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特許7245196水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法
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  • 特許-水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20230315BHJP
   E02B 1/00 20060101ALI20230315BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G10K11/162
E02B1/00 Z
G10K11/16 120
G10K11/16 140
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020093910
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021189284
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇一朗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 侑理恵
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-531544(JP,A)
【文献】特表2015-513022(JP,A)
【文献】特開2006-017787(JP,A)
【文献】特開平8-268775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/178
C04B 38/00-38/10
E02B 1/00- 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中騒音の透過を抑制するためのコンクリート構成物であって、
抑制用空気を1~40vol%含む水中騒音抑制構成物。
【請求項2】
前記抑制用空気を含むことによる単位体積当たりの重量低下を少なくとも補うように大きい比重の骨材を含む請求項1に記載の水中騒音抑制構成物。
【請求項3】
前記骨材として高炉スラグ、鉄鋼スラグおよび非鉄金属スラグのいずれか1つもしくは2つまたはすべてを用いた請求項2に記載の水中騒音抑制構成物。
【請求項4】
前記抑制用空気は多数の気泡として前記コンクリート構成物内に存在する請求項1乃至3のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物。
【請求項5】
前記コンクリート構成物に表面防水剤を塗布することで気密性を向上させた請求項1乃至4のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物。
【請求項6】
水中騒音の透過を抑制するためのコンクリート構成物を製造する方法であって、
セメントと水と骨材とを混合し、さらに気泡形成材料を1~40vol%混合する水中騒音抑制構成物の製造方法。
【請求項7】
前記気泡形成材料の混合による前記コンクリート構成物の単位体積当たりの重量低下を少なくとも補うように大きい比重の材料を前記骨材として用いる請求項6に記載の水中騒音抑制構成物の製造方法。
【請求項8】
前記骨材は、高炉スラグ、鉄鋼スラグおよび非鉄金属スラグのいずれか1つもしくは2つまたはすべてを用いる請求項6または7に記載の水中騒音抑制構成物の製造方法。
【請求項9】
前記コンクリート構成物の打ち込み後に水中養生または湿潤養生を行うことおよび/または前記コンクリート構成物に表面防水剤を塗布することで気密性を向上させる請求項6乃至8のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物の製造方法。
【請求項10】
前記気泡形成材料として発泡ポリスチレンビーズを用い、
前記発泡ポリスチレンビーズの粒径は、1mm以上、前記骨材のうちの粗骨材の最大寸法以下である請求項6乃至9のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物、または、請求項6乃至10のいずれかに記載の製造方法により製造された水中騒音抑制構成物を含む水中騒音抑制構造体であって、水中騒音の発生地点周辺において前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置された水中騒音抑制構造体。
【請求項12】
前記水中騒音抑制構成物が少なくとも前記水中騒音の入射面に配置された請求項11に記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項13】
前記水中騒音抑制構成物が前記入射面において曲面状または傾斜方向が異なる多面状である請求項12に記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項14】
前記水中騒音抑制構成物が水底面に接する底面に配置された請求項12または13に記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項15】
前記水中騒音抑制構成物から全体が構成された請求項11に記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項16】
前記水中騒音抑制構成物を前記水中騒音の発生地点近傍の水底に配置する請求項11乃至15のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項17】
前記水中騒音抑制構成物を水底に設置した基礎部の上に配置する請求項11乃至13のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項18】
