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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】受動的窒素酸化物吸着剤触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/74 20060101AFI20230314BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230314BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20230314BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230314BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20230314BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230314BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230314BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B01J29/74 A ZAB
B01J35/02 G
B01J29/76 A
B01D53/94 222
B01D53/94 400
B01J20/06 B
F01N3/08 A
F01N3/10 A
F01N3/20 K
F01N3/08 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020520643
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018078716
(87)【国際公開番号】W WO2019077111
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】15/789,174
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィオン・オヌガ・クラーク
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ヘンクスト
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/060693(WO,A1)
【文献】特表2017-516643(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168156(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/060692(WO,A1)
【文献】特表2010-507480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092170(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/079619(WO,A1)
【文献】特開2013-245617(JP,A)
【文献】特開2010-229978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、前記担体基材の温度を制御する手段と、を含む触媒であって、
前記担体基材は電気加熱素子を含み、
前記電気加熱素子は前記担体基材の一端で始まり、長さLの0.1%~10%の長さまで延在し、前記電気加熱素子は、そこから排気ガスが触媒に入る、担体基材の端部に位置している、触媒
【請求項2】
前記受動的窒素酸化物吸着剤が、酸化セリウム上、酸化ジルコニウム上、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合物上、又はゼオライト上に担持されたパラジウムを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記パラジウムがゼオライト上に担持され、前記ゼオライトが、骨格型コードAEI、AFX、CHA、ERI、KFI若しくはLEVを有する骨格型に属する小細孔ゼオライトであるか、又は骨格型コードBEA若しくはMFIに属する、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
パラジウムが酸化セリウム上に担持されている、請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
