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▶ シオノギヘルスケア株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】腸内細菌叢調整用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20230315BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20230315BHJP
   A61K 31/729 20060101ALI20230315BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230315BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230315BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/702
A61K31/729
A61P1/04
A61P3/04
A61P35/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017046516
(22)【出願日】2017-03-10
(65)【公開番号】P2017163980
(43)【公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-01-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2016047881
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316008352
【氏名又は名称】シオノギヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113789
【弁理士】
【氏名又は名称】杉田 健一
(72)【発明者】
【氏名】大野木 宏
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】三上 晶子
【審判官】大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】特許第4796697号公報(JP,B2)
【文献】特開2006-282675号公報(JP,A)
【文献】特開2007-320946号公報(JP,A)
【文献】特表2015-533484号公報(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1593433号明細書(CN,A)
【文献】特開2014-94001号公報(JP,A)
【文献】西成勝好、矢野俊正、食品ハイドロコロイドの科学,朝倉書店,1990年10月 5日,p123-124
【文献】辻啓介,森文平,食品成分シリーズ 食物繊維の科学,1997年 9月 5日,p16-22
【文献】Christophe Chassard et al.,The cellulose-degrading microbial community of the human gut varies according to the presence or absence of methanogens,FEMS Microbiol Ecol,2010年,74,p205-213
【文献】Miaomiao Li et al.,Isolation and Characterization of an Agaro-Oligosaccharide(AO)-Hydrolyzing Bacterium from the Gut Microflora of Chinese Individuals,PLOS ONE,2014年3月,e91106のp1-9
【文献】Yasuki Higashimura et al.,
【文献】Yasuki Higashimura et al.,Protective effect of agaro-oligosaccharides on gut dysbiosis and colon tumorigenesis in high-fat diet-fed mice、Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol、2016年1月14日、310、G367-375
【文献】森 律子、腸内環境をよくするには[online]、2015年5月30日、[令和4年11月16日検索]、インターネット <URL: http://www.kawaguchi-hp.or.jp/wp-content/uploads/2015/06/e26e5d6cf793692133c1072f7b79668e.pdf>
【文献】田村朝子 他、寒天ゼリーおよびオリゴ糖長期摂取による施設入所高齢者の排便状況改善効果、日本家政学会誌、2008年、Vol.59, No.5, pp.327-335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1つの腸内細菌叢を構成する細菌の存在比率の変化を促すための、組成物。;
(a)Firmicutes門細菌の存在割合の減少及び/又はBactero
idetes門細菌の存在割合の増加、
