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特許7244786制御された指向性を伴うコンパクトスピーカーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】制御された指向性を伴うコンパクトスピーカーシステム
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/40 20060101AFI20230315BHJP
   G10K 11/34 20060101ALI20230315BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20230315BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H04R1/40 310
G10K11/34 130
H04R3/00 310
H04R1/02 101Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021538135
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 US2019068358
(87)【国際公開番号】W WO2020139838
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】16/232,471
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521282066
【氏名又は名称】ラマス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クウィラム, アンドリュー ブラント
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0366895(US,A1)
【文献】国際公開第2018/049378(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/40
G10K 11/34
H04R 3/00
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットが、そのペア内の他の密閉スピーカーキャビネットに強固に固定されるように、複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットと、
前記密閉スピーカーキャビネットの複数のペアのそれぞれに実装された第1および第2スピーカードライバーと、
ここで、前記第1スピーカードライバーは、主要音放射を発する第1面と、前記第1面の反対の第2面とを有し、
前記第2スピーカードライバーは、主要音放射を発する第1面と、前記第1面の反対の第2面とを有し、
前記第1スピーカードライバーの前記第1面は、前記第1スピーカードライバーが実装されている前記密閉スピーカーキャビネットから外側に向き、前記第2スピーカードライバーの前記第1面は、前記第2スピーカードライバーが実装されている前記密閉スピーカーキャビネットの内側に向いており、
各密閉スピーカーキャビネットの前記第1および第2スピーカードライバーに信号通信され、第1オーディオ信号を受信し、前記第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成されたオーディオ処理装置と、を備え、
前記第1オーディオ信号は、前記複数のペアの少なくとも1つのペア内の前記第1および第2スピーカードライバーに伝送され、前記第2オーディオ信号は、前記複数のペアの他の少なくとも1つのペア内の前記第1および第2スピーカードライバーに伝送される、
スピーカーシステム。
【請求項2】
前記オーディオ処理装置は、前記第1オーディオ信号に位相反転をかけて前記第2オーディオ信号を生成する、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項3】
前記オーディオ処理装置は、前記第1オーディオ信号に遅延をかけて前記第2オーディオ信号を生成する、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項4】
前記遅延は調整可能である、請求項3に記載のスピーカーシステム。
【請求項5】
前記オーディオ処理装置は、さらに、デジタル・アナログおよびアナログ・デジタル変換器を含む、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項6】
前記オーディオ処理装置は、前記複数の密閉スピーカーキャビネットのいずれか1つの内部に設けられている、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項7】
さらに、1つのペア内の1つの密閉スピーカーキャビネットと前記1つのペアの他の密閉スピーカーキャビネットとの間に接続された留め具を備える、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項8】
各密閉スピーカーキャビネットは、前記ペア内の他の密閉スピーカーキャビネットと共有面を介して強固に固定されている、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項9】
全ての前記ドライバーは同一である、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項10】
全ての前記ドライバーは同一でない、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項11】
前記複数の密閉スピーカーキャビネットは、3つのペアとして構成された6つの密閉スピーカーキャビネットを含み、前記3つのペアのスピーカードライバーのうち2つのペアに伝送される前記第1オーディオ信号と、残りのペアのスピーカードライバーに伝送される前記第2のオーディオ信号を伴う、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項12】
