(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】反射部材の表裏識別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20230315BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20230315BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G01N21/17 B
G01N21/03 B
G01N21/33
(21)【出願番号】P 2018246230
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017644(JP,A)
【文献】特開昭60-135843(JP,A)
【文献】特公平03-040819(JP,B2)
【文献】特開2005-009894(JP,A)
【文献】特許第2657292(JP,B2)
【文献】特開昭61-243346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルに入射した光を反射する反射部材と、前記反射部材によって反射され前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の濃度を演算する演算部とを備え、前記演算部が、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に従って流体濃度を求めるように構成されている濃度測定装置において行う反射部材の表裏識別方法であって、
前記反射部材は、互いに平行な第1の面および第2の面を有する透光性プレートと、前記透光性プレートの第1の面のみに形成された反射層とを有しており、
前記第1の面および前記第2の面のそれぞれに対して同波長の光を照射したときの反射率を測定する工程であって、前記第1の面に対して照射したときの反射率と、前記第2の面に対して照射したときの反射率とが異なる波長である第1の波長の光を前記第1の面および前記第2の面に照射して反射率の測定を行う工程と、
前記反射部材に対して、前記第1の波長の光を照射するとともに前記反射率を測定することによって、前記反射部材の表裏を識別する工程と
を含
み、
前記反射部材は、前記透光性プレートとしてのサファイアプレートに、前記反射層としての誘電体多層膜を設けることによって形成されており、前記第1の波長の光は紫外光である、反射部材の表裏識別方法。
【請求項2】
前記第1の波長は300nm以下である、請求項1に記載の反射部材の表裏識別方法。
【請求項3】
前記第1の波長は280nm以下である、請求項2に記載の反射部材の表裏識別方法。
【請求項4】
前記反射率の測定を行う工程は、前記第1の波長を特定するために、照射する光の波長を少なくとも280nm~320nmの範囲で変化させて光を照射する工程を含む、請求項2または3に記載の反射部材の表裏識別方法。
【請求項5】
被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルに入射した光を反射する反射部材と、前記反射部材によって反射され前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の濃度を演算する演算部とを備え、前記演算部が、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に従って流体濃度を求めるように構成されている濃度測定装置において行う反射部材の表裏識別方法であって、
前記反射部材は、互いに平行な第1の面および第2の面を有する透光性プレートと、前記透光性プレートの第1の面のみに形成された反射層とを有しており、
前記第1の面に対して第1の波長の光を照射したときの反射率と、第2の面に対して前記第1の波長の光を照射したときの反射率とが異なっており、
前記第1の波長の光を照射するとともに反射率を測定することによって、前記反射部材の表裏を識別する
工程を含み、
前記反射部材は、前記透光性プレートとしてのサファイアプレートに、前記反射層としての誘電体多層膜を設けることによって形成されており、前記第1の波長の光は紫外光である、反射部材の表裏識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射部材の表裏識別方法に関し、特に、反射型の濃度測定装置において用いられる、片面に反射層が形成された透光性プレートから形成される反射部材の表裏識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機金属(MO)等の液体材料や固体材料から形成された原料ガスを半導体製造装置へと供給するガス供給ラインに組み込まれ、ガス供給ラインを流れるガスの濃度を測定するように構成された濃度測定装置(いわゆるインライン式濃度測定装置)が知られている。
【0003】
