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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】冷凍麺
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230315BHJP
【FI】
A23L7/109 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019015001
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020120617
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】397013148
【氏名又は名称】兵庫県手延素麺協同組合
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 信岳
(72)【発明者】
【氏名】吉村 美紀
(72)【発明者】
【氏名】高山 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】長野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】細田 捺希
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-316507(JP,A)
【文献】特開2010-178726(JP,A)
【文献】特開2009-225736(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078752(WO,A1)
【文献】特開2002-281924(JP,A)
【文献】特開平09-201175(JP,A)
【文献】特開昭58-224654(JP,A)
【文献】特公平06-002032(JP,B2)
【文献】特開2006-067845(JP,A)
【文献】特開2007-189942(JP,A)
【文献】特開2017-212890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主成分とする麺原料からなる乾麺が、茹で調理後に冷凍されており、
上記小麦粉に対して、0.5質量%以上10質量%以下の非水溶性セルロースが配合されており、
上記乾麺が手延べ干し麺であり、上記非水溶性セルロースが結晶セルロースであり、常温の水で解凍できる冷凍麺。
【請求項2】
上記乾麺の太さが2.0mm未満である、請求項1に記載の冷凍麺。
【請求項3】
上記手延べ干し麺が、手延素麺である請求項1又は2に記載の冷凍麺。
【請求項4】
上記非水溶性セルロースが、平均粒子径20μm以上60μm以下の結晶セルロースである請求項1から3のいずれかに記載の冷凍麺。
【請求項5】
上記非水溶性セルロースが、上記乾麺の内部に分散されている請求項1から4のいずれかに記載の冷凍麺。
【請求項6】
小麦粉を主成分とする麺原料を混練して麺生地を得る混練工程と、
上記麺生地を用いて乾麺を製造する製麺工程と、
上記乾麺を茹で調理して茹で麺を得る調理工程と、
上記茹で麺を急速冷凍する冷凍工程と、
を有しており、
上記製麺工程が、上記麺生地を熟成させながら、手延べにより延伸するステップを含み、上記乾麺が手延べ干し麺であり、
上記混練工程では、上記小麦粉に対して、0.5質量%以上10質量%以下の非水溶性セルロースを配合し、この非水溶性セルロースが結晶セルロースである、常温の水で解凍できる冷凍麺の製造方法。
【請求項7】
上記製麺工程が、上記麺生地を熟成させながら、手延べにより延伸するステップを含んでいる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記冷凍工程における冷凍温度が-20℃以下である請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
上記混練工程では、少なくとも小麦粉、非水溶性セルロース及び食塩水をミキサーに投入して混練する、請求項6から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
上記製麺工程が、上記乾麺をさらに熟成させるステップを有する、請求項6から9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍麺に関する。詳細には、本発明は、冷凍された茹で麺に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造販売されている乾麺の種類として、蕎麦、うどん、素麺、冷や麦、パスタ、中華麺、春雨、ビーフン等が挙げられる。乾麺を喫食するためには、何らかの加熱装置を用いて茹で戻す必要がある。また、例えば、冷やし素麺のように冷たい状態で食事に供するためには、乾麺を茹でた後、冷水で洗い、さらに冷却する必要がある。そのため、時間と手間とをかけずに食事をしたい人には、好まれないという問題があった。
