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特許7245030スチレン系樹脂組成物、シート、及び成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、シート、及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20230315BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230315BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C08L25/04
C08K3/34
C08J9/04 CET
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018217655
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020083969
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】菅原 末樹
(72)【発明者】
【氏名】川崎 敏晴
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-107882(JP,A)
【文献】特開2011-241097(JP,A)
【文献】特開2015-189869(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を100質量部と、結晶形がY型であり、SiOのAlに対するモル割合(SiO/Al)が50~400である疎水性ゼオライトを0.02~0.45質量部とを含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記疎水性ゼオライトの細孔径が5.0~11.0Åであり
スチレン単量体の含有量が120μg/g以下であり、
スチレン二量体と三量体との合計含有量が2000μg/g以下であり、
前記スチレン系樹脂以外の他の樹脂の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物全体に対して20質量%以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂を100質量部と、結晶形がY型であり、SiOのAlに対するモル割合(SiO/Al)が96~400である疎水性ゼオライトを0.02~0.45質量部とを含有する、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記疎水性ゼオライトの平均粒子径が1~20μmである、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記疎水性ゼオライトが合成ゼオライトである、請求項1~3のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、発泡シート。
【請求項6】
請求項5に記載の発泡シートからなることを特徴とする、成形品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、非発泡シート。
【請求項8】
請求項7に記載の非発泡シートからなることを特徴とする、成形品。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物、シート、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、その優れた成形性に加えて、水に対する抵抗性や電気特性に優れる等の多くの長所を有し、各種成形方法により成形され、電気製品材料、雑貨、食品容器、包装材料として大量に用いられている。しかしながら、樹脂中の残留スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体が多いと、樹脂の射出成形時、非発泡又は発泡シートの押出時、或いはこれらのシートの加工時に臭気が発生する場合がある。また、食品容器においては、これらが容器内容物へ移行する場合があることから、樹脂中のスチレンの単量体やスチレンの二量体、三量体の低減が求められている。また同時に色調、外観に優れたものが求められている。
【0003】
スチレン系樹脂は、一般的には溶液重合法や塊状重合法で製造され、その工程は、スチレン単量体を重合する重合工程と、未反応のスチレン単量体や重合溶媒を除去する脱揮工程とからなる。樹脂中のスチレン単量体は、脱揮工程で高温、高真空にすることにより低減できるが、反面、高温にしすぎると樹脂の熱分解が激しくなり、スチレン単量体の発生が増大し、それ故に、脱揮工程での除去は低減に限界があるのと共に、樹脂の分子量低下が大きくなるという課題がある。
【0004】
また製造された樹脂から成形品を得る場合、射出成形や押出発泡シートの作製、その後の二次加工等で熱履歴により樹脂が分解し、成形品中のスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体が増加する等の課題があり、これらの増加の少ない樹脂が求められている。溶液重合法や塊状重合法で製造される汎用のポリスチレンは、一般的にはスチレン単量体が140~300μg/g程度含有されている。特に食品用途においては、スチレン単量体量の更なる低減が求められており、例えば、成形加工品で120μg/g以下等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-182840号公報
【文献】特開2001-329128号公報
