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特許7244178人工関節設置手術支援用ガイドシステム及びその器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】人工関節設置手術支援用ガイドシステム及びその器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/46 20060101AFI20230314BHJP
   A61F 2/36 20060101ALI20230314BHJP
   A61B 17/56 20060101ALI20230314BHJP
   A61F 2/34 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A61F2/46
A61F2/36
A61B17/56
A61F2/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018237311
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020096761
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518451264
【氏名又は名称】藤井 英紀
(73)【特許権者】
【識別番号】510183475
【氏名又は名称】アルスロデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英紀
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 縁
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-042818(JP,A)
【文献】特開2010-078383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/46
A61F 2/36
A61B 17/56
A61F 2/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節を設置する際に、必要な手術を施すための手術器具の適切な位置及び姿勢を、術前計画に基づいて決定するための人工関節設置手術支援用ガイドシステムであって、
前記手術器具側に設置され、レーザ装置を備えた手術器具側ガイド器具,
骨側に設置され、前記レーザ装置から出力されるレーザ光が投影される患者適合型手術支援ガイド器具,
を備えており、
前記手術器具側ガイド器具は、
前記患者適合型手術支援ガイド器具と離間しており、
前記レーザ装置から出力されるレーザ光の光軸を、人工関節設置軸方向に位置調整するレーザ光調整手段,
を備えており、
前記患者適合型手術支援ガイド器具は、
前記レーザ光が投影されるターゲット,
を備えており、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記手術器具に対する前記レーザ装置の位置調整を前記レーザ光調整手段によって行うとともに、前記患者適合型手術支援ガイド器具における前記ターゲットを設定したことを特徴とする人工関節設置手術支援用ガイドシステム。
【請求項2】
前記手術器具側ガイド器具のレーザ装置が、前記レーザとして十字レーザ光を出力するレーザ装置であり、
前記ターゲットが、予め術前計画で定めた十字状のターゲットであり、
前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となったときに、前記十字レーザ光の十字と、前記ターゲットの十字が一致するように、前記レーザ光調整手段による調整が行われていることを特徴とする請求項1記載の人工関節設置手術支援用ガイドシステム。
【請求項3】
前記患者適合型手術支援ガイド器具が、
予め術前計画で得た骨の形状に対応する形状であって、骨に当接してガイド器具を固定するための当接固定部を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の人工関節設置手術支援用ガイドシステム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の人工関節設置手術支援用ガイドシステムで使用する手術器具側ガイド器具であって、
