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特許7244922化学修飾された一本鎖RNA編集オリゴヌクレオチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】化学修飾された一本鎖RNA編集オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230315BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230315BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20230315BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
A61K31/7115
A61K31/712
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019511856
(86)(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2017071912
(87)【国際公開番号】W WO2018041973
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】1614858.7
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1616374.3
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1621467.8
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1703034.7
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1707508.6
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン,ジャネ ユハ
(72)【発明者】
【氏名】アールト,アンティ
(72)【発明者】
【氏名】クライン,バート
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン シント フィート,レンカ
(72)【発明者】
【氏名】ブデ,ジュリアン オーギュスト ジェルマン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-516489(JP,A)
【文献】特表2013-534424(JP,A)
【文献】特表2012-531888(JP,A)
【文献】国際公開第2016/097212(WO,A1)
【文献】特表2015-523082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0357856(US,A1)
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 2014, Vol.53, pp.6267-6271
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1995, Vol.92, pp.8298-8302
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2013, Vol.110, pp.18285-18290
【文献】ACS Chem. Biol., 2013, Vol.8, No.4, pp.832-839
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の標的RNA配列と二本鎖複合体を形成することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含む、細胞内に存在するADAR酵素による標的RNA配列中の標的アデノシンの脱アミノ化のための組成物であって、前記AONは、3つの連続したヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、前記標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドは、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、前記セントラルトリプレット中の1、2または3個のヌクレオチドは糖修飾および/または塩基修飾を含み、前記AONをより安定に、および/または、標的アデノシンの脱アミノ化の誘導をより効果的にし、ただし中央のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾を有さず、哺乳動物のADAR酵素に結合できる分子内ステム-ループ構造を形成できる部分を含まない、組成物
【請求項2】
前記細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記セントラルトリプレットの2または3個のヌクレオチドが、2’-O-メチル修飾を有しない、請求項1または2に記載の組成物
【請求項4】
前記セントラルトリプレットの2または3個のヌクレオチドが2’-O-アルキル修飾を有しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
前記セントラルトリプレットの1または2個のヌクレオチドが、イノシンで置換されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
前記セントラルトリプレットにおける中央のヌクレオチド以外の1または2個のヌクレオチドがイノシンで置換されている、請求項5に記載の組成物
【請求項7】
前記糖修飾が、デオキシリボース(DNA)、アンロック核酸(UNA)および2’-フルオロリボースからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
前記AONが、ホスホロチオエート、3’-メチレンホスホネート、5’-メチレンホスホネート、3’-ホスホロアミデートおよび2’-5’ホスホジエステルからなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオシド間連結修飾を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物
【請求項9】
前記AONの5’および3’末端の2、3、4、5、または6個の末端ヌクレオチドが、ホスホロチオエート連結で連結している、請求項8に記載の組成物
【請求項10】
前記AONの前記5’および3’末端の5個の末端ヌクレオチドが、ホスホロチオエート連結で連結している、および/またはロックド核酸(LNA)を含む、請求項8に記載の組成物
【請求項11】
前記塩基修飾が、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、7-メチルアデノシン、8-アジドアデノシン、8-メチルアデノシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-メチルシチジン、ピロロシチジン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-デアザグアノシン、7-メチルグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、チエノグアノシン、イノシン、4-チオ-ウリジン、5-メトキシウリジン、ジヒドロウリジン、およびシュードウリジンからなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドが、シチジンまたはウリジンである、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
前記AON中の前記セントラルトリプレットの外側の1つまたは複数のヌクレオチドが、DNA、2’-O-メチル基などの2’-O-アルキル基、2’-O-MOE基、2’-F基、2’-NH2基、およびLNA;またはそれらの組み合わせからなる群から選択される修飾を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
前記AONが10、11、12、13、14、15、16または17ヌクレオチドより長く、前記AONが100ヌクレオチドよりも短い、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
前記AONが60ヌクレオチドよりも短い、請求項14に記載の組成物
【請求項16】
前記AONが18~70ヌクレオチドを含む、請求項14に記載の組成物
【請求項17】
前記AONが18~60ヌクレオチドを含む、請求項14に記載の組成物
【請求項18】
前記AONが18~50ヌクレオチドを含む、請求項14に記載の組成物
【請求項19】
前記標的RNA配列が、CFTR、CEP290、アルファ1-抗トリプシン(A1AT)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(GNAQ)、もしくはLRRK2をコードするか、または前記標的RNAがIDUA遺伝子によってコードされる、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物
【請求項20】
前記標的RNA配列が、c.1096G>A変異を有するA1ATをコードするか、または
前記標的RNAが、c.1205G>A(W402X)変異を有するIDUA遺伝子によってコードされる、
請求項19に記載の組成物
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物であって、医薬的に許容される担体を含み、医薬組成物である、組成物
【請求項22】
細胞内の標的RNA配列に存在する少なくとも1つの特定の標的アデノシンの脱アミノ化のためのインビトロの方法であって:
(i)請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞に提供するステップ;
(ii)前記組成物中の前記AONを前記細胞に取り込ませるステップ;
(iii)前記AONを前記標的RNA配列にアニーリングさせるステップ;および
(iv)野生型酵素に見出されるような天然dsRNA結合ドメインを含む哺乳動物のADAR酵素により、前記標的RNA配列中の前記標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化させるステップ
を含む、方法。
【請求項23】
(v)前記RNA配列中の前記イノシンの存在を同定するステップをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ステップ(v)が:
a)前記標的RNA配列を配列決定するステップ;
b)脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUGAまたはUAG終止コドン内に前記標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
c)両方の標的アデノシンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUAA終止コドン内に2つの標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
d)プレmRNAのスプライシングが脱アミノ化によって変化したか否かを評価するステップ;または
e)機能的読み出しを使用するステップであって、ここで前記脱アミノ化後の前記標的RNAが、機能的な、全長の、伸長したおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップ
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記標的RNA配列が、CFTR、CEP290、アルファ1-抗トリプシン(A1AT)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(GNAQ)、もしくはLRRK2をコードするか、または前記標的RNAが、IDUA遺伝子によってコードされる、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記標的RNA配列が、c.1096G>A変異を有するA1ATをコードするか、または
前記標的RNAが、c.1205G>A(W402X)変異を有するIDUA遺伝子によってコードされる、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に関する。特に、本発明はRNA編集の分野に関し、それによりRNA配列は一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドにより標的化され、遺伝子変異を修正および/または特定の標的RNAの配列を変化する。より具体的には、本発明は、オリゴヌクレオチドをより安定にし、それらのRNA編集効率を高める一本鎖RNA編集オリゴヌクレオチドの化学修飾に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA編集は、真核生物細胞が、しばしば部位特異的かつ正確な方法で、それらのRNA分子の配列を変化させ、それによってゲノムにコードされたRNAのレパートリーを数桁増加させる自然プロセスである。RNA編集酵素は、動物および植物界全体にわたって真核生物種について記載されており、これらのプロセスは、最も単純な生活形態、例えば、線虫(Caenorhabditis elegans)からヒトまでの後生動物における細胞ホメオスタシスの管理において重要な役割を果たす。RNA編集の例は、それぞれアデノシンデアミナーゼおよびシチジンデアミナーゼと呼ばれる酵素を介する、アデノシン(A)からイノシン(I)への変換およびシチジン(C)からウリジン(U)への変換である。最も広く研究されているRNA編集システムは、アデノシンデアミナーゼ酵素である。
【0003】
アデノシンデアミナーゼは、認識ドメインおよび触媒ドメインを含むマルチドメインタンパク質である。認識ドメインは特異的な二本鎖RNA(dsRNA)配列および/またはコンフォメーションを認識するが、触媒ドメインは核酸塩基の脱アミノ化によって、多かれ少なかれあらかじめ定義された標的RNA内の近くの位置でアデノシンをイノシンに変換する。イノシンは、細胞の翻訳機構によってグアノシンとして読み取られ、編集されたアデノシンがmRNAまたはプレmRNAのコード領域にある場合、タンパク質配列を再コードすることができることを意味する。
【0004】
AからIへの変換はまた、標的mRNAの5’非コード配列において生じ、N末端に伸長したタンパク質を生じる元の開始部位の上流に新しい翻訳開始部位を生成し得る。編集イベントは3’UTRでも発生し、miRNAベースの制御およびポリアデニル化に影響を及ぼす可能性がある。さらに、AからIへの変換はプレmRNAのイントロンまたはエキソンにおけるスプライス要素内で起き、それによりスプライシングのパターンを変えることがある。結果として、エキソンが含まれるか、またはスキップされ得る。アデノシンデアミナーゼは、ヒトデアミナーゼhADAR1、hADAR2およびhADAR3を含むRNA(ADAR)に作用するアデノシンデアミナーゼと呼ばれる酵素ファミリーの一部である。
【0005】
アデノシンデアミナーゼを適用する標的RNAを編集するためのオリゴヌクレオチドの使用は当技術分野において公知である。Montiel-Gonzalezら(PNAS 2013.110(45):18285~18290)は、boxB RNAヘアピン配列を認識するバクテリオファージ・ラムダNタンパク質に融合された、hADAR2タンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインを含む、遺伝子操作された融合タンパク質を用いた標的RNAの編集を記載した。天然のADARの基質認識特性を除去するために、ラムダNタンパク質のboxB認識ドメインで置き換えて、hADAR2の天然のdsRNA結合ドメインを除いた。著者らは、Nドメイン-デアミナーゼ融合タンパク質による配列特異的認識のためのboxB部分に融合された、編集のための標的配列に相補的な「ガイドRNA」部分を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製した。このようにすることにより、ガイドRNAオリゴヌクレオチドがアデノシンデアミナーゼ融合タンパク質を標的部位に忠実に方向付けて、標的RNAのガイドRNAにより方向付けられた部位特異的なAからIへの編集がもたらされることがうまく示された。Montiel-Gonzalezら(2013)に開示されたガイドRNAは、長さ50ヌクレオチドより長い。治療法におけるこの方法の欠点は、切断型天然ADARタンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインに遺伝的に融合したバクテリオファージ・ラムダNタンパク質のboxB認識ドメインからなる融合タンパク質の必要性である。これは、標的細胞が、大きな障害である融合タンパク質で形質導入されるか、または標的細胞が、発現のために操作されたアデノシンデアミナーゼ融合タンパク質をコードする核酸構築物でトランスフェクトされることを必要とする。後者の必要条件は、遺伝子疾患を修正するためのヒト疾患に対する治療などの、多細胞生物における編集が達成される場合には、ささやかな障害ではない。
【0006】
Vogelら(2014. Angewandte Chemie Int Ed 53:267~271)は、ベンジルグアノシン置換ガイドRNAおよびSNAPタグドメインに遺伝的に融合された(dsRNA結合ドメインを欠く)ADAR1または2のアデノシンデアミナーゼドメインを含む遺伝子操作された融合タンパク質(遺伝子操作されたO6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ)を用いた、eCFPおよび第V因子ライデンをコードするRNAの編集を開示した。遺伝子操作された人工デアミナーゼ融合タンパク質は、5’末端O6-ベンジルグアノシン修飾を介してガイドRNAに共有結合したそのSNAPタグドメインを介して、培養中のHeLa細胞の標的RNA中の所望の編集部位を標的とすることができるものの、このシステムは、まずADARに遺伝的な修飾を施すことなくシステムを適用し、続いて標的RNAを有する細胞をトランスフェクションまたは形質導入して、この遺伝子操作されたタンパク質を細胞に提供する方法が明確ではない点で、Montiel-Gonzalezら(2013)によって記載された遺伝子操作されたADARと同様の欠点を有する。明らかに、このシステムは、例えば治療の場において人間への使用には容易に適用できない。
【0007】
Woolfら(1995. Proc Natl Acad Sci USA 92:8298~8302)は、比較的長い一本鎖アンチセンスRNAオリゴヌクレオチド(長さ25~52ヌクレオチド)を使用したより単純な手法を開示しており、そこでは、標的RNAおよびハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの二本鎖の性質のために、より長いオリゴヌクレオチド(34-merおよび52mer)が内在性ADARによる標的RNAの編集を促進できた。標的RNA配列に100%相補的であったWoolfら(1995)のオリゴヌクレオチドは、細胞抽出物またはマイクロインジェクションによる両生類(アフリカツメガエル)卵母細胞において機能するようにしか見えず、特異性の重大な欠如に悩まされた:アンチセンスオリゴヌクレオチドに相補的であった標的RNA鎖中のほぼ全てのアデノシンが編集された。各ヌクレオチドが2’-O-メチル修飾を含む長さ34ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドが試験され、不活性であることがWoolfら(1995)において示された。ヌクレアーゼに対する安定性を提供するために、5個の5’および3’末端ヌクレオチドにおいて2’-O-メチル修飾ホスホロチオエートヌクレオチドで修飾された34-mer RNAもまた試験された。このオリゴヌクレオチドの中央非修飾領域は、末端修飾がエキソヌクレアーゼ分解に対する保護を提供しつつ、内在性ADARによる標的RNAの編集を促進することができることが示された。Woolfら(1995)は、標的RNA配列中の特定の標的アデノシンの脱アミノ化を達成していなかった。アンチセンスオリゴヌクレオチドの未修飾ヌクレオチドの反対側のほぼ全てのアデノシンが編集された(したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5個の5’および3’末端ヌクレオチドが修飾されている場合は、中央非修飾領域のヌクレオチドの反対側のほぼ全てのアデノシン、またはヌクレオチドが修飾されていない場合は、標的RNA鎖中のほぼ全てのアデノシン)。ADARはあらゆる二本鎖RNA(dsRNA)に作用する。「無作為編集」とも呼ばれるプロセスを通じて、この酵素はdsRNAの複数のアデノシンを編集する。したがって、そのような無作為編集を回避し、標的RNA配列中の特定のアデノシンのみを標的とする方法および手段が必要とされている。Vogelら(2014)は、オリゴヌクレオチド中の2’-O-メチル修飾ヌクレオチドを編集すべきではないアデノシンの反対側の位置で使用し、非修飾ヌクレオチドを標的RNA上の特異的に標的化されたアデノシンのすぐ反対側で使用することにより、そのようなオフターゲット編集を抑制することができることを示した。しかしながら、アンチセンスオリゴヌクレオチドと特異的に共有結合を形成する組換えADAR酵素を使用することなく、標的ヌクレオチドにおける特定の編集効果が、その物に起こることは示されていない。
