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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】光透過素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1506 20190101AFI20230314BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G02F1/1506
G02F1/155
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020510059
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012432
(87)【国際公開番号】W WO2019188952
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018069404
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148689
【氏名又は名称】株式会社村上開明堂
(74)【代理人】
【識別番号】100090228
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】持塚 多久男
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-005497(JP,A)
【文献】特開昭62-198835(JP,A)
【文献】実開昭62-019631(JP,U)
【文献】特開2016-157064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0248825(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0146276(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15 - 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、
前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、
前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、
前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、
前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜は、分割線を有しない連続した領域で構成され、
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、
前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、
前記第2金属電極は前記第2透明導電膜に接続され、
前記第2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域に面する領域に存在するものとなりかつ前記第1-2分割領域に面する領域に存在しないものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されている光透過素子。
【請求項2】
光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、
前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、
前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、
前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、
前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜は、分割線を有しない連続した領域で構成され、
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、
前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、
前記第2金属電極は前記第2透明導電膜に接続され、
前記第2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されている光透過素子。
【請求項3】
光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、
前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、
前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、
前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、
前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜は、分割線を有しない連続した領域で構成され、
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、
前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、
前記第2金属電極は前記第2透明導電膜に接続され、
前記第2金属電極は相互に分離された第2-1金属電極と第2-2金属電極を有し、
前記第2-1金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-1金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域に面する領域に存在するものとなりかつ前記第1-2分割領域に面する領域に存在しないものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続され、
前記第2-2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されている光透過素子。
【請求項4】
光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、
前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、
前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、
前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、
前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜に第2分割線が形成され、
前記第2透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第2分割線で相互に電気的に絶縁された第2-1分割領域と第2-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第1分割線と前記第2分割線は互いに重なる位置に形成され、