前記水中騒音抑制構成物を水中に吊持する請求項11乃至13のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項19】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水中騒音抑制構成物、または、請求項6乃至10のいずれかに記載の製造方法により製造された水中騒音抑制構成物を含む構造体を、水中騒音の発生地点周辺において前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置することで水中騒音を抑制する水中騒音抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中騒音を抑制する水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
堤防や護岸等の本体工(杭式構造など)の鋼管杭の打設は水中における騒音・振動発生の主要因であり、音源音圧レベルが高く瞬時に広範囲に拡がるため水中生物への影響がある。特に、沿岸域での大口径鋼管杭を有する着底式洋上風力基礎の建設時の場合、日本の洋上風力発電では水深20~30mに設置することが想定され、その発生騒音は周辺水域の環境への深刻な影響があるとされている。
【0003】
鋼管杭打設時の水中騒音に対する抑制方法として、すでにエアバブルカーテン(特許文献6)、パイルスリーブ(非特許文献1)、海中ノイズ低減装置および展開システム(特許文献1)等の対策が提案・実施されている。
【0004】
本発明者らは先に特願2020-014408において、杭打設等による水中騒音の抑制構造および施工後の魚礁や藻礁としての機能を有する、石またはコンクリートブロック等を積み重ねた潜堤設置型の水中騒音抑制構造体を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-504844号公報
【文献】特開2001-232622号公報
【文献】特開2012-162418号公報
【文献】特許第2746333号公報
【文献】特開平3-112876号公報
【文献】実開平01-119431号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Michael A.Bellmann「Overview of existing Noise Mitigation Systems for reducing Pile-Driving Noise」Inter-noise 2014 MELBOURNE AUSTRALIA 16-19 NOVEMBER
【文献】「発泡ポリスチレンビーズ」東洋ケミカルズ株式会社http://www.toyochem.co.jp/products-07-eps.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記水中騒音抑制構造体は、水中音圧の距離減衰や水中音の反射・吸収・透過等により水中騒音の周辺水域への拡散を抑制するように水中に設置されるが、構造体を構成する材料自体が水中騒音の吸音や減音による低減抑制を図るものではない。消波ブロックや被覆ブロック等の一般的なコンクリート構造体は、汎用性が高いものの、水中騒音の抑制を図る上で、気泡や鉄等と比較して材質自体の音圧透過損失性が低い。しかしながら、コンクリート内の空気含有量を増やすことで水中におけるコンクリート構造体の音圧透過損失性を高めることができる。
【0008】
一般的なコンクリート構造物のために使用される普通コンクリートの空気量(微細な空気泡)は、荷降ろし時点で4.5%(許容差±1.5,JIS A 5308)と定められており、また、硬化後の普通コンクリートの空気量は、フレッシュ時からさらに1%程度減少することが明らかにされている。また、空気を含ませて軽量化を図った特殊コンクリートについては、軽量発泡コンクリート(特許文献2)、発泡性水溶液に気泡を混合させる軽量気泡コンクリート混合練物(特許文献3,4)、発泡スチレン粒を用いた超軽量コンクリート(特許文献5)などがある。
【0009】
上述の特殊コンクリートの比重は約0.2~1.6t/m3、空気量は10~90%、圧縮強度は0.3~24N/mm3の範囲であり、普通コンクリートの比重2.3t/m3と比較して軽量である。一方、海中に設置するコンクリート構造体には、特に波浪による滑動、転倒に対する安定性が重要である。
【0010】
上述の水中騒音抑制コンクリート構造体は水中での安定質量を確保する必要があるが、上述の特殊コンクリートは軽量のため、かかる水中騒音抑制コンクリート構造体の構成材料として適当ではない。また、常に海水に浸漬される設置環境においても水中騒音を抑制するためには、少なくとも水中騒音を発生させる工事の期間中は一定の空気量を維持できる性質を有することが望まれる。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、水中騒音を効率的に抑制し、また、水中での安定質量を有する水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは水中に設置される水中騒音抑制構造体がコンクリートから構成される場合にコンクリート内の空気量を増やすことにより水中騒音の透過を抑制できることに着想し、本発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、上記目的を達成するための水中騒音抑制構成物は、水中騒音の透過を抑制するためのコンクリート構成物であって、抑制用空気を1~40vol%含むものである。
【0014】
