IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルスィメールの特許一覧

<>
  • 特許-コバルト電着プロセス 図1
  • 特許-コバルト電着プロセス 図2
  • 特許-コバルト電着プロセス 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】コバルト電着プロセス
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/12 20060101AFI20230314BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C25D3/12 101
C25D7/00 G
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020550759
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2019056593
(87)【国際公開番号】W WO2019179897
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】1852386
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1855300
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】62/789,554
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508084928
【氏名又は名称】アヴニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】メベレック, ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】サー, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ティアム, ミカイユー
(72)【発明者】
【氏名】カイヤール, ルイ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-190588(JP,A)
【文献】特開2015-161000(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0237587(US,A1)
【文献】特開2012-009473(JP,A)
【文献】特表2013-518530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト(II)イオン1~5g/lと、塩化物イオン1~10g/lと、酸と、重合体ではない多くても2種の有機添加剤とを含む水溶液であるコバルト電着用電解液であって、
上記電解液は、そのpHが1.8~4.0であり、
上記有機添加剤の少なくとも1種は、少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲の有機化合物から選択される
ことを特徴とするコバルト電着用電解液。
【請求項2】
上記有機添加剤は分子量が250g/mol未満且つ50g/mol超であることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
多くても1種の有機添加剤を含み、
上記有機添加剤は、少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
上記有機添加剤は少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲のα-ヒドロキシカルボン酸から選択されることを特徴とする請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
上記少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲である有機添加剤の少なくとも1種は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、マレイン酸、フマル酸、グリセリン酸、オロト酸、マロン酸、L-アラニン、アセチルサリチル酸及びサリチル酸から選択されることを特徴とする請求項1又は3に記載の電解液。
【請求項6】
上記コバルト(II)イオンは遊離型である、すなわち上記有機添加剤と錯体を形成していないことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項7】
pHが2.0~3.5であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項8】
上記添加剤の濃度、又は2種の場合は上記添加剤の合計濃度は5mg/l~200mg/lであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項9】
空洞を充填する電気化学プロセスであって、
上記空洞の導電面を請求項1~8のいずれか1項に記載の電解液と接触させる工程と、
上記コバルトの堆積によって上記空洞をコンフォーマル且つ完全に充填するのに充分な時間で上記導電面を分極させる工程と、
上記分極工程の終わりに得られたコバルト堆積物をアニーリングする工程と
を含む電気化学プロセス。
【請求項10】
上記空洞は、
構造体をシリコン基板にエッチングする工程と、
上記構造体のシリコン面に酸化シリコン層を形成して酸化シリコン面を得る工程と、
上記酸化シリコン面に金属層を堆積させて上記空洞の上記導電面を得る工程と
を行うことで得られることを特徴とする請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
上記金属層は、コバルト、銅、タングステン、チタン、タンタル、ルテニウム、ニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
上記金属層は、更に、窒化チタン又は窒化タンタルを含むことを特徴とする請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
上記空洞は、開口部における、幅又は径が40nm未満であり、深さが50~250nmであることを特徴とする請求項9~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
上記空洞は、開口部における幅又は径が15~30nmであることを特徴とする請求項9~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
上記コバルト堆積物は、不純物量が1000原子ppm未満であり、電子顕微鏡法で測定した平均ボイド率が体積又は表面積基準で10%未満であることを特徴とする請求項9~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
