(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】光チャネル密度増加のためのクロック回復回路、システムおよび実装
(51)【国際特許分類】
H04B 10/69 20130101AFI20230314BHJP
【FI】
H04B10/69 170
(21)【出願番号】P 2020523248
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(86)【国際出願番号】 US2018056851
(87)【国際公開番号】W WO2019083878
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-02
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519382455
【氏名又は名称】シエナ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】アウイニ,サドク
(72)【発明者】
【氏名】リア,ビラル
(72)【発明者】
【氏名】ベン-ハミーダ,ネイム
(72)【発明者】
【氏名】ヤコーバ,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】アブド,アハマド
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-535387(JP,A)
【文献】特表2016-521027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相ロックループ回路であって、基準クロックを受信し、
位相ノイズの低減後に前記位相ロックループ回路の出力を、受信した
前記基準クロックと結合することによって発生されるサンプリング信号を出力するように構成された位相ロックループ回路と、
受信信号と
前記サンプリング信号との間の位相差を決定し、その位相差に基づいて制御信号を決定し、その制御信号を利用して前記位相ロックループ回路のクロック回復帯域幅を設定するように構成されたクロック回復回路とを有し、
前記クロック回復帯域幅は、隣接するチャネル干渉をフィルタリングにより除去するように
最小化され、
前記クロック回復帯域幅は、所定の光信号対ノイズ比に対して受信チャネルのチャネル間隔を最適化するように設定されている、
フレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項2】
前記クロック回復回路は、隣接するチャネルからのジッタマージンを推定し、その推定されたジッタマージンを利用して、最適化されたチャネル間隔を設定するように構成されている、
請求項1に記載のフレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項3】
前記受信信号が超ナイキスト動作モードである、請求項1
又は2に記載のフレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項4】
前記クロック回復回路は、前記サンプリング信号のフィードバック信号のコピーが制御信号に基づいて遅延され、または進められて隣接チャネル干渉をフィルタリングするように、前記位相ロックループ回路とクロック回復回路とを結合するように構成された位相回転子を含む、請求項1から
3までのいずれか一項に記載のフレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項5】
前記クロック回復回路は、前記受信信号に関連する基準クロックを調整するように構成されている、請求項1から
3までのいずれか一項に記載のフレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項6】
前記基準クロックは調整可能な周波数を有し、前記制御信号は、隣接チャネル干渉をフィルタリングすべく前記基準クロックの周波数を制御するために採用され、調整された前記基準クロックは、前記サンプリング信号のフィードバック信号のコピーと組み合わされる、
請求項5に記載のフレキシブルグリッド光受信回路。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか一項に記載のフレキシブルグリッド光受信回路を含む1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデムと、
前記1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデムに通信可能に結合され、以下のように構成された帯域幅使用コントローラとを有し、
前記帯域幅使用コントローラは、
