(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/06 20060101AFI20230314BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20230314BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G01R33/06
G01R33/09
G01R33/02 L
(21)【出願番号】P 2022524242
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006778
【審査請求日】2022-05-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物:2021年第68回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 発行日:2021年(令和3年)2月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集会名:2021年第68回応用物理学会春季学術講演会 開催日:2021年(令和3年)3月16日~19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物:2021年第82回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 発行日:2021年(令和3年)8月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集会名:2021年第82回応用物理学会秋季学術講演会 開催日:2021年(令和3年)9月21日~23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物:2021 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM2021)のThe Extended Abstracts 発行日:2021年(令和3年)9月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集会名:2021 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM2021) 開催日:2021年(令和3年)9月6日~9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物:公益財団法人 住友電工グループ社会貢献基金 2019年度助成対象研究・研究者 成果報告書 発行日:2021年(令和3年)9月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス:DOI:10.1038/s43246-021-00206-2 ウェブサイトの掲載日:2021年(令和3年)10月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/10/press20211005-01-vector.html ウェブサイトの掲載日:2021年(令和3年)10月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物:The 4th International Symposium for The Core Research Cluster for Spintronics Program and Abstracts 発行日:2021年(令和3年)2月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集会名:The 4th International Symposium for The Core Research Cluster for Spintronics 開催日:2021年(令和3年)9月6日~9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20211004/index.html ウェブサイトの掲載日:2021年(令和3年)10月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))、研究課題「トポロジカル機能界面の創出」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 敦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏平
(72)【発明者】
【氏名】塩貝 純一
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111929625(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109507617(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103904211(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104752604(CN,A)
【文献】特開2018-119945(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 33/06
G01R 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、及び一方向性磁気抵抗効果が生じる磁性体と、
前記磁性体に
周波数ωの交流電流を流すよう設けられた電流印加手段と、
前記電流印加手段で前記交流電流を流したとき、前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値と、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値とを測定する検出部と、
前記検出部で測定された
前記異常ホール効果による抵抗値と、前記異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、前記一方向性磁気抵抗効果
による抵抗値又はその正負の符号
との組み合わせに基づいて、3次元磁場を検出する解析手段と、を有し、
前記磁性体は、前記電流印加手段で前記交流電流を流したとき、前記交流電流が所定の方向に流れる第1区間と、前記所定の方向に対して90°、180°、270°、および360°以外の角度で前記交流電流が流れるように接続された第2区間
とを有し、
前記検出部は、前記異常ホール効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記異方性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記第1区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、前記第2区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化とからそれぞれ求め、前記一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から求めるよう構成されている
ことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記解析手段は、前記異常ホール効果による抵抗値により、前記3次元磁場の天頂角を決定することを特徴とする請求項
