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  • 特許-鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/463 20210101AFI20230315BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20230315BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230315BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M10/12 K
H01M50/417
H01M50/443 M
H01M50/46
H01M50/489
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019550380
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2018040168
(87)【国際公開番号】W WO2019088040
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017210468
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100148518
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】大西 正輝
(72)【発明者】
【氏名】川地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】和田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】京 真観
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-063001(JP,A)
【文献】特開2017-033662(JP,A)
【文献】特表2013-508917(JP,A)
【文献】特開平02-168557(JP,A)
【文献】特開2013-211115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267863(US,A1)
【文献】特開2005-243585(JP,A)
【文献】国際公開第2005/083816(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199300(WO,A1)
【文献】特開昭62-180954(JP,A)
【文献】特開平07-105929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と無機粉体を主材料とする多孔質膜であって、前記多孔質膜の両面に配置されたリブを有し、
前記両面のうち、前記リブの平均高さが低いリブが配置された面を負極面とし、前記両面のうち、前記負極面と逆の面を正極面とした場合、前記負極面と前記正極面にMD方向に平行な線状リブを備えており、
真裏に前記負極面の前記線状リブを有する前記正極面の前記線状リブ割合が12.5%超、87.5%未満であり
前記負極面の前記線状リブの付け根の長さが前記負極面の前記線状リブの間のベース面部分のみの長さに対して67%以下で、前記負極面の前記線状リブ間のピッチが2mm以下であり、
前記多孔質膜を両面から挟み込むように平板で10kPaの圧力を加えた時に、前記負極面のベース面と前記平板との間に0.02mm以上の空間を有している、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記正極面の前記線状リブの高さが、0.26mm以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記負極面の前記線状リブの高さが、0.04mm以上である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記正極面の前記線状リブの25%以上が、前記正極面の前記線状リブの前記負極面における真裏位置に、前記負極面の前記線状リブを有する、請求項1乃至3の何れかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
前記多孔質膜の前記リブの高さを除いたベース厚さが0.15mm以上0.25mm以下であって、前記多孔質膜の前記両面のリブを含む総厚が1.0mm以下となる、請求項1乃至4の何れかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
前記多孔質膜、正極板、負極板および希硫酸とからなる電解セルを用いて、直流電流1.2A、約25℃で24時間電解した後に遊離・溶出する還元性物質量が、前記多孔質膜100cm2 1枚当たりのN/100過マンガン酸カリウム溶液消費量の換算値で1.6mL/100cm2以下となる、請求項1乃至5の何れかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の前記セパレータの前記負極面を電池の負極板と接する面に用いた、液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータの両面に極板当接用リブを突設したリブ付き多孔質膜からなる液式鉛蓄電池用セパレータと、該セパレータを用いた液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の電源として広く用いられている鉛蓄電池は、鉛または鉛合金からなる格子状の集電体に、二酸化鉛を保持させた正極と海綿状金属鉛を保持させた負極からなる。極板間に絶縁隔離するためのセパレータを挟持させて電槽に収納して、電解液として希硫酸液を満たすことで構成されている。
