(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230315BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B35/645 500
(21)【出願番号】P 2021124874
(22)【出願日】2021-07-30
(62)【分割の表示】P 2017044771の分割
【原出願日】2017-03-09
【審査請求日】2021-07-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土佐 晃文
(72)【発明者】
【氏名】若園 誠
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 龍之介
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-063986(JP,A)
【文献】特開平07-069728(JP,A)
【文献】特開平05-279004(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128386(WO,A1)
【文献】特開平04-203888(JP,A)
【文献】特開2006-312561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/645
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のセラミックス部材を備える半導体製造装置用部品の製造方法であって、
セラミックスにより形成された板状のセラミックス成形体を準備する準備工程と、
前記セラミックス成形体を焼成することによって板状のセラミックス焼成体を形成する焼成工程と、
前記セラミックス焼成体の第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面との少なくとも一方に対して第1の加圧部材によって荷重を加えつつ、前記セラミックス焼成体に対して熱間等方加圧を行うことによって前記セラミックス部材を形成する荷重HIP工程と、を含み、
前記荷重HIP工程における前記セラミックス焼成体の密度変化は、1.5%以下であ
り、かつ、
前記荷重HIP工程後の前記セラミックス焼成体の反り量が80μm以下となるように、前記荷重HIP工程において前記第1の加圧部材によって荷重を加えることを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、さらに、
前記荷重HIP工程により形成された前記セラミックス部材とペース板とを接合層を介して接合する接合工程を含むことを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、さらに、
前記荷重HIP工程を行う前に、前記セラミックス焼成体に対して、前記第1の加圧部材より重い第2の加圧部材によって荷重を加えつつ加熱する反り修正工程を含むことを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、
前記第1の加圧部材における少なくとも前記セラミックス焼成体と対向する面の表面粗さは、前記セラミックス焼成体における少なくとも前記第1の加圧部材と対向する面の表面粗さより粗いことを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、
前記焼成工程における焼成温度は、1550℃以上であることを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、
前記荷重HIP工程前における前記セラミックス焼成体の反り量が100(μm)以上である場合、前記荷重HIP工程における前記第1の加圧部材による荷重を、2(kPa)以上とすることを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の半導体製造装置用部品の製造方法において、
前記荷重HIP工程前における前記セラミックス焼成体の反り量が100(μm)未満である場合、前記荷重HIP工程における前記第1の加圧部材による荷重を、0.5(kPa)以上とすることを特徴とする、半導体製造装置用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、半導体製造装置用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状のセラミックス部材を備える半導体製造装置用部品として、ウェハを静電引力により吸着して保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、セラミックスにより形成されたセラミックス板と、例えば金属により形成されたベース板と、セラミックス板とベース板とを接着する接着層とを備える。静電チャックは、内部電極を有しており、内部電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、セラミックス板の表面にウェハを吸着して保持する。
【0003】
