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特許7245117ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20230315BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20230315BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230315BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230315BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20230315BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230315BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230315BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L23/04
C08K3/36
C08K9/06
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y10/00
C08J3/12 A CEZ
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019099709
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193277
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】武藤 俊介
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508199(JP,A)
【文献】米国特許第05237008(US,A)
【文献】特開2019-039010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 59/00
C08L 23/04
C08K 3/36
C08K 9/06
B29C 64/153
B33Y 70/00
B33Y 10/00
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)が5μm以上70μm以下であり、
ポリアセタールを100質量部、ポリエチレン0.01~5質量部、を含み、
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下であることを特徴とする、ポリアセタール粉末。
【請求項2】
結晶化速度が40秒以上である、請求項1に記載のポリアセタール粉末。
【請求項3】
結晶化温度が130℃以上145℃以下である、請求項1又は2に記載のポリアセタール粉末。
【請求項4】
ポリエチレンの密度が0.88~0.93g/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項5】
ポリエチレンのMFRが0.2~100g/10分である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項6】
径が前記D50の2倍以上である粒子の割合が10vol%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項7】
径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が10vol%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項8】
前記D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項9】
前記ポリアセタール粉末100質量%に対して、疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含む、請求項1~のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項10】
前記疎水性シリカが乾式法シリカである、請求項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項11】
前記疎水性シリカの平均一次粒子径が1nm以上20nm以下である、請求項又は10に記載のポリアセタール粉末。
【請求項12】
前記疎水性シリカのBET比表面積が50m/g以上300m/g以下である、請求項11のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項13】
前記疎水性シリカが、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1種以上で疎水化されている、請求項12のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項14】
前記ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項15】
付加製造に用いられる、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末。
【請求項16】
付加製造に用いることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末の使用方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを特徴とする、付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な構造を有する造形品を作製する技術の一つとして、付加製造技術が広く普及しつつある。
【0003】
この付加製造技術は、金型を使用しない方法であるため、短期間で試作できるというメリットがあり、例えば機能確認用の試作に用いられることが多くなってきている。また、試作への適用のみならず、少量多品種製品の直接製造への適用のニーズも増加している。そして、このような背景の中、付加製造技術の中でも、特に、選択的レーザー焼結法のように粉末状の樹脂を造形材料として用いる3Dプリンターが注目されている。
【0004】
選択的レーザー焼結法は、造形台の上に、粉末材料をローラーやブレードで敷き、その粉末材料に選択的にレーザーを照射し、加熱-焼結し、それらを順次繰り返すことで積層品を作る方法である(特許文献1)。選択的レーザー焼結法は、現在、樹脂製の工業部品に使用されている熱可塑性樹脂が使用可能な方法であるため、他の付加製造技術(液槽光重合法、材料噴射法等)に比べ、造形品の強度、信頼性、寸法安定性が高い点で優れている。また、選択的レーザー焼結法は、機械加工等の従来の方法では達成し得なかった、相当複雑な形状及び輪郭を有する造形品の製造を可能にすることも、特徴の一つである。
【0005】
選択的レーザー焼結法に使用可能な粉末材料を構成する樹脂としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリプロピレン等が広く知られている(特許文献2)。また、特許文献3には、選択的レーザー焼結法に使用可能なポリアセタールから構成される粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4,863,538号
【文献】国際公開第1996/006881号
【文献】国際公開第2011/051250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3では、ポリアセタールの造形時の反りの問題や、造形品の反り、機械的物性については十分な検討がなされておらず、未だ改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品を得ることが可能なポリアセタール粉末を提供することである。また、本発明が解決しようとする課題は、上記ポリアセタール粉末の使用方法、及び上記ポリアセタール粉末を用いた付加製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粉体特性を有し、特定質量割合のポリエチレンを含むポリアセタール粉末が、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品の製造を可能にすることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
平均粒子径(D50)が5μm以上70μm以下であり、
ポリアセタールを100質量部、ポリエチレン0.01~5質量部、を含み、
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下であることを特徴とする、ポリアセタール粉末。
[2]
結晶化速度が40秒以上である、[1]に記載のポリアセタール粉末。