前記第1-1分割領域と前記第2-1分割領域は相互に対向し、前記第1-2分割領域と前記第2-2分割領域は相互に対向するように配置され、
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、
前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、
前記第2金属電極は前記第2-1分割領域および前記第2-2分割領域に接続されて前記第2-1分割領域と前記第2-2分割領域を短絡し、
前記第2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2-1分割領域および前記第2-2分割領域に接続されている光透過素子。
【請求項5】
光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、
前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、
前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、
前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、
前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜に第2分割線が形成され、
前記第2透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第2分割線で相互に電気的に絶縁された第2-1分割領域と第2-2分割領域を有し、
前記光透過領域において、前記第1分割線と前記第2分割線は互いに重なる位置に形成され、
前記第1-1分割領域と前記第2-1分割領域は相互に対向し、前記第1-2分割領域と前記第2-2分割領域は相互に対向するように配置され、
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、
前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、
前記第2金属電極は相互に分離された第2-1金属電極と第2-2金属電極を有し、
前記第2-1金属電極は前記第2-1分割領域に接続されかつ前記第2-2分割領域に非接続とされ、
前記第2-2金属電極は前記第2-2分割領域に接続されかつ前記第2-1分割領域に非接続とされ、
前記第2-1金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-1金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域に面する領域に存在するものとなりかつ前記第1-2分割領域に面する領域に存在しないものとなるような位置において、前記第2-1分割領域に接続され、
前記第2-2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2-2分割領域に接続されている光透過素子。
【請求項6】
前記光透過素子は第1-2金属電極をさらに有し、
前記第1-2金属電極は前記第1-2分割領域に接続されかつ前記第1-1分割領域に非接続とされている、
請求項2から5のいずれか1つに記載の光透過素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は光透過素子に関し、透過率を部分的に変化できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
透過率が異なる領域を有する光透過素子が非特許文献1,2に記載されている。非特許文献1に記載の素子は光学素子であり、いわゆるハーフNDフィルターである。このハーフNDフィルターは、素子全面の一部の領域にクロム等の金属を蒸着させて、高透過率の領域と低透過率の領域を区分けしたものである。このハーフNDフィルターには、高透過率の領域と低透過率の領域の境界を明瞭にしたハードタイプと、該境界をぼかした(グラデーションさせた)ソフトタイプがある。
【0003】
非特許文献2に記載の素子は、調光ガラスである。この調光ガラスはエレクトロクロミック特性を持つポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を用いて透過率を可変するもので、高透過率の領域と低透過率の領域の範囲を自由に変化させられるようにしたものである。高透過率の領域と低透過率の領域の境界は、ぼかした状態が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「ワンランク上の写真を撮るフィルターの使い方」、[平成30年3月14日検索]、インターネット〈URL:http://www.kenko-tokina.co.jp/imaging/filter/kaneko/nd_page_01.html〉
【文献】「グラデーション変化する調光ガラスの開発に成功」、[平成30年3月14日検索]、インターネット〈URL:http://www.nims.go.jp/news/press/2017/10/201710170.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の素子は、領域ごとの透過率が固定で、低透過率の領域は低透過率のままであり、高透過率に変化させる(光学濃度を変化させる)ことはできない。非特許文献2に記載の素子は、乗り物やビルの窓としての遮光用途を想定したものであり、光学フィルターとしての用途は想定されていない。また、非特許文献2に記載の素子は、区分けした透明導電膜どうしを極めて細い透明導電膜で繋ぐ構造を用いるため、透明導電膜の配置に微細なパターニングが要求される。
【0006】
この発明は、透明導電膜の微細なパターニングを必要とすることなく透過率を部分的に変化できるようにした光透過素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、光透過素子として機能する光透過領域を有する光透過素子において、前記光透過素子は、表面に第1透明導電膜を有する第1透明基板と、表面に第2透明導電膜を有する第2透明基板を、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜どうしを対向させて、空隙を介して対向配置し、前記空隙に電解液を充填した構造を有し、前記電解液は、金属イオンを含有し、前記第1透明導電膜と前記第2透明導電膜の間の電圧印加状態に応じて、電界析出により前記第1透明導電膜または前記第2透明導電膜の表面に前記金属イオンが可逆的に析出するように調製されており、前記光透過領域において、前記第1透明導電膜に第1分割線が形成され、前記第1透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第1分割線で相互に電気的に絶縁された第1-1分割領域と第1-2分割領域を有するものである。これによれば、第1透明導電膜と第2透明導電膜の間の電圧印加状態により、光透過領域の透過率を部分的に変化させることができる。
【0008】
