(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】鋼材どうしの接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/38 20060101AFI20230314BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230314BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
E04B1/38 400Z
E04B1/58 G
E04B1/24 F
(21)【出願番号】P 2018234715
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】神野 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友也
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177797(JP,A)
【文献】特開2010-043435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38,1/58
E04B 1/24
E04B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、
平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、
前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、
前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、
前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、
前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された梁であり、
前記第二鋼材は、
前記挟持部材との間で、前記平板部及び前記スペーサーを挟み込む挟持プレートと、
前記挟持プレートと直交して設けられたガセットプレートと、を有し、
前記ガセットプレートは、前記第一鋼材のウェブと幅方向の位置がずれて配置されていることを特徴とする鋼材どうしの接合構造。
【請求項2】
平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、
平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、
前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、
前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、
前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、
前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された梁であり、
前記第一接着層は、前記フランジの幅方向の一方側に偏って配置されていることを特徴とする鋼材どうしの接合構造
。
【請求項3】
平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、
平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、
前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、
前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、
前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、
前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、
前記スペーサーは、前記平板部側に突出する凸部を有し、
前記凸部の先端部は、前記平板部の小口面に当接していることを特徴とする鋼材どうしの接合構造。
【請求項4】
前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された柱であり、
前記第二鋼材は、
前記挟持部材との間で、前記平板部及び前記スペーサーを挟み込む挟持部と、
ブレースが連結された連結部と、を有し、
前記ブレースと前記連結部との連結位置は、前記柱の幅方向の中心から幅方向に位置がずれて配置されていることを特徴とする請求項3に記載の鋼材どうしの接合構造。
【請求項5】
H形鋼材で構成された梁と、
平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記梁のフランジの厚さ方向と同じ方向を向くように、前記フランジと隣接配置されたスペーサーと、
前記フランジ及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、
前記フランジ及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された接合鋼材と、
前記挟持部材と前記接合鋼材とが前記フランジ及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記接合鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、
前記フランジと前記接合鋼材との間で、接着剤が全領域にわたって充填された第一接着層と、
前記フランジと前記挟持部材との間に接着剤が充填された第二接着層と、
前記フランジの小口と前記スペーサーの小口との間に接着剤が充填された第三接着層と、を備え、
前記接合鋼材は、
前記挟持部材との間で、前記フランジ及び前記スペーサーを挟み込む挟持プレートと、
前記挟持プレートと直交して設けられたガセットプレートと、を有し、