(b)Christensenellaceae科細菌の存在割合の増加、
(c)エクオール産生能を有する細菌の存在割合の増加、及び
(d)酪酸産生能を有する細菌の存在割合の増加。
【請求項2】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、体重減少用の組成物。
【請求項3】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、体重増加抑制用の組成物。
【請求項4】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、イソフラボン類の変換促進用の組成物。
【請求項5】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、消化管の粘膜機能促進用の組成物。
【請求項6】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であって、大腸がんの抑制用の組成物。
【請求項7】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、腸内環境改善のために用いる、経口摂取又は経口投与することを特徴とする、健常人の腸内細菌叢の調整用組成物であり、体重減少用、体重増加抑制用、イソフラボン類の変換促進用、消化管の粘膜機能促進用および/または大腸がんの抑制用の組成物であって、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1つの腸内細菌叢を構成する細菌の存在比率の変化を促す作用を有する、請求項1記載の組成物;
(a)Firmicutes門細菌の存在割合の減少及び/ 又はBacteroidetes門細菌の存在割合の増加、
(b)Christensenellaceae科細菌の存在割合の増加、
( c ) エクオール産生能を有する細菌の存在割合の増加、及び
( d ) 酪酸産生能を有する細菌の存在割合の増加。
【請求項8】
アガロビオース、アガロテトラオース及びアガロヘキサオースからなる群より選択される少なくとも1種のアガロオリゴ糖を含有する請求項1~いずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
アガロビオース、アガロテトラオース及びアガロヘキサオースを含有する請求項記載の組成物。
【請求項10】
0.004mg~4000mg/kg/dayのアガロオリゴ糖を摂取するための請求項7記載の組成物。
【請求項11】
食品、飲料、サプリメント及び医薬から選択される請求項1~10いずれか1項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、腸内環境改善作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康、老化、免疫、代謝、及び疾病等と腸内細菌叢との関連について研究が進み、特定の細菌又は細菌群がそれらに関わっていることが明らかとなってきている。例えば、肥満の原因として、従来から食事の過剰摂取や基礎代謝量の低下などが挙げられているが、腸内細菌叢の構成の変化も肥満の原因の一つに挙げられるようになってきている。
【0003】
例えば、肥満型のヒトの場合、ファーミキューテス門(Firmicutes)細菌の存在比率が高く、バクテロイデス門(Bacteroidetes)細菌の存在比率が低い傾向にある。一方、正常型又は痩せ型のヒトの場合、肥満型とは逆の傾向にあり、バクテロイデス門細菌の存在比率が高く、ファーミキューテス門細菌の存在比率が低い傾向にある(非特許文献1)。なお、ファーミキューテス門に属する細菌であっても、クリステンセネラセエ科(Christensenellaceae)細菌は正常型又は痩せ型のヒトに多い傾向にある(非特許文献2)。
【0004】
放線菌門(Actinobacteria)に属するエガセラ属(Eggerthella)細菌は、ダイズイソフラボンの一種であるダイゼイン(daizein)を代謝することによりエクオール(equol)を産生することが知られている(非特許文献3)。また、エクオールはダイゼインと比較してエストロゲン活性が数百倍高いこと、エクオール産生菌は健康な成人の20~60%にのみ存在することが知られている。
【0005】
食事により、又は健康食品やサプリメント等を摂取することにより、腸内細菌叢の構成を肥満型から正常型又は痩せ型に変える試みがなされている。例えば、サラシア属植物の抽出物を有効成分とする体重増加抑制剤が知られている(特許文献1)。当該抽出物を経口摂取することにより、バクテロイデス門の存在比率が増加し、ファーミキューテス門の存在比率が低下する。
【0006】
ファーミキューテス門に属するロゼブリア属(Roseburia)細菌は、ヒト腸内に常在する細菌であり、酪酸産生能(非特許文献5)、ムチン産生促進能(消化管の粘膜機能促進、消化管における病原微生物の増加抑制;非特許文献6)、IL-10産生促進能(消化管における炎症抑制作用)等を有することが知られている。炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病に大別される。近年の研究により、これら疾患は自己免疫性疾患ではなく、腸内細菌感染症だと考えられるようになった。多くの潰瘍性大腸炎患者において、健常者と比較して、Fecalibacterium属やRoseburia属などの酪酸産生菌の存在比率が減少していることが報告されている。炎症性腸疾患の発症原因の1つとして、酪酸産生菌が減少することによって腸内の酪酸濃度が減少することが挙げられている(非特許文献5)。