前記第1オーディオ信号および前記第2オーディオ信号は、前記スピーカーシステム内の同じ数のドライバーに提供される、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項13】
前記第1オーディオ信号および前記第2オーディオ信号は、前記スピーカーシステム内の異なる数のドライバーに提供される、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項14】
前記第2オーディオ信号は、前記スピーカーシステム内の前記第1オーディオ信号よりも少ないスピーカードライバーに提供される、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項15】
複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットと、
前記複数のペアのそれぞれに実装された少なくとも2つのスピーカードライバーであって、各密閉スピーカーキャビネットは、少なくとも1つのスピーカードライバーを収容し、少なくとも1つのスピーカードライバーは、スピーカードライバーが実装されている前記密閉スピーカーキャビネットから外側に向き、少なくとも1つのスピーカードライバーは、スピーカードライバーが実装されている前記密閉スピーカーキャビネットの内側に向いている、少なくとも2つのスピーカードライバーと、
第1オーディオ信号を受信し、前記第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成され、前記第1オーディオ信号は、前記複数のペアの少なくとも1つのペア内の前記スピーカードライバーに伝送され、前記第2オーディオ信号は、前記複数のペアの他の少なくとも1つのペア内の前記スピーカードライバーに伝送される、オーディオ処理装置と、を備え、
各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットは、そのペアの他の密閉スピーカーキャビネットに強固に固定されている、
スピーカーシステム。
【請求項16】
複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットと、
前記複数のペアのそれぞれに実装された第1および第2スピーカードライバーであって、各密閉スピーカーキャビネットは、ドライバーを収容し、各ドライバーは、ドライバーが実装された前記密閉スピーカーキャビネットから外側に向いている、第1および第2スピーカードライバーと、
第1オーディオ信号を受信し、前記第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成され、前記第1オーディオ信号は、前記複数のペアの少なくとも1つのペア内の前記第1および第2スピーカードライバーに伝送され、前記第2オーディオ信号は、前記複数のペアの他の少なくとも1つのペア内の前記第1および第2スピーカードライバーに伝送される、オーディオ処理装置と、を備え、
各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットは、そのペア内の他の密閉スピーカーキャビネットに直接的または間接的に強固に固定されている、
スピーカーシステム。
【請求項17】
前記オーディオ処理装置は、さらに、デジタル・アナログおよびアナログ・デジタル変換器を含む、請求項16に記載のスピーカーシステム。
【請求項18】
前記スピーカードライバーのそれぞれは、サブウーファースピーカードライバーである、請求項16に記載のスピーカーシステム。
【請求項19】
前記第2オーディオ信号は、モノポールモードでは前記第1オーディオ信号に対して同相であり、ダイポールモードまたはカーディオイドモードでは前記第1オーディオ信号に対して逆相である、請求項1に記載のスピーカーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンパクトスピーカーシステムに関する。より具体的には、本開示は、制御された指向性出力モードを含むユーザにより選択可能な出力モード(例えば、選択可能なモノポール、ダイポールまたはカーディオイド放射パターン)を伴うコンパクトスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
記録された又は増幅された音をオリジナルの音源に忠実に再生することは、ラウドスピーカーの設計者に多くの難題を提起する。低周波音波の特性および挙動を考慮すると、ベースおよびサブベース周波数を正確に再生することは特に難題である。
【0003】
問題は「音響的に小さい」と考えられる非無響室で重大である。生成される音の波長の数倍以下の寸法の非無響室は、音響的に小さいと考えられ得る。例えば、20Hzの音波(西部楽器音楽の範囲内)は華氏70度の温度の空気中で約17メートルの波長を有し、典型的な家の部屋の最大寸法よりもはるかに大きい。
【0004】
モノポールスピーカーが置かれた非無響室の寸法が、再生される低周波波長の数倍以下しかないとき、壁、天井および床でのスピーカー出力の数多くの反射がその室内での定在波となり、音質に有害な影響を伴う。定在波は、反対方向に進む2つの波の間での強め合う又は弱め合う干渉の結果であり、典型的には、波が部屋の境界からの波の反射に出会うことにより生成される。
【0005】
定在波の生成は、最も重要な2つの有害な影響を有する。1つ目は、周波数応答において可聴のピークおよびヌルが生成される(スピーカーの位置および部屋の内容物および境界に関連する)。2つ目は、これらのピークおよびヌルはそれらの性質上、非常に局在的であり、部屋内の位置により急速に変化する圧力および速度の特性を伴う。その結果、わずかな距離であってもリスニング位置の移動は、ベース応答において顕著かつ可聴的な変化をもたらし得る。
【0006】