【0008】
国際公開第2016/097212号パンフレットは、RNAの標的編集のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を開示し、ここでAONは標的RNA配列に相補的な配列によって特徴付けられ(そこでは「標的化部分(targeting portion)」と呼ばれる)、およびステム-ループ構造(そこでは「リクルートメント部分(recruitment portion)」と呼ばれる)の存在によって特徴付けられる。そのようなオリゴヌクレオチドは、「アキシオマー(axiomer)AON」または「自己ループ化AON」と呼ばれる。リクルートメント部分は、標的配列と標的部分とのハイブリダイゼーションによって形成されたdsRNAに細胞中に存在する天然のADAR酵素をリクルートする際に働く。リクルートメント部分のおかげで、コンジュゲートされた主体または修飾された組換えADAR酵素の存在は必要ない。国際公開第2016/097212号パンフレットは、リクルートメント部分が、ADAR酵素のdsRNA結合領域によって認識されることが知られている天然基質(例えば、GluB受容体)またはZ-DNA構造のいずれかを模倣するステム-ループ構造であると説明している。ステムループ構造は、単一の核酸鎖内に形成された2つの別個の核酸鎖または分子内ステムループ構造によって形成される分子間ステムループ構造であり得る。国際公開第2016/097212号パンフレットに記載されているリクルートメント部分のステム-ループ構造は、分子内ステム-ループ構造であり、AON自体内で成され、ADARを誘引することができる。
【0009】
オリゴヌクレオチドを使用するさらに別の編集技術はCRISPR/Cas9システムとして知られているが、この編集複合体はDNAに作用する。後者の方法は、ガイドオリゴヌクレオチドと共にCRISPR/Cas9酵素の標的細胞またはそれをコードする発現構築物への同時送達が必要であるため、上に記載の操作されたADARシステムと同じ欠点もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に鑑み、内在性細胞経路および天然に利用可能なADAR酵素を利用して、哺乳動物細胞の内在性核酸を、生物全体においてもなお、先行技術の方法に付随する問題を起こすことなく、特異的に編集できる新しい技術および化合物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一実施形態では、細胞、好ましくはヒト細胞内で標的RNA配列と二本鎖複合体を形成することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いた、前記細胞内に存在するADAR酵素による前記標的RNA配列中の標的アデノシンの脱アミノ化のためのRNA編集への標的手法を提供することによって、先行技術による方法の欠点を排除する;ここで、前記AONは、3つの連続したヌクレオチドのセントラルトリプレット(Central Triplet)を含み、標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドはセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドは、2’-O-メチル修飾を有しておらず;前記セントラルトリプレットの1、2または3個のヌクレオチドは、糖修飾および/または塩基修飾および/またはホスホジエステル修飾(例えば、ホスホロ(ジ)チオエートまたはアミデート)を含む。本発明のAONは、その基本構造において、一本鎖オリゴリボヌクレオチドであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、好ましくは、嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-抗トリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、白皮症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位型脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害型表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連疾患、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、遺伝性多凝集反応症候群、レーバー先天黒内障、レッシュ・ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーI型およびII型、神経線維腫症、ニーマン・ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ・ジェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、一次繊毛障害、プロトロンビンG20210A変異などのプロトロンビン変異関連障害、肺高血圧症、網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合型免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スターガルト病、テイ・サックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、およびがんからなる群から選択される遺伝的障害の治療または予防における使用のための本発明によるAONに関する。
【0013】
本発明はまた、細胞内の標的RNA配列に存在する特定の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、前記方法は、本発明によるAONを前記細胞に提供するステップ;前記AONを細胞に取り込ませるステップ;前記AONを標的RNA配列にアニーリングさせるステップ;野生型酵素に見出されるような天然dsRNA結合ドメインを含む哺乳動物のADAR酵素が、前記標的RNA配列中の前記標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化することを可能にするステップ;および任意選択で、RNA配列中の前記イノシンの存在を同定するステップを含む方法に関する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、標的RNA配列は、CFTR(例えば、1784G>Aの変異を編集するため)、CEP290(例えば、c.2991+1655A>G変異を編集するため)、アルファ1-抗トリプシン(A1AT;例えば、9989G>A変異;または1096G>A変異を編集するため)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(GNAQ;例えば、548G>A変異を編集するため)、またはLRRK2(例えば、G6055変異を編集するため)をコードするか、または標的RNAは、IDUA遺伝子によってコードされる(例えば、c.1205G>A(W402X)変異を編集するため)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】標的アデノシンAを太字で示した、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON;上鎖)のヒト変異SERPINA1標的RNA配列(下鎖;配列番号1)に対する相補性を示す図である。ここでは、ADAR60シリーズのAONの配列がAONのセントラルトリプレットに下線を引いて、(図2に示されている方向と対比させて)3’から5’に示されている。提供されている例に記載されているように修飾されたセントラルトリプレット内の位置は、文字YXZで示されている。
図2-1】本明細書に開示されるRNA編集および安定性評価を試験するためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)およびセンスオリゴヌクレオチド(SON)を示す表である。独立した配列は、示される配列番号を有する。特定のYXZ塩基修飾は第3カラムに記載されている。小文字のヌクレオチドはRNAおよび2’-O-メチル修飾である。括弧で囲まれたDNAである[NNN]ヌクレオチドを除いて、大文字のヌクレオチドはRNAである。(nnn)として描かれている小文字のヌクレオチドは、2’-フルオロRNA修飾ヌクレオチドである。<nnn>として描かれている小文字のヌクレオチドは、2’-NH2RNA修飾ヌクレオチドである。{N}として示されるヌクレオチドは、アンロックド核酸(Unlocked Nucleic Acid;UNA)である。idTは、分解に対する耐性を高め、PCR増幅中のAONの3’末端の伸長をブロックする3’インバーテッドT修飾も示す。*=ホスホロチオエート連結。’=3’-メチレンホスホネート連結;”=5’-メチレンホスホネート連結;^=3’-ホスホロアミデート連結;#=2’-5’ホスホジエステル連結。
図2-2】同上
図2-3】同上
図2-4】同上
図3】FBS含有培地(RXで示す)中でインキュベートした後に変性ゲル電気泳動によりアッセイした、AONのヌクレアーゼ耐性を示す図である。対照はPBS(CTL)中でインキュベートした。AON(ADAR60-1からADAR60-21)のアイデンティティはパネルの上に示されている(60-1から60-21と省略、図2も参照)。下のバンド(矢印で示す)はAONの切断から生じる分解生成物であり、上のバンドは全長のAONである。マーカーレーンは、5nt(10nt~50nt)および10nt(50nt~100nt)の増分で14個のオリゴヌクレオチドフラグメントを有する、10~100nt(Affymetrix)の低分子量マーカーを含む。分解に対する感受性はバンドの比率によって示され、より低い生成物のより高い蔓延はより低い安定性を示唆する。
図4】標的アデノシンAを太字で示した、ヒト変異IDUA標的RNA配列(下鎖;配列番号2)に対するAON(上鎖)の相補性を示す図である。ここでは、ADAR68シリーズのAONの配列がAONのセントラルトリプレットに下線を引いて、(図2に示されている方向と対比させて)3’から5’に示されている。提供されている例に記載されているように修飾されたセントラルトリプレット内の位置は、文字XXYで示されている。
図5】FBS含有培地中でインキュベートした後に変性ゲル電気泳動によってアッセイした、変異マウスIdua遺伝子(Hurlerモデル)に対するオリゴヌクレオチドADAR65-1、-18、-20、-21、および-22の安定性を示す図である。対照はPBS中でインキュベートした。矢印は分解生成物を指す。上のバンドは全長AONである。マーカーレーン(M)は、5nt(10nt~50nt)および10nt(50nt~100nt)の増分で14個のオリゴヌクレオチドフラグメントを有する、低分子量マーカー、10~100nt(Affymetrix)を含む。2つの異なる時間のインキュベーション(2時間および18時間)にわたる分解に対するAON感受性はバンドの比によって示され、より低い生成物のより高い蔓延は安定性の減少を示唆する。
図6図5と同様に、PBSまたはFBS中で2時間または18時間インキュベートした後に変性ゲル電気泳動によってアッセイした、追加のADAR65オリゴヌクレオチドの安定性を示す図である。
図7】4つのADAR93オリゴヌクレオチドの安定性を示す図である。その中でADAR93-2はセントラルトリプレットに修飾されていないRNAを含み、代わりに他の3つ(ADAR93-6、-8、および-9)はセントラルトリプレットに2つまたは3つのDNAヌクレオチドを有する。さらなる修飾の違いは、図2に示すとおりである。安定性は、PBS、DMEM+15%FBS、単一ドナーヒト脳脊髄液(CSF)および混合ジェンダーヒト肝臓リソソーム(Lyso)(Mixed Gender Human Liver Lysosomes)中で2時間、24時間または3日間インキュベートした後、変性ゲル電気泳動によってアッセイした。
図8】過剰発現されたADAR2を有するHEK293細胞溶解物およびSERPINA1変異体ssRNA標的を用いたインビトロ編集アッセイ後にRT-PCRによって生成されたPCRフラグメントのサンガー配列決定分析を示す図である。ADAR60-1(A)およびADAR60-15(B)を使用した。図2を参照。陰性対照は、細胞溶解物を含まないことを除いてADAR60-15と同一のアッセイであり(C)、AONの非存在下でHEK293細胞溶解物(ADAR2過剰発現を含む)を用いた同一のアッセイであった(D)。全てのパネルの上の配列は配列番号35である。
図9】GFP W57X構築物を安定に発現し、ADAR2および2つのオリゴヌクレオチド(ADAR59~2およびADAR59~10)で別々にトランスフェクトされた細胞からのRT-PCR増幅GFP RNAの配列決定結果を示す図である。ここで、ADAR59-10のセントラルトリプレットのアデニンは、2-アミノプリンである。ADAR59-2はその修飾を有していない。図2を参照。それは、RNA編集効率に対するこの特定の修飾の増強効果を示す。両方のパネルの上の配列は配列番号36である。
図10-1】トランスフェクトされていない(NT、左パネル)か、または非標的化対照オリゴヌクレオチド(NTO、中央パネル)またはマウスSnrpa mRNAの終止コドンを編集するためのADAR94-1(右パネル)を用いてトランスフェクトされた、マウスHEPA1-6細胞(A)およびCMT64細胞(B)から単離されたRNAからcDNAを介して生成されたPCR産物の配列決定結果を示す図である。バックグラウンドレベルを明らかに上回るRNA編集が矢印で示される位置で観察される。AおよびBにおける3つの全てのパネルの上の配列は配列番号37である。
図10-2】同上
図11図10に記載のように、ADAR94-1単独またはADAR94-1をSON2と組み合わせてトランスフェクトしたマウスHEPA1-6細胞から単離したRNAからcDNAを介して生成したPCR産物の配列決定結果を示す図である。両パネルの上の配列は配列番号38である。
図12】トランスフェクションされていない(NT、左パネル)か、保護センスオリゴヌクレオチドSON2にアニールされた対照オリゴヌクレオチド(ADAR87-1)(中央パネル)または、SON2にアニールされたマウスSnrpa RNAを標的とするオリゴヌクレオチド(ADAR94-1)(右パネル)を用いてトランスフェクトされた、初代マウス肺細胞から単離されたRNAからcDNAを介して生成されたPCR産物の配列決定結果を示す図である。Gシグナルの明らかな増加が、ADAR94-1+SON2でのトランスフェクション後に見られ(矢印で示す位置)、これは、ex vivo初代細胞において非常に特異的かつ有意なRNA編集が内在性標的上の内在性ADARを用いて達成できることを示す。3つの全てのパネルの上の配列は、図10と同一の配列番号37である。
図13】ddPCRによって測定された全標的RNA中の編集されたmRNAの百分率としてのAONの編集能力を示す図である。NT:無処理。
図14】RNA編集AONでトランスフェクションした時のRNA編集の結果であるwt Idua mRNAの存在の指標である、アルファ-L-イズロニダーゼアッセイで測定した酵素活性(全タンパク質濃度に対して正規化した相対蛍光単位として)を示す図である。変異Idua遺伝子を有するマウス胚性線維芽細胞に、マウス変異Idua遺伝子も発現する発現プラスミドをトランスフェクトし、続いて示したようにAONをトランスフェクトした。2つの重複測定からの平均活性および標準偏差が各AONについて示されている。NT:AONでトランスフェクションされていない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、国際公開第2016/097212号パンフレットは、RNAの標的化編集のためのAONを開示し、ここでAONは、「標的化部分」および「リクルートメント部分」によって特徴付けられる。国際公開第2016/097212号パンフレットは、天然基質(例えば、GluB受容体)またはADAR酵素のdsRNA結合領域によって認識されることが知られているZ-DNA構造のいずれかを模倣するステム-ループ構造であるとしてリクルートメント部分を記載している。国際公開第2016/097212号パンフレットに記載されるようなリクルートメント部分のステム-ループ構造は、AON自体の内部に形成され、そしてADARを誘引することができる分子内ステム-ループ構造である。製造上の問題、安定性、副作用など、そのような構造のために非常に長いAONを有することには潜在的な不都合があり、それらはより短いバージョンよりも作成するのに費用がかかる。
【0017】
本発明のAONは、国際公開第2016/097212号パンフレットに記載されているリクルートメント部分を含まない。本発明のAONは、分子内ステムループ構造を形成することができる部分を含まない。本発明のAONはより短く、生成するのがより安く、使用が容易で製造が容易である。さらに、ADAR酵素を細胞内の正常な機能から潜在的に隔離するという欠点を有していない。予期しないことに、AONが相補的であるが重要なことに、上記のようなリクルートメント部分を欠いている標的RNA配列中に存在する標的アデノシンを脱アミノ化するための標的RNAに相補的であるAONは、細胞内に存在するADAR酵素をなお利用して標的アデノシンを編集することができるようであることが見出された。好ましい態様において、本発明のAONは、標的アデノシンの位置にミスマッチを含み、反対側のヌクレオチドはシチジンである。また、ウリジンが標的アデノシンの反対側の場合(実際にはミスマッチではないが)、AONは標的アデノシンの脱アミノ化を引き起こすことができる。PCT/EP2017/065467は、さらなるミスマッチ(形成されたdsRNA中で、ワトソン-クリック塩基対合則に従って標的RNAと完全な塩基対を形成しないAON中のヌクレオチドにより生じる、いわゆる「バルジ」をもたらす)は許容可能であり、ある場合には好ましいが、標的RNA配列の特定の標的編集には必須ではないことを記載している。AON中のバルジの数(そのRNA標的配列にハイブリダイズする場合)は、AONの長さ依存して、1つ(通常、標的アデノシン位置に形成されるバルジ)またはそれ以上であり得る。追加のバルジ誘導性ミスマッチは、標的アデノシンの上流および下流にあり得る。バルジは、単一ミスマッチバルジ(1つのミスマッチ塩基対によって引き起こされる)またはマルチミスマッチバルジ(2つ以上の連続するミスマッチ塩基対によって、好ましくは2つまたは3つの連続するミスマッチ塩基対によって引き起こされる)であり得る。
【0018】
本発明によるAONは、本発明のAONを(かなり)短くすることを可能にするヘアピンまたはステムループ構造を必要としないという点で、国際公開第2016/097212号パンフレットおよびPCT/EP2017/065467に記載されているオリゴヌクレオチドを超える特定の利点を有する。国際公開第2016/097212号パンフレットに記載のオリゴヌクレオチドは、細胞内に存在するADAR酵素を隔離する潜在的な危険性を有する。この文脈で隔離するということは、天然ADARタンパク質が、オリゴヌクレオチドの標的化部分と標的RNAとの間にdsRNA複合体が形成されていなくても、オリゴヌクレオチドに結合し得ることを意味する。分子内ステム-ループ構造の存在による、オリゴヌクレオチドへのADARのこの直接的な結合は、標的RNA配列の非存在下で、分子内ステムループ構造を形成することができる部分を含まない本発明のAONを用いる場合には起こらない。多くの場合はヘアピンおよび/または(ステム)ループ構造の存在が好ましくは回避される。
【0019】
AONが1つまたは複数の糖修飾を有する1つまたは複数のヌクレオチドを含むことは本発明の重要な態様である。それによって、AONの単一ヌクレオチドは、1つまたは複数の糖修飾を有することができる。AON内では、1つまたは複数のヌクレオチドがそのような糖修飾を有することができる。
【0020】
編集が必要なヌクレオチドの反対側の本発明のAON内のヌクレオチドが2’-O-メチル修飾を含まないこと(本明細書および他の箇所でしばしば2’-OMe基、2’-O-メチル化、または2’-O-メチル基と呼ばれる)は本発明の重要な態様である。このヌクレオチドの3’および5’に直接隣接するヌクレオチド(セントラルトリプレットにおける「隣接ヌクレオチド」)もそのような化学修飾を欠いていることが好ましいが、隣接ヌクレオチドの一方または両方が2’-O-アルキル基(2’-O-メチル基など)を含み得ることが許容されると考えられる。セントラルトリプレットの一方または両方の隣接ヌクレオチドまたは3つの全てのヌクレオチドは、2’-OHまたは(本明細書で定義されているような)互換性のある置換基であり得る。
【0021】
本発明のAONの別の重要な態様は、それがAON自体を、生理学的条件下で潜在的にADARを隔離する構造として作用し得る分子内ヘアピンまたは他のタイプの(ステム-)ループ構造(本明細書においては、「自動ルーピング」または「自己ルーピング」とも呼ぶ)に折りたたむことを可能にする部分(これは標的配列または標的アデノシンを含む領域に相補的ではない)を有さないことである。好ましい態様では、本発明の一本鎖AONは、標的RNAと完全に相補的であるが、場合によってはいくつかの位置、特に標的アデノシンの位置でミスマッチがあってもよい。
【0022】
