(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】手順条件の適応サイバネティック制御を用いた生物学的実験を実施するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G16H 40/60 20180101AFI20230315BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G16H40/60
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2021546050
(86)(22)【出願日】2019-10-14
(86)【国際出願番号】 IB2019058739
(87)【国際公開番号】W WO2020079564
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-28
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521164876
【氏名又は名称】アークトリス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビットナー,マルティン-イマヌエル
(72)【発明者】
【氏名】フレミング,トーマス・アダム
(72)【発明者】
【氏名】ロワース,アリス・ポピー
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/161174(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0048863(US,A1)
【文献】国際公開第2018/115161(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/071716(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的実験を実施する方法であって、
定義された空間で前記生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する生物学的実験のためのプロトコルにアクセスすることであって、前記プロトコルは、前記複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコルに関連付けられ、前記補正プロトコルは、前記生物学的実験中に観察された前記特定の条件が規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する、アクセスすることと、
前記プロトコルに従って前記定義された空間で前記生物学的実験を実行するために前記一連の操作を実施することであって、前記一連の操作は、増殖培地を含む容器に細胞を分注することと、前記細胞および前記増殖培地を含む前記容器を、前記細胞を培養するためのエンクロージャーに移すこととを含む、実施することと、前記一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的に、
前記特定の条件の観察結果を取得することであって、前記観察結果のうちの少なくともいくつかが、前記細胞および前記増殖培地を含む前記容器が前記エンクロージャー内に保持されるインキュベーション期間、前記定義された空間もしくは前記エンクロージャー内の物理的および化学的条件、前記容器内の前記細胞もしくは前記増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または前記容器内の前記細胞の状態もしくはそれらの濃度を含む、取得することと、
観察された前記特定の条件を規定された前記特定の条件と比較することであって、観察された前記特定の条件のうちのある特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された前記特定の条件からはずれる場合、
前記一連の操作を中断することと、
規定された前記特定の条件の前記所定の閾値内に観察された前記特定の条件を修正するための操作を指定する前記補正プロトコルのうちのある補正プロトコルにアクセスすることと、
前記補正プロトコルに従って前記特定の条件を修正するための前記操作を実施することと、
前記一連の操作を再開することと、を行う、比較することと、を含む方法
であって、
前記方法は、少なくとも1つのロボットおよびセンサーに連結された処理回路を含み、それらのうちの少なくともいくつかが前記定義された空間に設置されている自動装置を備えた実験室で実施され、
前記プロトコルは機械可読であり、かつ前記処理回路によってコンピュータ可読記憶媒体からアクセスされ、前記一連の操作は、前記処理回路の制御下で前記少なくとも1つのロボットを含む前記自動装置によって実施される、方法。
【請求項2】
観察された前記特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値未満で、規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記方法は、
観察された前記特定の条件を修正するための前記一連の操作を中断することなく前記生物学的実験を継続することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
観察された前記特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値よりも大きい臨界閾値を超えて、規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記方法は、
前記生物学的実験を完了することなく、かつ規定された前記特定の条件の前記所定の閾値内に観察された前記特定の条件を修正することなく、前記生物学的実験を終了することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
観察された前記特定の条件のうちの第2の特定の条件が、前記第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値未満で、規定された前記第2の特定の条件からはずれる場合、前記方法は、
観察された前記第2の特定の条件を修正するための前記一連の操作を中断することなく前記生物学的実験を継続することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
観察された前記特定の条件のうちの第2の特定の条件が、前記第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値よりも大きい第2の臨界閾値を超えて、規定された前記第2の特定の条件からはずれる場合、前記方法は、
前記生物学的実験を完了することなく、かつ規定された前記第2の特定の条件の前記第2の所定の閾値内に観察された前記第2の特定の条件を修正することなく、前記生物学的実験を終了することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記特定の条件は、前記定義された空間または前記エンクロージャー内の温度、湿度、およびガスの濃度を含む、前記定義された空間または前記エンクロージャー内の前記物理的および化学的条件を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記特定の条件は、前記定義された空間内の可視光線または紫外線を含む、前記定義された空間内の前記物理的および化学的条件を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記特定の条件は、前記増殖培地の温度またはpHを含む、前記細胞または前記増殖培地の前記1つ以上の物理的または化学的特性を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記特定の条件は、前記細胞の凍結または解凍の速度を含む、前記細胞または前記増殖培地の前記1つ以上の物理的または化学的特性を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記特定の条件は、前記細胞、前記細胞のクラスターまたはそれらの断片の外観、サイズまたは形状を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記特定の条件は、前記細胞の定量化された遺伝子活性を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記特定の条件は、付着細胞または浮遊細胞の数、または前記細胞のコンフルエンスを含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記一連の操作は、前記細胞に色素を添加することをさらに含み、前記特定の条件は、前記色素が付着した前記細胞の割合、または前記色素が前記細胞に付着した強度もしくはその割合を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記観察結果は前記処理回路によって前記センサーから取得され、前記処理回路は前記特定の条件を比較し、観察された前記特定の条件が規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記処理回路は前記一連の操作を中断し、前記コンピュータ可読記憶媒体から前記補正プロトコルにアクセスし、前記自動装置は前記処理回路の制御下で前記操作を実施し、前記処理回路は前記一連の操作を再開する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
生物学的実験を実施するためのシステムであって、前記システムは、
定義された空間で前記生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する生物学的実験のためのプロトコルを記憶するように構成されたコンピュータ可読記憶媒体であって、前記プロトコルは、前記複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコルに関連付けられ、前記補正プロトコルは、前記生物学的実験中に観察された前記特定の条件が規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する、コンピュータ可読記憶媒体と、
少なくとも1つのロボットおよびセンサーに連結された処理回路を含む自動装置であって、それらのうちの少なくともいくつかが前記定義された空間に設置されており、前記処理回路は、前記コンピュータ可読記憶媒体から前記プロトコルにアクセスするように構成されている、自動装置と、を備え、
前記自動装置は、前記処理回路の制御下で前記プロトコルに従って前記生物学的実験を実行するために前記一連の操作を実施するように構成されており、前記一連の操作は、増殖培地を含む容器に細胞を分注し、前記細胞および前記増殖培地を含む前記容器を、前記細胞を培養するためのエンクロージャーに移すように構成された前記少なくとも1つのロボットを含み、前記一連の操作が実施される前または実施されるときに、定期的かつ自動的に、
前記センサーは、測定し、それによって、前記特定の条件の測定値を生成するように構成されており、前記測定値のうちの少なくともいくつかが、前記細胞および前記増殖培地を含む前記容器が前記エンクロージャー内に保持されるインキュベーション期間、前記定義された空間もしくは前記エンクロージャー内の物理的および化学的条件、前記容器内の前記細胞もしくは前記増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または前記容器内の前記細胞の状態もしくはそれらの濃度を含み、前記処理回路は、前記測定値を取得し、それによって前記センサーから前記特定の条件の観察結果を取得するように構成されており、
前記処理回路は、観察された前記特定の条件を規定された前記特定の条件と比較するように構成されており、観察された前記特定の条件のうちのある特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された前記特定の条件からはずれる場合、
前記処理回路は、前記一連の操作を中断し、前記コンピュータ可読記憶媒体から、規定された前記特定の条件の前記所定の閾値内に観察された前記特定の条件を修正するための操作を指定する前記補正プロトコルのうちのある補正プロトコルにアクセスするように構成されており、
前記自動装置は、前記処理回路の制御下で前記補正プロトコルに従って前記特定の条件を修正するための前記操作を実施するように構成されており、
前記処理回路は、前記一連の操作を再開するように構成されている、システム。
【請求項16】
観察された前記特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値未満で、規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記処理回路は、観察された前記特定の条件を修正するための前記一連の操作を中断することなく前記生物学的実験を継続するようにさらに構成されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
観察された前記特定の条件が、前記特定の条件に対する所定の閾値よりも大きい臨界閾値を超えて、規定された前記特定の条件からはずれる場合、前記処理回路は、前記生物学的実験を完了することなく、かつ規定された前記特定の条件の前記所定の閾値内に観察された前記特定の条件を修正することなく、前記生物学的実験を終了するようにさらに構成されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
