(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】流動降伏応力流体の特性の測定
(51)【国際特許分類】
G01N 11/16 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
G01N11/16 A
(21)【出願番号】P 2019558696
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 GB2018051138
(87)【国際公開番号】W WO2018197902
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-27
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500375291
【氏名又は名称】ハイドラモーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ギャラガー, ジョン
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0000285(US,A1)
【文献】特表2015-503767(JP,A)
【文献】特開2015-190829(JP,A)
【文献】特開平04-178537(JP,A)
【文献】特表2002-503819(JP,A)
【文献】米国特許第04524610(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、前記降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、
振動変換器の振動表面を
第1の周波数の振動で振動させ、
第1の距離を伝播する波を前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達することにより、振動の減衰度の
第1の測定を行うステップと、
振動変換器の振動表面を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、前記第1の距離よりも短い第2の距離を伝播する波を、前記振動表面から前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達することにより、前記振動の減衰度の第2の測定を行うステップと、
前記振動の減衰度の
第1の測定値および第2の測定値の線形結合に基づいて、前記流動降伏応力流体の前記降伏応力を推定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
流動降伏応力流体の降伏応力を推定するための装置であって、
各々が振動表面を有する1つ以上の振動変換器と、
処理モジュールであって、
振動変換器の振動表面を
第1の周波数の振動で振動させ、
第1の距離を伝播する波を前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達することにより、振動の減衰度の
第1の測定を行い、
振動変換器の振動表面を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、前記第1の距離よりも短い第2の距離を伝播する波を、前記振動表面から前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達することにより、前記振動の減衰度の第2の測定を行い、
前記振動の減衰度の
第1の測定値および第2の測定値の線形結合に基づいて、前記流動降伏応力流体の前記降伏応力を推定するように構成された、処理モジュールと、
を備える、装置。
【請求項3】
前記処理モジュールが、前記第1の周波数および前記第2の周波数の振動ならびに前記降伏応力流体のべき乗則指数に基づいて、前記振動の減衰度の前記第1の測定値および前記第2の測定値の一方または両方に対する補正を実行するようにさらに構成された、請求項
2に記載の装置。
【請求項4】
前記流動降伏応力流体の前記降伏応力の推定値が、
【数1】
に比例し、
式中、V1が前記振動の減衰度の第1の測定値であり、V2が前記振動の減衰度の第2の測定値であり、ω1が第1の周波数の振動の角周波数であり、ω2が第2の周波数の振動の角周波数であり、nがべき乗則指数である、請求項
2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記処理モジュールが、
振動変換器の前記振動表面を、前記第1の周波数および前記第2の周波数の振動とは異なる第3の周波数の振動で振動させ、前記第1の距離よりも短い第3の距離を伝播する波を、前記流動降伏応力流体の前記粘塑性境界層に伝達して、前記振動の減衰度の第3の測定を行い、
前記振動の減衰度の前記第3の測定による第3の測定値および前記第3の周波数の振動、ならびに
前記振動の減衰度の前記第1の測定値および前記第1の周波数の振動および
前記振動の減衰度の前記第2の測定値および前記第2の周波数の振動のうちの1つに基づいて、
前記流動降伏応力流体の前記べき乗則指数を推定するようにさらに構成された、請求項
3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記処理モジュールが、前記振動の減衰度の前記第1の測定値および前記第2の測定値の比に基づいて、前記流動降伏応力流体の流動速度を推定するようにさらに構成された、請求項
2~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
1つ以上の凹部または1つ以上の隆起部が、前記1つ以上の振動変換器の振動表面に設けられるか、または導管壁の隣接部分に設けられる、請求項
2~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記1つ以上の振動変換器が、ねじりモードで振動するように構成された、シャフトと前記シャフトの一端に配置されたボブとを有する振動変換器を含み、前記シャフトが軸線を有し、前記振動変換器が前記シャフトの軸線の周りにねじりモードで振動するように構成されており、前記ボブが表面に1つ以上の凹部または隆起部を備える、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
前記ボブの前記表面上の前記1つ以上の凹部または隆起部が、流動から降伏応力流体を隔離するように構成された、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
前記ボブが軸対称であり、前記1つ以上の凹部または隆起部が前記ボブの周囲に沿って延びる、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記ボブが、前記ボブの前記表面上に、前記ボブの前記表面上を前記シャフトの前記軸線に垂直でも平行でもない方向に延びる1つ以上の凹部または隆起部を備える、請求項
9に記載の装置。
【請求項12】
前記ボブの前記表面上の前記1つ以上の凹部または隆起部が、前記ボブの前記表面の周りに螺旋状に延びる、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記ボブの前記表面上の前記1つ以上の凹部または隆起部が、前記シャフトの前記軸線に平行な方向に延びる、請求項
8に記載の装置。
【請求項14】
前記導管が、前記1つ以上の振動変換器に隣接する内面に、1つ以上の隆起部または凹部を備える、請求項
7に記載の装置。
【請求項15】
前記導管が内面に1つ以上の凹部を備え、振動変換器の一部が前記凹部内に配置された、請求項
14に記載の装置。
【請求項16】
前記1つ以上の振動変換器が振動管型変換器を含む、請求項
7に記載の装置。
【請求項17】
前記振動管型変換器が、前記振動管の内面上に、流動から前記降伏応力流体を隔離するように構成された1つ以上の凹部または隆起部を備える、請求項
16に記載の装置。
【請求項18】
前記振動管型変換器の内面が軸対称であり、前記1つ以上の凹部または隆起部が前記振動管型変換器の周囲に沿って延びる、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
前記振動管型変換器の内面が、前記振動管型変換器の前記内面上の、前記振動管型変換器の軸線に垂直でも平行でもない方向に延びる、1つ以上の凹部または隆起部を備える、請求項
17に記載の装置。
【請求項20】
前記振動管型変換器の前記内面上の前記1つ以上の凹部または隆起部が、前記内面の周りに螺旋状に延びる、請求項
19に記載の装置。
【請求項21】
前記振動管型変換器の内面上の前記1つ以上の凹部または隆起部が、前記振動管型変換器の軸線に平行な方向に延びる、請求項
16に記載の装置。
【請求項22】
前記振動管型変換器が、ねじりモードで振動するように構成された、請求項
16~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
複数の振動変換器を使用して前記測定が行われる、請求項
2~22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記測定が、単一の振動変換器のみを使用して行われる、請求項
2~22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
ねじりモードで振動する1つ以上の振動変換器を使用して前記測定が行われる、請求項
2~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
命令を格納している、非一時的なコンピュータ可読媒体であって、
流動降伏応力流体と接触する1つ以上の振動変換器に結合された1つ以上のプロセッサによって実行された場合に、前記1つ以上のプロセッサに、
振動変換器の振動表面を
第1の周波数の振動で振動させ、
第1の距離を伝播する波を前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達
することにより、振動の減衰度の第1の測定を行わせ、
振動変換器の振動表面を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、前記第1の距離よりも短い第2の距離を伝播する波を、前記振動表面から前記流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達することにより、前記振動の減衰度の
第2の測定を行わせ、
前記振動の減衰度の
第1の測定値および第2の測定値
の線形結合に基づいて、前記流動降伏応力流体の前記降伏応力を推定させる、
非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体特性の測定のための技術および装置に関し、特に、非ニュートン流体の降伏応力の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
ニュートン流体では、せん断応力はせん断速度に直接比例し、比例定数は流体の粘度である。したがって、単一パラメータとしての粘度を使用して、流体のせん断応力とせん断速度との関係、したがってニュートン流体の流動挙動をモデル化または定義することができる。水はニュートン流体の一例である。
【0003】
非ニュートン流体では、せん断応力とせん断速度との関係は、それほど単純ではない。流体の見かけの粘度は、例えば、せん断応力またはせん断速度によって変化することがわかる。非ニュートン挙動を示す流体には、トマトケチャップ、マヨネーズおよび塗料が含まれる。これらのタイプの流体の流動の研究は、「レオロジー」の分野である。
【0004】
非ニュートン流体のレオロジーモデルが生成されており、流体に関する少数のパラメータを取得することができる。このパラメータを使用して、せん断応力またはせん断速度のある範囲にわたる、流体のせん断応力とせん断速度との関係、すなわち、言い換えれば、これらの特定の条件下で流体によって提供される「見かけの」粘度を測定することができる。
【0005】
従来技術において、レオロジーモデルのそのようなパラメータは、典型的には、回転または振動要素を使用して流体サンプルにせん断力を及ぼす装置を使用して決定される。複雑な粘弾性パラメータは通常、せん断速度と発生したせん断応力との関係を分析することにより決定される。しかしながら、装置は高感度の可動部品およびその性能を使用するため、測定の精度は、使用される環境条件の影響を受ける可能性がある。さらに、せん断速度を正確に計算するために、厳密に画定された体積内で流体サンプルを管理する必要があるため、一般にこれらのタイプの装置は実験室環境にのみ適している。
【0006】
特に興味深いのは、流体の降伏応力のリアルタイム測定である。降伏応力は、固体物質が流動するために必要な応力として定義され、固体の塑性変形点を表す。降伏応力は、多くの流体の特徴であり、例えば食品、塗料および石油地質学的流体の製造において特に重要であるが、泥および堆積物などの天然由来物質においても重要である。
【0007】
流体の降伏応力挙動の詳細および起源は、研究者にとって興味深い主題である。降伏応力を測定するための従来の手法は、Sunらの「Yield Stress in Foods:Measurements and Applications」(International Journal of Food Properties、volume 12、pp 70-101、2009)、およびMalvern Instruments Limited社(英国、ウスターシャー州、マルバーン、グローブウッドロード)が作成した白書「Understanding Yield Stress Measurements」に記載されている。
【0008】
従来の手法は、静的サンプルの降伏応力を測定する。
【0009】
例えば、外挿法には、従来のレオメータから得られるせん断応力対せん断速度データの外挿がある。実験データを外挿してゼロせん断速度に戻し、せん断応力切片で降伏応力値を得る。
【0010】
例えば、応力緩和法では、まず、従来の回転式粘度計で流体材料を一定のせん断速度または一定のせん断応力でせん断し、その後材料を徐々にまたは急に静止させる。次に、降伏応力が、流動が停止したときに流体に残存する残留応力として測定される。
【0011】
例えば、クリープ/回復応答法では、一定のせん断応力が段階的に流体材料に加えられる。加えられる応力が降伏応力を下回る場合、試験材料は、応力を除去すると完全に回復する弾性固体として挙動し、流動しない。降伏点は、時間対せん断ひずみ曲線の勾配の急激な変化から検出することができる。
【0012】
例えば、せん断応力傾斜法では、段階的増加がサンプルに加えられる。瞬間的な(または見かけの)粘度を、流動の開始を示す変曲点の存在と降伏応力とについて監視する。
【0013】
例えば、円錐貫入計の手法では、特定の寸法の金属コーンが試験片の表面に押し込まれる。コーンは、静止するまで徐々に減速する。降伏応力は、コーンが停止したときの貫入深度の関数として計算される。
【0014】
例えば、動的振動法では、材料は正弦波ひずみを受け、生じた応力が時間および周波数の両方の関数として測定される。ひずみ振幅に応じて、材料内で小さな変形が発生する。曲線内の低周波プラトーの存在は、降伏応力と相関関係にあり得る。
【0015】
例えば、傾斜平面法では、均一な流体層をまず水平面に配置し、その後、臨界値に達するまで平面の傾斜角を徐々に大きくすることで、流体が流動し始める。降伏応力は、流体が流動する傾斜角と相関関係にある。
【0016】
例えば、羽根技術では、羽根付き装置が材料に浸漬される。羽根の形状は、レオメータまたは粘度計の細い円筒シャフト上で作動する通常4~8枚の薄いブレードが等しい角度で配置された羽根スピンドルから構成される。羽根は、制御されたせん断速度モードまたは制御されたせん断応力モードで作動させることができ、どちらの場合も、降伏応力は羽根の連続回転に必要な最小応力である。
【0017】
例えば、圧搾流動法では、流体のサンプルをベンチレオメータまたは粘度計の2つの平行な試験表面の間に配置し、「一定の体積」または「一定の面積」配置で圧搾する。圧搾流動による降伏応力の測定は、せん断および緩和後の残留応力に基づく。
【0018】
例えば、プレート法では、プレートをサンプル材料で満たした容器に浸漬させる。付属の天秤がプレートの動きを作り出すのに必要な力を記録し、この力を浮力と組み合わせて降伏応力を測定する。
【0019】
例えば、スランプ試験では、円筒状の金型に試験流体を充填し、金型を持ち上げて材料を崩壊させ、自重で流動させる。初期の高さと最終の高さとの差である落差を測定すると、降伏応力と逆の関係になる。
