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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】充填組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/853 20200101AFI20230315BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20230315BHJP
   A61K 6/898 20200101ALI20230315BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230315BHJP
   A61K 6/876 20200101ALI20230315BHJP
   A61K 6/871 20200101ALN20230315BHJP
   A61K 6/889 20200101ALN20230315BHJP
   A61K 6/878 20200101ALN20230315BHJP
【FI】
A61K6/853
A61K6/17
A61K6/898
A61K6/887
A61K6/876
A61K6/871
A61K6/889
A61K6/878
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019566330
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 US2018035626
(87)【国際公開番号】W WO2018223012
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】62/513,534
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,トッド
(72)【発明者】
【氏名】バラッツ,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ローズ,シェリダン
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-518093(JP,A)
【文献】特表2009-512713(JP,A)
【文献】International Endodontic Journal,2010年,Vol.43,pp.930-939
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルの中に分散された予め反応させた粒子状ミネラル三酸化物集合体(MTA)を含む歯科用組成物であって、
前記組成物中のMTAの含有量は、前記組成物の総重量に対して20~50重量%の範囲であり、
前記予め反応させた粒子状MTAは、MTAおよび水の混合物からの硬化生成物である、歯科用組成物。
【請求項2】
前記粒子状MTAは0.1~100μmの平均粒子径を有する、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記ヒドロゲルは、アクリル酸、アクリルアミド、ビニルアルコールおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上のモノマーを有する混合物を重合させることによって得られるポリマー網目構造を含む、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
アルギン酸ナトリウム、ペクチンおよび/またはキトサンを含む有機マトリックスをさらに含む、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
歯の歯内療法に使用するための、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記歯内療法は間接的および直接的覆髄ならびに大人および小児の歯髄切断から選択される、請求項に記載の使用のための歯科用組成物。
【請求項7】
前記歯内療法は髄室の充填である、請求項に記載の使用のための歯科用組成物。
【請求項8】
前記組成物の抗菌性活性もしくは抗細菌性活性pHの増加により増加する、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記組成物は血液または疑似体液のいずれかに曝露された場合にヒドロキシアパタイトを生成する、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
(i)MTAおよび水を混合することによりMTA組成物を硬化させる工程と、
(ii)粒子状の硬化させたMTAを得るために前記硬化させたMTAを0.1~100μmの平均粒子径に粉砕する工程と、
(iii)複合組成物を形成するために前記粒子状の硬化させたMTAをヒドロゲルマトリックス中に分散させる工程と