本発明の好ましいAONは、Vogelら(2014)とは対照的に、5’末端O6-ベンジルグアノシンまたは5’末端アミノ修飾を含まず、SNAPタグドメイン(操作されたO6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ)に共有結合していない。SNAPタグドメインは、ヒトDNA修復タンパク質O6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ(AGT)に由来し、O6-ベンジルグアノシン誘導体を用いて生細胞中で共有結合的に標識することができる。Vogelら(2014)は、全長20または17ヌクレオチドのガイドRNAを開示しており、5’末端の最初の3ヌクレオチドは標的RNA配列に結合しないが、ガイドRNAをSNAPタグドメインに結合している。標的RNA配列に結合するガイドRNAの部分は、したがって14または17ヌクレオチドの長さである。5’末端O6-ベンジルグアノシン修飾の代わりに5’末端アミノ修飾を有する、同じ長さのガイドRNAもまたVogelら(2014)に開示されているが、しかしながら、非常にわずか、または全く脱アミノ化または標的RNA配列が検出されなかった。一実施形態では、本発明のAONは、標的RNA配列との0、1、2または3個のミスマッチを含み、ここで単一のミスマッチは複数の連続したヌクレオチドを含み得る。
【0023】
同様に、Montiel-Gonzalezら(2013)とは対照的に、本発明の好ましいAONは、boxB RNAヘアピン配列を含まない。Montiel-Gonzalezら(2013)で使用されているboxB RNAヘアピン配列は、バクテリオファージ・ラムダN-タンパク質によって認識される、17ヌクレオチドの短い一続きのRNAである。バクテリオファージの初期オペロンにおける下流遺伝子の転写は、nutとして知られるプロモーター近位エレメントを必要とする。この部位はRNAの形でシスに作用して、バクテリオファージ・ラムダNタンパク質および宿主因子からなる転写抗終結複合体を組み立てる。nut部位RNAは、boxBと呼ばれる小さなステムループ構造を含む。boxB RNAヘアピン配列は、ヘアピン(ステム-ループ)構造を形成する可能性を有する中断パリンドロームとして当該技術分野において知られている。その配列は、異なるゲノム特異的Nホモログをコードするバクテリオファージ・ラムダの類縁体間で異なる。Vogelら(2014)もMontiel-Gonzalezら(2013)も細胞内に存在する哺乳動物のADAR酵素を使用していないが、そのADAR酵素は野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む。Vogelら(2014)は、SNAPタグドメインに融合したADAR1または2のアデノシンデアミナーゼドメインを含む遺伝子操作融合タンパク質を使用し、Montiel-Gonzalezらは、バクテリオファージ・ラムダNタンパク質のboxB認識ドメインに融合した、hADAR2タンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインを含む遺伝子操作融合タンパク質を使用している。先行技術とは対照的に、本発明のAONは、野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む、細胞内に存在する哺乳動物のADAR酵素を使用している。したがって、ADARのリクルートメントを可能にするために、boxB RNAヘアピン配列、5’末端O6-ベンジルグアノシン、5’末端アミノ修飾、またはSNAPタグドメインを本発明のAONに組み込む必要はない。したがって、本発明によるAONは、Vogelら(2014)およびMontiel-Gonzalezら(2013)に記載のオリゴヌクレオチドに対して特定の長所を有する。本発明によるAONは、標的RNA配列中の標的アデノシンを特異的に編集するために、内在性細胞経路と天然に入手可能なADAR酵素を利用することができる。一実施形態では、本発明のAONは、ヒトO6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼに共有結合していない。好ましくは、本発明のAONはポリペプチドに共有結合していない。本発明のAONの別の態様では、AONは5’キャップを有しない。真核生物において、5’キャップは、5’から5’三リン酸連結を介してRNAに接続したグアノシンヌクレオチドからなる。このグアノシンは7位がメチル化されており、7-メチルグアノシンと呼ばれる。
【0024】
本発明のAONは、標的RNA配列中の特定の標的アデノシンヌクレオチドを脱アミノ化が可能である。したがって、理想的には1つのアデノシンのみが脱アミノ化される。あるいは、例えば標的アデノシンが互いに極めて接近している場合、1、2、または3個のアデノシンヌクレオチドが脱アミノ化される。その時、単一のAON内に2つ以上の「セントラルトリプレット」の存在が必要であり、距離によってはこれを使用することができる。しかしながら、距離が大きすぎて単一のAONによって複数の標的アデノシンをカバーすることができない場合、AONは、好ましくは、特定の単一の標的アデノシンの反対側に1つのセントラルトリプレットのみを含む。
【0025】
本発明のAONの特徴を踏まえると、修飾された組換えADAR発現の存在は不要であり、AONに結合したコンジュゲート主体、または標的RNA配列に相補的ではない長いリクルートメント部分の存在は不要である。それに加えて、本発明のAONは、野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む天然のADAR酵素による、標的RNA配列に存在する標的アデノシンのイノシンへの特異的脱アミノ化を、dsRNA複合体における他の場所での無作為編集の危険無く、可能にする。
【0026】
標的部位へのシチジンデアミナーゼのリクルートメントは、アデノシンデアミナーゼhADAR1およびhADAR2の場合と同じように機能する。しかしながら、シチジンデアミナーゼは異なる結合要件を有し、シチジンの編集を決定するそれらの標的RNA配列中の異なる構造を認識する。1つの特によく研究されているシチジンデアミナーゼはヒトApobec1である。オリゴヌクレオチド構築物を用いて編集部位を標的とし、常在性の天然に存在する編集主体をリクルートするためのRNA編集の一般原則は、シチジンデアミナーゼについて同じであり、本明細書に開示および請求される発明の一部である。
【0027】
ADAR酵素の天然標的の解析により、これらが一般に、ADAR1またはADAR2によって編集されたRNAらせんを形成する2本の鎖間にミスマッチを含むことが示された。これらのミスマッチは編集反応の特異性を高めることが示唆されている(Stefl et al. 2006. Structure 14(2):345-355; Tian et al. 2011. Nucleic Acids Res 39(13):5669-5681)。AONと標的RNAとの間の対合/ミスマッチヌクレオチドの最適パターンの特徴付けもまた、効率的なADARベースのAON療法の開発にとって極めて重要であると思われる。
【0028】
本発明のAONの別の改善された特徴は、安定性ならびに適切なADAR結合および活性を確証するために所定の箇所で特定のヌクレオチド修飾を使用することである。これらの変化は変動してもよく、そしてAONの骨格、ヌクレオチドの糖部分、ならびに核酸塩基またはホスホジエステル連結における修飾を含んでもよい。それらはまた、AONの配列全体にわたって様々に分布し得る。ADAR酵素のRNA結合ドメイン内、ならびにデアミナーゼドメイン内の異なるアミノ酸残基の相互作用を支援するために、特定の修飾が必要となり得る。例えば、ヌクレオチド間のホスホロチオエート連結、または2’-O-メチル修飾は、AONのいくつかの部分では許容され得るが、他の部分では、リン酸および2’-OH基と酵素との重要な相互作用を乱さないように避けるべきである。これらの設計規則の一部は、公開されているADAR2の構造に基づいているが、その他は経験的に定義される必要がある。ADAR1とADAR2とは異なる嗜好性が存在するかもしれない。修飾はまた、それらがAONの分解を防ぐように選択されるべきである。
【0029】
標的配列がADAR編集に最適ではない場合には、基質RNAに対する編集活性を高めるために特定のヌクレオチド修飾もまた必要であり得る。特定の配列コンテキストが編集により適していることが以前の研究により確証されている。例えば、標的配列5’-UAG-3’(中央に標的Aを有する)はADAR2にとって最も好ましい最近傍ヌクレオチドを含むが、一方、5’-CAA-3’標的配列は好まれない(Schneider et al. 2014. Nucleic Acids Res 42(10):e87)。標的トリヌクレオチドの反対側のヌクレオチドを慎重に選択することによって編集が高まる可能性が、ADAR2デアミナーゼドメインの最近の構造解析により示唆された。例えば、(中央に形成されたA-Cミスマッチを有する)反対鎖上の3’-GCU-5’配列と対になった5’-CAA-3’標的配列は、グアノシン塩基がADAR2のアミノ酸側鎖と立体的に衝突するため好ましくない。しかしながら、ここでは、イノシンなどのより小さな核酸塩基が、対抗するシトシンに対する塩基対合能力を依然として保持しながら、立体衝突を引き起こすことなく潜在的にこの位置によりよく適合することができると仮定される。最適以下の配列の活性を高めることができる修飾には、AONの柔軟性を増大させるか、または逆にそれを編集に有利な立体配座に強制する骨格修飾の使用を含む。
【0030】
本明細書で使用される用語の定義
本明細書で使用および定義される「セントラルトリプレット」は、標的RNA中の標的アデノシンの反対側の3つのヌクレオチドであり、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドは標的アデノシンの直接反対側である。セントラルトリプレットは、AONの中心(中央)である必要はなく、どちらが特定の標的として好ましくともAONの3’側と5’側のどちらに配置してもかまいない。したがって、この態様の中心は、化学修飾および標的アデノシンを標的とすることに関しては、触媒活性の中心にあるトリプレットの意味をより多く有する。また、特に標的配列が5’から3’に表示されている場合は、AONが3’から5’に表示されることがあることに留意されたい。しかしながら、本明細書においてAON内のヌクレオチドの順序が論じられるときは、それはいつでもAONの5’から3’である。例えば、ADAR60-1のセントラルトリプレットの最初のヌクレオチドは、5’-UCG-3’トリプレットのUである。その位置は、5’から3’への方向性をなお遵守しながら、AON内の特定のヌクレオチドに関して表現することもでき、その場合、前記ヌクレオチドの他の5’ヌクレオチドは負の位置としてマークされ、その3’は正の位置としてマークされる。例えば、セントラルトリプレットのCは標的アデノシンの反対側のヌクレオチド(0位)であり、Uはこの場合-1ヌクレオチドであり、そしてGは+1ヌクレオチドである、などである。
【0031】
本明細書に概説したように、そして本明細書に開示したAONのほとんどの例において、セントラルトリプレットの外側のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾されている。しかしながら、これは本発明のAONの要件ではない。それらのヌクレオチドにおける2’-O-メチル化の使用は、AONのそれらの部分の適切な安定性を確証するが、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)修飾などの他の修飾も同様に適用され得る。
【0032】
本明細書で使用される「アデニン」、「グアニン」、「シトシン」、「チミン」、「ウラシル」および「ヒポキサンチン」(イノシン中の核酸塩基)という用語は、そのような核酸塩基を指す。
【0033】
「アデノシン」、「グアノシン」、「シチジン」、「チミジン」、「ウリジン」および「イノシン」という用語は、(デオキシ)リボシル糖に結合した核酸塩基を指す。
【0034】
「ヌクレオシド」という用語は、(デオキシ)リボシル糖に結合した核酸塩基を指す。
【0035】
「ヌクレオチド」という用語は、それぞれの核酸塩基-(デオキシ)リボシル-ホスホリンカー、ならびにそのリボース部分またはホスホ基の任意の化学修飾を指す。したがって、この用語は、固定化リボシル部分(メチレン基または任意の他の基を含む2’-4’架橋を含む、当技術分野で周知である)を含むヌクレオチド、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、ホスホロ(ジ)チオエート、メチルホスホネート、ホスホルアミデートリンカーなどを含むリンカーを含むヌクレオチドを含む。
【0036】
アデノシンとアデニン、グアノシンとグアニン、シトシンとシチジン、ウラシルとウリジン、チミンとチミジン、イノシンとヒポキサンチンという用語は、対応する核酸塩基、ヌクレオシドまたはヌクレオチドを指すために互換的に使用されることがある。
【0037】
文脈が異なることが明らかに必要でない限り、核酸塩基、ヌクレオシドおよびヌクレオチドという用語は互換的に使用されることがある。
【0038】
「オリゴヌクレオチド」に言及するときはいつでも、文脈がそうでないことを指示しない限り、オリゴリボヌクレオチドおよびデオキシオリゴリボヌクレオチドの両方が意味される。「オリゴリボヌクレオチド」に言及するときはいつでも、それは塩基A、G、C、UまたはIを含み得る。「デオキシオリゴリボヌクレオチド」に言及するときはいつでも、それは塩基A、G、C、TまたはIを含み得る。好ましい態様では、本発明のAONは化学修飾を含み得るオリゴリボヌクレオチドである。
【0039】
オリゴヌクレオチド構築物中でシトシンなどのヌクレオチドが言及されるときはいつでも、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、ピロロシチジン、およびβ-D-グルコシル-5-ヒドロキシ-メチルシトシンが含まれ;アデニンが言及されるときは、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、8-アジドアデノシン、8-メチルアデノシン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-デアザグアノシン、N6-メチルアデニンおよび7-メチルアデニンが含まれ;ウラシルが言及されるときは、5-メトキシウラシル、5-メチルウラシル、ジヒドロウラシル、シュードウラシル、およびチエノウラシル、ジヒドロウラシル、4-チオウラシルおよび5-ヒドロキシメチルウラシルが含まれ;グアノシンが言及されるときは、7-メチルグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、チエノグアノシンおよび1-メチルグアノシンが含まれる。
【0040】
ヌクレオシドまたはヌクレオチドに言及するときはいつでも、例えば2’-デオキシ、2’-ヒドロキシ、2-フルオロリボース、および2’-O-メチルなどの2’-O-置換変異体などのリボフラノース誘導体、ならびに2’-4’架橋変異体を含む他の修飾が含まれる。
【0041】
オリゴヌクレオチドについて言及するときはいつでも、2つのモノヌクレオチド間の連結はホスホジエステル連結ならびに、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、ホスホロ(ジ)チオエート、メチルホスホネート、ホスホルアミデートリンカーなどを含むその修飾であってもよい。
【0042】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を包含する。例えば、「Xを含む」組成物は、Xのみからなってもよく、または例えばX+Yのようにさらなる何かを含んでもよい。
【0043】
数値xに関して「約」という用語は任意選択であり、例えば、x±10%を意味する。
【0044】
「実質的に」という語は、「完全に」を除外するものではない。例えば、「Yを実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない可能性がある。関連する場合には、「実質的に」という語は、本発明の定義から省略されることがある。
【0045】
核酸配列に関して「下流」という用語は、さらに3’方向に配列に沿うことを意味し;「上流」という用語はその逆を意味する。したがって、ポリペプチドをコードする任意の配列において、開始コドンはセンス鎖において終止コドンの上流にあるが、アンチセンス鎖において終止コドンの下流にある。
【0046】
「ハイブリダイゼーション」への言及は典型的には特異的ハイブリダイゼーションを指し、非特異的ハイブリダイゼーションを除外する。プローブと標的との間の安定な相互作用の大部分が、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性をプローブと標的とが有する場合であることが確実であるように、当技術分野において周知の技術を用いて、選択した実験条件下で特異的ハイブリダイゼーションを起こすことができる。
【0047】
「ミスマッチ」という用語は、ワトソン-クリック型塩基対合則に従って完全な塩基対を形成しない、二本鎖RNA複合体中の対向するヌクレオチドを指すために本明細書中で使用される。ミスマッチ塩基対は、G-A、C-A、U-C、A-A、G-G、C-C、U-U塩基対である。いくつかの実施形態では、本発明のAONは、0、1、2または3個のミスマッチを含み、ここで単一のミスマッチはいくつかの連続したヌクレオチドを含み得る。ゆらぎ塩基対は、G-U、I-U、I-A、およびI-C塩基対である。
【0048】
本発明によるAONは、例えば、すべてのヌクレオチドに2’-O-メチル化糖部分(2’-OMe)を提供することによって、ほぼ完全に化学修飾されていてもよい。しかしながら、標的アデノシンの反対側のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾を含まず、そしてなおさらなる好ましい態様において、標的アデノシンの反対側のヌクレオチドに隣り合う2つの隣接ヌクレオチドのうちの少なくとも1つは2’-O-メチル修飾を含まない。AON内の全てのヌクレオチドが2’-O-メチル修飾(セントラルトリプレットを含む)を保持する完全修飾は、おそらくそれが標的位置でのADAR活性を妨げるため、RNA編集に関する限り非機能的オリゴヌクレオチドをもたらす。一般に、標的RNA中のアデノシンは、反対側のヌクレオチドに2’-O-メチル基を有する提供することによって、編集から保護することができ、または対向する塩基としてグアノシンもしくはアデノシンを提供することによってもまた、これらの2つの核酸塩基は対向するアデノシンの編集を減少させることができる。
【0049】
本発明に従って容易に使用することができるオリゴヌクレオチドの分野において様々な化学的性質および修飾が知られている。ヌクレオチド間の通常のヌクレオシド間連結は、ホスホジエステル結合のモノチオール化またはジチオール化によって、それぞれホスホロチオエートエステルまたはホスホロジチオエートエステルを生じることによって改変され得る。アミド化およびペプチドリンカーを含む、ヌクレオシド間連結の他の修飾が可能である。好ましい態様において、本発明のAONは、AONの最末端のヌクレオチド間(したがって、好ましくは5’および3’末端の両方)に1、2、3、4またはそれ以上のホスホロチオエート連結を有し、4つのホスホロチオエート連結の場合、最終的に5つのヌクレオチドがそれに応じて結合されることを意味する。そのような連結の数は、標的配列に応じて、または毒性などの他の態様に基づいて、各末端で異なり得ることが当業者には理解されよう。
【0050】
リボース糖は、低級アルキル(2’-O-メチルなどのC1-4)、アルケニル(C2-4)、アルキニル(C2-4)、メトキシエチル(2’-O-MOE)、-H(DNAにおけるように)または他の置換基による2’-O部分の置換によって修飾されてもよい。2’-OH基の好ましい置換基は、メチル、メトキシエチルまたは3,3’-ジメチルアリル基である。後者は、その嵩高さのためにヌクレアーゼ感受性を阻害する一方で、ハイブリダイゼーションの効率を改善するというその性質で知られている(Angus & Sproat 1993 FEBS Vol. 325, no. 1, 2, 123-7)。あるいは、リボース環の内側に2’-4’分子内架橋(通常2’酸素と4’炭素の間のメチレン架橋)連結を含む、ロックド核酸配列(LNA)を適用してもよい。プリン核酸塩基および/またはピリミジン核酸塩基は、例えば複素環式環のアミノ化または脱アミノ化によってそれらの特性を変えるように修飾することができる。正確な化学的性質およびフォーマットは、オリゴヌクレオチド構築物ごとに、および用途ごとに異なってもよく、そして当業者の希望および好みに従って解決してもよい。オリゴヌクレオチド中の4個以上の連続したDNAヌクレオチド(4個の連続デオキシリボース)がいわゆるギャップマー(gapmers)を生成し、それらがそれらのRNA同族配列にアニーリングすると、RNaseHによる標的RNAの切断を誘導すると当該技術分野では考えられている。本発明によれば、標的RNAのRNaseH切断は一般にできるだけ避けるべきである。
【0051】
本発明によるAONは、通常、10ヌクレオチドより長く、好ましくは11、12、13、14、15、16より多く、さらにより好ましくは17ヌクレオチドより多くあるべきである。一実施形態では、本発明によるAONは、20ヌクレオチドより長い。本発明によるオリゴヌクレオチドは、好ましくは100ヌクレオチドより短く、さらにより好ましくは60ヌクレオチドより短い。一実施形態では、本発明によるAONは、50ヌクレオチドより短い。好ましい態様では、本発明によるオリゴヌクレオチドは、18~70ヌクレオチドを含み、より好ましくは18~60ヌクレオチドを含み、さらにより好ましくは18~50ヌクレオチドを含む。したがって、最も好ましい態様において、本発明のオリゴヌクレオチドは、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50ヌクレオチドを含む。
