(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/12 20100101AFI20230315BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230315BHJP
H01L 33/06 20100101ALI20230315BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H01L33/12
H01L33/32
H01L33/06
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020193593
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2021-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 一史
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093369(JP,A)
【文献】特開2019-121655(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021464(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115266(WO,A1)
【文献】特開2013-016711(JP,A)
【文献】特開2008-056553(JP,A)
【文献】特開2006-134966(JP,A)
【文献】特開2006-134967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/12
H01L 33/32
H01L 33/06
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、
前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、
前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、
前記バッファ層成長工程では、
ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層の厚さが2μmの場合、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上430.0arcsec以下になり、前記バッファ層の厚さが1.5μmの場合、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、463.5arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、
前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、
前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、
前記バッファ層成長工程では、
ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させ、
前記n型半導体層成長工程では、前記バッファ層の厚さが2μmの場合、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、487.2arcsec以上662.1arcsec以下になり、前記バッファ層の厚さが1.5μmの場合、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、481.1arcsec以上503.7arcsec以下になるように、前記n型半導体層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、
前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、
前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、
前記バッファ層成長工程では、
ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、420.4arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させ、
前記n型半導体層成長工程では、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、501.9arcsec以上503.7arcsec以下になるように、前記n型半導体層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外光を出力する発光ダイオードやレーザダイオード等の窒化物半導体発光素子が提供されており、発光効率を向上させた窒化物半導体発光素子の開発が進められている(特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子は、サファイア基板と、サファイア基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成されたn型半導体層(n型クラッド層)と、n型半導体層上に形成されると共に、1つの障壁層及び1つの井戸層により構成された単一量子井戸構造を含む活性層と、活性層上に形成された電子ブロック層と、電子ブロック層上に形成されたp型半導体層(p型クラッド層及びp型コンタクト層)と、p型半導体層上に形成されたp側電極と、n型半導体層の一部の領域上に形成されたn側電極と、を備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、n型半導体層と電子ブロック層との間に、1つの障壁層と1つの井戸層とにより構成された単一量子井戸構造が設けられていることにより、中心波長が290nmから360nmの紫外光を発光する窒化物半導体発光素子の発光効率を向上することが可能となっている。また、その窒化物半導体発光素子では、n型半導体層の厚さやAl組成比が、適正範囲に調整されることにより、発光効率が向上されている。
【0006】
しかしながら、近年の窒化物半導体発光素子に要求される発光効率は、より高くなっており、特許文献1に開示された窒化物半導体発光素子では、市場要求に対して十分に対応できているとは言えない場合もあった。
【0007】
