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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】防汚性床材
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/16 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
E04F15/16 C
E04F15/16 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019086926
(22)【出願日】2019-04-27
(65)【公開番号】P2020183627
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔也
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316578(JP,A)
【文献】特開2006-125154(JP,A)
【文献】特開2006-225890(JP,A)
【文献】特開平07-018829(JP,A)
【文献】特開2004-251095(JP,A)
【文献】特開2018-035555(JP,A)
【文献】特開2017-071961(JP,A)
【文献】特開2016-069799(JP,A)
【文献】特開2018-003521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/16
E04F 15/00
E04F 15/10
B32B 27/16
A47K 3/02
E03C 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を主材料とする床材であって、
(1)床材表面が、略平坦な基底領域と、前記基底領域から上方へ突出する山部とからなり、
(2)基底領域は、表面に可塑剤を含む合成樹脂により形成される凹凸を有し、凹部の底と凸部の頂点との高低差が40μm以下であり、
(3)山部は、山部の頂点から基底領域の凹部の底までの高さが50μm以上であり、
(4)床材表面を平面視した場合の山部は互いに独立した島状に存在し、かつ、基底領域が実質的にすべて連通している、
ことを特徴とする防汚性床材。
【請求項2】
互いに隣接する山部の間における基底領域の幅が0.5mm以上15mm以下である、請求項1に記載の防汚性床材。
【請求項3】
トイレ又は洗面所の床材として用いる、請求項1又は2に記載の防汚性床材。
【請求項4】
山部の存在密度が20~90個/cm である、請求項1~3のいずれかに記載の防汚性床材。
【請求項5】
合成樹脂が塩化ビニル樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の防汚性床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な防汚性床材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、商業施設等で採用されている床材は、通行者の転倒等を防止するために滑りにくくなるような加工が施されている。特に、トイレ、外階段、外廊下等のように、水道水、雨等の水で濡れるような床面では、より高い防滑性が要求される。
【0003】
このような防滑性を発揮できる床材としては、種々の床材が開発されている。例えば、ポリオレフィン系シートからなる原反シート上に、ウレタンインキによる木目印刷と、該木目印刷上にポリオレフィン系樹脂からなる深さ5μm~150μ、間隔5μm~5mmの大柄な凹凸からなる木目導管エンボスと該木目導管エンボス面に多数の微細な凸部と、紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂からなる層厚1~7μmの表面保護層とを備え、前記凸部の高さhが10~100μmであり、凸部の任意の側端から対向する側端までの凸部の幅wが15~300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50~1000μmであり、凸部の点密度が1~300点/mm2であることを特徴とする防滑性化粧シートが知られている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、紫外線硬化型樹脂層と、樹脂フィルム層と、基材層とが、この順に接着一体化されてなり、前記紫外線硬化型樹脂層側からエンボス加工を施し、凹凸形状が付与されていることを特徴とする水回り用床材が提案されている(特許文献2)。
【0005】
その他にも、例えば表面層2、中間層3、及び下層4から構成され、表面にエンボスを設けたシートにおいて、表面層2は耐候性能が3級以上の熱可塑性樹脂層、または該表面層2と耐候性能が3級以上の模様を付与した中間層3を有し、かつ表面に0.1mm以上、2mm以下のエンボスを設けたことを特徴とする屋外用シートが提案されている(特許文献3)。
【0006】
このように、従来技術では表面に所定の凹凸を形成することによって、所望の防滑性を付与するものである。この場合、防滑性をより高めるために例えばエンボスを深くすると、その凹部に汚れが溜まりやすくなり、防汚性が低下する。このようなことから、防滑性と防汚性のバランスを考慮して、凹凸の大きさ等が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-186215号公報
【文献】特開2016-89472号公報