鉛蓄電池に用いるセパレータとしては、リンターパルプを湿式抄紙したものをフェノール樹脂で硬化させたものにガラスマットを貼り合せたものや、パルプ状合成繊維と無機粉体およびガラス繊維を湿式抄紙したものにガラスマットを貼り合せたもの、さらにはポリオレフィン樹脂と無機粉体を押出成形したリブを有する合成樹脂製多孔質膜セパレータなどがある。
現在、自動車用の鉛蓄電池セパレータは、ギヤ噛み合わせによりセパレータの端部を圧着して袋加工可能で蓄電池の高速組立が可能であること、樹脂成形時にリブ状の突起を付与できるため高価なガラスマットが不要となることなどの理由から合成樹脂製多孔質膜セパレータが主流となっている。
【0003】
近時の自動車における様々な燃費改善技術の開発により、自動車用の鉛蓄電池は、アイドリングストップ時の電気負荷を蓄電池から賄うこと、およびエンジンの再始動のための頻繁な大電流放電が求められている。そのため、短い時間でより多くの回生エネルギーを受け入れながら、エンジン再始動のための放電電流を維持することが、上記合成樹脂製多孔質膜セパレータを用いた自動車用鉛蓄電池にとって重要な特性となる。
【0004】
鉛蓄電池は、充放電が繰り返されると、放電時には水を生成し、充電時には濃い硫酸を生成する。そして、濃い硫酸は水に比べて濃度が高く下部に沈降しやすいことから、電解液(硫酸)濃度が上下で異なってくる成層化という現象が生じる。アイドリングストップ車ではないエンジン車では、走行時に過充電されるので、この際に正および負極板から発生する酸素および水素ガスによる電解液の攪拌作用によって、成層化は緩和される。しかし、部分充電状態(PSOC(Partial State of Charge))制御下では、減速時に充電されるため充電時間が極めて短く、充電不足の状態が続くので、酸素および水素ガスによる電解液の攪拌作用が発現せず、成層化が生じやすい。成層化が発生すると電解液中の硫酸濃度が低下した蓄電池セル上部で浸透短絡が発生しやすくなる。
【0005】
また、アイドリングストップ車用鉛蓄電池は短い時間でより多くの回生エネルギーを受け入れるため、蓄電池容量や回生受入性に優れる必要がある。それらを向上させる手段として、正、負極の活物質量を増加することが一般的であるが、活物質を増加するとそれに対する電解液量が相対的に減少するため、放電時に硫酸濃度が低下しやすくなる。そのため、活物質量の増加も、浸透短絡が発生する原因となる。
【0006】
以上のように、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池は、設計上の理由(電解液量に対して活物質量が多い)、および使用上の理由(成層化しやすい)から、アイドリングストップ車用ではない蓄電池に比べ浸透短絡が起こりやすいとう課題があるが、何れも電解液中の硫酸濃度の低下に起因している点では共通である。
例えば、下記特許文献1には、合成樹脂製多孔質膜セパレータのフラット面を負極に接した場合、フラット面側(負極側)から、正極面のリブの頂面に向かってデンドライトが成長することで浸透短絡が発生する点が記載されており、放電時の硫酸濃度の低下による影響と考えられる。
【0007】
また、鉛蓄電池は、アイドリングストップ車用鉛蓄電池であっても、夏場での使用環境などで、一時的に高温・過充電で使用される場合がある。その際、セパレータから遊離・生成した還元性物質が蓄電池内の酸化力により鉛溶解性を有する有機酸(例えば、酢酸などの揮発性有機酸)に変化するという現象が生じる。有機酸は鉛蓄電池内で腐食を生じさせ、セルの断面積が減少して、始動時のような大電流放電が必要となる場合に大電流が取り出せなくなり、短寿命を起こしやすいというリスクがある。
そのため液式鉛蓄電池用セパレータは、高温・過充電で使用された場合でも、アイドリングストップから始動する際に大電流放電が取り出せるよう、鉛蓄電池内の腐食を抑制できることも同時に求められている。
下記特許文献2には、合成樹脂製多孔質膜セパレータから遊離・溶出する還元性物質量を抑制することで高温・過充電で使用しても鉛蓄電池内の腐食を生じさせない鉛蓄電池用セパレータを提供できる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-211115号公報
【文献】特開2005-243585号公報
【文献】特表2013-508917号公報
【文献】特開2017-33660号公報
【文献】特開2015-216125号公報
【文献】特開平1-267965号公報
【文献】特開平10-31991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにアイドリングストップ車用の鉛蓄電池セパレータには、浸透短絡の抑制、鉛蓄電池内の腐食抑制が求められており、特に浸透短絡を抑制のために様々な試みがなされてきた。しかし、浸透短絡の抑制には、セパレータの負極面に特殊なリブ形状(横リブ)を要する場合や、負極面と正極面のリブの位置関係の調整を要する場合があり、セパレータ生産時の歩留や生産速度の低下など、セパレータ生産上の課題があった。
【0010】
例えば特殊なリブ構造として、上記特許文献3に、浸透短絡を防止し得る液式鉛蓄電池用セパレータとして、負極面に形成された横方向のリブが有効であることが記載されている。しかし、横方向のリブの形成は、縦方向のリブ成形に比べ、樹脂の流れ込みの不均一さを生じるなど、歩留や生産性の低下につながりやすい。そのため特殊な用途を除き、セパレータ上に成形されたリブは両面共に縦方向が主流となっている。
【0011】