モノポールスピーカー設計(例えば、密閉型設計およびバスレフ型設計)は、その性質により、非無響の音響的に小さな部屋内で多くの定在波を生成する。これは、低周波で、すなわち、その音を生成するドライバーのサイズの関係で生成される波長のサイズが大きいとき、モノポールスピーカーは無指向性だからである。すなわち、音の放射パターンは、球形となり、部屋の境界と最大限に相互作用する。
【0007】
ラウドスピーカーにより生成される音波の指向性を制御することは、上述されたいくつかの問題を軽減し(すなわち、より小さな相互作用により又はより少ない部屋の境界でもって)、生成される反射および定在波をより少なくする。
【0008】
1つの現存の制御された指向性の設計は、従来のダイポールスピーカーである。生成された同相信号と非同相信号との間でのキャンセルにより、ダイポールベーススピーカーは両側にヌルをもつ8の字放射パターンを生成し得る。これにより、ダイポールスピーカーは、モノポールスピーカーに比べて、スピーカーの両側に位置した部屋の境界との相互作用がはるかに小さい。ダイポールスピーカーは、リスニング室内でいかなる正味の圧力変化も生成できないので、部屋を加圧できるシステム(例えば、モノポールおよびカーディオイド設計)よりも、リスニング室に隣接する部屋に生成するノイズを少なくする傾向があり、都会の環境において有利であり得る。しかしながら、ダイポールドライバーの音を生成する能力は、ドライバーの前と後の間の経路長差に依存する。この経路長は、再生される波長に関して短くなるにつれて、すなわち、漸進的に低くなる周波数において、ダイポールスピーカーの音を生成する能力は漸進的に減少して、意図された音がこれ以上生成されない点に達する。
【0009】
したがって、ダイポールスピーカーは、低周波を大音量で生成するには大きなドライバー面積を要し、顕著な空気力学的ノイズを生成し、そして、非無響室において部屋の最大寸法の2倍、すなわち部屋の基本共鳴、に対応する波長を有する周波数よりも低いベースを生成することができない。
【0010】
カーディオイドスピーカーも、制御された出力指向性を提供するために採用されてきている。カーディオイドスピーカーは、原理的には、同相放射器と非同相放射器(従来のダイポールにおいてドライバーの前後側により表される)の間の隔離距離を伴うダイポールスピーカーである。カーディオイド設計は、正しく実装されたとき、ダイポールと類似しているが、増大された前方放射パターンおよび減少された後方放射パターンを伴う放射パターンを生成し得る。
【0011】
ダイポールおよびカーディオイドスピーカー設計は、どちらも、制御された指向性を提供する。すなわち、ダイポールおよびカーディオイドスピーカー設計は、部屋との相互作用はモノポールスピーカーに比べて小さく、そのため深刻な定在波パターンの生成がはるかに小さくなる。また、ダイポールおよびカーディオイドスピーカーは、どちらも、低周波でモノポール放射器に比べてより好ましいパワー応答、すなわち、リスナーにより感知される直接(非反射)音のパワーとわずかな遅延を伴う反射音場のパワーとの間のより好ましい比、を提供する。
【0012】
しかしながら、ダイポールスピーカーとは異なり、カーディオイドスピーカーの出力は、部屋の基本共鳴よりも低い周波数を含む任意の低周波まで及び得る。そして、モノポールスピーカーとは異なり、カーディオイドスピーカーは、リスナーに大きな「スイートスポット」を生成し得、リスニング位置の変化に伴う周波数応答の変化がより小さくなり得る。
【0013】
業務用音補強アプリケーションにおいて主に使用される従来のカーディオイドスピーカーは、制御された指向性の出力を生成するが、従来のTS(Thiele-Small)ドライバー搭載技術、すなわち、密閉型またはバスレフ型キャビネット内に実装された状態での基本共鳴周波数の上の周波数でドライバーの使用を最適化する技術、を使用する。当業者に理解されているように、TSパラメータは、定義された容積のエンクロージャー内に実装されたラウドスピーカードライバーの特定の低周波性能を予測する電気機械的パラメータのセットである。これらの測定されたパラメータを利用して、ラウドスピーカーの設計者は、ラウドスピーカーおよびエンクロージャーを備えるシステムの音出力を推定又はシミュレートし得る。これらのスピーカー設計技術は、スピーカーの低周波数限界を低減するため、および、バスレフ設計においてはポートチューニング周波数を下回れないように、これまでになく大きなキャビネット容積に依存する。非常に低い周波数の音を再生するのに要求され得るこのような大きなキャビネット容積は、例えば、家庭生活空間又はスタジオ制御室内では、多くの場合都合が悪い。
【0014】
ある現存の低周波数再生に利用されるモノポールスピーカーは、いわゆる拡張低周波(Extended Low Frequency: ELF)ドライバー搭載手法を、重要なイコライゼーションと組み合わせて使用することにより、大きなキャビネット容積の欠点に対応している。ELFスピーカーでは、スピーカーキャビネット容積は、従来のTS手法で典型的であろうものよりも小さく、ドライバーの動きに抵抗する高いキャビネット空気圧および高い基本ドライバー共鳴をもたらす。このような設計では、ドライバーは、密閉型キャビネットに実装された状態でのその基本共鳴周波数よりも低周波数で運用される。
【0015】
同じドライバーを前提とすると、そのようなスピーカーを要求されたリスニングボリュームに駆動するためには、従来のTS技術で設計されたスピーカーに要求されるものよりもより大きな増幅器パワーを要求する(ELF設計よりもはるかに大きなエンクロージャーをもたらす)。ELFスピーカー設計は、また、平坦な出力を維持するために、低周波数の顕著な正の電気的イコライゼーションを要する。
【0016】