【0052】
(ヒトADAR酵素などの)RNA編集主体が、いくつかの要因に依存して異なる特異性でdsRNA構造を編集することは、当技術分野において公知である。1つの重要な要因は、dsRNA配列を構成する二本鎖の相補性の程度である。二本鎖の完全な相補性は通常、hADARの触媒ドメインに非識別的にアデノシンを脱アミノ化させ、遭遇するあらゆるアデノシンと多かれ少なかれ反応する。hADAR1および2の特異性は、dsRNA中にいくつかのミスマッチを確実にすることによって増加させることができ、それはおそらく明らかに定義されていない方法でdsRNA結合ドメインを配置するのを助ける。さらに、脱アミノ化反応それ自体は、編集されるべきアデノシンの反対側のミスマッチを含むAONを提供することによって増強され得る。ミスマッチは、好ましくは、編集されるべきアデノシンの反対側にシチジンを有する標的部分を提供することによって作り出される。代替として、ウリジンもアデノシンの反対側に使用することができるが、これは、当然のことながら、UとAが対になっているため、「ミスマッチ」を生じないと予想される。標的鎖のアデノシンが脱アミノ化されると、標的鎖はイノシンを得るが、これは、ほとんどの生化学的プロセスで、細胞の生化学的機構によってGとして「読み取られる」ことになる。したがって、Iは本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の標的部分における反対側のCと完全に塩基対合することができるので、AからIへの変換後、ミスマッチは解決される。ミスマッチが編集により解決された後、基質が解放され、そしてオリゴヌクレオチド構築物-編集主体複合体が標的RNA配列から解放され、それは次にスプライシングおよび翻訳などの下流生化学プロセスに利用可能になる。
【0053】
標的RNA配列編集の特異性の所望のレベルは、用途ごとに異なってもよい。本特許出願の指示に従って、当業者は、それらの必要性に従ってオリゴヌクレオチドの相補的部分を設計することができ、そして、いくらかの試行錯誤で、所望の結果を得ることができる。
【0054】
本発明のオリゴヌクレオチドは通常、通常のヌクレオチドA、G、UおよびCを含むが、例えば1つまたは複数のGヌクレオチドの代わりにイノシン(I)も含み得る。
【0055】
オリゴヌクレオチド構築物と重複する領域における標的RNA配列中のアデノシンの望ましくない編集を防ぐために、オリゴヌクレオチドを化学的に修飾することができる。標的RNA配列中のアデノシンの反対側のヌクレオシドのリボシル部分の2’-O-メチル化は、ADARによるそのアデノシンの脱アミノ化を劇的に減少させることが当該技術分野において示されている(Vogelら、2014)。これは、治療環境においてそのようなAONを使用することに対する重大な欠点であり、AON中にそれを分解し易くする未修飾RNAヌクレオチドを有するという問題を少なくとも部分的に解決することが本発明の目的である。
【0056】
細胞内のRNA編集分子は、通常、哺乳動物を含む後生動物に見られるADAR酵素のように、本質的にタンパク質性と予想される。好ましくは、編集主体は酵素、より好ましくはアデノシンデアミナーゼまたはシチジンデアミナーゼ、さらにより好ましくはアデノシンデアミナーゼである。最も興味深いものは、ヒトADAR、hADAR1およびhADAR2であり、それらの任意のアイソフォーム、例えばhADAR1 p110およびp150が含まれる。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物を都合よく設計できるようにするための、当技術分野において公知のRNA編集酵素には、ヒトまたはヒト細胞におけるhADAR1およびhADAR2などのRNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)、ならびにシチジンデアミナーゼが含まれる。ヒトADAR3(hADAR3)は先行技術に記載されているが、デアミナーゼ活性を有さないと報告されている。hADAR1は2つのアイソフォームで存在することが知られている;共通のプレmRNAからのオルタナティブスプライシングにより産生される、長い150kDaのインターフェロン誘導型およびより短い100kDa型である。その結果、細胞内に存在する150kDaアイソフォームのレベルは、インターフェロン、特にインターフェロン-ガンマ(IFN-ガンマ)によって影響を受ける可能性がある。hADAR1はTNF-アルファによっても誘導される。これは併用療法を開発する機会を提供し、それによってインターフェロン-ガンマまたはTNF-アルファおよび本発明によるオリゴヌクレオチドは、組み合わせ製品として、または別々の製品として、同時または引き続き任意の順序で患者に投与される。特定の病状は、患者の特定の組織におけるIFN-ガンマまたはTNF-アルファのレベルの増加とすでに同時発生している可能性があり、編集を罹患組織に対してより特異的にするさらなる機会を創出している。
【0057】
本発明のAONにおける化学修飾の例は、糖(リボース)部分内の架橋置換基(例えば、ロックド核酸:LNAにおけるような)によるもの、2’-O原子を、上記で特定したような長さを有するアルキル(例えば、2’-O-メチル)、アルキニル(2’-O-アルキニル)、アルケニル(2’-O-アルケニル)、アルコキシアルキル(例えば、メトキシエチル:2’-O-MOE)基で置換することによるものなどを含む糖部分の修飾である。さらに、骨格のホスホジエステル基は、チオール化、ジチオール化、アミド化などによって修飾されて、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートなどのヌクレオシド間連結を生じ得る。ヌクレオシド間連結は、ペプチド核酸配列などをもたらすために、ペプチド連結によって完全にまたは部分的に置き換えられてもよい。あるいは、またはさらに、核酸塩基は、イノシンまたは2’6’-ジアミノプリンなどをもたらすために、(脱)アミノ化によって修飾されてもよい。さらなる修飾は、ヌクレオチドのシチジン部分におけるC5のメチル化であってもよく、CpG配列に関連していることが知られている潜在的な免疫特性を減少させる。
【0058】
dsRNA複合体が標的RNA配列の中のAをIに脱アミノ化するためにADAR酵素をリクルートする場合、編集されるアデノシンと反対側のヌクレオチドとの間の塩基対、ミスマッチ、バルジまたはゆらぎは、アデノシン、グアノシン、ウリジンまたはシチジン残基を含み得るが、好ましくはシチジン残基を含み得る。(ウリジンが適用されていない場合)編集部位の反対側の潜在的なミスマッチを除いて、AONの残りの部分は標的RNAと完全に相補的であり得る。しかしながら、本明細書に示されるように、特定の態様において、本発明は、限られた数の不完全マッチを含むAONに関する。細胞内の編集主体が他の標的部位にリダイレクトされる程度は、編集分子の認識ドメインに対する本発明によるオリゴヌクレオチドの親和性を変えることによって調節することができることを、当該技術分野の当業者は理解すると予想される。正確な修飾は、いくつかの試行錯誤によって、および/またはオリゴヌクレオチドと編集分子の認識ドメインとの間の構造的相互作用に基づくコンピューター計算方法によって決定することができる。
【0059】
さらに、あるいは代替的に、細胞内に存在する編集主体のリクルートおよびリダイレクトの程度は、オリゴヌクレオチドの投与量および投与計画によって調節することができる。これは実験者(インビトロ)または臨床医によって、通常は第I相および/または第II相臨床試験で決定されるものである。本発明は真核生物、好ましくは後生動物、より好ましくは哺乳動物細胞における標的RNA配列の修飾に関する。原則として、本発明は任意の哺乳動物種由来の細胞と共に使用することができるが、好ましくはヒト細胞と共に使用される。
【0060】
本発明は、例えば、皮膚、肺、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、腸、筋肉、腺、眼、脳、血液など任意の器官由来の細胞と共に使用することができる。本発明は、(ヒト)対象の罹患状態に関与する細胞、組織または器官における配列を修飾することに特に適している。そのような細胞には、肺または胃腸管の上皮細胞、生殖器官の細胞、筋肉細胞、眼の細胞、皮膚の細胞、肝臓、腎臓、膵臓などの組織および器官由来の細胞、免疫細胞、がん性細胞、腺細胞、脳細胞などが含まれるがこれらに限定されない。本発明はまた、生物体中に天然には存在しない哺乳動物細胞、例えば、細胞株またはES細胞を用いることができる。本発明は、多能性幹細胞、全能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞などを含む様々な種類の幹細胞を使用することができる。細胞はインビトロまたはインビボに位置し得る。本発明の1つの利点は、生体内にインサイツで細胞を使用することができるが、培養中の細胞を使用することもできることである。いくつかの実施形態では、細胞はエクスビボで処理され、次いで生体内に導入される(例えば、それらが元々由来した生物に再導入される)。本発明はまた、いわゆるオルガノイド内の細胞内の標的RNA配列を編集するためにも使用することができる。オルガノイドは、三次元インビトロ由来組織と考えることができるが、個々の単離された組織を生成するために特定の条件を用いて駆動される(例えば、Lancaster & Knoblich, Science 2014, vol. 345 no. 6194 1247125参照)。治療環境では、それらは患者の細胞からインビトロで誘導することができるので有用であり、そしてオルガノイドは通常の移植片より拒絶される可能性が低い自己由来物質として患者に再導入することができる。したがって、別の好ましい実施形態によれば、本発明は、患者から採取された組織試料から(例えば、彼らの胃腸管から;Sala et al. J Surg Res. 2009;156(2):205-12また、Sato et al. Gastroenterology 2011;141:1762-72参照)成長したオルガノイドに対して実践することができる;本発明によるRNA編集の際に、オルガノイド、またはオルガノイド内に存在する幹細胞は、臓器機能を改善するために患者に移植し戻すために使用され得る。
【0061】
治療される細胞は一般に遺伝的変異を有すると予想される。変異は、ヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。本発明は典型的には、NからAへの変異、ここでNはG、C、U(DNAレベルではT)であってよく、好ましくはGからAへの変異、またはNからCへの変異、ここでNはA、G、U(DNAレベルではT)であってよく、好ましくはUからCへの変異などの点突然変異を修飾するために用いられる。特定の目的の変異を含む遺伝子は以下に議論される。しかしながら、いくつかの実施形態において、本発明は、問題の疾患のための有用な研究手段を提供するために、細胞株または動物に疾患関連変異を導入することによる反対の方法で使用される。疾患モデルを作成する例として、本発明者は、CEP290遺伝子に変異を作成するために、ヒト細胞における編集活性のリクルートメントを提供するオリゴヌクレオチド配列を提供し、先天性の子供の失明の最も一般的な形態である、レーバー先天黒内障(Leber's Congenital Amaurosis)の形態の基礎を形成する潜在的なスプライス部位を作成した。例えば、特定の標的RNAのスプライシングを変更して、その標的遺伝子の変異型が別の様式で翻訳され、それによって疾患を軽減するように、非変異配列がRNA編集に標的化されることも想定され得る。当業者は、多種多様な目的のために標的RNAを修飾するためのあらゆる種類の可能性を認識している。
【0062】
RNA編集によって元に戻される変異は、染色体のレベル、またはミトコンドリアDNA、またはプレmRNA、リボソームRNAもしくはミトコンドリアRNAを含むRNAなどの他の形態のDNAのレベルで生じた可能性がある。行われる変更は、細胞または対象が感染している、真菌、酵母、寄生虫、キネトプラスチド、細菌、ファージ、ウイルスなどを含む病原体の標的RNAにあってもよい。その後、そのような細胞、対象または病原体の内部の標的配列上のRNAレベルで編集を行うことができる。ウイルスなどの特定の病原体は、それらの核酸、DNAまたはRNAを感染宿主(細胞)の細胞に放出する。他の病原体は感染した宿主内に存在または循環している。本発明のオリゴヌクレオチド構築物は、感染した真核生物宿主の細胞内に存在する標的RNA配列を編集するため、または真核生物宿主内に存在または循環する病原体の細胞内のRNA配列を編集するために、編集が行われる細胞が、それに投与されたオリゴヌクレオチド構築物と適合性のある編集主体を含む限りにおいて、使用され得る。
【0063】
理論に拘束されることを望むものではないが、hADAR1およびhADAR2によるRNA編集は、例えば成熟mRNA、miRNA、またはncRNAを編集することができる、核内、転写またはスプライシング中、または細胞質内の一次転写物で起こると考えられている。編集酵素の異なるアイソフォームは異なって局在することが知られており、例えばhADAR1 p110は主に核に、hADAR1 p150は細胞質に見られる。シチジンデアミナーゼによるRNA編集は、mRNAレベルで起こると考えられている。成熟mRNAにおけるミトコンドリアRNAコドンまたは非コード配列の編集は排除されない。
【0064】
本発明は、編集されるべき部位を標的とし、編集反応を引き起こすために細胞内に存在するRNA編集主体をリクルートすることができるオリゴヌクレオチドの使用を通して真核細胞における標的RNA配列に変化を生じさせるために使用される。好ましい編集反応は、アデノシンをイノシンに、シチジンをウリジンにそれぞれ変換する、アデノシン脱アミノ化およびシチジン脱アミノ化である。標的RNAの5’または3’非翻訳領域、(潜在的)スプライス部位、エキソン(標的RNAから翻訳されるタンパク質中のアミノ酸の変化、コドン使用頻度、またはエキソンスプライシングサイレンサーまたはエンハンサーの変化によるスプライシング挙動、開始または終止コドンを導入または除去することによる)、イントロン(イントロンスプライシングサイレンサーまたはイントロンスプライシングエンハンサー、分岐点を変えることによってスプライシングを変化させる)および一般にRNA安定性、構造または機能に影響を及ぼす任意の領域において、変化し得る。標的RNA配列は、点突然変異(遷移またはトランスバージョン)などの、修正希望または変更希望の変異を含み得る。あるいは、標的RNA配列を計画的に変異させて、変異が以前に存在しなかった場所に、変化した表現型(またはRNAウイルスなどのRNAベースの生物の場合は遺伝子型)を作製する。例えば、標的RNA配列に変化(突然変異)を有する細胞系または動物を作製することができ、これはアッセイにおいて、または(動物、オルガノイドなど)モデル系として、疾患を研究し、実験化合物を疾患に対して試験することなど、使用できる。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物および方法は、化合物スクリーニング、タンパク質工学などを含む、さらなる実験のために、例えば多種多様なタンパク質アイソフォームをコードする多種多様な標的RNAを有する細胞バンクを作製するための(アレイ形式の)ハイスループットスクリーニングシステムにおいて使用することができる。標的RNAは、任意の細胞性またはウイルス性RNA配列であり得るが、より一般的にはプレmRNAまたはタンパク質コード機能を有するmRNAである。
【0065】
単に参照を容易にするために、そして本発明を限定することを意図せずに、次の表1は、本発明のオリゴヌクレオチドによって導かれるアデノシンデアミナーゼ編集によってもたらされ得る潜在的なコドン変化を説明するために提供される。表1は特に、いかなるRNA中のコード配列への本発明の適用性の限定として解釈されるべきではない;すでに指摘したように、本発明は、コード領域、イントロン、非コードエキソン(5’または3’非翻訳領域など)、miRNA、tRNA、rRNAなどのいずれにおいても、アデノシンを含む任意のRNA標的に対して実施することができる。適用範囲の広さについての誤解を避けるために、コーディングの観点から重要でない(「サイレントな」)変更は、同じアミノ酸のいくつかのコドンが他のコドンよりも好まれるため、依然として特定のタンパク質の遺伝子発現を変える可能性があり、例えば、転写安定性または翻訳効率が異なると、コードされたタンパク質は変化がない場合よりも多かれ少なかれ豊富になることがもたらされ得る。
【0066】
【表1-1】
【0067】
【表1-2】
【0068】
本発明によるオリゴヌクレオチドを用いて編集するための特に興味深い標的アデノシンは、グリコシル化、ヒドロキシル化、ミリストイル化、プロテアーゼによるタンパク質切断(タンパク質を成熟させるため、および/または細胞内経路指定の一部として)などの同時または翻訳後修飾についての、重要な機能、または触媒部位、他のタンパク質に対する結合部位、基質による結合、局在化ドメインなどの特徴を定義するアミノ酸残基に対するコドンの一部であるものである。
【0069】
遺伝性疾患の宿主はGからAへの変異によって引き起こされ、変異した標的アデノシンでのアデノシン脱アミノ化は変異を野生型に戻すため、これらは好ましい標的疾患である。しかしながら、野生型への戻りは、有益な効果を得るのに必ずしも必要ではないかもしれない。野生型ヌクレオチドがG以外である場合、標的におけるAからGへの修飾もまた有益であり得る。ある状況ではこれが当てはまると予測されるかもしれず、別の状況ではこれはいくらかの試験が必要であるかもしれない。特定の状況において、標的RNA中のAから野生型がGではないGへの修飾は、サイレントであり得る(異なるアミノ酸に翻訳されない)か、そうでなければ重要ではない(例えば、アミノ酸が置換されるが、それはタンパク質の構造および機能を破壊しない保存的置換となる)か、またはそのアミノ酸は変化に対して一定の頑健性を有する機能的ドメインの一部である。本発明に従って編集することによってもたらされるAからGへの移行が、非コードRNA、またはRNAの非コード部分にある場合、その結果もまた、重要ではないか、または元の変異よりも厳しくないかもしれない。当業者は、本発明の適用性が非常に広く、そして疾患を予防または治療することに限定さえされないことを理解すると予想される。本発明はまた、たとえ、特にそのような修飾が、例えば細胞または非ヒト動物モデルにおいて病的状態を誘導する場合であっても、その効果を研究するために転写物を修飾するためにも使用され得る。
【0070】
本発明によるオリゴヌクレオチドで予防および/または治療することができる遺伝病の好ましい例は、標的RNA中の1つまたは複数のアデノシンの修飾が(潜在的に)有益な変化をもたらす任意の疾患である。
【0071】
特に興味深い変異を含む、本発明による潜在的な標的RNA配列である転写RNA配列には、CFTR遺伝子(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子)、ジストロフィン、ハンチントン、ニューロフィブロミン1、ニューロフィブロミン2、ヘモグロビンのβグロビン鎖、CEP290(中心体タンパク質290kDa)、βヘキソサミニダーゼAのHEXA遺伝子、およびアッシャー症候群と呼ばれる遺伝的盲目の形態の原因であるアッシャー遺伝子のいずれか1つ(例えば、UsherinをコードするUSH2B)から転写されるものが含まれるがそれらに限定されない。より広範なリストは下にさらに提示されている。標的配列はそれに応じて選択され、そしてオリゴヌクレオチド構築物は変異を修正するために所望の修飾を含むと予想される。
【0072】
CF変異の当業者は、R117H、G542X、G551D、R553X、W1282X、およびN1303Kを含む1000から2000の変異がCFTR遺伝子において知られていることを認識している。
【0073】
一般に、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物を用いて元に戻すことができる任意の標的RNAにおける変異は、アデノシンデアミナーゼリクルートメントの場合にはGからAへの変異、シチジンデアミナーゼリクルートメントの場合にはUからCへの変異であり、オリゴヌクレオチド構築物はそれに応じて設計することができる。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物を用いて標的とすることができる変異はまた、アデノシンデアミナーゼをリクルートする場合にはCからA、UからA(DNAレベルではTからA)、およびシチジンデアミナーゼをリクルートする場合にはAからCおよびGからCへの変異を含む。後者の状況でのRNA編集は必ずしも変異を野生型に戻すことはできないかもしれないが、編集されたヌクレオチドは元の変異よりも改善をもたらすかもしれない。例えば、-翻訳時に短縮型タンパク質を生じる-インフレーム終止コドンを引き起こす変異は、その位置の元のアミノ酸ではないかもしれないがアミノ酸をコードするコドンに変更されるかもしれないが、少なくともいくらかの機能性を有する、少なくとも短縮型タンパク質よりも高い機能性を有する(全長)タンパク質を生じる。
【0074】
標的配列は真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞に対して内在性である。したがって、標的配列は、例えば、細胞の歴史のある時点で人工的に導入された導入遺伝子またはマーカー遺伝子ではなく、むしろ細胞内に天然に存在する遺伝子である(突然変異型であろうと非突然変異型であろうと)。
【0075】