前記光透過領域において、前記光透過素子の前記第1透明基板から前記第2透明基板までの層構造は、前記第1-1分割領域に面する領域と、前記第1-2分割領域に面する領域とで同じ層構造を有するものとすることができる。これによれば、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域がともに高透過率の状態のときは、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域の透過特性を等しくすることができる。
【0009】
前記光透過領域において、前記第2透明導電膜は、分割線を有しない連続した領域で構成されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1分割領域と第2透明導電膜との間に、または、第1-2分割領域と第2透明導電膜との間に選択的に電圧を印加することにより、光透過領域の透過率を部分的に変化させることができる。また、第1-1分割領域と第2透明導電膜との間、および、第1-2分割領域と第2透明導電膜との間の双方に電圧を印加することにより、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域の双方の透過率を変化させることができる。
【0010】
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、前記第2金属電極は前記第2透明導電膜に接続されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極と第2金属電極との間に電圧を印加することにより、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域が低透過率で、第1-2分割領域に面する領域が高透過率の状態を得ることができる。また、第1-1金属電極と第2金属電極との間の電圧を解放することにより、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域がともに高透過率の状態を得ることができる。
【0011】
前記第2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域に面する領域に存在するものとなりかつ前記第1-2分割領域に面する領域に存在しないものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極と第2金属電極との間に電圧を印加したときに、低透過率の領域(第1-1分割領域に面する領域)と高透過率の領域(第1-2分割領域に面する領域)の境界における透過率の変化勾配を急峻にして、該境界を明瞭にする(シャープにする)ことができる。この場合、金属イオンの析出を、分割線を有する第1透明導電膜側に生じさせることにより、低透過率の領域と高透過率の領域の境界を特に明瞭にすることができる。この光透過素子は、例えば、フィルターあり(オン)の状態とフィルターなし(オフ)の状態を電気的に切換可能なハードタイプのハーフNDフィルターとして利用することができる。
【0012】
前記第2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極と第2金属電極との間に電圧を印加したときに、低透過率の領域と高透過率の領域の境界における透過率の変化勾配を緩やかにして、該境界をぼかすことができる。この場合、金属イオンの析出を第1透明導電膜、第2透明導電膜のいずれの側に生じさせても該境界をぼかすことができる。この光透過素子は、例えば、フィルター機能をオン、オフ切換可能なソフトタイプのハーフNDフィルターとしてとして利用することができる。
【0013】
前記第2金属電極は相互に分離された第2-1金属電極と第2-2金属電極を有し、前記第2-1金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-1金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域に面する領域に存在するものとなりかつ前記第1-2分割領域に面する領域に存在しないものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続され、前記第2-2金属電極は、前記光透過素子の面方向について前記第1-1金属電極と前記第2-2金属電極で挟まれる領域が、前記第1-1分割領域および前記第1-2分割領域の双方に面する領域に存在するものとなるような位置において、前記第2透明導電膜に接続されているものとすることができる。これによれば、電圧印加状態により低透過率の領域と高透過率の領域の境界の明瞭さを切り換えることができる。例えば、第1-1金属電極と第2-1金属電極との間に電圧を印加し、第1-1金属電極と第2-2金属電極との間に電圧を印加しないことにより、低透過率の領域と高透過率の領域の境界を明瞭にすることができる。また、第1-1金属電極と第2-1金属電極との間および第1-1金属電極と第2-2金属電極との間の双方に電圧を印加することにより、低透過率の領域と高透過率の領域の境界をぼかすことができる。この光透過素子は、例えばフィルター機能をオン、オフ切換可能でかつハードタイプとソフトタイプを切換可能なハーフNDフィルターとして利用することができる。
【0014】
この発明は、前記光透過領域において、前記第2透明導電膜に第2分割線が形成され、前記第2透明導電膜は、前記光透過領域に、前記第2分割線で相互に電気的に絶縁された第2-1分割領域と第2-2分割領域を有するものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1分割領域、第1-2分割領域のいずれか一方と、第2-1分割領域、第2-2分割領域のいずれか一方との間に選択的に電圧を印加することにより、光透過領域の透過率を部分的に変化させることができる。また、第1-1分割領域および第1-2分割領域と、第2-1分割領域および第2-2分割領域との間に電圧を印加することにより、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域の双方(第2-1分割領域に面する領域および第2-2分割領域に面する領域の双方)の透過率を変化させることができる。
【0015】
前記光透過領域において、前記第1分割線と前記第2分割線は互いに重なる位置に形成され、前記第1-1分割領域と前記第2-1分割領域は相互に対向し、前記第1-2分割領域と前記第2-2分割領域は相互に対向するように配置されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1分割領域と第2-1分割領域との間に、または、第1-2分割領域と第2-2分割領域との間に選択的に電圧を印加することにより、光透過領域の透過率を部分的に変化させることができる。また、第1-1分割領域と第2-1分割領域との間、および、第1-2分割領域と第2-2分割領域との間の双方に電圧を印加することにより、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域の双方(第2-1分割領域に面する領域および第2-2分割領域に面する領域の双方)の透過率を変化させることができる。
【0016】
