(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】溶融電界紡糸用組成物、並びに繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20230315BHJP
D01F 6/04 20060101ALI20230315BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20230315BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230315BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C08L23/00
D01F6/04 Z
D01D5/04
C08L23/26
C08K5/41
(21)【出願番号】P 2018247916
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 武彦
(72)【発明者】
【氏名】米田 敬太郎
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190552(JP,A)
【文献】特開2017-197890(JP,A)
【文献】特開昭57-057744(JP,A)
【文献】特開平01-054068(JP,A)
【文献】特開2017-066584(JP,A)
【文献】特開2015-161051(JP,A)
【文献】特開2016-089317(JP,A)
【文献】特開2019-049078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
D01F 6/04
D01D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)の合計成分100質量部に対する下記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下である、溶融電界紡糸用組成物。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種。
【請求項2】
前記成分(B)が、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも一種である、請求項1に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン‐プロピレン共重合ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、酸変性ポリプロピレンワックス、酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス及び酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【請求項4】
前記成分(C)の融点又は滴点が90℃以上150℃以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【請求項5】
以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対する前記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下であり、
メジアン径が0.4μm以上3μm以下である、繊維を含むシート状体。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一
種。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の溶融電界紡糸用組成物の溶融液を電場中に吐出して電界紡糸法によって紡糸する、繊維の製造方法。
【請求項7】
前記溶融液を吐出する吐出ノズルを接地するとともに、該吐出ノズルと離間して配置された帯電電極を高電圧発生装置に接続して、前記吐出ノズルと前記帯電電極との間に前記電場を発生させる、請求項6に記載の繊維の製造方法。
【請求項8】
前記吐出ノズルと前記帯電電極とは別に、前記溶融電界紡糸用組成物から生成した繊維を捕集する捕集部を用い、前記捕集部が電気的に接続されている状態で該捕集部に繊維を捕集する、請求項
7に記載の繊維の製造方法。
【請求項9】
前記吐出ノズルから吐出された前記溶融液に向けて加熱流体を吹き付けて、該溶融液から生成した繊維を搬送する、請求項
7又は8に記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融電界紡糸用組成物に関する。また本発明は、繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶融樹脂を用いて細径の繊維を製造する電界紡糸法(以下、これを溶融電界紡糸法ともいう。)に関する提案が種々なされている。特許文献1には、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、ヒンダードアミン系添加剤を0.01~1重量部含有してなるポリオレフィン樹脂組成物を加熱溶融し、エレクトロスピニング法により紡糸する方法が開示されている。
【0003】
また、本出願人は先に、融点を有する樹脂とアルキルスルホン酸塩等の添加物とを含む混合物を用いて電界紡糸する繊維の製造方法を提案した(特許文献2参照)。この製造方法は、原料樹脂を安定的に帯電させて、細径の繊維を電界紡糸することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-161051号公報
【文献】特開2017-190552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、細径の繊維はさまざまな分野で用いられており、繊維の更なる細径化や、繊維の表面物性の改良が望まれている。溶融電界紡糸法において、より細径で、且つ所望の表面物性を有する繊維を効率良く製造するためには、所望の表面物性を発現させるための添加剤を用いるとともに、該添加剤を含む溶融樹脂の帯電性及び流動性を高くすることが必要である。特許文献1及び2に記載の方法は細径繊維を製造可能であるが、製造された繊維の更なる細径化と、該繊維の所望の表面物性の発現、特に繊維表面での親水性の発現との両立に関して改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、更に細径で、且つ所望の表面物性を有する繊維を効率よく製造可能な溶融電界紡糸用組成物、並びに繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)の合計成分100質量部に対する下記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下である、溶融電界紡糸用組成物を提供するものである。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種。
【0008】
また本発明は、以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対する前記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下であり、
メジアン径が0.4μm以上3μm以下である、繊維を提供するものである。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種。
【0009】
また本発明は、前記溶融電界紡糸用組成物の溶融液を電場中に吐出して電界紡糸法によって紡糸する、繊維の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融電界紡糸法によって、繊維表面が親水性であり、且つより細い繊維径を有する繊維を高い生産効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、製造装置を用いた繊維の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の溶融電界紡糸用組成物は、成分(A)としてポリオレフィン樹脂と、成分(B)として硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種と、成分(C)としてポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種とを含み、且つ成分(C)を所定の割合で含むものである。溶融電界紡糸とは、高電圧が印加されている状態で繊維の原料となる樹脂を含む溶融液を電界中へ吐出することによって、吐出された溶融液が細長く引き伸ばされ、繊維径が細い繊維を形成することができる方法である。
