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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】電子機器及びその状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20230315BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20230315BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230315BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20230315BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
G01R31/392
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019030124
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136149
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 貴之
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/064392(WO,A1)
【文献】特開2017-054684(JP,A)
【文献】特表2015-521347(JP,A)
【文献】特開2016-063692(JP,A)
【文献】特開2020-071962(JP,A)
【文献】特開2020-071035(JP,A)
【文献】特開2011-142003(JP,A)
【文献】特開平06-052901(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
G01R 31/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の変形量を検出する変形量検出部と、
前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池から放電された充電量と前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池に充電された充電量とを合算した前記リチウムイオン電池の総充放電量を検出する総充放電量検出部と、
前記変形量と前記総充放電量との関係を表す基準データを記憶した記憶部と、
前記変形量検出部により検出された前記変形量と、前記総充放電量検出部により検出された前記リチウムイオン電池の使用開始からの前記総充放電量と、前記基準データとに基づいて前記リチウムイオン電池の状態判定を行う状態判定部と、
前記状態判定部による状態判定結果に基づいて通知を行う通知制御部と、
を有する電子機器。
【請求項2】
前記状態判定部は、前記変形量検出部により検出された前記変形量と、前記基準データとして記憶された前記総充放電量に対する基準変形量との差分値を算出し、
前記通知制御部は、前記差分値が閾値以上である場合に通知を行う請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記状態判定部は、前記変形量検出部により検出された前記変形量の単位総充放電量当たりの変化量を算出し、
前記通知制御部は、前記変化量が閾値以上である場合に通知を行う請求項1又は2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記変形量検出部により検出された前記変形量の単位総充放電量当たりの変化量の、単位総充放電量当たりの変化率を算出し、
前記通知制御部は、前記変化率が閾値以上である場合に通知を行う請求項1ないし3いずれか1項に記載の電子機器。
【請求項5】
前記変形量検出部により検出された前記変形量の単位総充放電量当たりの変化量に基づいて、前記リチウムイオン電池の将来の状態を予測する状態予測部を有する請求項1ないし4いずれか1項に記載の電子機器。
【請求項6】
前記リチウムイオン電池の満充電を検出する満充電検出部と、
前記満充電検出部により満充電が検出された後、安定状態を検出する安定検出部と、
を有し、
前記状態判定部は、前記安定検出部により安定状態が検出された場合に前記リチウムイオン電池の状態判定を行う請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
リチウムイオン電池の変形量を取得する第1ステップと、
前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池から放電された充電量と前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池に充電された充電量とを合算した前記リチウムイオン電池の総充放電量を検出する第2ステップと
記第1ステップで取得された前記変形量と、前記第2ステップで検出された前記リチウムイオン電池の使用開始からの前記総充放電量と、前記変形量と前記総充放電量との関係を表す基準データとに基づいて前記リチウムイオン電池の状態判定を行う第3ステップと、
前記第3ステップでの状態判定結果に基づいて通知を行う第4ステップと、
を有する電子機器の状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器及びその状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はスマートフォン等の電子機器に広く用いられているが、使用していくうちに徐々に劣化することが知られている。リチウムイオン電池の劣化が進むと、充放電による内部の積層体の膨張や、内部温度の上昇による電解液の気化によって、内圧の上昇や膨張が顕著に表れる。このようなリチウムイオン電池の劣化状態を放置すると、発火や爆発をもたらす危険性がある。
【0003】
一方で近年の携帯機器は、ソフトウェア処理の複雑化に対するハードウェアの性能や、デザイン性や利便性を向上させるために、リチウムイオン電池の小型・薄型化と高出力化の両立が求められている。しかし、これはリチウムイオン電池が従来よりも僅かな要因で容易に危険な状態になり得ることを意味する。
【0004】