このような板状のセラミックス部材を備える半導体製造装置用部品の製造方法として、複数のグリーンシートを積層して圧着し、圧着後の積層体であるセラミックス成形体を焼成し、焼成後のセラミックス焼成体に対して、荷重を加えつつ加熱する反り修正を行う方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体製造装置用部品に用いられるセラミックス部材は、緻密性が要求される。例えば、緻密性が低いセラミックス部材は、半導体製造装置内に発生したプラズマにより損傷して粉塵(パーティクル)を発生し易い。発生した粉塵は、ウェハに付着してウェハの品質を低下させる。また、緻密性が低いセラミックス部材は、耐電圧性が低い。このため、例えば静電チャックにおいて、所定の耐電圧性を確保するためには、チェック電極と吸着面との距離を長くする必要がある。しかし、チェック電極と吸着面との距離を長くすると、静電チャックの吸着性能が低下する。セラミックス部材を緻密化する処理として、公知の熱間等方加圧(Hot Isostatic Pressing 以下、「HIP」という)が考えられる。公知のHIPは、例えばアルゴンガスなどの不活性ガスを圧力媒体とし、ガス圧と加熱との相乗効果を利用して対象物を緻密化させる処理である。
【0006】
この公知のHIPを利用する場合、セラミックス焼成体に対して、HIPを行い、そのHIP後のセラミックス焼成体に対して、荷重を加えつつ加熱する反り修正を行う製造方法が考えられる。しかし、この製造方法では、HIPによりセラミックス焼成体の密度は高くなるが、その密度が高くなる過程でセラミックス焼成体が若干収縮し、その収縮に伴いセラミックス焼成体に反りが発生する。セラミックス焼成体の反りは、その後の反り修正によって低減されるが、反り修正ではセラミックス焼成体が高温で加熱される。このため、HIPによってセラミックス焼成体の緻密性が向上したにもかかわらず、その後の反り修正によってセラミックス焼成体の緻密性が低下するという問題がある。
【0007】
なお、このような課題は、静電チャックに限らず、真空チャックなどの他の保持装置の製造にも共通の課題である。また、このような課題は、保持装置に限らず、サセプタ(加熱装置)やシャワーヘッドなど、板状のセラミックス部材を備える半導体製造装置用部品の製造に共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題の少なくとも1つを解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される半導体製造装置用部品の製造方法は、板状のセラミックス部材を備える半導体製造装置用部品の製造方法であって、セラミックスにより形成された板状のセラミックス成形体を準備する準備工程と、前記セラミックス成形体を焼成することによって板状のセラミックス焼成体を形成する焼成工程と、前記セラミックス焼成体の第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面との少なくとも一方に対して第1の加圧部材によって荷重を加えつつ、前記セラミックス焼成体に対して熱間等方加圧を行うことによって前記セラミックス部材を形成する荷重HIP工程と、を含む。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、焼成後のセラミックス焼成体に対して第1の加圧部材による荷重を加えつつ、該セラミックス焼成体に対してHIPを行う。これにより、従来の製造方法に比べて、HIPにおけるセラミックス焼成体の反りが抑制される。また、HIP後に高温の反り修正を行う必要がないため、反り修正によるセラミックス焼成体の密度の低下を抑制することができる。すなわち、本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、セラミックス部材の緻密化と反り抑制との両立を図ることができる。
【0011】
(2)上記半導体製造装置用部品の製造方法において、さらに、前記荷重HIP工程を行う前に、前記セラミックス焼成体に対して、前記第1の加圧部材より重い第2の加圧部材によって荷重を加えつつ加熱する反り修正工程を含む構成としてもよい。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、セラミックス焼成体に対して、HIPが行われる前に、セラミックス焼成体の反りを修正するための反り修正工程が行われる。これにより、HIPの前に、セラミックス焼成体の反りを低減することができる。
【0012】
(3)上記半導体製造装置用部品の製造方法において、前記第1の加圧部材における少なくとも前記セラミックス焼成体と対向する面の表面粗さは、前記セラミックス焼成体における少なくとも前記第1の加圧部材と対向する面の表面粗さより粗い構成としてもよい。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、第1の加圧部材の対向面の表面粗さが、セラミックス焼成体の対向面の表面粗さより粗いため、荷重HIP工程において第1の加圧部材とセラミックス焼成体との間にガスが進入しやすくなる。また、第1の加圧部材とセラミックス焼成体との間の摩擦力が低いため、セラミックス焼成体の収縮移動が規制されることに起因してセラミックス焼成体にクラックが発生することを抑制することができる。
