(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び該真空ポンプの制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20230314BHJP
F04D 29/70 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
F04D19/04 Z
F04D29/70 N
(21)【出願番号】P 2019063520
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】三枝 健吾
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100760(JP,A)
【文献】特開2015-048734(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053270(WO,A1)
【文献】特開2018-066368(JP,A)
【文献】特開2017-002729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体と該ポンプ本体を制御する制御装置とが一体となった真空ポンプにおいて、
前記制御装置には該制御装置の筐体より突出し、内側に前記ポンプ本体と前記制御装置間を結ぶケーブルの通された筒状部を備え、
該筒状部の高さが前記ポンプ本体の底部と前記制御装置の筐体間に形成された隙間の高さを超えていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプ本体には、前記ケーブルの端部が接続される中継基板の収納された中継室と、
該中継室には取り外し可能なカバーを備えたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ポンプ本体の底部には前記ポンプ本体と前記制御装置とを締結する取り外し自在のプレートを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記筒状部の高さが前記隙間と前記プレートを合わせた高さ寸法よりも高く形成されたことを特徴とする請求項3記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ポンプ本体のベース部にはベース貫通部を備え、
前記筒状部の高さが前記隙間と前記ベース貫通部を合わせた高さ寸法よりも高く形成されたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記筒状部が前記制御装置の筐体とは別部材で構成されたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備え、
該蓋の一方の端部には折曲片を有し、
該折曲片が前記プレートの面に対し当接されることを特徴とする請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備え、
該蓋の一方の端部には折曲片を有し、
該折曲片が前記ベース部の面に対し当接されることを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記中継基板の下端が前記ポンプ本体の最下端より下方に突設されないことを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記ポンプ本体に内装されたロータ軸と、前記制御装置に外装されたフロントパネルを備え、前記蓋が前記ロータ軸の中心軸から見て前記フロントパネルの配設方向より90度以内に配設されたことを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
ポンプ本体に対し所定の隙間を介して接続自在の筐体を有する制御装置であって、
前記筐体より突出し、内側に前記ポンプ本体と結ばれるケーブルの通された筒状部を備え、
該筒状部の高さが前記隙間の高さを超えていることを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び該真空ポンプの制御装置に係わり、特に封止材を使用せずに水滴の侵入し難い構造を安価に実現し、かつ、ポンプ本体と制御装置とが分離し易く保守のし易い構造を備えた真空ポンプ及び該真空ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
【0003】
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0004】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
このターボ分子ポンプは、ポンプ本体とそのポンプ本体を制御する制御装置とからなる。そして、従来、ポンプ本体と制御装置間を接続する外部ケーブルを省略するため、特許文献1や特許文献2のようにポンプ本体の側部や底部に制御装置が一体化された構成が知られている。
【文献】特開2006-250033号公報
【文献】特開2018-115631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポンプ本体や半導体製造装置には水冷による冷却機構が設けられることが多い。従って、ポンプ本体の側部に制御装置が一体化された場合には、水漏れやポンプ本体の周囲に結露等のあった際に制御装置に水滴が侵入するおそれがある。このため、制御装置には防滴構造を備える必要があり、特許文献1の場合には制御装置のケーシングとベース部との間に水密用の封止材が配設されている。
【0006】
しかしながら、この水密用の封止材は高価なためにコストアップの要因となっている。