この水中騒音抑制構成物によれば、作業性や耐久性のためにJIS等で規定されている空気量に加えて水中騒音の抑制のためにさらにコンクリート構成物内に空気を1~40vol%含むことで水中における音圧透過損失性を高めることができ、コンクリート構成物が水中騒音を吸音や減音し、その透過を効率的に抑制するので、水中騒音を低減し抑制できる。この水中騒音抑制構成物を用いて水中騒音の拡散を抑制する水中騒音抑制構造体を水中に構築することができる。
【0015】
上記水中騒音抑制構成物において、前記抑制用空気を含むことによる単位体積当たりの重量低下を少なくとも補うように大きい比重の骨材を含むことが好ましい。これにより、コンクリート内に抑制用空気を含んでも水中での安定質量を確保でき、水中安定性を実現できる。また、比重の大きい骨材の使用量を調整することで、水中騒音抑制構成物の単位体積当たりの重量・全体重量を調整することができる。
【0016】
前記骨材として高炉スラグ、鉄鋼スラグおよび非鉄金属スラグのいずれか1つもしくは2つまたはすべてを用いることが好ましい。なお、かかる骨材は、抑制用空気を含むことによる単位体積当たりの重量低下を補うばかりでなく水中騒音抑制構成物の重量をより増加させるように用いることができる。
【0017】
また、前記抑制用空気は多数の気泡として前記コンクリート構成物内に存在することが好ましい。
【0018】
また、前記コンクリート構成物に表面防水剤を塗布することで気密性を向上させることが好ましい。これにより、水中に設置されてもコンクリート構成物内部への表面浸水を防止でき、コンクリート構成物内の抑制用空気・気泡を維持でき、水中騒音の抑制効果の低下を防止できる。
【0019】
上記目的を達成するための水中騒音抑制構成物の製造方法は、水中騒音の透過を抑制するためのコンクリート構成物を製造する方法であって、セメントと水と骨材とを混合し、さらに気泡形成材料を1~40vol%混合するものである。
【0020】
この水中騒音抑制構成物の製造方法によれば、気泡形成材料を1~40vol%混合してコンクリート構成物を製造することで、作業性や耐久性のためにJIS等で規定されている空気量に加えて水中騒音の抑制のためにさらにコンクリート構成物内に抑制用空気を増やすことができ、これにより、水中における音圧透過損失性を高めることができ、コンクリート構成物が水中騒音を吸音や減音し、その透過を効率的に抑制するので、水中騒音を低減し抑制できる。
【0021】
上記水中騒音抑制構成物の製造方法において、前記気泡形成材料の混合による前記コンクリート構成物の単位体積当たりの重量低下を少なくとも補うように大きい比重の材料を前記骨材として用いることが好ましい。これにより、コンクリート構成物が気泡を含んでも水中での安定質量を確保でき、水中安定性を実現できる。
【0022】
前記骨材は、高炉スラグ、鉄鋼スラグおよび非鉄金属スラグのいずれか1つもしくは2つまたはすべてであることが好ましい。なお、かかる骨材は、空気を含むことによる単位体積当たりの重量低下を補うばかりでなく水中騒音抑制構成物の重量をより増加させるように用いることができる。
【0023】
また、前記コンクリート構成物の打ち込み後に水中養生または湿潤養生を行うことおよび/または前記コンクリート構成物に表面防水剤を塗布することで気密性を向上させることが好ましい。これにより、水中に設置されてもコンクリート構成物内部への表面浸水を防止でき、コンクリート構成物内の気泡を維持でき、水中騒音の抑制効果の低下を防止できる。
【0024】
また、前記気泡形成材料として発泡ポリスチレンビーズを用い、前記発泡ポリスチレンビーズの粒径は、1mm以上、前記骨材のうちの粗骨材の最大寸法以下であることが好ましい。
【0025】
上記目的を達成するための水中騒音抑制構造体は、上述の水中騒音抑制構成物、または、上述の水中騒音抑制構成物の製造方法により製造された水中騒音抑制構成物を含み、水中騒音の発生地点周辺において前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置されるものである。
【0026】
この水中騒音抑制構造体によれば、水中騒音抑制構成物を含み、水中騒音の発生地点周辺において水中騒音の拡散を抑制する方向に設置されることで、入射した水中騒音を吸音または減音し、その透過を抑制するので、水中騒音の拡散を効率的に抑制できる。これにより、水中騒音の発生地点の周辺水域において水中騒音による水中生物への悪影響を防止できる。
【0027】
上記水中騒音抑制構造体において、前記水中騒音抑制構成物が少なくとも前記水中騒音の入射面に配置されることが好ましい。水中騒音抑制構造体の水中騒音の入射面に水中騒音抑制構成物を配置することで、水中を伝播して入射する水中騒音の透過を抑制できる。
【0028】
前記水中騒音抑制構成物が前記入射面において曲面状または傾斜方向が異なる多面状であることが好ましい。曲面状または傾斜方向が異なる多面状の入射面において音反射効果を得て水中騒音を効率的に反射させることができ、水中騒音の透過抑制に効果的である。
【0029】
また、前記水中騒音抑制構成物が水底面に接する底面に配置されるようにしてもよく、水底地中部内を伝播する水中騒音のさらなる伝播を抑制できる。
【0030】
また、上記水中騒音抑制構造体は、前記水中騒音抑制構成物から全体が構成されるようにしてもよく、水中を伝播して入射する水中騒音の透過を抑制できるとともに、水底地中部内を伝播する水中騒音のさらなる伝播を抑制できる。
【0031】
また、前記水中騒音抑制構成物を前記水中騒音の発生地点近傍の水底に配置することで、水底地中部内を伝播する水中騒音を抑制できる。
【0032】
また、前記水中騒音抑制構成物を水底に設置した基礎部の上に配置するようにしてもよい。
【0033】
また、前記水中騒音抑制構成物を水中に吊持するようにしてもよい。たとえば、水中騒音の発生地点近傍において水中騒音抑制構成物を水中に吊持することで、水中を伝播する水中騒音の拡散を抑制することができる。
【0034】