コバルト堆積速度は0.1nm/秒~3.0nm/秒であることを特徴とする請求項9~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
基板上にコバルトを堆積させる電気化学プロセスであって、上記基板は、上記基板中にくり抜かれた空洞の内部にある導電面と、上記空洞の外部にある導電面とを有し、
請求項1~8のいずれか1項に記載の電解液と両導電面を接触させる工程と、
コバルトで上記空洞を充填するのに、且つ上記空洞の外部にある上記導電面に厚さが少なくとも50nmのコバルト層を堆積させるのに充分な時間で両導電面を分極させる工程と、
上記分極工程の終わりに得られたコバルトをアニーリングする工程と
を含む電気化学プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電面へのコバルトの電着に関する。より具体的には、集積回路の電気的相互接続配線を作製するのに使用できるコバルト電着プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、表面に沿って伸びるトレンチや、様々な集積階層を接続するビア等の導電性金属相互接続配線を有する。相互接続配線の作製では、誘電材料に構造体をエッチングした後、構造体の全表面に金属シード層を堆積させて、続く導電性金属充填工程における構造体の導電率を向上させる。該充填工程は、通常、電気化学的に行われる。
【0003】
相互接続配線にコバルトを充填する従来のプロセスでは、コバルト塩と、ボトムアップ充填と呼ばれる充填を得るための相補的機能を持つ抑制剤及び促進剤等の多数の有機添加剤とを含有する電解液が使用される。これらの添加剤の組み合わせは、一般的に、品質の良い、より具体的には材料ボイドを含まないコバルト塊を得るために必要である。抑制剤は、コバルト表面に吸着するか、又はコバルトイオンと錯体を形成することによって、空洞開口部と、空洞を囲む基板平坦面とにおけるコバルトの堆積を制御する。したがって、この化合物として、空洞内部に拡散できない重合体等の高分子量分子又はコバルトイオン錯化剤を使用できる。促進剤は、それ自体が空洞底部へと拡散するため、非常に深い空洞ではその存在がいっそう必要となる。促進剤を用いると、空洞底部に加えて空洞壁部でもコバルトの堆積速度を増加させることができる。ボトムアップメカニズムによる充填方法は、「コンフォーマル」と呼ばれる充填方法と対照的である。後者の方法では、コバルト堆積物の成長速度は凹パターンの底部と壁部とで同じである。
【0004】
これらの電着浴及びその使用にはいくつかの欠点があり、それにより、最終的には作製された電子素子の正しい動作が制限され、また、作製コストが高くなりすぎる。実際に、これらからは、コバルト中の充填穴形成を制限するのに必要な有機添加剤で汚染されたコバルト相互接続配線が形成される。また、これらの化学作用で得られる充填速度は遅すぎて工業規模の生産には合わない。
【0005】
したがって、性能が向上したコバルト堆積物、すなわち、不純物量が極めて減少しており、素子をコスト効率よく作製するのに充分なほど高速で形成でき、且つ材料ボイドを含まないため良好な導電率を確保できるコバルト堆積物を製造できる電解浴が依然として求められている。
【0006】
本発明者らは、α-ヒドロキシカルボン酸ファミリーによって上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
これらの添加剤は、「ボトムアップ」又は「超コンフォーマル」充填プロセスにおいて公知である。これらのプロセスでは、空洞底部での堆積を加速し、且つ基板の平坦領域及び空洞壁部での堆積を減速させるいくつかの添加剤が浴に含まれなければならない。このような系を用いると、充填中に空洞開口部が閉じるのが早すぎて空洞内部のコバルト堆積物にボイドが形成されるのを防ぐことができる。
【0008】
しかしながら、促進剤は空洞外部の基板平坦面にも作用するため、非常に多くの場合、α-ヒドロキシカルボン酸由来のレベリング剤を用いてその作用を打ち消し/低下させ、表面にコバルトが過剰に堆積するのを抑制し、その後の研磨工程が長くなりすぎないようにする。したがって、α-ヒドロキシカルボン酸は、トレンチ及び/又はビアがほぼ完全に充填される電着プロセスの終わりに効果を発揮する。
【0009】
コンフォーマルコバルト電着プロセスにおいてα-ヒドロキシカルボン酸を用いて4未満のpH値でコバルトを堆積できる可能性はこれまで提案されていないことから、本発明の結果はいっそう驚くべきものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、コバルト(II)イオンと、塩化物イオンと、多くても2種の非重合体有機添加剤、例えば1種のみのα-ヒドロキシカルボン酸又は2種のα-ヒドロキシカルボン酸とを含むpHが2.0~4.0の水溶液の形態であるコバルト電着用電解液に関する。
【0011】
「重合体」という語は、その化学式中に少なくとも2つの繰り返し単位を有する化合物を意味するものである。
【0012】
本発明はまた、上述した電解液を用いてコンフォーマル堆積メカニズムにより空洞をコバルトで充填するプロセスにも関する。
【0013】
本発明の電解液及びプロセスを用いると、高純度の連続したコバルト堆積物を工業利用に合った製造時間で得ることができ、製造時間を従来技術と比較して短縮することもできる。なぜなら、コバルト導電配線の形成に用いられているプロセスでは、空洞を充填するためにコバルトイオンを含む第一の電解液を使用する第一の電着工程と、基板の表面全体に「オーバーバーデン」層を堆積させるためにコバルトイオンを含む第二の電解液を使用する第二の電着工程という2つの異なるコバルト電着工程を行うためである。また、第一の電着工程の終わりに基板をすすぎ乾燥させてから第二の工程を行わなくてはならない。本発明のプロセスを用いると、空洞の充填及びオーバーバーデン層の堆積を単一の電着工程で行うことができ、有利である。
【0014】
また、本発明において得られるコバルト堆積物は、純度が非常に高いという利点を有する。
【0015】
コバルト相互接続配線を形成する従来技術のプロセスでは、非常に低い電流密度を適用してpHが例えば9を超えるアルカリ性電解液を用いるとともに、コバルト特異的な抑制剤化合物を用いるため、トレンチ内部のpHは充填工程を通じて4を超えたままである。これにより、得られるコバルト堆積物に水酸化コバルトが相当量形成され、この水酸化コバルトによってコバルト相互接続配線の導電率が低下し、集積回路の性能が低下する。
【0016】
本発明の電解液を用いて実施できる電着プロセスは、コンフォーマル充填方式に従う。そのため、従来技術のボトムアップ充填プロセスにおいて大量に使用され、汚染物を生じる有機添加剤は不要である。
【0017】
