(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230314BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 341A
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2018232537
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】今井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】津曲 敬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】豊田 真士
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-052494(JP,A)
【文献】特開2015-081464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の最上部分となる高層部に生じる高次モードの振動を抑える制振構造において、
前記高層部の下側の下層部に高次モードの振動に同調する回転慣性質量ダンパーが設けられて
おり、
前記高層部は、前記下層部と平面形状が異なっており、
前記下層部は、コア部と、前記コア部に隣接するコア隣接部と、を有し、
前記コア部は、前記コア隣接部よりも剛性が大きく設定され、
前記回転慣性質量ダンパーは、前記コア部に設けられていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記回転慣性質量ダンパーは、上下方向に複数配列され、それぞれ前記下層部における複数層に跨って作用するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記高層部と前記下層部とは、剛性が異なることを特徴とする請求項1または2に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
制振構造では、構造物に生じた振動エネルギーを摩擦ダンパーや油圧式ダンパーなどの制振装置が吸収することで振動応答を低減させるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。高層や超高層の構造物においても、制振構造を採用することで振動応答を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高層や超高層の構造物では、2次や3次といった高次モードの振動が生じると、下層部と比べて上層部では揺れが増幅され、上層部が大きく揺れる所謂むち振り現象が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明は、高層や超高層の構造物において高次モードの振動が生じた場合にも上層部の振動を抑えることができる制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る制振構造は、構造物の最上部分となる高層部に生じる高次モードの振動を抑える制振構造において、前記高層部の下側の下層部に高次モードの振動に同調する回転慣性質量ダンパーが設けられており、前記高層部は、前記下層部と平面形状が異なっており、前記下層部は、コア部と、前記コア部に隣接するコア隣接部と、を有し、前記コア部は、前記コア隣接部よりも剛性が大きく設定され、前記回転慣性質量ダンパーは、前記コア部に設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、高層部の下側の下層部に高次モードの振動に同調する回転慣性質量ダンパーが設けられていることにより、高層部における高次モードの振動が低減され、高層部のむち振り現象を抑えることができる。
また、回転慣性質量ダンパーは、下層部における剛性の大きいコア部に設けられているため、高層部の高次モードの振動をより低減させることができる。
【0008】
また、本発明に係る制振構造では、前記回転慣性質量ダンパーは、上下方向に複数配列され、それぞれ前記下層部における複数層に跨って作用するように設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、回転慣性質量ダンパーが抑制可能な変形量を増大することができ、回転慣性質量ダンパー全体の容量を増大させることができるため、高層部の高次モードの振動をより低減させることができる。
【0009】
また、本発明に係る制振構造では、前記高層部と前記下層部とは、剛性が異なっていてもよい。
このような構成とすることにより、高層部と下層部とが剛性が異なり、高層部において高次モードの振動が増幅されやすい場合でも、高層部の高次モードの振動を低減させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高次モードの振動が生じた際に上層部に生じるむち振り現象を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による構造物の一例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による制振構造について、
図1および
図2に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による制振構造1は、超高層の構造物2に採用されている。
本実施形態の構造物2は、地上42階建てで、地上1階から5階までは商業施設として使用され、地上1階から34階まではオフィスとして使用され、地上35階から42階まではホテルとして使用されるように想定されている。
以下では、地上1階から34階までを下層部3とし、地上35階から42階までの最上部分を高層部4とする。
【0015】
下層部3は、上下方向全体にわたってほぼ同じ外形に形成されている。
図2に示すように、下層部3は、平面における中央部に位置するコア部31と、コア部31の周囲に隣接するコア隣接部32と、を有している。本実施形態では、コア隣接部32は、コア部31を囲繞するように設けられている。コア部31には、エレベータや階段などが設置され、コア隣接部32には、店舗や執務室などが設置されている。