前記レーザ装置から出力されるレーザ光の光軸を、人工関節設置軸方向に位置調整するレーザ光調整手段を備えており、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記手術器具に対する前記レーザ装置の位置調整を前記レーザ光調整手段によって行うことを特徴とする手術器具側ガイド器具。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の人工関節設置手術支援用ガイドシステムで使用する患者適合型手術支援ガイド器具であって、
前記レーザ光が投影されるターゲットを備えており、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記ターゲットを設定したことを特徴とする患者適合型手術支援ガイド器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節設置手術においてコンポーネント(部品)を設置する際に好適な手術支援用のガイドシステムに関し、特に大腿骨ステムや臼蓋カップなどの設置を行うための人工関節設置手術支援用ガイドシステム及びその器具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工関節手術において、大腿骨ステムやカップなどの人工関節コンポーネントの適切な設置は、人工関節に加わる応力を適切に骨に伝達させるために、また脱臼を生じることなく適切な可動域を得るために重要である。正確に骨切りし、正確な場所(位置・角度)に人工関節コンポーネントを設置することで、良好な荷重分散と可動域が得られるとともに、コンポーネントの摩耗や緩みの発生が軽減され、人工関節の取り換え時期を遅くして長寿命化を図ることが可能となり、最終的にQOL(quality of life)の向上につながるようになる。
【0003】
すなわち、人工関節コンポーネントを適切なアライメント位置へ設置することは、脱臼を生じさせない設置とし、患者個々の骨に対して許容する至適サイズの人工関節コンポーネントを適合させ、安定化を図り、術後成績を左右する因子となるため、人工関節手術の要点の1つである。例えば、人工股関節置換術の場合を例に挙げると、
a,大腿骨頭の切除,
b,大腿骨骨髄腔の掘削(骨髄を掘削して髄腔を形成すること),
c,大腿骨ステムの挿入固定ないし設置
という手順で行なわれる。最も重要な前記cにおける大腿骨ステムの挿入固定ないし設置を行う上で、前記aの大腿骨頭の切除と、前記bの髄腔の掘削を適切な切除位置・掘削方向に対して行う必要がある。
【0004】
これらの操作は、術前計画に基づいて行うが、実際の手術において参考にできるのは、術野で直視できる皮膚切開部から展開された一部分の骨である。しかし、肥満のために術部の展開が限られる症例も多い。また、骨形態に変形が著しい場合には、通常のアナトミーとかけ離れていることから、術者が判断を誤り、術前計画とは異なる高さでの大腿骨頭の切除,異なる方向への髄腔の掘削,更には、異なる位置での大腿骨ステムの設置を行なってしまう恐れがある。このような場合、大腿骨ステムの挿入中に大腿骨が骨折する,あるいは術後に脱臼するなど、術中や術後において合併症が起きる可能性が想定される。現在、コンピュータ技術によって精密な術前計画を手術中に誘導するナビゲーション装置が開発されているが、一般的には普及しておらず、術者(医師)の経験や勘を頼りに設置位置決めや設置方向のアライメントを行っているのが実情であり、術前計画を正確に再現できる、より簡便で操作のしやすい手法や器具が求められている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、骨切除や骨髄腔の掘削作業あるいはコンポーネント設置などの作業を、術前計画に沿って短時間で的確に行うとともに、術者が直感的に把握することを目的としたナビゲーションシステム及びガイド器具が開示されている。これによれば、相対角度検出器を設けた患者適合型の手術支援ガイド器具を、大腿骨頸部の該当箇所に押し付けて密着固定し、固定ガイド具の当接固定部の端縁に沿って大腿骨頭の骨切りを行うとともに、大腿骨ステムの挿入中心点を把握する。次に、術者は、相対角度検出器を設けたステム側ガイド器具の把持部を持ち、ラスプの先端を、前記ステムの挿入中心点に立てる。この状態で、相対角度検出器の姿勢の様子を姿勢検出装置で把握し、ステム側ガイド器具の角度を修正しつつ、最適な姿勢で大腿骨の髄腔の掘削やステムの挿入を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-19813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した背景技術ではワイヤを使用しており、これを利用することで、
a,相対角度検出器を収納する収納部を、固定ガイド具に固定することができる。