前記ガセットプレートは、前記梁のウェブと幅方向の位置を揃えて配置され、
前記スペーサーの厚さは、前記フランジの厚さよりも前記第一接着層の厚さ及び前記第二接着層の厚さの合計分厚く、
前記スペーサーは、前記フランジ側に突出する凸部を有し、
前記凸部の先端部は、前記フランジの小口面に当接していることを特徴とする鋼材どうしの接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材どうしの接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、既存鉄骨造建物の改装工事や耐震補強工事において、鉄骨フレーム(ぶどう棚)を追加する等の目的で、既存鉄骨梁にガセットプレートを設置し、ガセットプレートに吊ボルト等を設けることがある。
【0003】
鉄骨梁にガセットプレートを溶接したり、鉄骨梁のフランジに孔を開け高力ボルトでT形部材(ガセットプレート)を接合したりすることがある。しかしながら、溶接作業をする際には、火災防止のため、工事区域の養生が大掛かりになってしまう。また、高力ボルト接合の場合は、孔開け作業が困難な上、母材が断面欠損となり梁の構造性能が低下してしまう。
【0004】
このため、既存鉄骨梁のフランジに隣接してスペーサーを設け、上側添板及び下側添板で梁のフランジ及びスペーサーを挟み込むように上下に配置し、上側添板と下側添板とを高力ボルト締め付けて、梁のフランジと上側添板及び下側添板とを摩擦接合させた工法が提案されている(下記の特許文献1参照)。下側添板には、ガセットプレートが接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された工法では、ガセットプレートのずれに対して、高力ボルト締結による摩擦力または部材の局所的な支圧によって抵抗するため、極厚の添板等の部材が必要になるという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特殊な部材を必要としない鋼材どうしの接合構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る鋼材どうしの接合構造は、平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された梁であり、前記第二鋼材は、前記挟持部材との間で、前記平板部及び前記スペーサーを挟み込む挟持プレートと、前記挟持プレートと直交して設けられたガセットプレートと、を有し、前記ガセットプレートは、前記第一鋼材のウェブと幅方向の位置がずれて配置されていることを特徴とする。
また、本発明に係る鋼材どうしの接合構造は、平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、前記スペーサーは、前記平板部側に突出する凸部を有し、前記凸部の先端部は、前記平板部の小口面に当接していることを特徴とする。
【0009】
このように構成された鋼材どうしの接合構造では、第二鋼材から入力された荷重は、挟持部材と平板部との支圧により第一鋼材へ伝達される。また、第一鋼材の材軸直交方向の荷重は、スペーサーと平板部との支圧により第一鋼材へと伝達される。第一鋼材の材軸方向の荷重に対しては、第一接着層により抗するとともに、接合部分に回転が発生すると、接合部分の回転に伴いスペーサーが平板部に接触し、その摩擦力により応力伝達が行われる。
また、スペーサーの厚さは平板部の厚さよりも第一接着層の厚さ分厚いため、平板部における第二鋼材側を向く面や第二鋼材における平板部側と向く面に不陸等があっても、第一接着層の厚さが確実に確保され、第二鋼材は平板部に確実に接合される。よって、特殊な部材を必要とせずに、第一鋼材に第二鋼材を適切に接合することができる。
また、第一鋼材の材軸方向の荷重に対しては、ガセットプレートが第一鋼材のウェブと幅方向の位置がずれて(偏心して)いることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴いスペーサーが平板部に接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、特殊な部材を必要とせずに、H形鋼材で構成された梁に第二鋼材を適切に接合することができる。
【0012】
また、本発明に係る鋼材どうしの接合構造では、平板状をなし所定の厚さで形成された平板部を有する第一鋼材と、平板状をなし所定の厚さで形成され、厚さ方向が前記平板部の厚さ方向と同じ方向を向くように、前記平板部と隣接配置されたスペーサーと、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、前記平板部及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された第二鋼材と、前記挟持部材と前記第二鋼材とが前記平板部及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記第二鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、前記平板部と前記第二鋼材との間に接着剤が充填された第一接着層と、を備え、前記スペーサーの厚さは、前記平板部の厚さよりも前記第一接着層の厚さ分厚く、前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された梁であり、前記第一接着層は、前記フランジの幅方向の一方側に偏って配置されていてもよい。
【0013】
このように構成された鋼材どうしの接合構造では、第一接着層がフランジの幅方向の一方側に偏って(偏心して)配置されていることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴いスペーサーが平板部に接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、特殊な部材を必要とせずに、第一鋼材に第二鋼材を適切に接合することができる。
【0014】