そこで、本発明は、単一量子井戸構造を採用した窒化物半導体発光素子において、発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また、本発明は、上記目的を達成するために、基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、前記バッファ層成長工程では、ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層の厚さが2μmの場合、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上430.0arcsec以下になり、前記バッファ層の厚さが1.5μmの場合、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、463.5arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記目的を達成するために、基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、前記バッファ層成長工程では、ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させ、前記n型半導体層成長工程では、前記バッファ層の厚さが2μmの場合、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、487.2arcsec以上662.1arcsec以下になり、前記バッファ層の厚さが1.5μmの場合、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、481.1arcsec以上503.7arcsec以下になるように、前記n型半導体層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記目的を達成するために、基板上に、バッファ層を成長させるバッファ層成長工程と、前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程と、前記n型半導体層上に、単一量子井戸構造を有する活性層を成長させる活性層成長工程と、を有し、前記バッファ層成長工程では、ポケットの部分を除くサセプタの表面上に堆積した堆積物の厚さを調整することで、前記バッファ層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、420.4arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層を成長させ、前記n型半導体層成長工程では、前記n型半導体層における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、501.9arcsec以上503.7arcsec以下になるように、前記n型半導体層を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単一量子井戸構造を採用した窒化物半導体発光素子において、発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る発光素子の構成の一例を概略的に示した断面図である。
【
図2】窒化物半導体発光素子の製造装置を示した概略図である。
【
図3】窒化物半導体発光素子の製造工程を示したフローチャートである。
【
図4】実施例及び比較例における発光出力の測定結果を示した表である。
【
図5】実施例及び比較例におけるn型クラッド層の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。
【
図6】実施例及び比較例におけるバッファ層の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。
【
図7】実施例及び比較例におけるバッファ層の(102)面半値幅とn型クラッド層の(102)面半値幅との関係を示したグラフである。
【
図8】実施例及び比較例におけるサセプタの堆積物の厚さと発光出力との関係を示したグラフである。
【
図9】実施例及び比較例におけるサセプタの堆積物の厚さとバッファ層の(102)面半値幅との関係を示したグラフである。
【
図10】多重量子井戸型の窒化物半導体発光素子におけるn型クラッド層の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の窒化物半導体発光素子の寸法比と一致するものではない。
【0013】
(窒化物半導体発光素子の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子1の構成の一例を概略的に示した断面図である。窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」とも呼称)には、例えば、レーザダイオードや発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が含まれる。本実施形態では、発光素子1として、中心波長が290nm~365nm(好ましくは、300nm~330nm)の紫外光を発する発光ダイオード(LED)を例に挙げて説明する。
【0014】
図1に示すように、発光素子1は、基板10と、基板10上に形成されたバッファ層20と、バッファ層20上に形成されたn型クラッド層30と、n型クラッド層30上に形成され、単一量子井戸構造50Aを有する活性層50と、活性層50上に形成された電子ブロック層60と、電子ブロック層60上に形成されたp型クラッド層70と、p型クラッド層70上に形成されたp型コンタクト層80と、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されたn側電極90と、p型コンタクト層80上に形成されたp側電極92と、を含んでいる。すなわち、発光素子1は、n型クラッド層30で構成されたn型半導体層と、p型クラッド層70及びp型コンタクト層80で構成されたp型半導体層とによって、単一量子井戸構造50Aを有する活性層50を挟み込んでなる単一量子井戸型の発光ダイオードの構成を有している。また、n型クラッド層30は、バッファ層20を介して基板10上に形成され、p型クラッド層70は、電子ブロック層60を介して活性層50上に形成され、p型コンタクト層80は、電子ブロック層60及びp型クラッド層70を介して、活性層50上に形成されているといえる。
【0015】
発光素子1を構成する半導体には、例えば、AlxGa1-xN(0≦x≦1)にて表される2元系又は3元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、窒素(N)の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えても良い。
【0016】
基板10は、サファイア(Al2O3)単結晶を含むサファイア基板である。基板10には、サファイア基板の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)基板や、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板を用いても良い。なお、基板10のC面がオフ角度を有していても良い。
【0017】
バッファ層20は、窒化アルミニウムにより形成されている。なお、基板10が、窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層20は、窒化アルミニウムガリウムにより形成されていても良い。より言えば、基板10がサファイア基板もしくは窒化アルミニウム基板である場合には、バッファ層20は、窒化アルミニウムにより形成されていることが好ましく、基板10が窒化アルミニウムガリウムである場合には、バッファ層20は、基板10のAl組成比の±5%程度のAl組成比を有する窒化アルミニウムガリウムにより形成されていることが好ましい。
