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特許7244715耐久性に優れた熱延鋼板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】耐久性に優れた熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230315BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230315BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 301Z
C22C38/38
C21D9/46 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020533705
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 KR2018013951
(87)【国際公開番号】W WO2019124747
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2017-0177515
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ナ、 ヒュン-テク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ソク-ジョン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-270171(JP,A)
【文献】特開2013-040380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46-9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.05~0.14%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):1.0~1.8%、リン(P):0.001~0.03%、硫黄(S):0.001~0.01%、可溶アルミニウム(Sol.Al):0.2~0.4%、クロム(Cr):0.4~0.8%、チタン(Ti):0.01~0.05%、ニオブ(Nb):0.03~0.06%、バナジウム(V):0.04~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
前記MnとSiは下記関係式1を満たし、
織が面積分率60~85%のフェライト相を基地組織として、マルテンサイト相とベイナイト相で構成された硬質相を混合して含み、
前記硬質相の全体分率(面積分率)のうち、一つの結晶粒(single grain)内に前記マルテンサイト相とベイナイト相が混在する結晶粒の分率が60%以上であり、下記関係式2を満たし、
前記フェライト相は、粒内に下記関係式3を満たすように(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物を含む、耐久性に優れた熱延鋼板。
[関係式1]
4<Mn/Si<12
(ここで、MnとSiは、各元素の重量含量を意味する。)
[関係式2]
SSGM+B/(M+B+SSGM+B)≧0.6
(ここで、Mはマルテンサイト相、Bはベイナイト相を意味し、SSGM+Bは一つの結晶粒内のB相とM相が混在する硬質相であって、粒界の周辺にM相が存在し、中心領域にはB相が存在する組織を意味する。そして、それぞれの相は面積分率(%)を意味する。)
[関係式3]
PN20×(PN20+PN50+PN100)-1≧0.65
(ここで、PN20は、透過顕微鏡で観察される直径が0nm超過20nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN50は、透過顕微鏡で観察される直径が20nm超過50nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN100は、透過顕微鏡で観察される直径が50nm超過100nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数である。)
【請求項2】
前記熱延鋼板は、590MPa以上の引張強度を有し、降伏比(YR=YS/TS)が0.65~0.85である、請求項1に記載の耐久性に優れた熱延鋼板。
【請求項3】
前記熱延鋼板は、フェライト相と硬質相間の硬度差(ΔHv)が15以下であり、耐久疲労寿命が60(×万サイクル)以上である、請求項1又は2に記載の耐久性に優れた熱延鋼板。
【請求項4】
重量%で、炭素(C):0.05~0.14%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):1.0~1.8%、リン(P):0.001~0.03%、硫黄(S):0.001~0.01%、可溶アルミニウム(Sol.Al):0.2~0.4%、クロム(Cr):0.4~0.8%、チタン(Ti):0.01~0.05%、ニオブ(Nb):0.03~0.06%、バナジウム(V):0.04~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、前記MnとSiは下記関係式1を満たす鋼スラブを1180~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブをAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を550~750℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で1次冷却する段階と、
