(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0285 20060101AFI20230314BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A61B5/0285 H
A61B5/026 120
(21)【出願番号】P 2019095470
(22)【出願日】2019-05-21
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000116633
【氏名又は名称】愛知時計電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五明 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】平 英路
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/081883(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/055771(WO,A1)
【文献】特開2000-210264(JP,A)
【文献】特開2000-237195(JP,A)
【文献】特開2000-041961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
G01P 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レーザー光と、第1レーザー光と交差する第2レーザー光とを体内に向けて照射する照射装置と、
前記照射装置によって照射された第1レーザー光と第2レーザー光との交差点が体内を流れる血液に当たることによって生じる散乱光を受光し、受光した散乱光に応じた信号を出力する受光装置と、
表示装置と、
処理装置と、
前記照射装置によって照射された第1レーザー光を遮断する第1遮断装置と、
前記照射装置によって照射された第2レーザー光を遮断する第2遮断装置と、を備えており、
前記第1遮断装置は、第1レーザー光を遮断する遮断状態と、第1レーザー光を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されており、
前記第2遮断装置は、第2レーザー光を遮断する遮断状態と、第2レーザー光を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されており、
前記処理装置は、
前記第1遮断装置と前記第2遮断装置が共に非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が遮断状態である一方で前記第2遮断装置が非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が非遮断状態である一方で前記第2遮断装置が遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、に基づいて前記交差点が当たっている血液の流速を特定し、特定した血液の流速を前記表示装置に表示する、測定装置。
【請求項2】
第1レーザー光と、第1レーザー光と交差する第2レーザー光とを体内に向けて照射する照射装置と、
前記照射装置によって照射された第1レーザー光と第2レーザー光との交差点が体内を流れる血液に当たることによって生じる散乱光を受光し、受光した散乱光に応じた信号を出力する受光装置と、
表示装置と、
処理装置と、
前記照射装置によって照射された第1レーザー光を遮断する第1遮断装置と、を備えており、
前記第1遮断装置は、第1レーザー光を遮断する遮断状態と、第1レーザー光を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されており、
前記処理装置は、前記第1遮断装置が非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、に基づいて前記交差点が当たっている血液の流速を特定し、特定した血液の流速を前記表示装置に表示する、測定装置。
【請求項3】
前記処理装置は、特定した血液の流速が所定の第1流速より速い場合は、動脈または静脈を表す表示を前記表示装置に表示する、請求項
1又は2に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、体内を流れる血液の流速を測定する測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、体内を流れる血液の流速を精度良く測定することが難しく、ユーザーが血液の流速を精度良く知ることが難しかった。そこで本明細書は、ユーザーが体内を流れる血液の流速を精度良く知ることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する測定装置は、第1レーザー光と、第1レーザー光と交差する第2レーザー光とを体内に向けて照射する照射装置と、前記照射装置によって照射された第1レーザー光と第2レーザー光との交差点が体内を流れる血液に当たることによって生じる散乱光を受光し、受光した散乱光に応じた信号を出力する受光装置と、表示装置と、処理装置と、を備えている。前記処理装置は、前記受光装置が出力した信号に基づいて前記交差点が当たっている血液の流速を特定し、特定した血液の流速を前記表示装置に表示する。
【0006】
この構成によれば、第1レーザー光と第2レーザー光によって生じる散乱光に応じた信号に基づいて血液の流速を特定するので、血液の流速を精度良く特定することができる。また、その流速が表示装置に表示されるので、測定装置のユーザーが血液の流速を精度良く知ることができる。
【0007】
前記処理装置は、特定した血液の流速が所定の第1流速より速い場合は、動脈または静脈を表す表示を前記表示装置に表示してもよい。
【0008】
体内の動脈または静脈を流れる血液の流速は、その他の毛細血管を流れる血液の流速より速い。そのため、第1レーザー光と第2レーザー光の交差点が当たっている血液の流速が所定の第1流速より速い場合は、その血液が流れている血管が動脈または静脈であると判断することができる。この場合は、動脈または静脈を表す表示が表示装置に表示される。これによって、表示装置を視たユーザーが、体内の動脈または静脈の位置を知ることができる。例えば、表示装置を視た医師が患者の動脈または静脈の位置を知ることができる。
【0009】
測定装置は、前記照射装置によって照射された第1レーザー光を遮断する第1遮断装置を更に備えていてもよい。前記第1遮断装置は、第1レーザー光を遮断する遮断状態と、第1レーザー光を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されていてもよい。
【0010】
この構成によれば、第1レーザー光を遮断する遮断状態に切り換えることによって、第2レーザー光によって生じる散乱光に応じた信号を取得することができる。また、第1レーザー光を遮断しない非遮断状態に切り換えることによって、第1レーザー光と第2レーザー光によって生じる散乱光に応じた信号を取得することができる。遮断状態による信号と非遮断状態による信号を取得することができるので、それらの信号に基づいて血液の流速を精度良く特定することができる。