1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁性体は、Fe-Sn、Co
2MnGa、Co
2MnAl、Fe
3Sn
2、Fe
3Sn、Co
3Sn
2S
2、CrまたはVをドープした(Bi,Sb)
2Te
3、およびGaMnAsのいずれかから成る強磁性体であることを特徴とする請求項1乃至
2のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記磁性体を支持する基板と、
前記磁性体の劣化防止用のキャップ層と、を有し、
前記磁性体は薄膜から成り、前記基板と前記キャップ層との間に挟まれて配置されていることを
特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記基板は、Al
2O
3、MgO、およびMgAl
2O
4のいずれかの材質で構成されることを特徴とする請求項
4記載の磁気センサ。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた機器。
【請求項7】
交流電流が所定の方向に流れる第1区間と、前記所定の方向に対して90°、180°、270°、および360°以外の角度で前記交流電流が流れるように接続された第2区間とを有し、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、及び一方向性磁気抵抗効果が生じる磁性体に、周波数ωの前記交流電流を流し、
前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記第1区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、前記第2区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化とからそれぞれ求め、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から求め、
前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値と、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果によ
る抵抗値
又はその正負の符号との組み合わせに基づいて、3次元磁場を検出することを
特徴とする磁気検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよび磁気検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁場の方向を電気的な信号に変換して検出する磁気センサは、磁気メモリの読み出し、電子コンパス、自動操縦のための移動体の位置や速度の検出、機械駆動部の位置や回転の検出、電流から生じる磁場の検出による消費電力のモニターなど、様々な用途に使用されている。特に近年では、IoT(モノのインターネット)化を推進するために、磁場の方向を検出できる3次元磁気センサの重要性が高まっており、3次元磁気センサのさらなる小型化や低消費電力化が求められている。
【0003】
従来、磁気センサとして、ホール効果を利用したホール素子や、磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子が広く用いられており、例えば3つの磁気センサを3次元空間のX、Y、Z軸方向に配置するなど、複数の素子を立体的に配置することにより、3次元での磁場の検出が行われている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0004】
なお、本発明者等により、強磁性体であるFe-Snナノ結晶薄膜が、半導体磁気センサに発現する正常ホール効果に匹敵する大きな異常ホール効果(AHE:Anomalous Hall effect)を示し、ホール素子に応用可能であることが明らかにされている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。また、磁性体に電流を流したとき、外部磁場によって電気抵抗が変化する現象として、異方性磁気抵抗(AMR:Anisotropic Magnetoresistance)効果および一方向性磁気抵抗(UMR:Unidirectional Magnetoresistance)効果が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-17830号公報
【文献】特開2017-26312号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Y. Satake et al., “Fe-Sn nanocrystalline films for flexible magnetic sensors with high thermal stability”, Sci. Rep.,2019, 9, 3282
【文献】J. Shiogai et al., “Low-frequency noise measurements on Fe-Sn Hall sensors”, Appl. Phys. Express, 2019, Vol.12, Number 12, 123001
【文献】K. Fujiwara et al., “Doping-induced enhancement of anomalous Hall coefficient in Fe-Sn nanocrystalline films for highly sensitive Hall sensors”, APL Mater., 2019, Vol. 7, 111103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載のような従来の磁気センサでは、磁場の1方向(例えば、X、Y、またはZ成分)を決定することができる。しかしながら、3方向の磁場ベクトルを検出するためには、複数の素子を立体的に配置する必要があり、小型化には限界があるという課題があった。また、使用する素子の数だけ電力が消費されるため、低消費電力化にも限界があるという課題もあった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より小型化を図ることができ、消費電力を低減可能な磁気センサおよび磁気検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気センサは、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、及び一方向性磁気抵抗効果が生じる磁性体と、前記磁性体に周波数ωの交流電流を流すよう設けられた電流印加手段と、前記電流印加手段で前記交流電流を流したとき、前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値と、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値とを測定する検出部と、前記検出部で測定された前記異常ホール効果による抵抗値と、前記異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、各抵抗値又は前記一方向性磁気抵抗効果による抵抗値又はその正負の符号との組み合わせに基づいて、3次元磁場を検出する解析手段とを、有し、前記磁性体は、前記電流印加手段で前記交流電流を流したとき、前記交流電流が所定の方向に流れる第1区間と、前記所定の方向に対して90°、180°、270°、および360°以外の角度で前記交流電流が流れるように接続された第2区間とを有し、前記検出部は、前記異常ホール効