リチウムイオン電池の劣化を検出して機器の利便性向上とユーザの安全を確保する方法として、リチウムイオン電池の膨張により生じる圧力を検出する圧力センサを設け、この圧力センサの出力信号に基づいてリチウムイオン電池の変形の有無を監視し、ユーザに対してリチウムイオン電池の劣化状態の報知や警告を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、充電中の二次電池の圧力の変動を微小時間間隔で連続的に測定し、圧力変動の微分値と閾値とを比較し、警告等を行う方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5573169号
【文献】特開平8-331769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、検出した圧力と所定の閾値とを比較するため、リチウムイオン電池の圧力が製造者の設定した閾値に達するまで、ユーザに警告することができない。すなわち、危険な兆候が顕在化しても、実際に危険な状態に達するまでは警告が行われない。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、電池の変形量の検出タイミングが充電時に限定されているため、電池が劣化した状態で充電されなければ変形量を検出して警告等を行うことができない。
【0009】
このように、従来の技術は、リチウムイオン電池が実際に危険な状態に達してから警告等を行うものであり、危険な状態に達する前に事前に警告等の報知を行うことはできない。
【0010】
本発明は、リチウムイオン電池が危険な状態に達する前に事前に報知を行うことを可能とし、ユーザの安全性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の技術は、リチウムイオン電池の変形量を検出する変形量検出部と、前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池から放電された充電量と前記リチウムイオン電池の使用開始から前記リチウムイオン電池に充電された充電量とを合算した前記リチウムイオン電池の総充放電量を検出する総充放電量検出部と、前記変形量と前記総充放電量との関係を表す基準データを記憶した記憶部と、前記変形量検出部により検出された前記変形量と、前記総充放電量検出部により検出された前記リチウムイオン電池の使用開始からの前記総充放電量と、前記基準データとに基づいて前記リチウムイオン電池の状態判定を行う状態判定部と、前記状態判定部による状態判定結果に基づいて通知を行う通知制御部と、を有する電子機器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン電池が危険な状態に達する前に事前に報知を行うことを可能とし、ユーザの安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る電子機器の概略構成を例示するブロック図である。
図2】歪み検出部が張り付けられたリチウムイオン電池を例示する図である。
図3】記憶部に記憶された基準値、閾値、及び上限値を例示する図である。
図4】状態判定部による状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
図5】実測される変形量を例示する図である。
図6】表示部に表示されるメッセージの一例を示す図である。
図7】表示部に表示されるメッセージの一例を示す図である。
図8】総充放電量に依存する閾値の一例を示す図である。
図9】第2実施形態における状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
図10】電池の個体差により変形量のばらつきを説明する図である。
図11】総充放電量に依存する閾値の一例を示す図である。
図12】第3実施形態における状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
図13】総充放電量に依存する閾値の一例を示す図である。
図14】第4実施形態に係る電子機器の概略構成を例示する図である。
図15】状態予測部による状態予測処理の流れを示すフローチャートである。
図16】関数f(X),関数g(X)に基づくX1,X2の算出処理を説明する図である。
図17】表示部に表示されるメッセージの一例を示す図である。
図18】第5実施形態におけるX1,X2の算出処理を説明する図である。
図19】第6実施形態におけるX1,X2の算出処理を説明する図である。
図20】状態判定結果及び状態予測結果を通知する場合における通知方法の一例を示すフローチャートである。
図21】状態予測結果の他の通知例を示す図である。
図22】状態予測結果に補足して通知する通知例を示す図である。
図23】満充電検出動作を説明するフローチャートである。
図24】リチウムイオン電池の充電特性を例示するグラフである。
図25】安定検出動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0015】
なお、以下で説明する実施形態では、本発明を適用した電子機器の一例として、スマートフォンを例示する。
【0016】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態に係る電子機器ついて説明する。
【0017】
[電子機器の概略構成]
図1は、第1実施形態に係る電子機器100の概略構成を例示する図である。
【0018】
図1において、電子機器100は、本体部200と、バッテリモジュールとしての電池部300とを有する。電池部300には、充電器400が接続される。
【0019】
本体部200は、タッチパネル表示器201と、操作ボタン202と、通信部203と、スピーカ204と、マイク205と、CPU(Central Processing Unit)206と、記憶部207と、充電制御部209と、ランプ210と、バイブレータ211とを有する。
【0020】
タッチパネル表示器201は、表示部201aと、タッチパネル201bとを有する。タッチパネル201bは、表示部201a上に積層されている。
【0021】
表示部201aは、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示デバイスである。
【0022】
タッチパネル201bは、その表面に対するユーザの指等の接触と、接触した位置とを検出して検出信号をCPU206に送信する。タッチパネル201bの検出方式は、静電容量方式、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、荷重検出方式等のいずれの方式であってもよい。
【0023】
操作ボタン202は、ユーザからの操作入力を受け付ける電源ボタン、音量ボタン等である。
【0024】
通信部203は、例えば、無線により通信を行う無線通信モジュールである。通信部203は、例えば、2G、3G、4G、5G等の通信規格や、近距離無線の通信規格をサポートする。