また、一体化されたポンプ本体と制御装置とは、内部の回路だけを変えたい等保守の際に現場で分離される場合がある。このため、上述したように防滴構造を備えつつも分離し易く取り扱い易い構造とすることが望まれる。
更に、特許文献2のように、ポンプ本体と制御ユニットとの断熱を目的として、ポンプ本体の底面(下面)と制御ユニットの蓋板との間に隙間σが設けられている場合、制御装置の分離の際に、冷却機構からの水漏れや結露等による水滴が隙間σを通じて、制御装置に侵入するおそれがある。
【0007】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、封止材を使用せずに水滴の侵入し難い構造を安価に実現し、かつ、ポンプ本体と制御装置とが分離し易く保守のし易い構造を備えた真空ポンプ及び該真空ポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明(請求項1)は、ポンプ本体と該ポンプ本体を制御する制御装置とが一体となった真空ポンプにおいて、前記制御装置には該制御装置の筐体より突出し、内側に前記ポンプ本体と前記制御装置間を結ぶケーブルの通された筒状部を備え、該筒状部の高さが前記ポンプ本体の底部と前記制御装置の筐体間に形成された隙間の高さを超えていることを特徴とする。
【0009】
ポンプ本体の周囲は、水冷管による冷却により結露を生じている場合がある。また、保守の際には水冷管から水滴が漏れる恐れもある。漏れた水滴は隙間に侵入する可能性が高い。筒状部の高さがポンプ本体の底部と制御装置の筐体間に形成された隙間の高さを超えているので、隙間で溢れた水滴が筒状部の内側から侵入することはない。
これにより、保守作業時における回路の安全が図れる。また、封止材を使用せずに簡易な構成で防滴構造が実現できる。
【0010】
また、本発明(請求項2)は真空ポンプの発明であって、前記ポンプ本体には、前記ケーブルの端部が接続される中継基板の収納された中継室と、該中継室には取り外し可能なカバーを備えて構成した。
【0011】
カバーを外すことで中継室における保守作業が楽に行える。ケーブルの端部を中継基板から外すことでポンプ本体と制御装置とが容易に分離自在である。
【0012】
更に、本発明(請求項3)は真空ポンプの発明であって、前記ポンプ本体の底部には前記ポンプ本体と前記制御装置とを締結する取り外し自在のプレートを備えて構成した。
【0013】
プレートをポンプ本体の底部に備えたことで、ポンプ本体と制御装置とが互いに大きさの異なる場合でもプレートだけを変えるだけでポンプ本体と制御装置とが一体化可能にできる。このため、例えば一つの制御装置を異なる容量のポンプ本体と組み合わせ自在となる。プレートはポンプ本体に対し締結されており取り外しが可能である。
【0014】
更に、本発明(請求項4)は真空ポンプの発明であって、前記筒状部の高さが前記隙間と前記プレートを合わせた高さ寸法よりも高く形成されたことを特徴とする。
【0015】
筒状部の高さは隙間とプレートを合わせた高さ寸法よりも高く形成される。このため、プレートの上面に水滴がかかった場合であっても筒状部を超えて侵入するおそれは少ない。
【0016】
更に、本発明(請求項5)は真空ポンプの発明であって、前記ポンプ本体のベース部にはベース貫通部を備え、前記筒状部の高さが前記隙間と前記ベース貫通部を合わせた高さ寸法よりも高く形成されたことを特徴とする。
【0017】
ポンプ本体のベース部にベース貫通部を備えている場合でも、筒状部の高さを隙間とプレートを合わせた高さ寸法よりも高く形成することで、筒状部を超えて水滴が侵入するおそれは少ない。
【0018】
更に、本発明(請求項6)は真空ポンプの発明であって、前記筒状部が前記制御装置の筐体とは別部材で構成されたことを特徴とする。
【0019】
更に、本発明(請求項7)は真空ポンプの発明であって、前記制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備え、該蓋の一方の端部には折曲片を有し、該折曲片が前記プレートの面に対し当接されることを特徴とする。
【0020】
制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備えたことで回路基板の交換等の保守作業がし易くなる。また、蓋の一方の端部には折曲片を有し、この折曲片がプレートの面に対し当接されるので蓋の端部とプレートの間から水滴が侵入し難い。
【0021】
更に、本発明(請求項8)は真空ポンプの発明であって、前記制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備え、該蓋の一方の端部には折曲片を有し、該折曲片が前記ベース部の面に対し当接されることを特徴とする。
【0022】
制御装置の筐体の側部に対し着脱自在の蓋を備えたことで回路基板の交換等の保守作業がし易くなる。また、蓋の一方の端部には折曲片を有し、この折曲片がベース部の面に対し当接されるので蓋の端部とベース部の間から水滴が侵入し難い。
【0023】
更に、本発明(請求項9)は真空ポンプの発明であって、前記中継基板の下端が前記ポンプ本体の最下端より下方に突設されないことを特徴とする。
【0024】
このことにより、プレートを外してテーブル上にポンプ本体を載置しようとする場合にポンプ本体をテーブル上に安定して載置できる。中継基板を損傷させる恐れも少なくできる。
【0025】
更に、本発明(請求項10)は真空ポンプの発明であって、前記ポンプ本体に内装されたロータ軸と、前記制御装置に外装されたフロントパネルを備え、前記蓋が前記ロータ軸の中心軸から見て前記フロントパネルの配設方向より90度以内に配設されたことを特徴とする。
【0026】