観察された前記特定の条件のうちの第2の特定の条件が、前記第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値未満で、規定された前記第2の特定の条件からはずれる場合、前記処理回路は、観察された前記第2の特定の条件を修正するための前記一連の操作を中断することなく前記生物学的実験を継続するようにさらに構成されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
観察された前記特定の条件のうちの第2の特定の条件が、前記第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値よりも大きい第2の臨界閾値を超えて、規定された前記第2の特定の条件からはずれる場合、前記処理回路は、前記生物学的実験を完了することなく、かつ規定された前記第2の特定の条件の前記第2の所定の閾値内に観察された前記第2の特定の条件を修正することなく、前記生物学的実験を終了するようにさらに構成されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記特定の条件は、前記定義された空間または前記エンクロージャー内の温度、湿度、およびガスの濃度を含む、前記定義された空間または前記エンクロージャー内の前記物理的および化学的条件を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記特定の条件は、前記定義された空間内の可視光線または紫外線を含む、前記定義された空間内の前記物理的および化学的条件を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記特定の条件は、前記増殖培地の温度またはpHを含む、前記細胞または前記増殖培地の前記1つ以上の物理的または化学的特性を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
前記特定の条件は、前記細胞の凍結または解凍の速度を含む、前記細胞または前記増殖培地の前記1つ以上の物理的または化学的特性を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記特定の条件は、前記細胞、前記細胞のクラスターまたはそれらの断片の外観、サイズまたは形状を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項25】
前記特定の条件は、前記細胞の定量化された遺伝子活性を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項26】
前記特定の条件は、付着細胞または浮遊細胞の数、または前記細胞のコンフルエンスを含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項27】
前記一連の操作は、前記細胞に色素を添加するように構成された前記少なくとも1つのロボットをさらに含み、前記特定の条件は、前記色素が付着した前記細胞の割合、または前記色素が前記細胞に付着した強度もしくはその割合を含む、前記容器内の前記細胞の状態またはそれらの濃度を含む、請求項15に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、生物学的実験に関し、特に、手順条件の適応サイバネティック制御を用いた生物学的実験に関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学研究は幅広い分野を含む。今日、最も重要なものの1つは、細胞および分子生物学ならびに細胞および分子レベルで生じる疾患の研究である。
【0003】
細胞生物学および分子生物学の実験は、適切な増殖培地における特定の細胞タイプの培養物を調製することから始まる一連のステップとして特徴付けられることが多い。次に、細胞培養および増殖培地の一部を実験容器(例えば、フラスコ、試験管もしくはウェルプレート)に分注し、(おそらくは、インキュベーター、バイオリアクター、または発酵槽で)一定期間成長させ、細胞培養の条件(例えば、顕微鏡写真もしくは細胞数)を観察または測定し、細胞培養を目的の試薬(実験プロトコルで使用される任意の物質として定義される)で処理し、おそらくは、再び成長させてから、再度観察もしくは測定するか、または観察もしくは測定する前にさらに処理を行う。場合によっては、実験は、タンパク質、核酸、細胞小器官、または膜などの細胞抽出物から、または次に処理、観察、および測定される別の物質から開始することがある。最後に、観察結果と測定値は、比較されて、プロトコル、処理、または試薬の効果を決定し、かつ生物学的、物理的、または化学的現象に関する情報を収集するために使用される。
【0004】
生物医学研究に使用される細胞は、多くの場合、死亡したドナーに由来する確立された細胞株から培養されるが、生きているヒトまたは他の種から採取され、その後培養される細胞である場合がある。細胞培養自体のプロセス、すなわち、細胞の生存、成長、および増殖を確実にする方法は、当業者によく知られている原理に従う。
【0005】
今日、そのような実験は、ほとんどの場合、利用可能な装置、手順条件、および実験を行う技術者および科学者の経験と専門知識が大きく異なる学術、研究、製薬、生物工学、および臨床施設で手動で実施されている。限られた施設で実施される実験は、細心の注意を払って実施されることがあるが、温度、湿度、pH、サンプル量、粒子濃度、ガス濃度、光への曝露、他の実験からの相互汚染、周囲空気からのウイルスおよび細菌汚染、および他の実験試薬および抗菌剤によるエアロゾル汚染、および/または他の要因のばらつきのために、結果が異なる可能性がある。
【0006】
手順条件のばらつきにより、様々な生物学的影響が生じる。例えば、温度とpHの両方は、ほとんどすべての生物学的プロセスの中核である酵素(通常はタンパク質で構成されている)の活性を変化させる。さらに、遺伝子は、例えば、酸素レベルまたは温度に多かれ少なかれ強く左右されて、発現される可能性がある。また、遺伝子発現レベルのこれらの変化は、同時に、細胞の挙動、代謝などの広範な変化を次々に引き起こす可能性がある。これらの変化は、一般的な細胞プロセスだけでなく、細胞に対する薬物または他の実験的処理の効果にも次々に大きな影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0007】
本開示の例示的実装形態は、実験プロトコルで定義された生物学的実験の実施、具体的には、実験室条件の適応制御によるプロトコル品質の維持を目的としている。例示的実装形態によれば、これは、実験室の状態を監視することと、規定条件からの偏差を検出することと、必要に応じて所定の補正プロトコルに続いて現在の実験プロトコルの再開を実施することとによって達成される。例示的実装形態によって提供される機能は、生物医学研究、(バイオ)製薬および細胞および生産、ならびに細胞および遺伝子治療に必要な高水準および品質管理を実証する。
【0008】
したがって、本開示は、限定することなく、以下の例示的実装形態を含む。
【0009】
いくつかの例示的実装形態は、生物学的実験を実施する方法を提供し、この方法は、定義された空間で生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する生物学的実験のためのプロトコルにアクセスすることであって、プロトコルは、複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコルに関連付けられ、補正プロトコルは、生物学的実験中に観察された特定の条件が規定された特定の条件からはずれる場合、特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する、アクセスすることと、プロトコルに従って定義された空間で生物学的実験を実行するために一連の操作を実施することであって、一連の操作は、増殖培地を含む容器に細胞を分注することと、細胞および増殖培地を含む容器を、細胞を培養するためのエンクロージャーに移すこととを含む、実施することと、一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的に、特定の条件の観察結果を取得することであって、観察結果のうちの少なくともいくつかが、細胞および増殖培地を含む容器がエンクロージャー内に保持されるインキュベーション期間、定義された空間もしくはエンクロージャー内の物理的および化学的条件、容器内の細胞もしくは増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または容器内の細胞の状態もしくはそれらの濃度を含む、取得することと、観察された特定の条件を規定された特定の条件と比較することであって、観察された特定の条件のうちのある特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、一連の操作を中断することと、規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正するための操作を指定する補正プロトコルのうちのある補正プロトコルにアクセスすることと、補正プロトコルに従って特定の条件を修正するための操作を実施することと、一連の操作を再開することと、を行う、比較することと、を含む。
【0010】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値未満で、規定された特定の条件からはずれる場合、方法は、観察された特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく生物学的実験を継続することをさらに含む。
【0011】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値よりも大きい臨界閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、方法は、生物学的実験を完了することなく、かつ規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正することなく、生物学的実験を終了することをさらに含む。
【0012】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件のうちの第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値未満で、規定された第2の特定の条件からはずれる場合、方法は、観察された第2の特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく生物学的実験を継続することをさらに含む。
【0013】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件のうちの第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値よりも大きい第2の臨界閾値を超えて、規定された第2の特定の条件からはずれる場合、方法は、生物学的実験を完了することなく、かつ規定された第2の特定の条件の第2の所定の閾値内に観察された第2の特定の条件を修正することなく、生物学的実験を終了することをさらに含む。
【0014】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、定義された空間またはエンクロージャー内の温度、湿度、およびガスの濃度を含む、定義された空間またはエンクロージャー内の物理的および化学的条件を含む。
【0015】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、定義された空間内の可視光線または紫外線を含む、定義された空間内の物理的および化学的条件を含む。
【0016】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、増殖培地の温度またはpHを含む、細胞または増殖培地の1つ以上の物理的または化学的特性を含む。
【0017】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞の凍結または解凍の速度を含む、細胞または増殖培地の1つ以上の物理的または化学的特性を含む。