[3]
結晶化温度が130℃以上145℃以下である、[1]又は[2]に記載のポリアセタール粉末。
[4]
ポリエチレンの密度が0.88~0.93g/cmである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[5]
ポリエチレンのMFRが0.2~100g/10分である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[6
が前記D50の2倍以上である粒子の割合が10vol%以下である、[1]~[]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。

径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が10vol%以下である、[1]~[]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。

前記D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下である、[1]~[]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。

前記ポリアセタール粉末100質量%に対して、疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含む、[1]~[]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
10
前記疎水性シリカが乾式法シリカである、[]に記載のポリアセタール粉末。
11
前記疎水性シリカの平均一次粒子径が1nm以上20nm以下である、[]又は[10]に記載のポリアセタール粉末。
12
前記疎水性シリカのBET比表面積が50m/g以上300m/g以下である、[]~[11]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
13
前記疎水性シリカが、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1種以上で疎水化されている、[]~[12]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
14
前記ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下である、[1]~[13]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
15
付加製造に用いられる、[1]~[14]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
16
付加製造に用いることを特徴とする、[1]~[15]のいずれかに記載のポリアセタール粉末の使用方法。
17
[1]~[15]のいずれかに記載のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを特徴とする、付加製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品を得ることが可能なポリアセタール粉末を提供することができる。また、本発明によれば、上記ポリアセタール粉末の使用方法、及び上記ポリアセタール粉末を用いた付加製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態と言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
[ポリアセタール粉末]
本実施形態のポリアセタール粉末は、平均粒子径(D50)が5μm以上70μm以下であり、ポリアセタールを100質量部、ポリエチレン0.01~5質量部、を含むことを特徴とする。
本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂成分が少なくとも1種のポリアセタールと少なくとも1種のポリエチレンとのみであるポリアセタール粉末であってもよいし、樹脂成分が1種のポリアセタールと1種のポリエチレンとのみであるポリアセタール粉末であってもよい。
本実施形態のポリアセタール粉末によれば、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品を得ることができる。
【0014】
また、本実施形態におけるポリアセタール粉末は、必要に応じ、疎水性シリカ、他の樹脂、添加剤等を更に含有してもよい。
特に疎水性シリカを含むことにより、本実施形態のポリアセタール粉末の高温時積層性及び造形箇所への粉載りが向上し、より高い機械的物性を有する造形品を得ることができる。
【0015】
<ポリアセタール>
本実施形態のポリアセタール粉末に含まれるポリアセタールとしては、例えば、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマー等が挙げられるが、造形性、熱安定性の観点からは、ポリアセタールコポリマーが好ましい。その一方で、得られる造形品の機械的強度の観点からは、ポリアセタールホモポリマーが好ましい。
上記ポリアセタールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
[ポリアセタールホモポリマー]
ポリアセタールホモポリマーは、オキシメチレンユニットのみを主鎖に有するポリマーである。
ポリアセタールホモポリマーは、例えば、公知のスラリー重合法(例えば、特公昭47-6420号公報及び特公昭47-10059号公報に記載の方法)により得ることができる。
また、市販されているポリアセタールホモポリマーとしては、旭化成株式会社製のテナック(商標)が挙げられる。
【0017】
[ポリアセタールコポリマー]
ポリアセタールコポリマーは、主モノマーに由来するオキシメチレンユニットと、コモノマーに由来するコモノマーユニットとを主鎖に有する共重合ポリマーである。コモノマーユニットは、オキシメチレンユニットと共重合できるユニットであれば特に限定されないが、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットであることが好ましい。ポリアセタールコポリマーの両末端又は片末端は、エステル基及び/又はエーテル基により封鎖されていてもよい。
【0018】
ポリアセタールコポリマーは、コモノマーユニットを、オキシメチレンユニット100molに対して、0.3mol以上含有することが好ましく、0.4mol以上含有することがより好ましく、0.5mol以上含有することが更に好ましく、0.6mol以上含有することが一層好ましく、1.2mol以上含有することが特に好ましい。また、ポリアセタールコポリマーは、コモノマーユニットを、3.0mol以下含有することが好ましく、2.0mol以下含有することがより好ましく、1.5mol以下含有することが更に好ましい。オキシメチレンユニット100molに対するコモノマーユニットの含有割合を上述した好ましい範囲にすることで、3Dプリンターによる造形性と熱安定性とのバランスが良好なポリアセタール粉末が得られる傾向にある。
【0019】
ポリアセタールコポリマーにおけるコモノマーユニットの含有割合については、1H-NMR法を用いて、以下の手順で求めることができる。
なお、以下の手順は、コモノマーユニットが炭素数2以上のオキシアルキレンユニットであるポリアセタールコポリマーについて述べる。
即ち、ポリアセタールコポリマーを、ヘキサフルオロイソプロパノールにより濃度1.5質量%となるように24時間かけて溶解させ、この溶解液を用いて1H-NMR解析を行い、オキシメチレンユニットと、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットと、の帰属ピ-クの積分値の比率から、オキシメチレンユニット(a=100mol)に対する炭素数2以上のオキシアルキレンユニット(bmol)の含有割合(b/a:mol/100mol)を求めることができる。
【0020】
1)主モノマー
ポリアセタールコポリマーの製造に使用する主モノマーとしては、例えば、ホルムアルデヒド又はその3量体であるトリオキサン若しくは4量体であるテトラオキサン等の環状オリゴマー等が挙げられる。
本実施形態において「主モノマー」とは、全モノマー量に対して50質量%以上含有されているモノマーユニットをいう。
【0021】
2)コモノマー
ポリアセタールコポリマーの製造に使用するコモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、分子中に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを有する環状エーテル化合物が挙げられる。
【0022】
環状エーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,3-ジオキソラン、1,3-プロパンジオールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、1,3,5-トリオキセパン、1,3,6-トリオキオカン、及び分子に分岐若しくは架橋構造を構成しうるモノ-若しくはジ-グリシジル化合物等が挙げられる。