【0011】
測定装置は、前記照射装置によって照射された第2レーザー光を遮断する第2遮断装置を更に備えていてもよい。前記第2遮断装置は、第2レーザー光を遮断する遮断状態と、第2レーザー光を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されていてもよい。前記処理装置は、前記第1遮断装置と前記第2遮断装置が共に非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が遮断状態である一方で前記第2遮断装置が非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が非遮断状態である一方で前記第2遮断装置が遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、に基づいて前記交差点が当たっている血液の流速を特定してもよい。
【0012】
この構成によれば、第1遮断装置の遮断状態/非遮断状態と、第2遮断装置の遮断状態/非遮断状態とを組み合わせて血液の流速を特定することによって、血液の流速を精度良く特定することができる。
【0013】
前記処理装置は、前記第1遮断装置が非遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、前記第1遮断装置が遮断状態であるときに前記受光装置が出力した信号と、に基づいて前記交差点が当たっている血液の流速を特定してもよい。この構成によれば、第1遮断装置の遮断状態/非遮断状態を切り換えて血液の流速を特定することによって、血液の流速を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例に係る測定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施例に係る測定装置が人の体に適用された状態を示す図である。
【
図4】実施例に係る遮断装置の概略構成を示す正面図である。
【
図5】実施例に係る受光装置の概略構成を示す断面図である。
【
図6】実施例に係る受光素子の概略構成を示す側面図である。
【
図7】実施例に係る受光素子の概略構成を示す平面図である。
【
図9】測定装置で実行される第1実施例に係る測定処理のフローチャートである。
【
図10】実施例に係る表示装置における表示の一例を示す図である。
【
図12】体内を流れる血液の流速の波形の一例を示す図である。
【
図13】体内を流れる血液の流速の波形の他の一例を示す図である。
【
図14】測定装置で実行される第2実施例に係る測定処理のフローチャートである。
【
図15】実施例に係る表示装置における表示の他の一例を示す図である。
【
図16】実施例に係る表示装置における表示の他の一例を示す図である。
【
図17】他の実施例に係る測定装置の概略構成を示す図である。
【
図18】第3実施例に係る測定装置の概略構成を示す図である。
【
図19】測定装置で実行される第3実施例に係る測定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施例)
実施例に係る測定装置1について図面を参照して説明する。
図1および
図2に示すように、第1実施例に係る測定装置1は、人の体Bに適用される。例えば、人の腕、脚、胴等に測定装置1が適用される。
図1および
図2に示す例では、測定装置1が人の腕に適用されている。測定装置1が適用される人は、例えば患者である。測定装置1のユーザーは、例えば医師である。測定装置1が適用される人の体内101には複数の血管103が存在しており、複数の血管103に血液が流れている。複数の血管103は、例えば動脈、静脈または毛細血管である。体内101の血液は、体内101に存在している動脈、静脈および毛細血管を流れている。動脈には心臓から送り出された血液が流れている。静脈には心臓に送り戻される血液が流れている。また、毛細血管には、動脈から流れ出した血液、または、静脈に流れ込む血液が流れている。動脈を流れている血液の流速は、心臓の拍動の影響によって静脈を流れている血液の流速より速い。また、静脈を流れている血液の流速は毛細血管を流れている血液の流速より速い。また、動脈および静脈を流れている血液の流速は、心臓の拍動の影響によって周期的に変化する。動脈を流れている血液の流速の変化量は、心臓の拍動の影響によって、静脈を流れている血液の流速の変化量よりも大きくなる。
【0016】
測定装置1は、筐体8と、照射装置2と、遮断装置5と、受光装置3と、表示装置4と、処理装置9とを備えている。照射装置2と遮断装置5と受光装置3とは、筐体8の内部に配置されており、筐体8に収容されている。表示装置4と処理装置9とは、筐体8の外部に配置されている。他の実施例では、表示装置4と処理装置9とが筐体8の内部に配置されていてもよい。筐体8は、本体部材80と先端部材81を備えている。本体部材80は、測定装置1のユーザーが把持する部分である。先端部材81は、測定装置1が人の体Bに適用される際に、人の体Bの表面102(皮膚)に押し当てられる部分である。先端部材81の端面が人の体Bの表面102に密着する。先端部材81は薄い板状の部材である。
【0017】
図3に示すように、筐体8の先端部材81には開口部82が形成されている。開口部82は四角形状に形成されている。また、先端部材81は、複数の突起85を備えている。開口部82の四辺のそれぞれに突起85が形成されている。各突起85は、開口部82の各辺の中央部に形成されている。各突起85は、開口部82の周縁部から中心部に向けて突出している。各突起85は、開口部82の周縁部から中心部に向けて細くなっている。各突起85は三角形状に形成されている。
【0018】
図1および
図2に示すように、筐体8の内部に配置されている照射装置2は、人の体内101に向けて第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とを照射する装置である。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは互いに交差する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが交差する点を交差点10と呼ぶ。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、筐体8の開口部82を通過する。
【0019】
照射装置2は、発光素子21と、コリメーターレンズ22と、回折格子23と、移動装置25と、第1ミラー43と、第2ミラー44とを備えている。発光素子21は、例えばレーザーダイオード(LD)である。発光素子21は、コリメーターレンズ22と対向するように配置されている。発光素子21は、コリメーターレンズ22に向けてレーザー光Lを発光する。発光素子21が発光したレーザー光Lがコリメーターレンズ22に入射する。発光素子21は、回折格子23と第1ミラー43および第2ミラー44との間に配置されている。発光素子21は、第1ミラー43および第2ミラー44が配置されている方向とは反対側にレーザー光Lを発光する。レーザー光Lは、例えば波長が850nm-1300nm程度の近赤外線光である。