続いて、4.0未満のpH範囲で作業するということは、水酸化コバルトの形成を制限できるという利点があり、また、ホウ酸等の緩衝化合物を省略できる。対して、従来技術においては、緩衝化合物は、アルカリ性電解液を使用するプロセスの分極段階中にpH値を安定させるために必要とされている。しかしながら、この機能を実行するために非常によく用いられるホウ酸は、ホウ素誘導体に分解されてコバルト堆積物を汚染する。電着中に電解液のpHを安定させるためには電解液中の緩衝化合物濃度を高くしなければならないため、汚染はいっそう顕著となる。
【0018】
したがって、本発明の電解液及びプロセスを用いると、緩衝物質等の有機分子の濃度を制限し、且つ電着中の水酸化コバルト形成を制限することで、コバルト堆積物の汚染を大幅に制限できる。
【0019】
本発明の電解液はまた、ボイドを含まないコバルト配線又はビアを形成できるという利点を有する。
【0020】
また、本発明の電解液及びプロセスを用いると、不純物量が非常に低く、好ましくは1000原子ppm未満であるとともに、より速い堆積速度で形成されるコバルト相互接続配線を得ることができる。
【0021】
(定義)
「電解液」という語は、電着プロセスに用いられる金属皮膜の前駆物質を含有する液体を意味するものである。
【0022】
「連続した充填物」という語は、ボイドの無いコバルト塊を意味するものである。従来技術では、コバルト堆積物においてパターン壁部とコバルト堆積物との間に材料穴やボイドが見られる場合がある(「側壁ボイド」)。また、パターン壁部から等距離にある穴又は線(「シーム」)状のボイドが見られることもある。これらのボイドは、堆積物の断面を得ることで透過型又は走査型電子顕微鏡法により観察及び定量化できる。本発明の連続した堆積物は、平均ボイド率が体積基準で10%未満、好ましくは5%以下であることが好ましい。充填される構造体の内部のボイド率の測定は、50000倍~350000倍の倍率で電子顕微鏡法により実施できる。
【0023】
空洞の「平均径」又は「平均幅」という語は、充填される空洞の開口部で測定される寸法を意味するものである。空洞は例えばテーパー状チャネル又は円筒の形状である。
【0024】
「コンフォーマル充填」という語は、コバルト堆積物の成長速度が凹パターンの底部と壁部とで同じである充填方式を意味するものである。この充填方式は、空洞底部でのコバルト堆積速度がより速い底部から頂部への充填(「ボトムアップ」と呼ばれる)とは対照的である。
【0025】
「緩衝物質」又は「緩衝化合物」という語は、コバルトイオンと塩化物イオンとを含む電解液の組成の一部であり、pHが2.0~4.0の範囲である化合物を意味するものである。この化合物は、電着プロセスの電気工程中にコバルト金属で被覆される基板導電面と接触させた後、電解液のpHを±0.3以内、好ましくは±0.2以内に安定させるのに充分な量で使用される。したがって、化合物は、所与の電解液中で所与の濃度の緩衝物質であってもよく、電気工程中に電解液のpHが変動するのを避けるのに充分な濃度でなければ、同電解液中でもはや緩衝物質ではなくなるものであってもよい。「緩衝効果を発揮するのに充分な量の物質」という表現も用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のプロセスに従って充填された空洞の透過型電子顕微鏡写真である(実施例1)。
図2】本発明のプロセスに従って充填された空洞の透過型電子顕微鏡写真である(実施例2)。
図3】従来技術の電着プロセスに従って充填された空洞の走査型電子顕微鏡写真である(比較例3)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第一の実施形態によれば、本発明は、水溶液中に、コバルト(II)イオンと、塩化物イオンと、pHを1.8~4.0、例えば2.0~4.0にするのに充分な量の酸と、多くても2種の有機添加剤、好ましくは1種のみ又は多くても2種の有機添加剤とを含むコバルト電着用電解液であって、上記有機添加剤の少なくとも1種は、硫黄を含まないことが好ましいα-ヒドロキシカルボン酸から選択される、電解液に関する。
【0028】
具体的には、本発明は、コバルト(II)イオン1~5g/lと、塩化物イオン1~10g/lと、pHを1.8~4.0、例えば2.0~4.0にするのに充分な量の酸と、重合体ではない多くても2種の有機添加剤とを含む水溶液であり、上記有機添加剤は好ましくは硫黄を含まず、その少なくとも1種又は2種ともが好ましくはα-ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするコバルト電着用電解液に関する。
【0029】
上記電解液は、多くても1種の有機添加剤を含むことが好ましく、該有機添加剤は硫黄非含有α-ヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0030】
上記有機添加剤は、分子量が250g/mol未満、好ましくは200g/mol未満、且つ50g/mol超、より好ましくは100g/mol超であることが好ましい。
【0031】
上記添加剤の濃度、又は2種の場合は上記添加剤の合計濃度は5mg/l~200mg/lであることが好ましい。本実施形態において、各添加剤は硫黄非含有α-ヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0032】
上記コバルト(II)イオンの重量濃度は1g/l~5g/lの範囲、例えば2g/l~3g/lの範囲であってもよい。上記塩化物イオンの重量濃度は1g/l~10g/lの範囲であってもよい。
【0033】
強酸性pHでコバルトイオン濃度が比較的高い場合、コバルトイオンについて濃度がより低い塩基性又は弱酸性pHの従来技術の電解浴と比べていくつか利点がある。
【0034】
実際、本発明者らは、従来技術の教示に反して、コバルト堆積物の腐食を制限するために4を超えるpHで作業する必要はないことを見出した。コバルトイオン濃度を高くし且つpH値を下げる場合、いずれの理論にも拘束されるものではないが、水溶液中に存在するコバルトイオンの濃度を大幅に高めることでコバルト金属堆積物を安定化することができると考えられる。このように、本発明者らは、従来技術よりも速い堆積速度を観察し、また、堆積物において大きなコバルト粒(典型的には100nm超)を観察した。
【0035】
上記塩化物イオンは、塩化コバルト又はその水和物(塩化コバルト六水和物等)を水に溶解することで得られる。
【0036】
上記組成物は、硫酸コバルト等のコバルト塩又はその水和物を溶解して得たものではないことが好ましい。その場合、コバルト堆積物の硫黄含有汚染が生じるので、回避することが望ましいためである。
【0037】
上記有機添加剤は、硫黄を含まないことが好ましく、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、マレイン酸、シュウ酸及び2-ヒドロキシ酪酸化合物等のα-ヒドロキシカルボン酸から選択されることが好ましい。
