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特許7244559サンプル物質の分析におけるマイクロ流体デバイスの操作
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】サンプル物質の分析におけるマイクロ流体デバイスの操作
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20230314BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20230314BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20230314BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N21/41 101
G01N35/10 A
G01N37/00 101
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021042174
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2021165733
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】10 2020 107 645.2
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521444446
【氏名又は名称】ブルカー ダルトニクス ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン マリク
(72)【発明者】
【氏名】ポール リッター
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヴィーラー
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ダマン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525752(JP,A)
【文献】国際公開第2008/133698(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116296(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0334398(US,A1)
【文献】特開2005-030905(JP,A)
【文献】国際公開第2005/119210(WO,A1)
【文献】特開2009-097933(JP,A)
【文献】米国特許第07684024(US,B1)
【文献】国際公開第00/042433(WO,A1)
【文献】特表2014-531595(JP,A)
【文献】特表2014-528574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/10
G01N 37/00
G01N 21/41
G01N 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル物質の分析のためにマイクロ流体デバイスを操作する方法であって、
- 複数のセンサスポットからなるアレイを含むマイクロ流体デバイスを用意し、ここにおいて、前記複数のセンサスポットは直列に配列され互いに結合されて流路を形成し、
- 前記流路に、前記直列に配列された複数のセンサスポットのうち所定の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出するため複数の経路を切り替えることが可能な排出経路を配置し、ここにおいて、前記複数の経路は、(i)前記直列に配列された複数のセンサスポットの全てではない第1の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出する第1の経路と、(ii)前記第1の選択対象と同一でない第2の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出する第2の経路とを含み、
- 前記流路に流体を流すことにより、前記第1の選択対象に属するセンサスポットを、前記流体中に取り入れられたサンプル物質に接触させ、
- 前記第1の選択対象に属するセンサスポットが接触したサンプル物質を含む流体を、前記第1の経路から排出し、それにより、前記第2の選択対象に属するセンサスポットにサンプル物質を含む流体が供給されないようにし、
- 前記第1の選択対象に属するセンサスポットにおいて、サンプル物質との相互作用を光学的に検知し、
- 光学的に検知された前記相互作用に応じて、前記サンプル物質の排出経路を変更することによって、前記第2の選択対象に属するセンサスポットを、流体中に取り入れられたサンプル物質に接触させ、
- 前記第2の選択対象に含まれる少なくとも1つのセンサスポットを光学的に検知することによって、前記サンプル物質を分析する、方法。
【請求項2】
前記各流路は、少なくとも1つのサンプル物質注入器を有し、前記サンプル物質注入器は個別に駆動されまたは非駆動される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流体中に取り入れられる異なるサンプル物質が、対応する前記サンプル物質注入器を介して、前記各流路に導入される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ンプル物質抽出器が各センサスポットに割り当てられ、前記サンプル物質抽出器は個々に駆動されまたは非駆動される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の選択対象に帰属しているセンサスポット上で光学的に検知された相互作用が正の結果をもたらす場合、前記第2の選択対象に属するセンサスポットの流路のサンプル物質注入器は駆動されない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1の選択対象に帰属しているセンサスポット上で光学的に検知された相互作用が否定的結果をもたらす場合、
第2の選択対象に属するセンサスポットにおいて、流路の最後のセンサスポットの後の前記サンプル物質抽出器が駆動されると同時に、この流路に他の前記サンプル物質抽出器が存在すればそれは停止される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