代わりに、本発明によるオリゴヌクレオチドを適用することによって野生型配列を変異配列に変えることが有用であり得るので、本発明は変異の修正に限定されない。野生型アデノシンを修飾することが有利であり得る一例は、例えば、エキソンのスプライシングに必要とされる分岐部位であると思われるアデノシンを修飾することによって、前記エキソンのスキップを引き起こすことである。別の例は、アデノシンがタンパク質結合のための認識配列を規定するかもしくはその一部であるか、またはRNAの安定性を規定する二次構造に関与する場合である。したがって、上記のように、本発明を使用して、疾患に対する研究ツールを提供し、既存の変異などよりも有害性が低い新しい変異を導入することができる。
【0076】
投与されるオリゴヌクレオチドの量、投与量および投与計画は、細胞の種類、治療される疾患、標的集団、投与方法(例えば、全身性に対する局所性)、疾患の重篤度および副活性の許容されるレベルによって異なるが、これらはインビトロ研究中、前臨床試験中および臨床試験中での試行錯誤によって、評価することができ、またそうすべきである。修飾配列が容易に検出される表現型の変化をもたらす場合、試験は特に容易である。より高用量のオリゴヌクレオチドが細胞内の核酸編集主体(例えばADAR)への結合について競合する可能性があり、それによって、RNA編集に自由に参加できる主体の量を枯渇させるが、日常的な投与試験は、所与のオリゴヌクレオチドおよび所与の標的についてのそのような影響を明らかにすると予想される。
【0077】
1つの適切な試験技術は、オリゴヌクレオチド構築物を細胞株または試験生物に送達し、その後の様々な時点で生検試料を採取することを含む。標的RNAの配列は生検試料中で評価することができ、そして修飾を有する細胞の割合は容易に追跡することができる。この試行が1回実行された後は、知識が保持され、生検試料を採取する必要なく将来の送達が実行され得る。
【0078】
したがって、本発明の方法は、細胞の標的RNA配列における所望の変化の存在を同定し、それによって標的RNA配列が修飾されたことを確認するステップを含み得る。このステップは、典型的には、上に記載のように、標的RNAの関連部分、またはそのcDNAコピー(または標的RNAがプレmRNAである場合は、そのスプライシング産物のcDNAコピー)の配列決定を含み、したがって、配列の変化は容易に確認できる。あるいは、変化は、タンパク質のレベル(長さ、グリコシル化、機能など)によって評価してもよいし、または何らかの機能的読み出し、例えば標的RNA配列によってコードされるタンパク質がイオンチャネルである場合は、(n)(誘導性)電流によって評価してもよい。CFTR機能の場合、ヒトを含む哺乳動物におけるアッシングチャンバーアッセイ(Ussing chamber assay)またはNPD試験は、機能の回復または獲得を評価するために当業者に周知である。
【0079】
細胞内でRNA編集が行われた後、例えば細胞分裂、編集されたRNAの限定された半減期などのために、修飾されたRNAは経時的に希釈される可能性がある。したがって、実際の治療用語では、本発明の方法は、十分な標的RNAが患者に明白な利益を提供するためにおよび/または経時的に有用性を維持するために修飾されるまで、オリゴヌクレオチド構築物の反復送達を含み得る。
【0080】
本発明のオリゴヌクレオチドは治療的使用に特に適しているので、本発明は本発明のオリゴヌクレオチドと医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。本発明のいくつかの実施形態では、医薬的に許容される担体は単に食塩水であり得る。これは、特に肺送達のためには、有用に等張性または低張性であり得る。本発明はまた、本発明の医薬組成物を含む送達装置(例えばシリンジ、吸入器、ネブライザー)を提供する。
【0081】
本発明はまた、本明細書中に記載されるように、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞において標的RNA配列を変化させるための方法において使用するための本発明のオリゴヌクレオチドを提供する。同様に、本発明は、本明細書に記載されるように、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞において標的RNA配列を変化させるための薬剤の製造における本発明のオリゴヌクレオチド構築物の使用を提供する。
【0082】
本発明はまた、細胞内の標的RNA配列中に存在する少なくとも1つの特定の標的アデノシンを脱アミノ化する方法に関し、前記方法は:本発明によるAONを前記細胞に提供するステップ;前記AONを細胞に取り込ませるステップ;前記AONを標的RNA配列にアニーリングを可能にするステップ;野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む哺乳動物のADAR酵素が、前記標的RNA配列中の前記標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化することを可能にするステップ;および任意選択で、RNA配列中の前記イノシンの存在を同定するステップを含む。本発明によるAONの細胞内への導入は、当業者公知の一般的な方法によって行われる。脱アミノ化後、効果の読み取り(標的RNA配列の変化)は様々な方法でモニターすることができる。したがって、標的アデノシンの所望の脱アミノ化が実際に行われたか否かの同定ステップは、一般に、標的RNA配列中の標的アデノシンの位置、およびアデノシンの存在によって生じる効果(点突然変異、早期終止コドン、異常なスプライス部位、オルタナティブスプライス部位、得られたタンパク質のミスフォールディングなど)に依存する。したがって、好ましい態様では、AからIへの変換の最終的な脱アミノ化効果に応じて、同定ステップは:標的RNAを配列決定するステップ;前記脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUGAまたはUAG終止コドン内に前記標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;両方の標的アデノシンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUAA終止コドン内に2つの標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;プレmRNAのスプライシングが前記脱アミノ化によって変化したか否かを評価するステップ;または、機能的読み出しを使用するステップであって、ここで前記脱アミノ化後の前記標的RNAが、機能的な、全長の、伸長したおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップを含む。UAA終止コドンがある場合、それは両方のアデノシンが脱アミノ化される必要があることを意味する。したがって、本発明はまた、互いに隣接している2つのアデノシンが、ADARなどのRNA編集酵素によって同時脱アミノ化されるオリゴヌクレオチドおよび方法に関する。この特定の場合において、UAA終止コドンはUGG Trpコードコドンに変換される(表1参照)。アデノシンのイノシンへの脱アミノ化は、標的位置で変異したAにもはや被っていないタンパク質をもたらし得るため、イノシンへの脱アミノ化の同定はまた、機能的な読み取り、例えば、機能的タンパク質が存在するか否か、あるいはアデノシンの存在によって引き起こされる疾患が(部分的に)逆行しているかという評価でもあり得る。本明細書に記載の各疾患の機能評価は、一般に、当業者公知の方法に従うと予想される。標的アデノシンの存在が異常なスプライシングを引き起こす場合、読み出しは、異常なスプライシングがまだ起こっているか、否か、または低いかどうかの評価であり得る。一方、標的アデノシンの脱アミノ化がスプライス部位を導入することを望まれる場合、必要な種類のスプライシングが実際に行われているか否かをチェックするために同様の手法を使用することができる。標的アデノシンの脱アミノ化後にイノシンの存在を同定するための非常に適切な方法は、もちろん、当業者に周知の方法を用いたRT-PCRおよび配列決定である。
【0083】
本発明は、細胞内に存在するADAR酵素による標的RNA配列中の標的アデノシンの脱アミノ化のための、細胞内、好ましくはヒト細胞内の標的RNA配列と二本鎖複合体を形成することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関し、前記AONは、3つの連続したヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、前記標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドは、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、前記セントラルトリプレットの1、2または3個のヌクレオチドは、糖修飾および/または塩基修飾を含み、ただし中央のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾されていない。本発明のヌクレオチドの糖および/または塩基修飾は、糖および/または塩基修飾を有しないAONと比較して、AONをより安定にし、および/または標的アデノシンの脱アミノ化の誘導を向上させる。好ましい実施形態では、二本鎖複合体が形成されるときに標的アデノシンと真向かいの非相補的ヌクレオチドはシチジンである。このシチジンは、AON中のそれの直接5’および3’にあるヌクレオチドと一緒になって、本明細書で定義されるようにセントラルトリプレットを形成する。AONとセントラルトリプレットの外側の標的RNA配列との間にさらなるミスマッチがあり得るが、セントラルトリプレットの中央のシチジンは、それが細胞内に存在するADARによって編集され得るように標的配列の標的アデノシンと少なくとも1つのミスマッチを形成する。細胞は好ましくはヒト細胞であり、そしてADARは好ましくはヒトADAR、より好ましくは該細胞中の内在性ADARであり、組換え手段によりそれを過剰発現させる必要はない。いずれにしても、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾を有せず、細胞のRNA編集酵素が作用することを可能にする。一実施形態では、中央のヌクレオチド以外のセントラルトリプレット内の1または2個のヌクレオチドは、イノシンに置き換えられる。これは、ADAR酵素とのより良い適合を可能にするために好ましいかもしれない。さらに別の好ましい実施形態では、AONは、哺乳動物のADAR酵素に結合することができる分子内ステム-ループ構造を形成することができる部分を含まない。
【0084】
図1、2および4に例示されるように、セントラルトリプレットはYXZまたはXXYとして表される。異なる塩基修飾が提供される。当業者は、これらの塩基修飾がセントラルトリプレット内のヌクレオチドと反対側のヌクレオチドに、ある程度依存することを理解している。したがって、Xが標的アデノシンの反対側の中央のヌクレオチドであるYXZの例では、Xはシチジン、5-メチルシチジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、ウリジン、またはピロロシチジンであり得るが、Yおよび/またはZは、セントラルトリプレットの反対側のヌクレオチドに応じて、イノシン、5-メチルシチジン、ピロロシチジン、シュードウリジン、4-チオウリジン、チエノウリジン、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、チエノグアノシン、5-メトキシウリジン、ジヒドロウリジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、5-メチルウリジン、8-アザ-7-デアザグアノシン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-メチルアデノシン、8-メチルアデノシン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、8-アジドアデノシンなどであり得:それゆえ、標的RNA配列およびそれに関連する疾患に依存する。ゆえに、好ましい実施形態では、前記塩基修飾は、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、7-メチルアデノシン、8-アジドアデノシン、8-メチルアデノシン、5-ヒドロキシメチルシチジン、5-メチルシチジン、ピロロシチジン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-デアザグアノシン、7-メチルグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、チエノグアノシン、イノシン、4-チオ-ウリジン、5-メトキシウリジン、5-メチルウリジン、ジヒドロウリジン、シュードウリジン、およびチエノウリジンからなる群から選択される。
【0085】
別の好ましい実施形態では、糖修飾はデオキシリボース(すなわちDNA)、アンロック核酸(UNA)および2’-フルオロリボースからなる群から選択される。特に好ましい態様において、本発明は、3個の連続したヌクレオチドのセントラルトリプレットを含むAONに関し、標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドがセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、そして前記セントラルトリプレット中の1個、好ましくは2個、さらに好ましくは、3個全てのヌクレオチドは、標的アデノシンの脱アミノ化の誘導において、AONをより安定におよび/またはより効果的にするためのDNAヌクレオチドである。別の好ましい態様では、AONの残りの部分は、好ましくは(必ずしもそうとは限らないが)2’-O-メチル修飾されているRNAヌクレオチドからなる。セントラルトリプレットの外側で他の安定化修飾を用いてもよい。本発明による標的編集と完全に互換性のある他のリボース修飾は、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、LNA、2’-Fおよび2’-NH2である。セントラルトリプレットの外側のヌクレオチドの糖修飾(本明細書中に列挙されるような)の異なる組み合わせが適用され得る。別の好ましい態様では、本発明によるAONは、ホスホロチオエート、3’-メチレンホスホネート(すなわち3’-O-メチルホスホネートヌクレオチド間連結)、5’-メチレンホスホネート(すなわち5’-O-メチルホスホネートヌクレオチド間連結)、3’-ホスホロアミデート(すなわち、N-3’-ホスホロアミデートヌクレオチド間連結)および2’-5’-ホスホジエステル(すなわち、2’-5’-ホスホジエステルヌクレオチド間連結)からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオシド間連結修飾を含む。ホスホロチオエート連結が特に好ましい。本発明によるさらに好ましいAONは、AONの5’および3’末端の2、3、4、5、または6個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で結合しており、好ましくは5’および3’末端の5個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で結合しているAONである。本明細書に開示されているように、セントラルトリプレット内のヌクレオチドもホスホロチオエート連結を介して結合され得るが、AONを安定かつRNA編集において活性にするためにセントラルトリプレットにはそのような連結が1つより多く存在すると思われる。さらなる好ましい態様では、安定性を高めるためにAONを保護センスオリゴヌクレオチド(SON)にアニーリングし、そしてこれは二本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド+SON複合体のより安定した性質のために仮定される長期活性である。SONは必ずしもアンチセンスオリゴヌクレオチドと同じ長さである必要はない。それはより長くても、同じ長さであっても、より短くてもよい。
【0086】
好ましい一態様では、セントラルトリプレットの外側のAON中の全てのヌクレオチドは、2’-O-メチル基、または2’-O-メトキシエチル基などの2’-O-アルキル基を含む。DNAストレッチがギャップマーを生じない限り、セントラルトリプレットの外側のヌクレオチドもDNAであり得る。また、AONは、好ましくは10、11、12、13、14、15、16または17ヌクレオチドより長く、好ましくは100ヌクレオチドより短く、より好ましくは60ヌクレオチドより短い。さらに別の好ましい実施形態では、AONは18から70ヌクレオチドを含み、より好ましくは18から60ヌクレオチドを含み、さらにより好ましくは18から50ヌクレオチドを含む。本発明はまた、請求項1から12のいずれか一項に記載のAONと医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0087】
本発明によるオリゴヌクレオチドは、任意選択で、1ng/mlから1g/ml、好ましくは10ng/mlから500mg/ml、より好ましくは100ng/mlから100mg/mlの範囲の濃度の、医薬用途に適合する添加剤、賦形剤および他の成分を含む、例えば生理食塩水などの水溶液中または懸濁液中で適切に投与される。投与量は、適切には約1μg/kgから約100mg/kg、好ましくは約10μg/kgから約10mg/kg、より好ましくは約100μg/kgから約1mg/kgの範囲であり得る。投与は、腫瘍などへの吸入(例えば噴霧による)、鼻腔内、経口、注射または注入による、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、筋肉内、気管内、腹腔内、直腸内、直接注射によるものであり得る。投与は、固体形態、粉末形態、丸剤形態、またはヒトにおける医薬用途に適合する他の任意の形態であり得る。
【0088】
本発明は、嚢胞性線維症、白皮症、アルファ-1-抗トリプシン(A1AT)欠損症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位型脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害型表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連疾患、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、ハーラー症候群、炎症性腸疾患(IBD)、遺伝性多凝集反応症候群、レーバー先天黒内障、レッシュ・ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーI型およびII型、神経線維腫症、ニーマン・ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、パーキンソン病、ポイツ・ジェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、一次繊毛障害、プロトロンビンG20210A変異などのプロトロンビン変異関連障害、肺高血圧症、網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スターガルト病、テイ・サックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、様々な形態のがん(例えば、乳がんと卵巣がんとを関連付けられるBRCA1および2)などの遺伝病の治療に特に適している。
【0089】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチド構築物は全身的に送達され得るが、標的配列の表現型が見られる細胞にオリゴヌクレオチドを送達することがより典型的である。例えば、CFTRの変異は、主に肺上皮組織に見られる嚢胞性線維症を引き起こすので、CFTR標的配列では、オリゴヌクレオチド構築物を特異的かつ直接的に肺に送達することが好ましい。これは吸入、例えば典型的にはネブライザーの使用による、粉末またはエアロゾルの吸収により便宜的に達成することができる。特に好ましいのは、PARI eFlow(Rapid)またはRespironicsからのi-nebを含む、いわゆる振動メッシュを使用するネブライザーである。本発明者らは、オリゴヌクレオチド構築物の吸入使用が、オリゴヌクレオチド構築物の全身分布およびとりわけ、腸、肝臓、膵臓、腎臓および唾液腺組織における細胞による取り込みをもたらし得ることを見出した。したがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の吸入送達もこれらの細胞を効率的に標的化することができ、これはCFTR遺伝子の場合、標的化は嚢胞性線維症にも関連する胃腸症状の改善をもたらし得ることが期待される。他の標的配列については、疾患および/または標的器官に依存して、投与は局所的(例えば皮膚上)、皮内、皮下、筋肉内、静脈内、経口、眼内注射などであり得る。
【0090】
いくつかの疾患では、粘液層が厚くなるため、肺を介した薬の吸収の減少をもたらす。そのような疾患の1つは慢性気管支炎であり、別の例は嚢胞性線維症である。DNase、高張食塩水またはマンニトールなどの様々な形態の粘液正常化剤が利用可能であり、それらはBronchitolの名称で市販されている。粘液正常化剤が、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物などのRNA編集オリゴヌクレオチド構築物と組み合わせて使用される場合、それらはそれらの薬剤の有効性を増大させる可能性がある。したがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の対象への、好ましくはヒト対象への投与は、好ましくは粘液正常化剤、好ましくは本明細書に記載の粘液正常化剤と組み合わされる。さらに、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の投与は、増強剤化合物、例えばKalydeco(ivacaftor; VX-770)、または中和化合物、例えばVX-809(lumacaftor)および/またはVX-661などのCFの治療のための小分子の投与と組み合わせることができる。CFにおける他の併用療法は、IFN-ガンマまたはTNF-アルファを使用して、アデノシンデアミナーゼの誘導剤と組み合わせた本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の使用を含み得る。
