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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】水系組織接着剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 26/00 20060101AFI20230315BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20230315BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20230315BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20230315BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230315BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20230315BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20230315BHJP
   C09J 173/00 20060101ALI20230315BHJP
   A61K 8/04 20060101ALN20230315BHJP
   A61K 8/87 20060101ALN20230315BHJP
   A61K 8/85 20060101ALN20230315BHJP
   A61K 8/84 20060101ALN20230315BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALN20230315BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALN20230315BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L24/00 300
A61L24/04 200
A61L24/06
B82Y30/00
C09J175/04
C09J175/06
C09J173/00
A61K8/04
A61K8/87
A61K8/85
A61K8/84
A61Q3/02
A61Q1/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020518784
(86)(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 US2018053702
(87)【国際公開番号】W WO2019070561
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】62/566,730
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/664,739
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518188186
【氏名又は名称】アレオ ビーエムイー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】リウ、 チャオ
(72)【発明者】
【氏名】グオ、 ジンシャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、 チェン
(72)【発明者】
【氏名】ラウンド、 ジョン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウェイ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-162003(JP,A)
【文献】特表2011-507958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 26/00
A61L 24/00-24/12
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した正に帯電した第1のナノ粒子の集団であって、第1のナノ粒子は、第1の平均サイズを有する、第1のナノ粒子の集団と、
水性溶媒中に分散した負に帯電した第2のナノ粒子の集団であって、第2のナノ粒子は、第2の平均サイズを有する、第2のナノ粒子の集団と、
を含み、
第1の平均サイズと第2の平均サイズの差が、少なくとも30nmであり、
第1の平均サイズが第2の平均サイズより大きく、
第1の平均サイズが100nm~1000nmであり、
第1のナノ粒子が、水性ポリウレタン、ポリエステル分散体、またはポリアクリレートエマルションを含み、
第2のナノ粒子が、水性ポリウレタン、ポリエステル分散体、またはポリアクリレートエマルションを含み、
第1のナノ粒子の集団が、10mV~65mVの平均ゼータ電位を有し、第2のナノ粒子の集団が、-10mV~-65mVの平均ゼータ電位を有する、
接着剤組成物。
【請求項2】
正に帯電した第1のナノ粒子と負に帯電した第2のナノ粒子とが、表面上でともに凝集し、イオン架橋及び粒子混合によって、機械的にかみ合う構造を形成する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
第2の平均サイズが100nm未満である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
第1のナノ粒子が、水性ポリウレタン含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
第2のナノ粒子が、水性ポリウレタン含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
第1のナノ粒子が、水性ポリウレタンを含み、第2のナノ粒子が、水性ポリウレタンを含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
第1のナノ粒子が、イオン化しうる官能基を有するポリ酸および/またはポリオールで官能化された水性ポリウレタンを含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
ポリ酸および/またはポリオールが、キトサン、ポリ(L-リシン)、ε-ポリリシン、ポリエチレンイミンおよびポリアリルアミンのうちの1つ以上を含む、請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
第2のナノ粒子が、イオン化しうる官能基を有するポリ酸および/またはポリオールで官能化された水性ポリウレタンを含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
ポリ酸および/またはポリオールが、イオン化されたクエン酸系ポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルデンプン、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸およびスクシニルゼラチンのうちの1つ以上を含む、請求項9に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
第1のナノ粒子および第2のナノ粒子が多孔性または粗い表面に嵌入して表面下の機械的にかみ合う構造を形成し、平滑表面上で凝集して表面の機械的にかみ合う構造を形成する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
機械的にかみ合う構造が、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子との間の共有結合架橋なしに形成される、請求項11に記載の接着剤組成物。
【請求項13】
組成物の固形分が、組成物の総重量を基準として固形分70重量%までである、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項14】
第1のナノ粒子の集団が、10mV~60mVの平均ゼータ電位を有し、第2のナノ粒子の集団が、-10mV~-60mVの平均ゼータ電位を有する、請求項1に記載の接着組成物。
【請求項15】
構造化剤、ゲル化剤、充填剤、乳化剤、固形もしくは液状脂肪剤、着色剤、顔料、光防護剤、二次皮膜形成剤、緩和剤、保湿剤、繊維、保存剤、キレート化剤、香粧品香料、中和剤、またはこれらのいずれかの組合せをさらに含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119に基づき、それぞれ参照により全体が本明細書に組み込まれる2017年10月2日に出願された米国仮特許出願第62/566,730号および2018年4月30日に出願された米国仮特許出願第62/664,739号の優先権を主張する。
【0002】
分野
本発明は、一般に、水系接着剤、より詳細には、水系組織接着剤に関連する。
【背景技術】
【0003】
伝統的な組織接着剤、特に、シアノアクリレート系(Dermabond(登録商標)、Indermil(登録商標))やポリウレタン系(TissuGlu(登録商標))組織接着剤などの工業系接着剤由来の接着剤は、多くの場合、刺激の強い化学反応を利用したものであり、このため、そうした化学反応に固有の発熱特性による組織損傷のリスクが生じる。硬化、および組織との結合をもたらすより穏やかな化学/物理反応に焦点を当てながら、工業系接着剤に代わる選択肢の開発がなされている。そうした一手法では、接着剤製品開発において、自然から着想を得た戦略が探究されている。
【0004】
たとえば、最もよく使用されている組織接着剤は、生体由来のフィブリン糊(Tisseel(登録商標)、Evicel(登録商標))である。フィブリン糊は、フィブリノゲンが複雑な凝固カスケードを経てフィブリンクロットに変換される、血液凝固の最終段階を模倣している。フィブリン糊は、硬膜修復のための標準モデルと考えられているが、いくつかの注目すべき不利益を伴う。そうした不利益には、湿った組織への弱い接着強さ、ウイルス伝播およびアレルギー反応のリスク、ならびに費用がかかり面倒な生産および調製工程が含まれる。
【0005】
自然から着想を得た他の接着剤には、注射用クエン酸系生体接着剤(iCMBA)、およびblue musselの強力な接着能力から着想を得た抗微生物性iCMBAが含まれる。blue musselは、水中にて、塩基性条件下で、カテコール基を使用して、アミン、チオール、およびヒドロキシル基と化学的に反応する生体接着剤を分泌する。iCMBAは、フィブリン糊に比べて2.5~13.0倍の強さの水性接着強さを示している。しかし、iCMBAは、比較的遅い硬化速度(約10分)、低い凝集強さ(69~242KPa)、ならびに接着および凝集強さの急速な低下をもたらしかねない高い膨潤率(500~3,500%)を示す。
【0006】
したがって、自然から着想を得た組織接着剤の改良が求められている。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、接着剤組成物は、水性溶媒と、水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団とを含み、第1のナノ粒子は、負または正の電荷、および1nm~1000nmの三寸法(three dimensions)平均サイズを含む。
【0008】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団を含んでよく、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とは異なる。本明細書に記載の第2のナノ粒子の集団は、第1のナノ粒子の集団の電荷とは逆の負または正の電荷を含んでよい。
【0009】
一部の例では、本明細書に記載の第1のナノ粒子の集団は、第1の三寸法平均サイズを含んでよく、本明細書に記載の第2のナノ粒子の集団は、第1の平均サイズとは異なる第2の三寸法平均サイズを含んでよい。第1の三寸法平均サイズは、一部の場合では、100nm~1000nmの範囲であってよい。第2の三寸法平均サイズは、一部の場合では、100nm未満であってよい。一部の例では、第1の三寸法平均サイズは、140nm~300nmであってよく、第2の三寸法平均サイズは、100nm未満であってよい。一部の実施形態では、第1の平均サイズと第2の平均サイズの差は、少なくとも30nmであってよい。他の実施形態では、第1の平均サイズと第2の平均サイズの差は、30nm~900nmの間であってよい。
【0010】
本明細書に記載の一部の実施形態では、第1のナノ粒子および第2のナノ粒子は、球形または実質的に球形であってよい。一部の場合では、第1のナノ粒子および第2のナノ粒子は、棒様、立方体、円錐形、長方形、錐体、角柱、および他の幾何形状を含めて、形状が非球形であってよい。一部の実施形態では、本明細書に記載の第1のナノ粒子および第2のナノ粒子の集団は、単一の平均形状を含んでよく、または2種以上の異なる形状を含んでよい。
【0011】
一部の実施形態では、第1のナノ粒子の集団および第2のナノ粒子の集団は、それぞれ、-10mV~-65mVまたは10mV~65mVの平均ゼータ電位を有してよい。一部の例では、本明細書に記載の第1のナノ粒子の集団および第2のナノ粒子の集団は、それぞれ、-10~-65mV、もしくは+10~+65mV、または、-20~-60mV、もしくは+20~+60mVの平均ゼータ電位を有する。
【0012】
本明細書に記載の一部の実施形態では、第1のナノ粒子は、ポリマーから形成される。本明細書に記載の第1のナノ粒子は、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成されてよい。
【0013】
本明細書に記載の第2のナノ粒子は、ポリマーから形成されてよい。一部の例では、本明細書に記載の第2のナノ粒子は、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成されてよい。
【0014】
一部の実施形態では、第1のナノ粒子は、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基を有してよい。本明細書に記載の第1の官能基は、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基を含んでよい。ここに記載のクリッカブル基は、アジド基またはアルキン基であってよい。ここに記載のエチレン性不飽和基は、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基であってよい。
【0015】
一部の実施形態では、本明細書に記載の第2のナノ粒子は、第2のナノ粒子の外表面に付いている第2の官能基を有してよい。第2の官能基は、一部の場合では、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基と選択的に反応性であってよい。本明細書に記載の第2の官能基は、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基であってよい。ここに記載のクリッカブル基は、アジド基またはアルキン基を含んでよい。ここに記載のエチレン性不飽和基は、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基であってよい。
【0016】
本明細書に記載の一部の実施形態では、組成物の固形分が、組成物の総重量を基準として固形分55重量%までであってよい。
【0017】
本明細書に記載の組成物は、一部の例では、10,000cP以下の動的粘度を有してよい。
【0018】
一部の例では、本明細書に記載の接着剤組成物は、イオン架橋、共有結合架橋、組織架橋、またはこれらのいずれかの組合せによって、機械的にかみ合う系を形成してよい。
【0019】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、構造化剤(structuring agent)、ゲル化剤、充填剤、乳化剤、固形もしくは液状脂肪剤(fatty agent)、またはこれらのいずれかの組合せの1つまたは複数を含む化粧用に許容される薬剤を含む。一部の例では、化粧用に許容される薬剤は、着色剤、顔料、光防護剤、二次皮膜形成剤、化粧活性薬剤、もしくは化粧用アジュバント、またはこれらのいずれかの組合せを含む。化粧用アジュバントは、緩和剤、保湿剤、繊維、保存剤、キレート化剤、香粧品香料、中和剤、またはこれらのいずれかの組合せであってよい。充填剤は、ポリアミド粒子、ナイロン繊維、ポリエチレン粉末、微小球をベースとするアクリルコポリマー、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂粒子、尿素-ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子、エチレン-アクリレートコポリマー粉末、エクスパンデッドパウダー(expanded powder)、デンプン粉末、シリコーン樹脂マイクロビード、またはこれらのいずれかの組合せであってよい。
【0020】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、非圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、化粧ペースト、マスカラ、リップスティック、リップグロス、リップバーム、ネイルエナメル(nail polish)、または化粧クリームであってよい。
【0021】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、組織閉鎖用の組織接着剤、または身体において使用されるメッシュもしくはフィルムを固定するための接着剤、または組織シーラントおよび止血剤、または薬物送達、交互吸着コーティング、創傷被覆材、植物種子コーティング、液体絆創膏、3Dプリンティング、内視鏡的粘膜切除術(EMR)などの他の適用例、ならびに化粧品適用例であってよい。化粧品適用例には、審美的な質を向上させる、修正する、または別な形で変更することを目的として、本明細書に記載の接着剤組成物を、個体の肌、唇、目、毛髪、爪、または歯に適用する方法が含まれうる。
【0022】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物を、第1の生体材料の第1の表面と第2の生体材料の第2の表面の間に配置することを含み、接着剤組成物によって、第1の生体材料の第1の表面が第2の生体材料の第2の表面に接着される、生体材料を接着する方法を、本明細書において記載する。
【0023】
本明細書に記載の一部の実施形態では、化粧用組成物を角質性組織に接着する方法が、本明細書に記載の接着剤組成物を1つまたは複数の角質性組織表面に配置することを含む。
ここで、本発明について、添付の図面を参照しながら、例を挙げて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】自然から着想を得た化学的および機械的な組織接着機序の説明図である。
図2A】自発的アミノ-インクリック反応の化学反応スキームである。
図2B】マイケル付加の化学反応スキームである。
図2C】ジオール-インクリック反応の化学反応スキームである。
図2D】ジオール-アジドクリック反応の化学反応スキームである。
図3】接着剤組成物のための例示的なポリマーおよびナノマーAおよびB成分ならびに異なるAB製剤の組合せの一覧表である。
図4】官能基あり/なしの正または負に帯電した水性ポリウレタン(WPU)の合成を示す図である。
図5】官能基あり/なしの正または負に帯電したポリエステル分散体(PED)の合成を示す図である。
図6】正電荷を有するドーパミン修飾された水性ポリウレタン(WPU)(WPU-DP)の合成を示す図である。
図7】負電荷を有するタンニン酸(TA)修飾されたWPU(WPU-TA)の合成を示す図である。
図8】正電荷を有するアルキン官能性WPU(WPU-Al)の合成を示す図である。
図9】負電荷を有するアジド官能性WPU(WPU-N)の合成を示す図である。
図10】プロピオレート(PL、-COC≡CH)基を有するクリッカブルジオールの合成を示す図である。
図11図10に記載のプロピオレートを有するクリッカブルジオールのWPUまたはWPUへの導入を示す図である。
図12】官能基あり/なしの負に帯電した水性または水溶性クエン酸系ポリマー(CBP)の合成を示す図である。
図13】官能基ありまたはなしの正または負に帯電したポリアクリレートエマルション(PAE)の合成を示す図である。
図14】カルシウムイオンを有する水性iCMBA(iCMBA-Ca2+)の例示的な合成を示す図である。
図15図3に記載の異なる官能基を使用する異なる架橋および組織結合機序を示す表である。
図16A-16B】図16A~16Dは、PI架橋ありおよびなしのWPU-DPポリマー皮膜の機械的および吸水量データを示すグラフである。
図16C-16D】図16A~16Dは、PI架橋ありおよびなしのWPU-DPポリマー皮膜の機械的および吸水量データを示すグラフである。
図17A-17B】図17A~17Dは、PI架橋ありおよびなしのWPU-TAポリマー皮膜の機械的および吸水量データを示すグラフである。
図17C-17D】図17A~17Dは、PI架橋ありおよびなしのWPU-TAポリマー皮膜の機械的および吸水量データを示すグラフである。
図18A】イオン相互作用およびイオン相互作用プラスクリック反応によって架橋されたWPU-AlおよびWPU-N製剤の吸水量を示すグラフである。
図18B】イオン相互作用およびイオン相互作用プラスクリック反応によって架橋されたWPU-AlおよびWPU-N製剤のラップせん断強度を示すグラフである。
図19】硬膜と頭蓋骨欠損を同時にシールすることにより脳脊髄液(CSF)漏出修復を修復するのに使用される接着剤組成物の説明図である。
図20】CSF鼻漏モデルにおいてCSF漏出防止のためにシーラントとして使用される接着剤組成物の実験プロセスを示す図である。
図21】WPU+/-分散体シーラントの破裂圧力の脊柱CSF圧力および頭蓋CSF圧力との比較を示すグラフである。
図22A】不釣り合いに組み合わされた粒径の充填密度を示す図である。
図22B】不釣り合いに組み合わされた粒径が接着剤組成物の破裂強さに及ぼす影響を示すグラフである(S+:粒径=120.9nm、ゼータ電位=55mV;S-:粒径=76.52nm、ゼータ電位=-52mV;M+:粒径=146.2nm、ゼータ電位=18mV;M-:粒径=113.4nm、ゼータ電位=-34mV;L+:粒径=367.1nm、ゼータ電位=46mV;L-:粒径=120nm、ゼータ電位=-24mV)。
図23】調製したままおよび完全に乾性のWPU+/-分散体シーラントの12日間にわたる寸法変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に記載の実施形態は、以下の詳細な説明、実施例、および図面を参照することで、より容易く理解することができる。しかし、本明細書に記載の要素、装置、および方法は、詳細な説明、実施例、および図面において示す特定の実施形態に限定されない。こうした実施形態は、本発明の原理の単なる実例にすぎないと認識されるべきである。当業者には、本発明の真意および範囲から逸脱することなく、数多くの変更形態および適合形態が直ちに明白となろう。
【0026】
加えて、本明細書で開示するすべての範囲は、そこに属するありとあらゆる下位範囲を包含すると理解される。たとえば、「1.0~10.0」という明記された範囲は、1.0以上の最小値で始まり、10.0以下の最大値で終わる、ありとあらゆる下位範囲、たとえば、1.0~5.3、4.7~10.0、または3.6~7.9を含むと理解すべきである。
【0027】