この種の濃度測定装置では、被測定流体が流れる測定セルに、光入射窓を介して光源から所定波長の光を入射させ、測定セル内を通過した透過光を受光素子で受光することにより吸光度を測定する。また、測定された吸光度から、ランベルト・ベールの法則に従って被測定流体の濃度を求めることができる(例えば、特許文献1または2)。
【0004】
なお、本明細書において、内部に導入された被測定流体の濃度を検出するために用いられる種々の透過光検出構造を広く、測定セルと呼ぶことにする。測定セルには、ガス供給ラインから分岐して配置されたセル構造だけでなく、特許文献1または2に示されるようなガス供給ラインの途中に設けられたインライン式の透過光検出構造も含まれる。
【0005】
特許文献2には、測定セルの端部に反射部材を設け、測定セル内を往復した光の吸光度に基づいて測定セル内を流れる測定流体の濃度を検出する、反射型の濃度測定装置が開示されている。反射部材を用いれば、装置の小型化を実現しながら、測定セルを通過する光の光路長を長くして測定精度を向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-219294号公報
【文献】国際公開第2018/021311号
【文献】特開2018-25499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反射型の濃度測定装置において、反射部材としては、例えば、反射層としてのアルミニウム膜や誘電体多層膜が片面に設けられた透光性プレート(例えばサファイアプレートや石英プレート)が用いられている。アルミニウム膜や誘電体多層膜によって形成された反射層は、有機金属ガスの濃度を測定するために好適に用いられる紫外光を高い反射率で反射することができる。
【0008】
ただし、インライン式の濃度測定装置の測定セルに反射部材を配置する場合、アルミニウム膜や誘電体多層膜で形成される反射層を、測定セルの流路に接するように配置すると、ガスを汚染するおそれがある。このため、反射部材を用いるときには、測定セルの流路側に反射層が配置されないように、表裏を間違えずに測定セルに取り付けることが求められる。
【0009】
これに対して、特許文献2には、表面に凸部や凹部を設けたり、あるいは、側面に平坦部を設けたりして、表裏識別構造を反射部材に設ける技術が記載されている。このような表裏識別構造を設けることによって、反射部材の表裏を間違えて取り付けることは防止される。
【0010】
しかしながら、上記のような表裏識別構造を設けるためには、反射部材に機械的な加工を施すことが必要になり、また、反射部材を支持する測定セルの凹部にも対応する構造を設ける必要が生じるので、手間やコストがかかるという問題がある。したがって、反射部材に付加的な機械的加工を行うことなく、反射部材の表裏を識別でき、表裏を間違えずに測定セルに取り付ける方法があれば有利である。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、付加的な機械的加工を必要とせずに濃度測定装置における反射部材の表裏を識別する方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態による反射部材の表裏識別方法は、被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルに入射した光を反射する反射部材と、前記反射部材によって反射され前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の濃度を演算する演算部とを備え、前記演算部が、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に基づいて流体濃度を求めるように構成されている濃度測定装置において行う反射部材の表裏識別方法であって、前記反射部材は、互いに平行な第1の面および第2の面を有する透光性プレートと、前記透光性プレートの第1の面のみに形成された反射層とを有しており、前記第1の面および前記第2の面のそれぞれに対して同波長の光を照射したときの反射率を測定する工程であって、前記第1の面および前記第2の面のそれぞれに対して同波長の光を照射したときの反射率を測定する工程であって、前記第1の面に対して照射したときの反射率と、前記第2の面に対して照射したときの反射率とが異なる波長である第1の波長の光を前記第1の面および前記第2の面に照射して反射率の測定を行う工程と、前記反射部材に対して、特定された前記第1の波長の光を照射するとともに前記反射率を測定することによって、前記反射部材の表裏を識別する工程とを含む。
【0013】
ある実施形態において、上記の表裏識別方法は、前記第1の波長が特定できるまで、波長を変化させて第1の面および第2の面に同波長の光を照射して反射率の測定を行う工程を含む。
【0014】
ある実施形態において、前記反射部材は、前記透光性プレートとしてのサファイアプレートに、前記反射層としての誘電体多層膜を設けることによって形成されており、前記第1の波長は300nm以下である。
【0015】