流体中に取り入れられた各サンプル物質の単一の濃度および複数の濃度を光学的検知の対象とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の選択対象に帰属する各センサスポットは、裸の金属面または下塗りされただけの表面を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の選択対象に帰属しないセンサスポットは、分析のために機能する表面を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記分析のために機能する表面は、固定化されたリガンドの層を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固定化されたリガンドは、センサスポットごとに異なる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記光学的検知において、センサスポットの表面におけるサンプル物質の親和性または相互作用を検知する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記光学的検知において、表面プラズモン共鳴の挙動を検知する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
サンプル物質を分析するための装置であって、
(a) 複数のセンサスポットからなるアレイを含むマイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体デバイスは、前記複数のセンサスポットが直列に配列され互いに結合された流路を形成し、前記流路に、前記直列に配列された複数のセンサスポットのうち所定の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出するため複数の経路を切り替えることができる制御可能な排出経路を配置し、ここにおいて、前記複数の経路は、(i)前記直列に配列された複数のセンサスポットの全てではない第1の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出する第1の経路と、(ii)前記第1の選択対象と同一でない第2の選択対象に属するセンサスポットを通過したサンプル物質を排出する第2の経路とを含み、
(b) 前記センサスポットもしくはその選択された一部を光学的に走査するセンサ装置と、
(c) 前記マイクロ流体デバイスおよび前記センサ装置とつながり、下記の各手順を実行するように設計され構成された制御装置と、を備える、装置。
- 前記流路に流体を流すことにより、前記第1の選択対象に属するセンサスポットを、前記流体中に取り入れられたサンプル物質に接触させるように前記マイクロ流体デバイスを制御し、
- 前記第1の選択対象に属するセンサスポットが接触したサンプル物質を含む流体を前記第1の経路から排出することにより、前記第2の選択対象に属するセンサスポットにサンプル物質を含む流体が供給されないように前記マイクロ流体デバイスを制御し、
- 前記第1の選択対象に属するセンサスポットにおいて、サンプル物質との相互作用を光学的に検知するよう、前記センサ装置を制御し、
- 光学的に検知された前記相互作用に基づいて、前記サンプル物質の排出経路を変更することによって、前記第2の選択対象に属するセンサスポットを、流体中に取り入れられたサンプル物質に接触させるように、前記マイクロ流体デバイスを制御し、ならびに
- 前記第2の選択対象に含まれる少なくとも1つのセンサスポットの光学的検知によって、前記サンプル物質を分析するように前記センサ装置を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル物質の分析においてマイクロ流体デバイスを操作する方法、およびそれに関連したサンプル物質の分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術を、特定の態様に関して以下に説明する。しかしながら、これは限定として理解されるべきではない。
【0003】
従来から知られている技術のさらなる有用な開発および改良が、この[背景技術]で述べられた比較的狭い範囲の上に、かつそれより広げて適用され得る。このことは、以下の明細書を読んだこの分野の技術に熟練した実務家にとって、容易に明らかである。
【0004】
低分子量を有する製薬活性薬剤(pharmaceutical active agents)(例えば、500以下の原子質量単位の分子量を有する酵素阻害剤などの分子)を見出すのに要する高い経費、長い期間および低い成功率に鑑み、それらの全ての発見および開発プロセスの間、それらの活性および結合特性を素早く、そして正確に測定することが要求されるに至った。
【0005】
表面プラズモン共鳴(SPR)の検知を伴うリアルタイム-ラベルフリー(RT-LF)分析は、低分子量の製薬活性薬剤および活性薬剤候補の生物物理学的な特徴を知るのに強力なツールであることが判明した。それは、大規模(massive)な並行分析において、高いスループットで実施することができる。
【0006】
そのすべての内容がここに参照される特許文献1は、「水力学的隔離(hydrodynamic isolation)」として知られている方法で動作することができ、この種の多重化分析を行うために用いることができるマイクロ流体デバイスの一例を記載する。そこにおいて、独立した小さな液量は、分析の目的で、デバイスの各センサの表面上の各位置に滴下される。
【0007】
この種のデバイスの商業的な実現例は、本出願人のSierraSPR(商標)-32であり、それは個々に流体制御ができる8つの平行した流路の中で4つの個々に設定可能なセンサスポットを有する。
【0008】
断片および低分子量の活性薬剤のライブラリの工業的なスクリーニングは、しばしばマルチステージのアプローチを含む。これは例えば、非特許文献1に記載されている。
【0009】
予備選択(”clean screen”):第1に、センサの表面が単に裸にされているかまたは下塗りされ、しかし固定化分析リガンドでおおわれていないときでさえも、続く分析を妨げる結合挙動、例えばセンサ表面に対する非特異的な結合を呈する化合物を見出すために、活性薬剤の完全なライブラリが検査される。
【0010】
各化合物は、すべてのターゲット表面(一流路当たりの1個から3個の活性表面)およびすべての参照表面(一流路当たりの1個から3個の参照表面)に対して、単一の濃度において、テストされる。