【0038】
上記追加の有機化合物は、ボトムアップ充填効果を生じさせない限りどのような性質のものでもよい。上記化合物は、促進剤、抑制剤、成長促進剤又はレベリング剤の機能等の様々な機能を有していてもよいが、本発明の電解液はこれらを含まないことが有利である。例えば、本発明の電解液は、抑制剤重合体、特に、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン又はポリエチレンイミン等の重合体を含まない。
【0039】
上記ヒドロキシル化カルボン酸塩は例えば酒石酸塩であり、上記電解液は多くても1種の有機添加剤を含むことが好ましい。
【0040】
本発明の電解液において、好ましくは分極前及び分極中、上記コバルト(II)イオンは遊離型であること、すなわち上記有機添加剤と錯体を形成していないことが有利であり、その有機添加剤は、例えば、α-ヒドロキシカルボン酸、グリシン又はエチレンジアミンであってもよい。
【0041】
コバルトと有機分子との錯体が相当な量にはならない場合、以下の多くの利点がある。浴中の有機分子濃度を非常に低くできるため、コバルト金属堆積物の有機汚染を低減できる。また、構造体にコバルトを堆積させる間中、溶液を不安定にさせ得る制御されないpH変動を避けることもできる。また、コバルトイオンが錯体で安定化されず、より還元されやすくなるため、コバルト堆積速度がより速くなる。最後に、コバルトイオン濃度が非常に高いことで、空洞の導電面の表面が腐食から保護される。この効果は、基板を非常に薄いコバルト層(シード層)で被覆する場合に決定的である。
【0042】
上記1種の有機添加剤又は2種の有機添加剤がα-ヒドロキシカルボン酸であり、且つ上記電解液のpHが4.0未満である場合、上記添加剤は上記コバルトイオンと錯体を形成しない。
【0043】
本発明のプロセスにおいて充填される空洞では、平坦部と該平坦部上のいくつかの凹部とを区別できる。従来技術が達成しようとする目的の一つは、パターン凹部に侵入せずに基板平坦面に特異的に吸着する抑制剤を用いて、平坦部上へのコバルトの堆積を減速させることである。本明細書では、それらを表面抑制剤と呼ぶ。
【0044】
本発明の電解液は、以下の特徴のうちの1つを単独で又は組み合わせて有することが有利である。
・パターン底部でのコバルト成長の促進剤を含まない。
・電着中、空洞開口部で基板平坦部上に堆積するコバルトに特異的に吸着することで、その場所でのコバルトの成長を減速させることができる有機抑制剤分子を含まない。
・重合体を含まない。
・硫黄含有化合物を含まない。
・アルカリ性媒体で有用な緩衝化合物(例えばホウ酸等)を含まない。
・ボトムアップ充填メカニズムを生じさせる添加剤の組み合わせ、特に、抑制剤及び促進剤の組み合わせ、又は抑制剤、促進剤及びレベリング剤の組み合わせを含まない。
【0045】
表面抑制剤としては、カルボキシメチルセルロース、ノニルフェノールポリグリコールエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、オクタンジオールビス(ポリアルキレングリコールエーテル)、オクタノールポリアルキレングリコールエーテル、オレイン酸のポリグリコールエステル、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ステアリン酸のポリグリコールエステル、ステアリルアルコールのポリグリコールエーテル、ブチルアルコール/エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体、2-メルカプト-5-ベンズイミダゾールスルホン酸、2-メルカプトベンズイミダゾールという化合物が挙げられる。
【0046】
促進剤は、一般的に硫黄原子を含む化合物であり、例えば、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸(3-スルホプロピル)、3-メルカプトプロピルスルホン酸の(3-スルホプロピル)エステル、3-スルファニル-1-プロパンスルホネート、ジチオ炭酸o-エチルエステルs-エステルと3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸のカリウム塩とのエステル、ビス-スルホプロピルジスルフィド、3-(ベンゾチアゾリル-s-チオ)プロピルスルホン酸のナトリウム塩、ピリジニウムプロピルスルホベタイン、1-ナトリウム-3-メルカプトプロパン-1-スルホネート、N,N-ジメチル-ジチオカルバミン酸の(3-スルホエチル)エステル、3-メルカプトエチルプロピルスルホン酸の(3-スルホエチル)エステル、3-メルカプトエチルスルホン酸のナトリウム塩、ピリジニウムエチルスルホベタイン又はチオ尿素が挙げられる。
【0047】
第一の実施形態において、上記電解液のpHは2.0~4.0であることが好ましい。特定の一実施形態において、上記pHは2.0~3.5、又は2.0~2.4、又は2.5~3.5、又は2.8~3.2である。
【0048】
上記組成物のpHは、必要に応じて当業者に公知の塩基又は酸で調整してもよい。使用する酸は塩酸であってもよい。
【0049】
本発明の好ましい一実施形態において、上記電解液は、電着プロセスの分極工程中に上記電解液のpHが変動するのを防止できる緩衝化合物(少なくとも1つのpKaを有する)を500ppm未満含む。上記電解液中の上記緩衝化合物の濃度は400ppm未満、300ppm未満又は250ppm未満であることが好ましい。電気工程中、上記電解液のpHは、必要に応じて、例えば塩酸等の酸を別に添加することで再調整できる。
【0050】
しかしながら、本発明の好ましい一実施形態において、上記電解液は緩衝物質を大量には含有しない。
【0051】
溶媒の性質は原則として何ら限定されないが(ただし、溶液の活性種を充分に溶解し且つ電着を妨げないものとする)、水であることが好ましい。一実施形態によれば、溶媒は体積基準で主に水を含む。
【0052】
第二の実施形態によれば、本発明は、水溶液中に、コバルト(II)イオンと、塩化物イオンと、少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲、好ましくは2.0~3.5の範囲、より好ましくは2.2~3.0の範囲である1種以上の化合物5mg/l~200mg/lとを含むpHが1.8~4.0、例えば2.0~4.0のコバルト電着用電解液に関する。
【0053】
この第二の実施形態は以下の特徴を有していてもよい。
【0054】
上記化合物は、分子量が250g/mol未満、好ましくは200g/mol未満、且つ50g/mol超、好ましくは100g/mol超であることが好ましい。
【0055】
特定の場合において、上記少なくとも1つのpKa値が2.0~3.5の範囲である化合物は、第一の実施形態で用いられる有機添加剤の少なくとも一種と同じであってもよい。特に、上記化合物は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸及びマンデル酸から選択されてもよい。