ある実施形態において、前記第1の波長は280nm以下である。
【0016】
ある実施形態において、前記反射率の測定を行う工程は、前記第1の波長を特定するために、照射する光の波長を少なくとも280nm~320nmの範囲で変化させて光を照射する工程を含む。
【0017】
あるいは、本発明の他の実施形態による反射部材の表裏識別方法は、被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルに入射した光を反射する反射部材と、前記反射部材によって反射され前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の濃度を演算する演算部とを備え、前記演算部が、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に基づいて流体濃度を求めるように構成されている濃度測定装置において行う反射部材の表裏識別方法であって、前記反射部材は、互いに平行な第1の面および第2の面を有する透光性プレートと、前記透光性プレートの第1の面のみに形成された反射層とを有しており、前記第1の面に対して第1の波長の光を照射したときの反射率と、第2の面に対して前記第1の波長の光を照射したときの反射率とが異なっており、前記第1の波長の光を照射するとともに反射率を測定することによって、前記反射部材の表裏を識別する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、反射型の濃度測定装置において、片面に反射層が形成された反射部材の表裏を識別することができ、表裏を間違えて取り付けた状態で使用することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態において用いられる濃度測定装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示した濃度測定装置が備える測定セルの詳細構成を示す断面図である。
【
図3】サファイアプレートの片面に反射層が形成された反射部材における入射光および反射光を示す図であり、(a)および(b)は、反射層としての誘電体多層膜が入射光反対側および入射光側に配置されている図を示し、(c)および(d)は、反射層としてのアルミニウム膜が入射光反対側および入射光側に配置されている図を示す。
【
図4】
図3(a)~(d)に示した各例について、波長265nmおよび365nmの光を照射したときの反射率を示す表である。
【
図5】入射光波長と反射部材の反射率との関係を示すグラフであり、(a)は誘電体多層膜が入射光側に配置されている場合のグラフであり、(b)は誘電体多層膜が入射光の反対側に配置されている場合のグラフである。
【
図6】二芯式の反射型濃度測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態で用いられる濃度測定装置100の全体構成を示す模式図である。濃度測定装置100は、ガス供給ラインに組み込まれる測定セル4を有する高温ガスユニット50と、高温ガスユニット50と離間して配置され光源1および演算部8などを含む電気ユニット52とを備えている。高温ガスユニット50と電気ユニット52とは、光ファイバ10aおよびセンサケーブル10bによって接続されている。
【0022】
高温ガスユニット50は、被測定流体の種類によって例えば100℃~150℃程度にまで加熱される可能性があるが、これと離間する電気ユニット52は典型的には室温(クリーンルーム雰囲気等)に維持されている。被測定流体としては、例えば、トリメチルガリウム(TMGa)やトリメチルアルミニウム(TMAl)等の有機金属材料を含んだプロセスガスが挙げられる。なお、ここでは「高温ガスユニット」としているが、必ずしも高温になるとは限らず、常温(室温)や常温以下のガスを用いる場合は、高温にならない(加熱しない)状態で使用する場合もある。
【0023】
また、図示する態様において、電気ユニット52には、デバイスネット通信などによって、外部制御装置54が接続されている。外部制御装置54は、濃度測定装置100に動作制御信号を送信したり、濃度測定装置100から測定濃度信号を受信したりすることができる。
【0024】
高温ガスユニット50には、被測定流体の流入口4a、流出口4bおよび長手方向に延びる流路4cを有し、流路4cに接する透光性の窓部(透光性プレート)3が設けられた測定セル4が設けられている。また、測定セル4には、入射した光を反射させるための反射部材5が設けられている。本明細書において、光とは、可視光線のみならず、少なくとも赤外線、紫外線を含み、任意の波長の電磁波を含み得る。また、透光性とは、測定セル4に入射させる前記の光に対する内部透過率が濃度測定を行い得る程度に十分に高いことを意味する。
【0025】