を含む、請求項1に記載の歯科用組成物の調製のためのプロセス。
【請求項11】
前記組成物の抗菌性活性もしくは抗細菌性活性pHの増加により増加する、請求項10に記載の歯科用組成物の調製のためのプロセス。
【請求項12】
前記組成物は血液または疑似体液のいずれかに曝露された場合にヒドロキシアパタイトを生成する、請求項10に記載の歯科用組成物の調製のためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2017年6月1日に出願された米国仮出願第62/513,534号の利益および優先権を主張するものであり、その内容は全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は歯内療法学の分野に関し、より詳細には歯内療法学のための充填材料に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は歯内療法用充填材料に関する。Dentsply Sirona社専売のProRoot充填材料などの一般的な充填材料は先行技術から公知である。ProRootは反応性ミネラル三酸化物集合体(MTA:mineral trioxide aggregate)組成物を主成分としており、これはとりわけ歯組織の再生を促進する未反応のMTAの能力により過去において長年にわたって市場での販売に成功した。
【0004】
但し、既存の歯内療法用反応性ミネラル三酸化物集合体(MTA)組成物は、根管内への施用前に液体との混合による活性化を必要とする。時間のかかる混合工程を回避することができないため、この材料の取り扱いは常に既存の歯内療法用反応性ミネラル三酸化物集合体(MTA)組成物の主要な問題となっている。さらに、最適混合条件を観察することが歯内療法の成功のために必須であるため、実施者側での誤差またはばらつきは充填の品質にとって有害となり得る。
【0005】
従って、歯組織の再生を促進するための能力を含む既存の歯内療法用反応性ミネラル三酸化物集合体(MTA)組成物のあらゆる利点を同時に維持しながらも著しく改良された取り扱い特性を有する改良された歯科用充填材料を提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、既存の歯内療法用反応性ミネラル三酸化物集合体(MTA)組成物の取り扱い特性を向上させるための組成物を提供する。
【0007】
第1の態様では、本発明は、ヒドロゲルの中に分散された予め反応させた粒子状のミネラル三酸化物集合体(MTA)を含む歯科用組成物であって、本組成物中のMTAの含有量は本組成物の総重量に対して20~50重量%の範囲である歯科用組成物を提供することができる。
【0008】
別の態様では、本発明は、MTA組成物を硬化させる工程と、粒子状の硬化させたMTAを得るために硬化させたMTAを0.1~100μmの平均粒子径に粉砕する工程と、複合組成物を形成するために粒子状の硬化させたMTAをヒドロゲルマトリックス中に分散させる工程とを含む、歯科用組成物の調製のためのプロセスを提供することができる。
【0009】
さらに別の態様では、本発明の態様のいずれかは、「粒子状MTAは0.1~100μmの平均粒子径を有する」、「当該ヒドロゲルはアクリル酸、アクリルアミド、ビニルアルコールおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上のモノマーを有する混合物を重合させることによって得られるポリマー網目構造を含む」、「本歯科用組成物はアルギン酸ナトリウム、ペクチンおよび/またはキトサンを含む有機マトリックスをさらに含む」、「当該有機マトリックスは本組成物の総重量に対して30~90重量%の量で存在する」、「本歯科用組成物は歯の歯内療法に使用するためのものであってもよい」、「当該歯内療法は間接および直接覆髄ならびに大人および子供の歯髄切断から選択される」、「当該歯内療法は髄室の充填である」、「本歯科用組成物はセメント質に対して生体誘導性(bio inductive)である」、「本歯科用組成物は血液供給が存在する硬組織被覆領域(根尖孔、健康な歯髄との界面)を刺激し、それによりセメント質を再生させてバイオロジカルシールを作り出す」、「本歯科用組成物は炎症プロセスを促進しない」、「本歯科用組成物は組織再生を支持する」、「本歯科用組成物は歯髄および歯根周囲組織と生体適合性であると共に硬化もしくは未硬化状態において細胞毒性ではない」、「本組成物はpHの増加により抗菌性もしくは抗細菌性である」、「本組成物は血液または疑似体液のいずれかに曝露された場合にヒドロキシアパタイトを生成する」という特徴の1つまたは任意の組み合わせによってさらに特徴づけることができる。
【0010】
