(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】工具診断システム及びそれを備える工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20230314BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230314BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B23Q11/00 F
B23Q17/09 D
B23Q17/09 F
B23Q17/24 Z
(21)【出願番号】P 2021026310
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 静雄
(72)【発明者】
【氏名】飯山 浩司
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-144577(JP,A)
【文献】特開2020-069569(JP,A)
【文献】特開2011-167797(JP,A)
【文献】特開2009-061540(JP,A)
【文献】特開昭64-045549(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220776(WO,A1)
【文献】特開2020-006496(JP,A)
【文献】特開平10-034496(JP,A)
【文献】特開2006-239781(JP,A)
【文献】特開2020-138254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23Q 17/09
B23Q 17/24
B23Q 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに接触して加工を行う工具と、
前記工具を保持する主軸と、
前記工具の異常を検知する検知部と、
前記工具を撮影する撮影部と、
前記検知部が前記工具の異常を検知した場合に、前記撮影部が撮影した画像に基づいて前記工具を診断する診断部と、を備え、
前記工具は、前記ワークの塑性変化に基づく転造加工を行い、
前記診断部は、前記工具における外径の増大変化に基づいて前記工具に前記ワークの一部が溶着しているか否かを診断することを特徴とする工具診断システム。
【請求項2】
ワークに接触して加工を行う工具と、
前記工具を保持する主軸と、
前記工具の異常を検知する検知部と、
前記工具を撮影する撮影部と、
前記検知部が前記工具の異常を検知した場合に、前記撮影部が撮影した画像に基づいて前記工具を診断する診断部と、を備え、
前記工具は、前記ワークの塑性変化に基づく転造加工を行い、
前記診断部は、前記工具の色の変化に基づいて前記工具に前記ワークの一部が溶着しているか否かを診断することを特徴とする工具診断システム。
【請求項3】
前記診断部は、前記撮影部が撮影した連続する複数の画像に基づいて前記工具を診断することを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の工具診断システム。
【請求項4】
前記検知部は、前記主軸に掛かる負荷変化又は前記主軸の振動を検知することを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の工具診断システム。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の工具診断システムを備えることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具診断システム及びそれを備える工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械は、主軸に装着された工具が、ワーク(被加工物)に接触して加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の工作機械では、工具にワークの一部が付着した状態でワークの加工を続行した場合に、主軸の故障につながる可能性があった。
【0005】
本発明は、工具の不具合を精度よく検知可能な工具診断システム及びそれを備える工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な工具診断システムは、ワークに接触して加工を行う工具と、前記工具を保持する主軸と、前記工具の異常を検知する検知部と、前記工具を撮影する撮影部と、前記検知部が前記工具の異常を検知した場合に、前記撮影部が撮影した画像に基づいて前記工具を診断する診断部と、を備え、前記診断部は、前記工具の形状変化又は色の変化に基づいて前記工具に前記ワークの一部が溶着しているか否かを診断する。
【発明の効果】
【0007】
例示的な本発明によれば、工具の不具合を精度よく検知可能な工具診断システム及びこれを備える工作機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る工具診断システムを備える工作機械の構成を示すブロック図
【
図2】工作機械がマシニングセンタである場合の一部の構成を示す模式図
【
図4】工作機械の動作制御の変形例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<1.工作機械>
図1は、本発明の実施形態に係る工具診断システム200を備える工作機械1の構成を示すブロック図であり、
図2は、工作機械1がマシニングセンタである場合の一部の構成を示す模式図である。なお、
図2において、XYZ座標系は、3次元直交座標系である。