パラジウムが、前記受動的窒素酸化物吸着剤の重量を基準として、かつパラジウム金属として計算して、0.01~20重量パーセントの量で存在する、請求項2~4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
長さLの前記担体基材が金属製である、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
長さLの前記担体基材が、電気加熱触媒(EHC)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
前記受動的窒素酸化物吸着剤が、長さLの前記担体基材上にコーティングとして存在する、請求項に記載の触媒。
【請求項9】
長さLの前記担体基材が、前記受動的窒素酸化物吸着剤に加えて、1つ以上の触媒活性コーティングを含む、請求項8に記載の触媒。
【請求項10】
長さLの前記担体基材が、前記受動的窒素酸化物吸着剤に加えて、酸化触媒を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、前記担体基材の温度を制御する手段とを含む触媒、及び
第1のSCR触媒と、
を含み、
前記担体基材は電気加熱素子を含み、
前記電気加熱素子は前記担体基材の一端で始まり、長さLの0.1%~10%の長さまで延在し、前記電気加熱素子は、そこから排気ガスが触媒に入る、担体基材の端部に位置している、排気ガス浄化システム。
【請求項12】
前記第1のSCR触媒が、8個の四面体原子の最大環サイズを有する小細孔ゼオライトと、遷移金属、例えば、銅、鉄、又は銅及び鉄とを含む、請求項11に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項13】
前記第1のSCR触媒が、構造コードBEA、AEI、CHA、KFI、ERI、LEV、MER又はDDRに属し、銅、鉄、又は銅及び鉄とイオン交換されているゼオライトを含む、請求項11に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項14】
受動的窒素酸化物吸着剤を含む前記触媒と前記第1のSCR触媒との間に、還元剤の注入ユニットを備える、請求項11~13のいずれか一項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項15】
前記第1のSCR触媒の下流に配置された、又は受動的窒素酸化物吸着剤を含む前記触媒の上流に近位連結位置で配置された、第2のSCR触媒を含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項16】
アンモニアスリップ触媒を含む、請求項11~15のいずれか一項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項17】
リーンバーンエンジンから放出され、窒素酸化物を含有する排気ガスを浄化するための方法であって、前記方法が、前記排気ガス流を
長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、前記担体基材の温度を制御する手段とを含む触媒、及び
第1のSCR触媒
を含む排気ガス浄化システムと接触させることと、
これにより、
a)前記第1のSCR触媒の動作温度範囲よりも低い温度で、窒素酸化物を前記受動的窒素酸化物吸着剤中に吸蔵することと、
b)前記担体基材を加熱することによって、前記第1のSCR触媒がその動作温度範囲に到達するとすぐに、工程a)で吸蔵された窒素酸化物を放出することと、
c)工程b)で放出された前記窒素酸化物を前記第1のSCR触媒中で還元することと、
を含み、
前記担体基材は電気加熱素子を含み、
前記電気加熱素子は前記担体基材の一端で始まり、長さLの0.1%~10%の長さまで延在し、前記電気加熱素子は、そこから排気ガスが触媒に入る、担体基材の端部に位置している、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の活性温度管理を可能にする、基材上にコーティングされた受動的窒素酸化物吸着剤(PNA)を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどのリーンバーン内燃機関で運転される自動車の排気ガスは、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)に加えて、シリンダーの燃焼室内における燃料の不完全燃焼に起因する成分も含有する。通常は主にガス形態で存在する残留炭化水素(HC)に加えて、これらは「ディーゼルすす」又は「すす粒子」とも称される粒子排出物を含む。これらは、主に炭素質粒子物質及び付着性液相からの複合アグロメレートであり、通常は主に長鎖炭化水素凝集物からなる。固体成分に付着する液相は「可溶性有機成分SOF」又は「揮発性有機成分VOF」とも称される。