【0020】
コリメーターレンズ22は、発光素子21と回折格子23の間に配置されている。コリメーターレンズ22は、発光素子21が発光したレーザー光Lを平行光にして出射する。コリメーターレンズ22から出射したレーザー光L(平行光)は、回折格子23に入射する。
【0021】
回折格子23は、光の回折を利用して回折格子23に入射したレーザー光Lを第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とに分光する装置である。回折格子23は、反射型の回折格子である。回折格子23に入射したレーザー光Lが回折格子23で反射するときに第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とに分かれる。回折格子23によって生じた第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、異なる方向に進行する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、発光素子21とコリメーターレンズ22とを結ぶ線に関して線対称になるように進行する。
図1および
図2に示す例では、第1レーザー光L1が右斜め上方に向かって進行し、第2レーザー光L2が左斜め上方に向かって進行する。第1レーザー光L1が第1ミラー43に向かって進行し、第2レーザー光L2が第2ミラー44に向かって進行する。第1レーザー光L1の波長と第2レーザー光L2の波長とは同じ波長である。また、第1レーザー光L1の周波数と第2レーザー光L2の周波数とは同じ周波数である。
【0022】
移動装置25は、回折格子23を移動させる装置である。回折格子23は可動式である。移動装置25は例えば機械式の装置であり、測定装置1のユーザー(例えば医師)がボルト251を回すことによって回折格子23を
図1の上下方向に移動させることができる。移動装置25は手動式でも自動式でもよい。移動装置25が回折格子23を移動させることによって、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の照射位置を移動させることができる。移動装置25は、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の照射位置を移動させることによって、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10の位置を移動させることができる。また、移動装置25は、リニアエンコーダ252を備えている。リニアエンコーダ252は、移動距離を測定する装置である。移動装置25は、リニアエンコーダ252によって交差点10を移動させた距離を特定することができる。移動装置25は、交差点10を移動させた距離の情報を処理装置9へ送信する。
【0023】
第1ミラー43と第2ミラー44とは、回折格子23と人の体Bの間に配置されている。第1ミラー43と第2ミラー44とは、互いに向かい合っている。第1ミラー43は第1反射面241を備えている。また、第2ミラー44は第2反射面242を備えている。第1反射面241と第2反射面242とは、互いに向かい合っている。回折格子23によって生じた第1レーザー光L1は、第1ミラー43の第1反射面241に入射する。第1レーザー光L1は第1反射面241で反射する。また、回折格子23によって生じた第2レーザー光L2が第2ミラー44の第2反射面242に入射する。第2レーザー光L2は第2反射面242で反射する。
【0024】
第1ミラー43で反射した第1レーザー光L1は、第1方向D1に進行する。第2ミラー44で反射した第2レーザー光L2は、第2方向D2に進行する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、筐体8の先端部材81の開口部82を通過して筐体8から出射する。筐体8から出射した第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは人の体内101に入射する。第1方向D1と第2方向D2は互いに交差する方向である。第1方向D1に進行する第1レーザー光L1と第2方向D2に進行する第2レーザー光L2とは、交差点10で交差する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、互いに重なり合って干渉する。
【0025】
第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10が人の体内101を流れる血液に当たると、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが散乱する。より詳細には、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが血液に含まれている粒子(例えば赤血球)に当たることによって散乱する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とは、互いに異なる方向から血液に当たる。第1レーザー光L1は、第1方向D1に進行して血液に当たる。第2レーザー光L2は、第2方向D2に進行して血液に当たる。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが体内101を流れる血液に当たることによって散乱光が生じる。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが散乱することによって散乱光が生じる。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが血液に当たって散乱するときに、ドップラーシフトによって各レーザー光L1、L2の周波数が変化する。各レーザー光L1、L2の散乱によって生じる散乱光の周波数は、各レーザー光L1、L2の各周波数とは異なる周波数である。
【0026】
各レーザー光L1、L2の散乱によって生じる散乱光は様々な方向に進行する。各レーザー光L1、L2の散乱によって生じた散乱光のうち、受光装置3に向かって進行する散乱光Pを受光装置3が受光する。散乱光Pは、第1レーザー光L1の散乱によって生じた散乱光と第2レーザー光L2の散乱によって生じた散乱光とが干渉して重なり合った干渉光である。この散乱光Pが受光装置3に入射する。
【0027】
照射装置2の第1ミラー43と筐体8の先端部材81との間に遮断装置5が配置されている。遮断装置5は、第1レーザー光L1の進路上に配置されている。
図4に示すように、遮断装置5は、枠部材51と開閉部材52を備えている。枠部材51には開口部53が形成されている。枠部材51は、開口部53が第1レーザー光L1の進路上に位置するように配置されている(
図1及び