【0011】
工作機械1は、NC工作機械であり、例えば、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等である。工作機械1は、制御部(診断部)100と、工具10と、主軸20と、テーブル30と、検知部40と、撮影部50と、表示部60、入力部70と、を備える。本実施形態に係る工具診断システム200は、制御部100と、工具10と、主軸20と、検知部40と、撮影部50と、で構成される。
【0012】
制御部100は、工作機械1を構成する各部の動作を制御するコントローラであり、CPU111及びメモリ112を有する。CPU111は、各種処理を実行し、例えば集積回路を用いて構成される。メモリ112は、CPU111を動作させるための制御用のプログラム及び各種のデータを記憶する。メモリ112は、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ等の磁気ディスク装置等で構成される。
【0013】
表示部60は、液晶ディスプレイ等から成り、切削に関する各種情報を表示する。また、表示部60は、工具10の状態を表示する。例えば、工具10に不具合があると診断された場合に、表示部60に不具合が発生した旨を表示する。
【0014】
入力部70は、キーパッド等を用いて使用者が工作機械1に対する各種操作を入力する。入力部70により入力された指示は制御部100により受け付けられ、指示の内容に基づいて各種制御処理が行われる。なお、表示部60と入力部70とを独立して設けてもいいが、入力部70を表示部60上に設けたタッチパネルディスプレイを用いてもよい。
【0015】
工具10は、ワークWに接触して加工を行う。工具10は、例えばエンドミルやドリル等である。
【0016】
主軸20は、工具10を保持する。主軸20は、X軸方向、Y軸方向、および、Z軸方向の3軸方向に移動可能に設けられ、Z軸方向に延びる軸線AX回りに回転駆動する。工具10は、不図示の自動工具交換装置(ATC;Automatic Tool Changer)により自動交換できる。テーブル30は、ワークWを保持する。
【0017】
検知部40は、工具10の異常を検知する。具体的には、検知部40は、主軸20の振動を検知することにより、間接的に工具10の異常を検知する。検知部40は、例えば、加速度センサ41で構成される。加速度センサ41は、主軸20に配置され、主軸20の振動周波数を検知する。これにより、検知部40は、主軸20の異なる方向(例えば、3軸方向)の振動を検知できる。
【0018】
なお、振動周波数を検知するためのセンサは、加速度センサ41に限定されず、主軸20の振動周波数を検知することが可能な任意のセンサを用いてもよい。
【0019】
また、テーブル30が回転駆動してワークWが加工される場合に、検知部40は、テーブル30の振動を検知して間接的に工具10の異常を検知できる。この場合、加速度センサ41は、テーブル30に配置される。
【0020】
また、検知部40は、加速度センサ41の代わりに主軸20に掛かる負荷変化を検知する負荷検知センサを用いてもよい。検知部40は、主軸20に掛かる負荷変化を検知することにより、間接的に工具10の異常を検知できる。
【0021】
撮影部50は、カメラ51で構成され、工具10を撮影する。カメラ51は、工具10に対して移動可能に設けてもよいし、固定して設けてもよい。また、撮影部50を複数のカメラ51で構成してもよい。カメラ51を工具10に対して固定して設ける場合には、主軸20を移動させることにより、工具10を複数の方向から撮影できる。
【0022】
例えば、工具10がZ軸方向に延びる場合に、カメラ51は、工具10をZ軸方向(工具10の延びる方向)と直交する方向に投影して撮影する。これにより、撮影部50は、後述する工具10の診断において、工具10の形状変化を容易に比較できる画像を撮影できる。
【0023】
また、工具10全体がカメラ51の画角に収まらない場合には、工具10を分割して撮影し、連続する複数の画像を繋げて工具10全体の画像を形成してもよい。これにより、撮影部50は、工具10全体のより詳細な画像を撮影できる。撮影された画像データは、メモリ112に記憶される。
【0024】
<3.工具診断システムの動作>
図3は、工具診断システムを備える工作機械1の動作の一例を示すフローチャートである。工作機械1は、メモリ112に記憶される加工プログラムに従って制御部100が、演算処理を実行することにより動作する。
【0025】
ステップS1では、加工プログラムの実行が開始され、テーブル30と主軸20とが加工領域内の空間内で相対的に移動する。これにより、テーブル30上に取り付けられたワークWが、工具10によって加工される。このとき、工具10は、ワークWの塑性変化に基づく転造加工を行う。また、制御部100は、加工プログラムの実行開始とともに時間の測定を開始する。
【0026】
ステップS2では、制御部100が、加工プログラムの実行開始後、測定した時間が定期時間を経過しているか否かを判断する。定期時間は、加工プログラムごとに予め設定されている。定期時間を経過していない場合は、加工プログラムが終了しておらず、ステップS3に移行する。また、定期時間を経過した場合は、ワークWの加工が完成したと判断して加工プログラムの実行を終了する。なお、定期時間が経過していない場合であっても、ユーザーの入力部70への操作により、加工プログラムが強制終了する場合もある。
【0027】