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記異方性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記第1区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、前記第2区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化とからそれぞれ求め、前記一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から求めるよう構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る磁気検出方法は、交流電流が所定の方向に流れる第1区間と、前記所定の方向に対して90°、180°、270°、および360°以外の角度で前記交流電流が流れるように接続された第2区間とを有し、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、及び一方向性磁気抵抗効果が生じる磁性体に、周波数ωの前記交流電流を流し、前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記第1区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、前記第2区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化とからそれぞれ求め、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から求め、前記磁性体の異常ホール効果による抵抗値と、前記磁性体の異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、前記磁性体の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値又はその正負の符号との組み合わせに基づいて、3次元磁場を検出することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る磁気検出方法は、本発明に係る磁気センサにより好適に実施することができる。本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法は、磁性体に発現する異常ホール効果、異方性磁気抵抗(AMR)効果および一方向性磁気抵抗(UMR)効果を利用して、以下の原理で3方向の磁場を検出することができる。すなわち、
図1に示すように、X-Y面内に磁性体の薄膜を配置したとき、3次元の磁場Hの方向を検出するためには、X-Y面に対して垂直なZ軸に対して磁場ベクトルが成す角度である天頂角θ
Hと、X-Y面での磁場ベクトルの方向を示す方位角φ
Hとを、それぞれ独立に決定する必要がある。
【0012】
ここで、X-Y面内の磁性体に電流を流したときに生じる異常ホール効果により、磁性体のホール抵抗が磁場のZ軸成分に比例する出力を示すため、磁場Hの天頂角θHを一意に決定することができる。また、それと同時に、外部磁場のX-Y面内成分によって電気抵抗が変化する異方性磁気抵抗効果は、磁場の方位角に対して180度周期を有し、また、磁性体の縦抵抗(電流の方向の抵抗)である一方向性磁気抵抗効果が、磁場の方位角に対して360度周期を有するため、異方性磁気抵抗効果による抵抗値と、一方向性磁気抵抗効果による抵抗値又はその正負の符号とを組み合わせることにより、方位角φHを一意に決定することができる。なお、必要に応じて磁場の大きさを求めてもよく、磁場Hの大きさは、例えば、異常ホール効果や異方性磁気抵抗効果の大きさから求めることができる。
【0013】
このように、本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法は、1つの磁性体を使用して、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、および一方向性磁気抵抗効果による抵抗値又はその正負の符号に基づいて、3次元磁場を検出することができる。このため、複数のセンサ、又は、複数の素子を立体的、或いは、広いスペースに配置する従来の磁場センサと比べて、より小型化、低コスト化を図ることができる。また、素子の数が少ないため、消費電力を低減することもできる。
【0014】
本発明に係る磁気センサは、各抵抗値を求めるために、例えば、前記電流印加手段で前記磁性体に周波数ωの交流電流を流したとき、前記検出部が、前記異常ホール効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記異方性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化から求め、前記一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から求めるよう構成されていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法は、磁場Hの正確な方位角φHを求めるため、異方性磁気抵抗効果による抵抗値が、異なる磁場角度に対して、複数得られるよう構成されていることが好ましい。
【0016】
この場合、例えば、前記磁性体は、前記電流印加手段で前記交流電流を流したとき、前記交流電流が所定の方向に流れる第1区間と、前記所定の方向に対して所定の角度で前記交流電流が流れる第2区間とを有し、前記検出部は、前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化として、前記第1区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、前記第2区間で前記交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化とを用いるよう構成されていることが好ましい。これにより、磁場の方位角に対して180度周期を有する異方性磁気抵抗効果の抵抗値として、第1区間および第2区間での2つの抵抗値を求め、これらを一方向性磁気抵抗効果による抵抗値又はその正負と組み合わせることにより、方位角φHをほぼ一意に、また、正確に決定することができる。ただし、前記所定の角度が、90°、180°、270°、または360°のときには、方位角φHを一意に決定するのが困難であるため、前記所定の角度は、これら以外の角度であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法の変形例として、一方向性磁気抵抗効果が十分に大きく、一方向性磁気抵抗効果による信号の確度が高い場合には、第1区間および第2区間での一方向性磁気抵抗の抵抗値を求め、比較することで、方位角φHをほぼ一意に、また、正確に決定することもできる。また、この場合、第1区間および第2区間での異方性磁気抵抗効果を測定することで、磁場の大きさを求めることもできる。
【0018】