測定セル4の窓部3は、窓押さえ部材30によってセル本体40に固定されており、窓押さえ部材30には、光ファイバ10aが接続されたコリメータ6が取り付けられている。コリメータ6は、コリメータレンズ6aを有しており、光源1からの光を測定セル4に平行光として入射させることができ、また、コリメータ6は、反射部材5からの反射光を受光することができる。コリメータ6は、測定セル4を流れる被測定対象のガスが高温のときにも破損なく高精度に濃度測定を行えるように設計されている。
【0026】
また、本実施形態では、高温ガスユニット50において、測定セル4内を流れる被測定流体の圧力を検出するための圧力センサ20が設けられている。圧力センサ20は、本実施形態では、測定セル4の流出口4bの下流側に配置されているが、測定セル4の上流側に設けられていてもよいし、測定セル4の流路4cの途中に設けられていてもよい。圧力センサ20は、測定セル4内の流路4cに存在する流体の圧力を測定できる限り、任意の態様を有していてよく、公知の種々の圧力センサを利用することができる。また、測定セル4には、被測定流体の温度を測定するための温度センサ11(測温抵抗体、サーミスタ、熱電対など)が設けられている。圧力センサ20および温度センサ11の出力は、センサケーブル10bを介して電気ユニット52に入力される。温度センサ11は、本実施形態では流出口4bの近傍に配置されているが、流路4c内に存在する流体の温度が測定できれば良く、流入口4a付近、あるいは、圧力センサ20の近傍や窓部3に設置されていても良い。
【0027】
電気ユニット52には、測定セル4内に入射させる光を発生する光源1と、測定セル4から出射した光を受光する測定光検出器7と、測定光検出器7から出力される、受光した光の強度に応じた検出信号に基づいて被測定流体の濃度を演算するように構成された演算部8と、光源1からの参照光を受光する参照光検出器9とが設けられている。
【0028】
本実施形態では、測定光検出器7と参照光検出器9とがビームスプリッタ12を挟んで対向して配置されている。ビームスプリッタ12は、光源1からの光の一部を参照光検出器9に入射させ、また、測定セル4からの検出光を測定光検出器7に入射させる。測定光検出器7および参照光検出器9を構成する受光素子としては、フォトダイオードやフォトトランジスタが好適に用いられる。
【0029】
演算部8は、例えば、回路基板PCB上に設けられたプロセッサやメモリなどによって構成され、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。
【0030】
光源1は、本実施形態では、2つの発光素子13A、13Bを用いて構成されており、発光素子13A、13Bは互いに異なる波長の紫外光を発するLEDである。発光素子13A、13Bには、発振回路を用いて異なる周波数の駆動電流が流され、周波数解析(例えば、高速フーリエ変換やウェーブレット変換)を行うことによって、測定光検出器7が検出した検出信号から、各波長成分に対応した光の強度を測定することができる。発光素子13A、13Bが発する光は、WDM(波長分割多重方式)の合波器14によって合成されて測定セル4に入射される。発光素子13Aの光の波長は例えば300nmであり、発光素子13Bの光の波長は例えば365nmである。
【0031】
発光素子13A、13Bとしては、LED以外の発光素子、例えばLD(レーザダイオード)を用いることもできる。また、複数の異なる波長の合波光を光源に用いる代わりに、単一波長の光源を利用することもでき、この場合、合波器や周波数解析回路は省略することができる。発光素子は、3つ以上設けられていてもよいし、選択された任意の発光素子のみを用いて入射光を生成するように構成されていてもよい。また、合波器14には図示するように測温抵抗体14aが取り付けられていてもよい。さらに、発光素子が発する光は、紫外光にかぎらず、可視光や赤外光であっても良い。
【0032】
濃度測定装置100において、光源1と測定セル4とは、導光部材である光ファイバ10aによって接続されている。光源1からの光は、光ファイバ10aによって測定セル4の窓部3に導光される。また、光ファイバ10aは、反射部材5によって反射された光を測定光検出器7に導光する機能も兼ね備えている。光ファイバ10aは、入射光用の光ファイバと検出光用の光ファイバとを含むものであってもよいし、光ファイババンドルの態様で提供されるものであってもよい。また、別の態様において、入射光を測定セル4に導光するための光ファイバと、測定セル4から出射した光を導光するための光ファイバとは、別個に設けられていてもよい(
図6参照)。
【0033】
図2は、測定セル4のより詳細な構成を示す断面図である。測定セル4は、ステンレス製のセル本体(セルブロック)40において形成されており、セル本体40には、ガスケット等を介して後段ブロック45が接続されている。後段ブロック45の流路には圧力センサ20が取り付けられている。
【0034】