【0020】
上記の技術とは異なり、別の従来の手法では、磁気共鳴画像法(MRI)を使用して、流動サンプルの降伏応力測定を可能にし、これによって、菅を一定速度で流動する材料サンプルは、MRIスキャナを使用して流動が画像化される。MRIスキャナは、パイプを横切る流体の流動プロファイル(流動速度)を測定することができる。流動プロファイルを、パイプに沿った差圧からの応力の推定値と組み合わせて、降伏応力の測定を行う。
【0021】
流体の降伏応力を測定する上記の従来手法のほとんどすべてにおける欠点は、静的な(非流動)環境に閉じ込められたサンプルに対する要件である。このため、上記の方法はリアルタイム測定に適さない。閉じ込められたサンプルを必要とする従来の方法は、主に断続的なスポット測定および実験室環境に限定される。
【0022】
実際の条件下で降伏応力流体の高速リアルタイムレオロジー測定を行うことが望ましいであろう。これにより、大量の材料を詳細に評価し、制御および管理能力を向上させることができる。特に、装置産業では、インライン測定は継続的な製品管理を可能にするという点で好適である。フィードバックループにより、プロセスのパラメータを降伏応力のインライン測定に基づいて調整することができる。閉じ込められた静的サンプルを使用する従来の手法を使用して、定期的な測定を行うことができるが、必然的に測定に遅れがある。インラインでの高速測定の提供により、測定の遅れが低減または排除されて、プロセスの制御性が向上し、それによって製品の一貫性が向上し、無駄が削減される。
【0023】
掘削泥や潤滑剤のレオロジー特性の測定などの他の用途では、実際の条件下での降伏応力の高速リアルタイムレオロジー測定により、望ましい範囲または許容範囲から外れた流体特性のドリフトを補正するためのより速い介入を可能にすることにより、効率を向上させることができる。
【0024】
海洋、土木工学、鉱業、地盤工学の分野では、流し込みコンクリートおよびセメント、スラリー、ならびに泥などの重要なレオロジー特性を備えた流動材料を、その場で、閉じ込められた静的サンプルを採取せずに高速測定し、複数のデータ点の取得の容易さにより精度を向上させる一方、スポット試験や実験の処理時間に伴う遅れを低減または排除することが望ましい。
【発明の概要】
【0025】
発明者は、粘塑性境界層での降伏応力流体の挙動は、3つの相を使用してモデル化できることを突き止めた。このモデルは、2つの相を使用した「二粘性(bi-viscous)」と呼ばれる境界層の既存のモデルと区別するために、ここでは「三粘性(tri-viscous)」モデルと呼ばれる。固定プレート上に生じた降伏応力流体の流動を考慮すると、固定プレートの摩擦により固定プレートから離れる流動に呼応して流体にせん断応力が生じるため、粘塑性境界層が生じる。固定プレートから離れて、および境界層を超えて、降伏応力流体が完全に降伏しないということは、つまり固体である。境界層の内側および固定プレートの近くで、降伏応力流体が完全に降伏するということは、つまり液体である。三粘性モデルには、境界層内の中間距離から始まり境界層まで延びる第3の状態もあり、完全に降伏した領域と完全に降伏していない領域とを分離する。三粘性モデルによれば、この第3の領域は、材料が完全に降伏することも、完全に降伏しないままでもない遷移領域であり、むしろ液相中に断片化固体を有する領域である。
【0026】
固定プレートの代わりに、流体が振動表面上を流動する場合、流体に伝播し、流体の異なる相で異なる挙動をする波が生じる。簡単に言えば、境界層を超えた完全に降伏しない、すなわち固体の領域を伝播する波は損失が少なく、境界層内の振動表面に近い完全に降伏する、すなわち液体の領域を伝播する波は中程度の損失を受け、完全に降伏した領域を超えるが境界層内の遷移領域を伝播する波は損失が大きい。せん断波などの実体波は固体内を容易に移動するため、損失が低い。完全に降伏した材料では、粘度により損失が大きくなるが、遷移領域ほど大きくない。理論に縛られることを望まないが、液相中にせん断の弱い半固体または断片化固体を有する遷移領域の粒状性は、せん断波などの波の伝播を妨げ、高損失を引き起こすが、このことは半固体または固体断片と液体との相互作用、ならびに固体断片間の相互作用によると考えられる。したがって、二粘性モデルによれば、伝播する波のエネルギー損失は、波が振動表面から液体の境界層(中程度の損失)を通り、境界層を超えて固体の領域(低損失)まで伝播するにつれて減少する。
【0027】
この挙動の違いは、流体の降伏応力、または流体の他のレオロジー特性、場合によって流体の流動速度を推定するために使用することができる。
【0028】
本開示の技術によれば、降伏応力などの流体特性を測定するために複数の手法がある。1つの手法は、単一周波数の振動を使用することである。もう1つは、2つの異なる周波数の振動を使用する二重周波数の手法である。別の手法は、3つの異なる周波数の振動を使用する三重周波数の手法である。
【0029】
単一周波数手法の場合、振動変換器の振動表面から降伏応力流体の境界層に発出する波は、遭遇する領域に応じて減衰またはエネルギー損失を受ける。貫入深度が十分に深い場合、すなわち周波数が十分に低い場合、波が遷移領域に到達し、それによって混合固液相の存在による高いエネルギー損失を受ける可能性がある。理論に縛られることを望まないが、液相からの粘性減衰も測定されるエネルギー散逸を増大させ、遷移層の減衰量は、流動速度と(必ずしも反比例ではないが)逆に変化する、層の近接度によって影響されると考えられる。材料に降伏応力がない場合、固体領域も遷移領域もないため、散逸は、単に、液体の粘性減衰による減衰の特徴である。降伏応力により遷移領域が形成され、波の減衰が大きくなり、エネルギー損失が発生するが、これは、振動の減衰度を測定することで測定することができる。これは、例えば振動のQ係数の測定によって、見かけの粘度を測定することであり得る。実験から、一定の粘度および流動で、測定された見かけの粘度(すなわち損失)は、材料の降伏応力に比例することがわかった。したがって、降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達するステップと、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行うステップと、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含み、降伏応力流体の粘度および流量が一定であり、降伏応力の推定値が、測定された振動の減衰度に、所与の一定の粘度および流量の比例定数を乗じたものに等しい、方法であり得る。
【0030】
二重周波数手法の場合、より高い周波数の第2の振動波を使用することにより、材料への貫入深度を浅くすることで、液体領域で波が完全にまたは大部分散逸して遷移領域に伝播せず、液体粘度に関連するエネルギー散逸のみを第2の測定から独立して測定することができる。遷移領域に伝播する波の減衰度(例えば、降伏しない材料の見かけの粘度)の第1の測定値(第1の測定によるもの)と、液体(降伏)領域にのみ伝播する波の減衰度の第2の測定値(第2の測定によるもの)とを比較することにより、液相からの粘度のコモンモード効果はゼロになるか、または遷移領域における損失に起因する降伏応力の測定値から相殺され得る。さらに、減衰度(例えば、見かけの粘度)の2つの測定値の比または差は、境界層深度に関係すると考えられ、境界層深度は、降伏しない、すなわち固体領域の流体速度の逆関数である。したがって、この比をスケーリングして、流体速度の指標を与えることができ、この指標は、次に、流動の影響に対する一次降伏応力推定値を補正するために使用することができる。したがって、降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達するステップと、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行うステップと、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含み、振動の減衰度の第1の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数の振動で振動させ、第1の距離を伝播する波を流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達して行われ、振動の減衰度の第2の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、第1の距離よりも短い第2の距離を伝播する波を、流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達して行われ、流動降伏応力流体の降伏応力が、振動の減衰度の第1および第2の測定値の線形結合に基づいて推定される、方法であり得る。
【0031】
三重周波数手法の場合、波の貫入深度がまだ完全に液体領域内にある、第3の、さらに高い周波数も使用することができる。どちらも完全にまたは大部分が液体領域に伝播する第2および第3の測定値(第3の測定によるもの)を使用して、流体が非ニュートン挙動を示す最大の度合いも測定することができ、この度合いは、次に、降伏応力の推定値の精度を更新または補正または改善するために使用することができる。流体が非ニュートン性である最大の度合いは、「べき乗則指数」、n、および一貫性係数Kによって特性評価される。これらのパラメータは、せん断速度が振動の角周波数と等価であるコックスメルツ則を適用し、測定された粘度および周波数を使用する、Power Lawモデルの方程式を解くことによって求めることができる。
【0032】
Power Lawモデルと同様に、確立されたCassonおよびHerschel-Bulkley流体モデルの流体パラメータ、降伏応力σ0、べき乗則指数n、一貫性K、および塑性粘度PVは、既知の粘度値Vを使用して異なるセンサ周波数ωで解くことができる。
【0033】
したがって、上記の単一周波数、二重周波数、および三重周波数の手法を考慮すると、本発明の第1の態様によれば、降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達するステップと、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行うステップと、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含む、方法が提供される。
【0034】
好ましくは、波は、三粘性モデルによれば、固体と液体との間の遷移領域であると考えられている領域に伝播する。この領域は、振動表面から最も離れた境界層の部分である可能性がある。境界層および遷移領域の厚さは、波の貫入深度と同様に、材料特性によって異なる場合があるが、溶融チョコレートなどの工業的に重要な多くの降伏応力流体では、約300Hzの周波数でせん断波が伝播する場合、および/またはせん断波が境界層に至るまで少なくとも数ミリメートル伝播する必要がある場合、上記を達成することができることが観察されている。
【0035】
振動表面から伝播するせん断波は、表面から距離dの表皮深度で散逸する。粘弾性流体の貫入または伝播深度は、材料の損失正接によって異なる。しかし、説明のために、この距離のより単純なニュートン解釈を使用することができ、この場合、表皮深度は、角周波数と密度の積に対する粘度の2倍の比の平方根で与えられる。これによって、伝播深度は、振動の振幅がその初期値の1/eに減少する流体内の深度であり、式中、eは自然対数の底、すなわち約37%である。せん断波以外の波の場合、他の貫入深度を使用するのが適切な場合がある。上記貫入深度は文献に記載されており、当業者にはよく知られているであろう。
【0036】
別の言い方をすれば、波が粘塑性境界層の厚さの少なくとも約半分の距離を伝播する(または伝播深度がそれ以上である)場合、波が境界層に十分に伝播して、高損失遷移領域を経たと考えることができる。これは、特定の材料特性および条件に従って、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm以上であり得る。境界層内により短い距離を伝播する波は、高損失の遷移領域を経ず、完全に液体の領域のみを伝播する可能性があることが想定され得る。この波は、工業的に重要な流体の場合、約300Hzの周波数で振動する可能性がある。実際には、より低い周波数がより伝播するため、より低い周波数が好ましい可能性があるが、より低い周波数は、測定中に拾うプラントノイズ量を増大させ、波を生成するために使用される変換器に対する要求もより増大させる可能性があるため、最低周波数が約100Hz超、または代替的に約200Hz以上であることが好ましい可能性がある。周波数の可能な範囲は、多くの流体で約200Hz~約500Hzであり得る。Boujlelらの「Boundary Layer In Pastes-Displacement Of A Long Object Through A Yield Stress Fluid」(Journal of Rheology,volume 56,2012,doi:10.1122/1.4720387)には、ポアズイユ流の粘塑性境界層の厚さの理論的導出、ならびに速度およびレオロジーパラメータの関数としての境界層の厚さの複数の陽表示が提示されている。さらに、プレート上の流動の境界層の厚さは、プレートの立上り縁から離れて、約10mmの値に安定する傾向があり、速度によってわずかにしか変化しないことが実験的に観察されている。波が遷移領域に伝播し始めるにつれてエネルギー損失が急激に増大するため、振動の周波数を変えることにより、せん断波または他の実体波が遷移領域内に、または遷移領域を超えて伝播しているかどうかを判断できる場合がある。したがって、振動表面からより離れた境界層の部分、すなわち遷移領域に伝播する振動の周波数を、振動の周波数の定期的変動により決定することが容易になる可能性がある。1つの可能性として、周波数掃引の実行があり得るが、二分探索などの他のより効率的なサンプリング技術が好ましい場合がある。降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達するステップと、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行うステップと、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含み、波が振動表面から離れた境界層の部分に伝播し、例えば、工業的に重要な多くの場合で約500Hz未満の周波数を含み得る粘塑性境界層の厚さの少なくとも約半分の距離を伝播するか、または1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmもしくは10mmの距離を伝播するか、または振動表面からの距離とともにエネルギー損失が増加するような距離を伝播する、方法であり得る。
【0037】
好ましい二重周波数の実施形態では、振動の減衰度の第1の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数の振動で振動させ、第1の距離を伝播する波を流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達して行われ、振動の減衰度の第2の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、流動降伏応力流体の粘塑性境界層伝播する波を伝達して行われ、流動降伏応力流体の降伏応力が、振動の減衰度の第1および第2の測定値の線形結合に基づいて推定される。そのような方法は、例えば温度変動に起因するノイズおよびエラーに対する感度を好適に低減または排除した可能性がある。これは、コモンモード粘度に対する感度の低減または排除による可能性がある。
【0038】