【文献】特開2000-129855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの床面の汚れは、土砂、ほこり、塵等による床面の一般的な汚れとは別に、例えばトイレ、洗面所等の床面においては、水回りの環境下に特有の汚れがある。より具体的には、土砂と水とが合わさって泥水となり、それが床面の凹部に入り込み、図14に示すようなシミ状の黒い斑点汚れ(「ゴマ塩汚れ」ともいう。)が発生する。
【0009】
このような汚れを取り除く方法としては、湿式清掃と乾式清掃の2通りの方法がある。湿式清掃は、床面に排水口が設けられていることを前提として、水を床面に流しながらデッキブラシ、洗剤等を用いて汚れを擦り落とす清掃である。乾式清掃は、水を床面に流すことなく、乾燥した又は湿り気のあるモップ、雑巾等で汚れを拭き取る清掃である。
【0010】
しかしながら、近年では、衛生上の見地より乾式清掃にしか対応できないトイレ、洗面所等が増加する傾向にあり、これらの設備では排水口がないために水を床面に流す湿式清掃を実施できない。このため、湿式清掃が実施できない床面では、ゴマ塩汚れが発生しても、乾式清掃しか実施できないがゆえにゴマ塩汚れが残存したままとなる問題が起こる。このため、ゴマ塩汚れが発生しにくい床材、あるいはゴマ塩汚れが発生しても乾式清掃でも比較的容易に取り除ける床材が要望されているものの、そのような床材は未だ開発されるに至っていないのが現状である。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、良好な防滑性及び土砂等による一般的汚れに対する防汚性とともに、ゴマ塩汚れに対する防汚性又は清掃容易性を発揮できる床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の表面形状を有する床材を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の防汚性床材に係る。
1. 合成樹脂を主材料とする床材であって、
(1)床材表面が、略平坦な基底領域と、前記基底領域から上方へ突出する山部とからなり、
(2)基底領域は、表面に凹凸を有し、凹部の底と凸部の頂点との高低差が40μm以下であり、
(3)山部は、山部の頂点から基底領域の凹部の底までの高さが50μm以上であり、
(4)床材表面を平面視した場合の山部は互いに独立した島状に存在し、かつ、基底領域が実質的にすべて連通している、
ことを特徴とする防汚性床材。
2. 互いに隣接する山部の間における基底領域の幅が1.3mm以上15mm以下である、前記項1に記載の防汚性床材。
3. トイレ又は洗面所の床材として用いる、前記項1又は2に記載の防汚性床材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な防滑性及び土砂等による一般的汚れに対する防汚性とともに、ゴマ塩汚れに対する防汚性を発揮できる床材を提供することができる。特に、本発明の床材では、山部を有するとともに、その周囲に特定の基底領域が連続的に形成されている構造を採用していることから、汚れが付着しても比較的容易に排除できる。このため、従来は湿式清掃でしか除去できなかった汚れ(特にゴマ塩汚れ)であっても、モップ、雑巾等の既存又は市販の清掃具(特に乾式清掃具)による乾式清掃によって比較的容易に取り除くことができる。すなわち、比較的大量の水を床面に流さなくても、乾燥した又は湿ったモップ、雑巾等による乾式清掃で比較的容易にゴマ塩汚れも拭き取ることが可能となる。
【0015】
このような特徴をもつ床材は、水で濡れる環境下にありながら湿式清掃の実施が困難な施設の床材として好適に用いることができる。とりわけ、本発明の床材は、泥水で汚れる環境下にあるトイレ、洗面所等の床材として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の床材の表面形状を示す模式図である。
図2】本発明床材を平面視した場合の模式図である。
図3】本発明床材を平面視した場合の模式図である。
図4表面粗さ測定機から出力された断面曲線において、基底領域の凹凸の高低差(又は山部の高さ)の概念を示す模式図である。
図5表面粗さ測定機から出力された断面曲線において、基底領域の幅の概念を示す模式図である。
図6実施例1で作製した床材の層構成を示す図である。
図7】実施例1で用いたエンボスロールをシリコン樹脂にて型取りして得られた表面性状を示す図である。
図8】実施例1の表面を3次元計測走査電子顕微鏡(3D-SEM)で観察した結果(イメージ)である。
図9】実施例1の床材表面を表面粗さ測定機で測定することによって得られた断面曲線の一部を示す図である。
図10】比較例1の床材表面を表面粗さ測定機で測定することによって得られた断面曲線の一部を示す図である。
図11】比較例2の床材表面を表面粗さ測定機で測定することによって得られた断面曲線の一部を示す図である。
図12】比較例3の床材表面を表面粗さ測定機で測定することによって得られた断面曲線の一部を示す図である。
図13】比較例4の床材表面を表面粗さ測定機で測定することによって得られた断面曲線の一部を示す図である。
図14】従来の一般的な床材にゴマ塩汚れが付与された床面の外観を示す。黒い斑点部分がゴマ塩汚れである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.防汚性床材
本発明の防汚性床材(本発明床材)は、合成樹脂を主材料とする床材であって、
(1)床材表面が、略平坦な基底領域と、前記基底領域から上方へ突出する山部からなり、
(2)基底領域は、表面に凹凸を有し、凹部の底と凸部の頂点との高低差が40μm以下であり、
(3)山部は、山部の頂点から基底領域の凹部の底までの高さが50μm以上であり、
(4)床材表面を平面視した場合の山部は互いに独立した島状に存在し、かつ、基底領域が実質的にすべて連通している、
ことを特徴とする。
