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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】車両情報算出装置及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20230315BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20230315BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
B60L3/00 L
G01M17/02
B60L3/00 N
B60C19/00 K
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019032259
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020137378
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋之
(72)【発明者】
【氏名】大野 翼
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 慧
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/104270(WO,A1)
【文献】特開2011-191151(JP,A)
【文献】国際公開第2008/120620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
G01M 17/02
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するモータのトルクを取得するモータトルク取得部と、
前記モータの角加速度を取得する角加速度取得部と、
前記車両の車輪の接地力を取得する接地力取得部と、
前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数に基づいて、前記車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出する慣性モーメント算出部と、
前記車両が走行している際の前記トルク、前記角加速度、前記接地力、および、前記慣性モーメントに基づいて、前記車両が走行している際の前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出部と、
を備えることを特徴とする、車両情報算出装置。
【請求項2】
前記車輪と接触するドラムであって前記車輪の回転に応じて回転する前記ドラム上に前記車両を載置した状態で前記トルク、前記角加速度、及び前記接地力を取得することを特徴とする、請求項1に記載の車両情報算出装置。
【請求項3】
算出した前記慣性モーメントを記憶する記憶部を更に備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両情報算出装置。
【請求項4】
算出した前記慣性モーメントを車両の制御装置に記憶させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両情報算出装置。
【請求項5】
前記接地力取得部は、前記車輪の接地力を検出する接地力センサから前記接地力を取得することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の車両情報算出装置。
【請求項6】
前記接地力取得部は、前記ドラムの荷重を検出する荷重センサから前記接地力を取得することを特徴とする、請求項2に記載の車両情報算出装置。
【請求項7】
前記慣性モーメント算出部は、前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記摩擦係数に加えて、前記車輪の径に基づいて前記慣性モーメントを算出することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の車両情報算出装置。
【請求項8】
前記摩擦係数は、前記車輪と前記ドラムとの接触部における摩擦係数であり、予め取得された規定値であることを特徴とする、請求項2に記載の車両情報算出装置。
【請求項9】
前記車輪の走行距離に対する前記ドラムの回転距離の比率に基づいて、前記比率が所定範囲外の場合にエラーを検出するエラー検出部を更に備えることを特徴とする、請求項2に記載の車両情報算出装置。
【請求項10】
前記車輪に係る前後方向力と前記角加速度との関係に基づいて、前記前後方向力に対する前記角加速度の比率が所定範囲から外れる場合にエラーを検出するエラー検出部を更に備えることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の車両情報算出装置。
【請求項11】
前記エラー検出部によりエラーが検出された場合に、算出した前記慣性モーメントを破棄することを特徴とする、請求項9又は10に記載の車両情報算出装置。
【請求項12】
車両を駆動するモータのトルクを取得するステップと、
前記モータの角加速度を取得するステップと、
前記車両の車輪の接地力を取得するステップと、
前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数に基づいて、前記車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出するステップと、
