(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】免疫機能評価方法およびその為のELISAシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20230315BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20230315BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/536 A
G01N33/543 501A
(21)【出願番号】P 2019541017
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2018033161
(87)【国際公開番号】W WO2019049974
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017172593
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】岩井 佳子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅大
(72)【発明者】
【氏名】土井 知光
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】LI-HUI, X. et al.,Preparation and Identification of Human Soluble sPD-L1 and Its Antibodies,CHINESE JOURNAL OF BIOTECHNOLOGY,2007年01月,Vol. 23, Issue 1,pp. 106-111
【文献】SMITHY, J.W.,Predicting Response To Anti-Pd-1 Immunotherapy In Metastatic Melanoma,Yale Medicine Thesis Digital Library,2017年01月,No. 2172,pp. 1-74
【文献】ZHAO, J. et al.,Plasma levels of soluble programmed death ligand-1 may be associated with overall survival in nonsma,Medicine,2017年02月,Vol. 96, No. 7, e6102,pp. 1-6
【文献】TAKEUCHI, M. et al.,Soluble PD-L1 with PD-1-binding capacity exists in the plasma of patients with non-small cell lung c,Immunology Letters,2018年01月31日,Vol. 196,pp. 155-160
【文献】CHEN, Y. et al.,Development of a sandwich ELISA for evaluating soluble PD-L1(CD274) in human sera of different ages,Cytokine,Vol. 56,2011年,pp. 231-238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料とPD-1を反応させる工程、およびPD-1と結合した可溶型PD-L1を「PD-1結合能を有する可溶型PD-L1(bsPD-L1)」として検出・定量する工程を含む、T細胞免疫機能の評価方法であって、さらに(1)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果の評価を補助する工程、又は(2)免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測の評価を補助する工程、を含む方法
であって、該bsPD-L1が、糖鎖修飾されたPD-L1である、方法。
【請求項2】
被験試料が、生体由来試料である請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、抗PD-L1抗体と前記被験試料とを反応させ、被験試料中の可溶型PD-L1(sPD-L1)を検出・定量する工程を含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
T細胞免疫が関与する疾患ががんである、請求項1から
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
被験試料中の、bsPD-L1の量または濃度がカットオフ値以上の場合に予後が良好であると予測し得る、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
bsPD-L1を含む、T細胞免疫機能評価用バイオマーカーであって、T細胞免疫機能評価が、(1)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果、又は(2)免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する為のものである、バイオマーカー
、
ここでbsPD-L1は、糖鎖修飾されたPD-L1である。
【請求項7】
bsPD-L1およびsPD-L1を含む、T細胞免疫機能評価用のバイオマーカーの組合せであって、T細胞免疫機能評価が、(1)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果、又は(2)免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する為のものである、バイオマーカーの組み合わせ
、
ここでbsPD-L1は、糖鎖修飾されたPD-L1である。
【請求項8】
被験試料中の、bsPD-L1を検出・定量する為のシステムであって、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と被験試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムであって、該システムが(1)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する、または評価を補助する為、又は(2)免疫療法の適応診断、予後、治療効果および副作用予測を評価する、または評価を補助する為のものである、システム
、
ここでbsPD-L1は、糖鎖修飾されたPD-L1である。
【請求項9】
さらに、抗PD-L1抗体を含み、該抗体と被験試料とを反応させる手段および該抗体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む請求項
8記載のシステム。
【請求項10】
ELISAシステムである請求項
8または
9記載のシステム。
【請求項11】
生体由来試料中の可溶型PD-L1を脱グリコシル化処理する工程、および該工程で得られた可溶型PD-L1の脱グリコシル化のパターンを解析する工程を含む、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果の評価を補助する方法。
【請求項12】
生体由来試料中の可溶型PD-L1を脱グリコシル化処理する工程、および該工程で得られた可溶型PD-L1の脱グリコシル化のパターンを解析する工程を含む、免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測の評価を補助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体の免疫力、特にT細胞免疫機能を評価する方法に関する。さらに詳しくいうと本発明は、血液などの生体由来試料におけるPD-1結合能を有する可溶型PD-L1を検出・定量することにより、T細胞免疫機能を評価する評価方法、ならびにPD-1との結合反応を測定原理とする新規ELISAシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞免疫が病態に関する疾患は、がんのみならず、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、移植時の拒絶反応、生活習慣病と多岐にわたる。
現状では臨床において個体の免疫機能、特にT細胞機能を評価する手段は皆無に等しい。現在、臨床で日常的に行われている血液検査で免疫に関連する指標としては、白血球数、白血球画分、免疫グロブリン、CRPなどがあるが、これらの検査項目では個体のT細胞機能を評価することができない。このT細胞機能を制御する分子として、PD-1/PD-L1が知られている。
【0003】
PD-1は、T細胞などの表面に発現する膜タンパク質である(特許文献1、2)。PD-1のリガンドとしては、PD-L1およびPD-L2が同定されており、これらの分子がPD-1と結合しT細胞機能を抑制することにより、免疫を抑制的に調整することが知られている。
また、がんやウイルス感染細胞はPD-1リガンドを発現することによって、PD-1との結合を介して、宿主の免疫監視から逃れることが知られている。
【0004】
これらPD-1のリガンドのうちPD-L1は、細胞表面に発現する膜型のものと、血液中に存在する可溶性のものが存在する。
膜型PD-L1は、N-グリコシル化により分解が阻害され安定化し、PD-1との結合能が増すことが知られている(非特許文献1)。一方、可溶型PD-L1においては、グリコシル化されることは知られているものの、その意義については明らかとなっていない。
このPD-1/PD-L1シグナルに着目して開発された薬剤として、抗PD-1抗体であるニボルマブ製剤(製品名:オプジーボ)が挙げられる。
【0005】
ニボルマブは、免疫チェックポイント分子であるPD-1を阻害することにより、免疫系のブレーキを解除し、がんに対する免疫応答を高め抗腫瘍効果を発揮する。ニボルマブの奏効率は、概ね20から30%とされており、感受性の高い患者群と低い患者群に分かれるのが現状である。
この薬剤感受性を予測するための様々な試みがなされており、その一つとして、腫瘍組織におけるPD-L1発現を調べることにより、適応可否の診断を行う試みがなされている。
また、抗PD-1抗体治療前後の患者由来の血液検体を用いて、血液中に存在する可溶型PD-L1が抗PD-1抗体治療の治療効果を見分けるバイオマーカーになり得るかが検討されてきた。また、可溶型PD-L1と予後の関係についても調べられてきた。例えば、非小細胞肺癌患者109例を対象とした試験において、組織中PD-L1と同様、可溶型PD-L1の発現と予後の逆相関(可溶型PD-L1高値群は低値群と比べて予後不良)が報告されている(非特許文献2)。
しかしながら、組織中PD-L1発現とがんの予後あるいは免疫チェックポイント阻害剤の奏効率との関連については、一致した見解が得られていないのが現状である(非特許文献3から5)。加えて、免疫組織学的検査では、生検採取部位による影響や検査機関でのばらつきがあり、定量化や標準化が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-336973号公報
【文献】特開平7-291996号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Li CW et al. Nat Commun. 2016 Aug 30;7:12632.