【文献】特開2008-94919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、従来、樹脂中のスチレンの単量体やスチレンの二量体、三量体を低減させたスチレン系樹脂としては、例えば特許文献1~3が挙げられる。具体的には、特許文献1では、スチレン系樹脂と疎水性ゼオライトとからなる組成物より得られた成形品において、VOC(スチレン等のガス)の発生が少ないことが開示されている。また、特許文献2では、人工ゼオライトを含有するスチレン系樹脂を積層してなるスチレン系樹脂積層発泡シート容器において、スチレンダイマー、スチレントリマーがゼオライトに吸着され、溶出量が低減することが開示されている。さらに、特許文献3では、スチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂に疎水性ゼオライトを練り込んだ樹脂において、成形、加工時に臭気が少なく、更には得られた成形品の臭気が少ないことが開示されている。
しかし、上記のような従来のスチレン系樹脂では、樹脂中のスチレンの単量体やスチレンの二量体、三量体の低減がまだ十分とは言えず、また、同時に色調、外観に優れたものが求められている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、低臭気であるとともに、優れた色調及び外観を有するシート及び成形品を得ることができるスチレン系樹脂組成物、並びに、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、低臭気であるとともに、優れた色調及び外観を有するシート及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、スチレン系樹脂に特定の性状を有する疎水性ゼオライトを特定の割合で添加することで、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、臭気の少ないスチレン系樹脂組成物が得られ、更には樹脂組成物の加工時にもスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量の増加が少なく、色調と外観に優れたシート及び成形品が得られるスチレン系樹脂組成物を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)
スチレン系樹脂を100質量部と、結晶形がY型であり、SiOのAlに対するモル割合(SiO/Al)が50~400である疎水性ゼオライトを0.02~0.45質量部とを含有することを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
(2)
前記疎水性ゼオライトの細孔径が5.0~11.0Åである、上記(1)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(3)
前記疎水性ゼオライトの平均粒子径が1~20μmである、上記(1)又は(2)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(4)
前記疎水性ゼオライトが合成ゼオライトである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
(5)
スチレン単量体の含有量が120μg/g以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
(6)
スチレン二量体と三量体との合計含有量が2000μg/g以下である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
(7)
上記(1)~(6)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、発泡シート。
(8)
上記(7)に記載の発泡シートからなることを特徴とする、成形品。
(9)
上記(1)~(6)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、非発泡シート。
(10)
上記(9)に記載の非発泡シートからなることを特徴とする、成形品。
(11)
上記(1)~(6)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、低臭気であるとともに、優れた色調及び外観を有するシート及び成形品を得ることができるスチレン系樹脂組成物、並びに、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、低臭気であるとともに、優れた色調及び外観を有するシート及び成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明を行うが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<スチレン系樹脂組成物>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂を100質量部と、結晶形がY型であり、SiOのAlに対するモル割合(SiO/Al)が50~400である疎水性ゼオライトを0.02~0.45質量部とを含有することを特徴とする。
【0013】
《疎水性ゼオライト》
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含まれるゼオライトは、結晶がY型であり、SiOのAlに対するモル割合(SiO/Al)が50~400である疎水性ゼオライトであり、SiO/Alは、好ましくは60~350、より好ましくは70~300である。結晶形がY型で、且つSiO/Alを50以上にすることで、色調(YI)に非常に優れたものが得られる。また、結晶形がY型で、且つSiO/Alを400以下にすることで、スチレン系樹脂組成物中のスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量を低減する効果に優れる。