図2参照)。開閉部材52は、枠部材51の開口部53を開閉する。開閉部材52が閉状態である場合は、第1レーザー光L1が開口部53を通過しない。開閉部材52によって第1レーザー光L1が遮断される。一方、開閉部材52が開状態である場合は、第1レーザー光L1が開口部53を通過する。開閉部材52によって第1レーザー光L1が遮断されない。
【0028】
遮断装置5は、開閉部材52の閉状態と開状態を切り換え可能に構成されている。すなわち、遮断装置5は、第1レーザー光L1を遮断する遮断状態と、第1レーザー光L1を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されている。遮断装置5が遮断状態になると、第1レーザー光L1が人の体Bに照射されず、第1レーザー光L1が人の体内101に入射しない。一方、遮断装置5が非遮断状態になると、第1レーザー光L1が人の体Bに照射され、第1レーザー光L1が人の体内101に入射する。
【0029】
散乱光Pを受光する受光装置3は、人の体Bと照射装置2との間に配置される。受光装置3は、図示省略する固定具によって照射装置2に固定されている。受光装置3は、人の体Bと対向するように配置されている。受光装置3は、
図5に示すように、受光素子31と、遮光性の箱体38を備えている。受光素子31は、例えばフォトダイオード(PD)である。箱体38内に受光素子31が配置されている。
【0030】
箱体38は、前壁38aと、後壁38bと、一対の側壁38c、38cとを備えている。測定装置1が人の体B(
図5には図示せず)に適用された状態では、前壁38aが人の体Bと受光素子31との間に配置される。後壁38bは、受光素子31と照射装置2(
図5には図示せず)との間に配置されている。一対の側壁38c、38cは、前壁38aと後壁38bとの間に配置されている。箱体38の後壁38bに受光素子31が固定されている。箱体38の前壁38aは受光素子31から離れた位置に配置されている。前壁38aには中空の光通過孔35が形成されている。
【0031】
光通過孔35は、受光素子31に向かう方向(
図5の上下方向)に延びている。光通過孔35は、入射口36と出射口37を備えている。各レーザー光L1、L2の散乱によって生じた散乱光Pが入射口36から光通過孔35に入射する。受光装置3に向かって進行する散乱光Pが光通過孔35に入射する。光通過孔35に入射した散乱光Pは、光通過孔35を通過して出射口37から出射する。出射口37から出射した散乱光Pが受光素子31に入射する。
【0032】
図6および
図7に示すように、受光素子31は、有効受光領域312と受光面313とを備えている。有効受光領域312は、受光素子31の中央部に形成されている。有効受光領域312は、入射する光を電気信号に変換することができる領域である。受光素子31は、有効受光領域312に入射する散乱光Pを有効に受光することができる。受光面313は、有効受光領域312の表面である。受光素子31は、受光面313に入射する散乱光Pを受光することができる。受光素子31は、散乱光Pを受光すると、その散乱光Pの強さに応じた電気信号を出力する。本実施例では、受光素子31は、散乱光Pの強さに応じた電圧信号を出力する。
【0033】
図8に示すように、処理装置9は、照射装置2の発光素子21と、受光装置3の受光素子31とに電気的に接続されている。処理装置9は、発光素子21が発光するレーザー光Lと、受光素子31が受光する散乱光Pに基づいて、人の体内101を流れる血液の流速を演算する。処理装置9は、ドップラーシフトに基づく演算方法によって血液の流速を演算する。より詳細には、処理装置9は、血液に含まれている粒子(例えば赤血球)の速度を演算する。血液の流速の演算方法については後述する。
【0034】
また、処理装置9は、移動装置25と表示装置4に電気的に接続されている。処理装置9は、移動装置25から受信する情報に基づいて、移動装置25が回折格子23を移動させた距離を特定する。すなわち、処理装置9は、移動装置25が第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10を移動させた距離を特定する。表示装置4は、例えば液晶モニタである。表示装置4には、例えば人の体内101を流れる血液の流速や交差点10が移動した距離等が表示される。処理装置9が実行する情報処理については後述する。また、処理装置9は、遮断装置5に接続されている。処理装置9は、遮断装置5の動作を制御する。
【0035】
次に、上記の測定装置1を用いて人の体内101の血管(動脈または静脈)の位置を測定する方法について説明する。この方法では、まず測定装置1のユーザー(例えば医師)が、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10の位置を、筐体8の先端部材81に形成されている開口部82内に配置する(
図1参照)。具体的には、ユーザーが移動装置25を手動で操作することによって、交差点10の位置を移動させる。ユーザーは、交差点10の位置が先端部材81の開口部82内に配置されるように移動装置25を操作する。ユーザーは、複数の突起85の位置を参考にして開口部82内に交差点10を配置する。
【0036】
続いて、ユーザーが測定装置1を人(例えば患者)の体Bに適用する。ユーザーが測定装置1を人の体Bに適用する際には、測定装置1の筐体8の先端部材81を人の体Bの表面102に密着させる(
図2参照)。これによって、先端部材81に形成されている開口部82の位置が人の体Bの表面102の位置と一致する。その結果、開口部82内に配置されている交差点10の位置が、人の体Bの表面102の位置と一致するとみなすことができる。処理装置9は、交差点10の位置が人の体Bの表面102の位置と一致しているときの距離Xを0(ゼロ)として認識する。
【0037】
続いて、ユーザーが移動装置25を手動で操作することによって、交差点10を人の体Bの表面102から人の体内101の深部へ向けて移動させる。移動装置25が自動で動作することによって、交差点10を人の体Bの表面102から人の体内101の深部へ向けて移動させてもよい。移動装置25の動作によって、交差点10が人の体内101に進入してゆく。移動装置25は、交差点10を移動させた距離Xの情報を処理装置9へ送信する。
【0038】
人の体内101に進入した交差点10が人の体内101を流れる血液に当たると、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが散乱する。第1レーザー光L1と第2レーザー光L2とが散乱することによって散乱光Pが生じる。各レーザー光L1、L2の散乱によって生じた散乱光Pは、受光装置3に向かって進行して受光装置3に入射する。受光装置3の受光素子31が散乱光Pを受光する。受光素子31は、受光した散乱光Pに応じた信号を出力する。本実施例では、受光素子31は、散乱光Pの強さに応じた電圧信号を出力する。受光素子31が出力した電圧信号を処理装置9が受信する。
【0039】
次に、上記の測定装置1で実行される測定処理について説明する。測定処理は、例えば測定装置1の電源がオンになると実行される。
