(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールのリーク試験方法、純水の製造方法及び純水の製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/10 20060101AFI20230314BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20230314BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230314BHJP
【FI】
B01D65/10
B01D63/02
C02F1/44 H
(21)【出願番号】P 2019044172
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018046233
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 尚義
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-104945(JP,A)
【文献】特開昭55-070258(JP,A)
【文献】特開昭62-140607(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するモジュールケースと、前記中空糸膜束の一方の端部を前記モジュールケースの一方の端部に固定する第1のポッティング材と、前記中空糸膜束の他方の端部を前記モジュールケースの他方の端部に固定し、前記モジュールケースの長手方向に貫通する1以上の貫通孔を有する第2のポッティング材とを備える中空糸膜モジュールのリーク試験方法であって、
前記第2のポッティング材が前記第1のポッティング材より下方に配置されるように前記中空糸膜モジュールを設置した状態、かつ前記モジュールケース内および前記中空糸膜内に水が充填された状態で、
前記モジュールケース内に空気を供給し、前記空気の供給側に対し前記中空糸膜を介して反対側の前記中空糸膜モジュール内から、前記空気の前記中空糸膜モジュール外への漏洩の有無に基づいて前記中空糸膜の破損の有無を検査
し、
前記空気の供給は、前記中空糸膜モジュールの上部から行うことを特徴とする中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【請求項2】
前記空気の漏洩の有無は、前記モジュールケース内に充填された水を前記中空糸膜の外側表面より内側表面に全て透過させた後に判定する、請求項
1に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【請求項3】
前記空気の漏洩の有無は、目視により判定する、請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【請求項4】
前記空気の漏洩の有無は、供給した前記空気の圧力の時間変動に基づいて判定する、請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【請求項5】
前記空気の供給は、前記空気の圧力が0.2MPa以下の所定の圧力になるまで行う、請求項1~
4のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【請求項6】
原料水を1以上の前記中空糸膜モジュールの内部に前記1以上の貫通孔を介して供給し、前記中空糸膜の内部に透過させて純水を製造する方法において、
前記純水の製造を中断して、請求項1~
5に記載の方法により、前記中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の破損の有無を検査することを特徴とする純水の製造方法。
【請求項7】
前記中空糸膜の破損が確認されなかった場合、または前記中空糸膜の破損が確認された場合には、中空糸膜の破損が確認された中空糸膜モジュールを交換した後に、前記純水の製造を再開する、請求項
6に記載の純水の製造方法。
【請求項8】
前記中空糸膜の破損が確認された場合に、少なくとも破損の確認された中空糸膜モジュールを交換する、請求項
7に記載の純水の製造方法。
【請求項9】
前記中空糸膜の破損が確認された場合に、破損の確認された全ての中空糸膜モジュール、または、全ての中空糸膜モジュールを交換する、請求項
7に記載の純水の製造方法。
【請求項10】
原料水から純水を製造する装置であって、
