(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】マレイミド系共重合体、その製造方法、樹脂組成物及び射出成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 8/32 20060101AFI20230315BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20230315BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20230315BHJP
C08F 222/00 20060101ALI20230315BHJP
C08L 35/06 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C08F8/32
C08L55/02
C08L51/04
C08F222/00
C08L35/06
(21)【出願番号】P 2021530698
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2020026539
(87)【国際公開番号】W WO2021006265
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2019128312
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中西 崇一朗
(72)【発明者】
【氏名】松本 真典
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0241277(US,A1)
【文献】特開平10-053620(JP,A)
【文献】特開平10-067825(JP,A)
【文献】特開平06-093043(JP,A)
【文献】特表2010-505022(JP,A)
【文献】特開2001-329026(JP,A)
【文献】イミレックス-P イミレックス-C ポリイミレックスシリーズ,日本,株式会社日本触媒,2014年07月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して共重合を開始させる初期重合工程と、
芳香族ビニル単量体の残りの50~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の残り全量を、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける中期重合工程と、
芳香族ビニル単量体の残り全量を添加して芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位及びジカルボン酸無水物単量体単位を有する共重合体を得る終期重合工程と、
得られた共重合体のジカルボン酸無水物単量体単位をアンモニア又は第1級アミンを用いてマレイミド単量体単位にイミド化するイミド化工程を有する、
芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位7質量%以上20質量%以下、及びマレイミド単量体単位から構成されるマレイミド系共重合体であり、ガラス転移温度が165℃~200℃で、JIS K 7210に記載された方法で測定された、265℃、98N荷重の条件下でのメルトマスフローレートが25~80g/10分であるマレイミド系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)は、その優れた機械的強度、外観、耐薬品性、成形性等を活かし、自動車、家電、OA機器、住宅部材、日用品などに幅広く使用されている。自動車の内装材のように耐熱性が要求される用途では、耐熱付与材としてマレイミド系共重合体を配合したABS樹脂も用いられている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0002】
しかし、マレイミド系共重合体を配合したABS樹脂は、耐薬品性が低いという欠点があり、それを克服するためにシアン化ビニル単量体を共重合したマレイミド系共重合体が提案されている(例えば特許文献3、特許文献4)。現在提案されているシアン化ビニル単量体を共重合した共重合体は高い耐熱性を有する一方、流動性をさらに向上させたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-98536号公報
【文献】特開昭57-125242号公報
【文献】特開2004-339280号公報
【文献】特開2007-9228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐薬品性、耐熱付与性、耐衝撃性のバランスを保ちながら、流動性に優れた樹脂組成物が得られるマレイミド系共重合体及びその製造方法を提供するものである。また、マレイミド系共重合体とABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン-アクリル系ゴム共重合樹脂(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合樹脂(AES樹脂)又はスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂(SAN樹脂)から選ばれた1種又は2種以上の樹脂とを混練混合して得られ、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性の物性バランスに優れ、また、流動性の高い樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、高いガラス転移温度を有し、かつ高い流動性を持つマレイミド系共重合体を用いれば、樹脂組成物への添加量を増やすことなく、当該樹脂組成物の粘度を低下させることができ、成形の高速化、生産性の向上に貢献すると考えた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有する。
(1)芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、及びマレイミド単量体単位から構成されるマレイミド系共重合体であり、ガラス転移温度が165℃~200℃で、JIS K 7210に記載された方法で測定された、265℃、98N荷重の条件下でのメルトマスフローレートが25~80g/10分であるマレイミド系共重合体。
(2)芳香族ビニル単量体単位40~59.5質量%、シアン化ビニル単量体単位5~20質量%、マレイミド単量体単位35~50質量%を有する(1)に記載のマレイミド系共重合体
(3)マレイミド系共重合体中に、さらに、ジカルボン酸無水物単量体単位0.5~10質量%を有する(1)又は(2)に記載のマレイミド系共重合体。
(4)残存マレイミド単量体の含有量が300ppm未満である(1)~(3)のいずれかに記載のマレイミド系共重合体。
(5)シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して共重合を開始させる初期重合工程と、芳香族ビニル単量体の残りの50~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の残り全量を、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける中期重合工程と、芳香族ビニル単量体の残り全量を添加して芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位及びジカルボン酸無水物単量体単位を有する共重合体を得る終期重合工程と、得られた共重合体のジカルボン酸無水物単量体単位をアンモニア又は第1級アミンを用いてマレイミド単量体単位にイミド化するイミド化工程を有する、(1)~(4)のいずれかに記載のマレイミド系共重合体の製造方法。
