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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】防音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230314BHJP
   E01F 8/00 20060101ALI20230314BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20230314BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G10K11/16 120
E01F8/00
G10K11/16 110
G10K11/172
E04B1/86 Q
E04B1/86 X
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019072646
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2019191576
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018083198
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【氏名又は名称】片寄 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】増田 崇
(72)【発明者】
【氏名】宮島 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮瀬 文裕
(72)【発明者】
【氏名】宇野 昌利
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-085920(JP,A)
【文献】特開2015-168960(JP,A)
【文献】特開平10-037342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/178
E01F 8/00- 8/02
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源側と受音側との間に配する防音壁に取り付けることで騒音低減効果を増加する防音構造体であって、
両端に開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 / 2の管長を有する1/2波長音響管を、受音側で開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列し、
一端のみに開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 /4の管長を有する1/4波長音響管を、開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列することを特徴とする防音構造体。
【請求項2】
1/2波長音響管の開口の中心と1/4波長音響管の開口の中心とを結ぶ線と、
前記防音壁の主面と水平面と交わる線と、が直交することを特徴とする請求項1に記載の防音構造体。
【請求項3】
1/4波長音響管は、騒音源側で開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防音構造体。
【請求項4】
1/2波長音響管と1/4波長音響管の長さが等しいことを特徴とする請求項2乃至請求項3のいずれか1項に記載の防音構造体。
【請求項5】
長さの異なる1/2波長音響管が組み合わされて用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の防音構造体。
【請求項6】
長さが共通の1/2波長音響管は、前記防音壁の主面と水平面とが交わる線と平行な線上に並ぶように配列されることを特徴とする請求項5に記載の防音構造体。
【請求項7】
前記防音壁に近い側に、より長い1/2波長音響管が配されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の防音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音壁による騒音低減効果を増加させる、複数の音響管が配列された防音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
防音壁は騒音源から発せされる騒音が周辺へ拡散することを防止する方法として、一般的に用いられる。防音壁の設置される場所及び目的としては、
・道路沿道或いは鉄道沿線:道路交通騒音、或いは鉄道騒音の低減
・建物外部または周辺に設置される設備機器の周辺:設備機器騒音の低減
・建設現場周辺:建設工事騒音の低減
などを挙げることができる。
【0003】
防音壁は高さが高いほどその騒音低減効果は大きい。しかしながら高さの高い防音壁は自身の構造を保持するため、また風等による荷重に耐える必要性から、防音壁本体とその支持構造を強固に構成する必要があり、荷重の増大と製造・設置費用の増大を招く。また、荷重の増大は、防音壁を設置する建物や高架道路等の構造に負荷をかけることになり、その対策にも費用が必要になる。防音壁を既存の建物や高架道路等に設置する場合、荷重の制限から十分な高さの防音壁を設置できない場合もある。