前記1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデム上の新規チャネルに対する所定の光信号対ノイズ比目標に対して、前記新規チャネルに必要な光信号対ノイズ比を決定し、
前記1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデムに関連する隣接チャネルから推定されたジッタマージンを取得し、
前記推定されたジッタマージンを、前記所定の光信号対ノイズ比目標に基づいて、新規チャネルのチャネル間隔に変換するように構成されている、
フレキシブルグリッド光学システム。
【請求項8】
前記推定されたジッタマージンと、前記所定の光信号対ノイズ比目標に基づく前記新規チャネルのチャネル間隔との関係が予め定められている、
請求項7に記載のフレキシブルグリッド光学システム。
【請求項9】
前記推定されたジッタマージンは、既存のチャネル情報と前記所定の光信号対ノイズ比目標に関して、最適なクロック回復パラメータを提供するように変換される、
請求項7に記載のフレキシブルグリッド光学システム。
【請求項10】
請求項1から
6までのいずれか一項に記載のフレキシブルグリッド光受信回路を含む1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデムを用いて、
前記1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデム上の新規チャネルに対する所定の光信号対ノイズ比目標に対して、前記新規チャネルに必要な光信号対ノイズ比を決定し、
前記1つまたは複数のフレキシブルグリッドモデムに関連する隣接チャネルから推定されたジッタマージンを取得し、
前記推定されたジッタマージンを、前記所定の光信号対ノイズ比目標に基づいて、新規チャネルのチャネル間隔に変換する、
方法。
【請求項11】
前記推定されたジッタマージンと、前記所定の光信号対ノイズ比目標に基づく前記新規チャネルのチャネル間隔との関係が予め定められている、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記推定されたジッタマージンは、既存のチャネル情報と前記所定の光信号対ノイズ比目標に関して、最適なクロック回復パラメータを提供するように変換される、
請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信ネットワークにおける受信機に関し、特に、グリッドレス光波長分割多重化における光チャネル間隔のためのクロック回復回路、システムおよび実装に関する。
【背景技術】
【0002】
図1Aは、光通信における、データチャネル間のガードバンドを含む固定グリッド光スペクトル内の隣接データチャネルを示す概略図である。固定グリッド光システムにおいて、個々のチャネルは図示するように等しいスペクトル幅を有する一方、(フレックスグリッドとしても知られている)グリッドレス光システムにおいて、個々のデータチャネルは
図1Bに示すように、異なるスペクトル幅を有する。複数のデータチャネルが共に、1つの送信元から同じ宛先へ同じ光学経路を共有しつつ伝搬する場合、チャネルは、ITU-T G.870において規定されているように、1つのネットワークメディアチャネル(NMC)に「収納(pack)」される。
【0003】
実際には、データチャネル幅に関する考慮は、電磁信号の伝搬特性のためである。信号は、光リンクに送信される前に、シンボル間の干渉を最小限とするように整形される。使用される典型的なパルス整形の例は、使用される超過帯域幅の量を規定するパラメータβを用いた「レイズドコサイン」と呼ばれるものである。周波数ドメインの式は、
として表される。
【0004】
図1Cは、異なるβに対して対応するチャネルスペクトルを示す。なお、パルス整形は、レイズドコサインに限られない。
【0005】
βにより規定されるような超過帯域幅は、送信機によりチャネル内のデータと共にクロック情報を提供するために使用される。受信機は、超過帯域幅内の情報を用いて、データクロック信号を抽出し、クロックジッタを推定する。
【0006】
固定グリッド配置またはグリッドレス配置でのチャネルの使用に関係なく、ファイバにおける帯域幅使用の増加が望まれている。グリッドレスシステムでは、帯域幅使用の増加により、チャネル密度の増加が見込まれる。固定グリッドシステムでは、チャネル幅を増加することにより、帯域幅使用の増加が可能である。
【0007】
チャネル幅/密度が増加すると、チャネル内のデータ送信は、同一のファイバ上に配置された隣接チャネルからのチャネル間干渉に晒される。
図1Dは、本明細書における説明のために基準として使用されるデータチャネルの典型的な受信信号のパワー分布を示す。