(6)(1)~(4)のいずれかに記載のマレイミド系共重合体5~40質量%と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂又はSAN樹脂、から選ばれた1種又は2種以上の樹脂60~95質量%を有する樹脂組成物。
(7)(6)に記載の樹脂組成物を用いた射出成形体。
(8)自動車の内装部材又は外装部材として使用される(7)に記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、耐薬品性、耐熱付与性、耐衝撃性のバランスを保ちながら、流動性に優れた樹脂組成物が得られるマレイミド系共重合体及びその製造方法が得られる。また、マレイミド系共重合体とABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂又はSAN樹脂から選ばれた1種又は2種以上の樹脂とを混練混合して得られる、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性の物性バランスに優れ、また、流動性の高い樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<用語の説明>
本願明細書において、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、及びマレイミド単量体単位を有するものである。
【0010】
マレイミド系共重合体に用いることのできる芳香族ビニル単量体は、樹脂組成物の色相を向上させるために用いるものであり、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレンがある。これらの中でも色相を向上させる効果が高いスチレンが好ましい。芳香族ビニル単量体は、単独でも良いが2種以上を併用しても良い。
【0011】
マレイミド系共重合体に含まれる芳香族ビニル単量体単位の量は、40~59.5質量%が好ましく、さらに好ましくは45~55質量%である。具体的には例えば、40、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、59.5質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。芳香族ビニル単量体単位の量を40質量%以上にすることで得られる樹脂組成物の色相が黄色味を帯びることがなく、59.5質量%以下とすることで得られる樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。
【0012】
マレイミド系共重合体に用いることのできるシアン化ビニル単量体は、樹脂組成物の耐薬品性を向上させるために用いるものであり、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリルがある。これらの中でも耐薬品性を向上させる効果が高いアクリロニトリルが好ましい。シアン化ビニル単量体は単独でも良いが2種以上を併用しても良い。
【0013】
マレイミド系共重合体に含まれるシアン化ビニル単量体単位の量は、5~20質量%が好ましく、さらに好ましくは、7~15質量%である。具体的には例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。シアン化ビニル単量体単位の量を5質量%以上とすることで得られる樹脂組成物の耐薬品性が向上し、20質量%以下とすることで得られる樹脂組成物の色相が黄色味を帯びることがない。
【0014】
マレイミド系共重合体に用いることのできるマレイミド単量体は、樹脂組成物の耐熱性を向上させるために用いるものであり、例えば、N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-アルキルマレイミド、及びN-フェニルマレイミド、N-クロルフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミドがある。これらの中でも、耐熱性を向上させる効果が高いN-フェニルマレイミドが好ましい。マレイミド単量体は、単独でも良いが2種以上を併用しても良い。マレイミド系共重合体にマレイミド単量体単位を含有させるには、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及びマレイミド単量体を共重合させればよい。また、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び後述する不飽和ジカルボン酸無水物単量体を共重合させた共重合体の不飽和ジカルボン酸無水物単量体に由来するジカルボン酸無水物単量体単位をアンモニア又は第1級アミンでイミド化してもよい。
【0015】
マレイミド系共重合体に含まれるマレイミド単量体単位の量は、35~50質量%が好ましく、さらに好ましくは、37~45質量%である。具体的には例えば、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。マレイミド単量体単位の量を35質量%にすることで得られるマレイミド系共重合体の耐熱性が向上し、50質量%以下とすることで得られるマレイミド系共重合体の衝撃強度が低下しない。
【0016】
マレイミド系共重合体は、マレイミド系共重合体と他の樹脂との相溶性を向上させる効果があるジカルボン酸無水物単量体単位を含有していてもよい。ジカルボン酸無水物単量体単位をマレイミド系共重合体に導入するには、上述の単量体とともに不飽和ジカルボン酸無水物単量体を共重合したり、上述の芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体を共重合させた共重合体をイミド化する際に、ジカルボン酸無水物単量体単位が残存するようにイミド化率を調整すればよい。不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては、例えば、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、アコニット酸無水物がある。これらの中でも相溶性を向上させる効果が高いマレイン酸無水物を用いることが好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物単量体は単独で用いても良いが2種以上を併用しても良い。
【0017】
マレイミド系共重合体に含まれるジカルボン酸無水物単量体単位の量は、0.5~10質量%が好ましく、より好ましくは0.1~2質量%である。具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ジカルボン酸無水物単量体単位の量を0.5質量%以上とすることで得られるマレイミド系共重合体とABS等の樹脂との相溶性が向上し、10質量%以下とすることで得られる樹脂組成物の熱安定性が向上する。
【0018】