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、前記第2金属電極は前記第2-1分割領域に接続されかつ前記第2-2分割領域に非接続とされているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極と第2金属電極との間に電圧を印加したときに、低透過率の領域(第1-1分割領域に面する領域)と高透過率の領域(第1-2分割領域に面する領域)の境界における透過率の変化勾配を急峻にして、該境界を明瞭にすることができる。この場合、金属イオンの析出を第1透明導電膜、第2透明導電膜のいずれの側に生じさせても、低透過率の領域と高透過率の領域の境界を明瞭にすることができる。この光透過素子は、例えば、フィルター機能をオン、オフ切換可能なハードタイプのハーフNDフィルターとして利用することができる。
【0017】
前記光透過素子は第1-1金属電極と第2金属電極を有し、前記第1-1金属電極は前記第1-1分割領域に接続されかつ前記第1-2分割領域に非接続とされ、前記第2金属電極は前記第2-1分割領域および前記第2-2分割領域に接続されているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極と第2金属電極との間に電圧を印加したときに、低透過率の領域と高透過率の領域の境界における透過率の変化勾配を緩やかにして、該境界をぼかすことができる。この場合、金属イオンの析出を第1透明導電膜、第2透明導電膜のいずれの側に生じさせても該境界をぼかすことができる。この光透過素子は、例えば、フィルター機能をオン、オフ切換可能なソフトタイプのハーフNDフィルターとして利用することができる。
【0018】
前記第2金属電極は相互に分離された第2-1金属電極と第2-2金属電極を有し、前記第2-1金属電極は前記第2-1分割領域に接続されかつ前記第2-2分割領域に非接続とされ、前記第2-2金属電極は前記第2-2分割領域に接続されかつ前記第2-1分割領域に非接続とされているものとすることができる。これによれば、電圧印加状態により低透過率の領域と高透過率の領域の境界の明瞭さを切り換えることができる。例えば、第1-1金属電極と第2-1金属電極との間に電圧を印加し、第1-1金属電極と第2-2金属電極との間に電圧を印加しないことにより、低透過率の領域と高透過率の領域の境界を明瞭にすることができる。また、第1-1金属電極と第2-1金属電極との間および第1-1金属電極と第2-2金属電極との間の双方に電圧を印加することにより、低透過率の領域と高透過率の領域の境界をぼかすことができる。この光透過素子は、例えば、フィルター機能をオン、オフ切換可能でかつハードタイプとソフトタイプを切換可能なハーフNDフィルターとして利用することができる。
【0019】
前記光透過素子は第1-2金属電極をさらに有し、前記第1-2金属電極は前記第1-2分割領域に接続されかつ前記第1-1分割領域に非接続とされているものとすることができる。これによれば、例えば、第1-1金属電極および第1-2金属電極と、第2金属電極(または、第2-1金属電極および第2-2金属電極)との間に電圧を印加することにより、第1-1分割領域に面する領域および第1-2分割領域に面する領域の双方を低透過率の状態にすることができる。この光透過素子は、例えば、フィルター機能をオン、オフ切換可能でかつハードタイプとソフトタイプを切換可能なハーフNDフィルターと、該ハーフNDフィルターと全面NDフィルターを切換可能なNDフィルターとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】この発明による光透過素子の実施の形態1を示す模式正面図である。
図1B図1AのA矢視透視模式図である。
図1C図1AのB矢視透視模式図である。
図2A】実施の形態1の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-1を示す模式正面図である。
図2B図2AのA矢視透視模式図である。
図2C図2AのB矢視透視模式図である。
図3】実施の形態1-1の光透過素子のサンプルを正面から見た写真で、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域を低透過率にした状態を示す。
図4A】実施の形態1の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-2を示す模式正面図である。
図4B図4AのA矢視透視模式図である。
図4C図4AのB矢視透視模式図である。
図5】実施の形態1-2の光透過素子のサンプルを正面から見た写真で、光透過領域の、第1-1分割領域に面する領域を低透過率にした状態を示す。
図6図4に示す実施の形態1-2の光透過素子の変形例を示す図である。この変形例は実施の形態1-2に対し電源の極性を反転させたもので、図4Cに対比される形で示す。
図7】実施の形態1の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-3を示す模式正面図である。
図8】実施の形態1の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-4を示す模式正面図である。
図9A】この発明による光透過素子の実施の形態2を示す模式正面図である。
図9B図9AのA矢視透視模式図である。
図9C図9AのB矢視透視模式図である。
図10】実施の形態2の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-1を示す模式正面図である。
図11】実施の形態2の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-2を示す模式正面図である。
図12】実施の形態2の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-3を示す模式正面図である。
図13】実施の形態2の光透過素子に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-4を示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《実施の形態1》