【0003】
調理が簡単又は不要で、気軽に食べられる麺類として、工場で茹でた麺類を冷凍した冷凍麺類が販売されている。この種の冷凍麺類としては、うどん、パスタ、中華麺が主流である。これら冷凍麺類は、湯又はレンジで解凍して暖かい状態で喫食されるものがほとんどであり、原則として、加熱による手間と時間とが必要である。解凍時の茹で加減によっては、その食感が損なわれる場合もある。また、従来の冷凍麺類を、加熱することなく、例えば常温の水等で解凍しようとすると、喫食までに長時間を要し、さらに解凍ムラや食感の変化が生じる場合がある。特に素麺や冷や麦の場合、他の麺類と比べて麺が細いため、冷凍及び解凍により軟化しやすく、特有のこしが失われやすいという問題がある。
【0004】
他に、気軽に食べられる麺として、茹で戻してにゅうめんとして食する冷凍素麺や、水でほぐして冷やし素麺として食する冷蔵素麺が販売されている。素麺では、喫食時に適度な硬さやこしがあり、喉越しが良いといった特有の食感が好まれるが、いずれも十分に満足できるものではない。また、冷蔵素麺の場合、衛生上長期保存が難しいという問題もある。
【0005】
特開2004-24155号公報には、製造時又は保管時の食感を改良するための麺質改良剤が開示されている。この麺質改良剤は、微細セルロース、ローカストビーンガム、キサンタンガム及び親水性物質を含む複合体である。
【0006】
国際公開WO2013-172118号では、冷凍麺類の冷凍やけ(変色現象)を防止するための技術として、増粘多糖類を含む特定の組成物を、調理済み麺類に付着させる工程を有する冷凍素麺の製造方法が提案されている。
【0007】
特開2010-178726公報には、茹で調理後の排水中の水質汚濁物質(うどんの打ち粉等)を低減するための技術として、全固形分成分の0.1重量%~50重量%がセルロース系高分子粒子である食品用途麺が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-24155号公報
【文献】国際公開WO2013-172118号
【文献】特開2010-178726公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2004-24155号公報、国際公開WO2013-172118号及び特開2010-178726公報に開示された技術は、いずれも、冷凍及び解凍による食感の劣化を抑制するものではない。特に、喫食時に適度な硬さやこしがあり、喉越しが良いといった特有の食感を有する麺を手軽に得るための技術は、未だ提案されていない。
【0010】
本発明の目的は、水で簡単に解凍でき、かつ特有の食感が維持された冷凍麺及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る冷凍麺は、小麦粉を主成分とする麺原料からなる乾麺が茹で調理後に冷凍されたものである。この冷凍麺では、小麦粉に対して、0.5質量%以上10質量%以下の非水溶性セルロースが配合されている。
【0012】
好ましくは、この乾麺は、手延べ干し麺である。好ましくは、この手延べ干し麺は、手延素麺である。
【0013】
好ましくは、この非水溶性セルロースは平均粒子径20μm以上60μm以下の結晶セルロースである。好ましくは、この非水溶性セルロースは、この乾麺の内部に分散されている。
【0014】
本発明に係る冷凍麺の製造方法は、
(1)小麦粉を主成分とする麺原料を混練して麺生地を得る混練工程、
(2)この麺生地を用いて乾麺を製造する製麺工程
(3)この乾麺を茹で調理して茹で麺を得る調理工程
及び
(4)この茹で麺を急速冷凍する冷凍工程
を有している。この製造方法の混練工程では、小麦粉100質量%に対して、0.5質量%以上10質量%以下の非水溶性セルロースを配合する。
【0015】
好ましくは、この製麺工程は、この麺生地を熟成させながら、手延べにより延伸するステップを含んでいる。
【0016】
好ましくは、この仕上げ工程の冷凍温度は-20℃以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る冷凍麺は、常温の水で簡単に解凍することができる。この冷凍麺では、解凍後も、喉越しやコシといった特有の食感が維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例及び比較例1の冷凍素麺の評価結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例1について得られた乾麺の断面が示された断層像である。
図3図3は、比較例1について得られた乾麺の断面が示された断層像である。
図4図4は、実施例1について得られた乾麺の茹で調理後の断面が示された断層像である。
図5図5は、比較例1について得られた乾麺の茹で調理後の断面が示された断層像である。
