(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】薬物担体の組成物、薬物担体を含む医薬組成物、ならびに、組成物の調製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/02 20060101AFI20230314BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230314BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230314BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230314BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230314BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230314BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20230314BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20230314BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230314BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230314BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230314BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230314BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/42
A61K47/38
A61P31/04
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/26
A61L27/16
A61L27/12
A61L31/16
A61P29/00
A61K39/395 N
A61K38/19
A61K38/16
A61K31/7036
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021086004
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2021-08-13
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518403296
【氏名又は名称】近鎰生技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】王 忠豪
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-195758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0076570(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0287817(US,A1)
【文献】特表2018-517527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物を調製するための方法であって、
300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウ
ムと、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を
均一に混合することによって第1混合物を調製する
工程であって、前記親水性高分子は、アルギン酸、ポリアクリル酸、および、ポリグルタミン酸(γ-PGA)の塩からなる群から選択され、前記水溶性分散剤は、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、および、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなる群から選択される、工程と、
100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩
と、を均一に混合することによって第2混合物を調製する
工程であって、前記吸水性材料は、ヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、ゼラチン、および、ポリデキストロースからなる群から選択される、工程と、
薬物と前記第1混合物とを水中で
均一に混合することによって前駆混合物を調製する工程と、
前記第2混合物と前記前駆混合物とを
均一に混合する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記リン酸三カルシウムは、α相のリン酸三カルシウムまたはβ相のリン酸三カルシウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二価カチオン塩は、塩化カルシウム(CaCl
2
)、炭酸カルシウム(CaCO
3
)、塩化バリウム(BaCl
2
)、塩化ストロンチウム(SrCl
2
)、および、塩化マグネシウム(MgCl
2
)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記薬物は、抗炎症剤または抗生物質であり、
前記抗炎症剤は、アダリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、アバタセプト、トシリズマブ、リツキシマブ、および、インフリキシマブからなる群から選択され、
前記抗生物質は、ゲンタマイシン、バンコマイシン、メズロシリン、クロキサシリン、メチシリン、セファロチン、リンコマイシン、ポリミキシンE、バシトラシン、および、フシジン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によって調製される医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2020年4月2日に出願された、米国仮出願第63/003,912号に基づく優先権を主張し、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本開示は、薬物担体および医薬組成物を調製するための組成物、ならびにその調製方法および使用方法に関する。特に、本開示は、手術部位において薬物を効果的に放出させ得る薬物担体に関する。