【0018】
また、バッファ層20は、(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下である。好ましくは、378.2arcsec以上492.5arcsec以下である。より好ましくは、420.4arcsec以上492.5arcsec以下である。なお、「(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅」は、X線ロッキングカーブ測定によって、(102)面を対象に測定を行った測定値の半値幅であり、結晶品質の指標となる数値である。以下、「(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅」を、「(102)面半値幅」と呼称する。
【0019】
なお、基板10が窒化アルミニウム基板や窒化アルミニウムガリウム基板である場合には、X線ロッキングカーブ測定におけるバッファ層20と基板10との識別が困難であるため、バッファ層20及び基板10を合わせた(102)面半値幅を、バッファ層20の(102)面半値幅とする。別の言い方をすれば、基板10が窒化アルミニウム基板や窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層20及び基板10から成る下地構造体の(102)面半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下である。好ましくは、378.2arcsec以上492.5arcsec以下である。より好ましくは、420.4arcsec以上492.5arcsec以下である。
【0020】
また、バッファ層20は、0.01μm以上2.5μm以下の厚さを有している。好ましくは、1.4μm以上2.1μm以下の厚さを有している。より好ましくは、1.4μm以上1.6μm以下の厚さを有している。
【0021】
また、詳細は後述するが、本実施形態では、サセプタ103上の堆積物Dの厚さTを45μm以上250μm以下にした状態において、バッファ層20を成長させることにより、バッファ層20が形成されている。これにより、バッファ層20の(102)面半値幅を上記所定の範囲にすることができ、これに係り、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
【0022】
n型クラッド層30は、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlqGa1-qN(0<q≦1)層であり、本実施形態では、n型のAlGaN(以下、単に「n型AlGaN」ともいう)により形成されている。n型クラッド層30のドーパント濃度(Si濃度)は、0.5×1019[atoms/cm3]以上2.5×1019[atoms/cm3]以下である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)等を用いても良い。
【0023】
また、n型クラッド層30を形成するn型AlGaNのAl組成比(「Al含有率」や「Alモル分率」ともいう)は、50%以下である(0≦q≦0.5)と共に、井戸層52のAl組成比よりも大きい(q>s)。好ましくは、25%以上50%以下である(0.25≦q≦0.5)。なお、n型クラッド層30を形成するAlGaNのAl組成比は、井戸層52のAl組成比よりも大きい範囲で可能な限り小さい値であることが好ましい。また、n型クラッド層30は、1μm以上4μm以下の厚さを有している。好ましくは、2.5μm以上3.5μm以下の厚さを有している。より好ましくは、3μmの厚さを有している。n型クラッド層30は、単層でも良く、多層構造でも良い。
【0024】
さらに、n型クラッド層30は、(102)面半値幅が、662.1arcsec以下である。好ましくは、528.1arcsec以下である。
【0025】
なお、本実施形態では、n型半導体層を、n型クラッド層30のみで構成しているが、n型半導体層を、n型クラッド層30及びn型コンタクト層で構成しても良い。
【0026】
また、バッファ層20とn型クラッド層30との間にアンドープのAlGaN層が形成されていても良い。かかる場合、当該AlGaN層を形成するAlGaNのAl組成比は、バッファ層20のAl組成比とn型クラッド層30のAl組成比との間の範囲である。好ましくは、当該AlGaN層のAl組成比は、n型クラッド層30と同一のAl組成比である。
【0027】
活性層50は、n型クラッド層30側に位置する単一の障壁層51と、電子ブロック層60側(すなわち、厚さ方向におけるn型クラッド層30の反対側)に位置する単一の井戸層52により構成された単一量子井戸構造50Aを含んで構成されている。また、活性層50は、波長365nm以下(好ましくは、355nm以下)の紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成されている。
【0028】
障壁層51は、アンドープのAlrGa1-rN(0<r≦1)層である。障壁層51を形成するAlGaNのAl組成比は、90%以下である(0≦r≦0.9)と共に、井戸層52のAl組成比よりも大きい(r>s)。好ましくは、50%以上80%以下である(0.5≦r≦0.8)。また、障壁層51は、3nm以上50nm以下の厚さを有している。好ましくは、10nm以上20nm以下の厚さを有している。障壁層51は、井戸層52に電子や正孔を閉じ込め、井戸層52の発光効率を向上させる役割を担っている。なお、障壁層51は、n型不純物やp型不純物を含んだ層であっても良い。
【0029】
井戸層52は、アンドープのAlsGa1-sN(0≦s<1)層である。井戸層52を形成するAlGaNのAl組成比は、45%以下である(0≦s≦0.45)。また、井戸層52は、2nm以上10nm以下の厚さを有している。好ましくは、3nm以上6nm以下の厚さを有している。
【0030】
なお、単一量子井戸構造50A内における障壁層51及び井戸層52の配置は、上記したものに限定されるものではなく、配置の順序は上記した順序と逆でも良い。すなわち、障壁層51が、電子ブロック層60側に位置し、井戸層52が、n型クラッド層30側に位置している構成であっても良い。
【0031】
電子ブロック層60は、p型のAlGaN(以下、単に「p型AlGaN」ともいう)により形成された層であり、Al組成比が100%である第1電子ブロック層と、Al組成比が57%以上67%以下である第2電子ブロック層とにより構成されている。電子ブロック層60は、p型クラッド層70への電子の流れを抑制することで、活性層50の発光効率を向上させる役割を担っている。なお、電子ブロック層60は、必ずしもp型の半導体層に限られず、アンドープの半導体層でも良い。また、電子ブロック層60を省略し、活性層50上に直接p型クラッド層70を形成する構成であっても良い。
【0032】