【文献】Zhang J et al. Thorac Cancer. 2015 Jul;6(4):534-8
【文献】Brahmer J et al. N Engl J Med. 2015 Jul 9;373(2):123-35.
【文献】Garon EB et al. N Engl J Med. 2015 May 21;372(21):2018-28.
【文献】Herbst RS et al. Nature. 2014 Nov 27;515(7528):563-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情を背景として本発明は、個体のT細胞免疫機能を評価しうる手法の開発を第一の課題とする。また、T細胞免疫が関与する疾患の病態評価および治療効果判定が可能な診断マーカーの開発を第二の課題とする。さらに、がんの予後予測、および免疫チェックポイント阻害剤等の免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測が可能な手法の開発を第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、全身性の免疫機能を評価しうるものとして、血中に存在する可溶型PD-L1(soluble PD-L1、以下、「sPD-L1」)に着目して研究を開始した。そこで発明者らは、sPD-L1にはPD-1に対して高い結合能を有する結合型可溶型PD-L1(PD-1 binding sPD-L1、以下、「bsPD-L1」)が存在することを明らかにした。加えて、膜表面に発現するPD-L1についても、同様のメカニズムが存在することを明らかにした。
bsPD-L1は、その一態様として多様な糖鎖修飾を受けており、その部位や程度によってPD-1への結合能が変化し、脱グリコシル化によりPD-1結合能が低下するものであり、PD-1結合におけるsPD-L1の糖鎖修飾の重要性を発明者らは明らかにした。加えて、bsPD-L1を真に評価するためには、PD-1タンパク質そのものを抗原として検出・定量を行う必要があることを明らかにした。
これより発明者らは、PD-1とbsPD-L1の結合反応を検出・定量する評価方法に関する発明を完成させた。
【0010】
従来、sPD-L1を検出・定量する方法としては、マイクロプレートに抗PD-L1抗体を固相化したELISAによる検出・定量方法があった。しかるに、発明者らは、この従来法では、sPD-L1を定量することはできても、PD-1との高い結合能を有するbsPD-L1を適切に定量・評価することはできないことを確認した。
以上の知見を得て、本発明者らは、PD-1タンパク質自体をマイクロプレートに固相化することにより、bsPD-L1をより適切に検出・定量しうるELISAプレートを作製し、発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)被験試料とPD-1を反応させる工程、およびPD-1と結合した可溶型PD-L1を「PD-1結合能を有する可溶型PD-L1(bsPD-L1)」として検出・定量する工程を含む、T細胞免疫機能の評価方法。
(2)bsPD-L1が、糖鎖修飾されたPD-L1である上記(1)記載の評価方法。
(3)被験試料が、生体由来試料である上記(1)または(2)に記載の評価方法。
(4)さらに、抗PD-L1抗体と前記被験試料とを反応させ、被験試料中の可溶型PD-L1(sPD-L1)を検出・定量する工程を含み、結果を合わせて評価を行う上記(1)から(3)のいずれかに記載の評価方法。
(5)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する工程、または該評価を補助する工程をさらに含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載の評価方法。
(6)T細胞免疫が関与する疾患ががんである、上記(5)に記載の評価方法。
(7)免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する工程、または該評価を補助する工程をさらに含む、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の評価方法。
(8)被験試料中の、bsPD-L1の量または濃度がカットオフ値以上の場合に予後が良好であると予測し得る、上記(6)に記載の評価方法。
(9)bsPD-L1を含む、T細胞免疫機能評価用バイオマーカー。
(10)bsPD-L1およびsPD-L1を含む、T細胞免疫機能評価用のバイオマーカーの組合せ。
(11)T細胞免疫機能評価が、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する為のものである、上記(9)記載のバイオマーカーまたは上記(10)記載のバイオマーカーの組合せ。
(12)T細胞免疫機能評価が、免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する為のものである、上記(9)記載のバイオマーカーまたは上記(10)記載のバイオマーカーの組合せ。
(13)被験試料中の、bsPD-L1を検出・定量する為のシステムであって、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と被験試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステム。
(14)さらに、抗PD-L1抗体を含み、該抗体と被験試料とを反応させる手段および該抗体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む上記(13)記載のシステム。
(15)ELISAシステムである上記(13)または(14)記載のシステム。
(16)T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する、または評価を補助する為の上記(13)から(15)のいずれかに記載のシステム。
(17)免疫療法の適応診断、予後、治療効果および副作用予測を評価する、または評価を補助する為の上記(13)から(15)のいずれに記載のシステム。
(18)PD-1タンパク質が固相化された担体および該担体に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出する為の検出用マーカーを含み、任意で抗PD-L1抗体が固相化された担体および該担体に結合した可溶型PD-L1をsPD-L1として検出する為の検出用マーカーを含んでなるELISAキット。