【0007】
アガロオリゴ糖は寒天又はアガロースを分解して得られる素材であり、機能性食品やサプリメント等の用途に利用されている。また、アガロオリゴ糖が有する効果の一つとして、アガロオリゴ糖が骨の減少を抑制することが知られている(特許文献2)。
また、高脂肪食によってマウスで引き起こされる腸内細菌叢悪化や大腸発がんの発生をアガロオリゴ糖が抑制することが知られている(非特許文献4)。当該文献は、高脂肪食摂取による悪影響を減らすため、腸内細菌叢の変化を抑制することを課題としている。当該文献における腸内細菌叢悪化とは、マウスに高脂肪食を摂取させることによって、乳酸産生菌として知られているラクトバシラス目(Lactobacillales)に属する細菌が減少すること、ならびに大腸がんや大腸ポリープの発生に関与する(1次胆汁酸を分解して、発がん促進作用を有するデオキシコール酸などの2次胆汁酸を生成する)細菌が属するClostridium cluster XIVaが増加すること等の腸内細菌叢の異常状態である。該文献には、前記異常状態を引き起こす高脂肪食とアガロオリゴ糖を同時に摂取させることにより、Lactobacillalesの減少およびClostridium cluster XIVaの増加をそれぞれ抑制したことが開示されている。その一方で、Bacteroides門に属する細菌やPrevotella属細菌の変動には影響しなかったことが開示されている。
しかしながら、アガロオリゴ糖が健常人の腸内細菌叢の構成を調整する効果については全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-127340号公報
【文献】特開2011-213707号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ley R. E., et. al.、Nature、2006年、第444巻、第7122号、1022~1023ページ
【文献】Goodrich J. K., et. al.、Cell、2014年、第159巻、第4号、789~99ページ
【文献】Wang X. L., et. al.、Applied and Environmental Microbiology,2005年、第71巻、第1号、214~219ページ
【文献】Higashimura Y., et al.、American Journal of Physiology - Gastrointestinal and Liver Physiology、2016年1月14日電子公開、DOI: 10.1152/ajpgi.00324.2015
【文献】Machiels K., et al.、Gut、2014年、第63巻、第8号、1275~1283ページ
【文献】渡邉 邦友、モダンメディア、2014年、第60巻、第12号、6~18ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する腸内細菌叢の調整用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の事情を鑑みて鋭意努力した結果、寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖あるいはそれらの組み合わせが腸内細菌叢の構成を正常型又は痩せ型に変える効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明は、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、腸内細菌叢の調整用組成物に関する。
【0013】
本発明の第1の発明の組成物の一態様として、腸内細菌叢を構成する細菌の存在比率を変化させる作用を有する、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する組成物が挙げられる。前記組成物の作用により生じる腸内細菌叢を構成する細菌の存在比率の変化としては、(a)Firmicutes門細菌の存在割合の減少及び/又はBacteroidetes門細菌の存在割合の増加、(b)Christensenellaceae科細菌の存在割合の増加、(c)エクオール産生能を有する細菌の存在割合の増加、及び(d)酪酸産生能を有する細菌の存在割合の増加、の少なくとも1つが例示される。
【0014】
本発明の第2の発明は、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、体重減少用、体重増加抑制用、イソフラボン類の変換促進用、消化管の粘膜機能促進用、消化管における病原微生物の増加抑制用、消化管における抗炎症用、又は大腸がんの抑制用の組成物が挙げられる。
【0015】
本発明の第1または第2の発明の組成物に使用するアガロオリゴ糖として、アガロビオース、アガロテトラオース及びアガロヘキサオースからなる群より選択される少なくとも1種のアガロオリゴ糖、が挙げられる。