【0013】
成分(A)であるポリオレフィン樹脂は、溶融電界紡糸において繊維形成性を有し、融点を有するものである。「融点を有する」樹脂とは、示差走査熱量測定法(DSC法)において、測定対象の樹脂を加熱していったときに、該樹脂が熱分解する前に、固体から液体へ相変化することに起因する吸熱ピークを示す樹脂のことである。前記成分(A)は、その重量平均分子量が、好ましくは1万以上、更に好ましくは4万以上、また、好ましくは15万以下、更に好ましくは10万以下のものである。重量平均分子量は、例えば特開2014-129614号公報に記載の高温サイズ排除型クロマトグラフィー(高温SEC)法又は高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(高温GPC)法を用い、重量平均分子量が既知であり且つ重量平均分子量がそれぞれ異なるポリスチレン標準試料(例えば、東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン(型番:F450、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、A500及びA300))を前記高温SEC法又は高温GPC法に供して分子量較正曲線を予め作成し、該較正曲線と測定試料の結果とを比較することによって測定することができる。
【0014】
ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィンコポリマー樹脂、エチレン-プロピレンコポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの樹脂を用いることによって、溶融電界紡糸を効率よく行うことができる。
【0015】
成分(B)である硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種は、一般的に疎水性であるポリオレフィン樹脂を改質して、電場中で高い帯電量を発現させて細径の繊維を電界紡糸可能にするとともに、紡糸された繊維の表面物性を親水性にするために用いられる。ポリオレフィン樹脂の帯電量をより向上させて紡糸性を高める観点から、成分(B)は、その融点が、併用されるポリオレフィン樹脂の融点以下であることが好ましい。なお、繊維に発現する親水性とは、水又は水性液への繊維の分散性が高くなること、及び繊維間での水又は水性液の保持性が高くなることを指す。親水性は、例えば後述する実施例に詳述するように、接触角や液濡れ性を指標として評価することができる。
【0016】
本発明に用いられる硫酸エステル塩は、アニオン性界面活性剤の一種である。硫酸エステル塩とは、分子構造中の末端にアルキル基を有し、且つ分子構造中の任意の位置に硫酸基を有する有機化合物の塩を指す。このような硫酸エステル塩としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩(R-O-SO3M)等のアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(R-O-(CH2CH2O)n-SO3M)等のアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明に用いられるスルホン酸塩も同様に、アニオン性界面活性剤の一種である。スルホン酸塩とは、分子構造中の末端にアルキル基及び芳香環のいずれかを有するか、あるいは分子構造中の一部にアルキレン基を有し、且つ分子構造中の任意の位置にスルホ基を有する有機スルホン酸の塩を指すものである。
【0018】
このようなスルホン酸塩としては、例えば、アルキルスルホン酸塩(R-SO3M)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(R-Ph-SO3M)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(R-Np-SO3M)、オレフィンスルホン酸塩(R-CH=CH-(CH2)n-SO3M及びR-CH(-OH)(CH2)n-SO3M)、アルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH2-CH(-SO3M)-COOM)、ジアルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH2-CH(-SO3M)-COO-R)、α-スルホ脂肪酸エステル塩(R-CH(-SO3M)-COO-CH3)、アシルイセチオン酸塩(R-CO-O-(CH2CH2)-SO3M)、アシルタウリン塩(R-CO-NH-(CH2)2-SO3M)、アシルアルキルタウリン塩(R-CO-N(-R’)-(CH2)2-SO3M)等のN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩、β‐ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物(M-O3S-Np-(CH2-Np(-SO3M))n-H)等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
上述した硫酸エステル塩及びスルホン酸塩において、Rは、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。R’は、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは5以下である。Phは、置換されていてもよいフェニル基を表す。Npは、置換されていてもよいナフチル基を表す。Mは一価の陽イオンを表し、好ましくは金属イオンであり、更に好ましくはナトリウムイオンである。nは、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上の数であり、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下の数を表す。これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩は、これらのうち一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。
【0020】
これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも一種を用いることが好ましく、N‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩を用いることが更に好ましい。成分(B)としてこのような成分を用いることによって、細い繊維径を有する繊維を一層効率よく溶融電界紡糸することができるとともに、紡糸された繊維の表面に親水性が付与されたものとなる。
【0021】
成分(C)であるポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種は、本発明の溶融電界紡糸用組成物を溶融して電界紡糸に供するときに、成分(B)による繊維表面の親水化に影響を及ぼすことなく、溶融した該組成物の流動性を高めて、より細径の繊維を製造可能にするために用いられるものである。前記成分(C)は、その重量平均分子量が前記成分(A)よりも小さいものであり、詳細には、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1000超、一層好ましくは2000以上、また、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、更に好ましくは9000以下、一層好ましくは8000以下のものである。重量平均分子量は、例えば上述した成分(A)と同様の方法で測定することができる。
【0022】