本明細書で開示するすべての範囲はまた、そうでないことを特に明記しない限り、範囲の端点を含むとみなされる。たとえば、「between 5 and 10(5~10の間)」、「from 5 to 10(5~10)」、または「5-10(5~10)」という範囲は、一般に、端点である5および10を含むとみなすべきである。
【0028】
さらに、量または数量に関連して「up to(まで)」という表現が使用されるとき、その量は、少なくとも、検出可能な量または数量であると理解される。たとえば、特定の量「まで」の量で存在する材料は、検出可能な量から、特定の量まで(その特定の量を含む)存在しうる。
【0029】
English ivyは、表面をよじ登ることができ、壁から煉瓦をむしり取り、建物の正面を摩滅させうるほど強い接着力を課すことができる能力で知られている。この偉業を成し遂げることができる強力な機序が解明されたのは、ほんの最近のことである。この植物は、ターゲット表面に嵌入および凝集する、負に帯電したナノ球形糖タンパク質粒子を分泌する。こうしたナノ粒子は、カルシウムイオンとのイオン相互作用による架橋によってさらに強化され、したがって、English ivyの根とこれがへばり付く表面間の機械的かみ合いを可能にする、浸透性皮膜を形成する。
【0030】
本明細書においてより詳細に記載する一部の実施形態では、水性ポリウレタン(WPU)、ポリエステル分散体(PED)、ポリアクリレートエマルション(PAE)、他の水性ポリマーナノ分散体(WPND)系などの合成水性ポリマーが、正と負の電荷を有する場合があり、English ivyが分泌するナノ球形糖タンパク質粒子と多少類似した機能をもたらしうる。たとえば、こうした合成水性ポリマーのイオン架橋が、多価対イオン、逆に帯電したイオンを有するポリマー溶液または別の合成水性ポリマーとのイオン相互作用によって実現され得る。
【0031】
本明細書において一部の実施形態に記載するとおり、イオン架橋可能なAB製剤系を、WPNDで構成された1種または2種以上の成分、または逆の電荷を有する異なるポリマー溶液からなる2種の成分を用いて形成することができる。たとえば、図1に示すとおり、AB製剤系のAおよびB成分は、水性ポリマーのイオン架橋によって、English ivyの機械的かみ合い機序を模倣する。水性ポリマーのこのイオン架橋によって、一部の例では、生成された接着剤の機械的強度、接着強さ、耐水性(吸水量が減少する)、および/または耐久性が向上しうる。その上、シアノアクリレート系接着剤(Dermabond(登録商標)、Indermil(登録商標)、LiquiBand(登録商標))およびポリウレタン系組織接着剤(TissuGlu(登録商標))を始めとする、現在利用可能な多くの組織接着剤に存在する、化学反応によって誘発される架橋が引き起こすマイナスの課題、たとえば、毒性および発熱の問題が、イオン架橋が主として物理的相互作用であるのでこれによって解決される。
【0032】
一部の例では、本明細書に記載の一部のイオン架橋可能なAB製剤系が、異なる電荷を有するナノ粒子で構成された1種、2種、またはより多くの成分から形成され得る。本明細書に記載の逆に帯電したナノ粒子は、形成された接着剤の機械的強度、接着強さ、耐水性(吸水量を減少させる)、および/または耐久性を向上させるイオン架橋を、形成することができる場合がある。その上、一部の実施形態では、ナノ粒子が、ナノ粒子の粒子充填密度を増大させうる2つ以上の異なる平均粒径を有する、二峰性、三峰性、または他峰性の手法を使用して、本明細書に記載のナノ粒子の機械的性質を向上させることができる。図22Aにおいて示されるとおり、サイズが不釣り合いに組み合わせられた粒子分布を使用することにより、ナノ粒子を、充填密度が最大になるように充填し、組織表面における粒子の嵌入および凝集の増進を可能にすることができる。一部の実施形態では、逆に帯電した水性ポリマーを、逆に帯電したナノ粒子の代わりに、またはそれと組み合わせて使用することができ、同じまたは同様の望ましい接着および物理的性質を示しうる。
【0033】
機械的にかみ合うEnglish ivy接着機序の短所の1つは、生体組織または材料に化学的に結合しうる能力が不十分であることである。このために、一部の例では、生体組織において使用するとき、イオン架橋可能なAB製剤の接着強さが制限される場合がある。本明細書に記載の一部の実施形態では、ナノ粒子または水性ポリマーを、ある特定の組織結合性または架橋性官能基で官能化することにより、この短所を軽減または解消することができる。本明細書において一部の実施形態に記載するとおり、blue-musselまたはタンニンから着想を得た含カテコール種またはガロタンニン種を、ドーパミンもしくはその誘導体、タンニン酸(「TA」、植物由来ポリフェノールの一種)、またはガロタンニン種によって、AB製剤に導入することができる。酸化されたカテコールヒドロキシル基またはガロタンニン基は、たとえば、図1に示すとおり、一部の場合では、系が、生体表面上の利用可能な求核性基、たとえば、-NH、-SH、-OH、および-COOH基との共有結合を形成するのを可能にしうるだけでなく、一部の場合では、ナノ粒子またはポリマーそれ自体同士の分子間架橋のきっかけともなり、ナノ粒子またはポリマーネットワークに凝集特性の向上をもたらしうる。
【0034】
組織と化学的に反応させるために、自発的アミノ-インクリック反応(図2A)、マイケル付加(図2B)、ジオール-インクリック反応(図2C)、ジオール-アジドクリック反応(図2D)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性化型カルボキシル基、アルデヒドなど、またはポリマーネットワークを化学的に架橋するために、クリック反応(たとえば、銅を触媒とする1,3-二極性アジド-アルキン付加環化(CuAAC))、ヒドロシリル化反応など、または生理活性分子のために、コラーゲン模倣ペプチドp15などの、他の化学反応または官能基をAB製剤に導入してもよい。
【0035】
本明細書に記載の接着剤組成物は、創傷閉鎖、シーラント、止血剤などの様々な組織接着剤適用例において使用することができる。加えて、本明細書に記載の接着剤組成物を使用して、乾癬、咬傷もしくは刺傷、熱傷、ただれ、痔核、肛門括約筋裂傷、切り傷、またはすり傷を覆うこともできる。しかし、接着剤組成物は、組織をベースとする適用例だけに限定されず、一部の例では、薬物送達、交互吸着コーティング、創傷被覆材、植物種子コーティング、液体絆創膏、3Dプリンティング、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、および化粧品適用例において使用することもできる。
【0036】
したがって、本明細書においてより詳細に記載する実施形態の一部において、典型的な水性接着剤組成物は、イオン架橋機械的かみ合い機序によって、また一部の場合では、反応性表面官能基と組み合わされて、従来の組織接着剤の不利益の1つまたは複数を克服する。
【0037】
I.接着剤組成物
I(a).ナノ粒子をベースとする接着剤組成物
一態様では、接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団を含む。一部の実施形態では、接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団を含み、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とは異なる。本明細書に記載の第1および第2のナノ粒子は、水性ポリマーナノ分散体(WPND)を含んでよい。一部の場合では、第1および第2のナノ粒子は、水性ポリウレタン(WPU)、ポリエステル分散体(PED)、ポリアクリレートエマルション(PAE)、または本開示の目的と相反しない他のWPND系であってよい。第1のナノ粒子は、一部の例では、第2のナノ粒子と同じタイプの材料からなってよい。他の場合では、第1のナノ粒子は、第2のナノ粒子とは異なる材料からなってよい。
【0038】
本明細書に記載の第1および/または第2のナノ粒子は、1nm~1000nm、1nm~900nm、1nm~800nm、1nm~700nm、1nm~600nm、1nm~500nm、1nm~400nm、1nm~300nm、1nm~200nm、70nm~1000nm、90nm~1000nm、100nm~1000nm、125nm~1000nm、150nm~1000nm、175nm~1000nm、200nm~1000nm、225nm~1000nm、250nm~1000nm、275nm~1000nm、300nm~1000nm、325nm~1000nm、350nm~1000nm、375nm~1000nm、400nm~1000nm、425nm~1000nm、450nm~1000nm、475nm~1000nm、500nm~1000nm、550nm~1000nm、600nm~1000nm、650nm~1000nm、700nm~1000nm、750nm~1000nm、800nm~1000nm、850nm~1000nm、900nm~1000nm、70nm~900nm、70nm~800nm、70nm~700nm、70nm~650nm、70nm~600nm、70nm~550nm、70nm~500nm、70nm~450nm、70nm~400nm、70nm~350nm、70nm~300nm、80nm~280nm、90nm~260nm、100nm~260nm、100nm~220nm、100nm~200nm、90nm以上、100nm以上、120nm以上、140nm以上、160nm以上、180nm以上、200nm以上、220nm以上、1nm~100nm、10nm~100nm、20nm~100nm、30nm~100nm、40nm~100nm、50nm~100nm、60nm~100nm、70nm~100nm、80nm~100nm、90nm~100nm、40nm~80nm、50nm~70nm、60nm~80nm、70nm~80nm、10nm以下、20nm以下、40nm以下、60nm以下、70nm以下、80nm以下、90nm以下、100nm以下、110nm以下、120nm以下、130nm以下、140nm以下、1nm~90nm、1nm~80nm、1nm~70nm、1nm~60nm、1nm~50nm、1nm~40nm、1nm~30nm、1nm~20nm、1nm~10nm、50nm~300nm、100nm~250nm、100nm~225nm、250nm以下、225nm以下、200nm以下、175nm以下、150nm以下、125nm以下、100nm以下、85nm以下、70nm以下、または55nm以下の三寸法平均サイズを有してよい。
【0039】
一部の好ましい実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、二峰性の平均サイズ
分布の成分を含んでよい。たとえば、一部の実施形態では、本明細書に記載の第1のナノ粒子の集団が、第1の三寸法平均サイズ分布を含んでよく、本明細書に記載の第2のナノ粒子の集団が、第1の平均サイズとは異なる第2の三寸法平均サイズ分布を有してよい。一部の実施形態では、第1のナノ粒子の集団または第2のナノ粒子の集団は、二峰性であってよく、第1のナノ粒子の集団または第2のナノ粒子の集団のおよそ半分が、第1の三寸法平均サイズ分布を有してよく、後の半分が、第1の平均サイズとは異なる第2の三寸法平均サイズ分布を有してよい。第1の三寸法平均サイズは、70nm~1000nm、90nm~1000nm、100nm~1000nm、125nm~1000nm、150nm~1000nm、175nm~1000nm、200nm~1000nm、225nm~1000nm、250nm~1000nm、275nm~1000nm、300nm~1000nm、325nm~1000nm、350nm~1000nm、375nm~1000nm、400nm~1000nm、425nm~1000nm、450nm~1000nm、475nm~1000nm、500nm~1000nm、550nm~1000nm、600nm~1000nm、650nm~1000nm、700nm~1000nm、750nm~1000nm、800nm~1000nm、850nm~1000nm、900nm~1000nm、70nm~900nm、70nm~800nm、70nm~700nm、70nm~650nm、70nm~600nm、70nm~550nm、70nm~500nm、70nm~450nm、70nm~400nm、70nm~350nm、70nm~300nm、80nm~280nm、90nm~260nm、100nm~260nm、100nm~220nm、100nm~200nm、90nm以上、100nm以上、120nm以上、140nm以上、160nm以上、180nm以上、200nm以上、または220nm以上であってよい。第2の三寸法平均サイズは、1nm~100nm、10nm~100nm、20nm~100nm、30nm~100nm、40nm~100nm、50nm~100nm、60nm~100nm、70nm~100nm、80nm~100nm、90nm~100nm、40nm~80nm、50nm~70nm、60nm~80nm、70nm~80nm、10nm以下、20nm以下、40nm以下、60nm以下、70nm以下、80nm以下、90nm以下、100nm以下、110nm以下、120nm以下、130nm以下、または140nm以下であってよい。
【0040】
一部の例では、第1の三寸法平均サイズ分布が、100nm~220nmの範囲にあり、第2の三寸法平均サイズ分布が、50nm~100nmの範囲にある、または100nm未満である。
【0041】
一部の二峰性平均サイズ分布では、第1の三寸法平均サイズが、第2の三寸法平均サイズより大きい場合がある。一部の実施形態では、第1の平均サイズと第2の平均サイズの差は、少なくとも30nm、少なくとも50nm、少なくとも75nm、少なくとも100nm、少なくとも125nm、少なくとも150nm、少なくとも175nm、少なくとも200nm、少なくとも225nm、少なくとも250nm、少なくとも275nm、少なくとも300nm、少なくとも400nm、少なくとも500nm、少なくとも600nm、少なくとも700nm、少なくとも800nm、少なくとも900nm、30nm~900nmの間、30nm~700nmの間、30nm~500nmの間、30nm~300nmの間、30nm~275nmの間、30nm~250nmの間、30nm~225nmの間、30nm~200nmの間、30nm~175nmの間、30nm~150nmの間、30nm~125nmの間、30nm~100nmの間、30nm~90nmの間、30nm~80nmの間、30nm~70nmの間、30nm~60nmの間、35nm~65nm、40nm~60nm、35nm~55nm、または40nm~50nmであってよい。
【0042】
一部の好ましい実施形態では、正に帯電した本明細書に記載のナノ粒子が、第1の三寸法平均サイズを有してよく、負に帯電した本明細書に記載のナノ粒子が、第2の三寸法平均サイズを有してよく、第1の平均サイズは、第2の平均サイズより大きい。他の実施形態では、負に帯電した本明細書に記載のナノ粒子が、第1の三寸法平均サイズを有してよく、正に帯電した本明細書に記載のナノ粒子が、第2の三寸法平均サイズを有してよく、第1の平均サイズは、第2の平均サイズより大きい。
【0043】
本明細書に記載のナノ粒子の集団は、単一または二峰性平均サイズ分布に限定されず、三峰性、またはより高い多峰性平均サイズ分布を含む場合もある。そうした多峰性の実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子の複数の集団が、第1の平均サイズ、第2の平均サイズ、第3の平均サイズなどを含んでよく、各平均サイズは、他の平均サイズとは異なる。一部の多峰性の実施形態における平均サイズは、本明細書において予め記載した第1および第2の平均サイズの1つまたは複数を含んでよく、平均サイズのそれぞれの間の差は、予め記載した、第1の平均サイズと第2の平均サイズの差の1つまたは複数であってよい。
【0044】
本明細書に記載のナノ粒子は、本開示の目的と相反しないいずれの形状でもよい。一部の場合では、ナノ粒子は、球形または実質的に球形である。他の場合では、本明細書に記載のナノ粒子は、形状が、棒様、立方体、円錐形、長方形、錐体、角柱、および他の幾何形状などの非球形である。本明細書に記載のナノ粒子の一部の集団は、単一の平均形状を含む場合もあり、または2種以上の異なる形状を含む場合もある。
【0045】
一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、二峰性の平均粒度分布を有する第1のナノ粒子の集団を含んでよく、二峰性の第1のナノ粒子のそれぞれは、同じ電荷を有する。たとえば、サイズの異なる第1のナノ粒子のそれぞれが、全体として正または負の電荷を有してよい。以下でより詳細に記載するとおり、同じ電荷をもった二峰性の第1のナノ粒子を有する系が表面に適用されてよく、サイズの異なる2種の粒子は、組織の表面に嵌入および凝集し、共有結合架橋または物理的架橋機序によって、機械的にかみ合う構造を形成しうる。
【0046】
一部の好ましい実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物は、第1の電荷を有する本明細書に記載の第1のナノ粒子の集団と、第1の電荷の逆である第2の電荷を有する本明細書に記載の第2のナノ粒子集団とを含んでよい。一部の例では、第1のナノ粒子の集団が、負または正いずれかの電荷を有する成分Aを含んでよく、第2のナノ粒子の集団が、成分Aの電荷の逆の負または正の電荷を有する成分Bを含んでよい。まとめると、合わさってAB製剤をなす、本明細書に記載の成分Aおよび成分Bの集団が、負と正の電荷を含んでよい。本明細書に記載の一部の実施形態については、成分Aが、正電荷などの第1の電荷を有するナノ粒子(たとえばA)であってよく、成分Bが、負電荷などの第1の電荷とは異なる第2の電荷を有するナノ粒子(たとえばB)であってよい。しかし、AおよびBに割り当てられる特定の電荷は、AおよびBそれぞれの成分が他の成分と逆の電荷を有する限り、AやAなど、どちらの電荷であってもよい。
【0047】
一部の実施形態では、成分AとBが混ぜ合わされたときナノ粒子間にイオン架橋が形成されるように、成分Aが、成分Bの電荷と逆の電荷を有してよい。図1に示すとおり、本明細書に記載の接着剤組成物が組織表面に適用されると、成分AとBを含むナノ粒子が、組織の表面に嵌入および凝集し、イオン架橋機序によって、機械的にかみ合う構造を形成する。
【0048】
第1のナノ粒子、第2のナノ粒子、第1と第2両方のナノ粒子、AおよびB成分を含むナノ粒子などの、本明細書に記載のナノ粒子の電荷は、本開示の目的と相反しないいずれの方法で取得されていてもよい。図3に、負および正に帯電したAおよびB成分の例示的な変形形態を示しており、円形のアイコンは、ナノ粒子をベースとするAおよびB成分を表し、曲がりくねった線は、水性ポリマーをベースとするAおよびB成分を表す。こうした、水性ポリマーをベースとする成分については、以下で第I節(b)においてより詳細に論述するが、ポリ(1,8-オクタンジオールシトレート)(POC)、POC-クリック、生分解性光ルミネセンスポリマー(BPLP)、イガイ(mussel)から着想を得た注射用生体接着剤(iCMBA)、または、クエン酸由来の側(side)カルボキシル基を処理して-COOイオンにする、もしくは負電荷を有するシトレート分子またはジオールを導入することによって、負に帯電したポリマーに変換し、A成分もしくはB成分のいずれかとして使用することができる他の化学基などのクエン酸系ポリマーを含んでよい。負に帯電したクエン酸系ポリマーは、β-グリセロリン酸(β-GP)などの負に帯電したジオールを使用してクエン酸および/または他のモノマーと反応させることにより、その負電荷がさらに強化されていてもよい。
【0049】
AおよびB成分の正に帯電したナノ粒子は、一部の例では、クエン酸系ポリマーを、クエン酸および/または他のモノマーと共に、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)(以下の式B5を参照されたい)やN-エチルジエタノールアミン(以下の式B6を参照されたい)などの正帯電性ジオールと反応させることにより取得できる。本明細書に記載の帯電したシトレートポリマーは、A成分またはB成分のどちらとしても使用されるナノ粒子となりうる。
【0050】
本明細書に記載の一部の実施形態では、ナノ粒子の表面が官能化されてよく、成分AおよびBは、化学的に対形成可能な官能基で官能化される。用語「対形成可能な官能基」とは、2つの官能基が選択的な形で互いに反応しうること、または少なくとも互いに適合することを意味する。たとえば、一部の場合では、2つの対形成可能な官能基が、第1のナノ粒子および第2のナノ粒子上に別々に導入され、これらのナノ粒子が(たとえば、イオン架橋によって)密な接触状態にあるとき、2つの対形成可能な官能基は、互いに反応して、第1と第2のナノ粒子間に共有結合架橋を形成する。対形成可能なクリッカブル官能基を有する成分AとB、たとえば、アルキンを有する成分Aとアジド基を有する成分Bの組合せでは、イオン相互作用架橋の二次的な架橋機序としてクリック架橋がもたらされる場合がある。クリック架橋によって、得られる組織接着剤の重ねせん断強度および耐水性は向上しうる(実施例9を参照されたい)。残りのクリッカブル官能基であるアルキンまたはアジド基は、コラーゲン模倣ペプチドp15や抗微生物性ポリマー/小分子などの機能性分子、クリック反応によってコンジュゲートさせて、得られる組織接着剤に、本明細書においてより詳細に記載する生体機能を付与するのに使用することができる。
【0051】
官能基あり/なしの正または負電荷を有する典型的な第1および第2のナノ粒子の合成を、非限定的な例としてWPU、PED、およびPAEを使用して、以下の図面に記載する。WPUおよびPEDは、ポリイソシアネートまたはポリオールとポリ酸の逐次重合によって合成される。図4は、官能基あり/なしの正または負に帯電したWPUの合成を示し、図5は、官能基あり/なしの正または負に帯電したPEDの合成を示す。正または負電荷は、ジメチロールプロピオン酸(DMPA、負電荷を有するWPUまたはPED用)、N-メチルジエタノールアミン(MDEA、正電荷を有するWPUまたはPED用)、β-グリセロリン酸二ナトリウム(β-GP)、N,N-ビス(2-ヒドロキシ-エチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、BESナトリウム塩などの、イオン化しうる基を有するジ/ポリオールまたは二/ポリ酸を重合に含めることによって導入することができる。官能基は、含カテコール種、クリッカブル官能基(アルキン、アジド、-COC≡CHなど)、二重結合(アリル、-COCR=CH、R=-Hまたは-CH)、ケイ素-水素結合(-Si-H)、または図3に記載するものなどの他の官能基でよい。
【0052】
WPU合成のための本明細書に記載のポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、または生体関連適用例に適する他の脂肪族ポリイソシアネートを含んでよい。芳香族ポリイソシアネートも、必要に応じて使用してよい。一部の実施形態では、WPU合成のためのポリイソシアネートは、式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、および/または式(A5)によって表すことができる。一部の例では、HDIおよびIPDIが、個別にまたは組み合わされて、WPU合成に使用される。
【化1】
式中、pは、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、2~10、3~10、4~10、5~10、6~10、7~10、8~10、2~8、または4~6の範囲の整数である。
【0053】