図1Cに示す送信機での信号整形と形状は明らかに類似しているが、受信機で受信されるデータチャネルから離れたところでは、信号エネルギーが隣接チャネルに漏洩している。エネルギーの漏洩は主に、特定の隣接チャネルの超過帯域幅の領域に影響する。基準チャネル分布から離れた付随信号パワーは、基準チャネルに隣接するチャネルのバックグラウンドノイズの増加に寄与する。
【0008】
図1Aからよく分かるように、チャネル幅をガードバンドへ広げると、漏洩したチャネルパワーの分布がガードバンドで重なることになる。ガードバンドにおける超過帯域幅は受信機においてクロック回復に使用されるため、隣接チャネルから漏洩したスペクトルエネルギーは、抽出されたデータクロックの整合性に影響を与え、クロックジッタの増加として現れる。
【0009】
通常、
図1Bに示すように、ガードバンドは、チャネル間の干渉を制限するために、チャネルを分離すべく確保される。ガードバンドの確保は、相互運用性を得るための事業者間の合意に基づく場合がある。
【0010】
データ転送の観点からは、
図1Bに示すガードバンドは、各NMCの両端のデッドバンドである。ガードバンドは最大6.25GHzのロールオフをとることがあるため、貴重なスペクトルを占める。
【発明の概要】
【0011】
光通信システムの現在の実装では、パフォーマンス・メトリック(OSNRなど)は、ネットワークでセットアップされたデータチャネルから収集される。新しいデータチャネルがネットワークに追加されるに際し、ネットワーク管理プロセスにより、パフォーマンス・メトリックを利用してデータ転送容量の追加を最適化することが望まれる。特に、グリッドレス配置において、その主な目的は、チャネル密度を増加して、より多くのチャネルを同じCCバンドまたはC+Lバンドに収めることである。リンク条件に基づいてコヒーレント受信機設定を制御することによりチャネル密度を適応的に増加させることで、様々なスペクトル幅のNMC信号にトラフィックを割り当てる際の敏捷性の向上をもたらす。
【0012】
受信機におけるクロック回復の主な目的は、クロック信号のタイミングオフセットを推定し、該オフセットを補償することである。受信機のデータコンバータは、信号対ノイズ比(SNR)の低下に敏感である。良好なパフォーマンスを得るには、A/Dコンバータ(ADC)のクロックタイミングを高周波で最適化する必要がある。信号処理は、光チャネル干渉を補償するために使用される。
【0013】
既知の受信機アーキテクチャは、通常、デジタルコンポーネントとアナログコンポーネントの組み合わせを使用する。典型的な設計は、フィードフォワードベース、フィードバックベース、または両方の組み合わせであってよい。
図3を参照すると、光受信機でのクロック回復は、受信機で受信した送信機クロック信号に追従するように設定された比例/積分コントローラを介して受信機の電圧制御発振器(VCO)を直接制御することで実現される。
【0014】
図3Bを参照すると、クロック回復ループは、デジタル処理ドメインに実装された位相検出器(PD)と、VCOゲインと、フィルタ要素とを中心に構築され、連携してノイズの発生源を削減する。例えば、送信機クロックは、超過帯域幅の信号エネルギーを使用して総位相ノイズを推定するゴダール(Godard)またはガードナー(Gardner)の早期-遅延エラーインジケータ抽出方法を使用して受信機で抽出され得る。その例は、F.M.Gardnerの「サンプル受信機用のBPSK/QPSKタイミングエラー検出器(A BPSK/QPSK timing-error detector for sampled receivers)」、IEEE Trans.Commun.、第34巻、第423~429頁、1986年5月に記載されている。信号エラーは、受信機のサンプリングクロックを調整する制御ループによって抑制される。
【0015】
クロックジッタは、受信機での高速ADCのサンプリングモーメントの不確実性の尺度である。クロックジッタは、抽出されたクロック信号の位相誤差の標準偏差に比例する。コヒーレント受信機は、光信号伝搬ジッタと受信機PLL実装固有ジッタの2つのジッタ発生源を許容しなければならない。
ジッタ(合計)=ジッタ(受信信号)+ジッタ(受信機) (2)
【0016】