(19)生体由来試料中の可溶型PD-L1を脱グリコシル化処理する工程、および該工程で得られた可溶型PD-L1の脱グリコシル化のパターンを解析する工程を含む、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する、または評価を補助する方法。
(20)生体由来試料中の可溶型PD-L1を脱グリコシル化処理する工程、および該工程で得られた可溶型PD-L1の脱グリコシル化のパターンを解析する工程を含む、免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する、または評価を補助する方法。
【0012】
本発明の別の構成は以下の通りである。
本発明の第一の構成は、PD-1と結合能を有する可溶型PD-L1(以下、「bsPD-L1」)を検出・定量することを特徴とするT細胞免疫機能の評価方法である。
本発明の第二の構成は、bsPD-L1が、糖鎖修飾されたPD-L1である第一の構成記載の評価方法である。
本発明の第三の構成は、bsPD-L1が、生体由来試料に含有されるbsPD-L1である第一又は第二の構成に記載の評価方法である。
本発明の第四の構成は、生体由来試料が、血液、肺胞洗浄液、尿、または、髄液から選ばれた少なくとも一種以上である第一から第三の構成のいずれかに記載の評価方法である。
本発明の第五の構成は、生体由来試料が、哺乳類由来のものである第一から第四の構成のいずれかに記載の評価方法である。
本発明の第六の構成は、T細胞免疫が関与する疾患における病態および治療効果を評価する第一から第五の構成のいずれかに記載の評価方法である。
本発明の第七の構成は、免疫チェックポイント阻害剤をはじめとする免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する第一から第五の構成のいずれかに記載の評価方法である。
本発明の第八の構成は、疾患が、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、移植時の拒絶反応、または、生活習慣病である第六又は第七の構成に記載の評価方法である。
本発明の第九の構成は、がんが、癌腫、扁平上皮癌(子宮頚管、瞼、結膜、膣肺、口腔、皮膚、膀胱、舌、喉頭、食道)、または、腺癌(前立腺、小腸、子宮内膜、子宮頚管、大腸、肺、膵、食道、直腸、子宮、胃、乳房、卵巣)、肉腫(筋原性肉腫)、白血病、神経腫、メラノーマ、リンパ腫のいずれかである第八の構成に記載の評価方法である。
本発明の第十の構成は、感染症が、ヒト肝炎ウイルス(B型肝炎、C型肝炎、A型肝炎又はE型肝炎)、ヒトレトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)、ヒトT細胞白血病ウイルス、または、ヒトTリンパ向性ウイルス(HTLV1、HTLV2)のいずれかである第八の構成に記載の評価方法である。
本発明の第十一の構成は、自己免疫疾患が、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、強皮症、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、セリアック病、橋本甲状腺炎、グレーブス病(甲状腺)、シェーグレン症候群、ギラン・バレー症候群、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ウェゲナー肉芽腫症、原発性胆汁性硬化症、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、リウマチ性多発性筋痛、レイノー現象、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、結節性多発動脈炎、ベーチェット病、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、心筋炎、リウマチ熱、強直性脊椎炎、糸球体腎炎、サルコイドーシス、皮膚筋炎、重症筋無力症、または、多発性筋炎のいずれかである第八の構成に記載の評価方法である。
本発明の第十二の構成は、さらに、抗PD-L1抗体と前記生体由来試料を反応させ、PD-L1の検出・定量結果を合わせて評価を行う第四から第十一の構成のいずれかに記載の評価方法である。
本発明の第十三の構成は、PD-1蛋白質が固相化された担体からなり、これにbsPD-L1を含む生体由来試料、検出用マーカーの順に反応させ、bsPD-L1の検出・定量に用いられることを特徴とするELISAシステムである。
本発明の第十四の構成は、担体が、マイクロプレート、ビーズ、チューブから選ばれた少なくとも1種からなる第十三の構成に記載のELISAシステムである。
本発明の第十五の構成は、前記検出用マーカーが、酵素標識抗体、蛍光標識体、放射標識体から選ばれた少なくとも1種からなる第十三または第十四の構成に記載のELISAシステムである。
本発明の第十六の構成は、さらに、抗PD-L1抗体が固相化された担体に、bsPD-L1を含む生体由来試料、検出用マーカーの順に反応させ、この検出・定量結果を合わせて評価を行う第十三から第十五の構成のいずれかに記載のELISAシステムである。
本発明の第十七の構成は、第十三から第十六の構成いずれかに記載のELISAシステムに、抗PD-L1抗体、検出用マーカーを含んでなるELISAキットである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、T細胞免疫機能を評価しうる手法の提供が可能となった。
すなわち、本発明において、可溶型PD-L1のPD-1結合性は、主として糖鎖修飾に依存することが発明者により見出されたものであり、これを測定原理として、PD-1結合能を有する可溶型PD-L1を、検出・定量する新しい評価方法の提供が可能となった。
【0014】
さらに、この評価方法の具体的態様の一つとしてELISAシステムが発明者らにより完成され、免疫組織学的検査と比較すると、生検部位による影響や検査機関でのばらつきが少なく、T細胞免疫機能の定量化が容易となるとともに、局所的ではなく、全身的なT細胞機能評価が可能となる。
これらの発明により、T細胞免疫応答が関与する様々な疾患の病態やがんの予後、免疫チェックポイント阻害剤をはじめとする免疫療法の適応可否や治療効果を診断すること、および該診断の補助手段を提供することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】作製した抗PD-1抗体(PD-1-Ig)タンパク質の各リガンドとの反応を確認したFACS解析結果を示した図。
【
図2】本発明と従来法のELISAを模式的に説明した図。
【
図3】本発明と従来法を用いて既知濃度のsPD-L1を測定した結果を示した図(A)、ならびにこの結果をもとにbsPD-L1量を算出した結果を示した図(B)。
【