環状エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ポリアセタールコポリマーの製造方法は、特に限定されないが、従来公知の方法、例えば、米国特許第3027352号明細書、同第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、同第1495228号明細書、同第1720358号明細書、同第3018898号明細書、特開昭58-98322号公報、特開平7-70267号公報等に記載の方法によって重合することができる。具体的には、カチオン開始剤を重合触媒とし、ホルムアルデヒド単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、コモノマーである環状エーテル化合物と、連鎖移動剤(分子量調節剤)と、有機溶剤とを原料として重合反応器に供給して、連続塊状重合反応によって製造する方法等が挙げられる。また、得られたポリアセタールコポリマー(末端が安定化されていない粗ポリアセタールコポリマー)を公知の方法(例えば、特公昭63-452号公報に記載の方法等)により、エーテル基やエステル基等で末端を封止して安定化してもよい。
また、市販されているポリアセタールコポリマーとしては、旭化成株式会社製のテナック-C(商標)が挙げられる。
【0024】
本実施形態のポリアセタール粉末100質量%中のポリアセタールの含有量としては、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは97~99.7質量%である。
【0025】
<ポリエチレン>
本実施形態のポリアセタール粉末に含まれるポリエチレンとしては、特に限定されず、一般に市販されている高密度ポリエチレン(例えば、密度が0.942g/cm3以上のポリエチレン)でも低密度ポリエチレン(例えば、密度が0.930g/cm3未満のポリエチレン)でも構わないが、ポリアセタールとの相溶性の観点、及び、ポリアセタール粉末の結晶化速度を遅くし、3Dプリンターでの造形性を向上させる観点から、低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0026】
上記ポリエチレンの密度としては、0.88~0.93g/cm3が好ましく、一層反りが少なく、層間の密着性に一層優れた造形品が得られる観点から、0.91~0.93g/cm3がより好ましい。
【0027】
低密度ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを用いることができ、反りが一層少なく、層間の密着性に一層優れた造形品が得られる観点から、高圧法低密度ポリエチレンが好ましい。
高圧法低密度ポリエチレンは、例えば、1000~3000kg/cm2の高圧下でのラジカル重合で製造できる。重合中にback bitingによる分子内の水素引抜き反応により、短鎖分岐(エチル分岐やブチル分岐)が生成し、低密度となっている。高圧法低密度ポリエチレンは、分子間の水素引抜き反応により主鎖に比肩する分岐(長鎖分岐)を持つことが好ましい。高圧法低密度ポリエチレンの密度は、0.91~0.93g/cm3が好ましい。
直鎖状低密度ポリエチレンは、例えば、イオン重合によるポリエチレンで、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチルペン-1、1-オクテンのようなα-オレフィンをエチレンの重量に対して数%~数10%重合させることにより短鎖分岐を導入して得ることができる。直鎖状低密度ポリエチレンの密度は0.88~0.93g/cm3が好ましい。
【0028】
ポリエチレンのメルトフローインデックス(MFR)は、0.2~100g/10分であることが好ましく、より好ましくは3~12g/10分、更に好ましくは5~10g/10分である。
なお、MFRは、ISO1133のA法で190℃、2.16kg荷重の条件で測定することができる。
【0029】
ポリエチレンの配合量は、ポリアセタール100質量部に対して0.01~5質量部であり、好ましくは0.05~3質量部、より好ましくは0.06~3質量部、更に好ましくは0.13~3質量部である。0.01質量部未満では、結晶化速度を遅くすることによる造形品の反りや層間密着性の改良効果が不十分で、5質量部を越えて添加すると造形品の表面及び内部に剥離を生ずる場合があり好ましくない。
【0030】
<疎水性シリカ>
本実施形態のポリアセタール粉末は、更に疎水性シリカを含んでいてもよい。
本実施形態のポリアセタール粉末100質量%中の疎水性シリカの含有量としては、0.05質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
付加製造では、ポリアセタール粉末の流動性が非常に重要である。造形箇所ではレーザーによる加熱でポリアセタール粉末が溶融して凹むが、流動性に劣る粉末を用いると凹みの表面の粗さが大きくなり、更に造形箇所への粉載りが悪くなり、空隙(ボイド)が生じて造形品の機械的物性が損なわれたり、造形が中止する恐れがある。この点に関し、本発明者らは、ポリアセタール粉末が更に疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下の含有量で含み、なお且つ、表面に疎水性シリカが付着(露出)した粒子状であると、粉末の流動性を向上させることができ、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りを向上させ、造形品の機械的物性を高めることができることを見出した。
更に、ポリアセタール粉末としては、通常、個数基準の頻度分布として表示される粒度分布曲線(以下、単に「粒度分布曲線」と称する)の幅が狭い粉末が好まれるが、粒度分布曲線の幅が広い粉末であっても上記と同様の効果が得られることを見出した。これにより、ポリアセタール粉末の生産性(例えば、分級工程後の収率等)も高めることができる。
【0031】
一方、ポリアセタール粉末における疎水性シリカの含有量が0.05質量%未満の場合は、粉末の流動性を向上させる効果が不十分である。また、疎水性シリカの含有量が1.0質量%超の場合は、ポリアセタール粉末のレーザー吸収が疎水性シリカによって阻害されるため加熱-焼結に必要な熱量を得ることができず、空隙(ボイド)が生じて造形品の機械的物性や造形精度が損なわれる恐れがある。また、疎水性シリカに替えて親水性シリカを用いても、親水性シリカが表面に付着(露出)した状態とはならず、粉末の流動性を向上させる効果を発揮できない。
同様の観点から、本実施形態のポリアセタール粉末における疎水性シリカの含有量は、ポリアセタール粉末100質量%に対し、0.1質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0032】
本実施形態のポリアセタール粉末において、表面に疎水性シリカが付着(露出)した粒子状であるとは、疎水性シリカ粒子1個の少なくとも一部分が粉末粒子の表面に露出してさえいれば、残りの部分が該粒子内に埋まっている状態であってもよい。一方、ポリアセタール及びポリエチレンを含むポリアセタール組成物に疎水性シリカが混練されてポリアセタール粉末が製造される等により、粉末粒子の表面に疎水性シリカ粒子が露出していない場合は、含まれない。
ポリアセタール粉末が、表面に疎水性シリカが付着(露出)した粒子状であるか否かは、粉末粒子の表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察することで確認することができる。
上述のポリアセタール粉末は、後述するように、分級工程の前若しくは後に、又は分級工程と同時に、所定量の疎水性シリカを添加し混合すること(疎水性シリカ混合工程)によって得ることができる。
【0033】
本実施形態において、疎水性シリカとしては、特に限定されず、工業用途で通常使用されているものを用いることができ、例えば、乾式法シリカ及び湿式法シリカのいずれも用いることができるが、中でも乾式法シリカを用いることが好ましい。湿式法シリカは、その製造過程でポリアセタールを分解する不純物が含まれる場合があり、ポリアセタール粉末の樹脂特性等を損なう恐れがある。一方、乾式法シリカは、その製造過程でそのような不純物が含まれる可能性がなく、ポリアセタール粉末の樹脂特性等を損なう恐れがない。
【0034】
本実施形態において、疎水性シリカの平均一次粒子径は、特に限定されないが、1nm以上20nm以下であることが好ましい。疎水性シリカの平均一次粒子径が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の流動性をより高めることができ、高温時の積層性、造形箇所への粉載り、及び造形品の機械的特性をより向上させることができる。
同様の観点から、疎水性シリカの平均一次粒子径は、5nm以上15nm以下であることがより好ましく、7nm以上13nm以下であることが更に好ましい。