【0011】
単一濃度のスクリーニング:第2に、予め選択されたライブラリ(干渉する化合物なし)が、すべてのターゲット表面(一流路当たりの1個から3個の活性表面)およびすべての参照表面(一流路当たりの1個から3個の参照表面)に対して、単一の濃度において、テストされる。
【0012】
これらの最初の2つの段階が、いくつかのセンサ表面上で活性薬剤の単一の使用により実行されることが開示されていた。それらのうちの少なくとも1つは予備選択測定のための準備である。
【0013】
この不利な点は、予め選択されたセンサ表面上で非特異的な結合挙動を呈する活性薬剤のために用意されたセンサ表面からの測定データが、分析のために機能するセンサスポットであっても、情報の価値を有しないということであり、したがって、有意に評価されることができない。
【0014】
さらに、分析のために用意されたセンサ表面の不必要な汚染がある。それは、それらがさらなる活性薬剤候補の試験のために使用されるのを妨げる。あるいは、そこで結合された「粘着性の」物質を洗い落すために1時間にも及ぶ洗浄/すすぎの手間を少なくとも含む。
【0015】
複数の濃度のスクリーニング(オプション):第3に、必要であって好ましい場合、単一濃度スクリーニングにおいて望まれる好ましい挙動(運動(kinetics)および結合反応)を呈するすべての関係する活性薬剤は、一連の濃度において、運動および親和性の詳細な情報を得るために、すべてのターゲット表面(一流路当たりの1個から3個の活性表面)およびすべての参照表面(一流路当たりの1個から3個の参照表面)に対してテストされることができる。親和性は特に、テストされる活性薬剤と、機能的なセンサ表面との間の結合の強度の計測を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際出願公開第2008/133698 A1号明細書
【文献】米国特許第7,684,024 B2号明細書
【文献】国際出願公開第2019/116296 A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0334398 A1号明細書
【非特許文献】
【0017】
【文献】Jones, A. M. et al. “A fragment-based approach applied to a highly flexible target: Insights and challenges towards the inhibition of HSP70 isoforms”, Scientific Reports, 6, Article number: 34701; doi:10.1038/srep34701(2016) (<https://www.nature.com/articles/srep34701>)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上に説明したように、マイクロ流体デバイスを操作するための、簡略でより効率的な方法の提供が、まだ必要とされている。
【0019】
本発明により達成されることができるさらなる目的は、本明細書の以下の開示を読み込むことにより、当業者にとって直ちに明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、サンプル物質の分析のため、マイクロ流体デバイスを操作する方法に関係し、以下の各ステップを備える。
(i) 互いに離れたセンサスポットの配列を含むマイクロ流体デバイスを提供すること、
(ii) 全センサスポットの中から選ばれる第1の選択に係るセンサスポットを、流体中に取り入れられたサンプル物質に向き合わせること、
(iii) 前記第1の選択に係るセンサスポットと前記サンプル物質との相互作用を光学的に検知すること、
(iv) 前記第1の選択とは異なる第2の選択に係るセンサスポットにおいて流体中に捉えられたサンプル物質が近づくことによって光学的に検知された相互作用に依存して、マイクロ流体デバイスの動作を変更すること、
(v) 前記第2の選択に含まれる第3の選択に係るセンサスポットを光学的に検知することによって、サンプル物質を分析すること。
【0021】
各種実施の形態において、直列に配置されたセンサスポットの結合された各グループは、平行した各流路を形成してもよい。それらの流路は、流体中に取り入りられたサンプル物質を、一緒に、または個々に、向き合わせることができる。
【0022】
この明細書において、「向き合わせる、対向させる(address)」とは、例えば、サンプル物質を含んでいる流体が、センサスポットの上の流路を流れることによって、当該センサスポットに接触しようとして来ることを言う。
【0023】
各流路は、好ましくは、個々に駆動されおよび停止され得る少なくとも1つのサンプル物質注入器を有する。
【0024】
各種実施の形態において、流体中に取り入れられた異なるサンプル物質は、各流路に対応するサンプル物質注入器を介して、適用されることができる。
【0025】
通常、1つの流路における一連のセンサスポットは、ランニングバッファの注入口およびランニングバッファの抽出口によって、各々枠組みされる(framed)。
【0026】
マイクロ流体デバイスが運転中であるときに、前記ランニングバッファは注入口から抽出口までのすべてのセンサスポットを通過して、それに混合された任意のサンプル物質の流体を運ぶ。
【0027】
このために、ランニングバッファを、「案内流体」と呼ぶこともできる。
【0028】
ランニングバッファすなわち案内流体は、隣接する流路に水力学的な隔離をもたらす。すなわち、1つの流路と次の流路との間にサンプル物質流体の交差がない。
【0029】
各種実施の形態において、個々に駆動、停止され得るサンプル物質抽出器は、各センサスポットに割り当てられることが可能である。
【0030】
ある種の実施の形態では、流体を注入することができて、それを抽出できるように、センサスポットに割り当てられた当該デバイスを設計できる。すなわち特定のサンプル物質注入器を、本方法の特定の実施例において、サンプル物質抽出器として使用することが考えられる。例えば、第1の選択に係るセンサスポット上の非特異的な相互作用を試験するときに、その前におよび/またはその後に、本方法の他の実施例においてサンプル物質注入器として実際にそれらを、例えば、運動性または親和性の研究において使用することである。
【0031】
各流路の少なくとも1つのセンサスポットを第1の選択に帰属させ、少なくとも1つの他のセンサスポットを第3の選択に帰属させることが可能である。
