(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】冷却液
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6567 20140101AFI20230314BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20230314BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01M10/6567
H01M10/625
C09K5/10 F
(21)【出願番号】P 2018214202
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591125289
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 博之
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
(72)【発明者】
【氏名】長澤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】梅原 吉倫
(72)【発明者】
【氏名】吉井 揚一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03607756(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0117586(US,A1)
【文献】特開平10-340739(JP,A)
【文献】特表2013-541157(JP,A)
【文献】特表2017-520100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/39
H01M 10/52-10/667
H01M 50/20-50/298
H01M 50/50-50/598
F25B 1/00-7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車のバッテリー冷却液であって、
プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
冷却液。
【請求項2】
カーボネート類が、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートの混合物である、請求項1に記載の冷却液。
【請求項3】
電気自動車のバッテリー冷却液であって、
冷却液の総質量に対して90質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、並びに
冷却液の総質量に対して0.5質量%~10質量%の、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
冷却液。
【請求項4】
電気自動車のバッテリー冷却液であって、
冷却液の総質量に対して95質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、並びに
冷却液の総質量に対して合計で0.01質量%~
0.5質量%の、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
冷却液。
【請求項5】
電気自動車のバッテリー冷却液であって、
冷却液の総質量に対して90質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、
冷却液の総質量に対して0.5質量%~
5質量%の、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類、並びに
冷却液の総質量に対して合計で0.01質量%~
0.5質量%の、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
冷却液。
【請求項6】
カーボネート類が、プロピレンカーボネートである、請求項1及び3~
5のいずれか一項に記載の冷却液。
【請求項7】
プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
溶液
を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法。
【請求項8】
冷却液の総質量に対して90質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、並びに
冷却液の総質量に対して0.5質量%~10質量%の、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
組成物
を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法。
【請求項9】
冷却液の総質量に対して95質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、並びに
冷却液の総質量に対して合計で0.01質量%~
0.5質量%の、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物、
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
組成物
を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法。
【請求項10】
冷却液の総質量に対して90質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、
冷却液の総質量に対して0.5質量%~
5質量%の、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類、並びに
冷却液の総質量に対して合計で0.01質量%~
0.5質量%の、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物
からなり、
水を含まず、
導電率が、1.0μS/cm以下である、
組成物
を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法。
【請求項11】
カーボネート類が、プロピレンカーボネートである、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液、特に、電気自動車のバッテリー冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題が重要視されている近年、温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない電気自動車が注目されている。
【0003】
