版の設置方法について、床版と吊り下げ部材とが接続した状態の一例を示す斜視図
【
図7】一実施形態による床版の設置方法について、クレーンによる揚重の状態並びに巻き上げ機による床版の引き込み動作の一例を示す図
【
図8】一実施形態による床版の設置方法について、
図7のX8-X8線に沿って示すもので、巻き上げ機による床版の引き込み動作の一例を示す図
【
図9】一実施形態による床版の設置方法について、床版を支持部材に設置する状態の一例を示す図(その1)
【
図10】一実施形態による床版の設置方法について、床版を支持部材に設置する状態の一例を示す図(その2)
【
図11】一実施形態による床版の設置方法について、床版を支持部材に設置する状態の一例を示す図(その3)
【
図12】一実施形態による床版の設置方法について、摩擦低減部材の他の例を示すものであって、案内部材に摩擦低減部材を設けて床版及び吊り下げ部材を載置した状態の一例を拡大して示す
図5相当図
【
図13】一実施形態による床版の設置方法について、案内部材に摩擦低減部材を設けて床版及び吊り下げ部材を載置した状態の他の例を示すものであって、案内部材を床版に隣接して配置された他の床版に取付けた場合の
図5相当図
【
図14】一実施形態による床版の設置方法について、床版の引き込み動作の他の例を示す図
【
図15】一実施形態による床版の設置方法について、
図14のX15-X15線に沿って示すもので、床版の引き込み動作の他の例を示す図
【
図16】従来構成における支保工が設けられた場合の床版を適用した遊水池の一例を示す図
【
図17】従来構成における支保工が設けられた場合の床版を適用した遊水池の一例について、
図16のX17-X17線に沿って示すもので、床版を搬送する状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、床版の適用対象の一例である遊水池施設について説明する。なお、床版の適用対象としては、遊水池施設の他に、用水施設や調整池等の施設があるが、これらに限られない。
【0009】
図1から
図11を参照して第1実施形態について説明する。
図1に示す遊水池施設1は、床版20の適用例である。遊水池施設1は、雨水等を一時的に貯留することができる人工構造物であり、例えば平面視で四角形状に構成される。この場合、遊水池施設1は、地盤2を掘削して形成された地下空間に設けられるものである。そして、地上は、公園、運動場、及び駐車場等として利用される。なお、本実施形態では、
図1における遊水池施設1を設置した場合の重力方向に対する上下方向を、遊水池施設1の上下方向とする。また、
図1における紙面の遊水池施設1の上下方向に対する直角方向を、遊水池施設1の左右方向とする。更に、
図2における紙面の遊水池施設1の上下方向に対する直角方向を、遊水池施設1の前後方向とする。
【0010】
遊水池施設1は、支持部材10、床版20、底版31、端壁32、及び通水口33を備えている。支持部材10は、例えばプレキャスト製で全体として柱状に形成されている。また、支持部材10は、端部用支持部材11と、中間用支持部材12と、を有している。端部用支持部材11は、遊水池施設1の左右方向における端部に設置されている。端部用支持部材11は、遊水池施設1の前後方向に複数個連結して設けられている。また、端部用支持部材11は、端部用本体部111と、端部用設置部112と、を有している。端部用本体部111は、例えば上下方向に切断した断面がL字状に形成されている。端部用設置部112は、端部用支持部材11の上端部付近に形成され、遊水池施設1の左右方向において中央部へ向かって突出して設けられている。端部用設置部112は、例えば上下方向に切断した断面が台形状に構成されている。
【0011】
中間用支持部材12は、対向する端部用支持部材11の間に所定の間隔をあけて連続して配置されている。中間用支持部材12は、遊水池施設1の前後方向に複数個が連結して設けられている。この場合、中間用支持部材12は、