図6図6は、機械製麺で得られた乾麺の断面が示された断層像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書における「素麺」、「乾麺」、「手延素麺」等の用語は、原則として、JAS規格の「乾めん類品質表示基準」に定義されるものである。
【0020】
本発明に係る冷凍麺は、小麦粉を主成分とする麺原料からなる乾麺が、茹で調理後に冷凍されたものである。本発明者らは、鋭意検討の結果、非水溶性セルロースが、麺類の冷凍及び解凍による食感の劣化抑制に寄与することを見出した。従って、この麺原料には、必須成分として非水溶性セルロースが配合されている。さらに、その詳細なメカニズムは未だ解明中であるが、本発明者らは、小麦粉に対して0.5質量%以上10質量%以下の非水溶性セルロースを配合することにより、特に、麺線の細い麺において、従来技術と比較して著しい効果が奏されることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
麺原料に配合された非水溶性セルロースは、主として、この麺原料が製麺されて得られる乾麺の内部に存在する。この乾麺が茹で調理されるとき、その麺内部からの非水溶性セルロースの流出量は、少ない。従って、麺原料に配合されたほとんどの水溶性セルロースが、茹で調理後に冷凍された冷凍麺の麺中に残存していると推測される。
【0022】
この冷凍麺によれば、解凍後も、こしや喉越しといった好ましい食感が損なわれることなく維持される。また、この冷凍麺は、常温の水に浸漬するだけで簡単に解凍することが可能である。この冷凍麺では、解凍時の加熱処理が不要であるため、例えば、茹で戻しによる食感の変化(茹で伸び等)も回避されうる。
【0023】
この冷凍麺では、手延べ製法にて製麺された乾麺が用いられることが好ましい。換言すれば、この乾麺は手延べ干し麺である。後述する通り、手延べ干し麺は、製麺工程で、麺生地を一定方向に延伸していくことにより得られるため、麺生地中のグルテン繊維が破壊されることなく配列され、緻密なグルテン組織が形成される。この緻密なグルテン組織により、手延べ干し麺では、特にこしが強く弾力性のある食感が得られる。喫食者は、この手延べ干し麺特有の食感の変化に敏感である。非水溶性セルロースによる冷凍及び解凍による食感劣化抑制効果は、手延べ干し麺が茹で調理後に冷凍された冷凍麺において特に顕著に発揮される。この観点から、特に好ましい手延べ干し麺は、手延素麺である。
【0024】
発明に係る冷凍麺において、麺原料に配合するセルロースは、非水溶性であって、食品用途に仕様可能なグレードであれば、その種類は特に限定されない。他の麺原料との混和性の観点から、粒子状の非水溶性セルロースが好ましい。粒子状のセルロースを含む麺原料から得られる乾麺及び冷凍麺では、非水溶性セルロースの粒子が、その麺内部に略均一に分散される。この冷凍麺では、冷凍及び解凍による食感の劣化がより効果的に抑制される。このような粒子状のセルロースとして、例えば、第十七改正日本薬局方に記載された粉末セルロースや結晶セルロースが挙げられる。取扱性及び分散性の観点から、結晶セルロースがより好ましい。
【0025】
本発明の効果が阻害されない限り、非水溶性セルロースの製造方法も特に限定されない。例えば、木材由来又は非木材由来のパルプを加水分解処理後に精製し、必要に応じて粉砕処理することにより、粒子状の非水溶性セルロースが得られる。
【0026】
分散性及び取扱性の観点から、粒子状の非水溶性セルロースの平均粒子径は20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。得られる麺の食感の観点から、好ましい平均粒子径は60μm以下である。なお、本願明細書における平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により得られる体積基準の粒度分布の50%積算値を意味する。
【0027】
冷凍及び解凍による食感の劣化抑制の観点から、麺原料における非水溶性セルロースの配合量は、小麦粉に対して、少なくとも0.5質量%であり、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは、2.0質量%以上である。解凍時の外観への影響が少なく、製造容易との観点から、非水溶性セルロースの配合量は、10質量%を上限値とし、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。なお、本願明細書における非水溶性セルロースは、麺原料に意図的に配合するものであって、麺原料の主成分である小麦由来のセルロースを意味するものではない。
【0028】
本発明において、麺原料の主成分である小麦粉の種類は特に限定されず、薄力粉、中力粉、強力粉等から適宜選択される1種又は2種以上が用いられる。また、小麦の種類も特に限定されず、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦、デュラム小麦等から適宜選択される1種又は2種以上が用いられる。