マレイミド系共重合体は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、マレイミド単量体及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体以外の共重合可能な単量体を、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合させても良い。マレイミド系共重合体に共重合可能な単量体とは、例えば、メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル、ブチルアクリル酸エステル等のアクリル酸エステル単量体、メチルメタクリル酸エステル、エチルメタクリル酸エステル等のメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸単量体、アクリル酸アミド及びメタクリル酸アミドがあげられる。マレイミド系共重合体に共重合可能な単量体は、単独でも良いが2種以上を併用しても良い。
【0019】
マレイミド系共重合体に含まれる残存マレイミド単量体量は、300ppm未満が好ましく、より好ましくは230ppm未満、さらに好ましくは200ppm未満である。残存マレイミド単量体量を300ppm未満とすることで、得られる樹脂組成物の色相がさらに良好になる。
残存マレイミド単量体量は、以下記載の条件で測定した値である。
装置名:ガスクロマトグラフ GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB-5ms(アジレント・テクノロジー株式会社製)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
手順:試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをガスクロマトグラフに注入する。得られたマレイミド単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
【0020】
マレイミド系共重合体のガラス転移温度は、ABS樹脂やASA樹脂などの混練混合する樹脂の耐熱性を効率的に向上させるという点で、165℃~200℃であり、好ましくは170℃~200℃、さらに好ましくは175℃~185℃である。具体的には例えば、165、170、175、176、177、178、179、180、185、190、195、200℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ガラス転移温度はDSCにて測定される値であり、下記記載の測定条件における測定値である。
装置名:示差走査熱量計 Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
【0021】
マレイミド系共重合体のガラス転移温度を高くするには、マレイミド系共重合体に含まれるマレイミド単量体単位の含有量を多くしたり、ガラス転移温度が高くなる他のモノマーを共重合させれば良い。
【0022】
マレイミド系共重合体のメルトマスフローレートはJIS K 7210に記載された方法で測定された、265℃、98N荷重の条件下で測定した値であり、25~80g/10分である。具体的には例えば、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、60、65、70、75、80g/10分であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。25g/10分に満たないと、混合樹脂の流動性が低下し、80g/10分を超えると耐衝撃性が低下する。
【0023】
マレイミド系共重合体のメルトマスフローレートを低くするには、マレイミド系共重合体に含まれるジカルボン酸無水物単量体単位の含有量を多くしたり、メルトマスフローレートが低くなる他のモノマーを共重合させれば良い。
【0024】
マレイミド系共重合体の重合方法は、例えば、溶液重合、塊状重合等がある。分添等を行いながら重合することで共重合組成がより均一なマレイミド系共重合体を得られるという観点から、溶液重合が好ましい。溶液重合の溶媒は、副生成物が出来難く悪影響が少ないという観点から非重合性であることが好ましく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンがあり、マレイミド系共重合体の脱揮回収時における溶媒除去の容易性から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。重合プロセスは、連続重合式、バッチ式(回分式)、半回分式のいずれも適用できる。
【0025】
マレイミド系共重合体の製造方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくはラジカル重合により得ることができ、重合温度は80~150℃の範囲であることが好ましい。重合開始剤としては特に限定されるものではないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル等の公知のアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル-3,3-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の有機過酸化物を用いることができ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。重合の反応速度や重合率制御の観点から、10時間半減期が70~120℃であるアゾ化合物や有機過酸化物を用いるのが好ましい。重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、全単量体単位100質量%に対して0.1~1.5質量%使用することが好ましく、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。重合開始剤の使用量が0.1質量%以上であれば十分な重合速度が得られ、1.5質量%以下であれば重合反応制御が容易になり目標とする重量平均分子量のマレイミド系共重合体を得ることが容易になる。
マレイミド系共重合体の重量平均分子量は、5万~30万であり、好ましくは5万~20万である。具体的には例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30万であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。重量平均分子量が5万以下であれば耐衝撃性が低下し、30万を超えると流動性が低下する。
【0026】
マレイミド系共重合体の製造には、連鎖移動剤を使用することが出来る。使用される連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸エチル、リモネン、ターピノーレンがある。連鎖移動剤の使用量は、目標とする重量平均分子量のマレイミド系共重合体が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、共重合する全単量体100質量%に対して0.01~0.8質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。連鎖移動剤の使用量が0.01質量%~0.8質量%であれば、目標とする重量平均分子量のマレイミド系共重合体を容易に得ることができる。
【0027】
マレイミド系共重合体にマレイミド単量体単位を導入する方法としては、マレイミド単量体と、他の単量体とを共重合する方法(直接法)、或いは不飽和ジカルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体とを予め共重合しておき、更にアンモニア又は第1級アミンで共重合体中のジカルボン酸無水物単量体単位をイミド化させてマレイミド単量体単位に変換する方法(後イミド化法)がある。後イミド化法の方が、共重合体中の残存マレイミド単量体量が少なくなるので好ましい。