フロントパネルのある面の手前側は運転管理の都合上開放されていることが多い。従って、蓋をロータ軸の中心軸から見てフロントパネルの配設方向より90度以内に配設する。これにより、蓋やカバーがポンプ本体の周囲に配設された関連装置に邪魔されずに容易に外せる配置にできる。
【0027】
更に、本発明(請求項11)は、ポンプ本体に対し所定の隙間を介して接続自在の筐体を有する制御装置であって、前記筐体より突出し、内側に前記ポンプ本体と結ばれるケーブルの通された筒状部を備え、該筒状部の高さが前記隙間の高さを超えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明(請求項1)によれば、制御装置には制御装置の筐体より突出し、内側にポンプ本体と制御装置間を結ぶケーブルの通された筒状部を備え、筒状部の高さがポンプ本体の底部と制御装置の筐体間に形成された隙間の高さを超えるように構成したので、隙間で溢れた水滴が筒状部の内側から侵入することはない。
これにより、保守作業時における回路の安全が図れる。また、封止材を使用せずに簡易な構成で防滴構造が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図5】ターボ分子ポンプ周りの設備装置の配置を示す図
【
図6】制御装置をフロントパネル側に引き出したときの様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態の構成図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ10は、ポンプ本体100と制御装置200とが一体化されている。
ポンプ本体100の円筒状の外筒127の上端には吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c・・・を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
【0031】
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が、ロータ軸113の径方向の座標軸であって互いに直交するX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接かつ対応されて4個の電磁石からなる上側径方向センサ107が備えられている。この上側径方向センサ107は回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0032】
制御装置200においては、上側径方向センサ107が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して上側径方向電磁石104の励磁を制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整する。
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
【0033】
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向変位信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0034】
そして、軸方向電磁石106A、106Bは、この軸方向変位信号に基づき制御装置200のPID調節機能を有する補償回路を介して励磁制御されるようになっている。軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bは、磁力により金属ディスク111をそれぞれ上方と下方とに吸引する。
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0035】
モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0036】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0037】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
【0038】
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
【0039】
回転体103の回転翼102a、102b、102c・・・に続く最下部には回転翼102dが垂下されている。この回転翼102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
ベース部129は、ターボ分子ポンプ10の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。
ベース部129はターボ分子ポンプ10を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0040】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113と共に回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導や輻射などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子等による伝導により固定翼123側に伝達される。
【0041】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱などを外筒127やネジ付きスペーサ131へと伝達する。
ネジ付きスペーサ131に移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0042】
