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  • 特許-流体荷役装置用の緊急離脱機構 図1
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  • 特許-流体荷役装置用の緊急離脱機構 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】流体荷役装置用の緊急離脱機構
(51)【国際特許分類】
   F16L 37/30 20060101AFI20230315BHJP
   B67D 9/00 20100101ALN20230315BHJP
【FI】
F16L37/30
B67D9/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018204418
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020070849
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508173901
【氏名又は名称】TBグローバルテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
(72)【発明者】
【氏名】海野 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 務
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147189(WO,A1)
【文献】特開2008-111525(JP,A)
【文献】特開2018-128120(JP,A)
【文献】特開2018-146011(JP,A)
【文献】実開昭58-130193(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 37/30
B67D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のカプラー同士がクランプにより分離可能に連結された、流体荷役装置用の緊急離脱機構であって、
前記一対のカプラーのそれぞれは、真空二重管構造のカプラー本体と、前記カプラー本体の先端の内側に設けられた、荷役流体が流通する開口を形成する弁座と、前記カプラー本体の軸方向に移動可能に前記カプラー本体内に配置された弁体と、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するスプリングと、を含み、
前記弁体は、前記カプラー同士の分離時に前記スプリングの付勢力によって前記弁座に当接して前記開口を閉じ、前記カプラー同士の連結時に相手方の弁体に押圧されて前記弁座から離間して前記開口を開くように構成されており、
前記弁体は、当該弁体が前記弁座に当接するときに当該弁体と前記弁座との間をシールするシール材を保持する保持部材と、前記保持部材の先端側の表面を覆う樹脂製のブロックと、前記ブロックを収容しながら前記保持部材から前記開口を通って突出する金属製の作動部材と、を含む、流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【請求項2】
前記作動部材は、前記ブロックを収容するドーム部と、前記ドーム部から前記カプラー本体の中心線に沿って延びるロッド部とを含み、
前記ドーム部が複数のボルトを使用して前記保持部材に固定されている、請求項1に記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【請求項3】
前記ドーム部は、前記ブロックを取り囲む周壁と、前記ブロックを挟んで前記保持部材と対向する天井壁を有し、
前記天井壁と前記保持部材との間に複数のスリーブが介在しており、これらのスリーブ内に前記複数のボルトがそれぞれ挿通されている、請求項2に記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体荷役装置用の緊急離脱機構に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾などに設置される、低温流体用の流体荷役装置(ローディングアーム)には、緊急離脱機構が組み込まれることがある。緊急離脱機構は、低温流体の輸送船が強風や高波などによって予期せぬ動作をしたときに、輸送船と陸上貯蔵設備との間の流体搬送ラインに過度な負荷がかかることを防止するために、流体搬送ラインを船側と陸側とに切り離して船側を陸側から離脱させるものである。また、緊急離脱機構は、流体搬送ラインを船側と陸側とに切り離すだけでなく、切り離された流体搬送ラインの船側および陸側から荷役流体が外部へ流出することを防止するために、それらを閉塞する。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対のカプラー同士がクランプにより分離可能に連結された緊急離脱機構が開示されている。特許文献1の図8,9に記載された例では、各カプラーが、真空二重管構造のカプラー本体と、このカプラー本体の軸方向に移動可能にカプラー本体内に配置された弁体を含む。弁体は、カプラー同士の分離時にカプラー本体の開口を閉じ、カプラー同士の連結時に相手方の弁体に押圧されてカプラー本体の開口を開く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-20584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件出願の出願人は、本件出願に先立つ出願(特願2017-023081号)において、特許文献1に開示された緊急離脱機構をさらに改良した緊急離脱機構を提案した。この緊急離脱機構では、カプラー本体の先端の内側に荷役流体が流通する開口を形成する弁座が設けられ、かつ、その開口を開閉する弁体の先端部分が樹脂で構成されている。
【0006】