従来のスピーカー設計手法は、選択可能な指向性または「出力パターン」、すなわち、モノポール(球状/無指向性)、ダイポール(いわゆる8の字指向性)、または、カーディオイド(増大されたフロントローブおよび低減されたリアローブを伴うダイポールに類似した指向性)を提供しない。しかしながら、ユーザは、どの出力パターンを使用するかを選択することを要望するかもしれず、各出力パターンが長所および短所を有するので日々出力を変更することを要望するかもしれない。非無響室の隅に設置されたモノポール放射器は、全ての部屋のモードを最大限に刺激し、部屋補正(すなわち、増幅応答でのピークを下げる電気的イコライゼーション)と組み合わせて、これは、特にある増幅器パワー性能にとって最大音量を達成するのに運用の望ましいモードであり得る。ダイポール放射器は、制御された指向性を提供し、隣接する部屋に生成される音の漏洩ノイズを小さくし、これはアパートメントに住んでいる人々あるいは他の密集した都会の住宅環境に適し得る。カーディオイド放射器は、広いスイートスポットおよび低減された定在波(モノポールに比べて)を伴うが、ダイポールとは異なり、部屋の寸法にかかわらず任意の低周波数まで及ぶ(理論的に)制御された指向性を提供する。
【0017】
従来のスピーカー設計手法は、カーディオイドおよびモノポール(ELFまたは従来のTS設計を含む)のどちらも偶数次高調波歪み、特に2次高調波歪み、を考慮していない。通常、2次高調波歪みは、スピーカードライバーの高調波歪みスペクトルで支配的であるため、そして、人間の耳は、基音に対するよりも、ベース音での歪み成分の周波数により敏感であるため、2次高調波歪みが低周波で最も聴取可能である。
【0018】
従来のスピーカー設計手法は、また、動くドライバーにより生成される振動力をキャンセルしようとはしておらず、それゆえ、キャビネットから部屋へと再放射される振動エネルギーを低減するために大規模に構築され減衰されたキャビネットを採用し、高コストおよび大重量となり得る。
【0019】
したがって、制御された指向性出力モードを含むユーザによる選択可能な運用のモードを、任意の低周波数の音を精度よく再生する能力を伴って提供し(十分なドライバー表面積、エクスカーション性能および増幅器パワーを考慮して)、不所望のキャビネットの振動エネルギーをキャンセルし、かつ、偶数次高調波歪み、特に2次高調波歪み、を低減する、ラウドスピーカーシステムの需要がある。さらに、非同相要素の調整可能な遅延の手段により、ダイポールモードおよび選択されたクロスオーバー周波数(ツイーターのような他のスピーカー放射要素との)ではカーディオイドモードで放射パターンを最適化する需要がある。
【0020】
さらに、家庭またはスタジオでの使用に適したコンパクトパッケージでこれらの特性を提供するラウドスピーカーシステムの需要がある。
【発明の概要】
【0021】
ある実施形態では、各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットが、そのペア内の他の密閉スピーカーキャビネットに強固に固定されるように、複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットを含む。このシステムは、さらに、複数のペアのそれぞれに実装された第1および第2スピーカードライバーを含む。第1スピーカードライバーは、主要音放射を発する第1面と、第1面の反対の第2面とを有する。第2スピーカードライバーは、主要音放射を発する第1面と、第1面の反対の第2面とを有する。第1スピーカードライバーの第1面は、第1スピーカードライバーが実装されている密閉スピーカーキャビネットから外側に向き、第2スピーカードライバーの第1面は、第2スピーカードライバーが実装されている密閉スピーカーキャビネットの内側に向いている。このスピーカーシステムは、さらに、各密閉スピーカーキャビネットの第1および第2スピーカードライバーに信号通信され、第1オーディオ信号を受信し、第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成されたオーディオ処理装置を備える。第1オーディオ信号は、複数のペアの少なくとも1つのペア内の第1および第2スピーカードライバーに伝送され、第2オーディオ信号は、複数のペアの他の少なくとも1つのペア内の第1および第2スピーカードライバーに伝送される。
【0022】
他の実施形態では、スピーカーシステムは、複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットと、複数のペアのそれぞれに実装された少なくとも2つのスピーカードライバーとを含む。各密閉スピーカーキャビネットは、少なくとも1つのスピーカードライバーを収容し、少なくとも1つのスピーカードライバーは、スピーカードライバーが実装されている密閉スピーカーキャビネットから外側に向き、少なくとも1つのスピーカードライバーは、スピーカードライバーが実装されている密閉スピーカーキャビネットの内側に向いている。このスピーカーシステムは、さらに、第1オーディオ信号を受信し、第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成されたオーディオ処理装置を含む。第1オーディオ信号は、複数のペアの少なくとも1つのペア内のスピーカードライバーに伝送され、第2オーディオ信号は、複数のペアの他の少なくとも1つのペア内のスピーカードライバーに伝送される。各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットは、そのペアの他の密閉スピーカーキャビネットに強固に固定されている。
【0023】
さらに他の実施形態では、スピーカーシステムは、複数のペアに配置された複数の密閉スピーカーキャビネットと、複数のペアのそれぞれに実装された第1および第2スピーカードライバーとを含む。各密閉スピーカーキャビネットは、ドライバーを収容し、各ドライバーは、ドライバーが実装された密閉スピーカーキャビネットから外側に向いている。このスピーカーシステムは、さらに、第1オーディオ信号を受信し、第1オーディオ信号を処理して第2オーディオ信号を生成するように構成され、第1オーディオ信号は、複数のペアの少なくとも1つのペア内の第1および第2スピーカードライバーに伝送され、第2オーディオ信号は、複数のペアの他の少なくとも1つのペア内の第1および第2スピーカードライバーに伝送される、オーディオ処理装置を含む。各ペア内の各密閉スピーカーキャビネットは、そのペア内の他の密閉スピーカーキャビネットに直接的または間接的に強固に固定されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
