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  • 特許-プーリ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】プーリ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/56 20060101AFI20230314BHJP
   F16D 43/10 20060101ALI20230314BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20230314BHJP
   F16H 9/18 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
F16H55/56
F16D43/10
F16D13/52 C
F16H9/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019042154
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020143757
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】美濃羽 未紗樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮一
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-278627(JP,A)
【文献】特公昭42-9163(JP,B1)
【文献】特開平8-312683(JP,A)
【文献】特開2018-100700(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第2895474(FR,A1)
【文献】特開昭59-13139(JP,A)
【文献】特開2010-60106(JP,A)
【文献】米国特許第4111291(US,A)
【文献】実公昭39-11409(JP,Y1)
【文献】実公昭40-260(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/56
F16D 43/10
F16D 13/52
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブと、
前記固定シーブから軸方向に延びる固定ボスと、
軸方向において前記固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能に配置される可動シーブと、
前記可動シーブから軸方向に延び、径方向において前記固定ボスの外側に配置される筒状の可動ボスと、
前記固定ボスからトルクが入力される遠心クラッチと、
を備え、
前記遠心クラッチは、
前記固定ボスからトルクが入力され、回転可能に配置される入力部材と、
前記入力部材からトルクが入力され、回転可能に配置される中間部材と、
回転可能に配置され、トルクを出力する出力部材と、
前記中間部材と前記出力部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うよう構成されるクラッチ部と、
前記中間部材に揺動可能に取り付けられる揺動部材と、
前記揺動部材の揺動量を規制する規制部材と、
前記入力部材と前記中間部材とが相対回転したときに前記中間部材を前記クラッチ部に向けて軸方向に移動させるカム機構と、
有し
前記揺動部材は、遠心力を受けて径方向外側に移動するウェイト部と、前記ウェイト部の移動によって前記クラッチ部側に移動して前記クラッチ部を押圧する押圧部と、を有する、
プーリ装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記入力部材に形成される第1カム面と、前記中間部材に形成されて前記第1カム面と対向する第2カム面と、を有する、
請求項に記載のプーリ装置。
【請求項3】
前記入力部材は、前記押圧部との間で前記クラッチ部を挟む受圧面を有する、
請求項1又は2に記載のプーリ装置。
【請求項4】
前記遠心クラッチは、前記受圧面と前記クラッチ部との間に配置される弾性部材をさらに有する、
請求項に記載のプーリ装置。
【請求項5】
前記入力部材は、トルクが入力されるドライブプレートと、前記ドライブプレートに固定されるサポートプレートと、を有し、
前記中間部材は、軸方向において、前記ドライブプレートと前記サポートプレートとの間に配置される、
請求項1からのいずれかに記載のプーリ装置。
【請求項6】
前記クラッチ部は、乾式多板クラッチである、
