(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属用保持炉
(51)【国際特許分類】
F27B 3/20 20060101AFI20230314BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20230314BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
F27B3/20
H05B3/00 340
F27D11/02 A
(21)【出願番号】P 2020016884
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592017002
【氏名又は名称】三建産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】岸村 司
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】実公昭33-008704(JP,Y1)
【文献】特開昭64-003495(JP,A)
【文献】特開昭64-002768(JP,A)
【文献】特開2011-237056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00-3/28
F27D 11/02-11/04
H05B 3/00
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気ヒーターによって溶湯を加熱する室を備え、溶湯に投入された非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉であって、
前記電気ヒーターは、前記室において前記溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極となる発熱部素材と、前記発熱部素材の、電源を接続する側に接合され前記発熱部素材より小さい抵抗値を有する導電部素材を備え、
前記発熱部素材は有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、前記溶湯を利用して前記一対の電極間に電流を流すように
し、
前記発熱部素材の、前記溶湯に浸漬した先端を開放状態とし、前記発熱部素材と前記導電部素材の外周面を絶縁材で連続的に覆うとともに、前記絶縁材の一端を、前記溶湯に接触する部分より前記電源を接続する側の位置になるように設けたことを特徴とする非鉄金属用溶解炉。
【請求項2】
電気ヒーターによって溶湯を加熱する室を備え、非鉄金属が溶解された前記溶湯を保持する非鉄金属用保持炉であって、
前記電気ヒーターは、前記室において前記溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極となる発熱部素材と、前記発熱部素材の、電源を接続する側に接合され前記発熱部素材より小さい抵抗値を有する導電部素材を備え、
前記発熱部素材は有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、前記溶湯を利用して前記一対の電極間に電流を流すように
し、
前記発熱部素材の、前記溶湯に浸漬した先端を開放状態とし、前記発熱部素材と前記導電部素材の外周面を絶縁材で連続的に覆うとともに、前記絶縁材の一端を、前記溶湯に接触する部分より前記電源を接続する側の位置になるように設けたことを特徴とする非鉄金属用保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の非鉄金属を、各種鋳造製品の製造に使用すべく溶解したり保持するための非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属用保持炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金等の非鉄金属をバーナにかえて電気ヒーターを利用して溶解する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
電気ヒーターとしては、
図4に示すように、抵抗体1を使用して浸漬チューブ10の内面を輻射加熱するタイプのものや、
図5に示すように、抵抗体2と浸漬チューブ10の間に熱伝導率の高い充填材5を充填して伝熱加熱するタイプのもの、あるいは、特許文献1のようにこれらを併用したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、輻射加熱するタイプのものは、伝熱係数と浸漬チューブ10の厚さに起因する内部温度の制約から、伝熱できる単位面積あたりのエネルギー密度が大きく取れないといった問題がある。
また、充填材5を充填して伝熱加熱するタイプのものにおいても、浸漬チューブ10の厚さに起因するエネルギー密度の制約がある。
【0006】
これらは、いずれも浸漬チューブ10といった有底環状管を使用するものであるために生じる問題であるので、本発明者は、有底環状管を排除することを念頭に種々検討した結果、本発明をするに至った。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、電気ヒーターによる加熱を効率的に行うことのできる非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属用保持炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、電気ヒーター(20,30)によって溶湯(S)を加熱する室(101)を備え、溶湯(S)に投入された非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉(100)であって、