【0056】
上記化合物はまた、フマル酸(pKa=3.03)、グリセリン酸(pKa=3.52)、オロト酸(pKa=2.83)、マロン酸(pKa=2.85)、L-アラニン(pKa=2.34)、リン酸(pKa=2.15)、アセチルサリチル酸(pKa=3.5)及びサリチル酸(pKa=2.98)という化合物から選択されてもよい。
【0057】
コバルトで充填する従来技術のプロセスでは、非常に低い電流密度を適用しつつ、pHが例えば9を超えるアルカリ性電解液を用いるとともに、コバルト特異的な抑制剤化合物を用いるため、トレンチ内部のpHは充填工程を通じて4を超えたままである。これにより、得られるコバルト堆積物に水酸化コバルトが相当量形成され、この水酸化コバルトによってコバルト相互接続配線の導電率が低下し、集積回路の性能が低下する。
【0058】
本発明の電解液及び本発明のプロセスは、堆積したコバルト中に微量にしか存在しないように水酸化コバルトの形成を大幅に制限することで、まさにこの問題を解決しようとするものである。この問題の解決手段は、pHが1.8~4.0、例えば2.0~4.0の電解液であって、以下のような特徴を好ましくは少なくとも1つ又は全て有する添加剤が添加されている電解液を使用することにある。
・基板を分極する間中、上記電解液のpHを1.8超又は2.0超且つ3.5未満、好ましくは2.5未満の値に維持できる緩衝能。
・添加剤が開口径の小さい構造体に拡散できるような低い分子量。
・上記電解液中の非常に低い濃度。その結果、分極開始前の上記電解液中に存在する添加剤のほぼ全量が構造体の空洞に拡散し、該添加剤が局所的な緩衝能を示す。
【0059】
そのような添加剤を含む電解液を用いると、選択的に、例えば基板平坦面ではなく構造体の空洞内のみで、pHの上昇を制限して4.0未満、好ましくは3.0未満の値、より好ましくは2.0~2.5の値とすることができる。したがって、上記添加剤は、局所的に、すなわち空洞内のみでその効果を発揮することで緩衝剤の機能を実行でき、有利である。上記有機添加剤又は少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲又は2.0~3.5の範囲である化合物は、局所的緩衝剤として機能することができ、その効果は空洞内のみで観察される。
【0060】
この第二の実施形態は他の特徴を有していてもよい。他の特徴は、上述した本発明の第一の実施形態の特徴のいくつかと対応していてもよい。
【0061】
本発明はまた、空洞を充填する電気化学プロセスであって、
・上述した電解液の1種と上記空洞の導電面を接触させる工程と、
・得られるコバルト堆積によって上記空洞を完全に充填するのに充分な時間で上記導電面を分極させる工程であって、この充填は好ましくはコンフォーマルである工程と
を含むプロセスに関する。
【0062】
上記プロセスは、上記分極工程の終わりに得られたコバルト堆積物をアニーリングする工程を含むことが好ましい。
【0063】
本発明はまた、基板上にコバルトを堆積させる電気化学プロセスであって、上記基板は、上記基板中にくり抜かれた空洞の内部にある導電面と、上記空洞の外部にある導電面とを有し、
・コバルト(II)イオンと、塩化物イオンと、重合体ではない1種のみ又は多くても2種の有機添加剤とを含むpHが2.0~4.0の水溶液の形態である電解液と両導電面を接触させる工程と、
・コバルトで上記空洞を充填するのに、且つ上記空洞の外部にある上記導電面に厚さが少なくとも50nmのコバルト層を堆積させるのに充分な時間で両導電面を分極させる工程と、
・上記分極工程の終わりに得られたコバルトをアニーリングする工程と
を含む電気化学プロセスに関するものであってもよい。
【0064】
オーバーバーデン層とも呼ばれる上記コバルト層は、厚さが20nm~300nmであってもよい。上記層は、空洞外部の基板表面全体で厚さが一定であることが有利である。上記層はまた、均一で、光沢があり且つ緻密である。その純度は1000原子ppm未満であることが好ましい。
【0065】
本発明のプロセスは、第一の実施形態に係る1種若しくは2種の非重合体有機添加剤を含むか、又は少なくとも1つのpKaが1.8~3.5の範囲、好ましくは2.0~3.5の範囲、より好ましくは2.2~3.0の範囲である1種以上の化合物5mg/l~200mg/lを含む上述した電解液の1種を用いて行うことができる。
【0066】
本発明のプロセスにおいて用いる電解液は、上述した第一の実施形態又は第二の実施形態の電解液と対応していてもよい。
【0067】
本発明のプロセスの充填工程を実施する間中、上記空洞内部のpHは、使用する電解液の性質にもよるが、3.5未満又は3.0未満のままであることが有利である。
【0068】
上記空洞は、ダマシン又はデュアルダマシンプロセスの実行の観点から設計することができる。上記空洞は、特に、
・構造体をシリコン基板にエッチングする工程と、
・上記構造体のシリコン面に酸化シリコン層を形成して酸化シリコン面を得る工程と、
・上記酸化シリコン層に金属層を堆積させて上記空洞の導電面を得る工程と
を行うことで得ることができる。
【0069】
上記金属層は、例えば厚さが1nm~10nmである。上記金属層は、上記シリコンと接触している酸化シリコン層に堆積させることが好ましい。
【0070】
本発明のプロセスは、従来技術の「ボトムアップ」又は「超コンフォーマル」プロセスとは対照的に、コンフォーマルプロセスである。本発明のコンフォーマル充填プロセスにおいて、コバルト堆積物の成長速度は、充填される凹パターンの底部と壁部とで同じである。この充填方式は、コバルト堆積速度が空洞壁部よりも空洞底部でより速い従来技術の他のプロセスと対照的である。
【0071】
本発明の電着プロセスでは、上述した本発明の第一の態様の主題である浴を用いることができる。本発明の第一の態様に関して記載された全ての特徴は、上記電着プロセスに適用される。
【0072】
本発明の電着プロセスにより得られるコバルト堆積物の不純物合計量は、1000原子ppm未満である。不純物は主に酸素であり、次いで炭素及び窒素である。炭素及び窒素の合計量は300ppm未満である。コバルト堆積物は連続していることが有利である。コバルト堆積物の平均ボイド率は、体積又は表面積基準で10%未満、好ましくは5%以下であることが好ましい。コバルト堆積物中のボイド率は、当業者に公知の電子顕微鏡観察によって測定でき、当業者は、彼らにとって最適とみられる方法を選択する。こうした方法の一つは、50000倍~350000倍の倍率を使用した走査型電子顕微鏡法(SEM)又は透過型電子顕微鏡法(TEM)であってもよい。ボイド体積は、充填された空洞を含む基板の1つ以上の断面で観察したボイド表面積を測定することで評価できる。いくつかの断面でいくつかの表面積を測定する場合、それらの表面積の平均値を計算してボイド体積を評価する。
【0073】