【0013】
(4)上記半導体製造装置用部品の製造方法において、前記荷重HIP工程における前記セラミックス焼成体の密度変化は、4.0%以下である構成としてもよい。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、荷重HIP工程におけるセラミックス焼成体の密度変化が4.0%より高い場合に比べて、HIPにおけるセラミックス焼成体のクラック発生を抑制することができる。
【0014】
(5)上記半導体製造装置用部品の製造方法において、前記荷重HIP工程前における前記セラミックス焼成体の反り量が100(μm)以上である場合、前記荷重HIP工程における前記第1の加圧部材による荷重を、2(kPa)以上とする構成としてもよい。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、荷重HIP工程後におけるセラミックス焼成体の反り量を、100(μm)未満にすることができる。
【0015】
(6)上記半導体製造装置用部品の製造方法において、前記荷重HIP工程前における前記セラミックス焼成体の反り量が100(μm)未満である場合、前記荷重HIP工程における前記第1の加圧部材による荷重を、0.5(kPa)以上とすることを特徴とする構成としてもよい。本半導体製造装置用部品の製造方法によれば、荷重HIP工程後におけるセラミックス焼成体の反り量を、60(μm)未満にすることができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、静電チャック、真空チャック等の保持装置、サセプタ等の加熱装置、シャワーヘッド等の半導体製造装置用部品、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】本実施形態における静電チャック100の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】HIP装置60の構成を概略的に示す説明図である。
【
図5】各種の製造方法の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0019】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス板10およびベース板20を備える。セラミックス板10とベース板20とは、セラミックス板10の下面(以下、「セラミックス側接着面S2」という)とベース板20の上面(以下、「ベース側接着面S3」という)とが上記配列方向に対向するように配置されている。静電チャック100は、さらに、セラミックス板10のセラミックス側接着面S2とベース板20のベース側接着面S3との間に配置された接着層30を備える。静電チャック100は、特許請求の範囲における半導体製造装置用部品に相当し、セラミックス板10は、特許請求の範囲におけるセラミックス部材に相当する。
【0020】
セラミックス板10は、例えば円形平面の板状部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックス板10の直径は、例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、セラミックス板10の厚さは、例えば2mm~10mm程度である。
【0021】
セラミックス板10の形成材料としては、種々のセラミックスが用いられ得るが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性、後述するベース板20の形成材料との関係等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。
【0022】
セラミックス板10の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された一対の内部電極40が設けられている。一対の内部電極40に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミックス板10の上面(以下、「吸着面S1」という)に吸着固定される。
【0023】
また、セラミックス板10の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ50が設けられている。ヒータ50に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ50が発熱することによってセラミックス板10が温められ、セラミックス板10の吸着面S1に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。なお、ヒータ50は、セラミックス板10の吸着面S1をできるだけ満遍なく温めるため、例えばZ方向視で略同心円状に配置されている。
【0024】
ベース板20は、例えばセラミックス板10と同径の、または、セラミックス板10より径が大きい円形平面の板状部材であり、セラミックスとアルミニウム合金とから構成された複合材料により形成されている。ベース板20の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース板20の厚さは、例えば20mm~40mm程度である。