波を遷移領域に伝播させる、例えば境界層の厚さの少なくとも約半分の距離を伝播させる振動の測定を行うことが好ましいが、波を液体領域のみに伝播させる、すなわち境界層の厚さの少なくとも約半分未満の距離を伝播させる振動の別の測定を行うことも好ましい。これは、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、または約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm未満の伝播深度であり得る。より好ましくは、そのような波は、境界層の厚さの約10%、約20%、約30%、または約40%の距離だけ、振動表面から境界層に伝播し得る。観察では、工業的に重要な多くの降伏応力流体について、約2kHzの振動周波数が適切であり得るが、可能な範囲は約800Hz~約2.5kz以上であり得ることがわかっている。波が遷移領域に伝播し始めるにつれてエネルギー損失が急激に増大するため、振動の周波数を変えることにより、せん断波または他の実体波が遷移領域内に、または遷移領域を超えて伝播しているかどうかを判断できる場合がある。したがって、振動表面からより離れた境界層の部分、すなわち遷移領域に伝播しない、または著しく伝播しない振動の周波数を、振動の周波数の定期的変動により決定することが容易になる可能性がある。降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器の振動表面を振動させて、粘塑性境界層の厚さの少なくとも約半分の距離を伝播する波を、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達するステップと、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行うステップと、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含み、振動の減衰度の第1の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数の振動で振動させ、第1の距離を伝播する波を流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達して行われ、振動の減衰度の第2の測定が、振動変換器の振動表面を第1の周波数とは異なる第2の周波数の振動で振動させ、粘塑性境界層の厚さの約半分より短い第2の距離を伝播する波を、流動降伏応力流体の粘塑性境界層に伝達して行われ、流動降伏応力流体の降伏応力が、振動の減衰度の第1および第2の測定値の結合、好ましくは振動の減衰度の第1および第2の測定値の線形結合に基づいて推定される、方法であり得る。
【0039】
好ましくは、本方法は、第1および第2の周波数の振動と降伏応力流体のべき乗則指数に基づいて、振動の減衰度の第1および第2の測定値の一方または両方に対する補正を実行するステップをさらに含む。流動降伏応力流体の降伏応力の推定値は、式(V1-V2(ω1/ω2)^(n-1))に比例し、式中、V1は振動の減衰度の第1の測定値であり、V2は振動の減衰度の第2の測定値であり、ω1は第1の周波数の振動の角周波数であり、ω2は第2の周波数の振動の角周波数であり、nはべき乗則指数である。
【0040】
べき乗則指数は、工業的に重要な多くの流体について既知であり得るが、別の好ましい三重周波数の実施形態は、第3の周波数の振動を使用し、べき乗則指数を流体自体の測定値から決定することを可能にする。特に、本方法は、好ましくは、振動変換器の振動表面を、第1および第2の周波数の振動とは異なる第3の周波数の振動で振動させ、波を伝達して、振動の減衰度の第3の測定を行うステップと、振動の減衰度の第3の測定値および前記第3の周波数の振動とに基づいて、さらに、振動の減衰度の第1の測定値および第1の周波数の振動と、振動の減衰度の第2の測定値および第2の周波数の振動とのうちの1つに基づいて、流動降伏応力流体のべき乗則指数を推定するステップとをさらに含む。具体的な選択は、測定が行われる特定の周波数および伝播深度に依存する。
【0041】
三重周波数モードの場合、波を液体領域のみに伝播させる、すなわち境界層の厚さの少なくとも約半分未満の距離を伝播させる振動の第3の測定を行うことも好ましい。これは、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、または約5mm未満の伝播深度であり得る。より好ましくは、そのような波は、境界層の厚さの約15%の距離だけ、振動表面から境界層に伝播し得る。したがって、3つの波の伝播距離は、境界層の厚さに対して、約15%、約30%、および50%を超える場合がある。観察では、工業的に重要な多くの降伏応力流体について、上記第3の測定には約3kHzの振動周波数が適切であり得るが、可能な範囲は、第2の測定の特定の周波数に応じて、約1kHz以上からであり得ることがわかった。したがって、可能な周波数は、300Hz、2kHz、および3kHz程度、または代替的に、約200Hz~約500Hz、約800Hz~最大約2.5kHz以上、および約1kHz以上であり得る。
【0042】
別の好ましい実施形態では、上記の二重周波数または三重周波数モード方法のいずれかは、振動の減衰度の第1および第2の測定値の比に基づいて、流動降伏応力流体の流動速度を推定することをさらに含み得る。これは、流動速度を測定する従来の方法の多くが降伏応力材料ではうまく機能しないため、好適である。
【0043】
別の好ましい実施形態では、振動の減衰度の第1の測定は、振動変換器の振動表面を第1の周波数の振動で振動させて行われ、振動の減衰度の第2の測定は、振動変換器の振動表面を第1の周波数の振動で振動させて行われるが、振動変換器の振動表面の周りの流動は、振動の減衰度の第1の測定を行う場合における振動変換器の振動表面の周りの流動とは異なるため、振動変換器の周りを流動する降伏した、および降伏していない材料の分布は異なり、流動降伏応力流体の降伏応力は、振動の減衰度の第1および前記第2の測定値に基づいて推定される。したがって、好適には、降伏応力は、単一の単一モード変換器を使用するなど、同じモードで1つ以上の単一モード変換器を使用して測定することができる。本方法は、振動の減衰度の第1の測定と第2の測定との間に、降伏応力流体の流動速度を変更することを含むことができる。代替的または追加的に、振動変換器の振動表面の周りの流動は、降伏応力流体の偏心撹拌を行うことと、降伏応力流体の流動に対する振動変換器の位置および/または方向を変更することと、振動変換器の周りの流動に影響を与える障害物の位置および/または方向を変更することとのうち1つ以上により、振動の減衰度の第1の測定を行う場合の、振動変換器の振動表面の周りの流動とは異なる。
【0044】
他の好ましい実施形態では、1つ以上の凹部または1つ以上の隆起部が、1つ以上の振動変換器の振動表面に設けられるか、または導管壁の隣接部分に設けられる。好適には、上記手法を使用して、変換器に隣接する、および変換器の周りの固体降伏応力材料の量を変更することにより、本方法の感度を調整または向上させることができる。これは、ボブがボブの表面に1つ以上の凹部を含む、シャフト・ボブ(shaft-and-bob)型の振動変換器に役立てることができる。上記振動変換器は、流動から降伏応力流体を隔離するように構成することができる。そのため、隔離された降伏応力流体は、降伏していない状態で変換器の振動表面とともに移動する可能性がある。降伏が発生するせん断面は、変換器の表面から分離し得る。したがって、凹部と隆起部とを賢明に使用することにより、滑らかなボブと比較して、三粘性モデルの異なる相を通る波の伝播を実現することができる。滑らかな表面上に形成された境界層で所与の距離を伝播し、通常は液体(完全に降伏した)材料のみを経る可能性がある波は、隆起部および凹部の配置、流動の形状、ならびに完全に降伏した材料が振動表面に保持されるかどうかに応じて、遷移領域に伝播する可能性がある。同様の効果は、シャフト・ディスク(shaft-and-disc)型変換器または振動管型変換器などの他の変換器でも得られる。これらの技術は、本明細書で説明した隆起部および凹部に限定されないが、原則として、センサ、導管(槽を含むと理解される)、または流動および「流動の影」の領域を生成する他の障害物の輪郭形成、あるいはさらにセンサの向きに適用され、これらを使用して、本明細書で説明する任意の技術を調整することができる。
【0045】
好ましくは、かつ、測定された流体粘度を出力する既存の振動変換器を使用する場合の簡略化のために、振動の減衰度の測定は、降伏応力流体の見かけの粘度を得ることを含む。場合によって、これは振動のQ係数の測定に基づき得る。
【0046】
本発明のさらなる態様によれば、最初は静的である降伏応力流体の流動を検出する方法であって、少なくとも1つの振動変換器を使用して降伏応力流体の減衰度の一連の測定を行うステップと、降伏応力流体の減衰度が連続する測定間で増加することが観察されることに応じて、最初は静的である降伏応力流体が流動し始めたことを判定するステップとを含む方法が提供される。一実施形態では、最初は静的である降伏応力流体は、閾値よりも大きい減衰度の相対的な増加に応じて、流動し始めたと判定される。この手法は、従来の流量計がそのような低速で、特にそのような従来の流量計の周囲をゆっくり動く可能性がある降伏応力流体では効果的ではないという点において、利点をもたらす。増加とは、閾値を超える増加など、実質的な増加であり得る。好ましくは、閾値は、既知の静止測定値、または複数のそのような測定値などの以前の1つ以上の測定値に基づいて決定される。好ましくは、例えば、温度の変化のみによってもたらされる粘度変化を割り引くことにより、流動の開始の検出における意思決定の一部として、降伏応力流体の温度を測定する。一実施形態では、最初は静的である降伏応力流体は、閾値よりも大きい減衰度の相対的な増加に応じて、流動し始めたと判定される。代替的または追加的に、最初は静的である降伏応力流体は、閾値よりも大きい減衰度の変化に応じて、流動し始めたと判定される。好ましくは、一連の測定値から移動平均を取得することなどにより、最初は静的である降伏応力流体が流動し始めたかどうかを判定する前に、一連の測定値に対してローパスフィルタリングを実行する。好ましくは、測定される減衰度は、見かけの粘度に比例する量であり、見かけの粘度そのものであり得る。さらに、最初は静的である降伏応力流体の流動を検出する上記の方法のいずれかを含むシステムからの降伏応力材料の漏れを検出する方法が提供される。
【0047】
本発明のさらなる態様によれば、1つ以上の振動変換器を使用して降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、第1の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第1の測定V1を行うステップと、第1の周波数の振動とは異なる第2の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第2の測定V2を行うステップと、V1とV2の線形結合に基づいて降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含む方法が提供される。好ましくは、本方法は、第1および第2の周波数の振動ならびに降伏応力流体のべき乗則指数に基づいて、V1およびV2の1つ以上に対して補正を実行するステップをさらに含む。より好ましくは、本方法は、第1および第2の周波数の振動とは異なる第3の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第3の測定V3を行うステップと、V3および第3の周波数の振動に基づいて、さらに、V1および第1の周波数の振動と、V2および第2の周波数の振動とのうちの1つに基づいて、降伏応力流体のべき乗則指数を推定するステップとをさらに含む。
【0048】
本発明のさらなる態様によれば、1つ以上の振動変換器を使用して降伏応力流体の流動速度を推定する方法であって、第1の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第1の測定V1を行うステップと、第1の周波数の振動とは異なる第2の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第2の測定V2を行うステップと、V1とV2との比の関数に基づいて降伏応力流体の流動速度を推定するステップとを含む方法が提供される。
【0049】
本発明のさらなる態様によれば、1つ以上の振動変換器を使用して降伏応力流体の降伏応力を推定する方法であって、振動変換器を使用して、第1の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第1の測定V1を行うステップと、振動変換器を使用して、第1の周波数の振動で降伏応力流体の粘度の第2の測定V2を行うが、振動変換器の周りの降伏応力流体の流動が、第1の測定を行う場合の振動変換器の周りの流動に対して異なるステップと、V1およびV2に基づいて降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとを含む方法が提供される。
【0050】
本発明のさらなる態様によれば、導管内を流動する降伏応力流体の流体特性を推定する方法であって、1つ以上の振動変換器を使用して1つ以上の粘度測定を行うステップを含み、1つ以上の凹部または1つ以上の隆起部が、1つ以上の振動変換器の振動表面に設けられるか、または導管壁の隣接部分に設けられる方法が提供される。
【0051】
本発明の態様は、振動のQ係数の測定を行うことにより振動の減衰度の測定を行うことを含むことができる。本発明の態様は、代替的または追加的に、好ましくは測定されたQ係数から降伏応力流体の見かけの粘度を得ることを含むことができる。
【0052】
本発明のさらなる態様によれば、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するための装置であって、各々が振動表面を有する1つ以上の振動変換器と、処理モジュールとを備え、処理モジュールが、1つ以上の振動変換器のうちの1つの振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達し、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行い、振動の減衰度の1つ以上の測定に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定するように構成された、装置が提供される。好ましくは、装置(またはその処理モジュール)は、上記の方法のいずれかを実行するように構成されている。
【0053】
本発明のさらなる態様によれば、降伏応力流体と接触する振動表面を有する1つ以上の振動変換器を使用して、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する装置であって、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達する手段と、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行う手段と、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定する手段とを備える装置が提供される。好ましくは、装置は、上記の方法のいずれかを実行する手段を備える。
【0054】
本発明のさらなる態様によれば、非一時的なコンピュータ可読媒体であって、1つ以上のプロセッサによって実行されると、1つ以上のプロセッサに、振動変換器の振動表面を振動させて、振動表面から流動降伏応力流体の粘塑性境界層に波を伝達させ、振動変換器の振動を使用して、振動の減衰度の1つ以上の測定を行わせ、振動の減衰度の1つ以上の測定値に基づいて、流動降伏応力流体の降伏応力を推定させる命令を格納した、非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。好ましくは、コンピュータ可読媒体は、1つ以上のプロセッサに上記の方法の1つを実行させる命令を格納している。
【0055】
本発明の態様は、ニュートン流体および非ニュートン流体の特性:降伏応力、(1つ以上の同等のせん断速度での)粘度、べき乗則指数n、一貫性係数K、流動速度、および最初の静止状態からの流動の開始の検出のうちの1つ以上の測定に関する。さらに、本発明の態様は、静止状態と流動状態との両方に適用可能であり得る。
【0056】
本発明の態様は、例えば、パイプ、槽、開放路におけるインライン過酷プロセス耐性装置として;海洋および地球科学環境でフィールド測定を実施するために;連続、自動、または個別のサンプル測定を行う実験室内で;実験室、フィールド、およびラインでの使用のいずれものためのポータブル装置として;ならびに微小電気機械システム(MEMS)およびナノ電気機械システム(NEMS)スケールアーキテクチャに基づく共振器を含む、これらの流体特性の測定を組み込むシステムの構成要素として、広範囲の設定で使用することができる。
【0057】