また、本発明に係る鋼材どうしの接合構造では、前記第一鋼材は、フランジが前記平板部とされたH形鋼材で構成された柱であり、前記第二鋼材は、前記挟持部材との間で、前記平板部及び前記スペーサーを挟み込む挟持部と、ブレースが連結された連結部と、を有し、前記ブレースと前記連結部との連結位置は、前記柱の幅方向の中心から幅方向に位置がずれて配置されていてもよい。
【0015】
このように構成された鋼材どうしの接合構造では、第一鋼材の材軸方向の荷重に対して、ブレースと連結部との連結位置が第一鋼材の幅方向の中心から幅方向の位置がずれて(偏心して)いることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴いスペーサーが平板部に接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、特殊な部材を必要とせずに、H形鋼材で構成された柱に第二鋼材を適切に接合することができる。
【0016】
また、本発明に係る鋼材どうしの接合構造では、H形鋼材で構成された梁と、平板状をなし所定で形成され、厚さ方向が前記梁のフランジの厚さ方向と同じ方向を向くように、前記フランジと隣接配置されたスペーサーと、前記フランジ及び前記スペーサーの厚さ方向の一方側に配置された挟持部材と、前記フランジ及び前記スペーサーの厚さ方向の他方側に配置された接合鋼材と、前記挟持部材と前記接合鋼材とが前記フランジ及び前記スペーサーを挟み込んだ状態で、前記挟持部材、前記接合鋼材及び前記スペーサーを締結する締結部材と、前記フランジと前記接合鋼材との間で、接着剤が全領域にわたって充填された第一接着層と、前記フランジと前記挟持部材との間に接着剤が充填された第二接着層と、前記フランジの小口と前記スペーサーの小口との間に接着剤が充填された第三接着層と、を備え、前記接合鋼材は、前記挟持部材との間で、前記フランジ及び前記スペーサーを挟み込む挟持プレートと、前記挟持プレートと直交して設けられたガセットプレートと、を有し、前記ガセットプレートは、前記梁のウェブと幅方向の位置を揃えて配置され、前記スペーサーの厚さは、前記フランジの厚さよりも前記第一接着層の厚さ及び前記第二接着層の厚さの合計分厚く、前記スペーサーは、前記フランジ側に突出する凸部を有し、前記凸部の先端部は、前記フランジの小口面に当接していることを特徴とする。
【0017】
このように構成された鋼材どうしの接合構造では、スペーサーの厚さはフランジの厚さよりも第一接着層の厚さ及び第二接着層の厚さの合計分厚いため、フランジにおける接合鋼材側を向く面や接合鋼材におけるフランジ側と向く面に不陸等があっても、第一接着層の厚さが確実に確保され、接合鋼材はフランジに確実に接合される。よって、特殊な部材を必要とせずに、梁に接合鋼材を適切に接合することができる。
また、ガセットプレート及び第一接着層は偏心していないため、梁の材軸方向のずれに対しては第一接着層で抗することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る鋼材どうしの接合構造によれば、特殊な部材を必要とせずに、鋼材どうしを接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造において、鉛直方向の荷重の応力伝達機構を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造において、梁材軸直交方向の荷重の応力伝達機構を示す平面図である。
【
図7】本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造において、梁材軸方向の荷重の応力伝達機構を示す平面図である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
【
図11】本発明の第二実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
【
図12】本発明の第三実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
【
図15】本発明の第三実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
【
図16】本発明の第四実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平断面図である。
【
図19】本発明の第一実施形態の実施例に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
【
図22】本発明の第一実施形態の実施例に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
【
図23】本発明の第一実施形態の比較例に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
図2は、
図1のA方向矢視図である。
図3は
図1のB-B線断面図である。
図1は、第一鋼材の延在方向と直交する方向に沿う断面図である。
図1から
図3に示すように、鋼材どうしの接合構造100は、H形鋼材で構成された梁1に、T形部材2を接合するものである。鋼材どうしの接合構造100は、梁(第一鋼材)1と、T形部材(第二鋼材)2と、下部接着層(第一接着層)3と、スペーサー4と、上側鋼板(挟持部材)5と、高力ボルト(締結部材)6及びナット(締結部材)7と、を備えている。
【0021】
図1に示すように、梁1は、水平方向に延びるように配置されている。本実施形態では、梁1は、H形鋼材で構成されている。梁1は、一対のフランジ11A,11Bと、ウェブ12と、を有している。
なお、以下の説明において、フランジ11A,11Bの幅方向(
図1に示す紙面左右方向)を幅方向Xと称することがある。
【0022】
一対のフランジ11A,11Bは、鉛直方向Zに離間して配置されている。フランジ11Aは、上側に配置されている。フランジ(平板部)11Bは、下側に配置されている。なお、以下の説明において、フランジ11A,11Bを総称して、フランジ11と称することがある。
【0023】