本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法で、使用可能な磁性体は、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、及び一方向性磁気抵抗効果が生じるものであることが好ましく、具体的には、Fe-Snナノ結晶、Co2MnGa、Co2MnAl、Fe3Sn2結晶、Fe3Sn結晶、Co3Sn2S2、CrまたはVをドープした(Bi,Sb)2Te3、GaMnAsなどの強磁性体が挙げられる。このうち、Fe-Snナノ結晶、Co2MnGa、Co2MnAl、Fe3Sn2結晶、Fe3Sn結晶は、室温で使用できるため特に好ましい。また、磁性体の厚みは、2 nm~100 nmであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法は、前記磁性体を支持する基板と、前記磁性体の劣化防止用のキャップ層とを有し、前記磁性体は薄膜から成り、前記基板と前記キャップ層との間に挟まれて配置されていることが好ましい。この場合、磁性体の膜厚効果により、一方向性磁気抵抗効果の発現強度が大きくなるため、磁気センサの感度を高めることができる。また、磁性体の面内方向に沿って電流量を増加させることにより、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、および一方向性磁気抵抗効果の発現強度を大きくし、また、SN比を向上させることができる。また、磁性体が薄膜から成る平面型の単一素子により3次元の磁場を求めることができ、さらに小型化を図ることができる。
【0020】
なお、この場合、基板は、その表面に磁性体を形成可能なものであれば、いかなるものから成っていてもよく、例えば、SiOx(1≦x≦2;酸化ケイ素)、Al2O3(サファイア)、MgO、Mg Al2O4などから成っていてもよい。また、基板は、フレキシブル基板であってもよい。キャップ層は、磁性体の劣化を防止可能なものであれば、いかなるものから成っていてもよいが、特に、SiOx(1≦x≦2)、HfOx(1≦x≦2)、AlOx(1≦x≦1.5), SiNx(1≦x≦1.33)など、電気を流さない絶縁体や、大気中で高い安定性を有するものから成っていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より小型化を図ることができ、消費電力を低減可能な磁気センサおよび磁気検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る磁気センサおよび磁気検出方法の、3次元の磁場Hの検出原理を説明するための、磁場ベクトルと天頂角θ
Hおよび方位角φ
Hとの関係を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態の磁気センサの、(a)全体構成を示す概略の斜視図、(b)磁性体を含む素子の斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態の磁気センサを示す、キャップ層を透過した平面図である。
【
図4】本発明の実施の形態の磁気センサおよび磁気検出方法の、(a)外部磁場の天頂角θ
Hと、異常ホール効果(AHE)による抵抗値(R
H
ω)との関係、(b)外部磁場の方位角φ
Hと、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
1
ω)との関係、(c)外部磁場の方位角φ
Hと、一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R
1
2ω)との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態の磁気センサおよび磁気検出方法の、磁性体の第1区間と第2区間との成す角度が(a)45度、(b)60度、(c)105度のときの、天頂角θ
Hまたは方位角φ
Hと、異常ホール効果(AHE)による抵抗値(R
H
ω)、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
1
ω)、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
2
ω)、および一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R
1
2ω)の符号との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の磁気検出方法の、3次元磁場検出アルゴリズムのフローチャートの一例である。
【
図7】本発明の実施の形態の磁気センサおよび磁気検出方法の、外部磁場を検出する実験での、(a)変化させた外部磁場の天頂角θ
Hおよび方位角φ
H、(b)検出した天頂角θ
Hおよび方位角φ
Hを示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態の磁気センサの(a)磁性体を含む素子の変形例を示す、キャップ層を透過した平面図、(b) 磁場を検出する実験での、(a)に印加する磁場を示す平面図、(c) (a)の第1区間(Sample A)の拡大平面図、(d) (a)の第2区間(Sample B)の拡大平面図である。
【
図9】
図8に示す磁気センサの、磁場を検出する実験での、(a)第2区間(Sample B)での、外部磁場の方位角φ
Hと、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
B
ω)との関係、(b)第1区間(Sample A)での、外部磁場の方位角φ
Hと、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
A
ω)との関係、(c)第1区間(Sample A)での、外部磁場の方位角φ
Hと、一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R
A
2ω)との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態の磁気センサの、異なる素子構造での、一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値の振幅R
UMRと素子抵抗R
0との比(R
UMR/R
0)を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態の磁気センサの、磁性体の厚みtと、一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値の振幅R
UMRと素子抵抗R
0との比(R
UMR/R
0)との関係を示すグラフ、(挿入図)磁性体の厚みtと、素子抵抗の逆数(1/R
0)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面および実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至
図11は、本発明の実施の形態の磁気センサおよび磁気検出方法を示している。
図2に示すように、磁気センサ10は、磁性体11と基板12とキャップ層13と電流印加手段14と検出部15と解析手段(図示せず)とを有している。
【0024】
図2(b)は、
図2(a)に示すキャップ層13の下の積層体構造の断面を示し、磁性体11、基板12、キャップ層13から成る。磁性体11は、薄膜から成り、薄膜作製法により基板12の表面に形成されて、基板12に支持されている。キャップ層13は、磁性体11を酸化等の劣化から防ぐよう、基板12とは反対側の磁性体11の表面を覆うよう設けられている。すなわち、磁性体11は、基板12とキャップ層13との間に挟まれて配置されている。なお、薄膜作製法としては、スパッタ法、蒸着法、CVD法等の気相法、メッキ法、ゾル・ゲル法等の液相法などが挙げられる。
【0025】
図2(b)に示す具体的な一例では、磁性体11はFe-Snナノ結晶の薄膜(厚み 4 nm)から成る。基板12は、サファイア(Al
2O
3)基板(厚み0.33 mm)から成る。キャップ層13は、SiO