本発明に用いられるポリオレフィンワックスは、直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の一種以上からなる合成物を指すものであり、好ましくは直鎖又は分枝鎖であり且つ非環式のアルカンである。ポリオレフィンワックスとしては、例えば、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス、H-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックス等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上述したポリオレフィンワックスの各化学式において、qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表す。r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表す。tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、更に好ましくは110以下の数を表す。
【0024】
本発明に用いられる変性ポリオレフィンワックスは、直鎖又は分枝鎖の炭化水素を酸化させて、ポリオレフィンワックス分子鎖中の任意の位置にカルボキシ基等のアニオン性基を有するもの(以下、これを「酸化ポリオレフィンワックス」ともいう。)、あるいはポリオレフィンワックスと無水マレイン酸とのグラフト重合によって、ポリオレフィンワックス分子鎖中の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有するもの(以下、これを「酸変性ポリオレフィンワックス」ともいう。)を指す。
【0025】
変性ポリオレフィンワックスとしては、例えば、HOOC-(CH2-CH2)q-COOHで表される酸化ポリエチレンワックス、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリエチレンワックス、HOOC-(CH2-CH(CH3))q-COOHで表される酸化ポリプロピレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリプロピレンワックス、HOOC-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-COOH、HOOC-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-COOH及びHOOC-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-COOHで表される酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス、H-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックス等が挙げられる。q、r、s及びtは、それぞれ独立して、上述したポリオレフィンワックスの場合と同様の数を表す。これらのワックスは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
これらのポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン‐プロピレン共重合ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、酸変性ポリプロピレンワックス、酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス、及び酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種を用いることが好ましく、ポリプロピレンワックス及びエチレン‐プロピレン共重合ワックスの少なくとも一種を用いることが更に好ましい。成分(C)としてこのような成分を用いることによって、溶融電界紡糸用組成物を溶融電界紡糸に用いるときに、該組成物の溶融液の流動性を高めて吐出及び延伸を効率よく行うことができ、その結果、より細径の繊維を高い生産効率で製造することができる。
【0027】
溶融電界紡糸を安定的に実施する観点から、溶融電界紡糸用組成物に含まれる成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計成分100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、また、98質量部以下であることが好ましく、97質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましい。
【0028】
細径繊維の製造効率の向上と、製造された細径繊維の親水性の発現とを両立する観点から、溶融電界紡糸用組成物に含まれる成分(B)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計成分100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることが更に好ましい。
【0029】
溶融した組成物の流動性を高めて、より細径の繊維を製造可能とする観点から、溶融電界紡糸用組成物に含まれる成分(C)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、また、20質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい。
【0030】
また、溶融した組成物の流動性を更に高めて、繊維の更なる細径化と、該繊維の製造量の更なる向上とを両立させる観点から、成分(C)の融点又は滴点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましく、また、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。融点又は滴点は、例えば融点・滴点測定装置(メトラー・トレド社製、型番:DP90 自動滴点・軟化点測定システム)を用いて、JIS K 0064又はJIS K 2220に準じて測定することができる。
【0031】
本発明の溶融電界紡糸用組成物は、上述した成分(A)、成分(B)及び成分(C)に加えて、本発明の効果を損なわない限り、成分(D)として、添加剤を配合して使用することもできる。成分(D)である添加剤としては、例えば酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属不活性剤などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤及びチオ系酸化防止剤などが例示できる。光安定剤及び紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン類、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。金属不活性剤としては、フォスフォン類、エポキシ類、トリアゾール類、ヒドラジド類、オキサミド類等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。溶融電界紡糸用組成物が成分(D)を更に含む場合、該組成物に含まれる成分(D)の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい。この場合、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各成分は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計成分100質量部に対する含有量が上述した範囲にあればよい。
【0032】
溶融電界紡糸用組成物を製造する方法は特に制限はなく、例えば加熱して溶融させた成分(A)に、成分(B)及び成分(C)を添加し、必要に応じて成分(D)を更に添加して、これらを混練することによって製造することができる。このような溶融電界紡糸用組成物は、予め溶融した成分(A)中に成分(B)及び成分(C)を添加して混練することでマスターバッチとして製造してもよく、これに代えて、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を個別に後述する製造装置へ供給し、その装置内で加熱溶融しながら混練して製造してもよい。溶融電界紡糸用組成物をマスターバッチとして製造した場合は、冷却してペレット状等の形状に成形して固形物として保管することができる。