図4】本発明と従来法を用いて、非小細胞肺癌患者の血漿におけるsPD-L1およびbsPD-L1の検出・定量結果を示した図。
【
図5】本発明と従来法において、抗凝固剤の影響を比較・検討した結果を示した図。
【
図6】本発明と従来法において、患者検体におけるsPD-L1およびbsPD-L1の脱グリコシル化処理による影響を示した図。
【
図7】本発明と従来法において、293T細胞におけるsPD-L1およびbsPD-L1の脱グリコシル化処理による影響を示した図。
【
図8】本発明と従来法において、ヒト扁平上皮癌細胞またはヒト肺線癌細胞におけるsPD-L1およびbsPD-L1の脱グリコシル化処理による影響を示した図。
【
図9】
図4における各患者の予後と、OD値の結果をプロットして比較検討した図。
【
図10】非小細胞肺癌患者血漿中のbsPD-L1値と予後の関係を表わす生存曲線を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の免疫機能、具体的にはT細胞免疫機能の評価方法等について説明を行う。
【0017】
本発明のT細胞免疫機能の評価方法は、PD-1との結合能を有する可溶型PD-L1(以下、「bsPD-L1」とも称する)を検出・定量することを特徴とする。
後述の実施例で示されるように、可溶型PD-L1のPD-1結合性は主として糖鎖修飾に依存することが発明者らにより見出され、本発明の評価方法は、これを測定原理とするものである。
血中に存在する可溶型PD-L1(以下、「sPD-L1」とも称する)にはPD-1に対して高い結合能を有する結合型可溶型PD-L1(bsPD-L1と同義)が存在し、加えて、膜表面に発現するPD-L1についても、同様のメカニズムが存在する。
bsPD-L1は、その一態様として多様な糖鎖修飾を受けており、その部位や程度によってPD-1への結合能が変化し、脱グリコシル化によりPD-1結合能が低下する。
本発明の評価方法の好ましい一実施態様は、被験試料とPD-1を反応させる工程、およびPD-1と結合した可溶型PD-L1(即ち、PD-1結合能を有するPD-L1:bsPD-L1)を検出・定量する工程を含む。
【0018】
本発明においてPD-1は、Programmed cell death protein 1と称されるタンパク質として定義され、bsPD-L1を検出するための抗原(受容体)としての役割を果たす。PD-1は、この役割を果たす限り特に限定する必要はなく、種々のものを用いることができる。
すなわち、PD-1は、評価を行う対象に応じて、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ウマなど、それぞれに対応した種由来のものを用いればよく、好ましくは哺乳類由来のものを用いることができる。このうち、例えば、ヒトの場合、UniProtKB AccessionにおいてQ15116で特定される288のアミノ酸残基からなるタンパク質を用いるなどすればよい。
なお、本発明のPD-1について、一切の改変を排除する趣旨ではない。すなわち、本発明の原理であるbsPD-L1とPD-1の結合を達成しうる範囲において、各評価系に適したPD-1の改変・修飾を行ってもかまわない。
【0019】
PD-1は、人工的に作製したものを用いることが好ましいが、これに限定する趣旨ではなく、生体由来のものを用いてもよい。
PD-1を人工的に作製する場合は、公知の方法により、作製することができる。すなわち、PD-1発現ベクターを細胞に遺伝子導入し、培養・精製することにより、PD-1を作製することができる(実験方法概略、2から4参照)。
また、生体由来試料からPD-1を分離して用いてもよい。がん切片などの生体由来試料に対して精製したbsPD-L1を反応させ免疫染色などによる評価を行ってもよい。
【0020】
本発明においてbsPD-L1は、PD-1に対して高い結合能を有する可溶性のPD-L1として定義される。
bsPD-L1の一態様としては、糖鎖修飾された可溶型PD-L1が挙げられる。可溶型PD-L1のPD-1への結合性は糖鎖修飾に依存するものであり、糖鎖修飾されたPD-L1の検出・定量を行うことにより、T細胞免疫機能の評価が可能となる。
また、bsPD-L1の糖鎖修飾の程度や部位については、PD-1に対する高い結合能を有する限り特に限定する必要はない。bsPD-1の一例として、糖鎖を含む45~65Kd程度の分子量を有するものが挙げられる。
【0021】
本発明の評価方法においては、被験試料は生体由来試料であることが好ましい。ある個体中の生体由来試料中におけるbsPD-L1を検出・定量することにより、その個体のT細胞免疫機能を評価することができる。
この場合の生体由来試料は、bsPD-L1が存在する可能性があれば足り、結果として、bsPD-L1が存在しなかったとしてもかまわない。
【0022】
生体由来試料については、生体に由来する試料である限り特に限定する必要はなく、種々の生体由来試料を用いることができる。
このような生体由来試料として、生体から直接採取した試料、これを洗浄または破砕した試料などを用いることができ、例えば、血液、肺胞などの組織洗浄液、尿、髄液、組織切片などが例示される。これらの生体由来試料については、評価系により、そのままの形で用いることができ、一定の前処理を行った後に被験試料としてもよい。
【0023】
生体由来試料としては、血液、肺胞などの組織洗浄液、尿、髄液を用いることが好ましい。
これにより、免疫組織学的検査ではなく、ELISAなどによる測定が可能となり、生検部位による影響や検査機関でのばらつきを排除し、T細胞免疫機能の定量化が容易となるという効果を有する。さらには、T細胞免疫機能について、局所的ではなく、全身的な評価が可能となるという効果を有する。
【0024】
本発明において免疫機能の評価とは、広義には個体を司る免疫系全体の機能を評価するものとして定義され、狭義にはT細胞免疫機能を評価するものとして定義される。
また、T細胞免疫機能評価は、T細胞免疫が関与するあらゆる状態を評価するものとして定義され、例えば、個体におけるT細胞免疫状態の評価などが挙げられる。
【0025】
T細胞免疫機能評価として、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果の評価に用いることが好ましい。これにより、T細胞免疫機能評価を通じて、疾患の状態(病期診断)、回復の早さや程度(予後予測)、薬剤の効果予測などを行うことが可能となり、本発明の有用性を向上させる効果を有する。
疾患としては、T細胞が関与する疾患である限り特に限定する必要はないが、例えば、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、移植時の拒絶反応、または、生活習慣病などが挙げられる。