請求項1からのいずれかに記載のプーリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主にスクータタイプのモータサイクルなどにおいて、遠心クラッチを有するプーリ装置が用いられる。遠心クラッチは、エンジンの回転数が所定値以上になると、エンジンからのトルクを駆動輪へと伝達するように構成されている。例えば、特許文献1に開示された遠心クラッチは、ドライブプレート、クラッチシュー、及びハウジングを有している。エンジンの回転数が上昇してドライブプレートの回転数が所定値を超えると、クラッチシューが径方向外側に移動してハウジングと摩擦係合する。この結果、ドライブプレートからのトルクがハウジングへと伝達されて駆動輪へと伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-229730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなプーリ装置が搭載されたモータサイクルが段差を乗り越える際に駆動輪が空転することなどによって、駆動部品に過剰なトルクが入力されることがある。駆動部品は、このような過剰なトルクの伝達に耐えることができるように設計される必要がある。このため、駆動部品の小型化及び軽量化が困難であるという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、駆動部品の小型化及び軽量化を可能とする遠心クラッチを有するプーリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある側面に係るプーリ装置は、固定シーブ、固定ボス、可動シーブ、可動ボス、及び遠心クラッチを備えている。固定ボスは、固定シーブから軸方向に延びる。可動シーブは、軸方向において固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能に配置される。可動ボスは、可動シーブから軸方向に延びている。可動ボスは、筒状であって、径方向において固定ボスの外側に配置される。遠心クラッチは、固定ボスからトルクが入力される。遠心クラッチは、入力部材、中間部材、出力部材、クラッチ部、揺動部材、及び規制部材を備えている。入力部材は、固定ボスからトルクが入力され、回転可能に配置される。中間部材は、入力部材からトルクが入力され、回転可能に配置される。出力部材は、回転可能に配置され、トルクを出力する。クラッチ部は、中間部材と出力部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うよう構成される。揺動部材は、中間部材に揺動可能に取り付けられる。規制部材は、揺動部材の揺動量を規制する。揺動部材は、ウェイト部と押圧部とを有する。ウェイト部は、遠心力を受けて径方向外側に移動する。押圧部は、ウェイト部の移動によってクラッチ部側に移動してクラッチ部を押圧する。
【0007】
この構成によれば、まず、入力部材に入力されたトルクが中間部材に伝達され、中間部材及び揺動部材が回転する。この回転によって揺動部材のウェイト部に遠心力が作用し、ウェイト部が径方向外側に移動する。この結果、揺動部材の押圧部がクラッチ部側に移動してクラッチ部を押圧し、クラッチ部がクラッチオン状態となって中間部材から出力部材にトルクが伝達される。ここで、規制部材が揺動部材の揺動量を規制するため、過剰なトルクが入力された際であっても、揺動部材の押圧部によってクラッチ部を押圧する力は所定値以下の力に制限される。このため、過剰なトルクが入力された場合であっても、クラッチ部に滑りが生じて所定値以下のトルクしか伝達されない。したがって、本発明に係るプーリ装置の遠心クラッチを用いたモータサイクルなどの駆動部品は、過剰なトルクの伝達に耐え得る設計にする必要がなく、小型化及び軽量化することができる。
【0008】
好ましくは、遠心クラッチは、カム機構をさらに有する。カム機構は、入力部材と中間部材とが相対回転したときに中間部材をクラッチ部に向けて軸方向に移動させる。この構成によれば、低回転時に入力部材と中間部材とが相対回転するため、カム機構の作用によって中間部材はクラッチ部に向かって移動する。この結果、揺動部材の押圧部がクラッチ部を押圧する推力が増加するため、低回転時におけるトルク伝達容量を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、入力部材は、揺動部材の押圧部との間でクラッチ部を挟む受圧面を有する。
【0010】
好ましくは、遠心クラッチは、受圧面とクラッチ部との間に配置される弾性部材をさらに備える。
【0011】
好ましくは、入力部材は、トルクが入力されるドライブプレートと、ドライブプレートに固定されるサポートプレートと、を有する。中間部材は、軸方向において、ドライブプレートとサポートプレートとの間に配置される。
【0012】
好ましくは、カム機構は、入力部材に形成される第1カム面と、中間部材に形成されて第1カム面と対向する第2カム面と、を有する。
【0013】
好ましくは、クラッチ部は、乾式多板クラッチである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動部品の小型化及び軽量化を可能とする遠心クラッチを有するプーリ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プーリ装置を示す断面図。