弁体の先端部分は、カプラー同士の分離時に開口を通じて大気中に露出する。このため、弁体の先端部分が樹脂で構成されていれば、荷役流体が液化水素のように極めて低温であっても、弁体の先端部分の周囲での酸素の液化を抑制することができる。その一方で、弁体の先端部分の上面には静電気が帯電し易い。
【0007】
そこで、本発明は、弁体におけるカプラー同士の分離時に大気中に露出する部分の表面への静電気の帯電を防止することができる流体荷役装置用の緊急離脱機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の流体荷役装置用の緊急離脱機構は、一対のカプラー同士がクランプにより分離可能に連結された、流体荷役装置用の緊急離脱機構であって、前記一対のカプラーのそれぞれは、真空二重管構造のカプラー本体と、前記カプラー本体の先端の内側に設けられた、荷役流体が流通する開口を形成する弁座と、前記カプラー本体の軸方向に移動可能に前記カプラー本体内に配置された弁体と、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するスプリングと、を含み、前記弁体は、前記カプラー同士の分離時に前記スプリングの付勢力によって前記弁座に当接して前記開口を閉じ、前記カプラー同士の連結時に相手方の弁体に押圧されて前記弁座から離間して前記開口を開くように構成されており、前記弁体は、当該弁体が前記弁座に当接するときに当該弁体と前記弁座との間をシールするシール材を保持する保持部材と、前記保持部材の先端側の表面を覆う樹脂製のブロックと、前記ブロックを収容しながら前記保持部材から前記開口を通って突出する金属製の作動部材と、を含む、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、弁体の作動部材はカプラー同士の分離時に開口を通じて大気中に露出するものの、作動部材は金属製であるので、作動部材の表面への静電気の帯電を防止することができる。しかも、作動部材は、保持部材の先端側の表面を覆う樹脂製のブロックを収容しているので、保持部材と作動部材との間の熱伝達が抑制される。従って、荷役流体が液化水素のように極めて低温であっても、弁体の作動部材の周囲での酸素の液化を抑制することができる。
【0010】
例えば、前記作動部材は、前記ブロックを収容するドーム部と、前記ドーム部から前記カプラー本体の中心線に沿って延びるロッド部とを含み、前記ドーム部が複数のボルトを使用して前記保持部材に固定されていてもよい。
【0011】
前記ドーム部は、前記ブロックを取り囲む周壁と、前記ブロックを挟んで前記保持部材と対向する天井壁を有し、前記天井壁と前記保持部材との間に複数のスリーブが介在しており、これらのスリーブ内に前記複数のボルトがそれぞれ挿通されていてもよい。この構成によれば、ボルトを使用した締結力をスリーブによって受けることができるので、作動部材のドーム部の周壁を薄くすることができる。これにより、保持部材と作動部材との間の熱伝達をいっそう抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弁体におけるカプラー同士の分離時に大気中に露出する部分の表面への静電気の帯電を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る流体荷役装置用の緊急離脱機構の断面図であり、カプラー同士の締結時を示す。
図2】カプラー同士の分離時の一方のカプラーの断面図である。
図3図2の要部の拡大図である。
図4】変形例のカプラーの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図3に、本発明の一実施形態に係る流体荷役装置用の緊急離脱機構1を示す。この緊急離脱機構1は、クランプ12により分離可能に連結された一対のカプラー11を含む。クランプ12は、カプラー11同士が相対移動しようとする力が過度に大きくなると、カプラー11同士の連結を自動的に解除するように構成されている。
【0015】
荷役流体は、例えば、極低温の液化水素である。ただし、荷役流体は、LNGなどの他の低温液体であってもよいし、低温気体であってもよい。
【0016】
各カプラー11は、真空二重管構造のカプラー本体2と、カプラー本体2の軸方向に移動可能にカプラー本体2内に配置された弁体4を含む。また、各カプラー11は、カプラー本体2の先端の内側に設けられた環状の弁座3を含む。弁座3は、荷役流体が流通する開口30を形成する。なお、以下では、説明の便宜上、カプラー本体2の軸方向のうち先端側を前方、その反対側である基端側を後方ともいう。
【0017】
具体的に、カプラー本体2は、内管21と外管23を含み、これらの間に真空空間が形成されている。内管21の先端には、径方向外向きおよび径方向内向きに張り出すフランジ部22が設けられている。外管23の先端には拡径部24が設けられており、この拡径部24にクランプ12が係合する。内管21のフランジ部22の前端と外管23の拡径部24の前端とは、環状の端板25により接続されている。
【0018】
弁座3は、内管21のフランジ部22の内周面と重なり合う筒状部31と、フランジ部22の先端面と重なり合うフランジ部32を含む。筒状部31の内周面が上述した開口30を形成している。弁座3のフランジ部32は、複数のボルトB1(図2参照、図1では省略)により内管21のフランジ部22に固定されている。
【0019】
本実施形態では、弁体4が2つの圧縮コイルスプリング9によって弁座3に向かって付勢されている。ただし、スプリング9の数は1つであっても3つ以上であってもよい。弁体4の後方には、内管21に環状のサポート26が設けられており、このサポート26と弁体4との間にスプリング9が介在している。
【0020】
弁体4は、カプラー11同士の分離時に図2に示すようにスプリング9の付勢力によって弁座3に当接して開口30を閉じ、カプラー11同士の連結時に図1に示すように相手方の弁体4に押圧されて弁座3から離間して開口30を開くように構成されている。弁体4は、弁座3に当接するとき開口30内に嵌まり込む。