【0018】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞、細胞のクラスターまたはそれらの断片の外観、サイズまたは形状を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0019】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞の定量化された遺伝子活性を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0020】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、付着細胞または浮遊細胞の数、または細胞のコンフルエンスを含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0021】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、一連の操作は、細胞に色素を添加することをさらに含み、特定の条件は、色素が付着した細胞の割合、または色素が細胞に付着した強度もしくはその割合を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0022】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせの方法のいくつかの例示的実装形態において、方法は、少なくとも1つのロボットおよびセンサーに連結された処理回路を含み、それらのうちの少なくともいくつかが定義された空間に設置されている自動装置を備えた実験室で実施され、プロトコルは機械可読であり、かつ処理回路によってコンピュータ可読記憶媒体からアクセスされ、一連の操作は、処理回路の制御下で少なくとも1つのロボットを含む自動装置によって実施され、観察結果は処理回路によってセンサーから取得され、処理回路は特定の条件を比較し、観察された特定の条件が、規定された特定の条件からはずれる場合、処理回路は一連の操作を中断し、コンピュータ可読記憶媒体から補正プロトコルにアクセスし、自動装置は処理回路の制御下で操作を実施し、処理回路は一連の操作を再開する。
【0023】
いくつかの例示的実装形態は、生物学的実験を実施するためのシステムを提供し、システムは、定義された空間で生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する生物学的実験のためのプロトコルを記憶するように構成されたコンピュータ可読記憶媒体であって、プロトコルは、複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコルに関連付けられ、補正プロトコルは、生物学的実験中に観察された特定の条件が規定された特定の条件からはずれる場合、特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する、コンピュータ可読記憶媒体と、少なくとも1つのロボットおよびセンサーに連結された処理回路を含む自動装置であって、それらのうちの少なくともいくつかが定義された空間に設置されており、処理回路が、コンピュータ可読記憶媒体からプロトコルにアクセスするように構成されている、自動装置と、を備え、自動装置は、処理回路の制御下でプロトコルに従って生物学的実験を実行するために一連の操作を実施するように構成されており、一連の操作は、増殖培地を含む容器に細胞を分注し、細胞および増殖培地を含む容器を、細胞を培養するためのエンクロージャーに移すように構成された少なくとも1つのロボットを含み、一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的かつ自動的に、センサーは、測定し、それによって、特定の条件の測定値を生成するように構成されており、その測定値の少なくともいくつかが、細胞および増殖培地を含む容器がエンクロージャー内に保持されるインキュベーション期間、定義された空間もしくはエンクロージャー内の物理的および化学的条件、容器内の細胞もしくは増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または容器内の細胞の状態もしくはそれらの濃度を含み、処理回路は、測定値を取得し、それによってセンサーから特定の条件の観察結果を取得するように構成されており、また処理回路は、観察された特定の条件を規定された特定の条件と比較するように構成されており、観察された特定の条件のうちのある特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、処理回路は、一連の操作を中断し、コンピュータ可読記憶媒体から、規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正するための操作を指定する補正プロトコルのうちのある補正プロトコルにアクセスするように構成されており、自動装置は、処理回路の制御下で補正プロトコルに従って特定の条件を修正するための操作を実施するように構成されており、処理回路は、一連の操作を再開するように構成されている。
【0024】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値未満で、規定された特定の条件からはずれる場合、処理回路は、観察された特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく生物学的実験を継続するようにさらに構成されている。
【0025】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値よりも大きい臨界閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、処理回路は、生物学的実験を完了することなく、かつ規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正することなく、生物学的実験を終了するようにさらに構成されている。
【0026】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件のうちの第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値未満で、規定された第2の特定の条件からはずれる場合、処理回路は、観察された第2の特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく生物学的実験を継続するようにさらに構成されている。
【0027】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、観察された特定の条件のうちの第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値よりも大きい第2の臨界閾値を超えて、規定された第2の特定の条件からはずれる場合、処理回路は、生物学的実験を完了することなく、かつ規定された第2の特定の条件の第2の所定の閾値内に観察された第2の特定の条件を修正することなく、生物学的実験を終了するようにさらに構成されている。
【0028】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、定義された空間またはエンクロージャー内の温度、湿度、およびガスの濃度を含む、定義された空間またはエンクロージャー内の物理的および化学的条件を含む。
【0029】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、定義された空間内の可視光線または紫外線を含む、定義された空間内の物理的および化学的条件を含む。
【0030】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、増殖培地の温度またはpHを含む、細胞または増殖培地の1つ以上の物理的または化学的特性を含む。
【0031】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞の凍結または解凍の速度を含む、細胞または増殖培地の1つ以上の物理的または化学的特性を含む。
【0032】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞、細胞のクラスターまたはそれらの断片の外観、サイズまたは形状を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0033】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、細胞の定量化された遺伝子活性を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0034】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、特定の条件は、付着細胞または浮遊細胞の数、または細胞のコンフルエンスを含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0035】
いずれかの前述の例示的実装形態、またはいずれかの前述の例示的実装形態のいずれかの組み合わせのシステムのいくつかの例示的実装形態において、一連の操作は、細胞に色素を添加するように構成された少なくとも1つのロボットをさらに含み、特定の条件は、色素が付着した細胞の割合、または色素が細胞に付着した強度もしくはその割合を含む、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度を含む。
【0036】
本開示のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下に簡単に記載された、添付の図面とともに以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。本開示は、そのような特徴または要素が本明細書に記載の特定の例示的実装形態において明示的に組み合わされるか、さもなければ列挙されるかどうかにかかわらず、本開示に記載される2、3、4またはそれ以上の特徴または要素の任意の組み合わせを含む。本開示は、その態様および例示的実装形態のいずれにおいても、本開示の文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、本開示の任意の分離可能な特徴または要素が結合可能であると見なされるように全体的に読まれることを意図している。
【0037】
したがって、この概要は、本開示のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、いくつかの例示的実装形態を要約する目的のためにのみ提供されることが理解されよう。したがって、上記の例示的実装形態は単なる例であり、本開示の範囲または趣旨を何らかの形で狭めると解釈されるべきではないことが理解されよう。他の例示的実装形態、態様、および利点は、いくつかの記載された例示的実装形態の原理を例として示す添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
このように一般的な用語で本開示の例示的実装形態を記載しており、また以下の添付図面を参照するが、これらは必ずしも縮尺通りに描かれているというわけではない。
【0039】
【
図1】本開示の例示的実装形態による、生物学的実験が実行されることがある実験室を示す図である。
【
図2】一部の例示的実装形態による、生物学的実験が実行されることがある定義された空間に対応し得る一部の例における密閉されたワークステーションを示す。
【
図3】一部の例示的実装形態による、自動装置を備えた実験室の一部を示す。
【
図4】例示的実装形態による、生物学的実験を実施する方法の様々なステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ここで、本開示の一部の実装形態が、添付の図面を参照して以下により完全に説明され、添付の図面には、本開示のすべてではないが、いくつかの実装形態が示されている。実際、本開示の様々な実装形態は、多くの異なる形態で表現されてもよく、本明細書に記載される実装形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの例示的実装形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本開示の範囲を当業者に完全に伝えるように提供されている。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語および「/」記号は、1つ以上の関連するリストされたアイテムのありとあらゆる組み合わせを含む。また、例えば、本明細書では、定量的な測定、値、関係などが参照されてもよい。特に明記しない限り、これらのすべてではないにしても1つ以上は、絶対的または近似的であってもよく、工学的な許容誤差などに起因し得る許容されるばらつきを考慮する場合がある。
【0041】
さらに、特に明記しない限り、第1、第2などであると記載されているものは、特定の順序を意味すると解釈されるべきではない。本明細書では、第1、第2などの用語を使用して、様々なステップ、計算、位置などを説明する場合があるが、これらのステップ、計算、または位置は、これらの用語に限定されるべきではないことを理解されたい。これらの用語は、ある操作、計算、または位置を別の操作、計算、または位置から区別するためにのみ使用される。例えば、第1の位置は、本開示の範囲から逸脱することなく、第2の位置と呼ばれる場合があり、同様に、第2のステップは、第1のステップと呼ばれる場合がある。さらに、何かが他の何かの上にあると説明される場合があり(特に明記されていない限り)、代わりに下にある場合があり、またその逆もあり得る。同様に、他の何かの左側にあると説明されるものは、代わりに右側にある場合があり、またその逆もあり得る。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。全体を通して同様の参照番号は同様の要素を指す。
【0042】
本開示の例示的実装形態は、実験のために規定された条件の偏差を監視、制御、および補償する生物学的実験を実施するシステムおよび方法を目的としている。これらの実験は、概して、各操作が特定の目的を有する、所定の一連の操作を含む。一部の目的は、増殖培地と生細胞とを実験容器に分注することである場合がある一方で、その他の目的は、生細胞に影響を及ぼす試薬を導入することである場合がある。一部の操作は、単に生細胞が成長および増殖する時間を与える役割を果たす一方で、その他の操作は、細胞および細胞培養の一部の態様(状態)を測定または観察する役割を果たす。