【0004】
防音壁の高さを増さずに騒音低減効果を増加させる方法として、一方の端部を塞ぎもう一方の端部を開放した管を、開放した端部を上方に向けて配列し防音壁の頭頂部に設置する方法が提案されている(特許文献1~3参照)。以降このような管を音響管、音響管の配列を頭頂部に設置した防音壁を音響管配列型防音壁と呼ぶ。
【0005】
上記のような片側を開放した管は、その長さが管内に入射する音波の波長の1/4及びその奇数倍に一致する周波数において管内に定在波を生じるため、以降ではこのような管を1/4波長音響管と呼ぶ。
【0006】
1/4波長音響管を頭頂部に配列した音響管配列型防音壁は、管長が波長の1/4及びその奇数倍となる周波数において通常の防音壁より大きな騒音低減効果が得られる。
【0007】
一般的に、防音壁により音源が視覚的に見えなくなる、いわゆる影の領域に位置する点においては、騒音が防音壁を回折して到達する為、防音壁頭頂部が仮想的な音源と見なせる。
【0008】
管長が波長の1/4及びその奇数倍となる周波数においては、管内に定在波が生じる結果、音響管の開放端が配列された防音壁頭頂部付近において音圧が極めて小さくなる(理論的には音圧は0になる)。
【0009】
このような音響管配列型防音壁においては、仮想的な音源付近の音圧が極めて小さくなるため、防音壁を回折して影の領域に位置する点に到達する騒音の音圧が小さくなる。このような原理で音響管配列型防音壁は、防音壁の高さを増さずに騒音低減効果を増加させることが可能となる。
【文献】特開平10-37342号公報
【文献】特開2013-53414号公報
【文献】特開2017-111216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
1/4波長音響管を用いた音響管配列型防音壁においては、防音壁の高さを増さずに騒音低減効果を増加させることを見込めるが、実施段階において以下のような課題がある。
【0011】
音響管配列型防音壁においては、一方の端部を塞ぎもう一方の端部を開放した管を、開放端を上方に向けて配列するため、開放端からゴミや雨水が管内に蓄積される。このため定期的なメンテナンスが必要となる、という課題があった。
【0012】
ゴミや雨水が管内に蓄積されることを防止するためには、管口に金網等のゴミ除けを設置したり、管底に水抜き孔を設けたりする方法が考えられるが、構成部品の増加や製造過程の複雑化を招き、高コスト化につながる、という新たな課題が発生することとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る防音構造体は、騒音源側と受音側との間に配する防音壁に取り付けることで騒音低減効果を増加する防音構造体であって、両端に開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 / 2の管長を有する1/2波長音響管を、受音側で開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列し、一端のみに開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 /4の管長を有する1/4波長音響管を、開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る防音構造体は、1/2波長音響管の開口の中心と1/4波長音響管の開口の中心とを結ぶ線と、前記防音壁の主面と水平面と交わる線と、が直交することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る防音構造体は、1/4波長音響管は、騒音源側で開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る防音構造体は、1/2波長音響管と1/4波長音響管の長さが等しいことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る防音構造体は、長さの異なる1/2波長音響管が組み合わされて用いられることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る防音構造体は、長さが共通の1/2波長音響管は、前記防音壁の主面と水平面とが交わる線と平行な線上に並ぶように配列されることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る防音構造体は、前記防音壁に近い側に、より長い1/2波長音響管が配されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る防音構造体100は、両端に開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 / 2の管長を有する1/2波長音響管を、受音側で開口が防音壁の頭頂部に並ぶように配列されており、このような本発明に係る防音構造体100によれば、ゴミや雨水が管内に蓄積されることがなく、定期的なメンテナンスが不要となると共に、構成部品の増加や製造過程の複雑化を招くこともなく、コストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る防音構造体100の概要を説明する図である。