【0003】
これらの排気ガスを浄化するためには、上述の成分をできる限り完全に無害な化合物へと変換する必要がある。これは、好適な触媒を使用することによってのみ実現可能である。
【0004】
酸素存在下で排気ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するための既知の方法は、SCR触媒の存在下でのアンモニアによる選択的触媒還元である。この方法は、排気ガスから除去しようとする窒素酸化物を、還元剤としてのアンモニアによって窒素と水とに変換することを含む。
【0005】
好適なSCR触媒は、例えば、鉄、特に銅とイオン交換されたゼオライトであり、例えば、国際公開第2008/106519(A1)号、国際公開第2008/118434(A1)号及び国際公開第2008/132452(A2)号を参照されたい。
【0006】
窒素酸化物をアンモニアで変換するためのSCR触媒は、貴金属を含有せず、特に白金を含有しない。これは、上記金属の存在下では、酸素によるアンモニアの窒素酸化物への酸化が優先的に起こり、SCR反応(窒素酸化物によるアンモニアの変換)は後になることが理由である。文献では、数名の著者が、白金交換「SCR触媒」に基づく記述をしている。しかしながら、これはNH-SCR反応には言及せず、炭化水素による窒素酸化物の還元に言及している。後者の反応の選択性は、非常に限られることから、「SCR反応」ではなく「HC-脱NOx反応」と呼ぶ方が正確であろう。
【0007】
SCR反応に使用されるアンモニアは、尿素、カルバミン酸アンモニウム、又はギ酸アンモニウムなどのアンモニア前駆体を排気ガスラインに供給し、その後の加水分解することで利用可能とできる。
【0008】
SCR触媒は、約180~200℃の排気ガス温度でしか作用することができないという欠点がある。最近の発表で、SCR触媒は150℃もの低温で活性化できると述べられていても、エンジンのコールドスタート期間中に形成された窒素酸化物をSCR触媒で除去することは依然として問題である。
【0009】
SCR触媒に加えて、窒素酸化物を除去するための、いわゆる窒素酸化物吸蔵触媒が知られている。これらの触媒に関しては、「リーンNOxトラップ」又はLNTという用語が一般的である。これらの触媒の浄化作用は、エンジンのリーン運転段階において窒素酸化物が吸蔵触媒の吸蔵材料によって硝酸塩の形態で吸蔵され、この硝酸塩が後続のエンジンのリッチ運転段階において再び分解され、それにより放出された窒素酸化物が、吸蔵触媒中の排気ガス還元成分によって窒素、二酸化炭素、及び水に還元されることで変換されるという事実に基づく。この運転原理は、例えばSAE文書SAE950809に記載されている。
【0010】
吸蔵材料としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルカリ金属、希土類金属の酸化物、炭酸塩、若しくは水酸化物、又はそれらの混合物が特に考慮される。これらの化合物は、そのアルカリ性という特性の結果として、排気ガスの酸性窒素酸化物と共に硝酸塩を形成し、そうすることで窒素酸化物を吸蔵することができる。これらは、排気ガスとの相互作用表面を大きくするために、好適な基材材料上に、可能な限り高度に分散した形態で堆積される。加えて、窒素酸化物吸蔵触媒は、概して、白金、パラジウム、及び/又はロジウムなどの貴金属を、触媒活性成分として含有する。これらの触媒の目的は、一方ではリーン条件下において、NOをNOに酸化し、またCO及びHCをCO、及びHOへと酸化することであり、他方では窒素酸化物吸蔵触媒が再生されるリッチ運転段階中、放出されたNOを窒素へと還元することである。
【0011】
最新の窒素酸化物吸蔵触媒は、例えば、欧州特許第0885650(A2)号、米国特許出願公開第2009/320457号、国際公開第第2012/029050(A1)号、及び国際公開第2016/020351(A1)号に開示されている。
【0012】
SAE文書SAE950809に記載されている方法は、リーン運転段階中に窒素酸化物を吸蔵し、その後のリッチ運転段階でそれらを放出することを含み、「活性」窒素酸化物吸蔵方法としても知られている。
【0013】
加えて、「受動的」窒素酸化物吸蔵方法として知られる方法が記載されている。この方法は、窒素酸化物を第1の温度範囲で吸蔵し、それを第2の温度範囲で放出することを含み、第2の温度範囲は第1の温度範囲より高温である。この方法を実施するために、受動的窒素酸化物吸着剤触媒が使用され、これはPNA(「受動的Nox吸着剤」)としても知られている。
【0014】