電着工程は、一般的に、コバルト堆積物が基板の平坦面を被覆すると停止させる。この場合、上記コバルト堆積物は、空洞内部にあるコバルト堆積物と、空洞がくり抜かれた基板の表面を被覆するコバルト層とを含む。上記表面を被覆するコバルト層の厚さは50nm~250nmであってもよく、例えば125nm~175nmであってもよい。
【0074】
不純物量を低くするとともにボイド率を非常に低くすることで、抵抗率がより低いコバルト堆積物を得ることができる。
【0075】
コバルト堆積速度は0.1nm/秒~3.0nm/秒、好ましくは1.0nm/秒~3.0nm/秒、より好ましくは1nm/秒~2.5nm/秒である。
【0076】
貫通ビア及び相互接続配線は、当業者に公知のダマシン又はデュアルダマシンプロセスに従って作製でき、該プロセスは、シリコンウェーハに対してウェーハ表面に垂直な主軸に沿ってパターンをエッチングして、凹部を形成する縦輪郭を有するパターンを得る工程と、一般的に酸化シリコンから構成される絶縁誘電層を堆積させる工程と、シリコン中にコバルトが移行するのを防ぐよう機能する材料の層を堆積させる工程と、シード層と呼ばれる金属薄層を必要に応じて堆積させる工程と、コバルト電着によって上記パターンを充填する工程と、研磨によって余分なコバルトを除去する工程とを含む一連の工程を含む。
【0077】
導電性コバルト配線は、半導体素子メタライゼーション構造のフロント(FEOLライン)又はバック(BEOLライン)で作製されてもよい。
【0078】
所望のパターンに応じてエッチングされ、続いて酸化シリコン層で被覆された後、金属シード層であってもよい金属層、コバルトの拡散に対するバリア層、ライナー、又はこれらのうち少なくとも2種の組み合わせで被覆されたシリコン基板を使用できる。上記金属層は、厚さが1nm~10nm、例えば2nm~5nmであってもよく、例えば、単一の層又は様々な材料からなるいくつかの層が重ね合わさったもので構成されていてもよい。
【0079】
上記パターンの導電面は、コバルト、銅、タングステン、チタン、タンタル、ルテニウム、ニッケル、窒化チタン及び窒化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む金属層の表面である。特定の一実施形態において、上記導電面はコバルト面である。
【0080】
したがって、上記金属層は、厚さが1nm~6nmの窒化タンタルTaN層であって、該層自体は、厚さが1nm~10nm、好ましくは2nm~5nmのコバルト金属層に被覆され接触しており、電気工程中、上記コバルト金属層にコバルトが堆積する、TaN層を含んでいてもよい。
【0081】
上記金属層及びコバルト堆積物を含むアセンブリの抵抗率は、7~10Ω/cmの範囲であってもよい。好ましくは7.5Ω/cm~8.5Ω/cmである。
【0082】
本発明のプロセスに従ってコバルトで充填されることが意図された空洞は、該空洞が形成された基板表面の水平面において開口部の幅又は径が10~200nm又は10~100nm、好ましくは10~40nm、より好ましくは15~30nmであることが好ましい。上記空洞の深さは50~250nmの範囲であってもよい。一実施形態によれば、上記空洞は、幅が10~30nmであり、深さが125~175nmである。
【0083】
本発明の電解液を用いると、開口部における幅又は径が40nm未満の非常に細いトレンチ又は小さなビアを、従来技術のプロセスよりも速い速度でコンフォーマル充填に従って充填できることが明らかとなった。また、上記電解液を用いると、水酸化コバルト等の不純物の量が非常に少なく且つ材料ボイドが無い連続したコバルト塊を得ることもできる。
【0084】
電気工程で用いる分極強度は2mA/cm~20mA/cmの範囲であることが好ましい。一方、アルカリ性電解液を用いる従来技術のプロセスでは、一般的に、分極強度は0.2mA/cm~1mA/cmの範囲である。
【0085】
本発明のプロセスの電気工程は、1つのみ又はいくつかの分極工程を含んでいてもよい。分極工程の変数は、当業者であれば彼らの一般的知識に基づいて選択できる。
【0086】
上記電気工程は、ランプ(ramp)モード、定電流(galvanostatic)モード及び定電流-パルス(galvano-pulsed)モードからなる群より選択される少なくとも1種の分極モードを用いて行うことができる。
【0087】
したがって、上記電気工程は、少なくとも1つの定電流-パルスモード電着工程と少なくとも1つの定電流モード電着工程とを含んでいてもよく、上記定電流モード電着工程は好ましくは上記定電流-パルスモード電着工程に続いて行う。
【0088】
例えば、上記電気工程は、3mA/cm~20mA/cmの範囲、例えば12mA/cm~16mA/cmの範囲の電流を好ましくは5ミリ秒~50ミリ秒の時間(Ton)印加することと、ゼロ分極を好ましくは50ミリ秒~150ミリ秒の時間(Toff)行うこととが交互になっている定電流-パルスモードでカソードを分極する第一の工程を含む。
【0089】
この第一の工程において、上記基板を上記電解液と接触させるのは分極前であっても分極後であってもよい。上記空洞との接触は、上記電解液と接触する金属層の腐食が制限されるように、電圧印加前に行うことが好ましい。
【0090】
第二の工程において、3mA/cm~20mA/cmの範囲の電流を用いて定電流モードでカソードを分極してもよい。両工程の時間は略等しいことが好ましい。
【0091】
定電流モードで行う第二の工程自体が、電流の強度が3mA/cm~8mA/cmの範囲である第一の工程と、強度が9mA/cm~20mA/cmの範囲の電流を印加する第二の工程という2つの工程を含んでいてもよい。
【0092】
この電気工程は、特に上記電解液のpHが2.5~3.5である場合に用いることができる。
【0093】
別の例によれば、上記電気工程は、電流が好ましくは0mA/cmから15mA/cmまで、好ましくは0mA/cmから10mA/cmまで上昇するランプモードでカソードを分極する第一の工程の後、10mA/cm~20mA/cmの範囲、好ましくは8mA/cm~12mA/cmの範囲の電流を印加して定電流モードで行う工程を含む。この電気工程は、特に上記電解液のpHが2.0~2.5である場合に用いることができる。
【0094】
本発明のプロセスは、上述した充填の終わりに得られたコバルト堆積物をアニーリングする工程を含むことが好ましい。
【0095】
このアニーリング熱処理は、350℃~550℃の温度、例えば約450℃で、好ましくはN中4%のH等の還元ガス下で行うことができる。
【0096】
上記プロセスは、還元性プラズマによる処理を行って上記基板の表面に存在する自然金属酸化物を還元する予備工程を含んでいてもよい。上記プラズマはトレンチ表面にも作用するため、シード層と電着コバルトとの界面の質を向上させることができる。その後の電着工程は、自然酸化物の再形成を最小限に抑えるために、上記プラズマ処理の直後に行うことが好ましい。
【0097】