図2】数値解析の条件を説明する図である。
図3】数値解析の結果を示す図である。
図4】(A)本発明の第2実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の主面に対する垂直面できってみた模式的縦断面図であり、(B)本発明の第2実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の模式的上面図である。
図5】数値解析の条件を説明する図である。
図6】数値解析の結果を示す図である。
図7】数値解析の条件を説明する図である。
図8】数値解析の結果を示す図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の構成例を説明する図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の他の構成例を説明する図である。
図11】本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の防音壁10への設置例を説明する図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の防音壁10への他の設置例を説明する図である。
図13】本発明の第3実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10を防音壁10の主面に対する垂直面できってみた模式的縦断面図である。
図14】数値解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る防音構造体1の概要を説明する図である。
【0024】
図1(A)は本発明の第1実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の斜視図であり、図1(B)は本発明の第1実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の主面に対する垂直面できってみた模式的縦断面図であり、図1(C)は本発明の第1実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の模式的上面図である。
【0025】
防音壁10は一般的なものを用いることができる。このような防音壁10の一方の主面は騒音源側に配され、他方の主面は受音側に配されることが想定されている。本明細書においては、前者の主面を騒音源側主面11と称し、後者の主面を受音側主面12と称する。
【0026】
本発明に係る防音構造体100は、騒音低減効果を増加する目的で、防音壁10に取り付けられる。ここで、防音構造体100には、両端に開口を有する音響管を複数用いることを特徴としている。
【0027】
このように両側を開放した音響管は、その長さが管内に入射する音波の波長の1/2及びその整数倍に一致する周波数において管内に定在波を生じるため、以降ではこのような管を1/2波長音響管20と呼ぶ。1/2波長音響管20は基本的な遮音対象の音波の波長の1 / 2の管長を有している、とも言うことができる。
【0028】
1/2波長音響管20の上側の開口を上側開口21と称し、下側の開口を下側開口22と称する。図1に示すように、本発明に係る防音構造体100においては、1/2波長音響管20が受音側主面12において上側開口21が防音壁10の頭頂部に並ぶように複数配列されている。1/2波長音響管20の配列は、防音壁10の受音側、すなわち対策対象の騒音源とは反対側に設置する必要がある。
【0029】
以下、1/2波長音響管20を防音壁10の受音側に配列することによる騒音低減効果を数値解析により検証したので説明する。解析条件は以下の通りである。この条件は、後述する実施形態にも適用された。
・ 数値解析には2次元境界要素法を用いた。
・ 防音壁本体は、高さ3.0m、厚さ0.01mとし、無限に平らな完全反射性の地面上に建てられている状況を想定した。
・ 騒音源は防音壁から3.0m離れた地面上に点音源として設定し、受音点は防音壁の背後25m難れた地面上に設定した。
・ 音響管は、1/2波長音響管、1/4波長音響管(後述)ともに、長さ0.34m、幅0.15mとした。なお、本発明における音響管の長さと幅は上記に限るものではない。
・ 音響管は、上端位置を防音壁本体の上端位置と同じ高さとし、防音壁全体の高さが変化しないように設置した。
・ 防音壁及び音響管の表面における境界条件は全て完全反射性とした。
・ 解析は1/45オクターブ毎の純音について行い、受音点において音圧レベルを求めた。得られた音圧レベルを1/3オクターブバンド中心周波数を中心とした15個ずつエネルギー平均することで、1/3オクターブバンド音圧レベルを求めた。得られた解析結果について、音響管を設置していない「基本型」を基準として、音響管を設置した各条件において1/3オクターブバンド音圧レベルの低減量を求め、音響管の騒音低減効果とした。
【0030】
図2は数値解析の条件を説明する図である。両端に開口を有する音響管(1/2波長音響管20)の管長が波長の1/2及びその整数倍となる周波数においては、音響管の管内に定在波が生じる結果、音響管の開放端が配列された防音壁頭頂部付近において音圧が極めて小さくなる(理論的には音圧は0になる)。
【0031】
特許文献1~3において1/4波長音響管が配列される場合と同様の原理により、防音壁10を回折して影の領域に位置する点に到達する騒音の音圧が小さくなる。