【0021】
また、弁体4には、スプリング9の前側部分を取り囲むように短管41が取り付けられている。図示は省略するが、短管41には、荷役流体が通過する多数の貫通穴が設けられている。一方、内管21における軸方向に互いに離れる位置には、短管41をガイドする2つのガイド27が設けられている。各ガイド27は、多数の貫通穴が設けられた周方向に連続する環状体であってもよいし、周方向に点在する複数のピースで構成されてもよい。
【0022】
弁体4は、より詳しくは、図2および図3に示すように、少なくとも1つのシール材6を保持する保持部材5と、この保持部材5に取り付けられたブロック7および作動部材8を含む。
【0023】
シール材6は、弁体4が弁座3に当接するときに、弁体4と弁座3の間をシールする。本実施形態では、互いに直径の異なる3つのシール材6がカプラー本体2の軸方向に並んで配置されている。シール材6の直径は、前方から後方に向かって大きくなる。このため、弁座3の内周面も後方に向かって拡径する階段状になっている。ただし、シール材6の数は1つまたは2つであってもよい。
【0024】
保持部材5は、カプラー本体2の軸方向に並ぶ3つの第1~第3ピース51~53に分割されている。最も後方に位置する第1ピース51は、最も直径の大きなシール材6を保持している。第1ピース51には、弁座3と当接する段差部54が設けられているとともに、上述した短管41が取り付けられている。
【0025】
中間に位置する第2ピース52は、中央のシール材6を保持しており、複数(図3ではそのうちの1つのみを図示)のボルトB2(図1,2では省略)により第1ピース51に固定されている。最も前方に位置する第3ピース53は最も直径の小さなシール材6を保持しており、複数(図3ではそのうちの1つのみを図示)のボルトB3(図1,2では省略)により第1ピース51に固定されている。第3ピース53には、作動部材8の固定用の複数のネジ穴53aが設けられている。
【0026】
ブロック7は、保持部材5の先端側の表面(シール材6の内側で前方を向く表面)を覆っている。ブロック7は、樹脂からなる。ブロック7を構成する樹脂は、低い熱伝導率を有することが望ましい。
【0027】
作動部材8は、ブロック7を収容しながら保持部材5から開口30を通って突出する。作動部材8は、金属からなる。例えば、作動部材8を構成する金属は、銅合金である。
【0028】
より詳しくは、作動部材8は、ブロック7を収容するドーム部81と、ドーム部81からカプラー本体2の中心線に沿って延びるロッド部84を含む。そして、ドーム部81が複数(図3ではそのうちの1つのみを図示)のボルトB4(図1,2では省略)を使用して保持部材5に固定されている。
【0029】
本実施形態では、ボルトB4として両端にネジ山が形成されたボルトが用いられている。ボルトB4の一方のネジ山は保持部材5の第3ピース53に設けられたネジ穴53aに螺合しており、ボルトB4の他方のネジ山にはナットNが螺合している。つまり、本実施形態では、ドーム部81がボルトB4およびナットNにより保持部材5に固定されている。
【0030】
図3に示すように、ドーム部81は、ブロック7を取り囲む周壁82と、ブロック7を挟んで保持部材5と対向する天井壁83を有する。周壁82は、保持部材5から前方に延びるストレート部と、ストレート部の前端から縮径するテーパー部を有する。そして、テーパー部の前端に、天井壁83の周縁が接続されている。本実施形態では、ストレート部の肉厚が、テーパー部の肉厚の半分以下である。
【0031】
天井壁83と保持部材5との間には複数のスリーブ71が介在している。これらのスリーブ71内に、複数のボルトB4がそれぞれ挿通されている。ボルトB4およびスリーブ71は、例えば、ステンレス鋼からなる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の緊急離脱機構1では、弁体4の作動部材8はカプラー11同士の分離時に開口30を通じて大気中に露出するものの、作動部材8は金属製であるので、作動部材8の表面への静電気の帯電を防止することができる。しかも、作動部材8は、保持部材5の先端側の表面を覆う樹脂製のブロック7を収容しているので、保持部材5と作動部材8との間の熱伝達が抑制される。従って、荷役流体が液化水素のように極めて低温であっても、弁体4の作動部材8の周囲での酸素の液化を抑制することができる。仮に作動部材8の表面上に液体酸素が生成されたとしても、ブロック7を構成する着火可能性のある樹脂にその液体酸素が直接接触することが防止される。
【0033】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0034】
例えば、作動部材8のドーム部81の保持部材5への固定に使用されるボルトB4は、必ずしも両端にネジ山が形成されたボルトである必要はない。例えば、図4に示すように、ボルトB4として頭部を有するボルトが用いられ、このボルトB5によりドーム部81が保持部材5に固定されてもよい。
【0035】
また、図3に示すスリーブ71が用いられる代わりに、図4に示すように、作動部材8のドーム部81の周壁82が肉厚のストレート部を有してもよい。ただし、前記実施形態のようにスリーブ71が用いられれば、ボルトB4を使用した締結力をスリーブ71によって受けることができるので、作動部材8のドーム部81の周壁82を薄くすることができる。これにより、保持部材5と作動部材8との間の熱伝達をいっそう抑制することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 緊急離脱機構
11 カプラー
12 クランプ
2 カプラー本体
3 弁座
30 開口
4 弁体
5 保持部材
6 シール材
7 ブロック
71 スリーブ
8 作動部材
81 ドーム部
82 周壁
83 天井壁
84 ロッド部
9 スプリング
B1~B4 ボルト
図1
図2
図3
図4