【0043】
細胞生物学および分子生物学の実験の結果は、個々の操作の蓄積効果によって実質的に決定される場合がある。同時に、個々の操作の結果は、実験の近傍の温度、湿度、およびO2とCO2の濃度を含む周囲条件によって実質的に影響を受ける場合がある。結果はまた、実験容器内のpH、塩分、ならびに栄養素および試薬の濃度、さらに増殖培地内の細胞の物理的条件およびそれらの濃度によって実質的に影響を受ける場合がある。
【0044】
有用であるためには、細胞生物学および分子生物学の実験は、多くの場合、繰り返されたときに相似結果を得る必要がある。それ以外では、実験の結果が所定の一連の操作に直接関連していることを保証する方法はなく、また1つ以上の操作が変更されたときに得られた新しい結果が変更に直接関連していることを保証する方法もない。実際には、実験室の実験の結果の相違は、主に上記のような条件の偏差に起因する可能性がある。したがって、本開示の例示的実装形態は、偏差が発生したときにそれらを監視、制御、および補償することによって、これらの偏差を実質的に低減するシステムおよび方法を提供する。
【0045】
図1は、本開示の例示的実装形態による、生物学的実験が実施される場合がある実験室100を示している。本明細書に記載するように、生物学的実験は、細胞または分子生物学実験などのいくつかの異なる実験、細胞および遺伝子治療などにおけるプロセスまたは医学的作用過程などのいずれかであり得る。示されるように、生物学的実験のためのプロトコル102は、定義された空間104で生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する。適切な実験は、多くの場合、細胞培養のもう1つのサンプルを1つ以上の容器に分注することと、生細胞を維持する栄養液ならびに細胞代謝または遺伝子発現の一部の態様に影響を及ぼす試薬を含むことがある増殖培地を加えることとを含み、効果が生じるまでの一定期間の間にインキュベートし、かつ効果を測定する。
【0046】
いくつかのより詳細な例では、プロトコル102は、個々の操作および操作の組み合わせの実行の技術的および科学的基準に加えて、一連の操作および複数の条件の人間および/または機械可読基準である。これには、タイミング、シーケンス、開始と終了、繰り返し、入力、出力、必要なデバイス(例えば、液体処理ステーション、光測定、顕微鏡、ロボット転送)が含まれる場合がある。適切な条件の一部の例には、生物学的実験を実行するために一連の操作が実施される前または実施されるときに、観察または測定できる手順条件および分析条件などのインサイチュ条件が含まれる。手順条件とは、規定の範囲外になると、例えば、温度、湿度、pH、サンプル量、粒子濃度、ガス(例えば、O2、CO2)濃度、光への曝露などの実験の結果に影響を及ぼす可能性がある条件のことである。分析条件とは、例えば、細胞数、形態学的特徴、色の変化、動き、サイズなど、サンプルに対する実験プロトコルの影響に関する情報を含む条件である。
【0047】
実験の成功は、実験の過程で規定条件を維持する一連の操作の忠実な性能、または偏差が検出されたときにそれらの条件とその影響を正常に補正することに依存する場合がある。したがって、プロトコル102は、一連の操作および規定条件(時折、基準と見なされる既定値)として表すことができ、この際、各操作は少なくとも1つのタスクを含み、必要な局所条件、計算などを含む場合がある。
【0048】
定義された空間104は、異なる実験室または実験によって異なる場合がある。一部の例では、定義された空間は、単に部屋またはその中の作業台である。他の例では、定義された空間は、環境制御された実験室フードまたは部屋内の密閉されたワークステーションであり、実験の実施に使用される実験装置を含む場合があるが、必要でないこともある。
【0049】
本開示の例示的実装形態によれば、プロトコル102は、複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコル106に関連付けられる。これに関して、補正プロトコルは、生物学的実験中に観察された特定の条件が規定された特定の条件からはずれる場合、特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する。一部の例では、特定の条件には、プロトコルによって指定された複数の条件(例えば、キー条件)のすべてではないがいくつかが含まれる場合がある。他の例では、特定の条件は、複数の条件のすべてを含む。
【0050】
実際には、一連の操作は、プロトコル102に従って、定義された空間104で生物学的実験を実行するために実施され得る。上で示唆したように、一連の操作は、増殖培地112を含む容器110に細胞108を分注することと、細胞および増殖培地を含む容器を、細胞を培養するためのエンクロージャー114に移すこととを含む。サンプルは、実験で使用される物質、試薬、または細胞の任意の部分またはアリコート、ならびに任意の実験の材料結果を指す場合がある。これには、例えば、処理済みまたは未処理の細胞、特定の試薬、細胞抽出物、タンパク質、核酸、増幅されたオリゴヌクレオチド、染色された細胞、またはこれらのいずれかの任意の組み合わせが含まれる場合がある。適切な容器の例には、SBSフォーマットのウェルプレート、フラスコ、バイアル、チューブ、イメージングプレート、顕微鏡スライド、ボトル、ボックスなどが含まれる。また、適切なエンクロージャーの一例は、インキュベーターであるが、ある特定の実験では、インキュベーターとして適格でない可能性のある他のエンクロージャーが使用される場合もある。
【0051】
一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的に、少なくとも補正プロトコルが存在する特定の条件が監視され、必要に応じて修正される。これらの特定の条件には、細胞および増殖培地を含む容器がエンクロージャー内に保持されるインキュベーション期間、定義された空間もしくはエンクロージャー内の物理的および化学的条件、容器内の細胞もしくは増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または容器内の細胞の状態もしくはそれらの濃度が含まれる場合がある。
【0052】
より具体的には、定期的に、特定の条件の観察結果が得られる場合があり、観察された特定の条件が、規定された特定の条件と比較される。以下でより詳細に説明するように、一部の例では、これらの観察結果は、実験および特定の条件に左右される、定義された空間104の内側または外側のいずれかの実験室100内のセンサーからの測定値である。観察された特定の条件のうちのある特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、一連の操作が中断されてよく、補正プロトコル106のうちのある補正プロトコルが、アクセスされて、特定の条件が修正されてよい。特に、この補正プロトコルは、規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正するための操作を指定してよい。次に、補正プロトコルに従って特定の条件を修正するための操作が実施されてよく、一連の操作が再開されてよい。
【0053】
したがって、上記によれば、その観察されたものが、特定の条件に対する所定の閾値を超えて規定されたものからはずれる場合、特定の条件は修正されてよい。観察されたものが、所定の閾値未満ではずれるその他の場合、生物学的実験は中断および修正されることなく継続してよい。すなわち、一部の例では、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値未満で、規定された特定の条件からはずれる場合、生物学的実験は、観察された特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく継続してよい。同様に、一部の例では、観察された第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値未満で、規定された第2の特定の条件からはずれる場合、生物学的実験は、観察された第2の特定の条件を修正するための一連の操作を中断することなく継続してよい。
【0054】
観察されたものが、臨界閾値を超えてはずれるさらに他の場合、生物学的実験は完了することなく終了してよい。次に、一部の例では、観察された特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値よりも大きい臨界閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる。これらの例では、生物学的実験は、完了することなく、かつ規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正することなく終了してよい。同様に、いくつかの例では、観察された第2の特定の条件が、第2の特定の条件に対する第2の所定の閾値よりも大きい第2の臨界閾値を超えて、規定された第2の特定の条件からはずれる。これらの例では、生物学的実験は、それが完了することなく、かつ規定された第2の特定の条件の第2の所定の閾値内に観察された第2の特定の条件を修正することなく終了してよい。
【0055】
この場合も、監視および修正され得る特定の条件には、例えば、細胞108および増殖培地112を含む容器110がエンクロージャー114内に保持されるインキュベーション期間、定義された空間104もしくはエンクロージャー内の物理的および化学的条件、容器内の細胞もしくは増殖培地の1つ以上の物理的もしくは化学的特性、または容器内の細胞の状態もしくはそれらの濃度が含まれる。定義された空間またはエンクロージャー内の物理的および化学的条件のより具体的な例には、定義された空間またはエンクロージャー内の温度、湿度、およびガスの濃度が含まれる。定義された空間の物理的および化学的条件の追加の例には、定義された空間内の可視光線または紫外線が含まれる。
【0056】
細胞108または増殖培地112の物理的または化学的特性の例には、増殖培地の温度またはpHが含まれる。他の例には、細胞の凍結または解凍の速度が含まれる。
【0057】
容器110内の細胞108の状態またはそれらの濃度の例には、細胞、細胞のクラスターまたはそれらの断片の外観、サイズまたは形状が含まれる。他の例には、遺伝子サイレンシング、増幅、増強などの細胞の定量化された遺伝子活性が含まれ、これは、例えば、qPCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)、ウエスタンブロッティングなどの技術を使用して、RNA(リボ核酸)またはタンパク質定量化によって測定され得る。さらに他の例には、付着細胞または浮遊細胞の数、または細胞のコンフルエンスが含まれる。また、プロトコル102の一連の操作が細胞に色素を添加することをさらに含む一部の例では、容器内の細胞の状態またはそれらの濃度には、色素が付着した細胞の割合、または色素が細胞に付着した強度もしくはその割合が含まれる場合がある。
【0058】
実験室100は、生物学的実験を手動で実施するように装備されてよい。あるいは、実験室は、自動装置を含んでもよく、自動装置のうちの少なくともいくつかが実験の自動または半自動性能、ならびに特定の条件の定期的および自動的監視および修正のために、定義された空間104に設置される。いくつかの例では、この自動装置は、エンクロージャーが自動インキュベーターである場合などのエンクロージャー114を含む。
図1にも示されるように、この自動装置は、少なくとも1つのロボット118およびセンサー120に連結された処理回路116を含む場合があり、そしてそれはまた、エンクロージャーに連結される場合がある。自動細胞培養ディスペンサー122および自動試薬ディスペンサー124も示されているが、これらのいずれかまたは両方は、1つ以上のロボットを特別に装備する場合がある。
【0059】
処理回路116は、単独で、または1つ以上のメモリと組み合わせて1つ以上のプロセッサで構成されてもよい。処理回路は、概して、例えばデータ、コンピュータプログラム、ならびに/またはプロトコル102および補正プロトコル106の機械可読バージョンを含む他の適切な電子情報などの情報を処理することができるコンピュータハードウェアの任意の部分である。処理回路は、集積回路または相互接続された複数の集積回路(時折、より一般的には「チップ」と呼ばれる集積回路)としてパッケージ化され得る電子回路の集まりで構成される。処理回路は、コンピュータプログラムを実行するように構成されてもよく、このコンピュータプログラムは、処理回路に搭載されて記憶されるか、さもなければ(同じまたは別の装置の)メモリに記憶されてもよい。
【0060】
処理回路116は、特定の実装形態に応じて、いくつかのプロセッサ、マルチコアプロセッサ、またはいくつかの他のタイプのプロセッサとすることができる。さらに、処理回路は、メインプロセッサが単一チップ上に1つ以上の二次プロセッサとともに存在する、いくつかの異種プロセッサシステムを使用して実装されてよい。別の例示的な例として、処理回路は、同じタイプの複数のプロセッサを含む対称型マルチプロセッサシステムであってもよい。さらに別の例では、処理回路は、1つ以上のASIC、FPGAなどとして具現化されるか、そうでなければそれを含む場合がある。したがって、処理回路はコンピュータプログラムを実行して1つ以上の機能を実施することができる場合があるが、様々な例の処理回路はコンピュータプログラムの助けを借りずに1つ以上の機能を実施することができる場合がある。いずれの場合でも、処理回路は、本開示の例示的実装形態による機能または操作を実施するように適切にプログラムされてもよい。