WPU合成において使用される本明細書に記載のポリイソシアネートの量は、ポリウレタン固形分(solid)の重量を基準として15重量%~65重量%であってよい。一部の実施形態では、ポリイソシアネートは、ポリウレタン固形分の重量を基準として、20重量%~60重量%、25重量%~55重量%、30重量%~50重量%、35重量%~45重量%、20重量%~50重量%、20重量%~40重量%、20重量%~30重量%、30重量%~60重量%、40重量%~60重量%、または50重量%~60重量%である。
【0054】
本明細書に記載の一部の実施形態では、ポリオールは、複数のヒドロキシル末端基を有する生分解性高分子ジオール、たとえば、ポリ(ε-カプロラクトン)(ε-PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)、ポリ(アジピン酸ブチレン)(PBA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(テトラメチレンエーテルグリコール)(ポリ(テトラヒドロフラン)(ポリ(THF))の名称もある)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、または低重量平均分子量ポリオール、たとえば、オクタンジオール、ブタンジオール、グリセリンであってよい。本明細書に記載の一部の実施形態では、一部の例において、少量の三/四官能性化合物が使用される場合があるとはいえ、ポリオールは、二官能性化合物である。
【0055】
高分子ポリオールの重量平均分子量は、200~5000Da、200~4000Da、200~3000Da、200~2000Da、200~1000Da、500~3000Da、1000~2000Da、1000Da以上、1500Da以上、2000Da以上、3000Da以上、4000Da以上、または5000Da以上であってよい。
【0056】
WPU合成では、ポリウレタン固形分の重量を基準として約20重量%~80重量%の本明細書に記載の高分子ジオールが使用されてよい。一部の実施形態では、ポリウレタン固形分の重量を基準として約20重量%~70重量%、30重量%~70重量%、40重量%~70重量%、50重量%~70重量%、60重量%~70重量%、20重量%~60重量%、20重量%~50重量%、20重量%~40重量%、20重量%~40、または30重量%~60重量%の高分子ジオールが、WPU合成において使用されてよい。
【0057】
PED合成では、ポリエステル固形分の重量を基準として約0%~80%の本明細書に記載の高分子ジオールが使用されてよい。一部の実施形態では、ポリエステル固形分の重量を基準として0%~70%、0%~60%、0%~50%、0%~40%、0%~30%、0%~20%、0%~10%、10%~70%、20%~60%、30%~50%、10%~60%、10%~50%、10%~40%、10%~30%、10%~20%、15%~50%、20%~50%、25%~50%、35%~50%、または40%~50%の高分子ジオールが、PED合成において使用されてよい。
【0058】
本明細書に記載の一部の実施形態では、PED合成において使用されるポリオールは、低重量平均分子量ジオールであってよい。典型的な低重量平均分子量ジオールは、1,2-エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、ブテンジオール、ブチンジオール、または1,8-オクタンジオールを含んでよい。一部の例では、低重量平均分子量ジオールは、単独で、または2種以上の組合せ、たとえば、1,4-ブタンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、および1,6-ヘキサンジオールの組合せとして使用可能である。
【0059】
PED合成において使用する低重量平均分子量ジオールは、ポリエステル固形分の重量を基準として10重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、15重量%~25重量%、15重量%~20重量%、20重量%~45重量%、25重量%~45重量%、30重量%~45重量%、35重量%~45重量%、40重量%~45重量%、20重量%~40重量%、25重量%~40重量%、30重量%~40重量%、20重量%~35重量%、20重量%~30重量%、15重量%以下、20重量%以下、25重量%以下、30重量%以下、35重量%以下、40重量%以下、または45重量%以下であってよい。
【0060】
一部の実施形態では、WPUまたはPED合成のための帯電性基を有するポリオールは、以下の例示的な式B1~B6によって表すことができ、
【化2】
WPUまたはPEDにおいて使用される本明細書に記載の帯電性ジオールの重量平均重量百分率は、1%~20.0%、1%~15%、1%~10%、1%~8%、1%~6%、5%~20%、8%~20%、10%~20%、15%~20%、または5%~15%の範囲であってよい。
【0061】
本明細書に記載のイオン化しうる基を有するポリオールは、WPU合成において使用するとき、ポリウレタン固形分の重量を基準として0.5重量%~10重量%の範囲で存在してよい。一部の例では、WPU合成において使用するポリオールは、1%~5%、1%~4%、1%~3%、2%~8%、3%~8%、4%~8%、5%~8%、または6%~8%の範囲で存在してよい。PED合成では、イオン化しうる基を有するポリオールを、ポリエステル固形分の重量を基準として2%~40%、2%~35%、2%~30%、2%~25%、5%~25%、2%~20%、2%~15%、2%~10%、10%~30%、15%~30%、20%~30%、または25%~35%の範囲で使用することができる。
【0062】
本明細書に記載の一部の実施形態では、PED合成において使用するポリ酸は、自然由来のポリ酸、たとえば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、他の非毒性のポリ酸、たとえば、コハク酸、アジピン酸、および本開示の目的と相反しない他の非毒性のポリ酸を含む。
【0063】
固形ポリマーの重量を基準として2重量%~65重量%、5重量%~50重量%、10重量%~45重量%、15重量%~40重量%、20重量%~35重量%、20重量%~35重量%、25重量%~30重量%、2重量%~10重量%、2重量%~15重量%、2重量%~20重量%、2重量%~25重量%、2重量%~30重量%、2重量%~35重量%、2重量%~40、5重量%~60重量%、10重量%~60重量%、15重量%~60重量%、20重量%~60重量%、30重量%~60重量%、35重量%~60重量%、または40重量%~60重量%の範囲の本明細書に記載のポリ酸を、PED合成において使用することができる。
【0064】
本明細書に記載のナノ粒子は、-10mV~-65mV、-10mV~-60mV、-10mV~-50mV、-10mV~-45mV、-10mV~-40mV、-10mV~-35mV、-10mV~-30mV、-10mV~-25mV、-10mV~-20mV、-10mV~-15mV、-15mV~-65mV、-20mV~-65mV、-25mV~-65mV、-30mV~-65mV、-35mV~-65mV、-40mV~-65mV、-45mV~-65mV、-50mV~-65mV、-55mV~-65mV、-25mV~-50mV、-35mV~-45mV、少なくとも-10mV、少なくとも-25mV、少なくとも-35mV、少なくとも-45mV、少なくとも-55mV、およそ-30mV、または-30mV未満の平均ゼータ電位を有してよい。本明細書に記載の一部の実施形態では、ナノ粒子は、10mV~65mV、10mV~60mV、10mV~50mV、10mV~45mV、10mV~40mV、10mV~35mV、10mV~30mV、10mV~25mV、10mV~20mV、10mV~15mV、15mV~65mV、20mV~65mV、25mV~65mV、30mV~65mV、35mV~65mV、40mV~65mV、45mV~65mV、50mV~65mV、55mV~65mV、25mV~50mV、35mV~45mV、少なくとも10mV、少なくとも25mV、少なくとも35mV、少なくとも45mV、少なくとも55mV、およそ30mV、または30mV超の平均ゼータ電位を有してよい。
【0065】
一部の実施形態では、ナノ粒子を、含カテコール種またはガロタンニンをベースとする種で官能化して、イオン架橋の機械的かみ合い機序に追加され、それとは別個である組織化学的結合能を導入することができる。本明細書に記載の含カテコール種は、本開示の目的と相反しない、いずれの含カテコール種を含んでもよい。一部の場合では、アミノ基を含んでいるドーパミンや、多数(合計で25)のフェノール基を含んでいるタンニン酸などの含カテコール種を、イソシアネートと-NH/-OH間の反応(WPUについて)、または-COOHと-NH2/-OH間の反応(PEDまたはPEAについて)を介して、WPUまたはPEDに導入することができる。たとえば、一部の場合では、含カテコール種は、アルコール/アミン部分、カルボン酸部分、またはタンニン酸や他のタンニン分子などの自然由来化合物を含むものでよい。さらに、一部の例では、含カテコール種は、カテコール部分の一部でないヒドロキシル部分を含む。一部の実施形態では、含カテコール種は、ドーパミンを含む。他の実施形態では、含カテコール種は、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)またはD-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(D-DOPA)を含む。他の実施形態では、含カテコール種は、没食子酸またはカフェー酸を含む。一部の場合では、含カテコール種は、3,4-ジヒドロキシヒドロケイヒ酸を含む。一部の場合では、含カテコール種は、タンニン酸や他のタンニンなどの天然系化合物を含む。さらに、一部の実施形態では、含カテコール種は、WPUまたはPEDポリマーの主鎖に、尿素またはアミド結合を介して連結されている。他の実施形態では、含カテコール種は、ポリマーの主鎖に、ウレタンまたはエステル結合を介して連結されている。本明細書に記載の含カテコール種は、式(C)によって表すことができる。
【化3】
式中、Rは、OHとすることができ、R、R、R、およびRは、独立に、-H、-CH(CHYH、-CH(CHR)YH(Yは、-O-または-NH-であってよい)、または-CH(CHCOOHとすることができ、Rは、-COOHまたは-(CHCOOHとすることができ、
、R、R、およびRの1つまたは複数の基は、ポリマー鎖としてもよく、xは、0~10の範囲の整数であり、yは、0~10の範囲の整数である。
【0066】
本明細書に記載のガロタンニン種は、本開示の目的と相反しない、いずれのガロタンニン種を含んでもよい。一部の場合では、ガロタンニンを、イソシアネートと-NH/-OH間の反応(WPUについて)、または-COOHと-NH2/-OH間の反応(PEDについて)を介して、WPUまたはPEDに導入することができる。ナノ粒子への組込みに適するガロタンニンの例としては、タンニン酸、没食子酸、フラボン、フロログルシノール、疑似タンニン、エラジタンニン、ピロガロール、エラグ酸、二没食子酸、アグリコン、グルコガリン、ジガロイルグルコース、トリガロイルグルコース、テトラガロイルグルコース、ペンタガロイルグルコース、ガロイルキナ酸、ジガロイルキナ酸、トリガロイルキナ酸、ガロイルシキミ酸、またはこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0067】
WPU合成において使用する含カテコールまたは含ガロタンニン分子は、ポリウレタン固形分の重量を基準として0重量%~20重量%、0重量%~15重量%、0重量%~10重量%、1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、18重量%、19重量%、20重量%、1重量%~10重量%、2重量%~10重量%、3重量%~10重量%、4重量%~10重量%、5重量%~10重量%、6重量%~10重量%、7重量%~10重量%、8重量%~10重量%、5重量%以下、または10重量%未満の範囲であってよい。PEDまたはPEA合成において使用する含カテコールまたはガロタンニン分子は、固形ポリマーの重量を基準として0重量%~70重量%、0重量%~60重量%、0重量%~50重量%、0重量%~40重量%、0重量%~30重量%、0重量%~20重量%、0重量%~10重量%、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、5重量%~25重量%、5重量%~20重量%、5重量%~15重量%、5重量%~10重量%、10重量%~30重量%、または20重量%~30重量%の範囲であってよい。
【0068】
図2Aについては、側鎖アルキンまたはアジド基を有するクリッカブル水性ポリウレタン(WPU)またはポリエステル分散体(PED)を生成するために、段階成長重合によって水性ポリマー主鎖に導入するのに適する、アルキンまたはアジド基を有する小分子クリッカブルジオールを作製するための例示的な方法を開示している。官能性WPUおよびPED(クエン酸系ポリマーを含む)合成において使用することができる非限定的な例となる官能性ジオールの概略の式を、以下で式D1~D9によって示す。
【化4】
式中、XおよびYは、独立に、-O-または-NH-であり、R、R、R、R、およびR10は、独立に、-CHまたは-CHCHであり、R11は、-Hまたは-CHである。
【0069】
WPU合成では、本明細書に記載の、官能基を有するジオールを、ポリウレタン固形分の重量を基準として0重量%~15重量%、0重量%~10重量%、0重量%~5重量%、2重量%~10重量%、2重量%~8重量%、2重量%~6重量%、2重量%~4重量%、5重量%~10重量%、10重量%以下、8重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の範囲で使用することができる。PED合成では、本明細書に記載の、官能基を有するジオールを、ポリエステル固形分の重量を基準として0重量%~40重量%、0重量%~30重量%、0重量%~20重量%、0重量%~10重量%、1重量%~20重量%、1重量%~15重量%、1重量%~10重量%、1重量%~5重量%、5重量%~25重量%、5重量%~20重量%、5重量%~15重量%、5重量%~10重量%、2重量%以下、4重量%以下、6重量%以下、8重量%以下、10重量%以下、12重量%以下、14重量%以下、16重量%以下、18重量%以下、または20重量%以下の範囲で使用することができる。
【0070】
図2Cについては、プロパルギル2,2-ビス(ヒドロキシルメチル)プロピオネートを一例として使用して、アルキン基を有するクリッカブルジオールの例示的な合成を示しているが、本明細書において記載するとおり、アルキン基を有するクリッカブルジオールは、この種だけに限定されず、本開示の目的と相反しない、いずれのアルキン基を有するクリッカブルジオールでもよい。たとえば、以下で実施例1において示すとおり、可能性のあるクリッカブルジオールおよびアルキン基が多様であることを示すために、アジド基を有する異なるクリッカブルジオールである2,2-ビス(アジドメチル)プロパン-1,3-ジオールを調製している。
【0071】
一部の実施形態では、接着剤組成物は、負または正に帯電したナノ粒子に対する対イオンとして働く一価または多価イオン塩を含んでよい。トリメチルアミン(TEA)、ジメチルアミノエタノール(DMAE)などの第三級アミン、無機塩基を使用して、WPU、PED、またはPAE上の側カルボキシル基を陰イオンに変えることができ、塩酸、酢酸などの酸を使用して、WPU、PED、またはPAE上の第三級アミン基を処理して陽イオンにすることができる。例となる対イオン塩は、以下式E1~E5によって表すことができ、一部の例では、これらそれぞれを使用して、WPU、PED、またはPAEポリマーをイオン化することができる。
【化5】
式中、Mは、NaまたはKである。
【0072】
本明細書に記載の対イオン分子は、WPUにおいて使用するとき、一般に、(モル当量として示される)イオン化しうる基を有するポリオールの量を上回らない。たとえば、WPU使用向けの本明細書に記載の対イオン分子は、ポリウレタン固形分の重量を基準として0.1重量%~5重量%、0.1重量%~4重量%、0.1重量%~3重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2重量%、0.1重量%~1重量%、0.2重量%~2.5重量%、0.3重量%~2.5重量%、0.4重量%~2.5重量%、0.5重量%~2.5重量%、0.6重量%~2.5重量%、0.7重量%~2.5重量%、0.8重量%~2.5重量%、0.9重量%~2.5重量%、または1重量%~2.5重量%の範囲で存在してよい。本明細書に記載の対イオン分子は、PEDまたはPAEにおいて使用するとき、一部の例では、(モル当量として示される)イオン化しうる基を有するポリオールまたはポリ酸の量を上回らなくてよい。他の例では、対イオン分子は、PEDにおいて使用するとき、イオン化しうる基を有するポリオールまたはポリ酸の量を時に上回ってもよい。一部の実施形態では、PEDにおいて使用する対イオン分子は、固形ポリエステルの重量を基準として1重量%~40重量%、1重量%~30重量%、1重量%~20重量%、1重量%~10重量%、1重量%以下、3重量%以下、5重量%以下、7重量%以下、9重量%以下、10重量%以下、12重量%以下、14重量%以下、16重量%以下、18重量%以下、または20重量%以下の範囲で存在する。
【0073】
WPUまたはPED水性分散体の固形分は、総組成物の55重量%まで、たとえば、総組成物の10重量%~55重量%、15重量%~50重量%、20重量%~45重量%、25重量%~45重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、10重量%~25重量%、または10重量%~20重量%であってよい。
【0074】
図6に示す一実施形態では、分岐ポリウレタンの末端イソシアネート(-NCO)基をドーパミン塩酸塩でキャップすることにより、正電荷を有するドーパミン修飾されたWPU(WPU-DP)が合成される。遊離した塩酸(HCl)は、(MDEA(式B5)によって導入された)ポリマー鎖上の第三級アミンと反応し、第四級アンモニウム塩酸塩を生成しうる。一部の場合では、得られたポリマーを水性にするのに、追加のHClは必要でない。WPU-DPの詳細な処方および合成プロセスは、実施例2に記載する。
【0075】
別の実施形態では、図7に示すとおり、オーク材や茶葉などの植物から得られるタンニンの特殊な形態であるタンニン酸(TA)が、-NCOとTA上のフェノール基間の反応を介してWPUに導入されて、負電荷を有するタンニン酸修飾されたWPY(WPU-TA)が生成される。TAは、得られたWPUを分岐ポリマーにするための分岐剤としても働く。WPU-TAの詳細な処方および合成プロセスは、実施例3に記載する。
【0076】
別の実施形態では、図8に示すとおり、アルキン基を有するクリッカブルジオール(合成プロセスは、図2Aに示す)が、正電荷を有するWPUに導入されて、WPU-Alが得られる。WPU-Alの詳細な処方および合成プロセスは、実施例4に記載する。
【0077】
さらに別の実施形態では、図9に示すとおり、アジド基を有するクリッカブルジオール(合成プロセスは、図2Dに示す)が、負電荷を有するWPUに導入されて、WPU-Nが得られる。WPU-Nの詳細な処方および合成プロセスは、実施例5に記載する。
【0078】
一部の例では、アルキン基を有する本明細書に記載のクリッカブルジオールが、負電荷を有するWPUに導入されて、WPU-Alが得られる場合もあり、アジド基を有するクリッカブルジオールが、正電荷を有するWPUに導入されて、WPU-Nが得られる場合もある。
【0079】
本明細書に記載のクリッカブルWPUは、WPUが、-COC≡CH(プロピオレート)基を有するクリッカブルジオールを有する場合など、組織化学反応性の能力を有し得る。一例として式D5を使用して、プロピオレート基を有するクリッカブルジオールを合成し(図10)、その後、WPUまたはWPUのいずれかに導入することができる(図11)。プロピオレート基を有するWPU(WPU-PL)の合成は、実施例6に記載する。
【0080】
図12に示す一実施形態では、クエン酸系ポリマーが、クエン酸からのカルボキシル基を-COO-イオンに変換する、または負電荷を有するシトレート分子もしくは本明細書に記載のジオールを導入することにより、水性または水溶性のポリマーに変換されることができる。本明細書に記載の合成において使用するクエン酸またはシトレートモノマーは、クエン酸、-OH基が修飾されているC1~C22アルコキシル化またはアルケノキシル化クエン酸、金属クエン酸一/三塩基性塩、NaやKなどの一価金属カチオンまたはCa2+やMg2+などの二価金属カチオンとのクエン酸塩でよい。シトレート分子の例示的な化学構造を、以下で式F1~F5として示す。
【化6】
【0081】
以前に記載したとおり、クエン酸系ポリマー合成において使用する負に帯電したジオールは、β-グリセロリン酸二ナトリウム塩(β-GP、B2)、BES(B3)、およびBESナトリウム塩(B4)を含む、式B2~B4に示したものの1つまたは複数であってよい。
【0082】
本明細書に記載の実施形態によるポリアクリレートエマルション(PAE)は、アクリル酸アルキルモノマー、アクリル酸(負電荷を有するPAE用)またはアリルアミン(正電荷を有するPAE用)、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートカリウム塩、またはイオン化しうる基を有する他のビニルモノマーを、官能基を有するビニルモノマーを用い/用いずに、フリーラジカル重合させることにより合成できる。一部の実施形態では、図13に示す合成スキームを使用してPAEを合成することができ、官能基(FG)は、アルキンやアジドなどのクリッカブル官能基、または本明細書に記載の他の官能基であってよい。
【0083】
適切なメタクリル酸アルキルは、本開示の目的と相反しない、いずれのメタクリル酸アルキルでもよい。非限定的な例として、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、またはメタクリル酸プロピル、メタクリル酸ラウリル、およびこれらの混合物が挙げられる。メタクリル酸アルキルは、ポリアクリレート固形分の重量を基準として20重量%~60重量%、25重量%~55重量%、30重量%~50重量%、35重量%~45重量%、32重量%~48重量%、34重量%~46重量%、36重量%~44重量%、38重量%~42重量%、30重量%~45重量%、30重量%~40重量%、30重量%~35重量%、35重量%~50重量%、または40重量%~50重量%の範囲の量でPAE合成において使用することができる。
【0084】
適切なアクリル酸アルキルは、本開示の目的と相反しない、いずれのアクリル酸アルキルでもよい。非限定的な例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、およびアクリル酸エチルヘキシル、ならびにこれらの混合物が挙げられる。一部の場合では、アクリル酸アルキルは、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、またはこれらの組合せである。PAE合成において使用するアクリル酸アルキルは、ポリアクリレート固形分の重量を基準として20重量%~65重量%、25重量%~60重量%、30重量%~55重量%、35重量%~50重量%、40重量%~45重量%、20重量%~60重量%、20重量%~55重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、20重量%~30重量%、20重量%~25重量%、25重量%~65重量%、30重量%~65重量%、35重量%~65重量%、40重量%~65重量%、45重量%~65重量%、50重量%~65重量%、または55重量%~65重量%であってよい。
