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特許7245337メチルグリシンN,N二酢酸の脆弱相組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】メチルグリシンN,N二酢酸の脆弱相組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/16 20060101AFI20230315BHJP
   C07C 227/42 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C07C229/16
C07C227/42
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021535898
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019085755
(87)【国際公開番号】W WO2020127349
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】18215420.3
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ショーマッカー,エルウィン
(72)【発明者】
【氏名】ヘーレン,ファン,パウルス,ヨハネス,コルネリス
(72)【発明者】
【氏名】ヘウス,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】イプマ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】オーデンホーヴェン,ステイン,リチャード,ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ドッペン,ロイ ジェラルド
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522168(JP,A)
【文献】国際公開第2018/153876(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/168739(WO,A1)
【文献】特表2020-526510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱相組成物であって、前記組成物の総重量に対して、
(i)70~87重量%の有機化合物およびその塩であって、全有機化合物およびその塩に対して85~100重量%のMGDA-Na3を含有し、前記MGDA-Na3の少なくとも60重量%が結晶性である、有機化合物およびその塩、ならびに
(ii)13~30重量%の水
を含有する、脆弱相組成物。
【請求項2】
前記組成物の総重量に対して、
(i)70~80重量%の有機化合物およびその塩であって、全有機化合物およびその塩に対して85~100重量%のMGDA-Na3を含有し、前記MGDA-Na3の少なくとも60重量%が結晶性である、有機化合物およびその塩、ならびに
(ii)20~30重量%の水
を含有する、請求項1に記載の脆弱相組成物。
【請求項3】
前記組成物の総重量に対して、75~80重量%の有機化合物およびその塩を含有する、請求項1または2に記載の脆弱相組成物。
【請求項4】
前記有機化合物およびその塩が、全有機化合物に対して、90重量%超のMGDA-Na3を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の脆弱相組成物。
【請求項5】
結晶性である前記MGDA-Na3は、全結晶性MGDA-Na3の含有量に対して、少なくとも75%が結晶タイプIであり、
結晶タイプIは、以下:
【表1】
の回折パターンで定義される請求項1~4のいずれか1項に記載の脆弱相組成物。
【請求項6】
50~80%のL鏡像異性体のMGDAおよび20~50%のD鏡像異性体のMGDAを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の脆弱相組成物。
【請求項7】
MGDA-Na3の水性組成物を固体MGDA-Na3と一緒にすることによる、請求項1~6のいずれか1項に記載の脆弱相組成物を調製する方法。
【請求項8】
前記水性組成物が、35~60重量%のMGDA-Na3を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の脆弱相組成物を乾燥するステップを含む、固体結晶性MGDA-Na3を調製する方法。