本発明の態様は、1つ以上の粘度測定変換器の使用と、流体の流動の結果としての1つ以上の境界層の形成による変換器の測定面における流体のレオロジー状態の変化と、振動撹拌による非降伏固体材料の液化とに基づく。
【0058】
場合によって、本発明の態様は、コーンプレート型および回転円筒型の回転式粘度計を含む回転式粘度計などの従来の粘度計設計を使用して実施することができる。本発明の態様を実施することができる他の従来の粘度計設計には、差圧粘度計および落球型粘度計が含まれる。しかしながら、降伏応力を測定するための従来の手法と比較して、本発明の態様は、特に純粋なせん断波の形成および散逸によって機能するタイプの共振型粘度計変換器の表面負荷特性について特定の用途を有し得る。
【0059】
ほとんどの場合、流体の閉じ込められた静的サンプルを必要とする、降伏応力を測定するための従来の手法と比較して、本発明の態様は、流動状態の材料の連続したレオロジー測定に特定の用途がある一方、静的材料での使用も可能である。
【0060】
特に、本発明の態様は、降伏応力およびその変動が重要であるプロセスにおいて降伏応力または他の流体特性のインライン監視に用途があり、さらなる物質を、流体の推定降伏応力、および降伏応力流体の特定の望ましい降伏応力またはその他の流体特性に応じた量で、多かれ少なかれ添加することができる。
【0061】
本発明の態様は、添付の図面を参照して、単なる例として、より詳細に説明される。図面内の構成要素は必ずしも縮尺どおりではなく、代わりに原理を明確に示すことに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】パイプ内の降伏応力流体の断面図であり、流体は静止している。
【
図2】パイプ内の降伏応力流体の断面図であり、流体は流動している。
【
図3】シャフトに取り付けられたボブの形態で、少なくとも2つの周波数f1、f2で作動可能な粘度変換器が配置された、静的降伏応力流体の断面図である。
【
図4】シャフトに取り付けられたボブの形態で、少なくとも2つの周波数f1、f2で作動可能な粘度変換器が配置された、流動降伏応力流体の断面図である。
【
図5】シャフトに取り付けられたボブの形態で、第1の周波数f1で作動可能な第1の粘度変換器と、シャフトに取り付けられたボブの形態で、第2の周波数f2で作動可能な第2の粘度変換器とが配置された、流動降伏応力流体の断面図である。
【
図6】ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる多周波棒状共振器が配置された、流動降伏応力流体の断面図である。
【
図7】ディスクの軸線が流動方向に垂直な、ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる多周波ディスク型共振器が配置された、流動降伏応力流体の断面図である。
【
図8】ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる振動管型粘度計内の流動降伏応力流体の断面図である。
【
図9】ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる振動槽型粘度計の降伏応力流体の断面図である。
【
図10】シャフトに取り付けられたボブの形態で粘度変換器が配置された、後に境界が形成されない、静的降伏応力流体の断面図である。
【
図11】シャフトに取り付けられたボブの形態で粘度変換器が配置された、後に境界が粘度変換器の周りに形成される、流動降伏応力流体の断面図である。
【
図12】多周波共振器表面を通過して境界層を形成する、降伏応力流体を示す三粘性モデルを示し、境界層では、降伏応力材料の流動によるせん断力が固体プラグを粉砕し、境界層にまたがる固体から液体への傾斜領域を形成する。
【
図13】最初に境界層内の液体領域Ldを通過し、したがって液体粘度V
Lを経る、変換器の表面から発出する波を示す。波の伝播深度が十分に深い場合、波は遷移領域に到達し、それによって遷移領域の材料のより高い粘度V
Tを記録することがある。
図13は、最初に境界層内の液体領域Ldを通過し、したがって液体粘度V
Lを経る、変換器の表面から発出する波であることを示している。波の伝播深度が十分に深い場合、波は遷移領域に到達し、それによって遷移領域の材料のより高い粘度V
Tを記録することがある。
【
図14】第3の周波数での第3の測定により第3の波が生成される代替構成を示す。
【
図15】流動に対する粘度計本体の向きを変化させることによる流動の変化を示す。
【
図16】表面付近の粘度計の位置による流動の変化を示す。表面および変換器のいずれかまたは両方を移動させることができる。
【
図17】局所的な流動の障害物による流動の変化を示す。
【
図18】容器の位置を調整することによる流動の変化を示す。
【
図19】横モード、縦モードおよびねじり振動モードの例を示して、内的振動による液化を示す。
【
図20】横モード、縦モードおよびねじり振動モードの例を示して、槽壁または導管壁にもたらされる外的振動による液化を示す。
【
図21】外的振動による液化を示し、液化を引き起こす振動は、降伏応力材料の別の場所に配置された振動源によってもたらされる。
【
図22】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示す。
【
図23】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示す。
【
図24】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示す。
【
図25】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示す。
【
図26】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示す。
【
図27A】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示し、流動方向に垂直な第1の位置における粘度変換器を示す。
【
図27B】本開示の1つ以上の技術を実行するための装置を概略的に示し、流動方向に向かって回転する第2の位置に枢動された粘度変換器を示す。
【
図28】降伏応力材料の開放流動中の滑らかな外形を有する変換器を示す。
【
図29】パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の
図28の変換器を示す。
【
図30】降伏応力材料の開放流動中の起伏状外形を有する変換器を示す。
【
図31】パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の、起伏状外形を有する
図30の変換器を示す。
【
図32】パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の
図28の滑らかな変換器を示し、パイプまたは槽の壁は流動方向および変換器のシャフトと軸線方向に整列され、パイプまたは槽の壁には凹部が設けられている。
【
図33】パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の、起伏状外形を有する
図30の変換器を示し、さらなる境界層が、流動方向および変換器のシャフトと軸線方向に整列されたパイプまたは槽の壁に発生し、パイプまたは槽の壁には凹部が設けられている。
【
図34】降伏応力材料の開放流動中の
図28の変換器を示すが、
図28とは異なり、変換器は流動方向に垂直に配置されている。
【
図35】パイプ内の流動に垂直に配置された
図34の変換器を示し、変換器は、パイプの凹部内に部分的に引き込まれている。
【
図36】凹部に部分的に引き込まれた共振ディスク型変換器を示す。
【
図37A】シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、5つのボブ外形の一つの側面図を示す。
【
図37B】シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、5つのボブ外形の一つの側面図を示す。
【
図37C】シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、5つのボブ外形の一つの側面図を示す。
【
図37D】シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、5つのボブ外形の一つの側面図を示す。
【
図37E】シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、5つのボブ外形の一つの側面図を示す。
【
図38】変換器の2つのさらなるボブ設計の側面図を示す。
【
図39B】変換器のさらに別のボブ設計の斜視図である。
【
図40】変換器のさらなるボブ設計の斜視図および断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
降伏応力流体は、流体のせん断応力が降伏応力を下回ると、効果的に固体のように挙動する。これは、例えば、流体が静止しているとき、または流体の体積が均一な速度で移動しているときに発生する。降伏応力を有する流動材料が表面に遭遇すると、表面付近の材料の領域に速度勾配が発生する。この勾配により、流体内にせん断応力が形成される。上記応力が材料の降伏応力を超えると、液化領域が形成される。表面付近の材料の速度勾配の結果として発生する液化層領域が境界層(BL)である。
【0064】
図1は、パイプ内の降伏応力流体を示す。流動がないため、流体は静止している。したがって、流体には速度勾配がなく、したがってすべての場所で降伏しない、つまり固体である。
【0065】
図2は、パイプ内を流動している降伏応力流体を示し、固体材料はパイプ壁でせん断され、液体層を形成する。パイプ壁に対する流体の摩擦および速度により、パイプ壁に隣接する境界層に降伏した物質、すなわち液体をもたらす速度勾配がある。パイプ壁から離れると、速度勾配が減少し、せん断応力が低下して降伏応力を下回り、流動材料が固化する。この流動は「プラグ流動」として知られる。
【0066】
降伏していない材料は、固体領域にあると見なされる。降伏した材料は、液体領域にあり、特定の深度を有すると見なされる。
【0067】
流体が液化すると、見かけの粘度が低下する。境界層の周辺での液体から固体への遷移は複雑であり、進行中の研究の主題である。本開示および流動している降伏応力材料の境界層における複雑な挙動を理解するために役立つ資料として、Boujlelらの「Boundary Layer In Pastes-Displacement Of A Long Object Through A Yield Stress Fluid」(Journal of Rheology,volume 56,2012,doi:10.1122/1.4720387)が挙げられる。
【0068】
理論に縛られることを望まないが、液体層の一部またはさらにはすべてを、固体領域に向かって急速に増加する粘度の段階的な領域と見なすことができると考えられている。
【0069】
境界層の深度dは、流動速度Uの関数であることがわかるが、粘度および降伏応力の影響を受ける場合もある。
【0070】
振動型粘度変換器の全体または少なくとも一部を流体に浸漬させることによって、粘度および共振周波数をリアルタイムで測定することができる。
【0071】
図3、
図4、および
図5は、例として、シャフトに取り付けられたボブの形態の粘度変換器であって、降伏応力材料内に配置され、中心長手方向軸線に対してねじり振動する構成を示す。
【0072】
図3は、材料が静止している状態で、変換器の周りの環境が、境界層がなく、材料が完全に固体であるような状態であることを示す。
【0073】
図4は、流動している材料が変換器表面に衝突してせん断され、液化境界層の形成を引き起こすことを示す。
【0074】
変換器は、少なくとも2つの周波数で作動することができる。第1の作動周波数は、400Hz未満など、比較的低くてもよい。第2の作動周波数は、1500Hzを超えるなど、比較的高くてもよい。これらの周波数は単なる例であり、本発明は、本明細書に記載された例以外の周波数範囲を使用して実施することができることに留意されたい。
【0075】
各周波数での振動によって、境界層を伝播するせん断波が生成される。
【0076】
より高い周波数の波は貫入深度が比較的浅く、通常、最も激しくせん断された液化領域を覆い、もしある場合でも、固体領域は比較的小さい。このため、粘度測定値が低くなり、変換器上の質量負荷が低くなる。
【0077】
より低い周波数の波は貫入深度が比較的深く、通常、最も激しくせん断された液化領域を覆うが、固体領域の大部分も覆い、特定の量は境界層深度の影響を受ける。降伏応力に応じて、流体はより低い周波数でより固く見え、粘度測定値が高くなり、変換器上の質量負荷が増加する。
【0078】
液化領域の効果を消去して、境界層深度の影響を受ける固体領域の効果のみを残すことにより、降伏応力の推定を行うことができる。特に、降伏応力の推定は、2つの周波数での粘性損失読み取り値の微分関数として行うことができる。
【0079】
好適には、上記手法は、降伏応力を測定するための他の手法によってなされる多くの仮定を必要としない。例えば、流体がコックスメルツ則に従うことは必須ではなく、これにより、所定のせん断速度での定常状態のせん断粘度は、同じ周波数での動的粘度で近似される。コックスメルツ則は経験則であり、特定の非ニュートン流体にのみ適用される。コックスメルツ則に依存していないため、上記手法の適用範囲は広く、コックスメルツ則が有効な近似である流体に限定されない。
【0080】
さらに、パラメータがHerschel-BulkleyモデルまたはCassonモデルなどの流体モデルに適合する、降伏応力がゼロせん断速度の切片を表す既存の手法と比較して、上記手法は、熱効果、ノイズ、非定常流量による変動を低減または排除する。これは、ある測定値を別の測定値から差し引くことによる、粘性損失読み取り値の微分関数としての解の形式の結果であり、コモンモードの誤差または変動が低減または排除される。
【0081】
降伏応力流体の粘度は、2つの異なる振動(共振)周波数で測定することができる。例えば、2つの周波数は、400Hzの比較的低い周波数と1500Hzの比較的高い周波数であり得る。これは、
図5に示すような互いに比較的近接した2つの単一周波数粘度計、または代替的に
図4に示すような二重周波数粘度計として作動する単一の装置として実現することができる。
【0082】
粘度変換器は、
図4に示す形態に限定されない。この例では、粘度変換器は、シャフトに取り付けられたボブを備える。ボブは、円筒型、ディスク型、または球型を含むがこれらに限定されない多くの幾何学的形状であり得る。
【0083】
図6は、ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる多周波棒状共振器を示す。そのような装置は、異なる共振周波数を有する2つのモードを選択することにより、二重周波数粘度計として機能する。
【0084】
図7は、ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる多周波ディスク型共振器を示す。そのような装置は、異なる共振周波数を有する2つのモードを選択することにより、二重周波数粘度計として機能する。
【0085】
そのような場合、粘度変換器は、ねじりモードで振動するように構成されることが好ましいが、横モードおよび縦モードの振動も使用することができる。
【0086】
代替的に、共振管装置または任意の形状の振動槽の場合のように、変換器は実際の流体容器であり得る。
【0087】
図8は、ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる振動管型粘度計を示す。
【0088】
図9は、ねじりモード、横モードおよび縦モードで振動することができる振動槽型粘度計を示す。
【0089】
前述のように、粘度変換器は、ねじりモードで振動するように構成されることが好ましいが、横モードおよび縦モードの振動も使用することができる。
【0090】
ボブ・シャフト型の共振器を例として使用するが、すべての場合に適用することができる。追加の液化振動源がない場合、非流動条件下では、変換器は
図10に示すように固体材料を効果的に検出し、材料が流動すると、
図11に示すように液体境界層領域が形成される。
【0091】
図3~
図11では、境界層は、固体素材(より狭い間隔の右上から左下への斜線部分)に対して、はっきりと示された領域(広い間隔の左上から右下への斜線部分)として参照される。