【0032】
1/2波長音響管20の騒音低減効果について数値解析結果を図3に示す。管長が波長の1/2となる500Hzを中心として、5dB程度の騒音低減効果が得られていることが確認できる。なお、500Hzの整数倍の周波数における1/2波長音響管の効果は明確には確認できない。この理由は、上述の通り1/2波長音響管20の幅を0.15mとしており、1kHz帯域以上の周波数では、音響管の幅が波長の1/2程度あるいはそれ以上となり、管内に定在波が生じる条件が成り立たないためである。
【0033】
図3中には、1/2波長音響管20を騒音源側に配置した場合の解析結果を併せて示す。1/2波長音響管20を騒音源側に配置した場合、ほとんどの周波数帯域において効果が負、すなわち音響管を配置することにより受音点における音圧を逆に増幅している。この解析結果から、本発明では1/2波長音響管20は受音側、すなわち、騒音源と反対側に設置する必要があるとしている。
【0034】
以上のように、本発明に係る防音構造体100は、両端に開口を有し、遮音対象の音波の波長の1 / 2の管長を有する1/2波長音響管20を、受音側で開口が防音壁10の頭頂部に並ぶように配列されており、このような本発明に係る防音構造体100によれば、ゴミや雨水が管内に蓄積されることがなく、定期的なメンテナンスが不要となると共に、構成部品の増加や製造過程の複雑化を招くこともなく、コストを抑制することが可能となる。
【0035】
次に本発明の他の実施形態について説明する。前記した原理により、第1の実施形態に係る防音構造体100は、騒音低減効果が周波数に大きく依存する、という課題がある。このような騒音低減効果の周波数依存性から、例えば道路騒音といった広帯域に成分を持つ騒音の対策として用いる場合には、複数の長さを持つ音響管を組み合わせて構成する必要がある(特許文献1~3参照)。
【0036】
しかしながらこれは、装置の大型化、構成部品の増加、製造過程の複雑化を招き、高コスト化につながる。また、装置の大型化と構成部品の増加は荷重の増加につながり、強固な支持部材が必要になることから、防音壁全体の荷重の増大と高コスト化につながる。防音壁の荷重の増大は、防音壁を設置する建物や高架道路等の構造に負荷をかけることになり、その対策にも費用が必要になる。
【0037】
そこで、本発明の他の実施形態では、同じ長さの1/2波長音響管と1/4波長音響管を並列し、防音壁頭頂部に配列した構成を採用する。
【0038】
図4は(A)本発明の第2実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の主面に対する垂直面できってみた模式的縦断面図であり、(B)本発明の第2実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10の模式的上面図である。
【0039】
図4に示すように、第2実施形態に係る防音構造体100においても、1/2波長音響管20
は、受音側主面12において上側開口21が防音壁10の頭頂部に並ぶように配列されている。
【0040】
1/4波長音響管40は上側に上側開口41を有し、下側に底板が設けられた下側閉塞端42を有しており、この1/4波長音響管40を、開口が防音壁10の頭頂部に並ぶように複数配列する。また、1/4波長音響管40は、防音壁10における騒音源側主面11側に設けられることが好ましい。
【0041】
なお、1/4波長音響管40は、防音壁10の騒音源側、受音側の何れに配置しても良いが、1/2波長音響管20と反対側の騒音源側に配置する方が、騒音低減効果は大きい。
【0042】
また、1/2波長音響管20の開口の中心と1/4波長音響管40の開口の中心とを結ぶ線と、防音壁10の主面と水平面と交わる線と、が直交するように、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40とが配置されている。すなわち、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40は、防音壁10長手方向に対して直交する方向に並列する。
【0043】
ただし、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40とを配置する際には、1/2波長音響管20の開口の中心と1/4波長音響管40の開口の中心とを結ぶ線と、防音壁10の主面と水平面と交わる線と、が直交しないように配置したとしても、十分な騒音低減効果を得ることができる。
【0044】
また、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40の長さが等しく構成することで、騒音低減効果を相互補完することが可能となると共に、後述する連結枠体60を共用することなどもできる。
【0045】
図3に示したように、1/2波長音響管20の騒音低減効果は、1/4波長音響管40と同様に周波数に大きく依存する。管長が波長の1/2及びその整数倍となる周波数においては、大きな騒音低減効果が得られるが、それより低周波数側において効果が負となる周波数が存在する。
【0046】
仮に、同じ管長L(m)の1/2波長音響管20と1/4波長音響管40を考えた場合、1/2波長音響管20は周波数2nc/(4L)Hz、1/4波長音響管40は(2n-1)×c/(4L)Hzにおいて管口付近の音圧が極めて小さくなり、大きな騒音低減効果が得られる。