前記車両が走行している際の前記トルク、前記角加速度、前記接地力、および、前記慣性モーメントに基づいて、前記車両が走行している際の前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数を算出するステップと、
を備える車両情報算出方法により算出された前記慣性モーメントが書き込まれたことを特徴とする、車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両情報算出装置及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1には、タイヤの共振周波数および反共振周波数を抽出し、タイヤのねじりばね定数および外側慣性モーメントを高精度で取得して、タイヤの状態を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-81873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された技術は、振動入力部により所定の振動をタイヤへ入力してタイヤの周波数情報を取得し、抽出した共振周波数及び反共振周波数からタイヤの外側慣性モーメントおよびねじバネ定数を算出するものである。
【0005】
しかしながら、このような手法では、振動入力部110により振動をタイヤへ入力する必要があり、構造が複雑になるとともに、製造コストが増大する問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、簡素な構成で車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出し、慣性モーメントに基づいて車両を制御することが可能な、新規かつ改良された車両情報算出装置及び車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両を駆動するモータのトルクを取得するモータトルク取得部と、前記モータの角加速度を取得する角加速度取得部と、前記車両の車輪の接地力を取得する接地力取得部と、前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数に基づいて、前記車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出する慣性モーメント算出部と、前記車両が走行している際の前記トルク、前記角加速度、前記接地力、および、前記慣性モーメントに基づいて、前記車両が走行している際の前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出部と、を備える、車両情報算出装置が提供される。
【0008】
前記車輪と接触するドラムであって前記車輪の回転に応じて回転する前記ドラム上に前記車両を載置した状態で前記トルク、前記角加速度、及び前記接地力を取得するものであっても良い。
【0009】
また、算出した前記慣性モーメントを記憶する記憶部を更に備えるものであっても良い。
【0010】
また、算出した前記慣性モーメントを車両の制御装置に記憶させるものであっても良い。
【0011】
また、前記接地力取得部は、前記車輪の接地力を検出する接地力センサから前記接地力を取得するものであっても良い。
【0012】
また、前記接地力取得部は、前記ドラムの荷重を検出する荷重センサから前記接地力を取得するものであっても良い。
【0013】
また、前記慣性モーメント算出部は、前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記摩擦係数に加えて、前記車輪の径に基づいて前記慣性モーメントを算出するものであっても良い。
【0014】
また、前記摩擦係数は、前記車輪と前記ドラムとの接触部における摩擦係数であり、予め取得された規定値であっても良い。
【0015】
また、前記車輪の走行距離に対する前記ドラムの回転距離の比率に基づいて、前記比率が所定範囲外の場合にエラーを検出するエラー検出部を更に備えるものであっても良い。
【0016】
また、前記車輪に係る前後方向力と前記角加速度との関係に基づいて、前記前後方向力に対する前記角加速度の比率が所定範囲から外れる場合にエラーを検出するエラー検出部を更に備えるものであっても良い。
【0017】
また、前記エラー検出部によりエラーが検出された場合に、算出した前記慣性モーメントを破棄するものであっても良い。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両を駆動するモータのトルクを取得するステップと、前記モータの角加速度を取得するステップと、前記車両の車輪の接地力を取得するステップと、前記トルク、前記角加速度、前記接地力、及び前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数に基づいて、前記車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出するステップと、前記車両が走行している際の前記トルク、前記角加速度、前記接地力、および、前記慣性モーメントに基づいて、前記車両が走行している際の前記車両の車輪と接地面との間の摩擦係数を算出するステップと、を備える車両情報算出方法により算出された前記慣性モーメントが書き込まれた、車両の制御装置が提供される。