【0029】
本発明の効果が阻害されない限り、麺原料に、非水溶性セルロース以外の添加剤を配合してもよい。この添加剤の例として、食塩又は食塩水、食用植物油、澱粉、炭酸カルシウム、着色料、かん水、酸化防止剤等が挙げられる。1又は2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0030】
前述した通り、本発明の効果は、麺線の細い麺においてより顕著である。この観点から、乾麺の太さは、2.0mm未満が好ましく、1.8mm未満がより好ましく、1.7mm未満が特に好ましい。
【0031】
本発明に係る冷凍麺は、小麦粉を主成分とする麺原料を混練して麺生地を得る混練工程、この麺生地を用いて乾麺を製造する製麺工程、この乾麺を茹で調理して茹で麺を得る調理工程及びこの茹で麺を急速冷凍する冷凍工程を有する製造工程により製造される。好ましい一実施形態に係る製造方法は、麺生地を熟成させながら、手延べにより延伸するステップを含む製麺工程を有している。以下に、この好ましい実施形態に係る冷凍素麺の製造方法の各工程についてその詳細を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0032】
この実施形態の混練工程では、麺原料である小麦粉、非水溶性セルロース及び食塩水をミキサーに投入し、よく混練して、麺生地を得る。好ましくは、得られた麺生地を熟成させるため、約22時間静置する。この熟成によって、麺生地中に形成されたグルテン繊維の網目構造が強化される。なお、熟成条件は、通常の素麺の製造条件に準じて設定され、製造時期に応じて適宜調整される。
【0033】
前述した通り、小麦粉に対する非水溶性セルロースの配合量は、0.5質量%以上10質量%以下である。必要に応じて、他の添加剤が配合されても良い。食塩水及び他の添加剤の配合量は、通常の素麺生地の配合に準じて適宜設定される。
【0034】
混練工程で使用するミキサーの種類は特に限定されず、既知の混練機等が使用される。従来の素麺生地の製造における混練条件が、好適に用いられ得る。
【0035】
製麺工程では、先ず、熟成させた麺生地から麺帯(幅約10cm、厚さ約5cm)を切り出す。この麺帯を棒状に形成して、数本を合わせてロールに通し、1本に成形する作業を繰り返す。次に、棒状の麺帯に縒りをかけながら延伸して、直径約20mmの麺紐を形成する。この麺紐の表面に適量の油を塗布した後、これをねかせて熟成させる。その後、要望する太さ及び長さの麺紐が得られるまで、手延べによる延伸及び熟成を数回繰り返す。この延伸及び熟成の繰り返しによって、麺の内部に、グルテン繊維が延伸方向に配列されたグルテン組織が形成される。このグルテン組織の配列が、手延素麺特有の食感であるこしをもたらすと考えられる。
【0036】
その後、要望する長さ及び太さに引き延ばした麺紐を、乾燥室等に静置して乾燥させることにより、乾麺(手延素麺)が得られる。乾燥条件は、得られる乾麺の含水率(麺水分)に応じて適宜設定される。従来の素麺製造における乾燥方法及び乾燥条件が、好適に用いられ得る。
【0037】
麺生地を熟成させながら、手延べにより延伸するステップを含む製麺工程において、好ましくは、得られた乾麺をさらに熟成させる。この熟成によって、素麺の食感がさらに向上する。
【0038】
調理工程では、製麺工程で得た乾麺を、十分な量の沸騰水中に投入して茹で調理する。茹で調理により、乾麺が吸水してデンプンが糊化(α化)することにより、好ましい食感の茹で麺が得られる。茹で時間は、乾麺の量及び得られる茹で麺の食感に応じて適宜設定される。解凍時の食感を考慮して、茹で麺が柔らかくなりすぎないように茹で時間を調整することが好ましい。例えば、100gの乾麺を茹で調理する場合、約1Lの沸騰浴中で1.5~2.0分間の茹で時間が好適である。
【0039】
なお、本願明細書における「茹で調理」とは、乾麺中のデンプンを糊化して喫食可能な状態とするために、適切な水分及び温度を付加する調理方法を意味する。例えば、蒸し調理(スチーム)等による場合も、本願の茹で調理の範疇である。
【0040】
冷凍工程では、得られた茹で麺を急速冷凍する。本願において、急速冷凍とは、140gの茹で麺全体が、少なくとも60分以内、好ましくは30分以内に凍結して固化することを意味する。この急速冷凍が可能な限り、冷凍方法は特に限定されず、空気冷却式、液体冷却式、接触式型等既知の冷凍庫を適宜選択して用いてもよい。より好ましい食感が得られるとの観点から、冷凍温度は-20℃以下が好ましく、-30℃以下がより好ましく、-40℃以下が特に好ましい。
【0041】
効率的な急速冷凍のため、沸騰水から取り出した茹で麺を適量の冷水(約10~15℃)に投入して冷却した後、軽く水切りして麺表面の水分を除去してから、冷凍庫に静置することが好ましい。