光信号伝搬ジッタは、自然放射増幅光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)、波長分散、カー(Kerr)の非線形性によるものである。自然放射増幅光は、光回線増幅器によって引き起こされる。タイミング情報をデジタル的に回復する前に、波長分散の大部分を受信機で補填する必要がある。特定の残留波長分散許容値が予想され、ペナルティが伴う。自己位相変調や相互位相変調などのカーの非線形性は、タイミングジッタに影響を与える。カーの非線形性に関する詳細は、M.Eiseltらの「WDMシステムにおけるXPMシステムペナルティへのタイミングジッタと振幅歪みの寄与(Contribution of timing jitter and to XPM system penalty in WDM systems)」、IEEE Photonics Technology Letters、第11巻第6号、第748~750頁、1999年6月、およびV.S.Grigoryanらの「線形化を使用した分散管理光ファイバ通信におけるタイミングと振幅ジッタの計算(Calculation of Timing and Amplitude Jitter in Dispersion-Managed Optical Fiber Communications Using Linearization)」、J.Lightwave Technol.第17巻、第1347頁~(1999)において記載されている。
【0017】
送信機クロックと受信機クロックの双方における電子部品のうちジッタの主な発生源は、VCOとチャージポンプである。
図3Cに示すように、VCOは、キャリア周波数に対して低い周波数オフセットで高い位相ノイズとして現れるジッタの累積の影響を受ける。
【0018】
完璧な送信機を想定すると、受信機でのジッタの他の発生源は、クロックバッファの熱ノイズとフリッカノイズ、ADCの内部アパーチャ、電源変動および電磁結合である。後者は、複数の回路が同じ基板上で集積される場合に電子チャネル長が減少することによるものである。一部のジッタ、またはリップル効果は、受信機PLLの閉ループ制御によって引き起こされる。ループフィルタの次数と帯域幅の設計は、受信機で誘発される累積ジッタの制御において重要な役割を果たす。
【0019】
図2は、Tx信号位相ノイズ、RxVCOクロック位相ノイズおよびチャネル間隔に依存する隣接チャネル干渉に集約された、受信機で見られる様々な受信信号成分の位相ドメイン(ΦdBc)スペクトル密度(位相ノイズ)の変動を示す。有効なクロック回復帯域幅も、プログラム可能なクロック回復帯域幅として破線で示す。
【0020】
従来のクロック回復システムに関して、受信機のジッタは、受信機でのVCO位相ノイズ抑制と密接に結び付いている。これは、固有位相ノイズが大きい受信機VCOを使用した場合、(受信機で検知される)送信されたクロックのジッタを低下させることはほとんど意味がないことを意味する。これは、「Rx位相ノイズ」曲線の内側に「Tx位相ノイズ」曲線を示す
図2において例示されている。逆に、Rx位相ノイズは、(破線の曲線で示されている受信機のクロック回復ループによって整形される)Tx位相ノイズと受信機の内部位相ノイズの合計である。クロック回復帯域幅を最適化して隣接チャネルからのエネルギー漏洩を抑制するには、受信機で適切な受信機VCO位相ノイズ抑制が必要である。
図2では、これは、「Rx位相ノイズ」曲線がノイズ抑制を示す破線の曲線よりも下の部分を持つことによって示される。Rx位相ノイズ曲線の破線の曲線の外側の部分は、未追跡ジッタを強調するものである。
【0021】
最終的に、データクロック信号の位相情報を識別できないと、受信機はクロック同期を取得できない結果となる。クロック同期の取得に失敗すると、データチャネルにおけるデータが回復不能となる。
【0022】
光グリッドレスネットワークのコンテキストでは、隣接チャネルからのクロストークは、線形ノイズ(障害)の追加的な発生源である。
図2から、ガードバンドを減らすと、送信されたクロックの位相情報が隣接チャネル干渉の下に埋もれてしまう可能性があることが分かる。隣接するチャネルからのクロストークは、クロック回復が超過帯域幅に依存している場合、克服すべき大きな課題である。
【0023】
光チャネル密度を増加しつつ、同期取得を改善する必要がある。
【0024】
本明細書で提案される解決策は、データチャネル間のガード間隔を減らすことにより、より高いスペクトル効率を提供するシステム、回路および方法を提供する。これは、受信機のPLL帯域幅に影響を与えることなく、有効なクロック回復帯域幅を下げることで実現可能であることが見出された。
【0025】
クロック回復に超過帯域幅を使用する受信機が、チャネル重複の量に基づいてクロック回復帯域での平均化を向上する技術と回路が提案される。これにより、隣接アクティブチャネルから対象アクティブチャネルに漏洩するスペクトルエネルギーの影響を緩和し、受信した送信クロックの位相推定の精度を向上させる。
【0026】