上記目的を達成するための水中騒音抑制方法は、上述の水中騒音抑制構成物、または、上述の水中騒音抑制構成物の製造方法により製造された水中騒音抑制構成物を含む構造体を、水中騒音の発生地点周辺において前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置することで水中騒音を抑制するものである。
【0035】
この水中騒音抑制方法によれば、水中騒音抑制構成物を含む構造体を、水中騒音の発生地点周辺において水中騒音の拡散を抑制したい方向に設置することで、入射した水中騒音を吸音または減音し、その透過を抑制するので、水中騒音の拡散を効率的に抑制できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、水中騒音を効率的に抑制し水中での安定質量を有する水中騒音抑制構成物、その製造方法、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】各種物質の固有音響インピーダンスと水中を伝播する音圧の透過損失を示すグラフである。
図2】本実施形態による水中騒音抑制構成物の製造から設置までの各工程を示すフローチャートである。
図3】本実施形態による水中騒音抑制構造体の例を示す要部断面図である。
図4】本実施形態による水中騒音抑制構造体の他の例を示す要部断面図である。
図5】本実施形態による水中騒音抑制構造体の別の例を示す要部断面図である。
図6】本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図である。
図7】本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図である。
図8】本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図(a)および上面図(b)である。
図9】本実施形態による別の水中騒音抑制構造体を示す要部側面図である。
図10図9の水中騒音抑制構成物と基礎部との接続部の例を示す要部側面図である。
図11図9の水中騒音抑制構造体の変形例を示す要部側面図(a)および他の変形例を示す要部側面図(b)である。
図12図9の中騒音抑制構造体においてエアバブルカーテンを形成する構成を示す要部側面図である。
図13】本実施形態による水中騒音抑制構成物を水中に吊持するようにした水中騒音抑制構造体を示す要部側面図(a)~(c)である。
図14】本実験例におけるコンクリートの配合を示す図である。
図15】本実験例における気泡ビーズの含有率(体積比)とコンクリートの単位体積重量を示す図である。
図16】本実験例に使用した気泡ビーズの外観写真である。
図17】本実験例で作製した気泡ビーズの含有率(体積比)0,1,5,10%のコンクリートブロックの外観写真(a)~(d)である。
図18】本実験例で使用した実験装置を概略的に示す側面図である。
図19】本実験例における水中騒音低減効果確認結果を示すグラフである。
図20】各スラグ系骨材の単位体積重量と混合率を示す図である。
図21図20の各スラグ系骨材を使用した場合のコンクリートの単位体積重量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。図1は、各種物質の固有音響インピーダンスと水中を伝播する音圧の透過損失を示すグラフである。
【0039】
〈水中騒音抑制構成物〉
本実施形態による水中騒音抑制構成物は、コンクリートによる構成物であって、コンクリート構成物内の空気量の増加および空気量維持対策を行うことで水中騒音の透過を抑制し、その抑制効果を維持し、また、水中での安定性のため質量を確保するようにしたものである。
【0040】
杭打設音のような水中を伝播する音圧の透過損失については、図1のように、固有音響インピーダンスの異なる媒体(空気や鉄など)へ音が入射・透過する場合に発生するインピーダンス不整合によって吸収量が高くなる。たとえば、水と比べて固有の密度・音速が著しく異なる気泡や空気を含む遮音物が水中騒音の抑制に大きく影響する。一般的に、消波ブロックや被覆ブロック等の一般的なコンクリート構造体の音響インピーダンスは、9.76~11.8×106kg/m2sであり、空気(429kg/m2s)や鉄(479×106kg/m2s)と比べると水(1.54×106kg/m2s)とのインピーダンス差が少なく、材料自体の音圧透過損失量は約3.26~3.89dBであり小さい。
【0041】
すなわち、一般的なコンクリート構造体は、水中騒音の抑制を図る上で、気泡や鉄等と比較して材質自体の音圧透過損失性が低いのに対し、本実施形態による水中騒音抑制構成物はコンクリートから構成され、コンクリートが通常の含有空気に加えて抑制用空気を1~40vol%含むことで水中騒音抑制構成物の水中における音圧透過損失性を高めることができる。
【0042】
具体的には、コンクリートの施工工程において、気泡を抑制用空気として1~40vol%コンクリート内に含有させ、比重の重い骨材を使用することで、水中での質量を確保した水中騒音抑制のためのコンクリート構成物(水中騒音抑制構成物)を製造する。
【0043】
また、型枠内への打込み後の水中・湿潤養生の実施、および、脱枠後の表面防水剤の塗布によってコンクリート構成物の気密性を向上させ、コンクリート構成物内部への表面浸水を防止し、コンクリート構成物内の気泡を維持することができる。
【0044】
なお、コンクリート内に気泡を含有させるために微細気泡形成材料の1種である発泡ポリスチレンビーズ(以下、「気泡ビーズ」という。)を用いることで、コンクリート内に気泡を抑制用空気として1~40vol%含有させることができ、抑制用空気の含有率を容易に調整できる。気泡ビーズは粒体中の約98%が空気であり、表面が水を通しにくいスチロール樹脂で形成され、内部も微細な独立気泡で構成されているため、吸水量はほとんど皆無である(非特許文献2)。
【0045】