この発明による光透過素子の実施の形態1を図1図1A図1C)に示す。この実施の形態1は、一方の透明導電膜に分割線が形成されていること以外は、本出願人の出願に係る国際公開WO2015/093298号パンフレットの図1に記載の光透過素子と同じ構造を有する。電解液の組成も両光透過素子で同じである。電解液の調製方法を含む該光透過素子の製造方法については同国際公開パンフレットに記載されているので、同パンフレットを参照されたい。図1において光透過素子10は空隙12を隔てて対向配置された矩形のガラス製または樹脂製の2枚の透明基板14(第1透明基板),16(第2透明基板)を有する。透明基板14,16の各表裏両面はそれぞれ平滑である。透明基板14,16の対向面には電極対を構成する透明導電膜18(第1透明導電膜),20(第2透明導電膜)がそれぞれ成膜形成されている。透明導電膜18,20は例えばITO(酸化インジウム・スズ)、酸化スズ、酸化亜鉛等で構成される。透明導電膜18にはレーザーカット、化学エッチング等で分割線19(第1分割線)が形成されている。分割線19は平面矩形の透明導電膜18の、図1Aにおいて左右方向に対向する2辺間に、該2辺に達して直線状に引かれている。これにより、透明導電膜18は、適宜の面積比で2つの矩形の分割領域18-1(第1-1分割領域),18-2(第1-2分割領域)に分割されている。分割領域18-1,18-2は相互に電気的に絶縁である。透明導電膜20は分割線を有しない連続した単一の領域で構成されている。透明基板14,16は、透明導電膜18,20を駆動回路に接続するために、図1Bに示すように、面に沿った方向(図1A図1Bの左右方向)に相互に位置をずらして配置されている。このずらし配置により、透明導電膜18の分割領域18-1,18-2の各一端部(図1Aの左端部)および透明導電膜20の一端部(図1Aの右端部)は、それぞれ外界に露出している。空隙12には電解液22が充填されている。空隙12の周囲はシール材24で封止されている。光透過素子10の全面のうち、シール材24で包囲された内周側領域全体が光透過素子として機能する光透過領域25を構成する。光透過領域25は、透明導電膜18,20の間の電圧が解放状態(電圧が印加されていない状態)にあるときは、光透過素子10の厚み方向全体に亘り透明(高透過率)である。このとき、光透過領域25はその全域で均一な光学特性(すなわち、透過特性、反射特性)となっている。光透過領域25は分割線19を境に、分割領域18-1に面する領域25-1と、分割領域18-2に面する領域25-2に分割されている。電解液22として、例えば次の組成を有する電解液を用いることができる。すなわち、溶媒として、メタノールよりも高沸点の非水溶媒および該非水溶媒よりも含有重量が少ないメタノールを含有する、非水溶媒で構成される溶媒を用いる。電解液22は、該溶媒中に、少なくとも銀イオンおよび該銀イオンよりも含有重量が少ない銅イオンを含む組成を有する。ここでは、電解液22は炭酸プロピレンを主成分(最も含有重量が多い成分)とし、メタノールを副成分(主成分よりも含有重量が少ない成分)として含有する非水溶媒に、溶質として、AgNO3(硝酸銀)、CuCl2(塩化第二銅)、支持電解質のLiBrをそれぞれ溶解して構成されている。電解液22中の硝酸銀の含有重量は塩化第二銅の含有重量よりも多い。電解液22には増粘剤としてポリプロピレン、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート等のポリマーを添加することができる。
【0022】
《実施の形態1-1》
実施の形態1の光透過素子10に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-1を図2図2A図2C)に示す。この光透過素子10-1は、光透過領域25の全域が高透過率の状態と、分割領域18-1に面する領域25-1を低透過率に、分割領域18-2に面する領域25-2を高透過率に区分けした状態とに切り換えられるようにしたものである。低透過率の領域と高透過率の領域に区分けした状態では、両領域間に明瞭な境界が得られる。光透過素子10-1は、図1の光透過素子10に金属電極を装着し、該金属電極に駆動回路を接続して構成されている。図2A図2Bにおいて、透明基板14の左辺には、透明導電膜18の分割領域18-1が露出した箇所に、金属製のクリップ電極26-1(第1-1金属電極)が挟み付けて装着されている。これにより、クリップ電極26-1は、分割領域18-1に導通し、分割領域18-2に非導通(すなわち、電気的に絶縁)とされている。透明基板16の右辺には、透明導電膜20が露出した箇所で、かつ図2Aの正面視においてクリップ電極26-1と左右に対向する位置に、金属製のクリップ電極28(第2金属電極)が挟み付けて装着されている。これにより、クリップ電極28は透明導電膜20の全域に導通している。クリップ電極26-1,28の長さ(図2Aにおける縦方向の長さ)は等しい。ここで、クリップ電極26-1,28で挟まれる光透過素子10-1の面方向の領域をZ1(図2A)とする。この領域Z1は、図2Aの正面視において、クリップ電極26-1,28の上端どうしを繋ぐ直線と、クリップ電極26-1,28の下端どうしを繋ぐ直線とで挟まれた領域である。クリップ電極26-1,28は、領域Z1が、分割領域18-1に面する領域に存在するものとなりかつ分割領域18-2に面する領域に存在しないものとなるような位置に配置されている。クリップ電極26-1,28にはリード線30,32の一端部がそれぞれ接続されている。リード線30,32の他端部間には直流電源34とスイッチSW1による直列接続回路が接続されている。またリード線30,32間にはスイッチSW2が、スイッチSW1と直流電源34による直列接続回路に対し並列に接続されている。スイッチSW1,SW2は相互に連動して互いに逆方向にオン、オフ切り換えされる。スイッチSW1,SW2を共にオフした状態に切り換えることもできる。スイッチSW1,SW2を共にオフすると、透明導電膜20と分割領域18-1間は開放される。
【0023】
以上の構成の光透過素子10-1の動作を説明する。図2AのようにスイッチSW1がオフし、スイッチSW2がオンしているときは、透明導電膜20と分割領域18-1間は短絡状態となるので、透明導電膜20と分割領域18-1間に電場は生じない。また、分割領域18-2は無電位(フローティング電位)にあるので、分割領域18-2と透明導電膜20間にも電場は生じない。したがって電解液22中で金属陽イオンAg+、Cu2+、陰イオンNO3 -、Cl-は分散した状態にある。このとき電解液22はほぼ無色透明であり、光透過素子10-1の光透過領域25はその全域で、透明基板14から透明基板16に至るまで厚み方向全体がほぼ無色透明である。
【0024】
図2Aの状態から図2B図2CのようにスイッチSW1をオンし、スイッチSW2をオフすると、直流電源34の電圧が透明導電膜20と分割領域18-1間に印加され(透明導電膜20が正電極、分割領域18-1が負電極に設定される)、透明導電膜20と分割領域18-1が対向する領域で電場Eが生じる。電場Eは、図2B図2Cに示すように、透明導電膜20から分割領域18-1に真っ直ぐに(分割領域18-1の面に直交する向きに)向かうように生じる。この電場Eにより電解液22中の金属陽イオンAg+、Cu2+は、負電極である分割領域18-1の表面に移動して還元される。その結果、分割領域18-1の表面に、銀を主成分とし、副成分として少量の銅が混在する析出層36が析出して、析出層36による低透過率面36aを出現させる。これにより、光透過素子10-1は、光透過領域25のうち、分割領域18-1に面する領域25-1が低透過率で、分割領域18-2に面する領域25-1が高透過率の光透過素子を構成する。領域25-1の透過率は通電時間が長くなるに従って低下するが、ある透過率まで低下すると飽和する。透過率が飽和する前に任意の透過率で通電を止める(スイッチSW1,SW2を共にオフする)ことにより、その透過率に保持することができる。スイッチSW1,SW2を共にオフしたままにすると透過率は徐々に上昇するが、スイッチSW1を周期的にオン、オフする(スイッチSW2はオフのままとする)ことにより、所望の透過率を維持することができる。なお、光透過素子10-1は、表裏いずれの面側を透過光の入射側または出射側としても用いることができる(後述するいずれの実施の形態についても同じ)。
【0025】