【0016】
本発明の第1または第2の発明の組成物を含有する製品として、食品、飲料、サプリメント及び医薬、が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖あるいはそれらの組み合わせを有効成分として含有する腸内細菌叢の調整用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0019】
(1)本発明の組成物
本発明の腸内細菌叢調整用組成物は、寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖、あるいはそれらの組み合わせを含有する。
寒天は、アガロースとアガロペクチンからなる多糖であり、広く食品素材として使用されている。寒天の原料としては、藻類が好適であり、例えば、テングサ科のマクサ、オニグサ、オオブサ、ヒラクサ、オバクサ、ユイキリ等、オゴノリ科のオゴノリ、オオオゴノリ等、イギス科のイギス、エゴノリ等、その他の紅藻類が例示される。寒天の原料となる藻類は、通常、天日に干して乾燥させたものを用いるが、生の藻類から寒天を調製しても良い。また、藻類を乾燥時に散水しながら漂白した、いわゆるさらし原藻も寒天の原料として使用できる。原料となる藻類を熱水抽出し、得られた抽出物を冷却することによって寒天のゲル、いわゆる「ところてん」が得られる。この「ところてん」から凍結脱水又は圧搾脱水によって水分を除き、乾燥させることによって市販されている形状の寒天が得られる。本発明において、寒天はその起源となる藻類を問わず、また、棒状、帯状、板状、糸状、粉末状等の種々の形態の乾燥物やゲル状の寒天を使用できる。また、寒天はいろいろな強度のゲルを形成できるものが市販されているが、本発明にはそのいずれもが使用できる。
【0020】
アガロースは、[D-ガラクトシル-(β1→4)-3,6-アンヒドロ-α-ガラクトシル-(β1→3)]nで表わされる構造を有する多糖類である。寒天は通常、約70%のアガロースと約30%のアガロペクチンを含んでおり、寒天から公知の方法で精製を行うことによりアガロースを調製することができる。
【0021】
寒天又はアガロースは、化学的、物理的又は酵素的方法で部分分解することにより低分子化することができる。本発明においては、低分子化された寒天、低分子化されたアガロースを使用しても良い。寒天又はアガロースの化学的分解方法の例としては酸性条件下での加水分解、物理的分解方法の例としては電磁波や超音波の照射による細断・分解、酵素的分解方法の例としてはアガラーゼ等の加水分解酵素による加水分解が挙げられる。低分子化寒天は、例えば伊那食品工業株式会社より「ウルトラ寒天」の名称で市販されている。ウルトラ寒天は、1.5%溶液を調製した場合のゼリー強度が約10~250g/cmという低いゼリー強度を示す(例えば、特許第3023244号参照)。なお、寒天やアガロースを経口摂取した場合、胃酸による分解産物として後述のアガロオリゴ糖を生じる。
【0022】
アガロオリゴ糖は、3,6-アンハイドロガラクトピラノースを還元末端に有する、構成単位であるD-ガラクトシル-(β1→4)-3,6-アンヒドロ-α-ガラクトース(この二糖類はアガロビオースと呼ばれる)がα-1,3結合で結合したオリゴ糖である。アガロオリゴ糖としては、アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、アガロオクタオース、及びアガロデカオースが例示される。アガロオリゴ糖の製造方法は公知であり、本発明に使用されるアガロオリゴ糖の製造方法には特に限定はない。例えば、国際公開第00/69285号パンフレットには原料寒天を固体酸により酸分解することでアガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、及びアガロオクタオース等を含有するアガロオリゴ糖の混合物を製造できることが知られている。なお、このように原料として寒天を用いて調製されたアガロオリゴ糖は、寒天オリゴ糖と呼ばれることもある。
【0023】
本発明においては、1種のアガロオリゴ糖を単独で用いても良いし、2種以上のアガロオリゴ糖の混合物を用いても良い。例えば、アガロオリゴ糖として、アガロビオース、アガロテトラオース及びアガロヘキサオースからなる群より選択される少なくとも1種を含有する本発明の組成物が例示できる。さらに、アガロビオース、アガロテトラオース及びアガロヘキサオースを含有する本発明の組成物が例示できる。さらに、アガロオリゴ糖として、アガロオクタオースを含有する本発明の組成物が例示できる。アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、及びアガロオクタオースを含有するアガロオリゴ糖の混合物は、上記したアガロオリゴ糖の製造方法を利用して、あるいは市販されているアガロオリゴ糖を用いて、任意の形態で製造することができる。市販の健康食品であるアガフィット〔製品名(登録商標)、1粒あたり250mg、タカラバイオ社製〕は、アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、及びアガロオクタオースを構成成分として含むアガロオリゴ糖混合物を1粒あたり100mg含有している。この他に、該アガロオリゴ糖混合物を含有する市販の健康食品として、飲む寒天(登録商標)やグルコサミン+アガロオリゴ糖〔いずれも製品名、タカラバイオ社製〕がある。