また、疎水性ゼオライトの結晶形がY型であることで、優れた色調(YI)にすることができ、またスチレン系樹脂組成物中のスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量を効果的に低減することができる。
なお、疎水性ゼオライトのSiOとAlのモル比の割合は、固体29Si NMR法で求めることができる。また結晶形は、粉末X線-リートベルト法で求めることができる。
【0014】
本実施形態の疎水性ゼオライトの細孔径は、5.0~11.0Åであることが好ましく、より好ましくは5.5~10.5Å、更に好ましくは6.0~10.0Åである。細孔径を5.0Å以上にすることで、細孔径が小さ過ぎてスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体を吸着しにくくなることを避けることができる。一方、細孔径を11.0Å以下にすることで、吸着した成分が脱着し易くなることを避けることができる。
なお、疎水性ゼオライトの細孔径は、窒素ガス吸着法により求めることができる。
【0015】
本実施形態の疎水性ゼオライトの平均粒子径は、1~20μmであることが好ましく、より好ましくは1~10μm、更に好ましくは2~7μmである。平均粒子径を1μm以上にすることで、樹脂との混合時に微粉が舞いにくくなり、ハンドリング性を向上させることができる。一方、平均粒子径を20μm以下にすることで、得られる成形品の外観を向上させることができる。
なお、疎水性ゼオライトの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計を用いて求めることができる。
【0016】
本実施形態の疎水性ゼオライトは、合成ゼオライトであることが好ましい。ゼオライトは大きく分けて天然ゼオライトと人工ゼオライトと合成ゼオライトの3種類があり、いずれも使用できるが、合成ゼオライトは不純物が少なく、細孔径の分布が狭く、また粒子径の分布が概ね2~20μmの範囲に調整されるため、特に好ましい。
【0017】
本実施形態の疎水性ゼオライトの含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対して、0.02~0.45質量部であり、0.04~0.40質量部であることが好ましく、0.06~0.3質量部であることがより好ましい。疎水性ゼオライトの含有量が0.02~0.45質量部であると、スチレン系樹脂組成物の物性が低下することなく、スチレン単量体の含有量を低下させることができ、且つ樹脂の色調にも優れる。
なお、スチレン系樹脂組成物中の疎水性ゼオライトの含有量は次の方法で求めることができる。スチレン系樹脂組成物を可溶な溶媒に溶解し、遠心分離機にてスチレン系樹脂組成物中の樹脂成分が溶解した上澄み液層とゼオライトが沈降した層に分離する。上澄み液をデカンテーションで捨てる。残りの沈降層を500℃に加熱、吸着されている溶剤等の物質を除去、その残渣分からゼオライトの含有量を求める。
【0018】
《スチレン系樹脂》
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含まれるスチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位を含む。スチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系誘導体が挙げられる。中でも特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる
また、本発明の効果を損なわない範囲で有れば、スチレン系樹脂は、上記のスチレン系単量体と、スチレン系単量体と共重合可能な別の単量体と、を含む共重合体であってもよく、好ましくは、スチレン系単量体を60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%含む共重合体である。
スチレン系単量体と共重合可能な別の単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、セチルメタクリレート等のアクリル酸及びメタクリル酸のエステル、或いはアクリロニトリル、ジメチルフマレート、エチルフマレート等の各種単量体が挙げられ、これらの単量体を1種単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。また、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の2官能性単量体を併用してもよい。
さらに、上記スチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体であるポリスチレンと1,3-ブタジエンとを含有するハイインパクトポリスチレン等のゴム質を含有するものであってもよい。
【0019】
本実施形態のスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万~50万、より好ましくは15万~45万、更に好ましくは20万~40万である。重量平均分子量を10万以上とすることにより、得られる樹脂組成物の脆性を向上させることができる。また、重量平均分子量を50万以下とすることにより、樹脂組成物の流動性、ひいては加工性を確保することができる。
なお、スチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0020】