【0091】
代替的に、または粘液正常化剤と組み合わせて、粘液透過性粒子またはナノ粒子での送達を、例えば肺および腸の上皮細胞へのRNA編集分子の効率的な送達のために適用することができる。したがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の対象への、好ましくはヒト対象への投与は、好ましくは粘液透過性粒子またはナノ粒子での送達を用いる。
【0092】
慢性および急性の肺感染症は、嚢胞性線維症などの疾患を有する患者によく見られる。抗生物質治療は、細菌感染ならびに粘液の肥厚および/またはバイオフィルムの形成などの症状を軽減する。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物と組み合わせた抗生物質の使用は、オリゴヌクレオチド構築物のための標的細胞へのより容易な接近の機会(アクセス)のために、RNA編集の有効性を増大させる可能性がある。したがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の対象への、好ましくはヒト対象への投与は、好ましくは細菌感染ならびに粘液の肥厚および/またはバイオフィルム形成などの症状を軽減するために抗生物質治療と組み合わせる。抗生物質は全身的にまたは局所的にまたはその両方で投与することができる。
【0093】
例えば嚢胞性線維症患者に適用するために、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物、または本発明によるパッケージ化もしくは複合化オリゴヌクレオチド構築物は、DNase、マンニトール、高張生理食塩水および/または抗生物質および/またはCFの治療のための小分子、例えばイバカフトール(ivacaftor)などの増強剤化合物、または例えばルマカフトール(lumacaftor)および/もしくはVX-661などの中和化合物などの任意の粘液正常化剤と組み合わせることができる。
【0094】
標的細胞への接近の機会を増加させるために、本発明によるオリゴヌクレオチドの投与の前に、気管支肺胞洗浄(Broncheo-Alveolar Lavage;BAL)を適用して肺を洗浄することができる。
【0095】
本発明の発明者らは、RNAを標的としそしてADAR酵素をリクルートするAONに対するある種の修飾が安定性を増しそしてこれによりインビボ設定においてより良好な適用性をもたらすことをここに示した。しかしながら、安定性は1つのことである。ヌクレアーゼ媒介分解を防止することによってAONを安定化することに加えて、修飾ヌクレオチドは、それらがADAR酵素の結合および/または触媒活性を支持し、そして好ましくは改善するように理想的に選択される。ADAR2デアミナーゼドメインとdsRNA基質との間の相互作用の既知の構造的特徴(Matthews et al. 2016. NatStructMolBiol23:426~433に詳細に提供されている)を使用して、ADAR2酵素の触媒中心に最もよく適合する修飾AONを合理的に選択することができる。Matthewsら(2016)に開示されている(色付きの)構造から、ADAR2がdsRNAらせんの副溝から編集部位に接触していることが分かる;その文献の図2、パネルA:dsRNAらせん軸に垂直な複合体の構造の図。ピンク色のRNA鎖が編集鎖、青い鎖が相補鎖である。反転した標的塩基(N)は赤で表示される。タンパク質はその副溝を通じてらせんと接触する。パネルB:dsRNAのらせん軸に沿った構造の図。パネルC:ADAR2 E488QデアミナーゼドメインおよびRNA二重鎖との接触の概要。赤い色は編集された標的鎖を示し、青い色は相補鎖を示す(ここに示されているAONと同じ)。破線は、デアミナーゼドメインのアミノ酸側鎖(示されたアミノ酸同一性および位置)とRNA鎖との相互作用を示す。Matthewsら(2016)の図5Aは、ヌクレオチド5’の(標的鎖上の)編集部位および他の鎖上の相補的ヌクレオチドへの相互作用の空間充填モデルを詳細に示す。上のパネルでは、5’ヌクレオチドはウリジンで、反対側のアデノシンとの相互作用はADAR2デアミナーゼドメインのグリシン489によって安定化されている。下のパネルはC(編集されたヌクレオチドに対して5’)と相補的なGのモデル化された相互作用を示している。この場合、グリシンとの相互作用は2-アミノ基との衝突を引き起こし、これは編集効率を低下させる。反対側の鎖(またはAON)上のグアノシン塩基をイノシンで置き換えると、この立体的衝突が解決されるであろう。
【0096】
塩基修飾については、本発明の発明者らは、らせんの主溝に計画される化学修飾(SharmaおよびWatts 2015. Future Med.Chem.7(16). 2221~2242)が少なくともADAR2の機能を妨害すると推測した。様々なAONの詳細については、図2および以下の例を参照。ピリミジンヌクレオチドについては、そのような修飾は、4-チオウリジン(例えばADAR60-13参照)、5-メチルウリジン(例えばADAR60-14参照)、5-メトキシウリジン(例えばADAR60-26参照)、5-メチルシチジン(例えばADAR60-9、-11から16、-20、26、-27および-29から-32ならびにADAR68-1から-6参照)および5-ヒドロキシメチルシチジン(例えばADAR60-28参照)を含む塩基の4または5位の置換基を含む。プリンヌクレオチドについては、7-メチルグアノシン、7-デアザグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-メチルアデノシン、8-メチルアデノシン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、または8-アジドアデノシン(それぞれ、ADAR60-29、-30、-31、-32、およびADAR68-1、-2、-3、-4および-5を参照)を含む塩基の7位および8位の置換基が同様に主溝に向けられる。
【0097】
AONの骨格の修飾(すなわち、ヌクレオチドのリボシル部分またはヌクレオチド間連結の修飾)について、本発明の発明者らは、RNAらせんのA型構造を変えない修飾はADAR2の機能を中程度にしか妨害しないと推定した。ADAR2デアミナーゼドメインの構造情報は、特定の位置において、リン酸基や2’-ヒドロキシル基など、酵素のアミノ酸側鎖が接触する化学基を保持することが重要であることも示唆している。これらの特徴の保持を可能にする修飾としては、UNA(例えば、ADAR60-8および-9)、3’-メチレンホスホネート、5’-メチレンホスホネート、3’-ホスホロアミデート、または2’-5’ホスホジエステル修飾(それぞれ、ADAR60-22、-23、-24および-25を参照)が挙げられる。いくつかの場合において、ADAR2による直接相互作用は、特定のヌクレオチド上の所定の置換基については存在しない。そのような場合、AONをヌクレアーゼから保護するが、ADAR2との立体障害を引き起こさないほど十分に小さい他の化学基、例えば、天然に存在するヒドロキシル基よりも大きくないため、2’-フルオロ修飾または2’-H(デオキシ)を使用することができる(例えばADAR60-7を参照)。
【0098】
修飾ヌクレオチドは、ヌクレアーゼからの増強された保護およびADAR2結合への最小限の干渉を提供するだけでなく、ADAR2の機能性を特異的に増加させるためにも選択され得る。標的配列がADAR編集に最適ではない場合、基質RNA上の編集活性を増強するために、特定のヌクレオチド修飾が特に必要であり得る。以前の研究は、特定の配列コンテキストが編集により適していることを証明した。例えば、標的配列5’-UAG-3’(中心に標的Aを有する)は、ADAR2にとって最も好ましい最近傍ヌクレオチドを含み、一方、5’-CAA-3’標的配列は好まれない(Schneiderら、2014)。ADAR2デアミナーゼドメインの構造解析は、標的トリヌクレオチドの反対側のヌクレオチドを慎重に選択することによって編集を強化する可能性を示唆している(Matthewsら、2016)。例えば、(中位に形成されたA-Cミスマッチを有する)反対側の鎖上の3’-GCU-5’配列と対になる5’-CAA-3’標的配列は、グアノシン塩基のアミノ基がADAR2のアミノ酸側鎖と立体的に衝突するために好まれない。しかしながら、イノシンなどのアミノ基を欠く、より小さい核酸塩基は、反対側のシトシンに対する塩基対合能力をなお保持しながら、立体的な衝突を引き起こすことなくこの位置によりよく適合し得ると仮定される(例えばADAR60-10から-19および-26、-27、-28、および-32参照)。イノシンはまた、異なる配列の内で使用され得る。例えば、標的配列5’-UAG-3’をAONセントラルトリプレット配列5’-CCI-3’と対にすることができ、したがってらせんから酵素の活性部位に飛び出し、標的アデノシンに必要とされる柔軟性の増大をもたらすことができるU-Iゆらぎ塩基対を形成することができる(例えば、ADAR68-6を参照)。
【0099】
骨格修飾は、編集部位を囲むヌクレオチドの柔軟性を高めるなど、ヌクレアーゼ保護を超えるさらなる利点を有することもでき、酵素の活性部位に基質を正しく配置するための重要な要因として示唆されている。糖部分の開いた構造が運動の増加を許容するため、UNAはそのような骨格修飾の1つである(ADAR60-8および-9を参照)。逆に、最適でない配列の活性を増強し得る修飾にはまた、編集に好ましい立体配座に強制する骨格修飾の使用が含まれる。
【実施例
【0100】
[実施例1]
安定性を高めるためのヒトSERPINA1 RNAを標的とするAONの化学修飾
未公開特許出願PCT/EP2017/065467は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の使用による標的化AからIへの編集のための方法を記載している。これらのAON中のほとんどのヌクレオチドは2’-O-メチル化RNAであり、ホスホロチオエート連結を有するが、それらはAONの部分に、標的アデノシンの真向かいの中央のヌクレオチドおよびその2つの隣接ヌクレオチドと共に、いくつか、通常3個の未修飾RNAヌクレオチド(「セントラルトリプレット」)を含む。これは、セントラルトリプレットのヌクレオチドが2’-O-メチル化されているとA-to-I編集が強く抑制されることが以前に示されていたためである(Vogelら、2014)。しかしながら、修飾されていないRNAヌクレオチドを含むAONは、これらの位置の残基を加水分解することができるヌクレアーゼのために本質的に生物学的に不安定である。これは、例えば治療薬としてAONを効率的に使用するためには、それらは標的に到達する前に分解され得るため、不利益となり得る。
【0101】
本発明の発明者らは、セントラルトリプレットでの未修飾RNAヌクレオチドを有するAONの安定性と、2’-O-メチル化以外の化学修飾を使用することによってそのようなAONの安定性を高めることができるか否かについて調べた。
【0102】
まず、非限定的な例として、RNA編集のために選択された標的は、A1AT欠損症(A1ATD)の原因となるSERPINA1 RNA中のc.1096G>A変異である。A1ATDは、本明細書に概説したような手法を用いたRNA編集のための疾患標的の一例である。図1AおよびBでは、SERPINA1標的に対する例示的なAONの相補性が概略的に示されている。標的配列に対するADAR60-1の相補性を図1Aに示し、ADAR60シリーズのセントラルトリプレット(5’-YXZ-3’)を図1Bに示す。骨格およびセントラルトリプレットのヌクレオチドの塩基に様々な修飾を有する変異体RNAを標的とするいくつかのAONを、15%ウシ胎児血清(FBS)を含む細胞培養培地(MEM)中でそれらを+37℃で30分間(RX)インキュベートすることによって安定性を試験した。陰性対照として、AONをリン酸緩衝生理食塩水(PBS;CTL)中でインキュベートした。次に試料を変性ポリアクリルアミドゲル(8M尿素を含む15%PAGEゲル)で分離し、続いてこれをトルイジンブルーで染色してAONおよびその断片を可視化した。そのAONをそれぞれの配列およびそれらの修飾と共に図2に示す。図3の3つのパネルは、ADAR60シリーズのAONを使用した安定性アッセイの結果を示している。修飾されていない5’-UCG-3’ RNAセントラルトリプレットを含むADAR60-1は、FBSの存在下で30分以内に効率的に切断(~分解)される(およそ50%まで)。対照緩衝液中でAONをインキュベートした場合、いくらかの分解はさらに明らかである。3つのRNAヌクレオチドの位置がシフトしても、分解速度は低下しない(ADAR60-3)。重要なことに、未修飾RNAヌクレオチドの数を(3個の代わりに)2個に減らすと、分解が減少する(ADAR60-2)。ここで陰性対照として働く完全な2’-O-メチル化AONは、セントラルトリプレットがDNAヌクレオチドに変更されたAON(ADAR60-6)のように、これらの条件下で安定している(ADAR60-4)。これは少なくとも、セントラルトリプレットが2’-O-メチル化されていない場合、AONは分解される傾向があり、セントラルトリプレットに少なくとも1つの2’-O-メチル化ヌクレオチドを付加すること、またはセントラルトリプレット全体をDNAヌクレオチドに修正することによりそれを解決することができることを示している。セントラルトリプレットの3つの位置のうち2つの位置における他の糖の修飾、ロック解除核酸(UNA)によるRNAの置換は安定性の増加をもたらし(ADAR60-8)、さらにトリプレットの中位における塩基修飾5-メチルシトシンと組み合わせるとさらに安定になる(ADAR60-9)。セントラルトリプレットの最初の位置の後に1つのホスホロチオエート連結を含んでいても(5’-U*CG-3、星印はホスホロチオエート連結を表す)、安定性はそれほど向上しない(ADAR60-5)。ホスホロチオエート連結の数の増加に向けたさらなる実験については、下記の実施例2を参照。
【0103】
また、グアノシンをイノシンで置き換えると、分解が著しく減少する(ADAR60-10)。この修飾をシチジンの5-メチルシチジンについての置き換え(ADAR60-11)と組み合わせると、安定性は維持され、両方の修飾をウリジンのシュードウリジンについての置き換えと組み合わせると(ADAR60-12)さらに向上する。
【0104】
セントラルトリプレットの3つの全てのヌクレオチドを修飾ヌクレオチドで置き換えると、安定性に最大の効果があるように見えた。各位置における精密な修飾は変えることができ、これはAONの安定性に大きく影響する。ADAR60-12以外のAONでは、シュードウリジンを4-チオウリジンで置換したもの(ADAR60-13)または2,6-ジアミノプリンで置換したもの(ADAR60-16)は、同等の安定性のAONが得られるが、対照的に5-メチルウリジン(ADAR60-14)は安定性を減少させ、チエノウリジン(ADAR60-15)は、未修飾RNAトリプレットを使用した場合よりもさらに、AONをほぼ完全に分解させる。
【0105】
セントラルトリプレットの中央のCをピロロシチジンで置換すると、5-メチルシチジンよりもさらに有意に安定化される:ピロロシチジンおよびイノシンを有するAONは、トリプレットの最初の位置にシュードウリジンまたは未修飾ウリジンを含むか否かにかかわらず、これらの条件下でほぼ完全に安定である(それぞれADAR60-18とADAR60-17)。この場合も、ウリジンをチエノウリジン(ADAR60-19)で置き換えると安定性が減少するが、ADAR60-15と同程度ではない。
【0106】
セントラルトリプレットの他の2つの位置と同様に、最後の位置も安定化を達成するために異なる塩基修飾で修飾することができる。ここでは、イノシンの代わりに、チエノグアノシンをシュードウリジンおよび5-メチルシチジンまたはピロロシチジン(それぞれADAR60-20およびADAR60-21)と組み合わせて使用した。両方のAONはこれらの条件下で完全に安定している;チエノグアノシンによる安定性の向上は、他の点では類似のADAR60-12およびADAR60-20と比較すると顕著である。
【0107】
安定化を増大させるための同様の効果を達成するためのさらなる組み合わせとしては、例えば、グアノシンについては7-メチルグアノシン、7-デアザグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、または7-アミノメチル-7-デアザグアノシン(それぞれADAR60-29、-30、-31および-32参照)、またはシチジンについては5-ヒドロキシメチルシトシン(ADAR60-28を参照)、またはウリジンでは5-メトキシウリジンまたはジヒドロウリジン(それぞれADAR60-26および-27を参照)の置き換えが考えられる。2’-フルオロ、3’-メチレンホスホネート、5’-メチレンホスホネート、3’-ホスホロアミデート、または2’-5’ホスホジエステル修飾(2’-5’骨格連結;それぞれADAR60-7、-22、-23、-24、および-25を参照)を含むセントラルトリプレットの糖および骨格修飾によっても安定化が達成された。
【0108】
この実施例に示された結果は、全ての修飾がRNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチドの分解を減少させるのに有用であるとは限らないが多くの修飾により安定性が実際に増すこと、そしてセントラルトリプレット内およびおそらくその周辺の修飾は慎重に選択されるべきであることを示す。セントラルトリプレットのヌクレオチドを特定の化学的性質で修飾すると、オリゴヌクレオチドの安定性が確実に高まる。全体として、この実施例に提示された結果は、セントラルトリプレットにおけるヌクレオチドの(の組み合わせ)修飾が安定性を改善させることができ、一度にいくつかの塩基の修飾が徐々に安定化をもたらすことを示す。
【0109】
[実施例2]
安定性を高めるためのマウスIdua RNAを標的とするAONにおけるホスホロチオエート連結
前の例では、セントラルトリプレット内の最初の位置の後に1つのホスホロチオエート連結を含ませても、安定性はそれほど向上しないことが示された(図3A;ADAR60-5)。これをより深く調査するために、セントラルトリプレット領域内により多くのホスホロチオエート連結を含むことがなおも影響を及ぼしそして安定性を高めることができるか否かを試験した。
【0110】
このために、本発明の発明者らは、ヒトにおいてIDUA遺伝子のc.1205G>A(W402X)変異によって引き起こされる、ムコ多糖症I型-ハーラー(mucopolysaccharidosis type I-Hurler;MPS I-H)としても知られるモデル系としてハーラー症候群(Hurler syndrome)を選択した。変異ヒト遺伝子の標的配列は5’-UAG-3’(中位に標的A、図4A参照)であり、そしてAONのセントラルトリプレットは5’-CCA-3’(中央のミスマッチCを含む;5’-XXY-3’表記については図4Bを参照)または5’-CUA-3’であろう。この変異についてのマウスモデルも存在し(W392X)、そこではIdua遺伝子が変異している。Hurlerマウスモデルはまた、さらなるインビボ実験にも使用された(下記参照)。シリアル番号ADAR65を有するオリゴヌクレオチド(図2参照)は、変異マウスIdua遺伝子を標的とするように設計された。さらなるホスホロチオエート連結がオリゴヌクレオチドの安定性を増すか否かを見るために、ADAR65-1、ADAR65-18、ADAR65-20、ADAR65-21、およびADAR65-22を試験した。驚くべきことに、セントラルトリプレット領域に3つ以上のホスホロチオエートを含めると、AONの安定性が向上した(図5)。ADAR65-1にはセントラルトリプレット領域にさらなるホスホロチオエート連結がなく、明らかに分解されているが、ADAR65-22にはセントラルトリプレット領域内およびその周辺に6個のホスホロチオエート連結があり、FBSで18時間インキュベートした後も明らかにより安定である。同様に、セントラルトリプレット領域に5および3個のホスホロチオエート連結をそれぞれ有するADAR65-20およびADAR65-21の安定性は、(ADAR65-1のように)オリゴヌクレオチドの末端連結を除いてセントラルトリプレット領域にさらなるホスホロチオエートを有さないADAR65-18と比較したとき、増加した。
【0111】
5-メチルシチジンおよびデオキシ2-アミノプリンなどの塩基修飾を、デオキシリボース(DNA)、2’-O-メチル、2’-フルオロおよびリン酸骨格(ホスホロチオエート連結)などのリボース修飾と組み合わせた。ADAR65-13、-14、-15、-16、-19、-20、-21、-22、-23、-24、-25、-26、-27、-28、-29、および-30(図2)を上に記したものと同じアッセイを用いて安定性について試験した。図6に示される結果は、FBS中で18時間インキュベートした後でも、安定性を得るために様々な組み合わせを使用できることを示している。
【0112】