b,相対角度検出器に予め設定した直交座標軸の一つがワイヤの方向と一致しているので、可動片のワイヤガイドがワイヤに当接するようにすることで、ラスプの中心がステム挿入点となるように、位置決めを行うことができる。
c,ワイヤの目盛を参照することで、ラスプによる掘削深さやステムの挿入深さを知ることができる。
としている。しかしながら、上述した背景技術では、ワイヤが存在することによる利点もあるが、ラスプによる掘削時は、むしろワイヤが髄腔掘削作業の妨げとなることがあるため、必要によっては外して操作する必要がある。また、ラスプの中心方向の一致を棒状のワイヤで確認する際には、内外反・屈曲方向と回旋方向それぞれの参照軸に対して縦横に差し替える必要がある。更には、正確に術前計画の方向を確認するために参照軸の正面から目視する必要があり、斜めから見た場合に方向を見間違えることがあるといった課題もある。
【0008】
本発明は、以上のような点に着目したもので、ラスプなどの設置作業や骨髄腔の掘削作業の妨げとならず、参照軸によって付け替えの必要がなく、目視によって方向を間違えることもなく、術前計画に沿って短時間で的確に行うことができる人工関節設置手術支援用ガイドシステム及びその器具を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の人工関節設置手術支援用ガイドシステムは、人工関節を設置する際に、必要な手術を施すための手術器具の適切な位置及び姿勢を、術前計画に基づいて決定するための人工関節設置手術支援用ガイドシステムであって、前記手術器具側に設置され、レーザ装置を備えた手術器具側ガイド器具,骨側に設置され、前記レーザ装置から出力されるレーザ光が投影される患者適合型手術支援ガイド器具を備えており、前記手術器具側ガイド器具は、前記患者適合型手術支援ガイド器具と離間しており、前記レーザ装置から出力されるレーザ光の光軸を、人工関節設置軸方向に位置調整するレーザ光調整手段を備えており、前記患者適合型手術支援ガイド器具は、前記レーザ光が投影されるターゲットを備えており、前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記手術器具に対する前記レーザ装置の位置調整を前記レーザ光調整手段によって行うとともに、前記患者適合型手術支援ガイド器具における前記ターゲットを設定したことを特徴とする。

【0010】
主要な形態の一つによれば、前記手術器具側ガイド器具のレーザ装置が、前記レーザとして十字レーザ光を出力するレーザ装置であり、前記ターゲットが、予め術前計画で定めた十字状のターゲットであり、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となったときに、前記十字レーザ光の十字と、前記ターゲットの十字が一致するように、前記レーザ光調整手段による調整が行われていることを特徴とする。
【0011】
他の形態によれば、前記患者適合型手術支援ガイド器具が、予め術前計画で得た骨の形状に対応する形状であって、骨に当接してガイド器具を固定するための当接固定部を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の手術器具側ガイド器具によれば、前記レーザ装置から出力されるレーザ光の光軸を、人工関節設置軸方向に位置調整するレーザ光調整手段を備えており、前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記手術器具に対する前記レーザ装置の位置調整を前記レーザ光調整手段によって行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の患者適合型手術支援ガイド器具によれば、前記レーザ光が投影されるターゲットを備えており、前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記ターゲットに投影したときに、前記手術器具が、術前計画で定められた位置及び姿勢となるように、前記ターゲットを設定したことを特徴とする。
【0014】
前記人工関節の例としては、股関節における大腿骨ステムやカップコンポーネントが該当する。前記レーザ光としては、例えば十字状のレーザ光が使用される。また、前記レーザ光調整手段の例としては、直交する二次元ないし三次元の方向にレーザ装置を移動することができるスライド式の調整器具が該当する。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ラスプなどの人工関節手術器具側のガイド器具にレーザ装置を取り付けるとともに、患者個別に手術計画を基に設計し造形した患者適合型手術支援ガイド器具に、前記レーザ装置のレーザ光のターゲットとなる投影指標部を設けたシステム構成とするとともに、患者適合型手術支援ガイド器具に人工関節手術器具ガイド器具側からレーザ光を照射して人工関節手術器具の位置合わせ(アライメント)を行うこととしたので、人工関節を設置する手術を、術前計画に沿って短時間で的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1におけるラスプ側ガイド器具を示す斜視図である。
