(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】モレキュラーシーブSSZ-110、その合成および使用
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20230314BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J29/70 Z
(21)【出願番号】P 2020521543
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 IB2019050472
(87)【国際公開番号】W WO2019145837
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-06-03
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゾーンズ、ステイシー イアン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス、トレイシー マーガレット
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ダン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、コン - ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ラチーン、ハワード スティーブン
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/064273(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0110712(US,A1)
【文献】特表2008-514538(JP,A)
【文献】特開2008-230966(JP,A)
【文献】Peng Lu et al.,Synthesis of STW zeolites using imidazolium-based dications of varying length,Journal of Materials Chemistry A,2018年,vol.6,pp.1485-1495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/02-39/48
B01J 29/00-29/90
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
STWフレームワーク型のアルミノシリケートモレキュラーシーブであって、その合成されたままの形態で、1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数をその細孔内に含む、アルミノシリケートモレキュラーシーブであって、
100未満のSiO
2/Al
2O
3のモル比を有する、アルミノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項2】
SiO
2/Al
2O
3の前記モル比が、20~80の範囲内である、請求項1に記載のアルミノモレキュラーシーブ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のSTWフレームワーク型のアルミノシリケートモレキュラーシーブを合成する方法であって、
ステップ(a)、すなわち、
(1)酸化ケイ素源;
(2)酸化アルミニウム源;
(3)1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数を含む有機構造指向剤(Q);
(4)フッ化物イオン源;
(5)水
を含む反応混合物を提供するステップと、
ステップ(b)、すなわち、
前記反応混合物から前記モレキュラーシーブの結晶を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項4】
前記反応混合物が、モル比に関して以下の組成を有する、請求項3に記載の方法。
【表1】
【請求項5】
前記反応混合物が、モル比に関して以下の組成を有する、請求項3に記載の方法。
【表2】
【請求項6】
前記反応混合物が、シードをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記シードが、前記反応混合物の重量で0.01~10,000ppmの量で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記シードが、STWフレームワーク型のモレキュラーシーブを含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月24日に提出された米国仮出願第62/621,116号の優先権および利益を主張する。
【0002】