1以上の中空糸膜モジュールであって、複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するモジュールケースと、前記中空糸膜束の一方の端部を前記モジュールケースの一方の端部に固定する第1のポッティング材と、前記中空糸膜束の他方の端部を前記モジュールケースの他方の端部に固定し、前記モジュールケースの長手方向に貫通する1以上の貫通孔を有する第2のポッティング材とを備える、1以上の中空糸膜モジュールと、
空気を供給する空気供給部と、
前記空気供給部からの空気を前記モジュールケース内に導く空気供給配管と、
を備え
、
前記空気供給配管は、前記モジュールケースの上部に接続されていることを特徴とする純水の製造装置。
【請求項11】
前記中空糸膜モジュールからのろ過水を排出する排水管の少なくとも一部が透明材料で構成されている、請求項
10に記載の純水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールのリーク試験方法、純水の製造方法及び純水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上下水処理、医薬品製造、半導体製造、及び食品工業等の分野において、気液吸収、脱気、ろ過等の用途で、複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜をモジュールケース内に収容した中空糸膜モジュールが広く使用されている。
【0003】
中空糸膜モジュールには、数百本~数千本の中空糸膜を束ねた中空糸膜束が長さ200~1200mmの筒状のモジュールケースに収容されており、ポッティング材によって、中空糸膜束の両端部がモジュールケースの内壁に接着固定されている。そして、原水をモジュールケース内に供給し、原水を中空糸膜内に透過させることによって、ろ過水が得られるように構成されている。
【0004】
上記中空糸膜モジュールには、原水を中空糸膜の内側表面から外側表面へ透過させてろ過水を得る内圧式のものと、外表表面から内側表面へ透過させる外圧式のものが存在する。中でも、処理能力を高めることができることから、外圧式の中空糸膜モジュールが使用される場合が多い(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記中空糸膜モジュールは、たった一本の中空糸膜が破損するだけでも、原料水とろ過水とが混ざる、いわゆるリークが発生し、その機能が損なわれてしまう。そのため、中空糸膜モジュールにおいてリークが発生していないかを定期的に確認することが肝要である。
【0006】
こうしたことから、これまでに中空糸膜モジュールの様々なリーク試験方法が提案されてきた。例えば、特許文献2には、中空糸膜束の少なくとも一方の端部に起泡物質(例えば、石鹸等の界面活性剤)を配置し、中空糸膜の外側区間に気体(例えば、空気)を供給して圧力を負荷することによって、リークを検査する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2005/030375号
【文献】特開2014-226613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の方法によってリークを簡便に検査できるものの、中空糸膜の少なくとも一方の端部が界面活性剤等の起泡物質と接触しているため、中空糸膜が起泡物質によって汚染される問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中空糸膜の内外を汚染することなく、中空糸膜の破損を簡便に検査することができる中空糸膜モジュールのリーク試験方法、純水の製造方法及び純水の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
【0011】
[1]
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するモジュールケースと、前記中空糸膜束の一方の端部を前記モジュールケースの一方の端部に固定する第1のポッティング材と、前記中空糸膜束の他方の端部を前記モジュールケースの他方の端部に固定し、前記モジュールケースの長手方向に貫通する1以上の貫通孔を有する第2のポッティング材とを備える中空糸膜モジュールのリーク試験方法であって、
前記第2のポッティング材が前記第1のポッティング材より下方に配置されるように前記中空糸膜モジュールを設置した状態、かつ前記モジュールケース内および前記中空糸膜内に水が充填された状態で、
前記モジュールケース内に空気を供給し、前記空気の供給側に対し前記中空糸膜を介して反対側の前記中空糸膜モジュール内から、前記空気の前記中空糸膜モジュール外への漏洩の有無に基づいて前記中空糸膜の破損の有無を検査することを特徴とする中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0012】