また、上記特許文献4、5に、負極面に形成されたリブと、正極面に形成されたリブの位置関係が、浸透短絡の改善に有効であることが記載されている。しかし、両面のリブの位置関係を固定するには、高速で回転する表面と裏面の成形ロールの位置調整を要するため回転速度を遅くするなどによる生産速度の低下や、突発的な両面リブの位置関係のズレによる歩留低下などによるコスト上昇につながる。
【0012】
本発明は、セパレータ両面に備えられたリブが成形の容易な縦リブで、さらに負極面と正極面のリブの位置調整を要しないため生産が簡便なセパレータでありながら、液式鉛蓄電池において過放電状態になりやすい環境で使用される場合でも浸透短絡を防止し、高温・過充電で使用された場合にも鉛蓄電池内の腐食を抑制できる、アイドリングストップ車用に最適な液式鉛蓄電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、セパレータに圧力が加わる鉛蓄電池の放電時にも、鉛蓄電池内部のセパレータ負極面のベース面と、鉛蓄電池の負極との間に距離を設けることで、鉛蓄電池の負極側に硫酸を含む電解液が存在する空間を常に確保し、空間に満たされた電解液から、セパレータを介さずに、鉛蓄電池の負極に硫酸を供給する。
【0014】
セパレータを介さずに鉛蓄電池の負極に硫酸を供給することで、負極が接する電解液中の硫酸濃度の低下を抑制でき、デンドライトの原因となる放電生成物である硫酸鉛の過度な溶出を抑制できる。上記特許文献6には、硫酸濃度と酸化鉛との溶解度の関係が記載されており、硫酸濃度が低下し、酸性から中性に至ることで、硫酸鉛の溶解度が極端に大きくなることが記載されている。
硫酸鉛の過度な溶出を抑制すれば、浸透短絡の原因となるデンドライトの発生源を抑制することとなり、過放電時の浸透短絡を防止できる。
【0015】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは上記考え方に基づきなされたもので、ポリオレフィン樹脂と無機粉体を主材料とする多孔質膜であって、前記多孔質膜の両面に配置されたリブを有し、前記両面にあるリブの位置関係は任意であり、前記両面のうち、前記リブの平均高さが低いリブが配置された面を負極面とした場合、前記負極面に縦方向の線状リブを備えており、前記多孔質膜を両面から挟み込むように平板で10kPaの圧力を加えた時に、前記負極面のベース面と前記平板との間に0.02mm以上の空間を有している。
また、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記負極面の前記線状リブの付け根の長さが前記負極面の前記線状リブの間の前記ベース面部分のみの長さに対して67%以下で、前記負極面の前記線状リブ間のピッチが2mm以下である。
これらにより、鉛蓄電池の負極に常に、硫酸を供給するための電解液が満たされる空間を確保することができる。
【0016】
また、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記両面のうち、前記負極面と逆の面を正極面とした場合、前記正極面に縦方向の線状リブを備えており、前記正極面の前記線状リブの高さが、0.26mm以上である。これにより、鉛蓄電池内部において正極側の電極と反応する硫酸を確保できるので、負極側に一部の硫酸が割り当てられたとしても、容量低下を生じさせない。
【0017】
また、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記負極面の前記線状リブの高さが、0.04mm以上である。これにより、鉛蓄電池負極に常に、硫酸を供給するための電解液が満たされる空間を確保することができる。
【0018】
また、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記正極面の前記線状リブの25%以上が、前記正極面の前記線状リブの前記負極面における真裏位置に、前記負極面の前記線状リブを有する。正極面に形成された線状リブの負極面側真裏に負極面に形成された線状リブを25%以上設置することで、10kPaの圧力が加わった時においても、確実に鉛蓄電池の負極に常に、硫酸を供給するための電解液が満たされる空間を確保することができる。
【0019】
さらに、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記多孔質膜の前記リブ高さを除いたベース厚さが0.15mm以上0.25mm以下であって、前記多孔質膜の前記両面のリブを含む総厚が1.0mm以下となる。例えば上記特許文献7のようなセパレータにおいては、ベース厚さは0.25mm以下が好ましい。
【0020】
同時に、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記多孔質膜、正極板、負極板および希硫酸とからなる電解セルを用いて、直流電流1.2A、約25℃で24時間電解した後に希硫酸中に遊離・溶出する還元性物質量が、前記多孔質膜100cm2 1枚当たりのN/100過マンガン酸カリウム溶液消費量の換算値で1.6mL/100cm2以下となる。上記値を満たすことで、鉛蓄電池が高温・過充電で使用されても鉛蓄電池内の腐食を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
上記の特徴を満たすことで、アイドリングストップ車用に最適な液式鉛蓄電池セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明におけるセパレータの断面図
図2】本発明におけるセパレータの負極面の縦リブが、正極面の縦リブの真裏から外れる場合の説明図
図3】本発明におけるセパレータの負極面の縦リブが、正極面の縦リブの真裏に位置する場合の説明図