測定セル4の流入口4aと流出口4bとは流路4cの両側(図面における流路4cの右側と左側)に配置され、ガス供給ラインに組み込まれたときに、濃度測定装置100は全体として水平方向にガスを流すように構成されているのに対して、流路4cは、ガス供給ラインにおける全体の流れ方向に直交する方向に延びている。本明細書では、このような構成を、縦型の測定セル4と呼んでいる。縦型の測定セル4を用いれば、ガス供給ラインに組み込まれたときに省スペース化を実現できるとともに、メンテナンスがしやすいという利点が得られる。なお、図示する測定セル4では、流入口4aが反射部材5の近傍に配置され、流出口4bが窓部3の近傍に配置されているが、他の態様において、流入口4aが窓部3の近傍に配置され、流出口4bが反射部材5の近傍に配置されていてもよく、また流路4cは必ずしも全体の流れ方向に対して直交する方向に延びなければならないと言うことはない。
【0035】
窓部3としては、紫外光等の濃度測定に用いる検出光に対して耐性および高透過率を有し、機械的・化学的に安定なサファイアが好適に用いられるが、他の安定な素材、例えば石英ガラスを用いることもできる。測定セル4のセル本体40(流路形成部)は例えばSUS316L製であってよいし、流れる被測定流体によっては、SUS316Lのようなステンレス鋼以外の金属や非金属、非鉄金属材料等を用いても良い。窓部3は、本実施形態では、ガスケット15を介して、窓押さえ部材30によってセル本体40の凹部に固定されている。
【0036】
また、測定セルの窓部3の反対側の端部に配置された反射部材5は、押さえ部材32によって、ガスケット16を介して、セル本体40の下面に設けられた取り付け凹部の支持面に固定されている。反射部材5の反射面は、入射光の進行方向または流路の中心軸4xに対して垂直になるように設けられており、反射光は入射光と実質的に同じ光路を通って窓部3へと反射される。
【0037】
本実施形態において、反射部材5としては、サファイアプレートの片面に、反射層としての誘電体多層膜が形成されたものが用いられている。誘電体多層膜を用いれば、特定波長域の光(例えば近紫外線)を選択的に反射させることができる。誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の光学被膜の積層体(例えば、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜との積層体)によって構成されるものであり、各層の厚さや屈折率を適宜選択することによって、特定の波長の光を反射したり透過させたりすることができる。
【0038】
また、誘電体多層膜は、任意の割合で光を反射させることができる。そこで、入射した光を100%反射するのではなく、一部(例えば10%)は透過するようにし、反射部材5の下部に設置した光検出器または光検出器に接続された光学機器によって、透過した光を受光することもできる。反射部材5を透過した光は参照光として利用することができ、上記の光検出器を
図1に示した参照光検出器9の代替とすることも可能である。
【0039】
反射部材5は、例えば、直径10~20mm(より具体的には直径約16mm)、厚さ1.0~2.0mm(より具体的には厚さ約1.8mm)の寸法を有するサファイア製の円形プレートの片面に、誘電体多層膜を形成することによって作製される。誘電体多層膜は、例えば、TiO2、Ta2O5、Al2O3、SiO2、MgF2などの酸化物やフッ化物から形成され、反射波長に対応する屈折率および厚さを有するように高屈折率薄膜と低屈折率薄膜とを蒸着などにより交互に積層することで形成される。誘電体多層膜の厚さは層数(例えば数層から数十層)によって異なるが、例えば300nm~5μmである。
【0040】
以上に説明した測定セル4において、測定セル4内を往復して伝播する光の光路長は、窓部3の表面と反射部材5の表面との距離の2倍によって規定することができる。濃度測定装置100において、測定セル4に入射され、その後、反射部材5によって反射された光は、測定セル4内の流路4cに存在するガスによって、ガスの濃度に依存した大きさで吸収される。そして、演算部8(
図1参照)は、測定光検出器7からの検出信号を周波数解析することによって、当該吸収波長λでの吸光度Aλを測定することができ、さらに、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、吸光度Aλからガス濃度Cを算出することができる。
Aλ=-log
10(I/I
0)=αLC ・・・(1)
【0041】
上記の式(1)において、I0は測定セルに入射する入射光の強度、Iは測定セル内のガス中を通過した光の強度、αはモル吸光係数(m2/mol)、Lは測定セルの光路長(m)、Cは濃度(mol/m3)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。
【0042】
なお、上記式における入射光強度I0については、測定セル4内に吸光性のガスが存在しないとき(例えば、紫外光を吸収しないパージガスが充満しているときや、真空に引かれているとき)に測定光検出器7によって検出された光の強度を入射光強度I0と見なしてよい。
【0043】