【0032】
センサスポットの第1および第2の選択は、これらのセンサスポットを、流体中に捉えられたサンプル物質が、当該プロセスでの間、さまざまなステージに導かれることを意味する。
【0033】
センサスポットの第3の選択は、対照的に、センサスポットにサンプル物質流体を近づけることを意味しなくて、その代わりに、結像法と好ましくは同時に、光学的、分析的な検知の間に、対応するセンサスポットによって検知された当該データの評価を決定する。
【0034】
この検知は、特に電磁波(例えば、光)によってセンサスポットを照射し、そして同時に、センサスポットから反射した電磁波の一部およびそれらの特性を検知することによって、行うことができる。
【0035】
いくつかの流路から、または、いくつかの流路をまたがって、複数のセンサスポットを同時に走査することが、最も好ましい。そこにおいて可能ならば、例えば光学的結像法を適用できる。これによって、データの獲得および処理を加速する。
【0036】
各種実施の形態において、光学的に検知された相互作用が第1の選択に帰属しているセンサスポット上で正の(しきい値より高い)結果をもたらした場合、第2の選択対象に係るセンサスポットを対向させることを、関係する流路のサンプル物質注入器が停止できる。
【0037】
このようにして、非常に特異的な結合である「粘着性の」活性薬剤および活性薬剤候補を、今後の分析から除外することができる。それはたぶん情報の価値を有しないので、それによって、この流路の他のセンサスポットがこれらの妨害物質にさらされるのを防止する。
【0038】
第1の選択に係るセンサスポット上で注入されたサンプル物質が、無視できない相互作用を呈する場合、すなわち、特にそれらの全てが「粘着性」である場合、それらがいかなる情報ももたらすと思われないので、センサスポット面上の親和性/相互作用の詳細分析が余分であることを、これは意味するだろう。この場合、もちろん、終端の条件を構成する。
【0039】
この場合には、全てのデバイスのための流体供給は停止されることが可能である。そして、サンプル物質の新規なセットが必要とされるだろう。
【0040】
にもかかわらず、この場合には、第1の選択に属さない(換言すれば第1および第2の選択の分離した部分)第2の選択に係るセンサスポットは、まだそのままで、したがって、次の試験において、対象にされることができる。
【0041】
したがって、特定の実施例において、例えばセンサスポットのチップを変えることによって、マイクロ流体デバイスを必ずしも新たにセットアップする必要があるわけではない。その代わりに、新しい活性薬剤および活性薬剤候補の非特異的な相互作用すなわち接着性をテストするために、他のセンサスポットを識別できる。ただし、使っていないセンサスポット面はまだ利用できる。
【0042】
さらなる実施の形態において、第1の選択に帰属しているセンサスポット上で光学的に検知された相互作用が否定的結果をもたらす場合、流路の最後のセンサスポットの前のサンプル物質抽出器を動作させ、同時にこの流路の他のサンプル物質抽出器を(もし存在すれば)停止することによって、第2の選択に係るセンサスポットを、向き合わせの対象にすることができる。
【0043】
サンプル物質注入器と流路の最後のサンプル物質抽出器との間のセンサスポットが線形に配置されている場合、注入された流体は流路のすべてのセンサスポットを流れ、よってサンプル物質の接合/親和性特性を調査できる。
【0044】
この明細書において、「同一でない」とは、第1の選択および第2の選択、またはそれらの選択の基礎となるセンサスポットの数は同一でないが、それらは重複できることを意味する。
【0045】
例えば、第1の選択が第2の選択に係るセンサスポットに完全に含まれてもよい。すなわち、光学的に検知された相互作用が第1の選択に係るセンサスポットにおいて否定的結果をもたらす場合、注入されたすべてのサンプル物質は、非特異的な結合がないため、より詳細な分析に適する。
【0046】
しかしながら、センサスポットの第1および第2の選択がまったく合致しないことも考えられる。すなわち、それらは完全に離れている。例えば、相互作用測定および分析測定のためのサンプル物質が、これらのセンサスポット上にのみ注入される場合、換言すればそれらのセンサスポットにサンプル物質流体が向き合わされる場合、機能しないまたは分析のために機能するセンサスポットの表面に関連する試験において、対応する有益な測定データを評価することができる。
【0047】
各種実施の形態において、本分析は、流体の中に取り入れられる各サンプル物質の一連の濃度のみならず、単一の濃度の光学的検知を含むことができる。個々の活性薬剤および活性薬剤候補の運動性および親和性に関するより詳細な情報を得ることがこのように可能である。
【0048】
単一の濃度のための測定時間は、試験の準備に応じて、30秒から10分の範囲内である。
【0049】
さまざまなサンプル物質が分析のために機能する表面上に固定化されたリガンドと結合して、サンプル物質の量が減少するにつれて、特にサンプル物質がすすぎ落されまたは洗い落とされてゼロになるまで、流体供給が続けられ、再び分離できるという事実を利用することができる。
【0050】
このようにして、一連の結合、さらに結合の分離は、光学的検知により記録されることができて、評価されることができる。
【0051】
第1の選択に帰属しないセンサスポットは、分析のために機能する表面を含むことができる。分析のために機能する表面は、例えば、参照表面として 、活性化した、または、活性化しかつブロックされた表面であり、デキストラン(例えば、carboxymethylatedされた状態で)、ポリカルボン酸塩またはアルカンチオール(自己集合した単分子膜(SAM))で覆われることができる。
【0052】
これらの塗布された領域からの共鳴信号は、特にベースラインの引き算を許容する。また、第1の選択に係るセンサスポットをプライマー(例えばデキストランまたは類似の物質)でコーティングすることも、原則として可能である。
【0053】
非特異的な相互作用の発生を、デキストランの表面(または類似のプライマー)に関して試験することもできる。
【0054】
分析のために機能する表面、特に第2の選択に係るセンサスポットが実際の分析のために、例えば酵素、抗体、構造タンパク質および/または他の生体分子のための固定化されたリガンドの層を有することは、好ましい。興味があるのは、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)およびアルファ-1-酸 糖タンパク(AGP)のような血清タンパク質に向かっての挙動である。手元にタスクに応じて、固定化されたリガンドは、互いに異なってもよく、また、各センサスポット、特に1つの流路において同じであってもよい。