【0092】
しかしながら、理論に縛られることを望まないが、境界層はこれよりも複雑であり、特に、固体領域と液体優勢領域との間にある遷移領域で液体と固体の両方の要素が混ざり合って、液体優勢領域が固体領域に向かって変化する領域であると考えられている。
【0093】
以前に公開された一部のモデルでは、境界層の2つの状態の性質は「二粘性」と呼ばれる。繰り返しになるが、理論に縛られることを望まないが、液体から固体への変化は、液体、遷移および固体の3つの別個の粘度領域によってより良くモデル化されると考えられる。二粘性モデルでは、境界層にまたがる液体から固体への突然ではない状態変化の説明が容易ではないと考えられるからである。
【0094】
3つの別個の粘度領域の使用は、本開示で初めて提示され、境界層の「三粘性」モデルと呼ばれる。
【0095】
図12は、多周波共振器表面を通過して境界層を形成する、降伏応力流体を示す三粘性モデルを示し、境界層では、降伏応力材料の流動によるせん断力が固体プラグを粉砕し、境界層にまたがる固体から液体への段階的領域を形成する。3つのせん断波が示される。角周波数ω1の最低周波数の波は、境界層に最も深く貫入する。角周波数ω3の最高周波数の波は、共振器表面の近くに留まる。角周波数ω2の中間周波数の波は、最低周波数の波と最高周波数の波との中間の距離まで貫入する。
【0096】
図12を参照すると、材料の大部分は速度U
0で流動し、速度プロファイルが形成される。表面の局所的な速度は、境界層の外側でU
0の最大値を有し、共振器表面でゼロになる。
【0097】
速度プロファイルは、せん断速度プロファイルを生じ、せん断速度は表面の最大値から境界層の外側のゼロまで変化する。
【0098】
せん断速度が非常に低いかゼロの場合、材料は見かけの粘度VSの固体のままである。
【0099】
せん断速度が増加すると、固体材料の一部が降伏し、固体材料が断片化して分散する。この断片化された固体材料の分散により、せん断波の伝播が妨げられ、粘度対変換器表面からの距離の粘度プロファイルに示されるように、高い見かけの流体粘度VFが生じる。これは、遷移粘度領域VTをもたらす。
【0100】
より高いせん断速度では、より多くの固体材料が降伏し、断片化された固体材料の分散を低減し、材料はますます液体として挙動し、波の伝播を容易にし、見かけの粘度VFを見かけの液体粘度VLに低減する。
【0101】
見かけの粘度VTの増大は、境界層付近の断片化による液体層の均一性の破壊の結果である。液体に分散している固体材料の断片を通過する波の伝播経路は、均一な液体または固体を通過するよりも散逸的であるため、VTの値はVL、さらにはVSよりも高い。
【0102】
図13は、遷移領域の断片化性質の図示を省略して、三粘性モデルをより明確に示す。
【0103】
三粘性モデルを使用して、材料の降伏応力を推定することができる。
【0104】
Herschel-Bulkleyモデルによると、
σ=σ0+Kγn (1)
であり、式中、σはせん断応力、σ0は降伏応力、Kは「一貫性」と呼ばれる流体依存パラメータ、γはせん断速度、nは「べき乗則指数」と呼ばれる流体依存パラメータである。
【0105】
方程式(1)をせん断速度γで割ると、次式が成り立つ。
【数1】
【0106】
せん断速度の発生源を見ると、2つの構成要素があり、
γ=γF+γω (3)
式中、γFはバルク流体の流動によるせん断速度であり、γωは共振器の振動によるせん断速度である。
【0107】
定義では、見かけの流体粘度V
Fは、せん断応力とせん断速度との比である。V
Fに関して方程式(2)を書くと、
V
F=V
YS+V
L (4)
となり、式中、見かけの粘度V
Fの部分V
YSは降伏応力によるものであり、部分V
Lは液化材料によるものである。降伏応力による粘度の場合、粘性波の散逸はせん断流動によって生じる不均一性の関数であるため、γ=γ
Fとして、
【数2】
である。
【0108】
共振粘度測定の場合、γωはγFよりも大幅に大きいため、γ→γFである。コックスメルツ則を適用し、γ→γF→ω。したがって、液化材料の見かけの粘度VLは、
VL=Kωn-1 (6)
で与えられる。
【0109】
方程式4、5、および6を組み合わせると、降伏応力、流動によるせん断速度、一貫性、周波数、およびべき乗則指数に関する見かけの流体粘度の式が得られる。
【数3】
【0110】
流動によるせん断速度γ
Fは、深度および他のパラメータの関数であり、表面のせん断速度γ
0、および深度関数f(d/B
d)に関して、
γ
F=γ
0/f(d/B
d) (8)
として定義することができ、式中、深度関数は、境界層全体のせん断速度の予想される変動を与えるために展開された、やや恣意的な関数であって、
f(d/B
d)=(1-(d/B
d)
R)
-1 (9)
で与えられ、式中、dは波の伝播深度、Bdは境界層深度、Rは流体依存せん断速度指数である。上記より、
【数4】
が得られる。
【0111】
共振型粘度計から伝播するせん断波は、表面から距離dの表皮深度で散逸する。粘弾性流体の伝播深度は、材料の損失正接tan(δ)によって異なる。しかし、説明のために、この距離のより単純なニュートン解釈を使用することができ、この場合、表皮深度は、
【数5】
で与えられ、式中、ρは流体密度である。
【0112】
方程式(11)によれば、所定の粘度密度領域内では、伝播深度は所定の周波数に対して比較的一定であると想定できる。
【0113】
図13を参照すると、変換器の表面から発出する波は、最初に境界層内の液体領域Ldを通過し、したがって液体粘度V
Lを経る。波の伝播深度が十分に深い場合、波は遷移領域に到達し、それによって遷移領域の材料のより高い粘度V
Tを記録することがある。
【0114】
2つの波は、異なる周波数ω1およびω2で変換器の表面から発出するように構成することができる。角周波数ω1の比較的低い周波数の波は、角周波数ω2の比較的高い周波数の波よりも遠くに伝播する。周波数は、境界層の液体領域の深度Ldよりも深い貫入距離d1で低周波の波が遷移領域の粘度VTを通り、高周波の波の貫入深度d2が浅く、高周波の波が通常、境界層の激しくせん断された液化領域のみを覆うように選択される。
【0115】
【0116】
通常の条件では、d(波の伝播深度)、Bd(境界層深度)、R(流体依存せん断速度指数)、およびγ0(表面でのせん断速度)は比較的一定であると考えられるため、方程式(12)は、いくつかの経験値αについて、
V1=ασ0+VL(ω1) (13)
に簡略化することができる。
【0117】
高周波の波の場合、測定された粘度V2は、たいていの場合、液体のみの粘度を表し、したがって、方程式(10)は、
V2=VL(ω2) (14)
に簡略化することができる。
【0118】
液体領域では、せん断速度に応じて粘度が変化するため、低周波の液体領域粘度V
L(ω1)は、高周波の液体領域粘度V
L(ω2)とは等しくない。しかし、V
L(ω1)は、べき乗則指数nを使用するべき乗則方程式を介してV
L(ω2)に関連付けることができ、従って、
【数7】
である。
【0119】
方程式(14)を方程式(15)に代入すると、
【数8】
が得られる。
【0120】
方程式(16)を方程式(13)に代入すると、
【数9】
が得られる。
【0121】
書き換えると、流体の降伏応力の式は、
【数10】
で与えられ、式中、V1は周波数ω1で測定された粘度、V2は周波数ω2で測定された粘度、nはべき乗則指数、α’は、例えば試験サンプルの較正によって決定される経験的なスケーリング定数である。
【0122】
既知の固定周波数ω1およびω2の場合、降伏応力は、V1およびV2の線形結合として、式
σ0=α’V1+α’’V2 (19)
に従って記述することもでき、式中、α’とα’’はそれぞれ経験値である。実際、方程式(19)は方程式(18)を一般化したものである。
【0123】
α’’対α’の比は、式
【数11】
で与えられる。
【0124】
方程式(18)を使用して材料の降伏応力を推定するには、流体のべき乗則指数nに値を指定する必要がある。多くの材料では、べき乗則指数nの所定の値が利用可能である。例えば、溶融チョコレートの場合、nは通常0.5の値がとられる。
【0125】
図14は、ω2よりも高い第3の周波数ω3での粘度測定を使用して、nの値をリアルタイム測定値として取得できる代替構成を示す。例えば、ω2が1500Hzの場合、ω3は5kHzになり得る。
【0126】
ω2とω3は両方とも、液体深度Ldよりも浅い伝播深度を有するように十分に高い周波数値を有するように選択される。伝播する波は、層内で液化状態のみを経る。したがって、V2=VL(ω2)およびV3=VL(ω2)である。
【0127】
nを決定するために、降伏応力は無視することができ、式(15)のべき乗則式を使用してV2、V3、ω2、ω3、およびnの関係を得ると、
【数12】
となり、nを得るために書き換えると、式
【数13】
が得られる。
【0128】
nの値が得られたら、例えば、方程式(18)に適用して降伏応力を推定することができる。
【0129】
表面でのせん断速度γ
0は、流動速度U0と境界層深度Bdとの関数として次式
【数14】
のように変化することがわかっており、式中、β’は実験定数である。
【0130】
方程式(23)を方程式(12)に代入すると、V1は次式
V1=VF=σ0(Bd/β’U0)f(d1/Bd)+VL(ω1) (23A)
により流動速度U0の関数として見ることができる。
【0131】
この式によると、V1は流量の減少とともに増加する。対照的に、方程式(14)のV2は、流量に応じた変化は見られない。
【0132】
したがって、1つの粘度を他の粘度で割ることにより、すなわち、VR=V2/V1を得ることにより、流動速度U
0の推定値が得られる。
【数15】
式中、kA、kB、およびkCは経験的に決定された較正パラメータである。
【0133】
方程式(18)の降伏応力を決定する式は、値を直接計算できる閉形式の解析式であるという利点をもたらすが、これが降伏応力の計算が可能な唯一の手法ではない。
【0134】
例えば、Herschel-Bulkleyモデルを表す方程式(1)は、
σ0=σ-Kγn (25)
のように書き換えることができる。
【0135】
所与のせん断速度γに対するせん断応力σは、次式
σ=VL・γ (26)
のように粘度の関数である。
【0136】
せん断速度は、コックスメルツ則を使用して粘度計の振動の周波数から導き出すことができ、この場合、せん断速度は角周波数ωに直接相当する。したがって、方程式(25)と(26)とを組み合わせると、次式のようになる。
σ0=VL・ω-Kωn (27)
【0137】
2つの共振型粘度計または単一のマルチモード装置から粘度および周波数の読み取り値を取得すると、連立方程式(べき乗則指数nは既知であると仮定)が導かれる。
σ0=VL(ω1)・ω1-Kω1n
σ0=VL(ω2)・ω2-Kω2n (28)
【0138】
これらの方程式を解いて、降伏応力σ0と一貫性Kを求めることができる。nが未知の場合、3つの連立方程式を作成することができる。
【0139】
Cassonモデルの下では、
【数16】
であり、式中、σはせん断応力、γはせん断速度、σ
0は降伏応力、PVは塑性粘度である。前述のようにコックスメルツ則を適用すると、次の連立方程式(べき乗則指数nは既知であると仮定)が導かれ、
【数17】
これを解いて、降伏応力および塑性粘度の推定値を得ることができる。
【0140】
粘度の他のモデルが知られており、複数の周波数での粘度測定を介して降伏応力などのモデルパラメータを求めるためのこの手法は、本明細書で示したHerschel-BulkleyおよびCassonモデルの例に限定されない。
【0141】
あるいは、複数の周波数で振動(例えば共振)することができる粘度計を必要とせずに、例えば方程式(18)、(28)または(30)を使用して降伏応力を取得することができる。代わりに、降伏応力材料内の2つの変換器を互いに比較的近くに配置して、組成(例えば、濃度)の空間的変動による温度の空間的変動などの、降伏応力材料の特性における何らかの空間的変動の影響を排除または最小限に抑えることができる。変換器は、互いに異なる固有の周波数で振動するように構成されている。
【0142】
5kHz以上など、第1および第2の作動周波数よりも高い第3の作動周波数で測定すると、他の利点が得られる。特に、より高い第3の周波数は、降伏応力材料に、第2(すなわち中間)の周波数のせん断波よりもさらに短い貫入深度のせん断波を生成する。この周波数のせん断波は、第2(すなわち中間)の周波数のせん断波と略同じ液体領域に遭遇するが、せん断速度はより高くなる。この場合、第2および第3の周波数のせん断波は、いずれもせん断波が固体領域にそれほど深く貫入しないため、降伏応力効果が支配的ではない、液体優勢の境界層空間のみに主に貫入する。したがって、これらの周波数の測定値を使用して、例えば方程式(22)を使用して、材料のべき乗則パラメータを計算することができる。
【0143】
降伏応力材料の降伏応力の推定は、単一の測定周波数の振動で実施することもでき、長い伝播波は、第2の周波数の振動による第2の波を必要とせずに、降伏応力の変動に応答する。流動を調整して、固体状態と液体状態との間の変化を引き起こすことができる。これらの変化は、単一周波数振動式粘度計の応答と相関させることができる。
【0144】
流動の調整または変更は、ポンプ速度の調整、分流、バルブによる収縮の調整、流動の停止または始動、撹拌棒/撹拌器、局所的な振動装置、流体中の変換器の変位、槽の変位、偏心撹拌によって実施することができる。
【0145】
局所的な流動の変化は、流動に対する粘度計本体の向き、表面付近の粘度計、局所的な流動の障害物、および流体容器/パイプ/槽の空間的位置を調整することにより誘発することができる。
【0146】
図15は、流動に対する粘度計本体の向きによる流動の変化を示す。向きに応じて、変換器に隣接する材料の大部分または少ない部分が変換器によって流動から隔離され、粘度読み取り値の量に影響を与える。1つより多い向きで粘度測定を行うことにより、上記の方程式(18)を使用し、ω1=ω2として、降伏応力を推定することができる。
【0147】
他の手法では、方程式(28)または方程式(30)を使用して降伏応力を推定することができる。
【0148】
例えば、粘度計での流動速度の変化は、粘度測定値の変化につながりやすい。流体の降伏応力は、流動速度の変化の結果としての粘度変化の度合いに影響することがわかっている。
【0149】
したがって、多くの経験的モデルを適合させて、(例えば、流量計で測定した)流動速度の変化の結果としての粘度変化を説明するデータを較正することができる。
【0150】
例えば、降伏応力は、流動速度の変化に起因する粘度変化に基づいて、次式
【数18】
を評価することにより、推定することができることがわかっており、式中、U
1およびU
2は流動速度、ΔVは流動速度の変化から生じる粘度変化、K
0、K
1、およびK
2は実験定数であり、標準的な較正手順で求めることができる。
【0151】
流動速度の変化は、流動速度の時間的変化に限定されない。例えば、流動速度は、粘度計の位置の変化の結果として変化する可能性がある。あるいは、2つの粘度計を異なる位置に配置することもできる。2つの粘度計は、例えば、パイプ幅が異なる結果として、異なる流動速度に遭遇する場合がある。方程式(30A)の式は依然として適用可能であり、降伏応力の推定値を与える。そのような実施形態は、複数の粘度計を利用可能だが、同じ単一の共振モード(共振周波数)に制限されている場合に、特に好適であり得る。このようなプログラムは、特にMEMSおよびNEMSアプリケーション向けに、製造の経済性の点で好適であり得る。
【0152】
当然ながら、本発明はそのような正確な形式に限定されず、他の形式を、周波数測定と粘度測定との間で粘度計の周りの流動を変化させる原理に基づいて容易に決定することができる。
【0153】
図16は、表面付近の粘度計の位置による流動の変化を示す。表面および変換器のいずれかまたは両方を移動させることができる。境界層から表面付近までの距離は、変換器の周りの境界層に影響を与える。距離を変えて、粘度測定を継続することにより、降伏応力を測定することができる。
【0154】
図17は、局所的な流動の障害物による流動の変化を示す。変換器の上流で、障害物の位置が変化するが、これには、変換器に対する向きの変化が含まれる場合があり、変換器上の隔離量を変化させる。障害物の位置を変えて、粘度測定を継続することにより、降伏応力を測定することができる。他の障害物の移動も、変換器の周りの流動に影響を与える可能性がある。例えば、変換器の下流の障害物の移動も、変換器の周りの流動に影響を与える可能性がある。重要なことは、障害物が変換器の周りの流動に影響を与える効果を有するということである。例えば、障害物は変換器の近くに存在し得る。