ところで、プロセスガスは、反応性を高めるため高温の状態でチャンバに導入される場合がある。そして、これらのプロセスガスは、排気される際に冷却されてある温度になると固体となり排気系に生成物を析出する場合がある。
そして、この種のプロセスガスがターボ分子ポンプ10内で低温となって固体状となり、ターボ分子ポンプ10内部に付着して堆積する場合がある。
【0043】
ターボ分子ポンプ10内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ10の性能を低下させる原因となる。
ここに、前述した生成物は排気口付近の温度が低い部分、特に回転翼102d及びネジ付きスペーサ131付近で凝固、付着し易い状況にあった。この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づきベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管による冷却の制御が行われている。
【0044】
次に、ポンプ本体100と制御装置200間で制御ケーブル、電源ケーブルを接続する端子周りの構造について説明する。
図1中のこの端子周りの構造部分の拡大図を
図2に示す。
図1及び
図2において、ベース部129の底部には、制御装置200と固定位置の取合いのためのプレート150が取り付けられている。このベース部129には中継室201が形成され、この中継室201にはカバー203が着脱自在になっている。そして、ベース部129内にはポンプ本体100内の磁気軸受やモータ等の配線用に中継室201に通ずる空間205が形成されている。この空間205内は、後述するハーメチックコネクタ207で密封されているため真空雰囲気であり、一方、制御装置200や中継室201は大気雰囲気である。
【0045】
そして、この空間205の右端周りの壁部にはハーメチックコネクタ207が取り付けられている。このハーメチックコネクタ207には多数のピン209が貫通されている。ピン209の右端は露出され、中継基板211の図示しない小穴を貫通している。制御装置200との接続のための中継基板211に対してピン209は中継基板211の小穴部分でハンダ付けされている。
【0046】
中継基板211の下端には端子213が配設され、ハーネス215の一端が着脱自在なようになっている。
プレート150には中継室201に通じる穴150aが形成され、また、制御装置200の天井壁(筐体)のこの穴150aに対峙した部分には穴200aが形成されている。制御装置200の穴200aの上部周囲には凹部200bが形成されており、この凹部200bに対し筒状部材221の底部に形成された中空板状部221aが図示しないボルトで固定されている。筒状部材221は穴150aを貫通し、この筒状部材221の高さはプレート150の上面よりも高く形成されている。筒状部材221は筒状部に相当し、筒状部材221の水平断面形状は楕円や角形等任意である。
【0047】
ハーネス215の他端は筒状部材221と穴200aを通り制御装置200内部に延び、制御装置200内に配設された回路基板217に対して端子接続されている。
一方、ピン209の左端には図示しない制御ケーブルや電源ケーブルが接続され、空間205の内部に通されている。
【0048】
制御装置200を形成する筐体の右側部には着脱自在の蓋219が配設されている。蓋219の上端にはL字状に折曲された折曲片219aが外側に向けて突設されている。蓋219は制御装置200の筐体の右端に対しネジ止めされており、折曲片219aはプレート150の下面に対し当接されている。
【0049】
プレート150と制御装置200の間には断熱のため1mm程度の隙間220が形成されている。制御装置200の四隅に立設された図示しない六角ボルト支柱により制御装置200の底部壁とプレート150が固定されている。そして、この六角ボルト支柱の高さにより隙間220が確保されている。
【0050】
次に、本発明の実施形態の作用を説明する。
プレート150をポンプ本体100の底部に配設したことで、ポンプ本体100と制御装置200とが互いに大きさの異なる場合でもプレート150だけを変えるだけでポンプ本体100と制御装置200とが一体化可能にできる。このため、例えば一つの制御装置200を異なる容量のポンプ本体100と組み合わせ自在となる。プレート150はポンプ本体100に対しボルト締めされており取り外しが可能である。
【0051】
ここに、中継基板211の下端は筒状部材221の内部を貫通するように下方に延ばす構成とすることも可能である。しかしながら、このように下方に延ばす構成とした場合、ポンプ本体100と制御装置200の着脱作業時に、例えば、プレート150を外してテーブル上にポンプ本体100を載置しようとすると、この中継基板211の下端部分が先にテーブルに当接しポンプ本体100がテーブル上に安定しないだけでなく、場合によっては、中継基板211を損傷させる恐れもある。
そこで、中継基板211の下端はプレート150の上面若しくはポンプ本体100の底面よりも軸方向で突出しないことが望ましい。
【0052】
ベース部129の周囲は、水冷管による冷却により結露を生じている場合がある。また、保守の際には水冷管から水滴が漏れる恐れもある。漏れた水滴は隙間220に侵入する可能性が高い。特に、蓋219が外されているときには水滴が侵入する可能性はより一層高くなる。この場合水滴は凹部200bに流れる可能性があるが、中空板状部221aは凹部200bに対し、図示しないボルトにより金属面同士で密封固着されているため制御装置200内部に水滴が侵入し難い。
更に、中空板状部221aの底面と凹部200bのそれぞれの平面度を高くしておくとより密封効果が発揮される。