本実施形態のスチレン系樹脂の重合方法としては、特に限定されないが例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等の公知のスチレン重合方法が挙げられ、中でも、溶液重合或いは塊状重合がコストの点で好ましい。
反応器の形状は、特に制限はないが、完全混合型反応器、層流型反応器、及び循環型反応器を適宜組み合わせて使用することができる。
【0021】
重合溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。
【0022】
本実施形態のスチレン系樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料中に、典型的には重合開始剤を含有させることが好ましい。
重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、中でも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
重合開始剤は、スチレン系単量体に対して0.005~0.1質量%使用することが好ましい。
【0023】
連続重合の場合、重合工程終了後に未反応モノマーと重合溶媒とを除去するために、脱揮工程を設けることができるが、一般的には予熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。予熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機としては、例えば、予熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は予熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機を直列に接続したものが挙げられるが、揮発分を極力低減するためには、予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの又は予熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機を直列に接続したものが好ましい。予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続する場合、1段目の真空脱揮槽での樹脂温度は180~250℃に調整し、1段目出口の未反応モノマーと重合溶剤の合計量が3~7質量%となるよう圧力を調整し(おおよそ5~10kPa)、2段目の真空脱揮槽では樹脂温度を200~250℃、圧力2kPa未満で脱揮することが好ましい。また、1段目の真空脱揮槽で揮発分を低減した後、ポリマー流量に対して0.2~1.0質量%の水を添加し、ミキサーにて混合した後、2段目真空脱揮槽にて圧力2kPa未満で脱揮する方法も適用できる。
【0024】
《添加剤等》
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、所望に応じて、通常用いられている添加剤、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を添加することができる。また、他の樹脂、例えば、一般のポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合エラストマー、部分的にまたは完全に水素添加されたスチレン-ブタジエン共重合エラストマー、ポリフェニレンエーテル等を配合することもできる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物における添加剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましく1質量%以下である。また、他の樹脂の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%、さらに好ましく10質量%以下である。
【0025】
《スチレン系樹脂組成物の特性》
以下、スチレン系樹脂組成物の特性について記載する。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含まれるスチレン単量体の含有量は、好ましく120μg/g以下であり、より好ましくは100μg/g以下、更に好ましくは80μg/g以下である。120μg/g以下にすることにより臭気の点で大幅に改善される。また、成形品である食品包装容器から容器内容物等へのスチレン単量体の移行の点でも、スチレン単量体はより少ない方が好ましい。
スチレン系樹脂組成物中のスチレン単量体の含有量を120μg/g以下とするためには、例えば、重合溶液中の樹脂固形分の濃度を60~90質量%にすることで、ポリマー成分を増やし、スチレン単量体量を低減する方法や、脱揮時の温度を200~260℃、圧力を20kPa以下にすることで、スチレン単量体を除去しやすくする方法等がある。また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物が含有する所定のゼオライトが、スチレン単量体の含有量を当該範囲にするために寄与する。
なお本開示で、スチレン単量体の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0026】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含まれるスチレン二量体と三量体との合計含有量は、好ましくは2000μg/g以下であり、より好ましくは1800μg/g以下、更に好ましくは1500μg/g以下である。2000μg/g以下にすることにより臭気への影響が少なくなる。また、射出成形時の金型や、樹脂組成物の押出時のダイス出口での析出による付着物が少なく、好ましい。また、成形品である食品包装容器から容器内容物等へのスチレン二量体と三量体の移行の点でも、スチレン二量体と三量体はより少ない方が望ましい。