p型クラッド層70は、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAltGa1-tN(0≦t≦1)層であり、本実施形態においては、p型AlGaNにより形成されている。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、炭素(C)等を用いても良い。また、p型クラッド層70を形成するAlGaNのAl組成比は、70%以下である(0≦t≦0.7)。好ましくは、n型クラッド層30を形成するn型AlGaNのAl組成比の±10%の範囲である(q-0.1≦t≦q+0.1)。より好ましくは、n型クラッド層30を形成するn型AlGaNのAl組成比と同一である(t=q)。また、p型クラッド層70は、10nm以上1000nm以下の厚さを有している。好ましくは、20nm以上150nm以下の厚さを有している。
【0033】
p型コンタクト層80は、Mg等の不純物が高濃度にドープされたp型のAluGa1-uN(0≦u≦1)層であり、本実施形態においては、p型AlGaNにより形成されているp型コンタクト層80のドーパント濃度(Mg濃度)は、5×1018[atoms/cm3]以上5×1021[atoms/cm3]以下である。p型コンタクト層80を形成するAlGaNのAl組成比は、10%以下である(0≦u≦0.1)。好ましくは、0%である(u=0)。また、p型コンタクト層80は、5nm以上1000nm以下の厚さを有している。
【0034】
なお、本実施形態においては、p型半導体層を、p型コンタクト層80及びp型クラッド層70で構成しているが、p型半導体層を、p型コンタクト層80のみで構成しても良い。
【0035】
n側電極90は、n型クラッド層30の上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/チタン/金(Au)が積層された多層膜で形成される。
【0036】
p側電極92は、p型コンタクト層80の上に順にニッケル(Ni)/金が積層された多層膜で形成される。
【0037】
(発光素子の製造装置)
ここで
図2を参照して、発光素子1の製造に用いる発光素子1の製造装置101について説明する。本製造装置101は、縦型の有機金属気相成長装置(MOCVD装置)であり、AlGaN系の窒化物半導体を成長させて、発光素子1を製造するものである。
【0038】
図2に示すように、製造装置101は、原料ガスを導入する導入口102a、及び原料ガスを排出する排出口102bを有するリアクタ102と、リアクタ102内に収容され、ウエハWをセットするサセプタ103(トレイ)と、サセプタ103の下部に配置され、サセプタ103を加熱するヒータ104と、サセプタ103に取り付けられた回転軸112を有する回転機構(図示省略)と、を備えている。製造装置101を用いた発光素子1の製造工程では、基板10となるウエハWをサセプタ103にセットした状態で、回転軸112によってサセプタ103を設定の回転数で回転させつつ、ヒータ104によってサセプタ103を加熱して温度条件を設定の温度にする。その状態で、導入口102aから原料ガスを導入することで、ウエハW上に各層を成長させる。
【0039】
サセプタ103は、全体として略円板状に形成されており、その表面(上面)に、複数のウエハWを収容する複数のポケット111が凹設されている。各ポケット111は、凹状且つ平面視(上面視)で円形状に形成されており、基板10となる複数の円板状のウエハWは、各ポケット111の底面に載置され、複数のポケット111に収容されるようにセットされる。すなわち、ポケット111の底面が、基板10がセットされる載置面である。
【0040】
符号Dは、ポケット111の部分を除くサセプタ103の表面(上面)上に堆積された堆積物である。すなわち、この堆積物Dは、サセプタ103上の、ポケット111の底面以外の位置に堆積したものである。この堆積物Dは、製造工程における各成長工程において、原料(主にAlN及びAlGaN)がサセプタ103の表面に結晶成長し堆積して形成されたものである。すなわち、堆積物Dは、AlGaNを主成分とするものであり、n型の不純物であるシリコンや、p型の不純物であるマグネシウムを含んでいる。また、堆積物Dの結晶構造は、単結晶又は多結晶、若しくは、単結晶と多結晶とが混在したものである。なお、堆積物D中の組成比等も一定である必要はなく、分布を有していても良い。
【0041】
本製造装置101は、サセプタ103に堆積物Dが堆積した状態で、ウエハWを交換可能に構成されている。そして、製造装置101を用いた発光素子1の製造工程では、この堆積物Dの厚さTを45μm以上250μm以下にした状態で、各層の成長工程が行われる。なお、「250μm」という値は、これを超えるとサセプタ103から堆積物Dが剥がれやすくなり、各層の成長工程中に堆積物Dが剥がれてウエハWを汚す可能性が高くなる値である。また、ここにいう「堆積物Dの厚さT」は、サセプタ103の表面上に堆積した堆積物Dの高さであり、すなわちサセプタ103の表面から堆積物Dの表面(上面)までの上下方向の距離である。
【0042】
(発光素子の製造工程)
次に
図3を参照して、発光素子1の製造工程(製造方法)について説明する。
図3に示すように、発光素子1の製造工程では、堆積物調整工程S1~S3と、ウエハセット工程S4と、バッファ層成長工程S5と、n型クラッド層成長工程S6(n型半導体層成長工程)と、活性層成長工程S7~S8と、電子ブロック層成長工程S9と、p型半導体層成長工程S10~S11と、領域除去工程S12と、n側電極形成工程S13と、p側電極形成工程S14と、ダイシング工程S15と、を順に実行する。なお、各成長工程における各層の成長は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)によって行われる。また、原料ガスを構成するトリメチルアルミニウム(TMA)やトリメチルガリウム(TMG)等の組成等が調整され、各層のAl組成比が目的とする値になるように制御が行われる。
【0043】
堆積物調整工程S1~S3では、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを、45μm以上250μm以下に調整する。具体的には、まず、現状のサセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であるか、45μm未満であるか、250μmを超えているかが判定される(S1)。現状のサセプタ103の堆積物Dの厚さTは、今回の製造工程前に実行された成長工程の回数と、各成長工程で形成される成長層の膜厚と、から推測できる。この推測値が、45μm以上250μm以下であるか、45μm未満であるか、250μmを超えているかが判定される。判定の結果、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であると判定された場合(S1:A)には、何もせずに、次の工程(S4)に移行する。
【0044】