図9に示すように、測定処理のS11では、処理装置9が、移動装置25から距離Xの情報を受信する。続いてS13では、処理装置9が、移動装置25から受信した距離Xの情報に基づいて、移動装置25が交差点10を移動させた距離Xを特定する。すなわち、処理装置9は、移動装置25の動作によって交差点10が人の体Bの表面102から体内101へ移動した距離Xを特定する。続いてS15では、処理装置9が、特定した距離Xを表示装置4に表示する(
図10参照)。人の体Bの表面102と体内101に進入した交差点10との距離Xが表示装置4に表示される。
【0040】
続いてS17では、処理装置9が、受光素子31から電圧信号を受信する。処理装置9は、受光素子31から受信した電圧信号を例えば0.06秒の間隔でサンプリングする。続いてS19では、処理装置9が、受光素子31から受信してサンプリングした電圧信号をフーリエ変換する。処理装置9は、例えばFFT(高速フーリエ変換)アナライザーによってフーリエ変換を実行することができる。フーリエ変換は、時間の関数を周波数の関数に変換することができる手法である。フーリエ変換については、よく知られているので詳細な説明を省略する。処理装置9は、フーリエ変換を実行して周波数スペクトルを生成する。また、処理装置9は、生成した周波数スペクトルをデシベル換算する。デシベル換算された周波数スペクトルは、例えば
図11に示すように、周波数と電圧レベルの関係で示される。
【0041】
続いてS21では、処理装置9が、S19の処理で得られた周波数スペクトルにおけるピーク周波数fpを検出する。ピーク周波数fpは、周波数スペクトルにおいて最も突出している電圧レベルに対応する周波数である。また、その近傍の周波数をピーク周波数fpとしてもよい。続いてS23では、処理装置9が、周波数スペクトルにおけるピーク周波数fpに基づいて血液の流速を特定する。処理装置9は、下記の式(1)によって血液の流速を演算することができる。ただし、下記の式(1)において、vは、人の体内101を流れる血液の流速である。また、λは、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の波長である。また、θは、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の交差角度の1/2の角度である(
図1および
図2参照)。処理装置9は、下記の式(1)によって、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10が当たっている血液の流速を特定することができる。なお、処理装置9は、他の演算方法によって血液の流速を特定してもよい。演算方法は特に限定されない。
【数1】
【0042】
続いてS25では、処理装置9が、上記のS23で特定した血液の流速が所定の第1流速より速いか否かを判断する。所定の第1流速は、例えば、一般的な動脈または静脈を流れる血液の流速を参考にして決定される。所定の第1流速は、例えば50mm/sである。処理装置9は、S25で肯定判断する場合は(S25でYes)、S27に進む。一方、処理装置9は、S25で否定判断する場合は(S25でNo)、S31に進む。
【0043】
人の体内101の動脈または静脈を流れる血液の流速は、毛細血管を流れる血液の流速より速い。処理装置9がS25で肯定判断する場合は、交差点10が当たっている血液の流速が所定の第1流速より速いので、その血液が流れている血管が動脈または静脈であると判断することができる。一方、処理装置9がS25で否定判断する場合は、交差点10が当たっている血液の流速が所定の第1流速より遅いので、その血液が流れている血管が動脈または静脈でない(毛細血管である)と判断することができる。あるいは、処理装置9がS25で否定判断する場合は、交差点10の位置に血管が存在していないとみなすこともできる。
【0044】
S25で否定判断した後のS31では、処理装置9が、毛細血管を表す表示を表示装置4に表示する(
図10参照)。もしくは、処理装置9が、血管が存在していないことを表す表示を表示装置4に表示する(
図10参照)。例えば、処理装置9は、「毛細血管orなし」の文字列C3を表示装置4に表示する。また、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xの隣に文字列C3を表示する。例えば、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xが0.5mmであった場合は、その距離X(0.5mm)隣に文字列C3を表示する。また、S31では、処理装置9が、上記のS23で特定した血液の流速を表示装置4に表示する(
図10参照)。処理装置9は、S15で表示した距離Xに対応する文字列C3の隣に流速(例えば、30mm/s)を表示する。処理装置9は、S31の処理が終了した後に上記のS11に戻る。
【0045】
S25で肯定判断した後のS27では、処理装置9が、上記のS23で特定した血液の流速が所定の第2流速より速いか否かを判断する。所定の第2流速は、例えば、一般的な動脈または静脈を流れる血液の流速を参考にして決定される。所定の第2流速は、上記の所定の第1流速より速い流速である。所定の第2流速は、例えば300mm/sである。処理装置9は、S27で肯定判断する場合は(S27でYes)、S29に進む。一方、処理装置9は、S27で否定判断する場合は(S27でNo)、S33に進む。
【0046】
人の体内101の動脈を流れる血液の流速は、静脈を流れる血液の流速より速い。処理装置9がS27で肯定判断する場合は、交差点10が当たっている血液の流速が所定の第2流速より速いので、その血液が流れている血管が動脈であると判断することができる。一方、処理装置9がS27で否定判断する場合は、交差点10が当たっている血液の流速が所定の第2流速より遅いので、その血液が流れている血管が静脈であると判断することができる。
【0047】
S27で肯定判断した後のS29では、処理装置9が、動脈を表す表示を表示装置4に表示する(
図10参照)。例えば、処理装置9は、動脈を表す「動脈」の文字列C1を表示装置4に表示する。また、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xの隣に動脈を表す表示を表示する。例えば、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xが8.0mmであった場合は、その距離X(8.0mm)隣に文字列C1を表示する。また、S29では、処理装置9が、上記のS23で特定した血液の流速を表示装置4に表示する(
図10参照)。処理装置9は、S15で表示した距離Xに対応する文字列C1の隣に流速(例えば、400mm/s)を表示する。処理装置9は、S29の処理が終了した後に上記のS11に戻る。
【0048】
S27で否定判断した後のS33では、処理装置9が、静脈を表す表示を表示装置4に表示する(