【0033】
以上の構成を有する溶融電界紡糸用組成物によれば、成分(A)及び成分(B)を含むことによって、該組成物の性質を損なうことなく、溶融した該組成物に電界紡糸に適した帯電量を付与させて、繊維の製造効率の向上と、紡糸される繊維の細径化とを実現するとともに、紡糸された繊維の表面に親水性を発現させることができる。これに加えて、前記組成物に成分(C)を所定の割合で含有させることによって、溶融した該組成物の粘度を低下させて流動性を高めるとともに、成分(B)を成分(A)中に分離又は分散させて、電界紡糸時の該組成物の帯電量を高めることができる。その結果、更に細径で且つ親水性が発現した繊維を製造することができる。特に、溶融電界紡糸用組成物の好適な態様によれば、繊維の製造効率の向上と、紡糸される繊維の細径化と、紡糸された繊維の親水性の発現とを高いレベルで兼ね備えたものとなる。
【0034】
以上は、溶融電界紡糸用組成物に関する説明であったところ、以下に溶融電界紡糸用組成物を用いた繊維の製造方法について説明する。本方法は、上述した成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、且つ成分(C)を所定の割合で含む溶融電界紡糸用組成物を溶融電界紡糸法によって紡糸するものである。
【0035】
本発明の繊維の製造方法は、
図1に示す製造装置10によって好適に実施することができる。
図1に示す製造装置10は、溶融組成物供給部10A、電極部10B、流体噴射部10C及び捕集部10Dに大別される。
【0036】
製造装置10は、溶融組成物供給部10Aを備えている。溶融組成物供給部10Aは、上述した溶融電界紡糸用組成物の溶融液を吐出する吐出ノズル12と、溶融電界紡糸用組成物1Pを供給するホッパー19とを筐体11に備えている。
【0037】
筐体11では、ホッパー19から供給された溶融電界紡糸用組成物1Pを筐体11内で加熱溶融して、溶融電界紡糸用組成物の溶融液Rとすることができる。この溶融液Rは、筐体11に設けられたスクリュー(図示せず)によって、後述する吐出ノズル12の方向に向けて溶融液Rを供給できるようになっている。
【0038】
吐出ノズル12は、溶融電界紡糸用組成物の溶融液Rを電場中に吐出する部材であり、ノズルベース13と吐出ノズル先端部14とを備えている。吐出ノズル12は金属などの導電性材料から構成されている。ノズルベース13と吐出ノズル先端部14とは、絶縁性部材(図示せず)で電気的に絶縁されている。したがって、吐出ノズル先端部14に高電圧を加えても、筐体11に直接電圧が加わることが阻止される。筐体11、吐出ノズル12、及びノズルベース13はそれぞれ連通しており、筐体11内の溶融液Rは、吐出ノズル先端部14の吐出口から吐出できるようになっている。吐出ノズル先端部14にはアースを施してあり、接地されている。
【0039】
吐出ノズル先端部14は、例えばノズルベース13に設けられたヒーター(図示せず)からの伝熱や筐体11内の溶融液Rからの伝熱によって加熱されている。吐出ノズル先端部14における溶融液Rの加熱温度は、溶融電界紡糸用組成物の構成成分にもよるが、好ましくは100℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、好ましくは450℃以下、更に好ましくは400℃以下である。
【0040】
製造装置10は、更に電極部10Bを備えている。電極部10Bは、吐出ノズル12と離間して対向する位置に配置された帯電電極21と、これに接続された高電圧発生装置22とを備えている。
【0041】
帯電電極21は吐出ノズル先端部14から所定距離を隔てた位置に、吐出ノズル先端部14と向かい合わせに離間して配置されている。この構成によって、吐出ノズル12の該先端部14と、高電圧発生装置22によって高電圧が印加された帯電電極21との間に電場を発生させて、吐出ノズル先端部14から吐出された溶融液Rを帯電させることができるようになっている。帯電電極21は金属などの導電性材料で構成されているか、或いは誘電体で覆われていることが好ましい。
【0042】
吐出ノズル12と帯電電極21との距離は、所望の繊維の繊維径(直径)や後述する捕集電極27への集積性に依存するが、好ましくは10mm以上、更に好ましくは30mm以上、好ましくは150mm以下、更に好ましくは75mm以下である。吐出ノズル12と帯電電極21との距離がこの範囲であると、溶融液Rが電場中で十分に帯電させることができることに加えて、吐出ノズル12と帯電電極21との間でスパークやコロナ放電が起こりにくくなり、製造装置10の動作不良が起こりにくくなる。
【0043】
製造装置10は、更に流体噴射部10Cを備えている。流体噴射部10Cは、溶融組成物供給部10Aと電極部10Bとを結ぶ仮想直線の下側に、流体噴射装置23を備えている。流体噴射装置23は、溶融組成物供給部10Aと電極部10Bとの間に設けられている。
【0044】
吐出ノズル先端部14の先端と帯電電極21との間には、両者を結ぶ方向と交差する方向に向けて空気流Aが流れている。この空気流Aは流体噴射装置23から噴出している。吐出ノズル先端部14から吐出された溶融液Rは、空気流Aに搬送されることによって一層極細化した繊維を形成することができる。この目的のために空気流Aとして、加熱流体である空気を用いることが好ましい。加熱された空気の温度は、溶融電界紡糸用組成物の構成成分にもよるが、好ましくは100℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、また、好ましくは500℃以下、更に好ましくは400℃以下である。同様の目的のために、空気流Aを噴出させるときの流体噴射装置23の吐出口における空気流Aの流量は、好ましくは50L/min以上、更に好ましくは150L/min以上であり、また、好ましくは500L/min以下、更に好ましくは400L/min以下である。
【0045】
製造装置10は、更に捕集部10Dを備えている。捕集部10Dは、捕集シート24、搬送コンベア25、高電圧発生装置26及び捕集電極27を備えている。捕集部10Dは、溶融組成物供給部10Aと電極部10Bとを結ぶ仮想直線より上側の位置であって、且つ該流体噴射部10Cと対向する位置に設けられている。捕集部10Dは、それぞれが電気的に接続されている。
【0046】
捕集シート24は、空気流Aに搬送され引き延ばされて形成された繊維Fを捕集するものである。捕集シート24は、例えば長尺帯状のものとすることができる。捕集シート24は、原反ロール24aから繰り出されて搬送コンベア25に搬送される。捕集シート24は、ポリプロピレンなどの樹脂製とすることができる。
【0047】
搬送コンベア25は、下流の製造工程に溶融電界紡糸繊維を搬送するものである。搬送コンベア25の内部には、溶融電界紡糸された繊維を捕集するための捕集電極27が配置されている。捕集電極27には高電圧発生装置26が接続されており、該高電圧発生装置26によって捕集電極27に高電圧が印加される。捕集電極27に高電圧が印加されることで、繊維Fは負に帯電している搬送コンベア25側に引き寄せられて捕集シート24の表面に堆積する。また捕集電極27は、高電圧発生装置26に代えて、アースに接地されていてもよい。
【0048】
以上は、
図1に示す製造装置10の説明であったところ、以下に製造装置10を用いた本発明の繊維の製造方法を説明する。
【0049】
まず、ホッパー19に溶融電界紡糸用組成物1Pを充填し、筐体11内で溶融電界紡糸用組成物を加熱溶融する。その溶融液Rをスクリューの回転により吐出ノズル12に向けて押し出して、吐出ノズル先端部14の吐出口へ溶融液Rを供給する。
【0050】
次に、吐出ノズル先端部14から溶融液Rを電場中に吐出して、電界紡糸法によって紡糸する。この電場を発生させるには、例えば吐出ノズル12の先端部14を接地するとともに、帯電電極21を高電圧発生装置22に接続して電圧を印加することによって発生させることができる。帯電した溶融液Rは、溶融液R自体に発生した自己反発力によって延伸されるとともに、帯電電極21に向けて電気的引力によって引き寄せられる。その際に、溶融液Rは、引力と自己反発力とによる延伸を繰り返して極細繊維化する。