x(酸化ケイ素;厚み15 nm)から成る。なお、磁性体11は、Fe-Snナノ結晶に限らず、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、一方向性磁気抵抗効果が生じる強磁性体であれば、いかなるものから成っていてもよい。具体的には、Co
2MnGa、Co
2MnAl、Fe
3Sn
2結晶、Fe
3Sn結晶、Co
3Sn
2S
2、CrまたはVドープした(Bi,Sb)
2Te
3、GaMnAsなどが挙げられる。また、磁性体11の厚みは、2 nm~100 nmであることが好ましい。基板12は、その表面に磁性体11を形成可能なものであれば、サファイア(Al
2O
3)基板に限らず、SiO
x(1≦x≦2)、MgO、MgAl
2O
4など、いかなるものから成っていてもよい。また、基板12は、フレキシブル基板等の可撓性材料から成っていてもよい。キャップ層13は、磁性体11の劣化を防止可能なものであれば、SiO
xに限らず、HfO
x(1≦x≦2)など、いかなるものから成っていてもよく、特に、電気を流さない絶縁体や、大気中で高い安定性を有するものから成っていることが好ましい。
【0026】
図2(a)に示すように、
図2(b)に示す積層体構造を形成する磁性体11は、基板12の表面に細長く形成されており、両端の間に電気的な接続手段を用いて、電流印加手段14と接続され、電流が流れるよう構成されている。磁性体11は、一端から他端に向かって、それぞれ伸張方向が異なる直線状の複数の区間を有している。磁性体11は、直線状の区間が複数接続された構造を有しており、
図2(a)に示す具体的な一例では、3つの直線状の区間が接続された構造であり、これらの区間を、一端から他端に向かって、第1の区間、第2の区間、第3の区間とすると、第2の区間の伸張方向に対して、第1の区間および第3の区間がそれぞれ異なる角度で接続されている。なお、磁性体11の直線状の区間の数は、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0027】
前述のように、電流印加手段14は、磁性体11の一端と他端とに接続され、磁性体11に電流を流すよう設けられている。
図2(a)に示す具体的な一例では、電流印加手段14は、磁性体11に周波数ωの交流電流を流すよう設けられている。
【0028】
検出部15は、電圧測定手段15aを有している。
図2(a)に示すように、電圧測定手段15aは、電流印加手段14で磁性体11に電流を流したとき、磁性体11のいずれかの区間での、電流の流れる方向(磁性体11の各区間が構成する、各直線状の形状に沿った方向)に対して垂直方向での電圧と、磁性体11のいずれか複数の区間での、電流の流れる方向に対して平行方向での電圧とを測定するよう構成されている。
図2(a)に示す具体的な一例では、電圧測定手段15aは、電流印加手段14で磁性体11に周波数ωの交流電流を流したとき、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化(V
H)と、第1の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V
1)と、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V
2)と、第3の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化(V
3)とを測定するよう構成されている。なお、
図2(a)の第3の区間での測定は、第1の区間又は第2の区間のいずれかで測定してもよい。交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化が測定できる箇所であればどこでもよく、小型化の観点から、AMR効果を測定する部位と共通部位で測定するのが好ましい。その場合、第3の区間は不要になる。
【0029】
解析手段は、コンピュータ等から成り、電流印加手段14および電圧測定手段15aに接続されている。解析手段は、電流印加手段14で流した電流と、電圧測定手段15aで測定された各電圧変化とに基づいて、各電圧変化に対応する抵抗値をそれぞれ求め、求められた各抵抗値に基づいて3次元の磁場を求めるよう構成されている。
【0030】
図2(a)および(b)に示す具体的な一例では、磁性体11に外部磁場が作用したとき、解析手段で求められた抵抗値のうち、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化(V
H)から求められた抵抗値が、磁性体11の異常ホール効果による抵抗値であり、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V
1およびV
2)から求められた抵抗値が、磁性体11の異方性磁気抵抗効果による抵抗値であり、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化(V
3)から求められた抵抗値が、磁性体11の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値である。
【0031】
本発明の実施の形態の磁気検出方法は、磁気センサ10により好適に実施することができる。本発明の実施の形態の磁気検出方法は、電流印加手段14により、磁性体11に周波数ωの交流電流を流し、検出部15により、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化と、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化と、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化とを測定し、測定された各電圧変化に基づいて、3次元の磁場を検出する。
【0032】
図2(a)に示す具体的な一例では、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化(V
H)と、第1の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V
1)と、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V
2)と、第3の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化(V
3)とを測定し、解析手段により、電流印加手段14で流した電流と、電圧測定手段15aで測定された各電圧変化とに基づいて、第1の区間、第2の区間では、各電圧変化に対応する抵抗値、及び、第3の区間では、抵抗値又は、抵抗値の正負の符号をそれぞれ求め、求められた各値に基づいて3次元の磁場を求める。
【0033】
なお、検出部15は、電圧測定手段15aの代わりに、電流印加手段14で交流電流を流したときの各電圧変化に対応する抵抗値を測定する抵抗測定手段としてもよい。このとき、解析手段は、抵抗測定手段で測定した各抵抗値、第3の区間では抵抗値又は、抵抗値の正負の符号に基づいて3次元の磁場を求めるよう構成されている。
【0034】
3次元の磁場を求める方法を、実際に製造された2つの区間からなる、
図3に示す磁気センサ10を用いて、より具体的に説明する。
図3に示す磁気センサ10は、磁性体11が直線状の2つの区間を有しており、一端側の第1区間21の伸張方向に対して、第2区間22が所定の角度で接続されている。
図3の例では、第1区間21が、
図2(a)での第2の区間と、第3の区間の機能を合わせたものであり、第2区間22が、
図2(a)での第1の区間の機能を備えたものである。そのため、
図3に示す磁気センサ10は、抵抗測定手段15bにより、第1区間21での、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