図2B図2Cの状態から再び図2AのようにスイッチSW1をオフし、スイッチSW2をオンすると透明導電膜20と分割領域18-1間が短絡し、透明導電膜20と分割領域18-1間の電場が消失する。これにより、析出層36を形成していた銀および銅は酸化されて、分割領域18-1表面から離脱して、金属陽イオンAg+、Cu2+となって、再び電解液22中に分散する。析出層36が、主成分の銀に銅を混在して構成されているため、このような離脱が可能となる。その結果、分割領域18-1に面する領域25-1の透過率が増大して、光透過領域25の全体が元の透明な状態に戻る。なお透明導電膜20と分割領域18-1間を短絡するのに代えて、スイッチSW1,SW2を共にオフして透明導電膜20と分割領域18-1間を開放することもできる。このとき、透明導電膜20と分割領域18-1間の電場が消失するので、金属陽イオンAg+、Cu2+を分割領域18-1(負電極)から離脱させて、分割領域18-1に面する領域25-1を元の透明な状態に戻すことができる。すなわち、図2B図2Cの状態からスイッチSW1,SW2を共にオフして透明導電膜20と分割領域18-1間を開放すると、分割領域18-1に面する領域25-1は、透明導電膜20と分割領域18-1間を短絡した場合に比べて緩やかな速度で透過率が増大して元の透明な状態に戻る。
【0026】
以上のようにして、透明導電膜20と分割領域18-1間に電場を印加し、また電場の印加を解除することにより、分割領域18-1に面する領域25-1の透過率を可逆的に変化させることができる。
【0027】
図3は、実施の形態1-1の光透過素子10-1のサンプルを正面から見た写真である。このサンプルでは分割線19をレーザーカットでマイクロメートルオーダー幅に形成した。この写真は、クリップ電極26-1を通して分割領域18-1を負電極、クリップ電極28を通して透明導電膜20を正電極として、該両電極に約2ボルトの電圧を約10秒間印加して、その結果、光透過領域25の上側の領域25-1を低透過率にした状態を示す。領域25-1の析出層36は、暗色を呈し、NDフィルターとして利用できる特性を有する。下側の領域25-2には電圧が印加されていないので、領域25-2は高透過率のままである。この写真でわかるように、低透過率の領域と高透過率の領域の境界27は明瞭(シャープ)である。
【0028】
光透過素子10-1は例えばカメラ用のハードタイプハーフNDフィルター(可変NDフィルター)として利用することができる。すなわち、光透過素子10-1をカメラ内の光軸上に、分割領域18-1を上側にし、分割領域18-2を下側にして配置する。光透過領域25の全面を高透過率にすればフィルターなしの状態となり、分割領域18-1を低透過率にすればハードタイプハーフNDフィルターとなる。光透過素子10-1でカメラ用ハーフNDフィルターを構成する場合は、透明状態で高い透過率が得られることが望ましい。したがって、この場合は、透明基板14,16を透過率が高い光学ガラス(白板ガラス)で構成し、かつ透明基板14,16の外表面に反射防止膜を形成するのが望ましい。
【0029】
また、光透過素子10-1は建築用調光窓ガラス、自動車用あるいは航空機用調光窓ガラス、その他の用途にも用いることができる。このとき、分割領域18-1を上側に配置し、分割領域18-2を下側に配置して用いる。太陽光が眩しいときは分割領域18-1を低透過率にしてまぶしさを軽減する。それ以外のときは全面を高透過率にする。
【0030】
《実施の形態1-2》
実施の形態1の光透過素子10に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-2を図4図4A図4C)に示す。この光透過素子10-2は、実施の形態1-1と同様に、光透過領域25の全域が高透過率の状態と、分割領域18-1に面する領域25-1を低透過率に、分割領域18-2に面する領域25-2を高透過率に区分けした状態とに切り換えられるようにしたものである。ただし、光透過素子10-1とは異なり、低透過率の領域と高透過率の領域に区分けした状態で両領域間にぼやけた境界が得られるようにしている。光透過素子10-2は、実施の形態1-1(図2A図2C)の光透過素子10-1のクリップ電極28(第2金属電極)を長尺のクリップ電極28L(第2金属電極)に置き換えた構成を有するものである。ここで、クリップ電極26-1,28Lで挟まれる光透過素子10-2の面方向の領域をZ12とする。この領域Z12は、図4Aの正面視において、クリップ電極26-1,28Lの上端どうしを繋ぐ直線と、クリップ電極26-1,28Lの下端どうしを繋ぐ直線とで挟まれた領域である。クリップ電極28Lは、領域Z12が、分割領域18-1に面する領域、および分割線19を越えて、分割領域18-2に面する領域の双方の領域に存在するものとなるような位置で透明導電膜20に接続されている。クリップ電極28L以外の光透過素子10-2の構成は実施の形態1-1の光透過素子10-1と同じである。
【0031】
図4AのスイッチSW1がオフし、スイッチSW2がオンしている状態から図4B図4CのようにスイッチSW1をオンし、スイッチSW2をオフすると、実施の形態1-1と同様に、分割領域18-1の表面に析出層36が析出して、析出層36による低透過率面36aを出現させる。ただし、このとき実施の形態1-1とは異なりクリップ電極28Lが長尺であるため、図4Cに示すように、透明導電膜20と分割領域18-1間の電場Eは、分割領域18-1と透明導電膜20とが真っ正面に対向する領域のほか、分割領域18-1と透明導電膜20とが斜めに対向する領域でも生じる。分割領域18-1と透明導電膜20が真っ正面に対向する領域では、電場Eは透明導電膜20から分割領域18-1に真っ直ぐに(分割領域18-1の面に直交する向きに)向かう。これに対し、分割領域18-1と透明導電膜20が斜めに対向する領域では、電場Eは透明導電膜20から分割領域18-1に斜めに向かう。その結果、析出層36は分割線19を越えて分割領域18-2側に少し延びる。ただし、析出層36の膜厚は薄く、しかも析出層36の一部は水和物や酸化物になっているため、析出層36は導体といえるほどの低い抵抗値を持たない。このため、析出層36が分割線19を越えて分割領域18-2側に延びても、分割領域18-1,18-2間は析出層36を介して短絡しない。すなわち、分割領域18-2は無電位のままである。析出層36の、分割線19を越えて分割領域18-2側に延びた部分は、分割線19から離れるに従って膜厚が薄くなる。このため、光透過領域25の上側の低透過率の領域25-1と下側の低透過率の領域25-2の境界27における透過率の変化勾配は緩やかであり、その結果、境界27はぼやけた状態(グラデーションが付いた状態)となる。
【0032】
図5は、実施の形態1-2の光透過素子10-2のサンプルを正面から見た写真である。このサンプルは、クリップ電極28Lの長さが図3の写真のサンプルにおけるクリップ電極28の長さと異なるほかは、図3の写真のサンプルと同じ構成である。この写真は、クリップ電極26-1を負電極、クリップ電極28を正電極として、該両電極に約2ボルトの電圧を約10秒間印加して、その結果、光透過領域25の上側の領域25-1を低透過率にした状態を示す。領域25-1の析出層36は、暗色を呈し、NDフィルターとして利用できる特性を有する。下側の領域25-2には電圧が印加されていないので、領域25-2は高透過率のままである。図3の写真と比べてわかるように、低透過率の領域と高透過率の領域の境界27はぼやけた状態となっている。