図2】カム機構を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るプーリ装置100の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは、プーリ装置100の回転軸Oが延びる方向を意味する。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味し、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0017】
[プーリ装置]
プーリ装置100は、例えばCVT(Continuously Variable Transmission)を構成する従動側のプーリ装置として用いられる。このプーリ装置100は、駆動側のプーリ装置(図示省略)からベルト120を介してトルクが伝達される。そして、プーリ装置100は、駆動シャフト(図示省略)を介してトルクを駆動輪(図示省略)に伝達する。
【0018】
プーリ装置100は、固定シーブ101、可動シーブ102、固定ボス103、可動ボス104、及び遠心クラッチ10を備える。プーリ装置100は、回転軸Oを中心に回転する。詳細には、プーリ装置100は、駆動シャフトに取り付けられており、駆動シャフトと相対回転可能である。
【0019】
[固定シーブと可動シーブ]
固定シーブ101及び可動シーブ102は、軸方向において、互いに接近及び離間する。詳細には、可動シーブ102が軸方向に移動することによって固定シーブ101と接近及び離間する。可動シーブ102は、付勢部材108、例えばコイルスプリングによって、固定シーブ101に向かって付勢されている。ベルト120が径方向の内側に移動することによって、可動シーブ102は、付勢部材108の付勢力に抗して固定シーブ101から離間するように移動する。
【0020】
固定シーブ101および可動シーブ102は、軸方向において互いに向き合う円板面を有している。固定シーブ101及び可動シーブ102の円板面は、径方向外側に向かって互いの間隔が大きくなるように構成される。この固定シーブ101及び可動シーブ102の円板面によってベルト120を挟んでいる。固定シーブ101および可動シーブ102の中央部には開口が設けられている。
【0021】
[固定ボス]
固定ボス103は、固定シーブ101から軸方向の第1側に延びている。固定ボス103は円筒状である。固定ボス103は、固定シーブ101と一体的に回転する。固定シーブ101と固定ボス103とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転する。例えば、固定シーブ101と固定ボス103とを溶接またはろう付けなどによって互いに固定する。なお、固定シーブ101と固定ボス103とは一つの部材で構成されてもよい。
【0022】
固定ボス103の内部には、駆動シャフトが延びている。駆動シャフトは、駆動輪にトルクを伝えるためのシャフトである。駆動シャフトと固定ボス103とは、相対回転可能である。駆動シャフトと固定ボス103との間には、ニードルベアリング105、及びボールベアリング106が配置されている。
【0023】
[可動ボス]
可動ボス104は、可動シーブ102から軸方向の第1側に延びている。可動ボス104は、円筒状である。可動ボス104は、径方向において固定ボス103の外側に配置されている。すなわち、固定ボス103が可動ボス104の内部を延びている。可動ボス104は、固定ボス103の外周面上を軸方向に摺動する。
【0024】
可動ボス104は、可動シーブ102と一体的に回転する。また、可動ボス104は、可動シーブ102と一体的に軸方向に移動する。可動ボス104と可動シーブ102とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転及び軸方向に移動する。例えば、可動ボス104と可動シーブ102とを溶接またはろう付けなどによって互いに固定する。なお、可動ボス104と可動シーブ102とは、一つの部材で構成されてもよい。可動ボス104は円筒状である。
【0025】
[遠心クラッチ]
遠心クラッチ10は、入力部材2、中間部材3、出力部材4、クラッチ部5、複数の揺動部材6、規制部材7、及び複数のカム機構8、を有している。遠心クラッチ10は、固定ボス103からのトルクを、駆動シャフトに伝達したり遮断したりするように構成されている。遠心クラッチ10は、軸方向において、固定シーブ101及び可動シーブ102の第1側に配置されている。なお、図1の左側が軸方向の第1側であり、図1の右側が軸方向の第2側である。
【0026】
[入力部材2]
入力部材2は、回転軸O周りを回転可能に配置されている。入力部材2は、固定ボス103の先端部103aに取り付けられている。入力部材2は、固定ボス103からのトルクが入力されて、固定ボス103と一体的に回転する。なお、固定ボス103の基端部103bには固定シーブ101が取り付けられている。
【0027】
固定ボス103の先端部103aは他の部分に比べて外径が小さくなっているため、段差部103cが形成されている。この段差部103cによって、入力部材2の軸方向の第2側への移動が規制される。また、入力部材2はナット(図示省略)などによって固定ボス103の先端部103aに締結され、入力部材2の軸方向の第1側への移動が規制されている。このように、入力部材2は、軸方向へ移動不能である。
【0028】