当然のことながら上に参照されている態様および例は、本発明に関してそれ以外が図に示され、かつ本明細書に記載されているように存在するため非限定的なものである。例えば、本発明の上に言及されている態様または特徴のいずれかを本明細書に記載されているか図面に実証されているかそれ以外の方法で組み合わせて他の固有の構成を形成してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、歯組織の再生を促進するためのミネラル三酸化物集合体(MTA)(例えば、ProRoot(登録商標)MTA)などの歯科用セメントの能力が当該材料の表面のカルシウムイオンの存在に基づいているという認識の元に完成させた。さらに本発明は、MTAなどの予め反応させた歯科用セメントを、歯組織の再生を促進するための能力が維持される量でカルシウムイオンがMTAなどの歯科用セメントの表面に存在している歯科用組成物として提供することができるというさらなる認識の元に完成させた。
【0012】
1つの具体例では、硬化させたミネラル三酸化物集合体(MTA)および/または硬化させた歯科用セメント粒子を本発明において提供することができる。有用なMTAおよび/または硬化させた歯科用セメントは米国特許第5,415,547号、米国特許第5,769,638号、米国特許第7,892,342号および米国特許第8,658,712号に開示されており、これら内容は全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。一般に、セメント(ポルトランドセメント、オールボーセメントおよび/またはそれ以外)と、任意に放射線乳白剤(例えば、酸化ビスマス、硫酸カルシウム、ZrO、タングステン酸カルシウムおよび/またはそれ以外)と、任意にヒドロキシアパタイトとを含む粒子状材料を、液体(例えば、水、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プラスドンK90(PLASDONE K90)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二ナトリウムおよびそれ以外およびそれらの混合物)と混合して歯科用セメント組成物を形成する。
【0013】
歯科用セメント組成物が硬化したら(例えば、1分から5時間、好ましくは1分から2時間、より好ましくは1分から30分)、次いで硬化させた歯科用セメントを粒子まで小さくして、0.1~100μmの範囲の硬化させた歯科用セメント粒子を形成してもよい。
【0014】
予め反応させたか硬化させたMTAは、以下の配合物、すなわち粉末:ProRoot Gray、ProRoot White、オールボーセメント、ポルトランドセメント、ProRoot ESまたはProRoot Advanced、オールボーセメント+酸化ジルコニウム、オールボーセメント+タングステン酸カルシウム、ケイ酸二カルシウムおよびケイ酸三カルシウム、液体:水、ProRoot Sealer Gel、ProRoot Advanced Gel、リン酸緩衝生理食塩水、0.09%生理食塩水を含むことができる。上記粉末/液体の任意の組み合わせは作用して当該粒子に固有の化学的性質を与え、かつ当該化合物のために固有の性質を生じさせる。
【0015】
1種以上のモノマーあるいはアクリル酸、アクリルアミド、ビニルアルコールまたは任意の他のヒドロゲル系ポリマーから選択されるポリマーを含有する混合物を重合させることによりポリマー網目構造が得られる。これらのポリマーは水と混合した場合にヒドロゲルを形成するものであり、1~75%の水を含有していてもよい。当該有機マトリックスは本組成物の総重量に対して30~90重量%である。本明細書中の表に提供されている他の液体材料を本組成物に使用してもよい。
【0016】
当該化合物は臨床要求を改善するためのさらなる成分を含み、その主な要求はそれらが水性化合物と適合可能であるということである。これにより例えば抗炎症要求のためにビタミンEの添加が可能になる。別の例はシリカなどの親水性増粘剤の添加であり、これは流動もしくは取り扱い特性を制御する。最後に、生体適合性放射線乳白剤のいずれか、すなわちタングステン酸カルシウム、タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ビスマスなどがなお利用可能であるため、放射線乳白剤の添加は妨げられない。
【0017】
粘性もしくは非水性歯科用溶液の一実施形態では、好ましい粘度増強剤はポリマーヒドロゲルである。米国特許第6,605,294号は、物理的もしくは化学的架橋またはこれらの2つのプロセスの組み合わせによってヒドロゲルを形成し得ることを記載している。物理的架橋はイオン結合、水素結合、ファンデルワールス力または他のそのような物理的力の結果として生じる。化学的架橋は共有結合の形成により生じる。水溶性ポリマーを含む親水性ポリマーの共有結合的に架橋された網目構造は、従来では水和状態のヒドロゲル(またはアクアゲル)を意味している。多くの水性ヒドロゲルは、例えばソフトコンタクトレンズ、創傷管理および薬物送達などの各種生物医学的用途において使用されている。米国特許第6,605,294号は全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