【0085】
アクリル酸/メタクリル酸(負電荷を有するPAE用)またはアリルアミン(正電荷を有するPAE用)は、総ポリアクリレート固形分の重量を基準として1重量%~5重量%、2重量%~5重量%、3重量%~5重量%、1重量%~4重量%、1重量%~3重量%、または2重量%~4重量%の範囲でPAE合成において使用することができる。
【0086】
本明細書に記載の一部の実施形態では、帯電性基を有する官能基ビニルモノマーは、金属スルホン酸塩または金属リン酸塩、たとえば、p-スチレンスルホン酸塩ナトリウムを有するビニルモノマーでよい。
【0087】
概略の式G1~G6を有する種々の官能基ビニルモノマーも、本明細書に記載の一部の実施形態において使用することができ、
【化7】
14、R15、R16、R17、およびR18は、独立に、HまたはCHであり、a=2または3である。
【0088】
官能基を含んだビニルモノマーは、総ポリアクリレート固形分の重量を基準として約1重量%~25重量%、2重量%~20重量%、3重量%~15重量%、4重量%~15重量%、5重量%~15重量%、6重量%~15重量%、7重量%~15重量%、8重量%~15重量%、9重量%~15重量%、10重量%~15重量%、または15重量%以下でPAE合成において使用することができる。
【0089】
ポリアクリレート粒子の水性分散体は、総組成物の65重量%まで、たとえば、総組成物の1重量%~65重量%、5重量%~65重量%、10重量%~65重量%、15重量%~65重量%、20重量%~65重量%、25重量%~65重量%、30重量%~65重量%、35~55重量%、40重量%~50重量%、1重量%~10重量%、10重量%~20重量%、20重量%~30重量%、40重量%~50重量%、または50重量%~60重量%の固形分を有してよい。
【0090】
本明細書に記載の接着剤組成物は、低い動的粘度を備えうる。低い動的粘度は、一部の場合では、ナノ粒子が、粗い物質表面に浸透して、溶媒蒸発と同時に粒子合一または相互拡散を経て機械的にかみ合った粒子を形成しうる能力を向上させることがある。本明細書において以前に記載したとおり、ナノ粒子の集団を、互いに混合し、合一させ、拡散させると、共有結合を伴うまたは伴わないイオン性相互作用によって、接着剤組成物が適用される表面に機械的にかみ合う高分子皮膜を生じさせることができる。一部の実施形態では、接着剤組成物は、10,000cP以下、9,000cP以下、8000cP以下、7000cP以下、6000cP以下、5000cP以下、4000cP以下、3000cP以下、2000cP以下、1000cP~10,000cP、1000cP~9,000cP、1000cP~8,000cP、1000cP~7,000cP、1000cP~6,000cP、1000cP~5,000cP、1000cP~4,000cP、1000cP~3,000cP、1000cP~2,000cP、2,000cP~10,000cP、3,000cP~10,000cP、4,000cP~10,000cP、5,000cP~10,000cP、6,000cP~10,000cP、7,000cP~10,000cP、8,000cP~10,000cP、9,000cP~10,000cP、2,000cP~8,000cP、または4,000cP~6,000cPの間の動的粘度を有する。
【0091】
帯電したナノ粒子または共有結合架橋剤を生成するための種々の実施形態において、異なる官能基についてここまで述べてきたが、官能基は、こうした実施形態だけに限定されない。本明細書に記載の一部の実施形態では、官能基は、治療効果または機序を有してよく、ナノ粒子上で単独の官能基として使用することもでき、または本明細書に記載の他の官能基のいずれかと組み合わせて使用することもできる。一部の例では、本明細書に記載のナノ粒子が、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗寄生生物剤、またはこれらのいずれかの組合せなどの抗微生物成分で官能化される場合がある。このような抗微生物成分を含めることで、接着剤組成物を組織に適用する場合、創傷治癒および殺菌において有益となりうる。一部の実施形態では、抗微生物成分が、ナノ粒子に連結されるのではなく組成物中の別の成分として、本明細書に記載の接着剤組成物に含められる場合もある。例となる抗菌剤には、アミノグリコシド、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、グリコペプチド、リンコサミド、リポペプチド、マクロライド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノン、ペニシリン、抗微生物性ポリペプチド(amp)、スルホンアミド、テトラサイクリン、またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。例となる抗ウイルス剤には、アダマンタン抗ウイルス剤、抗ウイルスブースター、抗ウイルス性インターフェロン、ケモカイン受容体拮抗薬、インテグラーゼストランド転移阻害薬、ノイラミニダーゼ阻害薬、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬、非構造タンパク質5a(ns5a)阻害薬、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、プリンヌクレオシド、またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。例となる抗真菌剤には、クロトリマゾール、硝酸エコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン、フルコナゾール、ケトコナゾール、アムホテリシン、またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。例となる寄生生物剤には、エフェニウム(ephenium)、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、ニクロサミド、ピペラジン、プラジカンテル、ピランテル、ピルビニウム、ベンゾイミダゾール、アルベンダゾール、フルベンダゾール、メベンダゾール、チアベンダゾール、またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。
【0092】
さらに、一部の場合では、ナノ粒子それ自体が、固有の抗微生物特性を有する場合もある。実施例11においてより詳細に記載するとおり、正(WPU)または負(WPU)電荷を有するWPUは、細菌の細胞膜を破壊するWPUナノ粒子の表面電荷によってもたらされると考えられる固有の抗微生物特性を有することがわかった。実施例11について、WPUおよびWPU両方の分散体が、グラム陽性およびグラム陰性の両方の細菌、すなわち、Staphylococcus aureus(S.aureus、ATCC番号6538)およびEscherichia coli(E.coli、ATCC番号8739)に対してある一定の抗微生物特性を示した。
【0093】
水性溶媒は、水を、単独の溶媒として、または他の水溶性溶媒、たとえば、低重量平均分子量アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、低重量平均分子量酸(酢酸など)、および/または低重量平均分子量窒素系溶媒(アセトニトリル、トリエチルアミンなど)との組合せとして含む。一部の実施形態では、水が組成物の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%を占める。
【0094】
加えて、特定の一条件が、表3には含まれないが、本明細書に記載の別の実施形態となる。すなわち、AB製剤の成分の一方が、他方の成分(たとえば、WPNDまたはポリマー溶液)を水から沈殿させうる塩溶液である場合もある。塩は、多価電荷を有するイオン、たとえば、金属イオンではMg2+、Ca2+、Fe3+、負電荷イオンではリン酸イオンやトリポリリン酸イオンを有していてよい。塩濃度は、総組成物の0.01重量%~5重量%の範囲であってよい。一部の例では、塩濃度は、総組成物の0.1重量%~2重量%の範囲であってよい。
【0095】
I(b).ポリマーをベースとする接着剤組成物
別の態様では、本明細書に記載の接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第1の水性ポリマーの集団を含む。一部の好ましい実施形態では、接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団を含み、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とは異なる。第1および第2の水性ポリマーの集団は、一部の場合では、ポリマー鎖上に正または負電荷を有する水性(水溶性)ポリマーであってよい。第1および第2の水性ポリマーは、正または負電荷を有する天然系または合成ポリマーであってよい。第1の水性ポリマーは、一部の例では、第2の水性ポリマーと同じタイプの材料からなってよい。他の場合では、第1の水性ポリマーは、第2の水性ポリマーとは異なる材料からなってよい。
【0096】
一部の例では、本明細書に記載の水性ポリマーは、負または正の電荷を含み、ナノ粒子について本明細書で以前に記載したAB製剤と同様のAB製剤をなす場合がある。たとえば、本明細書に記載の一部の実施形態では、成分Aが、正電荷などの第1の電荷を有する第1の水性ポリマー(たとえばA)であってよく、成分Bが、負電荷などの第1の電荷とは異なる第2の電荷を有する第2の水性ポリマー(たとえばB)であってよい。しかし、以前に論じたとおり、成分AおよびBに割り当てられる特定の電荷は、AおよびBそれぞれの成分が他の成分と逆の電荷を有する限り、AやAなど、どちらの電荷であってもよい。本明細書に記載の一部の実施形態では、成分Aを含む第1の水性ポリマーと成分Bを含む第2の水性ポリマーは、帯電した官能基だけが異なる、同じクラス(材料組成)の水性ポリマーである。他の実施形態で第1は、の水性ポリマー成分Aと第2の水性ポリマー成分Bは、逆の電荷を有する異なるクラス(材料組成)の水性ポリマーからなる。
【0097】
以前に論じたナノ粒子と同様に、第1の水性ポリマーと第2の水性ポリマーが混ぜ合わされたとき、ポリマー間にイオン架橋が形成されるように、第1の水性ポリマーが、第2の水性ポリマーの電荷と逆の電荷を有するであろう。図1に示すとおり、本明細書に記載の接着剤組成物が組織表面に適用されると、第1および第2の水性ポリマー組成物は、組織の表面に嵌入および凝集し、イオン架橋機序によって、機械的にかみ合う構造を形成しうる。
【0098】
第1および第2の水性ポリマーの電荷は、本開示の目的と相反しないいずれの方法で取得されてもよい。図3に、負および正に帯電した第1および第2の水性ポリマーの例示的な変形形態を示しており、円形のアイコンは、上で第I節(a)において論じたナノ粒子をベースとするAおよびB成分を表し、曲がりくねった線は、本節において論じている水性ポリマーをベースとするAおよびB成分を表す。一部の実施形態では、電荷は、第I節(a)において記載したいずれかの方法で、第1および第2のポリマー性AおよびB成分に導入することができる。
【0099】
図3に関して、正電荷を有する本明細書に記載の水性ポリマーは、一部の実施形態では、キトサン、ポリ(L-リシン)(PLL)、ε-ポリリシン(ε-PL)、ポリエチレンイミン(PEI)、またはポリアリルアミン(PAA)を含んでよい。AB製剤の一つの成分として使用する、正電荷を有する水性ポリマー溶液の濃度は、総組成物の0.1重量%~50重量%、1重量%~50重量%、5重量%~50重量%、10重量%~50重量%、15重量%~50重量%、20重量%~50重量%、25重量%~50重量%、30重量%~50重量%、35重量%~50重量%、40重量%~50重量%、5重量%~40重量%、10重量%~30重量%、15重量%~25重量%、または10重量%~20重量%の範囲にある。
【0100】
一部の実施形態では、本明細書に記載の水性ポリマーは、1,000~5,000Da(1k~5k)、5,000~200,000Da(5k~200k)、5k~150k、5k~125k、5k~100k、5k~90k、5k~80k、5k~70k、5k~60k、5k~50k、5k~40k、5k~30k、5k~20k、10k~100k、10k~75k、10k~50k、10k~25k、20k~150k、30k~150k、40k~150k、50k~150k、60k~150k、70k~150k、80k~150k、90k~150k、100k~150k、100k~200k、または200k~400kの重量平均分子量を含んでよい。
【0101】
再び図3に関して、負電荷を有する水性ポリマーは、イオン化されたクエン酸系ポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルキトサン(CMCS)、カルボキシメチルデンプン(CMS)、アルギン酸ナトリウム(SA)、コンドロイチン硫酸、スクシニルゼラチン(SG)であってよい。AB製剤の一つの成分として使用する、負電荷を有する水性ポリマー溶液の濃度は、総組成物の0.1重量%~50重量%、1重量%~50重量%、5重量%~50重量%、10重量%~50重量%、15重量%~50重量%、20重量%~50重量%、25重量%~50重量%、30重量%~50重量%、35重量%~50重量%、40重量%~50重量%、5重量%~40重量%、10重量%~30重量%、15重量%~25重量%、または10重量%~20重量%の範囲にある。
【0102】
一部の実施形態では、イオン化されたクエン酸系ポリマーは、800~6kDa、800~5kDa、800~4kDa、800~3kDa、800~2kDa、800~1.5kDa、800~1kDa、1k~6kDa、1.5k~6kDa、2k~6kDa、3k~6kDa、4k~6kDa、または5k~6kDaの重量平均分子量を有してよい。一部の実施形態では、CMC、CMCS、CMS、SA、SG、コンドロイチン硫酸などの天然ポリマーは、50k~400kDa、50k~200kDa、100k~200kDa、200k~300kDa、少なくとも50kDa、少なくとも100kDa、少なくとも150kDa、少なくとも200kDa、少なくとも250kDa、少なくとも300kDa、少なくとも350kDa、少なくとも400kDa、または400kDa超の重量平均分子量を有してよい。
【0103】
クリッカブル官能基(アルキン、アジド、-COC≡CH)、二重結合(アリル、-COCR=CH、R=HまたはCH)、-Si-Hなどの官能基を、上で第I節(a)において以前に記載したいずれかの方法で、正または負に帯電した水性ポリマーに導入してもよい。種々の官能基の例示的な一覧も、図3に記載している。こうした官能基の重量百分率は、本開示の目的と相反しないいずれの範囲としてもよい。例となる範囲には、総組成物の0重量%~20重量%、0重量%~18重量%、0重量%~16重量%、0重量%~14重量%、0重量%~12重量%、0重量%~10重量%、0重量%~8重量%、0重量%~6重量%、0重量%~4重量%、1重量%~20重量%、2重量%~20重量%、4重量%~20重量%、6重量%~20重量%、8重量%~20重量%、10重量%~20重量%、12重量%~20重量%、14重量%~20重量%、16重量%~20重量%、18重量%~20重量%がある。
【0104】
本明細書に記載の一部の実施形態では、本明細書に記載の第1の水性ポリマーと第2の水性ポリマー上の官能基は、第I節(a)において上述したのと同様または同一の方法で、対形成可能にすることができる。すなわち、「対形成可能」とは、第1の水性ポリマーと第2の水性ポリマー上の異なる官能基が、互いに反応しうる(一部の例では、組成物内での可能性のある他の反応に比べて選択的または優先的に反応して、共有またはイオン結合を形成することを含む)もしくは少なくとも互いに適合する、または互いの反応に影響を及ぼさないことを意味する。
【0105】
本明細書に記載のAB製剤における両方の成分が、官能基あり/なしの、逆の電荷を有する水溶性ポリマー溶液であるとき、成分AとBを合わせた水性ポリマー濃度は、総組成物の1重量%~100重量%、1重量%~90重量%、1重量%~80重量%、1重量%~70重量%、1重量%~60重量%、1重量%~50重量%、1重量%~40重量%、1重量%~30重量%、1重量%~20重量%、1重量%~10重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、10重量%~25重量%、10重量%~20重量%、15重量%~50重量%、20重量%~50重量%、25重量%~50重量%、30重量%~50重量%、35重量%~50重量%、または40重量%~50重量%の範囲であってよい。
【0106】
一部の実施形態では、接着剤組成物は、負または正に帯電したナノ粒子に対する対イオンとして働く一価または多価イオン塩を含んでよく、例示的なそうした対イオン塩は、第I節(a)における式E1~E5で表され、一部の例では、そのそれぞれを、本明細書に記載の水性ポリマーをイオン化させるのに使用することができる。水性ポリマーの水性分散体の固形分は、総組成物の55重量%まで、たとえば、総組成物の10重量%~55重量%、15重量%~50重量%、20重量%~45重量%、25重量%~45重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、10重量%~25重量%、または10重量%~20重量%であってよい。
【0107】
本明細書に記載の水性ポリマーを含んだ接着剤組成物は、第I節(a)において記載した低い動的粘度などの、低い動的粘度を備えうる。
【0108】
一部の例では、本明細書に記載の水性ポリマーが、第I節(a)において記載した、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗寄生生物剤、またはこれらの組合せなどの抗微生物成分で官能化されてよく、または水性ポリマーを含む本明細書に記載の組成物が、水性ポリマーに結合していない抗微生物成分を含んでよい。
【0109】
水性溶媒は、水を、単独の溶媒として、または他の水溶性溶媒、たとえば、低重量平均分子量アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、低重量平均分子量酸(酢酸など)、および/または低重量平均分子量窒素系溶媒(アセトニトリル、トリエチルアミンなど)との組合せとして含む。一部の実施形態では、水が、総組成物の10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、または80重量%を占める。
【0110】
加えて、特定の一条件が、表3には含まれないが、本明細書に記載の別の実施形態となる。すなわち、AB製剤の成分の一方が、他方の成分(WPNDまたはポリマー溶液など)を水から沈殿させうる塩溶液である場合もある。塩は、多価電荷を有するイオン、たとえば、金属イオンではMg2+、Ca2+、Fe3+、負電荷イオンではリン酸イオンやトリポリリン酸イオンを有していてよい。存在するとき、塩濃度は、0.01%~5%の範囲であってよい。一部の例では、塩濃度は、0.1%~2%であってよい。
【0111】
図14は、カルシウムイオンを有する水性iCMBA(iCMBA-Ca2+)の例示的な合成を示す。クエン酸(CA)、ポリ(エチレングリコール)-ポリ(プロピレングリコール)-ポリ(エチレングリコール)(PEG-PPG-PEG)ジオール、およびドーパミンを重縮合させた後、炭酸カルシウム(CaCO)で処理することにより、iCMBA-EPE-Ca2+(PEG-PPG-PEGジオールが使用されているiCMBA-Ca2+)が合成された。この合成についての詳細な方法は、実施例7において見ることができる。
【0112】
I(c).多成分接着剤組成物
別の態様では、本明細書に記載の接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団と、水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団とを含み、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とはタイプが異なる。第1および第2のナノ粒子は、第I節(a)において記載した構造を有してよい。たとえば、図3に示されるとおり、第1のナノ粒子は、WPU、PED、PAEなどのWPNDであってよく、第2のナノ粒子は、異なるWPNDであってよい。一例として、一部の場合では、第1のナノ粒子がWPUであるとき、第2のナノ粒子は、PEDまたはPAEであってよく、第1のナノ粒子がPEDであるとき、第2のナノ粒子は、WPUまたはPAEであってよい、等である。
【0113】
第1と第2のナノ粒子は、第1と第2のナノ粒子がイオン架橋を有することができるように、逆の電荷を有してもよい。第1および第2のナノ粒子は、第I節(a)において上述したいずれの方法で帯電させてもよい。
【0114】
さらに、本明細書に記載の一部の実施形態では、第1と第2のナノ粒子は、対形成可能な官能基を有してよく、ここで、第1のナノ粒子上の官能基が、第2のナノ粒子上の官能基と対形成可能である。一部の実施形態では、第1のナノ粒子は、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基を有してよく、第2のナノ粒子は、第2のナノ粒子の外表面に付いている第2の官能基を有してよい。第2の官能基は、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基と選択的に反応性であってよく、第1のナノ粒子を第2のナノ粒子に架橋させる共有結合を形成しうる。
【0115】
たとえば、第1のナノ粒子は、アルキン基で官能化することができ、第2のナノ粒子は、アジド基で官能化することができる。第1のナノ粒子が、第2のナノ粒子と、これらの逆の電荷によってイオン架橋されるとき、アルキン基とアジド基が極めて近接することで、これらの間で「クリック」反応が開始され、ナノ粒子間に共有結合が形成される。したがって、第1と第2のナノ粒子は、イオン架橋と共有結合架橋の両方によって、機械的にかみ合う。
【0116】
加えて、第I節(a)において上述したとおり、第1および第2のナノ粒子を、カテコールやガロタンニンをベースとする部分などの組織結合性官能基で官能化することもできる。第1および第2のナノ粒子は、一部の実施形態では、組織結合性官能基を単独で有する場合もあり、または組織結合性官能基と対形成可能な官能基の組合せを有する場合もある。こうした例において、接着剤組成物は、ナノ粒子間のイオン架橋および共有結合架橋、ならびに粒子から組織への共有結合架橋を形成する。しかし、一部の例では、第1および第2のナノ粒子は、イオン架橋を形成するための逆の電荷を有するだけであり、いかなる官能基ももたない。
【0117】
別の態様では、第1および第2のナノ粒子と同様に、本明細書に記載の接着剤組成物は、水性溶媒中に分散した第1の水性ポリマーの集団と、水性溶媒中に分散した第2の水性ポリマーの集団とを含み、第2の水性ポリマーは、第1の水性ポリマーとは異なる。第1および第2の水性ポリマーは、電荷、対形成可能な官能基、組織結合性官能基、および第I節(a)において記載した他の特徴のいずれかを有する、第I節(b)において記載した構造を有してよい。
【0118】
第I節(b)に記載し、図3に示すとおり、第1の水性ポリマーは、iCBP、CMC、CMCS、CMS、SA、SGなどの水性ポリマーであってよく、第2の水性ポリマーは、異なる水性ポリマーであってよい。一例として、一部の場合では、第1の水性ポリマーがiCBPであるとき、第2の水性ポリマーは、CMC、CMCS、CMS、SA、またはSGであってよく、第1の水性ポリマーがSGであるとき、第2の水性ポリマーは、iCBP、CMC、CMCS、CMS、またはSAであってよい、等である。