図1および
図2に示すように、コア部31には、所定の剛性を有するコアフレーム33が設けられているとともに、粘性系ダンパーおよび履歴系ダンパーなどの制振装置34(
図1参照)が設けられている。コア部31は、コア隣接部32よりも剛性が大きく設定されている。
コア部31は、上の層よりも下の層のほうが平面視形状が大きく設計され、剛性が大きく設定されている。各層のコア部31は、上下方向に連続するように配置されている。
【0016】
下層部3における上部側となる29階から34階まで(中層部5とする)には、回転慣性質量ダンパー51が設置されている。回転慣性質量ダンパー51は、中層部5におけるコア部31に設けられている。
回転慣性質量ダンパー51は、高次モードに同調させて高層部4の加速度応答を低減するように構成されている。
本実施形態では、回転慣性質量ダンパー51は、上下方向に3つ配列されていて、それぞれ2つの階(層)に跨って作用するように配置されている。本実施形態では、29階および30階に跨って作用するように設置される回転慣性質量ダンパー51A、31階および32階に跨って作用するように設置される回転慣性質量ダンパー51B、33階および34階に跨って作用するように設置される回転慣性質量ダンパー51Cの3つの回転慣性質量ダンパー51が上下方向に連続して配列されている。
【0017】
高層部4は、上下方向全体にわたってほぼ同じ外形に形成されている。高層部4は、平面視形状が下層部3よりも小さく形成されている。高層部4は、下層部3の平面視における中央部分の上部で、コア部31の上部に配置されている(
図2参照)。高層部4は、中層部5に設けられた回転慣性質量ダンパー51の直上に配置されている。
高層部4には、アンボンドブレース41や履歴系ダンパーなどが設置されている。
【0018】
本実施形態では、下層部3は、高層部4に対して剛性が大きく設定されている。本実施形態では、下層部3は高層部4に対して1.2~2.5倍の剛性を有している。
【0019】
次に、上述した本実施形態による制振構造1の作用・効果について図面を用いて説明する。
上述した本実施形態による制振構造1では、高層部4の下側の中層部5(下層部3)に高次モードの振動に同調する回転慣性質量ダンパー51が設けられていることにより、高層部4における高次モードの振動が低減し、高層部4のむち振り現象を抑えることができる。
【0020】
また、本実施形態では、高層部4と下層部3とが剛性が異なっているため、高層部4において高次モードの振動が増幅されやすい。さらに、本実施形態では、高層部4は、平面形状が下層部3よりも小さく、平面視において下層部3の外周部の内側に配置されているため、高層部4において高次モードの振動が増幅されやすい。これらに対して、本実施形態では、上述したように高層部4の下側の中層部5に高次モードの振動に同調する回転慣性質量ダンパー51が設けられていることにより、高層部4における高次モードの振動が低減し、高層部4のむち振り現象を抑えることができる。
【0021】
また、中層部5の回転慣性質量ダンパー51は、上下方向に複数配列され、それぞれ中層部5における2層に跨って作用するように設けられている。このような構成とすることにより、回転慣性質量ダンパー51が抑制可能な変形量を増大することができ、回転慣性質量ダンパー51全体の容量を増大させることができるため、高層部4の高次モードの振動をより低減させることができる。
【0022】
また、下層部3は、コア部31と、コア隣接部32と、を有し、コア部31は、コア隣接部32よりも剛性が大きく設定され、回転慣性質量ダンパー51は、コア部31に設けられている。このような構成とすることにより、回転慣性質量ダンパー51が下層部3における剛性の大きいコア部31に設けられているため、回転慣性質量ダンパー51自体の変位が抑制され、高層部4の高次モードの振動をより低減させることができる。
【0023】
以上、本発明による制振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、中層部5の回転慣性質量ダンパー51は、上下方向に複数配列され、それぞれ中層部5における2層に跨って作用するように設けられている。これに対し、中層部5の回転慣性質量ダンパー51は、上下方向に複数配列されていなくてもよく、また、1層に対して設けられていてもよいし、3層以上の複数層に跨るように設けられていてもよい。
また、上記の実施形態では、中層部5の回転慣性質量ダンパー51は、コア部31に設けられているが、コア隣接部32に設けられていてもよい。また、中層部5にコア部31が形成されていなくてもよい。
また、上記の実施形態では、コア部31に粘性系ダンパーおよび履歴系ダンパーなどの制振装置34が設けられているが、コア部31に制振装置34が設けられていなくてもよい。また、コア部31以外に制振装置が設けられていてもよい。また、コア部31やコア部31以外に設けられる制振装置の種類は適宜設定されてよい。
【0024】
また、上記の実施形態では、高層部4と下層部3とは剛性が異なっているが、高層部4と下層部3の構成は同じであってもよい。また、下層部3よりも高層部4の剛性が大きく設定されていてもよい。
また、上記の実施形態では、高層部4にアンボンドブレース41や履歴系ダンパーなどが設けられているが、高層部4にアンボンドブレース41や履歴系ダンパーなどが設けられていなくてもよい。また、高層部4にダンパーが設けられる場合は、ダンパーの種類は適宜設定されてよい。
【0025】
また、上記の実施形態では、高層部4は、平面形状が下層部3よりも小さく、平面視において下層部3の外周部の内側に配置されているが、高層部4が下層部3と同じ平面形状であってもよい。また、高層部4が下層部3よりも側方に張り出す構成であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 制振構造
2 構造物
3 下層部
4 高層部
5 中層部
31 コア部
32 コア隣接部
51 回転慣性質量ダンパー