受動的NO吸着剤により、SCR触媒がまだその動作温度に達していない温度では窒素酸化物を吸蔵し、SCR触媒が動作するとすぐに該窒素酸化物を放出することが可能である。したがって、例えば200℃未満での窒素酸化物の中間吸蔵及び200℃超での該窒素酸化物の放出の結果、受動的NOx吸着剤とSCR触媒との組み合わせの窒素酸化物の総変換率が上昇する。
【0015】
セリア上に担持されたパラジウムを受動的窒素酸化物吸着剤触媒として使用することは文献から既知であり、例えば、国際公開第2008/047170(A1)号及び国際公開第2014/184568(A1)号を参照されたい。国際公開第2012/071421(A2)号及び国際公開第2012/156883(A1)号によると、セリア上のパラジウムはまた、粒子フィルタ上にコーティングされ得る。
【0016】
国際公開第2012/166868(A1)号では、受動的窒素酸化物吸着剤触媒として、例えば、パラジウムと、例えば鉄などの追加の金属とを含むゼオライトを使用することを教示している。
【0017】
国際公開第2015/085303(A1)号では、貴金属と、8個の四面体原子の最大環サイズを有する小細孔モレキュラーシーブと、を含む受動的窒素酸化物吸着剤触媒を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
窒素酸化物の排出基準を常に厳しくするには、新たな後処理、エンジン、及びシステム制御技術の開発が必要である。考慮される後処理技術のうち、窒素酸化物吸着剤触媒は、二次的後処理デバイスが窒素酸化物を触媒的に変換するのに十分な熱を持つまで窒素酸化物を吸蔵することによって、より優れたコールドスタート性能を向上させることができるため、高い関心が持たれる。受動的窒素酸化物吸着剤触媒の概念は、完全に配合された「活性」窒素酸化物吸着剤触媒を上回る利点を有することから、広く注目を集めつつある。これは、上述のように、当該触媒は通常運転中に熱的に再生することができ、したがって、任意の追加の燃料ペナルティ(fuel penalty)を最小限に抑えることができるからである。
【0019】
受動的窒素酸化物吸着剤触媒の有効な動作のための重要な課題の1つは、窒素酸化物の放出を、下流のSCR触媒が活性である時間、及び排気の温度が、注入された尿素がアンモニアを加水分解するのに十分な熱を持った時間と同期させることである。
【0020】
放出が早すぎると、窒素酸化物が触媒をスリップして排気から出る。放出が遅すぎると、SCR触媒が窒素酸化物で圧倒され、その全てを効果的に還元せず、これも窒素酸化物がスリップする。
【0021】
特に、チャバザイト型ゼオライトを含有するパラジウム(palladium containing chabazite zeolite)を使用する受動的窒素酸化物吸着剤技術は、Pd-NO結合が比較的強いことから、250℃を超える温度で窒素酸化物を放出する。その結果、窒素酸化物吸着剤は、「完全に担持された」状態でドライブサイクルを終了し、したがって、その後のコールドスタート又は低温運転条件でSCR触媒がもはや活性ではないとき、窒素酸化物吸蔵能力がない。したがって、エンジンによって生成された任意の窒素酸化物は、スリップして環境中に出る。同様に、これらの同じ受動的窒素酸化物吸着剤技術は、SOx放出の問題もある。
【0022】
したがって、窒素酸化物の管理において最も効果的であるためには、受動的窒素酸化物吸着剤触媒は、高い窒素酸化物捕捉効率(例えば、90%)、良好な熱耐久性、高速吸蔵応答、及び下流のSCR触媒が活性であるときと合致した窒素酸化物放出特性を有するべきである。加えて、重度の熱分解をもたらさない温度において脱硫酸化できる必要がある。
【0023】
上記の技術的問題は、触媒の温度を管理する有効な方法によって解決できることが今では判明している。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、本発明は、長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、担体基材の温度を制御する手段と、を含む触媒に関する。
【0025】
本発明の一実施形態では、受動的窒素酸化物吸着剤は、酸化セリウム上、酸化ジルコニウム上、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合物上、又はゼオライト上に担持されたパラジウムを含む。
【0026】
パラジウムがゼオライト上に担持される場合、ゼオライトは、特に、骨格型コードAEI、AFX、CHA、ERI、KFI、又はLEVを有する骨格型に属する小細孔ゼオライトである。
【0027】