各フランジ11は、平板状に形成されている。フランジ11は、板厚方向を鉛直方向Zに向けて配置されている。フランジ11Bの厚さ寸法を、t1とする。
【0024】
ウェブ12は、上下のフランジ11を、フランジ11の幅方向Xの略中央位置で連結している。ウェブ12は、平板状に形成されている。ウェブ12は、板厚方向を幅方向Xに向けて配置されている。
【0025】
T形部材2は、梁1の下方(スペーサー4の厚さ方向の他方側)に配置されている。T形部材2は、梁1のフランジ11Bに当接配置されている。
【0026】
T形部材2は、梁1の延在方向Yに間隔を有して複数箇所、または梁1に対して1箇所に設けられている。
【0027】
T形部材2は、延在方向Yに直交する断面視で、略T字状をなしている。T形部材2は、Tフランジ(挟持プレート)21と、ガセットプレート22と、を有している。本実施形態では、ガセットプレート22の上端部がTフランジ21に溶接により接合されている。
【0028】
Tフランジ21は、梁1のフランジ11Bの下面11dに沿って配置されている。Tフランジ21は、平板状に形成されている。Tフランジ21は、板厚方向を鉛直方向Zに向けて配置されている。
【0029】
Tフランジ21の幅方向Xの長さ寸法は、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの長さ寸法よりも長い。Tフランジ21の幅方向Xの両端部は、フランジ11Bの幅方向Xの両端部よりも側方に突出している。Tフランジ21において、フランジ11Bの幅方向Xの両端部よりも側方に突出している部分をフランジ突出部24とする。Tフランジ21には、鉛直方向Zに貫通するボルト孔21hが形成されている。
【0030】
ガセットプレート22は、Tフランジ21に直交して設けられている。ガセットプレート22は、Tフランジ21から下方に延びている。ウェブ12は、平板状に形成されている。ガセットプレート22は、板厚方向を幅方向Xに向けて配置されている。
【0031】
ガセットプレート22は、Tフランジ21の幅方向Xの中央よりも、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの一方側の端部(
図1では紙面右側の端部)11a側に偏って配置されている。ガセットプレート22は、フランジ突出部24よりも幅方向Xの中央側に配置されている。換言すると、ガセットプレート22は、梁1の直下に配置されている。幅方向Xにおいて、ガセットプレート22は、梁1のウェブ12と位置をずらして配置されている。
【0032】
下部接着層3は、梁1のフランジ11Bの下面11dとT形部材2のTフランジ21の上面21uとの間に充填された接着剤で構成されている。下部接着層3の厚さ寸法を、t2とする。t2は、例えば2mm程度である。例えば、接着剤として、常温硬化型の構造用接着剤であり、引張せん断強度が5~30MPaのものを採用することができる。
【0033】
下部接着層3は、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの他方側の端部11b側に偏って配置されている。本実施形態では、下部接着層3は、梁1のフランジ11Bの端部11bから長さ寸法a2の範囲に設けられている。下部接着層3は、平面視で、梁1のウェブ12と重なるように配置されている。なお、フランジ11Bの下面11dとT形部材2のTフランジ21の上面21uとの間において、下部接着層3が設けられていない部分には、下部接着層3の厚さに相当する厚さの隙間が形成されている。
【0034】
下部接着層3の幅方向Xの中心から、T形部材2のガセットプレート22までの幅方向Xの長さ寸法(以下、「ガセットプレートと接着範囲との偏心距離寸法」と称する)を、eとする。
【0035】
スペーサー4は、梁1のフランジ11Bに幅方向Xの両側に隣接配置されている。スペーサー4は、平板状に形成されている。スペーサー4は、板厚方向を鉛直方向Zに向けて配置されている。本実施形態では、スペーサー4は、鋼板により構成されている。
【0036】
図4は、鋼材どうしの接合構造100を示す平面図である。
図4では、上側鋼板5、高力ボルト6及びナット7の図示を省略し、梁1を二点鎖線で示している。
図4に示すように、スペーサー4は、T形部材2のTフランジ21のフランジ突出部24の上面に、梁1の延在方向Yに間隔を有して2箇所に設置されている。換言すると、スペーサー4は、梁1のフランジ11Bに幅方向Xの両側に、梁1の延在方向Yに間隔を有して2箇所ずつ合計4箇所に設置されている。
【0037】
スペーサー4は、平面視略五角形をなしている。スペーサー4は、平面視略矩形状に形成された基部41と、基部41から梁1のフランジ11B側に突出する凸部42と、を有している。
【0038】
凸部42の突出方向の先端部42aは、先細り形状をなしている。凸部42の先端部42aは、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの端部11a,11bの小口面(端面)11c(
図1参照。以下同じ。)に当接配置されている。換言すると、凸部42の先端部42aは、梁1のフランジ11Bの小口面11cに点接触している。
【0039】
スペーサー4の先端部42aどうしの離間(間隔)寸法を、lとする。スペーサー4には、鉛直方向Zに貫通するボルト孔4hが形成されている。
【0040】
図1に示すように、スペーサー4において、上面4u、下面4d及び突出部の小口面(梁1のフランジ11B側を向く小口面)4cは、ブラスト処理や赤錆等の摩擦面処理がされている。
【0041】
スペーサー4の厚さ寸法を、t3とする。スペーサー4の厚さ寸法t3は、梁1のフランジ11Bの厚さ寸法t1と下部接着層3の厚さ寸法t2との合計とされている。換言すると、スペーサー4の厚さ寸法t3は、フランジ11Bの厚さ寸法t1よりも下部接着層3の厚さ寸法t2の分厚い。
【0042】
上側鋼板5は、梁1のフランジ11Bに幅方向Xの両側に配置されている。上側鋼板5は、平板状に形成されている。上側鋼板5は、板厚方向を鉛直方向Zに向けて配置されている。本実施形態では、上側鋼板5は、鋼板により構成されている。