【0025】
スピーカ204は、CPU206から送出される音信号を音として出力する。スピーカ204は、例えば、電子機器100にて再生される動画の音声、音楽、及び通話時の相手の声などを出力する。マイク205は、入力されるユーザの声等を音信号へ変換してCPU206へ送信する。
【0026】
CPU206は、本体部200の各部と電池部300とを制御する主制御部である。CPU206は、記憶部207に記憶されているデータを必要に応じて参照しつつ、記憶部207に記憶されているプログラムに含まれる命令を実行する。CPU206は、データ及び命令に基づいて各種機能を実現する。
【0027】
記憶部207は、RAM(Random Access Memory)やフラッシュメモリ等のメモリを含んで構成されている。記憶部207は、設定データ、検出データ等の各種データや、プログラムを記憶する。
【0028】
充電制御部209は、電池部300の+端子と-端子に接続され、電池部300の電圧と電流とに基づき、充電器400を制御することにより、リチウムイオン電池301を充電する。
【0029】
ランプ210は、LED(Light-Emitting Diode)等の光源であり、CPU206から制御に基づき、リチウムイオン電池301の充電状態や警告等の報知を行う。
【0030】
バイブレータ211は、CPU206から制御に基づいて振動する振動モータであり、警告時等に振動する。
【0031】
電池部300は、リチウムイオン電池301と、歪み検出部302と、電圧検出部303と、電流検出部304と、温度検出部305と、制御部306と、記憶部307とを有する。
【0032】
リチウムイオン電池301は、複数の単電池が接続された組電池、又は1つの単電池により構成された二次電池である。リチウムイオン電池301は、電池部300内の各部、及び本体部200に電力供給を行う。すなわち、本体部200は、リチウムイオン電池301に対する負荷機器となる。
【0033】
歪み検出部302は、リチウムイオン電池301の歪み量を検出するセンサである。歪み検出部302として、例えば、測定対象物に発生した歪みを電気抵抗値の変化として検出する歪みゲージが用いられる。歪みゲージの抵抗変化は、例えばホイーストンブリッジ回路を用いて電圧に変換することで検出される。
【0034】
歪み検出部302は、リチウムイオン電池301に接着剤等を介して張り付けられている。例えば、図2に示すように、リチウムイオン電池301が平板状である場合には、歪み検出部302は、リチウムイオン電池301の表面に張り付けられる。
【0035】
なお、歪み検出部302は、歪みゲージに限られず、圧力センサであってもよい。
【0036】
図1に戻り、電圧検出部303は、リチウムイオン電池301の端子間の電圧を検出して、電圧検出値を制御部306へ出力する。
【0037】
電流検出部304は、例えば、リチウムイオン電池301と充電器400との間の充電経路に設けられている。電流検出部304は、検出抵抗を有し、充電電流及び放電電流を検出して電流検出値を、制御部306へ出力する。
【0038】
制御部306は、電池部300内の各部を制御する。制御部306は、記憶部307に記憶されているデータを必要に応じて参照しつつ、記憶部307に記憶されているプログラムに含まれる命令を実行する。制御部306は、データ及び命令に基づいて各種機能を実現する。
【0039】
温度検出部305は、リチウムイオン電池301又はその周囲の温度を検出する温度センサであり、温度検出値を制御部306へ出力する。
【0040】
記憶部307は、RAMやフラッシュメモリ等のメモリを含んで構成されている。記憶部307は、設定データ、検出データ等の各種データや、プログラムを記憶する。
【0041】
[電子機器の機能構成]
次に、CPU206及び制御部306で実現される機能について説明する。
【0042】
制御部306には、例えば、満充電検出部310と、安定検出部311と、変形量検出部312と、総充放電量検出部313が含まれる。
【0043】
満充電検出部310は、リチウムイオン電池301の充電中に、電圧検出部303により検出される電圧検出値と、電流検出部304により検出される電流検出値とに基づき、リチウムイオン電池301が満充電になったことを検出する。
【0044】
リチウムイオン電池301は、満充電となって充電が停止された後に、無負荷又は微放電の負荷状態が継続することにより出力電圧が安定する。満充電直後の出力電圧(充電電圧V1)と、その後に無負荷又は微放電の負荷状態が継続している時の出力電圧(開放端電圧V2)がほぼ一定の電圧になったときとの電圧の差(V1-V2)を過電圧という。
【0045】
安定検出部311は、リチウムイオン電池301が満充電となった後、電圧検出部303により検出される電圧検出値と、電流検出部304により検出される電流検出値とに基づき、安定した状態(安定状態)となったことを検出する。
【0046】
変形量検出部312は、歪み検出部302により検出されるリチウムイオン電池301の歪み量に基づき、リチウムイオン電池301の使用開始時からの変形量Pを検出する。リチウムイオン電池301の変形は、劣化による膨張や、外圧により生じる。なお、変形量Pは、歪み検出部302により検出される検出値を間引いたり、平均化したりすることにより求めた値であってもよい。また、変形量Pは、歪み検出部302により検出される検出値を、温度検出部305によって検出された温度に基づいて重みづけを行ったものであってもよい。
【0047】
変形量検出部312は、変形量Pを定期的に検出して記憶部307に記録する。制御部306は、CPU206から変形量Pの要求命令を受信すると、記憶部307に記録された変形量PをCPU206に送信する。
【0048】
総充放電量検出部313は、電流検出部304から制御部306に入力される充電電流及び放電電流の電流検出値に基づき、リチウムイオン電池301の使用開始からの放電容量と充電容量とを合算した総充放電量Cを検出する。ここで、放電容量とは、リチウムイオン電池301が単位時間あたりに放電した電流量の総和である。また、充電容量とは、リチウムイオン電池301が単位時間あたりに充電した電流量の総和である。なお、総充放電量は、そのまま容量として扱っても良いし、慣例的に二次電池の経年を示すパラメータとして使用されているサイクルカウント(充放電回数)に置き換えても良い。
【0049】
総充放電量検出部313は、総充放電量Cを定期的に検出して記憶部307に記録する。制御部306は、CPU206から総充放電量Cの要求命令を受信すると、記憶部307に記録された総充放電量CをCPU206に送信する。
【0050】