【請求項10】
前記固体結晶性MGDA-Na3が、MGDA-Na3の全結晶含有量に対して、90~100%の結晶タイプIを含有し、
結晶タイプIは、以下:
【表2】
の回折パターンで定義される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
乾燥ステップとして、蒸発ステップ、流動床乾燥のステップ、噴霧乾燥のステップ、薄膜乾燥のステップ、ドラム式乾燥のステップ、および噴霧造粒ステップからなる群から選択されるステップを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
得られた結晶性生成物の一部がリサイクルされ、追加の脆弱相組成物を調製する量のMGDA-Na3を含有する水性組成物と混合される、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
連続的に行われる、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる固体結晶性MGDA-Na3生成物であって、50~80%のL鏡像異性体のMGDAを含有し、MGDA-Na3結晶の総量に対して、90~99%の前記結晶タイプIの結晶および1~10%の結晶タイプIIIの結晶を含有
結晶タイプIおよびIIIは、以下:
【表3】
の回折パターンで定義される、固体結晶性MGDA-Na3生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルグリシンN,N二酢酸の三ナトリウム塩であるMGDA-Na3の脆弱相組成物(crumbly phase composition)、このような脆弱相組成物を調製する方法、およびこの脆弱相組成物が乾燥されて、結晶性MGDA-Na3生成物が得られる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルグリシン-N,N-二酢酸の三ナトリウム塩であるMGDA-Na3は、良好な生分解性を有する公知のキレート剤であり、いくつかの用途において使用されている。これらの用途の多くは、固体、好ましくは粒状のMGDA-Na3の使用を含む。例えば、粉末状または錠剤化された食器洗剤用配合物などの固形洗剤組成物を配合する場合、MGDA-Na3構成成分が、乾燥した固体状態で利用可能であることが重要である。
【0003】
固体のMGDA-Na3の調製は、必ずしも直接的ではない。MGDA-Na3の固体の保管も同様に、難題を有する。固体MGDA-Na3は、主にアモルファスである場合、かなり吸湿性が高く、したがって、高湿度条件での保管に影響を受けやすく、この場合、この物質は水を吸収して粘着性物質を生じ、このことにより、これらの固体は急速にその自由流動特性を失うので、固形配合物での使用にはそれほど好適ではなくなる。
【0004】
固体MGDA-Na3の吸湿性は、MGDA-Na3が(主に)結晶形態で存在する場合に一層低くなることが見出された。アモルファス固体ではなく結晶として単離されると、MGDAの自由流動性特性もまた改善される。結晶性MGDA-Na3(メチルグリシン-N,N-二酢酸の三ナトリウム塩)のいくつかの型は当分野で公知であり、XRD分析によって認識可能であり、異なる特徴的な回折パターンを生じる。
【0005】
現在のところ、MGDA-Na3には3種の結晶性変形体が知られている。
【0006】
国際公開第2012/168739号は、スラリーから開始してMGDA-Na3を噴霧乾燥し、次に、得られた固体を凝集させて、続いて、得られた凝集物を粉砕する方法を開示している。この文書は、この方法を使用すると、結晶性二水和物の方が、それほど望ましくない一水和物よりも多く得られると述べている。この文書における二水和物結晶は結晶タイプIと呼ばれ、いわゆる一水和物が結晶タイプIIと呼ばれる。
【0007】
国際公開第2019/007944号は、結晶タイプIIIと呼ばれる第3の結晶タイプを開示している。
【0008】
結晶タイプI、IIおよびIIIは、表1に示されている、以下の回折パターンにより定義することができる。
【0009】
【表1】
【0010】
国際公開第2012/168739号では、多数の用途に関して、結晶タイプIは、結晶タイプIIよりも吸湿性が低いので、好ましい型であることが示されている。結晶タイプIを高い割合で含有する粉末または顆粒は、高い湿度条件での保管時に、その自由流動特性を良好に維持する一方、タイプIIの型のみ含有するまたはこれを主に含有する生成物は、これらの条件では不具合がある。