図2】前記図1を矢印F2方向から見た図である。
図3】本発明の実施例における大腿骨側ガイド器具を示す図である。(A)は斜視図であり、同図の矢印F3方向から見た様子が(B)である。
図4】前記ガイド器具による大腿骨髄腔掘削時の様子を示す斜視図である。
図5】前記図4を矢印F5方向から見た図である。
図6】本発明の実施例2を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
以下、図1図5を参照しながら、本発明の人工関節設置手術支援用ガイドシステムを大腿骨ステム設置用のガイドシステムに適用した場合の実施例について説明する。本発明のガイドシステムは、人工関節の手術器具側ガイド器具と、患者適合型手術支援ガイド器具とによって構成されている。まず、手術器具側ガイド器具から説明する。図1は、本実施例の手術器具側ガイド器具であるラスプ側ガイド器具100を示しており、同図を矢印F2方向から見た様子が図2に示されている。これらの図において、髄腔の掘削を行う手術器具であるラスプハンドル10は、全体が弓状に屈曲した本体20の先端側に、人工股関節の形状サイズに相当するラスプ30が着脱固定できる仕組みが設けられており、本体20の反対側には把持部40と、ハンマーで打設するための頭部50が設けられている。把持部40には、固定穴42が形成されている。このようなラスプハンドル10の構造は公知である。
【0019】
次に、本実施例のラスプ側ガイド器具100は、前記ラスプハンドル10の把持部40が収納されるハンドル110を中心に構成されている。ハンドル110は、長手方向側面に開口112が形成されており(図2参照)、ラスプハンドル10の把持部40が前記開口112からハンドル110に収納されるようになっている。ハンドル110には、固定用穴(図示せず)が設けられており、固定用ネジ114を、固定用穴からラスプハンドル10の把持部40の固定穴42を貫通して締めることで、ラスプハンドル10がハンドル110に固定されるようになっている。
【0020】
ここで、大腿骨に設置する人工関節コンポーネントであるステム(図示せず)の挿入方向をZ方向とすると、ハンドル110の下側には、前記Z方向に直交するX方向に、アーム(以下「Xアーム」という)200が設けられている。Xアーム200には、Xスライダ210が摺動可能に設けられており、固定ネジ212の締緩によって、Xスライダ210を移動することで、Xアーム200に対するXスライダ210のX方向の位置を調整できるようになっている。
【0021】
Xスライダ210には、X方向に直交するY方向に延びるYアーム300が設けられており、固定ネジ230を締めることにより、Xスライダ210に対してYアーム300が固定されている。
【0022】
Yアーム300には、Yスライダ310が摺動可能に設けられており、固定ネジ312の締緩によってYスライダ310を移動することで、Yアーム300に対するYスライダ310のY方向の位置を調整できるようになっている。Yスライダ310には、レーザ装置400が設けられており、上述したZ方向に向かって、十字状のレーザ光が出力されるようになっている。
【0023】
以上のようなラスプ側ガイド器具100の基本的な作用を説明すると、ハンドル110には、その開口112にラスプハンドル10の把持部40が嵌め込まれる。そして、固定用ネジ114を、ハンドル110からラスプハンドル10の把持部40を貫通して締めることで、ラスプハンドル10がハンドル110に固定される。一方、レーザ装置400は、Xスライダ210がXアーム200に沿って移動するとともに、Yスライダ310がYアーム300に沿って移動することで、X-Y方向に移動する。これらにより、前記レーザ装置400をX-Y面内で移動させ、手術時にレーザ光が人工関節設置軸方向(すなわちラスプハンドル10の中心軸方向=Z方向)となるように位置調整する。すなわち、ラスプ30を他のサイズ形状に付け替えた際にも、その人工関節設置軸に対してレーザ光の中心を一致させるように調整可能としている。
【0024】
次に、大腿骨側に設置される患者適合型手術支援ガイド器具500について説明する。図3(A)には患者適合型手術支援ガイド器具500が示されており、同図の矢印F3から見た様子が同図(B)に示されている。これらの図において、患者適合型手術支援ガイド器具500は、