図4】本発明における鉛蓄電池の説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の鉛蓄電池用セパレータの実施形態を説明するが、本発明の鉛蓄電池用セパレータは以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の鉛蓄電池用セパレータにおいては、多孔質膜は、ポリオレフィン樹脂と無機粉体を主材料とする。多孔質膜は、膜の両面に配置されたリブを有する。両面にあるリブの位置関係は任意である。両面に配置されたリブの平均高さが低い面を、負極面とし、他方の面を正極面とする。
セパレータは、多孔質膜の負極面に存在する縦方向の線状リブ(縦リブ)により、多孔質膜を両面から挟み込むように平板で10kPaの圧力を加えた時に、負極面のベース面(負極ベース面)と平板との間に0.02mm以上の空間を有している。すなわち、セパレータは、圧力10kPaの平面加圧下でも、鉛蓄電池負極板(負極板)から0.02mm以上の距離を保つことで、硫酸を含む電解液が存在する空間を確保している。
【0025】
圧力10kPaの平面加圧下としているのは、鉛蓄電池の放電に伴い、負極内部の活物質の膨張が生じることから、セパレータが加圧環境下にさらされるためである。鉛蓄電池が過放電でセパレータが加圧された場合においても、空間が圧縮により潰れることなく、常に負極面に形成されたリブにより電解液が存在する空間を確保することが、負極に硫酸を供給し、浸透短絡の原因であるデンドライトの発生源となる硫酸鉛の過度な溶出を抑制するための有効な手段となる。
【0026】
デンドライトショートの抑制には、負極面へのリブの形成が有用である旨が文献に示されているが、単純に負極面へリブを形成すれば良いという訳ではない。例えば上記特許文献5には、デンドライトショートの抑制に有効な負極面の縦リブが示されているが、正極面の縦リブと負極面の縦リブの位置関係に制約がある。ここでは、正極面の縦リブの真裏に負極面の縦リブが重ならない位置関係として、デンドライトショートの短絡経路を長くすることが、デンドライトショートに有効な対策である事が示されている。しかしこの場合、1ヶ所でも、正極面の縦リブの真裏に負極面の縦リブが位置すると、そこをデンドライトが経由して短絡するため、負極面の縦リブの効果が失われてしまう。
しかし、他の特性との関係から負極面の縦リブの位置形状などを変更したい場合があるが、一部の正極面の縦リブの真裏に負極面の縦リブが位置せざるをえないような場合において、どのような設計をしてよいかという指針は全く示されていなかった。
すなわち、デンドライトショートを抑制しつつ、他の特性も満足しうる構成の設計は知られていなかった。本発明は、デンドライトの短絡経路(成長過程)に関係なく、デンドライトになり得る硫酸鉛の溶出に着目(発生源対策)する事で、他の特性との両立を可能とする負極面の縦リブを持つセパレータの設計を可能とした。硫酸鉛の溶出を抑制するには、負極に硫酸を供給するための所定以上の空間を確保する事が重要である。
【0027】
負極に硫酸を供給する空間を確保するには、単純に負極面の縦リブの高さが有ればよいという訳ではない。加圧によるセパレータの湾曲で、負極側の空間距離は変化するし、負極面に形成されるリブの形状や本数により、圧縮時、負極面の縦リブの高さは変化する。そのため、加圧が無い状態での負極面の縦リブの位置、形状ではなく、圧力10kPa加圧時における空間距離が、所定以上確保されていることが重要である。
【0028】
また、圧力10kPa下の、負極ベース面と負極板との距離を0.02mm以上としているのは、0.02mm未満となると負極板に接する電解液の総量が少なくなり、過放電時に硫酸イオン濃度が低下するため、硫酸鉛の溶解度が高くなるためである。つまりデンドライトショートの原因となる硫酸鉛の溶出量が多くなり、浸透短絡が発生しやすくなる。負極ベース面と負極板との距離を0.02mm以上確保することで、過放電時に硫酸イオン濃度の低下を抑制し、効果的に浸透短絡の発生を抑制する効果を得ることができる。また耐浸透短絡の効果をより高めるには、圧力10kPa下の負極ベース面と負極板との距離を0.03mm以上、さらに高めるには、圧力10kPa下の負極ベース面と負極板との距離を0.04mm以上とする事が望ましい。
【0029】
さらに負極ベース面と負極板との距離を保つために形成された縦リブについて、その占める面積が大きくなりすぎると、電解液を確保するための空間を十分に生かせなくなる。さらに負極面の縦リブが占める面積が大きくなることは、ベースを厚くすることと等価となり、電池の内部抵抗を上昇させる。そのため、負極ベース面について、線状リブの付け根の長さ(a)が、線状リブの間のベース部分のみの長さ(b)に対して67%以下であることが望ましく、50%以下がより望ましく、30%以下であることがさらに望ましい。
また、負極ベース面について、線状リブ間のピッチ(c)が2mm以下としているのは、2mmを超えると、平板で10kPa加圧時の負極ベース面と、平板との間の空間の確保が難しくなり、浸透短絡の改善効果が低下するためである。よって、負極ベース面の線状リブ間のピッチ(c)は2mm以下であることが望ましい。
【0030】
負極ベース面のリブは、電解液が満たされる空間を確保するためのセパレータのベース面と電極との距離を設けることが目的であり、特定のリブ形状に限定されるものではないが、セパレータへのリブ成形上の加工性を考慮すると、縦方向の線状リブが望ましい。
また、上記縦方向の線状リブの断面形状は、半円や台形など任意の形状を選択することができる。
【0031】