[2]
前記空気の供給は、前記中空糸膜モジュールの上部から行う、前記[1]に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0013】
[3]
前記空気の漏洩の有無は、前記モジュールケース内に充填された水を前記中空糸膜の外側表面より内側表面に全て透過させた後に判定する、前記[1]または[2]に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0014】
[4]
前記空気の漏洩の有無は、目視により判定する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0015】
[5]
前記空気の漏洩の有無は、供給した前記空気の圧力の時間変動に基づいて判定する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0016】
[6]
前記空気の供給は、前記空気の圧力が0.2MPa以下の所定の圧力になるまで行う、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュールのリーク試験方法。
【0017】
[7]
原料水を1以上の前記中空糸膜モジュールの内部に前記1以上の貫通孔を介して供給し、前記中空糸膜の内部に透過させて純水を製造する方法において、
前記純水の製造を中断して、前記[1]~[6]に記載の方法により、前記中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の破損の有無を検査することを特徴とする純水の製造方法。
【0018】
[8]
前記中空糸膜の破損が確認されなかった場合、または前記中空糸膜の破損が確認された場合には、中空糸膜の破損が確認された中空糸膜モジュールを交換した後に、前記純水の製造を再開する、前記[7]に記載の純水の製造方法。
【0019】
[9]
前記中空糸膜の破損が確認された場合に、少なくとも破損の確認された中空糸膜モジュールを交換する、前記[8]に記載の純水の製造方法。
【0020】
[10]
前記中空糸膜の破損が確認された場合に、破損の確認された全ての中空糸膜モジュール、または、全ての中空糸膜モジュールを交換する、前記[8]に記載の純水の製造方法。
【0021】
[11]
原料水から純水を製造する装置であって、
1以上の中空糸膜モジュールであって、複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するモジュールケースと、前記中空糸膜束の一方の端部を前記モジュールケースの一方の端部に固定する第1のポッティング材と、前記中空糸膜束の他方の端部を前記モジュールケースの他方の端部に固定し、前記モジュールケースの長手方向に貫通する1以上の貫通孔を有する第2のポッティング材とを備える、1以上の中空糸膜モジュールと、
空気を供給する空気供給部と、
前記空気供給部からの空気を前記モジュールケース内に導く空気供給配管と、
を備えることを特徴とする純水の製造装置。
【0022】
[12]
前記空気供給配管は、前記モジュールケースの上部に接続されている、前記[11]に記載の純水の製造装置。
【0023】
[13]
前記中空糸膜モジュールからのろ過水を排出する排水管の少なくとも一部が透明材料で構成されている、前記[11]または[12]に記載の純水の製造装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、中空糸膜の内外を汚染することなく、中空糸膜の破損を簡便に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による純水の製造装置の一例を示す図である。
【
図2】中空糸膜モジュールの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(純水の製造装置)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明による純水の製造装置の一例を示している。この図に示す純水の製造装置1は、原料水から純水を製造する装置であって、1以上(図示例では2つ)の中空糸膜モジュール10と、空気を供給する空気供給部4と、空気供給部4からの空気を中空糸膜モジュール10のモジュールケース内に導く空気供給配管5とを備える。また、各中空糸膜モジュール10の上部には、中空糸膜モジュール10によってろ過されたろ過水を排出するろ過水排出管6が設けられている。
【0027】