H
ω)と、第1区間21での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
1
ω)と、第2区間22での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
2
ω)と、第1区間21での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
1
2ω)とを測定するよう構成されている。なお、
図3に示す磁気センサ10は、第1区間21と第2区間22との成す角度を45度に形成しているが、45度に限ったものではなく、90度、180度、270度、360度以外であれば、どのような角度でもよい。なお、
図3に示す回路のうち、電流印加手段14、検出部15に接続されていない端子は、設けなくても特に問題ない。
【0035】
磁場を測定する前に、磁性体11に作用する外部磁場の方向と、磁性体11に発現する異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果および一方向性磁気抵抗効果による抵抗値の変化との関係を、あらかじめ求めておく。ここで、磁性体11の表面に対して垂直なZ軸と外部磁場の磁場ベクトルとの成す角度を天頂角θH(0°≦θH≦180°)、磁性体11の表面に平行な面での、外部磁場の磁場ベクトルの角度を方位角φH(0°≦φH≦360°)とすると、異常ホール効果の抵抗値の変化は、R0cosθHとなる。また、異方性磁気抵抗効果の抵抗値の変化は、R0cos2φHとなり、180度周期となる。また、一方向性磁気抵抗効果の抵抗値の変化は、R0sinφHとなり、360度周期となる。ここで、R0は、各抵抗値の振幅である。
【0036】
磁性体11(この例では、Fe-Snナノ結晶を用いた。)に流す交流電流を、I=2
1/2I
accos(ωt)、電流密度を、j=8.75×10
5 Acm
-2とし、外部磁場の磁束密度を、μ
0H=1(T)としたときの、外部磁場の天頂角θ
Hと、異常ホール効果(AHE)による抵抗値(R
H
ω)との関係を測定し、
図4(a)に示す。
【0037】
図4(a)に示すように、外部磁場の天頂角θ
Hと、異常ホール効果(AHE)による抵抗値(R
H
ω)との関係は、天頂角0°≦θ
H≦180°に対し、0度で抵抗値(R
H
ω)が最大値をとり、90度(外部磁場に対して垂直)で0Ω、180度で最小値となる単調減少の関数となる。磁性体11にFe-Sn系を用いた場合は、磁化が薄膜面内を向きやすい性質(面内磁気異方性)をもっているため、磁場が1Tの場合は、異常ホール効果の抵抗値の変化は、磁場方向に完全に追随しない。その結果、
図4(a)のような単調減少的な関数になる(なお、磁場が9Tなどの強磁場では、cosθ
Hの関数に完全に追随する)。なお、天頂角-180°≦θ
H≦0°では、抵抗値(R
H
ω)が、0度の最大値から、-90度で0Ω、-180度では最小値となり、同様の単調減少の関数となる。このように、異常ホール効果の抵抗値の変化は、磁場に完全に追随する、追随しないのどちらであっても、0度を最大値にして、±90度で0Ω、±180度で最小値の単調減少関数になる。このため、天頂角0°≦θ
H≦180°又は天頂角-180°≦θ
H≦0°のどちらか一方を測定するだけで、天頂角方向の角度を求めることができる。
【0038】
図4(a)と同様の条件で、外部磁場の方位角φ
Hと、第1区間21でのAMR効果による抵抗値(R
1
ω)および一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R
1
2ω)との関係を測定し、それぞれ
図4(b)および(c)に示す。
【0039】
図4(b)に示すように、AMR効果による抵抗値(R
1
ω)は180度周期の関数となる。なお、外部磁場の方位角φ
Hと、AMR効果による第2区間22での抵抗値(R
2
ω)との関係は、図示していないが、
図4(b)と同様の波形で、方位角φ
Hが第1区間21と第2区間22との成す角度分ずれた関係となる。抵抗値(R
1
ω)は、90度、180度、270度、または、360度においては、変化値が小さいことから、抵抗値(R
1
ω)一つだけでは精度が悪い。そのため、第1区間21と第2区間22との成す角を、90度、180度、270度、または、360度以外でずらした、第2区間22の抵抗値(R
2
ω)を用いることで、より精度を高めることができる。当該角度は、±45度又は±135度ずれた形で配置すると、それぞれ、cos2θ、sin2θに比例した値が得られるので、望ましいが、当該角度に限られたものではなく、90度、180度、270度、または、360度以外で得られたものであればどの角度であってもよい。
【0040】
図4(b)に示すように、AMR効果による抵抗値は、180度周期であるため、極性(象限)判別ができないという問題がある。従来、この対処として、別の異なるセンサ等を設けるなどして判別をおこなっていたが、本発明では、別のセンサを用いることなく、極性判別が行えないか検討した結果、
図4(c)に示す360度周期のUMR効果による抵抗値(R
1
2ω)を用いることに想到した。
【0041】
図4に示す関係について、第1区間21と第2区間22との成す角度が45度、60度、105度のときの、天頂角θ
Hまたは方位角φ
Hと各抵抗値の極性符号との関係をまとめ、それぞれ
図5(a)~(c)に示す。
図4(b)および
図5(a)~(c)に示すように、方位角φ
HとAMRによる抵抗値との関係が180度周期であるため、第1区間21および第2区間22のAMRによる抵抗の測定値だけでは、方位角φ
Hを2つにしか絞ることができず、方位角φ
Hを一意に求めることが困難である。そこで、
図5(a)~(c)に示すように、UMR効果による抵抗値を求めることにより、極性の判別ができることで、方位角φ
Hを一意に求めることができる。
【0042】
なお、
図4(b)および(c)に示すように、UMRによる抵抗値は、AMRによる抵抗値と比べて非常に小さく、測定精度がやや劣るため、UMRによる抵抗値と組み合わせる際には、UMRによる抵抗値の符号にのみ着目してもよい。
【0043】
実際の測定では、検出部15の抵抗測定手段15bで測定された抵抗値R
H
ωを、
図4(a)に示す関係にあてはめることにより、天頂角θ
Hを一意に求めることができる。また、測定された抵抗値R
1
ωおよびR
2
ωを、
図4(b)および、
図4(b)から方位角φ
Hが第1区間21と第2区間22との成す角度分ずれた関係にあてはめることにより、方位角φ
Hを180度ずれた2つの角度に絞ることができる。測定された抵抗値R
1
2ωを、
図4(c)に示す関係にあてはめて、その符号に着目することにより、180度ずれた2つの方位角φ
Hを1つに絞ることができ、方位角φ
Hを一意に求めることができる。
【0044】
また、本発明の実施の形態の磁気センサ10は、必要に応じて、磁場Hの大きさを測定してもよい。磁場の大きさは、予め、既知の磁場に磁気センサをおいて、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果に関連する値を測定し、その時に得られた測定値と磁場との関係式を導いておくことで、実際の環境で測定を行った際の値と関係式とを比較することにより、容易に磁場の大きさを求めることができる。本発明は、AMR素子を用いていることから、GMR(巨大磁気抵抗効果:Giant Magneto Resistive effect)素子、TMR(トンネル磁気抵抗効果: Tunnel Magneto Resistance Effect)素子のような強磁場で磁気破壊モードがなく、磁場を測定する上でも好適である。