【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、簡素な構成で車輪を含む回転部材の慣性モーメントを算出し、慣性モーメントに基づいて車両を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の概略構成を示す模式図である。
図2】車両のタイヤの周辺の構成を示す模式図である。
図3】車両が工場で製造された際に、ドラム上に車両を載せ、計測を行う様子を示す模式図である。
図4】慣性モーメントIを算出する処理を示すフローチャートである。
図5】前後方向力Fxと角加速度αとの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の概略構成について説明する。図1に示すように、車両1000は、モータジェネレータ110、タイヤ(車輪)800、制御装置900を有して構成されている。制御装置900は、車両1000の全体を制御する装置である。
【0023】
図2は、車両1000のタイヤ800の周辺の構成を示す模式図である。図2に示すように、車両1000は、駆動ユニット100、ドライブシャフト200、アップライト300、ボディ側のハブ400、タイヤ側のハブ410、ベアリング412、ブレーキディスク500、ブレーキキャリパー600、ホイール700、タイヤ800、制御装置900、を有して構成されている。図2において、制御装置900以外の各構成要素は、車両の前面から見た状態を示している。
【0024】
駆動ユニット100は、モータジェネレータ110、電流センサ120、回転角センサ130を有している。モータジェネレータ110の駆動力は、ドライブシャフト200を介してタイヤ800に伝達される。また、路面からタイヤ800に伝わる駆動力は、タイヤ800からモータジェネレータ110へ回生駆動力として伝わる。なお、駆動ユニット100は、モータジェネレータ110に加えて、モータジェネレータ110の回転を減速してドライブシャフト200に伝達する減速機を有していても良い。
【0025】
図2において、ボディ側のハブ400はアップライト300に固定されている。タイヤ側のハブ410は、ベアリング412を介してボディ側のハブ400に対して回転可能とされている。ブレーキディスク500は、タイヤ側のハブ410に対して固定されている。ホイール700は、タイヤ側のハブ410またはブレーキディスク500に対して固定されている。タイヤ800は、ホイール700の外周に装着されている。
【0026】
ドライブシャフト200はアップライト300に設けられた孔302を貫通し、更にハブ400の孔402を貫通してハブ410に連結されている。ドライブシャフト200とアップライト300の孔302との間には空隙が設けられ、ドライブシャフト200とハブ400の孔402との間にも空隙が設けられている。従って、ドライブシャフト200の回転は、アップライト300またはハブ400と干渉することなく、ハブ410に伝達される。
【0027】
ブレーキキャリパー600は、アップライト300などの車体側の固定部材に固定されている。ブレーキキャリパー600は、車両のドライバー(運転者)によるブレーキペダルの操作に応じて、ブレーキディスク500を制動する。これにより、摩擦ブレーキにより車両が制動される。
【0028】
ハブ410には、検出部420が設けられている。検出部420は、タイヤ800に作用する作用力を検出する。検出部420によって検出される作用力には、前後方向力Fx、横力Fyおよび上下力Fzを含む三方向の分力と、ハブ(車軸)410の軸周りのトルクTyとがある。前後方向力Fxは、タイヤ800の接地面に発生する摩擦力のうち車輪中心面に平行な方向(x軸)に発生する分力であり、横力Fyは、車輪中心面に直角な方向(y軸)に発生する分力である。一方、上下力Fzは、鉛直方向(z軸)に作用する力、いわゆる、垂直荷重である。トルクTyは、タイヤ800の車軸回りのトルク(ねじり力)である。
【0029】
例えば、検出部420は、ひずみゲージと、このひずみゲージから出力される電気信号を処理し、作用力に応じた検出信号を生成する信号処理回路とを主体に構成されている。ハブ410に生じる応力は作用力に比例するという知得に基づき、ひずみゲージをハブ410に埋設することにより、作用力が直接的に検出される。なお、検出部420の具体的な構成については、例えば、特開平04-331336号公報および特開平10-318862号公報に開示されているので、必要ならば参照されたい。検出部420は、ドライブシャフト200に設けられていても良い。
【0030】
図2に示すように、制御装置900は、角加速度取得部910、モータトルク取得部920、接地力取得部930、摩擦係数取得部940、慣性モーメント算出部950、エラー検出部960、記憶部970、を有して構成されている。図2に示す制御装置900の構成要素は、回路(ハードウェア)、またはCPUなどの中央演算処理装置とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)により構成することができる。
【0031】
以上のように構成された本実施形態に係る車両1000は、例えば工場で製造された後、出荷前に、ドラム(シャーシダイナモ)上でタイヤ800を回転させて各種計測が行われる。図3は、ドラム2000上に車両1000を載せ、計測を行う様子を示す模式図である。本実施形態では、特にドラム2000上で車両1000を運転して各種パラメータを取得することで、タイヤ800回りの慣性モーメントを算出する。ここで、タイヤ800回りの慣性モーメントは、車輪を含む回転部材の慣性モーメントに相当する。車輪を含む回転部材の慣性モーメントは、例えばブレーキディスクなどの車両の走行に伴って回転する部材の慣性モーメントを含む。