【0025】
ベース板20の形成材料としては、金属や種々の複合材料が用いられ得る。金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)が用いられることが好ましい。複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。
【0026】
ベース板20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース板20が冷却され、接着層30を介したベース板20とセラミックス板10との間の伝熱によりセラミックス板10が冷却され、セラミックス板10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
【0027】
接着層30は、セラミックス板10とベース板20とを接着している。接着層30の厚さは、例えば0.03mm~1mm程度である。接着層30の構成材料等については後述する。
【0028】
A-2.静電チャック100の製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック100の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態における静電チャック100の製造方法を示すフローチャートであり、
図4は、HIP装置60の構成を概略的に示す説明図である。
【0029】
A-2-1.セラミックス成形体12の準備工程:
はじめに、未焼成の板状のセラミックス成形体12を準備する(S110)。本実施形態では、セラミックス成形体12を、シート積層法またはプレス成形法を用いて作製することによって準備することができる。
【0030】
シート積層法の一例は、次の通りである。まず、平均粒径が約1.0(μm)のAl2O3(アルミナ)とブチラール樹脂と可塑剤と溶剤とを混合してスラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法によって薄膜化することにより、複数のグリーンシートを作製する。作製された各グリーンシートの片面に、ブチルカルビトールとフタル酸ジブチルとを含む溶剤を塗布して複数のグリーンシートを積層することによってシート積層体を作製する。作製されたシート積層体を、約70(℃)、所定の成形圧力で熱圧着することによって、セラミックス成形体12が作製される。なお、セラミックス成形体12には、既知の方法により、タングステン等のメタライズを印刷し積層することにより上述の内部電極40やヒータ50等を内蔵させることが可能である。
【0031】
プレス成形法の一例は、次の通りである。まず、平均粒径が約1.0(μm)のアルミナとポリビニルアルコール樹脂と水とを混合してスラリーを調整する。得られたスラリーをスプレードライによってスプレー顆粒を作製する。作製されたスプレー顆粒を、上記成形圧力で加圧成形することによって、セラミックス成形体12が作製される。
【0032】
A-2-2.セラミックス成形体12に対する焼成工程:
次に、準備したセラミックス成形体12を窒素中で脱脂し、その後、加湿した水素窒素雰囲気中で、所定の焼成温度(例えば1500~1600(℃))で焼成する(S120)。この焼成により、セラミックス焼成体14が形成される。ここで、例えば焼成時の温度ムラ等の要因により、セラミックス焼成体14に反りが発生することがある。
【0033】
A-2-3.セラミックス焼成体14に対する反り修正工程:
次に、セラミックス焼成体14に対して、該セラミックス焼成体14の反りを修正するための反り修正を行う(S130)。具体的には、反り修正では、加湿した水素窒素雰囲気中で、セラミックス焼成体14の上面14Uおよび下面14Dの両面を一対の第2の加圧部材(図示せず)によって挟んで荷重(例えば5(kPa))を加えつつ、所定の処理温度(例えば1550(℃))で加熱する。第2の加圧部材は、セラミックス焼成体14の各表面全体を覆うサイズである。第2の加圧部材は、例えば、カーボン板等でもよいが、例えばタングステンやモリブデンなどによって形成された高融点金属板が好ましい。また、第2の加圧部材は、後述する第1の加圧部材70に比べて、比重が高く、耐熱性の高い材料により形成されている。なお、第2の加圧部材は、後述する第1の加圧部材70と同じ材料により形成されているとしてもよい。セラミックス焼成体14の上面14Uは、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、下面14Dは、特許請求の範囲における第2の表面に相当する。
【0034】
A-2-4.セラミックス焼成体14に対する荷重HIP工程:
反り修正後のセラミックス焼成体14に対して、荷重HIP工程を行う(S140)。荷重HIP工程は、セラミックス焼成体14の上面14Uおよび下面14Dの少なくとも一方に対して第1の加圧部材70によって荷重を加えつつ、セラミックス焼成体14に対してHIPを行う工程(S140)である。
【0035】