なお、疎水性シリカの平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱法によって湿式(溶媒:水)で測定することができる。
【0035】
本実施形態において、疎水性シリカのBET比表面積は、特に限定されないが、50m2/g以上300m2/g以下であることが好ましい。疎水性シリカのBET比表面積が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の流動性を更に高め、高温時の積層性、造形箇所への粉載り、及び造形品の機械的特性を更に向上させることができる。
同様の観点から、疎水性シリカのBET比表面積は、100m2/g以上250m2/g以下であることがより好ましく、130m2/g以上200m2/g以下であることが更に好ましい。
なお、疎水性シリカのBET比表面積は、BET法に従って求めることができる。
【0036】
本実施形態において、乾式法シリカとしては、特に限定されず、工業用途で通常使用されているものを用いることができるが、表面改質剤で疎水性シリカの表面水酸基(シラノール基)を疎水化したものであることが好ましい。表面改質剤で疎水化した疎水性シリカは、表面水酸基が低減して、ポリアセタール組成物の粒子の表面への付着性が高まり、ポリアセタール粉末の流動性を一層高めることができる。
前記表面改質剤としては、シリカの表面改質処理に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、シリコーンオイル、オクチルシラン、ヘキサメチルシラザン等が挙げられる。中でも、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される少なくとも1種以上の表面改質剤で疎水化されていることが好ましい。
上記表面改質剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記表面改質剤で疎水化された疎水性シリカとしては、市販品を用いてもよく、表面改質剤を用いて疎水化を行って得られた疎水性シリカを用いてもよい。
【0037】
<他の樹脂>
本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂として、ポリアセタール、ポリエチレン以外の他の樹脂を含んでいてもよい。
樹脂成分として含まれ得る他の樹脂の具体例としては、特に制限はされず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフレラート(PBT)等の結晶性樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリアセタール粉末中の他の樹脂の含有量は、ポリアセタール100質量部に対して、0.05~5質量部としてよい。
【0038】
<添加剤>
また、本実施形態のポリアセタール粉末は、例えば、酸化防止剤、安定剤(熱安定剤等)、耐候(光)剤(紫外線吸収剤等)、潤滑剤(離型剤等)、結晶核剤、無機・有機の充填剤、導電剤・帯電防止剤、外観改良剤(顔料や染料等)等の添加剤を含んでいてもよい。特に、本実施形態のポリアセタール粉末は、添加剤として酸化防止剤及び熱安定剤を含むことが好ましい。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、熱安定剤は、ホルムアルデヒド反応性窒素を含むものが好ましい。
添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
<<酸化防止剤>>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。好ましくは、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。
酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<<熱安定剤>>
熱安定剤としては、例えば、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物等が挙げられる。
【0041】
アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、2,4-ジアミノ-sym-トリアジン、2,4,6-トリアミノ-sym-トリアジン、N-ブチルメラミン、N-フェニルメラミン、N,N-ジフェニルメラミン、N,N-ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4-ジアミノ-6-フェニル-sym-トリアジン)、アセトグアナミン(2,4-ジアミノ-6-メチル-sym-トリアジン)、2,4-ジアミノ-6-ブチル-sym-トリアジン等が挙げられる。
【0042】
アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物の具体例としては、N-メチロールメラミン、N,N’-ジメチロールメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミン等が挙げられる。
【0043】
アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
【0044】
尿素誘導体の例としては、N-置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物等が挙げられる。N-置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素等が挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドの縮合体等が挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、5,5-ジフェニルヒダントイン等が挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントイン等が挙げられる。
【0045】
ヒドラジン誘導体の例としては、ヒドラジド化合物を挙げることができる。ヒドラジド化合物の具体例としては、ジカルボン酸ジヒドラジド等が挙げられ、より具体的には、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボジヒドラジド等が挙げられる。
【0046】
イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0047】
イミド化合物の具体例としては、スクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミド等が挙げられる。
【0048】
熱安定剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
熱安定剤以外の安定剤、耐候(光)剤(紫外線吸収剤等)、潤滑剤(離型剤等)、結晶核剤、無機・有機の充填剤、導電剤・帯電防止剤、外観改良剤(顔料や染料等)としては、通常汎用されるものを適宜使用することができる。
【0050】
上記添加剤の含有量は、特に限定されることなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0051】
<平均粒子径(D50)>
本実施形態のポリアセタール粉末は、平均粒子径(D50)が、5μm以上70μm以下であることを特徴とする。ポリアセタール粉末の平均粒子径(D50)が前記範囲内であれば、作業性を十分に確保することができ、例えば100μm程度の厚みに十分均一に敷き詰めることができ、得られる造形品における微小な空隙(ボイド)の発生を十分に抑制することができる。
ポリアセタール粉末のD50が5μm未満であると、作業性が悪化し、一方、70μmを超えると、例えば100μm程度の薄さに均一に敷き詰めることが困難となり、得られる造形品に微小な空隙(ボイド)が多く発生する虞がある。
同様の観点から、ポリアセタール粉末のD50は、10μm以上60μm以下であることが好ましく、20μm以上55μm以下であることがより好ましい。
【0052】
本実施形態のポリアセタール粉末のD50は、レーザー回折・散乱法によって湿式(溶媒:水)で測定した体積基準の粒度分布から求められる、微粒径側から累積した50%粒子径(メジアン径)を意味し、より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0053】
<粒度分布>
本実施形態のポリアセタール粉末は、径が平均粒子径(D50)の2倍以上である粒子(例えば、D50が50μmである場合には、径が100μm以上である粒子)の割合が、10vol%以下であることが好ましい。上記割合が10vol%以下であることで、ポリアセタール粉末の流動性を向上させ、造形品を高密度にして、機械的物性を高めることが可能となる上、造形品の表面をより滑らかにでき、造形精度が向上するので、精密な部品を製造し易くなる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、径がD50の2倍以上である粒子の割合は、5vol%以下であることがより好ましく、3vol%以下であることが更に好ましく、実質的に0vol%であることがより更に好ましい。