また、疾患に用いられる薬剤の効果予測として、PD-1/PD-L1シグナリング阻害を薬効薬理とする薬剤の効果予測に用いることが期待でき、より好ましくは、オプジーボをはじめとする抗PD-1抗体を有効成分とする薬剤の効果予測に用いることが期待できる。
後述の実施例にて示されるように、がん患者の生体由来試料におけるbsPD-L1の量または濃度は、該患者の予後に相関し、bsPD-L1の量または濃度が本発明の評価方法においてカットオフ値以上の場合に予後が良好であると予測することができる。カットオフ値とは、病態識別値とも称され、病気や病態の診断を目的として設定される値である。カットオフ値は、生体由来試料の種類(例、血清または血漿)、生体由来試料が血液の場合には凝固剤の有無および種類、採血から保存までの処理方法(温度や時間)、保存条件(保存温度や保存期間)等によって変動し、適宜最適値を設定することができ、正確性の観点から予め最適値を設定しておくことが望ましい。好適な態様では、がん治療後の予後の評価をbsPD-L1の量または濃度がカットオフ値以上であるか否かを評価し、カットオフ値以上である場合に予後が良好であるとみなすことができる。
【0026】
疾患のうちがんとしては、例えば、癌腫、扁平上皮癌(子宮頚管、瞼、結膜、膣肺、口腔、皮膚、膀胱、舌、喉頭、食道の癌)、腺癌(前立腺、小腸、子宮内膜、子宮頚管、大腸、肺、膵、食道、直腸、子宮、胃、乳房、卵巣の癌)が挙げられる。さらに肉腫(例えば、筋原性肉腫)、白血病、神経腫、メラノーマ、リンパ腫も含まれる。
また、感染症としては、例えば、ヒト肝炎(B型肝炎、C型肝炎、A型肝炎またはE型肝炎)ウイルス、ヒトレトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルス(HTLV1、HTLV2)による感染症が挙げられる。その他の感染症として、例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘-帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6を含むヒトヘルペスウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、おたふくウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)を発症するウイルス、エボラウイルス、西ナイルウイルスなどのウイルスによる感染症が挙げられる。
さらに、自己免疫疾患としては、例えば、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、強皮症、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、セリアック病、橋本甲状腺炎、グレーブス病(甲状腺)、シェーグレン症候群、ギラン・バレー症候群、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ウェゲナー肉芽腫症、原発性胆汁性硬化症、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、リウマチ性多発性筋痛、レイノー現象、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、結節性多発動脈炎、ベーチェット病、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、心筋炎、リウマチ熱、強直性脊椎炎、糸球体腎炎、サルコイドーシス、皮膚筋炎、重症筋無力症、多発性筋炎などが挙げられる。
【0027】
本発明の評価方法において、従来法と組み合わせて評価を行うことが好ましい。すなわち、抗PD-L1抗体を抗原として被験試料(好ましくは、生体由来試料)を反応させ、sPD-L1を検出・定量し、その結果と合わせて評価することにより、sPD-L1とbsPD-L1の違い、すなわち可溶型PD-L1における糖鎖修飾状態を推測することが可能となり、T細胞免疫機能のより適切な評価や病態解明が期待できる。
【0028】
本発明の評価方法は、PD-1とbsPD-L1との結合反応を検出・定量しうる限り特に限定する必要はなく、種々の構成ないし態様で行うことができる。本発明の評価方法の態様として、例えば、測定機器や測定器具、これらのための予備的部材や部材セットなどが挙げられる。
本発明の好ましい態様として、被験試料中の、bsPD-L1を検出・定量する為のシステムであって、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と被験試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムが挙げられる。好ましくは、さらに、抗PD-L1抗体を含み、該抗体と被験試料とを反応させる手段および該抗体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む。
上記システムのうち、本発明の最も好ましい態様として、新規なELISAシステムとすることができる。本実施態様では、PD-1タンパク質とbsPD-L1との結合反応をPD-1タンパク質が固相化された担体上で行う、即ち、ELISA法の原理を利用する。担体としては、後述の本発明のELISAシステムで用いられるものと同様のものが利用できる。担体と被験試料とを接触させる工程、被験試料中のbsPD-L1を検出・定量する工程の具体的な手順や該工程における材料、装置もまた後述の本発明のELISAシステムと同様の手順、材料、装置が利用できる。これにより、免疫組織学的検査と比較すると、生検部位による影響や検査機関でのばらつきが少なく、T細胞免疫機能の定量化が容易となるとともに、局所的ではなく、全身的なT細胞機能評価が可能となるという効果を有する。
【0029】
本発明のELISAシステム(「新ELISAシステム」ということがある。)は、PD-1タンパク質が固相化された担体(以下、「PD-1担体」ともいう)を含み、該担体と被験試料(好ましくは、生体由来試料)とを反応させる手段および該担体に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムである。好ましくは、さらに、抗PD-L1抗体が固相化された担体(以下、「抗PD-L1抗体担体」ともいう)を含み、該担体と前記被験試料とを反応させる手段および該担体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む。
【0030】
担体は、PD-1タンパク質を固相化するための担体としての役割を果たす。担体は、この役割を果たす限り特に限定する必要はなく、種々の素材ないし形状のものを用いることができる。担体として典型的には、疎水性プラスティック素材のマイクロプレート、ビーズ、チューブなどを用いることができ、最も好ましくは、多穴マイクロプレートを用いることができる。