CPU206には、例えば、状態判定部220と、通知制御部221とが含まれる。状態判定部220は、リチウムイオン電池301の総充放電量Cと変形量Pとの関係に基づいて、リチウムイオン電池301の状態を判定する。
【0051】
通知制御部221は、状態判定部220によりリチウムイオン電池301の劣化や故障が検出された場合に、表示部201a、スピーカ204、ランプ210、バイブレータ211等を制御して、ユーザに警告等を通知する。例えば、通知制御部221は、表示部201aへのメッセージ表示、スピーカ204による音声通知、ランプ210の点滅、バイブレータ211の振動等により通知を行う。
【0052】
[状態判定動作]
次に、状態判定部220による状態判定処理について説明する。本実施形態では、状態判定部220は、記憶部207に記憶された基準値、閾値、上限値等を用いて判定を行う。
【0053】
図3は、記憶部207に記憶された基準値P'、閾値Pth、及び上限値Pmaxを例示する図である。基準値P'は、理想的なリチウムイオン電池における総充放電量Cに対する変形量Pを表す。
【0054】
リチウムイオン電池の変形量Pは、時間とともに単調増加するのではなく、充電時に増加して放電時に減少するという特性を有する。また、理想的なリチウムイオン電池では、総充放電量Cと変形量Pとの間には相関関係があり、総充放電量Cの増加に応じて変形量Pが増加する傾向にある。変形量Pの比較が可能な状態、例えば満充電後の安定状態に検出した総充放電量Cと変形量Pとの関係をグラフ化すると、図3に示すようなほぼ線形の関係が示される。
【0055】
この相関関係は、リチウムイオン電池や、変形量Pを検出する歪み検出部302の個体差によってずれが生じるため、あらかじめ複数個のリチウムイオン電池から測定データを抽出し、中央値や平均値の取得、ゼロ点補正等を行うことによりモデル化することが好ましい。記憶部207には、モデル化されたデータ(基準データ)が記憶されている。基準データは、総充放電量Cと基準値P'との関係を表すデータである。なお、記憶部207に記憶する総充放電量Cと基準値P'との関係は、図3に示すような線形のデータには限定されない。
【0056】
閾値Pthは、変形量Pと基準値P'との差分値ΔPを用いた劣化判定に用いられる。上限値Pmaxは、変形量Pを用いた劣化判定に用いられる。
【0057】
図4は、状態判定部220による状態判定処理の流れを示すフローチャートである。図4に示す状態判定処理は、例えば、安定検出部311により安定状態が検出された場合に行われる。
【0058】
状態判定部220は、安定検出部311により安定状態が検出されると、総充放電量検出部313により検出された総充放電量Cを制御部306から取得する(ステップS10)。また、このとき、状態判定部220は、変形量検出部312により検出された変形量Pを制御部306から取得する(ステップS11)。
【0059】
まず、状態判定部220は、取得した変形量Pを記憶部207に記憶された上限値Pmaxと比較し、変形量Pが上限値Pmax以上であるか否かを判定する(ステップS12)。変形量Pが上限値Pmax以上である場合には(ステップS12:Yes)、リチウムイオン電池301の状態が、発火や爆発が生じる危険域(危険な劣化状態)に達しているとして、その旨が、通知制御部221により表示部201a等を介してユーザに通知される(ステップS13)。
【0060】
一方、変形量Pが上限値Pmax未満である場合には(ステップS12:No)、状態判定部220は、記憶部207から、ステップS10で取得した総充放電量Cに対応する基準値P'を読み出す(ステップS14)。状態判定部220は、下式(1)に基づいて差分値ΔPを算出する(ステップS15)。
【0061】
ΔP=P-P' ・・・(1)
次に、状態判定部220は、記憶部207からステップS10で取得した総充放電量Cに対応する閾値Pthを読み出す(ステップS16)。なお、本実施形態では、閾値Pthは総充放電量Cに依存しない固定値である。
【0062】
状態判定部220は、ステップS15で算出した差分値ΔPを閾値Pthと比較し、差分値ΔPが閾値Pth以上であるか否かを判定する(ステップS17)。差分値ΔPが閾値Pth以上である場合には(ステップS17:Yes)、リチウムイオン電池301の状態が、注意が必要な状態に達しているとして、その旨が、通知制御部221により表示部201a等を介してユーザに通知される(ステップS18)。
【0063】
一方、差分値ΔPが閾値Pth未満である場合には(ステップS17:No)、状態判定部220は処理を終了する。
【0064】
図5に示す変形量Pの実測例M1は、変形量Pが上限値Pmax以上となり危険域に達した例を示している。また、実測例M2は、差分値ΔPが閾値Pth以上となり注意が必要な状態の例を示している。
【0065】
[通知例]
次に、通知制御部221によるユーザに対するメッセージの通知例を説明する。
【0066】
図6は、上記ステップS13において表示部201aに表示されるメッセージの一例を示す図である。ステップS13では、リチウムイオン電池301が危険な劣化状態にあるため、図6に示すメッセージは、ユーザが直ちにサポートセンター等への問い合わせを行うことが必要であることを示す内容を含んでいる。また、本メッセージには、サポートセンター等とインターネットを介して連絡を取るためのハイパーリンク(下線部)が埋め込まれている。
【0067】
図7は、上記ステップS18において表示部201aに表示されるメッセージの一例を示す図である。ステップS18は、リチウムイオン電池301が、注意が必要な状態にあるため、図7に示すメッセージは、今後の電子機器の取り扱いに注意が必要であることを示す内容を含んでいる。
【0068】
なお、通知制御部221は、ステップS13及びステップS18において、表示部201aへのメッセージの表示とともに、スピーカ204、ランプ210、バイブレータ211等による通知を行ってもよい。
【0069】
このように、本実施形態によれば、リチウムイオン電池301が危険な状態に達する前に事前に報知を行うことを可能とし、ユーザの安全性を確保することができる。
【0070】
<第1実施形態の変形例>
上記第1実施形態では、閾値Pthを固定値としているが、閾値Pthを総充放電量Cに依存して変化する値としてもよい。図8は、総充放電量Cに依存する閾値Pthの一例を示す図である。図8に示す閾値Pthは、総充放電量Cが増加するとともに減少するものであり、関数またはデータテーブルとして記憶部207に記憶されている。
【0071】
本変形例では、総充放電量Cが増加するとともに、許容される差分値ΔPの値が小さくなる。すなわち、総充放電量Cが大きいほど、閾値Pthを用いた劣化状態の判定がより厳しく行われる。