提案される解決策の一態様によれば、位相ロックループ回路とクロック回復ループ回路を備える光受信機が提供され、前記位相ロックループ回路は、受信機ローカル基準クロックによって生成された基準信号に基づいて、A/Dコンバータを介して受信信号のサンプリングのタイミングをとるためのサンプリング信号を提供する電圧制御発振器と、前記基準信号の信号変化を平滑化して、前記サンプリング信号の位相ノイズを低減するように構成されたローパスフィルタを備える。前記クロック回復ループ回路は、前記受信信号と前記サンプリング信号との間の位相差を示す第1の出力位相差信号を提供するデジタル位相検出器と、前記位相差信号をフィルタリングして、前記サンプリング信号のクロック回復帯域幅を設定するために使用される制御信号を提供するように構成されたデジタルコントローラを備える。
【0027】
提案される解決策の別の態様によれば、光受信機において受信信号をサンプリングする方法が提供される。この方法は、データチャネル用の所要光信号対ノイズ比を取得することと、同じリンク上の複数のトランスポンダからクロック情報を取得して、前記所要光信号対ノイズ比に基づいてチャネルジッタを見いだすことと、クロック回復帯域幅パラメータとチャネルデータ帯域幅パラメータを決定することと、前記受信機の位相ロックループ回路内に、前記チャネルデータ帯域幅パラメータに基づいてローパスフィルタを構成することと、前記受信機の前記クロック回復ループ回路内に、前記クロック回復帯域幅パラメータに基づいてデジタルコントローラを構成することを含み、受信機電圧制御発振器におけるノイズを排除するための高帯域幅の要件は、クロック回復帯域幅要件から切り離されている。
【0028】
提案される解決策の別の態様によれば、データチャネルをセットアップする構成された帯域幅使用コントローラが提供される。前記コントローラは、データチャネルのための所要光信号対ノイズ比を取得し、同じリンク上の複数のトランスポンダからクロック情報を取得して、前記所要光率に基づいてチャネルジッタを特定し、クロック回復帯域幅パラメータとチャネルデータ帯域幅パラメータとを決定し、受信機の位相ロックループ回路内に、前記チャネルデータ帯域パラメータに基づいてローパスフィルタを設定し、前記受信機のクロック回復ループ回路内に、前記クロック回復帯域幅パラメータに基づいてローパスフィルタを設定するように構成され、前記受信機の受信機電圧制御発振器におけるノイズを排除するための高帯域幅の要件は、クロック回復帯域幅要件から切り離されている。
【0029】
提案される解決策は、以下の添付の図面を参照した以下の本発明の実施形態の詳細な説明により、よりよく理解され得る。
【0030】
なお、図面全体を通して、類似の特徴には類似の参照符号が付される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】固定グリッドスペクトル光システムにおける一般的な隣接チャネルを示す概略図である。
【
図1B】グリッドレススペクトル光システムにおける隣接チャネルの例を示す概略図である。
【
図1C】データチャネルにおける信号送信のためのパルス整形を示す概略図である。
【
図1D】アクティブなデータチャネルの受信信号のパワー分布を示す概略図である。
【
図2】受信機における異なる要因による位相ドメイン(ΦdBc)スペクトル密度変動を示す概略図である。
【
図3A】フィードバックループにおけるクロック回復のデジタルプログラミングのための回路図である。
【
図3B】VCOジッタ抑制がクロック回復帯域幅に依存するレガシークロック回復を示す回路図である。
【
図3C】位相ロックループにおける周波数別の位相ノイズ変動を示す概略図である。
【
図4A】提案される解決策の一実施形態に係る位相回転子を使用するクロック回復を示す回路概略図である。
【
図4B】提案される解決策の別の実施形態に係る調整可能な基準クロックを使用するクロック回復を示す回路概略図である。
【
図5A】提案される解決策の一実施形態に係る受信機クロック回復帯域幅およびゲインを選択するためのプロセスを示す概略フロー図である。
【
図5B】異なる変調フォーマットに対しそれぞれシミュレートされたペナルティを示すグラフである。
【
図5C】ジッタ推定で誘発された高帯域幅位相ノイズ(グラフの左側)に起因するASEノイズレベルの変化と比較して急勾配である、チャネル間隔に対する変動(グラフの右側)を示すグラフである。
【
図6A】提案される解決策に係る実験設定を示す概略図である。
【
図6B】提案される解決策に係る、
図6Aに示されている実験設定においてテストされたチャネルの測定パワー分布を示す概略プロットである。
【
図6C】提案される解決策に係る実験結果を示す概略図である。
【
図6D】提案される解決策に係る実験結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
提案される解決策の動作原理は、プログラム可能なクロック回復帯域幅の選択を提供して、受信機VCOの位相ノイズ抑制パラメータの調整とは無関係に隣接チャネルの漏れを抑制する等するクロック回復回路の採用に基づく。その目的は、クロック回復帯域幅を最適化し、隣接チャネルの干渉を取り除くことである。