a,大腿骨に当接して密着させる患者適合型手術支援ガイド器具500の全体を固定するための当接固定部510,
b,レーザ光の投影位置を示すための投影指標部(ターゲット)520,
を備えている。
【0025】
これらのうち、当接固定部510は、上述した特許文献と同様であり、大腿骨TBの大腿骨頚部の大転子及び小転子にそれぞれ当接するとともに、大転子から小転子に至る転子間稜に引っかかる鈎部から大腿骨頚部に習った凹部を有する当接部512を備えている。転子間稜を跨いで習う形状である鈎部を設けることで、少ない接触面積で安定して大腿骨頸部に対する固定が可能となる。当接部512の端縁512Aは、大腿骨頚部の骨切り高位(切断位置)を示すように形成されている。骨切り高位は、患者の足の長さ,大腿骨TBの髄腔の形状,使用する大腿骨ステムのサイズ等を考慮して、術前計画の段階で医師が決定する。
【0026】
次に、投影指標部520は、直方体のブロックBA,BB,BCによって構成されており、それらブロックBA,BB,BCが交差した構造となっている。別言すれば、交差中心から、直交する方向に、ブロックBA,BB,BCがそれぞれ延設された構造となっている。ブロックBBの一部は、当接固定部510の当接部512の端縁512Aに沿って斜めに切り落とされている。すなわち、当接部512の端縁512Aに沿って大腿骨頸部を切断するときに、位置表示部520の各ブロックが切断を邪魔しないようになっている。これらのブロックBA,BB,BCには、ワイヤ保持貫通孔QA,QB,QCがそれぞれ貫通形成されており、表面には十字ターゲットTGが設けられている。これらのワイヤ保持貫通孔QA,QB,QCは、上記特許文献に示したように、ガイド用のワイヤを挿通するためのもので、ワイヤを使用するガイド器具として使用することも可能なようになっている。
【0027】
以上のような形状・構造の患者適合型手術支援ガイド器具500は、次のようにして製作される。
(1),まず、人工股関節置換術を受ける患者の股関節部分のCT(コンピュータ断層撮影)画像もしくはMRI(磁気共鳴)画像を取得する。
(2),次に、コンピュータによって股関節部分の三次元画像を得るとともに、この三次元画像に基づいて、人工股関節置換術の術前計画を行う。このような人工股関節置換術用の三次元術前計画ソフトウエアとしては、例えば、株式会社レキシー製「ZedHip」がある。これにより、
a,患者の大腿骨TBの形状,
b,使用する大腿骨ステム(インプラント)のサイズ,
c,骨切り高位,
d,内反・外反,前捻・後捻,屈曲・伸展の各方向,
e,大腿骨TBの骨切り面TBCにおける大腿骨ステムの挿入中心点DX,
が決定される。
(3),次に、3Dプリンタなどを用いたラピッドプロトタイピング技術を応用し、光樹脂等で患者適合型手術支援ガイド器具500を製作する。患者適合型手術支援ガイド器具500の当接固定部510は、前記aの患者の大腿骨TBの形状,前記cの骨切り高位によって、その形状が特定される。患者適合型手術支援ガイド器具500の投影指標部520は、前記dの各方向,前記eの骨切り面TBCにおけるステム挿入中心点DXによって、その形状が特定される。加えて、ブロックBA,BB,BCのワイヤ保持貫通孔QA,QB,QCの方向が、図1に示したZ,X,Y方向にそれぞれ一致するように、投影指標部520の形状が特定される。ステム挿入中心点DXは、図3(A)に示すように、投影指標部520に投影されるレーザ光のX方向の延長上に位置する。患者適合型手術支援ガイド器具500は、股関節部分の患者固有の骨性凹凸に対応しているため、患者毎に製作される。以上の点は、上述した背景技術と同様である。
【0028】
次に、図4及び図5も参照しながら、本実施例の作用を説明する。まず、上述した患者適合型手術支援ガイド器具500を、滅菌処理の後、大腿骨頸部の該当箇所に、転子間稜を跨ぐように、術者の手によって押し付け、あるいは、ブロックBCの孔QCから固定ピンを打設することで骨表面に密着固定する。次に、術者は、患者適合型手術支援ガイド器具500の当接部512の端縁512Aに沿って、大腿骨頭を切断する。図3図5には、切断後の様子が示されている。続いて、術者は、大腿骨ステムの挿入中心点DX(図3参照)を把握する。挿入中心点DXを把握する方法としては、例えば、特開2014-42818号公報に開示されているステム用補助具を利用する。必要があれば、挿入中心点DXにおける大腿骨ステムの挿入方向に、小径のドリルを用いてパイロットホールを開けるようにしてもよい。以上の大腿骨頭の切断については、前記公報と同様である。
【0029】