気泡ビーズを水中で使用すれば、水中で深度が深くなるとともに、気泡ビーズに加わる水圧が随時増加し、含有する空気の体積が減少するが、気泡ビーズをコンクリート内にほぼ均一に混合することによって、コンクリートの強固な組織・構造により、コンクリート内部の気泡ビーズは水圧の影響を受けにくく、水深が深い位置にコンクリート構成物が設置された場合でも安定した空気量を維持することができる。
【0046】
気泡の含有率は建設対象の構造体の安定所要重量にも依存するが、水中騒音低減性能を確保するためには、気泡ビーズの含まれていないものと比べて、体積比で少なくとも1%の含有量があれば有効である。また、コンクリートに含まれる気泡ビーズが材料分離することを防止するため、気泡ビーズの含有量は40%以下に抑えることが望ましい。
【0047】
気泡ビーズの大きさは、施工時のワーカビリティー、ポンパビリティー等を考慮し、1mm以上とし、粗骨材の最大寸法以下とする。気泡ビーズが1mm以上であれば細骨材と同程度以上であるので、コンクリート内で混合されやすい。
【0048】
比重の大きい骨材として、鉄鋼スラグや非鉄金属スラグ(フェロニッケルスラグ、銅スラグ)を用いることで、水中騒音抑制構成物の単位体積当たりの重量(以下、単位体積重量)を増加させる。これにより、水中騒音抑制構成物から構成される水中騒音抑制構造体の流体力による滑動や転倒に対する安定性を確保することができる。かかる骨材の使用により、水中騒音抑制構成物において気泡を1~40vol%含むことによる単位体積重量の低下を補うばかりでなく水中騒音抑制構成物の単位体積重量をより増加させることができる。
【0049】
本実施形態の水中騒音抑制構成物によれば、コンクリート構成物内に気泡を抑制用空気として1~40vol%含むことで水中における音圧透過損失性を高めることができ、コンクリート構成物が水中騒音を吸収し、その透過を効率的に抑制するので、水中騒音を抑制できる。この水中騒音抑制構成物を用いて水中騒音の拡散を抑制する水中騒音抑制構造体を水中に構築することができる。
【0050】
〈水中騒音抑制構成物の製造工程〉
本実施形態による水中騒音抑制構成物の製造工程S01~S09について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
施工前の事前準備として、コンクリートの配合の選定をする(S01)。すなわち、水中騒音抑制構成物の設置場所、設置形態等を考慮し、安定質量、強度、設置部分(個数)の設定・骨材の配合設計・気泡含有量の配合設定を行う。このため、生コン工場等においてテストピース用サンプルを作製して性状試験(圧縮強度やワーカビリティー、ポンパビリティー等)を行い、必要に応じてコンクリート接着剤・増粘剤等の追加や水セメント比を調整する。また、骨材の一部に比重の大きい高炉スラグや鉄鋼スラグや非鉄金属スラグ(フェロニッケルスラグ、銅スラグ)を用い、単位体積重量を増加させる。
【0052】
次に、生コン工場において、上記選定された配合でセメントと水と骨材とを練り混ぜ(S02)、このフレッシュコンクリートをコンクリートアジテータ車に積載し運搬する(S03)。
【0053】
このフレッシュコンクリートを積載したコンクリートアジテータ車に抑制用空気として気泡ビーズを1~40vol%の範囲内の設定量で投入してミキシングする(S04)。生コン工場において事前に気泡ビーズを混合した場合はアジテータ車で再撹拌をしてから(S05)、型枠に打ち込みを行う(S06)。
【0054】
次に、打ち込み後のコンクリートの水中養生を行う(S07)。施工期間・条件によっては封緘・湿潤状態としてもよい。これにより、コンクリートの気密性の低下を抑え空気量を維持する。すなわち、水中騒音の抑制効果を維持するためにはコンクリート内の空気量の減少を防止することが重要である。なお、気中養生、封かん養生、水中養生を行った場合のコンクリート表面からの水分浸透は水中養生で最も少なく、気中養生が最も多い。
【0055】
次に、コンクリートを脱枠し、コンクリート表面に防水剤を塗布する(S08)。これにより、コンクリート内への直接的な水分浸透を防止する。また、防水剤が浸透する表層面において初期に発生する微細クラックの発生も防止する。なお、表面防水剤の塗布が全数量におよぶと施工費用が増加するため、水中騒音が到達する杭打設側の表面に当たる部分などに限定して施工を行うようにしてもよい。
【0056】
上述のようにしてコンクリート構成物である水中騒音抑制構成物を作製し、水中に設置し(S09)、水中騒音抑制構造体を水中に構築する。なお、水中騒音抑制構成物は、水中騒音抑制構造体の形状や水中騒音抑制構造体を部分的に構成する形状に合わせて、柱状や板状やブロック状等に作製される。
【0057】
〈水中騒音抑制構造体〉
本実施形態による水中騒音抑制構造体について図3図8を参照して説明する。図3は、本実施形態による水中騒音抑制構造体の例を示す要部断面図である。図4は、本実施形態による水中騒音抑制構造体の他の例を示す要部断面図である。図5は、本実施形態による水中騒音抑制構造体の別の例を示す要部断面図である。図6は、本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図である。図7は、本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図である。図8は、本実施形態による水中騒音抑制構造体のさらに別の例を示す要部断面図である。
【0058】
図3の水中騒音抑制構造体11は、鋼管杭9を水底に打設することによる水中騒音の発生地点10の周辺において水底上に設置し、上述の水中騒音抑制構成物16を発生地点10側に配置したものである。水中騒音抑制構造体11は、平坦な上面12と水中騒音の発生地点10を向いた傾斜面13と周辺水域側を向いた傾斜面14とを有し、縦断面が台形状の潜堤型に構成されている。水中騒音の発生地点10に対向する傾斜面13側が水中騒音抑制構成物16から部分的に構成されている。水中騒音抑制構成物16は、たとえば、板状やブロック状やテトラ状に構成されてよく、また、必要に応じて複数の板状・ブロック状・テトラ状の水中騒音抑制構成物から構成されてもよい。