添付された図面では、下記の詳細な説明とともに、クレームされた発明の例示的実施形態を説明する構造が示されている。類似要素は同じ参照番号で特定される。単一部品として示された要素は多部品に置き換えられ得、多部品として示された要素は単一部品に置き換えられ得ることは理解されるべきである。図面は縮尺どおりではなく、ある要素の比率は説明の目的で誇張され得る。
【0025】
図1図1は、ある実施形態のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。
【0026】
図2図2は、図1に示されたラウドスピーカーの部分側面図である。
【0027】
図3図3は、ある実施形態のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。
【0028】
図4図4は、ある実施形態のラウドスピーカーシステムの機能部品のブロック図である。
【0029】
図5図5は、代替構成のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。
【0030】
図6図6は、他の代替構成のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。
【0031】
図7図7は、さらに他の代替構成のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
モノポール(無指向性)、または、ダイポールあるいはカーディオイド放射パターンにて制御された指向性出力を選択するオプションを伴うスピーカーシステムが開示される。例示的実施形態では、スピーカーは、非同相要素の調整可能な電気的遅延とともに、力のキャンセルおよび偶数次高調波歪みのキャンセル(特に、2次高調波歪みのキャンセル)の両方を提供する、家庭またはスタジオでの使用に適したコンパクトアセンブリ内でのドライバーの物理的配置を伴って実装される。
【0033】
図1は、ある実施形態のラウドスピーカーアセンブリの斜視図である。図示された実施形態では、ラウドスピーカーアセンブリは、4つのスピーカードライバー110a、110b、110cおよび110dを含む。ある実施形態では、スピーカードライバー110a、110b、110cおよび110dは、それぞれ、サブウーファーであり、すなわち、ベースまたはサブベースとして知られる低周波音域の再生専用のラウドスピーカーである。サブウーファーの例示的周波数域は、民生製品用では約20~200Hz、プロフェッショナルのライブ音では100Hz未満、THX認定システムでは80Hz未満である。ある実施形態では、スピーカーのサイズは、直径3インチから21インチである。他の代替的実施形態では、スピーカーのサイズは、直径3インチ未満である。他の代替的実施形態では、スピーカーは、21インチおよび60インチの間の直径を有する。ここで、スピーカードライバー110a、110b、110cおよび110dのそれぞれは、同一である。代替的実施形態では、1以上のスピーカーは他とは異なり得る。
【0034】
各スピーカードライバーは、同一の密閉チャンバー(120a、120b、120c、120d)内に実装され得る。密閉チャンバーは、TSモデリングが提唱するよりも小さな容積を提供し、ドライバーが密閉チャンバーに実装された状態での基本共鳴周波数未満でドライバーが運用されるシステムをもたらす。個々の密閉キャビネット130a、130b、130c、130dが設けられ、それらが密閉チャンバー120a~120dを画定し、ドライバー110a~110dを収容する。
【0035】
図示された実施形態では、各密閉キャビネットは、2つのドライバーを格納する単一ユニットとして形成され、各ドライバー用の個別のチャンバーを画定するためのキャビネット内に固定された隔壁を伴う。他の構成も可能であり得、各スピーカードライバー(または同一の入力シグナルを受ける複数のドライバー)は、独立した密閉チャンバーに設けられる。
【0036】
例示的実施形態では、ドライバーは、従来のコーン型ドライバーであり得る。代替的実施形態では、コーン型とは異なるドライバーが使用され得るが、後述の通り、偶数次高調波歪みの削減効果が低減し得る。
【0037】
例示的な4ドライバー構成では、2つのドライバーは同相信号に接続され、一方、残りの2つのドライバーは、モノポールモードでは、その同相信号と同じ信号に接続され、ダイポールモードでは、遅延および位相反転を除いてその同相信号と同じ信号に接続され、カーディオイドモードでは、遅延、位相反転および可能性としては振幅を除いてその同相信号と同じ信号に接続される。
【0038】
図1に示すように、互いに対向するペアのドライバーごとに、1つのドライバーは、ドライバーのモーターがその密閉チャンバー内に実装され、1つのドライバーは、ドライバーのモーターがそのチャンバー外に実装されて、この場合、モーターは反対のドライバーに対向する。各ドライバーペアは、内向きのドライバーのモーター構造体が他のドライバーの外向きのメンブレンに入り込むように実装される。
【0039】
図2は、図1に示されたラウドスピーカーの部分側面図であり、例示的な内向き/外向きドライバー構成を図示する。ラウドスピーカーのペアは、2つのドライバーのメンブレンが、入力信号の印加を受けて、同時に、互いに向かって(そして次の瞬間に、互いに離れて)動くように配線されている。当業者に理解されるように、代替的なドライバー配列も使用され得、これは各ドライバーのモーターが密閉チャンバー内に実装された構成を含む。
【0040】
密閉キャビネット130a~130dは、あらゆる素材から形成され得る。素材は、ドライバーを支持し密閉チャンバーを画定できるものから選択され得る。例示的な好適素材は、以下に限られないが、木材、パーティクルボード、カーボンファイバ、金属、繊維ガラス、ポリマー、セラミック、コンクリート、石材、複合素材、などを含む。密閉キャビネットの素材選択には美的配慮も検討され得る。密閉キャビネットは、継手、接着剤、エポキシ、釘、ねじなどの従来の方法を利用して結合された、望ましい素材の個々の部品から形成されてもよい。エンクロージャーは、スピーカー性能を最大化するため圧力リークを実質的になくすべきである。