貯槽2は、純水の原料である原料水としての清水を貯める槽である。この貯槽2に貯められた原料水は、供給ポンプ3によって各中空糸膜モジュール10の下部から中空糸膜モジュール10内に導入される。
【0028】
空気供給部4は、後述する本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法において、中空糸膜の破損の有無を検査するための空気を供給する。空気供給部4は、例えばブロワーで構成することができる。
【0029】
空気供給配管5は、空気供給部4からの空気をモジュールケース内にモジュール10の上部より導く配管であり、
図1においては、中空糸膜モジュール10付近で2つの配管5aと5bとに分岐されている。この空気供給配管5の一部は、純水の製造時には、中空糸膜モジュール10の下部から導入されて原料水排出口17から排出された原料水の排出管としても使用される。また、空気供給配管7は、空気供給部4からの空気をモジュールケース内にモジュール10の下部より導く配管である。
【0030】
中空糸膜モジュール10は、貯槽2から供給される原料水をろ過して純水にする。
図2は、中空糸膜モジュール10の構成の一例を示している。
図2に示した中空糸膜モジュール10は、複数の中空糸膜11aを束ねた中空糸膜束11と、該中空糸膜束11を収容するモジュールケース12とを備える。
【0031】
上記中空糸膜束11の一方の端部(
図2では、上方の端部)は、第1のポッティング材13によって、モジュールケース12の一方の端部(
図2では、上方の端部)に固定されている。また、中空糸膜束11の他方の端部(
図2では、下方の端部)は、第2のポッティング材14によって、モジュールケース12の他方の端部(
図2では、下方の端部)に固定されている。
【0032】
上記第2のポッティング材14は、モジュールケース12の長手方向に貫通する1以上の貫通孔thを有しており、この貫通孔thを介して、原料水導入孔15から導入された原料水がモジュールケース12内(中空糸膜11aの外側)に供給される。なお、
図2においては、貫通孔thは、中空糸膜束11内に設けられているが、例えば医薬向けの高純度の純水を製造する場合には、中空糸膜11aとしては、精密ろ過膜(MF膜)や限界ろ過膜(UF膜)を使用する場合が多く、強度が比較的弱い。このような用途に用いる場合には、原料水による中空糸膜11aの揺動を抑制するために、貫通孔thは中空糸膜束11の外側に設けることが好ましい。
【0033】
中空糸膜11aは、多孔質であり、通過する流体をろ過する。中空糸膜11aの製造方法や材質は特に限定されない。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、アクリロニトリル、及び酢酸セルロース等を中空糸膜11aに用いることができる。
【0034】
中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリフッ化ビニリデンなどの結晶性熱可塑性樹脂は強度発現の面から好適に用いることができる。さらに好適には、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体の濾過において耐久性が期待できる、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。特に好適には、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデンの比率が50モル%以上であるフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンまたはエチレンから選ばれた1種以上との共重合体が挙げられる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーがもっとも好ましい。
【0035】
モジュールケース12の材質は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。モジュールケース12の材質として、例えば、ポリスルフォン系樹脂、ABS、ポリカーボネート、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、塩化ビニル等を挙げることができる。一般的に、表面自由エネルギーの小さな素材は、素材自体の表面が他の物質で濡れなくても安定化されているため接着が難しい。そこで、比較的表面エネルギーの小さなABS、変性PPE、PE、PP、ポリスルフォン、塩化ビニルのような素材を材質に用いることにより、後述する剥離抑制効果が、顕著に発現する。
【0036】