【背景技術】
【0003】
現在の薬物放出技術の分野における主な研究方針の1つは、期待する薬物放出効果を得るための、薬物担体の設計である。先行技術の大部分では、薬物担体の調製に、タンパク質、アミノ酸、および他のいくつかの生体高分子が用いられており、このような生体高分子は、とりわけ一般に用いられる物質である。生体高分子は、生体適合性かつ生分解性である必要がある。「生体適合性」とは、その物質が、生物学的個体に対して適合性があり、免疫拒絶や病変を引き起こさないことを意味する。併せて、使用中に心血管系の塞栓症、中毒反応、アレルギー反応、組織の破壊、および癌発生を引き起こさない。「生分解性」とは、ある物質が生物体に埋め込まれた、または生物体内で用いられたとき、その生物学的環境において、前記物質に加水分解または酸化が起こることで崩壊または分解して、他の物質を生成する現象を指す。加えて、崩壊または分解による生成物は、生物体の基本的な代謝作用によって、さらに分解し、生物体から排出し得る。生体高分子は、天然高分子と合成高分子とに分類することができる。一般的な天然高分子には、キトサン、アルギン酸、キチン、コラーゲン、ヒアルロン酸などの物質が含まれる。
【0004】
一方で、整形外科手術において、薬物放出も重要な課題である。例えば、人工関節置換手術において、術後感染の確率は約2~3%である。中でも、最も大きな術後感染の危険性は、手術による深部感染である。適切に対処しなかった場合、複数回の手術、または長期にわたる抗生物質を用いた処置が求められる。深部感染による炎症の危険性を低減するための方法としては、現在、埋め込まれた骨補填材に抗生物質を加えることで、その後、抗生物質を、埋め込まれた骨補填材を介して、深部感染が起こり得る部位に放出させる方法がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、埋め込まれた骨補填材を介して抗生物質を放出させることで深部感染による炎症の危険性を低減する場合、他の問題が生じる。それは、抗生物質を骨補填材に加えた後、骨補填材の耐久性が著しく低下してしまうことである。これによって、回復の後期において、インプラントが揺動または変位する危険性が生じる。抗生物質を加えた後に骨補填材の耐久性が低下してしまう問題を解決するための代替的な方法として、従来の注射方法を用いて抗生物質を投与するものがある。本方法では、通常、抗生物質を患者の手首の静脈に注入し、その後、全身的な血液循環によって手術部位に送達させる。しかしながら、本方法では、抗生物質を完全かつ効果的に手術部位まで送達できない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の問題に鑑み、本発明の実施形態では、第1混合物と第2混合物とを含む、薬物担体を調製するための組成物が提供される。第1混合物は、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウムと、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を含む。第2混合物は、100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、を含む。前記吸水性材料は、高い生体適合性と高い吸湿性と有し、生分解性を有する。
【0007】
上述したように薬物担体を調製するための組成物において、リン酸三カルシウムは、α相のリン酸三カルシウムまたはβ相のリン酸三カルシウムである。
【0008】
上述したように薬物担体を調製するための組成物において、水溶性分散剤は、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択される。
【0009】
上述したように薬物担体を調製するための組成物において、吸水性材料は、ヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、ゼラチン、ポリデキストロース、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択される。
【0010】
上述したように薬物担体を調製するための組成物において、二価カチオン塩は、塩化カルシウム(CaCl2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択される。
【0011】
前記および他の態様を達成するために、本発明の他の実施形態では、薬物担体を調製するための前記組成物を用いて調製した薬物担体を用いて抗炎症剤または抗生剤を調製するための医薬組成物が提供される。
【0012】
前記および他の態様を達成するために、本発明のさらに他の実施形態では、医薬組成物を調製する方法が提供される。前記方法は、以下の工程を含む。すなわち、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウムと、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を混合することによって、第1混合物を調製する。100~7200重量部の、生体適合性かつ生分解性の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、を混合することによって、第2混合物を調製する。その後、薬物と第1混合物とを水に入れて混合することによって、前駆混合物を調製する。その後、第2混合物と前駆混合物とを混合して、医薬組成物を得る。
【0013】
前記および他の態様を達成するために、本発明のさらに他の実施形態では、医薬組成物を調製する前記方法によって調製した医薬組成物が提供される。
【0014】