【0072】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、状態判定部220による状態判定処理が第1実施形態と異なる。本実施形態では、状態判定部220は、変形量Pの単位総充放電量当たりの変化量に基づいて、リチウムイオン電池301の状態を判定する。
【0073】
以下、リチウムイオン電池301のある時点nの変形量をPと記述する。また、リチウムイオン電池301の使用開始時から、ある時点nまでの総充放電量をCと記述する。
【0074】
ある時点nにおける変形量Pの単位総充放電量当たりの変化量Sは、下式(2)で表される。
【0075】
=(P-Pn-1)/(C-Cn-1) ・・・(2)
ここで、nは1以上の整数である。また、Pn-1、Cn-1は、前回の状態判定時における変形量及び総充放電量である。
【0076】
本実施形態では、変化量Sに対する閾値Sthが記憶部207に記憶されている。この閾値Sthは、図3に示した基準データの傾きに基づいて決定される。例えば、閾値Sthは、総充放電量Cに対する基準値P'の傾きに、所定値をマージンとして付加した値である。また、変形量P及び総充放電量Cの初期値P,Cは、予め記憶部207に記憶されている。
【0077】
図9は、第2実施形態における状態判定処理の流れを示すフローチャートである。図9に示す状態判定処理は、例えば、安定検出部311により安定状態が検出された場合に行われる。
【0078】
状態判定部220は、安定検出部311により安定状態が検出されると、総充放電量検出部313により検出された総充放電量Cを制御部306から取得する(ステップS20)。また、このとき、状態判定部220は、変形量検出部312により検出された変形量Pを制御部306から取得する(ステップS21)。状態判定部220は、取得した総充放電量C及び変形量Pを記憶部207に記録する(ステップS22)。
【0079】
次に、状態判定部220は、記憶部207から前回記録された総充放電量Cn-1及び変形量Pn-1を読み出し(ステップS23)、上式(2)に基づいて、変形量Pの単位総充放電量当たりの変化量Sを算出する(ステップS24)。そして、状態判定部220は、記憶部207から総充放電量Cに対応する閾値Sthを読み出す(ステップS25)。なお、本実施形態では、閾値Sthは総充放電量Cに依存しない固定値である。
【0080】
状態判定部220は、ステップS24で算出した変化量Sを閾値Sthと比較し、変化量Sが閾値Sth以上であるか否かを判定する(ステップS26)。変化量Sが閾値Sth以上である場合には(ステップS26:Yes)、リチウムイオン電池301の状態が、注意が必要な状態に達しているとして、その旨が、通知制御部221により表示部201a等を介してユーザに通知される(ステップS27)。
【0081】
一方、変化量Sが閾値Sth未満である場合には(ステップS26:No)、状態判定部220は処理を終了する。
【0082】
図10に示すように、変形量Pは、電池ごとの個体差によりばらつきが大きいが、変形量Pの変化量(すなわち傾き)はほぼ一定である。このため、本実施形態のように、変形量Pそのものではなく、変形量Pの変化量Sに基づいて状態判定を行うことにより、電池の個体差による誤判定を低減することができる。
【0083】
<第2実施形態の変形例>
[第1変形例]
上記第2実施形態では、閾値Sthを固定値としているが、閾値Sthを総充放電量Cに依存して変化する値としてもよい。図11は、総充放電量Cに依存する閾値Sthの一例を示す図である。図11に示す閾値Pthは、総充放電量Cが増加するとともに減少するものであり、関数またはデータとして記憶部207に記憶されている。
【0084】
本変形例では、総充放電量Cが増加するとともに、許容される変化量Sの値が小さくなる。すなわち、総充放電量Cが大きいほど、閾値Sthを用いた劣化状態の判定がより厳しく行われる。
【0085】
[第2変形例]
上記第2実施形態では、ある時点nで検出された総充放電量Cと、前回の時点n-1で検出された総充放電量Cn-1との差は、常に一定とは限らないため、上記式(2)を用いて変化量Sを算出しているが、当該差(C-Cn-1)を一定とみなすことが可能な場合には、下式(3)で求まる変化量Dを用いて判定を行ってもよい。
【0086】
=P-Pn-1 ・・・(3)
このように上式(3)を用いることが可能な場合には、上式(2)の除算に係る部分の処理が省略され、計算量が少なくなるため、高速な状態判定処理が可能となる。
【0087】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は、状態判定部220による状態判定処理が第1及び第2実施形態と異なる。本実施形態では、状態判定部220は、単位総充放電量当たりの変化量Sの変化率に基づいて、リチウムイオン電池301の状態を判定する。
【0088】
ある時点nにおける変化量Sの単位総充放電量当たりの変化率Rは、下式(4)で表される。
【0089】
=(S-Sn-1)/(C-Cn-1) ・・・(4)
ここで、nは1以上の整数である。また、Sn-1、Cn-1は、前回の状態判定時における変化量及び総充放電量である。
【0090】
本実施形態では、変化率Rに対する閾値Rthが記憶部207に記憶されている。この閾値Rthは、図3に示した基準データに基づいて決定される。また、変化率R及び総充放電量Cの初期値R,Cは、予め記憶部207に記憶されている。
【0091】
図12は、第3実施形態における状態判定処理の流れを示すフローチャートである。図12に示す状態判定処理は、例えば、安定検出部311により安定状態が検出された場合に行われる。
【0092】
状態判定部220は、安定検出部311により安定状態が検出されると、総充放電量検出部313により検出された総充放電量Cを制御部306から取得する(ステップS30)。また、状態判定部220は、第2実施形態と同様の処理(ステップS21~S24)を実行することにより、単位総充放電量当たりの変化量Sを算出する(ステップS31)。状態判定部220は、取得した総充放電量C及び変化量Sを記憶部207に記録する(ステップS32)。
【0093】
次に、状態判定部220は、記憶部207から前回記録された総充放電量Cn-1及び変化量Sn-1を読み出し(ステップS33)、上式(4)に基づいて、変化量Sの単位総充放電量当たりの変化率Rを算出する(ステップS34)。そして、状態判定部220は、記憶部207から総充放電量Cに対応する閾値Rthを読み出す(ステップS35)。なお、本実施形態では、閾値Rthは総充放電量Cに依存しない固定値である。
【0094】