骨格型AEIのゼオライトは、例えば、SSZ-39及びAlPO-18である。骨格型AFXのゼオライトは、例えば、SAPO-56である。骨格型CHAのゼオライトは、例えば、SSZ-13、SAPO-34、LZ-218、ZK-14、及びチャバザイトである。骨格型ERIのゼオライトは、例えば、ZSM-34、LZ-220、及びSAPO-17である。骨格型KFIのゼオライトは、例えばZK-5である。骨格型LEVのゼオライトは、例えば、レビン、LZ-132、Nu-3、ZK-20、及びSAPO-35である。
【0028】
あるいは、パラジウムは、骨格型コードBEA又はMFIを有する骨格型に属するゼオライト上に担持され得る。骨格型BEAのゼオライトは、「ゼオライトベータ」又は「βゼオライト」として特に知られている。骨格型MFIのゼオライトは、ZSM-5である。
【0029】
パラジウムがゼオライト上に担持される場合、ゼオライトは、好ましくはチャバザイト、SSZ-13、ゼオライトベータ又はZSM-5である。
【0030】
パラジウムがゼオライト上に担持される場合、パラジウムは、特に、パラジウムカチオンとして、すなわちイオン交換された形態でゼオライト構造中に存在する。
【0031】
加えて、パラジウムは、完全に又は部分的に、ゼオライト構造中及び/又はゼオライト構造の表面上にパラジウム金属の形態及び/又は酸化パラジウムの形態で存在し得る。
【0032】
上記のゼオライト上でパラジウムを担持することに加えて、酸化セリウム上でパラジウムを担持することも好ましい。
【0033】
パラジウムは、受動的窒素酸化物吸着剤の重量を基準として、かつパラジウム金属として計算して、0.01~20重量パーセントの量で存在することができる。
【0034】
好ましくは、パラジウムは、受動的窒素酸化物吸着剤の重量を基準として、かつパラジウム金属として計算して、0.5~10、より好ましくは0.5~4、特に好ましくは0.5~2重量パーセントの量で存在する。
【0035】
本発明の一実施形態では、長さLの担体基材は、例えば、鉄、アルミニウム、及びクロムを含む鋼又は合金などの金属で作製される。しかしながら、長さLの基材は、当然、コージェライトで作製することもできる。
【0036】
このような担体基材は、好ましくは、高いセル密度及び対応する高い触媒有効表面を有する。
【0037】
一実施形態では、担体基材は、両端が開いているチャネルが担体の2つの端面の間に延在する、フロースルー基材として設計される。
【0038】
好ましくは、いわゆるLS設計(長手方向構造)、いわゆるPE設計(穴あき箔)、又は両方の組み合わせ(LS/PE設計)を有する金属製の担体基材が使用される。これらの担体構造体では、チャネルの壁が穿孔されており、特定のチャネルに入った排気ガスは、別のチャネルに入った排気ガスと混合される。この結果、チャネル内が乱流状態となり、したがって、受動的窒素酸化物吸着剤がその上にコーティングされる壁への質量輸送の増加をもたらす。
【0039】
別の実施形態では、担体基材は、すすを捕捉するように設計される。
【0040】
金属製の担体基材は、文献に記載され、市販されている。
【0041】
本発明の一実施形態では、担体基材の温度を制御する手段は、金属又はセラミックからなる少なくとも1つの電気加熱素子である。通常、抵抗加熱素子が使用されるが、他の加熱素子も同様に使用できる。加熱素子は、理想的には、加熱速度を制御する手段を含む。
【0042】
このような加熱素子は文献に記載されており、市販されている。一体型加熱素子を含む、入手可能な金属製の担体基材さえも存在する。このような製品は、EHC-電気加熱触媒-として知られており(例えば、SAE文書SAE 951072を参照されたい)、市販されている。
【0043】
電気加熱素子は、担体基材の全長Lまで延在することができる。しかしながら、電気加熱素子は、担体基材の長さLの一部にのみ延在することが好ましい。特に、電気加熱素子は、担体基材の一端から始まって、長さLの0.1~10%の長さまで延在する。換言すれば、電気加熱素子は、担体基材の一端で始まり、担体基材の長さLの0.1~10%の長さまで延在する、担体基材のゾーン内に存在する。このゾーンの長さを、以下、LHEと呼ぶ。このゾーンは、好ましくは、担体基材の端部に位置し、そこから排気ガスが触媒に入る。
【0044】
本発明の一実施形態では、受動的窒素酸化物吸着剤は、担体基材上のコーティングとして存在する。その場合、コーティングは、担体基材の全長Lまで、又はその一部のみに延在することができる。電気加熱触媒(EHC)が担体基材として使用される場合、受動的窒素酸化物吸着剤は、加熱素子上に直接コーティングされてもよい。
【0045】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、触媒は、