【0061】
ロボット118は、処理回路116の制御下などで、1つ以上の動作を自動的に実行するように構成された、任意のいくつかの異なる機械であってよい。適切なロボットの例には、通常、実験室のロボティクスに関連するものが含まれる。
【0062】
センサー120は、それらの環境における事象または変化を検出し、処理回路に送信され得る関連情報(例えば、観察結果、測定値)を生成するように構成された、任意のいくつかの異なるデバイスを含む。適切なセンサーの例には、手順センサー120a、分析センサー120bなどが含まれる。手順センサーは、手順条件を測定するように構成され、かつ生物測定センサー、イメージングシステム、pHメーター、ガス状成分または粒子濃度を定量化するためのデバイスなどを含む場合がある。分析センサーは、分析条件を測定するように構成され、かつ生物測定センサー、イメージングシステム、分光光度計、サイズ分離デバイス、質量分析計、顕微鏡、核酸シーケンサーなどを含む場合がある。
【0063】
図2は、一部の例では、定義された空間104に対応し得る密閉されたワークステーション200を示している。示されるように、ワークステーションは、自動インキュベーター202(エンクロージャー114)およびロボットアーム204(ロボット118)を含む。ワークステーションはまた、それ自体がロボットを装備する細胞培養/試薬ディスペンサー206(細胞培養ディスペンサー122/試薬ディスペンサー124)を含む。ワークステーションは、分析センサー208(分析センサー120b)をさらに含む。
【0064】
図3は、一部の例による、自動装置を含む実験室300の一部を示している。示されるように、この実験室は、自動インキュベーター302(エンクロージャー114)およびロボットアーム304(ロボット118)を含む。実験室は、実験容器308(容器110)を備え、かつそれ自体がロボットを装備する細胞培養/試薬ディスペンサー306(細胞培養ディスペンサー122/試薬ディスペンサー124)を含む。実験室はさらに分析センサー310(分析センサー120b)を含む。
【0065】
図1に戻ると、プロトコル102および補正プロトコル106は、人間に解読可能なものである場合がある。しかし、実験室100が自動装置を含む一部の例では、プロトコルおよび補正プロトコルは、機械可読であり、かつ処理回路116によってコンピュータ可読記憶媒体126からアクセスされる場合がある。これらの例では、プロトコルの一連の操作は、処理回路の制御下でロボット118を含む自動装置によって実施されてよい。処理回路は、プロトコルをメッセージに変換し、かつ様々な例において、エンクロージャー114、ロボット、細胞培養ディスペンサー122、試薬ディスペンサー124および/またはセンサー120、それ自体の処理回路を含むことがあるもののいずれか1つ以上を含む、自動装置にメッセージを送信することができる。それにより、ロボット(細胞培養ディスペンサーが装備しているものを含む)は、増殖培地112を含む容器110に細胞108を分注するように構成されてよい。また、ロボットは、ロボットが試薬ディスペンサー124から容器に試薬を加えることがある前またはその後に、細胞および増殖培地を含む容器を、細胞を培養するためにエンクロージャー114に移すように構成されてよい。
【0066】
一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的に、処理回路116は、センサー120から観察結果を取得し、特定の条件を比較するように構成されてよい。観察された特定の条件が、規定された特定の条件からはずれる場合、処理回路は、一連の操作を中断し、コンピュータ可読記憶媒体126から補正プロトコル106にアクセスするように構成されてよい。自動装置は、処理回路の制御下で補正プロトコルによって指定された操作を実施するように構成されてよく、かつ処理回路は、その後、一連の操作を再開するように構成されてよい。
【0067】
図4は、本開示の例示的実装形態による、生物学的実験を実施する方法400の様々なステップを示すフローチャートである。ブロック402に示されるように、この方法は、定義された空間104で生物学的実験を実行するために、一連の操作を指定し、かつ複数の条件を規定する生物学的実験のためのプロトコル102にアクセスすることを含む。プロトコルは、複数の条件のうちの特定の条件に対する補正プロトコル106に関連付けられ、補正プロトコルは、生物学的実験中に観察された特定の条件が規定された特定の条件からはずれる場合、特定の条件のうち対応するものを修正するための操作を指定する。
【0068】
この方法は、ブロック404に示されるように、プロトコルに従って定義された空間104で生物学的実験を実行するために一連の操作を実施することを含む。一連の操作は、増殖培地112を含む容器110に細胞108を分注することと、細胞および増殖培地を含む容器を、細胞を培養するためのエンクロージャー114に移すこととを含む。一連の操作が実施される前または実施されるときに定期的に、この方法は、ブロック406および408に示されるように、特定の条件の観察結果を取得することと、観察された特定の条件を規定された特定の条件と比較することとを含む。
【0069】
観察された特定の条件のうちのある特定の条件が、特定の条件に対する所定の閾値を超えて、規定された特定の条件からはずれる場合、方法は、ブロック410に示されるように、一連の操作を中断することを含む。この方法はまた、ブロック412に示されるように、規定された特定の条件の所定の閾値内に観察された特定の条件を修正するための操作を指定する補正プロトコル106のうちのある補正プロトコルにアクセスすることを含む。また、この方法は、ブロック414、416に示されるように、補正プロトコルに従って特定の条件を修正するための操作を実施することと、一連の操作を再開することとを含む。
【0070】
本開示の例示的実装形態をさらに説明するために、一般に、2つのカテゴリーに分類することができる、個々の操作の結果に影響を及ぼし、それによって細胞生物学および分子生物学に含まれる生物学的実験の結果に影響を及ぼす要因について考察する。
【0071】
第1のカテゴリーは、実験の近傍の温度、湿度、およびO2とCO2の濃度、ならびに、容器内のpHおよび栄養素、電解質および試薬の濃度などを含む物理的手段によって測定し、制御することができる物理的および化学的条件を含む。第1のセットの場合、これらの条件の1つにおける規定されたものからの観察されたものの偏差は、発見された場合、物理的変更によって即座に補正可能である。例えば、湿度が低いために失われた液体を補うために、実験容器に水を加えることができる。第2のセットの場合、これらの条件の1つにおける偏差により、物理的変更に続く変更が補正の効果を発揮するのに一定の持続期間が必要になる場合がある。例えば、実験の近傍の温度が低すぎて、それによって細胞増殖が抑止されることが判明する場合はすぐに温度を上げることができるが、細胞培養が目標温度に達するまでに時間がかかり、かつ細胞培養がその成長目標に到達するためには、成長目標にいつ到達したかを判断するために定期的な検査が伴い、さらに時間がかかる場合がある。
【0072】
第2のカテゴリーは、増殖培地内の細胞の観察可能な状態およびそれらの濃度である。第2のカテゴリーに対する第1のセットの場合、増殖培地内の細胞の観察された状態およびそれらの濃度の偏差は、発見された場合、物理的変更によって即座に補正可能である。例えば、細胞の濃度が高すぎる場合、実験容器内の液体を希釈することができる。第2のカテゴリーに対する第2のセットの場合、増殖培地内の細胞の観察された状態およびそれらの濃度の偏差により、物理的変更とそれに続く変更が補正の効果を発揮するのに一定の持続期間が必要になる場合がある。例えば、1つの操作の目的は、それらが沈降して容器の内表面に付着するまで、細胞を成長および増殖させることである場合がある。しかし、これにかかるであろう時間を正確に判断できない可能性がある。細胞を成長させてから付着させるために一定の時間を与えると(長すぎるか短すぎるかにかかわらず)、細胞が次の実験操作に適さない状態になる可能性がある。代わりに、検査で成長が遅いことが明らかになった場合、細胞培養に追加の栄養素を追加して、標的細胞の状態がいつ達成されたかを判断するために定期的な検査を伴い、追加の成長に追加の時間がかかる場合がある。
【0073】
より多くの時間を許容することは、多くの場合、実験室の条件の偏差を補償する要因となるが、既に費やされた時間があまりにも長い場合には補償することが常に可能であるとは限らない場合があるという点に留意すべきである。また、一部の例では、加える水または増殖培地の補償量、または継続的なインキュベーションにかかる持続期間を決定するために計算が実施される場合があることに留意されたい。
【0074】
より具体的な例では、生物学的実験のためのプロトコル102は、(1)自動細胞培養ディスペンサー(ディスペンサー122)の96ウェルプレート(容器110)へのがん細胞(細胞108)の播種、(2)これらの細胞を自動インキュベーター(エンクロージャー114)で37℃、5%のCO2で24時間のインキュベーション、(3)自動試薬ディスペンサー(ディスペンサー124)による細胞に3つのがん治療薬の追加、(4)自動インキュベーター内で37℃、5%のCO2で24時間の別のインキュベーション、(5)分析センサー(センサー120b)での読み取りの実行、の5つの一連の操作を指定する場合がある。様々な装置間のウェルプレートの移動は、処理回路116の制御下で、ロボット118によって行われる場合がある。
【0075】
一部の例では、操作を実施する自動装置は、装置を収容するのに十分な大きさの定義された空間104内にあり、ある特定の条件を独立してまたは組み合わせて変更する能力を含む、安定した周囲条件を維持するように設計されている。
【0076】
定義された空間104は、プロトコル102によって規定された条件(例えば、温度、O2および/またはCO2濃度、規定値の0.01~10%の精度の湿度)を正確に測定するように構成された手順センサー120aを装備してもよい。定義された空間はまた、サンプル中の液体のレベルおよびサンプル容器110の位置および状態を監視するように構成されたカメラおよび追跡デバイスなど、規定条件の制御に関連することがある他のデバイス(また一般にセンサー)を装備してもよい。
【0077】
処理回路116は、プロトコル102に従って実験の操作を実行し、かつ条件が適切に維持されていることを確認するために分析および手順センサー120a、120bによって取得されたデータを記録するように構成されてよい。処理回路は、観察された条件と規定条件との間の偏差を検出し、十分な偏差がある場合、許容可能な偏差内に観察された状態を維持または戻すために補正プロトコル106を実行するように構成されてよい。処理回路はまた、任意の変更を記録し、偏差を記録してもよい。
【0078】
以下に、いくつかの例示的な条件およびそれらの条件における許容できない偏差を修正するために実施することができる操作を伴う補正プロトコル106について詳述する。
【0079】
規定されたものより低い温度偏差
観察されたサンプル温度の規定されたサンプル温度からの-1℃(摂氏)の偏差は、物理的または化学的プロセスの効率を低下させる可能性がある。例としては、それによって代謝が変化させられるか、またはcDNA(相補DNA)合成中、または制限酵素DNA(デオキシリボ核酸)消化中などの他の実験手順中の生細胞内の酵素活性が含まれる。他の例には、高圧の適用、または物質による処理が含まれる。これにより、下流の分析のために抽出される細胞溶解物の量が不十分または減少する可能性がある。
【0080】
規定されたサンプル温度から検出された偏差に応じて、例示的実装形態は、実験をその全体的な規定条件に戻すために、所定の補正プロトコル106に従って特定のパラメータまたはパラメータのセットを指定された量だけ変更することができる。このことは、例えば、自動装置(またはそれらの対応する処理回路)にコマンドを送信することにより、温度の低下に応じてインキュベーション期間を10%延長して、ある特定のデバイスにサンプルが保持される期間を延長することによって、プロセス操作の期間を調整する補正プロトコルを実行する処理回路116によって実現することができる。
【0081】
この偏差は、温度の定期的な(例えば、最低でも1分に1回)測定によって検出され得、また温度が1分以上の間、規定されたものより-1℃以上下回って規定されたものからはずれる場合、補正手順が呼び出されてよい。
【0082】
この偏差は、まず摂氏で測定された偏差の大きさを決定することと、秒単位で測定された偏差の期間を決定することとによって修正することができる。次いで、実験の対象は、偏差の大きさと期間によって決定される持続期間、規定された温度でインキュベーター(エンクロージャー114)内に保持されてよい。
【0083】
規定されたものよりも高い温度偏差
観察されたサンプル温度の規定されたサンプル温度からの+1℃の偏差は、細胞内の酵素活性などの物理的または化学的プロセスの効率を上げ、それにより代謝が変化させられる可能性がある。あるいは、他の実験手順では、高温により、RNAまたはタンパク質抽出物が劣化させられるか、または非常に高温でそれらの性質を完全に変えられる可能性がある。さらに他の例には、高圧の適用、または物質による処理が含まれる。これにより、下流の分析のために抽出された細胞溶解物のタンパク質分解が増加する可能性がある。
【0084】