本開示は、SSZ-110と呼ばれるSTWフレームワーク型の新規な合成アルミノシリケートモレキュラーシーブ、その合成、ならびに有機化合物変換反応および収着プロセスにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ゼオライト材料は、吸着材料としての有用性があり、様々な種類の有機変換反応に対して触媒特性を有することが知られている。ある特定のゼオライト材料は、X線回折により決定された明確な結晶構造を有する秩序化した多孔質結晶材料である。ゼオライト材料内には、多数のより小さな空洞があり、それらは多数のさらに小さなチャネルまたは細孔によって相互接続され得る。これらの細孔の寸法は、ある特定の寸法の収着分子を受け入れる一方で、より大きな寸法の分子を排除するようなものであるため、これらの材料は「モレキュラーシーブ」として知られるようになり、これらの特性を活用するために様々な様式で利用されている。
【0004】
モレキュラーシーブは、ゼオライト命名法に関するIUPAC委員会の規則に従って、国際ゼオライト協会の構造委員会によって分類されている。この分類によると、構造が確立されたフレームワーク型ゼオライトおよびその他の結晶性ミクロ細孔性モレキュラーシーブには3文字のコードが割り当てられ、「Atlas of Zeolite Framework Types」、第6改訂版、Elsevier(2007)に記載されている。
【0005】
フレームワーク型STWを有すると国際ゼオライト協会によって特定されたモレキュラーシーブは知られている。ゲルマノシリケートゼオライトSU-32は、構造指向剤としてジイソプロピルアミンを使用して合成された既知の結晶性STW材料である(L.Tangら、Nature Mater.2008、7、381~385を参照されたい)。SU-32は、直線的な8員環チャネルが様々なレベルで交差する10員環キラル螺旋チャネルを含む。
【0006】
A.Rojasら(Angew.Chem.Int.Ed.2012、51、3854~3856)は、STWフレームワーク型の純粋なシリカキラルゼオライトHPM-1、および構造指向剤として2-エチル-1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを使用したその合成を開示している。
【0007】
N.Zhangら(J.Solid State Chem.2015、225、271~277)は、構造指向剤としてN,N-ジエチルエチレンジアミンを使用した純粋なSTW型ゲルマノシリケートならびにCuおよびCo置換STW-ゼオタイプ材料の合成を開示している。
【0008】
L.Shiら(Chem.J.Chinese U.2015、36、1467~1471)は、構造指向剤として2-エチル-1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを使用したホウ素置換STW型シリケートゼオライトの合成を開示している。
【0009】
米国特許第9,604,197号は、構造指向剤として1,2,3,4,5-ペンタメチル-1H-イミダゾール-3-イウムカチオンを使用したSTWフレームワーク型モレキュラーシーブの合成を開示している。アルミノシリケートSTW材料は、少なくとも100アルミニウムに対するケイ素のモル比を有すると報告されている。
【0010】
P.Luら(J.Mater.Chem.A 2018、1485~1495)は、様々な長さのイミダゾリウムベースのジカチオンを使用したゲルマノシリケートおよび純粋なシリカSTW型ゼオライトの合成を開示している。
【0011】
触媒用途の場合、アルミニウム原子等の触媒活性部位を組み込むことが、モレキュラーシーブに酸性特性を付与するために重要である。
【0012】
したがって、本明細書でSSZ-110と呼ばれ、100未満のSiO2/Al2O3モル比を有するSTWフレームワーク型の新たなアルミノシリケートモレキュラーシーブが提供される。モレキュラーシーブSSZ-110は、本明細書に開示されている有機構造指向剤を使用して合成することができる。
【発明の概要】
【0013】
一態様において、100未満のSiO2/Al2O3のモル比を有するSTWフレームワーク型の新規アルミノシリケートモレキュラーシーブが提供される。
【0014】
別の態様において、STWフレームワーク型のアルミノシリケートモレキュラーシーブを合成する方法であって、(a)(1)酸化ケイ素源;(2)酸化アルミニウム源;(3)1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数を含む有機構造指向剤(Q);(4)フッ化物イオン源;ならびに(5)水を含む反応混合物を提供するステップと;(b)その反応混合物を、アルミノシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供するステップとを含む方法が提供される。
【0015】
さらなる態様において、STWフレームワーク型のアルミノシリケートモレキュラーシーブであって、その合成されたままの形態で、1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数をその細孔内に含む、アルミノシリケートモレキュラーシーブが提供される。
【0016】