【0011】
しかし、結晶性MGDA-Na3を調製する方法は、高収率の生成物も良好な品質の生成物ももたらさない、かつ/またはかなり多くの工程、高いエネルギー消費および/もしくは廃棄物流を伴う。
【0012】
国際公開第2010/133618号は、内部回転を伴う蒸発器中でMGDA-Na3(20~60重量%)の水溶液を濃縮して、60~85重量%の範囲の固体濃度を有する結晶性スラリーを生成し、続いてこの結晶性スラリーをペースト貯蔵庫(paste bunker)内で熟成させて、次に、薄膜接触乾燥器に投入する方法を開示している。表1中のそれぞれタイプIIおよびIに対応する、結晶変形体1および2と呼ばれるこれらの2種の異なる結晶型またはこれらの混合物をこの方法により得ることができる。国際公開第2010/133618号は、固体濃度を60~85重量%と明記している場合でさえも、この組成物がスラリーであるとやはり明確に述べている。国際公開第2010/133618号の実施例は、69重量%の固体を含有するスラリーほど高くはならず、これは、撹拌しながら冷却され、このことから、依然として液体分散液を取り扱っており、脆弱相組成物ではないと結論付けられなければならない。国際公開第2010/133618号の方法は、実施例中に明記されている濃度範囲と同様に濃度の変動に対してむしろ影響を受けやすく、MGDA-Na3は、チキソトロピックペーストとして挙動し、このレオロジー特性は、濃度に非常に依存し、付着する機会が深刻な程度に高まり、工程パラメーターが変動する場合、工程ラインの完全な閉塞まで起きる。
【0013】
国際公開第2018/153876号は、35~60重量%のMGDAアルカリ金属塩溶液に対して、0.1~2.0重量%の量の粉砕アルミナ、粉砕モレキュラーシーブまたはシリカ粉末などの比細孔容積を有する固微粒子体の存在下で、MGDAアルカリ金属塩を結晶化する方法を開示している。この方法により、少なくとも90重量%の結晶タイプIおよび少なくとも1重量%の結晶タイプIIを含有する高結晶化度の固体MGDAアルカリ金属生成物であって、微粒子固体混入物を本質的に含有する、固体MGDAアルカリ金属生成物がもたらされる。
【0014】
国際公開第2015/173157号は、分散液がミル粉砕される、分散液からキレート剤を結晶化させる方法を開示している。実施例では、同様に、MGDA-Na3は、上の方法を使用して結晶化される。MGDA-Na3が結晶される実施例では、50重量%のMGDA-Na3を含有する分散液に、20重量%のMGDA-Na3のシードを加えて、こうして、58重量%のMGDA-Na3を含有する分散液が得られる。上の方法に従うと、ミル粉砕を使用した場合、67%の結晶化度、および比較にミル粉砕を使用しない場合、60%の結晶化度を有する生成物が得られる。この方法は、かなりの量の水の存在が関与することをさらに特徴とする。
【0015】
国際公開第2011/023382号および国際公開第2009/103822号は、MGDA-Na3の水溶液またはスラリーを噴霧造粒することによって、MGDA-Na3を調製する方法を開示している。このような方法の重要な欠点は、このような方法のエネルギー消費が高いこと、および噴霧造粒のための装置がかなり大きな製造空間を必要とすることである。さらにこれらの方法を使用すると、特に、例えば都合のよいタイプIの結晶の型のみ含有する生成物の取得を目的とした場合、高結晶化度の生成物を得ることは非常に困難、ないし不可能である。
【0016】
国際公開第2017/102483号は、塩析によってMGDA-Na3を結晶させる方法を開示している。このような方法は、生成物が十分に洗浄されない限り、塩不純物が混入されている生成物をもたらして、廃棄物流を生じる。
【0017】
L-MGDA-Na3のシードを添加した溶媒蒸発による結晶化方法を開示している国際公開第2012/150155号、または国際公開第2015/173157号の場合にやはり当てはまる、結晶を収集する結晶化方法の一般的欠点は、結局、母液で終わることであり、この場合、MGDA-Na3の生成方法の副生成物が濃縮されて、最終的に、廃棄物流が生じることである。同様に、MGDA-Na3を乾燥する結晶化方法は、通常、溶媒または母液として多量の水の循環を含むか、または母液が廃棄される場合、多量の廃棄物流が生成する。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、上記の欠点を有さない、固体結晶性MGDA-Na3を調製するための改善された方法を提供することを目的とする。本発明は、脆弱相と呼ばれる、MGDA-Na3の新規形態に基づいており、限定された水が存在し、MGDA-Na3が、大部分、結晶状態で存在し、その結果、非ペースト状の脆い構造体のようなものが得られる。このような脆弱相が、乾燥プロセスのためのフィードとして使用されると、高収率の高品質生成物によって特徴づけられる効率的な方法が得られ、この場合、水の循環が限定され、廃棄物流を避けることができる。