状態判定部220は、ステップS34で算出した変化率Rを閾値Rthと比較し、変化率Rが閾値Rth以上であるか否かを判定する(ステップS36)。変化率Rが閾値Rth以上である場合には(ステップS36:Yes)、リチウムイオン電池301の状態が、注意が必要な状態に達しているとして、その旨が、通知制御部221により表示部201a等を介してユーザに通知される(ステップS37)。
【0095】
一方、変化率Rが閾値Rth未満である場合には(ステップS36:No)、状態判定部220は処理を終了する。
【0096】
本実施形態では、変化率Rを用いて状態判定を行うので、リチウムイオン電池301の劣化等による変形の兆候を迅速に検出することができる。
【0097】
<第3実施形態の変形例>
[第1変形例]
上記第3実施形態では、閾値Rthを固定値としているが、閾値Rthを総充放電量Cに依存して変化する値としてもよい。図13は、総充放電量Cに依存する閾値Rthの一例を示す図である。図13に示す閾値Rthは、総充放電量Cが増加するとともに減少するものであり、関数またはデータテーブルとして記憶部207に記憶されている。
【0098】
本変形例では、総充放電量Cが増加するとともに、許容される変化率Rの値が小さくなる。すなわち、総充放電量Cが大きいほど、閾値Rthを用いた劣化状態の判定がより厳しく行われる。
【0099】
[第2変形例]
上記第3実施形態では、ある時点nで検出された総充放電量Cと、前回の時点n-1で検出された総充放電量Cn-1との差は、常に一定とは限らないため、上記式(4)を用いて変化量Sを算出しているが、当該差(C-Cn-1)を一定とみなすことが可能な場合には、下式(5)で求まる変化率DRを用いて判定を行ってもよい。なお、Dは、上式(3)で定義される変化量である。
【0100】
DR=D-Dn-1 ・・・(5)
このように上式(5)を用いることが可能な場合には、上式(4)の除算に係る部分の処理が省略され、計算量が少なくなるため、高速な状態判定処理が可能となる。
【0101】
なお、上記第1~第3実施形態及び各変形例で説明した状態判定処理は、それぞれ単独で用いるだけでなく、適宜組み合わせて用いることが可能である。組み合わせ方法としては、複数の状態判定処理を、直列または並列に接続することが可能である。また、各状態判定処理におけるステップの順序は限定されず、矛盾が生じない範囲で順序を変更してもよい。
【0102】
上記各実施形態では、リチウムイオン電池301の現時点における状態の判定を行っているが、さらに将来の状態を予測することが可能である。以下に、将来のリチウムイオン電池301の状態を予測する機能を追加した実施形態について説明する。
【0103】
<第4実施形態>
図14は、第4実施形態に係る電子機器100aの概略構成を例示する図である。本実施形態に係る電子機器100aは、CPU206に状態予測部222が追加されている点のみが第1実施形態に係る電子機器100の構成と異なる。
【0104】
以下に、状態予測部222による状態予測処理について説明する。本実施形態では、状態予測部222は、前述の状態判定部220による状態判定処理において算出されるパラメータを用いて状態予測処理を行う。
【0105】
図15は、状態予測部222による状態予測処理の流れを示すフローチャートである。図15に示す状態予測処理は、例えば、第2実施形態又は第3実施形態に係る状態判定部220により状態判定処理が行われるたびに実行される。
【0106】
状態予測部222は、状態判定部220により状態判定処理が行われると、記憶部207に記録された総充放電量C、変形量P、変化量S、基準変化量S'を読み出す(ステップS40)。なお、基準変化量S'は、前述の基準値P'に基づいて算出される基準値P'の変化量であり、時点nにおける基準データの傾きに相当する。
【0107】
次に、状態予測部222は、下式(6)で表される関数f(X)に基づいて、f(X)=Pmaxを満たすXを求め、これをX1とする(図16参照)(ステップS41)。
【0108】
f(X)=S(X-C)+P ・・・(6)
また、状態予測部222は、下式(7)で表される関数g(X)に基づいて、g(X)=Pmaxを満たすXを求め、これをX2とする(図16参照)(ステップS42)。
【0109】
g(X)=S'(X-C)+P ・・・(7)
次に、状態予測部222は、X1がX2以上であるか否かを判定する(ステップS43)。状態予測部222は、X1がX2以上である場合には(ステップS43:Yes)、パラメータCmaxをX2とする(ステップS44)。一方、状態予測部222は、X1がX2未満である場合には(ステップS43:No)、パラメータCmaxをX1とする(ステップS45)。
【0110】
そして、通知制御部221によりパラメータCmaxに基づく予測結果の通知が行われる(ステップS46)。この予測結果は、変形量Pが上限値Pmaxに達する最小の総充放電量に対応する。
【0111】
図16は、関数f(X),関数g(X)に基づくX1,X2の算出処理を説明する図である。
【0112】
[通知例]
次に、本実施形態における予測結果の通知例について説明する。
【0113】
図17は、上記ステップS46において表示部201aに表示されるメッセージの一例を示す図である。図17は、予測結果を時間(例えば日数、週数、月数など)に換算して通知する例を示している。
【0114】
具体的には、現時点の総充放電量CとCmaxとの差を、予め記憶部207等に記憶された単位時間当たりの充放電量で除算することにより、変形量Pが上限値Pmaxに達するまでの残時間を算出することが可能である。これにより、ユーザは、電子機器を後どの程度安全に使用することが可能であるかを事前に把握することができる。
【0115】
<第4実施形態の変形例>
[第1変形例]
上記第3実施形態の第2変形例と同様に、総充放電量の差(C-Cn-1)を一定とみなすことが可能な場合には、変化量Sを変化量Dに置き換えることが可能である。基準変化量S'についても同様に、下式(8)で表される基準変化量D'に置き換えることが可能である。
【0116】
D'=P'-P'n-1 ・・・(8)
[第2変形例]
上記第4実施形態では、変形量P、変化量S、及び基準変化量S'に基づいて状態予測処理を行っているが、変化量S、基準変化量S'、変化率R、及び基準変化率R'を用いて状態予測処理を行うことが可能である。この場合には、状態予測部222は、上記関数g(X)及びf(X)に代えて、下式(9)及び(10)で表される関数F(X)及びG(X)を用いればよい。
【0117】
F(X)=R(X-C)+S ・・・(9)
G(X)=R'(X-C)+S' ・・・(10)
ここで、基準変化率R'は、下式(11)で表される。
【0118】
R'=(S'-S'n-1)/(C-Cn-1) ・・・(11)