スチレン二量体と三量体を例示すると、二量体としては、1,3-ジフェニルプロパン、2,4-ジフェニルー1ブテン、1,2-ジフェニルシクロブタン、1-フェニルテトラリンが挙げられ、三量体としては、2,4,6-トリフェニルー1-ヘキセン、1-フェニルー4-(1’-フェニルエチル)テトラリン等が挙げられる。
スチレン系樹脂組成物中のスチレンの二量体及び三量体の合計含有量を2000μg/g以下とするためには、例えば、スチレン系樹脂の重合時に生成する量を減らすために、反応温度を80~140℃と低くする方法や、重合開始剤を100~2000質量ppm添加し、多くの開始剤ラジカルを発生させる方法がある。また、熱や溶融樹脂のせん断により発生する量を減らすために、未反応モノマーや溶媒を真空脱揮する際の圧力を20kPa以下と低くする方法等がある。また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物が含有する所定のゼオライトが、スチレンの二量体及び三量体の合計含有量を当該範囲にするために寄与する。
なお本開示で、スチレンの二量体と三量体との合計含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0027】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物を圧縮成形機で、190℃、6分加熱後得た、直径30mm、厚さ2.5mmの圧縮試験片を用い、反射法でASTM D 1925に準拠して測定したYIが、好ましくは9以下であり、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下である。当該YIが9以下であることにより、優れた色調を有するシート及び成形品を得ることができる。
本実施形態で、スチレン系樹脂組成物中のスチレン単量体、スチレン二量体と三量体を所定量以下にして、且つスチレン系樹脂組成物のYIを9以下とするためには、スチレン系樹脂組成物が含有する所定のゼオライトが寄与する。
【0028】
<発泡シートおよび非発泡シート>
本実施形態のシートは、上記の本発明に係る実施形態のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする。シートは、非発泡及び発泡のいずれであってもよい。
【0029】
本実施形態のシートに含まれるスチレン単量体の含有量は、好ましく120μg/g以下であり、より好ましくは100μg/g以下、更に好ましくは80μg/g以下である。120μg/g以下にすることにより臭気の点で大幅に改善される。また、成形品である食品包装容器から容器内容物等へのスチレン単量体の移行の点でも、スチレン単量体はより少ない方が好ましい。
【0030】
本実施形態のシートに含まれるスチレン二量体と三量体との合計含有量は、好ましくは1500μg/g以下であり、より好ましくは1300μg/g以下、更に好ましくは1200μg/g以下である。1500μg/g以下にすることにより臭気への影響が少なくなる。また、成形品である食品包装容器から容器内容物等へのスチレン二量体と三量体の移行の点でも、スチレン二量体と三量体はより少ない方が望ましい。
【0031】
《発泡シート》
発泡シートの厚みは、成形性と容器強度の観点から、0.7~3.0mmであることが好ましい。発泡シートの厚みは、ダイスの構造等の設備構造や樹脂の処理流量、及びシートの引取速度等の運転条件により、調整することができる。
【0032】
発泡シートの発泡倍率は、容器の強度と軽量化の観点から、3~20倍であることが好ましい。
なお、発泡シートの発泡倍率は、発泡シートの密度(ρf)及びスチレン系樹脂組成物の密度(ρ)を用いて、次式より算出される値である。
発泡倍率=ρ/ρf
【0033】
発泡シートを製造する際、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては、通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としては、ブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また、発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0034】
発泡シートは、発泡押出し後に、シートを加熱しながらロールで1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで1.3倍から7倍程度延伸してもよい。
【0035】
発泡シートは、例えば、フィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類としては、一般のポリスチレンやポリプロピレンやポリプロピレン/ポリスチレンの張合せフィルム等である。
【0036】
《非発泡シート》
非発泡シートの厚みは、成形性と容器強度の観点から、0.1~2mmであることが好ましい。
非発泡シートは通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよいが、特にロールで1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで1.3倍から7倍程度延伸してもよい。
【0037】
<成形品>