【0047】
ここで、nは自然数(1,2,3,・・・)であり、cは音速(m/s)である。すなわち、大きな騒音低減効果が得られる周波数は、1/2波長音響管20は管長が波長の1/4となる周波数の偶数倍の周波数、1/4波長音響管40は管長が波長の1/4となる周波数の奇数倍の周波数であり、周波数軸上で互い違いに並ぶことになる。
【0048】
このことから、同じ管長の1/2波長音響管20と1/4波長音響管40を並列した場合、1/2波長音響管20の騒音低減効果が負となる周波数において1/4波長音響管40により大きな正の効果が得られ全体としては正の騒音低減効果が得られる。また、逆に、1/4波長音響管40の騒音低減効果が負となる周波数においては1/2波長音響管20により大きな正の効果が得られ、全体としては正の騒音低減効果が得られることになる。このように、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40が相互に補完することにより、全体としては幅広い周波数帯域で安定した騒音低減効果を得ることができる。
【0049】
この効果を数値解析結果から確認する。図5及び図6に1/2波長音響管20のみの場合、1/4波長音響管40のみの場合、両者を並列した場合の解析結果を示す。250Hz~315Hz帯域では、1/2波長音響管20の騒音低減効果は負となっているが、この帯域は1/4波長音響管40の効果が最も大きい帯域に一致する。また、630Hz帯域では1/4波長音響管40の効果が殆ど得られていないが、この帯域は1/2波長音響管20により大きな効果が得られる帯域に一致する。両者を並列した結果、騒音低減効果の周波数特性の谷を互いに補完することで、全体としては250Hz以上の帯域で5dB前後の騒音低減効果が安定して得られている。
【0050】
このように、第2実施形態に係る防音構造体100においては、同じ管長の1/2波長音響管20と1/4波長音響管40を並列することで、長さの異なる1/4波長音響管を組み合わせた従来技術より単純な構造で、幅広い帯域の成分を持つ広帯域騒音に対して有効な対策が行える。
【0051】
第1実施形態に係る防音構造体100の説明でも述べたように、1/2波長音響管20は受音側に配置する必要がある。1/4波長音響管40の有効な配置位置を明らかにするために、図7及び図8に1/2波長音響管20を受音側に1/4波長音響管40を騒音源側に配置した場合、及び1/2波長音響管20と1/4波長音響管40を共に受音側に配置した場合の数値解析結果を示す。1/4波長音響管40については、騒音源側、受音側の何れに配置した場合においても騒音低減効果は得られるが、1/4波長音響管40を騒音源側に配置した方が全体として良好な騒音低減効果が得られることが確認できる。
【0052】
次に、上記のような同じ管長の1/2波長音響管20と1/4波長音響管40とからなる防音構造体100の実際の構成例を説明する。図9は本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の構成例を説明する図であり、図9(A)は分解斜視図であり、図9(B)は防音構造体100自体の斜視図である。
【0053】
図9に示す実施形態では、1/2波長音響管20を5本ユニット化した連結枠体60を2つ準備した。連結枠体60でユニット化する1/2波長音響管20の本数は、本実施形態では5本としたが、本数はこれに限定されるものではなく、製作・設置において取り扱いやすい連結枠体60の幅と音響管の幅から決定すればよい。
【0054】
2つの連結枠体60はスペーサー70を挟んで一体化すると共に、そのうち1つの連結枠体60については下面を底板65で塞ぐことで、5本の1/4波長音響管40となす。これにより、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40を並列した第2実施形態に係る防音構造体100となる。
【0055】
スペーサー70の幅はユニットを設置する防音壁10本体の幅に合わせて設定する。例えば、建設工事用万能鋼板を用いた防音壁に設置する場合、スペーサー70の幅を1cm程度とすると良い。また、道路騒音や鉄道騒音に用いられる所謂統一型防音壁に取り付ける場合、スペーサー70幅を10cm程度とすると良い。
【0056】
図9の例では、スペーサー70は長手方向にユニットと同じ長さを持つ部材としたが、1/2波長音響管20と1/4波長音響管40の間隔を保持できるのであれば、図10に示すようにスペーサー70を分割しても良い。
【0057】
上記のように構成した防音構造体100の設置例を図11により説明する。図11は本発明の第2実施形態に係る防音構造体100の防音壁10への設置例を説明する図である。図11(A)は防音構造体100の防音壁10への設置前の状態を示す図である。図11(A)に示すように、防音構造体100は、防音壁10に上から被せるようにして取り付ける。図11(B)は防音構造体100の防音壁10への設置後の状態を示す図である。
【0058】
ここで、防音構造体100及び防音壁10においては、互いに着脱自在に係合可能な面ファスナー91、92が設けることが好ましい。防音構造体100が取り付けられる防音壁10には、面ファスナー91を設ける。本実施形態では、防音壁10の騒音源側主面11及び受音側主面12に面ファスナー91を設けている。
【0059】