前記1次冷却後に下記関係式4を満たす範囲内で0.05~2.0℃/sの冷却速度で冷却する2次冷却段階と、
前記2次冷却後に常温~400℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で3次冷却する段階と、
前記3次冷却後に巻き取る段階と、を含み、
織が面積分率60~85%のフェライト相を基地組織として、マルテンサイト相とベイナイト相で構成された硬質相を混合して含み、
前記硬質相の全体分率(面積分率)のうち、一つの結晶粒(single grain)内に前記マルテンサイト相とベイナイト相が混在する結晶粒の分率が60%以上であり、下記関係式2を満たし、
前記フェライト相は、粒内に下記関係式3を満たすように(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物を含む、耐久性に優れた熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
4<Mn/Si<12
(ここで、MnとSiは、各元素の重量含量を意味する。)
[関係式2]
SSGM+B/(M+B+SSGM+B)≧0.6
(ここで、Mはマルテンサイト相、Bはベイナイト相を意味し、SSGM+Bは一つの結晶粒内のB相とM相が混在する硬質相であって、粒界の周辺にM相が存在し、中心領域にはB相が存在する組織を意味する。そして、それぞれの相は面積分率(%)を意味する。)
[関係式3]
PN20×(PN20+PN50+PN100)-1≧0.65
(ここで、PN20は、透過顕微鏡で観察される直径が0nm超過20nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN50は、透過顕微鏡で観察される直径が20nm超過50nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN100は、透過顕微鏡で観察される直径が50nm超過100nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数である。)
[関係式4]
|t-ta|≦2
(ここで、ta=251+(109[C])+(10.5[Mn])+(22.7[Cr])-(6.1[Si])-(5.4[Sol.Al])-(0.87Temp)+(0.00068Temp)であり、ここで、tは2次冷却保持時間(秒、sec)、taは最適な相分率を確保するための2次冷却保持時間(秒、sec)、Tempは2次冷却中間温度であって、2次冷却の開始時点と終了時点との間の中間点の温度を意味する。そして、各合金成分は重量含量を意味する。)
【請求項5】
前記仕上げ熱間圧延は、Ar3~1000℃の温度範囲で行う、請求項4に記載の耐久性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱延鋼板を電気抵抗溶接して製造された、耐久性に優れた電縫鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシ部品などに使用される鋼に関するものであって、より詳細には、耐久性に優れた電縫鋼管用熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業界では、地球環境の保全のための燃費規制と搭乗者の衝突安全性を確保するために、相対的に低コストで燃費と衝突安全性を同時に確保できる高強度鋼材の採用が増加している。このような軽量化への動きは、車体だけでなく、シャーシ部品でも同様になされている。
【0003】
一般に、車体用鋼材に求められる物性としては、強度及び成形のための伸び率、そして、組み立てに必要な点溶接性(spot weldability)などがある。
【0004】
一方、シャーシ部品用鋼材には、部品の特性上、強度及び成形のために必要とされる伸び率のほかに、部品の組み立て時に適用されるアーク溶接性と、部品の耐久品質を確保するための疲労特性とが求められる。
【0005】
特に、シャーシ部品のうち、CTBA(Coupled Torsion Beam Axle)のような部品では、剛性と軽量化を同時に確保するために、中空型パイプを成形して使用しており、更なる軽量化のために、素材の高強度化も行われている。
【0006】
このようにパイプ部材として使用される素材は、電気抵抗溶接によってパイプを製造するのが一般的であるため、電気抵抗溶接性とともに、造管時における素材のロールフォーミング性、そして、パイプに造管した後の冷間成形性が非常に重要となる。したがって、このような素材が有するべき物性としては、電気抵抗溶接時における溶接部の健全性の確保が非常に重要である。その理由は、電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管)の成形時に、歪みにより母材に比べて溶接部や溶接熱影響部に大部分の破断が集中するためである。
【0007】
素材を造管するとき、ロールフォーミング性を良好にするためには、素材の降伏比ができるだけ低い方が有利であるが、上記素材が高強度鋼材である場合、降伏強度が高く、降伏比が高くなると、ロールフォーミング(roll forming)時にスプリングバック(spring back)が激しくなり、真円度を確保しにくくなるという問題がある。
【0008】
そして、最終的にパイプを用いて冷間成形を行うためには、素材の伸び率を確保する必要もあるが、これを満たすためには、基本的に、低降伏比を有しながら、伸び率に優れた鋼材が求められる。
【0009】
従来の中空型パイプ用熱延鋼板は、通常、フェライト-マルテンサイトの二相複合組織鋼であり、マルテンサイト変態時に導入される可動転位により連続降伏挙動と低い降伏強度特性が発揮され、伸び率に優れた特性を有する。