多孔質膜の両面に配置されたリブの平均高さが高い面を正極面とした場合、正極面のリブ高さは0.26mm以上であることが望ましく、0.31mm以上であることがより望ましく、0.36mm以上であることがさらに望ましい。正極面のリブ高さが小さくなると、正極に接する電解液中の硫酸濃度が小さくなり、電池容量の確保が難しくなるためである。ここで正極と硫酸との反応は、負極と異なり、硫酸鉛に加えて水を生じるため、過放電時に正極側は硫酸が薄くなりやすい。このことが、ベース面から正極側の距離を、ベース面と負極側との距離以上に確保することが必要となる理由である。
アイドリングストップ車用鉛蓄電池に求められる急速な充放電への応答には、正極面には負極面以上のリブ高さが必要となる。
【0032】
一方、負極面の縦リブは、0.04mm以上の高さを有することが望ましい。0.04mm以上の高さを有することで、10kPa加圧時においても負極板と負極ベース面との間に0.02mm以上の距離を確保することができる。縦リブの高さは、0.06mm以上がより望ましく、0.09mm以上がさらに望ましい。
ここで、負極面の縦リブの高さが高いほど、下記で述べる正極面の縦リブの真裏に位置する負極面の縦リブの割合が低くても、負極板と負極ベース面との間に0.02mm以上の距離を容易に確保することが可能となる。しかし、負極面の縦リブが高くなりすぎると、相対的に正極面の縦リブの高さが低くなり、電池容量が小さくなる。このため、負極面の縦リブの高さは、0.2mm以下であることが望ましく、0.19mm以下であることがより望ましく、0.15mm以下であることがさらに望ましく、0.10mm以下であることがより一層望ましい。
【0033】
また、負極面の縦リブは、正極面の縦リブの真裏に、正極面の縦リブ全体の25%以上、望ましくは50%以上位置することが望ましい。ここで真裏に位置するとは、正極面の縦リブの1/10高さ部分(e)と、負極面の縦リブの1/10高さ部分(e)とが重なる位置関係であることを意味する(図3)。ここで正極面および負極面の縦リブの1/10高さ部分(e)とは、縦リブの横断面におけるベース面と縦リブの頂点とで定義されるリブ高さの1/10の高さ(10%高さ)の位置での縦リブの広がり部分(幅方向長さ)をいう。前記の通り、常に負極面のリブにより電解液が存在する空間を確保することで、浸透短絡の発生源となる硫酸鉛の過度な溶出を抑制するため、特許文献1に記載のあるデンドライトの成長経路によらず、浸透短絡の抑制効果を得ることができる。正極面の縦リブの位置に対し、負極面の縦リブの位置を調整する必要が無いことは、成形設備において、負極面と正極面のリブの成形時に、高速で回転する正負面の成形ロールの位置調整をほとんど必要とせず、セパレータの生産性を向上できる。
【0034】
また、多孔質膜のベース厚さは0.15mm以上0.25mm以下としている。ベース厚さが厚くなりすぎると、鉛蓄電池の内部抵抗が高くなり、アイドリングストップ車用鉛蓄電池として望ましくない。一方、0.15mmを下回るとセパレータの強度が低下し、振動時にセパレータ破れが発生する可能性があり好ましくない。
【0035】
さらに、多孔質膜、正極板、負極板および希硫酸とからなる電解セルを用いて、直流電流1.2A、25±2℃で24時間電解した後に遊離・溶出する還元性物質量が、多孔質膜100cm21枚当たりのN/100過マンガン酸カリウム溶液消費量の換算値で1.6mL/100cm2以下とすることが望ましい。高温・過充電で使用されても鉛蓄電池内の腐食を抑制できる。
【0036】
次に、本発明の鉛蓄電池用セパレータを用いた鉛畜電池の実施形態を説明するが、本発明の鉛蓄電池は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0037】
(電解液)
電解液は、水溶液に硫酸を含む。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、鉛蓄電池に利用される添加剤を含むことができる。
化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0038】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0039】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0040】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛または硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0041】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0042】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させやすいため好ましい。
【0043】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金の何れであってもよい。これらの鉛または鉛合金は、さらに、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0044】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛または硫酸鉛)を含んでおり、防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0045】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0046】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0047】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0048】