【0031】
PD-1担体は、公知の方法により、作製することができる。すなわち、担体に、PD-1タンパク質を溶解させた溶液を加え静置し、PD-1タンパク質を担体に吸着させた後、溶液を除去、洗浄やブロッキング液による保護・洗浄を行うことにより、PD-1担体を作製することができる(実験例2参照)。
【0032】
本発明の新ELISAシステムでは、該担体に、被験試料(好ましくは、生体由来試料)、検出用マーカーを順に反応させる。
作製されたPD-1担体に反応させる被験試料は、例えば本発明の評価方法で述べたような生体由来試料である、PD-1担体におけるPD-1とbsPD-L1の結合が達成される限り特に限定する必要はなく、PD-1担体に応じて、そのままの形もしくは前処理を行って用いればよい。例えば血液の場合、遠心処理により、血漿成分を得、これを必要な場合は希釈して、被験試料として用いるなどすることができる。
また、PD-1担体と被験試料との反応を行う場合も、用いるPD-1担体や被験試料に応じて、反応時間や反応温度を調整することができ、反応後は、必要に応じ、上清を除去し、洗浄液にて洗浄を行うなどすればよい。
【0033】
被験試料との反応終了後、検出用マーカーを反応させる。
検出用マーカーは、PD-1とbsPD-L1の結合反応を検出するマーカーとしての役割を果たすものであり、検出用マーカーの検出を通じて、結合反応の検出・定量を可能とするものである。検出用マーカーは、これらの役割を果たす限り特に限定する必要はなく、種々の態様で行うことができる。
検出用マーカーは、例えば、PD-1に結合したbsPD-L1を、直接的ないし間接的に検出するマーカーとして構成することができる。
直接的な検出としては、例えば、検出用マーカーとして、放射標識や蛍光標識された抗PD-L1抗体を用い、PD-1と結合したbsPD-L1に反応させるなどである。
間接的な検出としては、例えば、ビオチン標識された抗PD-L1抗体をPD-1と結合したbsPD-L1に反応させた後、検出用マーカーとしてビオチン定量試薬を反応させて検出を行うなどである。
また、検出用マーカーについては、検出が可能である限り特に限定する必要はなく、PD-1担体の態様や測定目的に応じて、適宜、変更することができ、例えば、酵素標識抗体、蛍光標識体、放射標識体、もしくはこれらを組み合わせるなどして用いてもよい。
【0034】
本発明のELISAシステムについて、さらに、抗PD-L1抗体が固相化された担体(以下、「抗PD-L1抗体担体」という)に、bsPD-L1を含む被験試料(好ましくは、生体由来試料)、検出用マーカーの順に反応させ、この検出・定量結果を合わせて評価を行うELISAシステムとすることが好ましい。当該ELISAシステムは上記PD-1担体を含み、被験試料、検出用マーカーを順に反応させる手段を有する新ELISAシステムに加え、抗PD-L1抗体担体を含み、該担体に被験試料、検出用マーカーを順に反応させる手段を有する。これにより、sPD-L1とbsPD-L1の同時検出・定量が可能となり、より適切なT細胞免疫機能評価が可能となるという効果を有する。
かかる場合、PD-L1とbsPD-L1の同時検出・定量が可能である限り特に限定する必要はなく、種々の態様ないし構成とすればよい。
例えば、96穴マイクロプレートのうち、半分をPD-1タンパク質で固相化し、残りを抗PD-L1抗体で固相化するなどである。また、PD-1担体と抗PD-L1抗体担体、ならびに検出マーカーとしての抗PD-L1抗体を含んだELISAキットとして構成するなどである。
sPD-L1とbsPD-L1の同時検出・定量が可能となることで、sPD-L1中のbsPD-L1の割合を算出することが可能となるので、このような割合と免疫療法等の各種治療の適応の可否、治療効果の有無および副作用の有無等を相関付けることによって、該割合を、各種治療(例、免疫療法)の適応診断、治療効果および副作用予測の指標とすることが可能となる。
従って、本発明において、bsPD-L1はT細胞免疫機能評価用のバイオマーカーとなり得る。バイオマーカーとは、血液や尿などの体液や組織に含まれる、タンパク質や遺伝子などの生体内の物質で、病気の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるものをいう。バイオマーカーの量を測定することで、病気の存在や進行度、治療の効果の指標の1つとすることができる。bsPD-L1は、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果を評価する為に指標とされ得る。sPD-L1と組み合わせて用いることで、より詳細な評価が可能になる。従って、本発明はbsPD-L1からなるバイオマーカーとsPD-L1からなるバイオマーカーとからなるT細胞免疫機能評価用のバイオマーカーの組合せをも提供する。
【0035】
本発明のELISAシステムについて、ELISAキットとして構成することが好ましい。これにより、迅速かつ簡易で、再現性の高いT細胞免疫機能評価が可能となるという効果を有する。
本発明においてELISAキットは、PD-1担体、検出用マーカーを必須の部材とする限り特に限定する必要はなく、必要に応じて他の試薬などを含むことができる。
一例をあげると、PD-1担体としてPD-1タンパク質が固相化された96穴マイクロプレート、検出マーカーとしてビオチン標識抗PD-L1抗体ならびにビオチン定量試薬などを組み合わせるなどである。
【0036】
上述のように可溶型PD-L1のPD-1結合性は主として糖鎖修飾に依存することが発明者らにより見出された。後述の実施例で示されるようにPD-L1の糖鎖修飾は多様であり、糖鎖修飾の様式によってPD-1との結合特性も異なる。当該知見に基づき、本発明は、生体由来試料中の可溶型PD-L1を脱グリコシル化処理し、得られた可溶型PD-L1の脱グリコシル化のパターンを解析することで、PD-1との結合特性を評価し、それに基づいて、T細胞免疫が関与する疾患における病態、予後および治療効果や、免疫療法の適応診断、治療効果および副作用予測を評価する、または評価を補助することが可能になる。
脱グリコシル化のパターンは、後述の実施例で示されるように可溶型PD-L1を含有し得る生体由来試料をグリコシダーゼ(例、PNGaseF)や、糖鎖合成阻害剤(例、tunicamycin)で処理して脱グリコシル化し、処理後の試料を抗PD-L1抗体を用いたWestern blotによる分子量の変化等を調べることで解析することができる。
【実施例】
【0037】