【0010】
このような物性を確保するために、従来は、熱間圧延後の冷却時にフェライト分率を安定して確保する目的で、鋼中にSiを多く含有する成分系によって制御していた。しかしながら、電気抵抗溶接方法でパイプを製造する場合、Si酸化物が溶融部に多く生成され、溶接部にペネトレータ(penetrator)欠陥を誘発するという問題が発生するようになる。そして、フェライト変態の後、マルテンサイト変態開始温度(Ms)以下に急冷してマルテンサイトを得るようになるが、このとき、残留相(phase)が純粋なマルテンサイトのみで構成されると、溶接時に熱によって強度が著しく低下するという問題がある。特に、溶接熱影響部の硬度低下(ΔHv)が30を超えて発生するようになる。
【0011】
また、フェライト-マルテンサイト組織は、低い降伏比を有する上では有利な点があるが、二つの相(phase)間の高い硬度差により相間の境界で微細クラック(micro crack)が発生し易いため、耐久性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2000-063955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一側面は、電気抵抗溶接時に形成される溶接熱影響部(HAZ)の強度の低下が素材(母材)強度に比べて少なく、パイプ造管及び成形後にも素材と溶接熱影響部でクラック発生がしない、耐久性に優れた熱延鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.05~0.14%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.001~0.03%、硫黄(S):0.001~0.01%、可溶アルミニウム(Sol.Al):0.1~0.5%、クロム(Cr):0.3~1.0%、チタン(Ti):0.01~0.05%、ニオブ(Nb):0.03~0.06%、バナジウム(V):0.04~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、上記MnとSiは下記関係式1を満たし、
微細組織がフェライト相を基地組織として、マルテンサイト相とベイナイト相で構成された硬質相を混合して含み、上記硬質相の全体分率(面積分率)のうち、一つの結晶粒(single grain)内に上記マルテンサイト相とベイナイト相が混在する結晶粒の分率が60%以上であり、下記関係式2を満たすことを特徴とする、耐久性に優れた熱延鋼板を提供する。
【0015】
[関係式1]
4<Mn/Si<12
(ここで、MnとSiは、各元素の重量含量を意味する。)
【0016】
[関係式2]
SSGM+B/(M+B+SSGM+B)≧0.6
(ここで、Mはマルテンサイト相、Bはベイナイト相を意味し、SSGM+Bはsingle grain内のB相とM相が混在する硬質相であって、粒界の周辺にM相が存在し、中心領域にはB相が存在する組織を意味する。そして、それぞれの相は面積分率(%)を意味する。)
【0017】
本発明の他の一側面は、上述の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1180~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、上記再加熱された鋼スラブをAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を550~750℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で1次冷却する段階と、上記1次冷却後に下記関係式4を満たす範囲内で0.05~2.0℃/sの冷却速度で冷却する2次冷却段階と、上記2次冷却後に常温~400℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で3次冷却する段階と、上記3次冷却後に巻き取る段階と、を含む、耐久性に優れた熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0018】
[関係式4]
|t-ta|≦2
(ta=251+(109[C])+(10.5[Mn])+(22.7[Cr])-(6.1[Si])-(5.4[Sol.Al])-(0.87Temp)+(0.00068Temp )であり、ここで、tは2次冷却保持時間(秒、sec)、taは最適な相分率を確保するための2次冷却保持時間(秒、sec)、Tempは2次冷却中間温度であって、2次冷却の開始時点と終了時点との間の中間点の温度を意味する。そして、各合金成分は重量含量を意味する。)
【0019】
本発明のさらに他の一側面は、上述の熱延鋼板を電気抵抗溶接して製造された、耐久性に優れた電縫鋼管を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、引張強度590MPa以上の高強度を有する熱延鋼板を提供することができ、上記熱延鋼板の電気抵抗溶接時に溶接熱影響部の強度軟化現象が最小化する効果が得られる。
【0021】
また、溶接後のパイプ造管及び成形後にも、素材や溶接熱影響部においてクラックが発生せず、優れた耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】EPMA(Electro Probe X-ray Micro Analyzer)を用いて、本発明の一実施例による発明例5の全硬質相内の面積比で60%を占める組織の形状を観察した写真(a)と上記組織の区間別に測定された炭素(C)含量の分布(b)を示したものである。