【0059】
なお、水中騒音抑制構造体11の水中騒音抑制構成物16以外の部分は、一般的なコンクリートから構成されてよいが、これに限定されず、岩、石、土砂、製鋼スラグ、製鋼スラグと粘性土との改質処理土、セメントと粘性土とのセメント固化処理土等から構成されてもよい。また、傾斜面13,14は傾斜せず直立していてもよい。また、上面12は、平坦でなくともよく、たとえば山形状や円弧状でもよい。
【0060】
図3のように、発生地点10からの水中騒音による音圧が矢印方向aに伝播し傾斜面13の水中騒音抑制構成物16に入射し、その一部が水中騒音抑制構成物16を透過するとき、水中騒音抑制構成物16により音圧が透過損失を受け、破線で示す矢印方向bに水中騒音抑制構造体11内を進み、反対側の傾斜面14から出射しても、その音圧は減衰しているため、水中騒音の周辺水域側への拡散が抑制される。なお、水中騒音抑制構成物16に入射した音圧の一部は、別に傾斜面13で方向cに反射し、発生地点10側に向かい、水中騒音の周辺水域側に拡散しない。
【0061】
図4の水中騒音抑制構造体11Aは、図3と比べて、傾斜面13側に加えて、上面12側,傾斜面14側が水中騒音抑制構成物16から構成されており、他の構成は、図3と同様であり、発生地点10からの水中騒音の周辺水域側への拡散が同様に抑制される。
【0062】
図5の水中騒音抑制構造体11Bは、図3と比べて、全体が水中騒音抑制構成物16から構成されており、他の構成は図3と同様であり、矢印方向bに水中騒音抑制構造体11B内を伝播する音圧がより減衰され、発生地点10からの水中騒音の周辺水域側への拡散がより抑制される。また、杭打設による音圧が水底地中部G内を矢印方向dに伝播し、水底から破線で示す方向eに水中騒音抑制構造体11Bの底面15に入射しても、その音圧が低減するので、水中騒音の周辺水域側への拡散が抑制される。なお、水中騒音抑制構造体11Bは、たとえば、多数のブロック状の水中騒音抑制構成物16を積み重ねて構築することができるが、他の形状であってもよい。
【0063】
図6の水中騒音抑制構造体11Cは、図3と比べて、傾斜面13側に加えて、底面15側が水中騒音抑制構成物16から構成されており、他の構成は、図3と同様であり、発生地点10からの水中騒音の周辺水域側への拡散が同様に抑制される。また、水中騒音の発生地点10において水底に打設される鋼管杭9の杭根固め部19に板状の水中騒音抑制構成物17を配置している。この杭根固め部19の水中騒音抑制構成物17により水底地中部G内へ進む杭打設による音圧が減衰し、水底地中部G内を矢印方向dに伝播する音圧が低減し、地盤面から破線で示す方向eに水中騒音抑制構造体11Cの底面15に入射しても、その音圧がさらに低減するので、水中騒音の周辺水域側への拡散がいっそう抑制される。なお、水中騒音抑制構造物17は、図6の破線で示すように、板状の形状の一部に打設する杭9の外径よりやや広めの孔17aを有し、その孔17aに杭9を通して打設するようにしてもよい。
【0064】
図7の水中騒音抑制構造体11Dは、図3と比べて、傾斜面13側に加えて、上面12側が水中騒音抑制構成物16から構成されており、他の構成は、図3と同様であるが、水中騒音抑制構造体11Dの上面12にエアバブルカーテンBCを形成することにより水面と上面12との間で水中騒音の拡散を抑制するようにしている。エアバブルカーテンBCの形成手段は、たとえば、特許文献6に開示されている。なお、図4図6においても同様にエアバブルカーテンBCを形成するようにしてもよい。
【0065】
図8(a)(b)の水中騒音抑制構造体11Eは、図6と同様に水中騒音の発生地点10において水底に打設される鋼管杭9の杭根固め部19に板状の水中騒音抑制構成物17を配置することで、水底地中部G内へ進む杭打設による音圧が減衰し、さらに、水中騒音の発生地点10で水底に打設される鋼管杭9に、鋼管杭9の外径よりも内径の大きなパイルスリーブPSを被せて、水中騒音抑制構成物17から水面近傍まで延びるように配置することで、杭打設による水中騒音が外側に拡散することを抑制するものである。なお、水中騒音抑制構造物17は、図8(b)の破線で示すように、板状の形状の一部にパイルスリーブPSの外径よりやや広めの孔17bを有し、その孔17bにパイルスリーブPSを通して杭9を打設するようにしてもよい。また、パイルスリーブPSの代わりに、図7のようなエアバブルカーテンを鋼管杭9の周囲に形成するようにしてもよい。
【0066】
鋼管杭打設による水中音圧は水中および水底面下の地中を異なる音速で伝播し、それぞれの媒質中を伝搬・拡散するため、図6図8の例は、水中・地中伝播に対する騒音抑制としても有効である。
【0067】
次に、本実施形態による別の水中騒音抑制構造体について図9図12を参照して説明する。図9は、本実施形態による別の水中騒音抑制構造体を示す要部側面図である。図10は、図9の水中騒音抑制構成物と基礎部との接続部の例を示す要部側面図である。図11は、図9の水中騒音抑制構造体の変形例を示す要部側面図(a)および他の変形例を示す要部側面図(b)である。図12は、図9の水中騒音抑制構造体においてエアバブルカーテンを形成する構成を示す要部側面図である。
【0068】
図9の水中騒音抑制構造体21は、直立する板状の水中騒音抑制構成物22と、水底に設置され水中騒音抑制構成物22を支持する基礎部23と、を備え、水中防音壁型に構成されたものである。水中騒音抑制構成物22は、抑制用空気を1~40vol%含むコンクリート構成物から構成され、基礎部23に接続し支持されるので、単位体積重量を増やす必要がなく、このため、大きな比重の骨材を使用しなくともよい。基礎部23は、通常のコンクリートから構成される。騒音発生地点10からの水中騒音による音圧が水中を伝播し板状の水中騒音抑制構成物22で透過損失を受け、その音圧が減衰し、水中騒音の周辺水域側への拡散が抑制される。