次に、術者は、術前計画に基づき、使用するラスプハンドル10を、ラスプ側ガイド器具100のハンドル110に取り付けるとともに、Yスライダ310をYアーム300に沿ってスライドさせることにより、レーザ装置400の位置を、十字レーザ光の一つの面がラスプ30の中心軸を通るように照射される位置に、調整して固定する。
【0030】
次に、術者は、ラスプ側ガイド器具100のハンドル110を持ち、ラスプハンドル10のラスプ30の先端を、大腿骨TBの骨切り面TBCにおける挿入中心点DXに当てるとともに、レーザ装置400から出力された十字レーザ光LBが十字ターゲットTGに当たるように、すなわち、患者適合型手術支援ガイド器具500の投影指標部520の中心(ブロックBAの穴QAの中心)となり、十字レーザ光の各面が投影指標部520の直方体の十字ブロックBA,BB,BCの中心を3次元的に平行に通過するように、ラスプハンドル10の姿勢(方向ないし傾き)を調整する。上述したように、投影指標部520の十字ブロックBA,BB,BCのワイヤ保持貫通孔QA,QB,QCの方向が、図1に示したZ,X,Y方向にそれぞれ一致するように予め形状が決定されており、十字レーザ光が、十字型ブロック形状の投影指標部520の中心を3次元的に平行に通過するように、レーザ装置400の位置が設定されている。このため、術者は、十字レーザ光LBを参照し、これが投影指標部520の十字ターゲットTGに投影されるように、ラスプ側ガイド器具100の姿勢を調整することで、ラスプハンドル10の姿勢も術前計画に沿った姿勢となるように調整されることとなる。なお「3次元的に平行」とは、十字レーザ光がZ軸方向からX-Y平面内に投影されるようにという意味である。
【0031】
この状態で、術者がラスプハンドル10の頭部50をハンマー(図示せず)で打設することで、ラスプ30による大腿骨TBの髄腔の掘削が行われる。この動作を、ラスプハンドル10にラスプ30の大きさを変更する毎に繰りし行うことで、術前計画に沿った髄腔の掘削を行う。なお、掘削の深さは、術者の判断であるが、一例を示すと、大腿骨頚部の骨切り高位(切断位置)を示す骨切線が目安であり、骨切線よりラスプ30が例えば4mm程度深く入るようであれば、次のサイズのラスプ30に交換し、フィットするまで繰り返される。
【0032】
以上のように、本実施例によれば、ラスプ側ガイド器具100と患者適合型手術支援ガイド器具500によって大腿骨ステム設置用ガイドシステムを構成するとともに、患者適合型手術支援ガイド器具500にラスプ側ガイド器具100から十字レーザ光を照射してガイド器具の位置合わせ(アライメント)を行うこととしたので、次のような効果が得られる。
a,大腿骨TBの髄腔に対するラスプハンドル10の設置や掘削作業を、術前計画に沿って短時間で的確に行うことができる。
b,ワイヤを使用しないので、掘削操作の邪魔にならず、ワイヤを、途中で取り外したり、方向を付け替えたりせずに、作業を円滑に行うことができる。
c,ガイド器具の構成が簡略化され、操作性が向上する。
【実施例2】
【0033】
次に、図6を参照しながら、本発明の実施例2について説明する。前記実施例では、人工股関節置換術の大腿骨側ステムコンポーネントの設置を行う場合を例に挙げたが、カップ打込器による臼蓋側のカップコンポーネント設置においても、臼蓋辺縁に適合する十字のターゲットを設けた患者個別ガイド器具とカップ打込器側に十字レーザ装置を用いるシステムとすることで、同様にして、手術計画の角度(姿勢ないし傾き)となるように、臼蓋側カップコンポーネントを設置誘導することができる。
【0034】
図6には、骨盤PBの股関節HBに対して、カップインパクター600により、カップコンポーネント604を設置する場合の様子が示されている。カップインパクター600は、カップインパクターシャフト602の先端にカップコンポーネント604が取り付けられており、反対側にはハンドル606が設けられている。本実施例の人工関節設置手術支援用ガイドシステムは、前記カップインパクター600側に設置される手術器具側ガイド器具150と、前記カップコンポーネント604側に設置される患者適合型手術支援ガイド器具550とによって構成されている。
【0035】
次に、手術器具側ガイド器具150について説明する。なお、上述したカップコンポーネント604の挿入方向をZ方向とし、これに直交する方向をX,Y方向とする。上述したカップインパクターシャフト602には、シャフトスライダ152が、固定ネジ154の締緩によってスライド可能に設けられている。このシャフトスライダ152には、直交する方向にYアーム156が設けられており、固定ネジ158の締緩によって移動可能となっている。Yアーム156にはYスライダ160が設けられており、固定ネジ162の締緩によって移動可能となっている。Yスライダ160には、ホルダ164が設けられており、レーザ装置166が設けられている。このレーザ装置166からは、Yアーム156と直交する方向、すなわち、カップインパクターシャフト602の方向に十字状のレーザ光を出力するようになっている。