【0041】
使用されるドライバーの特性、要求されるイコライゼーションの量、および、利用可能な増幅器パワーは、使用されるキャビネットの特定のサイズに影響する。ソフトウェアプログラムは、最適なキャビネット容量の計算に使用され得る。
【0042】
各ドライバーペアにおいて、個々の平行な密閉チャンバーは、直接的(例えば、留め具またはクロスバーを介して)または間接的(例えば、共通の固定床、天井、または、その類似要素にボルト留めされることにより)に互いに強固に連結されている。図1に戻り、前方と後方のアセンブリを連結する、例示的な留め具140a、140b、140c、140d、140eおよび140fが示される。留め具は、運用中にスピーカードライバーにより生成された力を伝達可能なあらゆる素材からなり得る。
【0043】
図3を参照し、それぞれがドライバーのペアを備える2つの機能ユニット(310、320)と、高周波用のメインスピーカーアレイ(330、340)のペアを伴う例示的なステレオリスニング構成が示される。
【0044】
留め具は、木材、合板、中密度繊維板、鉄、アルミニウム、複合素材、カーボンファイバ、ポリマー、セラミックなどのような固い素材からなり得る。留め具は、軽量かつ見て美しいことを維持しつつ留め具の強度を増強する特徴を有してもよく、管形状、または、強度、自己制振その他の留め具に望ましい特性を増強するそれ以外の形状といった、あらゆる好適な形態をとり得る。
【0045】
増幅および信号処理機能が、スピーカーアセンブリ内に実装されるように設けられてもよく、ユニット外の個別の部品として設けられてもよい。図4は、システムの機能ユニットのブロック図を示し、アナログ・デジタルおよびデジタル・アナログ変換器、増幅、イコライゼーション、および、電気信号遅延を含み得る。
【0046】
アナログ・デジタルおよびデジタル・アナログ変換器は、信号を望ましい精度で変換できるあらゆるタイプの変換器であり得る。なお、システムが低周波域で運用するために実装されている場合、スピーカーが広い周波数域にわたり使用される場合に比べて、アナログ・デジタルおよびデジタル・アナログ変換において低分解能で十分であり得る。
【0047】
また、各信号(同相信号および非同相信号)用の増幅器が実装され得る。増幅器はスピーカーが使用される周波数域内で運用可能であるべきである。
【0048】
ある実施形態では、システムは、遅延および位相反転された信号を、対応するドライバーペアに任意に供給するため遅延回路および位相反転回路を組み込んでいる。遅延は、電気的手段により調整可能であってもよい。モノポールモードでは、遅延は、ゼロに設定される。ダイポールモードでは、遅延は、例えば、0.5ミリ秒~2.0ミリ秒の範囲内で近似的な経路長差(従来のダイポールシステムでバッフルにより、および、システムの前方出力と後方出力の間の経路長を延長するためにシステムに適用されるバッフル拡張により生成されるような)に設定され得る。0.5ミリ秒と2.0ミリ秒は、それぞれ近似的に0.17メートルと0.69メートルに対応する(海抜ゼロ付近での音速を約343メートル毎秒とし、経路長差は遅延と音速の積であるとして)。カーディオイドモードでは、一定の遅延は、最適には、所望のクロスオーバー周波数の周期の半分に対応するが、周波数に応じて変化するようにプログラムされてもよい。例えば、所望のクロスオーバー周波数が80Hzの場合、遅延は、6.25ミリ秒(すなわち、80Hzの周波数の全周期の半分)に設定され得、これは同相信号および逆相信号の間の約2.14メートルの経路長差に対応する。遅延回路は、デジタルドメイン内に遅延を導入し得えるが、このような遅延は、信号がデジタルドメインに変換される前または後で実施されてもよい。
【0049】
ある実施形態では、複数の増幅チャネルが、同相ドライバーペア用の1つの専用の増幅チャネルと、非同相ドライバーペア用の2つ目の専用の増幅チャネルに提供されている(モノポールモードでは1つのアンプが全てのドライバーを供給するために使用され得るが、ダイポールモードおよびカーディオイドモードには少なくとも2つのアンプが必要である)。また、個々のドライバーに個別の増幅チャネルを設けることも可能である。アンプは、ドライバーのケースに一体化されてもよく、自立型でもよい。
【0050】
アナログ・デジタル変換器、遅延回路、および、デジタル・アナログ変換器は、全て単一の回路基板上に組み込まれてもよく、異なるエンクロージャー内に実装されてもよいことが理解されるべきである。単一の回路基板に実装される場合、その電子機器は、スピーカーキャビネット内に統合されてもよく、複数のアンプを含むステレオアンプ内に実装されてもよい。
【0051】
デジタルまたはアナログのイコライゼーションも、システムの低周波数応答を上げるために設けられる。
【0052】
以下、例示的実施形態の動作が記述される。
【0053】
ある実施形態では、モノラルのオーディオ信号がシステムにより受信される。図4に示すように、オーディオ信号はアナログ信号またはデジタル信号であり得る。デジタル信号は、追加処理なく遅延回路430に直接に伝送され、一方、アナログ信号は、まずアナログ・デジタル変換器420に受信されデジタルドメインに変換されてもよい。システムは、アナログ信号およびデジタル信号の両方を受信して追加処理について決定できることとしてもよい。代替的実施形態では、システムは、アナログドメインでの信号のみ、または、デジタルドメインでの信号のみを受信するように装備されていてもよい。
【0054】
デジタル信号は、既知技術の手段により複製され得る。デジタル遅延回路430は、そして、一定の時間量(モノポールモードではゼロ、ダイポールモードでは、例えば0.5~2.0ミリ秒、および、80Hzのカーディオイドクロスオーバー周波数を実現するために、例えば、6.25ミリ秒)だけ、または、可能なら周波数に応じて変化する時間量だけ、複製信号を遅延させる。
【0055】