【0051】
電界紡糸時に溶融液Rを延伸させやすくして、製造される繊維を一層細径なものとする観点から、溶融電界紡糸用組成物の溶融液の粘度は、200℃及びせん断速度10s-1の条件において、1Pa・s以上であることが好ましく、4Pa・s以上であることが更に好ましく、また10Pa・s以下であることが好ましく、8Pa・s以下であることが更に好ましい。溶融液の粘度は、例えば回転式レオメータ(アントンパール社製、MCR302)を用いて測定することができる。
【0052】
同様の観点から、溶融した溶融電界紡糸用組成物のメルトフローレート(MFR)を、吐出ノズル先端部14の吐出口において、10g/min以上、特に100g/min以上に設定することが好ましい。メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に従い、例えば成分(A)としてポリプロピレン樹脂を用いた場合は、230℃、2.16kgの荷重下に、孔径2.095mm、長さ8mmのダイを用いて測定される。
【0053】
溶融液Rの引き伸ばしの効率化と、繊維の製造効率とを両立する観点から、溶融した溶融電界紡糸用組成物の吐出量は、1g/min以上であることが好ましく、2g/min以上であることが更に好ましく、また、20g/min以下であることが好ましく、5g/min以下であることが更に好ましい。
【0054】
その後、更に流体噴射装置23から溶融液Rに向けて空気流Aを吹き付けることによって、吐出ノズル先端部14から吐出された溶融液Rが更に延伸されるとともに、極細の繊維を生成させながら搬送される。吐出ノズル先端部14から吐出された溶融液Rは、帯電電極21に到達する前に空気流Aに搬送されることで、その飛翔方向が変化するとともに、溶融液Rが引き延ばされて極細化され固化することによって、繊維Fを生成する。溶融液Rから生成した繊維Fは、空気流Aによって搬送されるとともに、捕集電極27に生じている電気的引力により引き寄せられ、捕集シート24の流体噴射装置23と対向する面に堆積する。
【0055】
吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間に印加する印加電圧は、好ましくは-100kV以上、更に好ましくは-80kV以上であり、また、好ましくは-5kV以下、更に好ましくは-10kV以下である。印加電圧がこの範囲であると、溶融液Rが良好に帯電しやすくなり、繊維径の細い繊維の生産効率を一層高めることができる。また吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間でスパークやコロナ放電が起こりにくくなり、装置の動作不良が起こりにくくなる。
【0056】
本製造方法おいて吐出ノズル12から吐出された溶融液Rは、電場中に吐出されることに起因して、高い電荷を帯びている。溶融液Rの帯電量は、電界紡糸によって繊維を極細化する観点から、高ければ高いほど好ましく、具体的には、2000nC/g以上とすることが好ましく、3000nC/g以上とすることがより好ましく、5000nC/g以上とすることが更に好ましく、9000nC/g以上とすることが一層好ましい。このような帯電量は、溶融電界紡糸用組成物中の成分(B)として上述したものを用い、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各含有量を上述した範囲とすることで達成することができる。溶融液Rへの帯電量は、例えばファラデーケージ(春日電機株式会社製、KQ1400)内に配置した金属容器に帯電した溶融液Rを1分間捕集し、該ファラデーケージに接続したクーロンメータ(春日電機株式会社製、NK-1002A)を用いて測定することができる。測定条件は、27℃、50%RH、印加電圧:20kV、溶融液Rの吐出量:2g/min、溶融液Rの加熱温度:190℃、空気流Aの温度:340℃とすることができる。
【0057】
このように製造された繊維は、吐出ノズル12から捕集シート24までの間で、連続した1本の繊維と考えられる。仮に、製造の条件や周囲の環境等によって、一時的に繊維が切断したとしても、すぐに切断した繊維どうしが接触するようになり、結果として極細繊維は、吐出ノズル12から捕集シート24までの間で、あたかも連続した1本の繊維になっていると考えられる。
【0058】
以上の工程を経て製造された繊維は、上述した成分(A)、成分(B)及び成分(C)とを含む溶融電界紡糸用組成物を原料として紡糸されたものであり、溶融電界紡糸による該組成物の変質は実質的にないので、原料である溶融電界紡糸用組成物の組成と、製造物である繊維の組成は実質的に同一である。つまり、本発明の繊維は、上述した成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計成分100質量部に対して、成分(C)の含有量が好ましくは1質量部以上20質量部以下であるものである。また、本発明の繊維における成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)に関する説明は、上述した溶融電界紡糸用組成物に関する説明が適宜適用される。
【0059】
本発明によれば、溶融電界紡糸法を実施する条件に応じて、所望の繊維径及び繊維長を有する繊維を製造することができる。特に、ナノファイバと呼ばれる繊維径が極めて細い繊維を製造することができる。本発明の繊維の繊維径は、その繊維径を円相当直径で表したときに、そのメジアン繊維径が、好ましくは0.4μm以上であり、また好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下である。また、本発明の繊維の繊維長は、メジアン繊維長として、10mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることが更に好ましい。
【0060】
溶融電界紡糸法によって製造された繊維の繊維径及び繊維長は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察による二次元画像から溶融電界紡糸繊維の塊、溶融電界紡糸繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径とし、繊維の長手方向の長さを繊維長として直接読み取ることで測定することができる。測定した繊維径の分布からメジアン繊維径を求め、測定した繊維長の分布からメジアン繊維長を求めることができる。
【0061】
繊維表面に親水性を一層効果的に発現させる観点から、本発明の繊維は、加熱処理を行うことが好ましい。繊維の加熱処理の方法は特に制限されないが、例えば熱風を繊維に吹き付けて処理する方法や、赤外線を繊維に照射する方法、熱水などの加熱液体に繊維を浸漬する方法、加熱した一対のロール間に繊維を通過させる方法、恒温槽などの加熱された空間に繊維を保持する方法、加熱した金属板で挟んで繊維をプレスする方法等が挙げられる。これらの方法は、紡糸された繊維に対してそのまま行ってもよく、該繊維を所定の形状に成形して繊維の成形体とすると同時に行ってもよく、該成形体を形成した後に行ってもよい。
【0062】
繊維の親水性をより高く発現させるとともに、繊維の剛性を高める観点から、加熱処理を行う場合、繊維を成分(A)の融点以下の温度で加熱することが好ましい。詳細には、成分(A)の融点をMP(℃)としたときに、好ましくは(MP-100)℃以上、より好ましくは(MP-80)℃以上、更に好ましくは(MP-60)℃以上、一層好ましくは(MP-40)℃以上であり、また、好ましくは(MP-10)℃以下である。同様の観点から、例えば加熱工程における加熱方法を恒温槽などの加熱された空間に保持する方法とした場合、加熱時間は、好ましくは5分以上であり、また、好ましくは30分以下、更に好ましくは20分以下である。
【0063】
成分(A)として、例えば熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(融点:約150℃)を含む場合、加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、また、好ましくは140℃以下である。また同様の観点から、例えば加熱工程における加熱方法を恒温槽などの加熱された空間に保持する方法とした場合、加熱時間は、好ましくは5分以上であり、また、好ましくは30分以下、更に好ましくは20分以下である。