【0018】
A.本発明床材の表面構造
本発明床材の概要を図示しながら説明する。図1には、本発明床材の表面付近の断面構造(イメージ図)を示す。図1に示すように、本発明床材の表面は、基底領域11と山部12から構成されている。基底領域11は、略平坦な表面(すなわち、山部12の頂上よりも低い範囲内での凹凸表面)を有しており、いわゆる梨地表面となっている。山部12は、基底領域から上方へ突出するような状態で存在している。このように、床材表面は、梨地表面をもつ平野部に山部が点在しているかのような形態を有している。
【0019】
また、図2には、図1のA方向からみた広域の床材表面の模式図を示す。図2に示すように、複数の山部12は互いに独立した島状に点在しており、基底領域は実質的にすべて連通している。
【0020】
ここで、上記「互いに独立した島状」とは、各山部の間に基底領域が形成され、複数の山部が互いに接触して基底領域を完全に包囲しないことをいう。但し、本発明の効果を妨げない範囲内で一部の山部が接触して連なっていても良い。
【0021】
また、上記「実質的にすべて連通している」とは、床材表面において基底領域が全体的に1つにつながった構成をとり、かつ、本発明の効果を妨げない範囲内で孤立した基底領域が多少含まれていても良いことを意味する。例えば、図3に示すように、孤立した基底領域(山部に周囲を完全に囲まれた領域)21は、本発明の効果を妨げない範囲内で許容されるが、汚れを円滑に排出させるという見地からは前記領域21は床材表面上に存在しないことがより好ましい。このように、本発明床材では、基底領域を実質的にすべて連通させるような構成を採用することによって、たとえ汚れが床材表面に付着しても、自然に又は清掃時に容易に排出されるので、床面を比較的清浄な状態で維持することができる。
【0022】
図2に示すような全体形状自体、特に前記「互いに独立した島状」、前記「実質的にすべて連通している」という点は、例えば3次元計測走査電子顕微鏡(3D-SEM)等の公知又は市販の分析装置で確認することができる。
【0023】
また、山部12は、床面表面の平面視において、不規則に形成されていることが望ましい。規則性がない又は低いことによって、面方向のあらゆる方向に、均等に防滑性を発揮することができる。
【0024】
基底領域について
基底領域は、上記のように梨地表面となる程度の凹凸を有している。より具体的には高低差の上限値は40μm以下の範囲であり、好ましくは30μm以下の範囲である。また、下限値は、限定的ではないが、通常は1μm以上、好ましくは5μm以上である。基底領域内の凹凸度合いを上記のような範囲内に設定することによって、より優れた防汚性及び意匠性を得ることができる。詳細には、上記範囲内の凹凸が形成されることによって、土砂な等の汚れ原因物質が点接触し、汚れ物質が付着し難くなり、また付着したとしてもその除去が乾式清掃でも容易になる。また、凹凸による梨地表面によって、光が乱反射するので、鏡面のような光沢がなくなり、汚れの付着が視認し難くなるという効果も得られる。
【0025】
本発明において、基底領域の凹凸の高低差は、表面粗さ測定機から出力された断面曲線において、凹凸の凸部を任意に選定し、その凸部の両側の谷のうち低い方の谷の谷底と凸部の頂点との差をさす。図4には断面曲線の一部を模式的に示す。図4に示すように、凸部の頂点Tとその両側の谷V1,V2がある場合、V2の方がV1よりも低い谷になるので、その場合は高低差hとなる。本発明では、上記高低差は、高低差40μm以下となる凸部の10点(好ましくは100点)の各高低差の平均値として表わすこともできる。
【0026】
なお、表面粗さ測定機としては、市販品を使用することもできる。その市販品の一例としては、品番「SURFCOM 130A-モノクロ」(株式会社東京精密ACCRETECH、測定子:DM43822)が挙げられる。以下の各物性の測定においても、同様にこのような市販品を用いることができる。
【0027】
互いに隣接する山部の間における基底領域の幅は、特に限定されないが、例えば0.5mm以上15mm以下とすることが好ましく、特に1mm以上10mm以下とすることがより好ましい。これによって、防滑性を維持しつつ、ゴマ塩汚れの滞留又は固着を抑制ないしは防止することができる。
【0028】
本発明において、互いに隣接する山部の間における基底領域の幅は、以下の手順によって測定することができる。第1工程として、図2に示すように、床材表面の平面視において、任意の山部12を選択し、その山部から最短距離にある3つの山部12a,12b,12cを選定し、これら全てをマーキングする。第2工程として、山部12及び山部12aの両者の頂点を跨ぐ直線Laの凹凸を表面粗さ測定機で測定し、その断面曲線を出力する。第3工程として、図5に示すように、得られた断面曲線から山部12における山部12a側の谷Vと、山部12aにおける山部12側の谷Vaとの距離Waを測定する。これが基底領域の幅となる。基底領域の幅は、0.5mm以上15mm以下の基底領域の幅の平均値として便宜的に表すこともできる。その場合は、前記の第3工程に引き続き、第4工程として、山部12と山部12bとの関係においても、同様にして第1工程~第3工程の一連の工程を実施して距離Wbを求める。第5工程として、山部12と山部12cとの関係においても、同様にして第1工程~第3工程の一連の工程を実施して距離Wcを求める。第6工程として、第3工程~第5工程で得られた距離Wa,Wb,Wcの平均値を求める。このようにして得られた3つの数値の平均値を本発明における基底領域の幅とすることができる。さらには、本発明における基底領域の幅は、Wa,Wb,Wcからなる組み合わせの30組(計測する幅のサンプリング数は合計90)の平均値とすることもできる。
【0029】