一方、判定の結果、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm未満であると判定された場合(S1:B)には、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが45μmになるように、予備成長処理が行われる(S2)。すなわち、ダミーのウエハWをサセプタ103にセットし、発光素子1の製造工程における一連の成長工程S5~S11を、堆積物Dの厚さTが45μmとなるまで、繰り返し実行される。なお、予備成長処理において、追加する堆積物Dの厚さが0.5μm以下であるとき、上記一連の成長工程S5~S11のうち、p型クラッド層成長工程S10(後述する)を省略する構成であっても良い。
【0045】
なお、予備成長処理時における、堆積する堆積物Dの厚さの計算や、上記判定工程S1における、上記推測値の計算では、p型コンタクト層成長工程S11において堆積する堆積物Dの厚さを0(ゼロ)として計算する。これは、p型コンタクト層成長工程S11において堆積する分の堆積物Dが、一連の成長工程S5~S11を行う際の加熱工程によって分解するためである。また、同様の理由で、これらの計算では、p型クラッド層成長工程S10において成長させるp型クラッド層70のAl組成比が10%以下の場合、p型クラッド層成長工程S10において堆積する堆積物Dの厚さTを0として計算する。さらに、これらの計算では、一連の成長工程S5~S11のうち、成長させる成長層の膜厚が0.5μm以下の工程についても、堆積する堆積物Dの厚さを0として計算する。
【0046】
また、判定の結果、250μmを超えていると判定された場合(S1:C)には、リアクタ102からサセプタ103が取り出され、サセプタ103の堆積物Dが研磨され、堆積物Dの厚さTが45μmに調整される(S3)。なお、前述した調整に代えて、サセプタ103の堆積物Dが全て除去された後、S2と同様、製造工程における一連の成長工程S5~S11を、堆積物Dの厚さTが45μmとなるまで、繰り返し実行する構成であっても良い。これらの工程S1~S3によって、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下に調整される。
【0047】
ウエハセット工程S4では、堆積物調整工程S1~S3によって堆積物Dの厚さTが調整されたサセプタ103にウエハWをセットする。すなわち、ポケット111の底面にウエハWが載置され、サセプタ103のポケット111にウエハWが収容される。
【0048】
バッファ層成長工程S5では、ウエハセット工程S4によってサセプタ103にセットされたウエハW上(ウエハWの表面)に、バッファ層20を1000℃以上1400℃以下の高温成長でエピタキシャル成長させる。バッファ層成長工程S5では、堆積物調整工程S1~S3によってサセプタ103の堆積物Dの厚さTが45μm以上250μm以下に調整された状態で、バッファ層20を成長させることになる。別の言い方をすれば、バッファ層成長工程S5では、サセプタ103上に45μm以上250μm以下の厚さTを備える堆積物Dを堆積させた状態にて、バッファ層20を成長させるといえる。また、バッファ層成長工程S5では、バッファ層20の厚さが0.01μm以上2.5μm以下(好ましくは、1.4μm以上2.1μm以下、より好ましくは1.4μm以上1.6μm以下)となるように、バッファ層20を成長させる。さらに、バッファ層成長工程S5では、バッファ層20の(102)面半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下(好ましくは、378.2arcsec以上492.5arcsec以下、より好ましくは、420.4arcsec以上492.5arcsec以下)になるように、バッファ層20を成長させる。
【0049】
n型クラッド層成長工程S6では、バッファ層成長工程S5によって成長させたバッファ層20上(バッファ層20の表面)に、n型クラッド層30を1020℃以上1180℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。また、n型クラッド層成長工程S6では、n型クラッド層30のAl組成比が50%以下(好ましくは、25%以上50%以下)となり且つn型クラッド層30の厚さが1μm以上4μm以下(好ましくは、2.5μm以上3.5μm以下、より好ましくは、3μm)となるように、n型クラッド層30を成長させる。さらに、n型クラッド層成長工程S6では、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、662.1arcsec以下(好ましくは、528.1arcsec以下)になるように、n型クラッド層30を成長させる。
【0050】
活性層成長工程では、障壁層成長工程S7と、井戸層成長工程S8と、が実行される。障壁層成長工程S7では、n型クラッド層成長工程S6によって成長させたn型クラッド層30上(n型クラッド層30の表面)に、障壁層51を1000℃以上1100℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。また、障壁層成長工程S7では、障壁層51のAl組成比が90%以下(好ましくは、50%以上80%以下)となり且つ障壁層51の厚さが3nm以上50nm以下(10nm以上20nm以下)となるように、障壁層51を成長させる。
【0051】
井戸層成長工程S8では、障壁層成長工程S7によって成長させた障壁層51上(障壁層51の表面)に、井戸層52を1000℃以上1100℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。また、井戸層成長工程S8では、井戸層52のAl組成比が45%以下となり且つ井戸層52の厚さが2nm以上10nm以下(好ましくは、3nm以上6nm以下)となるように、井戸層52を成長させる。
【0052】
電子ブロック層成長工程S9では、活性層成長工程S7~S8によって成長させた活性層50上(活性層50の表面)に、電子ブロック層60を1000℃以上1100℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。
【0053】
p型半導体層成長工程S10~S11では、p型クラッド層成長工程S10と、p型コンタクト層成長工程S11と、が実行される。p型クラッド層成長工程S10では、電子ブロック層成長工程S9によって成長させた電子ブロック層60上(電子ブロック層60の表面)に、p型クラッド層70を1000℃以上1100℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。また、p型クラッド層成長工程S10では、p型クラッド層70のAl組成比が70%以下(好ましくは、n型クラッド層30のAl組成比の±10%の範囲、より好ましくは、n型クラッド層30のAl組成比と同一)になり且つp型クラッド層70の厚さが10nm以上1000nm以下(好ましくは、20nm以上150nm以下)になるように、p型クラッド層70を成長させる。
【0054】
p型コンタクト層成長工程S11では、p型クラッド層成長工程S10によって成長させたp型クラッド層70上(p型クラッド層70の表面)に、p型コンタクト層80を900℃以上1100℃以下の温度条件でエピタキシャル成長させる。また、p型コンタクト層成長工程S11では、p型コンタクト層80のAl組成比が10%以下(好ましくは、0%)になり且つp型コンタクト層80の厚さが5nm以上1000nm以下になるように、p型コンタクト層80を成長させる。