図4に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室14毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0049】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、カーボンブラック、有機防縮剤を混合して、負極ペーストを得た。負極ペーストを、負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得た。有機防縮剤には、リグニンスルホン酸ナトリウムを用いた。カーボンブラックおよび有機防縮剤は、それぞれ、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が、それぞれ、共に0.2質量%となるように、添加量を調整して、負極ペーストに配合した。
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製した。正極ペーストを、正極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得た。
(3)セパレータの作製
重量平均分子量500万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体(融点約135℃)40質量部と、BET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体60質量部と、パラフィン系鉱物オイル120質量部と、界面活性剤とを混合した。この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、ロールにリブ形成のための所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通し、平板状シートに所定形状のリブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。この時、正極側の成形ロールと負極側の成形ロールの溝の位置関係は調整しなかった。
次に、このフィルム状物をn-ヘキサン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて多孔質化させた。多孔質化させたフィルム状物を約110℃の炉内に入れて70~80℃程度に加温し、所定のロール間隙間寸法に設定した一対のロール間を通すことで、厚さ方向に加圧してリブを圧縮し総厚を調整した。これにより、ポリエチレン樹脂34質量%、シリカ微粉体51質量%、パラフィン系鉱物オイル15質量%とで構成される、ベース厚0.25mm、総厚0.70mmの両面リブ付き多孔質膜セパレータ(液式鉛蓄電池用セパレータ)を得た。
なお、正極面のリブは、MD方向(流れ方向)に平行なリブピッチ(ピッチ間距離(隣り合う2つのリブの中心間の距離))が10mmの複数条の線状のリブである。リブの横断面(MD方向に対して直角方向にカットした断面)は、リブ高さが0.36mm、頂部リブ幅が0.4mm、底部リブ幅が0.8mmの略左右対称の略台形状であり、リブの頂面(上面)はベース面と略平行な略平坦面である。
また、負極面のリブは、MD方向(流れ方向)に平行な複数条の線状リブである。リブの横断面(MD方向に対して直角方向にカットした断面)から、線状リブ間のピッチ(隣り合う2つのリブの中心間の距離)が1mmで、線状リブの付け根の長さが、線状リブの間のベース部分のみの長さに対して25%となる、リブ高さが0.09mmの、左右対称の半円形状リブである。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は50%であった。
さらに、還元性物質量は、多孔質膜100cm2 1枚当たりのN/100過マンガン酸カリウム溶液の消費量の換算値が0.2mL/100cm2となる様に、界面活性剤の量を調整した。
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の各負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された上述の袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。
極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施した。化成後の電解液比重は20℃において1.28g/cm3とし、電解液の添加剤として電解液に硫酸ナトリウム(NaSO)を加え、Naが0.1mol/Lとなるよう添加した。公称電圧12Vおよび公称容量が32Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池を組み立てた。
【0052】
(実施例2)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、ベース厚0.20mm、正極面のリブ高さ0.41mmにする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は37.5%であった。
【0053】
(実施例3)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、ベース厚を0.20mm負極面のリブ高さを0.19mm、正極面のリブ高さを0.31mm、にする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は50%であった。
【0054】