【0043】
上側鋼板5は、梁1の上方(スペーサー4の厚さ方向の一方側)に配置されている。上側鋼板5は、梁1のフランジ11Bの上面11uからスペーサー4の上面4uにまたがって設置されている。上側鋼板5とT形部材2のTフランジ21とは、梁1のフランジ11B及びスペーサー4を挟み込んでいる。上側鋼板5には、鉛直方向Zに貫通するボルト孔5hが形成されている。
【0044】
高力ボルト6は、T形部材2のTフランジ21、スペーサー4及び上側鋼板5の各ボルト孔21h,4h,5hに挿通され、上側鋼板5の上方に配置されたナット7に螺合されている。高力ボルト6及びナット7により、Tフランジ21、スペーサー4及び上側鋼板5は締結されている。なお、締結部材として、通常の(高力ボルトではない)ボルトを使用することも可能である。
【0045】
次に、鋼材どうしの接合構造100の応力伝達機構について説明する。
図5は、鋼材どうしの接合構造100において、鉛直方向の荷重の応力伝達機構を示す縦断面図である。
図5に示すように、T形部材2のガセットプレート22から入力された鉛直方向の荷重は、上側鋼板5及び梁1のフランジ11Bの支圧により梁1へ伝達される。
【0046】
図6は、鋼材どうしの接合構造100において、梁材軸直交方向の荷重の応力伝達機構を示す平面図である。
図6に示すように、梁材軸直交方向の荷重は、スペーサー4と梁1のフランジ11Bとの支圧により梁1へと伝達される。
【0047】
図7は、鋼材どうしの接合構造100において、梁材軸方向の荷重の応力伝達機構を示す平面図である。
図7に示すように、梁材軸方向の荷重Pに対しては、ガセットプレートと接着範囲との偏心距離寸法eにより、接合部分(Tフランジ21)の回転が発生する。Tフランジ21の回転に伴いスペーサー4が梁1のフランジ11Bに確実に接触し、その摩擦力μNによって応力伝達を行う。スペーサー4と梁1のフランジ11Bの接触荷重は、次式(1)により求められる。なお、各記号は、
図7を参照。
【0048】
【0049】
梁材軸方向の荷重に対して、上記実施形態の鋼材どうしの接合構造100の接合部分にすべりが発生しない条件は次式(2)の通りであり、これを満足するように、接合部分の寸法を設計する。
【0050】
【0051】
なお、接着剤は接合部分の回転を励起することが主目的であるが、損傷を避けるため、設計荷重に対して破壊せず、弾性範囲に留まるように設計する。また、スペーサー4と梁1のフランジ11Bの接触が応力伝達機構として重要であるため、スペーサー4とTフランジ21及び上側鋼板5との間ですべりが発生しないように、当該部は摩擦接合部として設計する。
【0052】
次に、鋼材どうしの接合構造100の施工方法について説明する。
まず、梁1のフランジ11Bの下面11d、T形部材2のTフランジ21の上面21uを清掃、プライマー塗布等の接着用下処理を行う。
【0053】
次に、T形部材2のTフランジ21の上面21uの接着の塗布範囲(幅方向Xの長さ寸法a2)に、接着剤を厚さ2mm程度で塗布する。
【0054】
次に、T形部材2のTフランジ21、スペーサー4、上側鋼板5、高力ボルト6及びナット7を仮組みする。
【0055】
次に、スペーサー4の先端部42aが梁1のフランジ11Bの小口面11cに接触するように、スペーサー4を配置する。延在方向Yに隣り合うスペーサー4の先端部42aどうしの離間(間隔)寸法を、lとする(
図2参照)。高力ボルト6を本締めして、完了する。
【0056】
このように構成された鋼材どうしの接合構造100では、T形部材2から入力された鉛直方向の荷重は、上側鋼板5と梁1のフランジ11Bとの支圧により梁1へ伝達される。また、梁1の材軸直交方向の荷重は、スペーサー4と梁1のフランジ11Bとの支圧により梁1へと伝達される。梁1の材軸方向の荷重に対しては、下部接着層3により抗するとともに、接合部分に回転が発生すると、接合部分の回転に伴いスペーサー4が梁1のフランジ11Bに接触し、その摩擦力により応力伝達が行われる。
【0057】
また、スペーサー4の厚さ寸法t3は梁1のフランジ11Bの厚さ寸法t1よりも下部接着層3の厚さ寸法t2分厚いため、梁1のフランジ11Bの下面11dやT形部材2のTフランジ21の上面21uに不陸等があっても、下部接着層3の厚さ寸法t2が確実に確保され、T形部材2は梁1のフランジ11Bに確実に接合される。よって、梁1への孔開け加工、溶接、特殊な部材等を必要とせずに、梁1にT形部材2を適切に接合することができる。
【0058】
また、梁1の材軸方向の荷重に対しては、ガセットプレート22がフランジ11Bの端部11a側に偏心していることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴いスペーサー4が梁1のフランジ11Bに接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。また、下部接着層3がフランジ11Bの端部11b側に偏心していることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴いスペーサー4が梁1のフランジ11Bに接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、梁1への孔開け加工、溶接、特殊な部材を必要とせずに、H形鋼材で構成された梁1にT形部材2を適切に接合することができる。
【0059】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る鋼材どうしの接合構造について、主に
図8から
図11を用いて説明する。
以下の実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図8は、本発明の第二実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
図9は、
図8のC方向矢視図である。
図10は、
図8のD-D線断面図である。
図11は、本発明の第二実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