図2】本発明の一実施例による発明例5(a)と比較例14(b)のフェライト相の観察写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、降伏比が0.85未満に制御されることで、造管のためのロールフォーミング成形が容易であり、造管後の成形時に鋼板の厚さ方向に均一な加工硬化現象を伴うとともに、電気抵抗溶接の熱影響部の硬度低下が少なく、耐久性に優れた590MPa級の強度を有する熱延鋼板を製造するために鋭意研究した。
【0024】
その結果、鋼材の合金組成及び製造条件を最適化することにより、上述の物性確保に有利な微細組織を形成することで、高強度を有しながらも、耐久性に優れた熱延鋼板を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明の一側面による耐久性に優れた熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05~0.14%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.001~0.03%、硫黄(S):0.001~0.01%、可溶アルミニウム(Sol.Al):0.1~0.5%、クロム(Cr):0.3~1.0%、チタン(Ti):0.01~0.05%、ニオブ(Nb):0.03~0.06%、バナジウム(V):0.04~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%を含むことが好ましい。
【0027】
以下では、本発明で提供する熱延鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。このとき、特に言及しない限り、各元素の含量は重量%である。
【0028】
C:0.05~0.14%
炭素(C)は、鋼を強化するのに最も経済的かつ効果的な元素であり、その添加量が増加すると、フェライト、ベイナイト、及びマルテンサイトで構成される複合組織鋼において、ベイナイト、マルテンサイトのような低温変態相の分率が増加して引張強度が向上する。
【0029】
本発明では、上記Cの含量が0.05%未満であると、熱間圧延後の冷却中に低温変態相の形成が容易でなく、目標水準の強度が確保できなくなる。一方、その含量が0.14%を超えると、強度が過度に上昇し、溶接性、成形性、及び靭性が低下するという問題点がある。
【0030】
したがって、本発明では、上記Cの含量を0.05~0.14%に制御することが好ましく、より好ましくは0.07~0.13%に制御することができる。
【0031】
Si:0.1~1.0%
シリコン(Si)は、溶鋼を脱酸させるとともに、固溶強化効果があり、フェライト安定化元素として熱間圧延後の冷却中にフェライト変態を促進するという効果がある。したがって、フェライト、ベイナイト、及びマルテンサイト複合組織鋼の基地を構成するフェライト分率の増大に効果的な元素である。
【0032】
このようなSiの含量が0.1%未満であると、フェライト安定化効果が少なく、基地組織をフェライト組織として形成しにくくなる。一方、その含量が1.0%を超えると、熱間圧延時、鋼板の表面にSiによる赤スケールが形成されることで、鋼板の表面品質が非常に悪くなるだけでなく、延性と電気抵抗溶接性も低下するという問題点がある。
【0033】
したがって、本発明では、上記Siの含量を0.1~1.0%に制御することが好ましく、より好ましくは0.15~0.8%に制御することができる。
【0034】
Mn:0.8~1.8%
マンガン(Mn)は、上記Siと同様に、鋼を固溶強化させるのに効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させることで、熱間圧延後の冷却中にベイナイト相又はマルテンサイト相の形成を容易にする。
【0035】
しかしながら、その含量が0.8%未満であると、上述した効果が十分に得られない。一方、その含量が1.8%を超えると、フェライト変態を過度に遅らせ、フェライト相の適正な分率を確保しにくくなり、連鋳工程におけるスラブ鋳造時に厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、最終製品の電気抵抗溶接性を損なわせるという問題点がある。
【0036】
したがって、本発明では、上記Mnの含量を0.8~1.8%に制御することが好ましく、より好ましくは1.0~1.75%に制御することが有利である。
【0037】
P:0.001~0.03%
リン(P)は、鋼中に存在する不純物であり、その含量が0.03%を超えると、マイクロ偏析によって延性が低下し、鋼の衝撃特性が低下する。但し、上記Pの含量を0.001%未満にして製造するためには、製鋼操業時に時間が過度にかかり、生産性が大きく低下するという問題がある。
【0038】
したがって、本発明では、上記Pの含量を0.001~0.03%に制御することが好ましい。
【0039】
S:0.001~0.01%
硫黄(S)は、鋼中に存在する不純物であり、その含量が0.01%を超えると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成するため、鋼の靭性を大きく低下させるという問題点がある。但し、上記Sの含量を0.001%未満にして製造するためには、製鋼操業時に時間が過度にかかり、生産性に劣るという問題がある。
【0040】
したがって、本発明では、上記Sの含量を0.001~0.01%に制御することが好ましい。
【0041】
Sol.Al:0.1~0.5%
可溶アルミニウム(Sol.Al)は、フェライト安定化元素であり、熱間圧延後の冷却中にフェライト相の形成に有効な元素である。
【0042】