【0024】
本発明に使用する寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖は、精製品、粗抽出物のいずれでもよい。所望により、さらに他の成分を混合してもよい。当該他の成分は、寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖の効果を阻害しない成分であればよく、同様の効果を有するあるいは異なる効果を有する成分であってもよい。当該他の成分としては、特に限定するものではないが、例えば、腸内細菌叢に対して良好な効果を示す公知の物質、例えばオリゴ糖類(例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、難消化性オリゴ糖等)や乳酸菌類(例えば、Enterrococcus faecalis FK-23、Lactobacillus pentosus S-PT84、Bifidobacterium longum、Bacillus coagulans、Lactococcus lactis、Lactobacillus casei、Lactococcus plantarum等)をアガロオリゴ糖と組み合わせることができる。また、腸内細菌によりエクオールに変換されることが知られているイソフラボン類(例えば、ダイズ由来ダイゼイン)を組み合わせることができる。これらの他、抗肥満や抗ロコモティブシンドローム効果を有するカルコン類(例えば、アシタバ由来カルコン:タカラバイオ社製)やジオスゲニン配糖体(例えば、トゲドコロ由来ヤムスゲニン(登録商標):タカラバイオ社製)と組み合わせ、前記効果が増強された組成物とすることができる。さらに、前記以外の化合物、例えば、発がん抑制作用やがんの増殖又は転移抑制作用を有するフコイダン(例えば、ガゴメコンブ由来フコイダン:タカラバイオ社製)やキノコテルペン(例えば、ブナシメジ由来テルペン:タカラバイオ社製);ボタンボウフウ由来イソサミジン(タカラバイオ社製)等を組み合わせてもよい。
【0025】
本発明の組成物は、有効成分である寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖自体、もしくはそれらを組み合わせてなる組成物であってもよく、前記成分やそれらの組み合せを賦形剤あるいは担体と混合して製造される組成物であってもよい。賦形剤及び担体としては、薬学的に許容されるものであれば特に限定はない。例えば、液状賦形剤及び担体としては水、塩溶液、エタノールやポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)等のアルコール類もしくは大豆油、ピーナッツ油、ゴマ油、ミネラル油などの動植物油又は合成油が用いられる。固体賦形剤及び担体としては、乳糖、マルトース、スクロース、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどの糖類、アミノ酸類、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸塩、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ゼラチンなどが使用される。これらの固体担体又は液状担体を用いて、任意の形状として製造することができる。さらに、保存時の安定化のための種々の成分(界面活性剤、等張剤、防腐剤、抗菌剤、抗真菌剤、保存料、キレート化剤等)等を含有してもよい。
また、寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖の有効成分比率は、後述の本発明の組成物による作用を生じる比率であればよく、任意の量を使用することができる。
【0026】
本発明の組成物は、医薬品に適した原材料ならびに製造工程で製造することにより、医薬品とすることができる。さらに、任意の形状の食品、飲料に寒天、アガロース、又はアガロオリゴ糖を添加することにより、食品または飲料の形態の組成物としてもよい。また、本発明の組成物は、サプリメントと称される、一般的な食品とは異なる形状(錠剤、カプセル等)の食品であってもよい。前記の食品、飲料、サプリメントを包含する本発明の組成物は、栄養機能食品、特定保健用食品、特別用途食品及び機能性表示食品等に関する行政上の制度に従い、機能等の表示を付したものであってもよい。
【0027】
(2)本発明の組成物による作用
本発明の組成物の投与対象としては、ヒト又は非ヒト動物が例示される。非ヒト動物としては、例えば、ペット(愛玩動物)、実験動物、動物園や水族館で飼育されている動物や魚類等が挙げられる。
本発明の組成物をヒトが摂取または又は非ヒト動物へ投与することにより、当該ヒトまたは又は非ヒト動物の腸内細菌叢の構成を調整することが可能となる。本発明を特に限定するものではないが、例えば、本発明の組成物を摂取することにより、腸内細菌叢において以下に示す変化が誘導される。
【0028】
(a)門レベルでの腸内細菌叢の構成の変化
