(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】カルボキシメチル化セルロースナノファイバーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20230315BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20230315BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20230315BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230315BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230315BHJP
【FI】
C08B11/12
D21H11/18
D21H19/34
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019513646
(86)(22)【出願日】2018-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2018015823
(87)【国際公開番号】W WO2018194049
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017081217
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】山邊 かおり
(72)【発明者】
【氏名】中山 武史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】高市 賢志
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071700(JP,A)
【文献】特開2006-241374(JP,A)
【文献】特開昭58-089601(JP,A)
【文献】特開2014-133825(JP,A)
【文献】特表2006-514935(JP,A)
【文献】特開2000-119303(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137140(WO,A1)
【文献】特開2000-290301(JP,A)
【文献】特開2000-281701(JP,A)
【文献】特開平06-009701(JP,A)
【文献】特開平10-251301(JP,A)
【文献】特開2008-056889(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087767(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/088072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/12
D21H 11/18
D21H 19/34
B82Y 30/00
B82Y 40/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース結晶I型含有率が55~65%であり、かつ、1.0%(w/v)の水分散液としたときに500mPa・s以下のB型粘度を有する、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
【請求項2】
請求項
1に記載のナノファイバーが水に分散している水分散液を、紙基材に塗布してなる、紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボキシメチル化セルロースナノファイバーおよびその製造方法に関する。本発明は、より詳しくは低粘度の水分散液を与えるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは生分解性の新規素材として期待されている。当該ナノファイバーの表面にはカルボキシメチル基が導入されているため、当該基を基点として自由に改質することができる。よって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを他の材料と複合化することによって、より高性能な素材を提供することもできる。通常、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは水分散液の状態で製造され、水分散液の状態で他材料との複合化に供される。しかしながら、当該水分散液は粘度が高く複合化が困難である場合がある。
【0003】
特許文献1にはTEMPO酸化セルロースをpH8~14の条件下にて過酸化水素で処理した後に解繊することによって、TEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を低粘度化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、カルボキシル化セルロースナノファイバーの製造方法であって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造方法ではない。カルボキシメチル化セルロースナノファイバー分散液についても低粘度化が望まれるがカルボキシル化セルロースとカルボキシメチル化セルロースは性能が大きく異なるため、前者の技術を後者の技術の直接適用することはできない。以上を鑑み、本発明は低粘度の分散液を与えるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、過酸化水素でカルボキシメチル化セルロースを処理することで前記課題を解決できることを見出した。したがって前記課題は以下の本発明により解決される。
[1](A)カルボキシメチル化セルロースを準備する工程、
(B)過酸化水素で前記カルボキシメチル化セルロースを処理する工程、および
(C)前記処理後のカルボキシメチル化セルロースを解繊して、セルロースナノファイバーを得る工程、を含む、
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造方法。
[2]前記工程(B)を、過酸化水素、カルボキシメチル化セルロース、および媒体を含む混合物で実施し、当該混合物のpHが3.0~7.0である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記過酸化水素の添加量が、カルボキシメチル化セルロースの絶乾重量に対して0.1~100重量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記工程(B)を、温度60~120℃で0.5~24時間実施する、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記工程(B)を過酸化水素、カルボキシメチル化セルロース、および媒体を含む混合物で実施し、当該混合物中の前記カルボキシメチル化セルロースの濃度が1~50重量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]セルロース結晶I型含有率が55~65%であり、かつ、1.0%(w/v)の水分散液としたときに500mPa・s以下のB型粘度を有する、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
[8]前記[7]に記載のナノファイバーが水に分散している水分散液を、紙基材に塗布してなる、紙。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含む。
【0008】
1.カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の製造方法は、(A)カルボキシメチル化セルロースを準備する工程、(B)過酸化水素で前記カルボキシメチル化セルロースを処理する工程、ならびに(C)前記処理後のカルボキシメチル化セルロースを解繊して、セルロースナノファイバーを得る工程、を含む。
【0009】
(1)工程A