図2に示すように、前後方向に交互に反転して設けられている。また、中間用支持部材12は、本体部121と、設置部122と、を有している。本体部121は、例えば上下方向に切断した断面がT字形状を上下反転させたような形状となっている。設置部122は、中間用支持部材12の上端部付近に形成され、中間用支持部材12の左右方向において本体部121を挟んで両側に突出して設けられている。設置部122は、例えば上下方向に切断した断面が台形状に構成されている。なお、端部用支持部材11及び中間用支持部材12は、例えば上下方向に切断した断面が例えば矩形枠状の部材等であっても良く、その形状は図示したものに限定されない。
【0012】
床版20は、例えばプレキャスト製で長方形の板状に形成されている。この場合、床版20は、例えば厚さ300mm程度、幅3,000~4,000mm程度、長さ1,500~2,000mm、及び質量3,000~6,000kg程度で構成されている。床版20は、遊水池施設1の前後方向へ向かって連結した支持部材10に複数枚並べて設置されている。具体的には、床版20は、互いに対向する設置部122間、及び、端部用設置部112とその端部用設置部112に対向する設置部122との間に設置される。床版20が設置された状態において、
図1等に示すように、床版20の上面は、支持部材10の上端部よりも上方に位置している。すなわち、床版20の厚さ寸法は、端部用設置部112の上面から端部用支持部材11の上端部までの寸法、及び、設置部122の上面から中間用支持部材12の上端部までの寸法よりも大きい寸法で構成されている。
【0013】
また、隣接する床版20の間及び床版20と端部用支持部材11の上面との間に生じる隙間には、図示しない例えばモルタル等の充填材が充填される。これにより、各床版20同士が面一となって連結された状態で遊水池施設1の上面全体が覆われる。
【0014】
床版20は、被接続部材としてのインサート21を有している。インサート21は、
図5等に示すように、床版の上面に設けられており、複数この場合4つ設けられている。また、インサート21は内周面に雌ねじ加工が施されている。
【0015】
底版31は、平面視において長方形状に形成され、対向する支持部材10の底部の間に設けられている。底版31は、隣接する支持部材10同士を連結するためのものである。底版31は、図示しない鉄筋を配筋した後にコンクリートを打設して形成される。
【0016】
端壁32は、遊水池施設1の前後方向の両端部つまり床版20が並べられる方向の両端部に設けられる。端壁32は、図示しない型枠が組み立てられ、型枠内の空間に図示しない鉄筋が配筋された後にコンクリートを打設して形成される。端壁32は、支持部材10、床版20、及び底版31によって形成される空間の側面を覆っている。このようにして、遊水池施設1は、支持部材10、床版20、底版31、及び端壁32によって箱状に形成される。
【0017】
通水口33は、
図2に示すように、遊水池施設1の前後方向に連結された中間用支持部材12間に形成された開口である。通水口33は、連結された中間用支持部材12間を通水させるためのものである。
【0018】
次に、
図3~
図11も参照して、床版20を支持部材10に設置する際の施工方法について説明する。なお、図中の白抜き矢印は、各工程時における各部材の移動方向を示している。また、
図4等に示す支持部材10は、
図3に示す作業工程よりも前の工程で、既に図示しない基盤等に据え付けられて固定されているものとする。更に、本実施形態では、床版20は、対向する中間用支持部材12間、あるいは、端部用支持部材11と中間用支持部材12との間に設置する場合があるが、両者に対する床版20の設置方法は同様である。そのため、以下では、床版20を対向する中間用支持部材12間に設置する場合の例について説明する。
【0019】
床版20を中間用支持部材12に設置する場合、作業者は、まず、
図3のステップS11に示すように、案内部材取付け工程を実行する。案内部材取付け工程は、
図4(A)に示すように、設置対象となる床版20が支持される中間用支持部材12に、床版20が並べられる方向に沿って延びて床版20の移動方向を案内する案内部材41を取り付ける工程である。案内部材41は、例えばC型鋼で構成することができる。この場合、案内部材41は、溝部411を有している。溝部411は、案内部材41の延びる方向に沿って凹状に構成されている。
【0020】