図4に示すように、HIP装置60は、ガス導入孔62が開口形成された高圧容器61を備える。高圧容器61の内壁面側には、断熱層(図示せず)が形成されている。また、高圧容器61内に、支持体64と、ヒータ66と、第1の加圧部材70と、セラミックス焼成体14とが収容されている。支持体64は、高圧容器61の底面上に配置されている。セラミックス焼成体14は、該セラミックス焼成体14の下面14Dが支持体64の上面64Uと対向するように、該上面64U上に配置される。ヒータ66は、支持体64の周囲に配置されており、支持体64上に配置されたセラミックス焼成体14を加熱する。第1の加圧部材70は、セラミックス焼成体14の上面14U上に配置され、該セラミックス焼成体14に荷重を加える。第1の加圧部材70は、セラミックス焼成体14の上面14U全体を覆うサイズであることが好ましい。また、第1の加圧部材70は、上述の第2の加圧部材と同様、カーボン板等でもよいが、高融点金属板が好ましい。また、第1の加圧部材70の下面70Dの表面粗さは、セラミックス焼成体14の上面14Uの表面粗さより粗い。
【0036】
不活性ガスGがガス導入孔62から高圧容器61内に導入されるとともに、ヒータ66が発熱すると、セラミックス焼成体14は、加熱されつつ、ガス圧によって内部まで均一に圧縮されることによって、セラミックス焼成体14の密度が高くなる。このとき、セラミックス焼成体14の収縮に伴って、セラミックス焼成体14に反りが発生するおそれがある。しかし、本実施形態では、セラミックス焼成体14に対して第1の加圧部材70による荷重が加えられるため、セラミックス焼成体14に対して荷重を加えない従来のHIPに比べて、HIP中においてセラミックス焼成体14に反りが発生することを抑制することができる。これにより、上面14Uと下面14Dとの平面度が高いセラミックス板10を形成することができる。なお、本実施形態では、第1の加圧部材70による荷重は2(kPa)~10(kPa)であり、HIPのガス圧は約100(MPa)であり、処理温度は1400(℃)である。このように、第1の加圧部材70による荷重は、HIPのガス圧に比べて極めて低いため、第1の加圧部材70による荷重がセラミックス焼成体14の緻密化に与える影響は極めて小さい。
【0037】
次に、セラミックス板10とベース板20とを、接着層30を介して接合する(S150)。具体的には、セラミックス板10に加えて、ベース板20および樹脂系の接着剤(図示せず)を準備する。ベース板20は、アルミニウム合金により形成される。接着剤は、シリコーン系接着剤である。なお、ベース板20および接着剤は、公知の製造方法によって製造可能であるため、ここでは製造方法の説明を省略する。次に、接着剤を介したセラミックス板10とベース板20との積層体を配置し、真空中で加圧しつつ加熱する。これにより、接着剤が硬化して接着層30が形成され、セラミックス板10とベース板20とが接着層30により接着される。その後、必要により後処理(外周や上下面の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、上述した構成の静電チャック100が製造される。
【0038】
A-3.性能評価:
A-3-1.各評価について:
図5は、各種の製造方法の評価結果を示す説明図である。
図5に示すように、本性能評価では、各工程の条件と反り修正の有無との組み合わせが互いに異なる複数の製造方法により製造された13種類のサンプルを用いた。
図5中の各用語の意味は、次の通りである。
「HIP工程」:
上述した公知のHIP工程と、本実施形態における荷重HIP工程とが含まれる。
「密度(g/cm
3)」:
各工程(焼成工程、HIP工程、反り修正工程)におけるセラミックス焼成体14の密度(g/cm
3)の評価結果を意味する。この密度の評価では、セラミックス焼成体14から、内部電極40およびヒータ50等の導体を避けてセラミックス部分を切り出し、このセラミックス部分について公知のアルキメデス法を用いて密度を測定した。
「密度変化(%)」:
HIP工程の前後におけるセラミックス焼成体14の密度変化の評価結果を意味し、次の式で表すことができる。
密度変化(%)=((HIP後の密度-焼成工程後(HIP前)の密度)/焼成工程後の密度)×100
なお、反り修正される場合、焼成工程後の密度と反り修正後の密度とは略同一である。
この密度変化の評価では、同じ製造方法により2つのサンプルを作製し、一方のサンプルについてはHIP工程前に密度を測定し、他方のサンプルについてはHIP工程後の密度を測定し、2つのサンプルについて互いに同じ箇所の密度を比較して、密度変化を算出した。
「反り量(μm)」:
各工程後におけるセラミックス焼成体14の反り量の評価結果を意味する。この反り量の評価では、Nikon(登録商標)製の画像測定システム(NEXIV)を用いて、直径約300(mm)のセラミックス焼成体14の表面上における2500点の高さを測定し、反り量を測定した。
「クラックの発生頻度」:
HIP工程後におけるセラミックス焼成体14のクラックの発生頻度の評価結果を意味する。このクラックの発生頻度の評価では、同じ製造方法により複数のサンプルを作製し、外観検査および超音波探傷検査を用いて、セラミックス焼成体14におけるクラックの発生の有無と発生頻度とを評価した。
なお、焼成工程およびHIP工程における処理時間は、いずれも2時間である。