従来、電気自動車の動力源に使用されるバッテリーや燃料電池用の冷却液として、冷却性能の高い水や、エチレングリコールを基剤として含む冷却液組成物が使用されてきた。しかしながら、電解質等を含まないいわゆる純水は、摂氏0℃以下となると凍結し、体積が増大するため、ラジエーターなどに損傷を与えるおそれがある。また、エチレングリコールは、使用環境により劣化してしまう性質を有している。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、劣化に強く、極低温における粘度が低い1,3-プロパンジオール(PDO)を基剤として含む燃料電池自動車用の冷却液組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車のバッテリー冷却液において、導電性(導電率)は低いこと、すなわち、電気抵抗率は高いことが好ましい。例えば事故などによって冷却液が漏洩した場合、導電率が高い冷却液は、バッテリー端子に接触することで、バッテリーのショート及び/又は発火を引き起こす可能性がある。
【0007】
また、電気自動車のバッテリー冷却液において、イオン溶出性は低いことが好ましい。イオン溶出性が高い水系の冷却液、例えば特許文献1に記載の冷却液組成物は、使用によって、ラジエーターに含まれる材料、例えば、フラックスを溶解し、導電率を上昇させてしまう可能性がある。フラックスは、ラジエーターを前もって洗浄することで除去することも可能であるが、工程が増える分、コストが高くなってしまう。
【0008】
さらに、電気自動車のバッテリー冷却液において、極低温での粘度は低いことが好ましい。極低温での粘度が高くなると、ウォーターポンプへの負担が大きくなり、その結果、電気のロスが大きくなる。
【0009】
例えば、導電率が低く、イオン溶出性が低い特性を有する材料として、非水系の材料である鉱物油やシリコーンオイルなどが挙げられる。しかしながら、鉱物油やシリコーンオイルは、水系の冷却液組成物と比較して、冷却性能が著しく低い。
【0010】
そこで、本発明は、導電率が低く、イオン溶出性が低く、極低温粘度が低く、且つ運転温度域において水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する電気自動車のバッテリー冷却液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来から使用される熱伝達媒体にはさまざまなものがある。
【0012】
例えば、米国特許第3607756号明細書には、5体積%~65体積%のプロピレングリコール、4体積%~85体積%のプロピレンカーボネート及び5体積%~55体積%の水を含む液体の熱伝達媒体が記載されている。
【0013】
さらに、独国特許出願公開第102007016738号明細書には、プロピレンカーボネートからなることを特徴とするソーラー用熱伝達流体が記載されている。
【0014】
前記文献において熱伝達媒体として使用される非水系のカーボネート類は、リチウムイオン電池用の電解液の材料としても使用され、高い誘電率を有する。一般的に、誘電率が高いと、イオン溶出性が高いと推測されることから、非水系のカーボネート類は、イオン溶出性が低いことが好ましい電気自動車のバッテリー冷却液として、不向きであると推測されていた。
【0015】
しかしながら、本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、驚くべきことに、非水系のプロピレンカーボネート(PC)や、ブチレンカーボネート(BC)などのカーボネート類が、低いイオン溶出性を有すること、さらに、当該カーボネート類及びそれらを一定量含む組成物が、低い耐熱試験後の導電率、極低温での低い粘度、低いイオン溶出性、及び運転温度域における水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有しており、電気自動車のバッテリー冷却液として適していることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)電気自動車のバッテリー冷却液であって、
冷却液の総質量に対して90質量%以上の、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類、及び
冷却液の総質量に対して3質量%以下の水
を含む冷却液。
(2)水を含まない、(1)に記載の冷却液。
(3)カーボネート類が、プロピレンカーボネートである、(1)又は(2)に記載の冷却液。
(4)冷却液の総質量に対して10質量%以下のグリコール類をさらに含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載の冷却液。
(5)グリコール類が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキシレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類である、(4)に記載の冷却液。
(6)ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を、合計で、冷却液の総質量に対して0.01質量%~3質量%さらに含む、(1)~(5)のいずれか一つに記載の冷却液。
(7)プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法。
(8)カーボネート類が、プロピレンカーボネートである、(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、導電率が低く、イオン溶出性が低く、極低温粘度が低く、且つ運転温度域において水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する電気自動車のバッテリー冷却液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液及びカーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0019】
本発明は、一定量以上のカーボネート類及び一定量以下の水を含む電気自動車のバッテリー冷却液に関する。
【0020】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、カーボネート類は、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種である。カーボネート類は、プロピレンカーボネートが好ましい。
【0021】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、カーボネート類の量(濃度)は、電気自動車のバッテリー冷却液の総質量に対して、90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97.5質量%以上である。
【0022】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、カーボネート類の量(濃度)の上限は、限定されないが、電気自動車のバッテリー冷却液の総質量に対して、通常99.9質量%以下、好ましくは99.0質量%以下である。
【0023】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液が前記カーボネート類を前記の量含むことで、低い耐熱試験後の導電率、極低温での低い粘度、低いイオン溶出性、及び運転温度域における水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する冷却液が実現される。