これに加えて、セントラルトリプレットにRNA(ADAR93-2)またはDNA(ADAR93-6、ADAR93-8、ADAR93-9)のいずれか、および様々な数のホスホロチオエートヌクレオチド(ADAR93-2においては28、ADAR93-6においては8、ADAR93-8においては21、ADAR93-9においては22)を含むAONを様々な生物学的溶液中で安定性について分析した。PBSを陰性対照として使用した。AONが血液および中枢神経系供せられ得る生理学的条件を模倣するために、AONをそれぞれ、15%FBSを含有する細胞培養培地(DMEM)または単一ドナーヒト脳脊髄液(CSF)中でインキュベートした。リソソームおよびその中のヌクレアーゼの酸性微小環境がAON安定性に影響を及ぼすか否かを評価するために、オリゴヌクレオチドもまた混合ジェンダーヒト肝臓リソソーム(Lyso)中でインキュベートした。200pmolのAONを各条件で2時間、24時間または3日間インキュベートし、その後試料を変性ポリアクリルアミドゲル(8M尿素を含む12%PAGEゲル)に溶解した。ゲルをトルイジンブルー溶液で染色し、水中で脱色してAONおよびその断片を可視化した。結果は図7に示されており、セントラルトリプレットに修飾を加えずにRNAを含むオリゴヌクレオチド(ADAR93-2)はFBS、CSFおよびLyso中で非常に分解されやすいことを示している(再び)。ほとんど全てのオリゴヌクレオチドはこれらの異なる状況下で急速に切断されるためであるが、一方でPBS単独においては比較的安定のままである。しかしながら、2つか3つのDNAヌクレオチドを含むようにセントラルトリプレットを変更すると、3日間までも、3つの異なる環境におけるオリゴヌクレオチドの安定性が大幅に向上する。
【0113】
ヒトIDUA遺伝子のc.1205G>A(W402X)変異を潜在的に標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドADAR68、ADAR68-1、-2、-3、-4、および-5(図2参照)もまた設計した。修飾されたセントラルトリプレットは、例えば、7-メチルアデノシン、8-メチルアデノシン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、または8-アジドアデノシンなどの(図2のADAR68-1、-2、-3、-4および-5)、アデノシンを置換したヌクレオチドと組み合わせた2つの5-メチルシチジンからなることができる。しかしながら、アデノシンは、イノシンなどの反対側のウリジンとゆらぎ塩基対を形成することができる修飾塩基によっても置換することができる(ADAR68-6)。これらのAONは、安定性ならびに標的配列のRNAを編集するそれらの能力について試験される。
【0114】
[実施例3]
セントラルトリプレットにおける化学塩基修飾を組み合わせたAONのRNA編集活性
ヌクレオチドホスホジエステル、糖および塩基修飾は、ヌクレアーゼに対するオリゴヌクレオチドの安定性を高めるために使用される。重要なことには、そのような化学的ヌクレオチド修飾は、より良好な認識を得るためにおよび/またはAONとその特異的な標的RNA配列との二本鎖複合体において作用するタンパク質の酵素活性を高めるために、それらの標的RNAに対するAONの結合の増加などの他の目的にも使用できることが本発明の本発明者によって考えられた。
【0115】
本発明者らは、AONのセントラルトリプレットにおけるヌクレオチド塩基化学修飾の組み合わせがADAR2の編集活性を増強し得るか否かを最初に知りたかった。このために、ADAR60-1およびADAR60-15(図2および3参照)を使用して、ヒト変異SERPINA1標的RNA分子に対するADAR2酵素の編集活性の増強に対するそのような影響を調べた。これら2つのAONは同じ配列と長さを共有し、どちらもセントラルトリプレットの外側にリン酸基の化学的ホスホロチオエート修飾およびリボース糖の2’-O-メチル修飾を有する。図2に示すように、ADAR60-1のセントラルトリプレットのヌクレオチドは修飾されていないが、ADAR60-15のセントラルトリプレットのヌクレオチド塩基は化学修飾されている。5-メチルシチジンは編集のための標的アデノシンの反対側である。ADAR60-1とADAR60-15の両方を、ADAR2の過剰発現されたアイソフォーム2(ADAR2a)を有するHEK293細胞溶解物、およびc.1096G>A変異を有するSERPINA1標的RNAを用いたインビトロ編集アッセイで試験した。細胞溶解物を含まないADAR60-15、および過剰発現させたADAR2aを含むが、オリゴヌクレオチドを含まないHEK293細胞溶解物を陰性対照として用いた。SERPINA1テンプレートssRNAは、T1プロモーターF1フォワードプライマー(5’-GCGAAGCTTAATACGACTC-3’;配列番号3)およびSerpina1-R2リバースプライマー(5’-CCATGAAGAGGGGAGACTTC-3’;配列番号4)を用いて当業者に公知の一般的技術を適用し、製造業者のプロトコールに従って、MEGAscript Kit(Life Technology)を用いて500ngのSERPINA1mut DNA配列(SERPINA1mut gBlocks(登録商標)遺伝子断片からPCRによって増幅された)のインビトロ転写によって得られた。SERPINA1mut DNAテンプレートは、以下の配列を有する(標的アデノシンを太字の下線付きで示す):
【0116】
【化1】
【0117】
標的ssRNAは以下の配列を有する(標的アデノシンは太字の下線付きで示す):
【0118】
【化2】
【0119】
変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて標的ssRNAをゲル精製した。溶解物を得るために、HEK293細胞を、最初にリポフェクタミン3000を用いて500ngのADARB1発現プラスミド(OriGene)と共に一晩トランスフェクトした。次に細胞をLysis-M試薬を用いて溶解した。200nMのAONおよび90nMのSERPINA1テンプレートssRNAを、インビトロ編集アッセイ緩衝液中、30℃で30分間一緒にプレインキュベートした。プレインキュベーション後、細胞溶解物を添加し(10μl)、反応混合物を30℃で30分間、続いて37℃で30分間インキュベートした。次いで、標的化RNAをフェノールクロロホルム抽出により抽出し、そして製造業者のプロトコールを用いて、Serpina1-F2フォワードプライマー(5’-TCAACTGGGCATCACTAAGG-3’;配列番号7)およびSerpina1-R2リバースプライマー(上記参照)を用いて、Maxima RT試薬を用いて逆転写した。次いで、cDNAをPCRによって増幅し、Serpina1-R1プライマー(5’-CATGAAGAGGGGAGACTTGG-3’;配列番号8)を用いたサンガー配列決定により分析した。
【0120】
図8は、ADAR60-1をSERPINA1mut ssRNA標的とインキュベートした場合、AからGへの変化が検出されないことを示している(パネルA、矢印で示す位置)。しかしながら、対照的に、ADAR60-15を使用すると(パネルB)、明らかに検出可能で有意なAからGへの変化を示し、標的SERPINA1 RNAの編集を裏付ける。陰性対照反応(パネルCおよびD)は、AからGへの編集を示さない。ADAR60-15におけるヌクレオチド塩基の化学修飾は、そのような修飾を有さないオリゴヌクレオチド(ADAR60-1)と比較して、ADAR2のRNA編集活性を増強することができると結論づけられる。
【0121】
[実施例4]
セントラルトリプレットにおける2-アミノプリン修飾を含むAONを用いたGFP標的RNAにおける非センス変異のRNA編集
細胞ゲノムに安定に組み込まれた緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする発現構築物を含む細胞においてRNA編集も調べた(詳細および構築物については国際公開第2016/097212号パンフレットを参照)。この構築物において、終止コドン(TAG)がコドン位置57に導入され、標的RNA中にトリプレットUAGをもたらした。このトリプレットの中央にあるアデノシンでのRNAの編集は、最終的にはTrpをコードするコドンを生じさせ、その後、全長タンパク質を発現させるであろう。構築物および細胞株(安定に組み込まれたGFP W57Xプラスミドを含む細胞)は、当業者に知られている技術を使用して生成された。標的RNA内の他のアデノシンが編集されないようにするために、終止コドンの反対側のAON内の3つのヌクレオチド(オリゴヌクレオチド内の5’-CCA-3’、中央のミスマッチCと共に、図2のADAR59-2およびADAR59-10参照)は2’-O-メチル修飾を含まないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド中の他の全てのヌクレオチドは含む。さらに、試験した全てのオリゴヌクレオチドの両側の末端の5つのヌクレオチドはホスホロチオエート連結によってつながっているが、残りの連結は正常な連結であった。ADAR59-10では、オリゴヌクレオチドのセントラルトリプレットのAが2-アミノプリンになるように化学修飾されているが、ADAR59-2にはそのような特別な修飾はない。Matthewsら(2016)の図5Bは、この位置での2-アミノプリン修飾が、活性化の減少(しかし消滅しない)をもたらすことを示す。しかしながら、修飾は、例えば増強されたヌクレアーゼ耐性を潜在的に提供すること、または細胞プロセスを増強することによって、依然として間接的にRNA編集を増強することができる。
【0122】
安定なGFP W57X含有細胞を最初に1μgのADAR2過剰発現プラスミドでトランスフェクトし(先の実施例を参照)、次いで24時間後に別々のバッチで150nMの各オリゴをトランスフェクトした(両方ともリポフェクタミン2000を用いる)。その後、AONトランスフェクションの24時間後、RNAをcDNA合成およびその後のRT-PCRのために単離し、そして配列決定を行ってRNA編集が起こったか否かを明らかにした。
【0123】
図9に示すように、ADAR59-10で観察された編集レベルは、2-アミノプリン修飾の無いコントロール(ADAR59-2)よりも改善されている。このことは、触媒活性自体への悪影響にもかかわらず、AONの修飾は間接的な手段によって全体的な編集レベルに良い影響を及ぼし得ることを示している。そのような修飾を安定性および/または編集活性の増強を支持する他の修飾ヌクレオチドと組み合わせることにより(ここに開示されるように)、RNA編集を効率的に活性化するAONを安定に作成することが今や可能である。
【0124】
[実施例5]
セントラルトリプレットにおけるDNA修飾を含むAONを用いたGFP標的RNAにおける非センス変異の編集
前の実施例に記載されているものと同様に、GFPstop57プラスミドを用いた効率的なRNA編集のために、AONにおける他のいくつかの修飾を調べた。このために、オリゴヌクレオチドADAR59-2、ADAR59-10およびADAR59-22を、対照オリゴヌクレオチドADAR65-1およびいかなるオリゴヌクレオチドのトランスフェクションもしない対照条件と比較した(図2参照)。詳細には、10%FBSを含むDMEM中に6ウェルプレートの1ウェルあたり0.3×106MCF-7細胞を播種した。24時間後、リポフェクタミン2000を用いて、50ngのGFPstop57プラスミドを細胞にトランスフェクトした。再び24時間後、選択された細胞試料に、リポフェクタミン2000を使用して100nMの各AONをトランスフェクトした。再度24時間後、RNAを溶解細胞から単離し、cDNA合成のためのテンプレートとして用いた。これは、500ngのRNAを加えることによりMaxima cDNA合成キットを用いて行った。これらの試料は、液滴デジタルPCR(ddPCR)を用いた定量的編集分析に使用された。核酸標的配列の絶対定量のためのddPCRアッセイは、Bio-RadのQX-200 Droplet Digital PCRシステムを使用して行った。RT-PCRから得られた1μlのcDNAを、ddPCR Supermix for Probes no dUTP(Bio Rad)、Taqman SNP遺伝子型アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を以下の遺伝子特異的プローブと組み合わせた適切なフォワード・リバースプライマーと共に含む20μlの反応混合物の全混合物中で使用した:
フォワードプライマー:5’-ACCCTTAAATTTATTTGCACTA-3’(配列番号9)
リバースプライマー:5’-CACCATAAGAGAAAGTA-3’(配列番号10)
野生型プローブ-FAM NFQ標識:5’-CTGTTCCATGGCCAAC-3’(配列番号11)
変異プローブ-VIC NFQ標識:5’-CTGTTCCATAGCCAAC-3’(配列番号12)
【0125】
cDNAを含む全量20μlのPCR混合液を、マルチチャンネルピペットを用いてddPCRカートリッジ(Bio Rad)の中央列に充填した。複製物は2つのカートリッジに分けられた。一番下の列をプローブ用の液滴生成油(Bio Rad)70μlで満たした。ゴムガスケットの交換後、QX200液滴発生器で液滴を生成させた。カートリッジの最上列から40μlの油エマルジョンを96ウェルPCRプレートに移した。PCRプレートを170℃で4秒間PX1プレートシーラーを使用してスズ箔で密封し、続けて以下のPCRプログラムを行った:1サイクルの95℃で10分間の酵素活性化、40サイクルの95℃で30秒間の変性および59.7℃で1分間のアニーリング/伸長、1サイクルの98℃で10分間の酵素失活、続けて8℃での保存。PCR後、プレートを読み取り、QX200液滴リーダーで分析した。GFPstop57由来のRNAについて上述したように異なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用してRNA編集した後に得られたcDNA上のddPCRの結果を表2に提供する。これは、PCR産物の集団において、プラスミド単独または対照オリゴヌクレオチドを用いたトランスフェクション後、wtコピーが検出できなかったことを示している。しかしながら、ADAR59-2、ADAR59-10、およびADAR59-22によるトランスフェクションでは、総母集団で有意な量の野生型コピーが得られた。ADAR59-22(標的アデノシンの反対側のCを囲む2つのDNAヌクレオチドを有する)を用いると、8.3%wtコピーまでのRNA編集をもたらした。この実験ではさらなるRNA編集酵素を使用しなかったため、セントラルトリプレット内のDNAヌクレオチドの使用は、内在性ADAR酵素を使用する効率的なRNA編集に有益であることを示している。
【0126】
【表2】
【0127】
したがって、好ましい実施形態では、本発明はまた、セントラルトリプレットのヌクレオチドがDNAヌクレオチドであり、より好ましくはセントラルトリプレットの標的アデノシンの反対側のCの両側の2つのヌクレオチドがDNAヌクレオチドである本発明によるAONに関する。
【0128】
[実施例6]
インビトロでの内在性標的に対する内在性ADARを用いたRNA編集
次に、内在性標的上で内在性ADARタンパク質を用いて、つまりいずれも過剰発現させることなくRNA編集を達成することが可能であるか否かを調べた。マウスの小核リボ核タンパク質ポリペプチドA(SNRPA)をコードするRNAは、その中程度の豊富さで遍在的な発現のために内在性の標的として選択された。SNRPAは、前駆体mRNAの5’スプライス部位に結合し、そしてスプライシングに必要とされるU1小核リボ核タンパク質のステムループIIと会合する。このタンパク質は、二量体化を介してそれ自身のmRNA前駆体のポリアデニル化阻害によってそれ自体を自己調節し、そしてスプライシングとポリアデニル化とのカップリングに関与している。AONはマウスSnrpa(pre-)mRNAの野生型終止コドン(UAG)を編集するように設計されており、次いで、それはメッセンジャーの伸長をもたらす可能性があり、下流の配列によってコードされる25アミノ酸の増加を伴うより大きなタンパク質をもたらす。SNRPAタンパク質の元のサイズはおよそ31.68kDaであり、そして拡大されたタンパク質は約34.43kDaと計算される。図2は、セントラルトリプレットの3つのDNAヌクレオチドを含むADAR94-1の配列を示しているが、他の全てのヌクレオチドは2’-O-メチル修飾RNAである。両端の5つの末端ヌクレオチドはホスホロチオエート連結で結合している。セントラルトリプレットの外側の標的配列と比較してバルジを含むADAR94-1(PCT/EP2017/065467参照)をHEPA1-6およびCMT-64細胞株で試験した。HEPA1-6は、C57/Lマウスに発生したBW7756マウス肝がん由来である。CMT-64は、C57BL/lcrfマウスの原発性肺胞癌腫塊から単離された。トランスフェクションの24時間前に、HEPA1-6については1.75×105細胞/ウェル、CMT-64については1.5×105細胞/ウェルの密度で細胞を6ウェルプレートにプレーティングした。両方の細胞株を通常の培地(DMEM+10%FBS)中で培養した。細胞を、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用い、製造業者のプロトコールに従って、非トランスフェクト(NT対照)、無関係の非標的オリゴ(NTO対照;200nMの50量体オリゴヌクレオチド)でトランスフェクトする、あるいは最終濃度100nMのADAR94-1とAONをさらに安定化させると考えられるマウス特異的Snrpa関連センスオリゴヌクレオチド(SON2、図2参照)でトランスフェクトした。未公開特許出願GB1700939.0は、RNA編集においてアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を安定化するための保護センスオリゴヌクレオチド(SON)の使用をさらに記載している。ADAR94-1とSON2を100μMストックに希釈し、1:1の比率に混合し、以下のアニーリングプログラムでインキュベートした:60℃5分、55℃5分、50℃5分、45℃5分、40℃5分、35℃5分、30℃5分、20℃5分、使用するまで10℃。トランスフェクションの前に、培地を1.7mL/ウェルの新鮮な培地に交換し、トランスフェクション混合物(300μl)を添加し、合計2mL/ウェルにした。トランスフェクションの24時間後、2mLの新鮮培地を各ウェルに加えた。細胞をさらに24時間インキュベートした。その後、培地を除去し、細胞を1×PBSで1回洗浄し、次いで細胞溶解のために350μlのTrizolを各ウェルに添加した。次いで溶解した細胞を回収し、製造業者によって提供された取扱説明書に従ってDirect-Zol RNAミニプレップ(Zymo)を用いてRNAを抽出した。このキットのオンカラムDNAseを使用せずに、代わりにTURBO DNA-free(登録商標)キットをRNA試料のDNAse処理に使用した。このために、0.5μlのRNAseインヒビターを各試料に添加し、そして残りのステップを製造業者の取扱説明書に従って行った。Nanodropを用いてRNA濃度を測定し、製造業者のプロトコールを用いてMaxima Reverse Transcriptaseキット(ThermoFisher Scientific)を用いて、cDNA合成に400ngのRNAを用いた。フォワードプライマーFw1_mSNRPA(5’-GCCTTCGTGGAGTTTGACA-3’ 配列番号13)およびリバースプライマーRev1_mSNRPA(5’-ACACACGGCTCTGAGAAGGT-3’ 配列番号14)を用いて当業者に一般的に知られている方法を用いてPCRを行った。PCR生成物をAgilent 2100 Bioanalyzerにおいてチェックし、Nucleo-Spin GelおよびPCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel)で精製した。精製した生成物を配列決定プライマーSnrp-1-Fw1(5’-CGTGGAGTTTGACAATGAAGT-3’ 配列番号15)を用いて配列決定した。
【0129】
HEPA1-6細胞についての配列決定結果を図10Aに示し、CMT64細胞についての配列決定結果を図10Bに示す。明らかに、非トランスフェクト(NT、左パネル)および非標的オリゴヌクレオチド(NTO、中央パネル)対照は、終止コドン(矢印で示される終止コドンの中央位置)で検出可能なRNA編集を示さない。しかしながら、右パネルに明らかに見られるように、CMT64細胞やHEPA1-6細胞においても、ADAR94-1オリゴヌクレオチドを(ここでは保護SON2オリゴヌクレオチドと組み合わせて)使用した場合に検出可能な有意なRNA編集がある。図11は、このSNRPA RNA編集が保護的なSONなしでも達成され得るが、SONの追加がRNA編集のレベルを高めたことを示す。この+/-SON実験の手順は、上記のものと同様であり、HEPA1-6細胞において行われた。
【0130】
これらの結果は、この非限定的な例において、Snrpa標的RNAをモデルとして使用して、RNA編集が内在性標的RNA配列上で内在性ADAR酵素によって達成され得ることを示す。重要なことには、AONのセントラルトリプレットが3つの連続したDNAヌクレオチドからなる場合(一方で残りのAONが好ましくは2’-O-メチル修飾されたRNAヌクレオチドからなる場合)、非常にクリアで有意なレベルのRNA編集が達成される。
【0131】
したがって、好ましい態様において、本発明は、3つの連続したヌクレオチドのセントラルトリプレットを含むRNA編集AONに関し、標的アデノシンの反対側のヌクレオチドがセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、前記セントラルトリプレット中の1つ、より好ましくは2つ、さらにより好ましくは、3つの全てのヌクレオチドは、標的アデノシンの脱アミノ化の誘導において、AONをより安定におよび/またはより効果的にするためのDNAヌクレオチドである。もう1つの好ましい態様において、AONの残りは、好ましくは2’-O-メチル修飾されているRNAヌクレオチドからなる。