図10参照)。例えば、処理装置9は、静脈を表す「静脈」の文字列C2を表示装置4に表示する。また、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xの隣に静脈を表す表示を表示する。例えば、処理装置9は、上記のS13で特定してS15で表示した距離Xが5.0mmであった場合は、その距離X(5.0mm)隣に文字列C2を表示する。また、S33では、処理装置9が、上記のS23で特定した血液の流速を表示装置4に表示する(
図10参照)。処理装置9は、S15で表示した距離Xに対応する文字列C2の隣に流速(例えば、150mm/s)を表示する。処理装置9は、S33の処理が終了した後に上記のS11に戻る。
【0049】
処理装置9は、上記の測定処理(S11-S33)を繰り返す。処理装置9は、移動装置25が交差点10を移動させた距離X毎に上記の測定処理(S11-S33)を実行する。そのため、処理装置9は、移動装置25が交差点10を移動させた距離X毎に、交差点10が当たっている血液が流れている血管の種類(動脈、静脈、毛細血管、または、なし)を特定する。その後、例えば測定装置1の電源がオフになると測定処理が終了する。
【0050】
上記の測定処理において、処理装置9は、血液の流速を特定する際に遮断装置5の開閉部材52を開閉させてもよい。より詳細には、まず、処理装置9が開閉部材52を開状態にする。すなわち、処理装置9が遮断装置5を非遮断状態にする。そうすると、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2が人の体内101に入射して第1レーザー光L1と第2レーザー光L2による散乱光Pが生じる。この散乱光Pを受光素子31が受光する。受光素子31は、受光した散乱光Pに応じた信号を出力する。その信号を処理装置9が受信する。したがって、処理装置9は、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2によって生じる散乱光Pに基づく信号を受信する。
【0051】
続いて、処理装置9は、開閉部材52を閉状態にする。すなわち、処理装置9が遮断装置5を遮断状態にする。そうすると、第1レーザー光L1が遮断される。そのため、第2レーザー光L2のみが人の体内101に入射して第2レーザー光L2のみによる散乱光P´が生じる。この散乱光P´を受光素子31が受光する。受光素子31は、受光した散乱光P´に応じた信号を出力する。その信号を処理装置9が受信する。したがって、処理装置9は、第2レーザー光L2のみによって生じる散乱光P´に基づく信号を受信する。
【0052】
処理装置9は、受光素子31から受信する信号P及びP´に基づいて血液の流速を特定することができる。例えば、処理装置9は、遮断装置5が非遮断状態のときの信号Pに基づく周波数スペクトルと、遮断装置5が遮断状態のときの信号P´に基づく周波数スペクトルとの差分に基づいて血液の流速を特定してもよい。血液の流速を特定するための演算方法は特に限定されない。
【0053】
以上、第1実施例に係る測定装置1について説明した。上記の説明から明らかなように、測定装置1では、照射装置2が、第1レーザー光L1と、第1レーザー光L1と交差する第2レーザー光L2とを人の体内101に向けて照射する。また、照射装置2によって照射された第1レーザー光L1と第2レーザー光L2との交差点10が人の体内101を流れる血液に当たることによって生じる散乱光Pを受光装置3が受光する。受光装置3は、散乱光P´を受光してもよい。受光装置3は、受光した散乱光Pに応じた信号を出力する。受光装置3は、散乱光P´に応じた信号を出力してもよい。処理装置9は、受光装置3が出力した信号に基づいて交差点10が当たっている血液の流速を特定し(S23)、特定した血液の流速を表示装置4に表示する(S29、S31、S33)。
【0054】
この構成によれば、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2によって生じる散乱光Pに応じた信号に基づいて血液の流速を特定するので、血液の流速を精度良く特定することができる。また、その流速が表示装置4に表示されるので、測定装置1のユーザーが血液の流速を精度良く知ることができる。
【0055】
また、上記の測定装置1では、処理装置9が、特定した血液の流速が所定の第1流速より速い場合は(S25でYes)、動脈または静脈を表す表示を表示装置4に表示する(S29、S33)。この構成によれば、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の交差点10が当たっている血液の流速が所定の第1流速より速い場合は、その血液が流れている血管が動脈または静脈であると判断することができる。そのため、この場合は、動脈または静脈を表す表示が表示装置4に表示される。これによって、表示装置4を視たユーザーが、体内101の動脈または静脈の位置を知ることができる。
【0056】
また、上記の測定装置1は、照射装置2によって照射された第1レーザー光L1を遮断する遮断装置5を備えている。遮断装置5は、第1レーザー光L1を遮断する遮断状態と、第1レーザー光L1を遮断しない非遮断状態とを切り換え可能に構成されている。この構成によれば、処理装置9が遮断装置5を遮断状態に切り換えることによって、第2レーザー光L2のみによって生じる散乱光P´に基づく信号を取得することができる。また、処理装置9が遮断装置5を非遮断状態に切り換えることによって、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2によって生じる散乱光Pに基づく信号を取得することができる。処理装置9が散乱光P及びP´に基づく信号を取得することができるので、それらの信号に基づいて血液の流速を精度良く特定することができる。
【0057】
以上、一実施例について説明したが、具体的な態様は上記実施例に限定されるものではない。以下の説明において、上述の説明における構成と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
(第2実施例)
第2実施例に係る測定装置1では、上記のS23で処理装置9が血液の流速を特定する際に、所定の時間にわたって血液の流速を特定する。所定の時間は、例えば4秒である。これによって、例えば
図12または
図13に示すように、所定の時間(例えば4秒)にわたる血液の流速の波形が得られる。
【0059】
また、第2実施例に係る測定装置1では、
図14に示すように、処理装置9がS25で肯定判断した後にS47の処理を実行する。S47では、処理装置9が、S23で特定した所定の時間にわたる血液の流速の変化量が所定の変化量より大きいか否かを判断する。血液の流速の所定の変化量は、例えば300mm/sである。
図12に示す例では、所定の時間(例えば4秒)の間に血液の流速が100mm/s以下から400mm/s以上まで変化している。したがって、血液の流速の変化量が所定の変化量(例えば300mm/s)より大きい。
図13に示す例では、所定の時間(例えば4秒)の間に血液の流速が200mm/s以下で変化している。したがって、血液の流速の変化量が所定の変化量(例えば300mm/s)より小さい。処理装置9は、S47で肯定判断する場合は(S47でYes)、S29に進む。一方、処理装置9は、S47で否定判断する場合は(S47でNo)、S33に進む。