このようなSol.Alの含量が0.1%未満であると、その添加効果が不十分であるため高強度鋼材の延性確保が困難になるという問題がある。一方、その含量が0.5%を超えると、連続鋳造時にスラブに欠陥が発生しやすく、熱延後に表面欠陥が発生して表面品質が低下するという問題がある。
【0043】
したがって、本発明では、上記Sol.Alの含量を0.1~0.5%に制御することが好ましく、より好ましくは0.2~0.4%に制御することができる。
【0044】
Cr:0.3~1.0%
クロム(Cr)は、鋼を固溶強化させるとともに、Mnと同様に、冷却時にフェライト相変態を遅らせてマルテンサイトの形成を有利にする役割を果たす。
【0045】
このようなCrの含量が0.3%未満であると、上述の効果が十分に得られない。一方、その含量が1.0%を超えると、フェライト変態を過度に遅らせ、必要以上にベイナイト相又はマルテンサイト相のような低温変態相の分率が増加して伸び率が急激に減少するという問題がある。
【0046】
したがって、本発明では、上記Crの含量を0.3~1.0%に制御することが好ましく、より好ましくは0.4~0.8%に制御することができる。
【0047】
Ti:0.01~0.05%
チタン(Ti)は、連鋳時に窒素(N)と結合して粗大な析出物を形成し、熱間圧延工程のための再加熱時にその一部は再固溶されず、素材中に残るようになるが、上記再固溶されていない析出物は溶接時にも融点が高くて再固溶されないため、溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制する役割を果たす。また、再固溶されたTiは、熱間圧延後に冷却過程中の相変態過程で微細に析出し、鋼の強度を大きく向上させる効果がある。
【0048】
上述の効果を十分に得るためには、Tiを0.01%以上含有することが好ましいが、その含量が0.05%を超えると、微細析出した析出物により鋼の降伏比が高くなって造管時のロールフォーミングを困難にするという問題がある。
【0049】
したがって、本発明では、上記Tiの含量を0.01~0.05%に制御することが好ましい。
【0050】
Nb:0.03~0.06%
ニオブ(Nb)は、炭窒化物形態の析出物を形成して強度を向上させる役割をする元素であり、特に、熱間圧延後に冷却過程中の相変態過程でフェライト粒内に微細に析出した析出物は、鋼の強度を大きく向上させる。
【0051】
このようなNbの含量が0.03%未満の場合、十分な析出効果が確保できない。一方、その含量が0.06%を超える場合、過度な析出により鋼の降伏比が高くなり、過度に伸びた組織が形成されるため、造管性に劣るようになる。
【0052】
したがって、本発明では、上記Nbの含量を0.03~0.06%に制御することが好ましい。
【0053】
V:0.04~0.1%
バナジウム(V)は、炭窒化物形態の析出物を形成して強度を向上させる役割をする元素であり、特に、熱間圧延後に冷却過程中の相変態過程でフェライト粒内に微細に析出した析出物は、鋼の強度を大きく向上させる。
【0054】
このようなVの含量が0.04%未満であると、十分な析出効果が得られない。一方、その含量が0.1%を超えると、過度な析出により降伏比が高くなり、造管時にロールフォーミングを困難にするため、好ましくない。
【0055】
したがって、本発明では、上記Vの含量を0.04~0.1%に制御することが好ましい。
【0056】
N:0.001~0.01%
窒素(N)は、上記Cとともに代表的な固溶強化元素であり、Ti、Alなどと共に粗大な析出物を形成する。
【0057】
一般にNの固溶強化効果はCより優れているが、鋼中にNの量が増加するほど、靭性が大きく低下するという問題があるため、本発明では、上記Nの上限を0.01%に制限することが好ましい。但し、このようなNの含量を0.001%未満にして製造するためには、製鋼操業時に時間が過度にかかり、生産性が低下するようになる。
【0058】
したがって、本発明では、上記Nの含量を0.001~0.01%に制御することが好ましい。
【0059】
本発明では、上述の含量に制御されるマンガン(Mn)とシリコン(Si)は、下記関係式1を満たすことが好ましい。
【0060】
[関係式1]
4<Mn/Si<12
(ここで、MnとSiは、各元素の重量含量を意味する。)
【0061】
上記関係式1の値が4以下又は12以上であると、電縫鋼管として製造する際、溶接部にSi酸化物又はMn酸化物が過剰に生成されて、ペネトレータ(penetrator)欠陥の発生率が増加するため、好ましくない。これは、電縫鋼管の製造時に、溶融部に発生する酸化物の融点が高くなって、圧着排出する過程で溶接部内に残存する確率が上昇するためである。
【0062】
したがって、本発明では、上述の含量範囲を満たすと同時に、関係式1を満たすことが好ましい。
【0063】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程においては、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書ではその全ての内容について特に言及しない。
【0064】
上述の合金組成及び関係式1を満たす本発明の熱延鋼板は、微細組織がフェライト相を基地組織として、マルテンサイト及びベイナイトで構成された硬質相を複合して含むことが好ましい。
【0065】
このとき、上記フェライト相は、面積分率で60~85%含まれることが好ましい。仮に上記フェライト相の分率が60%未満であると、鋼の伸び率が急激に減少する可能性がある。一方、85%を超えると、相対的に硬質相(ベイナイト、マルテンサイト)の分率が減少して目標とする強度が確保できなくなる。
【0066】