【0054】
本実施形態のポリアセタール粉末は、径が平均粒子径(D50)の0.2倍以下である粒子(例えば、D50が50μmである場合には、径が10μm以下である粒子)の割合が、10vol%以下であることが好ましい。
造形に用いるレーザービームは、照射スポット寸法を非常に小さくできるので、造形品の輪郭の解像度を非常に鮮明にすることができる。しかしながら、レーザーでの加熱により融着した箇所からの熱伝導により、レーザーが走査された箇所の外側にある粉末が焼結対象の部分に直接融着し、レーザー走査領域を越え、従って設計寸法を越えて粉末が融着する恐れがある。また、焼結からの熱が残っていると、単に粉末をその層の上に新たに敷き並べただけでも、当該粉末が先の層の焼結部分に焼結して、いわゆる層間成長が生じる恐れがある。このような層間成長が生じた場合には、造形精度が低下する上、完成品から未焼結粉末を除去することが困難になる。この点に関し、本発明者らは、径がD50の0.2倍以下である粒子が、特に融着し易く、造形精度に影響を与えること、並びに、その割合を10vol%以下とすることで、造形精度が高まり、精密な部品を製造し易くなることを見出した。更に、上記割合が10vol%以下であることで、ポリアセタール粉末の流動性を向上させ、造形品を高密度にして、機械的物性を高めることも可能となる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合は、5vol%以下であることがより好ましく、3vol%以下であることが更に好ましく、実質的に0vol%であることがより更に好ましい。
【0055】
また、本実施形態のポリアセタール粉末は、D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下であることが好ましい。D50及び径が該D50の0.2倍以下である粒子の割合が各々前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の積層性を一層向上させ、得られる造形品の機械的物性を一層高めることができる。
同様の観点から、D50が63μm以下であり、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が2vol%以下であることがより好ましく、D50が62μm以下であり、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が1vol%以下であることが更に好ましい。
【0056】
径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合は、レーザー回折・散乱法によって測定した粒度分布及びD50から求めることができる。
径がD50の2倍以上である粒子の割合又は/及び径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が上記範囲内のポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0057】
<融点>
本実施形態のポリアセタール粉末は、融点が160℃以上173℃以下であることが好ましい。融点が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の結晶化温度との温度差(プロセスウィンドウ)を十分広くすることができ、造形時の造形エリア内の温度差に対するポリアセタール粉末の許容性を広げ(例えば、造形エリアの温度が、周囲への放熱等により、設定温度よりも低くなってしまっている部分があっても、造形時の反りの発生を抑制でき)、得られる造形品の造形精度を高めることができる。また、一度に多量の造形品を量産する場合は、造形装置内の温度差に対するポリアセタール粉末の許容性を広げ、造形品間の造形精度のばらつきを抑制することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の融点は、162℃以上171℃以下であることがより好ましい。
【0058】
ここで、ポリアセタール粉末の融点とは、当該ポリアセタール粉末が本来有する固有の融点を意味し、示差走査熱量(DSC)測定でセカンドスキャンの融点として測定することができる。DSCで測定したファーストスキャンの融点は、測定対象のポリアセタール粉末の熱履歴の影響を受けるため、製造過程で凍結粉砕された場合等、ポリアセタール粉末の固有の融点より下がる場合があり得る。一方、DSCで測定するセカンドスキャンの融点は、ポリアセタール粉末がファーストスキャン測定時に一度融解し固化した後に再度融解する際の融点として測定されるため、熱履歴の影響を受けず、測定対象物が本来有する固有の融点とすることができる。
【0059】
上記範囲の融点を有するポリアセタール粉末は、コモノマーユニットの含有割合を上記範囲内で調整してポリアセタールコポリマーの結晶化度を制御することによって、得ることができる。
なお、通常、ポリアセタールコポリマー中のコモノマーの含有割合を増やすと結晶化度が下がり、ポリアセタール粉末の融点を低くすることができる。逆に、ポリアセタールコポリマー中のコモノマー含有割合を減らせば結晶化度が上がり、ポリアセタール粉末の融点を高くすることができる。
【0060】
<ファーストスキャン融点とセカンドスキャン融点との差>
本実施形態のポリアセタール粉末は、示差走査熱量(DSC)測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下であることが好ましい。
樹脂粉末を造形材料として使用する付加製造において重要となるプロセスウィンドウの広さを決めることになるポリアセタール粉末の融点は、DSC測定におけるファーストスキャンの融点に相当する。ファーストスキャンの融点は、ポリアセタール粉末が製造されるまでに受けた熱履歴を反映している。
一方、セカンドスキャンの融点は、樹脂自体の実力としての融点であり、高い方が好ましい。ファーストスキャンの融点が低くてもセカンドスキャンの融点が高ければ、後述するアニール等の後処理を事前にすることで、ファーストスキャンの融点を高めることが可能である。
【0061】
そして、ファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下であれば樹脂の持つ実力に近い広いプロセスウィンドウを達成することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、DSC測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差は、0℃以上4℃以下であることがより好ましく、0℃以上3℃以下であることが更に好ましい。
なお、DSC測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差は、DSC測定で測定されたファーストスキャンの融点及びセカンドスキャンの融点のうち、高温である方の融点から低温である方の融点を差し引いた値とする。
上記範囲内のファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差を有するポリアセタール粉末は、製造過程における凍結粉砕の条件を制御すること、凍結粉砕後で分級工程の前又は後にアニール(融点より低温かつ結晶成長が可能な程度の高温で一定時間保持すること。例えば、120℃で1時間等)によって結晶成長させること、等によって得ることができる。
【0062】
<結晶化温度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、結晶化温度が130℃以上145℃以下であることが好ましい。
付加製造中の造形エリア内及び造形装置内の温度は、樹脂粉末の結晶化温度より高温に常時保たれている。しかし、造形エリア内又は造形装置内において多少の温度差(温度ムラ)が生じた場合、加熱-焼結された造形層において結晶化温度まで冷却された部分のポリアセタールが結晶化し、特に積層方向に反りが生じ、得られる造形品において造形精度を低下させていた。この点に関し、本発明者らは、ポリアセタール粉末の融点と結晶化温度との温度差を大きくすることによって造形エリア内及び造形装置内での温度差(温度ムラ)に対する許容性を広げることができ、造形中の反りを抑制し、得られる造形品の造形精度を高めることができることを見出した。そして、一度に多量の造形品を量産する場合は、造形品間の造形精度のばらつきも抑えることができることを見出した。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の結晶化温度は、135℃以上143℃以下であることがより好ましい。
ポリアセタール粉末の結晶化温度は、示差走査熱量(DSC)測定によって測定することができ、より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