【0032】
計測の際には、車両1000に対して計測装置990が接続されても良い。以下に説明する慣性モーメントIの算出は、車両1000の制御装置900が行っても良いし、計測装置990が行っても良い。換言すれば、計測装置990は、図2に示す制御装置900と同様の構成を備えている。計測装置990が慣性モーメントIの算出を行う場合、計測装置990は、算出した慣性モーメントIを制御装置900の記憶部970に書き込む処理を行う。
【0033】
ドラム2000の形状(半径)、ドラム2000の表面の状態は予め一定の状態に保たれている。また、出荷前のタイヤ800は新品状態であり、予め定められた種類のタイヤが車両1000に装着されている。このため、タイヤ800とドラム2000とが接触する際の摩擦係数μは、予め高い精度で求めることができる。
【0034】
本実施形態では、この予め取得可能なタイヤ800とドラム2000との間の摩擦係数μを利用して、モータジェネレータ110のロータからタイヤ800までの回転する部材の慣性モーメントIを算出し、算出した慣性モーメントIを制御装置900の記憶部970に書き込む処理を行う。
【0035】
以下に示す式(1)は、摩擦係数μ、モータジェネレータ110からハブ410(タイヤ800)にかかるモータトルクTmotor、モータジェネレータ110のロータからタイヤ800までの慣性モーメントI、モータジェネレータ110の回転角加速度α、タイヤ半径r、接地力Wとの関係を示す式である。
【0036】
μ=|(Tmotor-I×α)/(r×W)| ・・・(1)
【0037】
本実施形態では、車両1000が工場から出荷される前に、ドラム2000上で計測を行い、式(1)に基づいて慣性モーメントIを算出する。ここで、摩擦係数μは、ドラム2000とタイヤ800との間の摩擦係数であって、予め定められた値(規定値)を用いる。また、モータトルクTmotorは、モータジェネレータ110の特性と、電流センサ120が検出するモータジェネレータ110の電流値から求まる。回転角加速度αは、モータジェネレータ110の回転角を検出する回転角センサ(エンコーダ)130の検出値から求まる。タイヤ半径rは、車両1000の諸元から予め定められている。また、接地力Wは、検出部420から検出され、上述した上下力Fzに相当する。なお、接地力Wは、ドラム2000に設けられた、上下方向の荷重を検出する荷重センサから求めても良い。
【0038】
従って、これらのパラメータを式(1)に代入することで、式(1)に基づいて慣性モーメントIを求めることができる。算出した慣性モーメントIは、制御装置900の記憶部970に書き込まれ、または制御装置900と別に設けられた記憶装置に書き込まれ、記憶される。なお、計測装置990が慣性モーメントIを算出する場合は、計測装置990が算出した慣性モーメントIが車両1000側に送られて記憶される。
【0039】
このように、車両1000の出荷前に慣性モーメントIを算出して車両1000に記憶しておくことで、慣性モーメントIに基づいて車両1000の各種制御を精度良く行うことが可能となる。特に、安全な車両の制御を実現するために、車両毎に異なるモータを含むハードウェアの慣性モーメントIを正確に反映して制御を行うことは非常に重要である。
【0040】
一般的に、車両1000の運転中に摩擦係数μを正確に算出することには困難が伴う。本実施形態によれば、タイヤ800とドラム2000との間の摩擦係数μは、予め高い精度で求められているため、式(1)に基づいて慣性モーメントIを正確に求めることができる。従って、慣性モーメントIに基づいて車両制御を正確に行うことが可能である。
【0041】
具体的には、慣性モーメントIを求めて車両1000側で保持しておくことで、車両1000が実際に走行している際に、式(1)の摩擦係数μ以外の各パラメータを取得し、慣性モーメントIとともに式(1)に代入することで、走行時の実際の摩擦係数μactを算出することができる。従って、走行中に得られる摩擦係数μactに基づいて、車両1000を最適に制御することが可能である。
【0042】
慣性モーメントIの演算は、式(1)以外の方法で行っても良い。ドラム2000の慣性モーメントをIdrumとし、ドラム2000の角加速度をβとすると、以下の式(2)が成立する。ドラム2000の慣性モーメントをIdrumを予め求めておき、車両1000をドラム2000上で運転した際に、ドラム2000の回転角センサにより角加速度βを検出することで、式(2)から慣性モーメントIを求めることもできる。
drum×β=Tmotor-I×α ・・・(2)
【0043】
更に、校正時に0バランスされている場合は、以下の式(3)に基づいてFz(=W)の値を決めて、これを基準値BaseFzとし、制御装置900に書き込んでも良い。ここでは、センサを0バランスしているとき、つまりWの接地荷重の絶対値が分からない場合に Fxから現在荷重を求める。このときの前提としてスリップが発生していない、などの諸条件を用いても良い。
Fx=W×μ ・・・(3)
【0044】
接地力Wの値は、計測時に検出部420から得られる変化するFzを用いて、以下の式(4)で表すことができる。
W=Fz+BaseFz ・・・(4)
【0045】