規定されたサンプル温度から検出された偏差に応じて、例示的実装形態は、実験をその全体的な規定条件に戻すために、所定の補正プロトコル106に従って特定のパラメータまたはパラメータのセットを指定された量だけ変更することができる。このことは、例えば、自動装置(またはそれらの対応する処理回路)にコマンドを送信することにより、温度の上昇に応じてインキュベーション期間を10%短縮して、ある特定のデバイスにサンプルが保持される期間を短縮することによって、プロセス操作の期間を調整する補正プロトコルを実行する処理回路116によって実現することができる。
【0085】
この偏差は、温度の定期的な(例えば、最低でも1分に1回)測定によって検出され得、また温度が1分以上の間、規定されたものより+1℃以上上回って規定されたものからはずれる場合、補正プロトコルが呼び出されてよい。
【0086】
この偏差は、まず摂氏で測定された偏差の大きさを決定することと、秒単位で測定された偏差の期間を決定することとによって修正することができる。次いで、実験の対象は、偏差の大きさと期間によって決定される持続期間、規定された温度でインキュベーター内に保持されるか、または実質的に同じ手段によって決定された、ある特定の温度に動的に冷却されてよい。
【0087】
規定されたものよりも高いまたは低いpH偏差
別の例では、規定されたサンプルのpHからの0.5単位の偏差は、培養生物細胞の生存率および挙動、または化学実験、分子実験用の設定など、他の実験設定に影響を及ぼす可能性がある。
【0088】
規定されたpHからの検出された偏差に応じて、処理回路116は、実験をその全体的な規定された手順条件に戻すために、対応する定義された空間104、エンクロージャー114、または容器110内のO2およびCO2レベルを適応させることができる。一部の例では、このことは、コマンドをO2/CO2容器の自動バルブに送信し、多少のO2/CO2を放出することによって達成することができる。規定されたpHからの偏差に対する補正プロトコル106の別の例では、サンプルのpHを変更するために、物質(例えば、pHの偏差を補正することが経験的に示されている、ある特定の酸性または塩基性物質)を、容器内のサンプルに加えてもよい。
【0089】
ここで、キー条件には、pH、環境O2およびCO2、個々の実験容器110/実験容器の区画内の液体の量が含まれてよい。偏差は、滅菌ピペットを使用して定期的にサンプリングすることと、適切なセンサー120を使用してpHを測定することとによって検出され得る。生細胞108の場合、この状態は、CO2の定期的な(例えば、少なくとも1分に1回)測定によって検出され得る。また、CO2が、10分以上の間、規定されたものから+/-2%以上規定されたものからはずれると、処理回路116は、補正プロトコル106を呼び出してもよい。
【0090】
偏差を修正するために、環境のO2およびCO2を増加または減少させて、生細胞の場合のpHの対応する変化を導き、必要なpHが得られるまで数分ごとに検査してもよい。あるいは、他のタイプのサンプルでは、サンプル液体の量、実際のサンプルpH、および規定されたサンプルpHによって決定される特定のpHの特定の量の酸性または塩基性物質を、容器110に含まれているサンプルに加えてもよい。
【0091】
規定されたものよりも高いまたは低い湿度偏差
細胞実験、化学的実験および分子実験を含む種々の実験に適用可能なさらに別の例では、1時間の間の規定された容器湿度より20%低い偏差は、蒸発速度に、ゆえにサンプルまたは容器110に存在する液体の量に影響を及ぼす可能性がある。実験容器の各サンプル含有キャビティ内に1,000μL(マイクロリットル)があると仮定すると、1時間の間に規定条件より湿度が20%減ると、サンプル含有キャビティ内に残っている液体は15%濃縮される場合がある。
【0092】
規定された湿度からのそのような検出された偏差に応じて、処理回路116は、実験をその全体的な規定条件に戻すために、粒子および試薬の濃度を考慮して、自動試薬ディスペンサー124(またはその処理回路)にコマンドを送信することによって、ある特定のタイプの液体の特定の量を容器110内のサンプルまたはキャビティに加えることによって適応することができる。
【0093】
キー条件には、定義された空間104またはエンクロージャー114内の測定された温度および湿度、ならびに容器110またはその区画内のサンプル/液体内の特定の物質の量、塩分および濃度が含まれてよい。偏差は、環境の温度と湿度の定期的な(例えば、少なくとも1分に1回)測定によって検出され得、また温度補正湿度が1分間以上の間、規定されたものより上下に10%以上はずれる場合、実験に関連する特定の物質のサンプル量、塩分、および濃度の追加の読み取りが行われてよい。処理回路116が、これらのパラメータのいずれかが規定されたパラメータより上下に10%以上はずれていることを検出すると、処理回路は、適切な補正プロトコル106を呼び出してよい。
【0094】
キー条件には、定義された空間104またはエンクロージャー114内の測定された温度および湿度、ならびに容器110またはその区画内のサンプル/液体内の特定の物質の量、塩分および濃度が含まれてよい。
【0095】
偏差を修正するために、定義された空間104またはエンクロージャー114内の湿度は、定義された空間またはエンクロージャーに既に存在する組成物と実質的に類似のガスの組成物を、湿度を増加または減少させて加えることによって増加または減少させることができる。これにより、定義された空間またはエンクロージャー内の対応する湿度の増減を導くことができる。さらに、定義された空間またはエンクロージャーに保持された容器110もしくはその区画内に既に含まれている液体と実質的に同じ液体の特定の量を、サンプル液の量、サンプル液の塩分、および実験に関連する特定の物質の濃度によって決定される量で、容器またはその区画に加えてもよい。
【0096】
規定されたものよりも高い時間偏差
細胞実験、化学的実験および分子実験を含む種々の実験に適用可能なさらに別の例では、ある特定の試薬とのサンプルのインキュベーションの期間は、予期しない状況のために変化し、それぞれの実験の規定されたタイミングまたは条件からの偏差につながる可能性がある。ある特定の時間期間(例えば、10分)による物質(トリプシンなど)との長期にわたるインキュベーションは、細胞が容器110への付着プロセスを完了するのに必要な長期にわたる時間など、生物学的挙動のその後の変化を引き起こす可能性がある。この場合、実験をその全体的な規定されたコースに戻すために、細胞付着操作の期間を延長することなどによって、この偏差を補うために、経験的に導出された補正プロトコル106を開始することができる。
【0097】
この偏差を検出するために、各サンプルが任意の所与の条件で費やす時間をプロトコル102の一部として記録することができる。時間が規定された時間を所定の量だけ超えたときに、処理回路116は、補正プロトコルを呼び出すことができる。
【0098】
この偏差は、まず秒単位で測定された偏差の長さを決定することによって補正することができる。次いで、実験の対象は、次の操作の即時動作のスケジュール内で優先され、サンプルの下流の処理は、偏差の大きさと期間によって決定されたように調整されてよい。
【0099】
規定されたものよりも高いまたは低いUV偏差
細胞実験、化学的実験および分子実験を含む種々の実験に適用可能なさらに別の例では、特定のサンプルの規定された範囲を超える紫外線(UV)曝露の増加量により、酸化または他のストレスレベルの増大(例えば20%)を引き起こす可能性がある。この場合、ストレスレベルの測定により、サンプルをそれらの好ましい状態に復元するために、補正プロトコル106が決定されてよい。適切な補正プロトコルの一例には、偏差を修正するために、回復期間の期間を延長すること、または(例えば、抗酸化特性を有する)試薬または物質を加えることが含まれる。
【0100】
この偏差は、分光光度計によるUV放射線の定期的な(例えば、少なくとも1分に1回)測定によって検出され得、レベルが、2分以上の間、所定の閾値を超えて(例えば、+/-10%以上)規定されたものからはずれる場合、処理回路116は、補正プロトコルを呼び出してよい。
【0101】
この偏差は、まず秒単位で測定された偏差の時間の長さと、倍率変化としてのUVレベルの偏差を決定することによって補正することができる。規定されたものから変更されるUVレベルの場合、UVフィルターまたはブラインドは、定義された空間104(または定義された空間を含む部屋)において調整されてよい。生細胞108は、UVレベルが規定された範囲内になるまで、インキュベーターまたは他のエンクロージャー114から取り出されてはならない。
【0102】
規定されたものよりも高いまたは低いO2偏差
細胞実験、化学的実験および分子実験を含む種々の実験に適用可能なさらに別の例では、特定のサンプルの規定された範囲を超える酸素濃度の上昇により、例えば20%の酸化または他のストレスレベルの増大を引き起こす可能性がある。この場合、ストレスレベルの測定により、サンプルをそれらの好ましい状態に復元するために、補正プロトコル106が決定されてよい。適切な補正プロトコルの一例には、回復期間の期間を延長すること、または偏差を修正するために試薬または物質(例えば、抗酸化特性を有する)を加えることが含まれる。
【0103】
この偏差は、O2の定期的な(例えば、少なくとも1分に1回)測定によって検出され得、レベルが2分以上の間、+/-10%以上規定されたものからはずれる場合、処理回路116は、補正プロトコルを呼び出してよい。
【0104】
この偏差は、まず秒単位で測定された偏差の時間の長さと、パーセンテージとして環境O2の偏差を決定することによって補正することができる。環境O2の変化の場合、実験の対象は、偏差の大きさおよび期間によって決定される持続期間規定されたO2でインキュベーター(エンクロージャー114)内に保持されてよい。
【0105】
規定されたものよりも小さいスフェロイドサイズの偏差
さらに別の例では、3次元細胞培養構成体(例えば、オルガノイドもしくはスフェロイドまたは他の形態の細胞凝集)を扱う場合、実験を開始する前に、ある特定のサイズ(μmの直径で測定される)に達した構成体で実験を行うことが重要な場合がある。この場合、構成体が少なくとも所定の閾値によって規定されたものからはずれている(例えば、20%小さい)ことが判明する場合、この偏差を補うために、経験的に導出された補正プロトコル106を開始することができる。一例には、成長期間を10%延長することと、必要に応じて操作を再評価および繰り返すことと、次いで、この指定期間後にプロトコル102を再開することと、規定条件下で実験を行うこととが含まれる。
【0106】
この偏差は、播種後4日目から、ウェルプレート(容器110)の各ウェルのμmの直径でスフェロイドの定期的な(例えば、自動顕微鏡検査で12時間に1回)測定によって検出され得る。プレートあたりの平均スフェロイドサイズが小さすぎる場合(指定されたサイズから+/-5%)、処理回路116は、補正プロトコルを呼び出してよい。
【0107】
この偏差は、まず顕微鏡検査を介してスフェロイドの直径を決定することと、細胞タイプおよび成長動態(例えば、以前の実験によって、またはこの1つのサンプルで観察される成長速度によって決定される)を特定することとによって修正することができる。次いで、実験の対象は、現在のスフェロイドサイズおよび細胞の認識されている/事前に確立されている成長動態によって決定される持続期間、規定条件でインキュベーター内に保持されてよい。
【0108】
規定されたものよりも大きい断片化サイズ
さらに別の例では、核酸または他の細胞成分を含むある特定の実験では、非細胞の化学的または分子実験への前駆体である場合がある、これらの核酸または他の成分を小さな断片にせん断することが重要である場合がある。断片が規定されたサイズからはずれると、実験に悪影響が及ぶ可能性がある。この場合、まず断片化操作(超音波処理、酵素消化、物理的破壊または他の手段を介して起こる可能性がある)の後、断片のサイズを測定し、それらが少なくとも所定の閾値による規定されたサイズからはずれている(例えば、50%)ことが判明するか、または実験に関連する異なる規定された範囲外にある場合、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。一例の補正プロトコルでは、核酸または他の細胞成分は、断片化のさらなるラウンドに戻されるか、または成分が実験を続行するのに最適なサイズになるまで断片化の条件が(超音波処理増幅、酵素濃度、物理的破壊の強度などを変更することによって)変更されてよい。
【0109】
この偏差は、断片化の最初のラウンドの後に、光学的、電気泳動的、分光学的またはクロマトグラフィー的手段によって検出され得る。成分が大きすぎることが判明する場合、それらは、実質的に同じか、または変更された断片化の条件下で、断片化のさらなるラウンドに戻されてよい。
【0110】
この偏差は、まず光学アッセイおよび/または電気泳動および/または分光分析および/またはクロマトグラフィーを使用して、断片サイズの平均および範囲を決定することによって補正することができる。次いで、実験の対象は、断片化のさらなるラウンドにかけられてもよい、その方法および期間は、現在の断片の測定されたサイズおよび最初の断片化に使用された方法によって決定される。例えば、断片化が規定されたサイズを50%超える場合、濃度、期間、または超過のフラクションである最初の断片化の強度レベル(例えば、50の1/2)を使用して、同じ断片化方法を第2の断片化に使用し、かつ望ましい断片化が達成されるまで、より小さなフラクションで繰り返されてよい。
【0111】
規定されたものよりも低い遺伝子産物枯渇