測定セル4の光路長Lは、上記のように、窓部3と反射部材5との距離の2倍として規定することができるので、光入射窓と光出射窓とを測定セルの両端部に備える従来の濃度測定装置に比べて、2倍の光路長を得ることができる。これにより、小型化したにも関わらず、測定精度を向上させることができる。また、濃度測定装置100では、測定セル4の片側に設けた1つの窓部3を介して1つの光学機器のみを用いて光入射および受光を行うので、部品点数を削減することができる。
【0044】
さらに、濃度測定装置100では、圧力センサ20が設けられており、測定セル4内のガスの圧力を測定することができる。したがって、圧力センサ20からの出力に基づいて、光検出器の出力によって測定された吸光度を所定圧力(例えば、1気圧)のときの吸光度に補正することができる。そして、補正した吸光度に基づいて、特許文献3に記載の濃度測定装置と同様に、ランベルト・ベールの法則から、被測定流体の濃度を演算により求めることができる。このように、演算部8が、測定光検出器7および圧力センサ20を用いて被測定流体の濃度を演算するので、濃度測定をより精度よく行うことができる。なお、測定セル4を流れるガスの温度を測定する温度センサ11(
図1参照)を設けているので、温度による補正をさらに行って濃度検出を行うこともできる。
【0045】
以下、上記の濃度測定装置100において用いられる、誘電体多層膜が片面に設けられた反射部材5の表裏を識別する方法を説明する。
【0046】
図3(a)および(b)は、サファイアプレート(透光性プレート)の片面に誘電体多層膜が形成された反射部材において、サファイアプレート5a1の入射光側と反対側の面に誘電体多層膜5b1が形成されている場合(
図3(a))と、サファイアプレート5a2の入射光側の面に誘電体多層膜5b2が形成されている場合(
図3(b))とを示す図である。
【0047】
図3(a)に示すように、反対側の面に誘電体多層膜5b1が設けられている場合、サファイアプレート5a1を透過した入射光が誘電体多層膜5b1によって反射される。一方、
図3(b)に示すように、光入射側の面に誘電体多層膜5b2が設けられている場合、入射光は、サファイアプレート5a2を透過せずに誘電体多層膜5b2によって直接的に反射される。
【0048】
また、
図3(c)および(d)は、サファイアプレートの片面にアルミニウム膜が形成された反射部材において、サファイアプレート5a1の入射光側と反対側の面にアルミニウム膜5c1が形成されている場合(
図3(c))と、サファイアプレート5a2の入射光側の面にアルミニウム膜5c2が形成されている場合(
図3(d))とを示す図である。
【0049】
図4は、
図3(a)~(d)に示したそれぞれの場合において、入射光波長を265nmまたは365nmとしたときの、反射率(%)を示す表である。反射率(%)は、例えば、濃度測定装置100において、測定セル4の内部に吸光性のガスが存在しない状態で、光源1から265nmまたは365nmの紫外光を入射させたときの、測定光検出器7の出力と参照光検出器9の出力とから求めることができる。
【0050】
図4からわかるように、サファイアプレート5a1の入射光側と反対側の面に誘電体多層膜5b1を設けた場合(a)において、265nmの光の反射率は18%と比較的小さいのに対して、365nmの光の反射率は89%と比較的大きくなっている。
【0051】
一方、サファイアプレート5a2の入射光側の面に誘電体多層膜5b2を設けた場合(b)において、265nmの光の反射率も、365nmの光の反射率も、100%となっており、いずれの波長であっても入射光が完全に反射されることがわかる。
【0052】
また、サファイアプレート5a1の入射光側と反対側の面にアルミニウム膜5c1設けた場合(c)、および、サファイアプレート5a2の入射光側の面にアルミニウム膜5c2を設けた場合(d)において、265nmの光の反射率は90%および91%と比較的大きく、また、365nmの光の反射率も84%および89%と比較的大きくなっている。
【0053】
以上の結果から、サファイアプレート5a1、5a2の片面に誘電体多層膜5b1、5b2を設けた場合において、265nmの波長の紫外光を照射して反射率を測定することによって、反射部材の表裏を識別することができることがわかる。また、誘電体多層膜5b1、5b2を設けた場合において、365nmの波長の光を照射して反射率を測定したときは、反射部材の表裏を識別することが容易ではないことがわかる。さらに、反射層としてアルミニウム膜5c1、5c2を設けた場合には、265nmおよび365nmのいずれの波長の光を照射したときにも、反射率に基づいて表裏を識別することは困難であることがわかる。
【0054】
図5(a)および(b)は、誘電体多層膜5b1がサファイアプレート5a1の入射光側の反対側の面(裏面と呼ぶことがある)に形成されている場合(
図3(a)対応)と、誘電体多層膜5b2がサファイアプレート5a2の入射光側の面(表面と呼ぶことがある)に形成されている場合(
図3(b)対応)とのそれぞれにおける、入射光波長と反射率との関係を示すグラフである。
【0055】