本実施形態の成形品は、上記の本発明に係る実施形態のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする。また、本実施形態の成形品は、上記の本発明に係る実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む非発泡シートや発泡シートから、二次成形加工により得ることができ、当該成形品は種々の形態を有することができる。本実施形態の成形品は、食料品トレー、弁当箱、即席麺容器、及びカップ等に広く用いることができる。
【0038】
本実施形態の成形品に含まれるスチレン単量体の含有量は、好ましく120μg/g以下であり、より好ましくは100μg/g以下、更に好ましくは80μg/g以下である。120μg/g以下にすることにより臭気の点で大幅に改善される。また、食品包装容器として用いた場合の容器内容物等へのスチレン単量体の移行の点でも、スチレン単量体はより少ない方が好ましい。
【0039】
本実施形態の成形品に含まれるスチレン二量体と三量体との合計含有量は、好ましくは1500μg/g以下であり、より好ましくは1300μg/g以下、更に好ましくは1200μg/g以下である。1500μg/g以下にすることにより臭気への影響が少なくなる。また、食品包装容器として用いた場合の容器内容物等へのスチレン単量体の移行の点でも、スチレン単量体はより少ない方が好ましい。
【0040】
<スチレン系樹脂組成物、シート、及び成形品の製造方法>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は、特に限定されないが例えばスチレン系樹脂と疎水性ゼオライトとを溶融混合することで製造することができ、具体的には、単軸や二軸の押出機で溶融混合し、ストランド状に溶融押出し、次いで、ペレタイズすることでペレット状の樹脂組成物として製造することができる。また、シート(非発泡(ソリッド)シートや発泡シート)および成形品は、特に限定されないが例えば、シート押出機や射出成形機を用いることで製造することができる。また、シートおよび成形品は、スチレン系樹脂と疎水性ゼオライトとをシート押出機や射出成形機のホッパーに投入して溶融混合後、直接製造することもできる。さらに、成形品は、非発泡シートや発泡シートを用いて製造することもでき、非発泡シートである場合には、例えば真空成形や圧空成形等により成形して製造することができ、また、発泡シートである場合には、例えば真空成形により成形して製造することができる。
【0041】
樹脂の溶融混合時の温度は、好ましくは160℃~280℃、より好ましくは180℃~270℃、更に好ましくは200℃~260℃である。樹脂温度を160℃~280℃の範囲で溶融混合をすることで、スチレン単量体、更にはスチレンの二量体、三量体の一部が分解され、ゼオライトに効率よく吸着されるため、ゼオライトを除く樹脂組成物中のスチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の濃度が極めて少なく、且つ樹脂の分子量低下の少ないものが得られる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
《原料》
・スチレン系樹脂
スチレン単量体:スチレン
重合開始剤:1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(日油株式会社製、パーヘキサC)
重合溶媒:エチルベンゼン
【0044】
・スチレン系樹脂組成物
疎水性ゼオライトA:東ソー社製、ハイシリカゼオライトHSZシリーズ385HUA
疎水性ゼオライトB:ユニオン昭和社製、USKY-790
疎水性ゼオライトC:東ソー社製、ハイシリカゼオライトHSZシリーズ390HUA
疎水性ゼオライトD:東ソー社製、ハイシリカゼオライトHSZシリーズ960HOA
疎水性ゼオライトE:東ソー社製、ハイシリカゼオライトHSZシリーズ690HOA
疎水性ゼオライトF:東ソー社製、ハイシリカゼオライトHSZシリーズ360HUA
【0045】
・発泡シート
発泡核剤:タルク
発泡剤:イソブタン70質量%/ノルマルブタン30質量%の混合物
【0046】
[スチレン系樹脂PS1の製造]
第1反応器と第2反応器を並列に配置し、それぞれの反応器の出口を合流させた後、第3反応器入口に接続、更に第3反応器の後に第4反応器に直列に接続して重合工程を構成した。第1反応器は完全混合型で容量は5.4リットル、第2、第3、第4反応器は攪拌機付き層流型で、容量は各1.5リットルである。表1に記載の組成で原料溶液を作製し、作製した原料溶液を、第1反応器及び第2反応器に表1に記載の流量にて並列に連続的に供給した。
なお、第2、第3、第4反応器は、攪拌機付きであり、表1に示す温度で流れの方向に沿って入口部分から出口部分に温度勾配を付け、3ゾーンで温度制御を行った。第1反応器及び第4反応器出口の重合溶液中の樹脂固形分の濃度を測定した。表1に測定結果を示す。
続いて、第4反応器出口より連続的に取り出した重合溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、表1に記載の樹脂温度となるよう予熱器の温度を調整し、表1に記載の圧力に調整することで、未反応のスチレン単量体及びエチルベンゼンを分離した後、ダイスよりストランド状に押し出して冷却した後、切断してペレット化した。
【0047】
【表1】
【0048】
《測定及び評価方法》
測定方法と評価方法を以下に記す。
【0049】
(1)分子量の測定
スチレン系樹脂及び発泡シートについて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出:UV検出器
検量線の作成は東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。
【0050】
(2)スチレン単量体、二量体、及び三量体の含有量の測定