【0019】
したがって、本発明は、脆弱相組成物であって、前記組成物の総重量に対して、
(i)70~87重量%の有機化合物およびその塩であって、全有機化合物およびその塩に対して85~100重量%がMGDA-Na3であり、MGDA-Na3の少なくとも60重量%が結晶性である、有機化合物およびその塩、ならびに
(ii)13~30重量%の水
を含有する、脆弱相組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
脆弱相は、MGDA-Na3組成物の薄層により被覆されている弱く凝集した微粒子固体を含む相であり、乾燥微粒子材料の挙動に類似しているかまたは少なくともそれに近いレオロジー挙動を示す。MGDA-Na3組成物の薄層は、好ましくは、MGDA-Na3の(飽和)水溶液である。
【0021】
脆弱相生成物は、有機化合物および塩含有物および水含有物を有すると定義されるが、これは、水が、個別の液状水相として完全に存在していることを意味することを意図するものではないことに留意すべきである。水の部分は、結晶水として存在し得、それにより、固体状態の水として観察され得る。本発明により包含される脆弱相組成物では、水は、自由水と結晶水との両方を包含するよう定義されている。水の量は、カール-フィッシャー滴定によって求めることができる。
【0022】
脆弱相の挙動は、チキソトロピックなペーストと比べると、かなり取り扱いが容易であるという利点を有しており、かなり一層容易に乾燥されて、自由流動性顆粒となることが見出された。
【0023】
有機化合物は、炭化水素主鎖を有する化合物であり、この炭化水素主鎖は、酸素原子または窒素原子のような1個または複数のヘテロ原子を含有することができる。有機化合物の群は、カルボン酸などの有機酸および塩基を含む。カルボン酸が有機化合物の画分中に存在する場合、このようなカルボン酸の塩もまた、本明細書中の有機化合物の画分の一部と見なされる。結晶水は、有機化合物の重量分率に含まれず、無機塩などの無機化合物も含まれない。
【0024】
さらに、本発明は、MGDA-Na3の水性組成物を固体MGDA-Na3と一緒にすることによって、上記の脆弱相組成物を調製する方法を提供する。
【0025】
この方法では、好ましくは、MGDA-Na3の水性組成物は、脆弱相組成物よりも多くの水量を含有し、すなわち、好ましくは全水性組成物に対して30重量%より多い水を含有する。さらにより好ましくは、水性組成物は、35~60重量%のMGDA-Na3を含有する。
【0026】
欧州特許第0845456号明細書はまた、限定量、すなわち10~30%の水を含むMGDA-Na3の組成物を結晶化する方法に関することに留意されたい。しかし、この文書中の実施例から明白な通り、この文書に使用される出発組成物は、単にアモルファスMGDA-Na3を含有する。結晶含有率の高いMGDA-Na3固体を調製するため、機械的応力が乾燥プロセスの間に使用される。結晶化の間に、ペースト状の高度にチキソトロピックな中間相が形成される。これにより、工程パラメーターが変動する場合に、生成物品質が変動する機会が増大する。とりわけ、電力の中断、および1つの凝集体であるMGDA-Na3固体生成物の形成がある場合、ミル粉砕などの一般に利用可能な機械的造粒手段によって乾燥された後に、これ以上造粒され得ないコンクリート様またはガム様構造体となる最悪の場合、工程ラインが完全に閉塞する機会が深刻な程度にやはり増大する。
【0027】
組成物が顆粒流れ挙動を示す、ペースト相以外の相を特定し利用する本発明は、欧州特許第0845456号明細書に記載されている方法に関連する問題を回避し、結晶性MGDA-Na3生成物を効果的に生成する。同様に、MGDA-Na3の溶液を固体MGDA-Na3生成物、好ましい実施形態では、これまでの量の脆弱相組成物を乾燥することによって得られる固体MGDA-Na3生成物に添加することによって、本発明の脆弱相組成物を調製する場合、ペースト相が完全に回避され、これにより、チキソトロピックな挙動に対処する手段が回避され得ることが確実となる。