【0119】
第1および第2のナノ粒子と同様に、第1および第2の水性ポリマーも、第1と第2の水性ポリマーがイオン架橋を形成しうるように逆の電荷を有してよく、その結果、第1と第2の水性ポリマーは、イオン架橋を形成しうる。第1および第2の水性ポリマーは、第I節(a)および第I節(b)において上述したいずれの方法で帯電させてもよい。
【0120】
加えて、本明細書に記載の一部の実施形態では、第1および第2の水性ポリマーは、第1および第2のナノ粒子について上述したような対形成可能な官能基を有してよく、第1の水性ポリマー上の官能基は、第2の水性ポリマー上の官能基と対形成可能である。
【0121】
加えて、第1および第2の水性ポリマーは、一部の実施形態では、第I節(a)および第I節(b)において上述したとおり、カテコールやガロタンニンをベースとする部分などの組織結合性官能基で官能化することができる。
【0122】
最後に、別の態様では、本明細書に記載の接着剤組成物が、水性溶媒中に分散した第I節(a)によるナノ粒子の集団と、水性溶媒中に分散した第I節(b)による水性ポリマーの集団の組合せを含んでよい。ナノ粒子と水性ポリマーは両方とも、帯電していてよく、ナノ粒子は、水性ポリマーの電荷と逆の電荷を有してよい。合わさると、ナノ粒子と水性ポリマーは、イオン架橋されてよい。
【0123】
本明細書に記載の一部の実施形態では、ナノ粒子および水性ポリマーは、対形成可能な官能基を有してよく、ナノ粒子上の官能基が、水性ポリマー上の官能基と対形成可能である。それぞれのナノ粒子および水性ポリマーが、たとえばイオン架橋によって、極めて近接するとき、そうした対形成可能な基は、たとえば、第I節(a)および第I節(b)において記載したとおり、選択的に反応して、共有結合架橋を形成しうる。
【0124】
本明細書に記載の一部の実施形態では、ナノ粒子および水性ポリマーは、カテコールやガロタンニンをベースとする部分などの組織結合性官能基で官能化されてよい。一部の例では、ナノ粒子または水性ポリマーの一方だけが、組織結合性官能基で官能化される。他の例では、ナノ粒子と水性ポリマーの両方が、組織結合性官能基で官能化される。一部の場合では、ナノ粒子は、あるタイプの組織結合性官能基で官能化され、水性ポリマーは、異なるタイプの組織結合性官能基で官能化される。
【0125】
上記接着剤組成物について、2種の別々の成分に関して記載しているが、接着剤組成物は、2種の別々の成分だけに限定されない。一部の実施形態では、本明細書に記載の接着剤組成物が、1種、2種、3種、4種、5種、6種、またはより多くの別々の成分を有してよい。たとえば、本明細書に記載の接着剤組成物は、相補的な電荷および官能基を有する、第1、第2、第3等のナノ粒子または水性ポリマーを有してよい。
【0126】
II.接着剤組成物の使用方法
別の態様において、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の使用方法を記載する。一部の実施形態では、生体材料を接着する方法が、第I節(a)~第I節(c)に記載のいずれかの接着剤組成物を、第1の生体材料の第1の表面と第2の生体材料の第2の表面の間に配置することを含む。
【0127】
配置された組成物によって、第1の生体材料の第1の表面が、第2の生体材料の第2の表面に接着される。
【0128】
一部の実施形態では、イオン架橋、共有結合架橋、または両方によって、第I節(a)のナノ粒子がそれ自体に架橋される。一部の実施形態では、イオン架橋、共有結合架橋、または両方によって、第I節(b)の水性ポリマーがそれ自体に架橋される。
【0129】
一部の実施形態では、イオン架橋、共有結合架橋、または両方によって、第I節(a)の第1のナノ粒子が第I節(a)の第2のナノ粒子に架橋され、または第I節(b)の第1のポリマーが第I節(b)の第2のポリマーに架橋される。一部の場合では、イオン架橋、共有結合架橋、または両方によって、第I節(a)のナノ粒子が第I節(b)の水性ポリマーに架橋される。
【0130】
一部の例では、生体材料を接着する方法は、組織接着性官能基を使用して、第I節(a)~第I節(c)に記載のいずれかの接着剤組成物の間に架橋を形成することを含む。
【0131】
図15は、図3に示す官能基の異なる組合せを使用して実現可能である、種々のイオン架橋、組織機械的かみ合い、および組織化学的結合の組合せを示す表である。
【0132】
組成物を第1の表面と第2の表面の間または開口領域に配置するステップは、一部の場合では、組成物を単一注射器から注射することにより実施されてよい。他の場合では、組成物を第1の表面と第2の表面の間、または開口領域に配置するステップは、組成物の第1の部分を第1の注射器から注射し、組成物の第2の部分を第2の注射器から注射することにより実施されてよい。組成物の第1および第2の部分は、同時にまたは順次注射されてよい。
【0133】
一部の実施形態では、組成物を第1の表面と第2の表面の間に配置するステップは、組成物の第1の部分を第1の生体材料の第1の表面に配置し、組成物の第2の部分を第2の生体材料の第2の表面に配置した後、第1と第2の表面を互いに接触させることにより実施されてよい。
【0134】
生体材料が接着剤組成物と接着される場合、本明細書に記載の接着剤組成物は、第1の表面と第2の表面間に、または開口領域一面に水密シールを形成しうる。
【0135】
一部の実施形態では、腹壁形成を行う方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物を、腹部組織の第1の層の第1の表面と腹部組織の第2の層の第2の表面の間に配置することを含み、組成物によって、第1の腹部組織の第1の表面が、腹部組織の第2の層の第2の表面に接着される。
【0136】
一部の実施形態では、乳房切除を行う方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の組成物を、乳房組織の第1の層の第1の表面と乳房組織の第2の層の第2の表面の間に配置することを含み、組成物によって、第1の乳房組織の第1の表面が、乳房組織の第2の層の第2の表面に接着される。
【0137】
一部の実施形態では、生体材料をインプラントに接着する方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の組成物を、第1の生体材料の第1の表面または第1の医療インプラントの第1の表面と、第2の医療インプラントの第2の表面または第2の生体材料の第2の表面の間に、それぞれ配置することを含み、組成物によって、第1の表面が第2の表面に接着される。
【0138】
一部の実施形態では、皮膚疾患、障害、または状態を処置する方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の組成物を、それを必要とする患者の皮膚の表面に適用することを含む。
【0139】
一部の実施形態では、それを必要とする患者の皮膚創傷を手当てする方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の組成物を創傷に適用し、それによって、組成物から液体絆創膏を生成することを含む。
【0140】
一部の実施形態では、経蝶形骨洞漏出を処置する方法が、第I節(a)~第I節(c)の接着剤組成物の組成物を、経蝶形骨洞漏出に対応する頭蓋空間に配置することを含み、組成物によって、漏出の水密シールが形成される。
【0141】
一部の実施形態では、生体環境に治療的要素を送達する方法が、実施形態1~27いずれかの組成物を生体環境に配置することを含み、組成物は、組成物の水性溶媒中に分散した治療的要素をさらに含む。
【0142】
一部の実施形態では、それを必要とする患者の硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域をシールする方法が、実施形態1~27いずれかの組成物を硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域に配置することを含み、組成物によって、硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域の水密シールが形成される。
【0143】
本明細書に記載の接着剤組成物の種々の使用方法について、組織を土台とする適用例という観点から論じてきたが、接着剤組成物は、この分野だけに限定されず、薬物送達、交互吸着コーティング、創傷被覆材、植物種子コーティング、液体絆創膏、3Dプリンティング、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、および化粧品適用例においても使用することができる。
【0144】
III.化粧用接着剤
別の態様では、化粧用組成物が、水性溶媒と、水性溶媒中に分散した第I節(a)~第I節(c)のいずれかの接着剤組成物と、構造化剤、ゲル化剤、粉末、充填剤、乳化剤、固形もしくは液状脂肪剤、またはこれらのいずれかの組合せの1種または複数を含む化粧用に許容される薬剤とを含み、第1のポリマーは、負または正に帯電しており、第1のポリマーは、粒状でも非粒状でもよい。
【0145】
構造化剤は、一般に、増粘する、または組成物の粘性を増大させる働きをし、一般に、蝋および蝋でないポリマーを含む。構造化剤の種々の例には、含ポリオルガノシロキサンポリマー、非シリコーンポリアミドコポリマー、蝋、およびこれらの混合物、または本開示の目的と相反しない他のいずれかの構造化剤が含まれる。含ポリオルガノシロキサンポリマーは、300~3×10の重量平均分子質量を有し、1~約15,000のオルガノシロキサン単位を含んでよい。非シリコーンポリアミドコポリマーには、エステルを末端とするポリアミド(ETPA)、第三級アミドを末端とするポリアミド(ATPA)、エステルを末端とするポリエステルアミド(ETPEA)、第三級アミドを末端とするポリエステルアミド(ATPEA)、ポリアルキレンオキシを末端とするポリアミド(PAOPA)、ポリエーテルポリアミド(PEPA)、または本開示の目的と相反しない他のいずれかのポリアミドが含まれる。蝋には、自然の動物、植物、もしくは鉱物を起源とするもの、たとえば、蜜蝋、カルナウバ蝋、カンデリラ蝋、オリキュリー蝋(ouricury wax)、木蝋、コルク繊維蝋、サトウキビ蝋、パラフィン蝋、亜炭蝋、微晶蝋、ラノリン蝋、モンタン蝋、オゾケライト、および水素添加油、たとえば、水素添加ホホバ油、ならびに合成起源の蝋、たとえば、エチレンの重合から得られるポリエチレン蝋、Fischer-Tropsch合成によって得られる蝋、脂肪酸エステルおよびグリセリド、シリコーン蝋、Codex食品規格において参照される蝋、またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。
【0146】
ゲル化剤は、ゲルが化学的網状化または物理的網状化によって形成される、高分子または鉱物系である親水性または疎水性いずれかのゲル化剤であってよい。例となる疎水性ゲル化剤には、改質粘土、もしくはヒュームドシリカなどの鉱物増粘剤、または本開示の目的と相反しない他のいずれかの疎水性ゲル化剤が含まれる。例となる親水性ゲル化剤には、多糖およびガム、デンプンやセルロースなどの多糖樹脂およびその誘導体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリル酸およびアクリレート、疎水性に改質されたアクリレート、ポリアクリルアミド、もしくはこれらのいずれかの組合せ、または本開示の目的と相反しない他のいずれかの親水性ゲル化剤が含まれる。
【0147】
固形または液状脂肪剤は、揮発性または不揮発性油、たとえば、酸素、窒素、硫黄、および/またはリン原子を場合により含んでもよい直鎖または分岐炭化水素系油、シリコーン油、およびフルオロ油であってよい。炭化水素系油の例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、鯨油酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、パラフィン、石油ゼリー、ポリデセン、水素添加ポリイソブテン、植物起源の飽和もしくは不飽和脂肪酸、またはこれらのいずれかの組合せ、または本開示の目的と相反しない他のいずれかの脂肪剤が挙げられる。また、合成エステルおよびエーテル、たとえば、プルセリン(purcellin)油、パルミチン酸オクチル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ステアリン酸2-オクチルドデシル、エルカ酸2-オクチルドデシル、イソステアリン酸イソステアリル;ヒドロキシル化エステル、たとえば、乳酸イソステアリル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、ヒドロキシステアリン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、クエン酸もしくはヘプタン酸トリイソセチル、脂肪アルコールのオクタン酸エステルもしくはデカン酸エステル、ポリオールエステル、ペンタエリトリトールエステル、安息香酸C10-C17アルキル、またはこれらのいずれかの組合せ、または本開示の目的と相反しない他のいずれかの合成エステルもしくはエーテルも挙げられる。
【0148】
シリコーン油は、一般に、炭素原子が1~10個であるアルキルもしくはアルコキシ基を有するオルガノシリコーン油、たとえば、ジメチコン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘプタメチルヘキシルトリシロキサン、ヘプタメチルオクチルトリシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、もしくはこれらの混合物、または本開示の目的と相反しない他のいずれかのシリコーン油を含む。
【0149】
例となるフルオロ油には、ノナフルオロメトキシブタン、ペルフルオロメチルシクロペンタン、これらの組合せ、または本開示の目的と相反しない他のいずれかのフルオロ油が含まれる。
【0150】
乳化剤は、非イオン性両親媒性脂質またはアニオン性両親媒性脂質のいずれかであってよい。非イオン性両親媒性脂質は、シリコーン界面活性剤、50℃までの流動脂質(lipids fluid)、脂肪酸とグリセロールアルコールの混合エステル、脂肪酸エステル、および糖のエステル、または本開示の目的と相反しない他の非イオン性両親媒性脂質でよい。
【0151】
アニオン性両親媒性脂質は、アルキルエーテルシトレート、アルコキシル化アルケニルスクシネート、アルコキシル化グルコースアルケニルスクシネート、アルコキシル化メチルグルコースアルケニルスクシネート、または本開示の目的と相反しない他のいずれかのアニオン性両親媒性脂質でよい。
【0152】
一部の実施形態では、化粧用に許容される薬剤は、着色剤、顔料、光防護剤、二次皮膜形成剤、化粧活性薬剤、もしくは化粧用アジュバント、またはこれらのいずれかの組合せをさらに含む。着色剤および顔料は、本開示の目的と相反しない、当業者に知られているいずれの着色剤または顔料でもよい。光防護剤は、一般の日焼け止めに使用されるものなどの、紫外線を遮断する薬剤でよい。化粧活性薬剤には、抗炎症剤や抗生物質などの治療剤、ビタミン、ステロイド、抽出物、酵素、精油、または角質性組織に対して治療効果を有する他の薬剤が含まれうる。化粧用アジュバントは、緩和剤、保湿剤、繊維、保存剤、キレート化剤、香粧品香料、中和剤、またはこれらのいずれかの組合せであってよい。
【0153】
角質性組織とは、本明細書では、毛髪や皮膚、またはケラチンを有する他の組織などの、ケラチンを含んだ組織であると定義される。
【0154】
粉末および充填剤は、ポリアミド粒子、ナイロン繊維、ポリエチレン粉末、アクリルコポリマーをベースとする微小球、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂粒子、尿素-ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子、エチレン-アクリレートコポリマー粉末、エクスパンデッドパウダー、デンプン粉末、およびシリコーン樹脂マイクロビードであってよい。
【0155】
一部の実施形態では、化粧用組成物および接着性化粧用組成物は、非圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、化粧ペースト、マスカラ、リップスティック、リップグロス、リップバーム、ネイルエナメル、または化粧クリームの形態であってよい。
【0156】
IV.化粧用接着剤の使用方法
別の態様では、角質性組織用の化粧用組成物の調製方法が、第III節に記載の化粧用組成物の製剤化を含む。
【0157】
一部の実施形態では、化粧用組成物を角質性組織に接着する方法が、第III節に記載の化粧用組成物を1つまたは複数の角質性組織表面に配置することを含む。
【0158】
別の実施形態では、睫毛エクステンション毛をヒト対象に接着する方法が、睫毛エクステンション毛を、第III節に記載の化粧用組成物を使用して、ヒト対象の既存の睫毛または他の角質性組織に適用および接着することを含む。
【0159】
一部の実施形態では、睫毛エクステンション毛をヒト対象に接着する方法が、第III節に記載の化粧用組成物を睫毛エクステンション毛に適用し、睫毛エクステンション毛をヒト対象の角質性組織に付着させることを含む。
【0160】
別の態様では、ネイルエナメル組成物が、第III節に記載の化粧用組成物を含む。ネイルエナメル組成物は、一部の場合では、当業者に知られている硬化剤をさらに含んでよい。
【0161】
別の態様では、手指の爪または足指の爪表面にネイルエナメルコーティングを生成する方法が、第III節に記載の化粧用組成物を手指の爪または足指の爪表面に適用することと、適用された組成物を硬化させることとを含む。
【0162】
一部の実施形態では、手指の爪または足指の爪表面にネイルエナメルコーティングを機械的および化学的に付着させる方法が、第III節に記載の化粧用組成物を手指の爪または足指の爪表面に適用し、適用された組成物を硬化させることを含む。
【0163】
別の態様では、液状化粧用組成物が、第III節に記載の化粧用組成物を含み、組成物が角質性組織に適用され、角質性組織上で乾燥した後、液状化粧用組成物は、1.3~1.8の屈折率を有する。
【0164】
別の態様では、化粧用組成物の使用方法が、第III節に記載の化粧用組成物を人間の角質性組織に適用して、角質性組織上で皮膜を形成させることを含む。適用された皮膜は、通気性を有し得る。一部の実施形態では、適用された皮膜は、角質性組織上にてその場(in situ)で形成される。皮膜のその場(in situ)での形成は、室温、室温より高い温度、または室温より低い温度で起こる場合がある。適用された皮膜は、弾性、柔軟性、透湿性、酸素透過性、またはこれらのいずれかの組合せを有してよい。
【0165】
V.選択された実施形態
上記および添付の特許請求の範囲によって、本発明のいくつかの実施形態が開示されるが、以下のさらなる実施形態において、本発明の他の代替態様が開示される。
【0166】
実施形態1. 水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団と
を含み、
第1のナノ粒子は、負または正に帯電しており、
第1のナノ粒子は、1nm~1000nmの三寸法平均サイズを有する、接着剤組成物。
【0167】
実施形態2. ナノ粒子が、球形または実質的に球形である、実施形態1の組成物。
【0168】
実施形態3. 第1のナノ粒子の集団が、-30mV未満または30mV超の平均ゼータ電位を有する、実施形態1の組成物。
【0169】
実施形態4. 第1のナノ粒子がポリマーから生成されている、実施形態1の組成物。
【0170】
実施形態5. 第1のナノ粒子が、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成されている、実施形態4の組成物。
【0171】
実施形態6. 第1のナノ粒子が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基を有する、実施形態1の組成物。
【0172】
実施形態7. 第1の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基である、実施形態6の組成物。
【0173】
実施形態8. クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、実施形態7の組成物。
【0174】
実施形態9. エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、実施形態7の組成物。
【0175】
実施形態10. 水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した第1のポリマーと
を含み、
第1のポリマーが負または正に帯電しており、
第1のポリマーが非粒状である、接着剤組成物。
【0176】
実施形態11. 第1のポリマーが、第1のポリマーの側基(pendant group)として付いている第1の官能基を有する、実施形態10の組成物。
【0177】
実施形態12. 第1の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基である、実施形態11の組成物。
【0178】
実施形態13. クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、実施形態12の組成物。
【0179】
実施形態14. エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、実施形態12の組成物。
【0180】
実施形態15. 水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団をさらに含み、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とは異なる、実施形態1の組成物。
【0181】
実施形態16. 第2のナノ粒子が、第1のナノ粒子に対して逆に帯電している、実施形態15の組成物。
【0182】
実施形態17. 水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団をさらに含み、第2のナノ粒子は、第1のポリマーに対して逆に帯電している、実施形態10の組成物。
【0183】
実施形態18. 水性溶媒中に分散した第2のポリマーをさらに含み、第2のポリマーは、非粒状であり、第1のナノ粒子に対して逆に帯電している、実施形態1の組成物。
【0184】
実施形態19. 水性溶媒中に分散した第2のポリマーをさらに含み、第2のポリマーは、非粒状であり、第2のポリマーは、第1のポリマーとは異なり、第2のポリマーは、第1のポリマーに対して逆に帯電している、実施形態10の組成物。
【0185】
実施形態20. 第2のナノ粒子がポリマーから形成されている、実施形態15または実施形態17の組成物。
【0186】
実施形態21. 第2のナノ粒子が、第2のナノ粒子の外表面に付いている第2の官能基を有する、実施形態15または実施形態17の組成物。
【0187】
実施形態22. 第2の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基である、実施形態21の組成物。
【0188】
実施形態23. 第2の官能基が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基と選択的に反応性である、実施形態21の組成物。
【0189】
実施形態24. 第2の官能基が、第1のポリマーに側基として付いている第1の官能基と選択的に反応性である、実施形態17の組成物。