【0028】
第1級アミンとは、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン等のアルキルアミン類及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン等の芳香族アミンがあり、この中でもアニリン、シクロヘキシルアミンが好ましい。これらの第1級アミンは、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用しても良い。第1級アミンの添加量は特に限定されるものではないが、ジカルボン酸無水物単量体単位に対して好ましくは0.7~1.1モル当量、さらに好ましくは0.85~1.05モル当量である。マレイミド系共重合体中のジカルボン酸無水物単量体単位に対して0.7モル当量以上であれば、熱安定性が良好となるため好ましい。また、1.1モル当量以下であれば、マレイミド系共重合体中に残存する第1級アミン量が低減するため好ましい。
【0029】
マレイミド単量体単位を後イミド化法で導入する際、アンモニア又は第1級アミンと共重合体中のジカルボン酸無水物単量体単位との反応、特にジカルボン酸無水物単量体単位からマレイミド単量体単位に変換する反応において、脱水閉環反応を向上させる目的で必要に応じて触媒を使用する事ができる。触媒の種類は特に限定されるものではないが、例えば第3級アミンを使用する事ができる。第3級アミンとしては特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N、N-ジメチルアニリン、N、N-ジエチルアニリンが挙げられる。第3級アミンの添加量は特に限定されるものではないが、ジカルボン酸無水物単量体単位に対し、0.01モル当量以上が好ましい。本発明におけるイミド化反応の温度は好ましくは100~250℃であり、さらに好ましくは120~200℃である。イミド化反応の温度が100℃以上であれば、反応速度が十分に早く生産性の面から好ましい。イミド化反応の温度が250℃以下であればマレイミド系共重合体の熱劣化による物性低下を抑制できるため好ましい。
【0030】
後イミド化法で重合する場合、イミド化前の共重合体を得るために、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体を重合初期に全量仕込んで重合することも出来るが、芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸無水物単量体とは交互共重合性が強いため、重合前期に芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸無水物単量体が消費されてしまい、重合後期にシアン化ビニル単量体単位の多い共重合体が生成しやすくなることがある。その結果、得られるマレイミド系共重合体の色相が悪化する場合や組成分布が大きくなりABS樹脂等混練混合した際、相溶性が欠如して物性上好ましくないものとなる場合がある。そのため色相が良好で組成分布が小さいマレイミド系共重合体を得るには、次の各工程を経ることが好ましい。
初期重合工程:シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して重合初期に仕込み共重合を開始させる
中期重合工程:芳香族ビニル単量体の仕込み量の残りと、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の残りを、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける
終期重合工程:芳香族ビニル単量体の分割又は連続的に添加する量の1/10以上を不飽和ジカルボン酸無水物単量体の全量を仕込み終えた後に添加して重合させる
イミド化工程:得られた芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位及びジカルボン酸無水物単量体単位を有する共重合体をアンモニア又は第1級アミンでイミド化してマレイミド系共重合体を得る
【0031】
マレイミド系共重合体の溶液重合終了後の溶液或いは後イミド化終了後の溶液から、溶液重合に用いた溶媒や未反応の単量体などの揮発分を取り除く方法(脱揮方法)は、公知の手法が採用できる。例えば、加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機を用いることができる。脱揮された溶融状態のマレイミド系共重合体は、造粒工程に移送され、多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット状に加工することができる。
【0032】
このようにして得られるマレイミド系共重合体は、各種樹脂と混練混合することで、得られる樹脂組成物の耐熱付与剤として用いることができる。各種樹脂としては、特に限定されるものではないが、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂がある。マレイミド系共重合体とこれらの樹脂とは優れた相溶性を有していることから、高い耐熱付与効果が得られる。マレイミド系共重合体とこれらの樹脂の配合割合は、マレイミド系共重合体5~40質量%、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上の樹脂60~95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、マレイミド系共重合体10~30質量%、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上の樹脂70~90質量%である。
【0033】
マレイミド系共重合体の配合割合がこの範囲であれば、樹脂組成物の耐熱性を向上させる効果が得られ、かつ、樹脂組成物の耐薬品性や色相が低下しない。
マレイミド系共重合体と各種樹脂を混練混合する方法については、特に限定されるものではないが、公知の溶融混練技術を用いることができる。好適に使用できる溶融混練装置としては、単軸押出機、完全噛合形同方向回転二軸押出機、完全噛合形異方向回転二軸押出機、非又は不完全噛合形二軸押出機などのスクリュー押出機、バンバリーミキサー、コニーダー及び混合ロールなどがある。
マレイミド系共重合体とこれらの樹脂とを混練混合する際に、さらに安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、ガラス繊維、無機充填剤、着色剤、帯電防止剤等を添加しても差し支えない。
【0034】
樹脂組成物は、流動性に優れることから、射出成形体の用途に適している。
射出成形体としては、例えば、テレビ、複写機、電話機、時計、冷蔵庫、掃除機、エアコン、洗濯機、PC、DVD/ブルーレイプレイヤー、オーディオ、ドライヤー、キーボード、タブレット、デジタルカメラ、アタッシュケース、パチンコ台、家庭用ゲーム機、その他電化製品等の筐体/外装材、メーターケース、インストルメントパネル、レジスター、コントロールスイッチ、コンソールボックス、バンパーモール、ルーフレール、エンブレム、ダッシュボードトリム、電子エンクロージャー、ホイールキャップ、ホイールカバー、フェンダーフレアー、ドアハンドル、ドアパネル、ドアミラー、リアランプハウジング、ヘッドランプハウジング、ランプカバー、ルーフスポイラー、リアスポイラー、アンテナカバー、フロントグリル、ラジエーターグリル、センターコンソール、カーオーディオ、カーナビ、その他の自動車内外装材、カーポート部材、サッシ、ドアキャップ、ドア取手、フェンス部材、システムラック、スノコ、便座、窓枠、化粧パネル、洗面化粧台、ラチスフェンス、テラスデッキ、ベンチ等の住宅部材、食品用トレイ、おもちゃ、スポーツ用品、家具、楽器、半導体搬送用容器、プラズマ集塵ユニット、等の日用品部材、の部材が挙げられる。中でも、高耐熱性が要求される自動車内外装材に適しており、流動性に優れることから、ランプハウジングやスポイラーなど大型射出成形体に適している。