【0024】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、水の量(含水量)は、冷却液の総質量に対して、3質量%以下、好ましくは1質量%以下である。含水量は、可能な限り少ない方が好ましいため、下限値は設定されない。より好ましくは、本発明の冷却液は水を含まない。
【0025】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、「水を含まない」とは、冷却液が、水を実質的に含まないことを意味する。したがって、「水を含まない」とは、含水量が冷却液の総質量に対して0質量%であることだけでなく、含水量が、さまざまな条件、例えば、冷却液の、製造方法、製造装置、使用する原料、吸湿性、保管条件などに由来する不可避的な量である場合も包含することとする。
【0026】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液が、水を前記の量含む、又は水を含まないことで、極低温での低い粘度、及び低いイオン溶出性を有する冷却液が実現される。
【0027】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、グリコール類をさらに含んでいてもよい。グリコール類は、当該技術分野において公知のグリコール類であれば限定されない。グリコール類は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキシレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種のグリコール類が好ましい。なお、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキシレングリコールは、それぞれ、異性体同士の混合物であっても、純粋な異性体であってもよい。
【0028】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、グリコール類の量(濃度)は、電気自動車のバッテリー冷却液の総質量に対して、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
【0029】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液において、グリコール類の量の下限値は、限定されないが、電気自動車のバッテリー冷却液の総質量に対して、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上である。
【0030】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、グリコール類を含まなくてもよい。「グリコール類を含まない」とは、冷却液がグリコール類を実質的に含まないことを意味する。したがって、「グリコール類を含まない」とは、グリコール類の量が冷却液の総質量に対して0質量%であることだけでなく、グリコール類の量が、さまざまな条件、例えば、冷却液の、製造方法、製造装置、使用する原料などに由来する不可避的な量である場合も包含することとする。
【0031】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液が、グリコール類を前記の量含む、又はグリコール類を含まないことで、極低温での低い粘度、及び運転温度域における水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する冷却液が実現される。
【0032】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物をさらに含んでいてもよい。本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、トリルトリアゾールを含むことが好ましい。ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物の量(濃度)は、合計で、冷却液の総質量に対して、通常0.01質量%~3質量%、好ましくは0.1質量%~0.5質量%である。
【0033】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液がベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を前記の量含むことで、低いイオン溶出性を有する冷却液、すなわち防錆効果を有する冷却液が実現される。
【0034】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、染料、消泡剤、苦味剤などをさらに含んでいてもよい。本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、当該材料を、下記で説明する冷却液の特性を損なわない範囲の量で含むことができる。
【0035】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液では、耐熱試験後の導電率が1.6μS/cm以下、好ましくは1.0μS/cm以下である。ここで、耐熱試験後の導電率とは、当該冷却液を、密封し、120℃で、84時間静置した後に、25℃に調温してから測定される導電率である。
【0036】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液では、極低温(-30℃)でのせん断速度を50s-1として測定される粘度が250mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下である。ここで、-30℃でのせん断速度を50s-1として測定される粘度は、レオメーターにおいて、パラレルプレートを用いて測定される値である。
【0037】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液では、イオン溶出性試験における導電率が1.0μS/cm以下、好ましくは0.7μS/cm以下である。ここで、イオン溶出性試験における導電率とは、当該冷却液にフラックス(森田化学工業製のFL-7)を冷却液の総質量に対し0.1質量%配合し、2時間撹拌後、25℃に調温してから測定される導電率である。
【0038】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液では、以下の式で計算される冷却性能としての熱伝達係数hが1000W/(m2・K)以上、好ましくは1200W/(m2・K)以上である。
冷却性能=熱伝達係数h(W/(m2・K))
=ヌセルト数×熱伝導度(W/(m・K))÷配管直径(0.01mとする)
ここで、
ヌセルト数
=0.023×Re0.8×Pr0.33(コルバーンの式より)
レイノルズ数(Re)
=密度(kg/m3)×流速(1m/sとする)×配管直径(0.01mとする)÷粘度(Pa・s)
プラントル数(Pr)
=粘度(Pa・s)×比熱(J/(kg・K))÷熱伝導度(W/(m・K))
である。