【0033】
光透過素子10-2は例えばカメラ用のソフトタイプハーフNDフィルター(可変NDフィルター)として利用することができる。また、光透過素子10-2は建築用調光窓ガラス、自動車用あるいは航空機用調光窓ガラス、その他の用途にも用いることができる。
【0034】
《実施の形態1-2の変形例》
実施の形態1-2の変形例を図6に示す。この光透過素子10-2’は、図4の光透過素子10-2における直流電源34の極性を反転させたものである。すなわち、分割領域18-1を正電極、透明導電膜20を負電極に設定したものである。スイッチSW2をオフしてスイッチSW1をオンすると、透明導電膜20に析出層36が析出する。このとき、分割領域18-1からの電場Eは透明導電膜20に真っ直ぐに(透明導電膜20の面に直交する向きに)向かうほか、分割線19を越えて、分割領域18-1と斜めに対向する透明導電膜20の領域に向けて斜めに拡がる。その結果、透明導電膜20の表面の析出層36は、該析出層36が分割領域18-2に対向する側まで延びる。析出層36のこの延びた部分は、分割線19から離れるに従って膜厚が薄くなる。このため、光透過領域25の、上側の低透過率の領域25-1と下側の低透過率の領域25-2の境界27における透過率の変化勾配は緩やかであり、境界27はぼやけた状態となる。透明導電膜20は分割線で領域分割されていないので(つまり、透明導電膜20の全域に負電位が与えられているので)、電圧を印加し続けると析出層36が図6の下側に向けて拡がっていく。したがって、印加時間によって析出層36の面積を可変制御するという使い方もできる。
【0035】
《実施の形態1-3》
実施の形態1の光透過素子10に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-3を図7に示す。この光透過素子10-3は、実施の形態1-1および実施の形態1-2と同様に、光透過領域25の全域が高透過率の状態と、分割領域18-1に面する領域25-1を低透過率に、分割領域18-2に面する領域25-2を高透過率に区分けした状態とに切り換えられるものである。また、これに加えて、低透過率の領域と高透過率の領域に区分けする状態について、両領域間の境界が明瞭な状態(図2C図3の境界27と同様の状態)とぼやけた状態(図4C図5の境界27と同様の状態)とに切り換えられるようにしたものである。光透過素子10-3は、実施の形態1-1(図2A図2C)の光透過素子10-1に対し、クリップ電極28-2(第2-2金属電極)とスイッチSW3を追加して構成されている。クリップ電極28-1(第2-1金属電極)は図2A図2Cのクリップ電極28と同じで短尺のものである。透明導電膜20におけるクリップ電極28-1の配置位置も図2A図2Cのクリップ電極28と同じである。ここで、クリップ電極26-1,28-1で挟まれる光透過素子10-3の面方向の領域をZ1とする。この領域Z1は、図7の正面視において、クリップ電極26-1,28-1の上端どうしを繋ぐ直線と、クリップ電極26-1,28-1の下端どうしを繋ぐ直線とで挟まれた領域である。クリップ電極26-1,28-1は、領域Z1が、分割領域18-1に面する領域に存在するものとなりかつ分割領域18-2に面する領域に存在しないものとなるような位置に配置されている。また、クリップ電極26-1とクリップ電極28-2で挟まれる光透過素子10-3の面方向の領域をZ2とする。この領域Z2は図7の正面視において、クリップ電極26-1,28-2の上端どうしを繋ぐ直線と、クリップ電極26-1,28-2の下端どうしを繋ぐ直線とで挟まれた領域である。クリップ電極28-2は、領域Z2が、分割領域18-1に面する領域、および分割線19を越えて、分割領域18-2に面する領域の双方の領域に存在するものとなるような位置において透明導電膜20に接続されている。クリップ電極28-2は、スイッチSW3およびスイッチSW1を介して直流電源34の正極に接続されている。
【0036】
光透過素子10-3によれば、スイッチSW1~SW3のオン、オフに応じて、次の各状態が得られる。
・SW1がオフ、SW2がオンのとき:光透過領域25の全域が高透過率となる。
・SW1がオン、SW2がオフで、SW3がオフのとき:上側の領域25-1が低透過率、下側の領域25-2が高透過率となる。低透過率領域と高透過率領域の境界は明瞭となる。
・SW1がオン、SW2がオフで、SW3がオンのとき:上側の領域25-1が低透過率、下側の領域25-2が高透過率となる。低透過率領域と高透過率領域の境界はぼやける。
【0037】
光透過素子10-3は、例えばフィルター機能のオン、オフ切換が可能でかつハードタイプとソフトタイプを切換可能なハーフNDフィルターとして利用することができる。また、光透過素子10-3は建築用調光窓ガラス、自動車用あるいは航空機用調光窓ガラス、その他の用途にも用いることができる。
【0038】
《実施の形態1-4》
実施の形態1の光透過素子10に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態1-4を図8に示す。この光透過素子10-4は、実施の形態1-3に加えて、光透過領域25の全域が低透過率になる状態が得られるようにしたものである。光透過素子10-4は、図7の光透過素子10-3(または、図4の光透過素子10-2でもよい)に対し、クリップ電極26-2(第1-2金属電極)とスイッチSW4を追加して構成されている。クリップ電極26-2は、分割領域18-2に接続されている。
【0039】
光透過素子10-4によれば、スイッチSW1~SW4のオン、オフに応じて、次の各状態が得られる。
・SW1がオフ、SW2がオンのとき:光透過領域25の全域が高透過率となる。
・SW1がオン、SW2がオフで、SW3およびSW4がともにオフのとき:上側の領域25-1が低透過率、下側の領域25-2が高透過率となる。低透過率領域と高透過率領域の境界は明瞭となる。
・SW1がオン、SW2がオフで、SW3がオン、SW4がオフ(または、SW3がオフ、SW4がオン)のとき:上側の領域25-1が低透過率、下側の領域25-2が高透過率となる。低透過率領域と高透過率領域の境界はぼやける。
・SW1がオン、SW2がオフで、SW3およびSW4がともにオンのとき:光透過領域25の全域が低透過率になる。
【0040】
光透過素子10-4は、例えばフィルター機能のオン、オフ切換が可能でかつハードタイプハーフNDフィルターとソフトタイプハーフNDフィルターと全面NDフィルターを切換可能なNDフィルターとして利用することができる。また、光透過素子10-4は建築用調光窓ガラス、自動車用あるいは航空機用調光窓ガラス、その他の用途にも用いることができる。
【0041】
《実施の形態2》
この発明による光透過素子の実施の形態2を図9図9A図9C)に示す。この実施の形態2の光透過素子40は、対向する透明導電膜の双方に分割線を形成したものである。それ以外の構成は実施の形態1(図1)の光透過素子10と同じである。実施の形態2(実施の形態2-1乃至2-4を含む)において、実施の形態1(実施の形態1-1乃至1-4を含む)と共通する箇所には相互に同一の符号を用いる。図9において、透明導電膜20には、透明導電膜18の分割線19(第1分割線)と重なる位置に、分割線42(第2分割線)がレーザーカット、化学エッチング等で形成されている。分割線42は平面矩形の透明導電膜20の、図9Aにおいて左右方向に対向する2辺間に、該2辺に達して直線状に引かれている。これにより、透明導電膜20は矩形の2つの分割領域20-1(第2-1分割領域)および分割領域20-2(第2-2分割領域)に分割されている。分割領域20-1,20-2は相互に電気的に絶縁である。