さらなる態様において、有機化合物を含む供給原料を変換生成物に変換する方法が提供され、この方法は、供給原料を、有機化合物変換条件で、本明細書に記載のアルミノシリケートモレキュラーシーブの活性型を含む触媒と接触させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】例2で調製された合成されたままのモレキュラーシーブの粉末X線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
導入部
「アルミノシリケート」という用語は、そのフレームワーク内にケイ素および酸化アルミニウムを含むモレキュラーシーブ組成物を指す。いくつかの場合には、これらの酸化物のいずれかが他の酸化物で任意選択で置換されてもよい。「純粋なアルミノシリケート」は、フレームワークに検出可能な他の金属酸化物を有さないモレキュラーシーブ構造である。「任意選択で置換される」と説明されている場合、それぞれのフレームワークは、ホウ素、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、チタン、鉄、または親フレームワークにまだ含まれていない原子の1つまたは複数を置換した他の原子を含み得る
【0019】
「フレームワーク型」という用語は、「Atlas of Zeolite Framework Types」、第6改訂版、Elsevier(2007)に記載の意味で使用される。
【0020】
本明細書において、「合成されたまま」という用語は、有機構造指向剤の除去前の、結晶化後の形態のモレキュラーシーブを指すように使用される。
【0021】
本明細書において、「無水」という用語は、物理的吸着した水および化学吸着した水の両方を実質的に有さないモレキュラーシーブを指すように使用される。
【0022】
本明細書で使用される場合、周期表の族の番号付けスキームは、Chem.Eng.News 1985、63(5)、26~27に開示されている通りである。
【0023】
本明細書において、SiO2/Al2O3モル比(SAR)は、誘導結合プラズマ-質量分析(ICP-MS)によって決定される。
【0024】
本明細書において、「表面積」は、その沸点でのN2吸着によって決定される。B.E.T.表面積は、P/P0=0.050、0.088、0.125、0.163、および0.200での5点法によって計算される。試料は、水または有機物質等の任意の吸着揮発物を除去するために、流動する乾燥N2の存在下で最初に400℃で6時間前処理される。
【0025】
本明細書において、「ミクロ細孔容積」は、その沸点でのN2吸着によって決定される。細孔容積は、P/P0=0.050、0.088、0.125、0.163、および0.200でtプロット法によって計算される。試料は、水または有機物質等の任意の吸着揮発物を除去するために、流動する乾燥N2の存在下で最初に400℃で6時間前処理される。
【0026】
本明細書において、「ブレンステッド酸性度」は、T.J.Gricus Kofkeら(J.Catal.1988、114、34~45)、T.J.Gricus Kofkeら(J.Catal.1989、115、265~272)、およびJ.G.Tittensorら(J.Catal.1992、138、714~720)による公開された説明から適合されたイソプロピルアミン-温度-プログラム脱着(isopropylamine-temperature-programmed desorption)(IPam TPD)により決定される。試料を、乾燥H2を流しながら1時間400℃~500℃で前処理した。次いで、脱水した試料を、乾燥ヘリウムを流しながら120℃まで冷却し、吸着のためにイソプロピルアミンを飽和させたヘリウムを流しながら120℃で30分間保持した。次いで、イソプロピルアミン飽和試料を、乾燥ヘリウムを流しながら10℃/分の速度で500℃まで加熱した。ブレンステッド酸性度は、熱重量分析(TGA)による重量損失対温度、および質量分析による流出NH3およびプロペンに基づいて計算した。
【0027】
制約指数(Constraint Index)(CI)は、本明細書において、S.I.Zonesらによって説明された方法(Micropor.Mesopor.Mater.2000、35~36、31~46)に従って決定される。試験は、8、10、および≧12員環(MR、環を構成する四面体または酸素原子の数)細孔で構成される細孔系を区別できるように設計されている。CI値は、モレキュラーシーブの細孔サイズが大きくなると減少する。例えば、ゼオライトは、CI値に基づいて次のように分類されることが多い。大細孔径(12-MR)または超大細孔径(≧14-MR)モレキュラーシーブではCI<1;中孔径(10-MR)モレキュラーシーブでは1≦CI≦12;小細孔径(8-MR)モレキュラーシーブではCI>12である。
【0028】
反応混合物
一般に、STWフレームワーク型のアルミノシリケートモレキュラーシーブは、(a)(1)酸化ケイ素源;(2)酸化アルミニウム源;(3)1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数を含む有機構造指向剤(Q);(4)フッ化物イオン源;ならびに(5)水を含む反応混合物を提供するステップと;(b)反応混合物を、アルミノシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供するステップとによって合成され得る。