【0042】
好ましくは、この製造方法は、調理工程後、冷凍工程前に、茹で麺を容器に小分けして包装する包装工程をさらに含む。茹で麺を収容する容器は特に限定されないが、その好ましい具体例として、合成樹脂製の袋が挙げられる。この袋に適量の茹で麺を収容し、略均一な厚みに形成して冷凍庫に静置することで、茹で麺全体がムラ無く冷凍され、かつ、解凍時にも麺全体がムラ無く解凍される。これにより、冷凍及び解凍による食感の劣化がさらに抑制される。また、茹で麺を一人分ずつ小分けして冷凍することにより、美味しい素麺をより気軽に楽しむことができる。
【0043】
本発明に係る冷凍麺は、水に浸漬するだけで解凍することができる。解凍時の水の温度は、冷凍麺の量や解凍時の気温等により変動するが、通常5℃~35℃、好ましくは10℃~30℃、より好ましくは15℃~25℃である。なお、本願明細書における常温とは、15℃~25℃を意味する。本発明の効果が阻害されない限り、湯煎、レンジアップ等による解凍も可能である。
【0044】
好適な実施態様の一例として、袋に小分けして冷凍されている冷凍素麺の場合、夏季に、開封して常温の水を注ぎ入れると、冷凍素麺が解凍されるとともに、注ぎ入れた水の温度が解凍時の潜熱により低下する。これにより、こしや喉越しといった食感に優れた美味しい冷やし素麺を簡単に得ることができる。解凍後の素麺は、水切りして喫食してもよく、水切りせずそのまま喫食してもよい。本発明の効果が阻害されない限り、水ではなく、適温の出汁、麺汁等を用いて解凍してもよい。また、本発明に係る冷凍麺の好ましい製品形態として、冷凍麺とともに、適量の麺汁や、冷凍乾燥したネギ、わさび等の薬味を同梱してもよい。これにより、より簡単に、手間無く冷やし麺を喫食することができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0046】
[実施例1]
小麦粉に対して、2.0質量%の非水溶性セルロース(旭化成株式会社の微結晶セルロース、製品名セオラスFD-101、平均粒子径約50μm)と、適量の食塩及び水を添加して、混練機にて混練することにより、麺生地を作成した。非水溶性セルロース以外の麺生地の配合は、従来の素麺用の配合とした。
【0047】
得られた麺生地を熟成させた後、麺帯(幅約10cm、厚さ約5cm)を切り出して、棒状に成形した。棒状の麺帯数本をロールに通して1本に成形する作業を数回繰り返した。次いで、棒状の麺帯をロールに通し、縒りをかけながら延伸して、直径約20mmの麺紐を得た。この麺紐の表面に適量の油を塗布した後、約2時間熟成させた。続いて、麺紐の直径が約12mmになるまで延伸した後、約1時間熟成させた。その後、麺紐の直径が約6mmになるまで延伸し、さらに約4時間熟成させた。
【0048】
次に、掛巻機を使用して麺紐に縒りをかけながら2本の管に掛けた後、室箱に静置して約3時間熟成させた。続いて、室箱から取り出した麺紐を長さ約50cmに引き延ばして、さらに約15時間熟成させた後、長さ約1.3mまで引き延ばした。その後、さらに長さ約1.6~2mに引き延ばした後、乾燥室にて、麺水分約12質量%まで乾燥させることにより、乾麺(手延素麺)を得た。
【0049】
得られた乾麺50gを、約1Lの沸騰水中で茹で調理した。2.0分後、湯から取り出した茹で麺を約10~15℃の冷水中に投入して冷却した。その後、軽く水切りした茹で麺を樹脂製の袋に投入して密封した。これを冷凍庫(庫内温度-40℃)で冷凍することにより、実施例1の冷凍素麺(SB2%)を得た。
【0050】
[実施例2]
小麦粉に対して、3.0質量%の非水溶性セルロース(前述のセオラスFD-101)を配合した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の冷凍素麺(SB3%)を得た。
【0051】
[比較例1]
非水溶性セルロースを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の冷凍素麺(C)を得た。
【0052】
[実施例3]
小麦粉に対して、5.0質量%の非水溶性セルロース(前述のセオラスFD-101)を配合した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の冷凍素麺を得た。実施例3の冷凍素麺は、手延べ性(手延べによる作業性)にやや劣る結果であった。
【0053】
[比較例2]
小麦粉に対して、11.0質量%の非水溶性セルロース(前述のセオラスFD-101)を配合した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の冷凍素麺を得た。比較例2の冷凍素麺は手延べ性に劣り、スケールアップ時に製造効率が低下すると推測された。
【0054】
[放射光X線マイクロCT]