また、隙間220に水滴が浸入した場合に備えて、排水の効果を持たせるために、蓋219に対して直角方向に傾斜をつけたりしても良い。
【0053】
また、筒状部材221は隙間220を貫通し隙間220の厚さよりも高く形成されているので、隙間220で溢れた水滴が筒状部材221の内側から侵入することもない。更に、プレート150の上面に水滴がかかった場合であっても筒状部材221はプレート150の上面よりも高く突設されているので、筒状部材221を超えて侵入するおそれも少ない。
また、蓋219のポンプ本体100側、かつ、上端にはL字状に折曲された折曲片219aが外側に向けて突設されているので、制御装置200内部に水滴が侵入し難い。また、折曲片219aとプレート150は、図示しないボルトにより金属面同士で密封固着されているため、蓋219の上端とプレート150間からも水滴が侵入し難い。なお、この点は後述するように、プレート150を設けずにベース部129を変形させるように構成した場合であっても、折曲片219aをこのベース部129の底面に対して当接させることで同様の効果を得ることができる。
【0054】
以上により、封止材を使用せずに板金プレス等による金属加工だけの部品構成で防滴構造が安価に実現できる。そして、防滴機能を有しつつ、カバー203を外してのハーネス215の着脱作業が容易に行える。これにより、制御装置200の取り外しが簡単に行える。また、現場での保守作業においても、防滴機能を有しつつ、蓋219を開けて制御装置200内部の回路基板の交換等の作業が楽に行える。
【0055】
なお、本発明の実施形態ではプレート150をポンプ本体100とは独立した部材として説明した。しかしながら、
図3の別形態に示すように、プレート150を別部材としては設けずに、ポンプ本体100のベース部129を変形させる。そして、ベース底部151としてポンプ本体100に対し配設されてもよい。この場合、プレート150が介在する場合と同様に、制御装置200の四隅に立設された図示しない六角ボルト支柱により制御装置200の底部壁とベース底部151が固定されている。そして、この六角ボルト支柱の高さにより隙間220が確保されている。また、ベース底部151には、中継室201に通じる、ベース貫通部151aが設けられている。
但し、
図3において、
図1と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
ここに、前述と同様に中継基板211の下端はベース貫通部151aの上面よりもポンプの内側に止めることが望ましい。
【0056】
また、本発明の実施形態では筒状部材221を独立した部材として構成したが、
図4の別形態に示すように、制御装置200の天井壁から筒状部231が突設されるようにしてもよい。筒状部231の水平断面形状は楕円や角形等任意である。但し、
図4において、
図1と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
この場合、天井壁と筒状部231とは一体形成されている。
図4では
図3と同様にプレート150を設けずにポンプ本体100のベース底部151としてポンプ本体100に対し一体に形成した例を示したが、
図1、
図2と同様にポンプ本体100とは独立した部材であるプレート150を設けるように構成されてもよい。
【0057】
次に、中継室201、蓋219、カバー203の好適な配置方法について説明する。
半導体製造装置のチャンバ周囲には電源や配管等の一般的に様々な装置設備260が配置されている。この環境の中でターボ分子ポンプ10はチャンバの下部に吊設されることが多い。このような場合、例えば
図5に示すように、制御装置200の電源スイッチや電源接続用コネクタや半導体製造装置との通信用のケーブルコネクタ等が集約されたパネル(フロントパネル250)のある面以外の面は周囲が装置設備260に囲まれた状態となることがある。理由としては、フロントパネル250のある面の手前側だけは運転管理の都合上開放されていることが必要となるためである。
【0058】
このような場合において現場で回路部品を交換するには、ポンプ本体100がチャンバの下部に吊設された状態で制御装置200のみを脱着できることが望まれる。そして、このためには、蓋219やカバー203が装置設備260に邪魔されずに容易に外せる配置であることが望まれる。
図6に示すように、制御装置200は装置設備260よりフロントパネル250の配設方向である手前側に引き出すと引き出し易い。
【0059】
このときに、制御装置200のフロントパネル250の面に近い位置に中継室201、蓋219、カバー203が配設されると、作業員にとって、解放されている部分から中継室201、蓋219、カバー203へのアクセスが出来、現場での保守作業がし易い。即ち、
図6に示すように、保守作業のし易さを考慮すると、中継室201、蓋219、カバー203の配設方向L1は、ターボ分子ポンプ10のロータ軸113中心O点から見てフロントパネル250の配設方向L2となす角度αが90度以内に配設されることが望ましい。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変や実施例の組み合わせをなすことができ、そして、本発明が当該改変等されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0060】
10 ターボ分子ポンプ
100 ポンプ本体
113 ロータ軸
129 ベース部
150 プレート
151 ベース底部
200 制御装置
150a、200a 穴
201 中継室
203 カバー
205 空間
207 ハーメチックコネクタ
209 ピン
211 中継基板
213 端子
215 ハーネス
219 蓋
220 隙間
221 筒状部材
221a 中空板状部
231 筒状部
250 フロントパネル