入力部材2は、ドライブプレート21と、サポートプレート22とを有する。ドライブプレート21は、固定ボス103に取り付けられている。ドライブプレート21は、固定ボス103からのトルクが入力される。ドライブプレート21は、円板状である。
【0029】
ドライブプレート21は、軸方向の第2側に延びる複数の第1柱部211を有する。複数の第1柱部211は、周方向に間隔をあけて配置されている。第1柱部211は、例えば円柱状である。第1柱部211は、軸方向の第2側に開口するネジ孔212を有している。
【0030】
ドライブプレート21は、軸方向の第2側に突出する環状突起213を有している。この環状突起213は、付勢部材108を径方向の内側から位置決めしている。また、ドライブプレート21は、複数の位置決め突部214を有している。複数の位置決め凸部214は、周方向に間隔をあけて配置されている。この位置決め突部214は、皿バネ53を径方向の内側から位置決めしている。位置決め突部214は、第1柱部211の根元に形成されている。なお、複数の位置決め突部214が互いに連結されて環状となっていてもよい。
【0031】
ドライブプレート21は、外周端部において、軸方向の第2側を向く受圧面215を有している。受圧面215は、揺動部材6側を向いている。受圧面215は、環状である。この受圧面215と揺動部材6とで、クラッチ部5を挟んでいる。
【0032】
サポートプレート22は、環状である。サポートプレート22は、軸方向においてドライブプレート21の第2側に配置されている。サポートプレート22は、軸方向の第1側に延びる複数の第2柱部221を有する。複数の第2柱部221は、周方向に間隔をあけて配置されている。第2柱部221の先端面は、第1柱部211の先端面と当接する。
【0033】
第2柱部221は、軸方向に延びる貫通孔を有する。この貫通孔を介してボルト110が第1柱部211のネジ孔212に螺合する。これにより、サポートプレート22はドライブプレート21に固定される。すなわち、ドライブプレート21とサポートプレート22とは、互いに一体的に回転する。
【0034】
[中間部材3]
中間部材3は回転軸Oを中心に回転可能に配置されている。中間部材3は、入力部材2からトルクが入力される。詳細には、後述するカム機構8を介して中間部材3は入力部材2からトルクが入力される。中間部材3は、軸方向において、ドライブプレート21とサポートプレート22との間に配置されている。中間部材3は、入力部材2に取り付けられている。中間部材3は、入力部材2に対して軸方向に移動可能である。
【0035】
中間部材3は、外壁31を有している。この外壁31は、径方向において、揺動部材6の外側に配置されている。また、中間部材3は、溝部32を有している。溝部32は、環状である。溝部32は、径方向外側に向かって開口している。この溝部32は、外壁31よりも径方向内側に配置されている。
【0036】
中間部材3は、軸方向の第1側に突出する複数の支持部33を有する。複数の支持部33は、周方向に間隔をあけて配置されている。この支持部33は、後述するクラッチ部5のインナーディスク51を軸方向に摺動可能に支持している。なお、この複数の支持部33は環状に連結されていてもよい。すなわち、複数の支持部33が互いに連結されることによって1つの円筒部を構成していてもよい。
【0037】
中間部材3は、揺動部材6を収容するための複数の収容部34を有している。複数の収容部34は、周方向に間隔をあけて配置されている。この収容部34は、中間部材3に形成された凹部であり、軸方向の第1側に向かって開口している。すなわち、収容部34は、クラッチ部5に向かって開口している。
【0038】
中間部材3は、複数の摺動部35を有している。複数の摺動部35は、周方向に間隔をあけて配置されている。なお、周方向において隣り合う摺動部35の間の空間を介して第2柱部221が軸方向に延びている。
【0039】
摺動部35は、中間部材3の本体部36と別部材によって構成されている。摺動部35は、中間部材3の本体部36に取り付けられており、本体部36と一体的に回転したり軸方向に移動したりする。摺動部35は、後述するカム機構8を構成するための部分である。摺動部35は、例えば、樹脂製である。なお、中間部材3の本体部36は、たとえば、鋼又はアルミニウム合金製などである。
【0040】
[出力部材4]
出力部材4は、回転軸O周りを回転可能に配置されている。出力部材4は、トルクを駆動シャフトへと出力する。出力部材4は、軸方向において、入力部材2の第1側に配置されている。
【0041】
出力部材4は、円板部41、円筒部42、及びボス部43を有している。円筒部42は、円板部41の外周端部から軸方向の第2側に延びている。円筒部42は、径方向において支持部33の外側に配置されている。円筒部42には、後述するクラッチ部5のアウターディスク52が軸方向に摺動可能に取り付けられている。
【0042】
ボス部43は、円板部41の内周端部から軸方向の第2側に延びている。ボス部43は、固定ボス103内を延びている。ボス部43には、スプライン孔431が形成されている。このスプライン孔431に、駆動シャフトがスプライン係合する。
【0043】
[クラッチ部5]
