(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ヘッダープレートレス型熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 1/02 20060101AFI20230314BHJP
F28D 9/00 20060101ALI20230314BHJP
F28F 9/02 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
F28F1/02 A
F28D9/00
F28F9/02 G
(21)【出願番号】P 2019561681
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018047420
(87)【国際公開番号】W WO2019131571
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017251881
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋一
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073779(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0144978(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 9/00-9/04,7/00-7/16
F28F 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ両側に一対の側壁(1)が立上げられて全体が溝状に形成され且つ、その側壁(1)に直交した溝底(3)の両開放側の縁に厚み方向外側に細幅の膨出部(4)が形成されている一対のプレート(5)(6)を有し、それらのプレート(5)(6)が互いに逆向きに対向して嵌着されている偏平チューブ(7)と、
複数の偏平チューブ(7)が、膨出部(4)で互いに積層され、各プレート(5)(6)が互いにろう付接合されている熱交換器コア(15)と、を有し、
各偏平チューブ(7)の前記膨出部(4)の先端から第一流体(10)が内部に流入し、その外側に第二流体(11)が流通する熱交換器であって、
膨出部(4)
の近傍に
、前記膨出部(4)に平行で且つ略同一長さに、各プレ
ート(5)(6)の外面側
からみたときに凹陥
している幅の狭い凹溝部(4c)が形成されており、その内面側にはそれと逆の凸条部が形成されたヘッダープレートレス型熱交換器。
【請求項2】
前記各プレート(5)(6)の前記膨出部(4)の幅が、前記膨出部(4)の長手方向の両端部で広い幅広部(4b)となり、それ以外の中間部で狭い幅狭部(4a)に形成され且つ、前記両端部では前記側壁(1)に近づく程広くなる平面三角の、または平面が湾曲した、前記ろう付接合部を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッダープレートレス型熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として排気ガスを冷却水で冷却するEGRクーラや、排気ガスの熱を冷却水に回収する排熱回収器に最適な熱交換器であって、ヘッダープレートレス型のコアを有するものに関する。
このヘッダープレートレス型のコアは、偏平チューブの開口端を厚み方向に膨出したものを使用し、その膨出部において積層することにより、ヘッダープレートを不要としたものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1にヘッダープレートレス型熱交換器が提案されている。
この熱交換器コア15aは、
図5、
図6、
図7に示す如く、そのコアを形成する偏平チューブ16aが、一対の溝型に形成されたプレートを互いにその溝底を対向して嵌着したものからなり、その両端開放側の縁に膨出部16bが形成され、その膨出部16bにおいて積層し、各プレート間を一体にろう付固定したものである。そして、
図6に示されているように、各プレートの交角θは鋭角に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヘッダープレートレス型熱交換器は、排気ガスの入口部において、各偏平チューブが高温となり、繰り返し生じるヒートサイクルにより熱交換器が劣化するおそれがある。
これは、ヘッダープレートレス型熱交換器は構造が簡単になる利点を有するも、欠点として、ヘッダープレートのある熱交換器に比べて、各偏平チューブの先端部の冷却性が悪くその部分が高温となるからである。
そこで、本発明はヘッダープレートレスの利点を有しつつ、可能な限り偏平チューブの先端部の温度を低下できる熱交換器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、それぞれ両側に一対の側壁1が立上げられて全体が溝状に形成され且つ、その側壁1に直交した溝底3の両開放側の縁に厚み方向外側に細幅の膨出部4が形成されている一対のプレート5,6を有し、それらのプレート5,6が互いに逆向きに対向して嵌着されている偏平チューブ7と、