本工程ではカルボキシメチル化セルロースを準備する。カルボキシメチル化セルロースは公知の方法で調製できる。例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。当該反応には、通常、溶媒が使用される。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上または95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。当該量の上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0010】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。当該量の上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、マーセル化剤の使用量は0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0011】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上であり、上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。当該時間の上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、反応時間は、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0012】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。当該量の上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、当該量は好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、さらに好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上であり、その上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0013】
本発明で用いるカルボキシメチル化セルロースまたはセルロースナノファイバー中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
【0014】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾重量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0015】
(2)工程B
本工程では過酸化水素で前記カルボキシメチル化セルロースを処理する。当該処理によってカルボキシメチル化セルロースが酸化分解され、低粘度の水分散液を与えるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを得ることができる。以下、「低粘度の分散液を与えるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーとすること」を便宜上、「カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの低粘度化」ともいう。
【0016】
副反応を抑制する観点から、水を含む反応媒体、カルボキシメチル化セルロース、および過酸化水素を含む混合物を撹拌して本工程を実施することが好ましい。当該反応媒体中の水の量は80~100重量%であることが好ましく、90~100重量%であることがより好ましく、100重量%であることがさらに好ましい。他の成分はアルコール等の水溶性有機溶媒であることが好ましい。
【0017】
反応系のpHは限定されないが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの低粘度化を達成する観点から、反応系のpHは酸性~中性領域であることが好ましく、3.0~7.0であることがより好ましく、5.0~7.0であることがさらに好ましい。pHが7.0を超えるとカルボキシメチル化セルロースへのダメージが大きくなり、得られるセルロースナノファイバーの強度が低下する場合がある。また、カルボキシメチル化セルロースは、エーテル化処理前のマーセル化によってセルロースが部分的に膨潤するという特徴を持つ。このため本工程におけるpHが高くなると、上記マーセル化により膨潤した箇所を起点にカルボキシメチル化セルロースがより膨潤しやすくなって3次元網目構造体の絡まりが強くなり、低粘度化効果が得られにくくなる傾向がある。一方、pHが3.0未満である場合も、同様に得られるセルロースナノファイバーの強度が低下する場合がある。過酸化水素を含むため反応系のpHは通常は酸性となるが、アルカリや酸等を用いてpHを適宜調整してよい。pHは公知の装置を用いて測定できる。本発明で使用する反応媒体は主成分が水であるので、有機溶媒を含む場合であっても水のpHを測定する装置(pHメーター等)を用いて測定した値をそのまま反応媒体のpHとしてよい。
【0018】
混合物中のカルボキシメチル化セルロースの濃度は、1~50重量%が好ましく、1~10重量%がより好ましい。過酸化水素の添加量は、カルボキシメチル化セルロース絶乾重量に対して、0.1~100重量%であることが好ましく、1~80重量%であることがより好ましい。また、反応温度や時間は適宜設定できるが、60~120℃で0.5~24時間程度実施することが好ましい。本工程を実施する装置も限定されない。例えば、オートクレーブ、ニーダー等の公知の装置を使用できる。
【0019】
本工程に供するカルボキシメチル化セルロースのカルボキシメチル基は酸型(-CH2-COOH)、塩型(-CH2-COOM:Mは一価の金属イオン)、これらの混合型であってよい。
【0020】
(3)工程C
本工程では、処理後のカルボキシメチル化セルロースを解繊してセルロースナノファイバーを得る。解繊処理は1回行ってもよいし、複数回行ってもよい。カルボキシメチル化セルロースと分散媒を含む混合物を解繊処理に供することが好ましい。分散媒としては水が好ましい。解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、カルボキシメチル化セルロースに強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。
【0021】
解繊には、工程Bで得た混合物をそのまま用いてよい。したがって、混合物中のカルボキシメチル化セルロースの固形分濃度は工程Bに供される濃度と同様に1~50重量%であってよいが、これを希釈または濃縮して濃度を変更してもよい。例えば、固形分濃度の下限を0.1重量%以上、0.2重量%以上、あるいは0.3重量%以上とすることができ、上限を10重量%以下あるいは6重量%以下とすることもできる。
【0022】
本工程によりカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが得られる。当該ナノファイバーの平均繊維径は、長さ加重平均繊維径にして通常2~500nm程度であるが、好ましくは2~50nmである。平均繊維長は長さ加重平均繊維長にして50~2000nmが好ましい。長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長(以下、単に「平均繊維径」、「平均繊維長」ともいう)は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察して求められる。ナノファイバーの平均アスペクト比は、通常10以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0023】
本工程で得たカルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおけるグルコース単位当たりの置換度は、カルボキシメチルセルロースの置換度と同じであることが好ましい。
【0024】
2.カルボキシメチル化セルロースナノファイバー