本出願はまた、空洞のコンフォーマル充填を行う電気化学プロセスであって、
・コバルト(II)イオンと、塩化物イオンと、α-ヒドロキシカルボン酸を含む多くても2種の有機添加剤とを含むpHが2.0~4.0の水溶液と上記空洞の導電面を接触させる工程と、
・上記導電面を分極して、コンフォーマル充填方式によって上記空洞をコバルトで充填する工程と
を含む電気化学プロセスについても記載する。
【0098】
上記α-ヒドロキシカルボン酸は、サイズが小さいことで上記空洞内に拡散することが好ましい。
【0099】
このプロセスは、本発明の電気化学プロセスに関連して先に述べた特徴のうち1つ以上を満たしてもよい。
【0100】
本発明のプロセスは、特に、半導体素子の作製において、表面に沿って伸びるトレンチや、様々な集積階層を接続するビア等の導電性金属相互接続配線を形成する際に用いることができる。
【0101】
以下の実施形態例によって本発明をさらに説明する。
【実施例
【0102】
(実施例1:幅26nm、深さ150nmの構造体に対する有機添加剤を用いたpH=3.0での電着)
コバルトシード層に電着を行って、幅26nm、深さ150nmのトレンチをコバルトで充填した。堆積は、二塩化コバルトとα-ヒドロキシカルボン酸とを含む組成物を用いてpH3.0で行う。最後に基板を熱処理して、堆積した金属の質を向上させる。
【0103】
(A)材料及び機器
(基板)
本例では、4×4cmのシリコン片で構成された基板を使用した。該シリコンは酸化シリコンで被覆されており、酸化シリコンは厚さ4nmのTaN層と接触している。TaN層自体は、厚さ3nmのコバルト金属層に被覆され接触している。したがって、充填されるトレンチは、幅が26nm、深さが150nmである。空洞がコバルトで充填された基板の抵抗率を測定すると、約300Ω/□である。
【0104】
(電着溶液)
本溶液において、Co2+濃度は、CoCl(HO)から得られる2.47g/lである。酒石酸の濃度は5~200ppm、例えば15ppmである。上記溶液のpHは、塩酸を添加することでpH=3.0に調整する。
【0105】
(機器)
本例では、系の流体力学的特性を制御するための流体再循環システムを備えた上記電着溶液を収容するためのセルと、使用した試片のサイズ(4cm×4cm)に適した試料ホルダーを備えた回転電極という2つの部材で構成された電解析出装置を使用した。電解析出セルは以下の2つの電極を備えていた。
・コバルトアノード
・カソードを構成する上述した層で被覆された構造化シリコン片
・アノードに接続される参照電極
【0106】
コネクタを用いることで、20V又は2Aまで供給可能なポテンシオスタットに電線で接続された電極同士を電気的に接続することができた。
【0107】
(B)実験プロトコル
(予備工程)
上記シリコン試料をHプラズマで短時間処理(0.5mbar、70W、5分)して、基板上の自然コバルト酸化物を還元する。
【0108】
(電気プロセス)
上記プロセスは以下の3つの工程で行う。
a)第一の工程においては、定電流-パルスモードを用いて、電流範囲を30mA(すなわち3.8mA/cm)~150mA(すなわち19mA/cm)、例えば110mA(すなわち14mA/cm)とし、パルス時間をカソード分極では5ミリ秒~50ミリ秒、2つのカソードパルス間のゼロ分極では50ミリ秒~150ミリ秒としてカソードを分極した。この工程は回転数50rpmで50秒間行った。電解液は電圧印加前に基板と接触させる。
b)第二の工程においては、定電流モードを用いて、電流範囲を30mA(すなわち3.8mA/cm)~60mA(すなわち7.6mA/cm)、例えば電流55mA(すなわち7mA/cm)としてカソードを分極した。この工程は回転数100rpmで20秒間行った。
c)最終工程中、定電流モードを用いて、電流範囲を80mA(すなわち10mA/cm)~150mA(すなわち19mA/cm)、例えば110mA(すなわち13.75mA/cm)としてカソードを分極した。この工程は回転数100rpmで30秒間行った。
【0109】
これらの連続する3つの電気グラフト工程の後、100秒で高アスペクト比の構造体が完全に充填され、上には厚いコバルト層が堆積する。
【0110】
(アニーリング工程)
還元ガス(N中4%のH、フォーミングガスと呼ばれる)下、500℃でアニーリングを10分間行う。
【0111】
(C)得られた結果
アニーリング後に行った透過型電子顕微鏡分析(Mag=320k、EHT=100kV)によると、トレンチ壁部の穴(「側壁ボイド」)が欠陥無く充填されていることから、コバルトの核形成が良好であることが示されており、また、構造体には穴(「シームボイド」)が無いことから、アニーリングによってこのタイプの欠陥が取り除かれることが示されている(図1参照)。構造体上の150nmの厚いコバルト層の抵抗率は8.0Ω・cmである。
【0112】
得られたコバルト堆積物の不純物合計量は790原子ppmである。炭素及び窒素の合計量は200ppmである。
【0113】
コバルト堆積速度は1.5nm/秒である。
【0114】
(実施例2:幅16nm、深さ150nmの構造体に対する有機添加剤を用いたpH=3.0での電着)
コバルト層に電着を行って、実施例1よりもアグレッシブな幅16nm、深さ150nmのトレンチをコバルトで充填した。堆積は、変わらず、二塩化コバルトと酒石酸とを含む組成物を用いてpH3.0で行う。基板は変わらず熱処理して、堆積した金属の質を向上させる。
【0115】
(A)材料及び機器
(基板)
本例で用いた基板は4×4cmのシリコン片から得た。該シリコンは酸化シリコンで被覆されており、酸化シリコンは厚さ4nmのTaN層と接触している。TaN層自体は、厚さ3nmのコバルト金属層に被覆され接触している。したがって、充填されるトレンチは、幅が16nm、深さが150nmである。基板の抵抗率を測定すると、約170Ω/□である。
【0116】
(電着溶液)
溶液は実施例1のものと同じである。
【0117】
(機器)
機器は実施例1のものと同じである。
【0118】
(B)実験プロトコル
(予備工程)
プラズマ処理は実施例1のものと同じである。
【0119】
(電気プロセス)
実施例1で記載した通りであり、プロセスはこの場合も3つの工程で行われ、全く同じである。
【0120】
(アニーリング工程)
アニーリング工程は実施例1のものと厳密に同じである。
【0121】
(C)得られた結果
アニーリング後に行った透過型電子顕微鏡分析(Mag=320k、EHT=100kV)によると、トレンチ壁部の穴(「側壁ボイド」)が欠陥無く充填されていることから、コバルトの核形成が良好であることが示されており、また、構造体には穴(「シームボイド」)が無いことから、アニーリングによってこのタイプの欠陥が取り除かれることが示されている(図2参照)。構造体上の150nmの厚いコバルト層の抵抗率は8.5Ω・cmである。
【0122】
同じプロセスをpH3.0で行うと、得られたコバルト堆積物の不純物合計量は790原子ppmである。炭素及び窒素の合計量は200ppmである。