【0039】
A-3-2.各実施例および各比較例と評価結果とについて:
実施例1~6は、焼成工程およびHIP工程(荷重HIP)を行うが、反り修正を行わない点で共通し、各工程における条件の組み合わせが互いに異なる。なお、実施例1~6における第1の加圧部材70による荷重は、2(kPa)~10(kPa)である。実施例1~6について、密度の評価と反り量の評価との結果によれば、荷重HIP前では、セラミックス焼成体14の密度は3.80(g/cm3)~3.92(g/cm3)であり、反り量は250(μm)~320(μm)であったが、荷重HIP後では、密度は3.97(g/cm3)~3.98(g/cm3)に向上し、反り量は40(μm)~80(μm)に軽減された。これは、セラミックス焼成体14に対して、荷重HIPを行うことにより、セラミックス板10の緻密化と反り抑制との両立を図ることができることを意味する。ただし、クラックの発生頻度の評価によれば、密度変化が4.0%以下であった実施例1~3,5,6では、クラックの発生は検出されなかったが、密度変化が4.0%を超えた実施例4だけ、サンプル5につき1個の割合でクラックの発生が検出された。これは、密度変化が4.0%を超えると、荷重HIPにおいて、セラミックス焼成体14にクラックが発生する可能性が高くなることを意味する。
【0040】
実施例7~10は、焼成工程とHIP工程との間に反り修正を行う点で、上述の実施例1~6とは相違する。実施例7~10について、密度の評価と反り量の評価との結果によれば、焼成工程後では、セラミックス焼成体14の密度は3.92(g/cm3)であり、反り量は240(μm)~300(μm)であった。しかし、その後の反り修正により、セラミックス焼成体14の反り量が50(μm)~60(μm)に軽減され、その反り量が軽減されたセラミックス焼成体14に対して、荷重HIPが行われた。なお、実施例7~8における第1の加圧部材70による荷重は、0.5(kPa)であり、実施例1~6に比べて軽い。そして、荷重HIP後では、セラミックス焼成体14の密度は3.97(g/cm3)~3.98(g/cm3)に向上し、反り量は40(μm)~50(μm)に軽減された。これは、セラミックス焼成体14に対して荷重HIP前に反り修正を行うことにより、荷重HIP前に反り修正を行わない場合(実施例1~6)に比べて、荷重HIPにおける荷重を軽減してもセラミックス焼成体14の密度を同程度にすることができることを意味する。しかも、実施例7~10では、実施例1~6に比べて、荷重HIP後におけるセラミックス焼成体14の反り量がさらに軽減、また、反り量を同程度にすることができる。
【0041】
比較例1,2は、焼成工程とHIP工程との間に反り修正を行う点で、上述の実施例7~10と共通するが、HIP工程において公知のHIPを行う点で、上述の実施例1~10とは相違する。比較例1,2について、密度の評価と反り量の評価との結果によれば、焼成工程後では、セラミックス焼成体14の密度は3.92(g/cm3)であり、反り量は260(μm)~290(μm)であった。その後の反り修正により、セラミックス焼成体14の反り量が40(μm)~50(μm)に軽減され、その反り量が軽減されたセラミックス焼成体14に対して、公知のHIPが行われた。この公知のHIPにより、セラミックス焼成体14の密度は3.97(g/cm3)~3.98(g/cm3)に向上したが、反り量が190(μm)~220(μm)に増大した。これは、セラミックス焼成体14に対して、公知のHIPの前に反り修正をしても、セラミックス焼成体14に対して荷重を加えない公知のHIPにより、セラミックス焼成体14の反り量が却って増大することを意味する。
【0042】
比較例3は、HIP工程において公知のHIPを行う点と、公知のHIP後に反り修正を行う点とで、上述の実施例1~10とは相違する。比較例3について、密度の評価と反り量の評価との結果によれば、焼成工程後では、セラミックス焼成体14の密度は3.92(g/cm3)であり、反り量は220(μm)であった。その後の公知のHIPにより、セラミックス焼成体14の密度は3.97(g/cm3)に向上したが、反り量が140(μm)に軽減した。さらに、公知のHIP後の反り修正により、セラミックス焼成体14の反り量が70(μm)に軽減されたが、密度は3.93(g/cm3)に低下した。これは、公知のHIP後、別途、反り修正を行うと、セラミックス焼成体14の反り量は軽減されるが、密度が低下することを意味する。
【0043】
A-4.本実施形態の効果:
上述したように、本実施形態の静電チャック100の製造方法では、焼成後のセラミックス焼成体14に対して第1の加圧部材70による荷重を加えつつ、該セラミックス焼成体14に対してHIPを行う。これにより、従来の製造方法に比べて、HIPにおけるセラミックス焼成体14の反りが抑制される。また、HIP後に高温の反り修正を行う必要がないため、反り修正によるセラミックス焼成体14の密度の低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態の製造方法によれば、セラミックス板10の緻密化と反り抑制との両立を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態の製造方法によれば、セラミックス焼成体14に対して、HIP(S140)が行われる前に、セラミックス焼成体14の反りを修正するための反り修正工程(S130)が行われる。これにより、HIPの前に、セラミックス焼成体14の反りが低減されるため、HIPにおける第1の加圧部材70による荷重を低減できる。