また、案内部材41は、例えば本体部121の天面に仮固定される。ここで、仮固定とは、後述する移動工程において案内部材41内にて摩擦低減部材60を移動させる際に案内部材41が本体部121から外れない程度の強度で、かつ、案内部材41を任意に本体部121から取り外すことが可能な態様で固定することを意味する。仮固定の方法としては、例えば本体部121の天面に図示しないインサートナットを埋め込み、案内部材41に通したボルトをインサートナットにねじ込んで取り外し可能に固定する方法や、例えば本体部121の天面に図示しない金属製のプレートを埋め込み、そのプレートに対して案内部材41を点溶接して取り外し可能に固定する方法等が考えられる。
【0021】
次に、作業者は、
図3のステップS12において、接続工程を実行する。接続工程は、
図6に示すように、床版20と吊り下げ部材50とを接続固定するための工程である。なお、接続工程は、案内部材取付け工程の後に実行される構成に限らず、案内部材取付け工程の前あるいは案内部材取付け工程と同時に行われる構成であっても良い。
【0022】
吊り下げ部材50は、例えば平鋼、H形鋼、及びL形鋼等の鋼材で構成され、複数この場合2つが床版20の長手方向に沿って並列して設けられている。吊り下げ部材50は、床版20と接続された状態で床版20を吊り下げる機能を有し、床版20を吊り下げた状態で塑性変形しない程度の剛性を有する。また、吊り下げ部材50の長さ寸法は、床版20の長手方向の寸法よりも長い寸法に設定されている。
【0023】
図4及び
図6に示すように、吊り下げ部材50は、貫通穴51、接続部材52、及び昇降部材53を有している。貫通穴51は、床版20のインサート21に対応した位置に設けられている。貫通穴51は、吊り下げ部材50の一部を厚み方向に貫いて形成されている。
【0024】
接続部材52は、床版20のインサート21に対応した位置に設けられている。接続部材52は、例えばボルト521とナット522で構成することができる。ボルト521は、貫通穴51に通されて吊り下げ部材50の厚み方向の両側に突出するように設けられている。また、ボルト521は、インサート21に対応した形状に形成されている。つまり、ボルト521は、インサート21に嵌合可能に構成され、インサート21に対して着脱可能に接続される。
【0025】
この場合、ボルト521は、例えば右ねじで構成されており、ナット522を固定した状態で、時計回りに回すと下方に進み、反時計回りに回すと上方に進む。そして、床版20と吊り下げ部材50とは、ボルト521をインサート21に対してボルト521を締結することで接続固定される。
【0026】
ナット522は、ボルト521に嵌合可能に構成されている。ナット522は、ボルト521がインサート21に取付けられた状態で、ボルト521にねじ込まれることによって貫通穴51からのボルト521の抜け止めとして機能する。なお、ボルト521及びナット522は、汎用品で構成することができる。
【0027】
昇降部材53は、
図5等に示すように、接続部材52に対応した位置に設けられている。昇降部材53は、接続部材52とインサート21とが接続された状態において、吊り下げ部材50に対して床版20を相対的に上下方向に移動させるためのものである。本実施形態では、昇降部材53は、例えばセンターホールジャッキ(登録商標)やPCジャッキ等のジャッキで構成されており、ボルト521が通過可能に構成されている。この場合、昇降部材53は、吊り下げ部材50とナット522との間に設けられ、昇降部材53の上下方向の動作に応じて床版20を吊り下げ部材523に対して相対的に上下方向に移動させることができる。
【0028】
なお、
図5に示すように、昇降部材53とナット522との間であって、昇降部材53の上部には、プレート54を設置することができる。プレート54は、例えば平鋼で構成され、その外径の寸法がナット522の外径の寸法よりも大きく設定されている。これにより、昇降部材53からの荷重をプレート54を介してナット522に均等に作用させることができる。
【0029】
次に、作業者は、
図3のステップS13において、楊重工程を実行する。楊重工程は、
図4(B)及び
図7に示すように、クレーン70によって床版20及び吊り下げ部材50を図示しないアイナットや揚重用ワイヤロープ71を介して吊り上げて搬送する工程である。この場合、