【0060】
人の体内101の動脈を流れる血液の流速の変化量は、静脈を流れる血液の流速の変化量より大きい。処理装置9がS47で肯定判断する場合は、血液の流速の変化量が所定の変化量より大きいので、その血液が流れている血管が動脈であると判断することができる。一方、処理装置9がS47で否定判断する場合は、血液の流速の変化量が所定の変化量より小さいので、その血液が流れている血管が静脈であると判断することができる。
【0061】
(その他の実施例)
上記のS47で処理装置9が血液の流速の変化量を判断する処理の他の例について説明する。他の例では、
図12または
図13に示すように、処理装置9が、S23で得られた血液の流速の波形の1波長を同じ時間で等分割する。例えば、処理装置9は、波形の1波長を0.5秒間隔で3等分割する。続いて処理装置9は、分割した波形の各区間の面積S1、S2、S3を算出する。波形の面積は距離に対応している。続いて処理装置9は、各区間の面積S1、S2、S3の平均面積Sa(=S1+S2+S3/3)を算出する。続いて処理装置9は、平均面積Saを1波長の期間Tで除して平均流速Va(=Sa/T)を算出する。そして処理装置9は、波形の1波長の間に、平均流速Va+(プラス)100mm/sより速い血液の流速と、平均流速Va-(マイナス)100mm/sより遅い血液の流速との両方が出現する場合は、血液の流速の変化量が所定の変化量より大きいと判断する。なお、血液の流速の変化量の演算方法は特に限定されるものではない。
【0062】
上記の実施例では測定装置1が人の体Bに適用されていたが、他の実施例では測定装置1が人以外の動物(例えば犬や猫)の体に適用されてもよい。
【0063】
上記の実施例では処理装置9がS31の処理を実行していたが、他の実施例ではS31の処理を省略してもよい。処理装置9は、S25で否定判断した場合は、S31の処理を実行せずにS11に戻ってもよい。
【0064】
また、表示装置4における表示は、上記の構成に限定されるものではない。例えば、
図15に示すように、処理装置9が、距離Xの範囲を表示装置4に表示してもよい。処理装置9は、測定処理(S11-S33)を複数回繰り返した後に、距離Xの範囲を表示装置4に表示する。また、動脈を表す「動脈」の文字列C1と、静脈を表す「静脈」の文字列C2とを、距離Xの範囲の隣に表示する。
【0065】
また、
図16に示すように、処理装置9は、距離Xの目盛りを表示装置4に表示してもよい。また、動脈および静脈を表す表示は、文字列に限定されるものではない。例えば、
図16に示すように、動脈を表す表示が濃い色の表示であり、静脈を表す表示が薄い色の表示であってもよい。あるいは、動脈を表す表示が強い光の表示であり、静脈を表す表示が弱い光の表示であってもよい。動脈と静脈を認識できる表示であれば特に限定されるものではない。
【0066】
上記の実施例では、受光装置3から出力される信号が電圧信号であったが、この構成に限定されるものではなく、受光装置3から電流信号が出力されてもよい。
【0067】
上記の実施例では、第1ミラー43と第2ミラー44を用いていたが、この構成に限定されるものではなく、ミラーに代えて、端面を十分に研磨したガラスブロック等のレーザー光を全反射する部材を用いてもよい。
【0068】
上記の実施例では、反射型の回折格子23を用いていたが、この構成に限定されるものではなく、反射型に代えて、透過型の回折格子を用いてもよい。この場合、発光素子21とコリメーターレンズ22と透過型の回折格子が並ぶ順序が、
図1に示す順序と逆になる(図示省略)。また、移動装置の構成は、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の照射位置を移動させて交差点10の位置を移動させることができれば特に限定されるものではない。また、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2は、回折格子23に代えて、光束を分割するビームスプリッタ等の素子で生成されてもよい。
【0069】
上記の実施例では、箱体38の前壁38aに形成されている光通過孔35が中空の構成であったが、この構成に限定されるものではなく、光通過孔35に光透過性を有する部材が配置されていてもよい。例えば、光通過孔35にガラスが充填されていてもよい。
【0070】
上記の実施例では、照射装置2が移動装置25を備えていたが、他の実施例では、照射装置2が移動装置25を備えていなくてもよい。この場合は、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2の交差点10が、最初から筐体8の外側に位置している(
図2参照)。
【0071】
上記の実施例では、遮断装置5が枠部材51と開閉部材52を備えている構成であったが、遮断装置5の構成はこれに限定されるものではない。他の実施例では、第1ミラー43が遮断装置5を構成していてもよい。より詳細には、
図17に示すように、第1ミラー43が、第1反射面241と、第1非反射面243とを備えていてもよい。第1反射面241と第1非反射面243は、互いに反対方向を向いている。第1ミラー43は、回転可能に構成されており、第1反射面241が受光装置3側を向く反射状態と、第1非反射面243が受光装置3側を向く非反射状態とを切り換え可能に構成されている。反射状態では、第1レーザー光L1が第1ミラー43で反射して人の体内101に入射する。反射状態では第1レーザー光L1が遮断されない。第1ミラー43の反射状態が遮断装置5の非遮断状態に対応している。一方、非反射状態では、第1レーザー光L1が第1ミラー43で反射せず、人の体内101に入射しない。非反射状態では第1レーザー光L1が遮断される。第1ミラー43の非反射状態が遮断装置5の遮断状態に対応している。
【0072】
(第3実施例)
上記の実施例では、第1レーザー光L1の進路上に遮断装置5が配置されていたが、第3実施例では、
図18に示すように、第1レーザー光L1の進路上と第2レーザー光L2の進路上とのそれぞれに遮断装置5(5a、5b)が配置されていてもよい。第1レーザー光L1の進路上に第1遮断装置5aが配置されており、第2レーザー光L2の進路上に第2遮断装置5bが配置されていてもよい。処理装置9が、第1レーザー光L1の進路上の第1遮断装置5aの遮断状態/非遮断状態と、第2レーザー光L2の進路上の第2遮断装置5bの遮断状態/非遮断状態とを交互に切り換えてもよい。
【0073】
次に、第3実施例に係る測定処理について説明する。
図19に示すように、第3実施例に係る測定処理では、S15の処理の後にS51の処理が実行される。S15までの処理については、第1実施例で説明したS15までの処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。S15に続くS51では、処理装置9が、第1レーザー光L1の進路上に配置されている第1遮断装置5aを非遮断状態にする。また、処理装置9が、第2レーザー光L2の進路上に配置されている第2遮断装置5bを非遮断状態にする。処理装置9が第1遮断装置5aと第2遮断装置5bを共に非遮断状態にすると、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2が共に人の体Bに照射され、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2が共に人の体内101に入射する。