第1のポッティング材13及び第2のポッティング材14の材料としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オレフィン系ポリマー、シリコン樹脂、およびフッ素含有樹脂等の高分子材料が好ましく、これらの高分子材料のいずれかでもよいし、複数の高分子材料を組み合わせて用いるようにしてもよい。ウレタン樹脂は比較的短時間で反応が完結するので特に好ましい。
【0037】
これらの材料で構成された第1のポッティング材13及び第2のポッティング材14は、ろ過時に加圧によって生ずる一次側と二次側の差圧に耐え得る耐圧性を有することが必要であり、そのためには適度な硬さを有していることが望ましい。一方、物理洗浄時の流体の流れによる中空糸膜11aの破断をより長期間確実に防止するために、適度な柔らかさを有したポッティング材を使用することが望ましい。従って、使用上必要充分な耐圧性を付与し、かつ、確実に膜破断を防止するためには、使用温度範囲で硬度70D~50Aの特性を有する材料を使用することが好ましい。なお、ここで言う硬度は、ショア硬度計を実質的に平滑な面を有する資料面に押し当てた時に、10秒後に示した値をいう。この値が70D超えると上記の膜破断が起こる場合があり、また、50A未満では耐圧性が不足する場合がある。
【0038】
ここで、上記装置1の動作について説明する。まず、貯槽2に貯められた原料水を、供給ポンプ3により各中空糸膜モジュール10内に供給する。すると、中空糸膜モジュール10内に供給された原料水はろ過され、ろ過水排出管6を介して中空糸膜モジュール10から排出される。排出されたろ過水は、一部がユースポイントに供給され、残りは貯槽2に戻される。こうして、純水が製造される。
【0039】
中空糸膜モジュール10のリーク試験を行う場合には、後述する本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法に従って、上記純水の製造を一旦停止して、上記空気供給部4からの空気を空気供給配管5を介して中空糸膜モジュール10のモジュールケース12内に供給し、中空糸膜11aの破損を検査する。中空糸膜11aの破損が確認されなかった場合、あるいは破損が確認された場合には、破損が確認された中空糸膜モジュール10を交換、あるいは全ての中空糸膜モジュール10を交換した後に、純水の製造を再開する。
【0040】
このように、本発明による純水の製造装置によれば、中空糸膜を汚染することなく中空糸膜モジュールのリーク試験を簡便に行って、純水を製造することができる。
【0041】
(中空糸膜モジュールのリーク試験方法)
ここで、
図1及び
図2を参照して、本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法について説明する。本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法は、
図2に示したような、外圧式の中空糸膜モジュールのリーク試験方法である。本発明のリーク試験方法を行うに当たり、中空糸膜モジュール10を、第2のポッティング材14が第1のポッティング材13より下方に配置されるように中空糸膜モジュール10を設置した状態、かつモジュールケース12内および中空糸膜11a内に水が充填された状態とする。
【0042】
この状態で、空気供給部4から、空気供給配管5を介してモジュールケース12内に空気を供給する。すると、空気圧によってモジュールケース12内に充填された原料水が、中空糸膜11aの外側表面から内側表面に透過する。空気の供給を継続すると、モジュールケース12内に充填された原料水が減少して水位が下がっていく。
【0043】
上述のように、本発明においては、モジュールケース12内および中空糸膜11a内に水が充填された状態でリーク試験を開始する。そのため、供給した空気によって原料水が押し下げられて中空糸膜11aの外側表面が空気に露出した部分は、完全に乾いた状態ではない。このような状態の中空糸膜11aの外側表面に空気圧が印加されても、空気は中空糸膜11a内に透過しない。しかし、中空糸膜11aに破損が存在する場合には、供給した空気が破損箇所から中空糸膜11a内に漏洩する。
【0044】
中空糸膜11a内に漏洩した空気は、中空糸膜11a内のろ過水中を気泡となって上昇し、ろ過水排出口16を経て、中空糸膜モジュール10外へ漏洩する。この空気の漏洩の有無に基づいて、中空糸膜11aの破損の有無を検査することができる。
【0045】
上記空気の漏洩の有無は、試験者の目視により判定することができる。これは、中空糸膜モジュール10からろ過水を排出するろ過水排出管6の少なくとも一部を、透明材料C(例えば、ランタン式サイトグラス)で構成することにより、空気の漏洩を、ろ過水中を上昇する気泡として検出することができる。
【0046】