前記電気ヒーター(20,30)は、前記室(101)において前記溶湯(S)に浸漬され、水平方向に所定間隔(L)を開けて対向する少なくとも一対の電極となる発熱部素材(21,31)と、前記発熱部素材(21,31)の、電源(200)を接続する側に接合され前記発熱部素材(21,31)より小さい抵抗値を有する導電部素材(22,32)を備え、
前記発熱部素材(21,31)は有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、前記溶湯(S)を利用して前記一対の電極間に電流を流すようにし、
前記発熱部素材(21,31)の、前記溶湯(S)に浸漬した先端(21a,31a)を開放状態とし、前記発熱部素材(21,31)と前記導電部素材(22,32)の外周面を絶縁材(40)で連続的に覆うとともに、前記絶縁材(40)の一端(40a)を、前記溶湯(S)に接触する部分より前記電源(200)を接続する側の位置になるように設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、電気ヒーター(20,30)によって溶湯(S)を加熱する室を備え、非鉄金属が溶融された前記溶湯(S)を保持する非鉄金属用保持炉であって、
前記電気ヒーター(20,30)は、前記室において前記溶湯(S)に浸漬され、水平方向に所定間隔(L)を開けて対向する少なくとも一対の電極となる発熱部素材(21,31)と、前記発熱部素材(21,31)の、電源(200)を接続する側に接合され前記発熱部素材(21,31)より小さい抵抗値を有する導電部素材(22,32)を備え、
前記発熱部素材(21,31)は有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、前記溶湯(S)を利用して前記一対の電極間に電流を流すようにし、
前記発熱部素材(21,31)の、前記溶湯(S)に浸漬した先端(21a,31a)を開放状態とし、前記発熱部素材(21,31)と前記導電部素材(22,32)の外周面を絶縁材(40)で連続的に覆うとともに、前記絶縁材(40)の一端(40a)を、前記溶湯(S)に接触する部分より前記電源(200)を接続する側の位置になるように設けたことを特徴とする。
【0012】
なお、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非鉄金属用溶解炉の溶解室や保持室といった溶湯を加熱する室に設けられ溶湯を加熱する電気ヒーターは、一対の電極となる発熱部素材と、その発熱部素材に接合され発熱部素材より小さい抵抗値を有する導電部素材からなり、発熱部素材は、浸漬チューブなどの有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、溶湯を利用して一対の電極間に電流を流すように構成されているので、従来のように浸漬チューブ内に加熱源があるものと比較して伝熱できる単位面積あたりのエネルギー密度が大きく、効率的に溶湯を加熱することができる。
ここで、電気ヒーターが設けられる室は、非鉄金属用溶解炉の溶解室でもよいし、非鉄金属用溶解炉の保持室でもよい。また、溶解室及び保持室の両方であってもよい。
また、非鉄金属用溶解炉に限らず、非鉄金属用保持炉の保持室であってもよい。
電気ヒーターは、非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属用保持炉に対して上下方向に延びる縦型のものであっても、水平方向に延びる横型のものであってもよい。
【0015】
また、本発明によれば、発熱部素材と導電部素材の外周面を絶縁材で連続的に覆うとともに、絶縁材の一端を溶湯する部分より電源を接続する側の位置になるように設けたので、感電や炉周辺機器の破損を防止することができる。このとき、発熱部素材の先端については絶縁材で覆うことなく開放状態にしてあるので、発熱部素材の先端が直接、溶融金属と接触することで伝熱係数が大きくさらに効率的に溶湯を加熱することができる。
【0016】
本発明のように、非鉄金属用溶解炉に設けられた電気ヒーターは一対の電極となる発熱部素材と導電部素材からなり、発熱部素材を有底環状管内に挿入されることなく露出状態にして一対の電極間に電流を流すようにしたものは、上述した特許文献1には一切記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉の要部を示す側断面図である。
【
図2】
図1に示す非鉄金属用溶解炉に設けられる別の電気ヒーターの要部をする側断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る別の非鉄金属用溶解炉の要部を示す側断面図である。
【
図4】従来例に係る非鉄金属用溶解炉に設けられる電気ヒーターの要部をする側断面図である。
【
図5】従来例に係る非鉄金属用溶解炉に設けられる別の電気ヒーターの要部をする側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉100について説明する。
本実施形態に係る非鉄金属用溶解炉100は、アルミニウム合金等の非鉄金属を、ダイカスト鋳造等の鋳造製品を製造するために溶解するものである。
この非鉄金属用溶解炉100は、溶湯Sを溜める室として溶解室101と、保持室(図示を省略)とを備え、溶解室101側に、溶湯Sを加熱する電気ヒーター20,30が設けられている。
【0019】