【0028】
本発明はまた、脆弱相組成物を乾燥するステップを含むMGDA-Na3結晶を調製する方法を提供する。
【0029】
上記の脆弱相組成物に乾燥ステップが施される本発明の方法を使用すると、驚くべきことに、高結晶化度、高かさ密度を有し、MGDA-Na3の主要販路の1つである、例えば洗剤産業によって要求される粒子サイズを有する球形状粒子を主にまたはこれに近いものだけを有する、MGDA-Na3結晶性生成物が得られる。結晶性生成物を調製する際に使用される脆弱相生成物がやはり、都合のよいタイプIなどのこの同じ結晶タイプを主に含有する場合、得られた結晶性生成物は、結晶タイプIなどの特定の結晶タイプの主要部分からなることが決定された。結晶性生成物は、少なくとも144時間、70%相対湿度(RH)および40℃において自由流動性を維持する。
【0030】
さらに、本方法は、高収率の高品質生成物となること、および廃棄物流がないことを特徴とする非常に効率的な方法である。
【0031】
最後に、本発明は、乾燥プロセスによって得ることができる生成物を提供する。実施形態では、乾燥プロセスは、50~80%のL鏡像異性体のMGDA(したがって、20~50%のD鏡像異性体のMGDA)を含有する固体結晶性MGDA-Na3生成物であって、MGDA-Na3生成物中のMGDA-Na3結晶の総量に対して、90~99%のMGDA-Na3の結晶タイプIおよび1~10%のMGDA-Na3の結晶タイプIIIを含有する、固体結晶性MGDA-Na3生成物をもたらす。
【0032】
好ましくは、乾燥プロセスによって得ることができる固体結晶性MGDA-Na3生成物は、60~100%、より好ましくは70~100%、最も好ましくは75~100%の結晶化度を有する。
【0033】
別の好ましい実施形態では、乾燥プロセスによって得ることができるMGDA-Na3脆弱相組成物および固体結晶性MGDA-Na3生成物は、66134:1998-02に従い窒素吸着によって決定すると、全MGDA-Na3重量に対して0.25~0.75m/gの範囲の細孔容積を有する、0.01重量%未満の微粒子固体を含有する。
【0034】
さらに別の好ましい実施形態では、本脆弱相組成物は、結晶タイプIを含有するか、または脆弱相組成物中の結晶性MGDA-Na3の少なくとも75%は、結晶タイプI、より好ましくは少なくとも90%である。
【0035】
さらに別の好ましい実施形態では、乾燥プロセスにより得ることができる固体結晶性MGDA-Na3生成物は、生成物中のMGDA-Na3結晶の総量に対して、92~97%のMGDA-Na3の結晶タイプIおよび3~8%のMGDA-Na3の結晶タイプIIIを含有する。
【0036】
さらに別の好ましい実施形態では、MGDA-Na3脆弱相組成物は、20~30重量%の水、より好ましくは21~27重量%の水、最も好ましくは22~26重量%の水を含有し、重量%は、脆弱相組成物の総重量に対するものである。
【0037】
好ましい実施形態では、脆弱相組成物中の有機化合物およびその塩の重量百分率は、70~80重量%、より好ましくは73~79重量%、最も好ましくは75~78重量%であり、重量%は、脆弱相組成物の総重量に対するものである。
【0038】
述べた通り、有機化合物およびその塩のうち、少なくとも85重量%が、MGDA-Na3である。好ましくは、少なくとも90重量%の有機化合物およびその塩が、MGDA-Na3である。存在し得る他の有機化合物およびその塩は、例えば、出発原料の不完全反応、副生成物、または添加物として意図的に添加された化合物による、生成工程の残留物として、MGDAに見出され得る化合物を含み、クエン酸またはクエン酸塩、グリコール酸またはグリコール酸塩、NTA-Na3、ギ酸またはギ酸塩などの化合物を含み、NTA-Na3は、ニトリロ三酢酸の三ナトリウム塩を表す。
【0039】
脆弱相中の水画分中に、少量の無機塩が存在し得る。このような塩は、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、ケイ酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであってもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、脆弱相を作製する粒子は、1.5mmより小さい、さらにより好ましくは0.1~1.25mmの粒子サイズを有する。別の好ましい実施形態では、粒子は、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも75%、および最大で100%(これを含む)の結晶化度を有する。実施形態では、粒子は、結晶タイプIを含有するか、または粒子中の結晶性MGDA-Na3の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%は、結晶タイプIである。