クラッチ部5は、中間部材3と出力部材4との間でトルクの伝達および遮断を行うように構成されている。クラッチ部5は、多板クラッチとして構成されている。すなわち、クラッチ部5は、複数のインナーディスク51と、複数のアウターディスク52とを有している。なお、このクラッチ部5は、乾式クラッチである。
【0044】
インナーディスク51は、中間部材3に取り付けられている。詳細には、インナーディスク51は、中間部材3の支持部33に取り付けられている。インナーディスク51の内周端部が支持部33に係合している。インナーディスク51は、軸方向に摺動可能である。軸方向の両端に配置される一対のインナーディスク51は、コイルスプリングなどの付勢部材(図示省略)によって、互いに離れる方向に付勢されている。
【0045】
複数のインナーディスク51のうち、最も軸方向の第1側に配置されたインナーディスク51である端部インナーディスク51aは、皿バネ53(弾性部材の一例)と当接している。この皿バネ53は、軸方向において、ドライブプレート21の受圧面215と端部インナーディスク51aとの間に配置されている。
【0046】
アウターディスク52は、出力部材4に取り付けられている。詳細には、アウターディスク52は、出力部材4の円筒部42に取り付けられている。アウターディスク52の外周端部が円筒部42に係合している。アウターディスク52は、軸方向に摺動可能である。アウターディスク52は、軸方向においてインナーディスク51の間に配置されている。すなわち、軸方向において、インナーディスク51とアウターディスク52とは交互に配置されている。アウターディスク52は、両面に摩擦材が貼り付けられている。なお、アウターディスク52ではなく、インナーディスク51の両面に摩擦材が貼り付けられていてもよい。
【0047】
[揺動部材6]
揺動部材6は、中間部材3に揺動可能に取り付けられている。詳細には、揺動部材6は、揺動ピン63を介して中間部材3に取り付けられている。そして、揺動部材6は、揺動ピン63を揺動軸として揺動可能である。揺動部材6は、中間部材3とともに回転して遠心力を受けるように配置されている。揺動部材6は、中間部材3の収容部34内に収容されている。なお、複数の揺動部材6は、周方向に間隔をあけて配置されている。
【0048】
揺動部材6は、ウェイト部61と、押圧部62とを有している。ウェイト部61は、揺動ピン63よりも軸方向の第2側に配置されている。ウェイト部61は、遠心力をうけて径方向外側に移動する。詳細には、ウェイト部61は、遠心力を受けて、揺動ピン63を中心に揺動することで径方向外側に移動する。なお、ウェイト部61は、遠心力を受けたとき、図1において揺動ピン63を中心に時計回りに揺動する。
【0049】
押圧部62は、ウェイト部61の移動によってクラッチ部5側に移動してクラッチ部5を押圧するように構成されている。詳細には、押圧部62は、揺動ピン63を中心に揺動することでクラッチ部5側に移動する。押圧部62は、揺動ピン63よりも軸方向の第1側に配置されている。押圧部62は、ウェイト部61よりも軽い。押圧部62のうち、クラッチ部5と当接する面は湾曲面によって構成されている。
【0050】
[規制部材7]
規制部材7は、揺動部材6の揺動量を規制するように構成されている。規制部材7は、環状である。例えば、規制部材7は、金属製の線状部材によって構成されている。規制部材7は、中間部材3の溝部32内に取り付けられている。規制部材7は、揺動部材6が揺動したときに、揺動部材6と当接する。本実施形態では、規制部材7は、揺動部材6のウェイト部61と当接する。このように規制部材7は、揺動部材6と当接することによって、揺動部材6のそれ以上の揺動を規制する。この結果、クラッチ部5に対する押圧部62の押圧力を一定値以下に抑えることができる。このため、過剰なトルクが入力された場合、クラッチ部5に滑りが発生し、所定値以上のトルクは伝達されない。
【0051】
[カム機構8]
カム機構8は、入力部材2と中間部材3とが相対回転したときに、中間部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させるように構成されている。図2に示すように、カム機構8は、第1カム部81と、第2カム部82とを有している。
【0052】
第1カム部81は、発進時や加速時などに、入力部材2からのトルクが中間部材3に伝達されて入力部材2と中間部材3とが相対回転したときに機能する。第1カム部81は、入力部材2と中間部材3とが相対回転したとき、中間部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させる。第1カム部81は、第1カム面81a及び第2カム面81bを有している。
【0053】
第1カム面81aは、入力部材2のサポートプレート22に形成されている。第1カム面81aは、第2柱部221の周方向を向く側面によって構成されている。第1カム面81aは、回転方向を向くとともに軸方向の第1側を向くように傾斜している。なお、回転方向とは、モータサイクルが前進する際に遠心クラッチ10が回転する方向である。図2の右方向が回転方向である。
【0054】