長さLの担体基材であって、長さLの0.1~10%の長さまで延在する電気加熱素子を含む担体基材と、
担体基材上にコーティングとして存在する受動的窒素吸着剤と
を含む。
【0046】
この実施形態では、受動的窒素吸着剤は、担体基材の全長Lにわたってコーティングされてもよく、これは電気加熱素子を被覆することも意味する。あるいは、受動的窒素吸着剤は、Lのうち電気加熱素子を含まない部分のみにコーティングされる。換言すれば、L=LHE+LPNA[式中、LHEは、電気加熱素子を担持するゾーンの長さであり、LPNAは受動的窒素吸着剤を担持するゾーンの長さである]である。
【0047】
使用の際、触媒に入る排気ガスは、最初に長さLHEのゾーンと接触し、その後の長さLPNAのゾーンと接触する。
【0048】
受動的窒素酸化物吸着剤は、担体基材上の唯一のコーティングであってもよく、又は1つ以上の追加の触媒活性コーティングが存在してもよい。
【0049】
例えば、担体基材は、受動的窒素酸化物吸着剤に加えて、酸化触媒を担持することができる。
【0050】
酸化触媒は、例えば、担体材料上に白金、パラジウム、又は白金とパラジウムを含む。後者の場合、白金対パラジウムの重量比は、例えば、4:1~14:1である。
【0051】
担体材料としては、その目的で当業者に既知の全ての材料を使用することができる。通常、担体材料は、BET表面が30~250m/g、好ましくは100~200m/g(ドイツ規格DIN66132に従って決定)であり、特に、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、及びこれらの材料のうちの少なくとも2つを含む混合物又は混合酸化物である。
【0052】
好ましいのは、アルミナ、アルミナ/シリカ混合酸化物及びマグネシア/アルミナ混合酸化物である。アルミナを使用する場合、アルミナは、好ましくは、例えば、1~6重量パーセント、特に4重量パーセントのランタンで安定化されている。
【0053】
受動的窒素酸化物吸着剤を含むコーティング(以下、コーティングAと呼び、長さLPNAを有する)と、酸化触媒を含むコーティング(以下、コーティングBと呼び、長さLOCを有する)とは、異なる方法で担体基材上に配置することができる。
【0054】
例えば、両方のコーティングは、担体基材の全長Lまで、又はその一部まで、延在することができる。
【0055】
一実施形態では、コーティングAは、担体基材の一端から始まってその長さLの10~80%まで延在することができ、コーティングBも、担体基材の他端から始まってその長さLの10~80%まで延在することができる。
【0056】
この場合、L=LPNA+LOC[式中、LPNAはコーティングA(受動的窒素吸着剤を含むゾーン)の長さであり、LOCはコーティングB(酸化触媒を含むゾーン)の長さである]を適用できる。しかしながら、L<LPNA+LOCも適用できる。この場合、コーティングAとコーティングBは重なり合う。最後に、担体基材の一部がいかなるコーティングも含まない場合、L>LPNA+LOCを適用できる。後者の場合、コーティングAとコーティングBとの間に少なくとも0.5cm、例えば0.5~1cmの間隙が存在する。
【0057】
本発明の触媒が、長さLの0.1~10%の長さ(LHEと称される)まで延在する電気加熱素子を含む担体基材を含む場合、好ましくはL=LHE+LPNA+LOCが適用される。これは、電気加熱素子を含むゾーンと、コーティングA及びコーティングBとが重なり合わないことを意味する。
【0058】
しかしながら、本発明は、電気加熱素子を含むゾーンと、コーティングA及びコーティングBとが重なり合う実施形態も含む。
【0059】
例えば、コーティングA及びコーティングBの両方が、担体基材の全長Lまで延在することが可能である。この場合、コーティングBは担体基材上に、コーティングAはコーティングB上に、直接適用されてもよい。あるいは、コーティングAが担体基材上に、コーティングBがコーティングA上に、直接適用されてもよい。
【0060】
加えて、1つのコーティングが担体基材の全長Lまで延在し、他のコーティングはその一部にのみ延在することが可能である。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、受動的窒素酸化物吸着剤を含むコーティングAは、担体基材上に直接適用され、酸化触媒を含むコーティングBは、そのコーティング上に適用され、両方とも担体基材の全長Lまで延在する(L=LPNA=LOC)。
【0062】