【0041】
別の好ましい実施形態では、脆弱相組成物中のMGDA-Na3は、少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも75%が結晶性である。
【0042】
脆弱相中のMGDA-Na3は、L鏡像異性体またはD鏡像異性体であってもよい。好ましくは、MGDA-Na3は、50~100%がL鏡像異性体である(したがって、0~50%がD鏡像異性体である)。さらにより好ましくは、MGDA-Na3は、50~80%がL鏡像異性体であり、最も好ましくは50~65%がL鏡像異性体である。
【0043】
好ましい実施形態において、乾燥プロセスにより得ることができる固体結晶性MGDA-Na3生成物も、50~100%がL鏡像異性体(したがって、0~50%のD鏡像異性体)、さらにより好ましくは50~80%がL鏡像異性体、最も好ましくは50~65%がL鏡像異性体である。
【0044】
上記の3種の結晶タイプI、IIおよびIIIは、主にMGDA-Na3の場合に観察され、この場合、D鏡像異性体が検出可能な量で存在することに留意すべきである。
【0045】
好ましくは、脆弱相を調製するために使用される水性組成物は、35~60重量%のMGDA-Na3、より好ましくは40~60重量%のMGDA-Na3を含有する。
【0046】
実施形態では、脆弱相組成物を乾燥する工程は、乾燥ステップとして、蒸発ステップ、流動床乾燥のステップ、噴霧乾燥のステップ、薄膜乾燥のステップ、およびドラム式乾燥のステップ、および噴霧造粒ステップからなる群から選択されるステップを含む。脆弱相組成物は、特に、オーブン中、回転蒸発器中、ドラム中、薄膜乾燥器中、または移動ベルト上もしくは流動床上などの、自由水を単に蒸発させることに基づく乾燥プロセスなどの単純な乾燥プロセスによって効率よく乾燥される。このような工程は、乾燥MGDA-Na3が、流動床中、回転式ドラム中、または移動ベルト上のようなある機械エネルギーを施すステップを含む場合、生成物は、顆粒で直ちに入手可能となり、乾燥ステップが、オーブン中などの機械エネルギーの非存在下で行われる場合、生成物は、かなり容易に造粒されることが見出されている固体の結晶性材料の多孔質ケーキとして得られる。
【0047】
乾燥プロセスでは、得られる結晶性生成物の一部は、リサイクルされてもよく、続いて乾燥プロセスが施される追加の脆弱相組成物を調製する量のMGDA-Na3を含有する水溶液と混合されてもよい。
【0048】
乾燥ステップは、好ましい実施形態では、オーブン中で行われた場合、1分間~5時間の滞留時間、行われる。乾燥ステップが、流動床、薄膜フィルム乾燥器、ドラム式乾燥器または移動ベルトを使用して行われる場合、乾燥ステップは、10秒~30分間、さらにより好ましくは30秒~15分間の時間、好ましくは行われる。
【0049】
別の好ましい実施形態では、乾燥ステップは、30~300℃の温度で行われる。オーブンが使用される場合、温度は、より好ましくは40~100℃である一方、流動床、ドラムまたは別の回転蒸発器、または移動ベルトを使用する場合、より好ましい実施形態では、乾燥温度は70~200℃である。
【0050】
乾燥プロセスは、回分法、半連続法または連続法として行われてもよい。好ましくは、この工程は連続的に行われる。
【0051】
結晶タイプの型を特定するため、および結晶化度を決定するため、ディフラクトグラムを、Niフィルター付きCu-Kα照射によるBruker-AXS D8反射回折計を使用して記録した。発生器の設定は、40kV、40mAである。固定した試料照射は15mm、ソーラースリット2.5°。測定範囲:2Θ=5.0~70.0°、ステップサイズ0.02°、ステップあたりの時間は0.25秒。
【0052】
結晶化度の程度は、結晶相の表面分率(surface fraction)とアモルファス相の表面分率を決定し、これらを使用して、アモルファス相Iaの面積および結晶相の面積からなる合計面積に対する結晶相Icの面積の比として、結晶化度の程度(同様に、「結晶化度」とも呼ばれる)を計算することにより、X線粉末ディフラクトグラムから確定した。結晶化度(%):Ic/(Ic+Ia)*100。
【0053】