(実施例4)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブ高さを0.19mm、正極面のリブ高さを0.26mmにする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は37.5%であった。
【0055】
(実施例5)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブ高さを0.04mm、正極面のリブ高さを0.41mmに、負極面のリブの付け根の長さを、リブの間のベース部分のみの長さに対して30%にする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は50%であった。
【0056】
(実施例6)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブの付け根の長さが、リブの間のベース部分のみの長さに対して50%にする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は62.5%であった。
【0057】
(実施例7)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブの付け根の長さが、リブの間のベース部分のみの長さに対して67%にする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は62.5%であった。
【0058】
(実施例8)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブの付け根の長さを、リブの間のベース部分のみの長さに対して11%に、負極面のリブ間のピッチを2mmにする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は37.5%であった。
【0059】
(実施例9)
実施例8と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は25%であった。
【0060】
(実施例10)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、成形ロール間を通し、平板状シートに所定形状のリブを一体に成形加工しフィルム状物を得る際に、正極面側の成形ロールと負極面側の成形ロールの溝の位置関係を調整し、できるだけ正極面のリブの真裏に負極面のリブを有する構造とした以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は87.5%であった。
【0061】
(実施例11)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、界面活性剤の混合量を増加し、還元性物質量1.6mL/100cm2とした以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は50%であった。
【0062】
(従来例1)
実施例1のセパレータにおいて、負極面にリブを有しない平坦なセパレータで、正極面のリブ高さを0.45mmとする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0063】
(比較例1)
実施例1の両面リブ付きセパレータにおいて、負極面のリブ高さを0.03mm、正極面のリブ高さを0.42mmにする以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は50%であった。
【0064】
(比較例2)
実施例8の両面リブ付きセパレータにおいて、成形ロール間を通し、平板状シートに所定形状のリブを一体に成形加工しフィルム状物を得る際に、正極面側の成形ロールと負極面側の成形ロールの溝の位置関係を調整し、正極面のリブの真裏に負極面のリブをできるだけ有しない構造とした以外は、実施例8と同様にして鉛蓄電池を作製した。正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合は12.5%であった。
【0065】
また、実施例1~11、従来例1、および比較例1、2の各セパレータを用いて以下の方法により評価を実施した。
<10kPa加圧時の空間距離>
多孔質膜を縦10mm×横115mmサイズに裁断し試験片とし、両面から類似のサイズの平板で面両側から挟み込み、その平板の上部に重りを置くことで、10kPaの圧力を加えた。この時、正極面のリブの本数は8本であった。
セパレータを横断面から観察し、正極面のリブの横断面における中心線上において、その負極面のベース面と平板との間に生じる距離を全て測定し、それらの平均値を空間距離とした。
ここで、正極面のリブの真裏、すなわち正極面のリブの1/10高さ部分と、負極面のリブの1/10高さ部分が重なる位置関係である正極面のリブの数を、正極面のリブ総数で割ったものを、正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合としている。ここで正極面および負極面のリブの1/10高さ部分とは、リブの横断面におけるベース面とリブの頂点とで定義されるリブ高さの1/10の高さ(10%高さ)の位置でのリブの広がり部分(幅方向長さ)をいう。
<電気抵抗>
多孔質膜を70mm×70mmサイズに裁断し試験片とし、SBA S 0402に準拠した試験装置で測定した。
<N/100過マンガン酸カリウム消費量の換算値による還元性物質量>
上記特許文献2に記載の方法でN/100過マンガン酸カリウム消費量の換算値によるセパレータに含有する還元性物質量の測定を実施した。
【0066】