【0029】
反応混合物は、モル比に関して、以下の表1に示される範囲内の組成を有し得る。
【表1】
ここで、Qは上記の通りである。
【0030】
適切な酸化ケイ素源には、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、アルカリ金属ケイ酸塩およびテトラアルキルオルトシリケートが含まれる。
【0031】
適切な酸化アルミニウム源には、水和アルミナおよび水溶性アルミニウム塩(例えば、硝酸アルミニウム)が含まれる。
【0032】
追加的または代替的に、酸化ケイ素源および酸化アルミニウム源の組み合わせを使用することができ、アルミノシリケートゼオライト(例えば、ゼオライトY)および粘土または処理粘土(例えば、メタカオリン)を含み得る。
【0033】
適切なフッ化物イオン源には、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、および二フッ化水素アンモニウムが含まれる。
【0034】
有機構造指向剤(Q)は、それぞれ以下の構造(1)~(3)で表される、1,4-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ブタンジカチオン、1,5-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ペンタンジカチオン、および1,6-ビス(2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム)ヘキサンジカチオンの1つまたは複数を含む。
【化1】
【0035】
適切なQの源は、関連するジ四級アンモニウム化合物の水酸化物および/または他の塩である。
【0036】
反応混合物はまた、望ましくは反応混合物の0.01~10,000重量ppm(例えば、100~5000重量ppm)の量で、以前の合成からのSSZ-110等のモレキュラーシーブ材料のシードを含有してもよい。シード添加は、完全な結晶化が生じるのに必要な時間を短縮するのに有利である。さらに、シード添加は、任意の望ましくない段階にわたって核形成および/またはSSZ-110の形成を促進することにより得られる生成物の純度の向上をもたらし得る。
【0037】
本明細書に記載の各実施形態について、反応混合物は、複数の源によって供給され得る。また、2つ以上の反応成分を1つの源によって提供することもできる。
【0038】
反応混合物は、バッチ式または連続的に調製することができる。本明細書に記載のモレキュラーシーブの結晶サイズ、形態、および結晶化時間は、反応混合物の性質および結晶化条件によって異なり得る。
【0039】
結晶化および合成後の処理(Crystallization and Post-Synthesis Treatment)
上記の反応混合物からのモレキュラーシーブの結晶化は、使用温度で結晶化が生じるのに十分な期間、例えば、5~40日間、125℃~200℃の温度で、ポリプロピレンジャーまたはテフロンライニング(テフロンは登録商標)もしくはステンレス鋼オートクレーブ等の適切な反応容器内で、静的、転倒または攪拌条件下で行うことができる。結晶化は通常、反応混合物が自生圧力を受けるようにオートクレーブで行われる。
【0040】
モレキュラーシーブ結晶が形成されると、固体生成物は、遠心分離または濾過等の標準的な機械的分離技術によって反応混合物から回収される。回収された結晶を水洗し、次いで乾燥して、合成されたままのモレキュラーシーブ結晶を得る。乾燥ステップは、典型的には200℃未満の温度で行われる。
【0041】
結晶化プロセスの結果として、回収された結晶性生成物は、その細孔構造内に、合成で使用された有機構造指向剤の少なくとも一部を含有する。
【0042】
モレキュラーシーブSSZ-110は、その合成されたままの無水形態では、表2に示す以下のモル関係を含む化学組成を有し得る。
【表2】
ここで、Qは上記の通りである。
【0043】
結晶化中のそれらの存在の結果として合成されたままの材料に関連するQおよびF成分は、従来の結晶化後方法(post-crystallization methods)によって容易に除去される。
【0044】
合成されたままのモレキュラーシーブは、その合成に使用される有機構造指向剤の一部またはすべてを除去するための処理に供されてもよい。これは、合成されたままの材料が少なくとも約370℃の温度で少なくとも1分間、および一般的に20時間以内で加熱される熱処理によって便利にもたらされ得る。熱処理は、925℃までの温度で行うことができる。大気圧より低い圧力を熱処理に使用することができるが、利便性の理由で大気圧が望ましい。追加的または代替的に、有機構造指向剤は、オゾンでの処理により除去することができる(例えば、A.N.Parikhら、Micropor.Mesopor.Mater.2004、76、17~22を参照されたい)。特にその金属、水素、およびアンモニウム形態の有機物欠乏生成物(organic-depleted product)は、ある特定の有機(例えば、炭化水素)変換反応の触媒に特に有用である。本開示において、その水素形態の有機物欠乏モレキュラーシーブは、金属機能が存在するかまたは存在しないモレキュラーシーブの「活性形態」と呼ばれる。