【0055】
領域除去工程S12では、p型コンタクト層成長工程S11によって成長させたp型コンタクト層80の上にマスクが形成され、活性層50、電子ブロック層60、p型クラッド層70及びp型コンタクト層80において、マスクが形成されていないそれぞれの露出領域が除去される。
【0056】
n側電極形成工程S13では、n型クラッド層30の露出面30a(
図1参照)上にn側電極90が形成される。p側電極形成工程S14では、マスクを除去したp型コンタクト層80上にp側電極92が形成される。n側電極90及びp側電極92は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。
【0057】
ダイシング工程S15では、ウエハW(ウエハW上に各層及び各電極を形成した積層構造体)を所定の寸法に切り分ける。これにより、
図1に示す発光素子1が形成される。
【0058】
(実施例)
次に上記実施形態の具体例である各実施例(第1実施例~第9実施例)について説明する。各実施例の構成は、特筆しない部分については、上記実施形態を準拠するものとする。
【0059】
第1実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを182μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第1実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、410.8arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、528.1arcsecである。
【0060】
第2実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを53μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第2実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、375.2arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、556.7arcsecである。
【0061】
第3実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを66μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第3実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、378.2arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、605.4arcsecである。
【0062】
第4実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを80μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第4実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、369.4arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、662.1arcsecである。
【0063】
第5実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを186μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第5実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、420.4arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、501.9arcsecである。
【0064】
第6実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを194μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第6実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、430arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、487.2arcsecである。
【0065】
第7実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを100μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが1.5μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第7実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、463.5arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、481.1arcsecである。
【0066】
第8実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを116μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが1.5μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第8実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、486arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、491.4arcsecである。
【0067】
第9実施例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを124μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが1.5μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるように、n型クラッド層30を成長させた。その結果、第9実施例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、492.5arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、503.7arcsecである。
【0068】
(測定結果)
上記各実施例に比較例(第1比較例及び第2比較例)を加えて、発光出力の測定を行ったところ、
図4の表に示す結果が得られた。また、