上記範囲の結晶化温度を有するポリアセタール粉末は、ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの主鎖中の含有割合及び/又は結晶核剤の量等を調整することによって得ることができる。
【0063】
<結晶化速度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、結晶化速度が40秒以上であることが好ましい。結晶化速度が40秒以上であることにより、造形途中の造形エリア内や層間の温度ムラを許容して、造形中の反りを一層抑制し、得られる造形品の造形精度を高めることができる。同様の観点から、ポリアセタール粉末の結晶化速度は、45秒以上であることがより好ましく、50秒以上であることが更に好ましい。
ここで、結晶化速度は、示差走査熱量測定(DSC)により、例えば、Parkin Elmer社製「DSC-2C」を用い、一旦融解させたポリアセタール粉末を急速降温して結晶化温度付近の所定温度で保持し結晶化による発熱ピークを観察して、前記所定温度での保持開始から発熱ピークの最高温度(ピークトップ温度)に達するまでの時間とする。より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0064】
ポリアセタール粉末の結晶化速度を制御する方法としては、ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの含有割合や、結晶核剤の有無、種類、及び添加量等を調節すること等が挙げられる。具体的には、コモノマーユニットの含有割合を多くすれば結晶化度が下がるので結晶化速度が遅くなる傾向にある。また、結晶核剤となるような添加剤を含まないようにすることでも結晶化速度を遅くすることができる。
また、結晶化速度は、例えば、ポリエチレンの種類、密度、含有量等により調整することができ、特定割合の低密度ポリエチレン(特に直鎖状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン)を用いること等で上記範囲とすることができる。
【0065】
なお、一般に、射出成形において成形品の反りを抑制する方法としては、成形材料の結晶化速度を速くして、金型内で十分に結晶化させることで、金型から取り出した後に反りが生じるのを抑える方法がある。
一方で、3Dプリンター等による造形では、上述の方法とは逆に、結晶化速度を十分に遅くすることによって、造形時における反りを抑制することができる。
【0066】
<重量減少率>
本実施形態のポリアセタール粉末は、当該ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下であることが好ましい。ポリアセタール粉末の上記重量減少率が5%以下であることにより、高い熱安定性を保持することができ、長時間の造形も安定的に可能となり、加熱によるホルムアルデヒド等の揮発性有機物質(VOC)の放出を十分に抑制することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の上記重量減少率は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
ポリアセタール粉末の上記重量減少率は、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、商品名「Pyris 1 TGA」等)を用いて測定することができ、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記範囲内の重量減少率を有するポリアセタール粉末は、上記ポリアセタールコポリマー以外の成分、例えば、ポリエチレン、疎水性シリカ、他の樹脂、各種添加剤等の種類及び/又は添加量を調整することによって得ることができる。
【0067】
<MFR>
本実施形態のポリアセタール粉末は、メルトフローレート(MFR)が70g/10分未満であることが好ましい。MFRが70g/10分未満である程にポリアセタール自体が高分子量体であれば、クリープ特性に優れた造形品が得られる。
また、本実施形態のポリアセタール粉末は、メルトフローレート(MFR)が2.0g/10分以上であることも好ましい。ポリアセタール粉末のMFRが2.0g/10分以上であることにより、レーザーで溶融した際に、ポリアセタールが流れることで粒子同士の隙間をより効率的に埋めることができ、これにより、造形品中のボイドがより少なくなり、引張強さ等の機械的物性に優れた造形品が得られる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末のMFRは、2.5g/10分以上55g/10分以下であることがより好ましく、3g/10分以上40g/10分以下であることが更に好ましい。
ここで、ポリアセタール粉末のMFRは、ISO1133(条件D・温度190℃)に準拠して測定されるものである。
上記範囲内のMFRを有するポリアセタール粉末は、ポリアセタールコポリマーの重合工程において連鎖移動剤の添加量を調整することによって得ることができる。
【0068】
<固め嵩密度/ゆるめ嵩密度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下であることが好ましい。固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末が流動性及び積層性に優れ、ボイドの発生を一層抑制することができ、造形品を高密度にして機械的物性を一層高めることができる。
同様の観点から、固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値は、1.40以下であることがより好ましく、1.36以下であることが更に好ましい。
ゆるめ嵩密度は、所定容積の容器内に粉末を疎充填した(タップしない)状態で測定する密度である。固め嵩密度は、粉末を充填した所定容積の容器を一定高さから一定速度で繰り返し落下させ(タップ)、容器内の粉末の嵩密度がほぼ一定となるまで密に充填した状態で測定する密度である。固め嵩密度、ゆるめ嵩密度は、具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0069】
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値が上記範囲内のポリアセタール粉末は、粒度分布(例えば、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合等)、粒子形状(例えば、後述する、平均短径長径比、平均表面平滑形状係数等)等を制御することによって、得ることができる。
【0070】
<粒子形状>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、流動性の観点から、球形であることが好ましい。一般に、粒子材料としてのポリアセタール等の樹脂は、重合により微粒子を直接形成することが難しく、かかる樹脂を用いて粉末を製造するためには、任意の方法で得たペレットを粉砕する等といった操作が必要となる。そのため、その際に、粉砕方法や粉砕条件を適宜調整して、球形に近い粒子を直接得るか、或いは、粉砕した粉末を後加工により加熱しながら撹拌し、粒子の角を取って丸める等して、球形の粒子を得ることができる。
以下、本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子の形状について、より具体的に説明する。
【0071】
<<粒子の平均短径長径比>>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、平均短径長径比が0.50以上であることが好ましい。粒子の平均短径長径比が0.50以上であることで、いびつさを回避して流動性を高め、粉末を隙間なく敷き並べることができる。
同様の観点から、粒子の平均短径長径比は、0.65以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましい。
ここで、平均短径長径比とは、粒子の長径に対する短径の比(短径/長径)をいい、平均短径長径比とは、任意に選択した100個の粒子の短径長径比の平均値をいう。また、短径、長径とは、それぞれ、粒子の境界画素上に外接する面積が最小となる外接長方形の短辺、長辺をいう。
ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均短径長径比は、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、「VH-7000型」、「VH-501レンズ」使用)を用いて撮影した画像を、1360×1024ピクセル、TIFFファイル形式で保存し、画像処理解析ソフト((株)デジモ製「Image HyperII」)を使用して、100個の粒子の短径/長径の平均値として求めることができる。
粒子の平均短径長径比が上記範囲内であるポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0072】