第2カム面81bは、第1カム面81aと対向するように延びている。第2カム面81bは、中間部材3に形成されている。詳細には、第2カム面81bは、中間部材3の摺動部35に形成されている。第2カム面81bは、回転方向の逆方向を向くとともに軸方向の第2側を向くように傾斜している。第2カム面81bと第1カム面81aとの間隔は、軸方向の第1側に向かって狭まっている。なお、第2カム面81bと第1カム面81aとの間隔は、軸方向において略一定であってもよい。第2カム面81bの長さは、第1カム面81aの長さよりも短い。
【0055】
第2カム部82は、減速時又はキックスタート時などに中間部材3から入力部材2にトルクが伝達されて入力部材2と中間部材3とが相対回転したときに機能する。第2カム部82は、入力部材2と中間部材3とが相対回転したとき、中間部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させる。第2カム部82は、第3カム面82a及び第4カム面82bを有している。
【0056】
第3カム面82aは、入力部材2のサポートプレート22に形成されている。第3カム面82aは、第2柱部221の周方向を向く側面によって構成されている。第3カム面82aは、回転方向の逆方向を向くとともに軸方向の第1側を向くように傾斜している。
【0057】
第4カム面82bは、第3カム面82aと対向するように延びている。第4カム面82bは、中間部材3に形成されている。詳細には、第4カム面82bは、中間部材3の摺動部35に形成されている。第4カム面82bは、回転方向を向くとともに軸方向の第2側を向くように傾斜している。第4カム面82bと第3カム面82aとの間隔は、軸方向の第1側に向かって狭まっている。なお、第4カム面82bと第3カム面82aとの間隔は、軸方向において略一定であってもよい。第4カム面82bの長さは、第3カム面82aの長さよりも短い。
【0058】
[遠心クラッチ10の動作]
次に、遠心クラッチ10の動作について説明する。まず、停止時には、遠心クラッチ10はクラッチオフ状態である。すなわち、遠心クラッチ10は、固定ボス103と駆動シャフトとの間でトルクを伝達しない。詳細には、遠心クラッチ10のクラッチ部5においてトルクの伝達を遮断する。このため、容易にモータサイクルを押して移動させることができる。
【0059】
発進する際は、固定ボス103から入力部材2にトルクが入力される。ここで、入力部材2が中間部材3と相対回転するため、中間部材3がクラッチ部5に向かって移動する。詳細には、入力部材2が中間部材3と相対回転することによって、第1カム面81aと第2カム面81bとが当接し、カム機構8の第1カム部81が作動する。この結果、中間部材3は、クラッチ部5に向かって移動する。
【0060】
入力部材2からのトルクが中間部材3に伝達されて中間部材3が回転すると、中間部材3とともに回転する揺動部材6は遠心力によって揺動する。詳細には、ウェイト部61が径方向外側に移動して押圧部62がクラッチ部5側に移動するように揺動部材6は揺動する。この結果、押圧部62がクラッチ部5を押圧し、クラッチ部5はクラッチオン状態となる。中間部材3は上述したようにカム機構8によってクラッチ部5側に移動している。この中間部材3の軸方向の移動した分、揺動部材6の押圧部62によるクラッチ部5の押圧力が増加しているため、低回転時におけるクラッチ部5のトルク伝達容量が向上している。
【0061】
クラッチ部5は、オン状態となることで、中間部材3からのトルクを出力部材4へと伝達する。そして、出力部材4は、駆動シャフトへとトルクを出力する。このように、遠心クラッチ10に入力されたトルクは、ドライブプレート21、サポートプレート22、中間部材3、揺動部材6、クラッチ部5、出力部材4の順で駆動シャフトへと伝達される。すなわち、遠心クラッチ10に入力されたトルクは、一旦、軸方向の第2側に向かった後に、軸方向の第1側に向かって伝達される。
【0062】
一方、アクセルを緩めたりして減速した場合やキックスタータによってエンジンを始動させる場合、中間部材3が入力部材2に対して回転方向に相対回転する。この結果、第3カム面82aと第4カム面82bとが当接してカム機構8の第2カム部82が作動する。そして、中間部材3がクラッチ部5側に移動し、揺動部材6によるクラッチ部5の押圧力が増加する。
【0063】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態では、カム機構8は、第1カム部81と第2カム部82との2つのカム部を有しているが、カム機構8は第2カム部82を有していなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、規制部材7は、環状の線条部材によって構成されているが、これに限定されない。例えば、中間部材3に固定された突起部などによって規制部材を構成することができる。
【符号の説明】
【0066】
2 入力部材
21 ドライブプレート
22 サポートプレート
3 中間部材
4 出力部材
5 クラッチ部
6 揺動部材
61 ウェイト部
62 押圧部
7 規制部材
8 カム機構
81a 第1カム面
81b 第2カム面
10 遠心クラッチ
100 プーリ装置
101 固定シーブ
102 可動シーブ
103 固定ボス
104 可動ボス
図1
図2