なお、医薬品向けの純水、例えば医療用無菌水を製造する場合には、
図1に示した装置1のように、空気供給配管5により、モジュールケース12内への空気の供給を、中空糸膜モジュール10の上部から行うことが好ましい。すなわち、医薬品向けの純水を製造する場合には、中空糸膜11aとしては、分子量6000以上の微生物やウイルス等を全て除去できる精密ろ過膜(MF膜)や限界ろ過膜(UF膜)が使用される場合が多いが、これらの膜は比較的強度が弱い。そのため、モジュールケース12内に空気を供給すると、空気によって中空糸膜11aが揺動し、中空糸膜11aが破損するおそれがある。
【0047】
上記空気の供給による中空糸膜11aの揺動は、空気の供給を中空糸膜モジュール10の上部から行った場合よりも、下部から行った場合の方が大きい。そのため、モジュールケース12内への空気の供給を、中空糸膜モジュール10の上部から行うことによって、中空糸膜11aの揺動を抑制して、中空糸膜11aが破損するのを抑制することができる。
【0048】
また、モジュールケース12内に供給した空気の漏洩の有無は、モジュールケース12内に充填された水を中空糸膜11aの内部に全て透過させた後に判定することが好ましい。これにより、中空糸膜11aの破損が第2のポッティング材14の付近で生じている場合にも、中空糸膜11aの破損を確実に検出することができる。
【0049】
なお、上記装置1が設置される環境によっては、装置構成の制約のために、ろ過水排出管6の一部を透明材料Cで構成できない場合もありうる。このような場合には、上述のような目視によって空気の漏洩の有無を確認することができない。
【0050】
このような場合には、モジュールケース12内に供給した空気の圧力の時間変動に基づいて、空気の漏洩の有無を判定することができる。具体的には、目視検査の場合と同様に、空気供給部4から、空気供給配管5を介してモジュールケース12内に空気を供給する。この空気供給部4による空気の供給は、中空糸膜モジュール10の耐圧限界以下で行う必要がある。従って、例えば、0.2MPaが耐圧限界の中空糸膜モジュール10の場合、中空糸膜11aおよび中空糸膜モジュール10の破損を防止するため、空気の供給は、空気の圧力が0.2MPa以下の所定の圧力になるまで行うことが好ましい。また、耐圧限界が0.2MPaを超える中空糸膜モジュール10、例えば、耐圧限界が0.3MPaのものであっても、空気の供給は、安全率などを考慮して、0.2MPa以下の所定の圧力になるまで行うことが好ましい。
【0051】
上記所定の圧力に保持した状態で、所定の時間(例えば、20秒)保持する。この間に、モジュールケース12内の空気の圧力が減衰しなかった場合には、モジュールケース12内に供給した空気のモジュール10外への漏洩はなかったと判定して、中空糸膜11aに破損はないと判定することができる。一方、モジュールケース12内の空気の圧力が減衰した場合には、モジュールケース12内に供給した空気のモジュール10外への漏洩があったと判定して、中空糸膜11aに破損が存在すると判定することができる。
【0052】
このように、本発明によれば、中空糸膜モジュール10のモジュールケース12内に供給した空気の漏洩の有無に基づいて、中空糸膜11aの内外を汚染することなく、中空糸膜モジュール10のリークを簡便に検査することができる。
【0053】
(純水の製造方法)
続いて、本発明による純水の製造方法について説明する。本発明による純水の製造方法は、原料水を1以上の中空糸膜モジュール10の内部に1以上の貫通孔thを介して供給し、中空糸膜11aの内部に透過させて純水を製造する方法である。ここで、純水の製造を中断して、上述した本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法により、中空糸膜モジュール10における中空糸膜11aの破損の有無を検査することを特徴とする。
【0054】
中空糸膜11aの破損が確認されなかった場合、または中空糸膜11aに破損が確認された場合には、中空糸膜11aの破損が確認された中空糸膜モジュール10を、破損がないことが予め確認されている新しい中空糸膜モジュール10に交換した後に、純水の製造を再開することができる。
【0055】
また、中空糸膜11aに破損が確認された場合には、少なくとも中空糸膜11aの破損が確認された中空糸膜モジュール10を交換する。その際、破損の確認された全ての中空糸膜モジュール10のみならず、装置1の他の中空糸膜モジュール10、特に全ての中空糸膜モジュール10についても、破損がないことが予め確認されている新しい中空糸膜モジュール10に交換することが好ましい。装置1内の1つの中空糸膜モジュール10が破損していた場合には、経年変化等によって、他のモジュール10についても、近いうちに破損するおそれがあるためである。