【0055】
各種実施の形態において、サンプル物質のセンサスポット面との親和性または相互作用を光学的に検知できる。特に、(選択された)センサスポット面が光によって照射を受けた場合表面プラズモン共鳴を、光学的に検知できる。その表面からの反射光が検知され、特にいくつかのセンサスポットが例えば、光学的結像法により、マッシブな(massive)並行分析の形で同時にモニタされることができる。
【0056】
マイクロ流体デバイスは、電磁波を光学的に通過させるためのプリズムを含むことができる。流体との接触のために提供されるプリズムの1つの側面は、センサスポットの配列を支持する。
【0057】
あるいは、試料スライドに似たガラス板を有するマイクロ流体デバイスを設計することもできる。この場合、ガラス板の一面は電磁波の光学通過のためのプリズム面と接触し、その反対側の面はセンサスポット配列の構成に従って流体と接触するように設計される。
【0058】
プリズムおよび/またはガラス板は、消耗できる材料または再使用可能な材料でできたチップとして設計されることができる。
【0059】
本発明は同様に、サンプル物質の分析のための装置に関し、当該装置は、次の(a)から(c)の要素を含む。(a) 互いに離れたセンサスポットの配列を含むマイクロ流体デバイス。各センサスポットは流体中に取り入れられたサンプル物質に対向する(個別にまたはグループで)。(b) センサスポットまたはその選択されたものを光学的に走査できる検知装置。(c) 前記マイクロ流体デバイスおよび前記検知装置と通信する制御システム。
【0060】
前記制御システムは、次の各工程を実行するように設計され構成される。(i) すべての配列を含まない第1の選択に係るセンサスポットが、流体中に捉えられたサンプル物質に対向するように、マイクロ流体デバイスを制御する。(ii) 第1の選択に係るセンサスポットがサンプル物質との相互作用を光学的に検知されるように、検知装置を制御する。(iii) 第1の選択と同一でない第2の選択に係るセンサスポットを流体中に捉えられたサンプル物質に対向させることによって光学的に検知された相互作用に対応して、その動作を変えるように、マイクロ流体デバイスを制御する。(iv) 第3の選択に係るセンサスポットの光学的な検知により、サンプル物質が分析されるように検知装置を制御する。第3の選択に係るセンサスポットは第2の選択に係るセンサスポットの中に含まれる。
【0061】
ここに開示された方法に関して、いままでに述べたさまざまな設計および実施例が、特にそれらの動作モードに関して、マイクロ流体デバイスの構成において、同一の方法で実現され得ると理解されるべきである。したがって、それを繰り返す必要はない。
【0062】
本発明は、以下の図面を参照することによって、よりよく理解されることができる。図示した各素子は、必ずしも一定の寸法であるというわけではなく、主に本発明の原理を(大部分は図式的に)例示するために描かれている。各図において、同じ参照符号は互いに対応する要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】複数の流路およびオートサンプラを備えるマイクロ流体デバイスを示す模式図である。
図2】異なる入射角、反射角の範囲にわたって行われる表面プラズモン共鳴測定原理を示す模式図である。
図3図1と同様のマイクロ流体デバイスの一部において流路を示す概略平面図である。
図4A】マイクロ流体デバイスの流路において、(サンプル物質)流体が各センサスポットに対向される過程を示す断面図である。
図4B】マイクロ流体デバイスの流路において、(サンプル物質)流体が各センサスポットに対向される過程を示す断面図である。
図4C】マイクロ流体デバイスの流路において、(サンプル物質)流体が各センサスポットに対向される過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本明細書において、複数の実施例に関して本発明が例示され説明されているが、その一方、さまざまな形および細部の変更が、添付の請求の範囲において定義された要旨を逸脱しない範囲でなされることができることが、当業者には認められる。
【0065】
図1は、ここに開示される本発明の方法の実施に適したマイクロ流体デバイスの配置を示す略図である。
【0066】
当該配置は、8つの流体供給口(1-8)を有するオートサンプラを備え、それらは同時に、そして互いに独立して制御されることができる。
【0067】
各流体供給口には、分析のための適切な緩衝液(バッファ)の中の、活性薬剤のライブラリからの個々の活性薬剤または活性薬剤候補を供給できる。前記緩衝液は、注入針を介して8つの平行した流路(12a-12h)に導入されて、各注入口(10)が最適に割り当てられる。例えば、緩衝液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような有機溶剤を含んでいてもよい。
【0068】
示される実施例において、マイクロ流体デバイスは、8x4グリッドに配置された32のセンサスポット(14)を含む。1つの流路(12a-12h)の4つのセンサスポット(14)が、8つの流体供給口(1-8)の各々に割り当てられる。各々のスポットは、個々に対向する(address)ことができる。
【0069】
したがって、8つのサンプルは、上で説明されたマイクロ流体デバイスを介して、各センサスポット(14)に同時に供給されることができる。
【0070】
下塗りされ、またはリガンド(LIG)によって分析のために機能するようにされ、または活性化され可能ならばブロックされたセンサスポット面で、緩衝液(PL)に混ぜられた活性薬剤および活性薬剤候補(WS)の親和性または相互作用をリアルタイムに検知するために、非常に高感度な表面プラズモン共鳴撮像検知器が用いられる。それは例えば、出願人により製造されたSPR+シリーズである。
【0071】
その測定原理は、図2に示されるように、明快さのため模式的に要約される。
【0072】
高強度のレーザ光源(LLQ)を伴ったSPRイメージング(SPRi)と、音響光学デフレクタ(AOD)による光学高速走査との組合せは、本件出願人が特許文献2において説明したように(その全ての内容は参照の目的でここに引用される)、高感度の検知を可能にする。
【0073】