本発明の組成物をヒトが摂取又は非ヒト動物へ投与することにより、Firmicutes門細菌の存在割合が減少し、及び/又はBacteroidetes細菌の存在割合が増加する。非特許文献1で報告されているとおり、Firmicutes門細菌の存在割合に対するBacteroidetes門細菌の存在割合の割合は、肥満傾向のヒトでは低く、正常型又は痩せ型のヒトの場合には高い傾向にある。本発明の組成物を摂取することによって腸内細菌叢の構成が肥満型から正常型又は痩せ型へ変化することから、肥満の軽減、肥満防止、非肥満状態の維持が期待される。言い換えれば、体重減少や体重増加抑制が期待される。逆に、吸収不良性症候群、体質性ヤセ、症候性ヤセ等の改善を目的として腸内細菌叢の構成を痩せ型から肥満型へ変化させる食品や飲料のスクリーニング法としても期待できる。
【0029】
(b)生体に有益な細菌の存在割合の増加
Chrisensenellaceae科の腸内細菌の存在は、生体の肥満抵抗性に寄与していると報告されている(非特許文献2)。本発明の組成物を摂取した後に前記細菌が検出される割合が増加することが示されている。すなわち、本発明の組成物は抗肥満効果が期待される腸内細菌叢の形成に有用である。
【0030】
また、本発明の組成物を摂取したヒトにおいては、エクオール産生菌として知られているEggerthella lentaの存在割合が増加する。前記細菌はイソフラボン類をよりエストロゲン様活性の高いエクオールに変換することから、本発明の組成物を摂取することによってイソフラボン類などフィトエストロゲン(phytoestrogen、外因性エストロゲン又は植物エストロゲンとも呼ばれる)を含む食品等の効果が高められる。すなわち、本発明の組成物により、体内でのイソフラボン類の代謝改善、活性化が促進される。ヒトにおけるイソフラボン類またはエクオールの作用としては、下記効果が知られている。(ア)更年期障害の症状(のぼせ・ほてり・ホットフラッシュ、頭痛、めまい、自律神経失調症様の症状、頻脈、血圧変動など)の緩和。(イ)過酸化脂質産生の抑制、皮脂の過剰分泌の抑制(にきび、吹き出物の予防・改善)。(ウ)がん(乳がん、子宮体がん、前立腺がん、胃がんなど)の予防。(エ)II型糖尿病(空腹時血糖値、LDLコレステロール値、インスリン耐性など)の予防・改善。(オ)生活習慣病(糖尿病、高脂血症、動脈硬化、コレステロール値など)の予防・改善。(カ)骨粗しょう症の予防・改善、骨密度の上昇、骨中ミネラル濃度の増加。(キ)皮膚の老化(肌のハリ・弾力がなくなる、シミ・シワ・たるみが多くなるなど)の予防・改善。(ク)血流改善(冷え症、肩こり、緊張性頭痛、肌のくすみや乾燥などを予防・改善)。(ケ)男性型脱毛の予防・改善、髪の潤いを保つ。上記(ア)~(ケ)から選択される効果が期待される腸内細菌叢の形成に本発明の組成物は有用である。
【0031】
また、本発明の組成物を摂取したヒトにおいては、酪酸産生菌として知られているRoseburia属細菌の存在割合が増加することが示されている。すなわち、本発明の組成物は消化管の粘膜機能促進、消化管における病原微生物の増加抑制、消化管における炎症抑制、又は大腸がんの抑制などの効果が期待される腸内細菌叢の形成に有用である。
【0032】
(3)本発明の組成物の摂取又は投与方法
本発明の組成物の摂取又は投与方法は、当該組成物の形態に応じた方法であればよく、経口、経鼻、経皮、経粘膜、腹腔内投与、注射(皮内、皮下、筋肉内又は静脈)などが例示される。
【0033】
経口用の組成物の形状としては、公知の経口用加工食品又は医薬の剤型、例えば錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、液剤、ドライシロップ剤、マイクロスフェア製剤等の形状が挙げられる。これら経口用の形状では糖衣又や胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムでの被覆を施してもよい。
【0034】
非経口投与用の水溶液組成物は、例えば、適切に緩衝化されており、かつ食塩又はグルコース等で等張化された無菌の溶液である。当該水溶液は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与において使用することができる。
【0035】
本発明を特に限定するものではないが、摂取者又は被投与者の負担を考慮すると、本発明の組成物は経口摂取又は経口投与されることが好ましい。
【0036】
本発明の組成物の摂取又は投与量は、投与対象の状態に応じて適切な量を適宜投与すればよい。本発明を限定するものではないが、例えばヒトにおける摂取量は、アガロオリゴ糖として0.2~200000mg/day、好ましくは2~20000mg/day、さらに好ましくは20~2000mg/day、特に好ましくは40~1000mg/dayである。
【0037】
言い換えれば、本発明を限定するものではないが、例えばヒトにおける摂取量は、アガロオリゴ糖として0.004~4000mg/kg/day、好ましくは0.04~400mg/kg/day、さらに好ましくは0.4~40mg/kg/day、特に好ましくは0.8~20mg/kg/dayである。
【0038】
本発明の組成物の摂取又は投与回数は、投与対象の状態に応じて適切な回数、摂取又は投与すればよい。本発明を限定するものではないが、前記の1日摂取量を目安に、1~3回/日摂取又は投与すればよい。1日あたりの摂取又は投与の回数は、毎日同じでもよいし、変更してもよい。摂取又は投与の方法は、毎回同じでもよいし、変更してもよい。