【0045】
本モレキュラーシーブの合成は、1族または2族金属カチオンの非存在下で達成することができ、それにより、閉塞有機構造指向剤を除去するための処理後の生成物のイオン交換の必要性がなくなる。しかしながら、材料のSiO2/Al2O3モル比に応じて、モレキュラーシーブ内の任意のカチオンは、当技術分野で周知の技術に従って(例えば、他のカチオンとのイオン交換によって)置き換えることができる。好ましい置換カチオンは、金属イオン、水素イオン、水素前駆体(例えば、アンモニウム)イオン、およびそれらの混合物を含み得る。特に好ましい置換カチオンは、ある特定の有機化合物変換反応の触媒活性を調整するものを含み得る(例えば、水素、希土類金属、および/または元素周期表の、2~15族の1つまたは複数の金属)。
【0046】
モレキュラーシーブSSZ-110は、そのか焼された形態では、次のモル関係を含む化学組成を有し得る。
Al2O3:(n)SiO2
式中、nは、100未満(例えば、20~100未満、20~95、20~90、20~85、20~80、20~75、20~70、20~65、20~60、25~100未満、25~95、25~90、25~85、25~80、25~75、25~70、25~65、25~60、30~100未満、30~95、30~90、30~85、30~80、30~75、30~70、30~65、30~60、35~100未満、35~95、35~90、35~85、35~80、35~75、35~70、35~65、35~60、40~100未満、40~95、40~90、40~85、40~80、40~75、40~70、40~65、または40~60)である。
【0047】
収着および触媒
モレキュラーシーブSSZ-110は、現在の商業的/産業的重要性の多くを含む多種多様な有機化合物変換プロセスを触媒する収着剤または触媒として使用され得る。単独で、または他の結晶性触媒を含む1種以上の他の触媒活性物質と組み合わせて、SSZ-110によって効果的に触媒される化学変換プロセスの例は、酸活性を有する触媒を必要とするものを含む。SSZ-110によって触媒され得る有機変換プロセスの例は、アルキル化、(水素化)分解、不均化、異性化、およびオリゴマー化を含む。他の有機変換プロセスは、アルコールとオレフィンとの反応、および有機含酸素化合物の炭化水素への変換を含み得る。
【0048】
有機化合物(例えば、炭化水素)変換プロセスで使用される多くの触媒の場合のように、SSZ-110を、有機変換プロセスで使用される温度および他の条件に耐性のある別の材料に組み込むことが望ましい場合がある。そのような材料は、活性および不活性材料、ならびに合成または天然ゼオライト、ならびに粘土、シリカ、および/またはアルミナ等の金属酸化物等の無機材料を含み得る。後者は、天然に存在するか、またはシリカおよび金属酸化物の混合物を含むゼラチン状の沈殿物またはゲルの形態であってもよい。本モレキュラーシーブと併せた、すなわちそれと組み合わせた、および/または活性であるモレキュラーシーブの合成中に存在する材料の使用は、ある特定の有機変換プロセスで触媒の変換および/または選択性を変更する傾向を有し得る。不活性材料は、反応速度を制御するための他の(より高価な)手段を使用することなく経済的かつ秩序立った様式で生成物を得ることができるように、所定のプロセスで変換量を制御するための希釈剤として適切に機能する。これらの材料は、天然の粘土(例えば、ベントナイトおよびカオリン)に組み込まれ、商業的な運転条件下での触媒の破砕強度を改善し得る。これらの材料(すなわち、粘土、酸化物等)は、触媒の結合剤として機能し得る。商業用途では、触媒が粉末状の材料に分解すること(摩耗)を防ぐことが望ましくなり得るため、良好な破砕強度を有する触媒を提供することが望ましい場合がある。これらの粘土および/または酸化物結合剤は、通常、触媒の破砕強度を改善する目的でのみ使用されている。
【0049】
SSZ-110と複合され得る天然粘土は、モンモリロナイトおよびカオリンのファミリーを含み、これらのファミリーは、サブベントナイト、ならびに一般にディクシー(Dixie)、マクナミー(McNamee)、ジョージアおよびフロリダ粘土として知られるカオリン、または主鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライトもしくはアナキサイトであるその他の物を含み得る。そのような粘土は、元々の採掘されたままの状態で、または最初にか焼、酸処理もしくは化学修飾に供されたままの状態で使用され得る。本発明のモレキュラーシーブとの複合に有用な結合剤は、追加的または代替的に、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、およびそれらの混合物等の無機酸化物を含み得る。
【0050】