この配置は、比較的大きな二次元のセンサスポット配列による極めて高感度のイメージングをサポートする。その一方で、光源の強度は、1走査当たり多数の共鳴測定を記録できる高速度カメラ(HGK)を使うことを許容する。走査速度は、例えば、0.1Hzから100Hzまでの範囲から選択することができる。
【0074】
これはSN比0.02(実効値RMS)の共鳴信号ユニットの達成を可能にし、小さい反応変化においてより良い精度の測定を成し遂げることを可能にする。それは低分子量の製薬活性薬剤および活性薬剤候補の断片または結合試験においてしばしば観察することができる。
【0075】
当業者に知られている表面プラズモン共鳴(SPR)の測定原理を、ここで再度簡単に説明する。
【0076】
表面(例えばここで示されるようなプリズム(PR)の内面、またはプリズムと接触する試料スライドを模擬したガラス板の内面)に入射した光が全反射する場合、約300ナノメートルの限定的な浸入深さを有する、いわゆるエバネセント場(evanescent field)が発生する。
【0077】
共振条件が満たされている場合、エバネセント場は、通常プリズム(PR)またはガラス板の対応する外面において、入射光から離れた表面ポインティング側の薄い金属フィルムの表面プラズモンと相互作用することができる。当該対応する外面は、例えば、金または銀でメッキされることができる。
【0078】
共振条件は、以下のパラメータ(a)の関数として発生する。(a) 入射角、(b) 屈折率、(c) 波長。波長は、通常、試験の間に変えられない。
【0079】
このように、金属フィルムの表面近くの屈折率に対する変化は、共鳴角度の変化によって検知されることができる。
【0080】
分子の表面への結合は、屈折率の変化をもたらすので、活性薬剤および活性薬剤候補の結合を、一時的な(temporal)解像度で測定し、表示することができる。
【0081】
SPRシステムで使用するセンサスポットとして、プリズム(PR)または試料スライドに類するガラス板( それらは手動で移動できるモジュールに設置されている )を、金メッキなどで金属化された表面に配置することができる。
【0082】
SPRのために必要とされる金属フィルム面は、例えばタンパク質の非特異的な結合を阻害するために、また分子の表面にとの結合を容易にするために、自己集合した(self-assembled)単膜によって、被覆されることができる。
【0083】
結果として生じるセンサグラムは、共鳴ユニット(RU)における、時間の関数として表された表面プラズモン共鳴信号の線図である(図2、右下)。
【0084】
1つの共鳴ユニットは、1ピコグラムの物質の、1平方ミリメートルの面積を有するセンサスポットの表面への結合に対応する(pg/mm)。その感度は、キャリア流体中のサンプル物質の添加剤が、マイクロモルの範囲以下で検知されるようなものである。
【0085】
図3は、拡大平面で見た、マイクロ流体デバイス上のセンサスポットの配置例を示す模式図である。
【0086】
この実施例では、個々の流路(12a-12h)のセンサスポット(14)は、行ごとに分類され(ABCD)、これらの各行において一律に、各表面上でシンボルまたはシンボルの欠如によって表示されるように、リガンドおよび/またはコーティングによって処理される。
【0087】
各流路(12a-12h)に割り当てられる4つのセンサスポット(ABCD)のうち、2つ(C,D)は異なる分析リガンドを備えているが、その一方で、1つの行(A)はいずれの場合でも、完全に未処理のままである。すなわち、未処理の金属面、例えば金メッキまたは銀メッキされた表面を有する。または、せいぜい、デキストラン、ポリカルボン酸塩(polycarboxylates)または自己集合した単分子膜のアルカンチオール(alkanethiols)によって処理されている。さらに1つの行(B)は、いずれの場合においても、制御目的のために、例えばカルボキシメチル化されたデキストランによって、活性化されブロックされることができる。
【0088】
個々の流路(12a-12h)のセンサスポット(14)の他の構成を許容する実施例も採用可能であることが理解されるべきである。例えば、一様な行を形成する必要はなく、その代わりに、テストのためのリガンドおよび/または他のコーティングの選択が一様でなくてもよい。各流路(12a-12h)に別々のセンサスポット(14)を個々に向かい合わせることが可能であることにより、様々な試験的な準備を実現することができる。
【0089】
標的タンパク質は、一級アミン(primary amines)の固定化のための標準化学(standard chemistry)の助けにより、例えば、行(D)にあるセンサスポット(14)に結合され固定されることができる。
【0090】
各流路(12a-12h)の行(C)のセンサスポット(14)は、参照タンパク質によって、分析のために機能化されることができて、制御スポットとして用いることができる。
【0091】
第2次制御スポットをつくるために、行(B)のセンサスポット(14)は、各流路(12a-12h)において、活性化されブロックされることができる。試験条件は、例えば、0.05%のTween(商標)20界面活性剤(pH 7.4)を含むPBSバッファ(PBS、リン酸緩衝食塩水)によって目標および参照タンパク質を固定化することを含んでいてもよい。
【0092】
一方、活性薬剤候補は、25で0.05%のTween(商標)20および3%のDMSO(pH 7.4)を含むPBSバッファにおいて、テストされることができる。
【0093】
サンプル物質の注入装置は、マイクロ流体デバイスの各流路(12a-12h)ごとにサンプル物質注入口(10)を有する。
【0094】
各口は、センサスポット(14)のカラムの入口(行(A)の手前)に位置し、サンプル物質を含む流体を各流路(12a-12h)に導く。
【0095】
ランニングバッファすなわち案内流体のための対応する注入口(16)が、サンプル物質注入口(10)の側(そば)に並んでいてもよい。注入口(16)は分析に関しての重要性はなく、分析流体の流れを導いて、隣接する流路(12a-12h)の流れを流体力学的に分離するものである。この実施例では、注入口(16)は、流路(12a-12h)の一番上流の端に位置する。
【0096】
一方では、ランニングバッファ/案内流体のための対応する抽出口(18)が、それぞれの流路(12a-12h)の終端側に配置されていてもよい。
【0097】