溶解室101は、溶湯Sを加熱する室であって、溶湯Sに投入された非鉄金属(インゴットや切粉)が溶湯Sの熱によって溶解される
溶解室101に隣接して堰で隔てられた保持室が設けられ、溶解室101の容量を超えた溶湯が堰をオーバーフローして保持室に供給されるようになっている。
【0020】
電気ヒーター20,30は、少なくとも一対(ここでは一対)で、水平方向に所定間隔Lを開けて対向するように配置される。
電気ヒーター20,30は、それぞれ、発熱部素材21,31と、その発熱部素材21,31の上部(後述する電源200を接続する側)に接合された導電部素材22,32からなり、発熱部素材21,31が一対の電極となって両者間に電流が溶湯Sを利用して流れるようになっている。
電気ヒーター20,30の発熱部素材21,31及び導電部素材22,32の材質は、特に限定されるものではないが、例えばSiC(シリコンカーバイド),C(炭素)などからなる。そして、発熱部素材21,31(ここでは導電部素材22,32についても)は、特に浸漬チューブなどの有底環状管内に挿入されることなく溶湯Sの中では露出状態にされている(ここでは溶湯Sより上方に突出した導電部素材22,32についても露出状態としている)。
【0021】
また電気ヒーター20,30は、交流電源200に接続された変換器300で変換された直流により作動するようにされている。
変換器300としては、交流を直流に変換するものであれば使用できるが、ここではサイリスタレギュレータを使用した。
【0022】
溶湯Sにはセンサーとして熱電対700が取付けられ、熱電対700からの溶湯Sの温度情報が温度調節器(図示しない)に送られてモニタされ、その溶湯温度に応じて一対の電極(発熱部素材21,31)間に流れる電流量(すなわち発熱量)を制御し、溶湯温度を所望の温度としている。
【0023】
また交流電源200と電気ヒーター20,30の導電部素材22,32の間には感電防止のため絶縁トランス500が設けられている。絶縁トランス500について省くこともできる。また、絶縁トランス500を使用することにかえて4線式Y結線を用いて感電防止を図ることもできる。
また、溶湯Sにはその他に、接地電極(図示しない)も浸漬しておりアースされている。
【0024】
以上のように構成された非鉄金属用溶解炉100によれば、溶解室101に設けられ溶湯Sを加熱する電気ヒーター20,30を、一対の電極となる発熱部素材21,31と、その発熱部素材21,31の上部に接合され発熱部素材21,31より小さい抵抗値を有し溶湯Sに下部側だけが浸漬された導電部素材22,32からなるものとし、発熱部素材21,31は、浸漬チューブなどの有底環状管内に挿入されることなく露出状態であり、溶湯Sを利用して一対の電極間(発熱部素材21,31間)に電流を流すように構成されているので、従来のように浸漬チューブ内に加熱源があるものと比較して伝熱できる単位面積あたりのエネルギー密度が大きく、効率的に溶湯を加熱することができる。
しかも、電気ヒーター20,30は、交流電源200に接続された変換器300で変換された直流により作動するものであるので、直流電極を使用するものと比較してコストを抑えられる。
【0025】
なお、
図2に示すように、電気ヒーター20(電気ヒーター30についても同様)の発熱部素材21と導電部素材22の外周面を絶縁材40で連続的に覆うとともに、絶縁材40の上端(一端)40aを溶湯Sより上方の位置、すなわち溶湯Sに接触する部分より電源200を接続する側の位置になるように設けるようにすることもでき、これによれば、感電や炉周辺機器の破損を防止することができる。絶縁材40による被覆は、電気ヒーター20の外周面に絶縁材40が付着するように加工したものであるが、円筒状の絶縁材40の内部に電気ヒーター20を差し込むようにしてもよい。
このとき、発熱部素材21の下端(先端)21aについては絶縁材40で覆うことなく開放状態にしてあるので、発熱部素材21の下端21aが直接、溶融金属と接触することで伝熱係数が大きくさらに効率的に溶湯Sを加熱することができる。
【0026】
図1では、電気ヒーターは、非鉄金属用溶解炉100に対して上下方向に延びる縦型のものであるが、
図3に示すように、水平方向に延びる横型のものとすることもできる。
このとき、電気ヒーター20の発熱部素材21の先端21aと、電気ヒーター30の発熱部素材31の先端31aが水平方向において相対向するように配置されている。このとき、電気ヒーター20,30は炉壁に対して密封状態で取付けられている。
【0027】
なお、本実施形態では、非鉄金属用溶解炉100の溶解室101内に電気ヒーター20,30を設けた場合を例示したが、非鉄金属用溶解炉100の保持室(図示しない)内に電気ヒーター20,30を設けるようにしてもよいし、溶解室101と保持室の両方に設けるようにしてもよい。
また、非鉄金属用溶解炉100に限らず、非鉄金属が溶融された溶湯Sを保持する非鉄金属用保持炉の保持室に、電気ヒーター20,30を設けることもできる。
【0028】
また、変換器300を介して交流を直流に変換するようにしたが、交流をそのまま、あるいは交流を別の異なる交流に変換して電気ヒーター20,30を作動させることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 抵抗体
2 抵抗体
5 充填材
10 浸漬チューブ
20 電気ヒーター
21 発熱部素材
21a 下端(先端)
22 導電部素材
30 電気ヒーター
31 発熱部素材
31a 下端(先端)
32 導電部素材
40 絶縁材
40a 上端
100 非鉄金属用溶解炉
101 溶解室
200 交流電源
300 変換器
500 絶縁トランス
700 熱電対(センサー)
L 所定間隔
S 溶湯