本発明の特定の好ましい実施形態では、受動的窒素酸化物吸着剤を基準にして、かつパラジウム金属として計算して、0.5~1.5重量パーセントの量のパラジウムとイオン交換された、チャバザイト、SSZ-13、ゼオライトベータ及びZSM-5からなる群から選択されるゼオライトを含む第1のコーティング(コーティングAに対応する)が、金属製の担体基材上にコーティングされ、白金、パラジウム、又は白金とパラジウムを4:1~14:1の重量比で含む第2のコーティング(コーティングBに対応する)が、第1のコーティング上に塗布され、両方のコーティングが担体基材の全長Lまで延在する。
【0063】
上記の場合、下層は、特に、50~250g/Lの担体基材の量で存在し、上層は、50~100g/Lの担体基材の量で存在する。
【0064】
受動的窒素酸化物吸着剤が担体基材上のコーティングとして存在する、本発明による触媒は、既知の方法、例えば、慣習的なディップコーティング法、又はポンプ及び吸引コーティング法に続いての熱的後処理(焼成及び場合によっては生成ガス又は水素を使用した還元)によって製造することができる。これらの方法は、従来技術から十分に知られている。
【0065】
本発明による触媒は、受動的窒素酸化物吸着剤として極めて好適である。これは、本発明による触媒が、200℃未満の温度で窒素酸化物を吸蔵でき、200℃を超える温度で該窒素酸化物を放出できることを意味する。加えて、「空の」状態でドライブサイクルを終了し、したがって、その後のコールドスタート又は低温運転条件でSCR触媒がもはや活性ではないときに、窒素酸化物吸蔵の最大能力を提供するように、温度を管理することができる。その結果、下流SCR触媒との組み合わせで、コールドスタート温度を含む全温度範囲内で窒素酸化物を効果的に変換することが可能である。
【0066】
したがって、本発明は、
長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、担体基材の温度を制御する手段とを含む触媒、及び
第1のSCR触媒
を含む、排気ガス浄化システムにも関する。
【0067】
本発明の排気ガス浄化システムの第1のSCR触媒は、主に、窒素酸化物とアンモニアとのSCR反応の触媒活性である全ての触媒から選択できる。具体的には、第1のSCR触媒は、自動車の排気ガスの浄化分野において慣習的なSCR触媒から選択される。上記触媒は、混合酸化物型のSCR触媒(例えば、バナジウム、タングステン及びチタンを含む)、並びにゼオライト、特に遷移金属と交換されたゼオライト、特に銅、鉄、又は銅及び鉄と交換されたゼオライトをベースとする触媒を含む。
【0068】
本発明の実施形態では、第1のSCR触媒は、8個の四面体原子の最大環サイズを有する小細孔ゼオライトと、遷移金属、例えば、銅、鉄、又は銅及び鉄とを含む。そのようなSCR触媒は、例えば、国際公開第2008/106519(A1)号、同第2008/118434(A1)号、及び同第2008/132452(A2)号に開示されている。
【0069】
加えて、遷移金属と交換された大細孔及び中細孔のゼオライトも使用できる。注目されるのは、特に、構造コードBEAに属するゼオライトである。
【0070】
特に好ましいゼオライトは、構造コードBEA、AEI、CHA、KFI、ERI、LEV、MER又はDDRに属し、特に、銅、鉄、又は銅及び鉄とイオン交換されている。
【0071】
本発明の文脈において、用語ゼオライトは、「ゼオライト様」と呼ばれることもあるモレキュラーシーブを含む。モレキュラーシーブは、上記の構造コードのうちの1つに属する場合に好ましい。その例は、SAPOとして知られているシリカアルミニウムホスフェートゼオライト、AlPOとして知られているアルミニウムホスフェートゼオライトである。同様に、これらの材料は、銅、鉄、又は鉄及び銅と交換されている場合に特に好ましい。
【0072】
加えて、好ましいゼオライトは、2~100、特に5~50のSAR(シリカ対アルミナ比)値を有する。
【0073】
ゼオライト及びモレキュラーシーブはそれぞれ、遷移金属を、特に金属酸化物として、例えばFe又はCuOとして計算して、1~10重量パーセント、好ましくは2~5重量パーセントの量で含む。
【0074】
本排気ガス浄化システムの好ましい実施形態では、第1のSCR触媒は、ベータ型(BEA)、チャバザイト型(CHA)又はレビン型(LEV)のゼオライト又はモレキュラーシーブを含む。このようなゼオライト又はモレキュラーシーブは、例えば、ZSM-5、ベータ、SSZ-13、SSZ-62、Nu-3、ZK-20、LZ-132、SAPO-34、SAPO-35、AlPO-34、及びAlPO-35として知られており、例えば、米国特許第6,709,644号及び米国特許第8,617,474号を参照されたい。
【0075】
本発明の排気ガス浄化システムの一実施形態では、受動的窒素酸化物吸着剤を含む触媒と第1のSCR触媒との間に、還元剤の注入ユニットが存在する。
【0076】