上述した医薬組成物において、薬物は、抗炎症剤または抗生物質であってもよい。抗炎症剤は、アダリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、アバタセプト、トシリズマブ、リツキシマブ、インフリキシマブ、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択されてもよい。抗生物質は、ゲンタマイシン、バンコマイシン、メズロシリン、クロキサシリン、メチシリン、セファロチン、リンコマイシン、ポリミキシンE、バシトラシン、フシジン酸、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上を考慮すると、前記医薬組成物を手術部位に適用した場合、その手術部位において薬物を効果的に放出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】シリンジ中の実施例1の薬物担体の外観を示す。
【
図2】倒立顕微鏡を用いて観察した、実施例1の薬物担体の粒子の分布を示す光学画像である。
【
図3】生体適合性試験における薬物担体の細胞生存率を分析した結果を示す。
【
図4A】3時間以内および180時間以内の、実験群および対照群の薬物放出率の結果をそれぞれ示す。
【
図4B】3時間以内および180時間以内の、実験群および対照群の薬物放出率の結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について詳細に記載し、その例を添付図面に示す。説明を明確にするために、以下の記載において実施の詳細を数多く説明する。しかしながら、その実施の詳細は、本発明を限定するものではないことを理解すべきである。すなわち、その実施の詳細は、本発明の実施形態によっては、必要ではない。さらに、図面を簡素化するために、従来技術の構造および要素のいくつかは、模式的に図示してある。
【0018】
薬物担体を調製するための組成物
本実施形態において、薬物担体を調製するための組成物は、第1混合物と第2混合物とを含む。前記組成物は、以下の方法で調製する。
【0019】
第1混合物は、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)と、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を含む。第2混合物は、100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、を含む。前記吸水性材料は、生体適合性かつ生分解性の材料である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、親水性高分子は、少なくとも1つのアニオン基、例えばカルボン酸基を有する。親水性高分子は、アルギン酸、ポリアクリル酸、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリグルタミン酸(γ-PGA)、またはこれらの任意の組み合わせと、一価の金属カチオン、例えばNa+またはK+と、の塩であってもよい。しかしながら、他のいくつかの本発明の実施形態において、親水性高分子は、同様の特性を有する他の親水性高分子に置き換えてもよく、前記例には限定されない。親水性高分子は、300、400、600、1000、1200、1500、1800、2000、2500、2800、3000、または3600重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、リン酸三カルシウムは、α相のリン酸三カルシウムまたはβ相のリン酸三カルシウムである。リン酸三カルシウムは、300、600、1000、1200、1500、1800、2000、2500、2800、3000、または3600重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、水溶性分散剤は、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。しかしながら、他のいくつかの実施形態において、水溶性分散剤は、同様の特性を有する他の水溶性分散剤に置き換えてもよく、前記例には限定されない。水溶性分散剤は、100、200、300、400、800、1200、1600、または1800重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、吸水性材料は、ヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、ゼラチン、ポリデキストロース、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。吸水性材料は、多量の水を吸収するものでよいだけでなく、生体適合性かつ生分解性の材料である。しかしながら、他のいくつかの実施形態において、吸水性材料は、同様の特性を有する他の吸水性材料に置き換えてもよく、前記例には限定されない。吸水性材料は、100、500、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、または7200重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、二価カチオン塩は、塩化カルシウム(CaCl2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。しかしながら、他のいくつかの実施形態において、二価カチオン塩は、同様の特性を有する他の二価カチオン塩に置き換えてもよく、前記例には限定されない。二価カチオン塩は、10、50、100、200、300、400、500、1000、1200、1600、または1800重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。二価カチオン塩の二価カチオンは、親水性高分子の塩形態の架橋剤として作用してもよい。
【0025】
他のいくつかの実施形態において、第1混合物および第2混合物は、それぞれ5,000~90,000重量部および2,000~180,000重量部の水をさらに含んでいてもよい。
【0026】
薬物担体を調製するための組成物を調製する方法
本方法において、前記第1混合物は、以下の工程で調製する。すなわち、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)と、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を水に分散させ、混合する。水溶性分散剤は、親水性高分子とリン酸三カルシウムとの均一な混合を促進し得る。混合後、親水性高分子の単一分子内および異なる親水性高分子間、ならびに親水性高分子の分子とリン酸三カルシウムのリン酸アニオンとの間に水素結合が生成し、ネットワーク構造を形成し得る。
【0027】