【0064】
本発明によって得られた繊維は、繊維表面に親水性が付与され、且つ細い繊維径を有しているものとなる。本発明の繊維は、これをそのままで、又は繊維を集積させた繊維の成形体として各種の目的に使用することができる。成形体の形状としては、シート状体、綿状体、糸状体などが挙げられる。繊維の成形体は他のシートと積層したり、各種の液体、微粒子、ファイバなどを含有させたりして使用してもよい。溶融電界紡糸法によって紡糸された繊維のシート状体は、長繊維や短繊維として織布や不織布などの繊維製品として利用でき、例えば医療目的や、美容目的、装飾目的等の非医療目的でヒトの肌、歯、歯茎、毛髪、非ヒト哺乳類の皮膚、歯、歯茎、枝や葉等の植物表面等に付着されるシートとして好適に用いられる。また、高集塵性でかつ低圧損の高性能フィルタ、高電流密度での使用が可能な電池用セパレータ、高空孔構造を有する細胞培養用基材等としても好適に用いられる。溶融電界紡糸繊維の綿状体は防音材や断熱材等として好適に用いられる。上述の用途以外に、電磁波シールド材、生体人工器材、ICチップ、有機EL、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子、光電変換素子などに用いることもできる。
【0065】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、
図1に示す製造装置10は、溶融組成物供給部10Aと流体噴射部10Cとをそれぞれ別に設けていたが、これに代えて、溶融組成物供給部10Aに流体噴射部10Cを組み入れてもよい。具体的には、特開2016-204816号公報に示すように、溶融電界紡糸用組成物の溶融液を吐出するノズルと、ノズルとの間に電場を発生させる電極と、該電極に電圧を印加する高電圧発生装置と、溶融電界紡糸用組成物から生成した繊維を捕集する捕集部を備え、筐体とノズルとの間に溶融液を流通可能な流通路が形成されており、該流通路を囲むように、流体噴射部が形成されている製造装置としてもよい。この場合、電極部10Bに代えて、捕集部10Dにおける捕集電極27に電圧を印加してノズルとの間に電場を発生させて、この状態で、吐出ノズル12から捕集部10Dに向けて溶融液を直接吐出できるようになっていてもよい。本形態における流体噴射部10Cは、吐出ノズル12における溶融液Rの吐出方向に沿って、空気流Aを噴射できるようになっている。
【0066】
また、
図1に示す製造装置10では、吐出ノズル12との間に電場を発生させる電極は、帯電電極21として、溶融組成物供給部10Aと別に設けられていたが、これに代えて、溶融組成物供給部10Aに帯電電極21を組み入れてもよい。詳細には、特開2016-204816号公報に示すように、帯電電極21が、吐出ノズル12を囲むように凹曲面が配置された凹曲面電極となっており、該電極に電圧を印加可能となっていてもよい。この場合、吐出ノズル12に対向して配置される捕集部10Dは、捕集電極27に代えて、例えば電気的に接続されていないサクションボックス等の吸引手段を設けて、紡糸された繊維Fを吸引して、該繊維を捕集シート24上に堆積できるようになっていてもよい。
【0067】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の溶融電界紡糸用組成物、並びに繊維及び繊維の製造方法を開示する。
<1>
以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)の合計成分100質量部に対する下記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下である、溶融電界紡糸用組成物。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種。
【0068】
<2>
前記成分(B)が、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも一種である、前記<1>に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<3>
前記成分(C)が、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン‐プロピレン共重合ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、酸変性ポリプロピレンワックス、酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス及び酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種である、前記<1>又は<2>に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<4>
前記成分(C)の融点又は滴点が90℃以上150℃以下である、前記<1>ないし<3>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0069】
<5>
前記成分(C)は、その重量平均分子量が前記成分(A)よりも小さいものであり、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1000超、一層好ましくは2000以上、また、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、更に好ましくは9000以下、一層好ましくは8000以下のものである、前記<1>ないし<4>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<6>
前記成分(C)はポリオレフィンワックスを含み、
前記ポリオレフィンワックスは、直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の一種以上からなる合成物を指すものであり、好ましくは直鎖又は分枝鎖であり且つ非環式のアルカンである、前記<1>ないし<5>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0070】
<7>
前記成分(C)はポリオレフィンワックスを含み、
前記ポリオレフィンワックスは、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス、並びにH-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種であり、
qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、更に好ましくは110以下の数を表す、前記<1>ないし<6>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0071】
<8>
前記成分(C)は変性ポリオレフィンワックスを含み、
前記変性ポリオレフィンワックスは、HOOC-(CH2-CH2)q-COOHで表される酸化ポリエチレンワックス、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリエチレンワックス、HOOC-(CH2-CH(CH3))q-COOHで表される酸化ポリプロピレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリプロピレンワックス、HOOC-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-COOH、HOOC-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-COOH及びHOOC-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-COOHで表される酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス、並びにH-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種であり、
qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、更に好ましくは110以下の数を表す、前記<1>ないし<7>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0072】
<9>
前記成分(C)は、ポリプロピレンワックス及びエチレン‐プロピレン共重合ワックスの少なくとも一種を用いることが更に好ましい、前記<1>ないし<8>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<10>
前記成分(A)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、また、98質量部以下であることが好ましく、97質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましい、前記<1>ないし<9>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<11>
前記成分(B)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることが更に好ましい、前記<1>ないし<10>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0073】
<12>
前記成分(C)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、また、20質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい、前記<1>ないし<11>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
<13>
成分(D)として、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属不活性剤のうち少なくとも一種を含む添加剤を更に含み、
前記成分(D)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい、前記<1>ないし<12>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物。
【0074】
<14>
前記<1>ないし<13>のいずれか一に記載の溶融電界紡糸用組成物の溶融液を電場中に吐出して電界紡糸法によって紡糸する、繊維の製造方法。
<15>
前記溶融液を吐出する吐出ノズルを接地するとともに、該吐出ノズルと離間して配置された帯電電極を高電圧発生装置に接続して、前記吐出ノズルと前記帯電電極との間に前記電場を発生させる、前記<14>に記載の繊維の製造方法。
<16>
前記吐出ノズルと前記帯電電極とは別に、前記溶融電界紡糸用組成物から生成した繊維を捕集する捕集部を用い、前記捕集部が電気的に接続されている状態で該捕集部に繊維を捕集する、前記<14>又は<15>に記載の繊維の製造方法。
<17>
前記吐出ノズルから吐出された前記溶融液に向けて加熱流体を吹き付けて、該溶融液から生成した繊維を搬送する、前記<14>ないし<16>のいずれか一に記載の繊維の製造方法。
【0075】
<18>
以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、
前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対する前記成分(C)の含有量が1質量部以上20質量部以下であり、
メジアン径が0.4μm以上3μm以下である、繊維。
(A)ポリオレフィン樹脂。
(B)硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち少なくとも一種。
(C)ポリオレフィンワックス及び変性ポリオレフィンワックスのうち少なくとも一種。
<19>
前記成分(B)が、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも一種である、前記<18>に記載の繊維。
<20>
前記成分(C)が、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン‐プロピレン共重合ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、酸変性ポリプロピレンワックス、酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス及び酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種である、前記<18>又は<19>に記載の繊維。
【0076】
<21>
前記成分(C)の融点又は滴点が90℃以上150℃以下である、前記<18>ないし<20>のいずれか一に記載の繊維。
<22>
前記成分(C)は、その重量平均分子量が前記成分(A)よりも小さいものであり、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1000超、一層好ましくは2000以上、また、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、更に好ましくは9000以下、一層好ましくは8000以下のものである、前記<18>ないし<21>のいずれか一に記載の繊維。
<23>
前記成分(C)はポリオレフィンワックスを含み、
前記ポリオレフィンワックスは、直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の一種以上からなる合成物を指すものであり、好ましくは直鎖又は分枝鎖であり且つ非環式のアルカンである、前記<18>ないし<22>のいずれか一に記載の繊維。
【0077】
<24>
前記成分(C)はポリオレフィンワックスを含み、
前記ポリオレフィンワックスは、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス、並びにH-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種であり、
qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、更に好ましくは110以下の数を表す、前記<18>ないし<23>のいずれか一に記載の繊維。
【0078】
<25>
前記成分(C)は変性ポリオレフィンワックスを含み、
前記変性ポリオレフィンワックスは、HOOC-(CH2-CH2)q-COOHで表される酸化ポリエチレンワックス、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリエチレンワックス、HOOC-(CH2-CH(CH3))q-COOHで表される酸化ポリプロピレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性ポリプロピレンワックス、HOOC-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-COOH、HOOC-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-COOH及びHOOC-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-COOHで表される酸化エチレン‐プロピレン共重合ワックス、並びにH-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックス分子鎖の任意の位置にカルボキシ基の無水物を有する酸変性エチレン‐プロピレン共重合ワックスのうち少なくとも一種であり、
qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは220以下の数を表し、
tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、更に好ましくは110以下の数を表す、前記<18>ないし<24>のいずれか一に記載の繊維。
【0079】
<26>