【0069】
図9では、板状の水中騒音抑制構成物22はその下端面22aで基礎部23の面と刺筋やスタット類を用いて接続されるようにできるが、図10のように、基礎部23に溝部23aを設け、この溝部23aに水中騒音抑制構成物22をはめ込んで接続するようにしてもよい。これにより、水中騒音抑制構成物22を基礎部23でより確実に支持することができる。なお、ずれ防止のため板状の水中騒音抑制構成物22の下部外周面に溝を設け、溝部23a内で前記溝に相対する位置にゴム材を配置したうえで接続させるようにしてもよい。
【0070】
図11(a)の水中騒音抑制構造体21Aは、板状の水中騒音抑制構成物25を水底に設置された基礎部23で支持し、その両端に隔壁26を配置したものである。水中騒音抑制構成物25は、直立する壁状部25aと、壁状部25aよりも幅広で基礎部23に接続する底部25bと、を備え、抑制用空気を1~40vol%含むコンクリート構成物から構成され、大きな比重の骨材を使用しない。水中における音圧透過損失性を高めるために壁状部25aを厚く構成しても、両脇の隔壁26により水中騒音抑制構成物25を安定し支持することができる。隔壁26は、通常のコンクリートから構成されてよいが、大きな比重の骨材を使用した水中騒音抑制構成物から構成してもよい。なお、配合の選定(S01)時に設置する位置における海流、潮位変動に耐えられる強度となるよう配合を決定する。
【0071】
図11(b)の水中騒音抑制構造体21Bは、図11(a)と比べて、両端の隔壁27を略二等辺三角形状の重力式形状とした点以外は、図11(a)の構成とほぼ同一である。
【0072】
図12の例は、図9の水中騒音抑制構造体21の水中騒音抑制構成物22の上端面22bにエアバブルカーテンBCを形成することにより水面と上端面22bとの間で水中騒音の拡散を抑制するようにしたものである。なお、図11(a)(b)においても同様にエアバブルカーテンBCを形成するようにしてもよい。
【0073】
なお、図9図12において、水中騒音抑制構成物22,25は、比重の大きな骨材を用いなくともよいが、必要に応じて用いて単位体積重量を増やすようにしてもよい。
【0074】
図13(a)~(c)は、本実施形態による水中騒音抑制構成物を水中に吊持するようにした水中騒音抑制構造体を示す要部側面図である。図13(a)の例は、抑制用空気を1~40%含み側断面が円形状で柱状の複数のコンクリート構成物28aからなる水中騒音抑制構成物28と、浮力を生じさせるブイ部29と、から構成され水中に吊持される水中騒音抑制構造体30である。水中騒音抑制構成物28は、抑制用空気を1~40%含む柱状の複数のコンクリート構成物28aが水平方向に延びるように配置され公知の板状や綱状の連結手段により互いに連結されて全体が壁状に構成され、ブイ部29による浮力で水中に吊り下げられる。水中騒音抑制構造体30は、水中騒音抑制構成物28の水中騒音の透過抑制効果と各コンクリート構成物28aの円形状表面における音反射効果とにより、鋼管杭9の水底打設による水中騒音発生地点10から水中を伝播する水中騒音を吸音または減音して抑制し、周辺水域側への拡散を抑制できる。なお、水中騒音抑制構成物28を全体に板状に構成し水中に吊持するようにしてもよい。
【0075】
図13(b)の例は、図13(a)と同様に抑制用空気を1~40%含むコンクリート構成物28aからなる水中騒音抑制構成物28と、柱状の複数の音反射吸音構成物31aからなる音反射吸音構造体31と、から構成され水中に吊持される水中騒音抑制構造体32である。音反射吸音構成物31aは、外殻が鉄鋼やステンレス鋼等の金属材料、塩ビ、ポリエチレン・ポリプロピレン等の樹脂材料、FRP等からなり、その側断面形状が円形であることで表面において音反射効果を有するとともに、内部が密閉空洞であることで吸音・音反射・共振し、水中騒音を吸音または減音し、その透過を抑制し、また、内部が密閉空洞であるためブイと同様の浮力効果がある。音反射吸音構造体31は、柱状の複数の音反射吸音構成物31aが水平方向に延びるように配置され互いに連結されて全体が壁状に構成され、水中騒音を低減し抑制するとともに、水中騒音抑制構成物を浮力により水中で吊り下げる。水中騒音抑制構造体32は、水中騒音抑制構成物28と音反射吸音構造体31とにより、鋼管杭9の水底打設による発生地点10から水中を伝播する水中騒音を吸音または減音して抑制し、周辺水域側への拡散を抑制できる。なお、音反射吸音構成物31aの側断面形状は、長円状、半円状、半長円状、傾斜面のある三角形・四角形等の多角形状または半多角形状などであってもよく、表面において音反射効果を有する。
【0076】
図13(c)の例は、図13(a)と同様に抑制用空気を1~40%含むコンクリート構成物28aと図13(b)の音反射吸音構成物31aとからなる水中騒音抑制混成構造体33と、ブイ部29と、最下端に配置された重量のあるウエイト部34と、から構成され水中に吊持される水中騒音抑制構造体35である。水中騒音抑制混成構造体33は、抑制用空気を1~40%含む柱状の複数のコンクリート構成物28aと柱状の複数の音反射吸音構成物31aとが水平方向に延びるように交互に配置され互いに連結されて壁状に構成され、水中騒音を低減し抑制する。水中騒音抑制構造体35は、ブイ部27と音反射吸音構成物31aとの浮力により水中に吊り下げられ、鋼管杭9の水底打設による発生地点10から水中を伝播する水中騒音を吸音または減音して抑制し、周辺水域側への拡散を抑制できる。なお、ウエイト部34は通常のコンクリートや鋼材から柱状に構成されるが、抑制用空気を1~40%含むコンクリート構成物28aから構成し、比重の大きな骨材を用いて単位体積重量を増加させるようにしてもよい。
【0077】