【0123】
コバルト堆積速度は1.5nm/秒である。
【0124】
(比較例3:幅26nm、深さ150nmの構造体及び有機添加剤を用いたpH=5.3での電着)
コバルトシード層に電着を行って、幅26nm、深さ150nmのトレンチをコバルトで充填した。堆積は、二塩化コバルト水和物と酒石酸とを含む組成物を用いてpH5.3で行う。最後に基板を熱処理して、堆積した金属の質を向上させる。
【0125】
(A)材料及び機器
(基板)
使用した基板は実施例1のものと厳密に同じである。
【0126】
(電着溶液)
本溶液において、Co2+濃度は、CoCl(HO)から得られた2.47g/lである。酒石酸の濃度は5~200ppm、例えば15ppmである。上記溶液のpHは、塩酸を添加することでpH=5に調整する。
【0127】
(機器)
機器は実施例1のものと同じである。
【0128】
(B)実験プロトコル
(電気プロセス)
実施例1で記載した通り、プロセスはこの場合も3つの工程で行われ、全く同じである。
【0129】
(アニーリング工程)
アニーリング工程は実施例1のものと厳密に同じである。
【0130】
(C)結果及び考察
基板の走査型顕微鏡分析(Mag=100k、WD=2.2nm、Signal A=ESB、EHT=2.0kV)によると、図3で黒く見える「シームボイド」タイプの欠陥穴が多く、質の悪い充填であることがわかる。
【0131】
これらの結果から、使用した溶液で良好な電着を得るためには4未満のpHを使用する必要があることがはっきり示されている。
【0132】
基板表面にある厚さ150nmのコバルト層の抵抗率は9.0Ω・cmである。
【0133】
(実施例4:幅16nm、深さ150nmの構造体に対する有機添加剤を用いたpH=2.2での電着)
コバルトシード層に電着を行って、幅16nm、深さ150nmのトレンチをコバルトで充填した。本例は、電気工程の条件及びそのpHの点で実施例2と異なる。
【0134】
(A)材料及び機器
(基板)
基板は実施例2のものと同じである。
【0135】
(電着溶液)
溶液は実施例1のものと同じであるが、pHは2.2に調整する。
【0136】
(機器)
機器は実施例1のものと同じである。
【0137】
(B)実験プロトコル
(予備工程)
プラズマ処理は実施例1のものと同じである。
【0138】
(電気プロセス)
プロセスは以下の2つの工程で行う。
a)第一の工程においては、動電流(galvanodynamic)ランプモードを用いて、電流を0mA以上の値から最大値110mA(すなわち13.75mA/cm)に達するまで時間と比例して変化させてカソードを分極した。本例では、電流を0mAから80mA(すなわち10mA/cm)まで1.33mA/秒の速度で変化させる。この工程は、回転数50rpmで60秒間行った。
b)第二の工程中、定電流モードを用いて、電流範囲を80mA(すなわち10mA/cm)~150mA(すなわち19mA/cm)、例えば80mA(すなわち10mA/cm)としてカソードを分極した。この工程は、回転数50rpmで40秒間行った。
【0139】
これらの連続する2つの工程の後、100秒で高アスペクト比の構造体が完全に充填され、さらに基板の平坦面にコバルト層が形成される。
【0140】
(アニーリング工程)
急速熱アニーリングプロセスによって、還元ガス(N中4%のH、フォーミングガスと呼ばれる)下、450℃でアニーリングを5分間行う。
【0141】
(C)得られた結果
アニーリング後に行ったTEM分析によると、トレンチ壁部の穴(「側壁ボイド」)が欠陥無く充填されていることから、コバルトの核形成が良好であることが示されており、また、構造体には穴(「シームボイド」)が無いことから、アニーリングによってこのタイプの欠陥が取り除かれることが示されている。構造体上の150nmの厚いコバルト層の抵抗率は7.5Ω・cmである。
【0142】
コバルト堆積速度は1.9nm/秒である。
【0143】
(比較例5:幅22nm、深さ75nmの構造体及び有機添加剤を用いたpH=8.0での電着)
基板に銅層を堆積させて得た銅自由表面を有する幅22nm、深さ75nmのトレンチをコバルトで充填した。トレンチは、1対1の比率となるようにコバルトと化学量論量で存在するトリエチレンテトラミンに基づいた組成物を使用して充填した。
【0144】
(A)材料及び機器
(基板)
本例で用いた基板は、長さ4cm、幅4cmのシリコン片から構成されており、幅22nm、深さ75nmのトレンチを有する構造化酸化シリコン層で被覆されている。該酸化シリコンは、厚さ2nmのコバルト層に被覆され接触しており、コバルト層自体は、厚さ4nm未満の銅層に被覆され接触している。銅層の抵抗率は250Ω/□である。
【0145】
(電着溶液)
本溶液において、コバルトと化学量論量で存在するトリエチレンテトラミンの濃度は1.32g/l(市販の60%溶液より)である。CoSO(HO)の濃度は1.5g/l(すなわち、Co2+濃度0.31g/l)である。
【0146】
また、チオグリコール酸を10ppmの濃度で添加した。溶液のpHは8.0であった。
【0147】
(機器)
本例では、系の流体力学的特性を制御するための流体再循環システムを備えた上記電着溶液を収容するためのセルと、使用した試片のサイズ(4cm×4cm)に適した試料ホルダーを備えた回転電極という2つの部材で構成された電解析出装置を使用した。電解析出セルは以下の2つの電極を備えていた。
・不活カーボングラファイトアノード(アノード)
・カソードを構成する上記銅層で被覆された構造化シリコン片
・アノードに接続される参照電極
【0148】
コネクタを用いることで、20V又は2Aまで供給可能なポテンシオスタットに電線で接続された電極同士を電気的に接続することができた。
【0149】
(B)実験プロトコル
定電流-パルスモードを用いて、電流範囲を3mA(すなわち0.38mA/cm)~35mA(すなわち4.38mA/cm)、例えば9mA(すなわち1.14mA/cm)とし、パルス周波数をカソード分極では1kHz~10kHz、2つのカソードパルス間のゼロ分極では0.5kHz~5kHzとしてカソードを分極した。カソード回転数は6rpmとした。
【0150】
電着工程の時間は、幅25nm、深さ75nmのトレンチを完全に充填するためには14分であった。
【0151】
(C)得られた結果
TEM分析から、良好な質のボトムアップメカニズムによりコバルト金属で充填されたことがわかる。
【0152】
しかしながら、コバルトを得ることが望ましいにも関わらず、表面に堆積した化合物は酸化コバルトのみからなるものである。
【0153】
さらに、コバルトが塩基性媒体中で錯体を形成すると、充填時間が非常に長くなる。12分で基板表面に形成された厚さ20nmの酸化コバルト層が得られた。
【0154】
これらの結果から、充分な速度でコバルト金属を得るためには酸性pHで作業する必要があることがはっきり示されている。

図1
図2
図3