基底領域の凹凸の断面形状は、特に限定されず、例えば急勾配をもつ形状でも良いし、なだらかな形状であっても良い。特に、本発明では、基底領域の凹凸の平面視での形状及び断面形状は、いずれも尖った角部を有しないことが好ましい。これにより、床材表面に付着した汚れがより確実に排出されやすくなる。
【0030】
また、床材表面の平面視において、基底領域の凹凸は、不規則に配置されていることが好ましい。このようにランダムに配置されることで、清掃時にモップ等の清掃道具がどの方向から接触しても、均一に汚れを除去することができる。
【0031】
山部について
山部は、基底領域の凹凸の凸部よりも高く、山部の頂点から基底領域の凹部の底までの高さは通常50μm以上である。より具体的には、前記の高さの下限値は、通常50μm以上であり、好ましくは60μm以上であり、より好ましくは70μm以上である。前記の高さの上限値は、通常200μm以下であり、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは130μm以下である。この下限値以上であれば所望の防滑性を発揮でき、上限値以下であれば所望の防汚性を発揮することができる。
【0032】
なお、山部の高さは、山部の最も高い頂点から基底領域の凹部の底までの寸法である。具体的には、隣接する2つ山部の間の基底領域において、任意に、基底領域の凹凸の凹部を選択し、山部の頂点との寸法を測定する。より具体的な計測方法としては、前記の基底領域の凹凸の高低差の計測方法と同様にすれば良い。すなわち、図4の断面曲線の頂点Tが山部の頂点であると想定した場合、山部の頂点Tとその両側の谷V1,V2のうちより低い谷V2との高低差hを山部の高さとする。本発明では、高さ50μm以上となる山部を10点(好ましくは50点)測定し、その平均値を便宜的に山部の高さとすることもできる。
【0033】
山部の平面視での形状も、特に限定されず、例えば略円形、略矩形、不定形状等のいずれであっても良い。山部の断面形状も、特に限定されず、急勾配をもつ形状でも良いし、なだらかな形状であっても良い。この場合、山部の裾幅は、通常0.5mm~2.0mm程度とし、特に0.7mm~1.5mmとすることができるが、これに限定されない。山部の裾幅は、例えば図4に示すように、山部の両側のV1の底の地点とV2の底の地点との水平距離で特定することができる。これも山部の高さと同様に平均値で表わすこともできる。
【0034】
特に、本発明では、山部の平面視での形状及び断面形状は、いずれも尖った角部を有しないことが好ましい。これにより、床材表面に付着した汚れより確実に排出されやすくなる。また、平面視において、各山部は、不規則に配置されていることが好ましい。このようにランダムに配置されることで、清掃時にモップ等の清掃道具がどの方向から接触しても、均一に汚れを除去することができる。このような形状は、例えば表面粗さ測定機器による断面曲線等に基づいて確認することができる。
【0035】
本発明床材における山部の存在密度は、限定的ではないが、防滑性及び防汚性という見地より一般的には20~90個/cm程度とすることが好ましく、特に30~70個/cm程度とすることがより好ましい。上記範囲内に調整することでより優れた防滑性及び防汚性を確保することができる。なお、上記の存在密度は、表面粗さ測定機器で各山部の高さを確認しつつ、床材表面の平面視において任意に1cm×1cmの視野を3ヶ所選び、目視、光学顕微鏡、ルーペ等で各視野中に観察される山部の個数の平均値とする。
【0036】
また、図2に示すように、床材表面は基底領域と山部で占められることになるが、床材表面の平面視における両者の割合も、所望の防滑性等に応じて適宜設定することができる。例えば、床材表面を100%として面積比(%)で基底領域:山部=50:50~90:10の範囲内、さらには基底領域:山部=60:40~90:10の範囲内とすることができるが、これに限定されない。これらの割合は、例えば本発明床材の製造時に用いるエンボスロールの表面形状・模様を適宜変更することにより制御することができる。
【0037】
本発明床材の全厚は、限定的ではないが、通常は0.5mm~10mm程度とすれば良く、特に1mm~5mmとすることが好ましい。
【0038】
B.本発明床材の層構成
本発明床材の層構成自体は、合成樹脂を主材料とするものであれば良く、例えば樹脂含有基材層を含むものを挙げることができる。樹脂含有基材層は、単層で本発明床材として用いる場合のほか、他の層と積層してなる積層体として用いることもできる。積層体としての層構成自体は、公知又は市販の床材と同様の層構成を採用することもできる。例えば、下層から順に樹脂含有基材層、意匠層及びクリア層を含む積層体を採用することができる。この積層体においては、他の層(接着剤層、表面保護層等)が必要に応じて含まれていても良い。
【0039】
樹脂含有基材層としては、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂等の少なくとも1種の合成樹脂を含む層が挙げられる。特に、高い硬度が得られるという点で、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の少なくとも1種を好適に用いることができる。これらの合成樹脂を主材料として含む樹脂組成物によって樹脂含有基材層を形成することができる。この場合、上記樹脂組成物中には、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分が含まれていても良い。例えば、可塑剤、充填剤、安定剤、加工助剤、防黴剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。本発明において「主材料として含む」とは、組成物全体を100重量%とした場合、当該成分の含有量が50重量%を超えること、好ましくは70重量%以上であること、より好ましは80重量%以上であることを意味する。