【0056】
本発明による純水の製造方法においては、上記した本発明による中空糸膜モジュールのリーク試験方法によって中空糸膜モジュールのリーク試験を簡便に行うことができる。そのため、純水の製造を頻繁に停止してリーク試験を行うことができ、万一、中空糸膜に破損があった場合にも、製造された純水の廃棄を最小限に留めることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0058】
(実施例1)
<装置の立ち上げ>
図1に示した純水の製造装置1を用いて、純水の製造を行う。まず、純水の製造装置1の制御盤(図示せず)上の供給ポンプ3の出力がゼロになっていることを確認する(ステップS1)。次いで、制御盤の電源をオンにする(ステップS2)。続いて、純水の製造装置1における全てのバルブが完全に閉じている状態であることを確認する(ステップS3)。
【0059】
次に、バルブV0を開いて、原料水である清水を貯槽2に供給する(ステップS4)。貯槽2のオーバーフロー口2aからの清水のオーバーフローを確認したら(ステップS5)、V6を半開(バルブの開度としては、25%以下)にし(ステップS6)、V5a、V5bを全開にする(ステップS7)。続いて、V1を全開にした後(ステップS8)、V5を開け(ステップS9)、V4を開ける(ステップS10)。
【0060】
この状態で、V2a及びV2bを全開にし、中空糸膜モジュール10の内部に原料水が流れ込んでくるのを確認する(ステップS11)。次に、供給ポンプ3の電源をオンにし(ステップS12)、供給ポンプ3の出力を徐々に上げて、流量計FI1が1.2~1.5m3/hrになるように、出力を調整する(ステップS13)。その際、流量計FI2が0.5m3/hr以上となっていた場合には、V6の開度を下げて、FI2が0.5m3/hr以下になるように調整する(ステップS14)。
【0061】
このような状態でV3を開け(ステップS15)、V4を閉じる(ステップS16)ことによって、ろ過水をユースポイントに供給することができる。ユースポイントへの供給が終了した場合には、V4を開き、V3を閉じることによって、ろ過水は貯槽2に供給される。こうして、純水の製造装置1を立ち上げて、純水の製造を開始することができる。
【0062】
<中空糸膜モジュールのリーク試験>
ここで、中空糸膜モジュール10のリーク試験を行う。そのために、純水の製造を一旦停止する。具体的には、まず、リーク試験開始直前のデータ(日時や圧力計、流量計等)をデータシートに記載する(ステップS21)。次に、供給ポンプ3を停止する直前の供給ポンプ3の出力を確認する(ステップS22)。続いて、供給ポンプ3の出力を徐々に落とし、出力が0%になった段階で、供給ポンプ3の電源をオフにする(ステップS23)。そして、バルブV1を閉め(ステップS24)、バルブV5を閉める(ステップS25)。こうして、純水の製造を一旦停止する。
【0063】
<<目視検査>>
次に、中空糸膜モジュール10のリーク試験を行う。まず、バルブVA1を開く(ステップS26)。これにより、空気供給部4からモジュールケース12内にモジュールケース12の上部より空気が供給されるため、中空糸膜モジュール10の内部に空気が充填されるのを目視で確認する(ステップS27)。モジュールケース12の内部に空気が完全に充填されたら、透明配管を目視で確認する(ステップS28)。
【0064】
上記の状態を20秒間保持する(ステップS29)。ここで、中空糸膜11aに破損が存在する場合には、透明配管に連続的な気泡が確認されるため、破損した中空糸膜11aの破損箇所を介してモジュール10外に漏洩したと判定し、中空糸膜11aに破損が存在すると判定する。一方、気泡が確認されなければ、モジュールケース12外への空気の漏洩はないと判定し、中空糸膜11aに破損が存在しないと判定する。
【0065】
中空糸膜の破損が確認されなかった場合には、後述する方法に従って、純水の製造を再開する。一方、中空糸膜11aに破損が確認された場合には、中空糸膜11aの破損が確認された中空糸膜モジュール、あるいは装置1の全ての中空糸膜モジュール10を、破損がないことが予め確認されている新しい中空糸膜モジュール10に交換した後に、純水の製造を再開する。
【0066】
<純水の製造の再開>
上記リーク試験の終了後に、VA1を閉じた後(ステップS30)、VA2をゆっくりと開き、空気を抜く(ステップS31)。十分に空気を抜いたら、を完全に閉じる(ステップS32)。続いて、V5を開き(ステップS33)、V1を全開にする(ステップS34)。すると、中空糸膜モジュール10の内部に原料水が流入するのが目視で確認できるため、水位がモジュール超の1/2程度に達するまで待つ(ステップS35)。この時、VA2を少し開けてエアー抜きすることで水位の上昇を早めてもよい。