図7において、クレーン70の移動の軌跡を示す仮想線を二点鎖線で示している。また、楊重工程は、接続工程の後に実行されても良いし、接続工程の前に実行されても良い。つまり、接続工程によって一体化された床版20と吊り下げ部材50とを案内部材41上に搬送する構成に限らず、床版20を設置部122に搬送し、その後吊り下げ部材50を案内部材41上に搬送した後に床版20と吊り下げ部材50とを接続する構成であっても良い。
【0030】
次に、作業者は、
図3のステップS14において、移動工程を実行する。移動工程は、
図4(C)に示すように、並行に延びる少なくとも2つの案内部材41に跨って配置された吊り下げ部材50に床版20が中間用支持部材12から浮かせた状態で吊り下げるとともに、吊り下げ部材50と案内部材41との間に摩擦低減部材60が配置された状態で、案内部材41に沿って吊り下げ部材50と一体的に床版20を移動させる工程である。
【0031】
摩擦低減部材60は、案内部材41の延びる方向に沿って吊り下げ部材50を水平移動させる際に、吊り下げ部材50と案内部材41との間の摩擦を低減する機能を有する。本実施形態では、摩擦低減部材60は、
図7等に示すように、複数の吊り下げ部材50の長手方向の端部付近にそれぞれ設けられている。本実施形態では、摩擦低減部材60は、移動工程の前に予め案内部材41に配置されている。なお、摩擦低減部材60は、移動工程の前に予め案内部材41に配置しておく構成に限らず、楊重工程の前に吊り下げ部材50に取付けておく構成であっても良い。
【0032】
本実施形態の場合、摩擦低減部材60は、
図5に示すように、例えばチルローラ等の搬送用台車等で構成されている。摩擦低減部材60は、ベース部材61と、ローラ部材62と、を有している。ベース部材61は、例えば高剛性を有する部材で構成されており、吊り下げ部材50を支持可能に構成されている。なお、本明細書では、高剛性とは、床版20を載せても潰れない程度の剛性を意味し、床版20の重量等によって要求される性能は変化しても良い。
【0033】
ローラ部材62は、ベース部材61に取付けられ、吊り下げ部材50が床版20に接続された状態において、少なくとも床版20の幅方向つまり移動方向に回転可能に構成されている。
【0034】
そして、移動工程時は、吊り下げ部材50と案内部材41との間に摩擦低減部材60が設けられていることによって、床版20と中間用支持部材12とは接触していない。この場合、
図5に示すように、床版20と中間用支持部材12の設置部122との間の寸法Hは、20~30mm程度になるように設定されている。
【0035】
また、
図5に示すように、案内部材41上に摩擦低減部材60が載せられた状態において、摩擦低減部材60の上下方向の少なくとも一部は、溝部411内に収容されている。つまり、摩擦低減部材60の上下方向の寸法は、溝部411の上下方向の寸法よりも大きい寸法に設定されている。更に、摩擦低減部材60の左右方向の寸法は、溝部411の左右方向の寸法よりもやや小さい寸法に設定されている。これにより、摩擦低減部材60は、溝部411の内周壁内に収容される。
【0036】
なお、摩擦低減部材60は、
図12に示すように、上述したベース部材61とローラ部材62とによる一体の構成に限らず、両者が別体の構成であっても良い。この場合、
図12の例では、摩擦低減部材60aは、ベース部材61a及びローラ部材62aによって構成することができる。ベース部材61aは、例えば厚鋼板で構成され、吊り下げ部材50に対して例えば溶接等によって固定されている。
【0037】
ローラ部材62aは、高剛性を有する例えば鋼製や樹脂製、若しくはセラミック製の球体の部材又は管状の部材で構成することができる。そして、球体の部材としては例えば鋼球を用いることができ、また、管状の部材としては単管パイプを用いることができる。
【0038】
そして、複数のローラ部材62aは、床版20の設置作業において、楊重工程の前に予め案内部材41に配置されることで、移動工程時における吊り下げ部材50と案内部材41との間の摩擦を低減する機能を発揮する。このように、ローラ部材62aを比較的安価な鋼球等によって構成することによって、摩擦低減部材60aの材料費の低減を図ることができ、その結果、施工コストの低減を図ることができる。なお、ローラ部材62aの上下方向の寸法を溝部411の上下方向の寸法よりも大きく設定することによって、ローラ部材62aを吊り下げ部材50に直接接触させる構成として、ベース部材61aを省略しても良い。