【0033】
提案される解決策の一の実施形態によれば、受信機に備わるそのようなクロック回復回路400は、
図4Aに示されるように、アナログPLLのフィードバック経路に位相回転子402を使用する。位相回転子402は、固有のVCOジッタ位相ノイズ抑制をクロック回復から切り離す。
【0034】
アナログPLL404は、チャージポンプ412にトリガ信号410を提供するアナログ位相検出器408を使用してローカル基準クロック406にロックする。チャージポンプ412は、電圧設定信号414をローパスフィルタ416に提供する。ローパスフィルタ416は高帯域幅に設定され、電圧信号414の変動を平滑化し、VCO418の出力420におけるVCO位相ノイズを低減する。位相回転子ベースのクロック回復ループ424(デジタルPLL)は、アナログPLL404にネストされ、デジタル位相検出器428を用いて受信データ信号426にロックする。受信データ信号426は、送信クロック信号情報を含む。デジタル位相検出器428の出力430は、受信データ信号とVCO出力420との間の位相差を示しており、デジタルアキュムレータ432に提供される。デジタルアキュムレータ432によって出力されるデジタルコード434は、位相回転子402を、アナログPLLループ404におけるフィードバック信号を遅くしたり早めたりするように構成する。位相回転子402は、未追跡のRMSジッタの合計と比較すると、より細かい分解能を持ちうる。デジタルコードは、例えば関数依存性またはルックアップテーブルを介して、例えばアークタンジェントとI-Qの不一致による非線形エラーを補正するために使用される。回路400は、VCO418の位相ノイズを排除するアナログPLL404の高帯域幅の要件を、クロック回復帯域幅の要件から切り離すように構成される。位相回転子ベースのデジタルクロック回復帯域幅は、VCOジッタ生成に対する受信データ信号のジッタ除去を改善し、(デジタルアキュムレータ432を用いる)フィルタリング/平均化を通じてデジタル位相検出器エラーを最小限に抑える。回復されたデータクロック420を用いて、受信データ信号426をサンプリングするADCをトリガする。
図4Aに示す構成により、高帯域幅のアナログPLL404を使用したVCO位相ノイズ抑制の最適化と、クロック回復帯域幅を最小限とすることによりクロック回復帯域への隣接チャネル漏洩の最適化が提供される。
【0035】
提案される解決策の別の実施形態によれば、
図4Bに示されるように、クロック回復帯域幅を低減して隣接チャネル干渉を除去する別の技法は、例えば、受信機の基準クロックを調整することができる。回路500では、VCO418の出力520から導出されたアナログPLLフィードバック信号が、510において、調整可能な基準クロック506の出力と組み合わされる。組み合わせ信号512は、駆動信号512の変動を平滑化して、VCO418の出力520におけるVCO位相ノイズを低減する高帯域幅に設定されたローパスフィルタ416によってフィルタリングされる。分周器514は、アナログPLLループ504のフィードバック信号を提供する。第2のデジタルPLLループ524は、デジタル位相検出器428を使用して、送信クロック情報426を含む受信データ信号をVCO出力520と比較する。デジタル位相検出器428の出力430は、データ信号とVCO出力420との間の位相差を示し、デジタルコントローラ532に提供される。デジタルコントローラ532の出力536を用いて、調整可能な基準クロック506のデジタルPLL周波数制御が行われる。デジタルコントローラ532のデジタルコードは、調整可能な基準クロック502を、より低いまたは高い周波数が出力されて、アナログPLLループ504を駆動するように構成する。デジタルコードは、例えば関数依存性またはルックアップテーブルを通じて、例えばアークタンジェントとI-Qの不一致による非線形エラーを補正するために使用される。このように、調整可能な基準クロックは、周波数制御ワード536が制御ブロック532によって提供される数値制御発振器(NCO:Numerically Controlled Oscillator)と見なすことができる。ここでも、この構成により、高帯域幅のアナログPLL404を使用したVCO位相ノイズ抑制の最適化と、クロック回復ループ524の帯域幅を最小限とすることによりクロック回復帯域への隣接チャネル漏洩の最適化が提供される。
【0036】
図4Aおよび
図4Bには別個の回路が示されているが、ハイブリッド回路も機能することを理解されたい。
【0037】
なお、SNRを測定する際にノイズがゼロ平均と無相関であると仮定すると、N個の観測値を平均すると、その結果は平滑化される。
【0038】