本発明で得られるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、比較的温和な条件で低粘度化処理(工程B)がなされているため、結晶化度の変動が少なく、さらには繊維自体のダメージも小さい。当該セルロースナノファイバーの結晶I型の含有率は工程Bを経ない方法で得られる低粘度化させたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに比べて高く、その値は55%~65%である。さらに、本発明で得られるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、固形分濃度が1重量%の水分散液(1%(w/v))としたときに、500mPa・s以下の低粘度を呈する。当該粘度の下限値は2mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましく10mPa・s以上がさらに好ましい。当該粘度の上限値は200mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましい。粘度はB型粘度計(東機産業社製)を用い、25℃、No.3ロータを用いて、60rpmで測定される。従来、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおいてこの程度の低粘度化を達成するには、過酷な低粘度化処理が必要であったため結晶I型の含有率が低くなり、ファイバー自体の強度等に問題があった。しかし、本発明によれば、低粘度の分散液を与えかつ優れた強度を有するカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを製造できる。
【0025】
セルロース繊維の、X線回折法によって求められる結晶I型の含有率は、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求めることができる(Segalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年参照)。セルロース結晶I型の含有率は、広角X線回折法による測定で得られたグラフの回折角2θのピークの面積比により算出する。手順は次の通りである。
【0026】
1)まずセルロースを液体窒素で凍結させ、これを圧縮し、錠剤ペレットを作成する。
【0027】
2)その後、このサンプルをX線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)で分析し、これにより得られた測定結果(グラフ)を、グラフ解析ソフトPeakFit(Hulinks製)によりピーク分離し、その面積比から結晶I型とII型の比率を算出する。この時、ピーク分離のために、下記の回折角度を基準として結晶I型とII型を判別する。
結晶I型 :2θ=14.7°、16.5°、22.5°
結晶II型:2θ=12.3°、20.2°、21.9°
【0028】
3.製紙用コーティング材
本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは前述のとおり低粘度の分散液を与える。当該分散液は、他の材料と複合化することに有利である。例えば、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー水分散液は、製紙用コーティング剤として有用である。当該製紙用コーティング剤を紙基材表面に塗布して塗工層を設けることで、ガスバリアー性や強度を高めた紙を製造できる。
【0029】
紙基材とは、パルプを含む紙料を抄紙して得られる原紙または原紙の上に公知の塗工層等を有する紙である。得られる紙の強度等の観点から、製紙用コーティング材の固形分中のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー濃度は0.02~100重量%が好ましく、1.0~90重量%がより好ましい。製紙用コーティング材の固形分とは、コーティング材を乾燥させて得られる固形成分である。
【0030】
製紙用コーティング材は、炭酸カルシウムやカオリン等の顔料およびバインダーを含んでいてもよい。両者の配合重量比は、顔料:バインダー=100:5~20が好ましい。この場合、本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、ラテックス等の公知の接着剤と併用してバインダーとして用いてもよい。バインダー中のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの濃度は、0.5~5重量%が好ましく、0.7~3重量%がより好ましい。さらに、製紙用コーティング材は、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常の塗工液に配合される各種助剤を含んでいてもよい。
【0031】
製紙用コーティング材を塗布してなる紙は、紙基材の孔部にカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが充填されると共に、紙基材の上に、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの密な層(膜)が形成される。従って、このような紙は酸素バリア性に優れる。さらに、このようにして得られた紙は光沢性にも優れる。光沢性に優れる理由は、紙基材の孔が塞がれ、かつ紙基材の上にカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの密な層(膜)が形成されるので、紙表面の平滑性が向上するためと考えられる。当該紙の光沢性は、JIS-Z 8741の測定において、48%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。このような紙は、インクジェット記録用紙等の光沢が必要とされる用途に好適である。
【0032】
製紙用コーティング材の塗工量は限定されず、例えば1~10g/m2とすることができる。塗工方法も限定されず、バーコート、ブレードコートなど公知の塗工方法を用いることができる。
【実施例】
【0033】
[実施例1-1]
(1)工程A
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和した後、塩酸を用いて酸性化処理した後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.15のカルボキシルメチル化したパルプを得た。当該置換度は前述の方法で測定した。カルボキシルメチル基は、塩の形態(-CH2COONa)であった。
【0034】
(2)工程B
工程Aで得たカルボキシルメチル化セルロース、過酸化水素、および純水を、オートクレーブに仕込んだ。混合物中のセルロースの固形分濃度は4重量%、過酸化水素の量はセルロースの絶乾重量に対して2重量%とした。当該混合物を撹拌しながら80℃で2時間反応させて低粘度化処理を行った。
【0035】
(3)工程C
工程Bで得た水分散液に純水を加え、混合物中のセルロースの固形分濃度を1重量%に希釈した。当該混合物を、超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で5回処理して解繊処理を行い、透明なゲル状の水分散液すなわちカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0036】
(4)評価
当該水分散液のpHおよび粘度を測定した。粘度はB型粘度計(東機産業社製)を用い、25℃、No.3ロータを用いて、60rpmで測定した。結晶I型含有率は前述のとおり測定した。結果を表1に示す。表中の「水分散液のpH」は、工程Bにおける混合物のpHと同じである。
【0037】
[実施例1-2~1-5]
過酸化水素量を表1に示すように変更した以外は、実施例1-1と同様にしてカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー水分散液を得て、評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
工程Bを実施しなかった以外は、実施例1-1と同様にしてカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー水分散液を得て、評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2-1~2-5]
工程Bにおいて表2に示す量のNaOHを添加した以外は、実施例1-1と同様にしてカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー水分散液を得て、評価した。結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
表に示すとおり、本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、低粘度の水分散液を与えることが明らかである。