粘性もしくは非水性歯科用溶液の一実施形態では、ポリマーヒドロゲルは本歯科用組成物の約0.01重量%~約25.0重量%の範囲の総量で用いることができる。
【0019】
当該ヒドロゲル分子は、根管治療の間に表面から放出して潤滑効果を与えるポリマーであってもよい。当該分子は本質的に有機または無機であってもよい。有機分子はヒドロゲルポリマー、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ジメチルアシルアミド(DMA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、セルロースおよびセルロース誘導体、多糖誘導体、ポリエチレングリコール(酸化物)、ポリエチレングリコール(酸化物)誘導体およびポリアクリル酸であってもよい。当該分子は小分子、例えば界面活性剤、スリップ剤およびワックスのようなポリマー添加剤であってもよい。
【0020】
1つの具体例では当該ヒドロゲルは、架橋されたポリマー(例えば、カーボポール、液体成分(例えば、水、プロピレングリコールなど、および/またはそれ以外およびそれらの混合物)および抗炎症物質(例えばトコフェロール)を含んでいてもよい。液体成分は、本充填組成物全体の少なくとも約5wt%、好ましくは少なくとも約10wt%、より好ましくは少なくとも約20wt%の量で存在してもよい。さらに他の充填剤材料は、本充填組成物全体の約25wt%未満、好ましくは約20wt%未満、より好ましくは約15wt%未満の量で存在してもよい。例えば他の充填剤材料は、本組成物全体の約0.1%~約25wt%、好ましくは約0.5wt%~約20wt%、より好ましくは約1wt%~約10wt%の範囲の量で存在してもよい。
【0021】
硬化させた歯科用セメント粒子(例えば、硬化させたMTA粒子)は歯の中への組み込みのために当該ヒドロゲルに懸濁させる。
【0022】
本発明は1種以上の充填剤を含んでいてもよい。本発明に係る有用な放射線不透過性を有する充填剤は、限定されるものではないが、Ag、TiO、La、ZrO、BaSO、CaWO、BaWO、FeおよびBi、CeO、MgO、ZnO、W、WO、ランタニド塩、ポリマー顆粒、バリウムもしくはストロンチウム含有ガラスなどの無機充填剤が挙げられる。当該ガラスはインビボでのフッ化物放出のためのフッ化物を含有していてもよい。放射線乳白剤はそれが含まれている場合、本組成物全体の少なくとも約20wt%、好ましくは少なくとも約30wt%、より好ましくは少なくとも約40wt%の量で存在してもよい。さらに放射線乳白剤は、本充填組成物全体の約80wt%未満、好ましくは約70wt%未満、好ましくは約60wt%未満の量で存在してもよい。例えば放射線乳白剤は、本組成物全体の約20wt%~約80wt%、好ましくは約30wt%~約70wt%、より好ましくは約40wt%~約60wt%の範囲の量で存在してもよい。放射線乳白剤はそれが含まれている場合、少なくとも3種類の放射線乳白剤材料を含んでいてもよい。1つの具体例では、少なくとも3種類の放射線乳白剤は、約10~約70%のCaWO、約20~約55%のCaWOおよび約30~約40%のCaWOを含む。
【0023】
用いることができる他の充填剤としては、限定されるものではないがシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、無機塩、金属酸化物、(例えば、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、水酸化カルシウムまたはそれ以外)、バイオガラス、ミネラル三酸化物集合体およびガラスが挙げられるが、必須ではない。他の充填剤材料は、本充填組成物全体の少なくとも約0.1wt%、好ましくは少なくとも約1wt%、より好ましくは少なくとも約5wt%の量で存在してもよい。さらに他の充填剤材料は、本充填組成物全体の約25wt%未満、好ましくは約20wt%未満、より好ましくは約15wt%未満の量で存在してもよい。例えば他の充填剤材料は、本組成物全体の約0.1wt%~約25wt%、好ましくは約0.5wt%~約20wt%、より好ましくは約1wt%~約10wt%の範囲の量で存在してもよい。
【表1】
【表2】
【表3】
【0024】
当業者であれば、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく例示されている実施形態および本明細書中の記載に対して様々な修正を行うことができることを理解しているであろう。本発明の趣旨および範囲内の全てのそのような修正は添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。