図4の表から、
図5乃至
図9のグラフが得られた。
図4における発光波長は、発光出力を計測した波長である。また、発光出力は、種々の公知の方法で測定することが可能であるが、本測定では、一例として、ウエハWの中心部とエッジ部にそれぞれIn電極を付けて電流を流し、光検出器により測定した。
【0069】
また、第1比較例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを16μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるようにn型クラッド層30を成長させた。その結果、第1比較例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、354.5arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、758.9arcsecである。
【0070】
第2比較例では、バッファ層成長工程S5において、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを8μmにした状態で且つバッファ層20の厚さが2μmとなるように、バッファ層20を成長させると共に、n型クラッド層成長工程S6において、n型クラッド層30の厚さが2900nm以上3500nm以下となり且つAl組成比が46.5%以上49.5%以下となるようにn型クラッド層30を成長させた。その結果、第2比較例の発光素子1は、バッファ層20の(102)面半値幅が、356.1arcsecであり、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、782.8arcsecである。なお、第1比較例及び第2比較例の構成は、特筆しない部分については、上記実施形態を準拠し、上記実施例と同一の構成である。
【0071】
図5は、実施例及び比較例におけるn型クラッド層30の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。
図5に示すように、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、662.1arcsec以下であれば、発光出力が、0.9[a.u.]以上となる。また、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、528.1arcsec以下であれば、発光出力が、0.95[a.u.]以上となる。すなわち、n型クラッド層30の(102)面半値幅を、662.1arcsec以下とすることで、高い発光出力を得ることができ、n型クラッド層30の(102)面半値幅を、528.1arcsec以下とすることで、より高い発光出力を得ることができる。なお、発光出力が向上する理由は、n型クラッド層30の(102)面半値幅を上記所定の範囲とすると、活性層50に係る応力が最適値になり、活性層50の結晶品質が向上されること、また、最も活性層50中の転位が少なくなるため、転位による非発光性再結合が抑制されることであると推測される。
【0072】
図6は、実施例及び比較例におけるバッファ層20の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。
図6に示すように、バッファ層20の(102)面半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下であれば、発光出力が、0.9[a.u.]以上となる。また、バッファ層20の(102)面半値幅が、378.2arcsec以上492.5arcsec以下であれば、発光出力が、0.95[a.u.]以上となる。さらに、バッファ層20の(102)面半値幅が、420.4arcsec以上492.5arcsec以下であれば、発光出力が、1[a.u.]以上となる。すなわち、バッファ層20の(102)面半値幅を、369.4arcsec以上492.5arcsec以下とすることで、高い発光出力を得ることができ、バッファ層20の(102)面半値幅を、378.2arcsec以上492.5arcsec以下とすることで、より高い発光出力を得ることができる。さらに、バッファ層20の(102)面半値幅を、420.4arcsec以上492.5arcsec以下とすることで、より高い発光出力を得ることができる。
【0073】
図7は、実施例及び比較例におけるバッファ層20の(102)面半値幅とn型クラッド層30の(102)面半値幅との関係を示したグラフである。
図7に示すように、バッファ層20の(102)面半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下であれば、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、662.1arcsec以下となる(又はなりやすい)。
【0074】
図5乃至
図7を考慮すると、バッファ層20の(102)面半値幅を上記所定の範囲にすると高い発光出力が得られる理由は、バッファ層20の(102)面半値幅を上記所定の範囲にすると、n型クラッド層30の(102)面半値幅が上記所定の範囲となり、その結果、発光出力が向上したものと推測される。
【0075】
図8は、サセプタ103の堆積物Dの厚さTと発光出力との関係を示したグラフである。
図8に示すように、バッファ層成長工程S5におけるサセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であれば、発光出力が、0.9[a.u.]以上となる。また、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、66μm以上250μm以下であれば、発光出力が、0.95[a.u.]以上となる。さらに、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であり且つバッファ層20の厚さが1.4μm以上1.6μm以下であれば、発光出力が、1[a.u.]以上となる。すなわち、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを、45μm以上250μm以下にすることで、高い発光出力を得ることができ、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを、66μm以上250μm以下にすることで、より高い発光出力を得ることができる。さらに、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを45μm以上250μm以下にし且つバッファ層20の厚さを1.4μm以上1.6μm以下にすれば、より高い発光出力を得ることができる。
【0076】
図9は、サセプタ103の堆積物Dの厚さTとバッファ層20の(102)面半値幅との関係を示したグラフである。