【0155】
図18は、降伏応力材料が変換器とともに保持されている容器の位置を変えることによる流動の変化を示す。
【0156】
流動の変化を達成する別の手法は、変換器自体または変換器上流の障害物による渦励振によるものであり得る。渦励振によって振動流動がもたらされ、渦励振体の下流側に渦が生成され、渦は本体の両側から周期的に分離する。
【0157】
これらの場合、流動の変化により境界層の形成に変化が生じるため、粘度計の測定領域に異なる固体/液体領域が生じる。これにより、測定される粘度は相応に変化するため、粘度の変化をスケーリングして降伏応力を得ることができる。例えば、降伏応力のない流体の場合、測定された粘度には流動の変化による違いはほとんどまたはまったく生じない。
【0158】
液化は、降伏応力または降伏応力流体の他の流体特性の測定にも応用することができる。一部の降伏応力流体、特に粒状懸濁液の形態を有する流体は、十分に高い周波数および十分に高い振幅の振動にさらされると、見かけの降伏応力を低減させ得る。この原理により、通常、湿ったコンクリートから空気が除去される。湿ったコンクリートが振動させられると降伏応力が低下し、湿ったコンクリートの半固体マトリックスに閉じ込められた気泡の放出を可能にする。地震学から用語を借りて、発明者らは降伏応力材料におけるこのプロセスを「液化」と説明する。
【0159】
本開示の理解に役立つ可能性のある降伏応力材料の十分に強い振動の液化効果の調査は、Balmforthらの「The Viscoplastic Stokes Layer」(Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics,volume 158,2009,doi:10.1016/j.jnnfm.2008.07.008)に見つけることができる。役立つ可能性のある他の資料は、Vavreckの「Flow Of Molten Milk Chocolate From An Efflux Viscometer Under Vibration At Various Frequencies And Displacements」(International Journal of Food Science&Technology,volume 39,2004,doi:10.1111/j.1365-2621.2004.00805.x)に見つけることができる。
【0160】
適切な振幅および周波数の振動源を、粘度計変換器を囲む降伏応力材料に局所的に適用して、液化を引き起こすことができる。これは、流動状態または静止状態で実施することができる。
【0161】
降伏応力の変化は、変換器表面での質量負荷の変化による、見かけの粘度の低下または周波数の変化のいずれかによって検出される。
【0162】
振動源は、粘度測定を行うために使用される変換器自体の共振であることができ、本開示の文脈では、これは「内的刺激」と呼ばれる。あるいは、別個の振動であり得る。
【0163】
高周波数の振動と高振幅の振動とを組み合わせることによって、粘度および周波数の変化として検出される変換器表面およびその周辺での局所的な液化を引き起こす可能性がある。変換器の振動の変調は、制御電子機器によって管理することができ、制御電子機器によって、粘性損失および共振器周波数の同時測定も可能となる。本方法は、1つの周波数で作動する単一の変換器、異なる作動周波数を有する複数の変換器、または複数周波数の共振器ユニット、すなわち複数の共振モードを有し複数の周波数で共振することができる振動変換器のいずれかで使用することができる。
【0164】
代替的または追加的に、液化を引き起こすための振動は、粘度測定を行うための振動とは異なるモードであり得る。例えば、第2のねじりモードでも、変換器の横方向または縦方向の振動モードでもあり得る。
【0165】
図19は、内的振動による液化を示す。降伏応力材料が静止している場合、流動はなく、降伏応力材料の唯一の液化領域は、変換器の振動によって生成された領域である。降伏応力材料が変換器の周りを流動している場合、変換器の存在によって生成される速度勾配の結果として、境界層が自然に発生する。変換器の周りの液化領域の一部は境界層により生じ、変換器の周りの液化領域の一部は液化により生じる。
【0166】
代替的または追加的に、液化振動源は、振動式粘度計(または複数の粘度計が使用される場合は複数の粘度計)の外部に存在し得る。本開示の文脈において、これは「外的刺激」と呼ばれる。
【0167】
液化振動源としては、槽に接続された1つ以上の機械的振動装置、あるいは1つ以上の変換器上またはその近くに取り付けられた1つ以上の音響振動源が挙げられ、槽内の1つ以上の変換器からずれた位置、槽壁、または開放路流動の場合のように流体の自由表面がある場合の流体の自由表面の上方に配置されている。
【0168】
図20は、外的振動による液化を示し、液化を引き起こす振動は、降伏応力材料が配置されている槽または導管の壁に加えられる。
【0169】
図21は、外的振動による液化を示し、液化を引き起こす振動は、降伏応力材料の別の場所に配置された振動源によってもたらされる。
【0170】
内的刺激と同様に、液化振動源による比較的高い周波数の振動と比較的高い振幅の振動とを組み合わせることによって、変換器表面近くで液化が引き起こされ、粘度および周波数の変化として検出される。変換器の振動の変調は、単一周波数の単一変換器、複数の変換器、または複数周波数ユニットなどを用いて、使用する所望のプロトコルに従って制御電子機器によって管理することができる。
【0171】
外的刺激は、以前から、閉じ込められたサンプル中の静的材料のための従来の回転式粘度計と組み合わされてきたが、共振型粘度計とは組み合わされていなかったことに留意されたい。共振型変換器の異なる質量負荷による周波数変化が特に重要な共振型粘度計の使用によって、特定の利点がもたらされる。
【0172】
上記の液化技術は、ゲル状材料ではなく粒状懸濁液である降伏応力材料で特に効果的であることに留意されたい。そのような材料に関するさらなる背景技術は、Hanotinらの「Viscoelasticity Of Vibrated Granular Suspensions」(Journal of Rheology,volume 59,2015,doi:10.1122/1.4904421)に見つけることができる。
【0173】
境界層の知識を使用して、流動を操作して粘度変換器周辺の領域の境界層を変更するなど、降伏応力などの流体特性を推定するための改善された技術および装置を提供することができる。
【0174】
通常、境界層は、ある速度の降伏応力流体が表面と接触する場所に形成される。任意の表面を流動降伏応力流体にさらすことは、流体内の固体および液体領域の形成を導く。実質的な流動の領域を増大させると、速度勾配が増し、せん断応力が降伏応力より大きい領域の割合が増し、その結果、液化領域が生じる。流動が少ないかゼロの場合、流体の速度勾配は低いかゼロになり、せん断応力が降伏応力を下回る領域、したがって固体領域になる。
【0175】
流動を操作すると、伝播する波の経路に高せん断領域または低せん断領域(「デッドゾーン」として知られる)が好適に形成され得る。これにより、流体レオロジーの変化に対する共振型粘度計の粘性および質量負荷応答が改善され得る。変換器に近い固体領域は、低周波粘度計の測定に対する降伏応力の影響も増幅しながら、液化により適した材料を提供する。
【0176】
局所的な流動の変更は、変換器の凹部もしくは隆起部などの突起、または容器形状によって、あるいは障害物または分岐を導入して流動から隔離された領域「流動の影」を形成することによって行うことができ、隔離領域は、せん断応力が低いかまたはゼロの領域と固体領域の形成とをもたらす。
【0177】
輪郭を形成するかまたは表面の相対的な近接度を変更することにより、流動を変更して、波が伝播する環境で「固体」、「遷移」および「液体」材料の領域を意図的に発生させて、降伏応力測定に影響を与えることができる。例えば、降伏応力測定の感度を向上させることができる。
【0178】
特に、変換器の表面またはその近くで固体領域の形成を促進することにより、変換器の表面から伝播するせん断波が、変換器の表面により近い固体領域および遷移領域に遭遇し、降伏応力が測定される固体および遷移領域に対する感度が高まる。せん断波の伝播深度は周波数の増加とともに減少するため、これにより、変換器をより高い周波数で振動させながら、依然として固体領域を伝播させることができる。これは、固体領域に対する感度をこの方法で「調整」することができる場合、変換器の選択肢が広がるという点で特に好適であり得る。あるいは、例えばプラントノイズのため特定の周波数帯域を回避することが望ましい場合があるが、依然として、制限された帯域で作動する変換器と同等または類似の固体領域に対する感度を得ることができる。
【0179】
多くのアプリケーションでは、流動の開始を検出することが重要である。多くの測定環境では、流動の開始、すなわち静的材料が流動し始める点を検出できることが望ましい。特に重要な用途の1つは、システム内のスローリークの結果として発生する流動の検出であり得る。
【0180】
しかしながら、通常、ゼロに近い速度の流動に対する感度が高くない従来の流動測定技術を使用して上記検出を達成することは困難であり得る。これは、固体で不動のように見えるが、非常に遅いまたは這うような速度で流動している可能性がある、降伏応力材料の場合に特に当てはまる。
【0181】
理論に縛られることを望まないが、降伏応力流体は流動するために液体境界層を必要とするため、最初の液体層は開始のごく初期に形成されるが、この液体は振動型粘度変換器により粘度の突然の変化として明確に検出可能であると考えられる。
【0182】
特に、降伏応力材料の静的サンプルの粘度を、振動型粘度変換器を使用して監視する場合、降伏応力材料が流動し始めると、測定粘度は、静止状態の値から大幅に増加し、その後、流量がかろうじて知覚可能なほふく流動を超えて増加するため、静止状態の値を下回ることが観察される。
【0183】
本技術は、降伏応力流体への単なる圧力印加に対して高感度であることがわかっている。
【0184】
この原理に従って、降伏応力材料中の振動式粘度計を使用して、見かけの粘度の増加(すなわち減衰)を検出することにより、降伏応力材料流体がもはや静止しておらず、ゆっくりと動き始めたことを判断することができる。
【0185】
したがって、他の方法では感知できないと考えられる動きを判断するための技術が提供される。
【0186】
図22は、本開示の1つ以上の技術を使用して流体を分析する例示的な装置を概略的に示す。この装置は、流体サンプル5中の第1の共振型粘度変換器の比較的近くに配置された第1の共振型粘度変換器100および第2の共振型粘度変換器120を備える。この例における流体サンプル5は、チャンバ6内の略静止した一定体積の流体であり、流体は自由表面7を有し、粘度変換器の一部は自由表面7の上方から貫通している。
【0187】
図22では、上壁が閉じたチャンバ6が描かれており、その内容物が加圧されている場合には必要になる可能性があるが、チャンバは同様に上方を開けることもできる。したがって、流体サンプルは大気圧下にある可能性がある。そのような構成において、粘度変換器は、変換器の少なくとも一部がチャンバ7の上部開口部内に延び、代わりに流体サンプル5と接触するように、チャンバ7の上方に配置することができる。
【0188】
共振型粘度変換器は、米国特許第6,450,013号に記載されたタイプの変換器であり、変換器は、ねじりモードで振動するように構成された振動要素を備える。振動要素は流体に浸漬され、粘度は要素が受ける減衰、すなわちQ係数との相関関係によって決まる。特に、各変換器は、変換器取付具10、半剛性接続部材12、シャフト14、および検知要素16を備える。シャフト14および検知要素16は、角周波数ωでねじり振動するように駆動される。検知要素16およびシャフト14および検知要素16は、少なくとも大部分、場合によっては全体がステンレス鋼などの金属材料で形成されている。検知要素16およびシャフト14は両方とも円形断面を有し、すなわち、いずれも振動回転軸線の周りに円形対称である。ある周波数の振動を介して粘度を測定するのに適し得る変換器の例は、Hydramotion Ltd社(英国、マルトン)によって製造されたXL7モデルの粘度計である。
【0189】
チャンバ6の内容物は、大気圧に対して10バールに加圧されている。検出要素は、サンプル5の流体の粘性効果にさらされる。流体の粘度を上げると、変換器の振動の減衰が大きくなり、システムの振動効率が測定可能なまでに低下する。
【0190】
この装置では、第1の粘度変換器100は、共振システムの剛性および質量または慣性モーメントの選択により、400Hzの低い共振周波数、すなわち約2513rad/sの角周波数を有するように特別に設計されている。第2の粘度変換器120は、1500Hzのより高い共振周波数、すなわち約9425rad/sの角周波数を有するように特別に設計されている。
【0191】
第1および第2粘度変換器の共振周波数で粘度を測定するために、振動の「Q係数」を決定することができる。Q係数は、共振器の減衰レベルを示す無次元パラメータであり、減衰レベルは粘度の関数である。特に、共振器の減衰不足の度合いを示す。周波数応答のプロットでは、高いQ係数は共振周波数で高く狭いピークを与え、低いQ係数は低く広いピークを与える。減衰に伴うピーク幅の変化により、Q係数は、共振周波数と共振帯域幅の比として定義することができ、
【数19】
式中、ω
Rは1秒あたりのラジアン単位の共振周波数、Δωは半値全幅(FWHM)であり、帯域幅は振動の力が最大値の半分より大きい(または同等に振動の振幅が共振の最大振幅を√2で割った値より大きい)帯域幅、すなわち3dBポイント間の帯域幅である。流体の粘度はQ係数の2乗に反比例し、粘度測定値の計算に必要な比例定数は、既知の粘度の基準流体を用いて較正することにより得ることができる。
【0192】
ある周波数の振動での、またはある周波数の振動に対応する粘度の測定は、Q係数を推定するために1つ以上の周波数で振幅測定を行うことを含む場合があるが、共振周波数に対応する周波数で単一の粘度測定値が取得されることに留意されたい。例えば、帯域幅は、共振中の最大振幅の1/√2に振幅を低下させるのに必要な周波数に基づいて決定することができる。非限定的な例として、共振中の最大振幅の1/√2に振幅を低下させるのに必要な周波数は、共振周波数を中心に周波数掃引を実行することで決定することができるが、当業者であれば3dBポイント周波数は、他のさまざまな技術で識別できることがわかるだろう。
【0193】
Q係数を決定する別の手法は、共振周波数の周辺の一連の周波数で振動の振幅を測定し、最小二乗法によって周波数および振幅値(またはその対数)に放物線を当てはめることである。3dBポイントは、測定に最適な放物線に基づいた2次方程式の解として得ることができる。
【0194】
Q係数を決定する別の手法は、対数減衰率によるものである。変換器の駆動を停止し、振動の減衰を測定することにより、振動の時系列を監視し、2つの連続するピークA
1とA
2との比の自然対数を次式
【数20】
で求めることにより、Q係数を求めることができる。
【0195】
第1および第2の粘度変換器100、120は両方とも、それぞれの共振周波数に対応する粘度測定値を提供する。第1および第2の粘度測定値V1、V2、ならびに第1および第2の角周波数ω
1、ω
2は、処理モジュール(図示せず)に提供され、処理モジュールは、上記の方程式(18)
【数21】
を使用、すなわち評価し、既知の値n、べき乗則指数、および以前に取得した経験的なスケーリング定数α’を使用して、上記測定値を処理して降伏応力の推定値を提供する。
【0196】
図23は、本開示の1つ以上の技術を使用して流体を分析するさらなる例示的な装置を概略的に示す。装置は、
図22に示した装置と同様に、400Hzおよび1500Hzの2つの異なる周波数、すなわち約2513rad/sおよび9425rad/sの角周波数で作動可能に特別に設計された単一の共振型粘度変換器300を備える。そのような変換器は、所望の周波数に対応する少なくとも2つの共振モードを有するように、変換器の各要素の剛性および質量または慣性モーメントを選択することにより得ることができる。この例における流体サンプル5は、チャンバ6内の一定体積の流体であり、流体は自由表面7を有し、粘度変換器300の一部は自由表面7の上方から貫通している。