【0190】
実施形態25. 多価イオン塩をさらに含む、前述の実施形態のいずれかの組成物。
【0191】
実施形態26. 組成物の固形分が、組成物の総重量を基準として固形分55重量%までである、前述の実施形態のいずれかの組成物。
【0192】
実施形態27. 10,000cP以下の動的粘度を有する、前述の実施形態のいずれかの組成物。
【0193】
実施形態28. 生体材料を接着する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、第1の生体材料の第1の表面と第2の生体材料の第2の表面の間に配置することを含み、
組成物によって、第1の生体材料の第1の表面が第2の生体材料の第2の表面に接着される、方法。
【0194】
実施形態29. 人体組織内の開口領域をシールまたは閉鎖する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を開口領域に配置することを含む方法。
【0195】
実施形態30. 組成物の第1のナノ粒子または第1のポリマーを架橋させることをさらに含む、
実施形態28または実施形態29の方法。
【0196】
実施形態31. 第1のナノ粒子がそれ自体に架橋される、または第1のポリマーがそれ自体に架橋される、実施形態30の方法。
【0197】
実施形態32. 組成物が第2のナノ粒子を含み、第1のナノ粒子が第2のナノ粒子に架橋される、または第1のポリマーが第2のナノ粒子に架橋される、実施形態30の方法。
【0198】
実施形態33. 組成物が第2のポリマーを含み、第1のナノ粒子が第2のポリマーに架橋される、または第1のポリマーが第2のポリマーに架橋される、実施形態30の方法。
【0199】
実施形態34. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間または開口領域への配置が、組成物を単一注射器から射することにより実施される、実施形態28または実施形態29の方法。
【0200】
実施形態35. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間または開口領域への配置が、組成物の第1の部分を第1の注射器から注射し、組成物の第2の部分を第2の注射器から注射することにより実施される、実施形態28または実施形態29の方法。
【0201】
実施形態36. 組成物の第1と第2の部分が同時に注射される、実施形態35の方法。
【0202】
実施形態37. 組成物の第1と第2の部分が順次注射される、実施形態35の方法。
【0203】
実施形態38. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間への配置が、組成物の第1の部分を第1の生体材料の第1の表面に配置し、組成物の第2の部分を第2の生体材料の第2の表面に配置した後、第1と第2の表面を互いに接触させることにより実施される、実施形態28の方法。
【0204】
実施形態39. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間への配置が、組成物の第1の部分および組成物の第2の部分を、第1の生体材料の第1の表面、または第2の生体材料の第2の表面に配置した後、第1と第2の表面を互いに接触させることにより実施される、実施形態28の方法。
【0205】
実施形態40. 組成物の第1の部分が、正もしくは負に帯電している第1のナノ粒子または正もしくは負に帯電している第1のポリマーを含み、組成物の第2の部分が、第1のナノ粒子または第1のポリマーに対して逆に帯電している第2のナノ粒子または第2のナノ粒子を含む、実施形態35~39のいずれか1つの方法。
【0206】
実施形態41. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間または開口領域への配置が、組成物をインプラントの1つまたは複数の表面に配置し、次いで、インプラントを第1の表面と第2の表面の間または開口領域に配置することにより実施される、実施形態28または実施形態29の方法。
【0207】
実施形態42. 組成物によって、第1の表面と第2の表面の間に水密シールが形成される、実施形態28の方法。
【0208】
実施形態43. 組成物によって、開口領域一面に水密シールが形成される、実施形態29の方法。
【0209】
実施形態44. 第1の表面および/または第2の表面が、骨を含む、または骨から形成されたものである、実施形態28の方法。
【0210】
実施形態45. 第1の表面および/または第2の表面が、軟部組織を含む、または軟部組織から形成されたものである、実施形態28の方法。
【0211】
実施形態46. 第1の表面が、骨を含む、または骨から形成されたものであり、第2の表面が、軟部組織を含む、または軟部組織から形成されたものである、実施形態28の方法。
【0212】
実施形態47. 体組織が、骨を含む、または骨から形成されたものである、実施形態29の方法。
【0213】
実施形態48. 体組織が、軟部組織を含む、または軟部組織から形成されたものである、実施形態28の方法。
【0214】
実施形態49. 体組織が、骨および軟部組織を含む、または骨および軟部組織から形成されたものである、実施形態28の方法。
【0215】
実施形態50. 腹壁形成を行う方法であって、
実施形態1~27いずれかの組成物を、腹部組織の第1の層の第1の表面と腹部組織の第2の層の第2の表面の間に配置することを含み、
組成物によって、第1の腹部組織の第1の表面が、腹部組織の第2の層の第2の表面に接着される、方法。
【0216】
実施形態51. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間への配置が、組成物をインプラントの1つまたは複数の表面に配置し、次いで、インプラントを第1の表面と第2の表面の間に配置することにより実施される、実施形態50の方法。
【0217】
実施形態52. 乳房切除を行う方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、乳房組織の第1の層の第1の表面と乳房組織の第2の層の第2の表面の間に配置することを含み、
組成物によって、第1の乳房組織の第1の表面が、乳房組織の第2の層の第2の表面に接着される、方法。
【0218】
実施形態53. 組成物の、第1の表面と第2の表面の間への配置が、組成物をインプラントの1つまたは複数の表面に配置し、次いで、インプラントを第1の表面と第2の表面の間に配置することにより実施される、実施形態52の方法。
【0219】
実施形態54. 生体材料をインプラントに接着する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、第1の生体材料の第1の表面または第1の医療インプラントの第1の表面と、第2の医療インプラントの第2の表面または第2の生体材料の第2の表面の間に、それぞれ配置することを含み、
組成物によって、第1の表面が第2の表面に接着される、方法。
【0220】
実施形態55. 生体材料をインプラントに接着する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、インプラントの1つまたは複数の表面に配置することと、
インプラントの1つまたは複数の表面を生体材料と接触させることと
を含む方法。
【0221】
実施形態56. インプラントが、外科用メッシュまたは足場である、実施形態54または実施形態55の方法。
【0222】
実施形態57. 皮膚疾患、障害、または状態を処置する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、それを必要とする患者の皮膚の表面に適用することを含む方法。
【0223】
実施形態58. それを必要とする患者の皮膚創傷を手当てする方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を創傷に適用し、それによって、組成物から液体絆創膏を形成することを含む方法。
【0224】
実施形態59. 経蝶形骨洞漏出を処置する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を、経蝶形骨洞漏出に対応する頭蓋空間に配置することを含み、
組成物によって、漏出の水密シールが形成される、方法。
【0225】
実施形態60. 生体環境に治療的要素を送達する方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を生体環境に配置することを含み、
組成物は、組成物の水性溶媒中に分散した治療的要素をさらに含む、方法。
【0226】
実施形態61. それを必要とする患者の硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域をシールする方法であって、
実施形態1~27のいずれかの組成物を硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域に配置することを含み、
組成物によって、硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域の水密シールが形成される、方法。
【0227】
実施形態62. 組成物が、単一の外科的手順において同時または実質的に同時に硬膜の開口領域および頭蓋骨の開口領域に配置される、実施形態61の方法。
【0228】
実施形態63. 組成物の開口領域への配置が、組成物の第1の部分を第1の注射器から注射し、組成物の第2の部分を第2の注射器から注射することにより実施される、実施形態61の方法。
【0229】
実施形態64. 組成物の第1と第2の部分が同時に注射される、実施形態63の方法。
【0230】
実施形態65. 組成物の第1の部分が、正もしくは負に帯電している第1のナノ粒子または正もしくは負に帯電している第1のポリマーを含み、組成物の第2の部分が、第1のナノ粒子または第1のポリマーに対して逆に帯電している第2のナノ粒子または第2のポリマーを含む、実施形態63の方法。
【0231】
実施形態66. 組成物の第1の部分および/または第2の部分が、治療有効量の追加の治療用材料をさらに含む、実施形態65の方法。
【0232】
実施形態67. 組成物の第2の部分が、ヒドロキシアパタイト粒子をさらに含む、実施形態66の方法。
【0233】
実施形態68. 組成物の第1の部分が、硬膜の開口領域を少なくとも部分的に満たし、組成物の第2の部分が、頭蓋骨の開口領域を少なくとも部分的に満たす、実施形態67の方法。
【0234】
実施形態69. 一方または両方の開口領域内の組成物を架橋させることをさらに含む、実施形態61~68のいずれかの方法。
【0235】
実施形態70. 生体環境に配置されたとき、固化の遅延または継続的な固化を示す生体接着剤を含む組成物。
【0236】
実施形態71. 固化の遅延が、組成物の内部架橋の程度が経時的に漸増し、かつ/または組成物と周囲生体環境の1つまたは複数の表面間の架橋が漸増するためである、実施形態70の組成物。
【0237】
実施形態72. 組成物の内部架橋の程度の経時的な漸増が、組成物中または至近にある架橋開始剤の濃度または利用可能度が漸増するためである、実施形態70の組成物。
【0238】
実施形態73. 架橋開始剤が、光開始剤またはクリック化学触媒を含む、実施形態72の組成物。
【0239】
実施形態74. 水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した第1のポリマーと、
構造化剤、
ゲル化剤、
粉末、
充填剤、
乳化剤、
固形もしくは液状脂肪剤、または
これらのいずれかの組合せ
の1種または複数を含む化粧用に許容される薬剤と
を含み、
第1のポリマーは、負または正に帯電しており、
第1のポリマーは、非粒状である、
化粧用組成物。
【0240】
実施形態75. 第1のポリマーが、第1のポリマーの側基として付いている第1の官能基を有する、実施形態74の化粧用組成物。
【0241】
実施形態76. 第1の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基である、実施形態75の化粧用組成物。
【0242】
実施形態77. クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、実施形態76の化粧用組成物。
【0243】
実施形態78. エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、実施形態76の化粧用組成物。
【0244】
実施形態79. 水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団をさらに含み、第2のナノ粒子は、第1のポリマーに対して逆に帯電している、実施形態74の化粧用組成物。
【0245】
実施形態80. 水性溶媒中に分散した第2のポリマーをさらに含み、第2のポリマーは、非粒状であり、第2のポリマーは、第1のポリマーとは異なり、第2のポリマーは、第1のポリマーに対して逆に帯電している、実施形態74の化粧用組成物。
【0246】
実施形態81. 水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団と、
構造化剤、
ゲル化剤、
粉末、
充填剤、
乳化剤、
固形もしくは液状脂肪剤、または
これらのいずれかの組合せ
の1種または複数を含む化粧用に許容される薬剤と
を含み、
第1のナノ粒子は、負または正に帯電しており、
第1のナノ粒子は、1nm~1000nmの三寸法平均サイズを有する、
接着性化粧用組成物。
【0247】
実施形態82. ナノ粒子が、球形または実質的に球形である、実施形態81の組成物。
【0248】
実施形態83. 第1のナノ粒子の集団が、-30mV未満または30mV超の平均ゼータ電位を有する、実施形態81の組成物。
【0249】
実施形態84. 第1のナノ粒子がポリマーから形成されている、実施形態81の組成物。
【0250】
実施形態85. 第1のナノ粒子が、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成されている、実施形態84の組成物。
【0251】
実施形態86. 第1のナノ粒子が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基を有する、実施形態81の組成物。
【0252】
実施形態87. 第1の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシラン基である、実施形態86の組成物。
【0253】
実施形態88. クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、実施形態87の組成物。
【0254】
実施形態89. エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、実施形態87の組成物。
【0255】
実施形態90. 水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団をさらに含み、第2のナノ粒子は、第1のナノ粒子とは異なる、実施形態81の組成物。
【0256】
実施形態91. 第2のナノ粒子が、第1のナノ粒子に対して逆に帯電している、実施形態90の組成物。
【0257】
実施形態92. 水性溶媒中に分散した第2のポリマーをさらに含み、第2のポリマーは、非粒状であり、第1のナノ粒子に対して逆に帯電している、実施形態81の組成物。
【0258】
実施形態93. 第2のナノ粒子がポリマーから形成されている、実施形態90の組成物。
【0259】
実施形態94. 第2のナノ粒子が、第2のナノ粒子の外表面に付いている第2の官能基を有する、実施形態90の組成物。
【0260】
実施形態95. 第2の官能基が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基と選択的に反応性である、実施形態90の組成物。
【0261】
実施形態96. 多価イオン塩をさらに含む、実施形態81~101いずれかの組成物。
【0262】
実施形態97. 組成物の固形分が、組成物の総重量を基準として固形分55重量%までである、実施形態74~96いずれかの化粧用組成物。
【0263】
実施形態98. 10,000cP以下の動的粘度を有する、実施形態74~97いずれかの化粧用組成物。
【0264】
実施形態99. 非圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、化粧ペースト、マスカラ、リップスティック、リップグロス、リップバーム、ネイルエナメル、または化粧クリームである、実施形態74~98の化粧用組成物。
【0265】
実施形態100. 化粧用に許容される薬剤が、着色剤、顔料、光防護剤、二次皮膜形成剤、化粧活性薬剤、もしくは化粧用アジュバント、またはこれらのいずれかの組合せをさらに含む、実施形態74~99いずれかの化粧用組成物。
【0266】
実施形態101. 化粧用アジュバントが、緩和剤、保湿剤、繊維、保存剤、キレート化剤、香粧品香料、中和剤、またはこれらのいずれかの組合せである、実施形態100の化粧用組成物。
【0267】
実施形態102. 粉末および充填剤が、ポリアミド粒子、ナイロン繊維、ポリエチレン粉末、アクリルコポリマーをベースとする微小球、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂粒子、尿素-ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子、エチレン-アクリレートコポリマー粉末、エクスパンデッドパウダー、デンプン粉末、およびシリコーン樹脂マイクロビードである、実施形態74~101のいずれかの化粧用組成物。
【0268】
実施形態102. 実施形態74~101のいずれかの組成物の製剤化を含む、角質性組織用の化粧用組成物の調製方法。
【0269】
実施形態103. 化粧用組成物を角質性組織に接着する方法であって、
実施形態74~101のいずれかの組成物を、1つまたは複数の角質性組織表面に配置することを含む方法。
【0270】
実施形態104. 睫毛エクステンション毛をヒト対象に接着する方法であって、
睫毛エクステンション毛を、実施形態1~27および74~101のいずれかの組成物を使用して、ヒト対象の既存の睫毛または他の角質性組織に適用および接着することを含む方法。
【0271】
実施形態105. 睫毛エクステンション毛をヒト対象に接着する方法であって、
実施形態1~27および74~101のいずれかの組成物を睫毛エクステンション毛に適用することと、
睫毛エクステンション毛を、組成物を使用してヒト対象の角質性組織に接着することと
を含む方法。
【0272】
実施形態106. 実施形態1~27および74~101のいずれかの組成物を含むネイルエナメル組成物。
【0273】
実施形態107. 硬化剤をさらに含む、実施形態106のネイルエナメル組成物。
【0274】
実施形態106. 手指の爪または足指の爪表面にネイルエナメルコーティングを形成する方法であって、
1~27および74~101の実施形態のいずれかの組成物を手指の爪または足指の爪表面に適用することと、
適用された組成物を硬化させることと
を含む方法。
【0275】
実施形態107. 手指の爪または足指の爪表面にネイルエナメルコーティングを機械的および化学的に付着させる方法であって、
1~27および74~101の実施形態のいずれかの組成物を手指の爪または足指の爪表面に適用することと、
適用された組成物を硬化させることと
を含む方法。
【0276】
実施形態108. 実施形態1~27および74~101いずれかの組成物を含み、
組成物が角質性組織に適用され、角質性組織上で乾燥した後、1.3~1.8の屈折率を有する、
液状化粧用組成物。
【0277】
実施形態109. 実施形態1~27および74~101いずれかの組成物を人間の角質性組織に適用して、角質性組織上で皮膜を形成させることを含む、化粧用組成物の使用方法。
【0278】
実施形態110. 皮膜が通気性を有する、実施形態109の方法。
【0279】
実施形態111. 皮膜が、角質性組織上にてその場で形成される、実施形態109の方法。
【0280】
実施形態112. 皮膜のその場での形成が室温で起こる、実施形態111の方法。
【0281】
実施形態113. 皮膜が、弾性、柔軟性、透湿性、酸素透過性、またはこれらのいずれかの組合せを有する、実施形態109の方法。
【0282】
実施形態114. 適用された皮膜によって、しわ、顔の線、および/または皮膚の日光損傷が最小限に抑えられ、平滑になり、かつ/または軽減される、実施形態119の方法。
【0283】
実施形態115. 皮膚不調を処置する方法であって、
それを必要とする対象に、
第一級ポリアミン(たとえば、(芳香族の対語として)脂肪族の第一級ポリアミン)、
第二級ポリアミン(たとえば、脂肪族の第二級ポリアミン)、
ポリイソシアネート(たとえば、脂肪族のポリイソシアネート)、
第一級ポリオール(たとえば、脂肪族の第一級ポリオール)、
第二級ポリオール(たとえば、脂肪族の第二級ポリオール)、および
イオン化しうるポリオール(たとえば、脂肪族のイオン化しうるポリオール)
を含む治療有効量の組成物を局所的に投与することを含み、
皮膚不調は、乾癬、咬傷または刺傷、熱傷、ただれ、痔核、肛門括約筋裂傷、切り傷、およびすり傷からなる群から選択される不調の少なくとも1つを含み、
組成物は、抗菌性、抗真菌性、および/または抗ウイルス性医薬をさらに含み、
第一級ポリアミン、第二級芳香族ポリアミン、およびポリオールの少なくとも1つは、ポリイソシアネートと反応して、ポリ(尿素-ウレタン)プリポリマーを生成する、方法。
【実施例
【0284】
本明細書に記載の一部の実施形態について、以下の非限定的な実施例においてさらに説明する。
【0285】
<実施例1>
アルキン基(D1、X、Y=-O-、R=-H)およびアジド基(D6、X=-O-)を有する官能性ジオール
プロパルギル2,2-ビス(ヒドロキシルメチル)プロピオネート(D1、X、Y=-O-、R=-H)を、Luら、J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.2007、45、3204~3217、およびShiら、Biomaterials 2008、29、1118~1126に従って合成した。簡潔に述べると、乾燥させたN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に、ある一定量の2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸およびKOHを加え、混合物を、透明な溶液になるまで100℃で撹拌した。次いで、反応温度を45℃に下げた後、臭化プロパルギルを加えてさらに反応させた。真空下にて80~120℃でDMFおよび余分な臭化プロパルギルを除去した後、粗生成物を脱イオン水に溶解させ、ジクロロメタン(DCM)またはクロロホルムで抽出し、合わせた有機相を、次いで、無水MgSOまたはNaSOで乾燥させ、濾過し、回転蒸発によって溶媒を除去し、次いで、最終生成物(黄色の液体)を、使用前に少なくとも3日間真空下に置いた。
【0286】
2,2-ビス(アジドメチル)プロパン-1,3-ジオール(D6、X=-O-)を、Zhangら、Macromolecules 2011、44、1755~1759、およびXuら、Macromolecules 2011、44、2660~2667に記載のプロセスに従って合成した。簡潔に述べると、ある一定量の2,2-ビス(ブロモメチル)プロパン-1,3-ジオールおよびアジ化ナトリウム(NaN)をDMF中で混合した。混合物を120℃で終夜撹拌した。DMFを除去した後、次いで、粗生成物を別の溶媒に溶解させ、固体副生物を濾別し、回転蒸発によって溶媒を除去した。次いで、粗生成物を溶媒に溶解させ、飽和NaCl溶液で抽出した。有機相を分離し、無水MgSOまたはNaSOで乾燥させ、濾過し、回転蒸発によって溶媒を除去し、次いで、最終生成物(黄色の液体)を、使用前に少なくとも3日間真空下に置いた。