なお、図13(a)~(c)において、抑制用空気を1~40%含む円形状のコンクリート構成物28aの側断面構成を長円状や傾斜面のある三角形・四角形等の多角形状などにしたり、または、半円状や半長円状や半多角形状などにしてもよく、このように音入射面を曲面状または多面状にすることで音入射面において音反射効果を得て水中騒音を効率的に反射させることができる。また、抑制用空気を1~40%含むコンクリート構成物28a,水中騒音抑制構成物28は、比重の大きな骨材を用いずに軽量としてよいが、必要に応じて用いて単位体積重量を増やし、水中騒音抑制構造体30,32,35の全体重量を調整するようにしてもよい。
【0078】
また、図13(a)~(c)の水中騒音抑制構造体30,32,35は、水中騒音の発生地点10に対しより近い場所に設置することが望ましい。水中騒音の発生地点10から遠方に設置するほど水中に吊す水中騒音抑制構造体の寸法(図13(a)~(c)の紙面垂直方向の長さ)を大きくする必要があり、吊り下げるのに大型のブイ等が必要になるためである。また、図9図11(a)(b)のように水底に設置する水中騒音抑制構造体21,21A,21Bにおいて、水中騒音抑制構造体30,32,35を水中騒音の発生地点10に対しより近い位置に設置することで、水中を伝播する水中騒音の周辺水域側への拡散をさらに効率的に抑制できる。また、図7図12のエアバブルカーテンBCに替えて用いることもできる。
【0079】
また、潮流により設置位置が移動しないように吊り下げた水中騒音抑制構造体30,32,35の下部と水底に設置したアンカーとをワイヤーで連結するようにしてもよいし、また、図13(c)のように、水中騒音抑制構造体30,32の下部にウエイト部を設けるようにしてもよい。
【0080】
また、図3図7図9図12の水中騒音抑制構成物16,22,25内の気泡、または、図13(a)~(c)の抑制用空気を1~40%を含むコンクリート構成物28a内の気泡は、できるだけ均等に分散することが好ましい。鋼管杭9の打設による水中音は、鉛直方向に面的で放音時間も長く、水柱全体の断面で伝播するため、水中騒音抑制構成物16内の多数の気泡がコンクリート内で均等に分布することで水中騒音透過の抑制に有効であると考えられる。
【0081】
また、図3図13の各例は、予想される水中騒音の音源音圧や対策対象の水中生物、水温・塩分の鉛直分布、深度や底質等の海域条件、施工方法や時期などから予測される対策効果や費用対効果などを検討した上で選択することが望ましい。
【0082】
〈実験例〉
気泡ビーズ(径が約2mm)を体積比で0,1,5,10%含有したコンクリートブロックを作製した。気泡ビーズ1,5,10%含有のコンクリートブロックにおいて、気泡ビーズにより抑制用空気を気泡ビーズ0%のコンクリートブロックに含まれる空気量に加えて含有させた。コンクリートの配合を図14に示し、気泡ビーズの含有量とコンクリートの単位体積重量を図15に示す。使用した気泡ビーズの外観写真を図16に示し、気泡ビーズの含有率(体積比)が0,1,5,10%の各コンクリートブロックの外観写真を図17(a)~(d)に示す。このコンクリートブロックを図18のような小型のプラスチック水槽に設置し、鋼管を打撃した際の水中騒音を音圧計により測定した結果を図19に示す。同図からコンクリートブロックの設置による水中騒音抑制効果が確認され、気泡ビーズの含有率が増えるに従い、水中騒音抑制効果が大きくなることを確認できた。
【0083】
上記実験例における図14のコンクリートの配合例は、一般的なものであり、細骨材は砂、粗骨材は砂利や砕石であるが、図15のように、気泡ビーズの含有率が増えるに従って単位体積重量が減少する。そこで、図20のように比重の大きいスラグ系骨材(高炉スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ)を細骨材・粗骨材として所定の混合率で用いると、図21のような配合となり、同図のようにコンクリートの単位体積重量が増加し、コンクリートが1~40vol%の抑制用空気を含むことによる単位体積重量の低下を補うことができ、また、単位体積重量低下を補うことを超えて単位体積重量を増加させることができることがわかる。
【0084】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態および実験例では気泡形成材料として発泡ポリスチレンビーズ(気泡ビーズ)を用いたが、本発明はこれに限定されず、発泡ポリスチレンビーズと同種のリサイクル材や気泡緩衝材を用いてもよく、また、ハニカム構造を有する材料でもよい。また、AE剤・AE減衰剤などの表面活性作用によって連行された空気(エントレンドエア)により気泡をコンクリート内に形成するようにしてもよい。
【0085】
また、図3図7図9図13では、水中騒音抑制構造体を潜堤型や水中防音壁型や水中吊持型に構成したが、本発明はこれに限定されず、他の構造に構成してもよく、その構造の少なくとも一部を本発明による水中騒音抑制構成物から構成する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、水中騒音抑制構成物により水中騒音の透過を効率的に抑制できるので、水中騒音抑制構成物から水中に構成される水中騒音抑制構造体により水中騒音の拡散を抑制することができ、水中騒音による水中生物への悪影響を防止できる。
【符号の説明】
【0087】
9 鋼管杭
10 水中騒音の発生地点
11,11A~11E 水中騒音抑制構造体
13,14 傾斜面
15 底面
16,17 水中騒音抑制構成物
19 杭根固め部
21,21A,21B 水中騒音抑制構造体
22,25 水中騒音抑制構成物
23 基礎部
28 水中騒音抑制構成物
28a コンクリート構成物
30,32,35 水中騒音抑制構造体
G 水底地中部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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