【0039】
移動工程では、
図7及び
図8に示すように、例えばレバーホイスト等の巻き上げ機72を中間用支持部材12の天面に設置し、この巻き上げ機72に接続された横引き用ワイヤロープ73を吊り下げ部材50又は床版20に取付ける。そして、例えば高所作業車74に乗っている作業者が巻き上げ機72を操作した場合に、案内部材41の延びる方向に沿ってローラ部材62が回転することで、吊り下げ部材50及び床版20が引き込まれるようにして床版20の設置位置まで搬送される。
【0040】
次に、作業者は、
図3のステップS15において、設置工程を実行する。設置工程は、
図9~
図11に示すように、吊り下げ部材50から床版20を離して床版20を中間用支持部材12に設置する工程である。本実施形態では、
図9(A)に示すように、所定の設置位置に搬送された床版20を対象として、
図9(B)に示すように、作業者は昇降部材53を操作して床版20を下降させて、床版20の下面を設置部122に設置させる。
【0041】
次に、
図10(A)に示すように、ボルト521をインサート21から抜ける方向この場合、反時計回りに回してインサート21から抜くことによって中間用支持部材12に対して床版20が配置される。そして、作業者は、
図3の接続工程(ステップS12)、楊重工程(ステップS13)移動工程(ステップS14)、及び設置工程(ステップS15)を順に繰り返し実行する。そして、作業者は、中間用支持部材12に所定枚数の床版20を設置し、
図10(B)に示すように、中間用支持部材12から案内部材41及び摩擦低減部材60を撤去する。
【0042】
更に、設置工程は、
図11に示すように、インサート21にモルタル80を充填する工程を含んでいる。これにより、床版20を設置した状態でインサート21をモルタル80で埋めることによって、インサート21が外部に露出することがないため、インサート21に錆などが生じることを防ぐとともに、床版20の美観性を確保することができる。そして、モルタル80の充填作業が完了すると、中間用支持部材12に対する床版20の設置が完了する(
図3のエンド)。
【0043】
なお、案内部材取付け工程において、案内部材41は、
図13に示すように、設置の対象となる床版20に隣接して配置された他の床版20aに取付ける構成とすることができる。この場合、
図13の例では、案内部材41は、既に配置された他の床版20aの上面に固定されている。これにより、作業者は、案内部材41の設置位置を中間用支持部材12の天面又は既に配設された他の床版20aの上面のいずれに設置するかを選択できる。すなわち、案内部材41の設置位置は、作業性や施工の安全性を考慮して選択することができる。これにより、床版20の設置作業全体の施工効率の向上を図ることができる。
【0044】
また、移動工程では、
図14及び
図15に示すように、例えば電動ウインチ等の電動装置75を用いて床版20を搬送することができる。この場合、
図14及び
図15の例では、電動装置75に接続された横引き用ワイヤロープ73を吊り下げ部材50又は床版20に取付けて、電動装置75を駆動すると、案内部材41の延びる方向に沿ってローラ部材62が回転することで、吊り下げ部材50及び床版20が引き込まれるようにして床版20の設置位置まで搬送される。これにより、電動装置75によって床版20の設置作業を行うことによって、作業負担を軽減することができる。
【0045】
以上説明した実施形態によれば、床版20の設置方法は、所定の間隔をあけて配置された複数の支持部材10にプレキャスト製の床版20を複数枚並べて設置する方法であって、案内部材取付け工程と、移動工程と、設置工程と、を備えている。案内部材取付け工程は、設置の対象となる床版20が支持される支持部材10又は設置の対象となる床版20に隣接して配置された他の床版20aに、床版20が並べられる方向に沿って延びて床版20の移動方向を案内する案内部材を取り付ける工程である。
【0046】
移動工程は、並行に延びる少なくとも2つの案内部材41に跨って配置された吊り下げ部材50に床版20が支持部材10から浮かせた状態で吊り下げるとともに、吊り下げ部材50と案内部材41との間に摩擦低減部材60が配置された状態で、案内部材41に沿って吊り下げ部材50と一体的に床版20を移動させる工程である。摩擦低減部材60は、吊り下げ部材50と案内部材41との間の摩擦を低減する機能を有する。設置工程は、吊り下げ部材50から床版20を離して床版20を支持部材10に設置する工程である。