一方、防音構造体100側にも、この面ファスナー91に対応する位置に、面ファスナー92を設けておく。このような面ファスナー91、92としては、「マジックテープ」(株式会社クラレの登録商標)を用いることができる。なお、面ファスナーに代えて、ボタンや、スライドファスナーなどの他の着脱手段を用いるようにすることもできる。
【0060】
図11に示す本実施形態では、防音壁10の騒音源側主面11及び受音側主面12に面ファスナー91を設け、これに対応する位置に、面ファスナー92を防音構造体100側にも設けるようにした。しかしながら、面ファスナーを設ける位置はこれに限定されるものではない。例えば、図12に示すように、面ファスナー91を防音壁10の頭頂部に設け、面ファスナー92を防音構造体100のスペーサー70に設けるようにしてもよい。
【0061】
上記のような面ファスナー91を用いることで、防音構造体100の設置、及び取り外しが簡便で容易となる。
【0062】
なお、以上の実施形態では、矩形断面を持つ音響管について述べてきたが、音響管の断面形状はこれに限定されるものではない。本発明に係る防音構造体100には、円形断面、三角形断面、その他多角形断面を持つ音響管を用いても良い。
【0063】
以上、本発明に係る防音構造体100によれば、防音壁10の高さを増さずに騒音低減効果を増加させることができる。
【0064】
また、本発明に係る防音構造体100によれば、防音壁本体とその支持構造を含めた荷重及び製作・設置費用の低減につなげることができる。また、本発明に係る防音構造体100によれば、防音壁を設置する建物や高架道路等の構造への荷重の負荷を低減することができ、その対策に必要な費用を低減できる。
【0065】
また、本発明に係る防音構造体100によれば、荷重や費用の制限から十分な高さの防音壁を設置できない場合においても騒音低減効果を増加させることができる。
【0066】
また、本発明に係る防音構造体100によれば、既設防音壁の騒音低減効果が十分でない場合において、防音壁本体や支持構造に大幅な変更を加えることなく、騒音低減効果を増加させることができる。
【0067】
また、本発明の第1実施形態係る防音構造体100によれば、音響管の両側が開放されている為、ゴミや雨水が管内に蓄積することがなく、メンテナンス不要である。また、ゴミ除けや水抜き孔を設ける必要が無く、一方の端部を塞ぐことも不要であるため、構造が単純で、低コストで製造可能である。
【0068】
また、本発明の第2実施形態係る防音構造体100によれば、同じ長さの音響管を並列して配列し、そのうち一方の音響管の片側の開口を塞ぐだけで実現可能であり、従来技術と比較して構造が単純で、軽量かつ低コストで製造可能である。
【0069】
また、本発明の第2実施形態係る防音構造体100によれば、単純な構造で幅広い周波数帯域で安定した騒音低減効果が得られるため、広帯域騒音に対して簡便な対策が可能である。
【0070】
また、本発明の第2実施形態に係る防音構造体100によれば、スペーサー、面ファスナーを用いることで、防音壁本体への設置・取外しが容易かつ確実な固定が可能である。
【0071】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
【0072】
特に、建物屋上や設備ヤードに設置される空調設備或いは電気設備機器等からは、ある特定の周波数成分が卓越した騒音が発生し、騒音問題となる場合がある。
【0073】
例えば、発明者らによる非特許文献1(宮島、石塚、中川「1/4波長音響管による純音性設備騒音の低減効果実験と適用事例」(社)日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集、平成22年4月、pp.53-56)の図1及び図6に示した2つの事例で測定した結果では、50Hz付近及びその倍音成分である100Hz付近の成分が卓越した騒音が発生している。
【0074】
建物屋上や設備ヤードにおける騒音対策として防音壁は一般に用いられるが、非特許文献1に示した事例では、主に2つの周波数において騒音の成分が卓越しているため、管長がそれぞれの周波数における波長の1/4に一致する2種類の1/4波長音響管(一方の端部を塞いだ音響管)を頭頂部に取り付けた防音壁を設置し検証を行った。
【0075】
但し、これまで説明したとおり、1/4波長音響管を用いた方法には、片方の端部を塞ぐため、底板が必要であり、加工・製作に費用と工数がかかる点、及び、開放端を上方に向けて配列する為、開放端からゴミや雨水が管内に蓄積され、このため定期的なメンテナンスが必要となる点、などの課題が生じる。
【0076】
ゴミや雨水が管内に蓄積されることを防止する為には、管口に金網等のゴミ除けを設置したり、管底に水抜き孔を設ける方法が考えられるが、構成部品の増加や製造過程の複雑化を招き、高コスト化につながる。
【0077】
そこで、本発明の第3実施形態に係る防音構造体100においては、対策対象となる騒音が複数の特定の周波数で卓越した成分を持つ場合に対応するために、長さの異なる1/2波長音響管20を組み合わせて防音壁10の頭頂部に設置するようにしている。この場合、長さの異なる1/2波長音響管20の管長は、それぞれの卓越周波数における波長の1/2に一致するようにしている。
【0078】