位相反転は、様々な方法で実現し得、ある実施形態では、位相反転はモノポールモードでは使用されない。あるいは、位相反転は、アンプからオーディオドライバーペアへの駆動配線の極性を逆転させることにより実現し得る。
【0056】
2チャンネルを処理する能力を有するデジタル・アナログ変換器440a、440bは、2つのデジタルデータストリームを受信する。2つのデジタルデータストリームは、遅延能力を提供するデジタル回路430からの遅延(および、出力モードに応じて位相反転および振幅もあり得る)を除き同一である。ある実施形態では、イコライゼーションが、デジタル的にかけられる。これは、遅延回路の前でも後でもよい。しかしながら、イコライゼーションは、代わりに、アナログドメイン内に単独でかけられてもよく、デジタルとアナログのイコライゼーション要素の組み合わせであってもよい。
【0057】
遅延および無遅延のアナログ信号は、その後、それぞれ遅延および無遅延の各信号用のアンプ450a、450bのペアに印加される。ある実施形態では、アンプ450a、450bは、機能的には同一であり、あるとすればパワー出力のみが異なる(アンプはモノポールモードとダイポールモードでは異なるべきではないが、カーディオイドモードでは異なり得る)。各増幅信号は、その後、空間的に構成されたオーディオドライバーの同じペアに印加される。
【0058】
信号は、信号経路に沿う様々な個所でイコライズされ得る。例えば、イコライゼーションは、アナログドメイン内、信号が無遅延ストリームおよび遅延ストリームに分割される前のデジタルドメイン内、信号が分割された後のデジタルドメイン内、および、デジタル・アナログ変換後のアナログドメイン内で行われ得る。
【0059】
4つのドライバーの例示的実施形態では、ドライバーの1つのペアは、アンプ450aを介して、イコライゼーションを伴うが遅延を伴わずに駆動され得る。ドライバーの別の2つ目のペアは、アンプ450bを介して、同相(モノポールモードの場合)または逆相(ダイポールモードおよびカーディオイドモードの場合)で駆動され得る。ダイポールモードでは、逆相信号は、一定量だけ遅延され、同相信号に比べて減衰されない。一方、カーディオイドモードでは、逆相信号は、一定量だけまたは任意的に周波数依存遅延だけ、遅延され得る。カーディオイドモードでは、逆相信号の減衰、すなわち追加の増幅、が任意に採用され得る。
【0060】
ある実施形態では、スピーカーシステムは、次に挙げる事項の全てを家庭およびスタジオでの使用に適したコンパクトアセンブリ内に提供する。ダイポールモードおよびカーディオイドモード(非同相信号の選択された電気的遅延を通じた調整可能な特定の放射パターン特性を伴う)では制御された指向性を伴う選択可能な指向性(モノポール、ダイポール、または、カーディオイド)。ドライバー、選択されたELFキャビネット容量、イコライゼーションレベル、および、付随するアンプにのみよる(部屋の寸法またはTSモデリング技術により決定される大きくて場合によっては不便なキャビネット容量によるのではなく)カーディオイドモードでの周波数応答。ドライバーによりキャビネットに伝送される機械的力のキャンセル。特に2次高調波歪みを含む偶数次高調波歪みのキャンセル。
【0061】
いくつかの実施形態では、同相ドライバーペアは主要音波面を生成する。モノポールモードでは、全てのドライバーは、遅延または位相反転の無い同じ信号に提供される。ダイポールモードおよびカーディオイドモードでは、非同相ドライバーペアは、選択的キャンセル(すなわち、弱め合う干渉)を提供する位相反転され遅延された波面を生成する。非同相ドライバーが最小限の遅延(例えば、0.5~2.0ミリ秒)を伴って運用される場合、その結果としての放射パターンは、従来のダイポールパターンに近似し、あるリスナーには望ましいかもしれない。次第に大きくなる遅延を伴って、選択的キャンセルは、カーディオイド放射パターンを有する制御された指向性をもたらす。上述の通り、カーディオイド放射パターンは、より広いリスナースイートスポットを提供し、類似のモノポールスピーカーに比べて周波数応答において減少されたピークおよびヌルを提供し、加えて、同じドライバーおよびアンプの補完を伴うダイポールシステムで達成可能なものに比べてより低い周波数出力を提供する。次表は、異なる出力モード間での動作設定の相違点をまとめる。
【0062】
【表1】
【0063】
電気的遅延回路は、非同相出力の全周波数で固定の遅延(または可能なら周波数依存遅延)を維持するために使用され得る。いくつかの実施形態では、電気的遅延は、カーディオイドモードでは、付随するサテライトスピーカーまたはメインスピーカーにクロスオーバー点の変化を提供するため、調整可能である。(クロスオーバー点の上昇に従い、要求される遅延が、システム遅延がダイポールモードと同じになるように遅延が短くなる点まで低下する。例えば、2ミリ秒の遅延の非同相信号で実装されたダイポールは、非同相信号の振幅は必ずしも同じでなくてもよいが、500Hzのクロスオーバー点で実装されたカーディオイドと同一の遅延を有し得る。0.5ミリ秒の遅延で実装されたダイポールは、2000Hzのクロスオーバー点で実装されたカーディオイドと同一の遅延を有し得る。)
【0064】
電気的遅延は、それが周波数にかかわらず非同相信号の遅延の完全な制御を提供することから、機械的遅延(例えば、同相ドライバーペアのキャビネット内に導入されて繊維ガラスシートのような音響抵抗要素で充填された穴により提供される)とは異なる。さらに、電気的制御は、非同相信号の減衰(ゼロまたは非ゼロ)が出力周波数および出力レベルの変化に対して一定のままであることから、カーディオイドスピーカーを実装する機械的試みよりも優れている。最後に、電気的制御は、妥協無しに、ユーザにより選択可能な出力指向性モード、例えば、モノポール、ダイポールまたはカーディオイド、を許容する。
【0065】