図11では、上側鋼板5、高力ボルト6及びナット7の図示を省略し、梁1を二点鎖線で示している。
【0060】
図8から
図11に示すように、本実施形態では、ガセットプレート22Vは、Tフランジ21の幅方向Xの中央から下方に延びている。換言すると、ガセットプレート22Vは、Tフランジ21の幅方向Xに偏心して設けられていない。ガセットプレート22Vは、梁1のウェブ12と幅方向Xの位置を揃えて配置されている。
【0061】
下部接着層3Vは、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの一方側に偏って配置されている。本実施形態では、下部接着層3Vは、梁1のフランジ11Bの端部11bから長さ寸法a2の範囲に設けられている。下部接着層3Vは、平面視で、梁1のウェブ12と重なっていない。
【0062】
図11に示すように、スペーサー4Vは、T形部材2VのTフランジ21のフランジ突出部24の上面に設置されている。スペーサー4Vは、梁1のフランジ11Bに幅方向Xの両側それぞれに設置されている。
【0063】
スペーサー4Vは、平面視略矩形状に形成された基部41Vと、基部41Vから梁1のフランジ11B側に突出する2箇所の凸部42Vと、を有している。凸部42Vは、梁1の延在方向Yに間隔を有して2箇所に設けられている。
【0064】
凸部42の突出方向の先端部42bは、先細り形状をなしている。凸部42の先端部42bは、梁1のフランジ11Bの幅方向Xの小口面(端面)11c(
図8参照。以下同じ。)に当接配置されている。換言すると、凸部42の先端部42bは、梁1のフランジ11Bの小口面11cに点接触している。
【0065】
このように構成された鋼材どうしの接合構造100Vでは、T形部材2Vから入力された鉛直方向の荷重は、上側鋼板5と梁1のフランジ11Bとの支圧により梁1へ伝達される。また、梁1の材軸直交方向の荷重は、スペーサー4Vと梁1のフランジ11Bとの支圧により梁1へと伝達される。梁1の材軸方向の荷重に対しては、下部接着層3Vにより抗するとともに、接合部分に回転が発生すると、接合部分の回転に伴いスペーサー4Vが梁1のフランジ11Bに接触し、その摩擦力により応力伝達が行われる。
【0066】
また、スペーサー4Vの厚さ寸法t3は梁1のフランジ11Bの厚さ寸法t1よりも下部接着層3Vの厚さ寸法t2分厚いため、梁1のフランジ11Bの下面11dやT形部材2VのTフランジ21の上面21uに不陸等があっても、下部接着層3Vの厚さ寸法t2が確実に確保され、T形部材2Vは梁1のフランジ11Bに確実に接合される。よって、梁1への孔開け加工、溶接、特殊な部材等を必要とせずに、梁1にT形部材2Vを適切に接合することができる。
【0067】
また、下部接着層3Vがフランジ11Bの端部11b側に偏心して配置されていることにより、接合部分に捩れ変形を発生させて、接合部分が回転する。接合部分の回転に伴いスペーサー4Vが梁1のフランジ11Bに接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、梁1への孔開け加工、溶接、特殊な部材を必要とせずに、H形鋼材で構成された梁1にT形部材2Vを適切に接合することができる。
【0068】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態に係る鋼材どうしの接合構造について、主に
図12から
図15を用いて説明する。
図12は、本発明の第三実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
図13は、
図12のE方向矢視図である。
図14は、
図12のF-F線断面図である。
図15は、本発明の第三実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
図15では、上側鋼板5、高力ボルト6及びナット7の図示を省略し、梁1を二点鎖線で示している。
【0069】
図12から
図15に示すように、本実施形態では、T形部材(接合鋼材)2Vのガセットプレート22Vは、Tフランジ21の幅方向Xの中央から下方に延びている。換言すると、ガセットプレート22Vは、Tフランジ21の幅方向Xに偏心して設けられていない。ガセットプレート22Vは、梁1のウェブ12と幅方向Xの位置を揃えて配置されている。
【0070】
下部接着層3Wは、梁1のフランジ11Bの下面11dに、梁1の幅方向Xの略全長にわたって(全領域)配置されている。
【0071】
接着剤がフランジ11Bの小口面11c及び上面11uに設けられ、小口接着層(第三接着層)3X及び上部接着層(第二接着層)3Yが設けられている。
【0072】
小口接着層3Xは、フランジ11Bの幅方向Xの各小口面11cと各スペーサー4の小口面4cとの間に充填された接着剤で構成されている。小口接着層3Xの厚さ寸法は、例えば2mm程度である。
【0073】
上部接着層3Yは、梁1のフランジ11Bの上面11uと各上側鋼板5の下面5dとの間に充填された接着剤で構成されている。上部接着層3Yは、梁1の幅方向Xの両側に配置されている。上部接着層3Yの厚さ寸法を、t4とする。t4は、例えば2mm程度である。
【0074】
図15に示すように、スペーサー4Wは、T形部材2VのTフランジ21のフランジ突出部24の上面に設置されている。スペーサー4Wは、梁1のフランジ11Bに幅方向Xの両側それぞれに設置されている。
【0075】
平面視で、スペーサー4Wは、フランジ突出部24と略同一形状をなしている。スペーサー4Wは、平面視略矩形状に形成されている。スペーサー4Wにおける梁1のフランジ11B側を向く面(小口面)4eは、梁1のフランジ11Bの小口面11cに線接触している。
【0076】
図12に示すように、スペーサー4Wは、板厚方向を鉛直方向Zに向けて配置されている。スペーサー4Wの厚さ寸法を、t5とする。
【0077】
スペーサー4Wの厚さ寸法t5は、梁1のフランジ11Bの厚さ寸法t1と下部接着層3Wの厚さ寸法t2と上部接着層3Yの厚さ寸法t4との合計とされている。換言すると、スペーサー4Wの厚さ寸法t5は、フランジ11Bの厚さ寸法t1よりも下部接着層3Wの厚さ寸法t2及び上部接着層3Yの厚さ寸法t4の合計分厚い。