<<粒子の平均表面平滑形状係数>>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、平均表面平滑形状係数が0.80以上であることが好ましい。粒子の平均表面平滑形状係数が0.80以上であることで、粒子がより規則的で凹凸の少ない形状となる結果、粒子の流動性をより向上させることができる。同様の観点から、粒子の平均表面平滑形状係数は、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上であることが更に好ましい。
ここで、表面平滑形状係数とは、粒子の円又は楕円らしさを表す指数であり、粒子の短径、長径及び周囲長の測定値を用い、以下の式により表わされる。
表面平滑形状係数=[π×(粒子の長径+粒子の短径)]/[2×粒子の周囲長]
【0073】
表面平滑形状係数は、粒子が完全な円の場合には1に、完全な楕円の場合にはほぼ1となる。形状が平滑な円や楕円ではなく、不規則な形状となるほど、粒子の周囲長が長くなるため、表面平滑形状係数は、1よりも小さくなる。
そして、平均表面平滑形状係数とは、任意に選択した100個の粒子の表面平滑形状係数の平均値をいう。
ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均表面平滑形状係数は、上述のデジタルマイクロスコープを用いて撮影した画像を、1360×1024ピクセル、TIFFファイル形式で保存し、上述の画像処理解析ソフトを使用して、100個の粒子の長径、短径、周囲長を測定し、上述の式に従ってそれぞれの表面平滑形状係数を求め、その平均値として求めることができる。
粒子の平均表面平滑形状係数が上記範囲内であるポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0074】
[ポリアセタール粉末の製造方法]
本実施形態におけるポリアセタール粉末は、例えば、ポリアセタール及びポリエチレン等の樹脂材料を造粒する工程(造粒工程)と、造粒された樹脂材料を粉砕する工程(粉砕工程)と、粉砕した樹脂材料を篩にかけて所望の粉体特性を有する粉末を得る工程(分級工程)と、任意で、疎水性シリカと混合して表面に疎水性シリカが付着(露出)した粒子状の粉末を得る工程(疎水性シリカ混合工程)とを実施することにより、製造することができる。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0075】
[[造粒工程]]
造粒工程では、例えば、ポリアセタール及びポリエチレン等の樹脂材料を、ニーダー、ロールミル、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等を用いて溶融混練することにより、ペレットを得ることができる。
【0076】
ここで、樹脂材料の溶融混練を行う場合には、品質や作業環境の保持のために、雰囲気を不活性ガスにより置換したり、一段及び多段ベントによる脱気をしたりすることが好ましい。溶融混練の際の温度は、樹脂材料の融点以上250℃以下とすることが好ましく、樹脂材料の融点より20~50℃高い温度であってもよい。
【0077】
また、造粒工程では、樹脂材料に上述した添加剤を添加して混合し、得られる樹脂組成物を溶融混練してもよい。このとき、添加剤は、何回かに分けて、樹脂材料と混合してもよい。
【0078】
[[粉砕工程]]
粉砕工程では、造粒工程で得られたペレットを粉砕して、粉末を得ることができる。粉砕方法としては、特に制限されず、例えば、常温粉砕、凍結粉砕等が挙げられる。また、造粒工程で得られたペレットを溶媒に溶解させたのち、析出させる方法も挙げられる。
【0079】
[[分級工程]]
分級工程では、粉砕工程で得られた粉末を篩にかけることにより、平均粒子径(D50)、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.5倍以下である粒子の割合等を適宜調整して、最終的に本実施形態のポリアセタール粉末を得ることができる。
【0080】
また、本実施形態のポリアセタール粉末の製造方法においては、任意により、分級工程の前又は後に、熱処理による結晶化度の調整をおこなってもよい。
【0081】
[[疎水性シリカ混合工程]]
本実施形態のポリアセタール粉末の製造方法においては、分級工程の前、分級工程と同時、又は分級工程に次いで、任意で疎水性シリカ混合工程を実施することができる。
疎水性シリカ混合工程では、ポリアセタール及びポリエチレンを含むポリアセタール組成物の粉末と、疎水性シリカとを混合することにより、表面に疎水性シリカが付着(露出)した粒子状のポリアセタール粉末が得られ、ポリアセタール粉末の流動性を向上させることができる。
混合方法としては、特に制限されず、通常の粉体混合機、例えば、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等を使用して混合すればよい。また、手動による撹拌等で混合してもよい。
【0082】
[ポリアセタール粉末の用途]
本実施形態のポリアセタール粉末は、付加製造技術に好適に用いられ、特に選択的レーザー焼結法に好適に用いられる。本実施形態におけるポリアセタール粉末は、粉体特性及び粒子特性の適正化が図られているため、例えば100μm程度の薄さに均一に敷き並べることが可能である。従って、この樹脂粉末を選択的レーザー焼結法に用いて付加製造を行うことにより、微小な空隙(ボイド)が十分に抑制され、反りが少なく、層間密着性に優れた、高い機械的物性を有する造形品を得ることができる。このような造形品は、自動車部品、電気・電子部品、工業部品、医療用部品等の機構部品等に、広範囲に亘って適用可能である。
【0083】
[ポリアセタール粉末の使用方法]
本実施形態のポリアセタール粉末の使用方法は、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を、付加製造に用いることを含む。
付加製造に使用する付加製造技術としては、特に限定されず、選択的レーザー焼結法や、樹脂粉末を敷き詰めた造形エリアの造形したい箇所に熱吸収剤を塗布しヒーターで上面から熱を与えて造形する、熱溶融法等が挙げられる。
なお、本実施形態のポリアセタール粉末の使用方法において、具体的な使用条件等は、特に制限されず、使用する付加製造技術、造形品の用途及び目的等に応じて適宜選択して、ポリアセタール粉末を使用することができる。
【0084】
[付加製造方法]
本実施形態の付加製造方法は、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを含む。本実施形態の付加製造方法によれば、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を用いるため、高い造形精度及び機械的物性を有する造形品を得ることができる。
本実施形態の付加製造方法で使用する付加製造技術は、樹脂粉末を造形材料として用いることができるものであれば特に限定されず、例えば、選択的レーザー焼結法、熱溶融法、等が挙げられる。
本実施形態の付加製造方法における具体的な造形条件等は、特に制限されず、使用する付加製造技術及び造形品の用途等に応じて適宜選択して、造形することができる。
【実施例
【0085】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例のポリアセタール粉末及び造形品に対する各種測定方法と、実施例及び比較例に用いたポリアセタール粉末及び造形品の原料成分とを以下に示す。
【0086】
(1)ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニット含有割合
ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの含有割合について、1H-NMR法を用いて、以下の手順で求めた。
即ち、ポリアセタールコポリマーを、ヘキサフルオロイソプロパノールにより濃度1.5質量%となるように24時間かけて溶解させ、この溶解液を用いて1H-NMR解析(磁場強度:400MHz、測定溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、基準物質:テトラメチルシラン、温度55℃、積算回数500回)を行った。
1H-NMR解析で得られたオキシメチレンユニットの帰属ピーク(δ(ppm):4.8~5.4)の積分値と、コモノマーユニットである炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの帰属ピーク(δ(ppm):例えば、コモノマーユニットがオキシエチレンユニットである場合は、3.6~4.0)の積分値との比率から、オキシメチレンユニット(a=100mol)に対するコモノマーユニット(bmol)の含有割合(b/a:mol/100mol)を求めた。
【0087】
(2)粒子径等
マルバーン社製のマスターサイザーを使用し、平均粒子径(D50)、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合、D50が65μm以下であり、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合を測定した。