次に、図4のフローチャートに基づいて、慣性モーメントIを算出する処理について説明する。図4の処理は、所定の制御周期毎に、主に制御装置900または計測装置990にて行われる。先ず、ステップS10では、車両1000の製造時に、最終検査工程でタイヤ800をドラム2000上に載せ、指定速度で走行を行う。具体的には、車両1000が加速又は減速するように走行を行う。次のステップS12では、摩擦係数取得部940が、予め測定済みのドラム2000の摩擦係数μを取得する。次のステップS14では、角加速度取得部910が、モータジェネレータ110の角加速度αを取得する。
【0046】
次のステップS16では、既知であるタイヤ800の有効半径rを取得する。次のステップS18では、モータトルク取得部920が、モータトルクTmotorを取得する。なお、モータトルクTmotorは、モータジェネレータ110の特性と、電流センサ120の電流値から求めることができる。次のステップS20では、接地力取得部930が、検出部420からタイヤ垂直荷重(接地力W)を取得する。次のステップS22では、慣性モーメント算出部950が、式(1)より慣性モーメントIを算出する。
【0047】
次のステップS24では、ステップS22で計算した慣性モーメントIの計算値が設計値の±10%の範囲内か否かを判定し、慣性モーメントIの計算値が設計値の±10%の範囲内の場合はステップS25へ進む。一方、慣性モーメントIの計算値が設計値の±10%の範囲を超える場合は、その制御周期で算出した慣性モーメントIを記録することなく、ステップS10へ戻る。
【0048】
ステップS25では、エラー検出部960が、ドラム2000上での計測中にエラーを検出したか否かを判定する。エラー判定は、以下の2通りの方法で行う。第1のエラー判定では、計測中に、タイヤ800とドラム2000が一定のスリップ率で回転しているか否かを判定する。換言すれば、タイヤ800の走行距離に対し、ドラム2000の回転による回転距離が一定の比率であるか否かを判定する。車両800の走行距離は、タイヤ800の回転数と半径から求まる。また、ドラム2000の回転による回転距離もドラム2000の回転数と半径から求まる。
【0049】
タイヤ800の走行距離に対するドラム2000の回転距離の比率が、例えば0.8~0.9程度の値であれば、エラーが生じていないと判定する。
【0050】
一方、タイヤ800の走行距離に対するドラム2000の回転による距離の比率が、0.8~0.9程度の範囲を逸脱する場合は、温度変化等によりタイヤ800とドラム2000との接触面の摩擦係数が変動していることが想定できる。従って、このような場合は、エラーを検出したものと判定する。以上のようにしてエラーを検出することで、慣性モーメントIの算出条件が厳しくなり、慣性モーメントIの算出精度を高めることが可能となる。
【0051】
また、第2のエラー判定として、検出部420が検出した前後方向力Fxと、ドラム2000の角加速度αとの関係に基づいてエラーを判定する。図5は、前後方向力Fxと角加速度αとの関係を示す特性図である。上述したように、ドラム2000上での計測中は、車両2000を加速または減速させて式(1)から慣性モーメントIを算出する。この際、検出部420が検出した前後方向力Fxと、ドラム2000の角加速度αとの間には、運動方程式に基づき、本来的には図5に実線で示すような線形の関係が生じる。エラー検出部960は、計測中に前後方向力Fxと角加速度αを図5のようにプロットし、例えば図5中に示す破線よりも外側にプロットが位置する場合は、検出部420により検出された前後方向力Fxが異常値であると判定する。
【0052】
これにより、検出部420による検出の正確性を担保することができ、前後方向力Fxと上下力Fzとの間の正しさも担保することができるため、慣性モーメントIの算出精度をより高めることが可能となる。換言すれば、慣性モーメントIの算出とともに、検出部420の故障や校正不足を検出することが可能である。
【0053】
ステップS25でエラーを検出した場合は、その周期で算出した慣性モーメントIを記録することなく、ステップS10へ戻る。一方、ステップS25でエラーを検出しなかった場合は、ステップS26へ進む。
【0054】
ステップS26では、ステップS22で算出した慣性モーメントIを記録する(ログ実施)。次のステップS28では、ステップS26における記録数が5回以下であるか否かを判定し、記録数が5回以下の場合はステップS10に戻る。一方、記録数が5回を超える場合はステップS30へ進む。ステップS30では、記録された5回の慣性モーメントIの平均値を算出する。次のステップS32では、ステップS30で算出した平均値を制御装置900に書き込む。
【0055】
以上説明したように本実施形態によれば、正確なタイヤ周りの慣性モーメントIの算出を、車両1台毎に実施することが可能となる。これにより、タイヤ周りの各パーツ、モータ(コア)、ハブ、ホイール、タイヤを含めた慣性モーメントIについて、各部品の計測を実施することなく慣性モーメントIを求めることが可能となる。そして、慣性モーメントIに基づいて車両制御を高精度に実現することが可能となる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
900 制御装置
910 角加速度取得部
920 モータトルク取得部
930 接地力取得部
940 摩擦係数取得部
950 慣性モーメント算出部
960 エラー検出部
990 計測装置
図1
図2
図3
図4
図5