【0047】
ここで、従来構成において、地盤を掘削して形成された地下空間に遊水池1aが設置される際に、
図16に示すように、地盤が崩れないようにするための支保工90が設置される場合がある。支保工90は、周知の構成であるため詳細な説明は割愛するが、山留壁91、腹起し92、切り梁93、及び支柱94等の部材によって構成される。そして、遊水池1aを建設する場合、支保工90を設置した後に支持部材10aが基盤面に据え付けられて、その後床版20bが配置される。
【0048】
この場合、クレーン70によって床版20bを支持部材10aの所定の設置位置に配置しようとすると、
図16及び
図17に示すように、切り梁93が干渉してしまうことがある。この場合、クレーン70による床版20bの設置を行うことができないため、クレーン70を使用せずに床版20bを配置しなければならず、多大な施工手間や作業負担が生じていた。なお、
図16及び
図17では、設置対象の床版20bの仮想線を二点鎖線で示している。
【0049】
そこで、本実施形態では、移動工程において、案内部材41に沿って吊り下げ部材50と一体的に床版20を移動させることができる。これによれば、クレーン70によって床版20を切り梁93等に干渉しない位置に一旦仮置きした後に、床版20を所定の設置位置まで引き込むようにして移動させることができる。よって、床版20を所定の設置位置に据え付ける作業の施工手間や作業負担を低減することができる。
【0050】
そして、クレーン70によって直接床版20を設置する必要がないため、例えばクレーン70の設置箇所に対して床版20の設置位置が遠く離れた場合であっても、搬送距離を長くするための大型のクレーン70を設置する必要がない。これにより、施工コストの低減を図ることができる。また、クレーン70による床版20の搬送距離を極力短くすることができるため、クレーン70の揚重作業に要する時間を短縮することができ、結果として、工期の短縮を図ることができる。
【0051】
また、床版20は、上面に複数の被接続部材21が設けられている。吊り下げ部材50は、被接続部材21に対応した位置であって、かつ、被接続部材21に対応した形状に形成された接続部材52が設けられている。そして、床版20の設置方法は、接続部材52を被接続部材21に取付けることで床版20と吊り下げ部材50とを接続固定する接続工程を更に備えている。これによれば、床版20に形成された被接続部材21に吊り下げ部材50に設けられた接続部材52を取付けることによる簡易な構造によって、吊り下げ部材50と床版20との接続を維持することができる。
【0052】
また、案内部材41は、案内部材41の延びる方向に沿って形成された溝部411を有している。摩擦低減部材60の少なくとも一部は、溝部411に収容されている。これによれば、摩擦低減部材60を案内部材41の溝部411に収容することによって、摩擦低減部材60の案内部材41内における移動方向を規制することができる。これにより、床版20及び吊り下げ部材50を案内部材41の延びる方向つまり床版20を並べる方向に円滑に搬送することができる。
【0053】
また、摩擦低減部材60は、吊り下げ部材50が床版20に接続された状態において、少なくとも床版20の移動方向に回転可能なローラ部材62を有する。これによれば、床版20を所定の設置位置に搬送する際に、ローラ部材62が回転することで、吊り下げ部材50及び床版20が引き込まれるようにして、床版20を円滑に搬送することができる。
【0054】
また、摩擦低減部材60は、高剛性を有する球体で構成することができる。これによれば、例えば鋼球等の汎用品を用いて床版20及び吊り下げ部材50を円滑に搬送することができる。これにより、施工コストの削減を図ることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0056】
10は支持部材、20は床版、20aは他の床版、21は被接続部材、41は案内部材、411は溝部、50は吊り下げ部材、52は接続部材、60は摩擦低減部材、62はローラ部材を示す。