【実施例】
【0035】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<マレイミド系共重合体(A-1)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン20.3質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-1を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0037】
<マレイミド系共重合体(A-2)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物25質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン2質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン17.7質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-2を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0038】
<マレイミド系共重合体(A-3)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物35質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン2質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン21.3質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-3を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0039】
<マレイミド系共重合体(A-4)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物24質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン13質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン17.4質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-4を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0040】
<マレイミド系共重合体(A-5)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.8質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン19.8質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-5を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0041】
<マレイミド系共重合体(A-6)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.11質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン20.7質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-6を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0042】
<マレイミド系共重合体(A-7)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン17.2質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-7を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0043】
<マレイミド系共重合体(A-8)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル15質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン1質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン19.8質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-8を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0044】
<マレイミド系共重合体(B-1)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.01質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン20.3質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-1を得た。得られたマレイミド系共重合体B-1の分析結果を表1に示す。
【0045】
<マレイミド系共重合体(B-2)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.01質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物27質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン10質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン18.9質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-2を得た。得られたマレイミド系共重合体B-2の分析結果を表1に示す。
【0046】
<マレイミド系共重合体(B-3)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物20質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン17質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン13.3質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-3を得た。得られたマレイミド系共重合体B-3の分析結果を表1に示す。
【0047】
<マレイミド系共重合体(B-4)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン16.6質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-4を得た。得られたマレイミド系共重合体B-4の分析結果を表1に示す。
【0048】