第1混合物の調製後、さらに、第1混合物を乾燥させて、より安定に保存できるようにしてもよい。例えば、第1混合物は、凍結乾燥によって乾燥させて、乾燥バットブロック材料としてもよい。しかしながら、第1混合物は、元の溶液の形態で保存してもよく、保存安定性が許容可能であれば、その保存形態は特に限定されない。
【0028】
前記第2混合物は、以下の工程で調製する。すなわち、100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、をそれぞれ水に溶解し、その後混合してもよい。あるいは、吸水性材料を二価カチオン塩溶液に直接溶解してもよい。
【0029】
薬物担体
いくつかの実施形態において、さらに、薬物担体を提供する。薬物担体としての組成物は、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウムと、100~1800重量部の水溶性分散剤と、100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、を含む。親水性高分子と、水溶性分散剤と、吸水性材料と、二価カチオン塩と、の詳細は上述したので、ここでは省略する。
【0030】
他のいくつかの実施形態において、薬物担体としての組成物は、7,000~270,000重量部の水をさらに含んでいてもよい。
【0031】
薬物担体を調製する方法
本方法において、前記薬物担体は、以下の工程で調製する。まず、第1混合物と第2混合物とを前記したようにそれぞれ調製する。その後、さらに、第1混合物と第2混合物とを均一に混合して、前記薬物担体を得る。これによって、第1混合物中の親水性高分子を第2混合物中の二価カチオンで架橋して、ゲル形態の薬物担体を生成する。
【実施例】
【0032】
薬物担体を調製する実施例1~3
これらの実施例において、組成の異なる複数の薬物担体を、薬物担体を調製する前記方法で、前記したように調製した。
【0033】
実施例1~3の第1混合物において、親水性高分子はアルギン酸であり、水溶性分散剤はメチルセルロースであった。実施例1~3におけるアルギン酸とリン酸三カルシウムとメチルセルロースとの混合比は、下の表1に示すとおりである。よって、アルギン酸とリン酸三カルシウムとメチルセルロースとを表1に示す比率でまず水に分散させ、その後混合して、実施例1~3の第1混合物をそれぞれ調製した。
【0034】
【0035】
実施例1~3の第2混合物において、吸水性材料はヒアルロン酸ナトリウムであり、二価カチオン塩は濃度30mg/mLを有する、水溶液形態の塩化カルシウムであった。ヒアルロン酸ナトリウムと塩化カルシウムとの混合比は、下の表2に示すとおりである。よって、表2に示す比率でヒアルロン酸ナトリウムを塩化カルシウム水溶液に溶解して、実施例1~3の第2混合物をそれぞれ調製した。
【0036】
【0037】
最後に、実施例1~3において、第1混合物と第2混合物とをそれぞれ均一に混合して、ゲル形態の薬物担体を得た。
【0038】
図1に、シリンジ中の実施例1の薬物担体の外観を示す。
図1において、実施例1で調製した薬物担体は、乳白色のゲルの形態であった。実施例2および実施例3で調製した薬物担体の外観は、実施例1で調製した薬物担体の外観と同様であった。
【0039】
図2は、倒立顕微鏡(ニコン製、ECLIPSE Ts2)を用い、接眼レンズを10倍、対物レンズを20倍の倍率で観察した、実施例1の薬物担体の粒子の分布を示す光学画像である。
図2において、実施例1の薬物担体の粒子は、均一に分散した状態であった。
【0040】
薬物担体としての組成物の生体適合性試験
まず、ゲル形態の実施例1~3の薬物担体を上述の調製方法でそれぞれ調製した。
【0041】
その後、6ウェルプレートを4つ準備した。各6ウェルプレートの3つのウェルに、培地中にNIH/3T3細胞を含んだ細胞培養液2mlを加えた。培地はDMEM培地であり、NIH/3T3細胞の濃度は1×105細胞/mlであった。
【0042】
次に、第1、第2、および第3の各6ウェルプレートの3つのウェルに、実施例1、2、および3の薬物担体20μLをそれぞれ加えた。薬物担体を加えた第1、第2、および第3の6ウェルプレートを、それぞれ実験群1、2、および3とした。第4のプレートの3つのウェルにはいずれの薬物担体も加えず、第4のプレートを対照群とした。
【0043】
【0044】
最後に、実験群1~3および対照群の6ウェルプレートを細胞培養器内に配置し、37℃で48時間培養した。実験群1~3および対照群の各ウェルから、24時間後および48時間後に、細胞培養液を100μl採取した。採取した実験群1~3および対照群の細胞培養液に対して、テトラメチルアゾリウム塩溶液(MTT、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を用いてMTT試験を行なった。MTT試験の結果に基づいて、実験群1~3および対照群の平均細胞生存率を算出した。
【0045】
図3に、生体適合性試験における薬物担体の細胞生存率を分析した結果を示す。
図3に示すように、24時間または48時間の培養後、実験群1~3の細胞数は、対照群の細胞数よりも多かった。24時間後の細胞数と比較して、48時間後の細胞数は実験群1~3のすべてにおいて減少していたが、これは細胞濃度が上がることで培養環境が悪化したためであった。以上の結果から、実施例1~3の薬物担体は、生体適合性が高く、毒性がないだけではなく、細胞増殖を促進し得ることが分かる。
【0046】
医薬組成物を調製する方法
いくつかの実施形態において、さらに、医薬組成物を提供する。医薬組成物は、以下の方法で調製する。医薬組成物は、前記薬物担体としての組成物と、薬物と、を含む。
【0047】
まず、前記第1混合物を、300~3600重量部の親水性高分子と、300~3600重量部のリン酸三カルシウムと、100~1800重量部の水溶性分散剤と、を混合することによって調製する。
【0048】
次に、前記第2混合物を、100~7200重量部の吸水性材料と、10~1800重量部の二価カチオン塩と、を混合することによって調製する。
【0049】
その後、薬物と第1混合物とを水に入れて混合することによって、前駆混合物を調製する。
【0050】
最後に、第2混合物と前駆混合物とを混合して、医薬組成物を生成する。
【0051】