スチレン系樹脂、スチレン系樹脂組成物、シート、及び成形品における、スチレンの単量体、二量体、及び三量体の含有量(質量%)を、下記の条件や手順で、測定した。
・試料調製:スチレン系樹脂、スチレン系樹脂組成物、シート、又は成形品2.0gをメチルエチルケトン20mLに溶解後、更に標準物質入りのメタノール5mLを加え溶解した。スチレン系樹脂組成物を析出・静置後、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製ガスクロマトグラフィー GC6850
カラム:HP-1 30m、膜厚0.25μm、0.32mmφ
カラム温度:40℃で1分保持→20℃/分で320℃まで昇温→320℃で10分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:窒素
なお、スチレン系樹脂組成物の製造時におけるスチレン単量体の含有量の増減は、スチレン系樹脂組成物のスチレン単量体の含有量から、スチレン系樹脂組成物の製造に使用したスチレン系樹脂(PS1)のスチレン単量体の含有量を引いた差とした。また、スチレン系樹脂組成物の製造時におけるスチレン二量体と三量体との合計含有量の増減は、スチレン系樹脂組成物のスチレン二量体と三量体との合計含有量から、スチレン系樹脂組成物の製造に使用したスチレン系樹脂(PS1)のスチレン二量体と三量体との合計含有量を引いた差とした。
また、発泡シートの製造時におけるスチレン単量体の含有量の増減は、発泡シートのスチレン単量体の含有量から、発泡シートの製造に使用したスチレン系樹脂組成物のスチレン単量体の含有量を引いた差とした。また、発泡シートの製造時におけるスチレン二量体と三量体との合計含有量の増減は、発泡シートのスチレン二量体と三量体との合計含有量から、発泡シートの製造に使用したスチレン系樹脂組成物のスチレン二量体と三量体との合計含有量を引いた差とした。
【0051】
(3)メルトマスフローレート(MFR)の測定
スチレン系樹脂のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO1133に準拠し、200℃、49Nの荷重の条件にて測定した。
【0052】
(4)臭気の有無
スチレン系樹脂組成物を直径50mm、高さ100mmのガラスの円筒容器に30g入れ、金属キャップで密閉、70℃で3時間、恒温槽で加熱後、キャップを外し、以下の基準で臭気の有無を判定した。
◎:臭気が感じられない。
○:臭気が微かに感じられる。
×:臭気がはっきり感じられる。
【0053】
(5)発泡シートの色調
[発泡シートの製造]の製造で得た約15倍の発泡シートの色調を目視で判定した。
着色無し :着色が殆どなくほぼ白色
着色小 :着色が微かにある
着色大 :着色が強い
【0054】
(6)ダイス出口での析出物の発生の有無
スチレン系樹脂組成物のダイス出口での析出物の発生の有無は、後述の[非発泡(ソリッド)シートの製造]において、30mmφの単軸シート押出機でスチレン系樹脂組成物を連続的に3時間押出し、ダイス出口における析出物の有無を以下の基準で判定した。
◎:析出物がない。
○:析出物が微かにある。
×:析出物がある。
【0055】
(7)成形品の外観
成形品の外観は、後述の[成形品の製造]で得られた成形品の表面の外観を、以下の基準で判定した。
◎:肌荒れがない。
○:肌荒れが微かにある。
△:肌荒れがある。
【0056】
(8)成形品の色調YIの測定
本発明の成形品の色調YIの測定は、先の[スチレン系樹脂組成物の製造]で得た樹脂組成物を圧縮成形機で、190℃、6分加熱後、直径30mm、厚さ2.5mmの圧縮成形品を作製し、反射法でASTM D 1925に準拠して測定した。
【0057】
《実施例1~5、比較例1~6》
[スチレン系樹脂組成物の製造]
実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物の製造は、表2に記載のスチレン系樹脂組成物の組成に基づいて、スチレン系樹脂(種類:PS1)と疎水性ゼオライト(種類:A~I)とを混合した後、20mmφの二軸押出機(ナカタニ機械社製、AS-20-2二軸押出機)を用いて表2に記載の樹脂温度で、吐出量1kg/hr、回転数100rpmでストランド状に押出し、冷却後、ペレット化した。
得られたスチレン系樹脂組成物の物性を表2に示す。
【0058】
[発泡シートの製造]
実施例及び比較例の発泡シートの製造は、直径150mmφのサーキュラーダイを備えた押出発泡装置を用いて、上記で得たスチレン系樹脂組成物100質量部に対し、発泡剤としてイソブタン70質量%/ノルマルブタン30質量%の混合物3.0質量部、発泡核剤としてタルク0.2質量部を添加してなる混合物を押出し発泡成形して、厚さ約2mm、発泡倍率約15倍の発泡シートを製造した。樹脂溶融ゾーンの温度を200~230℃、ロータリークーラー温度を130~170℃、ダイス温度を150℃にそれぞれ調整した。
得られた発泡シートの物性を表2に示す。
【0059】
[非発泡(ソリッド)シートの製造]
実施例及び比較例の非発泡シートの製造は、上記で得たスチレン系樹脂組成物を用いて、30mmφの単軸シート押出機で、樹脂温度230℃で、Tダイからシートを押出した。
得られた非発泡シートの物性を表2に示す。
【0060】
[成形品の製造]
実施例及び比較例の成形品の製造は、上記で得たスチレン系樹脂組成物を用いて、射出成形機で、樹脂温度220℃で、縦80mm、横50mm、厚さ2mmの成形品を作製した。
得られた成形品の物性を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
[実施例1~実施例5]