上記の材料の代わりに、またはそれに加えて、SSZ-110は、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニア、ならびに/または、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、およびシリカ-マグネシア-ジルコニア等の1つまたは複数の三元組成物等の多孔質マトリックス材料と複合されてもよい。
【0051】
モレキュラーシーブSSZ-110および無機酸化物マトリックスの相対的な割合は大きく異なり、SSZ-110の含有量は、複合体の1~90重量%(例えば、2~80重量%)の範囲である。
【0052】
例
以下の例示的な例は、非限定的であることを意図している。
【0053】
例1
風袋を測定したテフロンカップ(tared Teflon cup)(テフロンは登録商標)に、1,1’-(1,4-ブタンジイル)ビス[2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジヒドロキシド(水酸化物2.5ミリモル相当)を入れた。次いで、1.04グラムのオルトケイ酸テトラエチル(5ミリモルのSiO2)およびアルミナ源として0.02グラムのReheis F-2000を加え、出発SiO2/Al2O3モル比を50とした。次いで、前の合成からのSSZ-110のシード(10mg)を混合物に加えた。テフロンカップ(テフロンは登録商標)を2日間閉じたままにしてから、カップを開けて、オルトケイ酸テトラエチルからの一部の水およびエタノールの蒸発を開始させた。固形分が1.09グラムであることが判明したら、50%HF溶液(0.09グラム)を反応混合物に加えた。テフロンカップ(テフロンは登録商標)に蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に設置した。オートクレーブを炉内に設置し、2週間回転(43rpm)させながら170℃に加熱した。冷却された反応器から濾過により固体生成物を回収し、脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させた。
【0054】
合成されたままの生成物の粉末XRDは、STWトポロジーのモレキュラーシーブである材料と一致していた。
【0055】
化学分析は、合成されたままの生成物が1.6重量%のアルミニウム含有量、0.47重量%のフッ化物含有量、および49のSiO2/Al2O3モル比を有していたことを示す。
【0056】
例2
風袋を測定したテフロンライナー(テフロンは登録商標)に、0.90gのCBV-780 Yゼオライト粉末(Zeolyst International;SiO2/Al2O3モル比=80)および7.5ミリモルの1,1’-(1,4-ブタンジイル)ビス[2,3-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジヒドロキシドを入れた。混合物をドラフト内に設置し、数日間にわたって蒸発させることにより水分量を減らして、目標のH2O/SiO2モル比7を達成した。次いで、7.5ミリモルの50%HF溶液を滴下した。ライナーに蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に設置した。オートクレーブを炉内に設置し、7日間回転(43rpm)させながら160℃に加熱した。冷却された反応器から濾過により固体生成物を回収し、脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させた。
【0057】
得られた合成されたままの生成物を粉末XRDにより分析した。
図1の粉末X線回折パターンは、STWフレームワーク型のモレキュラーシーブである生成物と一致している。
【0058】
例2の合成されたままのモレキュラーシーブ生成物を、マッフル炉内で、加熱された2%酸素/98%窒素気流下で1℃/分の速度で595℃にか焼し、595℃で5時間保持し、周囲温度に冷却した。
【0059】
粉末XRDパターンは、構造指向剤を除去するためのか焼後も材料が安定したままであることを示していた。
【0060】
か焼したモレキュラーシーブの物理的性質を表3にまとめる。
【表3】
【0061】
例4
制約指数の決定
例2のか焼されたモレキュラーシーブを、4~5kpsiでペレット化し、20~40まで粉砕および篩い分けした。次いで、0.50gのモレキュラーシーブを、モレキュラーシーブベッドの両側にアランダムが付いた3/8インチのステンレス鋼管に充填した。Lindburg炉を使用して、反応管を加熱した。反応管にヘリウムを10mL/分および大気圧で導入した。反応器を約371℃に加熱し、n-ヘキサンおよび3-メチルペンタンの50/50(w/w)フィードを8μL/分の速度で反応器に導入した。フィード送達はBrownleeポンプを介して行った。フィード導入の15分後に、ガスクロマトグラフ(GC)への直接サンプリングを開始した。
【0062】
制約指数値(2-メチルペンタンを含まない)は、当技術分野で知られている方法を使用してGCデータから計算され、15~225分のストリームの時間で2.25から2.96の間であることが判明したが、これは10員環モレキュラーシーブの特徴である。