本発明について、実験例を用いて詳述するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、使用する試薬および材料は特に限定されない限り商業的に入手可能である。
【0038】
<<実験方法概略>>
1.患者検体
実験には、大学(学校法人産業医科大学)の倫理委員会の承認を経て、非小細胞肺癌患者より採取された血液検体を用いた。
2.DNAコンストラクト
Human PD-1-Ig発現ベクター、Human PD-L1およびPD-L2発現ベクターは、cDNA断片をpEF BOSベクターに挿入して作製した。
3.細胞株
PD-L1およびPD-L2発現293T細胞株は、Gene Jammerを用いてHuman PD-L1およびPD-L2発現ベクターを293T細胞(SV40Tが導入された293細胞(ヒト胎児由来腎臓上皮細胞))に遺伝子導入を行い作製した。PC9細胞(ヒト肺腺癌由来)、REAF-LC-A1細胞(ヒト肺扁平上皮癌由来)は、RPMI complete mediumで培養した。
4.PD-1-Igタンパク質の精製
293T細胞に、リン酸カルシウム法によりHuman PD-1-Ig発現ベクターを遺伝子導入し、7日後に培養上清を回収して、Protein Gによるaffinityクロマトグラフィーにより、Human PD-1-Igタンパク質を精製した。
5.脱グリコシル化
血液検体はPNGaseF処理、細胞はtunicamycin処理により脱グリコシル化を行った。また、処理前後の各試料については、Western blotにより解析を行った。
6.FACS解析
FACS解析については、実験例で用いる各細胞に対し、一次抗体またはPD-1-Igタンパク質、二次標識抗体の順で反応させた後、FACS Calibur(BD Biosciences社製)にて解析を行った。
7.新ELISAシステムの開発
抗PD-L1抗体およびPD-1-Igタンパク質をcoatingした2種類のELISAプレートを作製し、既知の濃度の組換えPD-L1タンパク質(R&D社)を添加してビオチン標識抗PD-L1抗体によるImmunoassayにより比色定量を行った。
抗PD-L1抗体をcoatingしたELISAでは、PD-L1タンパク質が156~10000pg/mLの範囲で、PD-1-Igタンパク質をcoatingしたELISAでは316~200000pg/mLの範囲で濃度依存性に吸光度の増加がみられた。2つの検量線から総PD-L1タンパク質中のbsPD-L1量を求め、以後の実験の基準値とした。
【0039】
<<実験例1.PD-1-Igタンパク質とPD-1リガンドとの結合性の確認>>
1.作製したヒトPD-1-Igが、PD-1リガンドに結合するかどうかの確認を行うことを目的に実験を行った。
2.PD1の生理的リガンドであるPD-L1ならびにPD-L2を発現させた293T細胞について、PD-1-Igタンパク質、ビオチン標識抗ヒトIgG抗体、APC標識ストレプトアビジンの順で反応させ、FACS解析を行った。PD-L1およびPD-L2の発現は、抗ヒトPD-L1抗体および抗ヒトPD-L2抗体を用いてFACS解析した。また、コントロールとして、PD-L1ならびにPD-L2を発現させる前の293T細胞についても、同様の解析を行った。
【0040】
3.結果を
図1に示す。
(1) 抗ヒトPD-L1抗体では、PD-L1発現293T細胞のみが染まっており、293T細胞ならびにPD-L2発現293T細胞では染まっていなかった。これより、PD-L1発現293T細胞が正しく作製されていることが確認された。
(2) 同様に、抗ヒトPD-L2抗体では、PD-L2発現293T細胞のみが染まっており、293T細胞ならびにPD-L1発現293T細胞では染まっていなかった。これより、PD-L2発現293T細胞が正しく作製されていることが確認された。
(3) さらに、PD-1-Igでは、PD-L1発現293T細胞およびPD-L2発現293T細胞、これらいずれもが染まっていたが、293T細胞は染まっていなかった。これより、PD-1-Igが、PD-L1ならびにPD-L2へ特異的に結合していることが確認された。
【0041】
4.これらの結果から、上記実験方法概略に沿って作製したヒトPD-1-Igが、正しく作製されており、PD-L1ならびにPD-L2をリガンドとして認識していることが確認された。
【0042】
<<実験例2.PD-1結合に基づいたbsPD-L1検出新ELISAシステムの開発>>
1.PD-L1の検出・定量を行うための新しいシステムとして、PD-1-Igを用いた評価系(ELISAプレート)を作製した(
図2、実施例、New ELISA)。また、コントロールとして、抗PD-L1抗体を用いた評価系についても同様の手法で作製した(
図2、比較例、Conventional ELISA)。
2.ELISAプレートについては、それぞれ抗PD-L1抗体およびPD-1-Igタンパク質をコーティングすることにより、作製を行った。
(1) 疎水性の96穴プラスチックプレートに、抗PD-L1抗体溶液またはPD-1-Ig溶液、これらを加えシールした後、静置した。
(2) 上清を除去し、洗浄を行った後、ブロッキング溶液を加え、静置した。
(3) ブロッキング溶液を除去、洗浄液で洗浄したものについて、ELISAプレートとして、以降の検討に用いた。
【0043】
3.作製したELISAプレートについて、既知の濃度の組換えPD-L1タンパク質(R&D社)を添加して、ビオチン標識抗PD-L1抗体によるImmunoassayにより、比色定量を行った。
4.結果を
図3に示す。
(1) PD-1-Igタンパク質をcoatingしたELISA(実施例)では、組換えPD-L1タンパク質添加濃度が316~200000pg/mLの範囲で、濃度依存的に吸光度の増加がみられた(
図3A、符号-三角)。
(2) 抗PD-L1抗体をcoatingしたELISA(比較例)では、組換えPD-L1タンパク質濃度が156~10000pg/mLの範囲で、濃度依存的に吸光度の増加がみられた(
図3A、符号-丸)。
5.2つの検量線から総PD-L1タンパク質中のbsPD-L1量を求め、以後の実験の基準値とした(
図3B)。
【0044】
<<実験例3.非小細胞肺癌患者検体についての検討>>
1.非小細胞肺癌患者血漿約70検体について、実施例ならびに比較例、それぞれのELISAプレートを用いて検出を行い、それらの結果を比較検討することを目的に検討を行った。
2.結果を
図4に示す。
(1) 比較例では、全体的にOD値が低く(0.05±0.03)、検出率は75検体中2検体(2.7%)であった(
図4A)。
(2) 一方、実施例では、比較例と比べて、全体的にOD値が高く(0.29±0.46)、検出率は75検体中26検体(34.7%)で、その検出パターンも大きく異なるものであった。