【0039】
本発明の組成物を摂取又は投与する期間は、投与対象の状態に応じて適切な期間摂取又は投与すればよい。例えば、1日間~1年間程度で摂取又は投与を中止してもよいが、効果の維持を望む場合にはさらに長期間摂取又は投与してもよい。
【0040】
本発明の組成物を摂取又は投与することにより、腸内細菌叢の構成を調整することができる。特に限定はされないが、例えば、肥満型、正常型あるいは痩せ型と特徴づけられる構成の腸内細菌叢を保持しうる体質へ人為的に誘導することができる。あるいは、例えば、腸内でイソフラボン類の代謝が活性化される構成の腸内細菌叢を保持しうる体質へ人為的に誘導することができる。さらに例えば、酪酸産生菌が増加するまたは酪酸産生量が増加する構成の腸内細菌叢を保持しうる体質へ人為的に誘導することができる。
【0041】
また、本発明の組成物の効果を、腸内細菌叢の構成に基づいて評価しながら摂取又は投与することもできる。なお、本発明の組成物を摂取又は投与することに起因する重大な不具合は確認されていない。
【0042】
(4)腸内細菌叢の解析
本発明の組成物が腸内細菌叢にもたらす効果は、例えば下記の方法により確認することができる。
【0043】
腸内など環境中の細菌叢は難培養微生物が大半を占めることがすでに知られており、培養によるバイアスをさけるため、培養工程を必要としない解析手法が主流となっている。例えば、試料中の微生物のゲノムDNA中に存在している、small subunit ribosomal RNAをコードする遺伝子(rDNA)の全長又は一部、あるいはrDNA間のスペーサー領域(ITS)をPCR増幅し、得られた増幅産物の塩基配列について次世代シーケンサを用いて網羅的に配列解析する方法、あるいは次世代シーケンサを用いたterminal restriction fragment length polymorphism(T-RFLP)法にて該増幅産物を網羅的に解析する方法が知られている。こうして得られた解析データから、試料中に存在する微生物の種類ならびにその存在割合を知ることができる。目的に応じ、前記解析方法のうち1種のみを用いてもよいし、両者の結果を組み合わせてデータ解析してもよい。
【0044】
微生物の種類を同定するための指標とするrDNAあるいはrDNA間のスペーサー領域としては、本発明を特に限定するものではないが、例えば、原核生物では16S rDNA、真核生物では18S rDNAと5.8S rDNA間のスペーサー領域(ITS1)が挙げられる。16S rDNAを増幅するプライマーセットは、16S rDNAのV3-V4領域を増幅するように設計された341F/806Rや第十六改正日本薬局方(参考情報 G4 微生物関連 遺伝子解析による微生物の迅速同定法)収録の10F/800R及び/又は800F/1500Rが、ITS1を増幅するプライマーセットは、同収録のITS1F/ITS1Rが好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
次世代シーケンサとしては、本発明を特に限定するものではないが、例えば、HiSeqシステム、MiSeqシステム(いずれもイルミナ社製)、Ion Proton/Ion PGMシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、PacBio RS II、Sequelシステム(いずれもパシフィックバイオサイエンス社製)及びPromethION、MinION(いずれもオックスフォードナノポアテクノロジーズ社製)等が挙げられる。
【0046】
T-RFLP法は、一方のプライマーの5’末端が蛍光標識されたプライマーセットを用いて16S rDNAを増幅し、その増幅産物を制限酵素で切断し、蛍光標識された末端DNA断片長をシーケンサにて検出する方法である。当該方法で使用する制限酵素は、例えば、Bsl I又は、Bfa IとRsa Iの組み合わせ等が挙げられる(例えば、長島浩二ら、腸内細菌学雑誌、2014年、第28巻、第4号、155~164ページ参照)。
【0047】
本発明の組成物の摂取前後に腸内細菌を含有する試料、例えば糞便を採取し、そこに含まれる微生物由来DNAを前記の方法により網羅的に解析する。摂取の前後における腸内細菌叢の状態(構成細菌の種類ならびに存在比率)を比較することにより、本発明の組成物の効果を明らかにすることができる。
【実施例
【0048】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
インフォームドコンセントの得られた健常成人被験者13名(男性9名、女性4名)にタカラバイオ社製のアガフィット(担体として結晶セルロース、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムを含む)を1日2粒(アガロオリゴ糖として1日200mg)、毎日1か月間摂取させた。摂取期間中、被験者の食事は普段どおりとし、特段の制限は課さなかったが、被験者の過半数において共通の健康食品等(アガフィットを除く)を摂取した事実はない。また、すべての被験者は摂取期間中に医薬品を服用していない。今回の試験において、アガロオリゴ糖の摂取に起因するとみられる被験者の不調等は認められなかった。
【0050】