ある実施形態では、ドライバー実装スキームは、偶数次高調波歪みキャンセル、特に2次高調波歪みキャンセルを提供する。動きのあるトランスデューサーは、偶数次高調波歪み生成物、すなわち、入力周波数の偶数の整数倍の周波数を伴う不所望の出力を生成し得る(例えば、40Hzの入力信号は、80Hzに2次高調波歪み生成物、160Hzに4次歪み生成物、240Hzに6次生成物などを有し得、通常、2次高調波歪み生成物が振幅で最も顕著である)。1つのドライバーの「前方」から発される偶数次高調波歪み生成物が類似のドライバーの「後方」あるいは反対側から発される非同相の偶数次高調波歪み生成物と出会うように類似のドライバーペアを配置することにより、偶数次高調波歪み生成物は、特に2次高調波歪み生成物において、弱め合う干渉の対象となり、潜在的には10dB以上、実質的に減衰される。
【0066】
図示された実施形態に設けられたクロスバーおよび留め具は、ドライバーからエンクロージャーへ伝達される力のキャンセルを提供し、不所望のノイズとなるアセンブリ全体の振動を最小化する。
【0067】
ここで説明されたシステムは、コンパクト密閉エンクロージャーシステムとして特徴づけられ得る。既知の低周波スピーカーは、ドライバーが内包空気体積を圧縮および交互に膨張するので適度または最小のエンクロージャー圧を提供するように十分に大きな密閉容量を維持しつつ、ドライバーの背面により生成された非同相信号を受けるためにエンクロージャーチャンバーを利用する。このような構成は、所望の能力特性に合うように選択されたドライバーに十分なエンクロージャー容積を決定するため、従来のTSモデリング技術を利用する。キャビネット内に実装された状態でのその基本共鳴周波数未満でドライバーを駆動する拡張低周波(ELF)実装を採用することにより、および、追加的な増幅器パワーを提供することにより、エンクロージャーのサイズは、キャビネット内に実装された状態でのその基本共鳴周波数の上でドライバーを運用する従来のTS法を採用したスピーカーに比べて、顕著に低減され得る。さらに、適切なドライバー表面積、エクスカーション能力、適切なイコライゼーション、および、増幅器パワーを考慮すると、スピーカーがカーディオイドモードまたはモノポールモードで運用されるとき、ダイポール設計とは異なり、スピーカーは任意の低周波応答を見せる。
【0068】
最後に、低周波数のイコライゼーションは、いくつかの実施形態において、ドライバー面積、エクスカーション制限、キャビネット容積、および、増幅器パワーにより設定される制限に、フラットな周波数応答を維持するために、提供される。
【0069】
上述のドライバー構成に関する変形例が採用され得、それらは本発明の範囲内であり得る。例えば、スピーカーシステムは、4つのドライバーの単位の掛け算で拡張され得る。あるいは、スピーカーシステムは、2ペアの同相ドライバーおよび1ペアの非同相ドライバー(モノポールモードでは、全ドライバーが同相で動作する)を伴う3つに拡張され得る。システムは、同相ドライバーペアに同じドライバーを採用し、非同相ドライバーペアに異なるドライバー型を採用し得る。代替的実施形態では、ドライバーペアを他の構成で配置することは可能であるが、垂直にドライバーペアを積み上げることが床に配置されたスピーカーにとって要求される床スペースを最小化し得る。例えば、4つのドライバーの各グループ内の同相ペアが「前」(すなわち、リスナーの近く)に位置し、同相ドライバーの真後ろの非同相ペアを伴うこととしてもよい。あるいは、単一の軸が各ドライバーモーター構造体の中心を通過するようにドライバーペアが横に配置されていてもよい。多数の代替形態が考えられるが、図5図7に3つの例示的変形例を示す。
【0070】
上述の図示された実施形態の当業者にとって容易な多数の変形があることは理解されるであろう。例えば、ここに個別に開示されたまたはクレームされた特徴の組み合わせを含み、そのような特徴の追加的組み合わせを明示的に含む圧縮コネクタアセンブリまたはその部品、または、コンタクトアレイコネクタの他の型の多くの変形例がある。また、素材または構成において多くの可能性のある変形例がある。これらの変形例または組み合わせは、本発明が関係する技術の範囲内にあり、かつ、後述のクレームの範囲内であると意図されている。なお、慣習通り、クレーム内で単数形の要素の使用は、1以上のそのような要素をカバーすることを意図している。
【0071】
用語「含む(includes)」または「含む(including)」が明細書または請求の範囲内で使用されている限り、それは用語「備える(comprising)」がクレーム内の遷移語(transitional word)として採用されたときに解釈されるように、用語「備える(comprising)」と同様に包括的(inclusive)であることが意図されている。さらに、用語「または」が採用されている限り(例えば、AまたはB)、それは「AまたはBまたは両方」を意味することが意図されている。出願人が「AまたはBのみであり、両方ではない」ことを示すことを意図するとき、用語「AまたはBのみであり、両方ではない」が採用される。このように、ここでの用語「または」の使用は、包括的であり、排他的使用ではない。Bryan A. Garner, A Dictionary of Modern Legal Usage 624 (2d. Ed. 1995)参照。また、用語「内」または「内に」が明細書または請求の範囲内で使用されている限り、それは追加的に「上」または「上に」を意味することを意図されている。さらに、用語「接続する」が明細書または請求の範囲内で使用されている限り、それは「直接的に接続される」だけでなく、他の部品または他の複数の部品を通じて接続されるような「間接的に接続される」も意味することを意図されている。
【0072】
本出願がその発明を実施するための形態により説明されており、また、実施形態が極めて詳細に説明されている一方で、添付されたクレームの範囲をそのような詳細に限定する、または、いかなる方法でも制限することは出願人の意図ではない。追加的な優位点および変形例は当業者には容易に出るであろう。それゆえ、本出願は、その広い観点で、特定の詳細、代表的な装置および方法、および、図示または説明された実例には限定されない。したがって、出願人の全体の発明概念の精神または観点から逸脱することなく、発展がそのような詳細からなされ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7