図2を参照すると、クロック回復帯域幅を低くすると、隣接チャネル干渉の影響の排除に効果的に寄与し、受信機での送信機クロックの抽出に対する信号の整合性の向上をもたらす。また、このようなシステムは、クロック回復帯域幅を低くすると受信機の送信クロック追跡(トラッキング)能力が制限されるため、送信機ジッタを確実に低くする信号送信技術を必要とする。
【0039】
更に、クロック回復帯域幅を低くすると、受信機による他のジッタ源の効果的な追跡が低下する。Jrx(受信機により引き起こされるジッタ)が受信機PLLによって追跡されると仮定すると、Jchannelは同じNMC内の隣接チャネルから推定できる。全位相エラー(Jtx)における送信機クロックの標準偏差が低い場合、最適化されたパラメータ(帯域幅とゲイン)は、最適なチャネル間隔を抽出するフィッティングを実行するための仕様に基づくことができる。これは、以下のようにまとめることができる。
Jinterference(間隔)<Jspec-Jchannel-Jtx-Jrx
【0040】
対象のチャネルの有効なクロック回復帯域幅とゲインをプログラミングするために、隣接チャネルによって引き起こされる位相ノイズを考慮するプロセスが提案される。このようなプロセスを
図5Aに示す。このプロセスでは、光ネットワークのタイプに基づいて、帯域幅使用の増加に対するシステムペナルティの評価が可能である。この方法論を使用して、例えばチャネル間隔を推定することにより、所与のチャネル容量に必要とされる所要光信号対ノイズ比(ROSNR)を求めることができる。プロセス600は新しいチャネルの要求に伴い開始され(602)、光ネットワークタイプの決定を伴う(604)。固定グリッド光システムの場合、所定の受信機設定を使用して、チャネル幅の増加を可能にするように、クロック回復帯域幅、ゲイン、ビットエラーレート(BER)、および、隣接チャネル減衰の低減が選択される(606)。ただし、604でネットワーク配置にグリッドレス光システムが含まれる場合、総当たり(ブルートフォース)検索方法を使用して、事前定義された公称間隔のチャネルまたは(1+β)*ボーレートのチャネルを追加することにより、パラメータを最適する。典型的なグリッドレス配置には、ROADMの粒度、例えば、12.5GHzの整数倍に基づくチャネル間隔が含まれる。
【0041】
市販のコヒーレントモデムで通常使用される様々な変調形式のためのROSNRに対するチャネル密度の影響が測定され、間隔とOSNRの利用可能性によりジッタがどのように影響を受けるかに関するガイドラインが提供される。隣接チャネルからの漏洩エネルギーは、対象のチャネルに付加されたノイズの形として現れる。そのため、前方誤り訂正(FEC:Forward Error Collection)しきい値を満たすROSNRは増加する。
図5Bは、チャネル密度の増加に必要とされる最小の利用可能ROSNRを求めるための、様々な変調形式のシミュレートされたペナルティを示す。海底リンク、長距離、メトロ、およびデータセンターの相互接続をカバーする配置が調査され、リンクバジェットにおけるROSNRがチャネル間隔によってどのように影響を受けるかを予測可能となった。
【0042】
測定のグラフから、ペナルティは採用されたコンスタレーションの密度に伴い増加する。
図5Aに示すプロセスに戻ると、利用可能なOSNRマージンがない場合(610)、プロセスは、ITU-T G.870に準拠する所定のパラメータを使用してステップ606から再開する。しかしながら、OSNRマージンが利用可能である場合、クロック情報は、グリッドレス光システムにおいて、通常、同じリンク上のトランスポンダから取得され得る(612)。
【0043】
受信機PLL内のVCOの発生した位相ノイズのパワースペクトル分布(PSD)は、チャネル密度とOSNRとをジッタマージンに関連付けるローレンツ(Lorentzian)分布としてモデル化することができる。上記のノイズ源成分の線形効果は、シミュレーションにおいて組み合わせることができ、その結果を
図5Cに示す。マージン0%は、受信機が送信機クロックに同期できず、受信機が定常状態に到達できないポイントである。
図5Cは、ジッタ推定において誘発された高帯域幅位相ノイズに起因するASEノイズレベルの変化(グラフの左側)と比較して急勾配な、チャネル間隔に対する変動(グラフの右側)を示す。これを念頭に置いて、
図5Aに戻り、受信機のファームウェア(または制御プロセッサ)を使用して2Dスイープを実行して(612)、利用可能なマージンに基づいて
図5Cに示す変動にフィッティングすることにより最適化されたジッタを求める。最適化プロセスにより、(未追跡ジッタと光非線形効果をカバーするための)既存のチャネル情報と(線形クロストークペナルティに対処するための)OSNRマージンに関して、最適なクロック回復パラメータ(クロック回復帯域幅)で受信機を操作するためのスイート・スポットを特定する(614)。離散ルックアップテーブルまたは連続フィッティングの両方を使用して、(送受信機に関連する仕様に基づいて定義された)ジッタマージンを既知のOSNR用のチャネル間隔へと変換する。別の言い方をすると、ジッタマージンを隣接チャネルから推定する際に、