【0067】
原料水の水位がモジュールの長さの1/2程度に達したら、供給ポンプ3の電源をオンにし、停止前の出力まで徐々に上昇させる(ステップS36)。流量計FI1、FI2の値がリーク試験前の値となるように、供給ポンプ3の出力を微調整する(ステップS37)。最後に、データシートにリークの有無を記載する(ステップS38)。こうして、中空糸膜モジュール10のリーク試験を終了して、純水の製造を再開することができる。
【0068】
(実施例2)
<<空気圧変動検査>>
実施例1における<<目視検査>>のステップS26~S29に代えて、以下の空気圧変動検査を行う。まず、VA1を開く(ステップS41)。VA1を開くことによって、空気供給部4からモジュールケース12内にモジュールケース12の上部より空気が供給されるため、モジュール10内部に空気が充填されるのを目視で確認する(ステップS42)。
【0069】
圧力計Poutの値が徐々に上昇するのを確認し、0.15~0.2MPaに達した段階で、VA1を閉じる(ステップS43)。VA1が完全に閉じられていることを確認したら、Pin、Poutが0.15~0.2MPa程度に維持されていることを確認する。このとき、モジュールケース12内の空気が、モジュールの底まで達していることを確認する(ステップS44)。
【0070】
上記の状態を20秒間保持する(ステップS45)。ここで、中空糸膜11aに破損が存在する場合には、Pin、Poutの圧力が急激に低下するため、モジュールケース12内に供給した空気が、破損した中空糸膜11aの破損箇所を介してモジュール10a、10b外に漏洩していることになるので、モジュール10a又は10b、あるいは両方が破損していると判定する。一方、Pin、Poutの圧力が減衰しなければ、モジュールケース12外への空気の漏洩はないと判定する。
【0071】
モジュール10aが破損しているかどうかを確認したい場合、V2bを全閉にして上記ステップS41からステップS45を実施する。モジュール10aが破損していた場合、Pin、Poutの圧力が急激に低下するため、モジュール10aに破損が存在していると判定できる。一方、Pin、Poutの圧力が減衰しなければ、モジュール10aに破損は存在しないと判定する。モジュール10bが破損しているかどうかを確認したい場合は、V2aを全閉にして、当該ステップを繰り返せばよい。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様に、中空糸膜モジュール10のリーク試験を行った。ただし、<中空糸膜モジュールのリーク試験>において、ステップS26を行う代わりに、バルブV5aおよびV5bを閉じた後、バルブVA3を開いて、空気供給部4からの空気をモジュール10の下部よりモジュールケース12内に供給し、<中空糸膜モジュールのリーク試験>、<<目視検査>>および<純水の製造の再開>をリークが発現するまで繰り返し行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。リーク試験を3回行った結果、平均82回で、空気供給部4からの空気をモジュール10の下部から供給したことによるものと考えられる中空糸膜11aの破断が発生した。
【0073】
(実施例4)
実施例1と同様に、中空糸膜モジュール10のリーク試験を行った。ただし、<中空糸膜モジュールのリーク試験>、<<目視検査>>および<純水の製造の再開>を270回繰り返し行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。その結果、中空糸膜11aの破断は発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、中空糸膜の内外を汚染することなく、中空糸膜の破損を簡便に検査することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 純水の製造装置
2 貯槽
3 供給ポンプ
4 空気供給部
5,7 空気供給配管
6 ろ過水排出管
10 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜束
11a 中空糸膜
12 モジュールケース
13 第1のポッティング材
14 第2のポッティング材
15 原料水供給口
16 ろ過水排出口
17 原料水排出口
C 透明材料
FI1,FI2 流量計
Pf,Pin,Pout 圧力計
V0,V1,V2a,V2b,V3,V4,V5,V5a,V5b,VA1,VA2,VA3 バルブ
Vd ドレンバルブ