この手順は、以下のパラメーター:エンハンスメント無効、曲率1、しきい値1を用いるBruker EVA v.4.2.1.10ソフトウェアを使用して行った。
【0054】
本明細書が「自由流動性」という場合、この特性は、以下の方法によって定量的に判断される。
【0055】
約4グラムの物質を結晶化皿(直径10cm)に秤量し、底部全体に均一に分布させて、次いで、40℃の平衡済み70%RH気候室に保管した(Weiss SB11 500)。
【0056】
保管後、この皿を約60°傾けて、優しく叩いた。
【0057】
・ すべての物質が1つの側に落ちた場合、この物質は「自由流動性」と判断する。
・ 物質の大部分が、皿の底部に付着したままである場合、この物質は「部分的に自由流動性」と判断する。
・ 物質がすべて互いに付着している場合、この物質は「こびりついている」と判断する。
・ 第4の選択肢は、物質の一部が完全に「溶解している」状態に至るものである。ガラス壁表面でのわずかな液滴の形態または粒子床におけるガラス状光沢層のどちらかの、液相の外観によって最初に認識される。
【0058】
かさ密度は、自由沈降したかさ密度として決定した。
【0059】
本発明は、以下の実施例によって例示される。
【実施例
【0060】
実施例1(比較例)
タイプIの型のMGDA-Na3シードを使用して、50重量%のMGDA-Na3水性スラリーを結晶化蒸発により調製した。得られたスラリーは、実験室用の回転式蒸発器(温度50℃、圧力200mbar)を使用してさらに濃縮した。63重量%の濃度において、スラリーがペースト相に転換し、フラスコ壁の表面に粘着性フィルムを生じた。さらに、乾燥すると、壁表面に硬質フィルムが生じ、このフィルムは、これ以上効率よく収集することができなかった。
【0061】
実施例2(比較例)
40.7重量%のMGDA-Na3水溶液77kgを、80LのVrieco-Nauta円錐スクリューミキサーに投入した。この溶液を濃縮して、50重量%のMGDA-Na3(ジャケット温度:50~120℃、圧力100~200mbar、軸速度70rpm)に濃縮した。タイプIの型のMGDA-Na3のシード300グラムを添加した後、得られたスラリーをさらに濃縮した。60~65重量%のMGDA-Na3の範囲では、チキソトロピックなペースト相が形成し、深刻な付着問題が生じた。最終的に得られた生成物は、さらに加工することができない、1つの大型の球状の塊であった。
【0062】
実際例3
脆弱相組成物は、タイプIの結晶の型(MGDA-Na3の含有率は80.8重量%、結晶化度75%)のみを含有する17.1kgの固体MGDA-Na3(粒子サイズ0.1~1.25mm)を、回転速度170rpmで操作した50LのLodige Ploughshareミキサーに最初に投入し、続いて、投入用パイプから5分間、2.9kgの40.7重量%のMGDA-Na3水溶液を投入することによって調製した。混合中、温度は30~40℃であった。投入後、生成物(MGDA-Na3含有率:75重量%)をさらに2分間、ホモジナイズした後、脆弱相生成物を排出した。
【0063】
実際例4
実施例3において得られた脆弱相50グラムを、90℃のオーブン中、終夜、ペトリ皿で乾燥した。MGDA-Na3含有率81.3重量%を示す得られた生成物は、わずかに塊になったが、スパチュラを使用してこの塊を優しく叩くことにより容易に壊れ、0.5~5mmの範囲の自由流動性粒子が生成した。この生成物の結晶化度は80%であり、タイプIの型のみ示した。
【0064】
実際例5
実施例3において得られた脆弱相500グラムを、30分間、実験室用の回転式蒸発器(温度80℃、圧力500mbar)を使用して乾燥した。得られた、82.1重量%のMGDA-Na3含有率を示す生成物は、0.5~3mmの範囲の粒子を含有する自由流動性粉末であった。生成物の結晶化度は77%であり、主にタイプIの型であること、およびタイプIIIの型が数パーセントと少量であることを示した。
【0065】
実際例6
実施例3で得られた脆弱相13kgを8分間、16Lの流動床乾燥器中で乾燥した(空気温度150℃;生成物の最終温度90℃)。
【0066】
続いて、Alexanderwerk摩擦ふるいを使用して生成物をミル粉砕した。
【0067】
MGDA-Na3含有率が80.1重量%を示す自由流動性生成物が得られた。この生成物の結晶化度は、79%であり、タイプIの型のみ示す。
73重量%の生成物は0.5~1.5mmの粒子サイズを示した。かさ密度は、850kg/mであった。
【0068】
顕微鏡を使用する目視検査は、粒子の大部分が、楕円形状(ポテト様)を有することを示した。