図5(a)および(b)から、例えば300nm以下の波長域の光を入射させたときには、誘電体多層膜5b1、5b2が表面側に存在するか裏面側に存在するかによって、反射率が大きく異なることがわかる。なかでも290nm以下、特に280nm以下の波長では、反射率の差が非常に大きいものになることがわかる。一方、320nm~450nmの光を入射させたときには、反射率の差は小さいものであることがわかる。したがって、反射率の測定によって反射部材の表裏を識別するためには、特定の波長域(例えば230nm以上300nm以下)の光を入射させることが必要であることがわかる。なお、上記の
図5(a)および(b)のグラフの結果を得た反射部材と、
図4の表の結果を得た反射部材とは異なるものであり、このために、反射率の大きさは多少異なるものとなっている。
【0056】
このような表裏で反射率が異なる波長を特定するために、本実施形態では、透光性プレートの一方の面(第1の面と呼ぶことがある)のみに誘電体多層膜が形成されている場合において、上記一方の面と、他方の面(第2の面と呼ぶことがある)のそれぞれに対して同じ波長の光を照射したときの反射率を測定するようにしている。そして、この反射率の測定は、一方の面に対して光を照射したときの反射率と、他方の面に対して光を照射したときの反射率とが異なる波長が特定できるまで、波長を変化させて行うようにしている。この工程は、例えば、
図5(a)に示したように、230nm~450nmの範囲で、少なくとも280nm~320nmの範囲を含むようにして、連続的にまたは離散的に波長を変化させながら、第1の面および第2の面のそれぞれに光を照射して反射率の測定を行うことによって実行してもよい。
【0057】
そして、反射率に有意な差が生じる波長が特定できたときには、いずれの側に誘電体多層膜が形成されているか不明な反射部材に対して、上記の特定された波長の光を照射して反射率を測定することによって、反射部材の表裏を識別することができる。
【0058】
以上のようにして、特定波長の光を照射したときの反射率を測定することによって、透光性プレートのいずれの面に誘電体多層膜が形成されているのかを判別することができ、したがって、
図1、
図2に示した濃度測定装置100に反射部材5を組み込んだ後にも、光の照射および反射光の測定によってその表裏を識別することができる。このため、表裏を間違えて取り付けた結果、流路側に誘電体多層膜が配置されたまま使用されることが防止され、測定セルを流れるガスの汚染を防ぐことができる。
【0059】
また、上記の第1の面に照射したときの反射率と第2の面に照射したときの反射率とが異なる光の波長または波長帯が予め判っている場合には、単に、当該波長の光を照射するとともに反射率を測定することによって、反射部材の表裏を識別することができる。表裏識別のために用いる光を発する光源は、濃度測定装置における濃度測定用の光源に含まれるものであってもよいし、別途設けられたものであってもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態による濃度測定装置を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記には
図1に示したように、入射光と出射光とを1本の光ファイバ10aで導光する装置を用いる態様を説明したが、二芯式の濃度測定装置を用いることも好適である。このような二芯式の濃度測定装置は、例えば、特許文献3(
図8等)に記載されている。
【0062】
図6に示すように、二芯式の濃度測定装置では、測定セル4と、電気ユニット52とが、入射光ファイバ10cと出射光ファイバ10dとによって接続されている(ここでは、測定セル4に設けた温度センサおよびこれに接続されるセンサケーブル等は省略している)。発光素子13A、13Bからの光は、入射用ファイバ10cによって導光され、窓部3を介して測定セル4に入射される。また、反射部材5によって反射され測定セル4から出射した測定光は、出射光ファイバ10dによって導光され、測定光検出器7で受光される。このように入射光と出射光とを別経路で導光することによって、迷光の影響を低減し得る。また、
図6に示すように、窓部3の窓面法線方向をコリメータの光軸方向から例えば1~5°程度傾けて配置することによって、迷光の発生を低減し得る。また、測定セル4のガス流入口とガス流出口とは、
図1に示した態様とは異なり、測定セル4の同じ側面に設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の実施形態にかかる表裏識別方法は、例えば、反射型の濃度測定装置に組み込まれた反射部材の表裏を識別するために好適に利用される。
【符号の説明】
【0064】
1 光源
3 窓部
4 測定セル
4a 流入口
4b 流出口
4c 流路
5 反射部材
5a1、5a2 サファイアプレート
5b1、5b2 誘電体多層膜
5c1、5c2 アルミニウム膜
6 コリメータ
7 測定光検出器
8 演算部
9 参照光検出器
10a 光ファイバ
10b センサケーブル
11 温度センサ
100 濃度測定装置