<マレイミド系共重合体(B-5)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.9質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン19.8質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-5を得た。得られたマレイミド系共重合体B-5の分析結果を表2に示す。
【0049】
<マレイミド系共重合体(B-6)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部、α-メチルスチレンダイマーを0.9質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物27質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン10質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン18.4質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体B-6を得た。得られたマレイミド系共重合体B-6の分析結果を表2に示す。
【0050】
<マレイミド系共重合体(B-7)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中にスチレン20質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート 0.1質量部、α-メチルスチレンダイマー を0.6質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。 昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物31質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン6質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン12.6質量部、トリエチルアミン0.2質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-1を得た。得られたマレイミド系共重合体の分析結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定されるポリスチレン換算の値であり、次の条件で測定した。
装置名:SYSTEM-21Shodex(昭和電工株式会社製)
カラム:PLgelMIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL製)を用いて作成した。
【0054】
(メルトマスフローレート:MFR)
メルトマスフローレートは、JIS K 7210に準拠して、265℃、98N荷重にて測定した。
【0055】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、JIS K-7121に準拠して、以下の装置及び測定条件によりマレイミド系共重合体の中間点ガラス転移温度(Tmg)を測定した。
装置名:Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
【0056】
(残存マレイミド単量体量)
試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをガスクロマトグラフに注入する。得られたマレイミド単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出した。
装置名:ガスクロマトグラフ GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB-5ms(アジレント・テクノロジー株式会社製)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
【0057】
<実施例・比較例>
実施例1~8、比較例1~6(マレイミド系共重合体とABS樹脂との混練混合)
マレイミド系共重合体A-1~A-8、及びB-1~B-6、一般に市販されているシアン化ビニル単量体単位を有しないマレイミド系共重合体である「MS-NIP」(デンカ株式会社製)と、ABS樹脂「GR-3000」(デンカ株式会社製)もしくはASA樹脂「Luran S 757G」(INEOS Styrolution株式会社製)とを表3及び表4に示した配合割合でブレンドした後、二軸押出機(東芝機械株式会社製 TEM-35B)を用いて押出しペレット化した。このペレットを使用し、射出成形機により試験片を作成して、各物性値の測定を行った。結果を表3及び表4に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
(シャルピー衝撃強度)
JIS K-7111に準拠して、ノッチあり試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して相対湿度50%、雰囲気温度23℃で測定した。なお、測定機は株式会社東洋精機製作所製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0061】
(ビカット軟化点)
JIS K7206に準拠して、50法(荷重50N、昇温速度50℃/時間)で試験片は10mm×10mm、厚さ4mmのものを用いて測定した。なお、測定機は株式会社東洋精機製作所製HDT&VSPT試験装置を使用した。
【0062】
(メルトマスフローレート:MFR)
JIS K 7210に準拠して、220℃、98N荷重にて測定した。
【0063】
(耐薬品性)
試験片形状316×20×2mm、長半径250mm、短半径150mmの1/4楕円法により、23℃、48時間後のクラックを観察した。試験片は成形ひずみの影響を排除するため、260℃にてペレットをプレス成形して、切り出して製造した。薬品はトルエンを用いて行った。
なお、臨界ひずみは下記式にて求めた。
ε=b/2a2{1-(a2-b2)X2/a4}1.5×t×100
臨界ひずみ:ε、長半径:a、短半径:b、試験厚み:t、クラック発生点:X
臨界ひずみから下記基準にて耐薬品性を評価した。
◎:0.8以上、○:0.6~0.7、△:0.3~0.5、×:0.2以下
【0064】
本発明のA-1からA-8のマレイミド系共重合体は、実施例1~実施例8のように、組成物中のマレイミド単量体単位の含有量を低減することなく、重量平均分子量を低下させることで、高いガラス転移温度と高いメルトマスフローレートを実現した。ただし、重量平均分子量を一定以上下げると、比較例5や比較例6のように、耐熱性の低下や耐薬品性の低下がみられた。本発明の範囲に満たないB-1~B-6のマレイミド系共重合体は、本発明の請求範囲から外れており、これらマレイミド系共重合体とABS樹脂とを混練混合した比較例1~比較例6の樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、耐熱性、耐薬品性のいずれかが劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のマレイミド系共重合体は、相溶するABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂と混連混合することで耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、流動性の物性バランスに優れた樹脂組成物を得ることができ、かつ混合樹脂の流動性を高めることができるため、成型の高速化、生産速度向上ができる。