【0078】
このように構成された鋼材どうしの接合構造100Wでは、スペーサー4Wの厚さ寸法t5は梁1のフランジ11Bの厚さ寸法t1よりも下部接着層3Wの厚さ寸法t2及び上部接着層3Yの厚さ寸法t4の合計分厚いため、梁1のフランジ11Bの下面11dやT形部材2Vの上面21u、フランジ11Bの小口面11c、スペーサー4Wの小口面4c、上側鋼板5の下面5d、フランジ11Bの上面11uに不陸等があっても、下部接着層3W、小口接着層3X及び上部接着層3Yの厚さが確実に確保され、T形部材2Vは梁1のフランジ11Bに確実に接合される。よって、梁1への孔開け加工、溶接、特殊な部材等を必要とせずに、梁1にT形部材2Vを適切に接合することができる。
【0079】
また、ガセットプレート22V及び下部接着層3Wは偏心していないため、Tフランジ21は回転せず摩擦力を生じさせず、梁1の材軸方向のずれに対しては、下部接着層3Wで抗することができる。
【0080】
(第四実施形態)
次に、本発明の第四実施形態に係る鋼材どうしの接合構造について、主に
図16から
図18を用いて説明する。
図16は、本発明の第四実施形態に係る鋼材どうしの接合構造を示す平断面図である。
図17は、
図16のG方向矢視図である。
図18は、
図16のH-H線断面図である。
図17では、後述するカバープレート5X、高力ボルト6及びナット7の図示を省略し、梁を二点鎖線で示している。
図16から
図18に示すように、本実施形態では、柱1Xに固定されたガセットプレート2Xに、引張アングルブレース25が固定されている。
【0081】
鋼材どうしの接合構造100Xは、柱1Xと、ガセットプレート(第二鋼材)2Xと、接着層(第一接着層)3Zと、支圧プレート(スペーサー)4Xと、カバープレート(挟持部材)5Xと、高力ボルト(締結部材)6及びナット(締結部材)7と、を備えている。
【0082】
柱1Xは、鉛直方向に延びるように配置されている。本実施形態では、柱1Xは、H形鋼材で構成されている。柱1Xは、一対のフランジ11A,11Bと、ウェブ12と、を有している。
なお、以下の説明において、フランジ11A,11Bの幅方向(
図16に示す紙面左右方向)を幅方向Xと称し、幅方向Xと直交する方向を奥行方向Yと称することがある。
【0083】
一対のフランジ11は、奥行き方向Yに離間して配置されている。各フランジ11は、平板状に形成されている。フランジ11は、板厚方向を奥行き方向Yに向けて配置されている。フランジ11Bの厚さ寸法を、t11とする。
【0084】
ウェブ12は、一対のフランジ11を、フランジ11の幅方向Xの略中央位置で連結している。ウェブ12は、平板状に形成されている。ウェブ12は、板厚方向を幅方向Xに向けて配置されている。
【0085】
ガセットプレート2Xは、フランジ(平板部)11Bにおいて、対向するフランジ11A側と反対側を向く面11fに沿って配置されている。
【0086】
ガセットプレート2Xは、平板状に形成されている。ガセットプレート2Xは、板厚方向を奥行方向Yに向けて配置されている。
【0087】
ガセットプレート2Xの幅方向Xの長さ寸法は、柱1Xのフランジ11Bの幅方向Xの長さ寸法よりも長い。ガセットプレート2Xの幅方向Xの両端部は、フランジ11Bの幅方向Xの両端部よりも側方に突出している。ガセットプレート2Xにおいて、フランジ11Bの幅方向Xの両端部よりも側方に突出している部分をプレート突出部21e,21fとする。プレート突出部21eの突出長さ寸法は、プレート突出部21fの突出長さ寸法よりも長い。
【0088】
プレート突出部21eには、幅方向Xの外側(中央側と反対側)に延出する連結部21gが設けられている。
【0089】
引張アングルブレース25は、ガセットプレート2Xのプレート突出部21eにボルト61及びナット71により固定されている。引張アングルブレース25は、幅方向X及び鉛直方向Zに沿う面に上に配置されている。引張アングルブレース25は、下方に向かうにしたがって次第に幅方向Xのうち柱1Xから離間する方向に向かうように傾斜している。
【0090】
引張アングルブレース25は、プレート突出部21eにボルト61及びナット71で固定される第一プレート部26と、第一プレート部26と直交するように設けられた第二プレート部27と、を有している。
【0091】
接着層3Zは、柱1Xのフランジ11Bとガセットプレート2Xとの間に充填された接着剤で構成されている。接着層3Zの厚さ寸法を、t12とする。t12は、例えば2mm程度である。
【0092】
図17に示すように、ボルト61及びナット71の中心(引張アングルブレース25はとガセットプレート2Xとの連結位置)を通り、引張アングルブレース25の延在方向に沿う直線を直線L1とする。接着層3Zの鉛直方向の中央を通り、直線L1と平行な直線を直線L2とする。直線L1,L2の離間距離寸法(以下、「偏心距離寸法」と称する)を、e11とする。引張アングルブレース25の第一プレート部26とガセットプレート2Xへの連結位置は、柱1Xの幅方向Xの中心からe11分幅方向Xの位置がずれて(偏心して)配置されている。
【0093】
支圧プレート4Xは、柱1Xのフランジ11Bに幅方向Xの両側に隣接配置されている。支圧プレート4Xは、平板状に形成されている。支圧プレート4Xは、板厚方向を奥行方向Yに向けて配置されている。
【0094】
支圧プレート4Xの厚さ寸法を、t13とする。支圧プレート4Xの厚さ寸法t13は、柱1Xのフランジ11Bの厚さ寸法t11と接着層3Zの厚さ寸法t12との合計とされている。換言すると、支圧プレート4Xの厚さ寸法t13は、フランジ11Bの厚さ寸法t11よりも接着層3Zの厚さ寸法t12の分厚い。
【0095】
支圧プレート4Xは、柱1Xのフランジ11Bの幅方向Xの両側に、それぞれ上下に2箇所ずつ合計4箇所に設置されている。
【0096】
支圧プレート4Xは、正面視略五角形をなしている。支圧プレート4Xは、正面視略矩形状に形成された基部41Xと、基部41Xから柱1Xのフランジ11B側に突出する凸部42Xと、を有している。