特に化学的および分子的実験に関連するさらに別の例では、ある特定のタンパク質の量を減らすこと(例えば、問題のタンパク質の遺伝子またはメッセンジャーRNAをサイレンシングすることがある試薬または試薬の混合物を介して)は、特定の遺伝子、メッセンジャーRNA、またはタンパク質が細胞に及ぼす影響、または薬物などの他の刺激に応じる影響を決定するために使用される場合がある。これらのサイレンシング試薬の中には、実験が開始し得る前に72時間という長いインキュベーション時間があり、現在、より多くの時間と消耗品が使用されて、場合によっては無駄になる場合の実験が終了するまで、サイレンシングが効率的であったかどうかを評価する簡単な方法はない。この場合、サイレンシング試薬の追加後、細胞108の初期サンプルが採取されてよく(12~24時間)、メッセンジャーRNAまたはタンパク質の少なくとも50%のサイレンシングの成功が定量化されてもよい。その後、実験は、最終的に上記の成功したサイレンシングが達成された場合、または試薬の濃度またはインキュベーション時間を増加させることによってサイレンシングを少なくとも50%増加させることができる場合にのみ継続することができる。
【0112】
この偏差は、例えば、質量分析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、およびSDS-PAGE/ウエスタンブロッティングを含む、光学的、電気泳動的、分光学的、クロマトグラフィー的または配列決定手段によって検出され得る。
【0113】
この偏差は、まずメッセンジャーRNAまたはタンパク質のサイレンシングの程度を決定することと、これをこの特定の実験で使用される遺伝子産物およびサイレンシング剤で認識されているサイレンシングの予想される動態と比較することとによって修正することができる。次いで、十分なサイレンシングを繰り返し測定が示すまで、細胞を、サイレンシング試薬を用いて長期間、インキュベートさせるか、またはサイレンシングの不十分さの程度の相互関係に基づいてサイレンシング試薬の濃度を増加させてよい。例えば、観察された枯渇が1日目に50%未満である場合、この遺伝子のノックダウンが細胞生存率に有害であることが認められない限り、使用される初期量の50%、および100nM以下のsiRNA総濃度(初期+補正)まで、サイレンシング試薬の追加のトランスフェクションが、行われてよい。追加のサイレンシング試薬を追加した後、実験プロトコルが継続される前に、インキュベーション時間にさらに1日追加してもよい。
【0114】
規定されたものよりも少ない生細胞数
さらに別の例では、実験が行われ得る前に、細胞108の健康状態と生存率を保証することが重要である場合がある。付着細胞を用いて例えると、付着(生存可能)細胞と浮遊(死)細胞の数を決定し、さらには、追加の細胞の特徴(例えば、有糸分裂などの細胞周期事象、細胞小器官の形状およびサイズ)を測定および定量化するために、イメージングが使用される場合がある。この場合、イメージングにより少数の有糸分裂細胞が明らかになる(例えば、規定条件から50%はずれる)場合、下流の実験が行われる前に、生細胞および有糸分裂細胞の数を増やすために、補正プロトコル106を用いることができる。これは、細胞が保持されている増殖培地112を交換して、生存細胞に悪影響を及ぼす可能性のある死細胞/浮遊細胞および培地に含まれる他の物質を除去すること、および/または実験が再開される前に増殖期間を延長することを伴ってよい。(付着細胞に関しては、生細胞は容器に付着する場合があり、栄養液を除去して交換するときに、浮遊死細胞が、除去される)。別の例では、試薬を増殖培地に加えて、細胞周期を遮断することによって有糸分裂中の細胞の数を増やす場合がある。
【0115】
この偏差は、細胞形態を決定するために顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得る。死にかけている細胞は収縮して丸くなり、一般的に滑らかな形状になるが、外膜は小さな丸い突起または「ブレブ」を作り始める。
【0116】
この偏差は、まず自動顕微鏡検査または細胞カウンターを使用して生細胞、有糸分裂細胞、および死細胞の総数を測定することと、総細胞数に対する生細胞、および有糸分裂細胞、ならびに死細胞の割合を計算することと、これを細胞タイプで認識されている予想される総数および割合と比較することとによって補正することができる。生細胞、有糸分裂細胞、または死細胞の割合で2倍を超える偏差が検出される場合、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。例えば、生細胞数の減少または死細胞数の増加の場合に、規定条件に到達したことを繰り返し測定が示すまで、細胞を培地交換(死浮遊細胞を除去するため)するか、または長期間、インキュベーションさせてよい。有糸分裂細胞の数が減少する場合、試薬または成長因子を培地に加えて、有糸分裂中の細胞の数を増やしてもよい。補正動作の最後に、最終的な培地交換を実施して、死細胞の残骸(破片)を取り除いてもよい。
【0117】
規定されたものよりも少ない付着細胞数
さらに別の例では、実験が継続され得る前に、細胞108はそれらの容器110に付着し始める必要がある場合がある。この場合、付着細胞のサイズ、形状、および位置を測定することによって付着細胞の数を定量化するために、イメージングが使用される場合がある。所定の閾値より多い(例えば、20%)細胞が非付着性であることが判明される場合、補正プロトコル106により、プロトコル102を再開する前に、所定のパーセンテージ(2~10%)未満の細胞が非付着性と判明するまで、インキュベーション時間を漸進的に増加することができる。
【0118】
この偏差は、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得る。偏差は、まず総数を測定することと、総細胞数に対する非付着細胞の割合を計算することと、これを細胞タイプで認識されている予想される総数および割合と比較することとによって補正することができる。付着細胞の割合で2倍を超える偏差が検出される場合、補正プロトコルが呼び出されてよい。これには、他のダウンストリームアプリケーションおよびプロトコルで細胞が処理され得る点において、規定条件に到達したことを繰り返し測定が示すまで、定期的な測定を伴って細胞を長期間、インキュベートさせることが含まれてよい。
【0119】
規定されたものよりも高いまたは低い細胞のコンフルエンス
さらに別の例では、細胞108は、それらの細胞増殖の対数期に留まるために、所定の規定されたコンフルエンス範囲(50~80%)に維持されなければならない。細胞のコンフルエントが低い場合、それらは予想よりも成長が遅くなる可能性があり、コンフルエントが高い場合、それらの遺伝子発現性質と成長特性が変化し、死に始める可能性がある。この場合、以前の実験によって決定された間隔で細胞のコンフルエンスを監視および定量化するために、イメージングが使用される場合がある。細胞が所定の閾値未満のコンフルエント(例えば、50%)である場合、培地は新しくされる場合があるが、細胞が50~80%のコンフルエンス内またはそれを超える場合、細胞分裂が起こり得る。
【0120】
この偏差は、顕微鏡などのイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得る。偏差は、定期的な(例えば、少なくとも6時間に1回)測定によるコンフルエンスの程度を決定することによって修正することができ、コンフルエンスが50%未満、もしくは50~80%以内、または80%を超える場合、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。
【0121】
コンフルエンスが50%未満の場合、コンフルエンスが50~80%に達したことを定期的な繰り返し測定が示すまで、細胞108を長期間、インキュベートさせてよい。この場合、細胞を実験使用に適していると見なすことができ、またいずれかの細胞が50~80%のコンフルエンスにあるが、実験にすぐに必要がない場合、または80%を超えるコンフルエンスに達する場合、細胞分裂を開始させてよい。コンフルエンシーが80%を超える場合、細胞を規定された培養条件で5日以上継代培養し、その成長動態を分析することができる。それらの成長動態および表現型が回復する場合、それらは下流のアプリケーションまたはプロトコルに使用することができる。成長動態が、規定されたもの(所定の実験によって決定された)とそれらの観察されたものとが、例えば20%を超える差で異なる場合、細胞を廃棄し、新しいバイアルを調製することができる。
【0122】
規定されたものよりも多い死細胞数
さらに別の例では、実験前または実験中の両方で、細胞108を含む容器110に対して定期的なイメージングを実施して、死細胞の数を定量化する場合がある。死細胞の数が実験によって導出された閾値を超えて上昇する場合、補正プロトコル106を開始して診断し、可能であれば、細胞死の増加を明らかにする潜在的な影響を補正することができる。
【0123】
この場合、イメージングが規定されたものよりも多い死細胞数を検出する場合、感染(例えば、真菌、細菌(マイコプラズマを含む)、ウイルス)の存在を検査するためにサンプルを採取する場合がある。検査が陰性である場合、培地を交換し、細胞108をインキュベーター(エンクロージャー114)に戻し、12~24時間後に追跡検査が行われるまで成長させてよい。検査が陽性の場合、他の細胞が感染する可能性を減らすために、細胞をインキュベーターから取り出して廃棄する必要がある。次に、細胞の新しいバッチを保管場所から取り出し、解凍して、新しい細胞のセットでプロトコル102を再開してもよい。
【0124】
死細胞の数は、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得るが、感染の存在を検出するために、サンプルを滅菌ピペットで採取し、例えば、質量分析、PCR、および細菌またはウイルス粒子に対する特定の染色を含む、光学的、電気泳動的、分光学的、クロマトグラフィー的または配列決定手段を介して分析してよい。
【0125】
この偏差は、進行中の実験および少なくとも12時間ごとの細胞培養中の定期的な測定によって死細胞の数と割合を決定することと、死細胞の割合を細胞タイプおよび実験で認識されている予想される総数および割合と比較することとによって補正することができる。死細胞の割合で2倍を超える偏差が検出される場合、サンプルを採取し、感染の存在について分析し、補正プロトコル106を呼び出してもよい。死細胞の割合が細胞タイプおよび実験で規定された割合から2倍を超えてはずれる場合、サンプルを採取して、感染の存在を分析してよい。感染が検出されない場合、細胞108をそれらの実験またはそれらのインキュベーションに戻してもよく、また死細胞の割合の定量化および感染の存在についての分析の両方を12時間後に繰り返してよい。感染が検出される場合、感染した細胞が含まれていることが判明した実験容器を廃棄して、新しいバッチの細胞で実験を再開してもよい。
【0126】
規定されたものよりも速いまたは遅い(生細胞内)染色プロセス
さらに別の例では、ある特定の色素を細胞108または他のサンプルに添加する必要がある場合があり、これにより、ある特定の分析(例えば、画像の撮影、蛍光または発光の読み取りなど)が実施される場合がある。それらのタイプに応じて、これらの色素または他の物質は、ある特定の細胞、細胞の一部、または他の物質への結合または付着、細胞壁の許容などのために指定された持続期間を必要とする場合がある。また、生細胞を染色することには、色素が細胞膜を横切って取り込まれる必要がある場合がある。
【0127】
この場合、元に戻せない可能性のある最終的な分析操作を行う前に、初期読み取りを行うことにより、染色プロセスの成功を確認するための事前検査が行われる場合がある。例えば、細胞またはサンプルの70%のみが染色されている場合、補正プロトコル106を開始して、インキュベーション時間を1時間延長し、必要に応じてこの操作を繰り返すことができる。
【0128】
染色操作の成功は、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得る。
【0129】
この偏差は、色素添加後の規定されたインキュベーション時間の80%で測定し、染色された細胞またはサンプルの割合を定量化することによって、染色されたサンプルの割合を決定することによって補正することができる。細胞またはサンプルの80%未満が正常に染色される場合、補正プロトコルが呼び出されてよい。染色された細胞またはサンプルの割合が80%未満である場合、細胞108またはサンプルを、未染色の細胞またはサンプルの割合と規定されたインキュベーション時間との積によって決定される追加の時間でインキュベートを行ってもよい。染色プロセスの成功の分析は、例えば、この追加のインキュベーション時間の4/5で、さらに必要に応じて繰り返してもよい。
【0130】
規定されたものよりも遅い単一細胞への分解
さらに別の例では、細胞108を単一細胞として使用して、細胞集合体が完全に単一細胞に分解されているという断定が必要な場合がある。この場合、実験を開始または継続する前に、細胞の単一細胞懸濁液への完全な分離を確認する場合があり、ある特定のパーセンテージ(例えば、80%)の細胞のみが単一化されていることが判明する場合、分解プロセスの時間または強度を(トリプシンなどのより大量の酵素を加えることによって、またはグラインダーの1分あたりの回転数またはシリンジの動きの頻度を増加させることによって)増加させるために、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。
【0131】