【0045】
[本発明の3次元磁場検出アルゴリズム]
図6に、本発明の実施の形態のAHEによる抵抗値(R
H
ω)、AMR効果による抵抗値(R
1
ω)、抵抗値(R
2
ω)、UMR効果による抵抗値(R
1
2ω)を用いた、磁気センサの3次元磁場検出アルゴリズムの一例を示す。
【0046】
[ステップ101.AHEによる抵抗値(RH
ω)の検出]
本発明の実施の形態の磁気センサ10を測定環境に置き、電流印加手段14により、磁性体11に周波数ωの交流電流を流し、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化(VH)を測定し、対応する抵抗値(RH
ω)を測定する。
【0047】
[ステップ102.天頂角θHの決定]
得られた抵抗値(RH
ω)について、解析手段を用いて演算を行い、予め求めておいた磁性体11に作用する外部磁場の方向と、磁性体11に発現する異常ホール効果との関係から、天頂角θHを求める。(角度成分の範囲は、0度≦θH≦180度)
【0048】
[ステップ103.AMR効果による抵抗値(R1
ω)、抵抗値(R2
ω)の検出]
第1の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V1)と、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V2)を測定し、対応する抵抗値(R1
ω)、抵抗値(R2
ω)を測定する。
【0049】
[ステップ104.方位角φHの極性(象限)以外の決定]
得られた抵抗値(R1
ω)、抵抗値(R2
ω)について、解析手段を用いて演算を行い、予め求めておいた磁性体11に作用する外部磁場の方向と、磁性体11に発現する異方性磁気抵抗効果との関係から、方位角φH及び方位角φH-180°を求める。(角度成分の範囲は、0度≦φH≦180度)
【0050】
[ステップ105.一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R1
2ω)の検出]
交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化(V3)を測定し、対応する抵抗値(R1
2ω)、又は抵抗値(R1
2ω)の極性を求める。
【0051】
[ステップ106、107.方位角φHの極性の決定]
ステップ105で求められた抵抗値、または抵抗値の極性が、0Ω以上または正である場合は、ステップ104で求めた方位角φH及び方位角φH-180°のうち、φHを方位角φHとして決定する(ステップ106)。一方、ステップ105で求められた抵抗値、または抵抗値の極性が、0Ω以下または負である場合は、ステップ104で求めた方位角φH及び方位角φH-180°のうち、φH-180°を方位角φHとして決定する(ステップ107)。
【0052】
上記のようなステップのアルゴリズムを用いて3次元磁場を決定する。なお、
図6のフローチャートは一例であって、順序等、適宜変更可能である。例えば、天頂角θ
Hと方位角φ
Hとは決定方法が独立しているので、先に、方位角φ
Hの方を決定してから天頂角θ
Hを決定してもよいし、同時並行で、演算して、決定してもよい。
【0053】
このように、本発明の実施の形態の磁気センサ10および磁気検出方法は、磁性体11のみを使用して、磁性体11に発現する異常ホール効果、異方性磁気抵抗(AMR)効果および一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値に基づいて、3次元の磁場を検出することができる。このため、本発明の構成以外の別のセンサを用いる必要がないため、複数の素子を立体的に配置する従来の磁場センサと比べて、より小型化、低コスト化を図ることができる。また、磁性体11が薄膜から成る平面型の単一素子により3次元の磁場を求めることができるため、さらに小型化を図ることができる。また、素子の数が少ないため、消費電力を低減することもできる。
【0054】
本発明の実施の形態の磁気センサ10および磁気検出方法は、薄膜から成る磁性体11の膜厚効果により、一方向性磁気抵抗効果の発現強度が大きくなるため、磁気センサ10の感度を高めることができる。また、磁性体11の面内方向に沿って電流量を増加させることにより、異常ホール効果、異方性磁気抵抗効果、および一方向性磁気抵抗効果の発現強度を大きくし、また、SN比を向上させることができる。
【0055】
本発明の実施の形態の磁気センサ10および磁気検出方法は、小型化および低消費電力化を図ることができるため、磁気センサ10を含めた素子の集積化に有利であり、IoT化などのスマート社会の推進に寄与することができる。
【0056】
[変形例]
上記では、異常ホール効果(AHE)、異方性磁気抵抗(AMR)効果および一方向性磁気抵抗(UMR)効果を用いた、3次元の磁場を検出することができる磁気センサ10について説明した。しかし、一方向性磁気抵抗(UMR)効果は360度周期であるので、条件によっては、当該磁気センサ10を異常ホール効果(AHE)、一方向性磁気抵抗(UMR)効果のみを用いる形で、3次元の磁場を検出することができる磁気センサを実現でき、更に簡略にすることができる。
【0057】
UMR効果が十分に大きく信号の確度が高い場合には、
図3において、第1の区間21での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化と、第2の区間22での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化とを測定するように構成することもできる。より具体的には、
図3において、第1区間21での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
1
2ω)と、第2区間22での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化に対応する抵抗値(R
2
2ω)とを測定するように構成する。
【0058】
その場合、第1の区間21での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V1)(それに対応する抵抗値(R1
ω))と、第2の区間での、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数ωの電圧変化(V2)(それに対応する抵抗値(R2
2ω))とを測定する必要はなく、素子構造を簡略化することができる。
【0059】
この変形例では、異常ホール効果およびUMR効果による抵抗値に基づいて、3次元の磁場を検出することができるため、より一層の小型化もできる。なお、磁場の大きさが必要な場合は、前述と同様、異常ホール効果から求めてもよい。また、場合によっては、異方性磁気抵抗効果による抵抗値を検出部15で検出するようにすれば、磁場の大きさを求めることができる。
【実施例1】
【0060】
図3に示す磁気センサ10を用いて、外部磁場の角度(天頂角θ
Hおよび方位角φ
H)を変化させながら、磁場を検出する実験を行った。実験では、磁性体11に流す交流電流の電流密度を、j=5×10
5 Acm
-2とし、外部磁場の磁束密度を、μ
0H=1(T)とした。変化させた外部磁場の天頂角θ
Hおよび方位角φ
Hを
図7(a)に、磁気センサ10により検出した天頂角θ
Hおよび方位角φ
Hを
図7(b)に示す。
【0061】
図7(a)では、磁気センサ10を初期の天頂角θ
H=90度、方位角φ