摂取期間の前後に採取した新鮮便のサンプルからそれぞれDNAを抽出し、細菌類のゲノムDNAに含まれる16SリボソーマルRNAコード領域に相当するDNA断片をPCRによって増幅させた。次いで、得られたDNA断片の塩基配列について次世代シークエンサーを用いて解読した。こうして得られた塩基配列情報について、相同性解析による細菌種の同定と出現頻度解析による各細菌種の存在割合の推定を実施することにより、サンプルごとの腸内細菌叢解析データ(検出された菌種とその存在割合)を取得した。その結果を表1~3に示す。
【0051】
得られたすべての腸内細菌叢解析データについて相互の類似度の評価を行った。すると、同一被験者のアガロオリゴ糖接種前後のデータが最も類似するものと判定されることはなかった。このことから、アガロオリゴ糖の摂取によって腸内細菌叢に含まれている菌種の構成が変化することが明らかとなった。
【0052】
個々の腸内細菌叢解析データについて、被験者ごとのFirmicutes門細菌とBacteroidetes門細菌それぞれの存在割合ならびに被験者ごとのFirmicutes門細菌/Bacteroidetes門細菌の比を算出し、アガロオリゴ糖摂取前、摂取後の両群の平均値を得た。このデータを表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、アガロオリゴ糖の摂取後に、糞便中のFirmicutes門細菌の存在割合の減少及びBacteroidetes門細菌の存在割合の増加が認められた。
【0055】
個々の腸内細菌叢解析データから、Christensenellaceae科細菌を検出したものを抽出した結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、アガロオリゴ糖の摂取前には13例中5例にChristensenellaceae科細菌が検出されていたのに対して、摂取後には13例中10例から検出された。
【0058】
個々の腸内細菌叢解析データから、エクオール産生菌であるEggerthella lentaを検出したものを抽出した結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、アガロオリゴ糖の摂取前にはすべての被験者においてEggerthella lentaが検出されていなかったのに対して、摂取後には13例中12例から検出された。
【0061】
実施例2
インフォームドコンセントの得られた健常成人被験者62名(男性36名、女性26名)にタカラバイオ社製のアガフィット(担体として結晶セルロース、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムを含む)を1日2粒(アガロオリゴ糖として1日200mg)、毎日1か月間摂取させた。実施例1と同様に、摂取期間中、被験者の食事は普段どおりとし、特段の制限は課さなかったが、被験者の過半数において共通の健康食品等(アガフィットを除く)を摂取した事実はない。また、すべての被験者は摂取期間中に医薬品を服用していない。今回の試験において、アガロオリゴ糖の摂取に起因するとみられる被験者の不調等は認められなかった。
【0062】
実施例1と同様に、摂取期間の前後に採取した新鮮便のサンプルからそれぞれDNAを抽出、解析し、サンプルごとの腸内細菌叢解析データ(検出された菌種とその存在割合)を取得した。その結果を表4~5に示す。
【0063】
得られたすべての腸内細菌叢解析データについて相互の類似度の評価を行った。すると、同一被験者のアガロオリゴ糖接種前後のデータが最も類似するものと判定されることはなかった。このことから、アガロオリゴ糖の摂取によって腸内細菌叢に含まれている菌種の存在割合が変化することが明らかとなった。
【0064】
個々の腸内細菌叢解析データについて、被験者ごとのFirmicutes門細菌とBacteroidetes門細菌それぞれの存在割合ならびに被験者ごとのFirmicutes門細菌/Bacteroidetes門細菌の比を算出し、アガロオリゴ糖摂取前、摂取後の両群の平均値を得た。このデータを表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4に示すように、アガロオリゴ糖の摂取後に、糞便中のFirmicutes門細菌の存在割合の減少及びBacteroidetes門細菌の存在割合の増加が認められた。
【0067】
個々の腸内細菌叢解析データについて、酪酸産生菌であるRoseburia属細菌の存在割合を算出し、アガロオリゴ糖摂取前、摂取後の平均値を得た。このデータを表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示すように、アガロオリゴ糖の摂取後に、糞便中のRoseburia属細菌の存在割合の増加が認められた。
【0070】
以上の通り、アガロオリゴ糖摂取前と比べて摂取1か月後には腸内細菌叢の構成について有意な変化が認められた。また、それらの変化はヒトの健康維持に関して有益なものであった。
この結果から、アガロオリゴ糖の摂取が、腸内細菌叢の構成を調整することに対して効果を発揮することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、食品、飲料、機能性食品、サプリメント及び医療分野において有用である。