【0040】
また、樹脂含有基材層は、単層であっても良いし、樹脂含有基材層の2層以上が積層してなる複層から構成されていても良い。単層としては、表面から裏面まで単一の樹脂層からなるものがある。複層としては、例えば塩化ビニル樹脂のチップを混合し、加熱・加圧して一体化させた単層シート等が挙げられる。また、後記のような上層、補強層及び下層を順に積層させた複層からなる樹脂含有基材層であっても良いし、異なる組成の樹脂層を複数積層してなる樹脂含有基材層でも良い。なお、複層である場合、各層の組成は、互いに同じてあっても良いし、互いに異なっていても良い。
【0041】
樹脂含有基材層中には、必要に応じて補強層として繊維質シートが含まれていても良い。このような繊維質シートとしては、a)有機繊維又は無機繊維の織物シート又は不織布シート(以下「繊維シート」ともいう。)及びb)前記繊維シートと前記の軟質樹脂含有層の樹脂成分とを含む複合材料の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0042】
前記a)の繊維シートとしては、高分子有機化合物による合成繊維のほか、天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の織物又は不織布が挙げられる。また、不織布は、例えばスパンボンド、フェルト等もすべて包含する。前記b)の複合材料としては、前記b)の繊維シートに合成樹脂を含浸させた材料が挙げられる。また、前記a)の発泡材のシート状体と、前記b)の繊維シートとを積層させた材料等も使用することができる。これらは、市販品を使用することもできる。従って、例えば市販のガラスマット等も補強層として好適に用いることができる。
【0043】
補強層の厚みは、補強層を構成する材料の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.2~1mm程度の範囲内とすれば良い。
【0044】
補強層の形成方法は、予め成形した補強層用シートを所定の箇所に積層すれば良い。積層に際しては、接着層による接着によって実施しても良く、あるいは樹脂成分としてヒートシール性を有する樹脂成分を含む補強層用シートを他の層にヒートシール(熱融着)することによって接合することもできる。
【0045】
樹脂含有基材層の厚みは、限定的ではないが、通常は0.5mm~2mm程度とすれば良く、特に0.7mm~1.5mmとすることが好ましい。この厚みは、樹脂含有基材層が補強層を含む場合は、補強層の厚みも含めた値である。
【0046】
樹脂含有基材層の形成方法は、特に限定的でなく、例えばa)予め成形されたシートを使用する方法、b)補強層となる繊維シートに樹脂成分が溶解又は分散してなる塗工液(ペースト)を塗布する方法等のいずれも採用することができる。
【0047】
意匠層は、例えば絵柄、図柄、模様、文字等の所定の意匠を表現し、本発明床材に意匠性を与える機能を有するものである。
【0048】
意匠層は、その上層又は下層と接合が容易な熱可塑性樹脂を含む組成物により形成するのが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、酢酸ビニル、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の各種エラストマー、ゴム等の少なくとも1種が挙げられる。特に、塩化ビニル樹脂を主材料として含む組成物により意匠層が形成されることが好ましい。これにより、優れた可撓性を示し、多様な意匠を着色剤の混入又は印刷によって容易に形成できるため、意匠層を安価かつ容易に形成することができる。
【0049】
意匠層を形成する組成物には、各種添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤等の少なくとも1種が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0050】
意匠層の厚みは、特に限定されないが、通常30μm~2.00mm程度であり、特に50μm~1.50mmであることが好ましく、その中でも70μm~1.00mmとすることがより好ましい。
【0051】
意匠層の形成方法は、特に限定されない。例えば、a)熱可塑性樹脂のシートの上面に公知の印刷方法で直接模様を印刷することにより形成する方法、b)熱可塑性樹脂のシートの上面に、印刷の施された模様フィルムを積層して形成する方法、c)熱可塑性樹脂のチップを圧延して絵柄を形成する方法、d)着色剤を含有する熱可塑性樹脂により形成する方法、e)異なる色の着色剤を含有する熱可塑性樹脂を複数用意して練り込むことにより形成する方法等が挙げられる。
【0052】
上記の印刷する方法としては、限定的ではなく、例えばグラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種装置を用いる方法のほか、転写シートによる印刷等も採用することができる。その他にも、予め樹脂フィルム上に意匠層が形成された印刷フィルムを積層する方法も用いることができる。
【0053】
クリア層は、意匠層の上に形成されて意匠層を保護するものである。クリア層は、例えば樹脂成分を主材料として含む樹脂組成物から形成される。樹脂成分としては、特に限定されず、公知の床材のクリア層と同様のものを採用できる。例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の少なくとも1種を挙げることができる。より具体的には、ポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂;不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類等の少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、加工性及び強度に優れることから、塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0054】