また、実施例1~11、従来例1、および比較例1、2の各セパレータを用いて以下の方法により試験電池を各セパレータを用いて4個ずつ作製し、各試験電池について、初充電後の電池内部抵抗、電池容量を測定した。また、試験電池2個について75℃の軽負荷寿命試験を行い、試験後のセル溶接部腐食について測定した。さらに残りの試験電池2個について、耐浸透短絡試験を行った。
【0067】
<電池容量>
JIS D5301-2006 9.5.2項の容量試験に準拠して、補充電後、5時間率の電池容量を測定し、平均値を求めた。
<75℃軽負荷寿命試験>
試験電池を75℃に設定した水槽に沈め、JIS D5301-2006 9.5.5(a)に規定の試験条件で試験を実施した。
ただし、高温雰囲気での寿命を加速評価させるために、液面が最低液面線となるような状態で試験を開始し、補液は最低液面線を基準に1週間に1回行った。
<耐浸透短絡試験>
下記のサイクルで充放電を繰り返し、浸透短絡が発生したサイクル数を評価した。
1)放電:6.4A(終止電圧10.5V)
2)定抵抗放電:10W抵抗接続×7日間
3)充電:14.4V/50A×60分
1)~3)を1サイクルとして繰り返し、浸透短絡の発生により充電電流および電圧のふらつきが生じた時点のサイクル数を比較した。
【0068】
【表1】

電池特性の内部抵抗については、従来例を100として、102以下を合格とした。
耐浸透短絡については、従来例を100として、110以上を改善とした。
5hr容量については、従来例を100として、95以上を合格とした。
軽負荷寿命については、電池解体後、腐食が見られた場合を「あり」とした。
【0069】
表1から、以下のようなことが分かった。
実施例1~11のセパレータは、負極面にリブを有することで、セパレータを平板で10kPaの圧力を加えた時に、負極ベース面と平板との間に0.02mm以上の空間を確保することを確認した。その中で、負極ベース面と平板との間に0.04mm以上の空間を確保した実施例1、3、4、6、7、および10においては、電池放電時の硫酸が負極面に供給され硫酸鉛の溶出を抑えた結果、従来例1に比較して、耐浸透短絡が20%以上良化した。
実施例2のセパレータは、正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合が37.5%となった事で、負極ベース面と平板との間の空間距離が0.03mmと実施例1より小さくなったが、従来例1に比較して、耐浸透短絡が15%良化した。
負極面のリブ高さを0.19mmとした実施例3および4では、正極面のリブ高さが小さくなったことで電池容量が小さくなったが、負極ベース面と平板との間に0.07mm以上の空間を確保することができ、従来例1に比較して、耐浸透短絡が25%以上良化した。
実施例5のセパレータは、負極面のリブ高さを0.04mmとすることで、セパレータを平板で10kPaの圧力を加えた時に、負極ベース面と平板との間の空間距離が0.02mmに減少したが、従来例1に比較して、耐浸透短絡が10%良化した。
実施例6および7のセパレータは、負極面のリブの付け根の長さが、リブの間のベース部分のみの長さに対して50または67%としたため、従来例1に比較して、セパレータの電気抵抗は高くなったが、負極ベース面と平板との間に0.05mm以上の空間を確保することができ、従来例1に比較して、耐浸透短絡が24%以上良化した。
実施例8および9のセパレータは、負極面のリブピッチを大きくしたため、セパレータを平板で10kPaの圧力を加えた時に、負極ベース面と平板との空間距離が0.03mm(実施例8:正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合が37.5%)、0.02mm(実施例9:正極面のリブの真裏に負極面のリブが位置する割合が25%)となったが、従来例1に比較して、耐浸透短絡は10%以上良化した。
実施例10のセパレータは、加工時の成形ロール位置調整を行い、正極面のリブ真裏に負極面のリブを有する正極面のリブの割合を87.5%に変化させた。その結果、負極ベース面と平板との間に0.06mmの空間を確保することができ、従来例1に比較して、耐浸透短絡が26%良化した。
実施例11のセパレータは、混合する界面活性剤を増加させ、還元性物質量を1.6mL/100cm2とすることで、従来例1に比較して、内部抵抗の低減効果がみられた。なお、混合する界面活性剤の量をさらに増加し、還元性物質量を2.0mL/100cm2まで増加したところ、軽負荷寿命後の電池解体で腐食が見られ、75℃軽負荷寿命試験のサイクル回数が短くなった。このことから、セパレータおよび鉛蓄電池として実用的に成立するためには、1.6mL/100cm2が臨界値であることが分かった。
比較例1のセパレータでは、負極面のリブ高さを0.03mmとすることで、セパレータを平板で10kPaの圧力を加えた時に、負極ベース面と平板との間に0.01mmの空間しか確保することができず、従来例1に比較して、耐浸透短絡は7%しか良化しなかった。
比較例2においては、加工時の成形ロール位置調整を行い、正極面のリブ真裏に負極面のリブが位置する正極面のリブの割合を12.5%に調整した。その結果、負極ベース面と平板との間に0.01mmの空間しか確保することができず、従来例1に比較して、耐浸透短絡は6%しか良化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、本鉛蓄電池は自動車またはバイクなどの始動用の電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
(a):負極面の線状リブの付け根の長さ
(b):負極面の線状リブの間のベース部分のみの長さ
(c):負極面の線状リブ間のピッチ(線状リブの付け根の長さの中心間のピッチ)
(d):正極面の線状リブの中心線
(e);線状リブの1/10高さ部分
図1
図2
図3
図4