ステップS3では、制御部100が、加工プログラムの実行中に加速度センサ41によって検出される振動レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定する。閾値を超えていない場合は、工具10に異常が発生していないと判定し、ステップS2に移行して定期時間が経過するまで加工プログラムを継続して実行する。一方、閾値を超えた場合は、工具10に異常が発生していると判定し、ステップS4に移行する。加工プログラムの実行中は、ステップS2及びステップS3を繰り返す。
【0028】
ステップS4では、制御部100が、加工プログラムの実行を中断して主軸20による転造加工の動作を停止させ、診断プログラムを実行する。診断プログラムが実行されると、ステップS5に移行する。
【0029】
ステップS5では、撮影部50が、動作を停止した工具10の画像を撮影し、ステップS6に移行する。
【0030】
ステップS6では、制御部100が、ステップS5で撮影した工具10の画像に基づいて工具10を診断する。具体的には、制御部100が、予めメモリ112に記憶された工具10の基準画像と、ステップS5で撮影された画像と、を比較し、工具10の形状変化又は色の変化に基づいて工具10にワークWの一部が溶着しているか否かを判定する。具体的には、工具10にワークWの切屑等が溶着しているか否かを判定する。このとき、基準画像は、未使用の工具10の形状及び色に関する画像であってもいいし、前回加工プログラム実行後に撮影した画像であってもよい。
【0031】
工具10にワークWの一部が溶着している場合は、工具10の外径が、溶着したワークWによって部分的に増大する。また、工具10の表面の色が、溶着したワークWによって部分的に変化する。これにより、工具10の形状変化又は色の変化に基づいて工具10を診断することによって、工具10の不具合を精度よく検知できる。なお、工具10の形状変化及び色の変化の両方に基づいて工具10を診断してもよい。これにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0032】
また、ステップS5で撮影された連続する複数の画像に基づいて工具10を診断することにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0033】
工具10にワークWの一部が溶着していると判定した場合は、ステップS7に移行する。一方、工具10にワークWの一部が溶着していないと判定した場合は、ステップS2に移行して中断していた加工プログラムの実行を再開する。このとき、制御部100が、工具10にワークWが溶着しているか診断した結果、異状がなかったことを示すメッセージを表示部60に表示させてもよい。
【0034】
ステップS7では、制御部100が、工具10にワークWが溶着していることを示すエラーメッセージを表示部60に表示させ、中断していた加工プログラムの実行を終了する。ユーザーは、エラーメッセージを確認後に工具10を交換できる。
【0035】
なお、ステップS6で、工具10にワークWの一部が溶着していないと判定した場合に、ステップS7に移行し、制御部100が、中断していた加工プログラムの実行を終了してもよい。このとき、ワークWの一部が溶着していないが、工具10に何らかの異常が発生している可能性があることを示すエラーメッセージを表示部60に表示させてもよい。
【0036】
図4は、工具診断システムを備える工作機械1の動作の変形例を示すフローチャートである。ステップS6で、工具10にワークWの一部が溶着していないと判定した場合に、ステップS8に移行する。
【0037】
ステップS8では、ステップS3において、閾値を超えて加工プログラムの実行を中断した回数Tが、イレギュラーなタイミングで所定回数mに到達しているか否かを判断する。所定回数mに達していない場合は、ステップS2に移行して中断していた加工プログラムの実行を再開する。一方、所定回数mに達している場合は、ワークWの一部が溶着していないが、工具10に何らかの異常が発生している可能性があると判断してステップS7に移行し、中断していた加工プログラムの実行を終了する。これにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0038】
本実施形態によると、制御部(診断部)100は、工具10の形状変化又は色の変化に基づいて工具10にワークWの一部が溶着しているか否かを診断する。これにより、工具10の不具合を精度よく検知できる。
【0039】
また、工具10は、ワークWの塑性変化に基づく転造加工を行い、制御部(診断部)100は、工具10における外径の増大変化に基づいて工具10を診断する。これにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0040】
また、制御部(診断部)100は、工具10の色の変化に基づいて工具10を診断する。これにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0041】
また、制御部(診断部)100は、撮影部50が撮影した連続する複数の画像に基づいて工具10を診断することにより、工具10の不具合をより精度よく検知できる。
【0042】
また、検知部40は、主軸20に掛かる負荷変化又は主軸20の振動を検知することにより、工具10の異常を間接的に容易に検知することができる。
【0043】
<5.留意事項>
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で適宜組み合わせて実施されてよい。
【符号の説明】
【0044】
1 工作機械
10 工具
20 主軸
30 テーブル
40 検知部
41 加速度センサ
50 撮影部
51 カメラ
60 表示部
70 入力部
100 制御部
111 CPU
112 メモリ
200 工具診断システム
AX 軸線
W ワーク