また、クリア層は、透明ないしは半透明であれば、その下に形成されている意匠層の識別性をより高めることができるため、より透明であることが好ましい。
【0055】
クリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.15mm~1.0mm程度とすれば良く、特に0.2mm~0.8mmとすることが好ましい。
【0056】
表面保護層は、特に上層を外部から保護する機能を有するものである。従って、表面保護層は、本発明床材の最表面層として、クリア層の上層等として形成されることが望ましい。
【0057】
表面保護層は、例えば樹脂成分を主材料として含む樹脂組成物から形成される。使用できる樹脂成分としては、特に限定されない。具体的には、紫外線硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。例えば、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート等の紫外線硬化型樹脂の少なくとも1種が挙げられる。これらは違反品も使用することができる。このような電離放射線硬化性樹脂は、例えば各種コーター法、印刷法等によって塗工した後、紫外線等の電離放射線を照射することにより硬化して表面保護層を形成することができる。
【0058】
これらの中でも、表面硬度、透明性等を兼ね備えているという点で紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。表面保護層が透明ないしは半透明であれば、その下に形成されている意匠層の識別性をより高めることができる。
【0059】
表面保護層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~0.05mm程度とすれば良く、特に0.015~0.030mmとすることが好ましい。
【0060】
表面保護層の形成方法としては、例えば上記のような樹脂成分を含む塗工液を塗布した後、硬化させることによって形成することができる。硬化方法は、樹脂成分の種類等に応じて適宜選択すれば良く、例えばエージング、乾燥、紫外線照射、加熱等によって実施することができる。
【0061】
2.防汚性床材の製造方法
本発明床材の製造方法は、限定的ではないが、例えば1)樹脂含有基材層及び意匠層を含む積層シートの当該意匠層側からエンボスロールを押圧する工程(エンボス工程)及び2)意匠層上に表面保護層を形成する工程(表面保護層形成工程)を含む製造方法を好適に採用することができる。なお、各層の形成方法は、前記で説明した方法によりそれぞれ実施すれば良い。
【0062】
エンボス工程
エンボス工程では、樹脂含有基材層及び意匠層を含む積層シートの当該意匠層側からエンボスロールを押圧する。エンボス加工により、山部と基底領域の凹凸とを一体的に形成された表面を創出することができる。
【0063】
エンボス加工の対象となる積層シートとしては、例えば樹脂含有機材層/意匠層からなる積層シートのほか、樹脂含有機材層/意匠層/クリア層からなる積層シート等のいずれも採用することができる。これらの場合、樹脂含有基材層中には補強層が含まれていても良いし、含まれていなくても良い。
【0064】
エンボスロールによる押圧自体は、公知の床材におけるエンボス加工と同様に実施すれば良い。従って、公知又は市販のエンボスロール(エンボス版)及び装置を用いることができる。
【0065】
ただし、本発明床材に特有の表面形状を創出するためにそれに対応したエンボスロールを用いる。また、エンボス工程は、エンボスロールによる1回の押圧に限定されず、異なる表面パターンを有するエンボスロールによる2回以上の押圧であっても良い。また、エンボス工程は、複数のエンボスロールによる連続式であっても良い。
【0066】
本発明床材の製造においては、エンボスロールの溝が山部あるいは基底領域の凸部に対応することになるが、エンボスロールの深度(溝の深さ)の約40~50%が転写時に反映される。これを、エンボス転写率が約40~50%であるという。このため、所望の山部あるいは基底領域の凸部の高低差から逆算してエンボスロールの深度を設計することにより、より確実に目的とする基底領域及び山部を形成することができる。
【0067】
具体的には、エンボスロールは、例えば20μm、40μm、70μm、250μm等の凹部がなだらかに形成されることが好ましい。例えば、転写率が50%の場合であると、理論的にはエンボスロールの250μmの凹部によって床材の山部が形成され、20μm、40μm及び70μmの凹部によって基底領域の凹凸が形成されることとなる。このエンボスロールにおいて、エンボス転写率が50%の場合、床材の山部の高さは理論的には125μmとなる。
【0068】
本発明では、特に溝部がエッチングにより形成されたエンボスロールを用いることが好ましい。これにより、上記のようななだらかな凹凸をより確実に床材表面上に形成することができる。すなわち、全体的に丸みを帯び、尖った角部がない溝部をエンボスロールに付与できる結果、尖った角部が実質的に含まれない基底領域及び山部を効率良く形成することができる。エッチングする方法としては、特に限定されず、例えば公知の方法に従い、公知又は市販の腐食液を用いてエンボスロールをエッチングすることができる。
【0069】
表面保護層形成工程