【0042】
《実施の形態2-1》
実施の形態2の光透過素子40に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-1を図10に示す。この光透過素子40-1は、透明導電膜20に分割線42が形成されていること以外は、実施の形態1-1(図2)の光透過素子10-1と同じ構成である。この光透過素子40-1では、直流電源34の極性を反転させて分割領域20-1側に析出層を析出させても、分割線42で分割領域20-1と分割領域20-2は相互に非導通(すなわち、電気的に絶縁)とされているので、低透過率の領域と高透過率の領域の間には明瞭な境界が得られる。すなわち、この光透過素子40-1は、クリップ電極26-1,28-1の極性を任意に設定して、いずれの場合でも明瞭な境界を得ることができる。
【0043】
《実施の形態2-2》
実施の形態2の光透過素子40に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-2を図11に示す。この光透過素子40-2は、透明導電膜20に分割線42が形成されていること以外は、実施の形態1-2(図4)の光透過素子10-2と同じ構成である。この光透過素子40-2は長尺のクリップ電極28Lで分割領域20-1と分割領域20-2を短絡しているので、実質的に実施の形態1-2の光透過素子10-2と同様に動作させることができる。低透過率の領域と高透過率の領域に区分けした状態では、両領域間にぼやけた境界が得られる。実施の形態1-2の変形例(図6)と同様に、直流電源34の極性を反転して使用することもできる。
【0044】
《実施の形態2-3》
実施の形態2の光透過素子40に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-3を図12に示す。この光透過素子40-3は、透明導電膜20に分割線42が形成されていること以外は、実施の形態1-3(図7)の光透過素子10-3と同じ構成である。この光透過素子40-3によれば、スイッチSW1~SW3のオン、オフに応じて、実施の形態1-3の光透過素子10-3と同じ状態が得られる。直流電源34の極性を反転して使用することもできる。
【0045】
《実施の形態2-4》
実施の形態2の光透過素子40に金属電極と駆動回路を付加したこの発明による光透過素子の実施の形態2-4を図13に示す。この光透過素子40-4は、透明導電膜20に分割線42が形成されていること以外は、実施の形態1-4(図8)の光透過素子10-4と同じ構成である。言い換えれば、光透過素子40-4は、実施の形態2-3(図12)の光透過素子40-3にクリップ電極26-2とスイッチSW4を追加して構成したものである。実施の形態2-2(図11)の光透過素子40-2にクリップ電極26-2とスイッチSW4を追加して構成してもよい。この光透過素子40-4によれば、スイッチSW1~SW4のオン、オフに応じて、実施の形態1-4の光透過素子10-4と同じ状態が得られる。直流電源34の極性を反転して使用することもできる。
【0046】
実施の形態2-1乃至2-4の光透過素子40-1乃至40-4は、実施の形態1-1乃至1-4の光透過素子10-1乃至10-4と同様に、例えばカメラ用NDフィルター、建築用調光窓ガラス、自動車用あるいは航空機用調光窓ガラス、その他の用途に用いることができる。
【0047】
この発明による光透過素子は、前記実施の形態で示した構成に限らない。例えば、次のような変更が可能である。
・前記実施の形態では光透過素子に印加する電圧値を固定としたが、これに限らない。すなわち、対向する透明導電膜間に印加する電圧を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、光透過領域の透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。あるいは、対向する透明導電膜間に印加する電圧を、直流電圧(所望の最低透過率を実現する大きさの直流電圧)をパルス幅変調した電圧とし、このパルス幅変調のパルスのデューティ比を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、光透過領域の透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。
・この発明で使用される電解液は前記実施の形態で示したものに限らない。電圧の印加に応じて金属イオンが可逆的に析出するように調製された各種の電解液(例えば、本出願人の出願に係る国際公開WO2015/093298号パンフレットに列挙された先行技術文献に記載された電解液等)を使用することができる。
・前記実施の形態では正極性の金属電極と、負極性の金属電極を透明基板の対向辺に配置したが、これに限らず、非対向辺に配置することもできる。また、同一極性の金属電極を透明基板の一辺に限らず、複数辺に配置することもできる。
・前記実施の形態では分割線を直線に形成したが、これに限らない。例えば、分割線を円形等に形成することもできる。
・前記実施の形態では、片側の透明導電膜に形成する分割線を1本としたが、これに限らない。すなわち、片側の透明導電膜に複数本の分割線を形成して、該透明導電膜を3以上の領域に分割することもできる。
【符号の説明】
【0048】
10,10-1,10-2,10-2’,10-3,10-4…光透過素子、12…空隙、14…透明基板(第1透明基板)、16…透明基板(第2透明基板)、18…透明導電膜(第1透明導電膜)、18-1…分割領域(第1-1分割領域)、18-2…分割領域(第1-2分割領域)、19…分割線(第1分割線)、20…透明導電膜(第2透明導電膜)、20-1…分割領域(第2-1分割領域)、20-2…分割領域(第2-2分割領域)、22…電解液、24…シール材、25…光透過領域、25-1…光透過領域のうち第1-1分割領域に面する領域、25-2…光透過領域のうち第1-2分割領域に面する領域、26-1…クリップ電極(第1-1金属電極)、26-2…クリップ電極(第1-2金属電極)、27…低透過率の領域と高透過率の領域の境界、28,28L…クリップ電極(第2金属電極)、28-1…クリップ電極(第2-1金属電極)、28-2…クリップ電極(第2-2金属電極)、30,32…リード線、34…直流電源、36…析出層、36a…低透過率面、40,40-1,40-2,40-3,40-4…光透過素子、42…分割線(第2分割線)、Z1,Z12…第1-1金属電極と第2金属電極で挟まれる光透過素子の面方向の領域、Z1…第1-1金属電極と第2-1金属電極で挟まれる光透過素子の面方向の領域、Z2…第1-1金属電極と第2-2金属電極で挟まれる光透過素子の面方向の領域、E…電場、SW1,SW2,SW3,SW4…スイッチ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13