状態予測部222は、F(X)=Smaxを満たすXをX1とし、G(X)=Smaxを満たすXをX2とすればよい。Smaxは、変化量の上限値である。
【0119】
[第3変形例]
上記第2変形例において、総充放電量の差(C-Cn-1)を一定とみなすことが可能な場合には、変化率R及び基準変化率R'を、変化率DR及び基準変化率DR'で置き換えることが可能である。ここで、基準変化率DR'は、下式(12)で表される。
【0120】
DR'=D'-D'n-1 ・・・(12)
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態について説明する。第5実施形態に係る電子機器は、状態予測部222によるX1,X2の算出処理のみが第4実施形態と異なる。具体的には、第4実施形態では、固定値である上限値Pmaxを用い、f(X)=Pmaxを満たすXをX1とし、g(X)=Pmaxを満たすXをX2としている。本実施形態では、上限値Pmaxに代えて、総充放電量Cに依存して変化する判定用の関数を用いて、X1,X2を算出する。
【0121】
図18は、第5実施形態におけるX1,X2の算出処理を説明する図である。本実施形態では、判定用の関数t(X)を用いてX1,X2の算出処理が行われる。関数t(X)は、例えば、基準データに、図8で示した閾値Pthを付加したものであり、総充放電量Cが増加するに従い基準値P'に近づく。
【0122】
本実施形態における状態予測処理は、図15に示すステップS41及びS42のみが第3実施形態の状態予測処理と異なる。本実施形態では、f(X)=t(X)を満たすXをX1とし、g(X)=t(X)を満たすXをX2とする。
【0123】
本実施形態についても、第4実施形態と同様の変形例を適用することが可能である。
【0124】
<第6実施形態>
本実施形態は、上記第3実施形態の第2変形例に関連する。第3実施形態の第2変形例では、固定値である上限値Smaxを用い、F(X)=Smaxを満たすXをX1とし、G(X)=Smaxを満たすXをX2としている。本実施形態では、上限値Smaxに代えて、総充放電量Cに依存して変化する判定用の関数を用いて、X1,X2を算出する。
【0125】
図19は、第6実施形態におけるX1,X2の算出処理を説明する図である。本実施形態では、判定用の関数T(X)を用いてX1,X2の算出処理が行われる。具体的には、第5実施形態と同様に、F(X)=T(X)を満たすXをX1とし、G(X)=T(X)を満たすXをX2とする。関数T(X)は、基準データに基づいて設定すればよい。
【0126】
本実施形態についても、第4実施形態と同様の変形例(変形例3)を適用することが可能である。
【0127】
<通知に関する変形例>
次に、通知方法に関する変形例について説明する。状態判定部220により判定される状態判定結果、及び状態予測部222により求められる予測結果の通知は、判定直後に適宜のタイミングで行うことが可能である。例えば、電子機器の使用時間が所定時間経過した場合、総充放電量が所定量以上増加した場合や、スケジュール(例えば、毎週、毎日)に基づいて行うことが可能である。
【0128】
また、状態予測結果は、電子機器の残使用可能時間が予め設定された条件(例えば、一週間や一か月)を下回った場合に通知を行ってもよい。なお、条件は、時間的な条件に限られず、充電回数であってもよい。
【0129】
図20は、状態判定結果及び状態予測結果を通知する場合における通知方法の一例を示すフローチャートである。図20において、まず、状態判定部220により前述のいずれかの判定処理が行われ(ステップS50)、リチウムイオン電池301が劣化状態(例えば、危険域)であることが検出されると(ステップS51:Yes)、通知制御部221による通知が行われる(ステップS52)。この通知は、図4に示すステップS18の通知と同様である。
【0130】
一方、劣化状態が検出されない場合には(ステップS51:No)、状態予測部222により前述のいずれかの状態予測処理が行われる(ステップS53)。この後、通知制御部221は、状態予測結果の前回の通知から所定時間が経過しているか否かを判定し(ステップS54)、所定時間が経過している場合には(ステップS54:Yes)、通知を行う(ステップS55)。この通知は、図15に示すステップS46の通知と同様である。
【0131】
一方、所定時間が経過していない場合には(ステップS54:No)、通知制御部221は、状態予測結果の前回の通知から総充放電量が所定量以上増加しているか否かを判定し(ステップS56)、所定量以上増加している場合には(ステップS56:Yes)、通知を行う(ステップS55)。
【0132】
一方、所定時間が経過していない場合には(ステップS56:No)、通知制御部221は、スケジュールに規定のタイミング(例えば、週一回や月一回のタイミング)であるか否かを判定し(ステップS57)、規定のタイミングである場合には(ステップS57:Yes)、通知を行う(ステップS55)。
【0133】
一方、規定のタイミングでない場合には(ステップS57:No)、通知制御部221は、リチウムイオン電池301の残りの使用可能時間が所定時間以下であるか否かを判定し(ステップS58)、所定時間以下である場合には(ステップS58:Yes)、通知を行う(ステップS55)。一方、所定時間以下でない場合には(ステップS58:No)、処理が終了する。
【0134】
図21(A)及び図21(B)は、状態予測結果の他の通知例を示す図である。図21(A)では、通知制御部221は、状態予測結果とともに、過去の充電頻度を表示しており、さらに今後の充電頻度に関するアドバイスを表示している。図21(B)では、通知制御部221は、過去の電池の劣化度と、劣化度の今後の予測をグラフによって時系列表示を行っている。ユーザは、このような表示にしたがって充電回数を減らし、電池の劣化を抑制することができる。
【0135】
図22(A)及び図22(B)は、状態予測結果に補足して通知する通知例を示す図である。図22(A)では、通知制御部221は、リチウムイオン電池301の寿命を伸長するためのスペックの設定変更(CPU計算量抑制等による消費電流量の低減や、充電スピードの低減)を提案する表示を行っている。図22(B)では、通知制御部221は、リチウムイオン電池301の交換の提案や、メンテナンスサービスの案内に関する表示を行っている。
【0136】
<補足>
以下に、満充電検出動作及び安定検出動作について補足説明を行う。
【0137】
[満充電検出動作]
図23は、満充電検出動作を説明するフローチャートである。図24は、リチウムイオン電池301の充電特性を例示するグラフである。
【0138】
充電制御部209による充電動作が開始すると、図23に示すように、満充電検出部310は、電圧検出部303により検出された電圧検出値を取得し(ステップS60)、電流検出部304により検出された電流検出値を取得する(ステップS61)。