図22に示した例とは対照的に、チャンバ6には、流体が粘度変換器300の浸漬部分を通過して流動するように流体サンプル5を連続的に撹拌するパドル撹拌器8が設けられている。
【0197】
第1および第2の粘度測定値V1、V2、および第1および第2の周波数ω1、ω2は、処理モジュール18に提供され、処理モジュール18は、べき乗則指数の既知の値を使用して上記の方程式(18)を評価することによりこれらの測定値を処理して降伏応力σ0の推定値を与える。
【0198】
図24は、本開示の1つ以上の技術を使用して流体を分析するさらなる例示的な装置を概略的に示し、複数の共振型粘度変換器400、420、440はいずれも、それぞれの共振周波数に対応する、順により高くなる周波数で振動する。共振周波数の増加における変換器の順序は必須ではなく、任意の順序であり得ることが理解されよう。この例では、共振周波数は400Hz、1500Hzおよび5000Hz、すなわち角周波数は約2513rad/s、9425rad/s、31416rad/sである。この例における流体サンプル5は、1m/sの上流平均速度で導管7内を流動している。粘度変換器400、420、440は、導管7の壁を貫通して上から延び、導管7の壁を貫通して延びる部分は、流体サンプルが流動して粘度変換器400、420、440を通過するとき、流体サンプルと接触する。
【0199】
第1、第2および第3の粘度測定値V1、V2、V3ならびに第1、第2および第3の周波数ω1、ω2、ω3は、処理モジュール(図示せず)に提供され、処理モジュールは、これらの測定値を処理して1つ以上の流体特性の推定値を与える。
【0200】
処理モジュールは、上記の方程式(22)、すなわち
【数22】
に代入することにより、測定されたV2、V3、ω
2およびω
3からべき乗則指数nを評価する。
【0201】
べき乗則指数がわかれば、上記の方程式(18)とV1、V2、ω
1およびω
2を使用して降伏応力を評価することができ、すなわち、
【数23】
となる。
【0202】
図25は、本開示の1つ以上の技術を使用して流体を分析するさらなる例示的な装置を概略的に示す。装置は、
図24に示した実施形態のように、400Hz、1500Hzおよび5000Hzの複数の周波数、すなわち約2513rad/s、9425rad/sおよび31416rad/sの角周波数で作動可能に特別に設計された単一の共振型粘度変換器500を備える。そのような変換器は、所望の周波数に対応する少なくとも2つの共振モードを有するように、変換器の各要素の剛性および質量または慣性モーメントを選択することにより得ることができる。粘度変換器500は、チャンバの側壁9を貫通して水平に取り付けられ、側壁を貫通して延びる部分は、流体サンプル5に浸漬している。粘度変換器500は、検知要素16がチャンバの壁9から特に長い距離を置いて配置されるように、特に長いシャフト14を有する。
【0203】
第1、第2および第3の粘度測定値V1、V2、V3ならびに第1および第2の周波数ω1、ω2、ω3は、処理モジュール(図示せず)に提供され、処理モジュールは、これらの測定値を処理して1つ以上の流体特性の推定値を与える。
【0204】
図24に示した実施形態と同様に、処理モジュールは、測定されたV1、V2、V3、ω
1、ω
2およびω
3の値を方程式(22)および(18)に順に代入することにより、べき乗則指数nおよび降伏応力σ
0を評価する。
【0205】
図26は、本開示の1つ以上の技術を使用して流体を分析する装置の変形形態を示し、複数の共振型粘度変換器400、420、440はいずれも、それぞれの共振周波数に対応する、順に高くなる周波数で振動する。装置は、
図23に示した第2の実施形態のように、400Hzおよび1500Hzの2つの周波数、すなわち約2513rad/sおよび9425rad/sの角周波数で作動可能に特別に設計された単一の共振型粘度変換器600を含む。そのような変換器は、所望の周波数に対応する少なくとも2つの共振モードを有するように、変換器の各要素の剛性および質量または慣性モーメントを選択することにより得ることができる。
【0206】
粘度変換器600は、ねじ式変換器取付具10から延びるシャフト14上に検知要素16を備える。処理モジュール18は、ねじ式変換器取付具10の反対側に示されている。変換器取付具10のねじ部は、導管8の対応するねじ山と係合する。検知要素16およびシャフトは、上流に向いて導管8の軸線に沿って延びる。粘度変換器の流体接触部分は、腐食に耐え、流体の汚染を避けるために、ステンレス鋼(タイプ316)で形成されている。導管8は、流体が変換器600の検知要素16を通過した後、導管壁によって一方の側に迂回するような角部を含む、すなわち、粘度変換器600は導管8のエルボ部分に設置されている。
【0207】
処理モジュール18は、降伏応力σ0および流体温度を出力する。流体温度は、粘度変換器600の検知要素16に含まれる温度センサから取得される。降伏応力σ0は、上記の方程式(18)に代入することにより、測定されたV1、V2、ω1およびω2から得られる。
【0208】
図22~
図26に示された例では、流体は、静止、チャンバ内を移動、パドルによる撹拌、導管内を流動などさまざまな状態にある。例示的な装置はすべて、そのような流体環境のいずれでも使用することができることが認識されよう。例えば、
図24は3つの別個の粘度変換器を通過し導管内を流動する流体を示すが、
図25の単一のマルチモード粘度変換器、または
図22および
図23の粘度変換器配置、またはマルチモード変換器とシングルモード変換器との組み合わせに置き換えることができる。
【0209】
図26の変形形態の装置は、
図22~
図25の構成のいずれにも等しく含めることができ、パイプ取付具は、隔壁または導管壁を貫通して延びるより適切な取付手段に置き換えることができる。
【0210】
あるいは、上記の技術は、振動管型の粘度変換器などの別のタイプの粘度変換器を使用して実装することもできる。このタイプの適切な変換器の例は、国際公開第2017001861号に記載されている。
【0211】
図27Aは、導管壁718から流動降伏応力流体5の経路内に延びる、シャフト714およびボブ716を備えるシャフト・ボブ型の粘度変換器700を示す。粘度変換器700は、枢動手段712を含み、流体5内のシャフト714およびボブ716の向きを変えることができる。
【0212】
図27Aでは、シャフトは流動方向に対して垂直に配置されている。この構成において、粘度V1および角周波数ω1は、シャフト714およびボブ716のねじり振動によって得られる。
【0213】
図27Bでは、シャフト714およびボブ716は、角度θだけ流動内に傾き枢動手段712周りに回転し、粘度測定はこの向きで行われ、粘度V2および角周波数ω2がもたらされる。
【0214】
これらの測定値から、流体の降伏応力は、方程式(18)、(28)、および(30)のうちの1つなど、本開示で説明する手法の1つを使用して推定することができる。
【0215】
十分な振幅および周波数の振動を加えることにより、液化が誘導されて降伏応力材料の領域を液化する場合がある。
【0216】
一実施形態では、単一周波数振動変換器がその共振周波数で駆動され、せん断損失から導出された粘度信号が測定される。液化は周波数に依存し、より高い周波数を優先するため、この場合の振動の周波数は2kHz程度であり得るが、本発明はこの周波数に限定されない。
【0217】
液化振動は、測定に使用される実際の振動、または粘度計または粘度計本体のその他のねじりモード、横モードおよび縦モードの振動であり得る。
【0218】
振動が測定モードでもある場合、振動の振幅Aは、測定には十分だが液化には不十分の非常に低いレベルから変調され、値が記録される。材料が降伏応力を有する場合、振幅を大きくすると、共振器の表面の最も近くに局所的な液化が発生するが、これは2つの方法で検出することができる。
【0219】
最初の手法では、液体層の形成に伴う測定粘度の変化、ΔVAMP。通常、これは、半固体マトリックスの見かけの高粘度が破壊されることに伴う、粘度の低下である。他の場合、降伏応力材料がよりゲル状のマトリックスを有する場合、損失性の液体が形成されるにつれて測定波に対するインピーダンスが増加し、粘性損失が実際に増加する可能性がある。粘性損失の変化を、波(共振器)の振幅に対してスケーリングし(kLV)、降伏応力の推定値を得る。
【0220】
粘度計は、降伏応力材料を液化するのに十分な第1の振幅AAで駆動され、粘度VAおよび共振周波数FAの測定値がもたらされる。次に、粘度計は第2の低い振幅ABで駆動され、粘度VBおよび共振周波数FBの測定値がもたらされる。これにより、ΔA=AA-AB、ΔVAMP=VA-VB、およびΔF=FA-FBの「デルタ」値が得られ、振幅の段階変化と、結果として生じる粘度および周波数の変化とを表す。降伏応力の経験的推定は、次式によって行うことができる。
σ0=ΔVAMPkLV/ΔA (31)
【0221】
代替として、または最初の(すなわち、粘度変化)手法に加えて実施することができる第2の手法では、より液化した層は固体構造よりも低い質量負荷m
Fを示すため、周波数Fが増加する可能性があり、
【数24】
式中、K
vおよびm
0は、機械的振動システムの剛性および質量のパラメータである。
【0222】
次に、周波数変化ΔFAMPを、波(共振器)の振幅に対してスケーリング(kLF)し、次式によって降伏応力の推定値を得る。
σ0=ΔFAMPkLF/ΔA (33)
【0223】
一実施形態では、液化に寄与しない第2の(より低い)周波数の振動がさらに使用される。これにより、温度または流体粘度の変化によって引き起こされる系統誤差をレシオメトリックに低減または排除するための基準信号がもたらされる。(液化効果が無視できる程度の)より低い周波数に対応する粘度または周波数の測定値で割ることにより、流体の温度または粘度の自然なコモンモード変化によって生じ得る誤差が低減または排除される。
【0224】
特に、振動式粘度計は、降伏応力材料を液化するのに十分な第1の振幅AAの第1の共振モードで駆動され、粘度VA-HIGHおよび共振周波数FA-HIGHの測定値がもたらされる。次に、粘度計は第2のより低い振幅ABの第1の共振モードで駆動され、粘度VB-HIGHおよび共振周波数FB-HIGHの測定値がもたらされる。これにより、ΔA=AA-ABの「デルタ」値が得られ、振幅の段階変化を表す。
【0225】
第2の振動式粘度計も、液化を引き起こすには不十分な振幅(例えば、AA)の第2の共振モード(第1の共振モードよりも低い共振周波数に対応)で駆動され、粘度VA-LOWおよび/または共振周波数FA-LOWの測定値がもたらされる。次に、粘度計は、液化を引き起こすには不十分な振幅(例えば、AA)の第1の共振モードで駆動され、粘度VB-LOWおよび/または共振周波数FB-LOWの測定値がもたらされる。
【0226】
あるいは、単一のマルチモード粘度計を使用して、すべての測定を行うことができる。
【0227】
粘度の場合、粘度比の変化ΔVRLを、駆動振幅の変化に対してスケーリング(kLRL)して、降伏応力の改善された推定値が得られ、温度変化による誤差などのコモンモード誤差が低減または排除される。
ΔVRL=VA-HIGH/VA-LOW-VB-HIGH/VB-LOW
σ0=ΔVRL・kLRL/ΔA (34)
【0228】
代替的または追加的に、周波数に代えて、周波数比の変化ΔFRLを、駆動振幅の変化に対してスケーリング(kLRF)して、降伏応力の改善された推定値が得られる。
ΔFRL=FA-HIGH/FA-LOW-FB-HIGH/FB-LOW
σ0=ΔFRLkLRF/ΔA (35)
【0229】
本開示の技術によれば、降伏応力材料の粘度を測定するプロセスの中間ステップまたは付随するステップとして周波数を測定することができることに留意されたい。例えば、Q係数を識別するには、共振周波数を識別する必要があり得る。一方、共振周波数は、粘度を測定せずとも決定され得る。
【0230】
あるいは、降伏応力の推定に粘度の変化を使用する場合は特に、粘度計(変換器)が共振中に振動する必要はない。例えば、粘度計は、より低い周波数など、共振モードから離れた周波数で作動し、粘度の測定値を取得する。そのように共振から離れている場合、帯域幅を使用してQ係数を決定し、Q係数から粘度を決定するといった、周波数ベースでQ係数から求める手法は適切でない場合がある。対数減衰率法などの時系列手法に基づいて、または抵抗力を考慮して粘度を決定する方が適切な場合がある。
【0231】
そのような場合、降伏応力は、降伏応力流体中の振動変換器を第1の周波数で振動させ、粘度の第1の測定を行うステップと、1つ以上の振動変換器の周りの降伏応力流体の少なくとも一部を液化する振動をもたらすステップと、降伏応力材料の前記部分が液化されている間に、振動変換器を第1の周波数で振動させ、粘度の第2の測定を行うステップと、粘度の第1および第2の測定値に基づいて、降伏応力流体の降伏応力を推定するステップとにより推定される。1つ以上の変換器の周りの降伏応力流体を液化するための振動は、第1の測定と比較して増加した振動振幅で第2の測定を行うことによりもたらされる。降伏応力は、方程式(31)などによって、第1および第2の測定値の振幅差でスケーリングされた粘度の第1および第2の測定値の差に基づいて推定することができる。
【0232】
別の実施形態では、振動変換器が、降伏応力流体中で、第1の周波数より低い第2の周波数で振動されて粘度の第3の測定が行われ、振動変換器が、降伏応力流体中で、第2の周波数で振動されて粘度の第4の測定が行われ、降伏応力は、第1および第2の測定値の振幅差でスケーリングされた、第3の粘度測定によってスケーリングされた第1の粘度測定値と、第4の粘度測定によってスケーリングされた第2の粘度測定値との差に基づいて推定される。
【0233】
第3と第4の測定は、同じである場合があるため、別個に測定する必要はない可能性がある。振幅(または振幅と周波数との積)が、液化が起こらないほど十分に低い場合、振動の振幅は粘度または共振周波数にほとんど影響しないと考えられる。
【0234】
時間変動の低減を改善するために、粘度または周波数の第3および第4の測定は、複数周波数(例えばマルチモード)粘度計の場合、それぞれ第1および第2の測定と同時に、または直前もしくは直後に、行うことができる。
【0235】
本発明は、振幅の段階変化に限定されない。他の実施形態では、振幅掃引、または正弦波、三角波、鋸歯状波、方形波もしくは他の周期的(もしくはさらには非周期的)信号による振幅の周期的変化などによる一連の段階的な変化を含む、1つ以上の段階変化を使用することができる。これらの変化は、粘度および/または周波数の変化として検出され得る。
【0236】
粘度計の周囲の降伏応力流体を液化するための振動源は、粘度計から発生する必要はない。
【0237】
図20は、流体に結合された構造の、ねじりモード、横モードおよび縦モードのいずれかの外的機械振動を示す。粘度計とは独立して、
図20に示すように、流体を囲む容器または基本構造体の機械的刺激によって振動がもたらされ得る。
【0238】
代替的または追加的に、
図21に示すように、流体による音響振動が液化源になり得る。
【0239】
すべての場合において、これらの振動源の振幅および周波数を制御および変調することができ、固有の液化からの降伏応力測定に関して上記と同じ測定を行うことができる。
【0240】
あるいは、上記の技術は、特定のタイプの振動変換器に限定されず、シャフト・ボブ型変換器、または振動管型粘度変換器などの別のタイプの粘度変換器を使用して実装することもできる。このタイプの適切な変換器の例は、国際公開第2017001861号に記載されている。
【0241】
図28~
図33は、ボブ・シャフト型の粘度変換器を使用した本手法の変形形態を示し、シャフトは流動方向に軸線方向に整列され、ボブは上流に向いている。
【0242】
図28は、降伏応力材料の開放流動中の滑らかな外形を有する変換器を示す。ボブの外形は、断面が長方形(すなわち軸線の周りに対称の円筒形)で、幅(すなわち直径)は、円錐状の上流端部の点に向かって徐々に減少し、かつ、円錐台形の下流端部のより狭いシャフトの幅に向かって徐々に減少する。変換器の周りに境界層が発生するため、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、液体領域に続いて固体領域に入る。
【0243】
図29は、パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の