前記成分(C)は、ポリプロピレンワックス及びエチレン‐プロピレン共重合ワックスの少なくとも一種を用いることが更に好ましい、前記<18>ないし<25>のいずれか一に記載の繊維。
<27>
前記成分(A)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、また、98質量部以下であることが好ましく、97質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましい、前記<18>ないし<26>のいずれか一に記載の繊維。
<28>
前記成分(B)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることが更に好ましい、前記<18>ないし<27>のいずれか一に記載の繊維。
【0080】
<29>
前記成分(C)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、また、20質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい、前記<18>ないし<28>のいずれか一に記載の繊維。
<30>
成分(D)として、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属不活性剤のうち少なくとも一種を含む添加剤を更に含み、
前記成分(D)の含有量は、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい、前記<18>ないし<29>のいずれか一に記載の繊維。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0082】
〔実施例1〕
図1に示す製造装置10を用いて、成分(A)としてポリプロピレン樹脂(PP;PolyMirae社製、MF650Y、重量平均分子量79000)と、成分(B)としてアシルアルキルタウリン塩(N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム;日光ケミカルズ株式会社製、ニッコールSMT)と、成分(C)としてポリプロピレンワックス(クラリアント株式会社製、Licocene PP6102;滴点145℃、重量平均分子量5000)とを表1に示す分量で筐体11内に供給し、これらを筐体11内で加熱溶融しながら混練し、溶融状態の溶融電界紡糸用組成物を製造した。また、溶融状態の溶融電界紡糸用組成物を用いて、溶融電界紡糸法にて繊維を製造した。製造条件は以下のとおりとした。
【0083】
〔繊維の製造条件〕
・製造環境:27℃、50%RH
・筐体11内の加熱温度:220℃
・溶融液Rの吐出量:1g/min、2g/min、4g/min、
・吐出ノズル先端部14(ステンレス製)への印加電圧:0kV(アースに接地されている。)
・帯電電極21(80mm×80mm、厚さ10mm、ステンレス製)への印加電圧:-40kV
・吐出ノズル先端部14と捕集部10Dとの間の距離:600mm
・流体噴射装置23から噴出される空気流の温度:350℃
・流体噴射装置23から噴出される空気流の流量:320L/min
【0084】
〔実施例2ないし4〕
成分(A)及び成分(C)の含有量を以下の表1に示す質量部に変更したほかは、実施例1と同様に溶融電界紡糸用組成物及び繊維を製造した。
【0085】
〔実施例5及び6〕
成分(C)としてエチレン‐プロピレン共重合ワックス(クラリアント株式会社製、Licocene PP1302;滴点90℃、重量平均分子量6400)とを以下の表1に示す質量部で混合したほかは、実施例1と同様に溶融電界紡糸用組成物及び繊維を製造した。
【0086】
〔比較例1〕
成分(C)を用いずに、成分(A)及び(B)のみを以下の表1に示す質量部で混合したほかは、実施例1と同様に溶融電界紡糸用組成物及び繊維を製造した。
【0087】
〔比較例2〕
成分(B)を用いずに、成分(A)及び成分(C)のみを以下の表1に示す質量部で混合したほかは、実施例1と同様に溶融電界紡糸用組成物及び繊維を製造した。
【0088】
〔比較例3〕
成分(B)及び成分(C)を用いずに、成分(A)と、石油系ワックス(日本精蝋株式会社製、パラフィンワックス125;融点53℃、ガスクロマトグラフィー質量分析法測定による重量平均分子量361)とを以下の表1に示す質量部で混合したほかは、実施例1と同様に溶融電界紡糸用組成物及び繊維を製造した。
【0089】
〔評価1:溶融液の粘度〕
実施例及び比較例で製造した溶融電界紡糸用組成物の溶融液について、粘度を測定した。詳細には、回転式レオメータ(アントンパール社製、MCR302)を用いて、200℃及びせん断速度10s-1の条件で前記溶融液の粘度(Pa・s)を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0090】
〔評価2:繊維径の評価〕
実施例及び比較例において、異なる紡糸量で製造した各繊維のメジアン繊維径を評価した。繊維径の測定は、走査型電子顕微鏡観察による二次元画像から溶融電界紡糸繊維の塊、溶融電界紡糸繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径とした。測定した繊維径の分布からメジアン繊維径(nm)を求めた。結果を以下の表1に示す。
【0091】
〔評価3:液接触角の評価〕
実施例及び比較例で製造した溶融電界紡糸用組成物の溶融液を加圧して、縦250mm×横250mm×厚さ1mmの樹脂板をそれぞれ作成した。加圧は、(1)予加圧:180℃、0.5MPa、3min、(2)本加圧:180℃、20MPa、2min、及び(3)冷却:18℃、0.5MPa、1minの順で行った。得られた樹脂板から縦10mm×横50mm×厚さ1mmの試験片をカッターで切り出し、該試験片の表面に対して、ぬれ張力試験用混合液No.33(富士フィルム和光純薬株式会社製、表面張力33.0mN/m)を1.5μL滴下して、樹脂板と混合液との接触角(°)を、測定温度を23℃として、協和界面科学株式会社製のDrop Master300を用いて測定した。接触角が低いほど、親水性が高いものである。結果を以下の表1に示す。
【0092】
〔評価4:液濡れ性の評価〕
実施例及び比較例において、紡糸量1g/minで製造した繊維をそれぞれシート状に成形し、繊維の成形体とした。成形体の坪量はいずれも、7g/m2とした。この成形体を縦50mm×横50mmの寸法とし、該成形体の両端をSUSプレートで挟持して、実験台と成形体とを離間させ且つ成形体に張力を付与した状態で固定した。固定した成形体の表面にぬれ張力試験用混合液No.33(富士フィルム和光純薬株式会社製、表面張力33.0mN/m)を15μL滴下して、滴下20秒後及び滴下60秒後の液濡れ性を以下の基準で目視にて評価した。結果を以下の表1に示す。
【0093】
<液濡れ性の評価基準>
A:液滴がシート状成形体に全て浸透し、親水性に非常に優れる。
B:液滴がシート状成形体の表面に一部残存しているが、液滴が該成形体に浸透しており、親水性を有する。
C:液滴がシート状成形体に一部浸透しているが、液滴の大部分は該成形体の表面に多く残存しており、親水性が悪い。
D:液滴がシート状成形体に全く浸透せずに撥液しており、親水性が非常に悪い。
【0094】
【0095】
表1に示すとおり、成分(A)ないし(C)を所定の割合で含む実施例では、比較例と比べて、紡糸量の多寡に依存せず細径の繊維が効率よく紡糸できるとともに、液滴の浸透時間が非常に短く、得られた繊維の親水性が高いものであることが判る。特に、実施例1、4及び5に示すように、成分(C)の含有量が高くなるにつれて、紡糸された繊維は親水性が高く、且つ一層細径の繊維を製造できることが判る。これに対して、比較例2及び3の溶融液は、粘度は低くなっているが、細径の繊維が紡糸できないことも判る。この理由として、比較例2及び3の溶融液には成分(B)が含まれていないので、溶融電界紡糸における溶融液の帯電量が十分でないことが考えられる。
【符号の説明】
【0096】
10 製造装置
11 筐体
12 吐出ノズル
13 ノズルベース
14 吐出ノズル先端部
19 ホッパー
21 帯電電極
22 高電圧発生装置
23 流体噴射装置
24 捕集シート
25 搬送コンベア
26 高電圧発生装置
27 捕集電極
1P 溶融電界紡糸用組成物
A 空気流
F 繊維
R 溶融電界紡糸用組成物の溶融液