そして、本発明は、上記硬質相内にマルテンサイト(M)相とベイナイト(B)相が混在する結晶粒、すなわち、旧オーステナイト結晶粒内にM相とB相が存在する結晶粒を含むことが好ましい。このような結晶粒は全硬質相の分率(面積分率)のうち、60%以上含むことがより好ましい。上記硬質相内にM相とB相が混在する結晶粒を除く残りは、マルテンサイト単相及び/又はベイナイト単相組織である。
【0067】
図面を参照して説明すると、図1は、本発明の一実施例による発明鋼の組織写真(a)、具体的に全硬質相内の面積比で60%以上を占める組織の結晶粒と、その結晶粒の区間ごとの炭素含量を測定した結果(b)であって、上記結晶粒の粒界周辺の炭素含量と中心領域の炭素含量との差があることが確認できる。これは、マルテンサイト相とベイナイト相が混在する一つの結晶粒(single grain)内で粒界の周辺にはマルテンサイト相が、その中心にはベイナイト相が存在することを意味する。
【0068】
上記のように本発明は、既存のDP鋼とは差別的に、相対的に熱的安定性に優れたベイナイト相を十分に確保することにより、電気抵抗溶接後に溶接熱影響部における強度の軟化現象を最小化することができる。同時に、低降伏比を実現することにより、電縫鋼管の造管性を良好にするという利点がある。
【0069】
本発明の一側面において、粒界の周辺にはマルテンサイト相、中心領域にはベイナイト相が存在する組織相に対してSSGM+Bと定義し、上記SSGM+Bとベイナイト(B)及びマルテンサイト(M)相間の分率は、下記関係式2を満たすことが好ましい。
【0070】
具体的には、下記関係式2で表される硬質相間の分率関係が0.6未満であると、結晶粒内にベイナイト相とマルテンサイト相が混在する相(SSGM+B)の分率が減少して、電気抵抗溶接時に形成される溶接熱影響部の強度の低下幅が増加するという問題がある。
【0071】
[関係式2]
SSGM+B /(M+B+SSGM+B)≧0.6
(ここで、Mはマルテンサイト相、Bはベイナイト相を意味し、SSGM+Bはsingle grain内にB相とM相が混在する硬質相であって、粒界の周辺にM相が存在し、中心領域にはB相が存在する組織を意味する。そして、それぞれの相は面積分率(%)を意味する。)
【0072】
一方、本発明の熱延鋼板を構成するフェライト相の粒内には、下記関係式3を満たすように(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物を含むことが好ましい。
【0073】
本発明は、下記関係式3を満たすようにフェライト粒内に(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物を形成することにより、フェライトと硬質相の境界付近における微細クラックの発生を抑制することができ、これにより熱延鋼板の造管及び成形後、優れた耐久性を確保する効果がある。
【0074】
[関係式3]
PN20×(PN20+PN50+PN100) -1 ≧0.65
(PN20は、透過顕微鏡(TEM)で観察される直径(円相当基準)が0nm超過20nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN50は、透過顕微鏡で観察される直径(円相当基準)が20nm超過50nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数であり、PN100は、透過顕微鏡で観察される直径(円相当基準)が50nm超過100nm以下である、熱延鋼板組織内の(Ti、Nb)C系及び/又は(V、Nb)C系析出物の個数である。)
【0075】
上述のように、合金組成、関係式1及び微細組織をいずれも満たす本発明の熱延鋼板は、590MPa以上の引張強度を有し、0.65~0.85の降伏比(YR=YS/TS)が得られる。
【0076】
さらに、本発明の熱延鋼板は、フェライト相と硬質相間のビッカース硬度差(ΔHv)が15以下であり、耐久疲労寿命が60(×万サイクル)以上確保されることで、優れた耐久性を確保することができる。
【0077】
以下、本発明の他の一側面である、本発明で提供する耐久性に優れた熱延鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0078】
簡略に、本発明は、[鋼スラブ再加熱-熱間圧延-1次冷却-2次冷却-3次冷却-巻取]工程を経て目標とする熱延鋼板を製造することができ、各段階別の条件については、下記で詳細に説明する。
【0079】
[再加熱段階]
まず、上述の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを準備した後、これを1180~1300℃の温度範囲で再加熱することが好ましい。
【0080】
上記再加熱温度が1180℃未満であると、スラブの熟熱が不足して、後続する熱間圧延時に温度の確保に困難があり、連鋳時に発生した偏析を拡散によって解消しにくくなる。また、連鋳時に析出した析出物が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程において析出強化効果が得られ難い。一方、その温度が1300℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長によって強度が低下し、組織不均一が助長されるという問題がある。
【0081】
したがって、本発明では、上記鋼スラブの再加熱時に1180~1300℃で行うことが好ましい。
【0082】
[熱間圧延段階]
上記によって再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造することが好ましい。このとき、仕上げ熱間圧延は、Ar3(フェライト相変態開始温度)以上であることが好ましい。