図28の変換器を示し、パイプまたは槽の壁は流動方向および変換器のシャフトと軸線方向に整列され、パイプまたは槽の壁にはさらなる境界層が発生している。したがって、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、液体領域、続いて固体領域、続いてパイプまたは槽の壁のさらなる液体領域に入る。
【0244】
図30は、降伏応力材料の開放流動中の起伏状外形を有する変換器を示す。変換器は、ボブの長方形(すなわち円筒形)部分に凹部が設けられているという点で
図28の変換器とは異なり、凹部はこの場合は円周溝である。凹部内の材料は流動から隔離され、凹部内に低いせん断応力が発生し、その結果、凹部内の材料は固体のままとなる。液体境界層は、変換器の周りに発生するが、凹部には延びない。したがって、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、凹部内の固体領域、続いて変換器の境界層内の凹部から離れた液体領域、続いて開放流動降伏応力材料内のさらなる固体領域に入る。
【0245】
図31は、パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の、起伏状外形を有する
図30の変換器を示し、パイプまたは槽の壁にさらなる境界層が発生する。したがって、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、変換器の凹部内の固体領域、続いて変換器の境界層の凹部から離れた液体領域、続いて固体領域、続いてパイプまたは槽の壁のさらなる液体領域に入る。
【0246】
図32は、パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の
図28の滑らかな変換器を示し、パイプまたは槽の壁は流動方向および変換器のシャフトと軸線方向に整列され、パイプまたは槽の壁には、この場合は円周溝の形態の凹部が設けられている。凹部内の材料は流動から隔離され、凹部内に低いせん断応力が発生し、その結果、凹部内の材料は固体のままとなる。液体境界層は、パイプまたは槽の壁に発生するが、凹部には延びない。液体境界層は、変換器の周りにも発生する。したがって、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、液体領域、続いて固体領域、続いて壁の別の液体領域、続いて壁の凹部の別の固体領域に入る。
【0247】
図33は、パイプまたは槽を通過する降伏応力材料の流動中の、起伏状外形を有する
図30の変換器を示し、さらなる境界層が、流動方向および変換器のシャフトと軸線方向に整列されたパイプまたは槽の壁に発生し、パイプまたは槽の壁には、この場合は円周溝の形態の凹部が設けられている。したがって、変換器から降伏応力材料内を伝播する波は、変換器の凹部内の固体領域、続いて変換器の境界層の凹部から離れた液体領域、続いて固体領域、続いてパイプまたは槽の壁のさらなる液体領域、続いて壁の凹部内の別の固体領域に入る。
【0248】
図34は、降伏応力材料の開放流動中の
図28の変換器を示すが、
図28とは異なり、変換器は流動方向と軸線方向に整列していない。代わりに、流動方向に対して垂直に配置されている。この場合、液体境界層は変換器の上流側に発生するが、変換器の下流側は流動から隔離され、固体のままであり得る。したがって、変換器の異なる側から伝播する波は、異なる伝播経路を経る。このように流動方向に垂直に変換器を配置することは、粘度の差による降伏応力の推定(例えば方程式(18)による)、液化)を含むが、これに限定されない、本開示の他の技術と好適に組み合わせることができる。
【0249】
図35は、パイプ内の流動に垂直に配置された
図34の変換器を示し、変換器は、パイプの凹部内に部分的に引き込まれている。この場合、液体境界層は変換器の上流側に発生するが、変換器の下流側は流動から隔離され、固体のままであり得る。さらに、変換器の上流のパイプ壁に液体境界層が発生する。この場合も、変換器の異なる側から伝播する波は、異なる伝播経路を経ることになり、上流の伝播波は変換器上および壁際の液体境界層の影響を受ける可能性がある。この場合、シャフトは流動方向に垂直に配置されているが、他の実施形態では、流動方向に(平行に)、または垂直と平行との中間の角度で、シャフトを配置することができる。
【0250】
図36は、パイプ内の流動に垂直に配置された変換器を示し、変換器は、
図35とは異なるシャフト・ボブ型の変換器である。ボブは、シャフトと軸線方向に整列したディスクまたは短い円筒の形をしている。
図35と同様に、変換器は部分的にパイプ壁の凹部内に引き込まれており、ディスク状のボブが、通常であればパイプ壁の境界層である位置に配置されている。
【0251】
図37A~
図37Eは、シャフト・ボブ型の変換器の可能な設計として、一連の5つのボブ外形を示す。
【0252】
【0253】
図37Bは、両側に長方形の凹部を有するボブ外形を示し、長方形の外形の円周溝を表す。
【0254】
図37Cは、最も外側の端部で最も幅が広く、軸線に向かって狭くなる四辺形の凹部が両側にあるボブ外形を示し、軸線を横断して整列した上流側の平坦な端部が、上流側で凹部の底と直角の角を形成し、凹部の底から下流側のボブの外径に向かって円錐台形に広がった、円周溝を表す。
【0255】
図37Dは、最も外側の端部で最も幅が広く、軸線に向かって狭くなる三角形の凹部を両側に有するボブ外形を示し、上流側の平坦な端部が軸線を横断して整列し、凹部の底から下流側のボブの外径に向かって円錐台形に広がった、円周溝を表す。
【0256】
図37Eは、正弦曲線の端部外形と同様に蛇行式に、局所の直径が最大から最小まで滑らかに変化する凹部を有するボブ外形を示す。
【0257】
図38は、変換器の2つのさらなるボブ設計を示し、凹部/溝は直径が急激に変化する形をとる。
図38の上図のボブの外形では、流動が下流に移動するにつれて、軸線に沿ったある位置で直径が急激に小さくなる。これにより、直径変化の下流側で流動材料が隔離される凹部領域が形成されるため、この領域では材料が固体のままであり得る。
図38の下図のボブの外形では、流動が下流に移動するにつれて、軸線に沿ったある位置で直径が急激に大きくなる。材料が変換器の周りを流動すると、直径変化のすぐ上流の材料は凹部に保持され、固体のままになる。したがって、
図38では、ボブの周りの流線または流路に関連して凹部を説明することができ、あるいは降伏応力材料が保持される前または後にボブの外形に隆起部があると見なすことができる。
【0258】
代替的または追加的に、ボブには、ボブに沿って軸線方向にある程度延びる隆起部または凹部を設けることもできる。これは、回転振動の場合、スリップ層またはスリップ表面が共振器表面に形成され、降伏応力材料の相の分離によって共振器が潤滑し得るため、好適であり得る。せん断領域を共振器からさらに離して移動することができる場合、共振器表面でのスリップによる問題は低減または排除される。
【0259】
表面での固体物質の保持により、センサ表面でのスリップ層の形成が低減または排除されて、センサと流体との結合が改善される。
【0260】
図39Aおよび
図39Bは、ボブの形状を斜視図で示し、滑らかな底部の半円形外形の溝が、ボブの円周の周りに間隔を空けて、ボブに沿って軸線方向に延びて設けられている。
【0261】
図39Aは、本開示で「施条型」ボブと呼ばれる変形形態を示し、溝の経路は、ボブの外面の周りの螺旋経路につながる、軸線方向および接線方向の構成要素を有する。
【0262】
図39Bは、半円形外形の溝がボブと軸線方向に整列している別の変形形態を示す。
【0263】
図39Cは、
図33Aおよび
図33Bに示されたボブのいずれにも当てはまる、ボブの軸線を横切る断面を示し、溝を充填する固体降伏応力材料を示す。スリップ領域は、ボブの外側範囲を含む円に移動されており、スリップ領域は主に降伏応力材料内にある。
【0264】
「施条型」ボブは、流動方向に軸線方向に整列されると、
図37B~
図37Eに示したボブと同様に、材料を流動から螺旋溝内に隔離することができるという点でさらなる利点を有する。
【0265】
図40Aおよび
図40Bはそれぞれ、さらなる別のボブの変形形態を断面図および斜視図で示し、この場合、ボブから外側に延びる長方形の板の形の羽根を、ボブの軸線が羽根と同一平面上となるように設けることにより、せん断領域は共振器表面から離される。羽根の大きさに応じて、せん断領域は共振器表面から所望の距離まで移動することができ、ボブの寸法によって制限される溝よりも設計の柔軟性が増す。
【0266】
あるいは、上記の技術は、振動管型の粘度変換器などの別のタイプの粘度変換器を使用して実装することもできる。このタイプの適切な変換器の例は、国際公開第2017001861号に記載されている。管の内面には、羽根、隆起部、または凹部を、管の周りに軸線方向、接線方向、または螺旋状に並べることもできる。
【0267】
さらなる実施形態では、粘度変換器(
図22の粘度変換器100など)を使用して、最初は静的である降伏応力材料の流動の開始を検出する。
【0268】
進行中のサンプリング期間に5秒ごとに、粘度変換器を使用して、一連の粘度(すなわち減衰)の読み取り値が取得される。
【0269】
連続する各粘度測定値Vnは、前回の粘度測定値Vn-1と比較される。VnがVn-1よりも閾値を超えて大きい場合、例えば、Vn>ε・Vn-1(式中、εは1より大きいしきい値比(例えば2))の場合、流体は流動し始めたと判断される。
【0270】
さらなる実施形態では、2つ以上の連続するサンプルは一緒に平均化され、平均化されたサンプルは先行する連続するサンプルの平均と比較され、平均化効果はローパスフィルタとして機能して、流動の検出におけるノイズおよび非物理的スパイクおよび過渡現象の影響を低減する。
【0271】
あるいは、上記の技術は、振動管型の粘度変換器などの別のタイプの粘度変換器を使用して実装することもできる。このタイプの適切な変換器の例は、国際公開第2017001861号に記載されている。
【0272】
本開示の解釈において、すべての用語は、文脈と一致する可能な限り最も広い範囲で解釈されるべきである。特に、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」という用語は、非排他的に要素、構成要素、またはステップを指すと解釈されるべきであり、参照される要素、構成要素、またはステップが、明示的に参照されていない他の要素、構成要素、またはステップとともに存在する、または利用される、またはそれらと組み合わされる可能性があることを示す。本開示の文脈において、「に基づいて」という用語は、特に明記しない限り、「のみに基づいて」を意味しない。言い換えれば、「~に基づいて」という用語は、「~のみに基づいて」および「少なくとも~に基づいて」の両方を表す。「決定(determining)」という用語には、さまざまな行為が含まれる。したがって、「決定」には、計算、演算、処理、導出、調査、検索(例えばテーブル、データベース、または別のデータ構造の検索)、確認などが含まれる。また、「決定」には、受信(例えば、情報の受信)、アクセス(例えば、メモリ内のデータへのアクセス)などが含まれる。また、「決定」には、解決、選択、選出、確立などが含まれる。
【0273】
本開示の多くは、本明細書に記載の技術にとって特に好適なタイプの波の伝播であり得る、流体中のせん断波伝播の使用に焦点を合わせているが、この技術は、例えばねじれ変換器の場合のように、平面で振動する振動表面によって引き起こされるようなせん断波伝播に限定されない。ボブまたは他の振動要素の縦振動または横振動によって生成されるような、他の振動モードによって生成される他の実体波を、せん断波の代わりに、またはせん断波と組み合わせて使用することができる。
【0274】
説明された方法、プロセス、およびアルゴリズムは、プロセッサ可読媒体またはコンピュータ可読媒体上に1つ以上の命令として格納され得る。「コンピュータ可読媒体」という用語は、コンピュータまたはプロセッサがアクセスすることができる利用可能な媒体を指す。限定ではなく例として、そのような媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ、CD-ROMまたは他の光ディスク記憶装置、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置、あるいは命令またはデータ構造の形式で目的のプログラムコードを格納するのに使用されることができ、コンピュータからアクセスすることができる他の媒体を含み得る。ここで使用されるディスク(disk)およびディスク(disc)には、コンパクトディスク(CD)、レーザディスク、光ディスク、デジタル多用途ディスク(DVD)、フロッピーディスク、Blu-ray(登録商標)ディスクが含まれ、通常、ディスク(disk)は磁気でデータを再生し、ディスク(disc)はレーザで光学的にデータを再生する。コンピュータ可読媒体は、有形で非一時的であり得ることに留意されたい。本開示の文脈では、「コード」という用語は、演算装置またはプロセッサによって実行可能なソフトウェア、命令、コード、またはデータを指し得る。
【0275】
処理モジュールは、本開示の技術および装置に従ってデータを処理しシステムを制御するためのプロセッサを含むコンピュータを備え得る。代替的または追加的に、処理モジュールは、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)回路および/またはASIC(特定用途向け集積回路)、および/またはマイクロコントローラの形態など、同じ機能を実行する電子回路を備え得る。
【0276】
ソフトウェアまたは命令またはデータは、伝送媒体を介して送信することもできる。例えば、ソフトウェアが、同軸ケーブル、光ファイバケーブル、ツイストペア、デジタル加入者線(DSL)、または赤外線、無線、マイクロ波などの無線技術を使用して、ウェブサイト、サーバ、またはその他のリモートソースから送信される場合、同軸ケーブル、光ファイバケーブル、ツイストペア、DSL、または赤外線、無線、マイクロ波などの無線技術が伝送媒体の定義に含まれる。
【0277】
本発明の実施形態の上記の詳細な説明は、網羅的であること、または本発明を上記に開示された正確な形態に限定することを意図しない。本発明の特定の実施形態および例は、例示を目的として上記に記載されているが、当業者が認識するように、本発明の範囲内でさまざまな同等の変更が可能である。例えば、プロセスまたはブロックは所与の順序で提示されるが、代替の実施形態では、ステップを有するルーチンを実行するか、またはブロックを有するシステムを異なる順序で使用することができ、一部のプロセスまたはブロックを削除、移動、追加、分割、結合、および/または変更することができる。これらのプロセスまたはブロックの各々は、さまざまな異なる方法で実装することができる。また、プロセスまたはブロックは連続して実行されるように示されている場合があるが、代わりに、これらのプロセスまたはブロックは並列で実行されるか、または異なる時間に実行され得る。
【0278】
本明細書で提供される本発明の教示は、必ずしも上記のシステムではなく、他のシステムに適用することができる。上記のさまざまな実施形態の要素および動作を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。
【0279】
本明細書で提供される見出しは、便宜上のものにすぎず、特許請求の範囲によって定義される本開示の態様の範囲または意味に必ずしも影響を与えるものではない。
【0280】
いくつかの実施形態を説明してきた。これらの実施形態は、例としてのみ提示されており、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。実際、本明細書で説明される新規の方法、装置、およびシステムは、さまざまな他の形態で具現化され得る。本明細書の発明概念から逸脱することなく、既に説明したものに加えてさらに多くの変更が可能であることは、当業者には明らかなはずである。例えば、本開示で説明されるすべての方法は、そのような方法の各ステップを実行する手段を含む装置など、そのような方法を実行する装置で代替的に具現化され得る。別の例として、本開示で説明するすべての方法は、プロセッサによって実行されるとプロセッサに対応する方法を実行させる命令を格納した非一時的(有形)コンピュータ可読媒体の形で代替的に具現化され得る。
【0281】
前述の説明では、特に重要と思われる本発明の特徴に注意を向けるよう努めているが、出願人は、特に強調されているかどうかにかかわらず、本明細書で言及されるおよび/または図面に示される特許性のある特徴または特徴の組み合わせに関して保護を請求することを理解されたい。