3.これらの結果から、実施例は、比較例と比べて検出感度が高く、比較例では検出できないsPD-L1を高感度に検出できるものと考えられた。
【0045】
<<実験例4.血液検体の種類や抗凝固剤の影響>>
1.実際の医療現場ではサンプル採取や保存条件が異なることから、臨床検体測定の至適条件を見出すために、検体の種類や抗凝固剤の影響について調べた。
2.結果を
図5に示す。検出可能な検体のbsPD-L1値(OD)は、EDTA血漿や血清に比べてヘパリン血漿中で高値となり、より安定することが示唆された。
【0046】
<<実験例5.糖鎖修飾の影響>>
1.実施例と比較例では、その検出感度や検出パターンが異なることから、これらが質的に異なるsPD-L1を検出している可能性が考えられる。その可能性の一つとして、sPD-L1の糖鎖修飾の影響について検討を行った。
【0047】
2.患者検体において、脱グリコシル化処理前後における検出結果の比較を
図6に示す。
(1) 患者検体中のsPD-L1は糖鎖修飾があると約45kD付近にbandが検出されるが、PNGaseF処理により脱グリコシル化すると、約25kDのbandが検出されるようになる(
図6A)。
(2) PNGaseF処理による脱グリコシル化処理前後の患者検体にて検出を行ったところ、比較例では、OD値の変化はほとんど見られなかった(
図6B)。
(3) 一方、実施例では、脱グリコシル化処理により、OD値が大きく減少していた(
図6C)。
(4) これより、患者血液中の可溶型PD-L1について、脱グリコシル化により、PD-1への結合が、大きく減弱することが分かった。
【0048】
3.膜型PD-L1を過剰発現させた293T細胞を用いて、脱グリコシル化処理前後における検出結果の比較を
図7に示す。トランスフェクションには、pEF-BOS-neo/hPD-L1を用いた。
(1) 膜型PD-L1を過剰発現させた293T細胞では、55kD付近に糖鎖修飾を受けた膜型PD-L1の発現がみられるが、tunicamycin(TM)処理により脱グリコシル化すると、約33kDのbandが検出されるようになる(
図7A)。
(2) tunicamycin処理による脱グリコシル化処理前後の293T細胞にて検出を行ったところ、比較例では、OD値の変化はほとんど見られなかった(
図7B)。
(3) 一方、実施例では、処理前後で、脱グリコシル化処理により、OD値が大きく減少していた(
図7C)。
(4) これより、293T細胞において発現する膜型PD-L1について、脱グリコシル化により、PD-1への結合能が、大きく減弱することが分かった。
【0049】
4.ヒト肺癌由来細胞株における膜型PD-L1の糖鎖修飾について検討を行った結果を
図8に示す。
(1) ヒト肺扁平上皮癌由来のRERF-LC-A1細胞では55kD付近に、ヒト肺線癌由来のPC9細胞では65kD付近に糖鎖修飾を受けた膜型PD-L1の発現がみられるが、tunicamycin処理により脱グリコシル化すると、37kD以下のbandが検出されるようになる(
図8A)。
(2) RERF-LC-A1細胞では、脱グリコシル化処理により、PD-1-Igとの結合性が減弱していた(
図8B)。
(3) PC9細胞においても、脱グリコシル化処理により、PD-1-Igとの結合性が減弱していた(
図8B)。
(4) これより、ヒト由来の膜表面に発現するPD-L1についても、脱グリコシル化により、PD-1への結合能が、大きく減弱することが分かった。
【0050】
5.これらの結果から、実施例においては、グリコシル化されたsPD-L1は検出されるものの、脱グリコシル化したsPD-L1は検出されないもしくは極めて弱いことが分かった。加えて、膜型のPD-L1についても同様であった。
6.一方、比較例では、グリコシル化の有無にかかわらず、sPD-L1を検出するが、PD-1に対する結合能は評価できないことが分かった。加えて、膜型のPD-L1についても同様であった。
【0051】
7.以上より、グリコシル化されたPD-L1は、グリコシル化されていないPD-L1よりもPD-1に対する結合能が強く、PD-1結合能にもとづく実施例の評価系により、高感度に検出されることが分かった。
【0052】
<<実験例6.肺癌予後との関連>>
1.
図4で測定した患者検体について、Y軸に比較例のOD値、X軸に実施例のOD値を示した結果を
図9に示す。
(1)
図9Aでは、2年以上再発がなかった予後良好の患者群を緑(符号-白丸)で示している。この予後良好な患者群は、bsPD-L1が比較的高い傾向であった。
(2)
図9Bでは、再発により病死した予後不良の患者群を赤(符号-白菱形)で示している。この予後不良な患者群は、bsPD-L1が比較的低い傾向であった。
2.これらの結果から、実施例によるbsPD-L1の評価により、肺癌の予後予測に有用である可能性が示された。
【0053】
<<実験例7.非小細胞癌患者血漿中のbsPD-L1値と予後の関係>>
検体:非小細胞肺癌と診断され、根治手術を行った患者の術前血漿217検体。
方法:上記検体について新ELISA(実施例)を用いてbsPD-L1値を測定し、術前bsPD-L1値と全生存期間(overall survival(OS))との関係を後方視的に解析した。カットオフ値はOSからROC曲線を作成し最適値を決定した(30pg/ml)。
結果:結果を
図10に示す。bsPD-L1高値群(n=51)はbsPD-L1定値群(n=166)に比べて予後良好であった。
がん患者において、bsPD-L1高値群で予後良好であるという結果は、従来技術から予測される結果「sPD-L1高値群は予後不良」と反する結果であり、可溶型PD-L1(sPD-L1)のなかでもPD-1と結合能を有する特定のPD-L1(bsPD-L1)を選択的に検出・定量することが臨床上有意義であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、臨床での個体の免疫力、特にT細胞免疫機能を評価する新たな検出・定量方法およびその評価に使用する簡易な新規ELISAシステムおよびそのキットが提供される。
本発明の評価方法は、T細胞免疫が病態に関与する代表的疾患であるがんのみならず、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、移植時の拒絶反応、生活習慣病等の診断、評価に応用が期待される。
また、本発明のELISAシステムは、簡便に個体の免疫力、特にT細胞免疫機能を評価することが可能であり、T細胞免疫応答が関与する様々な疾患の病態評価やがんの予後、免疫チェックポイント阻害剤をはじめとする免疫療法の適応や治療効果を診断することが期待できる。
【0055】
本出願は、日本で出願された特願2017-172593(出願日2017年9月8日)を基礎としておりその内容は本明細書に全て包含されるものである。