【0083】
仮に、上記仕上げ熱間圧延時に温度がAr3未満であると、フェライト変態後に圧延が行われ、目標とする組織と物性を確保することが難しい。一方、その温度が1000℃を超える場合、表面にスケール性の欠陥が増加するという問題がある。
【0084】
したがって、本発明では、上記仕上げ熱間圧延時にAr3~1000℃を満たす温度範囲で行うことが好ましい。
【0085】
[1次冷却段階]
上記によって熱間圧延して得られた熱延鋼板を冷却することが好ましいが、このとき、冷却は段階的に行うことが好ましい。
【0086】
まず、上記熱延鋼板を550~750℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で1次冷却を行うことが好ましい。
【0087】
上記1次冷却が終了する温度が550℃未満であると、鋼中の微細組織がベイナイト相を主に含むようになって、フェライト相を基地組織として得られなくなるため、十分な伸び率と低降伏比を確保することができない。一方、その温度が750℃を超えると、粗大なフェライト組織とパーライト組織が形成されるため、所望する物性が確保できなくなる。
【0088】
また、上述の温度範囲まで冷却するとき、20℃/s未満の冷却速度で冷却する場合、冷却中にフェライトとパーライトの相変態が発生し、所望する水準の硬質相が確保できなくなる。上記冷却速度の上限は特に限定せず、冷却設備を考慮して適宜選択することができる。
【0089】
[2次冷却段階]
上記1次冷却が完了した熱延鋼板を極徐冷帯において、特定の条件で冷却(2次冷却)することが好ましい。より具体的には、下記関係式4を満たす範囲内で0.05~2.0℃/sの冷却速度で極徐冷することが好ましい。
【0090】
[関係式4]
|t-ta|≦2
(ta=251+(109[C])+(10.5[Mn])+(22.7[Cr])-(6.1[Si])-(5.4[Sol.Al])-(0.87Temp)+(0.00068Temp )であり、ここで、tは2次冷却保持時間(秒、sec)、taは最適な相分率を確保するための2次冷却保持時間(秒、sec)、Tempは2次冷却中間温度であって、2次冷却の開始時点と終了時点との間の中間点の温度を意味する。そして、各合金成分は重量含量を意味する。)
【0091】
上記関係式4は、本発明で目標とする微細組織、具体的には、前述した関係式2を満たす微細組織を得るためのものである。特に、極徐冷帯での中間温度(Temp)と極徐冷帯での保持時間を最適化することにより、硬質相の全体分率のうち、60%以上をマルテンサイト相とベイナイト相が混在する組織として得られるだけでなく、上記組織の炭素分布が上記関係式2を満たすようにすることが可能である。
【0092】
より具体的に説明すると、オーステナイトからフェライトへの相変態が1次冷却又は極徐冷帯保持時間(2次冷却)中に発生するとき、残余オーステナイトへの炭素の拡散が起こるが、このとき 、上記極徐冷帯の中間温度(Temp)と保持時間を上記関係式3を満たすように制御することで、フェライトと隣接する部分の炭素濃度のみが急激に上昇するようになる。その状態で後段冷却を開始すると、炭素濃度の差によって一部はベイナイトに、もう一部はマルテンサイトに変態して関係式2を満たす組織を確保することができる。
【0093】
上記2次冷却制御時に上記関係式3を満たさないと、マルテンサイト相とベイナイト相が混在する組織が実現されず、一般的なDP鋼組織が形成されて、有効範囲の降伏比が得られないだけでなく、電気抵抗溶接時に溶接熱影響部での硬度が大きく低下するという問題がある。
【0094】
また、上記2次冷却制御時に冷却速度が2.0℃/sを超えると、硬質相内のマルテンサイト相とベイナイト相が混在する組織の炭素分布を形成できる十分な時間が確保できない。一方、0.05℃/s未満であると、フェライト分率が過度に増加して、目標とする組織と物性が確保できなくなる。
【0095】
[3次冷却段階]
上記極徐冷帯での2次冷却を完了した後、常温~400℃の温度範囲まで20℃/s以上の冷却速度で3次冷却を行うことが好ましい。ここで、常温とは、15~35℃程度の範囲を意味する。
【0096】
上記3次冷却の終了温度が400℃を超えると、その温度がMs(マルテンサイト変態開始温度)以上になるため、残余未変態相の大部分がベイナイト相に変態し、本発明の関係式2を満たす微細組織を得ることができなくなる。
【0097】
また、上記3次冷却時に冷却速度が20℃/s未満であると、ベイナイト相が過剰に形成されるため、本発明で目標とする物性及び微細組織を得ることができなくなる。上記冷却速度の上限は特に限定せず、冷却設備を考慮して、適宜選択することができる。
【0098】
[巻取段階]
上記によって3次冷却まで完了した熱延鋼板を、その温度で巻き取る工程を行うことが好ましい。
【0099】
一方、本発明では、巻き取られた熱延鋼板に対して、常温~200℃の温度範囲で自然冷却した後、酸洗処理して表層部のスケールを除去し、塗油する段階をさらに含むことができる。このとき、酸洗処理前に鋼板温度が200℃を超えると、熱延鋼板の表層部が過酸洗され、表層部の粗度が悪くなるという問題がある。
【0100】
本発明では、上記によって製造された熱延鋼板を電気抵抗溶接して製造された電縫鋼管を提供する。また、上記電縫鋼管は耐久性に優れる。
【0101】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0102】
(実施例)
下記表1に示した成分系を有する鋼スラブを準備した後、それぞれの鋼スラブを1250℃に加熱してから、仕上げ熱間圧延(表2に仕上げ熱間圧延温度を表記)して厚さ3.0mmtの熱延鋼板を製造した。その後、80℃/sの冷却速度で1次冷却(表2に冷却終了温度を表記)してから、下記表2に示した極徐冷帯中間温度と保持時間で制御冷却(2次冷却)を行い、60℃/sの冷却速度で常温まで3次冷却を行った後、巻き取った。