好適な注入ユニットは文献に見出すことができる(例えば、T.Mayer,Feststoff-SCR- System auf Basis von Ammonium-carbamat,Dissertation,Technical University of Kaiserslautern,Germany,2005を参照されたい)、当業者は当該注入ユニットのいずれかを選択することができる。アンモニアは、そのままで、又は排気ガス流の周囲条件下でアンモニアを形成する前駆体の形態で、排気ガス流に注入することができる。好適な前駆体は、例えば、尿素又はギ酸アンモニウム(ammonium format)の水溶液、並びに固体カルバミン酸アンモニウムである。還元剤及びその前駆体は、それぞれ、通常、注入ユニットに接続された保管タンク内に保持される。
【0077】
第1のSCR触媒は、通常、担体基材上のコーティングの形態で存在し、これはフロースルー基材又はウォールフロー基材であってもよい。担体基材は、例えば、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム、又はコージェライトからなる。
【0078】
本発明の排気ガス浄化システムは、追加の要素を所望により含む。例えば、排気ガス浄化システムは第2のSCR触媒を含むことができ、当該触媒は、第1のSCR触媒の下流に配置されてもよく、又は受動的窒素酸化物吸着剤を含む触媒の上流に近位連結位置で配置されてもよい。第2のSCR触媒は、好ましくは、上記の第1のSCR触媒に好ましいものとして開示されているゼオライトを含む。
【0079】
加えて、本発明の排気ガス浄化システムは、いわゆるアンモニアスリップ触媒(ASC)を含むことができる。アンモニアスリップ触媒の目的は、SCR触媒をスリップするアンモニアを酸化し、それによって大気へのアンモニアの放出を避けることである。その結果、アンモニアスリップ触媒は、別々の担体基材上にコーティングされ、SCR触媒の下流に配置されるか、又はSCR触媒の下流部分上にコーティングされる。
【0080】
本発明の排気ガス浄化システムの実施形態では、アンモニアスリップ触媒は、1つ以上の白金族金属、特に白金又は白金及びパラジウムを含む。
【0081】
本発明の触媒は、その窒素酸化物放出特性を、下流SCR触媒が活性である時間と合致させることを可能にする。
【0082】
したがって、本発明は、リーンバーンエンジンから排出された、窒素酸化物を含有する排気ガスを浄化するための方法に関し、この方法は、排気ガス流を
長さLの担体基材と、受動的窒素酸化物吸着剤と、担体基材の温度を制御する手段とを含む触媒、及び
第1のSCR触媒
を含む排気ガス浄化システムと接触させることと、
これにより、
a)第1のSCR触媒の動作温度範囲よりも低い温度で、窒素酸化物を受動的窒素酸化物吸着剤中に吸蔵することと、
b)担体基材を加熱することによって、第1のSCR触媒がその動作温度範囲に到達するとすぐに、工程a)で吸蔵された窒素酸化物を放出することと、
c)工程b)で放出された窒素酸化物を第1のSCR触媒中で還元することと、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0083】
実施例1
a)SSZ-13型(骨格型コードCHA)のゼオライトに、市販の硝酸パラジウムを用いて2重量%のパラジウムを含浸させる(「初期湿潤度」(incipient wetness))。次いで、得られた粉末を120℃及び350℃で段階的に乾燥させ、最後に500℃で焼成する。
【0084】
b)上記工程a)で得られたPd含有粉末を脱塩水中に懸濁し、ベーマイト系の市販の結合剤8%と混合し、ボールミルで粉砕する。続いて、得られたウォッシュコートで、金属製の電気加熱触媒(EHC)(例えば、商標名EMICAT(登録商標)で市販されている)を、その全長にわたってコーティングする。ウォッシュコート担持量は、Pd含有ゼオライトを基準にして50g/Lである。これは、42.5g/ftのPd担持量に相当する。
【0085】
実施例2
実施例1を繰り返すが、骨格型BEAのゼオライトを使用する点が異なる。
【0086】
実施例3
実施例1に従って得られた触媒を、追加工程において、アルミナ上に担持された白金を含むウォッシュコートで、その全長にわたってコーティングする。追加工程のウォッシュコート担持量は75g/Lであり、白金担持量は20g/ftである。
【0087】
実施例4
実施例3で得られた触媒を第2の触媒と組み合わせて、排気ガス浄化システムを形成する。第2の触媒は、3重量%の銅(CuOとして計算)とイオン交換された骨格型CHAのゼオライトを担持するコージェライト製の市販のフロースルー基材である。第2の触媒のウォッシュコート担持量は150g/Lである。