細胞の単一細胞への分離は、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって検出され得る。
【0132】
この偏差は、実験が単一細胞で開始される前に単一細胞の割合を決定することによって補正することができる。80%未満の細胞が単一細胞であることが判明する場合、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。単一細胞の割合が50~80%未満の場合、細胞またはサンプルを、非単一細胞の割合によって決定される追加の時間で(トリプシンを用いてまたはグラインダーで)インキュベートを行うか、または単一細胞の割合が50%未満である場合、細胞に強化された分解プロトコルを行ってもよい。単一細胞の割合の分析は、例えば、追加のインキュベーション時間の4/5で、さらに必要に応じて繰り返すことができる。
【0133】
規定されたものよりも低い細胞の健康状態-いくつかのバージョンへの分割
さらに別の例では、細胞108の観察可能な特徴(例えば、それらのサイズ、形状、表面積、表面マーカー、内容物、色、そのようなサイズ/形状/細胞小器官の数、封入体)を評価して、細胞の健康状態、生存率、ストレスレベル、代謝活性、有糸分裂活性、およびその他の特徴に関する結論を得る場合がある。この場合、予想される規定されたパラメータからの偏差が記録されるときに、細胞を規定条件に戻すために、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。これには、サプリメントの追加または有害物質または試薬の除去、使用する培地の交換、細胞の分裂およびその他の手段が含まれる場合がある。例えば、代謝活性が50%低下したことを示す細胞に、代謝活性を規定されたレベルに戻すための物質のセットを添加した新しい培地を与えてもよい。
【0134】
細胞108の健康状態は、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイスを用いる光学的手段によって評価され得る。異常な細胞の健康状態の兆候が検出される場合、栄養因子、代謝産物、イオン、およびタンパク質の濃度の定量化のために、サンプルを滅菌ピペットで採取して、質量分析、PCR、ウエスタンブロッティングなどを含む、光学的、電気泳動的、分光学的、クロマトグラフィー的または配列決定手段を使用して分析を行う場合がある。
【0135】
この偏差は、顕微鏡イメージングによって修正することができ、異常な細胞の健康状態の兆候が、細胞の形状、細胞小器官の特性、封入体の存在、または膜のブレブの偏差の形で検出される場合、細胞の健康状態の詳細な評価のために追加の分析を開始し、規定条件からはずれていることが判明した条件を元に戻すために補正プロトコル106を呼び出してよい。細胞の健康状態が規定条件からはずれる場合、詳細な評価により、培地の成分の規定条件からの偏差が定量化され、培地を問題の細胞のタイプに適した組成の新しい培地と交換することによって、不足している物質の追加と過剰な物質の除去が行われる。
【0136】
規定された細胞の分化よりも少ない細胞の分化
さらに別の例では、細胞108は、様々な程度の分化を示す場合があり、したがって、集団は、胚性細胞と完全に分化した細胞との間で変化する細胞を含む場合がある。同種の細胞集団で実験を行うためには、集団内の一般的な分化の程度を確認することが重要な場合がある。この場合、分化の程度を測定することにより、ある特定のパーセンテージ(例えば、10%)の細胞が未分化または低分化であることが示される場合、補正プロトコル106を用いて、まず非分化細胞または低分化細胞の亜集団を分離して、次いで、適切な試薬を使用して分化プロセスを開始してよい。
【0137】
分化は、免疫蛍光法/フローサイトメトリー分析によって系統特異的マーカータンパク質の発現を測定することによって、または心筋細胞の作用電位またはグルコース追加時のβ-膵島細胞のインスリン放出を測定することなどによる細胞特異的機能分析(正確な測定は細胞タイプによって異なる場合がある)によって、測定することができる。
【0138】
本明細書におけるキーパラメータには、フローサイトメトリー、細胞機能分析、または免疫蛍光法を介して分化が行われた集団内の細胞の割合が含まれる場合がある。この偏差に対する補正プロトコル106は、特に、FACSソーティングを介して細胞の亜集団を分離することを含んでよい。未分化のままであるものは、適切な物質、すなわち分化を誘発するための化学物質で処理することができる。分化したものは、下流の実験に継続するか、フラスコに再播種して、必要になるまで培養を続けることができる。
【0139】
制御された凍結/解凍
さらに別の例では、細胞108または他の試薬の凍結および凍結状態で保存された試薬の解凍を含む解凍プロセスは、物質の完全性を確実にするために厳密に制御される必要がある。この場合、所定の温度勾配に従うことを確実にするために、凍結および解凍プロセスが監視される場合がある。温度勾配からの偏差が検出される場合、凍結/解凍容器の温度を変更するか、および/または凍結/解凍容器での時間を変更して、温度勾配を規定条件に戻すことができる。
【0140】
この偏差は、細胞または試薬が凍結または解凍する際の温度を監視することによって測定され得る。
【0141】
細胞、試薬、またはサンプルは、規定されたような確立された所定の凍結/解凍速度を有する場合がある。速度は、凍結/解凍プロセス中に継続的に測定することができ、観察された速度が規定された速度からはずれる(例えば、10%を超える)場合、補正プロトコル106がトリガーされてよい。これには、速度を規定条件のラインまで戻すために、必要に応じて凍結/解凍を加速または減速するように凍結/解凍容器を温度調整することが含まれてよい。
【0142】
規定されたものよりも高いまたは低い遺伝子発現変化
pH、露光、温度などの条件の変化が、細胞108の遺伝子発現レベルに影響を及ぼし、変化させる可能性があることも知られている。この場合、規定条件からの偏差の発生後、細胞の遺伝子発現の変化を評価し、次に、規定条件に達するような方法で、遺伝子発現または遺伝子産物量を変化させる物質を追加するなど、補正プロトコル106によって補うか、または補正することができる。
【0143】
pH、光、物質との計画されたインキュベーション、および温度などの条件からの偏差は、細胞108が受けるあらゆる事象を記録することによって検出され得る。この記録には、曝露の時間および期間、ならびに量/強度の記録が含まれる。検出手段には、温度計、pHメーター、照度計、分光学的およびクロマトグラフィー的測定が含まれる。曝露が規定された曝露パラメータに対する閾値を2倍超える場合、マイクロアレイ、RNA-Seq、ウエスタンブロッティング、質量分析、またはその他の適切な手段を介したメッセンジャーRNAおよび/またはタンパク質の定量化を用いて遺伝子発現変化の評価が行われてよい
【0144】
温度は℃で、pHは対数単位で、光強度はルクスで、物質はmlまたはμmolあたりの単位の濃度で記録されてよい。次に、2倍を超える偏差は、規定条件の偏差によって引き起こされる遺伝子発現の変化の定量化から始まる補正プロトコル106を導く。上方制御されていることが判明した遺伝子は、それぞれの遺伝子(またはそれぞれの転写/翻訳)をサイレンシングする物質を追加することにより、発現を連続的に減少させることができる。下方制御されていることが判明した遺伝子は、それぞれの遺伝子(またはそれぞれの転写/翻訳)を強化する物質を追加することにより、発現を増加させることができる。量は、配列決定、qRT-PCRおよび/またはSDS-PAGE/ウエスタンブロッティングによって決定することができる。
【0145】
規定されたものよりも高いせん断応力
さらに別の例では、細胞108は、マイクロ流体デバイス内で流されて分析される場合がある。この場合、実験によって決定された規定条件を超えるせん断応力が検出される場合、補正プロトコル106により、マイクロ流体デバイス内の流量を減少させて、条件をそれらの規定値に戻すことができる。
【0146】
規定されたレベルのせん断応力からの偏差は、イメージングデバイス(例えば、顕微鏡または別の形態のイメージングデバイス)を用いる光学的手段を介して検出され得る。せん断応力は、流速/速度に対して定量化されて、この細胞タイプおよび流速/速度で知られているせん断応力の規定されたレベルと比較されてよい。せん断応力が所定のパーセント(例えば、50%)で規定値を超える場合、補正プロトコル106が呼び出されてもよい。
【0147】
せん断応力を低減し、それを規定されたレベルに戻すために、マイクロ流体デバイス内の流量/速度を、経験されたせん断応力の偏差に比例するパーセンテージだけ減少させてよい補正プロトコル106の効果は、規定条件に戻すことを保証するために、1分に1回定期的に再評価してよい。
【0148】
規定されたものよりよりも大きいスフェロイドの分析
スフェロイドのサイズまたは体積の測定は、処理の有効性を判断するために使用される、制御処理された(成長し続ける)スフェロイドと比較した、薬物または放射線による処理に対する反応(収縮、分解、および再成長)を測定する確立された方法である。通常、スフェロイドは、特定の所定のサイズに達するまで、または所定の制限時間に達するまで、例えば、60日までの間で5xV0(最初に処理された日、0日目から5倍の体積)に達するまで、3~4日ごとに測定される。顕微鏡検査を使用してこれを決定する場合がある際に、写真を撮るのと同時に、実験で個々のスフェロイドの体積を自動的に分析するのにタイムラグが発生する可能性がある。しかし、スフェロイドが5xV0に達すると、成長の監視を継続する必要がなくなる場合があり、これにより、実験を続行する際に、プレートあたりの時間が短縮されることになる。
【0149】
この場合、各スフェロイドのサイズは、0日目および計算された5xV0で、位相コントラスト、または明視野顕微鏡検査によって測定することができる。処理後3日ごとにスフェロイドを測定してよい。いずれか1つのスフェロイドがその5xV0に到達または超過する場合、さらなる分析を省略することができ、この値に到達したその日に、このウェル(容器110)の測定を自動的に停止することができ、それによって、プレートの迅速な読み取り、およびより速い分析の完了が可能になる。
【0150】
この偏差は、自動位相コントラストまたは明視野顕微鏡検査を介してマイクロプレート内のスフェロイドのサイズと体積を測定することによって検出され得る。
【0151】
自動位相コントラストまたは明視野顕微鏡検査を使用して、マイクロプレート内のスフェロイドを画像化することができる。自動画像分析は、スフェロイドの直径および体積を決定して、最初の測定からの5xV0を計算するために使用されてよい。次いで、ソフトウェアは、5xV0に既に到達するか、または超えたウェルの測定およびさらなる分析を自動的に省略してもよいが、5xV0に到達するまでか、または処理後60日まで、この値に到達しないウェルの測定を継続してよい。
【0152】
例示的実装形態による生物学的実験のためのプロトコル102および補正プロトコル106は、自動装置の最小限の使用で、手動で実施され得ることが理解されるべきである。あるいは、同じプロトコルおよび補正プロトコルが、処理回路116によって指示される際に、自動装置によって実質的に実施され得る。この観点から、本明細書に開示されるプロトコルおよび補正プロトコルは、操作に顕微鏡またはガス濃度センサーなどの特定のデバイスの使用が必要となる場合を除いて、操作を実施する人または物に限定されることなく、人間によって、または機械によって、あるいはそれらの組み合わせによって実施され得る。
【0153】
前述の説明および関連する図に示される教示の利益を有する本開示に関連する当業者であれば、本明細書に記載される本開示の多くの変形形態および他の実装形態を思い付くであろう。これに関して、主に細胞実験の文脈で説明されているが、例示的実装形態は、化学的および分子的実験を含む他のタイプの生物学的実験に適用可能である場合がある。細胞断片に関連する適切な化学実験の例には、RNA抽出、DNA抽出、サイズならびにノーザンブロッティングおよびサザンブロッティングによる核酸分離、タンパク質抽出、サイズまたは電荷ならびにウエスタンブロッティングによるタンパク質分離、核抽出、制限酵素消化などが含まれる。適切な分子実験の例には、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、クローニング、DNAライゲーションおよびプラスミド、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、マイクロアレイ、ならびにChIP(クロマチン免疫沈降)が含まれる。
【0154】
したがって、本開示は開示された特定の実装形態に限定されるものではなく、変形形態および他の実装形態は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されていることを理解されたい。さらに、前述の説明および関連する図は、要素および/または機能のある特定の例示的な組み合わせの文脈での例示的実装形態を記載しているが、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、代替の実装形態によって要素および/または機能の異なる組み合わせが提供され得ることを理解されたい。これに関して、例えば、添付の特許請求の範囲のいくつかに記載されているように、明示的に上述したものとは異なる要素および/または機能の組み合わせも考えられる。本明細書では特定の用語が使用されているが、それらは一般的および説明的な意味でのみ使用されており、限定の目的ではない。