【0287】
<実施例2>
正電荷を有するWPU(WPU)およびドーパミン(DP)官能化された正電荷を有するWPU(WPU-DP)
WPUおよびWPU-DPを、以下の成分および量で調製した。
【表1】
【0288】
WPUは、ポリオールとポリイソシアネートを反応させることにより合成した。N-メチルジエタノールアミン(MDEA)を帯電性ジオールとして使用し、塩酸(HCl)によって第四級アンモニウム塩に変換して、得られたポリウレタンを水分散性にした。簡潔に述べると、ある一定量のポリ(ε-カプロラクトン)(ε-PCL)ジオール(重量平均分子量(Mw)=994Da)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)ジオール(Mw=1000Da)、およびペンタエリトリトール(PTTO)を、100mLの二口丸底フラスコに装入した。次いで、混合物を融解させ、撹拌しながら90℃で2時間真空乾燥した(40mmHg)。温度を60℃に下げた後、イソホロンジイソシアネート(IPDI)および2-エチルヘキサン酸スズ(II)(Sn(OCt))を加え、反応を60℃で1時間継続した。撹拌子による撹拌が止まるとき、乾燥させたアセトン10mLを加えて混合物を溶解させ、撹拌速度を300rpm前後に保った。次いで、別の乾燥させたアセトン10mLと共に、1,4-ブタンジオール(BDO)およびN-メチルジエタノールアミン(MDEA)を加え、反応を60℃でもう1時間継続した。反応後、ポリマー溶液を250mLのビーカーに移し、ビーカーに、撹拌しながら10mLの1M HClを加え、次いで、ビーカーに38mLの蒸留(脱イオン)水をゆっくりと滴下し、同時に、高せん断分散機を1000~2000rpmのせん断速度で使用して、ポリマー溶液を5分間水に分散させた。次いで、ロータリーエバポレーターを使用してアセトンを除去し、固形分計算値が40.0wt%であるWPU分散体を取得した。
【0289】
WPU-DPは、WPUと同様のプロセスで合成したが、違いは、ポリオールとポリイソシアネートを反応させた後、得られた、イソシアネート基でキャップされた分岐ポリウレタンを、ドーパミンとさらに反応させて、ドーパミン修飾されたPUを取得し、次いで、これを水に分散させて、WPU-DP分散体を得たことである。簡潔に述べると、ε-PCLジオール(Mw=994Da)、PEGジオール(Mw=1000Da)、およびPTTOを、100mLの二口丸底フラスコに装入した。次いで、混合物を融解させ、撹拌しながら90℃で2時間真空乾燥した(40mmHg)。温度を60℃に下げた後、IPDIおよびSn(OCt)を加え、反応を60℃で1時間継続した。乾燥させたアセトン10mLを加えて、混合物を溶解させた。次いで、別の乾燥させたアセトン10mLと共に、BDOおよびMDEAを加え、反応をもう1時間継続した。次いで、ドーパミン塩酸塩(6mmol)および乾燥させたアセトンを加えて、もう4時間反応させた。さらに、得られたポリマー溶液に、(機械式撹拌機などの)高せん断分散機を用いながら、50mLの脱イオン水をゆっくりと滴下した。次いで、ロータリーエバポレーターを使用してアセトンを除去し、固形分計算値が39.5wt%であるWPU-DP分散体を取得した。
【0290】
<実施例3>
負電荷を有するWPU(WPU)およびタンニン酸官能化された負電荷を有するWPU(WPU-DP)
負電荷を有する水性ポリウレタン(WPU)およびタンニン酸で修飾されたWPU(WPU-TA)を、以下の成分および量で調製した。
【表2】
【0291】
負電荷を有する水性ポリウレタン(WPU)は、ポリオールとポリイソシアネートの反応によって合成し、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を帯電性ジオールとして使用し、ジメチルアミノエタノール(DMAE)で処理することにより、負に帯電した基に変換して、得られたポリウレタンを水分散性にした。簡潔に述べると、ε-PCLジオール(Mw=994Da)およびPEGジオール(Mw=1000Da)を、100mLの二口丸底フラスコに装入した。次いで、混合物を融解させ、撹拌しながら90℃で2時間真空乾燥した(40mmHg)。IPDIおよびSn(OCt)を加え、反応を60℃で1時間継続した。次いで、DMAPを加え、反応を60℃でもう1時間継続した。反応後、撹拌しながらDMAEを加えた。次いで、50mLの脱イオン水をビーカーにゆっくりと滴下し、同時に、ポリマー溶液を、撹拌しながら5分間水に分散させた。エチレンジアミンを連鎖延長剤として加えて、未反応の-NCO末端基と反応させた。次いで、溶媒を除去し、固形分計算値が39.47wt%であるWPU分散体を取得した。
【0292】
タンニン酸(TA)で修飾された負電荷を有するWPU(WPU-TA)は、上のWPUの合成プロセスと同様に合成した。簡潔に述べると、ε-PCLジオール(Mw=994Da)およびPEGジオール(Mw=1000Da)を、100mLの二口丸底フラスコに装入した。次いで、混合物を融解させ、90℃で2時間真空乾燥した(40mmHg)。IPDIおよびSn(OCt)を加え、反応を60℃で1時間継続した。次いで、DMAPおよびBDOを加え、反応を60℃でもう1時間継続した。次いで、TAを、乾燥させたアセトン20mLと共に加え、反応をもう2時間継続した。反応後、撹拌しながらDMAEを加えた。次いで、ビーカーに脱イオン水をゆっくりと滴下し、5分間せん断した。EDAを連鎖延長剤として加えて、未反応の-NCO末端基と反応させた。次いで、アセトンを除去し、固形分計算値が40.27wt%であるWPU-TA分散体を取得した。
【0293】
<実施例4>
アルキン基を有する正に電荷したWPU(WPU-Al)およびアジド基を有する負に帯電したWPU(WPU-N
アルキン基を有する正に電荷したWPU(WPU-Al)およびアジド基を有する負に帯電したWPU(WPU-N)を、以下の成分および量で調製した。
【表3】
【0294】
アルキン官能基を有する正に帯電したWPU(WPU-Al)の合成は、WPUの合成と同様であり、プロパルギル2,2-ビス(ヒドロキシルメチル)プロピオネート(D1、X、Y=-O-、R=-H、合成プロセスは実施例1において示している)を、アルキン基を有する官能性ジオール(Alジオール)として使用し、ポリウレタン合成に加えた。固形分計算値が39.46wt%であるWPU-Al分散体が得られた。
【0295】
アジド官能基を有する負に帯電したWPU(WPU-N)の合成は、WPUの合成と同様であり、2,2-ビス(アジドメチル)プロパン-1,3-ジオール(D6、X=-O-、合成プロセスは実施例1において示している)を、アジド基を有する官能性ジオール(アジドジオール)として使用し、ポリウレタン合成に加えた。固形分計算値が39.76wt%であるWPU-N分散体が得られた。
【0296】
負電荷を有するWPUに、アルキン基を有するクリッカブルジオールを導入して、WPU-Alを得てもよいし、同様に、正電荷を有するWPUに、アジド基を有するクリッカブルジオールを導入して、WPU-Nを得てもよい。
【0297】
<実施例5>
プロピオレート(PL、-COC≡CH)基を有するクリッカブルジオールおよびプロピオレート基を有する負に帯電したWPU(WPU-PL)の合成
図10に関して、PL基を有するクリッカブルジオール(PLジオール、D5)を、文献(Tsotsalas M,ら、J Am Chem Soc 2014、136、8~11;およびGuo J,ら、Biomaterials、2017、112、275~286)と同様に合成した。簡潔に述べると、ペンタエリトリトール(PTTO)およびプロピオル酸を、120mLのトルエンに溶解させた。硫酸(HSO)を触媒として加えた。混合物を125℃に加熱して、24時間還流させた。反応後、トルエンを除去した。粗生成物を酢酸エチルに溶解し直した。溶液を炭酸水素ナトリウム(NaHCO)溶液およびブライン溶液で洗浄した。有機層を無水MgSOで乾燥させ、濾過し、残存する溶媒を回転蒸発によって除去し、最終生成物をわずかに黄色の油状物として得た(収率91%)。PLジオールは、正または負電荷を有するWPUに導入することができる(図11)。
【0298】
以下の成分および量を使用しながら、PL基を有するクリッカブルジオールを小分子ジオールとして使用し、負電荷を有するWPUに導入して、WPU-PLを取得した。
【表4】
【0299】
WPU-PLの合成は、WPUの合成と同様であり、PLジオール(D5)を、PL基を有する官能性ジオールとして使用し、ポリウレタン合成に加えた。簡潔に述べると、ε-PCLジオール(Mw=990Da)およびPEGジオール(Mw=200Da)を、100mLの二口丸底フラスコに装入した。次いで、混合物を融解させ、乾燥させ、温度を60℃に下げた。IPDIおよびSn(OCt)を加え、反応を60℃で1時間継続した。DMPA、BDO、およびPLジオールをアセトンと共に加え、反応を60℃でもう2時間継続した。反応後、DMAEを加え、次いで、撹拌しながら脱イオン水を5分間ゆっくりと滴下した。EDAを連鎖延長剤として加えて、未反応の-NCO末端基と反応させた。次いで、ロータリーエバポレーターを使用してアセトンを除去し、固形分計算値が39.79wt%であるWPU-PL分散体を取得した。
<実施例6>
PEG-PPG-PEGをジオールとして使用し、CaCOで処理した、水性の、イガイから着想を得た注射用クエン酸系生体接着剤(iCMBA-EPE-Ca2+
【0300】
iCMBA-EPE-Ca2+を、以下の成分および量で調製した。
【表5】
【0301】
水性iCMBA-EPE-Ca2+は、本発明者らの以前の著述(Yang J,ら、Adv.Mater.2004、16、511~516)に従って、クエン酸(CA)とポリ(エチレングリコール)-ポリ(プロピレングリコール)-ポリ(エチレングリコール)(PEG-PPG-PEG)ジオールとドーパミン間のfacialワンポット無触媒無溶媒重縮合反応を実施した後、得られたポリマーを過剰の炭酸カルシウム(CaCO)で処理して、ポリマー鎖上の側カルボキシル基をイオンに変換してこれを水性にすることによって合成した(図14)。
【0302】
<実施例7>
WPUの液体絆創膏としての適用
上記実施例において合成されるものなどの、官能基使用または不使用のWPUまたはWPUいずれかのWPUは、小さい切り傷、すり傷、熱傷、発疹、および皮膚刺激に液体絆創膏として使用すると、溶媒蒸発後に、創傷治癒を保護および促進しうる。液体絆創膏は、創傷被覆材の1種である。固体絆創膏は、特に、創傷が関節範囲にあるとき、創傷範囲を常に完全に覆うことはできない。液体絆創膏の液状の形態は、弾性および柔軟性、皮膚への優れた接着により、身体表面の複雑な輪郭に適用されて、創傷に対する、外部の埃および微生物からの、より確実で長時間持続するバリアとなりうる。ポリウレタン-尿素液体絆創膏の防水性ならびに水蒸気/空気透過性も、創傷治癒プロセスに有益である。New Skin(3M)などの、市販品として入手可能な刺激のある(sting)溶媒系液体絆創膏に比べて、水系製剤としてのWPU液体絆創膏は、刺激がなく、より使用者にやさしい。
【0303】
<実施例8>
WPU-DPおよびWPU-TAの2%過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO、PI)による架橋および機械的な吸水試験
WPU-DPまたはWPU-TAを2wt%PIによって架橋させ、水を蒸発させて、均質なポリマー皮膜を作製し、同時に、架橋なしのポリマー皮膜も調製した。架橋ありおよびなしのポリマー皮膜の機械的性質および吸水性(膨潤率)を試験した。PIは、WPU-DPまたはWPU-TA溶液に直接加えてもよいし、または別の粒子もしくは担体にまず封入して、WPU-DPまたはWPU-TA溶液と混合してもよい。後者の方法(ナノ粒子中のPI)は、架橋後WPU-DPまたはWPU-TAに対するPIの放出をさらに減速させる手段となる。
【0304】
機械的性質は、Instron機械的試験装置(Norwood、MA)を使用して、ASTM D412Aに従って試験した。乾性および湿潤ポリマー皮膜試料を細片(25mm×6mm×1.5mm、長さ×幅×厚さ)にカットし、機械的試験装置に入れ、500mm/分の速度で破断するまで引っ張った。吸水量(水膨潤率)は、以前に記載されているとおりに(Mehdizadeh M,ら、Biomaterials、2012、33、7972~7983;Guo J,ら、Biomaterials、2016、85、204~217)、ポリマー皮膜の水中でのインキュベート前後の質量差によって測定した。次いで、次式を使用して膨潤率を算出した。
【数1】
【0305】
ここで、Wは、乾燥したポリマー皮膜の重量を表し、Wは、乾燥したポリマー皮膜を水中に24時間浮遊させた後のネットワーク重量(network weight)を表す。PI架橋ありおよびなしのWPU-DPおよびWPU-TAポリマー皮膜の機械的および吸水量データを、図16A~17Dに示す。図16Aは、2wt%PIによる架橋前後のWPU-DPポリマー皮膜の引張強さおよびヤング率変化を示し、図16Bは、伸び変化を示し、図16Cは、典型的な引張曲線を示し、図16Dは、吸水量(水膨潤率としても知られる)変化を示す。図12は、2wt%過ヨウ素酸ナトリウム(PI)による架橋前後のWPU-TA(合成プロセスは図4および実施例3において示している)ポリマー皮膜の機械的強度および吸水量率変化を示す(実施例7)。図17Aは、2wt%PIFによる架橋前後のWPU-TAポリマー皮膜の引張強さおよびヤング率変化を示し、図17Bは、伸び変化を示し、図17Cは、典型的な引張曲線を示し、図17Dは、吸水量(水膨潤率)変化を示す。WPU-TAをPIによって架橋させた後に吸水量が増加する現象は、酸化後のタンニン酸部分の親水性の増大によって引き起こされうる(実施例9を参照されたい)。
【0306】
<実施例9>
WPUとWPUで構成されたEnglish ivyから着想を得た組織接着剤、イオン相互作用による架橋、およびゲル時間試験
English ivyから着想を得た組織接着剤は、逆の電荷を有するWPND/ポリマー溶液を混ぜ合わせることによって現実化することができる。たとえば、WPUとWPUの混合。固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPUおよびWPUポリマー分散体を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。AB製剤組織接着剤は、WPUおよびWPUポリマー分散体を1/1(w/w)の比で含有するように設計した。ゲル時間試験は、以前の文献(Guo J,ら、Biomaterials、2016、85、204~217;Guo J,ら、Biomaterials、2017、112、275~286)に従う傾斜試験を使用して行った。10mLのプラスチック管において1gのWPUと1gのWPUを混合してからゲル時間記録を開始し、管を逆さまに傾けたときに混合物が流れ落ちるのが止む時間を、ゲル時間または硬化時間として記録した。こうした組織接着剤製剤の硬化は、多くの場合、非常に急速であり、10秒未満で硬化する場合がある。
【0307】
<実施例10>
イオン相互作用またはイオン相互作用およびクリック反応によって架橋されたWPU-AlとWPU-Nで構成された二重架橋性組織接着剤、ラップせん断強度試験、ならびに吸水試験
固形分がそれぞれ39.46wt%および39.76wt%であるWPU-AlおよびWPU-Nを、実施例4において記載したプロセスに従って合成した。このWPU-AlおよびWPU-NAB製剤について、イオン相互作用の使用だけによる架橋プロセスは、実施例7において記載したWPUおよびWPU製剤の架橋プロセスと同じである。
【0308】
イオン相互作用およびクリック反応によるWPU-AlおよびWPU-Nの架橋には、銅触媒を使用した。硫酸銅(CuSO)およびL-アスコルビン酸ナトリウム(NaLAc)を、それぞれWPU-AlおよびWPU-Nに予め溶解させて成分AおよびBを得、成分AとBを混合すると、銅によって触媒される1,3-二極性アジド-アルキン付加環化(CuAAC、クリック反応)の触媒として使用されるCu(I)イオンがその場で生成された。イオン架橋は、数秒で完了しうるが、クリック反応には、より長い多少の時間がかかる。したがって、イオン相互作用を使用して最初の接着を実現することができ、イオン相互作用架橋後に、ポリマー架橋およびクリック反応が、二次的な架橋として働くと、凝集および接着強さをゆっくりと向上させることができる。接着および凝集強さをリレー方式で向上させる二相性の架橋機序は、独特である。硫酸銅(CuSO)およびL-アスコルビン酸ナトリウム(NaLAc)を、WPU-AlおよびWPU-Nと混合する前に、粒子などの担体にまず封入し、そうして、クリック化学反応によるWPU-AlおよびWPU-N架橋のためのより緩徐な触媒放出をさらに実現してもよい。
【0309】
クリック反応あり/なしでイオン相互作用によって架橋されたWPU-AlおよびWPU-N AB製剤組織接着剤のラップせん断強度は、ASTM規格F2255-05および文献(Mehdizadeh M,ら、Biomaterials、2012、33、7972~7983)の方法に従って測定した。簡潔に述べると、50×25×0.1mmのフォイルスライドを、検体ホルダーとして使用した。さらに、40×4mmの寸法を有するブタ由来の無細胞小腸粘膜下(SIS)材料(OASIS、HealthPoint Ltd.、Fort Worth、TX)の細片を、superglue(Glorilla、Impact-tough formula)を使用してフォイルスライドに接着し、約1時間乾かした。次いで、フォイルスライドに取り付けられた無細胞SIS材料を、試験前に1時間、25℃でリン酸緩衝食塩水(PBS)に予浸した。次いで、成分AおよびBを、2枚のスライドに、一方のスライドに一方の成分として適用し、均等に塗りつけ、2枚のスライドを、接触範囲を25×10mmとして重ね合わせた。次いで、接着された細片を、湿度が50±5%である湿潤チャンバーに2時間入れた。引き続いて、10Nロードセルを装着したInstron機械的試験装置(Norwood、MA)を5mm/分の一定のクロスヘッド速度で使用して、結合させた細片検体のラップせん断強度を測定した。データを記録し、各試料について、少なくとも6つの検体を試験し、結果を平均した。
【0310】
イオン相互作用、イオン相互作用およびクリック反応によって架橋されたWPU-AlおよびWPU-Nの吸水性(膨潤率)は、実施例6において記載した同じ手順に従って試験し、算出した。吸水量およびラップせん断強度試験結果を、図18Aおよび18Bに示す。
【0311】
<実施例11>
WPUおよびWPU分散体、ならびにWPU、WPU、およびイオン相互作用架橋WPU+WPUポリマー皮膜の抗微生物特性
WPUおよびWPU分散体の抗微生物特性は、グラム陽性およびグラム陰性細菌であるStaphylococcus aureus(S.aureus、ATCC番号6538)およびEscherichia coli(E.coli、ATCC番号8739)をモデルとして使用し、米国薬局方(USP)<51>(Antimicrobial effectiveness testing)および文献(Guo J,ら、Biomaterials、2016、85、204~217;Guo J,ら、Biomaterials、2017、112、275~286)に従って試験した。簡潔に述べると、新たに培養した微生物懸濁液を5000rpmで10分間遠心分離して、ブロス培養液を除去する。2mLの試験WPUポリマー分散体を加えて、最終濃度が1×10~1×10CFU/mL(CFU:コロニー形成単位)の範囲である微生物懸濁液を作製する。同時に、遠心分離した微生物を2mLのブロス培養液に分散させることにより、対照試料を調製する。遠心分離した微生物を2mLの脱イオン水に分散させることにより、脱イオン水(非滅菌)試料を調製した。CFU/mLによる初期微生物濃度をプレートカウント法によって求め、プレートカウントは、二通りのプレートを使用して行った。次いで、密閉バイアル中の微生物含有試料を32.5±2.5℃でインキュベートし、1日目および4日目に試料採取する。これらの試料採取間隔それぞれの時点で存在する生存可能微生物の数CFU/mlを、プレートカウント法によって求める。算出した、試験開始時のCFU/mLの濃度を使用して、次式に従って、1日目および4日目における試験試料についてのCFU/mLの濃度のlog10値変化を算出し、log減少値(LRV)に関しての変化を表す。
Log減少値(LRV)=Log10-Log10
ここで、Nは、試験開始時の微生物の平均数であり、Nは、時間tにおける微生物の平均数である。各試料について、少なくとも5本の並行実験を行い、算出された結果を平均する。
【0312】
ASTM F1608-00およびATCC Test Method 100-2012:Antimicrobial finishes on textile materialsに従い、S.aureusおよびE.coliを微生物モデルとして使用して、WPU、WPU、およびイオン架橋WPU+WPUポリマー皮膜の抗微生物特性も試験した。まず、全固形物が2gであるポリマー分散体または分散体混合物を、直径が60mmであるTeflon皿に流し込むことにより、WPU、WPU、およびWPU+WPUポリマー皮膜を調製した。次いで、ポリマー皮膜試料(Φ55mm)を積み重ね、滅菌ペトリ皿(Φ100mm)に載せる。試料なしの滅菌ペトリ皿を対照として用意する。濃度が1×10CFU/mLである1mLの細菌懸濁液を皮膜の上部に載せ、試料の山に吸い取られるようにする。接種がなされた試料を、32.5±2.5℃で24時間インキュベートした。インキュベートする間、滅菌水を含ませた2個の滅菌綿球を試料の側に置いて湿度を維持する。24時間後、各容器に滅菌ブロスを加え、容器を1分間振盪して、接種材料を試験試料からブロス培養液へと解放する。段階希釈を行った後、プレートをインキュベートする。インキュベート後、回収されたコロニーをカウントし、減少百分率を求めるのに使用する。接触時間経過後の各試験試料を接種直後の対照試料と比較することにより、減少百分率を求める。減少百分率の計算式を以下に示す。
【数2】
ここで、Nは、対照についてのコロニー数であり、Nは、試験試料についてのコロニー数であり、Tは、対照についての希釈倍数であり、Tは、試験試料についての希釈倍数である。試験の結果から、S.aureusおよびE.coliの数の減少が示された。
【0313】
<実施例12>
硬膜と頭蓋骨を同時にシールする脳脊髄液(CSF)漏出処置用の二相性グルー(BP Glue)
Aleo BME(商標)の二相性グルー(BP Glue)は、生分解性である、イガイから着想を得た注射用クエン酸系生体接着剤(iCMBA)と、ヒドロキシアパタイト(HA)と、ポリウレタン(WPU)接着剤などの、English ivyから着想を得た生分解性水性ポリマーとから構成される技術である。実施例5において記載したとおりにCaCOで処理することにより、iCMBAを、負電荷および対イオンとしてのカルシウムイオンを有する水性のiCMBA(iCMBA-Ca2+)に変えた。正(WPU)または負(WPU)電荷を有するWPUのどちらを使用しても、iCMBA-Ca2+とのイオン相互作用を生じさせることができる。
【0314】