実施例1~実施例5のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(PS1)に特定の性状(結晶形、SiO/Al、細孔径、平均粒子径)を有する疎水性ゼオライトを所定量添加し、溶融混合して得られたスチレン系組成物であり、スチレン単量体の含有量、スチレン二量体と三量体の合計含有量が極めて少なく、臭気性に優れ、更には色調と外観に優れる。これは、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体が、上記特定の疎水性ゼオライトに吸着されること及び疎水性ゼオライトの触媒効果により分解されて飛散すること等によると考えられる。更にはこれらのスチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡(ソリッド)シートや成形品のスチレン単量体の含有量、スチレン二量体と三量体の合計含有量も極めて少なく、加工時のこれらの増加が少ない。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シートの分子量(数平均分子量:Mn、重量平均分子量:Mw、Z平均分子量:Mz)は、元の原料であるスチレン系樹脂(PS1)からの低下が小さい。
【0063】
[比較例1]
比較例1のスチレン系樹脂組成物は、実施例1の疎水性ゼオライトの添加量を0.05から0.01質量部に変更した以外は実施例1と同様に得た。実施例1に比し、射出成形品のYI値が小さく、色調に優れたが、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が多く、臭気性に劣った。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が多かった。また、発泡シートの分子量は、実施例1に比し、低下が大きかった。
【0064】
[比較例2]
比較例2のスチレン系樹脂組成物は、実施例3の疎水性ゼオライトの添加量を0.32から0.50質量部に変更した以外は実施例1と同様に得た。実施例3に比し、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が少なく、臭気性に優れた。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が少なかった。また、発泡シートの分子量は、実施例3に比し、低下が小さかった。しかし発泡シートの色調に劣り、また圧縮成形品のYI値も大きかった。
【0065】
[比較例3]
比較例3のスチレン系樹脂組成物は、実施例3の疎水性ゼオライトの種類をA(385HUA)、SiOのAlのモル割合を96からゼオライトの種類をC(390HUA)、SiOのAlのモル割合を810に変更した以外は実施例3と同様に得た。実施例3に比し、射出成形品のYI値が小さく、色調に優れたが、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が多く、臭気性に劣った。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が多かった。また、発泡シートの分子量は、実施例3に比し、低下が大きかった。
【0066】
[比較例4]
比較例4のスチレン系樹脂組成物は、実施例3の疎水性ゼオライトの種類をA(385HUA)、結晶形をY型からゼオライトの種類をD(960HOA)、結晶形をベータ型に変更した以外は実施例3と同様に得た。実施例3に比し、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が少なく、臭気性に優れた。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が少なかった。また、発泡シートの分子量は、実施例3に比し、低下が小さかった。しかし発泡シートの色調に劣り、また圧縮成形品のYI値も大きかった。
【0067】
[比較例5]
比較例5のスチレン系樹脂組成物は、実施例2の疎水性ゼオライトの種類をA(385HUA)、結晶形をY型からゼオライトの種類をE(690HOA)、結晶形をモルデナイト型に変更した以外は実施例2と同様に得た。実施例3に比し、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が多く、臭気性に劣った。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が多かった。また、発泡シートの分子量は、実施例3に比し、低下が大きかった。更には発泡シートの色調に劣り、また圧縮成形品のYI値も大きかった。
【0068】
[比較例6]
比較例6のスチレン系樹脂組成物は、実施例3の疎水性ゼオライトの種類をA(385HUA)、SiOのAlのモル割合を96からゼオライトの種類をF(360HUA)、SiOのAlのモル割合を20に変更した以外は実施例3と同様に得た。実施例3に比し、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体との合計含有量が少なく、臭気性に優れた。また、スチレン系樹脂組成物から製造した発泡シート、非発泡シート、及び射出成形品は、スチレン系樹脂組成物と同様に、スチレン単量体、スチレン二量体と三量体の合計含有量が少なかった。また、発泡シートの分子量は、実施例3に比し、低下が小さかった。しかし発泡シートの色調に劣り、また圧縮成形品のYI値も大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、スチレン単量体、スチレンの二量体、三量体の含有量が少なく、臭気が少なく、色調と外観に優れることから、発泡及び非発泡シートの製造及びその二次成形加工に好適で、得られる成形品は食品包材等の用途に好適に使用できる。