【0132】
[実施例7]
内在性標的上の内在性ADARによるex vivoでのRNA編集
先の実施例に記載したようにSnrpa標的配列のインビトロADAR媒介RNA編集の証拠を見出した後、同じADAR94-1オリゴヌクレオチドを用い、マウス野生型初代肺細胞において内在性ADARタンパク質によりエクスビボでRNA編集を達成することが可能か否かを調べた(図2および実施例6参照)。Miltenyi Biotecからのマウス肺解離キット(商品番号130-095-927)を使用して、C57BL/6Jバックグラウンドを有するマウスから細胞を単離した。手短に述べると、全ての試薬は製造業者に従って無菌条件下で調製した。マウスをCO2窒息により屠殺し、PBSで灌流した。次にマウスの肺を体から切開し、氷上でPBSを含む50mlチューブに移した。続いてマウスの肺を単一葉に解剖し、キット特異的酵素混合物を含むgentleMACS C-チューブに移した。gentleMACSプログラム37C_m_LDK_1を用いて組織を処理した。プログラム終了後、試料をMACS SmartStrainer(70μm)に適用し、4℃で10分間、300×gで遠心分離した。上清を捨て、細胞を10mlのDMEM+10%FBSに再懸濁し、計数し、そしてその後の処理まで適切な培養フラスコ中で培養した。トランスフェクションのために、細胞を3.0×105細胞/ウェルの密度でプレーティングした。実施例6に記載のように、オリゴヌクレオチドをSON2にアニールした。細胞を製造業者のプロトコールに従ってTurbofect(ThermoFisher Scientific)を使用して、非トランスフェクト(NT)、ヒトSNRPA配列を標的とする最終濃度100nMオリゴ(ADAR87-1+SON2)でトランスフェクト、またはマウスSnrpa配列を標的とする最終濃度100nMオリゴ(ADAR94-1+SON2)でトランスフェクトした。ADAR87-1のシーケンスについては、図2を参照(PCT/EP2017/065467もまた参照)。トランスフェクションの6時間後、培地を新鮮なDMEM+10%FBSと交換し、細胞をトランスフェクション後、合計で48時間培養した。これらの48時間後、細胞を1×PBSで1回洗浄し、細胞溶解のために350μlのTrizolを各ウェルに添加した。製造業者のプロトコールに従って、Direct-Zol RNAミニプレップ(Zymo)を用いてRNAを抽出した。Nanodropを用いてRNA濃度を測定し、製造業者のプロトコールに従ってMaxima Reverse Transcriptaseキット(ThermoFisher Scientific)を用い、500ngのRNAをcDNA合成に用いた。フォワードプライマーFw2_mSNRPA(5’-GCTCTCCATGCTCTTCAACC-3’ 配列番号16)およびリバースプライマーRev2_mSNRPA(5’-TCAGGGACTGAGCCAAGG-3’ 配列番号17)を用いて当業者に一般的に知られている方法を用いてPCRを行った。PCR生成物をAgilent 2100 Bioanalyzerでチェックし、Nucleo-Spin GelおよびPCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel)で精製した。精製生成物を、配列決定プライマーSnrp-1-Fw1を用いて配列決定した(上記参照)。配列決定結果を図12に示す。TAG終止コドン中の標的Aは矢印で示されている。ADARを介した編集は、TAGコドンのAピークの下のGピークとしてDNA配列に表示される。非トランスフェクト(NT、左)および非標的対照オリゴヌクレオチド(ADAR87-1+SON2、中央)は、TAG終止コドンで検出可能なRNA編集を示さない。しかしながら、細胞にADAR94-1+SON2をトランスフェクトすると(右パネル)、TAG終止コドンに明瞭に検出可能な編集が観察される。
【0133】
モデルとして内在性Snrpa標的RNAを使用して内在性ADARによってRNA編集が達成され得ると結論される。さらに、この実施例で使用される細胞はマウスから直接単離されたので、(治療用)オリゴヌクレオチドを用いて、内在性標的上の内在性ADARによる部位特異的なRNA編集がインビボで実行可能であることが示される。これに加えて、そして実施例6に既に示されているように、それは標的AONのセントラルトリプレットが3つの連続したDNAヌクレオチドからなるとき(AONの残りは、好ましくは2’-O-メチル修飾されたRNAヌクレオチドからなる)、内在性レベルのADARを使用すると、非常にクリアで有意なレベルのRNA編集が達成できることが示されている。
【0134】
[実施例8]
ddPCRにより測定したマウスWT初代肺細胞におけるSnrpa(pre-)mRNA上のRNA編集
さらに、RNA編集能力のさらなる改善のために、いわゆるセントラルトリプレットの外側の位置におけるヌクレオシドの化学修飾を調べた。これまでの例で説明したように、ADAR89-10、-15、および-20を使用して、Snrpaモデルにおいても試験した。-1位のヌクレオシドのリボースは2’-O-メチル修飾されており、+2位および+3位のヌクレオシドは以下のように修飾されていた:ADAR89-10においては2’-O-メチル、ADAR89-15においてはデオキシリボース(DNA)、およびADAR89-20においては2’-NH2図2)。これらのAONの編集能力は、前の実施例に記載されるように初代肺細胞アッセイにおいて試験され、以下のようにddPCR技術によって分析された。核酸標的配列の絶対定量は、BioRadのQX-200 Droplet Digital PCRシステムを用いて行った。RT-PCRから得られた1μlのcDNA(1/10希釈)を、関連するフォワードおよびリバースプライマーを以下の遺伝子特異的プローブと組み合わせて用いるTaqman SNP遺伝子型アッセイ、ddPCR Supermix for Probes no dUTP(BioRad)を含む20μl反応ミックスの総量混合液中で使用した:
フォワードプライマー:5’-GCAAGGCTTTAAGATCACACAAA-3’(配列番号18)
リバースプライマー:5’-GGAAGGGACTGGGGTACTC-3’(配列番号19)
wtプローブ(HEX IBFQ標識)5’-TTTGCCAAGAAGTAGCGCCTTTCCCT-3’(配列番号20)
変異プローブ(FAM IBFQ標識)5’-TTTGCCAAGAAGTGGCGCCTTTCCCT-3’(配列番号21)
【0135】
cDNAを含む総量20μlのPCRミックスを、マルチチャンネルピペットを用いてddPCRカートリッジ(Bio Rad)の中央列に充填した。複製物は2つのカートリッジに分けられた。一番下の列をプローブ用の液滴生成油(Bio Rad)70μlで満たした。ゴムガスケットの交換後、QX200液滴発生器で液滴を生成させた。カートリッジの最上列から40μlの油エマルジョンを96ウェルPCRプレートに移した。PCRプレートを170℃で4秒間PX1プレートシーラーを使用してスズ箔で密封し、直後に続けて以下のPCRプログラムを行った:1サイクルの95℃で10分間の酵素活性化、40サイクルの95℃で30秒間の変性および63.8℃で1分間のアニーリング/伸長、1サイクルの98℃で10分間の酵素失活、続けて8℃での保存。PCRプログラムの後、プレートを読み取り、QX200液滴リーダーを用いて以下の設定で分析した:絶対定量、プローブno dUTP用Supermix、Ch1 FAM野生型およびCH2 HEX変異体。図13により提供される結果は、標的RNAの有意な編集が全てのAONによって達成され、ADAR89-20が最高の実績であったことを示している。
【0136】
[実施例9]
RNA編集のためのマウスIDUA RNAを標的とするAONの化学修飾
次に、本発明者らは、安定化をもたらした修飾をさらに組み合わせることができるか否か、およびそのような組み合わせを有するAONがHurlerモデルにおけるRNA編集において機能的であるか否かを検証した(実施例2もまた参照)。野生型配列の復帰におけるこれらのAONの効果を、マウスIdua遺伝子によってコードされるアルファ-L-イズロニダーゼ酵素の活性を測定するアッセイで試験した。このために、W392X変異マウス由来の不死化マウス胚性線維芽細胞(1試料あたり70000個)を増殖培地(DMEM/10%FCS)中で培養し、リポフェクタミン3000を用いて全長Idua W392X cDNAを有する発現プラスミド1μgをトランスフェクトした。24時間後、細胞をADAR65シリーズの各AONをそれぞれ100nM(最終濃度)で同様にトランスフェクトし(安定性の結果については図5および6を参照)、さらに48時間培養した。次いで細胞を回収し、そしてmPER緩衝液(Thermo Scientific #78501)中で溶解した。細胞断片を遠心分離により溶解物から除去し、そして25μlの上清を酵素5アッセイに使用した:25μlの360μM 4-メチルウンベリフェリルアルファ-L-イズロニド(0.4Mギ酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)中)を溶解物試料に添加し、その後、37℃で2時間インキュベートした。200μlの0.17Mグリシン緩衝液(pH9.9)を添加することによって反応を停止させ、次いで得られた蛍光強度を測定した(励起波長365nmおよび発光450nm)。結果は、BCAアッセイ(Pierce(登録商標)BCAタンパク質アッセイキット、Thermo Scientific)によって10測定されるように、試料の総タンパク質濃度に対して正規化させた。
【0137】
図14に提供された結果は、トランスフェクトされたADAR65オリゴヌクレオチドの全てが、アルファ-L-イズロニダーゼ酵素活性を非トランスフェクト(NT)レベルを超えて増加させることができたことを示しており、標的(pre-)mRNAが編集されたことを示す。実際に適用されたAONのほとんどは、標的RNAを非常に効率的に編集しているようである。安定性アッセイ(図5および6)と比較して分かるように、多くのAON(特にADAR65-23からADAR65-30)は高い安定性を示し、そしてまたアルファ-L-イズロニダーゼの酵素活性を回復する良好な能力を示している。このことは、DNAヌクレオチドの使用、ならびにセントラルトリプレット内のホスホロチオエート連結および2’-フルオロ修飾が有用であり、したがって本発明の好ましい実施形態を示す。

本出願は例えば以下の発明を提供する。
[1] 細胞内に存在するADAR酵素による標的RNA配列中の標的アデノシンの脱アミノ化のための、細胞内、好ましくはヒト細胞内の標的RNA配列と二本鎖複合体を形成することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、前記AONは、3つの連続したヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、前記標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドは、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、前記セントラルトリプレット中の1、2または3個のヌクレオチドは糖修飾および/または塩基修飾を含み、前記AONをより安定に、および/または、標的アデノシンの脱アミノ化の誘導をより効果的にし、ただし中央のヌクレオチドは2’-O-メチル修飾を有しない、AON。
[2] 前記セントラルトリプレットの2または3個のヌクレオチドが、2’-O-メチル修飾を有しない、[1]に記載のAON。
[3] 前記セントラルトリプレットの2または3個のヌクレオチドが2’-O-アルキル修飾を有しない、[1]または[2]に記載のAON。
[4] 前記セントラルトリプレットの1または2個のヌクレオチド、好ましくは中央のヌクレオチド以外のものが、イノシンで置換されている、[1]~[3]のいずれか一項に記載のAON。
[5] 前記AONが、哺乳動物のADAR酵素に結合することができる分子内ステム-ループ構造を形成することができる部分を含まない、[1]~[4]のいずれか一項に記載のAON。
[6] 前記糖修飾が、デオキシリボース(DNA)、アンロック核酸(UNA)および2’-フルオロリボースからなる群から選択される、[1]~[5]のいずれか一項に記載のAON。
[7] 前記AONが、ホスホロチオエート、3’-メチレンホスホネート、5’-メチレンホスホネート、3’-ホスホロアミデートおよび2’-5’ホスホジエステルからなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオシド間連結修飾を含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載のAON。
[8] 前記AONの5’および3’末端の2、3、4、5、または6個の末端ヌクレオチドが、ホスホロチオエート連結で連結しており、好ましくは5’および3’末端の5個の末端ヌクレオチドが、ホスホロチオエートおよび/またはLNA連結で連結している、[7]に記載のAON。
[9] 前記塩基修飾が、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、7-メチルアデノシン、8-アジドアデノシン、8-メチルアデノシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-メチルシチジン、ピロロシチジン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-デアザグアノシン、7-メチルグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、チエノグアノシン、イノシン、4-チオ-ウリジン、5-メトキシウリジン、ジヒドロウリジン、およびシュードウリジンからなる群から選択される、[1]~[8]のいずれか一項に記載のAON。
[10] 前記セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドが、シチジンまたはウリジンである、[1]~[9]のいずれか一項に記載のAON。
[11] 前記AON中の前記セントラルトリプレットの外側の1つまたは複数のヌクレオチドが、DNA、2’-O-メチル基などの2’-O-アルキル基、2’-O-MOE基、2’-F基、2’-NH 2 基、およびLNA;またはそれらの組み合わせからなる群から選択される修飾を含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載のAON。
[12] 前記AONが10、11、12、13、14、15、16または17ヌクレオチドより長く、前記AONが100ヌクレオチドよりも短く、好ましくは60ヌクレオチドよりも短い、[1]~[11]のいずれか一項に記載のAON。
[13] 18~70ヌクレオチドを含む、好ましくは18~60ヌクレオチドを含む、より好ましくは18~50ヌクレオチドを含む、[12]に記載のAON。
[14] [1]~[13]のいずれか一項に記載のAONおよび医薬的に許容される担体を含む医薬組成物。
[15] 遺伝的障害の治療または予防における使用のためのものであり、前記遺伝的障害は、好ましくは、嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-抗トリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、白皮症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位型脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害型表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連疾患、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、遺伝性多凝集症候群、レーバー先天黒内障、レッシュ・ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーI型およびII型、神経線維腫症、ニーマン・ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ・ジェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、一次繊毛障害、プロトロンビンG20210A変異などのプロトロンビン変異関連障害、肺高血圧症、網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スターガルト病、テイ・サックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、およびがんからなる群から選択される、[1]~[13]のいずれかに記載のAON。
[16] 遺伝的障害の治療または予防のための薬剤の製造における[1]~[13]のいずれか一項に記載のAONの使用であって、前記遺伝的障害は、好ましくは、嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-抗トリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、白皮症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位型脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害型表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連疾患、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、遺伝性多凝集症候群、レーバー先天黒内障、レッシュ・ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーI型およびII型、神経線維腫症、ニーマン・ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ・ジェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、一次繊毛障害、プロトロンビンG20210A変異などのプロトロンビン変異関連障害、肺高血圧症、網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スターガルト病、テイ・サックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、およびがんからなる群から選択される、AONの使用。
[17] 細胞内の標的RNA配列に存在する少なくとも1つの特定の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって:
(i)[1]~[13]のいずれか一項に記載のAONを前記細胞に提供するステップ;
(ii)前記AONを前記細胞に取り込ませるステップ;
(iii)前記AONを前記標的RNA配列にアニーリングさせるステップ;
(iv)野生型酵素に見出されるような天然dsRNA結合ドメインを含む哺乳動物のADAR酵素により、前記標的RNA配列中の前記標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化させるステップ;および
(v)任意選択で、前記RNA配列中の前記イノシンの存在を同定するステップ
を含む方法。
[18] ステップ(v)が:
a)前記標的RNA配列を配列決定するステップ;
b)脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUGAまたはUAG終止コドン内に前記標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
c)両方の標的アデノシンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集されたUAA終止コドン内に2つの標的アデノシンが位置する場合、機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
d)プレmRNAのスプライシングが脱アミノ化によって変化したか否かを評価するステップ;または
e)機能的読み出しを使用するステップであって、ここで前記脱アミノ化後の前記標的RNAが、機能的な、全長の、伸長したおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップ
を含む、[17]に記載の方法。
[19] 前記標的RNA配列が、CFTR(例えば、1784G>Aの変異を編集するため)、CEP290(例えば、c.2991+1655A>G変異を編集するため)、アルファ1-抗トリプシン(A1AT;例えば、9989G>A変異;または1096G>A変異を編集するため)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(GNAQ;例えば、548G>A変異を編集するため)、もしくはLRRK2(例えば、G6055A変異を編集するため)をコードするか、または前記標的RNAが、IDUA遺伝子によってコードされる(例えば、c.1205G>A(W402X)変異を編集するため)、[1]~[18]のいずれか一項に記載のAONまたは方法。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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