構想を立証するために、Sprague-DawleyラットにおけるCSF鼻漏モデルを使用して、BP GlueをCSF漏出防止のためのシーラントとして使用することの実現性を評価した。刺入(implantation)、手術後フルオレセイン注射、および蛍光に基づく漏出検出を、図20に示す。簡潔に述べると、嗅球を前の鼻粘膜から隔てる篩板を、先端が金属の道具で貫通して脳と鼻領域の間に空間を開け、著しいCSF漏出を創出した。iCMBA-Ca2+(水中30wt%)と、WPUまたはWPU(固形分約40wt%)と、HA(全固形分の重量に対して30%)とから構成されるBP Glueを、使い捨てピペットを使用して欠損内に適用した。WPUまたはWPUで構成された成分Aをまず適用し、iCMBA-Ca2+とHAと過ヨウ素酸ナトリウム開始剤(PI)とを含む成分Bを後から適用した。次いで、成分AとBを混ぜ合わせた。硬膜および骨修復のためのBP Glueの作業プロトコール(図19および20)は、English ivyが最初に壁に接着し始めるのと同じように、漏れのある硬膜の上部においてA成分を適用して、WPUナノ粒子の硬膜組織に対する相互作用および浸透を可能にすることを含む。次いで、B成分を、成分Aの上に、かつ頭蓋骨欠損の縁に沿って重ねる。AとBを混合すると、20秒以内に速やかなゲル化が起こる。次いで、予め取り除かれた頭蓋骨プレートを欠損内に入れることもでき、存在しうる余分な混合ゲルは、縁に沿って絞り出される。PIによって開始されたiCMBA架橋は、頭蓋骨プレートの周囲の骨との結合を助長し、骨融合を促進する。AとBのゲル化は、硬膜表面でのWPUナノ粒子の合一を加速して、機械的にかみ合う界面を定着させる。
【0315】
刺入から3週間後、50μLのフルオレセインを大槽に注射して、中枢神経系全域に蛍光を生じさせた。次いで、暗光下で脊髄を分析して、CSFにおけるフルオレセインの局在を確認し、CNSにおけるフルオレセイン注射が成功したことが実証された。ラットを屠殺し、引き続いて鼻粘膜を切り裂き、暗光下で蛍光を分析した。篩欠損がBP Glueで修復されなかった対照ラットの鼻粘膜は、粘膜における強い蛍光を呈した。BP Glueで処置したラットの粘膜は、蛍光を示さず、CSF漏出の有効な修復が示された。WPU+WPU/HA、WPU+WPU/HA、WPU+WPUなどを含む他の製剤も試験した。
【0316】
<実施例13>
接着剤組成物の化粧品適用例
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。WPU+およびWPU-ポリマー分散体は、ネイルエナメル、睫毛エクステンション接着剤、および角質性組織コーティング、または皮膚疑似物として使用することができる。たとえば、単独または組合せとしてのWPU+およびWPU-ポリマー分散体を爪に適用して、適用後3分で乾いたネイルエナメルを生成することができ、または睫毛エクステンション用の接着剤として使用することもできる。WPUネイルエナメルは、弾性があって可剥性であり、WPU接着剤を使用すると、睫毛を睫毛に申し分なく接着することができる。
【0317】
<実施例14>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体の破裂強さ
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。ASTM F2392-04に従い、WPU+/-分散体を使用して、破裂強さ試験を行い、DuraSeal(登録商標)およびTisseel(登録商標)の破裂強さと比較した。
【0318】
一般に、頭蓋CSF圧力は、平均しておよそ15mmHgであり、脊柱CSF圧力は、平均しておよそ30mmHgであり、少なくとも45mmHgに達しうる圧力スパイクを伴う。ASTM試験において概略が述べられている一般手順に従うと、厚さおよそ1mmのWPU+/-分散体シーラントの層は、脊柱において発生しうる過剰生理的レベルの3倍を十分に上回る平均破裂圧力に十分に耐えることができ、平均破裂圧力は、160mmHgであった。WPU+/-分散体シーラントからのすべての破損は、DuraSeal(登録商標)およびTisseel(登録商標)が、それぞれ8.3および3mmHgという低い平均破裂圧力を示した一方で、非常に強力な組織接着を示しながら、シーラント材料それ自体が破損したという点で、凝集性であった。しかし、DuraSeal(登録商標)およびTisseel(登録商標)からの破損は、凝集性というより接着性に関するものであり、ここでの破損は、材料それ自体の破損(「凝集」)ではなく、組織それ自体からの材料の分離(「接着」)であった。これにより、WPU+/-分散体シーラントの強力な組織接着とは対照的に、DuraSeal(登録商標)およびTisseel(登録商標)(フィブリン糊)が弱い組織接着を示すことが証明される。
【0319】
最初の破裂圧力測定によって、シーラントの術中の強さが示されているが、ヒドロゲルは、新生硬膜が単独でCSFを十分に収容できるまで、術後に高レベルの性能を維持しなければならない。WPU+/-分散体シーラントが、刺入されて以降、高レベルの性能を維持しうる能力を明らかにするために、コラーゲンケーシングにおける直径3mmの穴にかかる厚さおよそ1mmのヒドロゲルシーラントを、37℃のPBS(pH7.4)中で8週間までインキュベートした後、試験固定具に取り付けた。浸してから1日後、WPU+/-分散体シーラントは、平均して230mmHgになるその最大破裂強さ性能に達した。図21に示すとおり、3週間~4週間にかけて、シーラントは、脊柱において遭遇しうる生理的レベルを上回る圧力を維持し続け、WPU+/-分散体が、45mmHgまでのCSF圧力の典型的なスパイクにおよそ3週間耐えうることが証明された。
【0320】
<実施例15>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体のラップせん断
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。ASTM F2255-05に従い、WPU+/-分散体を使用して、ラップせん断試験を行い、Tisseel(登録商標)のラップせん断と比較した。
【0321】
ASTMプロトコールのもとで、WPU+/-分散体シーラントは、フィブリン糊(5.47±1.47kPa)の6倍の湿潤ブタ組織ラップせん断強度(35.35±7.11kPa)を示した。
【0322】
<実施例16>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体の加水分解および酵素による分解
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。WPU+/-分散体シーラントおよびその成分ポリマーの加速加水分解による分解速度を、8週間まで質量減少を測定することにより評価した。試験前に、接着剤シーラントおよびその成分ポリマーを真空乾燥した。50mgの乾性試料(n=6)を、60℃のインキュベーターにおいて1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中でインキュベートした。各時点で、緩衝液から試料を取り出し、脱イオン水ですすぎ、24時間真空乾燥し、秤量した。媒体は、目標時点まで変化せず、足場が崩壊する結果として生じる、後の時点での相分離欠陥が最小限に抑えられた。各時点で、媒体のpH値を測定した。
【0323】
ポリウレタンの分解は、in vivo条件下では、in vitro条件に比べて著しく急速であるのが普通であり、酵素または酸化反応がin vivoでの分解に影響することが示唆される。酵素分解については、コレステロールエステラーゼ(CE)の存在下で材料をインキュベートした。静的条件下で短期間のin vitro分解速度を評価し、酵素媒体は、3または4日毎に取り替え(酵素活性の維持に必要であった)、4週間、予め決められた時点で質量減少を測定した。50mgの試料(n=6)を、CEを含有する1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中にて37℃でインキュベートした。以前の文献ならびに媒体への酵素の溶解限度から決定したコレステロールエステラーゼ(CE)酵素濃度は、1U/mLであった。
【0324】
ポリエーテル-ポリウレタン(PEU)分解について、いくつかの酵素を調査した。エラスターゼのような酵素が、ポリウレタンの分解に有効であることが示されているが、コレステロールエステラーゼ(CE)が、こうしたポリマーに対して最も高い活性を示す酵素であった。マクロファージ-材料界面を表す高CE微細環境を含んだ媒体は、ポリウレタン分解速度に、より著しい影響を及ぼした。加水分解と酵素分解媒体の質量減少傾向の差は、実に大きかった。加水分解では、60℃で4週間の加速加水分解が、室温で1年の通常加水分解と同等になるようにプロットされる。現行の製剤でのWPU+/-分散体の予測される完全な質量減少には、通常条件では約2年半かかる。しかし、酵素分解の傾向からは、WPU+/-分散体の予測される完全な質量減少が、400日前後で起こることが示され、これは、通常の加水分解よりはるかに急速である。上の結果から、WPU+/-分散体は、(2年を超える)長期の安定性を維持しうるが、一部の例では、in vivoでより急速に分解しうることが示唆される。これは、その適用に応じて、長期の貯蔵寿命が必要で、しかし比較的急速なin vivo分解が必要な水性の分解性医療用具としての重要な特質である。
【0325】
<実施例17>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体の粒径およびゼータ電位
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、UK)を使用して、動的光散乱測定を行った。分析によって、バルク集団の強度加重平均直径である試料のz-平均、およびサイズ分布の幅の尺度である多分散性指数が得られる。
【0326】
粒径は、ポリマー溶液の安定性、およびWPU+/-分散体シーラントと天然組織間に強力な機械的かみ合いが形成される速度の決定において役割を果たすことがわかった。WPU+/-分散体シーラントは、WPU+ナノ分散体が120.9nmの平均粒径、WPU-ナノ分散体が76.5nmの平均粒径を示した。WPU+/-分散体シーラントにおけるナノ粒子は、安定した分散体の維持に理想的である±30~±60mVの範囲にあるゼータ電位を有する。
【0327】
粒子充填理論は、セメント/コンクリート産業において、古典的な理論として立証されている。強度、加工性、寸法安定性、不利な環境条件に対する耐久性などの種々の性能属性は、特に多相系では、粒度分布を合理的に配分することによって実現される場合がある。本開示では、WPU+/-分散体におけるAおよびB成分の粒径も、シーラントの機械的性質(接着性および凝集性)に著しい影響を及ぼす場合があり、粒子充填理論を使用して、AB製剤におけるWPU+/-分散体の設計を導くことができる。
【0328】
図22Bに、サイズのより大きいWPU+とサイズのより小さいWPU-を不釣り合いに組み合わせた粒子充填の破裂圧力を示しており、S+は、粒径=120.9nm、ゼータ電位=55mVであり、S-は、粒径=76.52nm、ゼータ電位=-52mVであり、M+は、粒径=146.2nm、ゼータ電位=18mVであり、M-は、粒径=113.4nm、ゼータ電位=-34mVであり、L+は、粒径=367.1nm、ゼータ電位=46mVであり、L-は、粒径=120nm、ゼータ電位=-24mVである。
【0329】
図22Bにおいて示されるとおり、WPU+とWPU-を不釣り合いに組み合わせた粒子充填では、粒子間のより有効な融合および充填を促進する密な(closed)充填構造が得られ、これにより、WPU+/-分散体シーラントの密度および機械的強度はおおいに増大する。サイズ差が小さめのWPU+/-分散体シーラントは、破裂強さの向上を示し、サイズ差がより大きいWPU+/-分散体シーラントは、より高い破裂強さを示した。調べた製剤の中で最も高い3つの破裂強さは、サイズおよびゼータ電位差が、それぞれ、L+/S-について367-77=290nmおよび46+52=98mV、L+/M-について367-113=254nmおよび46+34=80mV、M+/S-について146-77=69nmおよび18+52=70mVである製剤からなっていた。負の100nmより大きい粒径(M-についての113nmおよびL-についての120nm)を有する製剤では、破裂圧力の有意な低下が生じた(L+/S-対L+/M-、S+/S-対S+/M-、M+/S-対M+/L-)。正の140nm未満の粒径を有する製剤(S+)は、すべて、非常に低い破裂圧力(<50mmHg)をもたらした。サイズ差が146-113=33nmであり、ゼータ電位差が18+34=52mVであるM+/M-では、それでも、87mmHgというかなり強力な破裂圧力が得られた。しかし、粒径差が120-113=7nmであり、ゼータ電位差が55+34=89mVであるS+/M-は、19.5mmHgという非常に低い破裂圧力をもたらした。したがって、上の結果から、意外にも、粒径および粒径差が、破裂圧力という観点でシーラント性能を決定する重要な要素であることが示唆される。
【0330】
たとえば、30nm未満の粒径差では、破裂圧力が低下していくが、30nmより大きい粒径差では、破裂圧力が増大していく。さらに一層驚くべきなのは、少なくとも、試験した特定の組成物について、正の粒子が140nm前後のサイズであったとき、および負の粒子が100nmより小さいサイズであったとき、最も高い破裂圧力が実現されたことである。同様に驚くべきなのは、少なくとも、試験した特定の組成物について、負の粒子が140nm前後のサイズであり、正の粒子が100nmより小さいサイズであったとき、破裂圧力がより低くなったことである。
【0331】
<実施例18>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体の水分取込みおよび寸法変化
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。水分取込みを測定するために、A-B溶液(WPU+およびWPU-)をピペット操作でTeflon型(長さ×幅×厚さ=9.5×7.8×2.5mm)に入れて、15分間自己硬化させてヒドロゲルにすることにより、シーラント試料を作製した。得られたヒドロゲル試料を、「新しい調製されたままのシーラント試料」として、硬化後直ちに使用して、PBS(pH7.4)中にて37℃で1、5、12日間インキュベートし、水分取込み(膨潤パーセント)を記録および算出した。ヒドロゲル試料はまた、真空乾燥によって(乾性シーラント試料として)完全に乾燥させ、次いで,PBS中にて1、5、12日間インキュベートし、水分取込み(膨潤パーセント)を記録および算出した。寸法の変化の直接の測定は、WPU+/-分散体の硬化後、試料の形状が不規則になるので測定しにくいが、各軸における均等な寸法変化を仮定し、試料密度を1.0g/ccに見積もることにより、次式を使用して膨潤パーセントを寸法変化パーセントに関係付けた。
【0332】
{[%膨潤/100%+1]1/3-1}100%=%ΔS
ここで、%膨潤=時間tに応じた膨潤パーセント、%ΔS=時間tに応じた寸法(S)変化パーセントである。
【0333】
一般に、外科用シーラントが硬膜組織に適用されるのであれば、欠損硬膜組織に適用されたとき、潜在的な炎症反応および他の神経合併症を回避するために、シーラントにおいて、膨潤は最小限に抑えられるべきである。たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)系のDuraSeal(硬膜シール用)のような合成ポリマーは、高い膨潤率(約637%の寸法変化と同等である、約400%の重量変化)を有し、これは、CSF漏出の重大なリスクおよび頭蓋内圧力の維持を生じさせるものである。注目されるのは、最近の症例報告によって、DuraSealを適用した結果、機能低下を遅延させた患者に、重篤な術後合併症であるDuraSeal血腫が生じたことが示されたことである。磁気共鳴映像法(MRI)によって、このヒドロゲル系シーラントが、硬膜外の出血を閉じ込め、脊髄圧迫を引き起こしていたことが実証された。
【0334】
対照的に、本明細書に記載のWPU+/-分散体は、調製したままのシーラントについては5.3%および1.7%、調べたWPU+/-分散体シーラントの完全に乾性のシーラント皮膜については36%および10.9%という、それぞれ最小限の水分取込み(重量百分率変化)および寸法変化を示し、これを図23に示している。図23に示されるとおり、WPU+/-分散体シーラントは、水中において膨潤が最小限に抑えられ、破裂強さが持続するために、従来のPEG系接着剤またはシーラントとは一線を画する。このような物理的性質によって、WPU+/-分散体シーラントは、多くの外科的適用に理想的となりうる。
【0335】
<実施例19>
WPU+およびWPU-ポリマー分散体のin vitro細胞毒性
固形分がそれぞれ40wt%および39.47wt%であるWPU+およびWPU-ポリマー分散体(「WPU+/-分散体」)を、それぞれ実施例2および3において記載したプロセスに従って合成した。ISO10993-12に記載されている間接接触法を使用して、in vitro細胞毒性を行った。
【0336】
異なる時点で物品検体から抽出した溶出液を、培養ウェルにおいて細胞層と共に共培養
した。溶出液と共に培養したマウス線維芽細胞L-929細胞は、群の間で正常な増殖を
示し、細胞生存度は、対照群に比べて70%より高かった。試験物は、ISO 1099
3によれば、生細胞の百分率が未処理対照の70%以上であれば、非毒性とみなされる。
特に、一晩硬化させたWPUシーラントの群は、それほどWPU+/-分散体シーラント
から抽出される硬化していない粒子がより少ないため、他の群に比べて高い細胞生存度を
示す。硬化時間が長いほど、細胞生存度は高くなる。
<付記>
項1
水性溶媒と、
水性溶媒中に分散した第1のナノ粒子の集団と
を含み、第1のナノ粒子は、
負または正の電荷、および
1nm~1000nmの三寸法平均サイズを含む、
接着剤組成物。
項2
水性溶媒中に分散した第2のナノ粒子の集団をさらに含み、第2のナノ粒子は、第1の
ナノ粒子とは異なる、
項1に記載の組成物。
項3
第2のナノ粒子が、第1のナノ粒子の電荷とは逆の負または正の電荷を含む、項2に記載の組成物。
項4
第2のナノ粒子が、第1のナノ粒子の平均サイズとは異なる三寸法平均サイズを含む、
項2に記載の組成物。
項5
第1のナノ粒子の平均サイズが100nm~1000nmである、項4に記載の組成物。
項6
第2のナノ粒子の平均サイズが100nm未満である、項4に記載の組成物。
項7
第1のナノ粒子の平均サイズが140nm~500nmであり、第2のナノ粒子の平均
サイズが100nm未満である、項4に記載の組成物。
項8
第1のナノ粒子の平均サイズと第2のナノ粒子の平均サイズの差が、少なくとも30n
mである、項4に記載の組成物。
項9
第1のナノ粒子の平均サイズと第2のナノ粒子の平均サイズの差が、30nm~900
nmの間である、項4に記載の組成物。
項10
第1および第2のナノ粒子が、球形または実質的に球形である、項2に記載の組成物。
項11
第1のナノ粒子の集団および第2のナノ粒子の集団が、それぞれ、-10mV~-65
mVまたは10mV~65mVの平均ゼータ電位を有する、項2に記載の組成物。
項12
第1のナノ粒子の集団および第2のナノ粒子の集団が、それぞれ、-30mV未満ま
たは30mV超の平均ゼータ電位を有する、項2に記載の組成物。
項13
第1のナノ粒子がポリマーから形成されている、項2に記載の組成物。
項14
第1のナノ粒子が、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成さ
れている、項2に記載の組成物。
項15
第2のナノ粒子がポリマーから形成されている、項2に記載の組成物。
項16
第2のナノ粒子が、ポリウレタン、ポリエステル、またはポリアクリレートから形成さ
れている、項2に記載の組成物。
項17
第1のナノ粒子が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基を有する、項2に記載の組成物。
項18
第1の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホ
スクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシ
ラン基である、項17に記載の組成物。
項19
クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、項18に記載の組成物。
項20
エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、
項18に記載の組成物。
項21
第2のナノ粒子が、第2のナノ粒子の外表面に付いている第2の官能基を有する、項17に記載の組成物。
項22
第2の官能基が、第1のナノ粒子の外表面に付いている第1の官能基と選択的に反応性
である、項21に記載の組成物。
項23
第2の官能基が、ドーパミン基、タンニン基、クリッカブル基、N-ヒドロキシスルホ
スクシンイミド基、マレイミド基、エチレン性不飽和基、アルデヒド基、またはヒドロシ
ラン基である、項21に記載の組成物。
項24
クリッカブル基が、アジド基またはアルキン基である、項23に記載の組成物。
項25
エチレン性不飽和基が、アリル基、アクリレート基、またはメタクリレート基である、
項23に記載の組成物。
項26
塩をさらに含む、前記項のいずれかに記載の組成物。
項27
組成物の固形分が、組成物の総重量を基準として固形分55重量%までである、項1から25のいずれかに記載の組成物。
項28
10,000cP以下の動的粘度を有する、項1から25のいずれかに記載の組成物。
項29
構造化剤、
ゲル化剤、
充填剤、
乳化剤、
固形もしくは液状脂肪剤、または
これらのいずれかの組合せ
の1つまたは複数を含む化粧用に許容される薬剤をさらに含む、項1から25のいずれかに記載の組成物。
項30
非圧縮型ファンデーションパウダーもしくはスティック、圧縮型ファンデーションパウ
ダーもしくはスティック、化粧ペースト、マスカラ、リップスティック、リップグロス、
リップバーム、ネイルエナメル、または化粧クリームである、項29に記載の組成物。
項31
化粧用に許容される薬剤が、着色剤、顔料、光防護剤、二次皮膜形成剤、化粧活性薬剤
、もしくは化粧用アジュバント、またはこれらのいずれかの組合せを含む、項29に記載の組成物。
項32
化粧用アジュバントが、緩和剤、保湿剤、繊維、保存剤、キレート化剤、香粧品香料、
中和剤、またはこれらのいずれかの組合せである、項31に記載の組成物。
項33
充填剤が、ポリアミド粒子、ナイロン繊維、ポリエチレン粉末、微小球をベースとする
アクリルコポリマー、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂粒子、尿素-ホルムアルデヒド樹
脂粒子、ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子、エチレン-アクリレートコポリマー粉末
、エクスパンデッドパウダー、デンプン粉末、シリコーン樹脂マイクロビード、またはこ
れらのいずれかの組合せである、項29のいずれかに記載の組成物。
項34
生体材料を接着する方法であって、
項1から25のいずれかに記載の組成物を、第1の生体材料の第1の表面と第2の生体材料の第2の表面の間に配置することを含み、
組成物によって、第1の生体材料の第1の表面が第2の生体材料の第2の表面に接着され
る、方法。
項35
化粧用組成物を角質性組織に接着する方法であって、
項1から25のいずれかに記載の組成物を、1つまたは複数の角質性組織表面に配置することを含む方法。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A-16B】
図16C-16D】
図17A-17B】
図17C-17D】
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22A
図22B
図23