図9に示すように、バッファ層成長工程S5におけるサセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であれば、バッファ層20の(102)面半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下となる(又はなりやすい)。また、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが、45μm以上250μm以下であり且つバッファ層20の厚さが1.4μm以上1.6μm以下であれば、バッファ層20の(102)面半値幅が、420.4arcsec以上492.5arcsec以下となる(又はなりやすい)。なお、サセプタ103の堆積物Dの厚さTが上記所定の範囲となると、バッファ層20の(102)面半値幅が上記所定の範囲になる理由は、バッファ層成長工程S5において、堆積物Dにより内部雰囲気の汚染等が生じ、バッファ層20の結晶品質が悪化したものであると推測される。
【0077】
また、
図5乃至
図9を考慮すると、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを上記所定の範囲にすると高い発光出力が得られる理由は、サセプタ103の堆積物Dの厚さTを上記所定の範囲にすると、バッファ層20の(102)面半値幅が上記所定の範囲になり、これにより、n型クラッド層30の(102)面半値幅が上記所定の範囲となる。これによって、発光出力が向上したものと推測される。
【0078】
(実施形態の作用及び効果)
以上、上記実施形態によれば、バッファ層20の(102)面半値幅を369.4arcsec以上492.5arcsec以下にしたことで、単一量子井戸構造50Aを採用した発光素子1において、発光素子1の高い発光出力が得られ、発光効率の向上が図られることになる。また、n型クラッド層30の(102)面半値幅を662.1arcsec以下にしたことで、単一量子井戸構造50Aを採用した発光素子1において、高い発光出力が得られ、発光効率の向上が図られることになる。なお、本発明は、バッファ層20の結晶品質が、n型クラッド層30の結晶品質に影響し、n型クラッド層30の結晶品質が、発光素子1の発光出力に影響する知見を得て、想起されたものである。
【0079】
(変形例)
なお、上記実施形態では、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、662.1arcsec以下(好ましくは528.1arcsec以下)である構成であったが、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上662.1arcsec以下(好ましくは500arcsec以上528.1arcsec以下)である構成であっても良い。すなわち、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上662.1arcsec以下(好ましくは500arcsec以上528.1arcsec以下)である発光素子1において、活性層50の量子井戸構造として、単一量子井戸構造50Aを採用する構成であっても良い。かかる構成によれば、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上であっても、高い発光出力を得ることができる。すなわち、
図10は、n型クラッド層30の(102)面半値幅が異なる複数の多重量子井戸型の発光素子の発光出力を測定した測定結果における、n型クラッド層30の(102)面半値幅と発光出力との関係を示したグラフである。高い発光出力を得ることができるとして一般的に利用されている多重量子井戸型の発光素子では、同図に示すように、n型クラッド層30の(102)面半値幅が500arcsec以上であると発光出力が低下してしまうところ、単一量子井戸型の発光素子1を採用したことで、
図5に示すように、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上であっても、高い発光出力を得ることができ、発光素子1の発光効率を向上させることができる。なお、本発明は、一般的に用いられている多重量子井戸型の発光素子では、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上であると発光出力が低下するのに対し、単一量子井戸型の発光素子1では、
図5に示すように、n型クラッド層30の(102)面半値幅が、500arcsec以上であっても発光出力が低下しないことを発見し、これを採用したものである。
【0080】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施形態から把握される技術思想について、実施形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0081】
[1]基板(10)と、前記基板(10)上に形成させたバッファ層(20)と、前記バッファ層(20)上に形成させたn型半導体層(30)と、前記n型半導体層(30)上に形成された、単一量子井戸構造(50A)を有する活性層(50)と、を備え、前記バッファ層(20)における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子(1)。
[2]前記バッファ層(20)は、(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、378.2arcsec以上492.5arcsec以下であることを特徴とする[1]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[3]前記バッファ層(20)は、(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、420.4arcsec以上492.5arcsec以下であることを特徴とする[2]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[4]前記n型半導体層は、(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、662.1arcsec以下であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[5]基板(10)上に、バッファ層(20)を成長させるバッファ層成長工程(S5)と、前記バッファ層上に、n型半導体層を成長させるn型半導体層成長工程(S6)と、前記n型半導体層(30)上に、単一量子井戸構造(50A)を有する活性層(50)を成長させる活性層成長工程(S7~S8)と、を有し、前記バッファ層成長工程(S5)では、前記バッファ層(20)における(102)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が、369.4arcsec以上492.5arcsec以下になるように、前記バッファ層(20)を成長させることを特徴とする窒化物半導体発光素子(1)の製造方法。
【符号の説明】
【0082】
1:窒化物半導体発光素子、 10:基板、 20:バッファ層、 30:n型クラッド層、 50:活性層、 50A:単一量子井戸構造、 S5:バッファ層成長工程、 S6:n型クラッド層成長工程、 S7~S8:活性層成長工程