図の上流から下流まで、個々のセンサスポット(14)を通って流れるいかなる流体も、終端にある抽出口(18)を通して、流路から除去されることができる。この抽出は、例えば、流体を抽出するポンプを操作することにより加速、改善することができる。
【0098】
さらなるサンプル物質抽出口(10*)が、個々のセンサスポット(14)の間に配置され、それらは個々に制御されることができる。制御によりこれらの口を活性化する(例えば開く)か、または非活性化する(例えば閉じる)かに依存して、同時に導かれたサンプル物質流体が流れる、流路(12a-12h)のセンサスポット(14)の数が決まる。
【0099】
本デバイスの特定の設計において、下流のポート(10*)は、サンプル物質の注入および抽出の両方のために使うこともできる。
【0100】
個々のセンサスポット(14)、例えば(A)、(B)、(C)もしくは(D)、またはセンサスポット(14)のグループ、例えば(ABCD)、(ABC)、(AB)、(BCD)、(BC)もしくは(CD)を、このようにサンプル物質流体に向き合う対象とすることができる。
【0101】
もし、流路(12a-12h)の1つ以外のすべてのサンプル物質注入口/抽出口の、流れの方向における注入が非活性化された場合、分析下のサンプル物質を含む流体は、流路(12a-12h)のすべての下流のセンサスポット(14)を流れ、すべてのこれらのセンサスポット(14)との(分析的な)相互作用が起こる。例えば、これらを同時平行的に検知(イメージング)することによって、観察できる。
【0102】
マイクロ流体デバイスの動作の好ましい実施例において、テストされている流体の活性薬剤および活性薬剤候補は、流路(12a-12h)に含まれるセンサスポット(14)のサブセットのみを案内され、そこにおいて、センサスポットの露出した表面または下塗りされた表面(例えば、金属表面またはデキストランでおおわれた表面)への、非特異的な結合を試験されることができる。
【0103】
ここで説明される実施例において、第1の行(A)のセンサスポット(14)は、この非特異的な相互作用を点検するように選択されるようになっていて、したがって特別な、分析のために有益な表面被覆を含まない(第1の選択)。
【0104】
もしサンプル物質のいくつかが、表面被覆にかかわらず特に「粘着性である」と判明された場合、この特性は、固定化されたリガンドもしくは他の分析のために機能化されたセンサスポット表面における相互作用のためのテスト結果としての情報の値に有害な影響を与えるかもしれない。
【0105】
SPR測定との関連において、活性薬剤または活性薬剤候補は、例えば、第1選択に係るセンサスポットに特別な表面処理がなくても共鳴信号が10~20RUより大きいときに、非特異的な結合である、すなわち「粘着性である」であると考えられる。
【0106】
「特別な表面処理がなくても」とは、例えばSPRセンサスポットが直接金属フィルム表面である、または例えば、単に、デキストラン、ポリカルボン酸塩もしくは(自己集合した単膜の)アルカンチオールで被覆された金属面であるときである。
【0107】
試験目的のために、行(A)の第1のセンサスポット(14)の後ろのサンプル物質抽出口は、必要な場合、排出ポンプ(図示せず)の補助を受けて活性化される。その結果、流体中に捉えられたサンプル物質は、第1段階では、他のセンサスポット(B-D)を流れない。
【0108】
これと同時に、図2に模式的に図示されるように、第1の各センサスポット(14)は、例えばSPRiと並行に光学的に走査され、結合の挙動がリアルタイムに評価される。
【0109】
制御システム(図示せず)、例えば適切にプログラムされたマイクロプロセッサまたはそれに相当する計算ユニットは、この第1の光学的走査の結果を受信し、例えば共鳴ユニット(RU)のプリセットしきい値が超えられて、非特異的な結合挙動が検知された場合に、これらの流路(12a-12h)のサンプル物質注入口(10)の流体供給を停止させる。
【0110】
「粘着性の」サンプル物質の場合、これらの流路(12a-12h)の他のセンサスポット(14)は、そこからのさらに有益な分析情報が期待され得ないので、さらなる分析のために使われないかもしくは清浄なままであり、次の試験において他の活性薬剤および活性薬剤候補の対象にされる。
【0111】
この予備選択から単一濃度スクリーニングへの連続的な移行において、次の段階で、制御システムが、センサスポット(14)の最後の列(D)の後に位置するそれらのサンプル物質抽出口を活性化して、相互作用を走査するのに使われたセンサスポット(14)の第1の行(A)の後ろでサンプル物質抽出口を同時に非活性化させる。その結果、行(A)のセンサスポット(14)だけでなく、各行(BCD)のセンサスポットもサンプル物質流体に対向させられる(第2の選択)。
【0112】
この例では、流体中に取り込まれたサンプル物質は、1つの流路(12a-12h)にある行(A)より下流のすべてのセンサスポット(14)を流れる。これらのスポットは、それらの分析特性を求めて走査されることが可能である。例えば、行(B)における活性化もしくはブロックされたセンサスポット、行(C)における制御スポット、または行(D)における実際の標的タンパク質のスポットである。
【0113】
必要であると考えられる場合、運動学的なおよび親和性のより詳細な情報を得るため、表面と非特異的に結合しないサンプル物質のための濃度列の測定を行うことができる。この測定は、すすぎおよび洗浄の後に、すなわちランニングバッファが先に向かい合ったセンサスポット(14)を流れ、それに結合されるいかなるサンプル物質の残渣もセンサスポット面から除去された後に行われる。
【0114】
図4A図4Cは、図3に細線で示された第2の流路(12b)を2つの矢印方向から見た模式的な断面図であり、いくつかの手順を示す。
【0115】
図4Aは、サンプル物質流体(20)、すなわち活性薬剤または活性薬剤候補を含む適切な溶媒が、第1のサンプル物質注入口(10)から、どのようにマイクロ流体デバイスに注入されるかを示す。当該溶媒は、ランニングバッファすなわち案内流体(22)に混ぜられる。案内流体(22)は、最初のかつ最大の注入口(16)から始まり、流路(12b)の全長に沿って、後部抽出口(18)まで流れ、そこで、必要ならば排出ポンプ(図示せず)によって流体サイクルから排除される。
【0116】
ランニングバッファすなわち案内流体(22)は、平行する各流路(12a-12h)に導入され、サンプル物質流体(20)の各流路(12a-12h)間の流体学的隔離が保たれる。すなわち、サンプル物質は混ぜられることなく、流路(12a-12h)をまたいで互いに影響を及ぼすことがない。
【0117】