【0036】
一方、患者適合型手術支援ガイド器具550は、患者の臼蓋の辺縁に適合して、カップコンポーネント604の位置,角度,リーミング深さを誘導するためのもので、患者の臼蓋の辺縁に当接する当接固定部552と、投影指標部554を備えている。当接固定部552は、上述した実施例と同様に、患者の股関節部分のCT画像などのデータに基づいて術前計画の中で形状が特定され、患者毎に製作される。
【0037】
投影指標部554は、十字状のブロックによって構成されており、表面には十字のターゲットTGが設けられている。また、中心には、ワイヤを使用するガイド器具として使用できるように、ワイヤ保持貫通孔QZが設けられている。そして、カップコンポーネント604が適切な設置位置となったときに、カップインパクターシャフト602の方向がZ方向と一致し、かつ、投影指標部554のX-Y面に、レーザ装置166から出力された十字レーザ光が投影されるように、術前計画において、投影指標部554が形成され、手術器具側ガイド器具150におけるレーザ装置166の位置が特定される。
【0038】
従って、術者は、カップインパクター600のハンドル606を把持して、投影指標部554の十字ターゲットと十字レーザ光LBとが合致するように、カップインパクターシャフト602の方向や角度を調整することで、術前計画に沿った姿勢ないし傾きとなるようにカップコンポーネント604の誘導・設置を行うことができる。また、ワイヤを使用しないので、カップコンポーネント604の設置操作の邪魔にならず、作業を円滑に行うことができる。
【0039】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した各器具の形状や構造は一例であり、同様の作用を奏するように適宜変更してよい。
(2)人工関節としては、セメント型,セメントレス型があるが、いずれのタイプであっても、本発明は適用可能である。
(3)大腿骨頸部の切除,ラスプによる大腿骨髄腔の掘削,大腿骨ステムの挿入といった作業を、異なる器具を利用して行うことを妨げるものではない。例えば、大腿骨ステムの挿入は、上述したステム側ガイド器具とは異なるステムインパクター等(図示せず)を用いて行うようにしてよい。
(4)前記実施例では、ラスプ側ガイド器具100から患者適合型手術支援ガイド器具500に向かってレーザ光を照射したが、逆であっても、原理的には可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ラスプなどの人工関節手術器具側のガイド器具にレーザ装置を取り付けるとともに、患者個別に手術計画を基に設計し造形した患者適合型手術支援ガイド器具に、前記レーザ装置のレーザ光のターゲットとなる投影指標部を設けたシステム構成とするとともに、患者適合型手術支援ガイド器具に人工関節手術器具ガイド器具側からレーザ光を照射して人工関節手術器具の位置合わせ(アライメント)を行うこととしたので、人工関節を設置する手術を、術前計画に沿って短時間で的確に行うことができ、人工関節置換術に好適である。
【符号の説明】
【0041】
10:ラスプハンドル(手術器具)
20:本体
30:ラスプ
40:把持部
42:固定穴
50:頭部
100:ラスプ側ガイド器具(手術器具側ガイド器具)
110:ハンドル
112:開口
114:固定用ネジ
150:手術器具側ガイド器具
152:シャフトスライダ
154:固定ネジ
156:Yアーム
158:固定ネジ
160:Yスライダ
162:固定ネジ
166:レーザ装置
200:Xアーム
210:Xスライダ
212:固定ネジ
230:固定ネジ
300:Yアーム
310:Yスライダ
312:固定ネジ
400:レーザ装置
500:患者適合型手術支援ガイド器具
510:当接固定部
512:当接部
512A:端縁
520:投影指標部
550:患者適合型手術支援ガイド器具
552:当接固定部
554:投影指標部
600:カップインパクター
602:カップインパクターシャフト
604:カップコンポーネント
606:ハンドル
BA,BB,BC:十字ブロック
DX:ステム挿入中心点
LB:十字レーザ光
QA,QB,QC:ワイヤ保持貫通孔
TB:大腿骨
TBC:骨切り面
HB:股関節
PB:骨盤
QZ:ワイヤ保持貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6