【0097】
凸部42Xの突出方向の先端部42cは、先細り形状をなしている。凸部42Xの先端部42cは、柱1Xのフランジ11Bの幅方向Xの小口面11cに当接配置されている。換言すると、凸部42Xの先端部42cは、柱1Xのフランジ11Bの小口面11cに点接触している。
【0098】
カバープレート5Xは、柱1Xのフランジ11Bに幅方向Xの両側に配置されている。カバープレート5Xは、平板状に形成されている。
【0099】
カバープレート5Xは、柱1Xのフランジ11B及び支圧プレート4Xを挟んで、ガセットプレート2Xと反対側に配置されている。換言すると、カバープレート5Xとガセットプレート2Xとは、柱1Xのフランジ11B及び支圧プレート4Xを挟み込んでいる。詳細には、カバープレート5Xとガセットプレート2Xのプレート突出部21eの幅方向Xの中央側の部分(挟持部)及びプレート突出部(挟持部)21fとは、フランジ11B及び支圧プレート4Xを挟み込んでいる。
【0100】
高力ボルト6は、カバープレート5X、支圧プレート4X及びガセットプレート2Xの各ボルト孔(不図示)に挿通され、ガセットプレート2X側に配置されたナット7に螺合されている。高力ボルト6及びナット7により、カバープレート5X、支圧プレート4X及びガセットプレート2Xは締結されている。
【0101】
このように構成された鋼材どうしの接合構造100Xでは、引張アングルブレース25から入力された荷重は、ガセットプレート2Xを介して、カバープレート5Xと柱1Xのフランジ11Bとの支圧により柱1Xへ伝達される。また、柱1Xの材軸直交方向の荷重は、支圧プレート4Xと柱1Xのフランジ11Bとの支圧により柱1Xへと伝達される。柱1Xの材軸方向の荷重に対しては、接着層3Zにより抗するとともに、接合部分に回転が発生すると、接合部分の回転に伴い支圧プレート4Xが柱1Xのフランジ11Bに接触し、その摩擦力により応力伝達が行われる。
【0102】
また、支圧プレート4Xの厚さ寸法t13は柱1Xのフランジ11Bの厚さ寸法t11よりも接着層3Zの厚さ寸法t12分厚いため、柱1Xのフランジ11Bにおけるガセットプレート2X側を向く面やガセットプレート2Xにおける柱1Xのフランジ11B側を向く面に不陸等があっても、接着層3Zの厚さが確実に確保され、ガセットプレート2Xは柱1Xのフランジ11Bに確実に接合される。よって、柱1Xへの孔開け加工、溶接、特殊な部材等を必要とせずに、柱1Xにガセットプレート2Xを適切に接合することができる。
【0103】
また、柱1Xの材軸方向の荷重に対しては、柱1Xの材軸方向の荷重に対して、ブレースとガセットプレート2Xとの連結位置が柱1Xの幅方向Xの中心から幅方向Xに偏心していることにより、接合部分が確実に回転する。接合部分の回転に伴い支圧プレート4Xが柱1Xのフランジ11Bに接触することで、摩擦力が確実に生じて応力伝達が行われる。よって、特殊な部材を必要とせずに、H形鋼材で構成された柱1Xにガセットプレート2Xを適切に接合することができる。
【0104】
(実施例、比較例)
次に、上記の第一実施形態の鋼材どうしの接合構造100の実施例、及び従来工法の比較例を示す。
図19は、本発明の第一実施形態の実施例に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
図20は、
図19のI方向矢視図である。
図21は、
図19のJ-J線断面図である。
図22は、本発明の第一実施形態の実施例に係る鋼材どうしの接合構造を示す平面図である。
図23は、本発明の第一実施形態の比較例に係る鋼材どうしの接合構造を示す縦断面図である。
図24は、
図23のK方向矢視図である。
図25は、
図23のL方向矢視図である。
実施例は、
図19から
図22に示すように、上記の第一実施形態の構成である。比較例は、従来工法であり、
図23から
図25に示すように、鉄骨梁に孔開け作業を行い、高力ボルトでT形部材を接合している。
【0105】
表1に、実施例でのスペーサー4の間隔の設定を示す。また、表2に、接着剤関連の情報を表す。表3に、実施例及び比較例の試設計結果を示す。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
表3に示すように、実施例では、比較例と比較して、1箇所あたり鋼材料をほぼ半減(30.7kg/69.5kg=0.44)することができる。さらに、鉄鋼梁のウェブへの孔開け作業を省略することができるため、作業性を向上させることができる。
【0110】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0111】
例えば、上記に示す第一実施形態では、下部接着層3が梁1のフランジ11Bの幅方向Xの端部11b側に偏って配置されているが、本発明はこれに限られない。第一接着層の位置は適宜設定可能であり、フランジ11Bの下面11dの全領域にわたって設けられていてもよい。
【0112】
また、上記に示す第一実施形態では、T形部材2のガセットプレート22は、幅方向Xの中央よりも梁1のフランジ11Bの端部11a側に偏って配置されているが、本発明はこれに限られない。ガセットプレートの配置位置は適宜設定可能であり、フランジ11Bの幅方向Xの中央や、フランジ11Bの端部11b側に偏って配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1…梁(第一鋼材)
1…柱(第一鋼材)
2…T形部材(第二鋼材)
2V…T形部材(第二鋼材、接合鋼材)
2X…ガセットプレート(第二鋼材)
3…下部接着層(第一接着層)
3X…小口接着層(第三接着層)
3Y…上部接着層(第二接着層)
3Z…接着層(第一接着層)
4…スペーサー
4X…、支圧プレート(スペーサー)
5…上側鋼板(挟持部材)
5X…カバープレート(挟持部材)
6…高力ボルト(締結部材)
7…ナット(締結部材)
11B…フランジ(平板部)
12…ウェブ
21…Tフランジ(挟持プレート)
22…ガセットプレート
24…フランジ突出部
41…基部
42…凸部
42a…先端部
100,100V,100W,100X…鋼材どうしの接合構造