【0069】
実施例7
脆弱相組成物は、タイプIの結晶の型(MGDA-Na3含有率80.3重量%、結晶化度79%)のみを含有する16kgの固体MGDA-Na3(粒子サイズ0.1~1.25mm)を、回転速度170rpmで操作した50LのLodige Ploughshareミキサーに最初に投入し、続いて、投入用パイプから5分間、2.55kgの45.1重量%のMGDA-Na3水溶液を投入することによって調製した。混合中の温度は、45~50℃であった。投入後、生成物(MGDA-Na3含有率:76.1重量%)をさらに2分間、ホモジナイズした後、脆弱相生成物を排出した。
【0070】
続いて、得られた脆弱相を実施例6に記載されている通りに処理し、MGDA-Na3含有率80.3重量%を示す、自由流動性生成物が生成した。この生成物の結晶化度は78%であり、タイプIの型のみ示した。
【0071】
生成物の68重量%は0.5~1.5mmの粒子サイズを示した。かさ密度は840kg/mであった。
なお、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]脆弱相組成物であって、前記組成物の総重量に対して、
(i)70~87重量%の有機化合物およびその塩であって、全有機化合物およびその塩に対して85~100重量%のMGDA-Na3を含有し、前記MGDA-Na3の少なくとも60重量%が結晶性である、有機化合物およびその塩、ならびに
(ii)13~30重量%の水
を含有する、脆弱相組成物。
[2]前記組成物の総重量に対して、
(i)70~80重量%の有機化合物およびその塩であって、全有機化合物およびその塩に対して85~100重量%のMGDA-Na3を含有し、前記MGDA-Na3の少なくとも60重量%が結晶性である、有機化合物およびその塩、ならびに
(ii)20~30重量%の水
を含有する、上記[1]に記載の脆弱相組成物。
[3]前記組成物の総重量に対して、75~80重量%の有機化合物およびその塩を含有する、上記[1]または[2]に記載の脆弱相組成物。
[4]前記有機化合物およびその塩が、全有機化合物に対して、90重量%超のMGDA-Na3を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の脆弱相組成物。
[5]結晶性である前記MGDA-Na3は、全結晶性MGDA-Na3の含有量に対して、少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%が結晶タイプIである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の脆弱相組成物。
[6]50~80%のL鏡像異性体のMGDAおよび20~50%のD鏡像異性体のMGDAを含有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の脆弱相組成物。
[7]MGDA-Na3の水性組成物を固体MGDA-Na3と一緒にすることによる、上記[1]~[6]のいずれかに記載の脆弱相組成物を調製する方法。
[8]前記水性組成物が、35~60重量%のMGDA-Na3を含有する、上記[7]に記載の方法。
[9]上記[1]~[6]のいずれかに記載の脆弱相組成物を乾燥するステップを含む、固体結晶性MGDA-Na3を調製する方法。
[10]前記固体結晶性MGDA-Na3が、MGDA-Na3の全結晶含有量に対して、90~100%の結晶タイプIを含有する、上記[9]に記載の方法。
[11]乾燥ステップとして、蒸発ステップ、流動床乾燥のステップ、噴霧乾燥のステップ、薄膜乾燥のステップ、ドラム式乾燥のステップ、および噴霧造粒ステップからなる群から選択されるステップを含む、上記[9]または[10]に記載の方法。
[12]得られた結晶性生成物の一部がリサイクルされ、追加の脆弱相組成物を調製する量のMGDA-Na3を含有する水性組成物と混合される、上記[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]連続的に行われる、上記[9]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]上記[9]~[13]のいずれかに記載の方法によって得ることができる固体結晶性MGDA-Na3生成物であって、50~80%のL鏡像異性体のMGDAを含有し、MGDA-Na3結晶の総量に対して、90~99%の前記結晶タイプIの結晶および1~10%の結晶タイプIIIの結晶を含有する、固体結晶性MGDA-Na3生成物。