【0139】
満充電検出部310は、取得した電圧検出値が所定の閾値Vth以上であるか否かを判定する(ステップS62)。満充電検出部310は、電圧検出値が閾値Vth以上である場合には(ステップS62:Yes)、電流検出値が所定の閾値Ith未満であるか否かを判定する(ステップS63)。
【0140】
満充電検出部310は、電流検出値が閾値Ith未満である場合には(ステップS63:Yes)、時間計測を行い(ステップS64)、一定時間が経過したか否かを判定する(ステップS65)。満充電検出部310は、一定時間が経過していない場合には(ステップS65:No)、処理をステップS60に戻す。
【0141】
また、満充電検出部310は、電圧検出値が閾値Vth以上でない場合(ステップS62:No)、及び、電流検出値が閾値Ith未満でない場合(ステップS63:No)には、計測時間をリセットして(ステップS67)、処理をステップS60に戻す。
【0142】
満充電検出部310は、一定時間が経過した場合(ステップS65:Yes)、すなわち、電圧が閾値Vthで、かつ電流が閾値Ith未満の状態が一定時間持続した場合には、満充電に達したと判定する(ステップS66)。ここで、一定時間とは、例えば、10秒から1分の範囲内から選択される時間である。
【0143】
なお、ステップS60~S63の検出順序や判定順序は、これに限定されず、適宜変更可能である。
【0144】
[安定検出動作]
次に、安定検出部311による安定検出動作についてより詳細に説明する。図25は、安定検出動作を説明するフローチャートである。
【0145】
安定検出部311は、満充電検出部310により満充電が検出されると動作を開始し、制御部306に含まれるタイマ(図示せず)のカウント(タイマカウント)を0(ゼロ)に設定し(ステップS70)、処理をステップS71へ移す。
【0146】
ステップS71では、タイマカウントに1を加算して、処理をステップ72へ移す。
【0147】
ステップS72では、電圧検出部303により測定された電圧値を取得して、処理をステップ73へ移す。ステップS73では、電流検出部304により測定された電流値を取得して、電流積算容量値の算出を行い、処理をステップS74へ移す。
【0148】
ステップS74では、温度検出部305により測定された温度を取得して、処理をステップS75へ移す。
【0149】
ステップS75では、安定検出部311は、タイマカウントが閾値以上か否かを判定し、タイマカウントが閾値以上でないと判定した場合には(No判定)、処理をステップS71に戻す。一方、安定検出部311は、タイマカウントであると判定した場合には(Yes判定)、処理をステップS76へ移す。
【0150】
ステップS76では、安定検出部311は、電流検出部304により測定された電流値が閾値未満であるか否かを判定し、測定された電流値が閾値未満でないと判定した場合には(No判定)、処理をステップS82へ移す。ステップS82では、ステップS72で取得した電圧データを前回取得電圧データとして記憶部307に格納し、電流積算容量をリセットして、処理をステップS70に戻す。一方、安定検出部311は、ステップS76において、測定した電流値が閾値未満であると判断した場合には(Yes判定)、ステップS77の処理へ移す。
【0151】
ステップS77では、安定検出部311は、ステップS72で取得した電圧データが、安定検出動作を開始してから初回のデータであるか否かを判定し、初回のデータであると判定した場合には(Yes判定)、処理をステップS82へ移す。一方、安定検出部311は、初回のデータでないと判断した場合には(No判定)、処理をステップS78へ移す。
【0152】
ステップS78では、安定検出部311は、ステップS74で測定した測定温度から電圧変化率の閾値を計算して決定して、処理をステップS79へ移す。
【0153】
ステップS79では、安定検出部311は、記憶部307に記憶した前回取得電圧データと今回取得の電圧データから電圧変化率を算出し、算出した電圧変化率とステップS78で決定した電圧変化率の閾値とを比較する。安定検出部311は、電圧変化率が閾値未満でないと判定した場合には(No判定)、処理をステップS82へ移す。一方、安定検出部311は、電圧変化率が閾値未満であると判断した場合には(Yes判定)、処理をステップS80へ移す。
【0154】
ステップS80では、安定検出部311は、ステップS73で算出した電流積算容量値が閾値未満であるか否かを判定し、電流積算容量値が閾値未満でないと判定した場合には(No判定)、処理をステップS82へ移す。一方、安定検出部311は、電流積算容量値が閾値未満であると判断した場合には(Yes判定)、安定状態であると判定する(ステップS81)。
【0155】
なお、ステップS70~S82の検出順序や判定順序は、これに限定されず、適宜変更可能である。
【0156】
さらに、安定検出部311として、特開2011-169817号公報等に開示されている二次電池の残容量計を適用することも可能である。残容量(充電率)の変化率に基づいて安定状態を検出すればよい。
【0157】
なお、上記各実施形態では、状態判定部220は、安定検出部311により安定状態が検出された場合に状態判定処理を行っているが、状態判定処理の実行タイミングはこれに限られず、一定時間ごと等、他のタイミングであってもよい。
【0158】
また、上記実施形態では、電子機器としてスマートフォンを例に挙げて説明したが、本発明は、スマートフォンに限られず種々の電子機器に適用可能である。
【0159】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳説したが、本発明は、上述した実施の形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0160】
100,100a 電子機器、200 本体部、201 タッチパネル表示器、201a 表示部、201b タッチパネル、202 操作ボタン、203 通信部、204 スピーカ、205 マイク、207 記憶部、209 充電制御部、210 ランプ、211 バイブレータ、220 状態判定部、221 通知制御部、222 状態予測部、300 電池部、301 リチウムイオン電池、302 検出部、303 電圧検出部、304 電流検出部、305 温度検出部、306 制御部、307 記憶部、310 満充電検出部、311 安定検出部、312 変形量検出部、313 総充放電量検出部、400 充電器
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