表面保護層形成工程では、意匠層上に表面保護層を形成する。この場合、意匠層表面にクリア層が形成されている場合は、クリア層の表面に表面保護層が形成されることになり、表面保護層が床材の最表面層となる。
【0070】
表面保護層の形成方法としては、上記のように実施すれば良い。すなわち、所定の樹脂成分を含む塗工液を塗布した後、硬化させることによって形成することができる。硬化方法は、樹脂成分の種類等に応じて適宜選択すれば良く、例えばエージング、乾燥、紫外線照射、加熱等によって実施することができる。
【0071】
3.防汚性床材の使用
本発明床材は、防滑性及び防汚性が要求される場所であれば限定的でなく、各所の床材として用いることができる。特に、トイレ等の床材として好適に用いることができる。
【0072】
使用する際の本発明床材の形状は、特に限定されず、略矩形状(正方形、長方形、菱形等)のほか、各種の形状をとることができる。その大きさも、例えば1m×1m程度の矩形枠内に収まる範囲内で用いることできるが、これに限定されない。
【0073】
本発明床材の設置方法も、通常の床材の施工方法に従えば良い。例えば、本発明床材を接着剤を用いて施工面に接着して使用され、下から順に施工面/接着剤層/本発明床材から構成される床構造を構築できる。
【0074】
接着剤としては、特に限定されず、アクリル樹脂系接着剤、ゴム系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、酢酸ビニル等のエマルジョンタイプの水系接着剤等が挙げられる。本発明床材は、ガス発生量が比較的多いウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤を用いた場合であっても、支障なく施工することができる。
【0075】
また、施工面の材質は、特に限定されず、例えば、コンクリート面、モルタル面、石膏ボード面、木質面、合成樹脂面、セラミックタイル、陶タイル等の陶磁器面、石材面、鉄板等の金属面等が挙げられる。施工面は、平坦な面であることが好ましく、平坦でかつ比較的硬質な面であることがさらに好ましい。
【実施例
【0076】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0077】
実施例1
図6に示すような積層体からなる防汚性床材10を作製した。まず、補強層となるガラスマット41cの下に下層41b、ガラスマット41cの上に中間層41aが樹脂に積層してなる樹脂含有基材層41となり得るシートを作製した。より具体的には、市販のガラスマット(目付量:40g/m)の下側に表1に示す「下層」用ペーストを塗布し、オーブンにて140℃で1分間加熱してプリゲル化させた。次いで、前記ガラスマットの上側に表1の「中層」用ペーストを塗布し、オーブンにて140℃で1分間加熱してプリゲル化させた。
【0078】
次に、プリゲル化されている中間層41aの上に印刷フィルムをラミネートして意匠層42を形成した後、表1に示す「クリア層」用ペーストを意匠層上に塗布した後、オーブンにて200℃で3分間加熱して各層をゲル化し、クリア層43を形成しつつ、一体化させた。
【0079】
【表1】
【0080】
なお、表1中の各成分は、次のようなものを使用した。
塩化ビニル樹脂・・・株式会社カネカ製の商品名「カネビニール」。K値:94。
可塑剤・・・フタル酸ジオクチル
充填剤・・・炭酸カルシウム
安定剤・・・Ba-Zn系安定剤
抗菌剤・・・ゼオミック KM10D(シナネンゼオミック製)
【0081】
このようにして得られた積層シートのクリア層43上からエンボスロールを押圧した。このエンボス工程では、所定の基底領域及び山部に対応するパターンをもつ深度30~250μmの溝部をもつエンボスロールを用いた。なお、参考のため、使用したエンボスロールをシリコン樹脂にて型取りして形成された表面状態を図7に示す。図7は、エンボス転写率が100%の状態を示しているので、同一のエンボスロールで防汚性床材の表面エンボスを形成したとき、エンボス転写率が50%であると、山部及び基底領域の凹凸の高さは約半分になる。エンボス加工した後、このような工程を経た積層シートのクリア層43表面に紫外線硬化型樹脂を含む塗工液で塗布した後、紫外線照射することによって表面保護層44を形成した。
【0082】
このようにして図6に示すような積層体10からなる防汚性床材を作製した。なお、図6では、エンボスによる凹凸は省略されている。この積層体10は、クリア層0.20mm、意匠層0.15mm、中間層0.30mm、補強層+下層の合計1.4mmであった。また、平面視における積層体の大きさは縦30cm×横30cmであった。得られた積層体を縦1cm×横1cmに裁断してその表面(表面保護層面)の表面性状を3次元計測走査電子顕微鏡(3D-SEM)で観察した結果を図8に示す。さらに、得られた積層体の表面にある山部の個数を計測したところ、その山部の存在密度は約57個であった。
【0083】
試験例1
実施例1で得られた床材について、表面粗さ測定機によってその表面性状を調べた。より具体的には、1)50μm以上の山部の有無、2)基底領域の凹凸が40μm以下である要件を満たすか否か、3)互いに隣接する基底領域の幅が30μm以上である要件を満たすか否か、4)基底領域及び山部が丸みを帯びている凹凸を有するか否かを確認した。測定装置としては、主に表面粗さ測定機(品番「SURFCOM 130A-モノクロ」(株式会社東京精密ACCRETECH、測定子:DM43822)を用いた。その結果を表2に示す。表2には、比較例1~4として市販の床材の表面性状について同様にして調べた結果も併せて示す。さらに、実施例1及び比較例1~4の各床材について、表面粗さ測定機から出力された断面曲線の一部分を図9図13にそれぞれ示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2及び図9図13の結果からも明らかなように、実施例1の床材は、その表面において特定の基底領域の中に山部が点在していることがわかる。また、比較例3,4の床材の断面曲線が尖った角部を有するのに対し、実施例1では尖った角部がなく、山部及び基底領域の凹凸ともに尖った角部のない滑らかな曲線を描いていることがわかる。