【0074】
続いてS17aでは、処理装置9が、受光素子31から電圧信号を受信する。処理装置9は、第1レーザー光L1と第2レーザー光L2が共に人の体Bに照射されているときの電圧信号を受信する。S17aの処理については、第1実施例で説明したS17の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。続いてS19aでは、処理装置9が、受光素子31から受信してサンプリングした電圧信号をフーリエ変換する。S19aの処理については、第1実施例で説明したS19の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0075】
続いてS21aでは、処理装置9が、S19aの処理で得られた周波数スペクトルにおけるピーク周波数fp(第1ピーク周波数fp1)を検出する。S21aの処理については、第1実施例で説明したS21の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0076】
続いてS52では、処理装置9が、第1レーザー光L1の進路上に配置されている第1遮断装置5aを非遮断状態にする。その一方で、処理装置9が、第2レーザー光L2の進路上に配置されている第2遮断装置5bを遮断状態にする。処理装置9が第1遮断装置5aを非遮断状態にすると、第1レーザー光L1が人の体Bに照射され、第1レーザー光L1が人の体内101に入射する。一方、処理装置9が第2遮断装置5bを遮断状態にすると、第2レーザー光L2が人の体Bに照射されず、第2レーザー光L2が人の体内101に入射しない。
【0077】
続いてS17bでは、処理装置9が、受光素子31から電圧信号を受信する。処理装置9は、第1レーザー光L1が人の体Bに照射されている一方で第2レーザー光L2が人の体Bに照射されていないときの電圧信号を受信する。S17bの処理については、第1実施例で説明したS17の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。続いてS19bでは、処理装置9が、受光素子31から受信してサンプリングした電圧信号をフーリエ変換する。S19bの処理については、第1実施例で説明したS19の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0078】
続いてS21bでは、処理装置9が、S19bの処理で得られた周波数スペクトルにおけるピーク周波数fp(第2ピーク周波数fp2)を検出する。S21bの処理については、第1実施例で説明したS21の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0079】
続いてS53では、処理装置9が、第1レーザー光L1の進路上に配置されている第1遮断装置5aを遮断状態にする。その一方で、処理装置9が、第2レーザー光L2の進路上に配置されている第2遮断装置5bを非遮断状態にする。処理装置9が第1遮断装置5aを遮断状態にすると、第1レーザー光L1が人の体Bに照射されず、第1レーザー光L1が人の体内101に入射しない。一方、処理装置9が第2遮断装置5bを非遮断状態にすると、第2レーザー光L2が人の体Bに照射され、第2レーザー光L2が人の体内101に入射する。
【0080】
続いてS17cでは、処理装置9が、受光素子31から電圧信号を受信する。処理装置9は、第1レーザー光L1が人の体Bに照射されていない一方で第2レーザー光L2が人の体Bに照射されているときの電圧信号を受信する。S17cの処理については、第1実施例で説明したS17の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。続いてS19cでは、処理装置9が、受光素子31から受信してサンプリングした電圧信号をフーリエ変換する。S19cの処理については、第1実施例で説明したS19の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0081】
続いてS21cでは、処理装置9が、S19cの処理で得られた周波数スペクトルにおけるピーク周波数fp(第3ピーク周波数fp3)を検出する。S21cの処理については、第1実施例で説明したS21の処理(
図9参照)と同様なので詳細な説明を省略する。
【0082】
続いてS54では、処理装置9が、合成ピーク周波数fpを演算する。処理装置9は、上記のS21aで検出した第1ピーク周波数fp1と、S21bで検出した第2ピーク周波数fp2と、S21cで検出した第3ピーク周波数fp3とに基づいて合成ピーク周波数fpを演算する。処理装置9は、下記の式(2)によって、合成ピーク周波数fpを演算することができる。なお、合成ピーク周波数fpの演算方法については特に限定されない。
【数2】
【0083】
続いてS23では、処理装置9が、S54で演算した合成ピーク周波数fpに基づいて血液の流速を特定する。S23の処理については、第1実施例で説明したので詳細な説明を省略する(
図9参照)。また、S23以降の処理についても、第1実施例で説明したので詳細な説明を省略する(
図9参照)。
【0084】
以上、第3実施例に係る測定装置1について説明した。上記の説明から明らかなように、第3実施例に係る測定装置1は、第1レーザー光L1を遮断する第1遮断装置5aと、第2レーザー光L2を遮断する第2遮断装置5bとを備えている。処理装置9は、第1遮断装置5aと第2遮断装置5bが共に非遮断状態であるときに受光装置3が出力した信号と、第1遮断装置5aが遮断状態である一方で第2遮断装置5bが非遮断状態であるときに受光装置3が出力した信号と、第1遮断装置5aが非遮断状態である一方で第2遮断装置5bが遮断状態であるときに受光装置3が出力した信号と、に基づいて交差点10が当たっている血液の流速を特定する(S51-S23)。
【0085】
この構成によれば、第1遮断装置5aの遮断状態/非遮断状態と、第2遮断装置5bの遮断状態/非遮断状態とを組み合わせて血液の流速を特定することによって、血液の流速を精度良く特定することができる。
【0086】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0087】
1 :測定装置
2 :照射装置
3 :受光装置
4 :表示装置
5 :遮断装置
5a :第1遮断装置
5b :第2遮断装置
8 :筐体
9 :処理装置
10 :交差点
21 :発光素子
22 :コリメーターレンズ
23 :回折格子
25 :移動装置
31 :受光素子
35 :光通過孔
36 :入射口
37 :出射口
43 :第1ミラー
44 :第2ミラー
51 :枠部材
52 :開閉部材
53 :開口部
81 :先端部材
82 :開口部
85 :突起
241 :第1反射面
242 :第2反射面
243 :第1非反射面
251 :ボルト
252 :リニアエンコーダ