【0045】
本実施形態の製造方法によれば、第1の加圧部材70の対向面の表面粗さが、セラミックス焼成体14の対向面の表面粗さより粗いため、荷重HIP工程(S140)において第1の加圧部材70とセラミックス焼成体14との間にガスが進入しやすくなる。また、第1の加圧部材70とセラミックス焼成体14との間の摩擦力が低いため、セラミックス焼成体14の収縮移動が規制されることに起因してセラミックス焼成体14にクラックが発生することを抑制することができる。
【0046】
本実施形態の製造方法によれば、荷重HIP工程(S140)におけるセラミックス焼成体14の密度変化は、4.0%以下であることが好ましい。これにより、同密度変化が4.0%より高い場合に比べて、HIPにおけるセラミックス焼成体14のクラック発生を抑制することができる。
【0047】
また、荷重HIP工程(S140)前におけるセラミックス焼成体14の反り量が100(μm)以上である場合、荷重HIP工程(S140)における第1の加圧部材70による荷重を、2(kPa)以上とすることが好ましい。これにより、荷重HIP工程(S140)後におけるセラミックス焼成体14の反り量を、100(μm)未満にすることができる。
【0048】
一方、荷重HIP工程(S140)前におけるセラミックス焼成体14の反り量が100(μm)未満である場合、荷重HIP工程(S140)における第1の加圧部材70による荷重を、0.5(kPa)以上、2(kPa)未満とすることが好ましい。これにより、荷重HIP工程(S140)後におけるセラミックス焼成体14の反り量を、60(μm)未満にすることができる。
【0049】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
上記実施形態における静電チャック100の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上述した
図3に示す製造方法において、セラミックス焼成体14の焼成工程(S120)の後、反り修正工程(S130)を行わずに、荷重HIP工程(S140)を行うとしてもよい。また、荷重HIP工程(S140)の後に、反り修正工程を行うとしてもよい。このような場合でも、荷重HIP工程(S140)ではHIP中におけるセラミックス焼成体14の反りが抑制されるため、その後の反り修正における荷重を軽くできる分だけ、反り修正におけるセラミックス焼成体14の密度低下を抑制することができる。
【0051】
また、
図3の荷重HIP工程(S140)において、第1の加圧部材70の下面70Dの表面粗さは、セラミックス焼成体14の上面14Uの表面粗さより粗くなくてもよい。要するに、第1の加圧部材70の下面70Dの表面粗さとセラミックス焼成体14の上面14Uの表面粗さのどちらかの表面粗さが粗ければよい。例えば、第1の加圧部材70の下面70Dおよびセラミックス焼成体14の上面14Uの一方の面の粗さ(Rmax)が、10(μm)より大きく、かつ、該一方の面の粗さが他方の面の粗さより粗ければよい。これにより、荷重HIP工程において第1の加圧部材70とセラミックス焼成体14との間に不活性ガスGが進入しやすくなる。また、第1の加圧部材70とセラミックス焼成体14との間の摩擦力が低いため、セラミックス焼成体14の収縮移動が規制されることに起因してセラミックス焼成体14にクラックが発生することを抑制することができる。
【0052】
また、
図3の荷重HIP工程(S140)において、第1の加圧部材70を、他の部材を介してセラミックス焼成体14上に配置することによって間接的にセラミックス焼成体14に荷重を加えるとしてもよい。
【0053】
上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで一例であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
【0054】
上記実施形態において、セラミックス板10は、内部電極40やヒータ50等の導体を備えない構成であるとしてもよい。
【0055】
また、本発明は、静電チャック100を構成するセラミックス板10に限らず、例えばサセプタ(加熱装置)やシャワーヘッドなどの半導体製造装置用部品を構成するセラミックス部材にも適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10:セラミックス板 12:セラミックス成形体 14:セラミックス焼成体 14D:下面 14U:上面 20:ベース板 21:冷媒流路 30:接着層 40:内部電極 50:ヒータ 60:HIP装置 61:高圧容器 62:ガス導入孔 64:支持体 64U:上面 66:ヒータ 70:第1の加圧部材 70D:下面 100:静電チャック G:不活性ガス S1:吸着面 S2:セラミックス側接着面 S3:ベース側接着面 W:ウェハ