図5Cの変動を用いてチャネル間隔が規定される。推定ジッタマージンには、非線形の影響が含まれる。フィッティングを用いて、マージン付きチャネル間隔が予測される。
【0044】
グリッドレス配置では、所与のOSNR目標のためにチャネル間隔を最適化してチャネル間隔を絞るように、受信機でクロック回復帯域幅を設定することができる(616)。
図4Aおよび
図4Bを参照して、クロック回復帯域幅は、ローパスフィルタ416のパラメータを調整することにより設定される。チャネル間隔は、デジタルアキュムレータ432またはコントローラ532のパラメータを指定することで設定できる。
【0045】
図5Aに示すプロセスは、これらに限定されないが、受信機コントローラ、ラインカードコントローラ、ネットワークノードコントローラ、リンクコントローラ、コントロールプレーンコントローラ、光システムコントローラ、集中型ネットワークコントローラなどの帯域幅使用コントローラにより、これらに限定されないが、ファームウェア、ソフトウェア、ステートマシンロジックなどのコード化ロジックを介して実装される。
【0046】
図5Aに示す方法の有効性を実証するために、グリッドレス実験設定を採用した。実験設定では、ファイバの伝搬効果を考慮し、
図6Aに示すように制御された障害を導入して、効果を定量的に評価した。実験では、提案された最適化が現実のシナリオで安定することを確認するために、受信機(Wavelogicモデム)に対し意図的にストレスを与えた。Ciena6500のROADMを使用した配置で通常採用されているグリッドレス設定を使用して、複数のチャネルを1つの光ファイバ上で併用した。対象のプローブ波長を選択し、プログラム可能な波長(調整可能なレーザー)を有するコヒーレント送受信機を使用してチャネル間隔を変更した。3つのチャネルをアクティブとし、中央の1つのチャネルをプローブとして用い、他の2つのチャネルを干渉源として用いた。3つのWaveLogic3トランスポンダ(100G/150G/200G)を使用して、35GBaudでの動作が提供された。実際のファイバ伝搬の模倣に役立てるために、偏波依存損失エミュレーター(PDL)と微分群遅延エミュレーター(DGD)を使用した。可変光減衰器(VOA)を使用して、ASEアンプにより提供されるノイズ障害の量を制御した。ファイバスプールは数キロメートルとした(ただし、リンクバジェットが順守される限り、どのような長さでもよい)。送信された偏波を混合するために、偏波スクランブラPC1、PC2を採用した。測定スイープは、偏波依存損失(PDL)、微分群遅延(DGD)、偏波状態率(PC1/PC2)およびOSNRの複数の値にわたって実行した。
【0047】
図6Bは、テストしたチャネルの測定パワー分布を示す。通常の使用中には、隣接チャネルは同様のパワーを有する。パワーのより高い隣接チャネルの採用を、受信機にストレスを与えるために用いた。テスト方法は、あらゆるタイプの隣接チャネルに対しても一般化が可能である。
【0048】
複数のチャネルを超ナイキストモードの動作に絞ろうとすると、ホワイトノイズのように見える線形クロストークからのペナルティが明らかである。提案された方法は、受信機がトラフィックを運ぶことができる境界を押し上げることを可能にした。
図6Cおよび
図6Dに示すように、この設定により、非最適な方法と同じ2dBのOSNRペナルティで1GHz少ない間隔でエラーなしで動作可能とした。この実験は、各NMCの光スペクトルにおいて、約10~20GHzを節約できることを示す。
【0049】
このようなクロック回復方式は、例えば海底での適用などの狭間隔の適用において必要とされた場合にアナログ・フロント・エンドの厳密なフィルタリング要件を緩和するのに役立つことが分かった。
【0050】
提案された解法をグリッドレス配置でのチャネル密度の増加に関して詳細に説明したが、
図4Aおよび
図4Bに示す同じ回路を使用して、固定グリッド配置においてチャネル幅を拡大することも可能である。固定グリッド配置では、より高いボーレートでビットエラーレート(BER)の増加が許容され、その際には、受信機において波長選択スイッチ(WSS)(図示しない)などの光フィルタリング装置によって対応するプログラム可能な隣接チャネル減衰がより低い状態で実施される(606)。
【0051】
本発明をその好ましい実施形態を参照して図示し説明したが、当業者には、添付の請求項に規定される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細に様々な変更を加えることができることが理解されよう。