薬物は、最初に第1混合物と混合することで、より効果的に組み込むようにしているが、薬物は、第1混合物と第2混合物との両方と同時に混合してもよい。したがって、混合する順序は、前記方法の順序には限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記薬物は、抗炎症剤または抗生物質であってもよい。抗炎症剤は、アダリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、アバタセプト、トシリズマブ、リツキシマブ、インフリキシマブ、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。抗生物質は、ゲンタマイシン、バンコマイシン、メズロシリン、クロキサシリン、メチシリン、セファロチン、リンコマイシン、ポリミキシンE、バシトラシン、フシジン酸、およびこれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択される。しかしながら、他のいくつかの実施形態において、薬物は、同様の特性を有する他の薬物に置き換えてもよく、前記例には限定されない。薬物は、30~300重量部、例えば、80~200重量部であってもよい。例えば、薬物は、30、40、60、80、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、または300重量部であってもよいが、これらの特定の値には限定されない。
【0053】
第1混合物中の親水性高分子とリン酸三カルシウムとが水素結合によってネットワーク構造を形成するので、そのネットワーク構造内に薬物を分散し、絡ませることができる。加えて、第2混合物中の二価カチオン塩からの二価カチオンが親水性高分子を架橋して医薬組成物をゲル形態とするので、薬物を薬物担体のネットワーク構造により効果的に保持することができる。これによって、薬物を薬物担体によって担持させ、体内で放出させることができる。
【0054】
医薬組成物の薬物放出率試験
本試験において、総量3mlの第1および第2混合物の溶液(アルギン酸ナトリウム:リン酸三カルシウム:メチルセルロース:ヒアルロン酸ナトリウム:塩化カルシウム=36:36:15:80:20(重量比))と、50mgのゲンタマイシンと、を混合して、ゲンタマイシンを含有する医薬組成物を実験群として調製した。その後、ゲンタマイシンを含有する医薬組成物を透析袋内に配置した。併せて、50mgのゲンタマイシンを3mlの水に溶解し、対照群とした。
【0055】
次に、500mlビーカー2つに、それぞれ200mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えた。実験群および対照群として調製した溶液をそれぞれ透析袋内に配置し、その透析袋をPBS溶液内に配置した。その後、透析袋とPBS溶液との入ったビーカーを、37℃でわずかに振とうさせて、薬物を透析袋からPBS溶液に放出させた。薬物放出期間中、実験群および対照群のPBS溶液を、振とう開始時から15分後、30分後、45分後、60分後、75分後、90分後、105分後、120分後、150分後、180分後、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、および7日後に採取した。ビーカー中の採取したPBS溶液は1mLであり、1mLの新鮮なPBS溶液を、採取後のビーカーに加えた。透析袋からPBS溶液に放出したゲンタマイシンの濃度を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって分析した。
【0056】
図4Aおよび
図4Bに、3時間以内および180時間以内の、実験群および対照群の薬物放出率の結果をそれぞれ示す。
図4Aに示すように、最初の3時間以内では、対照群の薬物放出速度は、実験群の薬物放出速度よりも大幅に速かった。最初の3時間では、最初の3時間内での実験群におけるゲンタマイシンの放出速度は相当に遅かった。
【0057】
図4Bに示すように、180時間以内では、対照群の薬物放出率は、実験群の薬物放出率よりもやはり大幅に高かった。対照群では、PBS溶液に放出されたゲンタマイシンの累積放出量は、30時間が経過する前にほぼ100%に達した。実験群では、PBS溶液に放出されたゲンタマイシンの累積放出量は、70時間が経過した後に、約80%にゆっくりと達した。以上の結果から、本実施形態の医薬組成物は、体内での薬物の放出時間および滞留時間を長くすることができる。
【0058】
以上を考慮すると、前記薬物担体を含む医薬組成物は、人体の必要な部位に局所的に適用してよく、例えば、患者の手術で影響を受けた部位に適用局所的に適用して、医薬組成物中の薬物を、人体の必要な部位に比較的長い期間にわたってゆっくりと放出させることができる。したがって、従来の注射方法と比較して、人体の必要な部位における薬物の効果を、人体の必要な部位の周囲の他の部位に影響を与えることなく、比較的長い期間にわたって著しく増大させることができる。人体の必要な部位の周囲の他の部位は、例えば、骨組織内の、人工装具を埋め込んだ部位であってもよい。このように、前記医薬組成物は、人体に対する安全性がより高い。
【0059】
前記医薬組成物は、整形外科手術を受けている患者の、影響を受けた部位に直接適用することもできることに加え、埋め込み型の医療機器、例えば、整形外科手術で用いる、埋め込み型の人工装具、金属製インプラント材、埋め込み型の固定医療機器、などの表面を医薬組成物で被覆してもよい。前記の医療機器は、以下の工程を含む方法で、医薬組成物によって被覆することができる。すなわち、医療機器を前記医薬組成物に浸漬し、その後、親水性高分子の架橋度を向上させるために、二価カチオン塩、例えば塩化カルシウムの溶液10~30mg/mLに浸漬することができる。これによって、医療機器の表面を被覆した医薬組成物の硬度をさらに向上させることができる。
【0060】
さらに、薬物担体の吸水性材料は生分解性であり、薬物担体の他の成分は生体適合性を有するので、薬物担体は、人体の健康に影響を与えることなく、一定期間内に、体内で分解され、体外に排出され得る。
【0061】
上の記載では本発明を好適な実施形態に基づいて説明したが、前記実施形態は、本発明について説明することのみを意図しており、本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではないことを、当業者は理解すべきである。本実施形態と等価の変更および代替はすべて本発明の範囲に含まれるべきであることに留意すべきである。したがって、本発明が保護する範囲は、特許出願の範囲によって規定されるべきである。