【0039】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、低い耐熱試験後の導電率、極低温での低い粘度、低いイオン溶出性、及び運転温度域における水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する。したがって、本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、導電率が低い状態を維持するので、例えば事故などによって冷却液が漏洩し、冷却液がバッテリー端子に接触した場合でも、バッテリーのショート及び/又は発火を抑制することができる。さらに、本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、イオン溶出性が低いので、ラジエーターに存在し得るフラックス(溶出物)の冷却液中への溶解を抑制して、導電率を低い状態で保つことができる。これにより、ラジエーターを前もって洗浄する必要がなく、洗浄によるコストを低減することができる。さらに、本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、極低温での粘度が低いので、ウォーターポンプへの負担を小さくすることができ、したがって、電気のロスを小さくすることができる。
【0040】
本発明の電気自動車のバッテリー冷却液は、前記で説明した成分を、前記で説明した量使用すること以外、当該技術分野において公知の方法により調製することができる。本発明の電気自動車のバッテリー冷却液の調製では、各成分の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、各成分が冷却液中に均一に分散するように混合される。また、必要に応じて、製造された冷却液をイオン交換樹脂に通して、冷却液中に含まれるイオンを除去してもよい。
【0041】
さらに、本発明は、カーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用する方法に関する。
【0042】
ここで、カーボネート類は、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種である。カーボネート類は、プロピレンカーボネートが好ましい。
【0043】
前記カーボネート類は、低い耐熱試験後の導電率、極低温での低い粘度、低いイオン溶出性、及び運転温度域における水系冷却液組成物と同等の冷却性能を有する。したがって、前記カーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用した場合、前記カーボネート類は、導電率が低い状態を維持するので、例えば事故などによって冷却液が漏洩し、冷却液がバッテリー端子に接触しても、バッテリーのショート及び/又は発火を抑制することができる。さらに、前記カーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用した場合、前記カーボネート類は、イオン溶出性が低いので、ラジエーターに存在し得るフラックス(溶出物)の冷却液中への溶解を抑制して、導電率を低い状態で保つことができる。これにより、ラジエーターを前もって洗浄する必要がなく、洗浄によるコストを低減することができる。さらに、前記カーボネート類を電気自動車のバッテリー冷却液として使用した場合、前記カーボネート類は、極低温での粘度が低いので、ウォーターポンプへの負担を小さくすることができ、したがって、電気のロスを小さくすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
[実施例1~5及び比較例1~9の組成物の調製]
原料となる、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、水、トリルトリアゾール、及びシリコーンオイルを、表1に記載の配合量(質量部)で、合計が100質量部となるように混合し、実施例1~5及び比較例1~9の組成物を作製した。
【0046】
[実施例1~5及び比較例1~9の組成物の評価]
得られた冷却液について以下の評価試験を行った。
【0047】
1.耐熱試験後の導電率
実施例1~5及び比較例1~9の組成物100mlを、それぞれ250mlのネジ口瓶に入れ、密封し、120℃の環境下において、84時間静置した。その後、各ネジ口瓶を取出し、25℃に調温した後、導電率を測定した。なお、導電率の測定には、横河電機株式会社製のパーソナルSCメータSC72、検出器SC72SN-11(純水用)を用いた。
【0048】
2.極低温(-30℃)での粘度
実施例1~5及び比較例1~9の組成物の粘度を、パラレルプレートを装備したアントンパール社製のレオメーターを用いて測定した。粘度は、10℃/分の昇温速度及び50s-1のせん断速度で、-30℃~65℃までの温度範囲について測定した。
【0049】
3.イオン溶出性
実施例1~5及び比較例1~9の組成物に、フラックス(森田化学工業製のFL-7)を冷却液の総質量に対し0.1質量%配合し、2時間撹拌後、25℃に調温してから導電率を測定した。なお、導電率の測定には、横河電機株式会社製のパーソナルSCメータSC72、検出器SC72SN-11(純水用)を用いた。
【0050】
4.冷却性能
実施例1~5及び比較例1~9の組成物について、以下の式で計算される冷却性能としての熱伝達係数h(W/(m2・K))を算出した。
冷却性能=熱伝達係数h(W/(m2・K))
=ヌセルト数×熱伝導度(W/(m・K))÷配管直径(0.01mとした)
ここで、
ヌセルト数
=0.023×Re0.8×Pr0.33(コルバーンの式より)
レイノルズ数(Re)
=密度(kg/m3)×流速(1m/sとした)×配管直径(0.01mとした)÷粘度(Pa・s)
プラントル数(Pr)
=粘度(Pa・s)×比熱(J/(kg・K))÷熱伝導度(W/(m・K))
である。
【0051】
なお、20℃での比熱、20℃での熱伝導率、及び20℃での密度は、文献値から算出し、20℃での粘度は、前記の「2.極低温(-30℃)での粘度」において測定した値を用いた。
【0052】
【0053】
実施例1~5では、耐熱試験後の導電率が低く、極低温(-30℃)での粘度が低く、イオン溶出性が低く、且つ冷却性能が大きかった。したがって、実施例1~5は、電気自動車のバッテリー冷却液として適していることがわかった。
【0054】
一方で、比較例1は、1,2-プロパンジオール(PG)のみの組成であり、耐熱試験後の導電率が低く、且つイオン溶出性が低く、良好であったが、極低温での粘度は高く、且つ冷却性能は低かった。
【0055】
比較例2、3、及び4は、通常の水系冷却液組成物として一般的であるグリコール水溶液であり、イオン溶出性が高かった。
【0056】
比較例5は、水のみの組成であり、極低温において凍結してしまい、且つイオン溶出性が高かった。
【0057】
比較例6は、非水系の熱媒体や電気絶縁油として一般的なシリコーンオイル(TORAY製SH200、25℃での動粘度5.0mm2/s品)であり、イオン溶出性が低く、良好であったが、冷却性能が低かった。
【0058】
比較例7及び9は、PCに水を配合しており、極低温において凍結してしまい、且つイオン溶出性が高かった。
【0059】
比較例8は、PGの量が多く配合されており、冷却性能が低かった。