実施例1及び比較例1において得られる乾麺の一部を採取し、所定のホルダーに固定し、放射光X線マイクロCT装置(SPring-8 BL24XU)を用いて、画像撮影をおこなった(X線波長1.24Å、光子エネルギー10keV、露光時間0.10s/投影像、1200方向(0.15°step)、0.65μm/pixel)。実施例1について得られた麺線方向の断層像が図2に示されている。比較例1について得られた麺線方向の断層像が図3に示されている。対比のため、機械製麺により得られた乾麺(非水溶性セルロース未配合)の麺線方向の断層像が、図6に示されている。
【0055】
図2及び3において、直径20μm前後の楕円体状の粒子がデンプン粒であり、延伸によって麺線方向に配向したグルテン繊維束にデンプン粒が担持された、手延素麺に特徴的な断層像が得られた。この特徴は、図2及び3に矢印で示した箇所で、特に顕著に確認できた。また、図2では、白線で囲まれた箇所に、棒状の非水溶性セルロースも散見された。実施例2においても、図2と類似の断層像が得られた。両図の対比から、非水溶性セルロースを配合した実施例1及び2においても、手延素麺特有のこしを生むグルテン-デンプン構造が構築されていることがわかった。なお、このグルテン-デンプン構造が手延べ麺に特有であることは、図6との対比から明確である。
【0056】
次に、実施例1及び比較例1において得られる乾麺の一部を採取し、それぞれ、ポリイミド製チューブ(直径2mm)に差し込んだ。チューブの両端を開放した状態で沸騰水に投入して1分間茹でた後、冷水(温度10~15℃)で冷却した。その後、チューブの両端をグリースで封鎖して所定のホルダーに固定し、前述の放射光X線マイクロCT装置を用いて画像撮影した。実施例1について得られた麺線方向の断層像が図4に示されている。比較例1について得られた麺線方向の断層像が図5に示されている。
【0057】
図2及び3の乾麺で観察された、手延素麺に特徴的な麺線方向に配向した空隙は、図4及び5の茹で麺においても認められた。また、実施例2においても、図4と類似の断層像が得られた。茹で調理後も乾麺の配向構造が維持されていることから、非水溶性セルロースを配合した実施例1及び2においても、顕著な茹で崩れは生じず、手延べ麺のこしを生む構造が維持できていることがわかった。
【0058】
[感応試験]
実施例1及び2並びに比較例1の冷凍素麺について、以下の手順により官能試験をおこなった。
【0059】
冷凍庫に5日間保管した各冷凍素麺を開封して、1袋(冷凍麺50g)あたり、150mlの水(20℃)を投入した。1分後、19人(平均年齢22.4±3.02歳)のパネラーに喫食させて、以下の項目について5段階で評価させた。
(1)つやがあるかないか、ないか(識別)
(2)においが良いか、悪いか(識別)
(3)表面のなめらかさがあるか、ないか(識別)
(4)水っぽさがあるか、ないか(識別)
(5)硬さが硬いか、やわらかいか(識別)
(6)硬さが好きか、嫌いか(嗜好)
(7)こしがあるか、ないか(識別)
(8)こしが好きか、嫌いか(嗜好)
(9)のどごしが良いか、悪いか(識別)
(10)総合的な好ましさ(美味しさ)が好きか、嫌いか
【0060】
項目(1)から(4)、(7)及び(9)については、ある場合又は良い場合を1点とし、ない場合又は悪い場合を5点として評価させた。項目(5)については、硬い場合を1点とし、やわらかい場合を5点として評価させた。項目(6)、(8)及び(10)については、好きな場合を1点とし、嫌いな場合を5点として評価させた。
【0061】
19人のパネラーによる平均値が表1に示されている。図1は、表1の評価結果をまとめたグラフである。図1に示される符号a、ab及びbは、危険率5%としておこなった有意差検定の結果である。符号bは、符号aとの間で有意差がある(p<0.05)ことを示しており、符号abは、符号aとの間で有意差があることを示している。
【0062】
【表1】
【0063】
表1及び図1に示されるように、実施例1及び2の冷凍素麺は、比較例1と比べて、有意に、水っぽさがなく、好ましい硬さがあることがわかった。また実施例2では、実施例1と比べてつや及び表面のなめらかさが低下したものの、有意にこしがあると評価された。
【0064】
図4に示される通り、非水溶性セルロースを配合して得られる実施例1及び2では、茹で調理後も手延素麺に特徴的な麺線方向に配向した空隙の構造が維持され、かつ、冷凍及び解凍による食感の劣化が抑制された。一方、図5に示される通り、比較例1においても、茹で調理後に空隙の配向構造は維持されたものの、冷凍及び解凍により、その食感が損なわれた。この結果から、冷凍及び解凍による食感の劣化抑制効果が、非水溶性セルロースの配合により得られたことがわかる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明された冷凍麺は、加熱装置や調理器具のない場所での喫食に適している。またこの製造方法は、種々の冷凍麺類の製造にも適用されうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6