H=0度となる位置に置き、まず、方位角はそのままに、天頂角の方向がずれる形になるように、外部磁場を動かした(工程1)。次に、その初期状態から天頂角がずれた角度のまま、天頂角は動かさず、方位角の方向が初期値からずれるように動かした(工程2)。最後に、天頂角、方位角が初期位置からずれた状態で、両方の角度がずれる形で動かした(工程3)。
【0062】
図7(b)に、磁気センサ10が検出した3次元の角度を示す。
図7(a)と
図7(b)とを比較すると、角度の変化に追従し、磁気センサ10が正確に3次元角度を求めていることがわかる。このように、磁気センサ10により、磁場の角度が精度良く検出されていることが確認された。
【実施例2】
【0063】
図8(a)、(c)、(d)に示すように、磁気センサ10として、1枚の基板12上に、磁性体11の第1区間21(図中のSample A)と第2区間22(図中のSample B)とを離して配置し、第1区間21と第2区間22とを電気的に接続したものを製造し、磁場を検出する実験を行った。第1区間21の伸張方向と第2区間22の伸張方向との成す角度は、45度である。実験では、
図8(b)に示すように、磁性体11の表面(X-Y平面)に沿って、磁束密度μ
0H=1(T)、方位角φ
Hの磁場(天頂角θ
H=90度)をかけた。また、磁性体11に流す交流電流の電流密度を、j=5×10
5 Acm
-2とした。また、第1区間21(Sample A)で、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
A
ω)および一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値(R
A
2ω)を測定し、第2区間22(Sample B)で、異方性磁気抵抗(AMR)効果による抵抗値(R
B
ω)を測定した。
【0064】
各抵抗値の測定結果を、
図9(a)~(c)に示す。
図9(a)および(b)に示すように、抵抗値R
A
ωの波形の位相と抵抗値R
B
ωの波形の位相とが、第1区間21と第2区間22との成す角度と同じ45度ずれた状態で測定されていることが確認された。このことから、検出する磁場が変化しない範囲であれば、第1区間21と第2区間22とを離して配置しても、磁場を測定可能であるといえる。
図8(a)では、第1区間21と第2区間22とを1枚の基板12上に配置したが、各区間が電気的に接続されていれば、1枚の基板12上に配置される必要はなく、各区間を異なる基板12上にそれぞれ配置してもよい。この場合、1枚の基板上に形成すると、それぞれの区間に距離があることから、磁場が各区間で異なることがあるが、積層させることで、区間に同じ磁場が加わる可能性が高まることで、精度の向上が期待される。また、これにより、各区間を左右だけでなく、例えば、上下に積層するよう配置することで、小型化、磁気センサの機器への配置の自由度を高めることができる。
【実施例3】
【0065】
図3に示す磁気センサ10の基板12およびキャップ層13の材料を変えて、磁場を検出する実験を行った。実験では、キャップ層13(厚み 15 nm)/磁性体11(厚み 4 nm)/基板12(Al
2O
3は厚み 0.33 mm、その他は厚み 0.50 mm)から成る磁気センサ10の素子構造として、HfO
x/Fe-Sn/Al
2O
3、SiO
x/Fe-Sn/Al
2O
3、SiO
x/Fe-Sn/MgO、SiO
x/Fe-Sn/MgAl
2O
4の4種類および、磁性体11(厚み 4 nm)/基板12(厚み 0.33 mm)の間に、下部層としてSiO
x(厚み 15 nm)を挿入したSiO
x/Fe-Sn/SiO
x/Al
2O
3(図中では、SiO
x/Fe-Sn/SiO
xと表記)を使用した。また、磁性体11に流す交流電流の電流密度を、j=5×10
5 Acm
-2とし、外部磁場の磁束密度を、μ
0H=1(T)とした。実験では、測定された一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値の振幅R
UMRと、素子抵抗R
0との比(R
UMR/R
0)を求めた。
【0066】
各素子構造でのR
UMR/R
0の値を、
図10に示す。
図10に示すように、SiO
x/Fe-Sn/Al
2O
3、SiO
x/Fe-Sn/MgO、SiO
x/Fe-Sn/MgAl
2O
4の3つの素子構造のものは、他の2つの素子構造のものよりも、R
UMR/R
0の値が大きくなっており、一方向性磁気抵抗効果が相対的に大きくなっていることが確認された。このことから、素子構造により、一方向性磁気抵抗効果を高めることができ、磁場の測定精度を高めることができるといえる。
【実施例4】
【0067】
図3に示す磁気センサ10について、磁性体11の膜厚を変えて、磁場を検出する実験を行った。実験では、磁性体11に流す交流電流の電流密度を、j=5×10
5 Acm
-2とし、外部磁場の磁束密度を、μ
0H=1(T)とした。なお、磁気センサ10の素子構造は、SiO
x(厚み 15 nm)/Fe-Sn/Al
2O
3(厚み 0.33 mm)である。実験では、測定された一方向性磁気抵抗(UMR)効果による抵抗値の振幅R
UMRと、素子抵抗R
0との比(R
UMR/R
0)を求めた。
【0068】
磁性体11の厚みtとR
UMR/R
0との関係を、
図11に示す。なお、
図11の挿入図に、磁性体11の厚みtと1/R
0との関係を示す。
図11に示すように、磁性体11を厚くすることにより、R
UMR/R
0の値が大きくなり、一方向性磁気抵抗効果が相対的に大きくなることが確認された。ただし、
図11の挿入図に示すように、磁性体11を厚くすることにより、素子抵抗R
0が小さくなることから、磁性体11の膜厚と共にR
UMR/R
0の値が大きくなる原因としては、一方向性磁気抵抗効果の向上によるものだけとはいえない。このことから、磁場の測定精度を高めるためには、磁性体11の膜厚だけでなく、他の効果や素子抵抗も考慮する必要があると考えられる。
【0069】
磁気センサ10は、上記に限らず適宜変更可能である。例えば、AMR効果による抵抗値(R1
ω)、抵抗値(R2
ω)の値の両方を用いて所定の演算式から出力を求めてもよい。
【0070】
また、磁気センサ10は、AMR効果による抵抗値(R1
ω)、抵抗値(R2
ω)を求めているが、あまり角度の精度が求められず、小型化などの要請が強い場合は、どちらか1箇所で測定するようにしてもよい。また、磁気センサ10の変形例では、UMR効果による抵抗値(R1
2ω)、抵抗値(R2
2ω)を求めているが、あまり角度の精度が求められず、小型化などの要請が強い場合は、どちらか1箇所で測定するようにしてもよい。
【0071】
また、磁気センサ10は、航空機や、乗用車などの使用する機器の実環境に応じて、周辺環境温度による影響や、周辺のノイズとなる磁場を補正する機能を備えてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 磁気センサ
11 磁性体
12 基板
13 キャップ層
14 電流印加手段
15 検出部
15a 電圧測定手段
15b 抵抗測定手段
21 第1区間
22 第2区間
【要約】
【課題】より小型化を図ることができ、消費電力を低減可能な磁気センサおよび磁気検出方法を提供する。
【解決手段】電流印加手段14が、磁性体11に周波数ωの交流電流を流すよう設けられている。検出部15が、電流印加手段14で電流を流したとき、交流電流の流れる方向に対して垂直方向での周波数ωの電圧変化から、磁性体11の異常ホール効果による抵抗値を求め、交流電流の流れる方向に対して平行方向での周波数2ωの電圧変化から、磁性体11の一方向性磁気抵抗効果による抵抗値を求めるよう構成されている。解析手段が、求められた各抵抗値に基づいて、3次元の磁場を検出可能に構成されている。
【選択図】
図2