複数の偏平チューブ7が、膨出部4で互いに積層され、各プレート5,6が互いにろう付接合されている熱交換器コア15と、を有し、
各偏平チューブ7の前記膨出部4の先端から第一流体10が内部に流入し、その外側に第二流体11が流通する熱交換器であって、
膨出部4の近傍に、前記膨出部4に平行で且つ略同一長さに、各プレート5、6の外面側からみたときに凹陥している幅の狭い凹溝部4cが形成されており、その内面側にはそれと逆の凸条部が形成されたヘッダープレートレス型熱交換器である。
請求項2に記載の本発明は、前記各プレート5,6の前記膨出部4の幅が、前記膨出部4の長手方向の両端部で広い幅広部4bとなり、それ以外の中間部で狭い幅狭部4aに形成され且つ、前記両端部では前記側壁1に近づく程広くなる平面三角の、または平面が湾曲した、前記ろう付接合部を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッダープレートレス型熱交換器である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、各プレート5,6の外面側
からみたときに凹陥
している幅の狭い凹溝部4cが、膨出部4に平行で且つ略同一の長さに形成されたものである。そのため、膨出部4近傍、すなわち凹溝部4cを流れる冷却水の流量が増加する。
また、
図6に示されている従来型の偏平チューブ16aにおける積層部の外面側の交角θが鋭角に形成されているのに対し、本発明の偏平チューブ7の場合、凹溝部4cの形成に伴って拡開されることによっても膨出部4近傍の冷却水の流量が増加する。これらの結果、偏平チューブ7の先端部の冷却が促進され、当該先端部の温度上昇が抑制されるので、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
さらに、凹溝部4cが膨出部4の長手方向の曲りに対する補強リブとして機能するので、膨出部4の幅を狭くすることが可能となり、その結果、冷却水から偏平チューブ7の先端までの距離が短くなる。これによっても、当該先端部の冷却が促進され、当該先端部の温度上昇が抑制されるので、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
また、凹溝部4cが偏平チューブ7の軸方向の伸縮に対する弾性変形要素として機能し、同方向の熱膨張差が吸収されるので、それによっても、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
請求項2に記載の本発明は、前記膨出部4の長手方向の両端部で広い幅広部4bが形成され、それ以外の中間部で狭い幅狭部4aが形成されているため、排気ガスによる温度上昇の大きい部位(膨出部4の長手方向の中間部)の冷却効果が高まる。
さらに、前記膨出部4の幅広部4bを側壁1,2に近づく程広くなる平面三角または湾曲した形に形成したものである。それにより、側壁近傍の熱応力の集中が緩和されるので、よりいっそう、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は本発明の熱交換器コアの要部平面図。
図2は
図1のII-II矢視断面図。
図3は同熱交換器コアに用いられる偏平チューブ7の要部斜視図(A)及び同偏平チューブ7の積層体からなる熱交換器コア15の要部縦断面斜視図(B)。
図4は同熱交換器コア15を有する熱交換器の分解斜視図。
図5は従来型偏平チューブ16aの要部平面図。
図6は同偏平チューブ16aの積層体からなるコアの要部縦断面図であって、
図5のVI-VI矢視断面図。
図7は同偏平チューブ16aの要部斜視図及びその偏平チューブ16aの積層体からなる熱交換器コア15aの要部縦断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
本発明の熱交換器は、主としてEGRクーラとして最適なものである。この実施形態の説明において、排気ガスは第一流体10であり、冷却水は第二流体11に相当する。
この熱交換器は、
図4に示す如く、多数の偏平チューブ7を積層して熱交換器コア15を形成し、その熱交換器コア15の外周をケーシング12で被嵌する。そして、各偏平チューブ7の内面側に排気ガス(第一流体)10を流通させ、その外面側に冷却水(第二流体)11を流通させるものである。
熱交換器コア15を形成する各偏平チューブ7は、
図1~
図3に示す如く、両端に一対の側壁1が立ち上げられ、全体が溝状に形成された一対のプレート5,プレート6を互いに逆向きに対向して嵌着したものからなる。
各プレート5,プレート6の両開放側(偏平チューブ7の開口端が形成される側)の縁には、厚み方向外方に幅の狭い膨出部4が形成されている。