また、第3実施形態に係る防音構造体100においては、長さが共通の1/2波長音響管20は、前記防音壁10の主面(騒音源側主面11、受音側主面12)と水平面とが交わる線と平行な線上に並ぶように配列される。さらに、第3実施形態では、前記防音壁10に近い側に、より長い1/2波長音響管20が配されている。図13は本発明の第3実施形態に係る防音構造体100が取り付けられた防音壁10を防音壁10の主面に対する垂直面できってみた模式的縦断面図である。
【0079】
図13においては、より長い1/2波長音響管20を「音響管1」と略称し、1/2波長音響管20’を「音響管2」と略称している。長さが共通の複数の音響管1は、紙面に対して垂直な方向に並ぶように配列されている。同様に、長さが共通の複数の音響管2も、紙面に対して垂直な方向に並ぶように配列されている。
【0080】
また、図13に示すように、音響管1が、防音壁10本体に近い側に配され、音響管2が防音壁10本体から遠い側に配される。図13に示すように、音響管1の開口の中心と音響管2の開口の中心とを結ぶ線は、前記防音壁10の主面(騒音源側主面11、受音側主面12)と水平面とが交わる線と直交するように、各音響管が配されている。
【0081】
なお、第3実施形態に係る防音構造体100においても、1/2波長音響管20には、円形断面、三角形断面、その他多角形断面を持つ音響管を用いても良い。また、図13には長さの異なる2種類の音響管(音響管1、音響管2)を用いる例について説明を行ったが、本実施形態では長さの異なる3種類以上の1/2波長音響管を用いるようにしてもよい。また、第3実施形態に係る防音構造体100は、これまで説明した実施形態と組み合わせて新たな実施形態とすることができる。
【0082】
第3実施形態に係る防音構造体100について、数値解析により予測した騒音低減効果を以下に述べる。
【0083】
数値解析における計算条件を以下に示す。なお、防音壁10と1/2波長音響管20の寸法以外の設定は前記したものと同様である。
・防音壁10の本体は、高さ5.0m、厚さ0.01mとし、無限に平らな完全反射性の地面上に建てられている状況を想定した。
・騒音源は防音壁10から3.0m離れた地面上に点音源として設定し、受音点は防音壁の背後25m離れた地面上に設定した。
図13に示された防音壁を計算対象としており、異なる長さを持つ2つの1/2波長音響管20、20’を用いている。1/2波長音響管の長さは、それぞれ50Hz及び100Hzにおける波長の1/2に相当する、3.4m(音響管1)及び1.7m(音響管2)とした。1/2波長音響管20の幅はいずれも0.5mとした。
・1/2波長音響管20、20’は、上端位置を防音壁10本体の上端位置と同じ高さとし、防音壁10全体の高さが変化しないように設置した。
・防音壁10及び1/2波長音響管20の表面における境界条件は全て完全反射性とした。
・解析は1/45オクターブ毎の純音について行い、受音点において音圧レベルを求めた。得られた音圧レベルを1/3オクターブバンド中心周波数を中心とした15個ずつエネルギー平均することで、1/3オクターブバンド音圧レベルを求めた。得られた解析結果について、1/2波長音響管20を設置していない防音壁本体のみの「基本型」を基準として、1/2波長音響管20、20’を設置した条件において1/3オクターブバンド音圧レベルの低減量を求め、1/2波長音響管20、20’の騒音低減効果とした。
【0084】
数値解析における計算結果を図14に示す。
【0085】
それぞれ管長が波長の1/2と一致する50Hz及び100Hzにおいて1/2波長音響管20、20’の効果が得られていることが確認できる。
【0086】
なお、先の実施形態に記載の通り、長さ3.4mの1/2波長音響管20は、理論的には50Hz及びその整数倍の周波数で効果が得られると考えられる。
【0087】
但し、最も大きな効果が期待できるのは、1次共鳴周波数である管長が波長の1/2に一致する周波数である。
【0088】
このため、図14では、100Hzにおいても大きな効果を得るために、100Hzの1/2波長に相当する長さ1.7mの音響管2を組み合わせた第3実施形態に係る解析例を示している。
【0089】
本発明に係る防音構造体100における対策対象とする騒音の卓越周波数、音響管の長さと幅は上記に限るものではない。また、組み合わせる音響管の数も2種類とは限らない。
【0090】
以上のような本発明の第3実施形態に係る防音構造体100によれば、複数の周波数が卓越した騒音を効率よく低減することができる。
【0091】
また、第3実施形態に係る防音構造体100によれば、一方の端部を塞がれた1/4波長音響管を用いる場合と比較して、底板が不要であり、ゴミ除けや水抜き孔を設ける必要が無い。第3実施形態に係る防音構造体100は、構造が単純で、低コストかつ少ない工数で製作・設置が可能である。また、第3実施形態に係る防音構造体100によれば、ゴミや雨水が管内に蓄積することがなく、メンテナンス不要となる。
【符号の説明】
【0092】
10・・・防音壁
11・・・騒音源側主面
12・・・受音側主面
20・・・1/2波長音響管
21・・・上側開口
22・・・下側開口
40・・・1/4波長音響管
41・・・上側開口
42・・・下側閉塞端
60・・・連結枠体
65・・・底板
70・・・スペーサー
91・・・面ファスナー(防音壁側)
92・・・面ファスナー(連結枠体側)
100・・・防音構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14