第1のセンサスポット(14A)の直後のサンプル物質抽出口(10*)は、この実施例において、必要な場合排出ポンプの補助によって、排出口になる。その結果、サンプル物質流体(20)は、さらに下流に位置するセンサスポット(14B-14D)と接触せずに、ここで再び、この流体サイクルから取り除かれる。
【0118】
ランニングバッファすなわち案内流体(22)のみ、流路(12b)の最後まで流れる。洗浄操作において前に残っていた物質を洗い落さない限り、これは他のセンサスポット(14A-14D)に影響を及ぼさない。
【0119】
サンプル物質抽出口(10*)は、この段階で、このように機能するのみであることを理解されたい。本方法の他の実施例において、それは、以下に説明するように、サンプル物質注入口として機能することもできる。
【0120】
この実施例では、プリズム(PR)が、センサスポットを実現するチップという形態をとる。1つの側面において、この断面図に黒線で示されるように、それは第2の流路(12b)の4つのセンサスポット(14A-14D)を含む。
【0121】
他の流路(12a、12c-12h)は、図4Aの画像平面で見て、それの前に、または、それの後に各々位置する。
【0122】
光(24a)は、プリズムを介して、センサスポット(14A-14D)上に入射する。これによりセンサスポット面から反射される光(24b)のサンプル物質への任意の非特異的な結合を検知する。
【0123】
結像法(imaging method)を用いて、流路(12a-12h)の第1の行(A)に割り当てられるすべてのセンサスポット(14A)は、非特異的な結合挙動のために、同時に分析されることができる。
【0124】
2つの基本的なシナリオ(i)(ii)がある。
【0125】
(i)第1のセンサスポット(14A)での検査
第1のセンサスポット(14A)がいかなる特別な、分析のために重要な表面被覆も有せず、非特異的な結合の徴候も示さない場合、対応する活性薬剤または活性薬剤候補は所望の方法で分析のために機能化された残りのセンサスポット面(14B-14D)に関して、その運動および/または親和性のための検査を受けることができる。
【0126】
図4Aに示される段階からの継続は、本実施例では、図4Bに図示される。この実施例では、第1のサンプル物質注入口(10)は非活性化され、第2のサンプル物質注入/抽出口(10*)が、サンプル物質抽出モードからサンプル物質注入モードへと切替えられる。後部抽出口(18)より手前にある他のサンプル物質注入/抽出口は、「使用されない」状態のままである。ランニングバッファすなわち案内流体の動きは変わらず、それは、正面の注入口(16)から後部抽出口(18)まで 全流路(12b)の中を流れる。
【0127】
サンプル物質流体(20)は、このように、センサスポット(14B-14D)に導かれ、それは、光(24a)を入射し、光学手段によってその反射光(24b)を検知することによって、運動および/または相互作用を調べるため走査される。
【0128】
図4Bに対する別の実施例として、第1のサンプル物質注入口(10)は、サンプル物質流体(20)がすべてのセンサスポット(14A-14D)に流れるように、活性化されたままであってもよい。この方法は、下流のセンサスポット(14B-14D)に有害な影響を及ぼさない。
【0129】
この光学的検知は結像法でセンサスポットの全体配列を同時に走査できる。ただし、分析に関連した情報の評価は、行(A)のセンサスポットを含む必要はない。それらは、分析に関連した内容を欠いているからである。
【0130】
(ii)第1のセンサスポット(14A)での試験は、非特異的な結合の識別を可能にする。例えば共鳴信号ユニットの最大閾値が超えられることがあれば、対応する活性薬剤または活性薬剤候補が、所望の方法で分析のために機能化された他のセンサスポット面(14B-14D)で、運動および/または親和性の学習に関していかなる有益な情報も示さないという結果をもたらす。
【0131】
この場合、その関連する流路(12b)で流体の供給を止めることが、原則としてできる。ただし、非特異的な結合の発生しない隣接する流路の試験測定は当然続けることができる。
【0132】
あるいは、「粘着性の」サンプル物質を伴う流路のすすぎサイクルを始めることもできる。その一方、他の流路では、運動および/または親和性の研究は並行して続けられる。
【0133】
この手順は、図4Cに図示される。
【0134】
サンプル物質流体(20)は、すすぎ時には、いかなる注入口(10、10*)を経ても注入されない。その代わりに、ランニングバッファすなわち案内流体(22)だけは、流路(12b)の全長にわたって流れ、このことによりいかなる結合物も取り除かれる。この種のすすぎサイクルは、本方法の他の実施例にも挿入されることができると理解されるべきである。
【0135】
図4Cの破線(26)は、センサスポット(14A-14D)がプリズム(PR)の底面に必ずしも配置される必要があるというわけではなく、別のガラス板に配置されることができるという構成を示すことを意図して描かれている。ガラス板は、プリズム(PR)の底面と、流路を形成するマイクロ流体デバイスの部分との間に配置される。
【0136】
この配置の場合、センサスポットを支持する素子にとって、それが単一の用途のための消耗する材料であるように設計されているときに、より少ない材料が用いられる。
【0137】
この場合、プリズムは、時間のかかる洗浄段階なしで、数回、用いられることが可能である。
【0138】
本発明が複数の異なる実施例に関して記載された。しかしながら、当業者は、添付された請求の範囲から逸脱しない範囲で、発明のさまざまな態様もしくは詳細が修正可能である、あるいは、異なる実施例のさまざまな態様もしくは詳細が、所望の形態で結合され得る、ことを理解するであろう。
【0139】
例えば、4つのセンサスポットより多くの数の、または4つより少ない数の流路を形成することができる。マイクロ流体デバイスの流路の数は、1から、8を超える数まで変化することもできる。
【0140】
一般に、いままで述べた説明は、例示の目的のためであり、本発明を制限するものではない。本発明は、添付した請求の範囲のみにより定義され、考えられるあらゆる均等なデザインを含む。
【符号の説明】
【0141】
LLQ:レーザ光源
AOD: 音響光学デフレクタ
PR:プリズム
HGK:高速度カメラ
PL:緩衝液
WS:活性薬剤および活性薬剤候補
LIG:リガンド
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C