【0086】
試験例2
実施例1及び比較例1~4の床材についてその防汚性等を調べた。その結果を表3に示す。なお、各試験の方法は、以下の通り実施した。
【0087】
(1)東工大試験
各実施例及び比較例の床材を、東京工業大学汚れ試験方法に準じて、その表面への汚れ付着性及びその汚れの除去性を調べた。具体的な試験方法は、下記の通りである。
各実施例及び比較例の床材を縦15cm×横15cmの矩形状に裁断し、各実施例及び比較例のそれぞれについて3枚のサンプルを作製した。この3つのサンプルの表面保護層とは反対側の面を、回転式試験機(安田精機(株)製、商品名:東工大式汚れ試験機)の正六角柱状の中空容器(六角柱の6つの側面の大きさがそれぞれ縦(軸方向)×横(周方向)=16.0cm×16.3cm)の側面内壁に両面テープを用いて貼り付けた。この中空容器内に、150gの炭化ケイ素(No.80)、2gの粉末パステル及び直径3cmの鉄球10個を入れ、この容器を3分間回転(回転速度:20回転/分)させた。
回転停止後、各サンプルを容器から取り出し、その表面(実施例の場合には表面保護層の表面。比較例の場合には表層の表面)の汚れ状態を目視で観察した。
続いて、各サンプルの表面を乾燥した状態で布拭き(乾拭)、及び水で濡らした状態で布拭き(水拭)し、拭き取った後の各汚れ状態を目視で観察した。この水拭きは、水に濡らしたモップ又は雑巾での乾式清掃を想定したものである。
初期付着汚れ、布拭き、及び水拭きのそれぞれについて、汚れ付着前との色差ΔEを色差計で測定した。
【0088】
(2)BHM値
<BHM試験>
実施例、比較例の床材について、縦22cm×横22cmの正方形状に裁断し、それぞれ3枚のサンプルを作製した。3枚のサンプルの表面保護層とは反対側の面を、正六角柱状の中空容器の内壁に貼り付けた。この中空容器内に縦5cm×横5cm×高さ5cmの立方体状のゴム片を6個入れ、この容器を時計回りに15分間回転(回転速度:63回転/分)させ、次に反時計回りに15分間回転(回転速度:63回転/分)させた。回転停止後、サンプルを取り出し、その表面の汚れ状態を目視で観察した。
続いて、各サンプルの表面を水で濡らした状態で紙拭き(水拭)し、拭き取った後の汚れ状態を目視で観察した。この水拭きは、水に濡らしたモップ又は雑巾での乾式清掃を想定したものである。
清掃後の表面の防汚性及び汚染除去性を、目視で以下の基準で評価した。
◎:ヒールマークが付かない
○:ヒールマークが付くが、水拭きで短時間で拭き取れるもの
△:ヒールマークが付くが、水拭きで時間をかければ拭き取れるもの
×:水拭きした後でもわずかにヒールマークが残るもの
【0089】
(3)ゴマ塩汚れ
<ゴマ塩汚れ試験>
以下の手順に従ってゴマ塩汚れのモデルサンプルを作製し、その除去効果を確認した。
1.床シートを300mm角に裁断して尺角サンプルを作製する。
2.パステル紛3gと水0.3gを混ぜて混合液を作製する。パステル紛は、パステル片を細かく砕いてふるいにかけたもの。
3.尺角のサンプルの中央部に混合液を塗布し、1分間靴で踏み、尺角サンプルの表面全体になじませる
3.23℃の部屋で3日間放置して乾燥させて、汚れサンプルを作製する。
4.一般的な柄の長い「水拭きモップ」と「モップ絞り機付きバケツ」を準備する。水拭きモップを水で濡らして、モップ絞り機で絞る。床面に載置した汚れサンプルの表面を水拭きモップで5往復させて、表面の汚れを除去した。この水拭きは、水に濡らしたモップ又は雑巾での乾式清掃を想定したものである。
5.汚れの除去状態を目視で観察し、次のように評価した。
〇:ゴマ塩汚れがほとんどなく、綺麗に除去されていた。
△:ゴマ塩汚れが僅かに見られるものの、美観上問題ないレベルだった。
×:ゴマ塩汚れが多く認められた。
【0090】
(4)CSR値
<CSR試験>
各床材を縦30cm×横30cmに裁断し、JIS A1454の滑り性試験に準じて、水+ダスト散布状態でのCSR値を求めた。
【0091】
(5)官能滑り評価
<官能滑り評価>
縦横500mm角のサンプル片を作製した。サンプル片の上に、約200mlの水をシャワーにて均一にまいた。評価者がサンプル片の上で足踏みしたり、サンプル片を蹴ったりして、滑り度合いを評価した。評価者は10人で行った。靴の種類は、革靴4名、運動靴3名、ハイヒール3名であった。
[評価基準]
1~5の5段階評価。1が良く滑り易く、5が最も滑り難い。
【0092】
【表3】
【0093】
表3の結果からも明らかなように、実施例1の床材は、特に、各山部の間に凹凸が緩やかな基底領域(上下幅40μm以内)が形成されるのでゴマ塩汚れが溜まる凹部が存在せず、基底領域が一定の幅(30μm以上)に形成されるのでよりゴマ塩汚れが溜まり難くなる。また、全体的に丸みを帯びた凹凸形状でもあるため、かかる見地からもゴマ塩汚れが発生しにくくなっているといえる。
これに対し、比較例3~4は、凹部の深度が深いため、汚れの除去が悪くなっていることがわかる。さらに、比較例3は、深度が浅いため、防滑性が悪いことがわかる。比較例1~2においても、本発明床材の特定の表面形状をもたないために、湿ったモップではゴマ塩汚れが十分に除去し切れないことがわかる。
このように、本発明の床材は、特にゴマ塩汚れに対して高い防汚性を示すとともに、良好な防滑性を発揮できることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14