【0088】
(3)融点、結晶化温度、結晶化速度
示差走査熱量計(Parkin Elmer社製:DSC-2C)を用いて、下記の手順1~8に従って測定を行って得られたDSC曲線に基づき、ファーストスキャン融点、セカンドスキャン融点、結晶化温度、及び結晶化速度を求めた。
1:測定対象のポリアセタール粉末3mgを測定用アルミパンの中に封入し、示差走査熱量計の加熱炉内の所定位置に配置する。
2:10℃/分の昇温速度で220℃に達するまで昇温し、その際の吸熱ピーク(融点ピーク)の最高点を「ファーストスキャン融点」とする。
3:220℃に達してから2分間、その温度を保持する。
4:次いで、80℃/分の降温速度で149℃に達するまで降温し、10分間、その温度を保持して、結晶化による発熱ピークを測定する。
5:149℃での保持開始から発熱ピークの最高点に達するまでの時間を、「結晶化速度」とする。なお、この時間が長いほど、結晶化速度が遅いことを意味する。
6:次いで、20℃/分の昇温速度で210℃に達するまで昇温し、5分間、その温度を保持する。
7:次いで、20℃/分の降温速度で、210℃から100℃に冷却する。この際の発熱ピーク(結晶化ピーク)を「結晶化温度」とする。
8:次いで、20℃/分の昇温速度で100℃から210℃に昇温し、その際の吸熱ピーク(融点ピーク)の最高点を「セカンドスキャン融点」とする。
【0089】
(4)DSC測定におけるファーストスキャンとセカンドスキャンの融点差
上記のようにしてDSC測定で求めたセカンドスキャンの融点からファーストスキャンの融点を差引くことによって、ファーストスキャンとセカンドスキャンの融点差(表1で「1st・2ndスキャンの融点差」と称する)を求めた。
【0090】
(5)重量減少率
熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、商品名「Pyris1 TGA」)を用いて、試料重量:5mg、空気流量:10mL/分、昇温速度:10℃/分にて室温から、測定対象のポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度まで昇温し、その温度にて1時間保持した後の重量減少率を測定した。
【0091】
(6)メルトフローレート(MFR)
東洋精機製作所製「P-111」を用い、190℃、荷重2.16kgの条件で、ISO1133(条件D)に準拠してMFRを測定した。
【0092】
(7)固め嵩密度/ゆるめ嵩密度
パウダテスターPT-X型(ホソカワミクロン製)を用いて、固め嵩密度とゆるめ嵩密度の測定を行った。
具体的には、ステンレス製100cm3円筒容器に,粉体が容器に山盛りになるまでサンプル供給装置を振動させて粉体を流下し、ブレードを用いて容器上の余分な粉を擦切って測定した密度を、ゆるめ嵩密度(g/cm3)とした。
また、ステンレス製100cm3円筒容器にキャップをかぶせ、サンプル供給装置を振動させて粉体を流下し、ストローク長(タッピング高さ)18mm、タッピング速度60回/分、タッピング回数180回、でタッピングを行った。その後、ブレードを用いて容器上の余分な粉を擦切って測定した密度を、固め嵩密度(g/cm3)とした。
上述のように測定された、固め嵩密度の測定値をゆるめ嵩密度の測定値で除して、固め嵩密度/ゆるめ嵩密度の値を求めた。
【0093】
(8)造形中の反り、めくれ
造形中の短冊型造形試験片を観察し、以下の基準で、反り及びめくれを評価した。
(評価基準)
◎(優れる):造形箇所にカールが発生せず、短冊をきれいに造形できた。
○(良好):最初の数層は短冊の端部周辺が少しカールしたが、すぐに収まり、短冊をきれいに造形できた。
×(劣る):短冊の端部がカールし、短冊の一部がきれいに造形できなかった。又は、レーザー照射部が大きくカールし、造形部がリコーターに引きずられて短冊を造形できなかった。
カールの発生が少ない程、造形時の反りが抑制され、造形精度に優れる。
【0094】
(9)造形品の機械的物性
造形した短冊型造形試験片について、ISO527-1に準拠して、引張速度5mm/分で引張試験を行い、引張破壊応力を測定した。得られた測定値を、下記の基準に従って評価した。
(評価基準)
◎(優れる):40MPa以上
○(良好):20MPa以上40MPa未満
△(不良):10MPa以上20MPa未満
×(劣る):10MPa未満
引張破壊応力の値が大きい程、機械的物性に優れる。
【0095】
(10)造形品の反りの評価
造形した短冊型造形試験片を観察し、以下の基準で、造形品の反りを評価した。
(評価基準)
◎(優れる):ほぼ反っていない。
○(良好):平面に置いたときに、少なくとも一方の端部の反りが2mm以内。
×(劣る):平面に置いたときに、両端の反りが2mm以上。
【0096】
<ポリアセタール>
ポリアセタールコポリマー(旭化成(株)製テナック-C(商標)3510)
【0097】
<ポリエチレン>
A:高密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=7g/10分、密度0.96g/cm3
B:高密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=15g/10分、密度0.95g/cm3
C:直鎖状低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=0.5g/10分、密度0.92g/cm3
D:直鎖状低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=9g/10分、密度0.92g/cm3
E:直鎖状低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=16g/10分、密度0.92g/cm3
F:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=7g/10分、密度0.92g/cm3
G:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=0.5g/10分、密度0.92g/cm3
H:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=15g/10分、密度0.92g/cm3
I:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=90g/10分、密度0.92g/cm3
J:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=0.1g/10分、密度0.92g/cm3
K:高圧法低密度ポリエチレン(旭化成(株)製;MFR=120g/10分、密度0.91g/cm3
【0098】
<シリカ>
ジメチルジクロロシランで疎水化された乾式法シリカ((株)トクヤマ製レオロシール(登録商標)DM20-S)
トリメチルクロロシランで疎水化された乾式法シリカ((株)トクヤマ製HM-20L)
【0099】
(実施例1~14、比較例1、2)
<造粒工程>
表1に示される配合処方で、各成分を、二軸混練機により溶融混練(シリンダ-温度:165℃~210℃)し、ペレッ卜状の造形材料を得た。
【0100】
<粉砕・分級工程>
得られたペレットを液体窒素で凍結しながら、リンレックスミル(登録商標)(ホソカワミクロン(株)製)で凍結粉砕し、篩にかけて粉体特性を適宜調整することで、ポリアセタール粉末を得た。
【0101】
(実施例15~17)
シリカを含む実施例については、上記の粉砕・分級工程の後に、下記のシリカ混合工程を行い、シリカを含むポリアセタール粉末を得た。
また、得られたポリアセタール粉末の表面をSEMで観察し、表面にシリカの粒子が付着(露出)しているかどうかを観察した。
<シリカ混合工程>
粉砕・分級工程で得られた粉末に対し、表1に示す配合処方でシリカを添加し、タンブラーミキサーで混合して、シリカを含むポリアセタール粉末を得た。
【0102】
(短冊型造形試験片)
実施例及び比較例で得られたポリアセタール粉末を用い、市販の選択的レーザー焼結法の造形装置で、各々、縦5cm、横1cm、積層方向の厚み4mmの短冊型に造形し、評価用の短冊型造形試験片とした。
【0103】
実施例・比較例において行った各測定・評価の結果を、表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すとおり、実施例に係るポリアセタール粉末は、造形中の反り、めくれが少なく、また、実施例に係るポリアセタール粉末を用いて選択的レーザー焼結法により形成した造形品は、反りが少なく、機械的物性に優れ、高い造形精度を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品を得ることが可能なポリアセタール粉末を提供することができる。また、本発明によれば、当該ポリアセタール粉末の使用方法、及び、反りが少なく、機械的物性に優れた造形品を得ることが可能な付加製造方法を提供することができる。