また、各偏平チューブ7の内部にはインナーフィン9が挿入されている。
互いに接合される各部品の少なくとも一方側にはろう材が被覆又は塗布されていることが好ましい。
なお、ケーシング12は箱状のケーシング本体12aと蓋12bとにより形成される。そして、ケーシング12の長手方向の両端に一対の排気ガス(第一流体)10用のパイプ13を配置し、熱交換器コア15の水路17に冷却水が流通するように冷却水(第二流体)11用のパイプ14をケーシング12に配置する。そして、高温の炉内で各部品間を一体的にろう付して熱交換器を形成する。
(発明の特徴)
ここにおいて本発明の特徴とするところは、
図1,
図2に示す膨出部4の形状である。
この膨出部4は、プレート5,プレート6の開放側において厚み方向に膨出させたものである。
この例では、膨出部4はその幅が
図1において、両端部で広くそれ以外で狭く形成されている。即ち、中間部では幅狭部4aが幅L1、両端部ではその幅広部4bが幅L2となる。ここに、L2>L1である。その幅広部4bにおける幅は、側壁1の両側に近づく程広くなる平面三角または平面が湾曲した形状になる。
さらに、この幅狭部4aの範囲において、幅狭部4aに並列し凹溝部4cが形成されている。この凹溝部4cは、
図2に示す如く、各プレート5,プレート6の外面側に形成されており、狭い幅で凹陥している。そして、凹溝部4cは、幅狭部4aに平行で且つ、それとほぼ同一長さに形成されている。
なお、この例では
図1,
図2に示す如く、凹溝部4cの長さは幅狭部4aの長さと略同一に形成されているが、これに変えて、凹溝部4cを膨出部4に沿って形成し、凹溝部4cの長さを膨出部4の全長と同一の長さとしてもよい。
各プレート5,プレート6の内面側から見ると、凹陥部4cは細長い凸条に形成されている。この凹溝部4cは、インナーフィンの位置決めとして用いることもできる。
そして、各偏平チューブ7は膨出部4において積層され、偏平チューブ7の内面側に排気ガス(第一流体)10が流入するガス路16が形成される。そのガス路16にはインナーフィン9が内装されている。
また、偏平チューブ7の外面側には水路17が形成され、そこに冷却水(第二流体)11が供給される。その水路17側において、凹溝部4cは冷却水(第二流体)11の案内路となる。即ち、凹溝部4cを介して幅狭部4aに冷却水(第二流体)11をより円滑に導くことができ、偏平チューブの先端部を効果的に冷却するものである。
(作用)
このような熱交換器において、各偏平チューブ7の入口側の開口端から排気ガス(第一流体)10がその内部に流入する。そして偏平チューブ7の外面側には、一方のパイプ14から流入した冷却水(第二流体)11が各偏平チューブ7に供給される。
偏平チューブ7を構成する各プレート5,6の外面側には、凹陥した幅の狭い凹溝部4cが幅狭部4aに平行で且つ略同一の長さに形成されているため、偏平チューブ7の外面側の幅狭部4a近傍、すなわち凹溝部4cを流れる冷却水(第二流体)11の流量が増加する。
また、凹溝部4cの形成に伴って偏平チューブ7における積層部の外面側の交角が拡開されているので、幅狭部4a近傍の冷却水(第二流体)11の流量が増加する。これらの結果、偏平チューブ7の先端部の冷却が促進され、当該先端部の温度上昇が抑制されるので、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
さらに、凹溝部4cが幅狭部4aの長手方向の曲りに対する補強リブとして機能するので、幅狭部4aの幅を狭くすることが可能となり、その結果、冷却水から偏平チューブ7の先端までの距離が短くなる。これによっても、当該先端部の冷却が促進され、当該先端部の温度上昇が抑制されるので、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
また、凹溝部4cが偏平チューブ7の軸方向の伸縮に対する弾性変形要素として機能し、同方向の熱膨張差が吸収されるので、それによっても、ヒートサイクルによる熱交換器の劣化が防止される。
本発明の効果を確認するために一例について数値解析を実施したところ、
図5、
図6、
図7に示す従来型の熱交換器コアの偏平チューブの先端部温度の最大値が358℃であったのに対し、本発明の熱交換器コアの偏平チューブの先端部温度の最大値は265℃であり、大幅な温度低下効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明は、EGRクーラとして最適であると共に、排熱回収器等の他の熱交換器にも適用できる。
【符号の説明】
【0010】
1 側壁
3 溝底
4 膨出部
4a 幅狭部
4b 幅広部
4c 凹溝部
5 プレート
6 プレート
7 偏平チューブ
8 ディンプル
9 インナーフィン
10 第一流体(排気ガス)
11 第二流体(冷却水)
12 ケーシング
12a ケーシング本体
12b 蓋
13 パイプ
14 パイプ
15 熱交換器コア
15a 熱交換器コア
16 ガス路
16a 偏平チューブ
16b 膨出部
17 水路