【0103】
上記によって製造されたそれぞれの熱延鋼板に対して、3000倍のSEM写真撮影後の各相(フェライト:F、マルテンサイト:M、ベイナイト:B)の面積分率(area%)を、イメージ分析機(image analyzer)を用いて測定した。このとき、硬質相のうち、マルテンサイト相とベイナイト相が混在する組織(SSGM+G)は、SEM像で観察された硬質相に対して、EPMAのラインスキャン(line scanning)技法を用いて炭素(C)の分布を測定して区分しており、上記と同様に、イメージ分析機(image analyzer)を用いて面積分率(area%)を算出した。
【0104】
また、TEM分析技法を用いてフェライト粒内の析出物分布挙動を分析した。具体的に、各熱延鋼板の組織試片において任意の10個所を10000倍で撮影した後、TEM成分分析により析出物の有無を確認し、撮影イメージに基づいて平均直径(円相当基準)を算出して析出物のサイズ分布を計算した。
【0105】
また、それぞれの熱延鋼板に対して、JIS5号試片を準備して10mm/minの歪み速度で常温において引張試験を行った。
【0106】
そして、それぞれの熱延鋼板を用いて電気抵抗溶接法で101.6Φ口径のパイプを造管した後、CTBAチューブ(tube)で冷間成形を行った。その後、3.0Hz周波数、±80mm振幅の条件で耐久疲労寿命を測定した。
【0107】
上記で測定したそれぞれの結果は、下記表3及び表4に示した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
(上記表3において、「F」はフェライト相、「M」はマルテンサイト相、「B」はベイナイト相を意味する。また、PN20は直径が0nm超過20nm以下である析出物の個数、PN50は直径が20nm超過50nm以下である析出物の個数、PN100は直径が50nm超過100nm以下である析出物の個数を意味する。)
【0111】
【表4】
【0112】
上記表1から4に示したように、合金組成、成分関係、及び製造条件が全て本発明で提案することを満たす発明例1から10では、意図する微細組織が形成され、フェライト粒内の析出物が関係式3を満たすように形成された。
【0113】
その結果、目標水準の物性はもちろんのこと、組織内の硬度分布を均一にすることで、電気抵抗溶接熱影響部の硬度低下を最小化させることができるだけでなく、パイプ造管及び成形後の耐久疲労寿命が60万回を超える、耐久性に優れた特性を有することが確認できる。
【0114】
一方、比較例1から14は、本発明で提限する合金組成を外れた場合である。
【0115】
そのうち、比較例1は、Cの含量が過度であり、比較例7は、Crの含量が過度な場合であって、これらは、関係式4のta値がそれぞれ16.7(秒)、19.2(秒)と計算されていることが確認できる。すなわち、比較例1と7は、最適な相分率を得るための極徐冷帯(2次冷却ROT区間)の保持時間が過度に要されるものであり、これは、本実施例の極徐冷帯での制御可能な保持時間の範囲を超えるものである。その結果、関係式2を満たす組織を得ることができなかった。
【0116】
比較例2及び比較例8は、それぞれCとCrの含量が不十分な場合であって、これらは、関係式4のta値が1(秒)未満と導出された。これにより、熱間圧延後の冷却中にマルテンサイト相とベイナイト相が混在する結晶粒の形成が難しくなり、本発明で意図する微細組織を確保することができなかった。
【0117】
比較例3及び4は、Siの含量が本発明の範囲を外れており、比較例5及び6は、Mnの含量が本発明の範囲を外れた場合であって、MnとSiの含量関係(関係式1に該当)が本発明の範囲を外れるか、又は関係式3の|t-ta|値を満たしていない。これにより、溶接時に溶接部でペネトレータ欠陥が発生する可能性が高くなり、パイプの造管及び拡管時に、溶接部でクラックが発生しやすくなった。
【0118】
比較例9及び10は、Alの含量が本発明の範囲を外れた場合であって、関係式4の|t-ta|値が2を超えるため、本発明で意図する微細組織を確保することができなかった。
【0119】
比較例11及び12は、Nbの含量が本発明の範囲を外れており、比較例13及び14は、Vの含量が本発明の範囲を外れた場合である。そのうち、それぞれNb、Vの含量が過度な比較例11及び13は、降伏比が0.85を超えるため、組織内の硬度分布が均一でなく、耐久性に劣っていることが分かる。また、それぞれNb、Vの含量が十分でない比較例12及び14は析出効果が十分に得られず、関係式3を満たすことができなかった。
【0120】
比較例15から19は、合金組成及び関係式1が本発明の範囲を満たす鋼に該当するが、そのうち、比較例15及び16は、2次冷却時に保持時間がそれぞれ15秒、0秒に制御されて、関係式4の|t-ta|の値が有効値を満たすことができなかった。比較例17及び18では、それぞれ1次冷却終了温度が高すぎたり、低すぎたりして、関係式4を満たすことができなかった。そして、比較例19は、2次冷却時に冷却速度が2℃/sを超えた場合であって、ベイナイト分率が過度に形成されたことが確認できる。
【0121】
上記比較例15から19のいずれも、マルテンサイト相とベイナイト相が混在する結晶粒がほとんど形成されていないため、造管及び成形後の耐久性に劣っていることが確認できる。
【0122】
図2は、発明例5及び比較例14のフェライト相を観察した写真である。発明例5の場合、フェライト粒内で析出物が観察されるが、比較例14の場合には析出物が観察されなかった。
図1(a)】
図1(b)】
図2